まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用されたパラレルハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す全体システム図である。図2は、無段変速機の概略的な構成を説明するための説明図である。以下、図1および図2に基づいて、駆動系および制御系の構成を説明する。
実施例1のパラレルハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、第1クラッチCL1と、モータ/ジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、無段変速機CVTと、ファイナルギヤFGと、左駆動輪LTと、右駆動輪RTと、を備えている。この駆動系では、エンジンEngおよびモータ/ジェネレータMGが駆動源となる。
実施例1のハイブリッド駆動系は、電気自動車走行モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車走行モード(以下、「HEVモード」という。)と、駆動トルクコントロール発進モード(以下、「WSCモード」という。)等の走行モードを有する。
前記「EVモード」は、第1クラッチCL1を開放状態とし、モータ/ジェネレータMGの動力のみで走行するモードである。前記「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態とし、モータアシスト走行モード・走行発電モード・エンジン走行モードの何れかにより走行するモードである。前記「WSCモード」は、「HEVモード」からのP、N→Dセレクト発進時、または、「EVモード」や「HEVモード」からのDレンジ発進時等において、モータ/ジェネレータMGを回転数制御することで第2クラッチCL2のスリップ締結状態を維持し、第2クラッチCL2を経過するクラッチ伝達トルクが、車両状態や運転者操作に応じて決まる要求駆動トルクとなるようにクラッチトルク容量をコントロールしながら発進するモードである。なお、「WSC」とは「Wet Start clutch」の略である。
前記エンジンEngは、希薄燃焼可能であり、スロットルアクチュエータによる吸入空気量とインジェクタによる燃料噴射量と、点火プラグによる点火時期の制御により、エンジントルクが指令値と一致するように制御される。
前記第1クラッチCL1は、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとの間の位置に介装される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて常時締結(ノーマルクローズ)の乾式クラッチが用いられ、エンジンEng〜モータ/ジェネレータMG間の締結/半締結(スリップ締結)/開放を行なう。この第1クラッチCL1が完全締結状態ならモータトルク+エンジントルクが第2クラッチCL2へと伝達され、開放状態ならモータトルクのみが、第2クラッチCL2へと伝達される。なお、半締結/開放の制御は、油圧アクチュエータに対するストローク制御にて行われる。
前記モータ/ジェネレータMGは、交流同期モータ構造であり、発進時や走行時に駆動トルク制御や回転数制御を行うと共に、制動時や減速時に回生ブレーキ制御による車両運動エネルギーのバッテリー9への回収を行なうものである。
前記第2クラッチCL2は、ノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキであり、クラッチ油圧(押付力)に応じて伝達トルク(クラッチトルク容量)が発生する。この第2クラッチCL2は、無段変速機CVTおよびファイナルギヤFGを介し、エンジンEngおよびモータ/ジェネレータMG(第1クラッチCL1が締結されている場合)から出力されたトルクを左右駆動輪LT、RTへと伝達する。
なお、第2クラッチCL2としては、図1に示すように、独立のクラッチをモータ/ジェネレータMGと無段変速機CVTの間の位置に設定する以外に、無段変速機CVTと左右駆動輪LT、RTの間の位置に設定しても良い。
前記無段変速機CVTは、変速比を無段階に設定しつつそれらを連続的に変えることのできる機であり、実施例1では2対のプーリーとその間に架け渡したベルトとから構成される(ベルト型CVT)。無段変速機CVTは、一方の対を為すプーリーの間隔を変化させて各プーリーに対するベルトの接触円を変化させるとともに、それに連携させて他方の対を為すプーリーの間隔も変化させて各プーリーに対するベルトの接触円を変化させることにより、連続的に変速する。詳細には、無段変速機CVTは、図2に示すように、インプットシャフト31に接続されたプライマリープーリー32と、駆動軸としてのアウトプットシャフト33に接続されたセカンダリープーリー34と、プライマリープーリー32およびセカンダリープーリー34の溝に架けられたベルト35と、変速比の変更のための第1アクチュエータ36および第2アクチュエータ37と、を有する。プライマリープーリー32は、第2クラッチCL2を介してモータ/ジェネレータMGの出力軸に連結されたインプットシャフト31に沿う方向で溝幅が変更可能とされており、その溝幅を第1アクチュエータ36が変更させる。セカンダリープーリー34は、ファイナルギヤFGを介して左右駆動輪LT、RTに連結されたアウトプットシャフト33に沿う方向で溝幅が変更可能とされており、その溝幅を第2アクチュエータ37が変更させる。無段変速機CVTでは、プライマリープーリー32およびセカンダリープーリー34の溝幅を変更することによりインプットシャフト31の動力を無段変速してアウトプットシャフト33に出力する。
第1アクチュエータ36は、油圧回路上に配置され第1デューティソレノイド36aの駆動によりライン圧の油のプライマリープーリー32への流入の許可と流入の禁止とを切り替え可能な2ポジションバルブとして構成されている。同様に、第2アクチュエータ37も、第2デューティソレノイド37aの駆動によりライン圧の油のセカンダリープーリー34への流入の許可と流入の禁止とを切り替え可能な2ポジションバルブとして構成されている。この第1デューティソレノイド36aおよび第2デューティソレノイド37aは、後述する変速機コントローラ15により印加される電圧のデューティ比が各々制御されることにより、プライマリープーリー32およびセカンダリープーリー34の溝幅(変速比)やその変更速度が調整されつつ制御される。すなわち、変速機コントローラ15は、無段変速機CVTの変速比やその変更速度を自由に調節することができる。なお、無段変速機としては、上記した無段変速機CVT以外に、トロイダル型CVTであってもよく、実施例1に限定されるものではない。
実施例1のパラレルハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、第2クラッチ入力回転数センサ6(=モータ回転数センサ)と、第2クラッチ出力回転数センサ7(=無段変速機入力側回転数センサ)と、インバータ8と、バッテリー9と、アクセルセンサ(アクセルポジションセンサ)10と、エンジン回転数センサ11と、油温センサ(CVT油温センサ)12と、ストロークセンサ(ストローク位置センサ)13と、統合コントローラ14と、変速機コントローラ15と、クラッチコントローラ16と、エンジンコントローラ17と、モータコントローラ18と、バッテリーコントローラ19と、ブレーキセンサ20と、車速センサ21と、無段変速機出力側回転数センサ22と、を備えている。
前記インバータ8は、直流/交流の変換を行い、モータ/ジェネレータMGの駆動電流を生成する高電圧インバータである。バッテリー9は、モータ/ジェネレータMGからの回生エネルギーを、インバータ8を介して蓄積する高電圧バッテリーである。
前記統合コントローラ14は、アクセル開度、および車速(変速機出力回転数に同期した値)から走行制御のための目標駆動トルクを演算する。そして、その結果に基づき各アクチュエータ(モータ/ジェネレータMG、エンジンEng、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、無段変速機CVT)に対する指令値を演算し、各コントローラ15、16、17、18、19へと送信する。ここで、統合コントローラ14は、「HEVモード」である場合、演算した目標駆動トルクをエンジンEngとモータ/ジェネレータMGとに適宜分配し(駆動配分手段)、それに応じて演算した指令値を各アクチュエータに送信する。
前記変速機コントローラ15は、統合コントローラ14からの変速指令を達成するように変速制御を行なう。この変速機コントローラ15には、インプットシャフト31(図2参照)に取り付けられた第2クラッチ出力回転数センサ7からの回転数Niと、アウトプットシャフト33(図2参照)に取り付けられた無段変速機出力側回転数センサ22からの回転数Noと、が入力される。変速機コントローラ15は、統合コントローラ14からの変速指令(制御信号)に基づいて、無段変速機CVTの変速比を制御すべく第1アクチュエータ36および第2アクチュエータ37へと駆動信号を出力する。また、変速機コントローラ15は、必要に応じて無段変速機CVTの運転状態に関するデータを統合コントローラ14に出力する。
前記クラッチコントローラ16は、第2クラッチ入力回転数センサ6と第2クラッチ出力回転数センサ7と油温センサ12からのセンサ情報を入力すると共に、統合コントローラ14からの第1クラッチ油圧指令値と第2クラッチ油圧指令値に対して、クラッチ油圧(電流)指令値を実現するようにソレノイドバルブの電流を制御する(クラッチ制御手段)。
前記エンジンコントローラ17は、エンジン回転数センサ11からのセンサ情報を入力すると共に、統合コントローラ14からのエンジントルク指令値を達成するようにエンジントルク制御を行なう。
前記モータコントローラ18は、統合コントローラ14からのモータトルク指令値やモータ回転数指令値を達成するようにモータ/ジェネレータMGの制御を行なう。
前記バッテリーコントローラ19は、バッテリー9の充電状態(SOC)を管理し、その情報を統合コントローラ14へと送信する。
図3は、統合コントローラ14にて実行される変速制御処理内容を示すフローチャートである。すなわち、図3のフローチャートが変速制御手段となる。図4は、統合コントローラ14における変速制御処理を示す制御ブロック図である。図5は、統合コントローラ14におけるアシスト可能変更速度上限処理を示す制御ブロック図である。図6は、実施例1の統合コントローラ14での変更速度処理を行う際に用いられる最速変更時間の算出マップを示す図であり、(a)はアクセル開度に対する最速変更時間の関係を示し、(b)はアクセル開度変化速度に対する最速変更時間の関係を示す。以下、図3のフローチャートの各ステップについて図4から図6を用いて説明する。
ステップS1では、必要駆動トルクを演算して、ステップS2へ進む。このステップS1では、図4に示すように、必要駆動力演算部41(図4参照)において、目標駆動トルクと充電トルクと補機電力分トルクとを加算することにより、必要駆動トルクを演算する。この目標駆動トルクとは、上述したように、アクセル開度、および車速(変速機出力回転数に同期した値)等に基づく走行制御のための駆動力である。この目標駆動トルクは、例えば、アクセル開度と車速(変速機出力回転数に同期した値)とに対する目標駆動トルクの関係を示すマップを用いて演算する。また、充電トルクは、バッテリー9の充電状態(SOC)に基づくバッテリー9の充電のための駆動力である。さらに、補機電力分トルクは、車両に搭載された電装品(補機)の動作に必要な電力を補うための駆動力である。なお、充電トルクは、充電状態(SOC)から充電の必要がないと判断した場合には、0となる。
ステップS2では、ステップS1での必要駆動トルクの演算に続き、出力可能トルクを演算して、ステップS3へ進む。この出力可能トルクは、判断時点での駆動源(エンジンEngおよびモータ/ジェネレータMG)の回転数に基づいて得られる当該駆動源が出力可能なトルクの最大値である。このステップS2では、バッテリー9の出力(充電状態(SOC))を考慮しつつ第2クラッチ入力回転数センサ6(=モータ回転数センサ)から検出されたバッテリー9の出力回転数に基づいて得られるモータ出力可能トルクと、エンジン回転数センサ11から検出されたエンジンEngの出力回転数(第1クラッチCL1が締結されているとバッテリー9の出力回転数に等しい)に基づいて得られるエンジン出力トルクと、から、出力可能トルクを演算する。ここで、「EVモード」である場合、すなわち、エンジンEngが停止されている場合には、出力可能トルクは、モータ出力可能トルクと等しいものとなる。
ステップS3では、ステップS2での出力可能トルクの演算に続き、必要駆動トルクが出力可能トルクよりも小さいか否かを判断し、Yesの場合はステップS4へ進み、Noの場合はステップS7へ進む。すなわち、ステップS3では、判断時点における駆動源の状態から、アクセルに為された操作に応じた加速に必要なトルクを得るために、変速比を大きく変更する変速制御を行う必要があるか否かを判断していることとなる。
ステップS4では、ステップS3での必要駆動トルクが出力可能トルクよりも小さいとの判断に続き、最速変更経過時間を初期状態(クリア)とするとともに(既に最速変更経過時間のカウントが開始されているとき(後述するステップS9)は)カウントを停止して、ステップS5へ進む。
ステップS5では、ステップS4での最速変更経過時間のクリアに続き、定常時の変速制御処理を行い、ステップS6へ進む。この定常時の変速制御処理について、図4を用いて説明する。駆動力配分演算部42において、必要駆動力演算部41により演算された必要駆動トルク(ステップS1)を、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとに適宜分配し、その分配した各トルクに応じた指令値を演算し、その指令値を各アクチュエータに送信する。また、最適動作点演算部43において、必要駆動力演算部41により演算された必要駆動トルク(ステップS1)に基づいて目標回転数Naを演算し、その目標回転数Naを変速比演算部44へと出力する。この目標回転数Naとは、駆動系からできる限り効率よく必要駆動トルクを出力させることのできる運転点(最適動作点)とするための回転数である。目標回転数Naは、例えば、必要駆動トルクに対する目標回転数の関係を示すマップを用いて演算する。変速比演算部44では、後述するアシスト可能変更速度上限処理部45から入力されるアシスト可能変更速度上限値を超えない範囲内で、無段変速機CVTの入力側(インプットシャフト31)の回転数Niを入力された目標回転数Naとするための変速指令(変速比指令)を変速機コントローラ15へ向けて出力する。変速比演算部44では、入力された目標回転数Naと、判断時点における無段変速機CVTの入力側の回転数Niと、の差に基づいて、入力側の回転数を目標回転数Naへと変化させるための速度(すなわち無段変速機CVTの変速比の変更速度)とアシスト可能変更速度上限値とを比較し、その変更速度がアシスト可能変更速度上限値よりも小さい場合には目標回転数Naとする変速指令を出力し、変更速度がアシスト可能変更速度上限値よりも大きい場合には回転数Niからアシスト可能変更速度上限値となる変化率に相当する回転数(以下、制限目標回転数Nlと言う)とする変速指令を出力する。なお、ステップS5による走行制御処理では、ステップS3において必要駆動トルクが出力可能トルクよりも小さいと判断していることから、変更速度がアシスト可能変更速度上限値よりも大きくなることはないので、目標回転数Naとする変速指令を出力することとなり、変速比を適宜漸次的に変更しながら加速される通常の走行制御(すなわち後述するステップS11およびステップS12での変速比を大きく変更する変速制御に比べて小さい(遅い)変更速度)となる。
ステップS6では、ステップS5での定常時の変速制御処理、あるいは、ステップS11での最速速度での変速制御、あるいは、ステップS12での中間速度での変速制御、あるいは、ステップS13でのエンジン始動制御に続き、アシスト可能変更速度上限処理部45においてアシスト可能変更速度上限処理を行い、ステップS1へと戻る。このアシスト可能変更速度上限処理について、図5を用いて説明する。変速使用可能トルク演算部46において、駆動源が出力可能なトルクの最大値である出力可能トルク(ステップS2)から、必要駆動力演算部41により演算された必要駆動トルク(ステップS1)を、減算することにより、変速使用可能トルクを演算し、この変速使用可能トルクを回転数変化上限値演算部47へと出力する。この変速使用可能トルクは、判断時点において、駆動源(エンジンEngおよびモータ/ジェネレータMG)から出力されるトルクのうち無段変速機CVTの変速に利用(無段変速機CVTの変速をアシストする)可能なトルクである。回転数変化上限値演算部47では、入力された変速使用可能トルクを、無段変速機CVTを変速させる際に抗力として作用する無段変速機CVT内の慣性に打ち勝って変速するのに必要な力(慣性項)で、除算することにより、回転数変化上限値ΔNmaxを演算し、この回転数変化上限値ΔNmaxをアシスト可能変更速度上限値演算部48へと出力する。このアシスト可能変更速度上限値演算部48は、回転数変化上限値ΔNmaxに加えて、判断時点における無段変速機CVTの入力側(インプットシャフト31)の回転数Niと、無段変速機CVTの出力側(アウトプットシャフト33)の回転数Noと、に基づいて、回転数変化上限値ΔNmaxに応じたアシスト可能変更速度上限値を演算する。このアシスト可能変更速度上限値は、回転数変化上限値ΔNmaxを無段変速機CVTにおいて変速に要する時間で除算することにより演算することができ、この変速に要する時間は、回転数Niと回転数Noとから、十分な安定性(例えば、無段変速機CVTのベルト35の保護等)を持って変速比を変更させることができる観点から演算することができる。このステップS6でのアシスト可能変更速度上限値の演算が、アシスト可能変更速度上限処理部45におけるアシスト可能変更速度上限処理となる。
ステップS7では、ステップS3での必要駆動トルクが出力可能トルクよりも大きいとの判断に続き、最速変更時間を演算して、ステップS8へ進む。最速変更時間とは、後述する最速速度での変速制御(ステップS11)を行う時間を示すものである。この最速変更時間は、図6(a)に示すように、アクセル開度に対する最速変更時間の関係を示すマップを用いて演算する。なお、最速変更時間は、図6(b)に示すように、アクセル開度変化速度に対する最速変更時間の関係を示すマップを用いて演算するものであってもよい。また、ステップS7では、図示は略すが、上記マップを用いて演算した最速変更時間をバッテリー9の充電状態(SOC)に応じて補正する。この充電状態(SOC)に基づく補正は、充電状態(SOC)が高くなるほど最速変更時間を短くし、かつ充電状態(SOC)が低くなるほど最速変更時間を長くするように行う。これは、充電状態(SOC)が高い場合には、モータ/ジェネレータMGから出力されるトルクをより多く加速に利用することができることから、変速比の変更により加速のためのトルクを確保する量を抑制することができるとともに、充電状態(SOC)が低い場合には、変速比の変更により加速のためのトルクを確保する必要があることによる。このため、充電状態(SOC)が低い場合には、判断時点での駆動源から出力可能なトルクで加速のためのトルクを確保することができる変速比とする観点から、最速変更時間を長くするような補正を行うように設定されている。なお、ステップS7で演算される最速変更時間は、アクセル開度、アクセル開度変化速度、充電状態(SOC)を複合的に判断するものであってもよく、いずれか1つに基づいて設定するものであってもよい。また、最速変更時間は、車速に基づいて設定するものであってもよい。この場合、例えば、車速が高くなるほど高い加速感が必要なくなることから最速変更時間を短くし、かつ充電状態(SOC)が低くなるほど高い加速感が必要となることから最速変更時間を長くすることが考えられる。
ステップS8では、ステップS7での最速変更時間の演算に続き、「HEVモード」であるか否かを判断し、Yesの場合はステップS9へ進み、Noの場合はステップS13へ進む。このステップS8では、「HEVモード」であるか否かを判断することにより、変速制御を行うか否かを判断している。これは、以下のことによる。「EVモード」である場合、ステップS3にてモータ/ジェネレータMGが出力可能なトルクでは、必要駆動トルクを確保することができないと判断していることから、エンジンEngから出力されるトルクが必要となる。このため、先ず「HEVモード」へと移行することとなるが、その移行の際、エンジンEngの始動のために所定の回転数とすべくモータ/ジェネレータMGを回転数制御して、エンジンEngの始動のためのクランキングトルクを確保するので、「EVモード」から「HEVモード」への移行(エンジンEngの始動制御)の場合には変速できない。すなわち、エンジンEngの始動制御の際に変速すると、モータ/ジェネレータMGから出力されるトルクは、走行している車両のイナーシャに応じたものとなってしまうので、エンジンEngの始動のためのクランキングトルクを確保することができなくなってしまう。
ステップS9では、ステップS8での「HEVモード」であるとの判断に続き、最速変更経過時間のカウントを開始して、ステップS10へ進む。この最速変更経過時間は、後述するステップS11における最速変更を行われている(継続している)時間を示すものである。ステップS9では、既に最速変更経過時間のカウントを開始している場合、引き続き最速変更経過時間のカウントを継続する。
ステップS10では、ステップS9での最速変更経過時間のカウント開始に続き、その最速変更経過時間が最速変更時間(ステップS7)よりも小さいか否かを判断し、Yesの場合はステップS11へ進み、Noの場合はステップS12へ進む。このステップS10では、後述するステップS11における最速変更を継続している時間が、ステップS7で演算した最速変更時間を超えたか否かを判断することにより、最速速度での変速制御と中間速度での変速制御とを切り換えている。
ステップS11では、ステップS10での最速変更経過時間が最速変更時間よりも小さいとの判断に続き、最速速度での変速制御を実行して、ステップS6へ進む。この最速速度での変速制御とは、ステップS6において演算したアシスト可能変更速度上限値の速度で変速(変速比の変更)するものである。このステップS11における最速速度での変速制御では、基本的にステップS5と同様の制御処理を行う。詳細には、駆動力配分演算部42において、必要駆動力演算部41により演算された必要駆動トルク(ステップS1)を、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとに適宜分配し、その分配した各トルクに応じた指令値を演算し、その指令値を各アクチュエータに送信する。また、最適動作点演算部43において、必要駆動力演算部41により演算された必要駆動トルク(ステップS1)に基づいて目標回転数Naを演算して変速比演算部44へと出力する。その変速比演算部44では、アシスト可能変更速度上限処理部45から入力されるアシスト可能変更速度上限値を超えない範囲内で、無段変速機CVTの入力側(インプットシャフト31)の回転数を入力された目標回転数Naとするための変速指令(変速比指令)を変速機コントローラ15へ向けて出力する。すなわち、変速比演算部44では、入力された目標回転数Naと、判断時点における無段変速機CVTの入力側の回転数Niと、の差に基づいて、入力側の回転数を目標回転数Naとするための変化速度(すなわち無段変速機CVTの変速比の変更速度)とアシスト可能変更速度上限値とを比較し、その変更速度がアシスト可能変更速度上限値よりも小さい場合には目標回転数Naとする変速指令を出力し、変更速度がアシスト可能変更速度上限値よりも大きい場合には回転数Niからアシスト可能変更速度上限値となる変化率に相当する制限目標回転数Nlとする変速指令を出力する。このとき、変速比演算部44は、無段変速機CVTの入力側の回転数を目標回転数Naもしくは制限目標回転数Nlとすべく、モータ/ジェネレータMGを回転数制御するために、当該回転数に応じた指令値を演算し、その指令値をモータコントローラ18へと送信する。実施例1では、変速比演算部44は、指令値として、無段変速機CVTの入力側の回転数が、判断時点における回転数Niから一定の変化率で目標回転数Naもしくは制限目標回転数Nlとなるように変更速度を設定する。ここで、モータコントローラ18では、駆動力配分演算部42からの分配されたトルクに応じた指令値も送信されているが、変速比演算部44からの回転数に応じた指令値に基づいてモータ/ジェネレータMGを回転数制御する。これにより、無段変速機CVTでは、入力側の回転数が一定の変化率で(リニアに)上昇しつつ最も早い速度で変速比が変更される。なお、この最速速度での変速比を変更する際、モータ/ジェネレータMGが回転数制御されていることから、モータ/ジェネレータMGから出力されるトルクは、走行している車両のイナーシャからエンジンEngが出力するトルクを減算した値に応じたものとなるので、最速速度での変速比の変更を実行しつつ、車速の減少を防止することができる(定速走行を行っている)。また、このステップS11における最速速度での変速制御では、アクセル操作が為されてから初めて進行してきた場合、未だステップS6でのアシスト可能変更速度上限処理が行われていないことから、アクセル操作に対応したアシスト可能変更速度上限値は求められていないこととなるので、前回(アクセル操作前)のアシスト可能変更速度上限値を用いる。このことは、このフローチャートが繰り返し行われる時間が極めて短いものであることから、直ぐにアクセル操作に対応したアシスト可能変更速度上限値での変速動作に変わることとなるとともに、回転数を大きく変更させるきっかけとなる動作であることから、より大きなトルクが必要となるので、最速速度での変速動作への実質的な影響は殆どない。
ステップS12では、ステップS10での最速変更経過時間が最速変更時間よりも大きいとの判断に続き、中間速度での変速制御を実行して、ステップS6へ進む。この中間速度での変速制御とは、ステップS11におけるアシスト可能変更速度上限値での変速(最速速度での変速制御)による変速比の状態から、変速(変速比を変更)しつつ加速するものである。このステップS12における中間速度での変速制御では、基本的にステップS5と同様の制御処理を行う。詳細には、駆動力配分演算部42において、必要駆動力演算部41により演算された必要駆動トルク(ステップS1)を、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとに適宜分配し、その分配した各トルクに応じた指令値を演算し、その指令値を各アクチュエータに送信する。また、最適動作点演算部43において、必要駆動力演算部41により演算された必要駆動トルク(ステップS1)に基づいて目標回転数Naを演算して変速比演算部44へと出力する。その変速比演算部44では、アシスト可能変更速度上限処理部45から入力されるアシスト可能変更速度上限値を超えない範囲内で、無段変速機CVTの入力側(インプットシャフト31)の回転数を入力された目標回転数Naとするための変速指令(変速比指令)を変速機コントローラ15へ向けて出力する。ここで、ステップS12では、ステップS11を経ることにより、最速変更時間の間の最速速度での変速制御が実行された後であることから、このフローチャートの変速動作が実行される前に比較して、無段変速機CVTが低速側に変速されているとともに、無段変速機CVTの入力側の回転数が高められている。このため、変速比演算部44は、無段変速機CVTの入力側の回転数を目標回転数Naとすべくモータ/ジェネレータMGを回転数制御するための指令値を送信するのは止める。これにより、駆動源(エンジンEngおよびモータ/ジェネレータMG)では、駆動力配分演算部42から送信された分配されたトルクに応じた指令値に応じたトルクを出力することとなり、この出力されたトルクが低速側に変速された無段変速機CVTを経て左右駆動輪LT、RTへと伝達される。このため、車両は、このフローチャートの変速動作が実行される前に比較して、駆動源から出力され無段変速機CVTでの低速側に変速された変速比に応じたトルクで加速されることとなるので、運転者が加速感を得ることとなる。このステップS12における中間速度での変速制御は、無段変速機CVTの入力側の回転数が目標回転数Naとなって、必要駆動トルクが得られるまで繰り返される。このとき、ステップS12における中間速度での変速制御での変更速度は、任意のものとすることができるが、実施例1では、最適動作点演算部43により目標回転数Naを演算した際、その最適動作点での制御により目標回転数Naとなる最適動作時間を演算し、その最適動作時間(例えば、図7のT0〜T2)から最速変更時間(例えば、図7のT0〜T1)を減算した値(時間(例えば、図7のT1〜T2))を中間速度での変速制御の終了時間として、当該終了時間までに最速速度での変速制御後の回転数を目標回転数Naとするように、設定している。また、中間速度での変速制御では、駆動系すなわちエンジンEngおよびモータ/ジェネレータMGの回転数が一定の変化率で(リニアに)上昇するように、エンジンEng、モータ/ジェネレータMGおよび無段変速機CVTを制御する。
ステップS13では、ステップS8での「EVモード」であるとの判断に続き、エンジン始動制御を実行して、ステップS6へ進む。このエンジン始動制御では、第1クラッチCL1の半締結により立ち上げたエンジンEngのクランキング回転数を一定の回転数に保つクランキング動作とするとともに、一定の吸入空気量を保つ吸入空気制御と一定の燃料噴射量を保つ燃料噴射制御と点火プラグによる点火時期の制御とを行う。このステップS13でエンジンEngが始動することにより、モータ/ジェネレータMGの動力のみで走行する「EVモード」から、モータ/ジェネレータMGの動力とエンジンEngの動力とにより走行する「HEVモード」への切り換えが完了する。
次に、作用を説明する。
図7は、技術の課題と本発明の基本的な制御とを説明するために、アクセル開度、トルクが不足しているか否か、駆動源の回転数の各特性を示すタイムチャートである。図8は、本発明の変速制御において充電状態(SOC)の差異による動作の違いを説明するために、アクセル開度、トルクが不足しているか否か、駆動源の回転数の各特性を示すタイムチャートである。以下、図7および図8を用いて、まず、「技術の課題」の説明を行い、続いて、実施例1のハイブリッド車両の制御装置における作用を、「定常時での変速制御作用」と、「加速要求に伴う過渡時での変速制御作用」と、に分けて説明する。
「技術の課題」
駆動系に無段変速機CVTを有するハイブリッド車両の制御装置にあっては、加速要求に応じた加速を行う際、踏み込み量に応じた目標速度へと効率よく到達させるように、エンジンEngの回転数を高めて無段変速機CVTを所定の変速比としつつ車両を加速させる。このことを、走行時に時点T0においてアクセルが中間開度(開度50%)とされた例である図7を用いて説明する。
アクセルが操作とされると、その操作に基づいて演算された目標駆動トルクを駆動系が出力するように、駆動系を制御する。このとき、エンジンEngおよびモータ/ジェネレータMGの双方の動作効率を勘案して駆動系が最適効率となる運転点となるように、エンジンEng、モータ/ジェネレータMGおよび無段変速機CVTを制御する。すると、図7に破線で示すように、アクセル操作の直後から、駆動源すなわちエンジンEngおよびモータ/ジェネレータMGの回転数が、目標駆動トルク(実際には実施例1と同様に必要駆動トルク)に対して最適効率となる運転点(最適動作点)となる目標回転数の近くまで急激に高められ、漸次的に緩やかな変化となって当該目標回転数とされる。このとき、駆動源から出力されるトルクは、エンジンEngおよびモータ/ジェネレータMGの回転数の上昇に伴って増加しているが、その増加分は、アクセル操作の直後では大半が無段変速機CVTの変速比を変更することに利用され、その後暫時的に車両を加速させることに利用される割合が増加している。このような制御により、燃費がよい上に変速ショックを運転者に感じさせることを防止しつつ、より早く速度を上昇させることができる。
ところが、上記した制御では、駆動源から出力されるトルクのうちの車両を加速させることに利用される割合が、アクセル操作の直後は小さなものであるとともにその後暫時的に増加することにより、加速度もアクセル操作の直後の小さなものから暫時的に上昇するので、運転者は、エンジンEngの回転数が急激に上昇したことを認識しているにも拘らず、それに応じた加速感を得ることができず、その後暫時的に加速しているように感じる、いわゆるラバーバンド感を覚えてしまう。
また、上記した制御では、駆動系の回転数を可能な範囲での最速速度で目標回転数の近くまで高めて無段変速機CVTの変速比を変更することにより、駆動系が最適効率となる運転点としているため、運転者は、自らのアクセル操作量に拘らずエンジンEngの回転数が急激に上昇することに違和感を覚えてしまうとともに、その上昇に見合った加速感が得られないことにも違和感を覚えてしまう。
このように、アクセル操作に伴って必要駆動トルクが上昇し、無段変速機CVTの変速比を大きく変更する必要が生じた場合に、駆動系が最適効率となる運転点としてエンジンEng、モータ/ジェネレータMGおよび無段変速機CVTを制御すると、運転者がラバーバンド感を覚えてしまうとともに、自らのアクセル操作が車両の走行制御に反映されていないと感じてしまい、運転性に違和感を覚えてしまう。このため、何らかの対策により、運転者の違和感をなくすことが望ましい。
「定常時での変速制御作用」
定常時での変速制御作用とは、アクセル操作に応じた加速走行を大きな変速を行うことなく実現することができる場面における変速制御作用をいう。実施例1では、定常時での変速制御では、無段変速機CVTを用いた一般的な変速制御を行う。
すなわち、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3へと進み、ステップS3にて必要駆動トルクが出力可能トルクよりも小さいと判断すると、定常時での変速制御へと移行すべくステップS4→ステップS5へと進み、ステップS5にて定常時での変速制御を実行し、ステップS6へと進んでステップS1に戻る流れが行われる。
上記のように、必要駆動トルクが出力可能トルクよりも小さい場合には、判断時点における状態において駆動源から出力することのできるトルクで、運転者が望む(アクセル開度)加速を実現することができるので、定常時での変速制御となり、最適動作点で効率よく必要駆動トルクを確保する。
このため、運転者の操作に応じた加速走行を効率よく実現することができる。
「加速要求に伴う過渡時での変速制御作用」
加速要求に伴う過渡時での変速制御作用とは、アクセル操作に応じた加速走行のために変速比を大きく変更する必要のある場面における変速制御作用をいう。実施例1では、加速要求に伴う過渡時での変速制御では、基本的に、先ず、アクセル開度等に基づく加速のための変速比とすべく最速速度での変速制御(第1変速制御)を行い、その後、変更された変速比からの加速走行のための変速制御(中間速度での変速制御(第2変速制御))を行う。
すなわち、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3へと進み、ステップS3にて必要駆動トルクが出力可能トルクよりも大きいと判断すると、加速要求に伴う過渡時での変速制御へと移行すべくステップS7へと進み、ステップS7にて最速変更時間を演算してステップS8へと進み、ステップS8にて「HEVモード」であると判断するとステップS9へと進み、ステップS9にて最速変更経過時間のカウントを開始してステップS10へと進む。ステップS10では、カウントしている最速変更経過時間が最速変更時間よりも小さい場合にはステップS11へと進んで、最速速度での変速制御を行い、ステップS6へと進んでステップS1に戻る流れが行われる。
また、ステップS10では、カウントしている最速変更経過時間が最速変更時間よりも大きい場合にはステップS12へと進んで、中間速度での変速制御を行い、ステップS6へと進んでステップS1に戻る流れが行われる。
さらに、ステップS8にて「EVモード」であると判断するとステップS13へと進み、ステップS13にて「EVモード」から「HEVモード」へと切り換えて、ステップS6へと進んでステップS1に戻る流れが行われる。
上記したように、必要駆動トルクが出力可能トルクよりも大きい場合には、判断時点における状態において駆動源から出力することのできるトルクでは、運転者が望む(アクセル開度)加速を実現することができないので、加速要求に伴う過渡時での変速制御となり、必要駆動トルクを確保する。このとき、「EVモード」である場合には、ステップS3にてモータ/ジェネレータMGが出力可能なトルクでは、必要駆動トルクを確保することができないと判断していることから、エンジンEngから出力されるトルクが必要となるので、先ず「HEVモード」へと切り換える(ステップS8→ステップS13)。このとき、最速速度での変速制御または中間速度での変速制御を行わないので、モータ/ジェネレータMGを回転数制御することによるエンジンEngの始動制御を実行することができ、確実にエンジンEngを始動させることができる。
また、「HEVモード」である場合には、アクセル開度またはアクセル開度変化速度に応じて演算されて充電状態(SOC)の大きさに応じて補正された最速変更時間が経過するまでの間は、最速速度での変速制御を行い、変速比を低速側に変更する(いわゆるダウンシフト)する。
さらに、最速速度での変速制御の継続時間が最速変更時間となると、中間速度での変速制御へと切り換わり、最速速度での変速制御により低速側に大きく変更された変速比からの加速走行を行う。
このため、ラバーバンド感を覚えさせることなく運転者の要求に応じた加速を実現することができ、運転者の違和感をなくすことができる。これは、以下のことによる。アクセル操作の後、最速変更時間の間(T0〜T1)は、モータ/ジェネレータMGを回転数制御することにより、入力側の回転数を目標回転数Naもしくは制限目標回転数Nlとすべく最速速度での変速制御を行うので、状態に応じた最も速い変更速度で変速比を低速側に大きく変更(いわゆるダウンシフト)する。この最速速度での変速制御では、モータ/ジェネレータMGが回転数制御されているので、トルク抜けを防止することができるとともに、極めて短い時間でダウンシフトが完了することから、運転者は違和感を覚えることはない。
この後、中間速度での変速制御(T1〜T2)へと切り換わることにより、最速変更時間の間(T0〜T1)の定速走行の後、その最速速度での変速制御により低速側に大きく変更された変速比からの加速走行が行われることから、運転者は、中間速度での変速制御へと切れ換わる際(T1)に加速感を得ることができる。このとき、最速速度での変速制御を実行する最速変更時間は、アクセル開度またはアクセル開度変化速度に応じて設定されていることから、アクセルの踏み込み量が多いときまたはアクセルが急に踏み込まれたときすなわち要求駆動力が大きいときは、より大きな変速比となるので、切り換わりの際(T1)の加速感を大きなものとなり、かつアクセルの踏み込み量が少ないときまたはアクセルが緩やかに踏み込まれたときすなわち要求駆動力が小さいときは、より小さな変速比となるので、切り換わりの際の加速感を小さなものとなるので、運転者が自らのアクセル操作量に応じた加速感を得ることができる。
また、最速速度での変速制御を実行する最速変更時間は、アクセル開度またはアクセル開度変化速度に応じて設定されていることから、他の条件が等しい場合、アクセルの踏み込み量が多いときまたはアクセルが急に踏み込まれたときすなわち要求駆動力が大きいときは、駆動源すなわちエンジンEngの回転数がより高くなり、かつアクセルの踏み込み量が少ないときまたはアクセルが緩やかに踏み込まれたときすなわち要求駆動力が小さいときは、エンジンEngの回転数がより低くなるので、運転者が自らのアクセル操作量に応じたエンジンEngの回転数の上昇を認識することができる。
さらに、中間速度での変速制御(T1〜T2)では、駆動源すなわちエンジンEngおよびモータ/ジェネレータMGの回転数の上昇に伴って、車速が上昇することから、運転者は、エンジンEngの回転数の上昇に応じた加速感(伸び感)を得ることができる。
ついで、最速速度での変速制御を実行する最速変更時間が充電状態(SOC)に基づいて補正されていることから、図8に二点鎖線で示すように、充電状態(SOC)が高くなるほど最速速度での変速制御を行う時間を短くすることができ、アクセル操作に対してより迅速に加速させることができる。これは、充電状態(SOC)が高い場合には、モータ/ジェネレータMGから出力されるトルクをより多く加速に利用することができることによる。また、図8に一点鎖線で示すように、充電状態(SOC)が低くなるほど最速速度での変速制御を行う時間を長くして、変速比の変更により駆動系から出力されるトルクによる加速のためのトルクを確保するので、アクセル操作に応じた加速を確実に行うことができる。ここで、充電状態(SOC)が高い場合(二点鎖線参照)の変更速度(回転数の上昇率)が最も高く、かつ充電状態(SOC)が低い場合(一点鎖線参照)の変更速度(回転数の上昇率)が最も低いのは、最速速度での変速制御における変速比の設定の際に用いるアシスト可能変更速度上限値が充電状態(SOC)を考慮して設定されていることによる。
しかも、最速速度での変速制御および中間速度での変速制御では、駆動源すなわちエンジンEngおよびモータ/ジェネレータMGの回転数が互いに異なる一定の変化率で(リニアに)上昇するものとされていることから、最速速度での変速制御から中間速度での変速制御への切り換わりをより明確なものとすることができるので、最も速い変更速度で変速比を低速側に大きく変更(いわゆるダウンシフト)すること(最速速度での変速制御)と、その後の車両の加速(中間速度での変速制御)と、の境界がより明確なものとなり、運転者が切り換わりの際(T2)の加速感および中間速度での変速制御(T1〜T2)における加速感(伸び感)をより明確に得ることができる。
よって、運転者にラバーバンド感を覚えさせることなく、運転者に自らのアクセル操作に応じた加速感および伸び感を与えることができるので、運転性を向上させることができる。
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1)駆動系に、駆動源としてのエンジンEngおよびモータ(モータ/ジェネレータMG)と、無段変速機CVTと、駆動輪(左右後輪LT、RT)とを有し、要求駆動力の変化に応じて前記無段変速機の変速比を変更すべく前記駆動系を制御する変速制御手段(図3のフローチャート)を備えるハイブリッド車両の制御装置において、前記変速制御手段は、要求駆動力に応じて前記無段変速機の変速比を変更する際、大きな変更速度で変速比を変更する第1変速制御(最速速度での変速制御(ステップS11))を行った後、該第1変速制御よりも小さな変更速度で変速比を変更しつつ要求駆動力に応じて速度変化させる第2変速制御(中間速度での変速制御(ステップS12))を行なうことにより、要求駆動力に応じた速度変化を可能とし、前記駆動源の出力可能トルクに対して要求駆動力が大きくなるほど、前記第1変速制御を継続する時間(最速変更時間)を長く設定する。このため、駆動系に無段変速機CVTを有していても、良好な運転性を与えることができる。
(2)前記変速制御手段は、前記第1変速制御において前記駆動源の回転数の変化率を一定とするとともに、前記第2変速制御において前記駆動源の回転数の変化率を前記第1変速制御よりも小さな値で一定とする。このため、第1変速制御から第2変速制御への切り換わりをより明確なものとすることができるので、大きな変更速度で変速比を変更することと、その後の車両の加速と、の境界がより明確なものとなり、運転者が切り換わりの際の加速感および第2変速制御における加速感(伸び感)をより明確に得ることができる。
(3)前記変速制御手段は、前記第1変速制御において、前記無段変速機の変速比の変更速度を、前記無段変速機の状態から演算した許容される最大速度とする。このため、極めて短い時間で変速比の変更が行われて、その後の第2変速制御での加速感を得ることができるので、より運転性を向上させることができる。
(4)前記変速制御手段は、前記第1変速制御において、前記モータを回転数制御することにより大きな変更速度で変速比を変更し、前記第2変速制御において、前記モータをトルク制御することにより前記第1変速制御よりも小さな変更速度で変速比を変更しつつ要求駆動力に応じて速度変化させる。このため、第1変速制御による変速比の変更を適切なものとすることができるとともに、第1変速制御による変速比の変更時のトルク抜けを防止することができ、変速比を変更することにより運転者に違和感を与えることを防止することができる。また、第2変速制御では、モータから出力され第1変速制御により変更された変速比により変速されたトルクを利用して加速することができるので、運転者が切り換わりの際の加速感および第2変速制御における加速感(伸び感)をより明確に得ることができる。
(5)前記変速制御手段は、前記駆動源の出力可能トルクよりも要求駆動力が大きいと判断すると、前記第1変速制御および前記第2変速制御を行う。このため、要求駆動力を実現するために無段変速機の変速比を大きく変更する必要がある場面では、第1変速制御および第2変速制御により運転性を向上させることができるとともに、要求駆動力を実現するために無段変速機の変速比を大きく変更する必要のない場面では、運転者の操作に応じた加速走行をより効率よく実現することができる。
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
なお、実施例1では、走行中の要求駆動力として、アクセルが踏み込まれて加速要求が為された場面について述べているが、本発明のハイブリッド車両の制御装置は、減速要求が為された場面であっても、適用することができる。この場合、減速の際のラバーバンド間をなくすことができるとともに減速感を得られることとなり、運転性に対する違和感をなくすことができる。
また、実施例1では、両調圧方式の無段変速機CVTを用いていたが、片調圧方式の無段変速機であってもよく、実施例1に限定されるものではない。
実施例1では、FRハイブリッド車両に適用した例を示したが、例えば、FFハイブリッド車両等に対しても本発明の制御装置を適用することができる。要するに、駆動系に無段変速機を有するハイブリッド車両の制御装置であれば適用することができる。