JP2010228001A - 溶接用ソリッドワイヤ - Google Patents

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Abstract

【課題】溶接施工条件を緩和した場合であっても、溶接金属の引張強度および耐低温割れ性を確保できるソリッドワイヤを提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.02〜0.12%、Si:0.3〜1.0%、Mn:1.2〜2.0%、Ti:0.05〜0.30%、Cu:0.2〜2.5%、Ni:0.5〜3.5%の他、Cr:1.0%以下(0%を含まない)および/またはMo:0.5〜1.5%を含有し、更にMg:0.0005〜0.020%、Ca:0.0020%以下(0%を含まない)、およびAl:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有し、残部は鉄および不可避不純物であるとともに、下記(1)式で表されるYの値が5<Y<30を満たすことを特徴とする溶接用ソリッドワイヤである。Y=12×[Cu]+15×[Ti]+80×[Mg]+70×[Ca]+30×[Al] ・・・(1)
【選択図】なし

Description

本発明は、溶接用ソリッドワイヤに関するものであり、例えばガスシールドアーク溶接に用いるソリッドワイヤに関する。
建築、造船、自動車等の製造過程における鋼板の溶接現場では、ガスシールドアーク溶接が広く採用されている。特に建築鉄骨分野においては、経済性の観点からシールドガスとしてCO2を用いた炭酸ガスシールドアーク溶接が多く用いられている。一方、近年で
は耐震性向上等の観点から高張力鋼の適用が拡大しつつあり、高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接で接合する要求が高まっている。
非特許文献1には、建築構造用の780MPa級高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接した例が開示されている。非特許文献1によれば、780MPa級の高張力鋼を溶接するにあたって、溶接金属の引張強度を一定以上確保するためには、入熱量やパス間温度を低入熱・低パス間温度(例えば、入熱量:20kJ/cm程度、パス間温度:150℃程度)に厳格に管理する必要がある旨が記載されている。しかし、低入熱量や低パス間温度で現場溶接を行う場合、パス数が過多となって融合不良が発生したり、施工能率が低下したりするなどの不具合が生じるためあまり好ましくない。そこで、入熱量やパス間温度を厳格に下げなくても(以下では、「施工条件の緩和」と呼ぶ場合がある)溶接金属の引張強度を確保できる技術が望まれている。
一方、溶接部は外力の直接的な作用によらない割れを生ずることがある。一般的に200℃未満で生ずる割れを低温割れと呼び、溶接金属が高強度化するほど低温割れは発生しやすくなる。低温割れの原因としては、急熱・急冷により発生した残留応力や、大気中や材料中の水分からの水素などが挙げられるが、水素による影響が大きいと考えられている。この水素による割れを低減するため、割れの発生する200℃未満になる前に徐冷をしたり、母材を予め加熱しておいて溶接金属部の冷却速度を遅くしたりして、水素を逃す方法がある。しかしこのような方法は現地での作業性を悪化させてしまう。そこで、現地の作業性を低下させることなく水素による低温割れを防止する技術が強く要求されている。
例えば、特許文献1には、溶接金属中に残留オーステナイトが多く存在すると溶接金属中の水素がトラップされ、耐低温割れ性に優れたシーム溶接部を有する超高強度鋼管が得られることが記載されている。しかし、残留オーステナイトがマルテンサイトに変態すれば、水素を放出することとなり逆効果となる恐れがあり、また高価な合金元素を多量に添加しなければならないため経済的ではない。
特許文献2には、溶着金属の組織を微細化することによって靭性を向上させ、その結果低温割れの発生を防止している。しかし、特許文献2における低温割れは、水素による低温割れを検討したものではなく、組織の微細化だけでは水素に起因する低温割れを低減できない。
特許文献3、4はソリッドワイヤの成分組成を調整することによって溶接金属の強度と靭性を確保している。しかしいずれも低温割れを検討したものではなく、組織の微細化だけでは水素による低温割れを低減できない。また特許文献3は590MPa級高張力鋼を対象としたものであり、そもそも低温割れの危険性は少ない。さらに特許文献4は780MPa級高張力鋼にも適用できるものであるが、B(ボロン)を添加しており高温割れの危険性がかなり高い。
特開2002−115032号公報 特開2006−289395号公報 特開2004−237333号公報 特開2007−253163号公報
「第二吉本ビルディング」、鉄構技術、2004年6月、p.56−65
本発明はこうした従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は780MPa級の高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接するにあたって、入熱量やパス間温度等の溶接施工条件を緩和した場合であっても、溶接金属の引張強度と耐低温割れ性を確保できる溶接用ソリッドワイヤを提供することにある。
上記目的を解決することのできた本発明に係る溶接用ソリッドワイヤとは、ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.02〜0.12%、Si:0.3〜1.0%、 Mn:1.2〜2.0%、Ti:0.05〜0.30%、Cu:0.2〜2.5%、Ni:0.5〜3.5%を夫々含有する他、Cr:1.0%以下(0%を含まない)および/またはMo:0.5〜1.5%を含有し、更に、Mg:0.0005〜0.020%、Ca:0.0020%以下(0%を含まない)、およびAl:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有し、残部は鉄および不可避不純物であるとともに、下記(1)式で表されるYの値が5<Y<30を満たすことを特徴とするものである。
Y=12×[Cu]+15×[Ti]+80×[Mg]+70×[Ca]+30×[Al] ・・・(1)(但し、[Cu]、[Ti]、[Mg]、[Ca]、[Al]は夫々Cu、Ti、Mg、Ca、Alの含有量(質量%)を表す。)
本発明に係るソリッドワイヤは、さらにNb:0.2%以下(0%を含まない)および/またはV:0.2%以下(0%を含まない)を含有することも好ましい。
本発明に係るソリッドワイヤは、更に、Zr:0.2%以下(0%を含まない)を含有することが好ましく、Zr:0.2%以下(0%を含まない)である場合にはCu:1.0%以下であることが好ましい。
また本発明に係るソリッドワイヤは、Cu:0.5%以下であり、且つ、Ti、MoおよびCrの合計含有量が1.0%以上であることも好ましい。
本発明に係る溶接用ソリッドワイヤは、各種成分組成を適切に制御するとともに、特に溶接金属中への水素の侵入を妨げるCu、および水素トラップに有効な酸化物系介在物を形成するTi、Mg、Ca、Alのそれぞれの含有量と、これらCu、Ti、Mg、CaおよびAlの含有量のバランスを制御している。そのため、入熱量やパス間温度の溶接施工条件を緩和(すなわち、入熱量を高め、パス間温度を高くする)した場合であっても、溶接金属の強度が780MPa以上の高強度を達成することができ、かつ耐低温割れ性を向上させることができる。
図1は鋼板の開先形状を表した概略図である。 図2(a)は溶接の積層要領とSSRT試験片の採取位置を示した概略図であり、図2(b)はSSRT試験片の形状を表した概略図である。
本発明者らは前記課題のうち特に低温割れの原因となる水素について、水素をトラップして拡散を抑制し無害化することに加えて、そもそも水素を溶接金属中に侵入させないという、従来では検討されていなかった観点から鋭意検討を重ねた。その結果、(i)溶接金属中にCuを含有させれば溶接金属への水素の侵入を防ぐことができることを突き止め、さらに(ii)溶接金属中にTi、Mg、Ca、Alの酸化物を形成させれば侵入した水素をトラップできるため、これらCu、Ti、Mg、CaおよびAlの作用により溶接金属の耐低温割れ性を向上できることを見出した。
まず、本発明に係るソリッドワイヤの化学成分について説明する。
C:0.02〜0.12%
Cは溶接金属の強度を確保するために有効な元素である。そこでC量を0.02%以上と定めた。C量は好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。一方、C量が過剰になると溶接金属中にマルテンサイトなどの硬質組織を増加させ、加工性が低下する。そこでC量を0.12%以下と定めた。C量は好ましくは0.10%以下であり、より好ましくは0.09%以下である。
Si:0.3〜1.0%
Siは脱酸元素であり、溶接金属を清浄にする作用を有する。また溶接金属中に歩留まった場合は、固溶強化により溶接金属を強化する作用を有する。そこでSi量を0.3%以上と定めた。Si量は好ましくは0.4%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。一方、Si量が過剰になると溶接金属の強度が上昇しすぎたりマルテンサイトなどの硬質組織が生成したりすることにより靭性が低下する。また、延性を損なったり、粒界酸化層を過剰に生成してしまう。そこでSi量を1.0%以下と定めた。Si量は好ましくは0.9%以下であり、より好ましくは0.8%以下である。
Mn:1.2〜2.0%
Mnは安価に強度を確保できる元素である。また脱酸作用により溶接金属を清浄にする作用を有する。溶接金属中に歩留まった場合は組織を微細化することにより溶接金属の強度および靭性を確保することができる。そこでMn量を1.2%以上と定めた。Mn量は好ましくは1.5%以上であり、より好ましくは1.6%以上である。一方、Mn量が過剰になると焼入性が増大して強度が上昇しすぎたり、Mnが偏析することによってマルテンサイトなどの硬質組織が生成するため靭性が低下したりする。また延性を損なったり、粒界酸化層を過剰に生成してしまう。そこでMn量を2.0%以下と定めた。Mn量は好ましくは1.9%以下であり、より好ましくは1.8%以下である。
Ti:0.05〜0.30%
Tiは溶接金属中で酸化物を形成することによって水素のトラップサイトとなるため、本発明において非常に重要な元素である。また、脱酸作用により溶接金属を清浄にするとともに、アシキュラーフェライトと呼ばれる微細組織の生成核としても機能するため、組織を微細化するために有効である。そこでTi量を0.05%以上と定めた。Ti量は好ましくは0.07%以上であり、より好ましくは0.1%以上である。一方、Ti量が過剰になるとTiCによる析出強化により溶接金属の靭性が低下する。そこでTi量を0.30%以下と定めた。Ti量は好ましくは0.28%以下である。
Cu:0.2〜2.5%
Cuは溶接金属の表面に濃化することにより、溶接時や使用時の環境中からの水素侵入を妨げる作用を有すると考えられる。また溶接金属の強度および靭性を確保するのに有効な元素である。そこでCu量を0.2%以上と定めた。Cu量は好ましくは0.22%以上であり、より好ましくは0.23%以上である。一方、Cu量が過剰になると焼入性が増大して耐割れ性が低下したり、Sと結合してCuS等を形成すると割れの起点になったりする他、経済的にも好ましくない。そこでCu量を2.5%以下と定めた。Cu量は好ましくは2.2%以下であり、より好ましくは2.0%以下である。
Ni:0.5〜3.5%
Niは溶接金属の強度および靭性を確保するのに有効な元素である。またCuを添加した場合に、溶接金属に割れが発生する場合があるがCuとともにNiを添加することにより割れが低減できる傾向がある。そこでNi量を0.5%以上と定めた。Ni量は好ましくは1.0%以上であり、より好ましくは1.6%以上である。一方、Ni量が過剰になると焼入性が増大して耐割れ性が低下する。そこでNi量を3.5%以下と定めた。Ni量は好ましくは2.5%以下であり、より好ましくは2.2%以下である。
Cr:1.0%以下(0%を含まない)および/またはMo:0.5〜1.5%
CrおよびMoはいずれも溶接金属の強度や耐食性を高めるのに有効な元素である。このような効果を発揮するため、Cr量は0.1%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2%以上である。Mo量は0.5%以上と定めた。Mo量は好ましくは0.6%以上であり、より好ましくは0.7%以上である。一方、Cr量やMo量が過剰になると溶接金属の延性が低下し、また焼入性が増大することによって耐割れ性が低下する。そこでCr量を1.0%以下、Mo量を1.5%以下と定めた。Cr量は好ましくは0.8%以下であり、より好ましくは0.7%以下である。Mo量は好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.9%以下である。
Mg:0.0005〜0.020%、Ca:0.0020%以下(0%を含まない)、およびAl:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上
Mg、CaおよびAlは、溶接金属中で酸化物を形成することによって水素のトラップサイトとなるため、本発明において非常に重要な元素である。また、いずれも強脱酸元素であるため溶接金属を清浄にする作用を有する。そこでMg量を0.0005%以上と定めた。Mg量は好ましくは0.001%以上であり、より好ましくは0.0015%以上である。Ca量は好ましくは0.0005%以上であり、より好ましくは0.001%以上である。Al量は好ましくは0.003%以上であり、より好ましくは0.0035%以上である。一方、Mg量およびAl量が過剰になると粗大な介在物を形成するため溶接金属の靭性が低下する。よってMg量を0.020%以下、Al量を0.05%以下と定めた。Mg量は好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.01%以下である。Al量は好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。また、Ca量が過剰になるとスパッタが増加して作業性が著しく低下する。したがってCa量を0.0020%以下と定めた。Ca量は好ましくは0.0018%以下であり、より好ましくは0.0015%以下である。
本発明に係るソリッドワイヤの基本成分は上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。但し、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物がワイヤ中に含まれることは当然に許容される。さらに本発明に係るソリッドワイヤは必要に応じて以下の任意の元素を含有していても良い。
Nb:0.2%以下(0%を含まない)および/またはV:0.2%以下(0%を含まない)
NbおよびVは組織を微細化することにより、溶接金属の強度を向上させる作用を有するが、NbやVの炭化物が析出すると延性を劣化させ、靭性の向上も妨げるので含有する場合であってもできるだけ制限することが好ましい。従ってNb量、V量はいずれも0.2%以下とすることが好ましい。Nb量、V量はいずれも0.15%以下がより好ましく、0.10%以下がさらに好ましい。なお、特に靭性向上の観点からはNbおよびVは含有しない方がよい。
Zr:0.2%以下(0%を含まない)
Zrは溶接金属中で酸化物や炭化物を形成することで、水素のトラップサイトとなるため非常に好ましい元素である。このような作用を有効に発揮するため、Zr量は好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.05%以上とする。一方、Zr量が過剰になると、粗大な炭化物等を形成し、該炭化物等が割れの起点となったり、延性を阻害したりする。そこでZr量は0.2%以下とすることが好ましい。Zr量は、より好ましくは0.18%以下であり、さらに好ましくは0.16%以下である。
上記した成分組成において、特に(a)Cu:1.0%以下として、且つ、Zr:0.2%以下(0%を含まない)とする、または(b)Cu:0.5%以下として、且つ、Ti、MoおよびCrの合計含有量を1.0%以上とすることが好ましい。
上述した通り、Cuは溶接金属中に水素が侵入するのを妨げる作用を有するが、Cu量が多くなると、焼入性が増大して強度が上昇することによって耐低温割れ感受性が上昇したり、Sと結合して形成したCuS等が割れの起点になる場合もある。そこで、Cuを所定量添加してCuによる水素侵入抑制効果を発揮させつつ、Cu量が多くなりすぎないようにして耐低温割れ性の低下を防ぎ、且つ、Cu量を低減した分、Zr量を添加するか、またはTi、Mo、およびCrの合計量を所定以上となるように添加することが好ましい。
より詳細には、(a)Cu:1.0%以下として、且つ、Zr:0.2%以下(0%を含まない)とすることが好ましい。(a)の態様において、Cu量はより好ましくは0.22〜0.9%であり、さらに好ましくは0.23〜0.8%である。またZr量は好ましくは0.01〜0.18%であり、さらに好ましくは0.05〜0.16%である。
また、(b)Cu:0.5%以下として、且つ、Ti、MoおよびCrの合計含有量を1.0%以上とすることも好ましい。(b)の態様において、Cu量はより好ましくは0.22〜0.4%であり、さらに好ましくは0.23〜0.3%である。また、Ti、Mo、およびCrの合計含有量は、より好ましくは1.05%以上であり、さらに好ましくは1.1%以上である。
本発明のソリッドワイヤは上記のように化学成分組成が制御されているため、溶接施工条件を緩和した場合であっても溶接金属の引張強度を780MPa以上とすることができる。
さらに、本発明では、Cuによって水素の侵入を防ぐとともに、Ti、Mg、Ca、Alの酸化物を形成させることでこれら酸化物が溶接金属中に侵入した水素をトラップするため、溶接金属の水素による低温割れを低減することができる。より詳細には、これらCu、Ti、Mg、Ca、Alの5つの元素の含有量を下記(1)式で表されるYの値が5<Y<30となるように調整することによって、耐低温割れ性を向上させることができる。
Y=12×[Cu]+15×[Ti]+80×[Mg]+70×[Ca]+30×[Al] ・・・(1)
(但し、[Cu]、[Ti]、[Mg]、[Ca]、[Al]は夫々Cu、Ti、Mg、Ca、Alの含有量(質量%)を表す。)
Cuは、凝固する際に溶接金属の表面に濃化し、水素の侵入を防ぐことができるものと推測される。
また本発明において、水素のトラップサイトとして有効なTi、Mg、CaおよびAlの酸化物は、これらの元素の単独酸化物の他、2種以上の酸化物が複合した酸化物の形態で存在している。これらTi、Mg、CaおよびAlの酸化物が水素をトラップできるメカニズムについて未だ明らかでない部分もあるが、次のように推測できる。すなわち、これら酸化物の中だけでなく、界面近傍においても格子歪を作り、それによって水素をトラップできるものと考えられる。
上記(1)式において、各元素の含有量に乗じる係数は、各元素の添加量を変化させた材料を用いてそれぞれ耐割れ性評価試験を行い、統計的に各係数を算出した。Yが5以下であると、水素の侵入を防ぐ効果、または侵入した水素をトラップする効果が十分に発揮されないため、耐低温割れ性が低下する。またYが30以上になると酸化物が増加することによって強度が上昇し、割れ感受性が高まる結果、耐低温割れ性が低下する。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1
表1、2に示す化学成分組成のワイヤを用意し(ワイヤ径:1.2mm)、図1に示した開先形状の鋼板を以下に示す溶接条件で溶接した。
Figure 2010228001
Figure 2010228001
溶接条件
電流 :280A
電圧 :35V
溶接速度 :25cm/min
入熱量 :24kJ/cm
予熱温度およびパス間温度 :250℃
層数/パス数 :5層/10パス
シールドガス :100%CO2
母材鋼板 :HT780
(1)溶接金属の引張試験
図2に示す位置からJIS Z3111に準拠して引張試験片を採取し、溶接金属の引張試験を行った。溶接金属の引張強度は780MPa以上を合格とした。
(2)溶接金属の耐割れ性評価試験
耐低温割れ性評価はSSRT(Slow Strain Rate Test)法を用いた。試験片は図2(a)に示すように、最終パスから図2(b)に示す形状の試験片を採取した。該試験片に以下に示す条件で水素チャージを行った後、水素逃散防止のためにZnめっきを施し、大気中でSSRT試験を行った。
水素チャージの電解条件
溶液 :1N H2SO4 + 0.01M KSCN
電流密度 :100A/m2
液温 :室温
チャージ時間 :16時間
Znめっき条件
めっき浴組成 :350g/l ZnSO4・7H2
20.6g/l H2SO4(97%)
60g/l Na2SO4
めっき浴温度 :60℃
電流密度 :50A/dm2
めっき時間 :3分
SSRT試験条件
クロスヘッド速度:5.0×10-3mm/min(歪み速度:6.94×10-6/s)として破断まで行った。
SSRT試験は水素チャージを行った試験片と、水素チャージを行わなかった試験片のそれぞれについて行い、
耐低温割れ性評価指数(E)=(1−Eh/E0)×100
により算出される耐低温割れ性評価指数によって、耐低温割れ性を評価した。上記式において、Ehは水素チャージ時の伸びであり、E0は水素未チャージ時の伸びである。耐低温割れ性評価指数は50以下を合格とした。
結果を表3、4に示す。
Figure 2010228001
Figure 2010228001
No.1〜15は本発明で規定する要件を満足するため、耐低温割れ性が優れている。
No.16〜20はC量、Si量、Mn量、Ni量、Cr量のいずれかが過剰であり強度が上昇したことによって割れ感受性が高まったとともに、Y値が小さいため耐低温割れ性が劣っている。
No.21はMo量およびTi量が過剰であり強度が上昇したことによって割れ感受性が高まったとともに、Tiの酸化物が増大し、Y値も大きいため耐低温割れ性が劣っている。
No.22はY値が大きいため、No.28はY値が小さいため耐低温割れ性が劣っている。
No.23〜26はTi量、Mg量、Ca量、Al量のいずれかが過剰であり、これらの酸化物が増大したことにより耐低温割れ性が劣っている。
No.27はTi量およびMg量が過剰であったため、これらの酸化物が増大したとともに、Y値が大きいため耐低温割れ性が劣っている。
No.29はY値が小さく、さらにB(ボロン)の影響により耐低温割れ性が劣っている。
実施例2
表5に示す化学成分組成のワイヤを用いたこと以外は、実施例1と同様にして溶接を行った。その後、実施例1と同じ要領で溶接金属の引張り試験、および溶接金属の耐割れ性評価試験を行った。但し、耐割れ性評価試験における水素チャージの時間は、溶接金属中の水素量が1.0〜2.0ppmとなるように調整した。なお、溶接金属中の水素量は、大気圧イオン化質量分析計(APIMS)により、室温〜300℃までの昇温速度を12℃/minとして昇温分析を行うことにより求めた。
本実施例では、耐低温割れ性は、(耐低温割れ性評価指数(E))/(溶接金属中の水素量(ppm))で評価し、この値が50超の場合を×、35超50以下の場合を○、25超35以下の場合を◎、25以下の場合を◎◎と評価した。結果を表6に示す。
Figure 2010228001
Figure 2010228001
No.30〜52は、本発明で規定する要件を満足しており、耐低温割れ性が優れている。特に、No.41〜44、52はCu量が0.5%以下であり、且つ、Ti、Mo、およびCrの合計含有量が1.0%以上であり、本発明の好ましい要件を満たしているため耐低温割れ性がより優れている。また、No.46〜51はZrを添加した例であるため、耐低温割れ性により優れており、中でも特にNo.47、51はCu量が1.0%以下であり、No.46、48、50は、Cu量が0.5%以下であり、且つ、Ti、Mo、およびCrの合計含有量が1.0%以上であるという要件を満たしているため、耐低温割れ性がより一層優れている。
一方、No.53〜55は本発明で規定する要件の少なくともいずれかを満たしていないため、耐低温割れ性が劣っている。No.53、54はY値が小さく、特にNo.54はV量も多く、またNo.55はTi量が多くY値が大きかったため、耐低温割れ性が劣る結果となった。

Claims (5)

  1. ワイヤ全質量に対する質量%で、
    C:0.02〜0.12%、
    Si:0.3〜1.0%、
    Mn:1.2〜2.0%、
    Ti:0.05〜0.30%、
    Cu:0.2〜2.5%、
    Ni:0.5〜3.5%を夫々含有する他、
    Cr:1.0%以下(0%を含まない)および/またはMo:0.5〜1.5%を含有し、
    更に、Mg:0.0005〜0.020%、Ca:0.0020%以下(0%を含まない)、およびAl:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有し、残部は鉄および不可避不純物であるとともに、
    下記(1)式で表されるYの値が5<Y<30を満たすことを特徴とする溶接用ソリッドワイヤ。
    Y=12×[Cu]+15×[Ti]+80×[Mg]+70×[Ca]+30×[Al] ・・・(1)
    (但し、[Cu]、[Ti]、[Mg]、[Ca]、[Al]は夫々Cu、Ti、Mg、Ca、Alの含有量(質量%)を表す。)
  2. 更に、
    Nb:0.2%以下(0%を含まない)および/またはV:0.2%以下(0%を含まない)を含有する請求項1に記載の溶接用ソリッドワイヤ。
  3. 更に、Zr:0.2%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の溶接用ソリッドワイヤ。
  4. Cu:1.0%以下である請求項3に記載の溶接用ソリッドワイヤ。
  5. Cu:0.5%以下であり、且つ、Ti、MoおよびCrの合計含有量が1.0%以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶接用ソリッドワイヤ。
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