JP2010202917A - Ti,Cr,Alを基底とする硬質窒化物膜及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】金属比を相変態近傍としたTi・Cr・Al・系硬質窒化物膜、及び金属比を相変態近傍としたTi・Cr・Al・系窒化物に耐熱性及び機械的性質を改善するY・Si・Bを添加した硬質膜を提供する。さらに、基板の中間層として金属膜基板上に堆積させ、基板と膜の密着性を向上させる。また、磁場制御型高周波スパッタリング法を用いた製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1−a)、(1−b)及び(1−c)で示される窒化膜であって、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)の金属比を膜が立方晶を維持する相変態近傍の組成とした硬質窒化物膜とした。
(Ti,Al)N・・・・・・・・・・・・・(1−a)
(Cr,Al)N・・・・・・・・・・・・・(1−b)
(Ti,Cr,Al)N・・・・・・・・・・(1−c)
【選択図】図3
【解決手段】下記一般式(1−a)、(1−b)及び(1−c)で示される窒化膜であって、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)の金属比を膜が立方晶を維持する相変態近傍の組成とした硬質窒化物膜とした。
(Ti,Al)N・・・・・・・・・・・・・(1−a)
(Cr,Al)N・・・・・・・・・・・・・(1−b)
(Ti,Cr,Al)N・・・・・・・・・・(1−c)
【選択図】図3
Description
本発明は、切削工具・金型・摺動部材への被膜を指向した硬質皮膜及び高硬度・耐熱性材料に関する。
従来、切削工具・金型・摺動部材では、耐摩耗性を高めるために高速度鋼や超合金、サーメットなどの基材にTiN、(Ti,C)N、(Ti,Al)Nなどの硬質皮膜を、物理蒸着法を用いてコーティングしている。また、チタン(Ti)をクロム(Cr)で置き換えた(Cr,Al)Nも考案されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、耐熱性・耐酸化性・摺動特性等の良好な物理的機能性を付与するために、近年の硬質膜は、複数の金属元素と窒素(N)・酸素(O)・炭素(C)等の軽元素を含有する化合物膜が主流となっており、膜の原材料となるターゲットにはシリコン(Si)・イットリウム(Y)・タングステン(W)等の高融点元素を含有することが多い(例えば、特許文献2参照。)。
また、物理蒸着法を用いて多層膜を製作する際に、ターゲットの表面近傍に磁場の作用でプラズマを集中させてスパッタリングを行うマグネトロン・スパッタ装置により、多層膜のうち互いに隣接する膜の界面に存在する界面拡散層の厚みを薄くし、かつ界面粗さの小さな膜を得る多層膜の製造方法及び多層膜に関する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
なお、物理蒸着法の中のスパッタリング法は、グロー放電下のプラズマを用いた被膜技術の一種であり、金属又は合金ターゲットをガスイオンによりエッチングすることを基本原理としている。図1にスパッタの原理を示す。ターゲットを入射したガスイオンは、図1に示すように、ターゲットの内部に侵入し、内部の構成原子に運動エネルギーを与える。この過程において、ターゲット表面に存在する構成原子の結合が切り離され、構成原子の放出が開始される。一般的に軽元素を含む化合物膜を作製する時には、グロー放電を安定するためのアルゴン(Ar)ガスと反応性ガス(窒素・酸素)を混入する。
ターゲットから飛び出した原子は、反応性ガスと結びつき、基板上と物理吸着または化学吸着し基板上に堆積してゆく。膜の形成理論には様々な説が展開されているが、本発明では、図2に示す形成機構を参照しており、その概要を下記に記載する。
(1)基板表面に複数の粒子からなる核を形成。
(2)飛来してきた粒子が上述の核上に集まる。
(3)3次元的に拡大した島を形成する。
(4)島が連結し連続膜となる。
(1)基板表面に複数の粒子からなる核を形成。
(2)飛来してきた粒子が上述の核上に集まる。
(3)3次元的に拡大した島を形成する。
(4)島が連結し連続膜となる。
上述の背景を踏まえ、本発明が着眼している問題点は以下のとおりである。
(1)高融点の材料をターゲット材として用いた成膜では、スパッタ率が低下するためグロー放電の安定化が図りにくい。
(2)グロー放電の安定化のためにアルゴン(Ar)ガスを導入すると、成膜時の雰囲気圧力が高くなり、残留ガスにより基板上の化合物粒子の拡散及び連結が抑制される。その結果、凹凸のある連続膜が形成され、表面平滑性を損なう。
(3)(Ti,Al)N、(Ti,Cr,Al)N、(Cr,Al)Nなどの硬質皮膜は、
(3.1)900℃以上の高温環境下で著しく機械的性質が低下する。
(3.2)膜を多層化することにより膜の膜の剥離が生じやすい。
(4)また硬質皮膜の製造方法として、
(4.1)膜組成が複雑化するために組成制御が困難。
という問題点がある。
(1)高融点の材料をターゲット材として用いた成膜では、スパッタ率が低下するためグロー放電の安定化が図りにくい。
(2)グロー放電の安定化のためにアルゴン(Ar)ガスを導入すると、成膜時の雰囲気圧力が高くなり、残留ガスにより基板上の化合物粒子の拡散及び連結が抑制される。その結果、凹凸のある連続膜が形成され、表面平滑性を損なう。
(3)(Ti,Al)N、(Ti,Cr,Al)N、(Cr,Al)Nなどの硬質皮膜は、
(3.1)900℃以上の高温環境下で著しく機械的性質が低下する。
(3.2)膜を多層化することにより膜の膜の剥離が生じやすい。
(4)また硬質皮膜の製造方法として、
(4.1)膜組成が複雑化するために組成制御が困難。
という問題点がある。
よって、本発明者らは、(Cr,Al)N及び(Ti,Al)Nはアルミニウム含有量60〜70at%において、立方晶から六方晶へと変態し、変態点近傍において最大硬度が得られることに着目した。本発明では、金属比を相変態近傍としたTi・Cr・Al系窒化物に耐熱性及び機械的性質を改善するY・Si・Bを添加した硬質膜を提供するものである。さらに、基板の中間層として金属膜基板上に堆積させ、基板と膜の密着性を向上させる。また、磁場制御型高周波スパッタリング法を用いた製造方法を提供するものである。
そこで、かかる課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、一般式(Ti,Al)N、(Cr,Al)N及び(Ti,Cr,Al)Nで示される窒化膜であって、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)の金属比を膜が立方晶を維持する相変態近傍の組成とした硬質窒化物膜としたものである。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、硼素(B)、イットリウム(Y)、珪素(Si)のうち少なくとも1種を添加し耐熱性及び機械的性質を改善したものである。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、基板と膜の間に中間層としてチタン(Ti)またはクロム(Cr)を堆積させて密着性を向上させたものである。
また、請求項4に記載の発明は、合金ターゲットをグロー放電によりスパッタし、飛び出したクラスターを窒化プラズマ中で窒化し、基材に堆積するスパッタリング法において、バッキングプレートに永久磁石を取付け、ターゲット表面に高磁場を与えた磁場制御型高周波スパッタリング法を用いた硬質窒化物膜の製造方法としたものである。
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記永久磁石では、磁石の極、磁束密度、配置位置を任意に設定することによりターゲットのイオン電流密度を変化させ、成膜室内のプラズマ密度及びイオン分布を制御可能としたものである。
請求項1に記載の発明によれば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)の金属比を膜が立方晶を維持する相変態近傍の組成としたことから、各金属組成の組成制御が容易になり、製造コストを低減でき、その結果、安価な硬質窒化物膜を提供することができる。また、硬度は、既製品である(Ti,Al)N及び(Cr,Al)Nに比べて高い値となり、耐摩耗性膜としての有用性がある。
また、請求項2に記載の発明によれば、硼素(B)、イットリウム(Y)、珪素(Si)のうち少なくとも1種を添加し耐熱性及び機械的性質を改善したことから、硬質窒化物膜の品質を向上させることができる。つまり、900℃以上の高温環境下においても膜の機械的性質を維持することができる。
また、請求項3に記載の発明によれば、基板と膜の間に中間層としてチタン(Ti)またはクロム(Cr)を堆積させて密着性を向上させたことから、硬質窒化物膜の品質を向上させることができる。特に、合金膜の中間層では1種(チタンまたはクロム)を堆積させればよいので、製造コストを低減でき、その結果、安価で品質の高い硬質窒化物膜を提供することができる。また、切削工具・金型・超音波モーターの摩擦駆動面への適用を見据え、良好な密着性を実現することができる。
また、請求項4に記載の発明によれば、スパッタリング法において、バッキングプレートに永久磁石を取付け、ターゲット表面に高磁場を与えた磁場制御型高周波スパッタリング法を用いたことから、高周波電源による電界と永久磁石による磁場とが形成され、ターゲット物質の電子が旋回し反応ガスとの衝突が誘発されることとなり、硬質窒化物膜を低圧合成することができるので、残留ガスをなくすことができる。その結果、製造コストを低減できると共に、品質の高い硬質窒化物膜を作製することができる。
また、請求項5に記載の発明によれば、永久磁石によって、磁石の極、磁束密度、配置位置を任意に設定することにより、ターゲットのイオン電流密度を変化させ、成膜室内のプラズマ密度及びイオン分布を制御可能としたことから、請求項4に記載の発明による効果に加え、N極からS極に向かうターゲットに作用する磁力線の方向性に多様性を持たせることができるので、ターゲット物質の電子と反応ガスとの衝突をより促進させることができ、表面粗さが小さくなり、平滑性に優れた硬質窒化物膜とすることができる。また、薄膜プロセスにおいて密着性を改善するため、高い生産効率及び低コストを実現できる効果がある。
〔1.磁場制御型高周波スパッタリング装置について〕
〔1.1.磁場制御型高周波スパッタリング装置の構成〕
図3は、金属比を相変態近傍としたTi・Cr・Al系硬質窒化物膜を基板表面に形成するための磁場制御型高周波スパッタリング装置の概観を示した図である。磁場制御型高周波スパッタリング装置は、大気と気密な真空槽としての機能を有する成膜室(以下、「試料室」ともいう。)を設け、その天井部には、基板を保持自在とした基板電極としての試料保持テーブルを配設し、試料室の室内の下部には平面視円形でテーブル状のターゲット電極としてのバッキングプレートが配設されている。そして、バッキングプレートには、高周波電源が接続され、バッキングプレート上に配設されたターゲットは、電子の密度が高くなり、結果としてマイナスにバイアスされて、イオンがターゲットに引き寄せられてスパッタされるようになっている。
〔1.1.磁場制御型高周波スパッタリング装置の構成〕
図3は、金属比を相変態近傍としたTi・Cr・Al系硬質窒化物膜を基板表面に形成するための磁場制御型高周波スパッタリング装置の概観を示した図である。磁場制御型高周波スパッタリング装置は、大気と気密な真空槽としての機能を有する成膜室(以下、「試料室」ともいう。)を設け、その天井部には、基板を保持自在とした基板電極としての試料保持テーブルを配設し、試料室の室内の下部には平面視円形でテーブル状のターゲット電極としてのバッキングプレートが配設されている。そして、バッキングプレートには、高周波電源が接続され、バッキングプレート上に配設されたターゲットは、電子の密度が高くなり、結果としてマイナスにバイアスされて、イオンがターゲットに引き寄せられてスパッタされるようになっている。
更に、磁場制御型高周波スパッタリング装置は、試料室の室内に、室内を真空にするための真空ポンプが真空制御バルブを介して接続され、また、室内に不活性ガス(例えばアルゴン(Ar)ガス)を供給するための不活性ガス源が不活性ガス制御バルブを介して接続され、更に、室内に反応性ガス(例えば、窒素(N)ガスや酸素(O)ガス)を供給するための反応性ガス源が反応性ガス制御バルブを介して接続されている。
また、バッキングプレートには、永久磁石が配設されており、本発明の要旨であることから、以下に詳述する。
〔1.2.磁場制御型高周波スパッタリング装置の特徴〕
本発明の改良点は、バッキングプレートに永久磁石を取付け、ターゲット表面に高磁場を与えた点にある。永久磁石は、図3に示すように、バッキングプレートの裏側に存在する止まり穴に取り付ける構造となっている。上述の例では、円筒磁石を用いているが、バッキングプレートの裏側の形状により、磁石形状、磁束、磁束密度、配置位置を任意に設定できる。
本発明の改良点は、バッキングプレートに永久磁石を取付け、ターゲット表面に高磁場を与えた点にある。永久磁石は、図3に示すように、バッキングプレートの裏側に存在する止まり穴に取り付ける構造となっている。上述の例では、円筒磁石を用いているが、バッキングプレートの裏側の形状により、磁石形状、磁束、磁束密度、配置位置を任意に設定できる。
本発明では、高周波電源により与えられる電界と永久磁石により形成される磁場とを用いて、ターゲット物質の電子と反応性ガスとの衝突を促進させている。反応性ガスを導入した際の放電は、次の(1)から(3)を繰り返すことにより維持される。
(1)ターゲットへの電圧の印加により、電界が増加し放電が生じる。
(2)プラズマからターゲット表面上に流れたイオンにより、ターゲットの2次電子が放出される。
(3)磁場によりターゲットの表面を旋回する2次電子は、ガス分子と衝突し電離を発生する。
(1)ターゲットへの電圧の印加により、電界が増加し放電が生じる。
(2)プラズマからターゲット表面上に流れたイオンにより、ターゲットの2次電子が放出される。
(3)磁場によりターゲットの表面を旋回する2次電子は、ガス分子と衝突し電離を発生する。
すなわち、バッキングプレートの永久磁石の設置により、ターゲット表面上に磁場サイトを形成させ、特に、磁極の組み合わせによりN極からS極に向かう磁力線の方向性に多様性を持たせることが可能となり、ガス分子と電子の衝突を促進しやすくなる。その結果、膜の低圧合成が可能となり、残留ガスを含まない平滑性に優れる緻密な膜となる。
〔2.試料作製について〕
図3は本発明の試料作製に用いた磁場制御型高周波スパッタリング装置の概観図である。平滑性に優位性のある高周波スパッタリング法を改良した手法を用いて試料を作製している。スパッタリング法は、合金ターゲットをグロー放電によりスパッタし、飛び出したクラスターを窒素プラズマ中で窒化し、基材に堆積させる手法である。本手法の改良点はバッキングプレートに永久磁石を取付け、ターゲット表面に高磁場を与えた点にある。
図3は本発明の試料作製に用いた磁場制御型高周波スパッタリング装置の概観図である。平滑性に優位性のある高周波スパッタリング法を改良した手法を用いて試料を作製している。スパッタリング法は、合金ターゲットをグロー放電によりスパッタし、飛び出したクラスターを窒素プラズマ中で窒化し、基材に堆積させる手法である。本手法の改良点はバッキングプレートに永久磁石を取付け、ターゲット表面に高磁場を与えた点にある。
そして、磁石の極、磁束密度、配置位置を任意に設定することにより、ターゲットのイオン電流密度を変化させることが可能である。その結果、成膜室内のプラズマ密度・イオン分布を制御できる。さらに、高周波電源により与えられる電界と永久磁石により形成される磁場によりターゲット物質の電子が旋回するため、反応ガス分子との衝突を誘発しやすくなる。上記の利点として、膜の低圧合成が可能となり、残留ガスを含まない平滑性に優れる緻密な膜となる。
試料作製は、(1)合金又は金属膜(中間層)の堆積(2)窒化物の堆積の2工程からなり、窒化物の合成の前に、500nm程度の金属膜を堆積させることにより、密着性の改善を図ることが可能となる。金属膜の中間層では、2種のターゲットを用いるのに対し、合金膜の中間層では、1種のターゲットを用いて作製することができるため低コストを実現できる。
〔3.膜組成について〕
(Ti,Al)N及び(Cr,Al)Nの微小硬度はAlに依存して膜硬度が変化する。図4に(Ti,Al)Nと(Cr,Al)NのAl含有量に対する硬度値の変化を示す。両者に共通して、Al含有量が60〜70at%において立方晶から六方晶へと変態し、その近傍において最大硬度が得られる。本発明では、Ti,Cr,Alの金属比を膜が立方晶を維持する組成を基底としている。表1(成膜後の膜組織及び硬度値)に作製した膜の組成及び硬度を示す。すべての膜の硬度は(Ti,Al)Nと(Cr,Al)Nの値と同等、または高い値を示しており耐摩耗膜としての有用性があると判断される。
(Ti,Al)N及び(Cr,Al)Nの微小硬度はAlに依存して膜硬度が変化する。図4に(Ti,Al)Nと(Cr,Al)NのAl含有量に対する硬度値の変化を示す。両者に共通して、Al含有量が60〜70at%において立方晶から六方晶へと変態し、その近傍において最大硬度が得られる。本発明では、Ti,Cr,Alの金属比を膜が立方晶を維持する組成を基底としている。表1(成膜後の膜組織及び硬度値)に作製した膜の組成及び硬度を示す。すべての膜の硬度は(Ti,Al)Nと(Cr,Al)Nの値と同等、または高い値を示しており耐摩耗膜としての有用性があると判断される。
〔4.密着性〕
膜の密着性を定量的に評価するため、スクラッチ試験を実施した。スクラッチ試験では、圧子を試料に打ち込みながら、試料と水平方向に動かすことによって薄膜を引っ掻く試験法である。ある荷重値において薄膜は剥離を生じ、その荷重値をクリティカルロード(Lc)と定義することで薄膜の密着性を評価した。膜と基板の中間層としてTiまたはCrを堆積させて密着性を向上させた。表2(薄膜の密着性)に密着性評価の結果をまとめる。なお、比較の対象として、中間層を挿入しない場合の結果も表記する。表2に示すように金属膜を基板上に堆積させることにより、密着性が向上していることがわかる。
膜の密着性を定量的に評価するため、スクラッチ試験を実施した。スクラッチ試験では、圧子を試料に打ち込みながら、試料と水平方向に動かすことによって薄膜を引っ掻く試験法である。ある荷重値において薄膜は剥離を生じ、その荷重値をクリティカルロード(Lc)と定義することで薄膜の密着性を評価した。膜と基板の中間層としてTiまたはCrを堆積させて密着性を向上させた。表2(薄膜の密着性)に密着性評価の結果をまとめる。なお、比較の対象として、中間層を挿入しない場合の結果も表記する。表2に示すように金属膜を基板上に堆積させることにより、密着性が向上していることがわかる。
〔5.耐熱性の評価について〕
膜の耐熱性を評価するために、真空環境下においてアニーリング処理を実施した。アニーリング条件として、雰囲気圧力は10-3Pa以下、設定温度を800℃、900℃、1000℃、昇温時間を2時間とした。また、処理時間は、各設定温度において2時間保持し室温まで降温した後に試料を取り出した。各試料の耐熱温度を立方晶から六方晶への相変態温度、またはCrNの析出温度として定義した。なお、熱処理後の結晶構造はX線回折法により分析している。表3(薄膜の耐熱性)に薄膜の耐熱性評価の結果をまとめる。表3に示すように、従来の膜では、800℃前後で変態または析出が生じたが、本発明の対象とした試料の大多数が900℃以上の耐熱性を示している。
膜の耐熱性を評価するために、真空環境下においてアニーリング処理を実施した。アニーリング条件として、雰囲気圧力は10-3Pa以下、設定温度を800℃、900℃、1000℃、昇温時間を2時間とした。また、処理時間は、各設定温度において2時間保持し室温まで降温した後に試料を取り出した。各試料の耐熱温度を立方晶から六方晶への相変態温度、またはCrNの析出温度として定義した。なお、熱処理後の結晶構造はX線回折法により分析している。表3(薄膜の耐熱性)に薄膜の耐熱性評価の結果をまとめる。表3に示すように、従来の膜では、800℃前後で変態または析出が生じたが、本発明の対象とした試料の大多数が900℃以上の耐熱性を示している。
〔6.熱処理後の硬度について〕
上述した真空アニーリング処理後の膜硬度をマイクロビッカース硬さ試験により評価した。表4(熱処理後の硬度)に各温度の熱処理後の膜硬度値を示す。900℃から1000℃にかけて若干の減少が見られる試料もあるが、時効硬化または未窒素化金属の立方晶への固溶が要因となり成膜後の硬度を維持していることが分かる。
上述した真空アニーリング処理後の膜硬度をマイクロビッカース硬さ試験により評価した。表4(熱処理後の硬度)に各温度の熱処理後の膜硬度値を示す。900℃から1000℃にかけて若干の減少が見られる試料もあるが、時効硬化または未窒素化金属の立方晶への固溶が要因となり成膜後の硬度を維持していることが分かる。
〔7.算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzについて〕
スパッタリング法により、リアクティブ・多元素からなる窒化物を作製し、表面粗さ計により算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzを評価した。なお、図6に示す写真はターゲット裏面の磁極配置となっており、ターゲット表面には、反対の極が作用している。
スパッタリング法により、リアクティブ・多元素からなる窒化物を作製し、表面粗さ計により算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzを評価した。なお、図6に示す写真はターゲット裏面の磁極配置となっており、ターゲット表面には、反対の極が作用している。
〔7.1.永久磁石を配置しない場合〕
磁石を配置しない場合の膜の表面粗さを図5に示す。後述する永久磁石の効果を明らかにする基礎データとして実験を実施した。
磁石を配置しない場合の膜の表面粗さを図5に示す。後述する永久磁石の効果を明らかにする基礎データとして実験を実施した。
〔7.2.永久磁石を配置した場合〕
磁石配置を任意に変更し、表面粗さを測定した結果を図6に示す。結果として、磁力が強く、磁力線の方向に多様性を持たせるほど表面粗さが小さくなった。表5(各磁束密度Bの占有率と表面粗さの相関)に、図6において意義した各磁束密度の占有率と表面粗さの相関をまとめる。
磁石配置を任意に変更し、表面粗さを測定した結果を図6に示す。結果として、磁力が強く、磁力線の方向に多様性を持たせるほど表面粗さが小さくなった。表5(各磁束密度Bの占有率と表面粗さの相関)に、図6において意義した各磁束密度の占有率と表面粗さの相関をまとめる。
以上のとおり、従来のスパッタリング法では、ターゲットの利用効率を高めるために、磁石を用いてきたが、本発明では、表面粗さと磁場との相関に着目した点に新規性がある。
また、近年のスパッタリングターゲットは、高融点エレメントを含む複雑組成となり、焼結によりターゲットを作製した際に組織内部に気孔や偏析が生じ、その結果組織的欠陥が放電の不安定性を招き表面平滑性に優れた膜を作製することが困難になっていた。本発明では、磁石の配置により、放電の不安定性を改善し、平滑性に優れる硬質膜の作製を可能とした。また、磁石を配置しない場合で窒素雰囲気圧20Paにおいて放電が安定したが磁石を配置した場合では、2.5Paで放電は安定し、低圧による膜合成を可能とした。
本発明により平滑性に優れる硬質膜の作製が可能となることにより、切削工具、摺動部材、精密金型等の工業分野に広く適用が可能となる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、バッキングプレートに永久磁石を取付ける際には、図7(a)や図7(b)に示すような配置が考えられる。このように永久磁石を取付けることによって、ターゲット表面上に磁場サイトを形成させ、特に、磁極の組み合わせによりN極からS極に向かう磁力線の方向性に更なる多様性を持たせることが可能となり、ガス分子と電子の衝突を促進しやすくなる。その結果、膜の低圧合成が可能となり、残留ガスを含まない平滑性に優れる緻密な膜を形成できる。
Claims (5)
- 下記一般式(1−a)、(1−b)及び(1−c)で示される窒化膜であって、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)の金属比を膜が立方晶を維持する相変態近傍の組成とした硬質窒化物膜。
(Ti,Al)N・・・・・・・・・・・・・(1−a)
(Cr,Al)N・・・・・・・・・・・・・(1−b)
(Ti,Cr,Al)N・・・・・・・・・・(1−c) - 硼素(B)、イットリウム(Y)、珪素(Si)のうち少なくとも1種を添加し耐熱性及び機械的性質を改善したことを特徴とする請求項1に記載の硬質窒化物膜。
- 基板と膜の間に中間層としてチタン(Ti)またはクロム(Cr)を堆積させて密着性を向上させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の硬質窒化物膜。
- 合金ターゲットをグロー放電によりスパッタし、飛び出したクラスターを窒化プラズマ中で窒化し、基材に堆積するスパッタリング法において、
バッキングプレートに永久磁石を取付け、ターゲット表面に高磁場を与えた磁場制御型高周波スパッタリング法を用いた硬質窒化物膜の製造方法。 - 前記永久磁石では、磁石の極、磁束密度、配置位置を任意に設定することによりターゲットのイオン電流密度を変化させ、成膜室内のプラズマ密度及びイオン分布を制御可能としたことを特徴とする請求項4に記載の硬質窒化物膜の製造方法。
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JP2012092433A (ja) * | 2010-09-27 | 2012-05-17 | Hitachi Tool Engineering Ltd | 耐久性に優れる被覆工具およびその製造方法 |
JP2014533540A (ja) * | 2011-11-21 | 2014-12-15 | セブ ソシエテ アノニム | 汚れ耐性のある調理面、およびそのような調理面を含む調理器具または家電機器 |
CN116288191A (zh) * | 2023-03-14 | 2023-06-23 | 纳狮新材料有限公司杭州分公司 | 一种高温抗氧化AlTiN基纳米涂层及其制备方法 |
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2009
- 2009-03-02 JP JP2009048170A patent/JP2010202917A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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