JP5376132B2 - 宇宙飛翔体用触媒分解式スラスタ - Google Patents
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Description
宇宙飛翔体用の一液推進系に使用する燃料としては、ヒドラジンを使用することが多い。ヒドラジンは、反応性が高い点で優れた燃料であるといえるが、取り扱いに危険を伴う。このため、近年、ヒドラジンに代わる低毒性の液体推進薬として、硝酸ヒドロキシルアンモニウム(「HAN」)系の液体推進薬が注目されている。
例えば、特開2007−023135号公報には、一液のみで機能を果たす推進剤であるモノプロペラント(一液推進薬)等に用いられる安全性の高い液体酸化剤として、ヒドロキシルアンモニウムナイトレート(HAN)及びヒドラジニウムナイトレート(HN)を水(H2O)に溶解し、さらに10重量%以下の燃料成分を含む液体酸化剤が開示されており、この液体酸化剤と、固体燃料又は液体燃料を別々に保管し、使用直前に混合又は接触させて着火し高温ガスを発生させる高温ガス発生方法が開示されている。
また、特開2004−340148号公報には、HAN基推進薬を反応器に導入し、推進薬内のHANの少なくとも大部分を解離させるように推進薬を分解し、反応器の出力物を燃焼器に導き、解離HANの解離生成物を推進薬内の未反応燃料と燃焼させるように、反応器の出力物を燃焼器内で燃焼させる方法が開示されている。
図1に示されている触媒分解式スラスタにおいて、推薬弁11と燃焼器13とを径の小さいキャピラリ管12で接続しているのは、次のような理由による。すなわち、燃焼器13中で液体推進薬を触媒分解させると高温の燃焼ガスを発生するため、燃焼器13の温度が上昇する。この熱が、燃焼器13から推薬弁11まで、液体推進薬供給のための配管を通して伝導すると、高温箇所で液体推進薬の自己分解が起こって爆発する危険性がある。このため、触媒分解式スラスタでは、推薬弁11と燃焼器13との間を熱容量の小さい小径の金属キャピラリ管12を用いて接続して、推薬弁11へ熱が伝わりにくい構造としていたのである。
すなわち、まず、小径(外径が2mm以下)の金属キャピラリ管の両端を、管がつぶれてしまわないようにしながら金属プレートに溶接し、その上で金属プレートを推薬弁と燃焼器13とにそれぞれ接続するのは、極めて煩雑な組立て工程を要するものである。また、燃焼器から推薬弁への熱伝導を防止するために、金属キャピラリ管をらせん状に加工する場合には、らせん状の金属キャピラリ管を保持しておくためのアダプタが必要となり、部品点数が増加することになる。
また、液体推進薬中には、不純物が存在する場合がある。また、推薬弁11が電磁弁である場合に、電磁弁を構成する金属部品同士の摩擦で発生するバリなどの異物が、液体推進薬が推薬弁11を通過する際に混入することがある。これらの不純物や異物は、液体推進薬が小径の金属キャピラリ管12を通過する際に、流路を閉塞する原因となりうる。さらに、触媒分解式スラスタ10が宇宙環境のような無重力状態にある場合、あるいは地上での組立て工程にあるような場合には、触媒層14から脱離した粒径の小さい触媒が逆流して、小径の金属キャピラリ管12を閉塞する可能性がある。
さらに、図1に示すような触媒分解式スラスタにおいて、ヒドラジンに代えてHAN系の液体推進薬を使用する場合には、新たな問題を生ずる。すなわち、HAN系の液体推進薬は、ヒドラジンに比べて、毒性が低い点で優れているものの、反応性は低い。このため、HAN系の液体推進薬を触媒分解させるためには、触媒層14中の触媒を予め加熱しておくことにより、触媒を高温にして活性を高めておく必要がある。このような場合に、触媒層14を予熱するためのヒータを設けると、このヒータからの熱が、燃焼器13から金属キャピラリ管12へ伝導することになる。また、HAN系の液体推進薬は高性能であるため、燃焼ガス発生に伴う燃焼器13の温度上昇が激しく、燃焼器13から金属キャピラリ管12へ流れ込む熱量も、従来に比べて非常に大きなものとなる。その結果、従来の金属キャピラリ管12を使用したシステムでは、推薬弁11がコンポーネントとしての温度限界を逸脱するような高温まで加熱されてしまうおそれがある。一方、金属キャピラリ管12の径をさらに小さくしてこの問題を解決するには限界があり、また燃焼器13へ十分な液体推進薬を供給することも困難になる。さらに、上記のようなキャピラリ管12の閉塞の問題は、径を小さくすれば悪化することは明らかである。
図2に、本発明による触媒分解式スラスタの断面模式図を示す。触媒分解式スラスタ1は、液体推進薬を触媒で分解させて得られる反応ガスを噴射して推進力を得る、触媒分解式スラスタである。この触媒分解式スラスタ1は、液体推進薬を収容するための中空のタンク(図示せず)と、液体推進薬を分解させ、反応ガスを噴射する燃焼器2と、タンクから燃焼器への液体推進薬の供給を制御する推薬弁3とを備えている。
本発明で使用するタンクとしては、特に制限はないが、例えば内径50mmの円筒形状のタンクを使用することができる。HAN系液体推進薬が強酸性であることに鑑みて、タンクの材質は、材料適合性試験により適合性が確認されているステンレスやチタン系の材料とするのが望ましい。
タンクは気液分離機構の一例としてピストンを備えており、ピストンがタンクの内部に液体推進薬が充填された区画を形成し、ピストンが作動することにより、液体推進薬が推薬弁3の開閉に従って燃焼器2へ送出されるようにすることができる。タンクがこのような気液分離機構を備えていることは、本発明の触媒分解式スラスタが宇宙飛翔体に用いられる際に重要となる。すなわち、タンクの内部に気液分離機構設けて液体推進薬が充填された区画を形成しておけば、タンクを宇宙環境で使用する場合に、無重力下で液体推進薬がタンクの内壁付近に偏在してしまい、液体推進薬をタンクから排出する際にガスが排出されてしまうのを防ぐことができる。HAN系液体推進薬に対する耐性の観点から、ピストン等の気液分離機構もステンレスや高分子材料製とするのが望ましい。
タンクの内面は、鏡面仕上げとなっている。また、タンクは、安全率を2倍以上(地上試験においては安全率を4倍以上)として、内圧3MPa程度の、宇宙飛翔体の軌道上で想定される圧力にも十分に耐えられるような、耐圧構造としておくのが望ましい。タンクへ液体推進薬を充填する場合には、次のように、宇宙飛翔体における液体推進薬の充填方法として一般的に用いられる所謂真空充填方式を採用することができる。なお、HAN系推進薬は長期保管が可能なので、タンクに充填した状態で液体推進薬を保存することも可能である。
燃焼器2はステンレス合金系であるのが望ましい。燃焼器2の材質は、高温(1000℃以上)の反応ガスおよび強酸性である未反応の液体推進薬に触れても材料適合性があるものを選定すればよい。燃焼器2の形状は、宇宙飛翔体で使用されている一般的な耐圧形状であればよく、例えば円筒形状とすることができる。燃焼器2の構造としては、反応ガスの圧力が1MPa弱の圧力を有することから、これに十分耐えられるような構造とし、さらに安全率2倍以上(地上試験においては安全率4倍以上)を確保するのが望ましい。
燃焼器2により得られるスラスト力としては、15N程度が得られるのが望ましい。得られるスラスト力の大きさは、スラスタ形状を調整することなどにより変更することが可能である。
燃焼器2のノズル4としては、宇宙飛翔体において通常使用されている種類のものを採用することができる。ノズル4については、ノズル4のスロートで反応ガスがチョークすることで、反応ガスの圧力が計測でき、計測結果からスラスタ性能を評価することができる。そして、評価されたスラスタ性能に基づいて、チョークできるノズル系を選定することが可能である。
ノズル4から反応ガスを排出して推進力を得るプロセスは、反応ガスがノズル4のスロートでチョークされ、音速となってスロートを通過し、その後適正に膨張することで推進力が得られる、というものである。
本発明で使用する推薬弁3としては、宇宙飛翔体に使用するものとして十分に実績のあるものを選定するのが望ましい。例えば、ステンレス系の合金構造であり、ソレノイドにより弁体を駆動してシールするスライディングフィット式もしくはサスペンデッドアーマチャ式のソレノイドバルブを好適に使用することができる。この推薬弁3は、宇宙用飛翔体において、燃焼器2へ液体推進薬を供給する役割を持ち、液体推進薬の供給を制御することで燃焼を制御するものである。
推薬弁3は、具体的には次のように機能する。すなわち、上流にあるタンクから加圧、圧送された液体推進薬は、推薬弁3が閉じていることにより、触媒層5を備える燃焼器2への供給が停止されている。そして、触媒分解式スラスタ1による推力の発生が求められるときにのみ、推薬弁3が開けられ、触媒層5に液体推進薬が供給されて、触媒分解により推力が発生する。このように、推薬弁3は、燃焼を制御する機能を持つ要素である。
本発明で使用する燃焼器2はさらに、液体推進薬を触媒分解させるための触媒を有する触媒層5と、触媒層5を加熱するための加熱装置6と、触媒層5に対して液体推進薬を供給するインジェクタ7とを備えている。
触媒層5は、燃焼器2の内部において、インジェクタ7から噴出された液体推進薬が触媒層5全体に過不足なく適用されるようにするのが望ましく、インジェクタ7の先端から触媒層5までの距離を最適化して配置することが重要である。例えば、インジェクタ7の先端から約50mmの位置に触媒層5を配置することができる。
触媒層5で分解された液体推進薬の反応ガスは、燃焼室中の触媒層5の下流の領域で完全に分解し、それがノズル4から排出される。燃焼器2中このプロセスに関与する部分の内面には、耐熱材料としてグラファイトを使用する。
触媒層5に使用する触媒としては、例えばS405というイリジウムを担持させたアルミナ担体の触媒を使用することができる。触媒の種類は、宇宙飛翔体の一液推進系に通常使用される触媒であれば、特に制限はない。触媒の寸法及び形状としては、粒径が0.5mm以下程度の粒状のものを使用するのが好適である。触媒層5は、このような触媒がこぼれない程度に細かいメッシュのステンレス系の金網で触媒を挟み込むことにより構成することができる。さらに、触媒層5の保持には、耐熱および耐圧材料としてステンレス合金系の金網を使用するとともに、補強材として炭素繊維およびセラミック材料を使用するのが望ましい。
触媒層5の触媒で分解される液体推進薬としては、例えば、硝酸ヒドロキシアンモニウムに、硝酸アンモニウム、水、メタノールを、質量比95:5:8:21で混合したものを使用することができる。このような組成を有する液体推進薬の比重は1.4であり、凝固点は−68℃である。
触媒層5の触媒でこのようなHAN系の液体推進薬を分解することにより推進力を得るメカニズムは、HAN系液体推進薬が触媒によって分解され、チッ素、水素等に分解され、その際に高温となり、さらにその反応過程において、燃料成分のメタノールが燃焼器2内で燃焼して、ノズルから排出される、とういうものとして説明される。
加熱装置6としては、特に制限はなく、例えば電熱線をテープ状に加工したテープヒータを使用することができる。このようなヒータは、例えば10Ωの電熱線に24Vの電圧をかけて発熱させるものである。加熱装置6の施工は、テープヒータを使用する場合には、触媒層5付近の燃焼器2の外側に、テープヒータを巻きつけることにより行うことができる。そして、ステンレス製の燃焼器2の熱伝達を利用して、触媒層5を加熱する。
インジェクタ7も、他の要素と同様の理由から、ステンレスなどの材料適合性、高温耐性のある材料で構成するのが望ましい。このインジェクタ7は、触媒層5に対して液体推進薬を供給可能なものであれば、特に制限はないが、好ましくは燃焼器2内で触媒層5の上流に配置される噴霧器である。インジェクタ7から噴霧された液体推進薬が、触媒層5の触媒に均一に噴霧されるようにするためには、スプレーの拡散角度を計測から50°とするのが好適であると考えられる。
インジェクタにより噴霧された液体推進薬の液滴の粒径は、0.1mm〜0.7mm程度であるのが望ましく、さらに望ましくは0.3mm〜0.5mm程度である。触媒層5において粉末状の触媒を保持するために、通常は金属製の網を用いて触媒を両側から挟み込む。このような構造の触媒層5の触媒に対して、液体推進薬を直接噴霧するのは、極めて困難である。一方、上記のような粒径が0.5mm以下程度の粒状の触媒を固定するのに使用する触媒保持用の金網は、通常線径0.2mm程度で40メッシュ程度のものである。したがって、このサイズよりも液滴が大きすぎると、金網を構成する金属線に衝突し、液滴が触媒に到達しにくくなる。反対に、小さ過ぎる液滴は、慣性力が小さく、移動速度が低下するため、液体推進薬が効率良く触媒層5に到達するのが困難になるとともに、表面張力が非常に大きくなるため、金網にはじかれて通過する事が難しくなり、未反応の液体推進薬が大量に形成される原因となる。未反応の液体推進薬の大量の液滴は、大きな塊となり、触媒温度の低下をもたらす一方、突然反応することにより爆発を起こす危険も有する。さらに、微細すぎる液滴は、過敏な反応を示し、触媒を熱する際に同時に温められる触媒保持用の金網にこれが触れた際にも反応を起こし、保持金網を融解させてしまうことにもなる。したがって、触媒保持用の金網を使用するタイプの触媒層5を採用する場合には、噴霧された液体推進薬の液滴の粒径が、金網のメッシュ間隔の70〜120%の大きさとなるようにするのが望ましい。
本発明による触媒分解式スラスタは、上記ピストンに所定の圧力を印加することにより、インジェクタ7が触媒層5に対して液体推進薬を噴霧するものとすることができる。その際、ピストンに印加する圧力は、液体推進薬の粘度等を考慮して、押し圧を0.75MPa以上とするのが望ましい。押し圧が低すぎると液体推進薬は噴霧されずに水流となってしまう。また、押し圧の上限は、宇宙環境での使用の観点から、4MPa程度であるものと考えられる。
さらに、本発明の触媒分解式スラスタは、インジェクタ7と推薬弁3との間に、推薬弁3から燃焼器2への液体推進薬の流路を有する熱絶縁性の部材8を設けたことを特徴とするものである。
本発明で使用する熱絶縁性部材8に使用する材料としては、熱絶縁性に優れ耐熱性の高いポリマーを使用するのが好適である。このような樹脂としては、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレートなどが挙げられる。これらのうち、加工性等の観点から、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂、ユーピレックス(登録商標)等のポリイミド樹脂を使用するのが特に好ましい。
熱絶縁性部材8の形状は、円筒形状とすることができ、その外径は、熱絶縁性部材8が接続するインジェクタ7及び推薬弁3の外径、あるいはこれらがフランジを有するときはフランジの外径と、同程度のものとすればよい。熱絶縁性部材8の厚さは、熱絶縁の観点からは厚いほど良いが、厚すぎると熱絶縁性部材8の内部に設ける液体推進薬の流路が長くなってしまうこと、熱絶縁性部材8の重量が増してしまうことに留意すべきである。例えば、外径が45mm程度の燃焼器2に使用する熱絶縁性部材8としては、外径が40mm程度、厚さが5mm程度のものを好適に使用できる。
熱絶縁性部材8の内部に設ける液体推進薬の流路の径は、特に制限はないが、1mm程度とするのが好適である。流路径が大きいほど流路の閉塞の問題は起きにくくなるが、流路径が大き過ぎると流路の途中で液体推進薬の乾燥が発生するおそれがあることに留意すべきである。
熱絶縁性部材8を設置する場合には、例えば、インジェクタ7側にねじ孔を切っておき、熱絶縁性部材8にねじが通る孔を設けておき、推薬弁3のフランジ側からねじ止めをする方法が考えられる。
熱絶縁性部材8の性能は、加熱装置6で触媒層5を250℃になるまで加熱し、その温度を維持している間、推薬弁3のフランジの温度の経時変化をモニターすることにより評価した。比較のため、熱絶縁性部材8を介さずにインジェクタ7と推薬弁3とを接続した触媒分解式スラスタを作製し、同様の実験を行った。結果を表1に示す。
2 燃焼器
3 推薬弁
4 ノズル
5 触媒層
6 加熱装置
7 インジェクタ
8 熱絶縁性部材
Claims (2)
- 液体推進薬を触媒で分解させて得られる反応ガスを噴射して推進力を得る、宇宙飛翔体用の触媒分解式スラスタであって、当該触媒分解式スラスタは、
前記液体推進薬を収容するための中空のタンクと、
前記液体推進薬を分解させ、反応ガスを噴射する燃焼器と、
前記タンクから前記燃焼器への前記液体推進薬の供給を制御する推薬弁と、
を備え、
前記燃焼器はさらに、
前記液体推進薬を触媒分解させるための触媒を有する触媒層と、
前記触媒層を加熱するための加熱装置と、
前記触媒層に対して前記液体推進薬を供給するインジェクタと、
を備え、前記インジェクタと前記推薬弁との間に、前記推薬弁から前記燃焼器への前記液体推進薬の流路であって熱絶縁性の部材からなるものを設けたことを特徴とする、前記触媒分解式スラスタ。 - 前記熱絶縁性の部材がフッ素樹脂を含むものであることを特徴とする、請求項1に記載の触媒分解式スラスタ。
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