JP2010196817A - 動力伝達軸およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 取付隣接部の強度を、その直径を大きくすることなく大幅に向上させることができる動力伝達軸およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 動力伝達軸100の取付隣接部110a、110bは、表層の残留応力を−900MPa以下、表層から100μm下層の残留応力を−1000MPa以下に規定し、表面粗さを3.0μm以下に規定する。この動力伝達軸100の製造は、成形して焼入れ硬化処理を施した後、取付隣接部110a、110bにショットピーニングを少なくとも一回施す。一回目は、投射材の平均粒径が0.3mmもしくは0.5mm、投射材の表面硬度がHRC60以上、投射材の噴射圧が0.5MPa以上の条件下で行い、二回目は、投射材の平均粒径が0.05mm、投射材の表面硬度および噴射圧が一回目と同様の条件下で行う。一回目のショットピーニングを施す前に、スケール除去としてショットピーニングを施す。
【選択図】 図1
【解決手段】 動力伝達軸100の取付隣接部110a、110bは、表層の残留応力を−900MPa以下、表層から100μm下層の残留応力を−1000MPa以下に規定し、表面粗さを3.0μm以下に規定する。この動力伝達軸100の製造は、成形して焼入れ硬化処理を施した後、取付隣接部110a、110bにショットピーニングを少なくとも一回施す。一回目は、投射材の平均粒径が0.3mmもしくは0.5mm、投射材の表面硬度がHRC60以上、投射材の噴射圧が0.5MPa以上の条件下で行い、二回目は、投射材の平均粒径が0.05mm、投射材の表面硬度および噴射圧が一回目と同様の条件下で行う。一回目のショットピーニングを施す前に、スケール除去としてショットピーニングを施す。
【選択図】 図1
Description
本発明は、自動車のドライブシャフト等に使用される動力伝達軸およびその製造方法に関するものである。
動力伝達軸は、二つの部材を連結して相互間での動力伝達を可能にするものである。例えば、自動車のドライブシャフトに使用される動力伝達軸は、両端に等速自在継手が取り付けられて、二つの等速自在継手の間での動力伝達を可能にしている。
このような動力伝達軸を備えたドライブシャフトを図1に例示する。ドライブシャフト1は、動力伝達軸100と、その両端に取り付けられた等速自在継手2、52とで主要部が構成され、等速自在継手2、52には、それぞれ蛇腹状ブーツ10、60が装着されている。動力伝達軸100は、等速自在継手2、52を装着するために両端に設けられた取付部100b1、100b2と、取付部100b1、100b2から軸方向中央側へ延びる取付隣接部110a、110bと、その取付隣接部110a、110bよりも大径で、ブーツ10、60を取り付けるための溝を形成するブーツ取付溝部100e1、100e2と、ブーツ取付溝部100e1とブーツ取付溝部100e2を結ぶ中間部100fとで構成されている。また、取付隣接部110a、110bは、取付部100b1、100b2側(以下、取付部側とする)から軸方向中央側へ向けて縮径するテーパ形状の縮径部100a1、100a2と、その縮径部100a1、100a2から軸方向中央側へ向けて延びる軸部100c1、100c2と、その軸部100c1、100c2から軸方向中央側へ向けて拡径するテーパ形状の拡径部100d1、100d2で構成されている。取付部100b1、100b2の外周面にはスプライン100b1α、100b2αが形成されている。このスプライン100b1α、100b2αにより、取付部100b1、100b2を等速自在継手2、52の内側継手部材4、54にトルク伝達可能に連結する。なお、取付隣接部110a、110bは、等速自在継手2、52が作動角をとった際、等速自在継手2、52に装着されたブーツ10、60との接触を抑制するために、取付部100b1、100b2よりも小径となっている。
動力伝達軸100は、図1に示すようにドライブシャフトに使用されることから、その作動に伴う捩り疲労強度を向上させるために、取付部100b1、100b2或いは取付隣接部110a、110bの強度を向上させる必要がある。
この動力伝達軸100の強度を向上させる方法としては、例えば、取付部100b1、100b2のスプライン100b1α、100b2αの形状を調整して、取付部100b1、100b2に作用する剪断応力や引張応力を緩和する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
或いは、合金成分を添加した材料を用いて、成形した動力伝達軸に施す焼入れ硬化処理の硬化深さを規定すると共に、動力伝達軸にショットピーニングを施す方法がある(例えば、特許文献2参照)。
図1に示す動力伝達軸100の場合、取付部100b1、100b2は、特許文献1に記載のようにスプライン100b1α、100b2αの形状を変化させるほか、素材や熱処理などによっても強度の向上が可能である。このように、取付部100b1、100b2は、比較的容易に強度を向上させることができる。
しかし、取付隣接部110a、110bは、取付部100b1、100b2のようにスプラインを形成することがなく単純な形状であるため、取付部100b1、100b2のスプライン100b1α、100b2αのように形状を変化させて強度の向上を図るのは困難である。そのため、取付隣接部110a、110bは、強度を向上させる手段として、例えば軸部100c1、100c2或いは軸部100c1、100c2と縮径部100a1、100a2の直径を大きくする方法が考えられる。しかし、この場合、等速自在継手2、52が作動角をとった際、取付部100b1、100b2に装着された等速自在継手2、52のブーツ10、60との接触が起こりやすくなる。そのため、ブーツ10、60の摩耗が発生し易くなり、ブーツ10、60の寿命を低下させる可能性がある。なお、動力伝達軸100(取付隣接部110a、110bを含む)に施す焼入れ硬化処理の硬化深さを規定する特許文献2に記載の技術の場合、合金成分の添加のため、コスト面の上昇は不可避である。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、取付隣接部の強度を、その直径を大きくすることなく大幅に向上させることができる動力伝達軸およびその製造方法を提供するものである。
上記の課題を解決するための本発明に係る動力伝達軸の製造方法は、連結要素が装着される両端の取付部と、その取付部よりも小径で、前記取付部から軸方向中央側へ延びる取付隣接部とを有する動力伝達軸の製造方法であって、前記取付部および前記取付隣接部の成形後、表面処理により、前記取付隣接部の残留応力を、表層で−900MPa以下、表層から100μm下層で−1000MPa以下に規定することを特徴とする。ここで、残留応力のマイナスは、圧縮残留応力を意味し、その絶対値が大きいほど、圧縮残留応力が大きいことを示している。
本発明の場合、取付隣接部は、成形後の表面処理により、表層と、この表層から100μm下層の二層において残留応力を厳密に規定することになる。このようにすると、動力伝達軸の捩り疲労強度を大幅に向上させることができる。
上記の発明において、前記取付隣接部の表面粗さは、前記表面処理により、Raで3.0μm以下にするのが望ましい。この動力伝達軸をドライブシャフトに適用した場合、等速自在継手が大きな作動角をとって、取付隣接部が、取付部に装着された等速自在継手のブーツ(蛇腹状であればその谷部)に接触しても、ブーツは極めて摩耗しにくい。そのため、ブーツ内部に充填されたグリースなどの潤滑成分がブーツ外部へ漏出するのを確実に防止することができる。
前記表面処理としては、例えば、ショットピーニングとすることができる。この場合、取付隣接部の表層および表層から100μm下層の圧縮残留応力を向上させることができると共に、取付隣接部の表面粗さを小さくすることができる。なお、前記表面処理は、このショットピーニングに限られるものではない。
前記ショットピーニングは、二回施すのが望ましい。この場合、ショットピーニングが一回の場合よりも取付隣接部の圧縮残留応力を向上させることができると共に、取付隣接部の表面粗さを小さくして滑らかにすることができる。また、ショットピーニングを二回施す場合、二回目に使用する投射材の大きさは、一回目に使用する投射材の大きさよりも小さくするのが望ましい。これにより、取付隣接部の表層部の圧縮残留応力を大幅に向上させる(大きくする)ことができると共に、一回目のショットピーニングで残った凹凸を滑らかにして、取付隣接部の表面粗さをより小さく整えることができる。
これまでに述べたショットピーニングにおいて、使用する投射材は、スチールとセラミックとガラスのうち少なくともいずれかで構成するのが望ましい。この理由は、投射材の材質によって、圧縮残留応力の向上と表面粗さの改善の効果が異なるため、動力伝達部品に求める性能により、上記の素材のいずれかを用いることができるためである。
取付隣接部にショットピーニングを施すこれまでに述べた発明において、一回目のショットピーニングの前にスケール除去(異物除去)を行うのが望ましい。この場合、取付隣接部は、スケール除去を行わない場合よりも、表層の圧縮残留応力を大幅に向上させることができると共に、表面粗さを小さくすることができる。
前記スケール除去としては、ショットピーニングを採用することができる。このショットピーニングに使用する投射材の大きさは、一回目のショットピーニングで使用する投射材の大きさよりも小さくするのが望ましい。これは、一回目のショットピーニングで使用する投射材の大きさよりも大きいものを用いてスケール除去を行なうと、表面粗さを大きくしてしまう可能性があるためである。
上記の課題を解決するための本発明に係る動力伝達軸は、連結要素が装着される両端の取付部と、その取付部よりも小径で、前記取付部から軸方向中央側へ延びる取付隣接部とを有する動力伝達軸であって、前記取付隣接部の残留応力は、表層で−900MPa以下、表層から100μm下層で−1000MPa以下に規定されていることを特徴とする。この場合、動力伝達軸の捩れ疲労強度を大幅に向上させることができる。
上記動力伝達軸において、前記取付隣接部の表面粗さは、Raで3.0μm以下にするのが望ましい。この場合、動力伝達軸をドライブシャフトに適用した場合、前記取付隣接部が、その取付部に装着された等速自在継手のブーツに接触しても、ブーツが極めて摩耗しにくい。そのため、ブーツ内部の潤滑成分が漏出するのを確実に防止することができる。
本発明に係る動力伝達軸およびその製造方法は、動力伝達軸の取付隣接部の残留応力を、表層で−900MPa以下、表層から100μm下層で−1000MPa以下に厳密に規定するため、取付隣接部の直径を大きくすることなく動力伝達軸の捩り疲労強度を大幅に向上させることができる。なお、上記のように取付隣接部の残留応力を規定するためにショットピーニングを採用した場合、動力伝達軸の表面粗さを小さくできる。そのため、本発明にかかる動力伝達軸をドライブシャフトに適用した場合、等速自在継手が大きな作動角をとって、その取付隣接部がドライブシャフトの等速自在継手(連結要素)に装着されたブーツに接触しても、ブーツが摩耗しにくい。この結果、長寿命で信頼性の高いドライブシャフトを提供できる。
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明において、基本的な形状、構造等は、従来例と同様であるため、便宜上、従来例の説明で参照した添付の図面(図1)および図2を本発明の実施形態として説明する。
図1に本発明の動力伝達軸を備えたドライブシャフト1を示す。このドライブシャフト1は、動力伝達軸100の一端に、固定型等速自在継手の一つであるバーフィールド型等速自在継手2(BJ:連結要素)、他端に摺動型等速自在継手の一つであるトリポード型等速自在継手52(TJ:連結要素)が取り付けられている。
まず、動力伝達軸100について、この正面図である図2も参照して説明する。この動力伝達軸100は、等速自在継手2、52を装着するために両端に設けられた取付部100b1、100b2と、この取付部100b1、100b2よりも小径で、取付部100b1、100b2から軸方向中央側へ延びる取付隣接部110a、110bと、この取付隣接部110a、110bよりも大径で、ブーツ10、60を取り付けるための溝を形成するブーツ取付溝部(図1の100e1、100e2、図2では省略)と、ブーツ取付溝部100e1とブーツ取付溝部100e2を連結する中間部(図1の100f、図2では省略)で構成されている。取付隣接部110a、110bは、取付部100b1、100b2側の部位、つまり、取付部100b1、100b2から軸方向中央側に向けて縮径するテーパ形状の縮径部100a1、100a2と、その縮径部100a1、100a2から軸方向中央側に向かって延びる軸部100c1、100c2と、軸部100c1、100c2から軸方向中央側へ向けて拡径するテーパ形状の拡径部100d1、100d2とで構成されている。また、取付部100b1、100b2の外周面には、スプライン100b1α、100b2αが形成され、一方の取付部100b1(図面左側)にはバーフィールド型等速自在継手2(図1参照)がトルク伝達可能に取り付けられ、取付部100b2(図面右側)にはトリポード型等速自在継手(図1参照)がトルク伝達可能に取り付けられている。
図1に示すバーフィールド型等速自在継手2(図面左側)は、一端に開口部を有する外輪3(外側継手部材)と、その内側に配された内輪4(内側継手部材)と、外輪3と内輪4との間に介在された保持器5と、保持器5のポケット5aで保持されたボール6とで主要部が構成されている。外輪3の内周面には、複数のトラック溝3aが周方向等間隔に形成されており、内輪4の外周面には、外輪3のトラック溝3aと対向する複数のトラック溝4bが周方向等間隔に形成されている。
内輪4は、スプライン(符号省略)が形成された軸孔4aを有する。この軸孔4aに動力伝達軸100の取付部100b1がスプライン嵌合されている。
また、外輪3の開口部は、蛇腹状ブーツ10で覆われており、このブーツ10は、大径部10aと、小径部10bと、大径部10aと小径部10bとを連結する蛇腹部10cとで構成されている。この蛇腹部10cは、山部10c1と谷部10c2とで構成されている。大径部10aはブーツバンド11の締め付けにより外輪2の開口端部に固定され、小径部10bはブーツバンド12の締め付けにより動力伝達軸100に固定されている。このため、動力伝達軸100の取付隣接部110a、110bは、ブーツ10で覆われた状態となっている。
次に、図1に示すトリポード型等速自在継手52(図面右側)について説明する。この等速自在継手52は、ダブルローラタイプのものであり、外側継手部材である外輪53と、径方向に突設された3本の脚軸58を有する内側継手部材としてのトリポード部材54と、ローラユニット56とで主要部が構成されている。
外輪53は、一端に開口部を有する有底円筒状をなし、内周面に3本の直線状のトラック溝53aが周方向等間隔に形成されている。この外輪53の内部には、3本の脚軸58を有するトリポード部材54とローラユニット56とが収容されている。トリポード部材54にはスプライン(符号省略)が形成された軸孔54aを有し、この軸孔54aに動力伝達軸100の取付部100b2がスプライン嵌合している。
トリポード部材54に突設された3本の脚軸58には、ローラユニット56が回転自在に支持されている。
このローラユニット56は、外輪53のトラック溝53aに収容され、このトラック溝53aのローラ案内面59に案内される。このため、ローラユニット56は、軸方向移動が可能となっている。また、ローラユニット56は、アウタローラ56aと、このアウタローラ56aの内周面に配置され、脚軸58に外嵌されたインナローラ56bと、アウタローラ56aとインナローラ56bとの間に介在されたニードルころ56cとで主要部が構成されている。
外輪53の開口部は、蛇腹状ブーツ60で覆われている。このブーツ60は、大径部60aと、小径部60bと、大径部60aと小径部60bとを連結する蛇腹部60cとで構成されている。この蛇腹部60cは、山部60c1と谷部60c2とで構成されている。大径部60aはブーツバンド61の締め付けにより外輪53の開口端部に固定され、小径部60bはブーツバンド62の締め付けにより動力伝達軸100に固定されている。このため、取付隣接部110bは、ブーツ60で覆われた状態となっている。
以下に、本発明の特徴となる点について述べる。
動力伝達軸100は、成形して焼入れ硬化処理を施した後、その取付隣接部110a、110b(縮径部100a1、100a2、軸部100c1、100c2、拡径部100d1、100d2)に表面処理としてのショットピーニングを施すことにより製造される。このショットピーニングにより、取付隣接部110a、110bの残留応力を、表層で−900Mpa以下、表層から100μm下層で−1000MPa以下に規定する。また、取付隣接部110a、110bの表面粗さをRa(算術平均粗さ)で3.0μm以下に規定する。
このように、本実施形態では、取付隣接部110a、110bは、表層と、その表層から100μm下層で残留応力を厳密に規定するため、取付隣接部110a、110bは、その直径を大きくすることなく捩り疲労強度を大幅に向上させることができる。なお、取付隣接部110a、110bの残留応力が表層で−900MPaよりも大きい場合や、表層から100μm下層で−1000MPaよりも大きい場合、取付隣接部110a、110bの捩り疲労強度を十分に向上させることができない。また、取付隣接部110a、110bの表面粗さがRaで3.0μmよりも大きいと、取付隣接部110a、110bの表面粗さのために、この部分に等速自在継手2、52に装着したブーツ10、60が接触した際、ブーツ10、60の摩耗を確実に抑えることができない場合がある。
また、ショットピーニングにより、取付隣接部110a、110bの表面粗さを3.0μm以下に規定するため、等速自在継手2、52が作動角をとった際に、取付隣接部110a、110bが、ブーツ10、60の蛇腹部10c、60cにおける谷部10c2、60c2に接触しても、谷部10c2、60c2は極めて摩耗しにくい。その結果、ブーツ10、60の内部に充填したグリースなどの潤滑成分が漏出するのを防止して、信頼性の高いドライブシャフト1を提供することができる。
本実施形態において、ショットピーニングは二回施し、一回目は、投射材の平均粒径が0.3mmもしくは0.5mm、投射材の表面硬度がHRC60以上、投射材の噴射圧が0.5MPa以上の条件下で行う。また、二回目は、投射材の平均粒径が0.05mm、投射材の表面硬度および噴射圧が一回目と同様である条件下で行う。
このショットピーニングにより、取付隣接部110a、110bの残留応力を既に述べたように規定するのが容易となる。また、ショットピーニングを二回施す場合、ショットピーニングが一回の場合よりも、取付隣接部110a、110bの表層における圧縮残留応力を大幅に向上(増大)させることができる。なお、ショットピーニングにおいて、二回目に使用する投射材の大きさは、一回目に使用する投射材の大きさよりも小さくする。これにより、取付隣接部110a、110bの表層部の圧縮残留応力を大幅に向上させることができると共に、一回目のショットピーニングで残った凹凸を滑らかにすることで、取付隣接部110a、110bの表面粗さをより小さく整えることができる。
なお、一回目と二回目のショットピーニングに使用する投射材の素材は、スチールとセラミックとガラスのうち少なくともいずれかとする。この理由は、投射材の材質によって、圧縮残留応力の向上と表面粗さの改善の効果が異なるため、動力伝達部品に求める性能により、上記の素材のいずれかを用いることができるためである。
また、一回目のショットピーニングの前で、スケール除去として、動力伝達軸100にショットピーニングを施す。このスケール除去により、取付隣接部110a、110bの表層の圧縮残留応力を大幅に増大させることができ、また、表面粗さを小さくすることができる。
このように、スケール除去としてのショットピーニングは、例えば、投射材の平均粒径が0.08mm、投射材の表面硬度がHRC60以上、投射材の噴射圧が0.5MPa以上の条件下で行うと、容易にスケール除去ができる。なお、本実施形態では、スケール除去として行うショットピーニングに使用する投射材の大きさは、一回目のショットピーニングで使用する投射材の大きさよりも小さくしている。この理由は、一回目のショットピーニングで使用する投射材の大きさよりも大きいものを用いてスケール除去を行なうと、表面粗さを大きくしてしまう可能性があるためである。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限られることはなく、適宜に変更が可能である。
例えば、本実施形態では、取付隣接部110a、110bにショットピーニングを施したが、取付隣接部110a、110bの縮径部100a1、100a2にブーツ10、60が接触しない場合などは、軸部100c1、100c2のみにショットピーニングを施して、表層および表層から100μm下層の残留応力を規定するようにしてもよい。或いは、取付隣接部110a、110bと取付部100b1、100b2の両方にショットピーニングを施して、本発明のように表層および表層から100μm下層の残留応力を規定するようにしてもよい。
以下に、本発明の実施例について説明する。
まず、本発明品である動力伝達軸100を8つ準備し、これらの比較品である動力伝達軸を1つ用意する。本発明品は、軸素形材に焼入れ硬化処理を施した後、図3に表で示した条件で取付隣接部110a、110b(図2参照)にショットピーニングを施す。
本発明品は、ショットピーニングが一回のもの(C、D、G、H)と二回のもの(A、B、E、F)、一回目のショットピーニング(ショットピーニングが一回だけの場合を含む)の平均粒径が0.3μmのもの(B、D、F、H)と0.5μmのもの(A、C、E、G)、一回目のショットピーニング(ショットピーニングが一回だけの場合を含む)の前にスケール除去としてショットピーニングを行うもの(A〜D)と行わないもの(E〜H)とに大別する。二回ショットピーニングを行うもの(A、B、E、F)の二回目のショット粒径は全て0.05μmとし、比較品は、ショットピーニングを行わず、スケール除去も行わない。なお、各製品のショットピーニングにおいて、ショット粒径以外の条件は、投射材の表面硬度がHRC60以上、投射材の噴射圧が0.5MPaとする。また、一回目と二回目のショットピーニングに使用する投射材はスチール製とし、スケール除去としてのショットピーニングに使用する投射材は、アルミナ製とジルコニア製のものを50:50の割合で混ぜたものとする。
このようにして製造した動力伝達軸の取付隣接部110a、110bにおいて、表層と、表層から100μm下層の残留応力を測定した。この際、表層から100μm下層の残留応力は、電解研磨により表面から100μm分除去して測定する。上記の残留応力の測定結果を図4に表で示した。この測定結果では、計測値をマイナス値で示しているが、これは圧縮残留応力であることを示し、この絶対値が大きいほど圧縮残留応力が大きく、疲労強度の向上効果があることを意味する。この図4の表に示すように、本発明品(A〜H)は、いずれも表層で−900MPa以下、表層から100μm下層で−1000MPa以下であった。
次に、応力振幅0.68GPa、周波数3Hzの条件下で、本発明品(A〜H)と比較品の両振り捩り疲労試験を行った。この試験結果を図5にグラフで示した。この結果、本発明品(A〜H)は、いずれも比較品の10倍以上の捩り疲労強度が得られた。
さらに、本発明品(A〜H)と比較品に等速自在継手(ブーツを含む)を取り付けて、ブーツ摩耗耐久試験を行った。この試験は、本発明品(動力伝達軸:A〜H)又は比較品(動力伝達軸)を組み込んだドライブシャフト1(図1参照)において、負荷をかけずに、ブーツ10、60と動力伝達軸100の取付隣接部110a、110bが接触するような大きな作動角(40deg以下)をとりながら、ドライブシャフトを回転させることにより行う。その結果を図6に表で示した。この結果、比較品でブーツに充填したグリースに漏れが生じる時間まで試験を行っても、本発明品(A〜H)は、いずれも比較品より取付隣接部110a、110bの表面粗さが小さいことで、ブーツの摩耗量が小さくなり、グリースの漏れが生じることはなかった。
以上の結果、本発明品は比較品よりも、取付隣接部110a、110bにおいて、表層と、表層から100μm下層で、圧縮残留応力を大幅に向上させることができ、その結果、動力伝達軸100の両振り捩り疲労強度が大幅に向上することが確認できた。また、ショットピーニングにより、取付隣接部110a、110bの表面粗さを小さく抑えて、等速自在継手2、52が大きく作動角をとった際に、取付隣接部110a、110bがブーツ10、60と接触することにより生じるブーツ10、60の摩耗を抑制できることが確認できた。
なお、本実施例の結果をさらに検討すると、スケール除去を行う場合、スケール除去を行わない場合よりも取付隣接部110a、110bにおける表層の圧縮残留応力を向上できることが判明した(図3と図4のAとE、BとF、CとG、DとH参照)。また、ショットピーニングは、二回施す場合の方が一回の場合よりも取付隣接部110a、110bにおける表層の圧縮残留応力が大幅に向上することが判明した(図3と図4のAとC、BとD、EとG、FとH)。さらに、一回目のショットピーニングにおける投射材の平均粒径を0.5mmとした場合、平均粒径を0.3mmとした場合よりも取付隣接部110a、110bの表面粗さを大幅に小さくでき(Raで3.0μm以下:図3と図6のA、C、E、GとB、D、F、H参照)、その結果、ブーツの摩耗量が極めてゼロに近くなることが判明した。
100 動力伝達軸
100a1、100a2 縮径部(取付隣接部)
100b1、100b2 取付部
100c1、100c2 軸部(取付隣接部)
100d1、100d2 拡径部(取付隣接部)
110a、110b 取付隣接部
100a1、100a2 縮径部(取付隣接部)
100b1、100b2 取付部
100c1、100c2 軸部(取付隣接部)
100d1、100d2 拡径部(取付隣接部)
110a、110b 取付隣接部
Claims (11)
- 連結要素が装着される両端の取付部と、その取付部よりも小径で、前記取付部から軸方向中央側へ延びる取付隣接部とを有する動力伝達軸の製造方法であって、
前記取付部および前記取付隣接部の成形後、表面処理により、前記取付隣接部の残留応力を、表層で−900MPa以下、表層から100μm下層で−1000MPa以下に規定することを特徴とする動力伝達軸の製造方法。 - 前記表面処理により、前記取付隣接部の表面粗さを、Raで3.0μm以下に規定する請求項1に記載の動力伝達軸の製造方法。
- 前記表面処理は、ショットピーニングである請求項1又は2に記載の動力伝達軸の製造方法。
- 前記ショットピーニングは、二回施す請求項3に記載の動力伝達軸の製造方法。
- 前記ショットピーニングにおいて、二回目に使用する投射材の大きさを、一回目に使用する投射材の大きさよりも小さくする請求項4に記載の動力伝達軸の製造方法。
- 前記ショットピーニングに使用する投射材は、スチールとセラミックとガラスのうち少なくともいずれかで構成されている請求項3〜5のいずれか一項に記載の動力伝達軸の製造方法。
- 一回目のショットピーニングの前にスケール除去を行う請求項3〜6のいずれか一項に記載の動力伝達軸の製造方法。
- 前記スケール除去は、ショットピーニングである請求項7に記載の動力伝達軸の製造方法。
- 前記ショットピーニングで使用する投射材の大きさは、一回目のショットピーニングで使用する投射材の大きさよりも小さくする請求項8に記載の動力伝達軸の製造方法。
- 連結要素が装着される両端の取付部と、その取付部よりも小径で、前記取付部から軸方向中央側へ延びる取付隣接部とを有する動力伝達軸であって、
前記取付隣接部の残留応力は、表層で−900MPa以下、表層から100μm下層で−1000MPa以下に規定されていることを特徴とする動力伝達軸。 - 前記取付隣接部の表面粗さは、Raで3.0μm以下に規定されている請求項10に記載の動力伝達軸。
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---|---|---|---|
JP2009042890A JP2010196817A (ja) | 2009-02-25 | 2009-02-25 | 動力伝達軸およびその製造方法 |
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Cited By (2)
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---|---|---|---|---|
JP2011173236A (ja) * | 2010-02-09 | 2011-09-08 | General Electric Co <Ge> | 部品の表面仕上りを改善するピーニング処理 |
CN105370742A (zh) * | 2014-08-08 | 2016-03-02 | 本田技研工业株式会社 | 等速接头及其制造方法 |
-
2009
- 2009-02-25 JP JP2009042890A patent/JP2010196817A/ja active Pending
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