以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。なお、図に開示する実施形態は本発明の一実施形態にすぎず、本発明は何等これに限定して解釈されるものではない。本明細書の記載に基づいて当業者であれば可能な設計変更は本発明の範囲内である。
図1は、実施形態1に係る人形の義眼の正面図(a)、側面図(b)及び分解側面図(c)である。義眼1は、眼球2と視線調整部3とからなる。眼球2は、前面の中心部に瞳4を有する。視線調整部3は、眼球2の後面であって、瞳4の中心を通る視線5の延長線から外れた位置に設けられる。瞳4は内側に虹彩6及び白色部7を有していてもよい。
本発明の義眼1においては、視線5の延長線から外れた位置に視線調整部3が設置される。従来の人形頭部内に固定するための義眼は、例えば視線と同一線上に凸部や調整用棒(視線調整に用いる)等を差し込むための孔が設けられており、例えば人形の視線を上下に向けようとする場合、義眼後方の下部及び上部のそれぞれに広く空間を確保する必要があった。一方、本発明の義眼1は、視線5の延長線から外れた位置に視線調整部3が設けられるため、視線5を上下左右に向けようとする際に、義眼後方の上下左右全てに空間を確保する必要がなく、人形頭部内の空間が非常に狭く、また、人形頭部内の空間に通じる開口部の位置が限定されている場合であっても、人形の微細な視線調整を容易かつ適確に行うことができる。
なお、本明細書中において、義眼の視線調整とは、義眼の視線調整のみならず、該視線調整に伴って、義眼の固定を調整すること、義眼を着脱することも含む。
義眼1の眼球2は、当業者に公知の手法を用いて製造することができ、その材質は特に限定されない。例えば、瞳4(さらに必要に応じて虹彩6及び白色部7)及び眼球2を、それぞれ、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリウレタン(PU)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエステル、アクリル(PMMA)、ナイロン、ABS、エポキシ、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、セルロース系プラスチック(アセテート)、生分解性プラスチック、エラストマー、シリコーン、各種ゴム、各種木材、各種金属(磁性体を含む)、各種粘土、ガラス等を用いて成形した後、眼球2に瞳4を接着、差し込み等により取付けることができる。瞳6を成形した後、眼球2を瞳4にインサート成形することも、眼球2を成型した後、瞳4を眼球2にインサート成型することもできる。シール状の瞳4を眼球2に貼り付けてもよいし、眼球2の表面に瞳4を印刷しても、描き目として描いてもよい。
眼球2の形状は球状、楕円状等であることができ、また、その大きさは、義眼1を固定しようとする人形頭部の大きさや該人形頭部に設けられた眼孔部の大きさに応じて適宜決定することが出来る。眼球2は半球状であってもよい。眼球2は、上記の形状が一部欠損した形状であってもよく、その表面であって瞳を外れた位置に平坦部又は凹部を有していてもよい。
瞳4が、人形の眼の輝き等を表現するよう白色部7を有する場合、図1(a)に示すように、瞳4が、上下非対称及び/又は左右非対称となる場合がある。その他、目蓋の影を表現した場合や、レンズの反射による上下の明暗の違いを表現した場合など、特に方向性のある瞳4を有する義眼1においては、視線5の延長線から外れた位置に視線調整部3が設置されることで、視線5と同一線上に視線調整部3が設置された場合と比較して、瞳4の方向性を把握しやすくなり、上下及び/又は左右の方向性を考慮した義眼1の視線調整を非常に容易に行うことができる。瞳4を視認することができない、側面や後方からの視線調整も、容易かつ適確に行うことができる。白色部7を有する瞳4は、当業者に公知の手法を用いて製造することができ、例えば特開平9−192356の記載を参照して製造することが出来る。
義眼1の視線調整部3は、義眼1の視線調整に適していれば、その形状、材質、数、構成は特に限定されない。形状としては、例えば、棒状、眼球2を底面とする円錐状、平板状等が挙げられ、好ましくは、固定の調整が行いやすいような、眼球2の後面から後方側に延びた形状である。この後方側に延びた形状は、直線状である必要はなく、湾曲していてもよいし、継ぎ目等を設けて先端部を折り曲げ可能としてもよい。また、材質としては、合成樹脂、ガラス、木材、金属、磁石等が挙げられるがこれらに限定されない。視線調整部3は、1つの義眼1に対し、1又は複数設けることができる。
眼球2と視線調整部3とは、同一素材で一体形成されていてもよいし、別素材又は同素材で個別に製造した後に、嵌め込み、接着剤による接着、ネジ止め、磁力による吸着等公知の手法で、視線調整部3を眼球2に固定してもよい。視線調整部3は、眼球2に対して着脱可能、回転可能としてもよく、視線調整時に視線調整部3を眼球2に取り付け、視線調整後は眼球2から外すことも出来る。例えば、眼球2の後面であって視線5の延長線を外れた位置に小孔を設け、これに視線調整時に適当な部材を差し込んで視線調整を行うこともできる。
市販の義眼に改変を加えて本発明の義眼1とすることもできる。例えば、眼球の後面の視線と同一線上に凸部を有する市販の義眼の凸部を、切断、ヤスリを用いる等して一部削り、その後、眼球の後面であって視線の延長線から外れた位置に、斜軸形状の弾性部材(例えばゴム、熱可塑性エラストマー、PVC、ABS樹脂等)を設置して、視線調整部3とし、本発明の義眼1とすることもできる。また、市販の義眼の眼球の後面であって視線の延長線から外れた位置に小孔を設け、適当な部材を視線に対して斜めに差し込んで視線調整部3とすることもできる。視線調整部3の眼球2への固定を補助する目的で、眼球2内部の一部又は全体に適切な素材を充填することもできる。
図1(b)に示すように、視線調整部3が、眼球2の後面から後方側に延びた形状である場合、視線調整部3の視線5に対する傾斜の角度は、視線調整しやすい角度であればよく、義眼1を固定しようとする人形頭部の形状によっても異なるが、例えば10°〜80°、好ましくは20°〜70°、より好ましくは30°〜60°、例えば45°程度とすることができる。
図2は、実施形態2に係る人形の義眼1の分解側面図(a)及び先端部8が折り曲げ可能に形成された視線調整部3(b)を示す。図2(b)の視線調整部3は、図2(a)の視線調整部3と交換可能である。実施形態2においては、図2(a)に示すように、眼球2は前面部9及び後面部10に分割され、これらを接着、嵌め込み等、当業者に公知の適切な手法でつなぎ合わせて眼球2とすることができる。義眼1は、実施形態1で記載した手法に準じて製造することができるが、前面部9として市販の義眼を分割したものを用い、後面部10として、市販の義眼1に上記のような改変を加え分割したものや、前面部9に適合するよう新たに製造したものを用い、これらをつなぎ合わせて本発明の義眼2とすることもできる。図2(a)に示すような、眼球2が前面部9及び後面部10に分割可能な義眼1においては、様々な前面部9(例えば、瞳4の色、柄や材質の異なる前面部9)を複数用意して交換することができるため、簡便に人形の眼を需要者の好みに合わせてカスタマイズすることができる。また、図2(a)に示すように、義眼1は、着脱可能な視線調整部3を固定するための小孔(いずれも視線5の延長線から外れた位置に設けられる)を複数有してもよい。
図2(b)に示すような、先端部8が折り曲げ可能に形成された視線調整部3は、継ぎ目等を設けて折り曲げ可能としてもよい。なお、先端部8は、視線調整部3において、眼球2と接しない側の先端を含む部分を指す。視線調整部3において、先端部8が折り曲げ可能であると、例えば人形頭部内の空間が非常に狭い場合及び/又は人形頭部内の空間に通じる開口部が狭く、義眼に対して限定された方向に設けられている場合でも、視線調整時には視線調整に好都合なよう、視線調整部3を適度な長さとすることができ、また、視線調整部3が折り曲がることによって義眼1の可動範囲が拡大するため、義眼1の微細な視線調整をさらに容易に行うことができる。なお、先端部8を折り曲げ可能とするための方法、折り曲げ箇所の数などは特に制限されない。
図3は、実施形態3に係る義眼1の分解側面図を示す。(a)〜(c)は、それぞれ実施形態3の異なる態様を示す。図3に示すように、眼球2が前面部9と後面部10とに分割されている場合、前面部9が瞳4を有し、後面部10が視線調整部3を有する限り、分割は、眼球2の正中線以外であってもよく、例えば図3(b)に示すように眼球2を側面から見た際に斜めに分割されていてもよい。また分割面も、平面に限られず、図3(b)及び(c)に示すように、凹凸を設けた面や、曲面とすることで、前面部9に対する後面部10の回転を防ぐことも可能である。前面部9と後面部10とを連結する連結部11の形状や数は特に制限されず、例えば図3(a)においては、連結部11を複数設けることで、前面部9に対する後面部10の回転を防ぎ、より強く安定した固定を可能としている。
図4は、実施形態4に係る人形の義眼1の一部断面側面図(a)及び一部断面分解側面図(b)を示す。実施形態4は、特に市販の義眼をベースに、本発明の義眼2とした形態である。市販の義眼の瞳と相対向する部分を切除して前面部9とし、該前面部9に合わせた大きさの後面部10を、視線5の延長線から外れた位置に視線調整部3を有するよう形成し、連結部11を介して前面部9と後面部10をつなぎ合わせて義眼1とする。前面部9と後面部10とを連結する連結部11の形状は、前面部9及び後面部10の材質や形状に合せて適宜変更することができ、例えば図4のように中空部材で前面部9が成形されている場合、可撓性があり摩擦係数の高い素材(例えばゴム、熱可塑性エラストマー、PVC、ABS樹脂等)で連結部11を後面部10と連続して成形し、前面部9へ差し込むことで、着脱可能かつ充分な強度を有する連結が可能となる。
図5は、実施形態5に係る義眼1の側面図である。(a)及び(b)はそれぞれ実施形態5の異なる態様を示す。図5(a)に示す実施形態5の義眼1は、眼球2の表面であって瞳4を外れた位置に1つの平坦部32を有し、図5(b)に示す実施形態5の義眼1は、眼球2の表面であって瞳4を外れた位置に複数の凹部33を有している。これらの平坦部32又は凹部33は、好ましくは、義眼1が人形頭部12内に固定され、所望の方向に視線調整される際に眼孔13から覗かない位置に設けられる。実施形態5の義眼1は、図5に示すように、必要に応じて補助部材25(例えば、シリコーン等の可撓性素材や練り消しゴム等の可塑性素材等であってもよい)を用いて人形頭部12内に固定される。このように、眼球2の瞳4を外れた位置に平坦部32又は凹部33を有する義眼1は、球面又は楕円球面の眼球2を有する義眼1と比較して、眼球2が滑らず、補助部材25等により係止しやすく、より安定した義眼1の固定が可能になる。
以上の実施形態によれば、人形頭部内に固定される義眼1であって、前面に瞳4を有する眼球2と、眼球2に設けられ、眼球2の視線5を調整する視線調整部3と、を有し、視線調整部3は、眼球2の後面であって眼球2の視線5延長線から外れた位置に設けられていることを特徴とする義眼1が提供される。
該義眼1においては、視線調整部3が人形の視線5と同一線上にはないため、上下左右に視線5を調整したい場合であっても、義眼1後方の空間の上下左右全てを調整に用いる必要がなくなり、人形頭部内の空間が非常に狭い場合及び/又は人形頭部内の空間に通じる開口部が狭く、義眼1に対して限定された方向に設けられている場合であっても、義眼1の微細な視線調整を行うことができる。また、上下非対称及び/又は左右非対称の瞳4を有する義眼1のように、瞳4の方向性を考慮した義眼1の視線調整が必要となる場合であっても、視線調整部3が視線5延長線から外れた位置に設けられているため、瞳4の方向性が把握しやすく、瞳4の方向性を確認しながらの視線調整を容易かつ適確に行うことができる。
以上の実施形態によれば、また、視線調整部3が、眼球2の後面から後方側に向けて延びて設けられており、視線5延長線に対して角度を有することを特徴とする、前記の義眼1が提供される。該義眼1においては、視線調整部3が、より視線調整に適した形状であり、微細な義眼1の視線調整をさらに容易かつ適確に行うことができる。
以上の実施形態によれば、また、視線調整部3の先端部8が、折り曲げ可能に形成されていることを特徴とする、前記の義眼1が提供される。該義眼1においては、例えば人形頭部内の空間が非常に狭い場合及び/又は人形頭部内の空間に通じる開口部が狭く、義眼1に対して限定された方向に設けられている場合でも、視線調整時には視線調整に好都合なよう、視線調整部3を適度な長さとすることができ、また、視線調整部3が折り曲がることによって可動範囲が拡大するため、微細な義眼1の視線調整をさらに容易かつ適確に行うことができる。
以上の実施形態によれば、また、眼球2が、瞳4を外れた位置に1以上の平坦部又は凹部を有することを特徴とする、前記の義眼1が提供される。該義眼1においては、人形頭部内に義眼1を固定する際に、眼球2表面の平坦部又は凹部による係止を利用することができるため、より安定した固定が可能となる。
以上の実施形態によれば、また、眼球2が、前面部9と後面部10とに分割可能であることを特徴とする、前記の義眼1が提供される。該義眼1においては、例えば眼球2の前面部9を複数用意して交換することで、簡便に人形の眼を需要者の好みに合わせてカスタマイズすることができる。また、後面部10を複数用意し、様々な固定や視線調整の態様に合わせて交換することもできる。
次に、図6及び7を用いて、上記の義眼1を人形頭部12の内部に固定する実施形態を説明する。
図6は、実施形態1の義眼1を人形頭部12の内部に固定した側面断面図であり、(a)は上方(約20°)に視線調整し、(b)は下方(約30°)に視線調整した状態を示す。人形頭部12は、眼の位置に開口した眼孔13を有し、ソフトビニル素材やゴム、熱可塑性エラストマーなどの弾性素材によって内部が一部空間を有するよう形成され、内部空間が開口部14に通じている。さらに、義眼1を押し込んで固定できるよう、人形頭部12の内部には、眼孔13の位置に合わせて義眼固定部15が凹曲面に形成される。視線調整部3の先に、視線調整部3を動かすための棒状部材16を接続し、開口部14から義眼1を視線調整する。
図6に示すように、義眼1において、視線調整部3が視線5の延長線を外れて設けられることにより、人形頭部12の内部の空間が狭く、開口部14が狭く、義眼1に対して限定された方向に設けられている場合であっても、義眼1の視線調整が可能となる。たとえば、人形頭部12を前後に大きく分割するなど、人体の構造とそぐわない部分に開口部14を設ける必要もない。特に、人間の首に相当する部分のみを開口部14とすれば充分に義眼1の視線調整が可能であり、この開口部14は人形頭部12を人形胴体に設置した際に首部を介して隠し、目立たないようにすることも可能なため、美観上非常に好ましい。仮に、従来の義眼のように、視線調整部3が視線5の延長線上に設けられている場合、図6に示すような狭い開口部では、義眼1の視線調整は困難である。なお、図6(a)(上方20°)及び図6(b)(下方30°)の、上下合計50°の範囲は、実際の人間において視線が可動する範囲をカバーする。
図6に示すように、義眼1の視線調整部3が、眼球2の後面から後方側に延びた形状である場合、視線調整部3の視線5に対する方向は、義眼1の視線調整が行いやすい方向であれば制限されないが、より簡便に視線調整を行うという観点から、好ましくは義眼1を固定しようとする人形頭部12における、眼孔13から開口部14への方向を考慮して設けられる。
人形頭部12及び義眼固定部15の材質及び形状は特に制限されず、弾性素材ではなく硬い素材で成形してもよいし、義眼固定部15を一体成形せず、個別に成形し、中空状に成形した人形頭部12の内部に固定してもよい。粘着素材を義眼固定部15として用いて、人形頭部12の内部に貼り付けてもよい。人形頭部12において、眼孔13の周囲には必要に応じて睫毛を取付けることもできる。
棒状部材16は、視線調整部3に接続可能で開口部14から視線調整部3を動かすことのできる形状であれば特に制限されず、例えば折り曲げ可能に形成してもよい。また、複数の棒状部材16を用意し、これらを作業のし易さに応じて交換することも可能である。棒状部材16の視線調整部3への連結方法は特に制限されず、例えば棒状部材16を、視線調整部3に合わせた筒状に形成して視線調整部3に嵌め合わせてもよいし、磁力やネジ止めにより連結してもよい。
図7は、実施形態2に係る人形の義眼1を人形頭部12の内部に固定した側面断面図であり、(a)は上方(約20°)に視線調整し、(b)は下方(約30°)に視線調整した状態を示す。人形頭部12は、眼の位置に開口した眼孔13を有し、ソフトビニル素材、熱可塑性エラストマー、ゴムなどの弾性素材によって内部に空間を有するよう形成され、首と接する部分に曲面状に設けられた膨出部17の開口部14に内部空間が通じている。さらに、義眼1を押し込んで固定できるよう、人形頭部12の内部には、眼孔13の位置に合わせて義眼固定部15が凹曲面に形成される。先端部8が折り曲げ可能に形成された視線調整部3の先に、視線調整部3を動かすための棒状部材16を接続し、開口部14から義眼1を視線調整する。視線調整部3の先端部8が折り曲げ可能であると、図6と図7との比較からも明らかなように、開口部14がより狭くても、義眼1を視線調整可能である。なお、図7に示すように、膨出部17に設けられた開口部14は、人形頭部12が人形胴体に連結した際には表面に現れないようにすることができる。
以上の実施形態によれば、人形頭部12であって、義眼1と、義眼1が固定される義眼固定部15と、を有し、義眼1は、前面に瞳4を有する眼球2と、眼球2に設けられ、眼球2の視線5を調整する視線調整部3と、を有し、視線調整部3は、眼球2の後面であって眼球2の視線5延長線から外れた位置に設けられていることを特徴とする、人形頭部12が提供される。
該人形頭部12においては、義眼1の視線調整部3が人形の視線5と同一線上にはないため、上下左右に義眼1の視線5を調整したい場合であっても、義眼1後方の空間の上下左右全てを調整に用いる必要がなくなり、人形頭部12内の空間が非常に狭い場合及び/又は人形頭部12内の空間に通じる開口部14が狭く、義眼1に対して限定された方向に設けられている場合であっても、義眼1の微細な固定の調整を行うことができる。また、上下非対称及び/又は左右非対称の瞳4を有する義眼1のように、瞳4の方向性を考慮した義眼1の視線調整が必要となる場合であっても、視線調整部3が視線5延長線から外れた位置に設けられているため、瞳4の方向性が把握しやすく、瞳4の方向性を確認しながらの調整を容易かつ適確に行うことができる。
以上の実施形態によれば、また、前記視線調整部3は、前記視線5延長線に対して角度を有するよう、前記眼球2の後面から後方側に向けて延びて設けられており、その先端部8が折り曲げ可能に形成されていることを特徴とする、前記の人形頭部12が提供される。該人形頭部12においては、視線調整部3が、より視線調整に適した形状であり、例えば人形頭部12内の空間が非常に狭い場合及び/又は人形頭部12内の空間に通じる開口部14が狭く、義眼1に対して限定された方向に設けられている場合でも、視線調整時には視線調整に好都合なよう、視線調整部3を適度な長さとすることができ、また、先端部8が折り曲がることによって視線調整部3の可動範囲が拡大するため、義眼1の微細な視線調整をさらに容易かつ適確に行うことができる。
以上の実施形態によれば、また、前記視線調整部3が、視線調整部3を動かすための棒状部材16を接続可能なように構成されていることを特徴とする、前記の人形頭部12が提供される。該人形頭部12においては、視線調整時には棒状部材16を視線調整部3に接続し、視線調整後にはこれを視線調整部3から外すことができ、例えば人形頭部12内の空間が非常に狭い場合及び/又は人形頭部12内の空間に通じる開口部14が狭く、義眼1に対して限定された方向に設けられている場合でも、義眼1の視線調整をさらに容易かつ適確に行うことができる。
次に、図8〜12を用いて、本発明の義眼を特に押付機構を用いて、顔部と後頭部とが着脱可能な人形頭部の内部に固定する、実施形態6を説明する。図8は、実施形態6に係る人形頭部の顔部を示す側面断面図(a)(義眼中心面で切断)及び一部省略正面断面図(b)である。図9は、実施形態6に係る人形頭部の顔部及び取り外した義眼を示す、真上からの図である。図10は、実施形態6に係る人形頭部の顔部内部を示す斜視図である。図11は、実施形態6に係る人形頭部の顔部における義眼の視線調整を示す、正面図(a1、b1)、側面図(c1)、真上からの図(a2)、及び側面断面図(b2、c2)である(a:左方視線、b:下方視線、c:上方視線)。図12は、実施形態6に係る人形頭部の顔部と後頭部との接合を示す斜視図である。
図12に示すように、人形頭部12は、顔部18と後頭部19とから構成される。図8に示すように、顔部18には、両眼の位置に眼孔13が貫通し、その内部周辺に眼球2の形状に適合する凹曲面として、義眼固定部15が形成される。義眼固定部15の下部近傍に接続して、内板20が形成される。図9に示すように、内板20には、一端が開口したスリット21が設けられ、スリット21の内部には、嵌合凹部22が設けられている。内板20上であってスリット21を外した位置に、両眼孔13の後方に延びる設置溝23が設けられ、その中に押付機構24が設置される。左右それぞれの義眼1の瞳4が眼孔13から覗くよう、義眼1の視線調整部3を外れた位置で押付機構24が義眼1を義眼固定部15に押し付けて固定する。また、補助部材25は、義眼1及び押付機構24の固定を補助する。
図12に示すように、後頭部19には嵌合凸部26が形成される。嵌合凹部22と嵌合凸部26が嵌合して、顔部18と後頭部19が接合面27を介して接合し、受部28を有する人形頭部12を形成する。後頭部19の後頭部外縁29は、人形頭部12の表面に顔部8と後頭部19との接合面27に沿って線状に現れる。後頭部外縁29は人の毛髪の生え際を模した線を描いて人形頭部12を垂直下方に伸び、受部28に突き当たる。人形頭部12の受部28が、人形胴体の上部に位置する首部30の上端に設けられた膨出部17を、回転自在に受けるよう形成されることにより、人形頭部12が人形胴体に対して自由に可動するよう固定される。
図8〜12に示すように、人形頭部12内において、押付機構24の押付力により義眼1を義眼固定部15に押し付けて固定すると、義眼1の着脱を繰り返す場合や、片眼ずつの繊細な視線調整を行う場合等に安定して視線調整を行うことができるため都合がよい。また、この押付機構24による義眼1の固定を内板20上で行うことで、義眼1の落下を防ぎ、さらに安定した視線調整を行うことができる。
顔部18及び後頭部19は、任意の材料を用いて製造することができ、内板20は、義眼1及び押付機構24がその上に設置されるに耐え得る強度を有する任意の材料を用いて製造することができる。これらの材料としては、例えばポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリウレタン(PU)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエステル、アクリル(PMMA)、ナイロン、ABS、エポキシ、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、セルロース系プラスチック(アセテート)、生分解性プラスチック、エラストマー、シリコーン、各種ゴム、各種木材、各種金属(磁性体を含む)、各種粘土、ガラス等が挙げられる。内板20は、顔部18と一体成形してもよいし、顔部18と個別に成形して顔部18内部に接着剤やネジ止め等の手法を用いて接続してもよい。
図8〜12に示す実施形態6において、押付機構24は、義眼保持部24aと動力部24bと固定部24cとからなる。
義眼保持部24aが視線調整部3を外れた位置で、義眼1を保持する。ここで、義眼1においては、視線5の延長線を外れた位置に視線調整部3が設けられているため、眼球2の後面部10の、視線5の延長線上も含む広い面積で、義眼保持部24aが義眼1に接触することができる。義眼固定部15及び義眼保持部24aの義眼1と接する面には、必要に応じ、摩擦力を高めるための加工や、義眼1の汚損を防止するための加工などを施すことができる。例えば、エンボス加工や薄いゴム膜の塗布等により、義眼1との接触面での摩擦力を高め、人形頭部12内における義眼1の固定を強化することができる。また、義眼1がガラス、アクリル、シリコーンなどの傷つきやすい材料で成形されている場合、義眼固定部15及び義眼保持部24aの義眼1と接する面に、クッション材を貼付けたり挿み込んだりすることにより、義眼1を保護することができる。視線5の延長線上も含む広い面積で、義眼保持部24aが義眼1に接触することは、上記の加工を施すことを容易にし、また該加工の効果も確実に得ることができる。
動力部24bは、義眼保持部24aと固定部24cとを連結し、その材質や構造は、押付機構24において押付力を発生させ得るものであれば限定されない。例えば、バネやゴム等の弾性部材、シリンダー状部材、カシメ部材、楕円状の円盤を回転させ端点の距離を変更させて固定する部材(後述の実施形態9参照)等、様々な材質や構造のものを採用することができる。例えば、シリンダー状部材を押付機構24として用いる場合、シリンダーを伸縮することによって押付力が生じるが、この伸縮の手法も特に制限されず、人力、機械的作用、電気的作用等、様々な手法を用いて行うことができる。押付力の強さは義眼1の固定に適するよう適宜調整する。
固定部24cは、押付機構24を人形頭部12の内部に固定する。固定部24cは、人形頭部12や、内板20と一体形成してもよい。押付機構24の固定又は固定の補助に磁力を用いることもできる。
押付機構24の押付力を利用して、義眼1の繰り返しの着脱や微細な視線調整をより容易に行うことができる。特に押付機構24の動力部24bとして図8に示すように弾性部材を用いると、義眼1の視線調整部3を利用して、一工程で義眼1の着脱が可能であり好都合である。すなわち、義眼1を着脱する際には、視線調整部3を持ち、義眼1を押し込む又は引き出すと同時に動力部24bが伸縮して義眼保持部24aが前後に動き、義眼保持部24aのわずかな移動で義眼1の着脱を行うことができる。
義眼1の固定や押付機構24による義眼1の固定をより確実にするため、補助部材25を用いることができる。補助部材25の形状及び数は特に限定されず、例えば、図9及び10に示すように、くの字状に成形し、これを内板20に設けたスリット21や内板20自体に設けた孔を用いて固定し、押付機構24が浮かびあがらないよう、上から補助固定することが出来る。そのほか、後述の実施形態に例示するように、様々な形状の補助部材25を用いることができる。
次に、図11を用いて、実施形態6の人形頭部12における義眼1の視線調整について説明する。図11は、人形頭部12の顔部18を示す。(a1)及び(a2)は、右目の視線5を左方向に30°、左目の視線5を左方向に50°、視線調整部3に接続した棒状部材16を用いて調整した状態を示す。(b1)及び(b2)は、左右ともに視線5を下方向に30°、棒状部材16を用いて調整した状態を示す。(c1)及び(c2)は、棒状部材16を用いて左右ともに視線5を上方向に20°調整した状態を示す。
図11(b2)に示すように、眼球2の球面を受ける形に押付機構24(の義眼保持部24a)が形成されており、視線5の可動が非常に容易であるばかりでなく、視線5を調整しながらも押付機構24の押付力が義眼1に働いて義眼固定部15に押し付けているため、目的の視線調整を簡便かつ確実に行うことができる。棒状部材16は、視線調整後に視線調整部3から取り外すことができる。
次に、図12を用いて、実施形態6の人形頭部12における、顔部18と後頭部19との接合を示す。実施形態6の人形頭部12においては、顔部18の内部に一端が開口したスリット21とその内側の嵌合凹部22を設け、後頭部19に嵌合凸部26を設けることで、スリット21の開口幅が若干変化することにより生じる可撓性を、顔部18と後頭部19との接合に利用することができる。これにより、顔部18と後頭部19とが過度の負荷なく、それぞれ容易に着脱可能となり、また、繰り返しの着脱にも耐え得る。嵌合凹部22及び嵌合凸部26の形状は、これらが容易に顔部18と後頭部19とを着脱可能に接合する限り制限されないが、成形、着脱の容易性、繰り返しの着脱に対する耐久性等の観点からは、嵌合凸部26は曲面を有する球状又は楕円球状に形成し、嵌合凹部22は該球状又は楕円球状に対応する孔として形成することが好ましい。
また、図12等から明らかなように、顔部18と後頭部19との接合面27は、人形頭部12と人形胴体とが接触する受部28を通る面となるよう形成され、後頭部外縁29が、人の毛髪の生え際の線を模して形成されている。従って、顔部18及び後頭部19との接合面27(開口部14)を広くとることが可能になり、図11(a1)及び(a2)から明らかなように、顔部18の内部の義眼1を視線調整する場合に、視線調整部3や棒状部材16が顔部18の内壁と干渉することなく、十分な可動範囲を確保することができる。また、顔部18の内部空間を広く確保することも可能となり、繊細かつ適確な作業が非常に行いやすいという利点を有する。さらには、結い上げる日本髪、ツインテイル、刈り上げ、ベリーショート、ショートボブ等、人形頭部12を後方側から見て生え際が露出する髪型を再現しようとする場合であっても、後頭部外縁29が人の毛髪の生え際の線を模して形成されているため、美観上の問題が生じず、また、首部30を広く露出することもできる。
実施形態6に係る人形頭部12は、顔部18及び後頭部19がそれぞれ独立に着脱可能であるから、これらをそれぞれ複数用意して需要者の好みに応じて自由に組み合わせることができる。例えば、人を模した人形頭部12であれば、顔部18として、喜怒哀楽様々な表情を有する顔部18、多様な化粧を施した顔部18、日焼けした顔色を有する顔部18、変身前後の顔部18、異なる人物の顔部18等を用意することができ、後頭部19として、様々な髪型を有する後頭部19を用意することができる。後頭部19には、必要に応じ、当業者に公知の手法を用いて毛髪様材料等を付着することもできる。
また、図12に示すように、人形頭部12の受部28は、首部30の膨出部17を回転自在に受けるよう形成されているため、人形頭部12は、首部30に対して上下方向、左右方向及び斜め方向のいずれにも自在に可動し、多様な姿勢をとることが可能である。
以上の実施形態によれば、義眼固定部3に義眼1を押し付けて固定するための押付機構24を有し、押付機構24は、義眼1の視線調整部3を外れた位置を押し付けることを特徴とする、前記の人形頭部12が提供される。該人形頭部12においては、押付機構24による押付力により、義眼1が容易かつ適確に、また、左右それぞれ個別に視線調整可能に固定される。さらに、接着剤等を用いることなく義眼1が人形頭部12内に着脱可能に固定され、他の人形頭部12への義眼1の転用も容易である。また、義眼1において、視線調整部3が視線5延長線から外れた位置に設けられており、義眼1後面において、視線5延長線上を含む広い面積で押付機構24が義眼1を押し付けて固定することが可能なため、より安定した固定が可能となる。
以上の実施形態によれば、また、人形頭部12が顔部18と後頭部19を有し、顔部18は、義眼固定部3の下部近傍に接続された内板20と、内板20上に形成され、一端が開口したスリット21と、スリット21の内側に形成された嵌合凹部22と、を有し、後頭部18は、嵌合凸部26を有し、押付機構24は内版20上に設けられ、嵌合凸部26がスリット21の嵌合凹部22に嵌合することによって、顔部18と後頭部19が着脱可能に接合することを特徴とする、前記の人形頭部12が提供される。該人形頭部12においては、内部に形成された内板20上で義眼1が固定されるため、より安定した義眼1の固定ができ、視線調整の際に義眼1が落下して破損することを回避することもできる。また、義眼1のみならず、人形頭部12の顔部18及び後頭部19も繰り返し着脱可能であるため、人形の義眼1、顔部18及び後頭部19を複数用意すれば、眼、顔及び髪を自由に組み合わせ、需要者の好みに応じて簡便にカスタマイズすることができる。
次に、図13及び14を用いて、上記の押付機構24が、人形頭部12の内部において、磁力で固定される実施形態7を説明する。図13に示す人形頭部12において、(a)は上方20°に視線調整した状態を示し、(b)は、下方30°に視線調整した状態を示す。(c)は、棒状部材16を視線調整部3に接続して、義眼1を取り外した状態を示す。図14は、義眼1を人形頭部12内部に固定するための機構の分解図である(a:側面図、b:それぞれの部品を真上から見た図)。
図13に示すように、人形頭部12の眼孔13の周囲に、義眼1の形状に合わせて義眼固定部15が形成される。人形頭部12内において、眼孔13の下部近傍から顎に向かう平面上に、金属で形成された内板20が固定され、押付機構24は、スライド可能な状態で内板20上に設置される。詳細には、固定部24cが内板20の顎側に固定され、義眼保持部24aの一部は磁石31で形成されている(磁石31が埋め込まれている)ため、押付機構24は、金属で形成された内板20に磁力により吸着すると同時に、下方向からの押付力によって義眼1を保持する。
義眼1の視線調整部3は、眼球2の後面から後方側に向けて延びて設けられ、折り曲げ可能な金属製の先端部8を有する。金属製の先端部8を義眼保持部24aの磁石31に吸着させたまま視線5を調整してもよいし、視線5の調整時には先端部8を磁石31に吸着せず、調整後に先端部8を折り曲げて磁石31に吸着してもよい。義眼1の視線の方向の変化に対応して、先端部8の多様な角度での吸着が可能となるよう、義眼保持部24aは一部半球形状に形成されている。
実施形態7においては、押付機構24が磁力により内板20に吸着するため、人形頭部12の内部の狭い空間にも、押付機構24が傾いたり外れたりすることなくコンパクトに固定できる。磁力による吸着は、垂直方向の吸着力は強く、水平方向へのスライドは行いやすいという特性を有するため、押付機構24が内板20にスライド可能な状態で吸着し、押付力による義眼1の固定に非常に都合がよい。
磁力による吸着は、典型的には磁石と金属との吸着を用いることができるが、その材質は磁力による吸着が可能な材質の組み合わせであれば特に限定されない。また、これらの設置場所も、所望の磁力による吸着が得られる限り特に限定されず、例えば、内板20を磁石で成形し、これに磁力により吸着させる押付機構24を金属で成形してもよく、成形の容易性を考慮して適宜望ましい構成を選択することができる。
実施形態7においてはまた、視線調整部3の先端部8が、人形頭部12の内部に固定されるため、義眼1の人形頭部12の内部への固定がより安定するのみならず、人形頭部12の内部において、折り曲げ可能な視線調整部3の先端部8が、視線調整時以外の場合に意図に反して移動して調整後の視線がずれることを防ぐことができる。例えば、人形頭部12を大きく動かした際(頭を振るなど)、折り曲げ可能な視線調整部3は長いために可動しやすく、義眼1の視線5もずれやすくなるが、先端部8を人形頭部12の内部で固定することにより、このずれを防ぐことができる。先端部8を人形頭部12の内部に固定する方法は、特に制限されず、粘着による固定、帯状の弾性部材で付勢する等、様々な手法を用いることができる。義眼1の視線5の方向に応じて、先端部8の人形頭部12内における位置も若干変化するため、このような若干の位置変化も許容し得る固定(例えば磁力による固定)が好ましい。
次に、図15を用いて、上記の押付機構24が、人形頭部12の内部において、磁力で固定される他の形態である実施形態8を説明する。図15は、実施形態8に係る人形頭部12の側面断面図であり、(a)〜(c)はそれぞれ実施形態8の異なる態様を示す。また、(a)は上方視線、(b)は下方視線、(c)は義眼1を取り外した様子を示す。実施形態8は、実施形態7の変形例である。人形頭部12内における空間は、眼孔13の上部が、空間の天井の水平面に接するよう形成され、水平面の眼孔13から遠い位置に金属で形成された内板20が固定され、押付機構24は、スライド可能な状態で内板20上に設置される。詳細には、固定部24cが内板20の眼孔13から最も遠い位置に固定され、義眼保持部24aの一部は磁石31で形成されている(磁石31が埋め込まれている)ため、押付機構24は、金属で形成された内板20に磁力により吸着すると同時に、水平方向からの押付力によって義眼1を保持する。また、人形頭部12内の眼孔13の下部近傍から顎に向かって、補助部材25が固定され、これが下方向から義眼1の固定を補助する。その他の構成に関しては、実施形態7と同様である。
なお、図15(a)〜(c)においては、異なる形状の補助部材25を用いている。図15においては、いずれの補助部材25も、左右両義眼1それぞれの下部を保持するよう、2つ設置されているが、左右両義眼1に共通する1つの補助部材25を設置してもよい。図15(a)は、短い補助部材25を設置した例であり、人形頭部12内部の空間をより広く確保することができる。図15(b)は、逆に長い補助部材25を設置した例であり、人形頭部12の内部へのネジ止め等による補助部材25の固定を容易に行うことができる。図15(c)は、義歯を人形頭部12の内部に有する態様であり、補助部材25は、義眼1の固定補助と義歯の固定補助を兼ねる。
図15に示すように、実施形態8の人形頭部12においては、義眼1の視線調整のための機構が義眼1の上方に配置され、しかも磁力による吸着で落下しないため、図15(c)に示すように、口の周辺に義歯等の部材を取付けたい場合に好都合である。また、人形頭部12において、内部に通じる開口部14が首側に設けられている場合に、首側の空間が広く確保できるため、開口部14からの視線調整等がより行い易い。
以上の実施形態によれば、内部に接続された内板20を有し、前記押付機構24と内板20が磁力により吸着することを特徴とする、前記の人形頭部12が提供される。該人形頭部12においては、磁力により、押付機構24が内板20上でスライド可能に設置され、簡便かつ広い空間を必要とせずに、押付機構24を人形頭部12内に設けることができる。
以上の実施形態によれば、また、前記視線調整部3の折り曲げ可能な先端部8は、人形頭部12の内部に固定可能であることを特徴とする、前記の人形頭部12が提供される。該人形頭部12においては、視線調整部3が人形頭部12内部に固定されるため、視線調整時以外の場合には、視線調整部3が振動等によって動いて義眼1がずれることを防ぐことができる。
以上の実施形態によれば、また、前記視線調整部3は、前記視線5延長線に対して角度を有するよう、前記眼球2の後面から後方側に向けて延びて設けられており、その先端部8が折り曲げ可能に形成され、先端部8が磁力により前記押付機構24に固定可能であることを特徴とする、前記の人形頭部12が提供される。該人形頭部12においては、磁力により、簡便かつ広い空間を必要とせずに、視線調整部3を人形頭部12内に固定することができる。
次に、図16を用いて、押付機構24として楕円状部材を使って人形頭部12内部で義眼1を視線調整可能に固定する、実施形態9を説明する。実施形態9は、実施形態6の変形例であり、顔部18内部に設けられた内板20上に、義眼固定部15と連続した設置溝23が形成される。設置溝23の中には、押付機構24である楕円球が回転可能に設置され、楕円球の回転により生じる押付力によって、義眼1の視線調整部3を外れた位置で押し付けて、義眼1を固定する。図15(a)及び(b)は、異なる形状の楕円状部材を示す。楕円球の押付機構24は、好ましくはゴム、シリコーン、熱可塑性エラストマーなどの弾性素材によって成形され、一部に義眼1の固定の安定性を高めるために、凹みが設けられている。図16から明らかなように、押付機構24として楕円状部材や偏平形状板を用いると、押付機構24を設置するために必要な空間がより狭くなり得る、簡便に採用できる等の利点がある。
次に、図17〜19を用いて、眼球2に平坦部32又は凹部33を有する義眼1と、該義眼1の形状と合わせた形状の義眼保持部24aを有する押付機構24を用いて、視線5を所望の方向に固定維持する、実施形態10を説明する。実施形態10は、実施形態6の変形例である。
図17は、実施形態10に係る顔部18、義眼1及び押付機構24を真上からみた図である。(a)は、実施形態6と同様の義眼保持部24aを有する押付機構24及び実施形態10に係る義眼1を示す。(b)〜(d)は、それぞれ、前方視線(b)、左方視線(c)又は右方視線(d)で義眼1を固定維持するための義眼保持部24aを有する押付機構24及び対応する視線方向の義眼1を示す。(e)は、(d)の押付機構24及び義眼1を右目に固定した顔部18の内部を示す。図18は、実施形態10において使用可能な、義眼1の後面部10を平坦部32等球面でない形状に変更可能な構造とした義眼1を示す。図17(b)〜(d)に示すように、眼球2に平坦部32を有するよう形成した義眼1を所望の方向に視線調整した状態に合わせて、押付機構24の義眼保持部24aを形成することで、視線5の固定が可能である。図17(a)は、義眼1として眼球2に平坦部32を有する義眼1を用いても、実施形態6と同様の形状の義眼保持部24aを有する押付機構24を用いて、視線調整可能な状態で義眼1を固定することができることを示す図である。平坦部32(及び凹部33)は、眼球2上に凸部として現れないため、義眼1と接する面である義眼保持部24aが凹凸のない曲面であれば、視線調整の際に義眼1と義眼保持部24aとが干渉しない。したがって、図17(a)〜(d)に示すような様々な義眼保持部24aを用意し、交換することで、視線を所望の方向に固定維持することも、視線調整可能に固定することもできる。
図19は、実施形態10に係る義眼2及び押付機構24の他の態様を示す側面図である。(a)及び(b)はそれぞれ異なる態様を示す。実施形態10における義眼1は図5に示した実施形態5と同様であり、図19(a)は、眼球2に1つの平坦部32を有する義眼1と、該平坦部32と係止する係止部24dを有する押付機構24を示し、図19(b)は、眼球2に複数の凹部33を有する義眼1と、任意の1つの該凹部33と係止する係止部24dを有する押付機構24を示す。いずれの態様においても、係止部24dは、押付機構24上であって、義眼1の眼球2と接する面上に形成される。係止部24dは、押付機構24と一体形成されていてもよいが、押付機構24に対し取り外し可能とすれば、押付機構24を、眼球2に平坦部32又は凹部33を有する義眼1(実施形態5)に対しても、眼球2が球面の義眼1(実施形態1〜4)に対しても用いることができるため、好ましい。また、図19(b)に示すように、眼球2に複数の凹部32(又は平坦部32)を有する義眼1においては、1種の係止部材24dを有する押付機構24を用いて、複数の所望の方向に視線を向けて義眼1を固定維持することが可能である。
図20に示す実施形態11は、実施形態6の変形例であり、補助部材25としてテーブル状(コの字状)の部材を採用し、内板20上にこの補助部材25を固定するための差し込み孔を複数(例えば4つ)設ける例である。
図21に示す実施形態12は、実施形態6の変形例であり、補助部材25を後頭部19側に設けた例である。顔部18と後頭部19とが接合した際に補助部材25が押付機構24を補助固定する。図21に示した補助部材25は棒形状であるが、義眼1及び押付機構24の固定を補助する形状であれば、補助部材25の設置手段、設置位置及び形状は特に制限されず、例えば、図21に示すように、後頭部19の上部に設けた孔に補助部材25を着脱可能に差し込むこともできる。
図22は、実施形態13に係る人形頭部12の内部を示す断面図である。図22に示すように、人形頭部12の内部は眼孔13に通じる空間を有するよう形成され、内部空間が開口部14に通じる。人形頭部12の内部空間は、眼孔13の上部が、空間の天井面に接するよう形成され、天井面に金属で形成された内板20が固定される。内板20には、磁石31が、スライド可能な状態でネジ止めされる。磁石31は義眼固定部15の一部を構成し、義眼1の後面部10と接する。後面部10は一部金属を用いて成形されており、磁石31に吸着して義眼1が人形頭部12内部に調整可能に固定される。義眼1の視線調整部3は、視線5の延長線から外れた位置に設けられる。義眼1が磁力により人形頭部12内部に吸着した状態で、開口部14から、必要に応じて棒状部材16を用い、視線調整部3を動かして義眼1の視線5を調整することができる。
図22に示した態様においては、人形頭部12の内部の天井面に内板20及び磁石31が設置されているが、磁力により義眼1が人形頭部12の内部に吸着される限り、その様式は特に制限されず、例えば眼孔13から顎方向下方に内板20及び磁石31を設置してもよい。また、内板20上に磁石31を設けず、義眼1の一部に磁石31を用いて成形したり、義眼1に磁石31を埋め込む等の手法により、磁力による義眼1の人形頭部12内への吸着を行ってもよい。さらに、例えば前述の実施形態6〜11等、押付機構24を有する人形頭部12においても、磁力による義眼1の人形頭部12内への吸着を採用することができる。例えば図13に示す実施形態7において、義眼1を一部金属を用いて成形することにより、義眼1が人形頭部12内部の押付機構24に磁力によって吸着し、押付機構24による義眼1の固定を補助することができる。
磁力による義眼1の人形頭部12内への吸着を行う場合、義眼1の成形は磁力による吸着が生じる限り特に制限されないが、好ましくは眼球2の後面部10に磁力が作用するよう成形する。義眼1においては、視線5の延長線を外れた位置に視線調整部3が設けられているため、眼球2の後面部10の、視線5の延長線上も含む広い面積で、磁力による吸着を行うことができる。また、義眼1の視線調整をする際、磁力による吸着により摺動が生じ人形顏部12の内部で義眼1の表面が擦れることが考えられるが、後面部10に磁力が作用するよう成形すれば、そのような摺動で義眼1の後面部10表面に傷が生じたとしても、眼孔13から傷が覗くことがないため好ましい。
以上の実施形態によれば、義眼1が人形頭部12内に磁力により吸着することを特徴とする、人形頭部12が提供される。該人形頭部12においては、磁力により義眼1が人形頭部12内に吸着した状態で視線調整を行うことが可能となるため、義眼1が落下することなく、義眼1の微細な視線調整をさらに容易かつ適確に行うことができる。
なお、図に示した実施形態においては人間を模した人形頭部を代表例として用いて説明したが、本発明に係る義眼及び該義眼を固定した人形頭部は、老若男女の別なく多様な形態の人形頭部が含まれるのみならず、例えば動物の人形頭部、擬人的に顔を付設した乗り物等の人形頭部であってもよい。また、本発明の義眼は着脱可能であるから、人間以外の義眼等に変身させた人形頭部とすることも可能である。義眼及び人形頭部の寸法も需要者の好みに応じて適宜選択することが可能であり、たとえばマネキンやロボット等に適用することもできる。本発明の義眼は、特に人形頭部内部が狭い場合及び/又は人形頭部の義眼固定部に通ずる開口部が狭く、義眼に対して限定された方向に設けられている場合にも、視線調整及び固定調整可能に人形頭部内に固定することができるため、幅広いタイプの人形頭部に対して用いることができる。さらに、本発明の人形頭部の一部又は全体を、内部が中空の人形頭部(たとえば各種マネキン等)の内部構造として使用することもできる。