JP2010183858A - 遺伝子組み換え微生物及びこれを用いた3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法 - Google Patents

遺伝子組み換え微生物及びこれを用いた3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法 Download PDF

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忠慶 野村
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Abstract

【課題】生物由来資源、特にバイオマス由来の糖及び/又は油脂から得られたグリセリンを原料として、補酵素型B12を外部より供給する必要のない、3−ヒドロキシプロピオン酸を生産する遺伝子組み換え微生物及びこれを用いた3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の遺伝子組換え微生物は補酵素B12合成能を有する微生物に、外来のグリセリンデヒドラターゼをコードする遺伝子及びジオールデヒドラターゼをコードする遺伝子のうちの少なくとも1種と、外来のヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子とを導入したものである。
【選択図】なし

Description

本発明は、生物由来資源、特にバイオマス由来の糖及び/又は油脂から得られたグリセリンを原料として、発酵生産により3−ヒドロキシプロピオン酸を製造するための遺伝子組み換え微生物及びこれを用いた3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法に関する。
地球温暖化防止及び環境保護の観点から、炭素源としてリサイクル可能な生物由来資源を従来の化石原料の代替として用いることが注目されている。例えば、汎用化成品、プラスチック及び燃料生産の原料として、トウモロコシや小麦等の澱粉系バイオマス、サトウキビなどの糖質系バイオマス、及び菜種の絞りかすや稲わら等のセルロース系バイオマス等のバイオマス資源を原料として利用する方法の開発が試みられている。また、油脂のエステル交換によって得られた脂肪酸メチルエステル、いわゆるバイオディーゼル燃料(BDF)は、既に軽油に一部混合するなどして実用化されており、BDFの生成工程で副生されるグリセリンの有効利用についても開発が進められている。
3−ヒドロキシプロピオン酸及びそのエステルは、脂肪族ポリエステルの原料として有用な化合物であり、また、これから合成されるポリエステルは生分解性のやさしいポリエステルとして注目されている。3−ヒドロキシプロピオン酸は、通常、アクリル酸に対する水の付加により、又はエチレンクロロヒドリンとシアン化ナトリウムとの反応により製造される。アクリル酸を水和する反応は平衡反応であるため、反応率が制御されるという問題がある。また、エチレンクロロヒドリンの場合は、毒性の強い物質の使用が必要であり、さらに加水分解工程を追加しなくてはならない。この場合、塩化ナトリウム及びアンモニウム塩が大量に生じるという問題もある。
3−ヒドロキシプロピオン酸は、脱水することによりアクリル酸を製造することができる。アクリル酸は、主にアクリル酸エステル製造の中間体として使用されており、アクリル酸エステルはコーティング剤、仕上げ剤、ペイント、接着剤の製造に使用され、吸着剤や洗浄剤用添加剤の製造にも使用されている。アクリル酸の代替製造法としては、アクリロニトリルの硫酸による加水分解が知られている。しかし、この方法では、硫酸アンモニウム廃棄物が大量に生成し、それに伴うコストのために商業的には実施されていない。
3−ヒドロキシプロピオン酸を酵素反応又は発酵により生産する方法が報告されている。特許文献1は、他の細菌由来のグリセリンデヒドラターゼ、グリセリンデヒドラターゼ再活性化因子及びヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼを大腸菌に導入し、酵素反応によりグリセリンから3−ヒドロキシプロピオン酸を製造する方法を開示している。グリセリンデヒドラターゼ及びジオールデヒドラターゼは、補酵素型B12(アデノシルコバラミンとも称される)依存型であることから、補酵素型B12を酵素反応系に供給する必要がある。加えて、グリセリン脱水反応の際に不活性化したグリセロールデヒドラターゼの再活性化および非補酵素型B12の補酵素型B12への変換にはATPが必須であるが、特許文献1記載の酵素反応による方法では、酵素反応液にATPを供給しなければ効率的に3−ヒドロキシプロピオン酸を生成することができない。
特許文献2は、ジオールデヒドラターゼ及び/又はグリセリンデヒドラターゼ、並びにその再活性化因子を含む菌体及び/又は菌体処理物を用いて、グリセリンを脱水して3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドを得る工程のみを酵素反応によって行い、続いて3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの酸化を化学的手法により行い3−ヒドロキシプロピオン酸を得る方法である。酵素反応によってグリセリンより3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドを生成する際には、補酵素型B12を外部より酵素反応系に供給してグリセリンの脱水反応を行っている。加えて、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの酸化反応は別の工程となることから、酵素反応液中には3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドが蓄積することとなり、菌体が死滅することや酵素が失活することが問題となる。
特許文献3は、Klebsiella pneumoniae由来グリセリンデヒドラターゼ アルファ サブユニット及び大腸菌由来アルデヒドデヒドロゲナーゼを導入した遺伝子組換え大腸菌を用いた、発酵によるグリセリンからの3−ヒドロキシプロピオン酸生成に関して記載している。遺伝子組換えの宿主として利用している大腸菌は補酵素型B12生合成能を有さないため、補酵素型B12を外部より供給して3−ヒドロキシプロピオン酸発酵を行っている。またグリセリンデヒドラターゼ アルファ サブユニットのみを導入しているが、活性型のグリセリンデヒドラターゼはアルファ サブユニット、ベータ サブユニット、ガンマ サブユニットのα2β2γ2構造(ホモ3量体構造)を有していることが知られている。加えて、グリセリンの脱水反応を継続させるには脱水反応時に不活性化したグリセリンデヒドラターゼを再活性化する役割を担うグリセリンデヒドラターゼ再活性化因子が必須であるこもと既知である(非特許文献1)。したがって、グリセリンデヒドラターゼ アルファ サブユニットのみを導入してもグリセリンの脱水反応が継続して進行しないことは容易に推測される。非特許文献2には、グリセリンデヒドラターゼ ベータ サブユニットが完全な遺伝子として存在していない場合、グリセリン脱水酵素活性を有さないことが記載されている。特許文献3記載の実施例に記載されている、遺伝子組換え大腸菌を用いた補酵素型B12を添加した発酵によって生成された3−ヒドロキシプロピオン酸生成量は、最大でも0.017wt%と極微量であることからも、特許文献3記載の方法では効率的に3−ヒドロキシプロピオン酸が生成できないことがわかる。
以上のように、補酵素型B12及びATPを細胞内で効率的に合成し、グリセリンの脱水反応に安定して供給すること、及びグリセリンの脱水反応により生成された3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの3−ヒドロキシプロピオン酸への変換を連続した反応として進行させることは3−ヒドロキシプロピオン酸の収率、生成速度の向上及び製造コストの低減のために望まれる技術であった。
特開2007−82476号公報 特開2005−102533号公報 米国特許第6852517号明細書
Toraya, T et al, J. Biol. Chem., 274(6), 3372-3377(1999) Sonke Andres et al, J. Mol. Microbiol. Biotechnol., 8, 150-168 (2004)
グリセリンデヒドラターゼ及びジオールデヒドラターゼは、補酵素B12依存型であり、グリセリンを脱水して3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド及び水へ変換する反応には補酵素B12の存在が必須である。したがって、3−ヒドロキシプロピオン酸を生産するには、反応液又は発酵液中の補酵素B12濃度を維持するために、継続的に補酵素型B12又は非補酵素型B12を外部より添加する必要があるが、補酵素型B12又は非補酵素型B12は高価であり、コストがかかる等の問題があった。また、グリセリンの脱水反応に伴ってグリセリンデヒドラターゼは不活性となることが知られており、不活性型となったグリセリンデヒドラターゼを再活性化するにはグリセリンデヒドラターゼ再活性化因子の他にATPが必要となる。しかしながら、特許文献1に記載の、グリセリンの脱水反応及び3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの酸化反応を微生物が生育できる条件下で行なわない場合は、ATPを継続して生成することができず、酵素反応液中のATPは枯渇してしまい、効率的に3−ヒドロキシプロピオン酸を生成することは困難である。したがって、効率的に3−ヒドロキシプロピオン酸を生成するには、補酵素型B12に加えてATPも外部より供給する必要があった。
そこで本発明は、生物由来資源、特にバイオマス由来の糖及び/又は油脂から得られたグリセリンを原料として、補酵素型B12を外部より供給する必要がなく、かつATPを効率的に獲得可能な、3−ヒドロキシプロピオン酸を生産する遺伝子組み換え微生物及びこれを用いた3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法は、補酵素B12合成能を有する大腸菌近縁種を宿主とすることにより、反応液又は発酵液に補酵素B12を添加せずに、3−ヒドロキシプロピオン酸製造を可能とすることに特徴を有する。
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、例えば、大腸菌近縁種で、補酵素B12を合成する能力を有するEscherichia blattaeを遺伝子組換えの宿主として用いて、外来のグリセリンデヒドラターゼをコードする遺伝子及びジオールデヒドラターゼをコードする遺伝子のうちの少なくとも1種と、外来のヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子とを導入することにより、反応液に補酵素B12を添加せずに、糖及び/又は糖から3−ヒドロキシプロピオン酸を製造可能な遺伝子組み換え微生物が得られることを見出した。
即ち、本願発明は、
(1)補酵素B12合成能を有する微生物に、外来のグリセリンデヒドラターゼをコードする遺伝子及びジオールデヒドラターゼをコードする遺伝子のうちの少なくとも1種と、外来のヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子とを導入した遺伝子組換え微生物である。
(2)糖をグリセリンに変換する酵素をコードする遺伝子をさらに導入した(1)記載の遺伝子組換え微生物である。
(3)宿主である上記微生物が、補酵素B12合成能を有する大腸菌近縁種であるEcherichia blattaeである(1)又は(2)に記載の遺伝子組換え微生物である。
(4)(1)〜(3)のいずれか一つに記載の遺伝子組換え微生物を用いて、バイオマス資源由来の糖及びグリセリンのうち少なくとも1種を発酵させることによる3−ヒドロキシプロピオン酸製造方法である。
(5)発酵を好気的条件下で行なうことを特徴とする(4)記載の3―ヒドロキシプロピオン酸の製造方法である。
(6)外来のホスホトランスアシラーゼをコードする遺伝子と、外来のプロピオン酸キナーゼをコードする遺伝子とを、さらに導入した(1)〜(3)のいずれか一つに記載の遺伝子組換え微生物である。
(7)(6)に記載の遺伝子組換え微生物を用いて、バイオマス資源由来の糖及びグリセリンのうち少なくとも1種を発酵させることによる3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法である。
(8)発酵を嫌気的条件下で行なうことを特徴とする(7)に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法である。
(9)補酵素B12合成能を有する微生物に、外来のグリセリンデヒドラターゼをコードする遺伝子及びジオールデヒドラターゼをコードする遺伝子のうちの少なくとも1種とを導入した遺伝子組み換え微生物と、補酵素B12合成能を有する微生物に、外来のヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子とを導入した遺伝子組換え微生物と、を用いて、バイオマス資源由来の糖及びグリセリンのうち少なくとも1種を発酵させることによる3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法である。
本発明に従えば、反応液又は培養液に外部より補酵素型B12及び/又は非補酵素型B12を供給せずに、糖及び/又はグリセリンから効率的に3−ヒドロキシプロピオン酸を製造することができる。これにより、外部から補酵素型B12及び/又は非補酵素型B12を供給する場合と比較して、3−ヒドロキシプロピオン酸を安価に製造することが可能となる。また、補酵素型B12及び/又は非補酵素型B12を外部より供給した場合、細胞内への取り込みが必要となるが、補酵素型B12及び/又は非補酵素型B12は分子量が大きく、補酵素型B12及び/又は非補酵素型B12を細胞内に取り込むには特殊な外膜輸送系が必要となる。加えて、ペリプラズム内への輸送にはカルシウムイオンとエネルギーも必要となり、細胞外に存在する補酵素型B12及び/又は非補酵素型B12を細胞内へ効率的に輸送するのは困難である。このことから、補酵素型B12を宿主内で生合成することで、補酵素型B12及び/又は非補酵素型B12を細胞外から細胞内に取り込む必要がなくなり、補酵素型B12及び/又は非補酵素型B12を外部より添加する場合と比較して、細胞内で補酵素型B12を生合成した方が効率的にグリセリン脱水反応に補酵素型B12を供給することでき、3−ヒドロキシプロピオン酸を効率よく製造可能となる。
さらに、本発明において、Escherichia blattaeを宿主細胞として利用すれば、当該宿主細胞は通性嫌気性細菌であることから、好気的条件において発酵により3−ヒドロキシプロピオン酸製造を行なうことで、グリセリン脱水反応により不活性化したグリセリンデヒドラターゼを活性型グリセリンデヒドラターゼに再活性化する際に必要なATPを、グルコースやグリセリンなどの炭素源からだけでなく、3−ヒドロキシプロピオン酸生成の際に副生する還元力を呼吸鎖で再生することにより効率的にATPを獲得することができ、その結果、3−ヒドロキシプロピオン酸収率を向上させることが可能となる。なお、ATPは、グリセリン脱水反応により生成される非補酵素型B12を補酵素型B12に変換する際にも必要となる。さらに、好気条件下で3−ヒドロキシプロピオン酸を製造することで、副生する有機酸の生成を抑制することができることから、好気条件で3−ヒドロキシプロピオン酸を製造することは、3−ヒドロキシプロピオン酸の発酵液からの精製工程において有利となる。
E. blattaeの他にもKlebsiella属細菌やSalmonella属細菌においても補酵素型B12が生合成されることが知られているが、E. blattaeは、大腸菌で利用されている遺伝子破壊等の組換え操作に関する技術が利用できる可能性があり、有利である。すなわち、遺伝子工学分野における知見・技術蓄積が多い大腸菌と近縁種であるE. blattaeにおいては、大腸菌で一般的に利用されているlacプロモーター、tacプロモーター等を利用した遺伝子発現系、プラスミド等を用いた遺伝子導入系、トランスポゾンや相同組換えを利用した染色体への遺伝子導入系、リコンビナーゼ等を利用した遺伝子破壊系、レバンスクラーゼ等のネガティブマーカーを利用した染色体からの目的遺伝子の抜き出し等の技術が容易に利用できる可能性があり、他のB12生合成能を有する細菌と比較して目的生成物の収率向上や副生成物の生産抑制のための代謝改変が容易に遂行することができると考えられる。
また、補酵素B12合成能を有するEscherichia blattaeに、外来のグリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼ、並びにヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼ、ホスホトランスアシラーゼ及びプロピオン酸キナーゼを導入した遺伝子組換えEscherichia blattaeを利用することにより、嫌気的条件でグルコース等の糖からグリセリンを経由し3−ヒドロキシプロピオン酸を生成した場合、3−ヒドロキシプロピオン酸生産ルートにおける酸化・還元バランスがとれ、効率的に3−ヒドロキシプロピオン酸を生成することが可能となる。
好気的条件下における発酵生産ルート 嫌気的条件下における発酵生産ルート グルコースを炭素源とした嫌気的条件下における発酵生産ルート
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
本発明は、糖及び/又はグリセリンから3−ヒドロキシプロピオン酸を製造する方法である。
本発明において、遺伝子組換えの宿主として利用する微生物は、補酵素型B12生合成能を有する微生物が良い。例えば、Escherichia属、Lactobacillus属、Salmonella属、Klebsiella属、Propionibacterium属、Agrobacterium属、Anabaena属、Bacillus属、Bradyrhizobium属、Brucella属、Chlorobium属、Clostridium属、Corynebacterium属、Fusobacterium属、Geobacter属、Gloeobacter属、Leptospira属、Mycobacterium属、Mycobacterium属、Photorhabdus属、Porphyromonas属、Prochlorococcus属、Pseudomonas属、Ralstonia属、Rhodobacter属、Rhodopseudomonas属、Sinorhizobium属、Streptomyces属、Synechococcus属、Thermosynechococcus属、Treponema属、Archaeoglobus属、Halobacterium属、Mesorhizobium属、Methanobacterium属、Methanococcus属、Methanopyrus属、Methanosarcina属、Methanosarcina属、Pyrobaculum属、Sulfolobus属、Thermoplasma属に属する微生物を宿主として使用することができる。好ましくはEscherichia blattaeを宿主として使用することが良い。あるいは、補酵素型B12合成能を有さない微生物に補酵素型B12合成遺伝子群を組み換えにより導入した宿主を用いることもできる。
なお、本明細書中記載の補酵素型B12は、生体内で補酵素として機能するアデノシルコバラミンまたはメチルコバラミンを表し、非補酵素型B12は、アクアコバラミン、シアノコバラミンまたはヒドロキソコバラミンを表す。
さらにグリセリン資化に関与する遺伝子であるグリセリンデヒドロゲナーゼ、グリセリンキナーゼ、ジヒドロキシアセトンキナーゼ、グリセリン3−リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素遺伝子のいずれか1つ、もしくはすべてを破壊した遺伝子破壊微生物を利用することもできる。これによりグリセリンの他の代謝における消費を低減することができ3−ヒドロキシプロピオン酸収率を向上させることができる。
また、グリセリン資化関連遺伝子の破壊に加えて、乳酸、酢酸、酪酸、エタノール等の不要な代謝産物の生成に関与する遺伝子を破壊することで、3−ヒドロキシプロピオン酸の収率、生成速度を亢進させることも可能である。
発酵に用いられるバイオマス由来のグリセリンは、動植物の油脂である脂肪酸のトリグリセリドをメチルアルコール等のアルコールでエステル交換され、エステル相とグリセリン相の分離することにより得られる。不純物として脂肪酸やグリセリド類を含む場合、蒸留により精製されるが、本発明においては発酵に影響しない程度であれば不純物を含んでいてもよい。
発酵に用いられる糖は、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース等の六炭糖類、キシロース等の五炭糖類、デンプンの加水分解等により得られた糖、又はセルロースを糖化して得られた糖を用いることができる。
本発明の反応は、糖をグリセリンに変換する工程を有してもよい。糖をグリセリンに変換する工程は、他の細菌でグリセリン発酵に関与することが報告されている公知の遺伝子群を微生物に導入することで可能となる。他の細菌でグリセリン発酵に関与すると報告されている遺伝子としては、酵母由来のグリセリン3−リン酸デヒドロゲナーゼ及びグリセリン 3−ホスファターゼ、又はAspergillus由来ホスファターゼ及びグリセリンデヒドロゲナーゼ等がある。酵母由来のグリセリン3−リン酸デヒドロゲナーゼ及びグリセリン 3−ホスファターゼを導入した場合、糖代謝の中間産物として生成されたジヒドロキシアセトンリン酸は、グリセリン3−リン酸デヒドロゲナーゼの作用によってグリセリン3−リン酸に転換され、グリセリン3−リン酸は、グリセリン3−ホスファターゼの作用によってグリセリンに転換される。また、Aspergillus由来ホスファターゼ及びグリセリンデヒドロゲナーゼを導入した場合は、糖代謝の中間産物として生成されたグリセルアルデヒド 3−リン酸はホスファターゼの作用によってグリセルアルデヒドに転換され、グリセルアルデヒドはグリセリンデヒドロゲナーゼによってグリセリンに転換される。
本発明の反応は、グリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼによりグリセリンを脱水して3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド及び水へ変換する反応、並びにヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼにより3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドを脱水素して3−ヒドロキシプロピオン酸を生成する反応を含む。グリセリンデヒドラターゼをコードする遺伝子(以下、酵素をコードする遺伝子を、酵素名と遺伝子とを単につなげて表記することもある。例えば、グリセリンデヒドラターゼをコードする遺伝子を「グリセリンデヒドラターゼ遺伝子」と表記することもある。)及びジオールデヒドラターゼ遺伝子と、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子とは、同一の微生物に導入してもよいし、別々の微生物に導入してもよいが、好ましくは、同一の微生物に導入する。より好ましくは補酵素型B12生合成能を有する微生物に導入する。グリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼによる反応と、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼによる反応とを同一の微生物内で行なうことにより、中間体である3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの蓄積による微生物の損傷を防止することができる。
グリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼは、いずれも、グリセリンを脱水して3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド及び水へ変換するという反応を触媒することから、本発明において、グリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼによる反応は、グリセリンデヒドラターゼのみによる反応、ジオールデヒドラターゼのみによる反応、並びにグリセリンデヒドラターゼ及びジオールデヒドラターゼの両方による反応のいずれも包含する。
グリセリンデヒドラターゼ及びジオールデヒドラターゼは、補酵素B12(アデノシルコバラミンとも称される)依存型であり、グリセリンを脱水して3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド及び水へ変換する反応には補酵素B12の存在が必須であることから、グリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼによる反応においては、補酵素B12を共存させる。補酵素B12は発酵液に添加するのではなく、補酵素B12合成能を有する微生物を遺伝子組換えの宿主として利用することにより、微生物内で合成させることが可能となる。
また、グリセリンデヒドラターゼ及びジオールデヒドラターゼは、グリセリンを脱水して3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド及び水へ変換する反応を触媒すると、補酵素型B12が非補酵素型B12へと変換され、活性中心が失活してしまうが、グリセリンデヒドラターゼ再活性化因子及び/又はジオールデヒドラターゼ再活性化因子により、非補酵素型B12を補酵素型B12と置換して、グリセリンデヒドラターゼ及びジオールデヒドラターゼを再活性化することができる。従って、本発明は、好ましくは、グリセリンデヒドラターゼ再活性化因子及び/又はジオールデヒドラターゼ再活性化因子によるグリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼの再活性化を行なうことをさらに含む。本発明において、グリセリンデヒドラターゼによる反応が含まれる場合は、グリセリンデヒドラターゼ再活性化因子によるグリセリンデヒドラターゼの再活性化を行なうことが好ましく、ジオールデヒドラターゼによる反応を行なう場合は、ジオールデヒドラターゼ再活性化因子によるジオールデヒドラターゼの再活性化を行なうことが好ましい。
グリセリンデヒドラターゼは、ラージサブユニット、ミディアムサブユニット及びスモールサブユニットの3種のサブユニットから構成される酵素である。本発明において、ジオールデヒドラターゼは、グリセリンを脱水して、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド及び水へ変換する反応を触媒する酵素活性を有するタンパク質であれば特に制限されず、公知のものを使用できる。具体的には、Klebsiella属、Citrobacter属、Clostridium属、Lactobacillus属、Enterobacter属、Caloramator属、Salmonella属、Escherichia属及びListeria属に属する微生物、より詳しくは、Klebsiella pneumoniae、Citrobacter freundii、Clostridium pasteurianum、Lactobacillu sleichmannii、Citrobacter intermedium、Lactobacillu sreuteri、Lactobacillus buchneri、Lactobacillus brevis、Enterobacter agglomerans、Clostridium butyricum、Caloramator viterbensis、Lactobacillus collinoides、Lactobacillus hilgardii、Salmonella typhimurium、Escherichia blattae、Listeria monocytogenes、及びListeria innocuaに由来するジオールデヒドラターゼなどが挙げられる。これらのジオールデヒドラターゼは、単独で使用してもよいし、2種以上の混合物として使用してもよい。
ジオールデヒドラターゼもまた、ラージサブユニット、ミディアムサブユニット及びスモールサブユニットの3 種のサブユニットから構成される酵素である。本発明において、ジオールデヒドラターゼは、グリセリンを脱水して、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド及び水へ変換する反応を触媒する酵素活性を有するタンパク質であれば特に制限されず、公知のものを使用できる。具体的には、Klebsiella属、Citrobacter属、Clostridium属、Lactobacillus属、Enterobacter属、Caloramator属、Salmonella属及びListeria属に属する微生物、より詳しくは、Klebsiella pneumoniae、Citrobacter freundii、Clostridium pasteurianum、Lactobacillu sleichmannii、Citrobacter intermedium、Lactobacillu sreuteri、Lactobacillus buchneri、Lactobacillus brevis、Enterobacter agglomerans、Clostridium butyricum、Caloramator viterbensis、Lactobacillus collinoides、Lactobacillus hilgardii、Salmonella typhimurium、Listeria monocytogenes、及びListeria innocuaに由来するジオールデヒドラターゼなどが挙げられる。これらのジオールデヒドラターゼは、単独で使用してもよいし、2種以上の混合物として使用してもよい。
本発明において、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼは、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドから水素を脱離し電子受容体に渡す脱水素反応を触媒する酵素活性を有するタンパク質であれば特に制限されず、公知のものを使用できる。また、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドから水素を脱離し電子受容体に渡す脱水素反応を触媒する酵素活性を有するタンパク質には、CoA依存的に3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドにCoAを付加し、CoAエステルを生成する反応を触媒することができる酵素活性を有するタンパク質、例えばプロピオンアルデヒドデヒドロゲナーゼも含まれる。具体的には、Escherichia属、Aerobacter属、Agrobacterium属、Alcaligenes属、Arthrobacter属、Bacillus属、Corynebacterium属、Flavobacterium属、Klebsiella属、Micrococcus属、Protaminobacter属、Proteus属、Pseudomonas属、Salmonella属、Sarcina属、Staphylococcus属、Shigella属、Erwinia属、Neisseria属、Lactobacillus属に属する微生物、より詳しくは、Aerobacter aerogenes、Agrobacterium radiobacter、Agrobacterium tumefaciens、Alcaligenes viscolactis、Arthrobacter simplex、Bacillus licheniformis、Bacillus megaterium、Bacillus subtilis、Corynebacterium equi、Flavobacterium sp.、Klebsiella pneumonia(locus name AB106869)、Micrococcus glutamicus、Protaminobacter alboflavus、Proteus vulgaris、Pseudomonas fluorescens、Salmonella typhimurium、Sarcina lutea、Staphylococcus aureus、Shigella flexneri(locus name AE016982)、Erwinia carotovora(locus name BX950851)、Neisseria meningitides(locus name AL162753)、Neisseria gonorr hoeae(locus name AE004969)、Lactobacillus reuteri (locus name YP_001841029)(locus name YP_001842619)に由来するヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼや、Lactobacillus属細菌に由来するプロピオンアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子などが挙げられる。(Morita, H.; Nishimura, T.; Tani, Y.; Ogata, K.; Yamada, H.; Agric. Biol. Chem. 43, 185-186(1979))。本発明におけるヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼとして、好ましくは大腸菌由来のヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼ、より好ましくはaldA又はaldBを用いる。これらの酵素はグリセリンの脱水によって得られる3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドに対し基質特異性が高く、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの脱水素反応において高い活性を示す。特に好ましくは、大腸菌由来のaldAを用いる。また、本発明におけるプロピオンアルデヒドデヒドロゲナーゼとしては、特にLactobacillus reuteri由来のプロピオンアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子、さらに好ましくはLactobacillus reuteri JCM1112株由来のプロピオンアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子が好ましい。配列番号1にLactobacillus reuteri由来のプロピオンアルデヒドデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列を、配列番号2にLactobacillus reuteri由来のプロピオンアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子の塩基配列を例示する。これらのアミノ酸配列を含むタンパク質がプロピオンアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有する限り、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じていてもよい。
グリセリンデヒドラターゼ再活性化因子及びジオールデヒドラターゼ再活性化因子は、ラージサブユニット及びスモールサブユニットの2種のサブユニットから構成される。本発明においてグリセリンデヒドラターゼ再活性化因子及びジオールデヒドラターゼ再活性化因子は、グリセリンの3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド及び水への変換反応を触媒することにより失活したグリセリンデヒドラターゼ又はジオールデヒドラターゼにおける反応中心部分の補酵素B12を入れ替えて、再度活性を取り戻させる役割を有するタンパク質であれば特に制限されず、公知のものを使用できる。グリセリンデヒドラターゼ再活性化因子としては、WO98/21341;Daniel et al., J. Bacteriol., 177, 2151(1995); Toraya and Mori, J. Biol. Chem., 274, 3372(1999);及びTobimatsu et al., J. Bacteriol. 181, 4110(1999)に記載のものなどが挙げられる。
グリセリンデヒドラターゼ再活性化因子又はジオールデヒドラターゼ再活性化因子をコードする遺伝子としては、一般に嫌気条件下でグリセリンを資化することのできる細菌群が有するdhaレギュロン、pduオペロンと呼ばれる遺伝子群内に存在するものが含まれ、例えば、gdrA、gdrB、pduG、pduH、ddrA、ddrB、dhaF、dhaG、orfZ、及びorfYなどが挙げられる。具体的には、Lactobacillus属、Klebsiella属、Citrobacter属、Clostridium属、Enterobacter属、及びEscherichia属に属する微生物由来、より詳しくは、Klebsiella pneumoniae、Lactobacillus leichmannii、Citrobacter freundii、Citrobacter intermedium、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus buchneri、Lactobacillus brevis、Clostridium pasteurianum、Enterobacter agglomerans、Clostridium butyricum、及びEscherichia blattae由来のものなどが挙げられる。これらのグリセリンデヒドラターゼ再活性化因子及びジオールデヒドラターゼ再活性化因子は、単独で使用してもよいし、2種以上の混合物として使用してもよい。
ホスホトランスアシラーゼはプロピオニルCoAからCoAをはずし、リン酸を付加してプロピオニルリン酸を生成する反応を触媒することができる酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含む。
ホスホトランスアシラーゼをコードする遺伝子は、公知のものを使用でき、例えば、Lactobacillus属、Citrobacter属、Clostridium属、Klebsiella属、Enterobacter属、Caloramator属、Salmonella属、及びListeria属等に属する細菌に由来するものを使用することができる。本発明においてはLactobacillus属細菌に由来するホスホトランスアシラーゼ遺伝子、特にLactobacillus reuteri由来のホスホトランスアシラーゼ遺伝子、さらにLactobacillus reuteri JCM1112株由来のホスホトランスアシラーゼ遺伝子が好ましい。
配列番号3にLactobacillus reuteri由来のホスホトランスアシラーゼのアミノ酸配列を、配列番号4にLactobacillus reuteri由来のプロピオンホスホトランスアシラーゼ遺伝子の塩基配列を例示する。これらのアミノ酸配列を含むタンパク質がプロピオンアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有する限り、配列番号3で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じていてもよい。
プロピオン酸キナーゼは、プロピオニルリン酸からリン酸をはずし、ADPに付加してATPを生成すると同時にプロピオン酸を生成する反応を触媒することができる酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含む。
プロピオン酸キナーゼをコードする遺伝子は、公知のものを使用でき、例えば、Lactobacillus属、Citrobacter属、Clostridium属、Klebsiella属、Enterobacter属、Caloramator属、Salmonella属、及びListeria属等に属する細菌に由来するものを使用することができる。本発明においては、Lactobacillus属細菌に由来するプロピオン酸キナーゼ遺伝子、特にLactobacillus reuteri由来のプロピオン酸キナーゼ遺伝子、さらにLactobacillus reuteri JCM1112株由来のプロピオン酸キナーゼ遺伝子が好ましい。
配列番号5にLactobacillus reuteri由来のプロピオン酸キナーゼのアミノ酸配列を、配列番号6にLactobacillus reuteri由来のプロピオン酸キナーゼ遺伝子の塩基配列を例示する。これらのアミノ酸配列を含むタンパク質がプロピオンアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有する限り、配列番号5で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じていてもよい。
グリセリンデヒドラターゼ、プロピオンアルデヒドデヒドロゲナーゼ、ホスホトランスアシラーゼ並びにプロピオン酸キナーゼ活性を有する遺伝子を含むことによりグリセリンから3−ヒドロキシプロピオン酸が生成する反応系路においてATPを獲得することができ、遺伝子組換え微生物が効率的に増殖し、培養を効率的に実施することができる。
さらに、グリセリンデヒドラターゼ、プロピオンアルデヒドデヒドロゲナーゼ、ホスホトランスアシラーゼ並びにプロピオン酸キナーゼ活性を有する遺伝子に加えて、他の細菌で糖からのグリセリン生成に関与する遺伝子群を導入することで、嫌気的条件でグルコース等の糖からグリセリンを経由し3−ヒドロキシプロピオン酸を生成する発酵生産ルートにおいて酸化・還元バランスがとれ、効率的に3−ヒドロキシプロピオン酸を発酵生産することが可能となる。
本実施形態では、グリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼによる反応と、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼによる反応とが同一の微生物内で行われ、中間体である3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの蓄積による微生物の損傷を防止することができる。
本発明においては、さらに、グリセリンデヒドラターゼ及び/ 又はジオールデヒドラターゼを産生する微生物、さらにグリセリンデヒドラターゼ再活性化因子及び/又はジオールデヒドラターゼ再活性化因子をも産生する微生物を用いることが好ましい。
グリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼを産生する微生物、並びにヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼを産生する微生物としては、上記のような各酵素を産生する公知の微生物、グリセリンデヒドラターゼ遺伝子及び/ 又はジオールデヒドラターゼ遺伝子を導入した組換え微生物、並びにヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した組換え微生物をそれぞれ使用できる。好ましくは各遺伝子を導入した組換え微生物を用いる。
グリセリンデヒドラターゼ遺伝子及びジオールデヒドラターゼ遺伝子の導入は、各酵素を構成するラージサブユニット、ミディアムサブユニット及びスモールサブユニットの3種をそれぞれコードする遺伝子を導入することにより行なう。また、グリセリンデヒドラターゼ再活性化因子遺伝子及びジオールデヒドラターゼ再活性化因子遺伝子の導入は、各酵素を構成するラージサブユニット及びスモールサブユニットの2種をそれぞれコードする遺伝子を導入することにより行なう。
グリセリンデヒドラターゼのラージサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号7に、ミディアムサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号9に、スモールサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号11に例示する。また、ジオールデヒドラターゼのラージサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号13に、ミディアムサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号15に、スモールサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号17に例示する。また、グリセリンデヒドラターゼ再活性化因子のラージサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号19に、スモールサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号21に、ジオールデヒドラターゼ再活性化因子のラージサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号23に、スモールサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号25に例示する。
ここで、グリセリンデヒドラターゼのラージサブユニットをコードする遺伝子、ミディアムサブユニットをコードする遺伝子及びスモールサブユニットをコードする遺伝子には、それぞれ、配列番号7、9及び11で表される塩基配列からなる遺伝子と機能的に同等の遺伝子が包含される。ジオールデヒドラターゼの各サブユニットをコードする遺伝子についても同様である。「機能的に同等の遺伝子」とは、対象となる遺伝子によってコードされるタンパク質が、各配列番号で表される塩基配列からなる遺伝子によってコードされるタンパク質と同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを指す。
あるタンパク質と機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子を調製する当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook, Jetal., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press(1989))を利用する方法が挙げられる。
例えば、配列番号7で表される塩基配列の全長において、種々の人為的処理、例えば部位特異的変異導入、変異剤処理によるランダム変異、制限酵素切断による核酸断片の変異、欠失、連結等により、部分的にその配列が変化したものであっても、これらの変異型遺伝子が配列番号7で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、グリセリンデヒドラターゼのラージサブユニットの活性、すなわち、グリセリンデヒドラターゼのミディアムサブユニット及びスモールサブユニットと一緒になってグリセリンデヒドラターゼの活性を示すタンパク質をコードする限り、グリセリンデヒドラターゼのラージサブユニットをコードする遺伝子に含まれる。その他のサブユニットをコードする遺伝子、並びにジオールデヒドラターゼ、グリセリンデヒドラターゼ再活性化因子及びジオールデヒドラターゼ再活性化因子の各サブユニットをコードする遺伝子についても同様である。
ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、すなわち、各遺伝子に対し高い相同性を有するDNAがハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、このような条件は、0.5〜1MのNaCl存在下42〜68℃で、又は50%ホルムアミド存在下42℃で、又は水溶液中65〜68℃で、ハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline sodium citrate)溶液を用いて室温〜68℃でフィルターを洗浄することにより達成できる。
上記のようなストリンジェントな条件においては、対象となる塩基配列と少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも90%の同一性、より好ましくは少なくとも95%の同一性、さらに好ましくは少なくとも99%の同一性を有する塩基配列からなる遺伝子が、対象となる塩基配列と相補的な塩基配列からなる遺伝子とハイブリダイズすることができる。
また、グリセリンデヒドラターゼのラージサブユニットをコードする遺伝子には、配列番号8のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が包含され、ミディアムサブユニットをコードする遺伝子には配列番号10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が包含され、スモールサブユニットをコードする遺伝子には配列番号12のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が包含される。ジオールデヒドラターゼのラージサブユニットをコードする遺伝子には、配列番号14のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が包含され、ミディアムサブユニットをコードする遺伝子には配列番号16のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が包含され、スモールサブユニットをコードする遺伝子には配列番号18のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が包含される。グリセリンデヒドラター再活性化因子のラージサブユニットをコードする遺伝子には、配列番号20のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が包含され、スモールサブユニットをコードする遺伝子には配列番号22のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が包含される。ジオールデヒドラターゼ再活性化因子のラージサブユニットをコードする遺伝子には、配列番号24のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が包含され、スモールサブユニットをコードする遺伝子には配列番号26のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が包含される。
そして、各遺伝子には、各アミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子が包含される。例えば、配列番号8のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質としては、配列番号8のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、グリセリンデヒドラターゼのミディアムサブユニット及びスモールサブユニットと一緒になってグリセリンデヒドラターゼの活性を示すタンパク質が挙げられる。
ここで、タンパク質の構成要素となるアミノ酸の側鎖は、疎水性、電荷、大きさなどにおいてそれぞれ異なるものであるが、実質的にタンパク質全体の3次元構造(立体構造とも言う)に影響を与えないという意味で保存性の高い幾つかの関係が、経験的にまた物理化学的な実測により知られている。例えば、異なるアミノ酸残基間の保存的置換の例としては、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、グリシンとアラニン(Ala)又はバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、スレオニンとセリン(Ser)又はアラニン、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)等のアミノ酸の間での置換が知られている。
従って、配列番号8のアミノ酸配列において1 又は数個のアミノ酸の欠失、付加、挿入又は置換が生じた結果得られたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質であっても、その変異が配列番号8に記載のアミノ酸配列の3 次元構造において保存性が高い変異であって、その変異型タンパク質がグリセリンデヒドラターゼのラージサブユニットの活性を有しているのであれば、これらの変異型タンパク質をコードする遺伝子もまたグリセリンデヒドラターゼのラージサブユニットをコードする遺伝子に包含される。ここで、数個とは、通常2〜5個、好ましくは2〜3個である。
また、グリセリンデヒドラターゼのラージサブユニットをコードする遺伝子には、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも90%の同一性、より好ましくは少なくとも95%の同一性、さらに好ましくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、グリセリンデヒドラターゼのラージサブユニットの活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も包含される。
その他のサブユニットをコードする遺伝子、並びにジオールデヒドラターゼ、グリセリンデヒドラターゼ再活性化因子及びジオールデヒドラターゼ再活性化因子の各サブユニットをコードする遺伝子についても同様である。
各サブユニットをコードする遺伝子は、同一の宿主で発現させる限り、ゲノムに導入してもよいし、同一のベクターに導入して形質転換を行ってもよいし、別々のベクターに導入して形質転換を行ってもよい。また、各サブユニットは、同一の種又は同一の株に由来するものを用いるのが好ましい。
ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子の塩基配列を配列番号27及び29に例示する。ここで、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子には、配列番号27又は29で表される塩基配列からなる遺伝子と機能的に同等の遺伝子が包含される。すなわち、配列番号27又は29で表される塩基配列の全長において、種々の人為的処理、例えば部位特異的変異導入、変異剤処理によるランダム変異、制限酵素切断による核酸断片の変異、欠失、連結等により、部分的にその配列が変化したものであっても、これらの変異型遺伝子が配列番号27又は29で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性を示すタンパク質をコードする限り、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条件については上記のとおりである。
また、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子には、配列番号28又は30のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が包含される。そして、配列番号28又は30のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子が包含される。従って、配列番号28又は30のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質としては、配列番号28又は30のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性を示すタンパク質が挙げられる。ここで、数個とは、通常2〜5個、好ましくは2〜3個である。またヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子には、配列番号28又は30のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも90%の同一性、より好ましくは少なくとも95%の同一性、さらに好ましくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性を示すタンパク質をコードする遺伝子も包含される。
微生物への遺伝子の導入は、上記遺伝子又はその一部を適当なベクターに連結し、得られた組換えベクターを目的の遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより、又は相同組換えによってゲノム上の任意の位置に目的の遺伝子又はその一部を挿入することにより実施できる。「一部」とは、宿主中に導入された場合に各遺伝子がコードするタンパク質を発現することができる各遺伝子の一部分を指す。本発明において遺伝子には、DNA及びRNAが包含され、好ましくはDNAである。
微生物のゲノムから所望の遺伝子をクローニングにより取得する方法は、分子生物学の分野において周知である。例えば遺伝子の配列が既知の場合、制限エンドヌクレアーゼ消化により適したゲノムライブラリを作り、所望の遺伝子配列に相補的なプローブを用いてスクリーニングすることができる。配列が単離されたら、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(米国特許第4,683,202号)のような標準的増幅法を用いてDNAを増幅し、形質転換に適した量のDNAを得ることができる。グリセリンデヒドラターゼ遺伝子、ジオールデヒドラターゼ遺伝子及びヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子等の遺伝子は、既知の遺伝子以外にも、既知の遺伝子の塩基配列に基づいて適当に設計された合成プライマーを用いてハイブリダイゼーション法、PCR法などにより取得することもできる。
遺伝子のクローニングに用いるゲノムDNAライブラリーの作製、ハイブリダイゼーション、PCR、プラスミドの調製、DNAの切断及び連結、形質転換等の方法は、Sambrook, J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press(1989)に記載されている。
遺伝子を連結するベクターとしては、宿主で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば大腸菌において外来遺伝子導入に利用されているプラスミド、ファージ及びコスミド等が挙げられる。プラスミドとしては、例えば、pHSG398、pUC18、pBR322、pSC101、pUC19、pUC118、pUC119、pACYC117、pBluescript II SK(+)、pETDuet−1、pACYCDuet−1、pCDFDuet−1、pRSFDuet−1、pCOLADuet−1等が挙げられ、ファージとしては、例えばλgt10、Charon 4A、EMBL−、M13mp18、M13mp19等が挙げられる。
上記ベクターにおいては、挿入した遺伝子が確実に発現されるようにするため、該遺伝子の上流に適当な発現プロモーターを接続する。使用する発現プロモーターは、特に制限されず、宿主に応じて当業者が適宜選択すればよい。例えば大腸菌において外来遺伝子発現に利用されているT7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、λ−PLプロモーター、又は大腸菌由来の硝酸呼吸に関与する硝酸還元遺伝子narGHJIオペロンのNarプロモーター領域や、大腸菌の硝酸還元酵素遺伝子であるFrd遺伝子のプロモーター領域を利用することもできる。Narプロモーター領域やFrdプロモーターは嫌気条件において遺伝子発現誘導を受けるプロモーターである。さらに、グルコース代謝に関与するグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子や6−ホスホフルクトキナーゼ遺伝子等のプロモーター領域も利用することができる。
遺伝子破壊の方法については、大腸菌における遺伝子破壊に利用されている公知の方法を使用できる。具体的には、標的遺伝子の任意の位置で相同組換えを起こすベクター(ターゲティングベクター)を用いて当該遺伝子を破壊する方法(ジーンターゲティング法)や、標的遺伝子の任意の位置にトラップベクター(プロモーターを持たないレポーター遺伝子)を挿入して当該遺伝子を破壊しその機能を失わせる方法(遺伝子トラップ法)、それらを組み合わせた方法等の当技術分野でノックアウト細胞、トランスジェニック動物(ノックアウト動物含む)等を作製する際に用いられる方法を用いることが出来る。また、破壊したい遺伝子のアンチセンスcDNAを発現するベクターを導入する方法や、破壊したい遺伝子の2重鎖RNAを発現するベクターを細胞に導入する方法も利用できる。当該ベクターとしては、ウイルスベクターやプラスミドベクター等が包含され、通常の遺伝子工学的手法に基づき、例えばSambrook, J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press(1989)等の基本書に従い作製することができる。又、市販されているベクターを任意の制限酵素で切断し所望の遺伝子等を組み込んで半合成することもできる。
相同置換を起こす位置又はトラップベクターを挿入する位置は、破壊したい標的遺伝子の発現を消失させる変異を生じる位置であれば特に限定されないが、好ましくは転写調節領域、より好ましくは第2エクソンを置換する。
ベクターの宿主への導入方法としては、特に制限されないが、例えば、大腸菌へのベクター導入に一般的に利用されている電気パルス法、カルシウムイオンを用いる方法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法等を挙げることができる。
相同組換えによってゲノム上の任意の位置に目的の遺伝子を挿入する方法は、ゲノム上の配列と相同な配列に目的遺伝子をプロモーターとともに挿入し、この核酸断片をエレクトロポレーションによって細胞内に導入して相同組換えを起こさせることにより実施できる。ゲノムへの導入の際には目的遺伝子と薬剤耐性遺伝子を連結した核酸断片を用いると容易に相同組換えが起こった株を選抜することができる。また、薬剤耐性遺伝子と特定の条件下で致死的になる遺伝子を連結した遺伝子をゲノム上に上記の方法で相同組換えによって挿入し、その後、薬剤耐性遺伝子と特定の条件下で致死的になる遺伝子を置き換える形で目的遺伝子を相同組換えにより導入することもできる。
目的とする遺伝子が導入された組換え微生物を選択する方法は、特に制限されないが、目的とする遺伝子が導入された組換え微生物のみを、容易に選択できる手法によるものが好ましい。
また、一実施形態において、本発明の反応は、グリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼ並びにヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼを産生する微生物を、グリセリン及び/又は糖と接触させることにより実施する。そのような微生物としては、グリセリンデヒドラターゼ遺伝子及び/又はジオールデヒドラターゼ遺伝子並びにヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子を含む組換え微生物を使用できる。当該微生物は、さらに、グリセリンデヒドラターゼ再活性化因子遺伝子及び/又はジオールデヒドラターゼ再活性化因子遺伝子を含むことが好ましい。遺伝子導入方法や宿主などの組換え微生物の製造方法については、すでに記載した通りである。
このような微生物を用いて反応することにより、グリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼによる反応と、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼによる反応とが同一の微生物内で行われ、中間体である3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの蓄積による酵素産生微生物の損傷を防止することができる。
本発明において、3−ヒドロキシプロピオン酸の製造は、上記微生物、あるいは複数の微生物をグリセリン及び/又は糖と接触させ、反応液中に3−ヒドロキシプロピオン酸を蓄積させ、3−ヒドロキシプロピオン酸を採取することにより実施できる。
上記微生物とグリセリン及び/又は糖とを接触させるとは、グリセリン及び/又は糖の存在下で微生物又はその処理物を培養すること、また、本発明の微生物の処理物を用いて反応を行なうことを包含する。該処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、菌死体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物、これらから酵素を抽出した粗酵素液、精製酵素等が挙げられる。また、常法により担体に固定化した菌体、該処理物、酵素等を用いることもできる。
培養に用いる培地及び培養条件は、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機微量栄養素を含有する通常の培地、例えば、2培地などを用いることができる。培養は、用いる微生物の生育に好適な条件で行われる。通常、培養温度10℃〜45℃で、16〜96時間実施する。培養を連続的に行なう場合には、培養は1週間〜3ヶ月間実施する。
ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼによる酵素反応は、ニコチンアミドヌクレオチド(NAD)依存的な反応であるが、培養を好気的条件下で行なうことにより、呼吸鎖においてNADH+H→NADの酸化反応が行われ、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼによる酵素反応を継続的に実施することができる(図1参照)。
また、好気培養し、菌体量を増やしてから嫌気的条件下で培養し、グリセリン及び/又は糖を与えて発酵を行なうこともできる。その場合は、呼吸鎖におけるNADH+H→NADの酸化反応が行われないが、アルコールデヒドロゲナーゼによる3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの1,3−プロパンジオールへの還元反応を平行して実施することにより、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼによる酵素反応を継続的に実施することもできる(図2参照)。
アルコールデヒドロゲナーゼによる3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの1,3−プロパンジオールへの還元反応は、アルコールデヒドロゲナーゼを産生する微生物又はその処理物を用いて実施できる。本発明の反応に使用される微生物、すなわち、グリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼを産生する微生物、ヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼを産生する微生物、あるいはグリセリンデヒドラターゼ遺伝子及び/又はジオールデヒドラターゼ遺伝子並びにヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子を含む組換え微生物に、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入してもよい。また、組換え微生物の宿主として、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入したものを用いてもよい。
アルコールデヒドロゲナーゼは、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの1,3−プロパンジオールへの還元反応を触媒するタンパク質であれば特に制限されず、公知のものを使用できる。具体的には、例えば、Lactobacillus属、Citrobacter属、Clostridium属、Klebsiella属、Enterobacter属、Caloramator属、Salmonella属、及びListeria属、Escherichia属等に属する細菌に由来するものが挙げられる。これらのアルコールデヒドロゲナーゼは、単独で使用してもよいし、2種以上の混合物として使用してもよい。好ましくは、プロパノールデヒドロゲナーゼを用いる。プロパノールデヒドロゲナーゼ遺伝子の塩基配列として、配列番号31の塩基配列が例示される。プロパノールデヒドロゲナーゼ遺伝子には、配列番号31の塩基配列からなる遺伝子と機能的に同等の遺伝子も包含される。
上記のように嫌気的条件下で、アルコールデヒドロゲナーゼによる反応を平行して実施することにより、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドと1,3−プロパンジオールの双方を製造することができる。1,3−プロパンジオールは、ポリエステル繊維の生産並びにポリウレタン及び環状化合物の製造に使用される有用なモノマーであり、本実施形態により2種の有用物質を効率的に製造することが可能である。
生物学的系において、グリセリンは2段階の酵素触媒反応を経て、1,3−プロパンジオールに変換され、第1段階において、グリセリンデヒドラターゼがグリセリンを3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド及び水へ変換し、第2段階において、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドがNAD−結合オキシドレダクターゼにより1,3−プロパンジオールに還元される。しかし、生物学的系におけるグリセリンからの1,3−プロパンジオールの生産は、一般に嫌気的条件下でグリセリンを単独の炭素源とし、他の外因性還元当量受容物質の不在下で行われるため、最初に、NAD−(又はNADP−)結合グリセリンデヒドロゲナーゼによるグリセリンのジヒドロキシアセトン(DHA)への酸化(グリセリン+NAD→DHA+NADH+H)というグリセリンに関する平行経路が働き、DHAは、DHAキナーゼによってジヒドロキシアセトンリン酸へリン酸化され、生合成及びATP生成のために利用されるため、従来の微生物を用いた1,3−プロパンジオールの製造方法においては、原料であるグリセリンの半分が上記平行経路において消費され、原料グリセリンに対する生成物の収率が低く、効率性及びコストの点で問題があった。しかし、上記実施態様を採用することにより、原料グリセリンのロスを低減し、1,3−プロパンジオールと合わせて3−ヒドロキシプロピオン酸を製造することが可能になる。
微生物の培養におけるpHは、宿主の生育を妨害せず、かつ培養液から酸を分離するときの障害とならない試薬を用いて調整する。pH調整には無機又は有機の酸性又はアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。炭酸ナトリウム、アンモニア、ナトリウムイオン供給源を添加してもよい。また、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム水溶液等の一般的なアルカリ試薬を用いてもよい。培養期間中pHは、5.0以上、好ましくは5.5 以上で、10.0以下、好ましくは9.7以下に保持する。
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。また、無機物としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
培養中は、カナマイシン、アンピシリン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、インデューサーを培地に添加することもできる。例えば、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)、インドール酢酸(IAA)等を培地に添加することができる。
あるいは、上記において得られた微生物の培養物から遠心分離などによって集菌を行い、適当なバッファーや培地に懸濁する。この菌体懸濁液を、グリセリンを含むバッファーに懸濁し、反応を行なうことによって、3−ヒドロキシプロピオン酸を製造することもできる。反応の条件は、例えば、反応温度は10〜80℃、好ましくは15〜50℃、反応時間は5分〜96時間、好ましくは10分〜72時間、pHは5.0以上、好ましくは5.5以上で、10.0以下、好ましくは9.7以下である。反応を連続的に行なう場合には、反応を1週間〜3ヶ月間実施する。
3−ヒドロキシプロピオン酸の精製法は当該技術分野において周知である。例えば、有機溶媒を用いる抽出、蒸留及びカラムクロマトグラフィーに反応混合物を供することにより、培地から3−ヒドロキシプロピオン酸を得ることができる(米国特許第5,356,812号)。また、限外濾過膜、水などの低分子のみが透過できるゼオライト分離膜などで発酵液の濃縮を行なうのが好ましい。濃縮を行なうことにより、水を蒸発させるためのエネルギーを低減することができる。培地を高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)分析にかけることにより、3−ヒドロキシプロピオン酸を直接同定することもできる。1,3−プロパンジオールの精製についても同様である。
一実施形態において、本発明は、上記方法によって得られた3−ヒドロキシプロピオン酸を脱水することによりアクリル酸を製造する方法に関する。3−ヒドロキシプロピオン酸の脱水は、公知の反応によって実施することができる。例えば、US2469701にも記載されているように、3−ヒドロキシプロピオン酸は、触媒の存在下で減圧蒸留することにより容易にアクリル酸に変換することができる。
本発明はまた、グリセリンデヒドラターゼ及び/又はジオールデヒドラターゼ並びにヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼを含む、グリセリン及び/又は糖から3−ヒドロキシプロピオン酸を製造するための組成物に関する。当該組成物は、これらの酵素を産生する微生物又はその処理物から製造することができる。
なお、本発明は、補酵素B12合成能を有する微生物に、外来のグリセリンデヒドラターゼをコードする遺伝子及びジオールデヒドラターゼをコードする遺伝子のうちの少なくとも1種とを導入した遺伝子組み換え微生物と、補酵素B12合成能を有する微生物に、外来のヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子とを導入した遺伝子組換え微生物と、を備える3−ヒドロキシプロピオン酸を製造するためのキットを包含する。本発明に係るキットには、外来のグリセリンデヒドラターゼをコードする遺伝子及びジオールデヒドラターゼをコードする遺伝子のうちの少なくとも1種とを導入した遺伝子組み換え微生物、及び、補酵素B12合成能を有する微生物に、外来のヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子とを導入した遺伝子組換え微生物を備えればよいが、これを培養するための培地等を備えてもよい。また、補酵素B12合成能を有する微生物に、外来のグリセリンデヒドラターゼをコードする遺伝子及びジオールデヒドラターゼをコードする遺伝子のうちの少なくとも1種とを導入した遺伝子組み換え微生物と、補酵素B12合成能を有する微生物に、外来のヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子とを導入した遺伝子組換え微生物と、を用いて、バイオマス資源由来の糖及びグリセリンのうち少なくとも1種を発酵させることによる3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法も本発明の範疇である。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り下記の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1 クレブジェラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)のグリセリンデヒドラターゼ遺伝子のクローニング〕
クレブジェラ・ニューモニエのゲノムDNAをテンプテレ−トとしてグリセリンデヒドラターゼ遺伝子(GD遺伝子)及びグリセリンデヒドラターゼ再活性化因子(GDR遺伝子)を含む領域を、下記の2つのプライマーを用いてPCRで増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BglIIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。
フォワードプライマー:
5'-GCGCGCCATATGTTAATTCGCCTGACCGGCC-3'(配列番号32)
リバースプライマー:
5'-GCGCGCAGATCTTCAGTTTCTCTCACTTAACG -3'(配列番号33)
pACYCDuet−1プラスミドをテンプレートにして下記の2つのプライマーでベクター配列を増幅し、pACYCDuet−1プラスミドのT7プロモーターの後ろにNdeIサイト及びBgl IIサイトを持ったDNA断片を増幅した。
フォワードプライマー:
5'-GAAGGAGATATACATATGGCGCGC-3'(配列番号34)
リバースプライマー:
5'-CCGATATCCAATTGAGATCTGCGCGC-3'(配列番号35)
増幅断片を制限酵素BglIIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片を分離して回収した。この2つのDNA断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセルに導入し、クロラムフェニコール含有プレートに広げて培養した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素NdeIで切断し、電気泳動によって切断断片のサイズを確認したところライゲーションに使用した元の2本のDNA断片のサイズの合計と同じサイズであることがわかった。この形質転換体の一つをGD−GDR/pACYCDuet−1/TOP10と命名した。次に、GD−GDR/pACYCDuet−1/TOP10からGD−GDR/pACYCDuet−1を抽出した。LB液体培地にE. blattae ATCC33430株を植菌し、26℃で4時間振盪培養を行った。次に、遠心分離により菌体をペレットとした後、10%グリセリン溶液で4回菌体洗浄を行った。菌体洗浄を行ったE. blattae ATCC33430株を10%グリセリン溶液80μlで懸濁、GD−GDR/pACYCDuet−1プラスミド溶液1μLを加え、0.1cmのエレクトロポレーションキュベットに移し、Bio−rad社製ジーンパルサーにセットし、2.5kV,200Ω、25μFで印加した。印加後、菌体懸濁液にSOC培地1mLを添加し、クロラムフェニコールを終濃度50ppmとなるように添加したLB寒天培地に菌体懸濁液を塗扶し、26℃で一晩培養を行った。得られた形質転換体の一つをGD−GDR/pACYCDuet−1/E. blattae ATCC33430と命名した。
〔実施例2 クレブジェラ・ニューモニエのグリセリンデヒドラターゼ粗酵素液の調製〕
上記形質転換体をLB培地にクロラムフェニコール50ppmを含む液体培地5mlで37℃、16時間培養し、LB培地にクロラムフェニコール50ppmとIPTG1mMを添加した培地50mlに全量接種し、37℃で12時間培養した。この培養液を遠心分離にかけ、菌体をペレットとして回収した。得られた菌体は約0.5gであった。
この菌体を0.1Mリン酸カリウムバッファー(pH8.0)にOD660の吸収が10になるように懸濁し、超音波破砕機で5分処理して菌体を破砕した。破砕物を遠心分離にかけ、上清を回収してグリセリンデヒドラターゼ粗酵素液とした。
〔実施例3 大腸菌K−12株のaldA遺伝子のクローニング〕
大腸菌K−12 W3110株のゲノムDNAをテンプテレ−トとしてaldA遺伝子を下記の2つのプライマーを用いてPCRで増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BglIIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。
フォワードプライマー:
5'-GGGGGGCCATATGTCAGTACCCGTTCAACATCCTATG-3'(配列番号36)
リバースプライマー:
5'-CCCCAGATCTTTAAGACTGTAAATAAACCACCTGGGTC-3'(配列番号37)
pUC18プラスミドをテンプレートにして下記の2つのプライマーでベクター配列を増幅し、pUC18プラスミドのlacプロモーターの後ろにNdeIサイトを持ち、lacZ遺伝子の終始コドンの位置にBamHIサイトを持ったDNA断片を増幅した。
フォワードプライマー:
5'-CCCCCCCATATGTGTTTCCTGTGTGAAATTGTTATCCGCTCACAATTCCACACAATATACGAGCC-3'(配列番号38)
リバースプライマー:
5'-CCCCGGATCCTTAGTTAAGCCAGCCCCGACACCCGCCAACACC-3'(配列番号39)
増幅断片を制限酵素BamHIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片を分離して回収した。この2つのDNA断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセルに導入し、アンピシリン含有プレートに広げて培養した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素NdeIで切断し、電気泳動によって切断断片のサイズを確認したところライゲーションに使用した元の2本のDNA断片(の合計)と同じサイズの1本のバンドを確認することができた。この形質転換体の一つをaldA/pUC18/TOP10と命名した。次に、aldA/pUC18/TOP10からaldA/pUC18を抽出した。プラスミド導入菌株の選抜にアンピシリンを終濃度100ppmとなるように添加したLB寒天培地を使用した点以外は実施例1記載と同様の方法で、E. blattae ATCC33430株にaldA/pUC18プラスミドを導入し、aldA/pUC18/E. blattae ATCC33430を構築した。
〔実施例4 大腸菌K−12株のaldA粗酵素液の調製〕
上記形質転換体をLB培地にアンピシリン100ppmを含む液体培地5mlで37℃、16時間培養し、LB培地にアンピシリン100ppmとIPTG1mMを添加した培地50mlに全量接種し、37℃で12時間培養した。この培養液を遠心分離にかけ、菌体をペレットとして回収した。得られた菌体は約0.5gであった。
この菌体を0.1Mリン酸カリウムバッファー(pH8.0)にOD660の吸収が10になるように懸濁し、超音波破砕機で5分処理して菌体を破砕した。破砕物を遠心分離にかけ、上清を回収してaldA粗酵素液とした。
〔実施例5 大腸菌K−12株のaldB遺伝子のクローニング〕
大腸菌K−12 W3110株のゲノムDNAをテンプテレ−トとしてaldB遺伝子を下記の2つのプライマーを用いてPCRで増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BamHIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。
フォワードプライマー:
5'-GGGGGGCCATATGACCAATAATCCCCCTTCAGCACAG-3'(配列番号40)
リバースプライマー:
5'-CCCCGGATCCTCAGAACAGCCCCAACGGTTTATCC-3'(配列番号41)
aldA遺伝子のクローニングの時と同様にpUC18をテンプレートとしたPCR増幅DNA断片を制限酵素処理したものとaldB遺伝子断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセルに導入し、アンピシリン含有プレートに広げて培養した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素BamHIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片のサイズを確認したところライゲーションに使用した元の2本のDNA断片と同じサイズの2本のバンドを確認することができた。この形質転換体の一つをaldB/pUC18/TOP10と命名した。次に、aldB/pUC18/TOP10からaldB/pUC18を抽出し、プラスミド導入菌株の選択にアンピシリンを終濃度100ppmとなるように添加したLB寒天培地を使用した点以外は実施例1記載と同様の方法で、E. blattae ATCC33430株にaldB/pUC18プラスミドを導入し、aldB/pUC18/E. blattae ATCC33430を構築した。
〔実施例6 大腸菌K−12株のaldB粗酵素液の調製〕
上記形質転換体をLB培地にアンピシリン100ppmを含む液体培地5mlで37℃、16時間培養し、LB培地にアンピシリン100ppmとIPTG1mMを添加した培地50mlに全量接種し、37℃で12時間培養した。この培養液を遠心分離にかけ、菌体をペレットとして回収した。得られた菌体は約0.5gであった。
この菌体を0.1Mリン酸カリウムバッファー(pH8.0)にOD660の吸収が10になるように懸濁し、超音波破砕機で5分処理して菌体を破砕した。破砕物を遠心分離にかけ、上清を回収してaldB粗酵素液とした。
〔実施例7 グリセリンデヒドラターゼの酵素活性の測定〕
実施例2で調製したGD−GDR/pACYCDuet−1/E. blattae ATCC33430の粗酵素液を用いて、以下に記載した方法でグリセリンデヒドラターゼの酵素活性測定を実施した。
(1)1.2−プロパンジオールを用いたグリセリンデヒドラターゼの活性確認。
まず、以下の試薬を調製し、下記表に記載の反応液組成でサンプルを調製した。
(a)バッファーA :50mMリン酸カリウムバッファー(pH8.0)
(b)1M1.2−プロパンジオール(1M PDO)
(c)0.5MKCl
(d)アデノシルコバラミン 38mg/10ml(AdoB12)
(暗室で秤量し、水に溶解後、1.5mlずつ分注して凍結保存した)
(e)0.1Mクエン酸カリウムバッファー(pH3.5、反応停止用)
(f)1Mグリセリン
(g)0.1%MBTH水溶液
(3−メチル−2−ベンゾシアゾリノンヒドラゾン塩酸塩、発色用)
Figure 2010183858
1.5mlチューブに(V)以外を加えて混合し、暗室に移動して(V)を加えた。チューブをアルミホイルで遮光して、37℃のバスにつけて10分間反応させた。1分間、氷上に移し、0.1Mクエン酸カリウムバッファー1mlを加えて反応を停止させた。この反応液0.2mlを0.1Mクエン酸カリウムバッファーで2mlに希釈した。
得られた希釈液に0.1%MBTH溶液0.5mlを加え、37℃で15分加温して発色させた。この発色液0.5mlを水で5mlに希釈し305nmの吸収を測定したところ、305nmの吸収度の上昇が確認されたことから、E. blattae ATCC33430に導入した外来のグリセリンでヒドラターゼがE. blattae ATCC33430細胞内で正常に発現し、1.2−プロパンジオールを基質とした脱水反応によりプロピオンアルデヒドが生成したことを確認した。
(2)グリセリンでの活性確認
1.2−プロパンジオールのかわりにグリセリンを用いて、同様にグリセリンデヒドラターゼの活性測定を行った。
Figure 2010183858
305nmの吸収度測定の結果、305nmの吸収度の上昇が確認されたことから、E. blattae ATCC33430に導入したグリセリンデヒドラターゼがE. blattae ATCC33430細胞内で正常に発現し、グリセリンを基質とした脱水反応により3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドが生成したことを確認した。グリセリンデヒドラターゼが発現し、グリセリンを基質とした脱水反応が起こったことが確認された。
〔実施例8 aldA、aldB発現の確認と酵素活性測定〕
実施例4及び実施例6で調整したaldA/pUC18/E. blattae ATCC33430粗酵素液及びaldB/pUC18/E. blattae ATCC33430粗酵素液におけるaldA及びaldBの酵素活性の確認は、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドで行なうべきところであるが、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの市販標品がないため、aldAで酸化できることが確認されているグリコールアルデヒドを基質に活性確認を行った。また、大腸菌のaldBの活性を測定した文献はないため両方ともaldAの活性測定方法で評価した。
粗酵素液の調製:
0.1MグリシンNaバッファー(pH9.5)に約0.9gの凍結保存した菌体を懸濁し、10mlとした。0.33mlずつエッペンチューブに分注し、超音波処理30秒/5秒インターバル×15分で破砕処理した。15000rpmで10分遠心分離して上清を粗酵素液として回収した。
反応液の調製:
室温で、0.1MグリシンNaバッファー(pH9.5)に0.1Mグリコールアルデヒド及び0.25MNADを1/100量添加して反応液を調製した。分光光度計のセルに2mlの反応液を入れ、酵素液を適量添加して反応を開始し、NADHの生成を340nmの吸収度の上昇で測定した。測定の結果、340nmの吸光度の上昇が確認され、グリコールアルデヒドを基質とした酸化反応が進行していることを確認した。したがって、E. blattae ATCC33430に導入したaldA及びaldBがE. blattae ATCC33430細胞内で正常に発現し、アルデヒドの酸化活性を有することが確認できた。なお、ブランクとして用いた酵素液のかわりに水を用いた反応液においては340nmの吸光度の上昇は確認されなかった。
また、aldAとaldBを比較するとaldAの方が活性が高かったことから、aldAの方がaldBよりも3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの酸化に適していると考えられた。
〔実施例9 グリセリンデヒドラターゼ遺伝子とaldA 遺伝子を導入したEsherichia blattaeの構築〕
実施例1で構築したGD−GDR/pACYCDuet−1/E. blattae ATCC33430に、実施例3で構築したaldA/pUC18を導入した。クロラムフェニコールを終濃度100ppmとなるように添加したLB液体培地にGD−GDR/pACYCDuet−1/E. blattae ATCC33430を植菌し、26℃で4時間振盪培養を行った。次に、遠心分離により菌体をペレットとした後、10%グリセリン溶液で4回菌体洗浄を行った。菌体洗浄を行ったGD−GDR/pACYCDuet−1/E. blattae ATCC33430菌体ペレットを10%グリセリン溶液80μlで懸濁、aldA/pUC18プラスミド溶液1μLを加え、0.1cmのエレクトロポレーションキュベットに移した。菌体懸濁液を入れた0.1cmのエレクトロポレーションキュベットをBio−rad社製ジーンパルサーにセットし、2.5kV,200Ω、25μFで印加した。印加後、菌体懸濁液にSOC培地1mLを添加し、クロラムフェニコールを終濃度50ppm及びアンピシリンを終濃度100ppmとなるように添加したLB寒天培地に菌体懸濁液を塗扶し、26℃で一晩培養を行った。得られた形質転換体の一つをGD−GDR/pACYCDuet−1/aldA/pUC18/E. blattae ATCC33430と命名した。なお、GD−GDR/pACYCDuet−1/aldA/pUC18/E. blattae ATCC33430からプラスミドを抽出し、電気泳動に供したところ、GD−GDR/pACYCDuet−1及びaldA/pUC18の分子量の位置にバンドを確認した。
〔実施例10 グリセリンデヒドラターゼ遺伝子とaldA遺伝子を導入したEsherichia blattaeを用いた発酵生産〕
実施例9で作成したGD−GDR/pACYCDuet−1/aldA/pUC18/E. blattae ATCC33430を、LB培地にアンピシリン100ppm、クロラムフェニコール50ppmを含む液体培地5mlで37℃にて16時間培養し、LB培地にアンピシリン100ppmとクロラムフェニコール50ppm、IPTG1mM、塩化コバルト・6水和物1000ppmを添加した培地50mlに全量接種し、37℃で48時間培養した。この培養液を遠心分離にかけ、培養液上清を回収した。以下記載の方法で培養液上清中の生成物の確認を行ったところ、生成物である3−ヒドロキシプロピオン酸のピークを7.9分の位置に確認することができた。
高速液体クロマトグラフィーでの分析条件:
使用カラム:YMC−pACK FA
流量:1ml/min
インジェクション量:10ml
溶離液:メタノール/アセトニトリル/HO=40/5/55(v/v/v)
内部標準:2−Hydroxy−2−methyl−n−butyricAcid
検出:UV400nm
培養上清100μLに内部標準液200μLを加えた。ヒドロキシカルボン酸ラベル化試薬(YMC社)の試薬A液200μL、試薬B液200μLを加え、よく混合した後、60℃、20分間処理した。ヒドロキシカルボン酸ラベル化試薬(YMC社)の試薬C液200μLを添加し、よく混合した。60℃、15分間処理後、室温まで冷ました後0.45mmフィルターに通し、LC分析サンプルとして供した。
本発明は、3−ヒドロキシプロピオン酸の製造に利用することができる。

Claims (9)

  1. 補酵素B12合成能を有する微生物に、外来のグリセリンデヒドラターゼをコードする遺伝子及びジオールデヒドラターゼをコードする遺伝子のうちの少なくとも1種と、外来のヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子とを導入した遺伝子組換え微生物。
  2. 糖をグリセリンに変換する酵素をコードする遺伝子をさらに導入した請求項1に記載の遺伝子組換え微生物。
  3. 宿主である上記微生物が、補酵素B12合成能を有する大腸菌近縁種であるEcherichia blattaeである請求項1又は2に記載の遺伝子組換え微生物。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の遺伝子組換え微生物を用いて、バイオマス資源由来の糖及びグリセリンのうち少なくとも1種を発酵させることによる3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
  5. 発酵を好気的条件下で行なうことを特徴とする請求項4に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法
  6. 外来のホスホトランスアシラーゼをコードする遺伝子と、外来のプロピオン酸キナーゼをコードする遺伝子とを、さらに導入した請求項1〜3のいずれか1項に記載の遺伝子組換え微生物。
  7. 請求項6に記載の遺伝子組換え微生物を用いて、バイオマス資源由来の糖及びグリセリンのうち少なくとも1種を発酵させることによる3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
  8. 発酵を嫌気的条件下で行なうことを特徴とする請求項7に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
  9. 補酵素B12合成能を有する微生物に、外来のグリセリンデヒドラターゼをコードする遺伝子及びジオールデヒドラターゼをコードする遺伝子のうちの少なくとも1種とを導入した遺伝子組み換え微生物と、
    補酵素B12合成能を有する微生物に、外来のヒドロキシアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子とを導入した遺伝子組換え微生物と、
    を用いて、バイオマス資源由来の糖及びグリセリンのうち少なくとも1種を発酵させることによる3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
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