携帯電話機等の携帯機器には、着信を呼び出し音で知らせる代わりに、携帯機器そのもの又は携帯機器の付属品内に振動発生器を収納しておき、この振動発生器を振動させることで人体に着信を感知させるものがある。
例えば、図26に示されるような断面構造を有する振動発生器900が提案されている(下記特許文献1参照)。振動発生器900には、基台部901に固定された固定子ヨーク907及びコイル908から成る固定子と、基台部901に弾性支持部材(弾性体)902を介して連結された可動子903と、が備えられている。固定子ヨーク907の断面形状は概ねH型形状であり、固定子ヨーク907のくびれた部分の外周周りにコイル908が巻かれている。
可動子903は、断面形状が概ねコの字状の可動子ヨーク904と、可動子ヨーク904の中央部に接合された永久磁石905と、永久磁石905に接合された高透磁率部材906と、から成る。可動子ヨーク904と永久磁石905との接合面は、永久磁石905のS極面となっており、永久磁石905のN極面はコイル908の外周面に対向している。この永久磁石905のN極面側に高透磁率部材906が接合されている。
図26において、破線910は、振動発生器900内に形成される磁路を表している。永久磁石905のN極面からの磁束は、コイル908の外周面側を通して固定子ヨーク907の中央部に入り、固定子ヨーク907の磁化方向(図26の上下方向に対応するNS磁極方向)を向くように導かれた後、固定子ヨーク907の上下面と可動子ヨーク904との間の空隙を通って可動子ヨーク904内に入り、可動子ヨーク904の中央から永久磁石905のS極面に入射する。高透磁率部材906は、永久磁石905の磁束を永久磁石905のN極面に集中させて、固定子のコイル908により多くの磁束を通過させるために設けられている。
上述のように構成された振動発生器900において、コイル908に所定の交流電流を流すと、固定子ヨーク907の上方側が交互にN極及びS極となる一方で固定子ヨーク907の下方側が交互にS極及びN極となるため、磁気吸引力及び磁気反発力による推力が発生し、その磁気による推力と弾性支持部材902による推力との合成推力に従って可動子903が図26の上下方向に単振動する。また、これらの推力以外にも、永久磁石905からの磁束がコイル908を通過することによるローレンツ力も可動子903の振動に寄与する。
尚、固定子ヨーク907の、永久磁石905側に突出しているヨーク部分の内、図面上方側に位置している部分を上側突出部921と呼び、図面下方側に位置している部分を下側突出部922と呼ぶ。
ところで、コイル908に電流を流していなくても、可動子903の位置に依存して、可動子903を図26の上下方向に移動させようとする磁気による推力が発生する。固定子のコイルに電流を流していないときに生じる、磁気による推力はディテントと呼ばれる。
また、一般に、磁気による推力と弾性体による推力とを利用する振動発生器では、下記式(1)に従う共振周波数f0にて可動子が振動する。ここで、Kmは、バネとしての弾性体のバネ定数(以下、機械バネ定数という)である。Keは、磁気によって可動子を振動中心に戻そうとする力を弾性体による力に置き換えて考えた時のバネ定数(以下、磁気バネ定数という)である。Mは、可動子の質量である。
例えば、磁気によって可動子を振動中心に戻そうとする力を弾性体による力に置き換えて考えることで磁気バネ定数Keを求め、求めた磁気バネ定数Keを用いて所望の周波数に適合する機械バネ定数Km及び質量Mを設計することができる。
人体に振動を最大限に感知させる振動周波数は、概ね158Hzであると言われている。このため、人体に振動を最大限に感知させること等を目的として、可動子を所望の一定周波数(例えば、158Hz)にて振動させることが望ましいが、振動中心から見た可動子の変位量に対してディテントが線形的に変化しないと共振周波数f0が所望の一定周波数からずれる(換言すれば、可動子の振動周波数が、所望の一定周波数からずれる)。
これは、以下の理由による。振動中心から見た可動子の変位量に対してディテントが線形的に変化しないと、或る変位量を基準にして求めたKeの値と、他の変位量を基準にして求めたKeの値が異なってしまう(Keが定数ではなくなる)。つまり、可動子の変位量に依存してKeの値が変化し、結果、共振周波数f0を一定に保つことが困難になる。
図27(a)〜(c)を参照しつつ、振動発生器900におけるディテントについて考察する。図27(a)〜(c)は、振動発生器900における固定子及び可動子の位置関係を表しており、図27(a)は可動子が振動中心に位置している時のそれを、図27(b)は可動子が振動中心を基準として図面上方に第1変位量だけ移動した時のそれを、図27(c)は可動子が振動中心を基準として図面上方に第2変位量だけ移動した時のそれを表している。第2変位量は、第1変位量よりも大きい。尚、図27(a)〜(c)に示される矢印は、固定子(固定子ヨーク907)と可動子(高透磁率部材906及び永久磁石905)が磁気によって引き合う力を表している。
可動子が振動中心に位置している時(即ち、変位量がゼロの時)、図27(a)に示す如く、高透磁率部材906及び永久磁石905の上端と固定子ヨーク907の上側突出部921の下端931は一直線上に並ぶと共に高透磁率部材906及び永久磁石905の下端と固定子ヨーク907の下側突出部922の上端932は一直線上に並ぶ。或いは、高透磁率部材906及び永久磁石905の上端は固定子ヨーク907の上側突出部921の下端931よりも下側に位置していると共に高透磁率部材906及び永久磁石905の下端は固定子ヨーク907の下側突出部922の上端932よりも上側に位置している。このため、コイル908に電流を流していない状態において可動子が振動中心に位置している時は、固定子ヨーク907の上側突出部921と可動子とが磁気によって引き付けあう力(以下、第1の力という)と固定子ヨーク907の下側突出部922と可動子とが磁気によって引き付けあう力(以下、第2の力という)とがちょうど均衡し、図面上下方向におけるディテントはゼロとなる。
図面の上下方向における可動子の中心は図面の上下方向における上側突出部921の中心よりも下方に位置しているため、第1の力の向きは斜め上向きであり、図面の上下方向における可動子の中心は図面の上下方向における下側突出部922の中心よりも上方に位置しているため、第2の力の向きは斜め下向きである。これは、可動子の変位量が第1及び第2変位量である時も同様である。
可動子が振動中心を基準として図面上方に第1変位量だけ移動した時、図27(b)に示す如く、図27(a)の状態と比較して第2の力が弱まる一方で第1の力が強くなる。故に、図27(b)に示す状態では、可動子を上方向に移動させようとするディテントが発生する。
可動子が振動中心を基準として図面上方に第2変位量だけ移動した時、図27(c)に示す如く、図27(b)の状態と比較して第2の力は更に弱まる。また、この時における第1の力の向きは、第1変位量の場合と同様、斜め上向きではあるが、第1の力の上下方向成分は第1変位量の場合と比べて弱まる。故に、図27(c)に示す状態では、可動子を上方向に移動させようとするディテントが発生するものの、そのディテントの大きさは図27(b)に示す状態のそれよりも小さくなる。
このように、振動発生器900では、可動子が振動中心よりも上側に位置している時、更に可動子を上方向に移動させるようなディテントが働くと共に上下方向におけるディテントが可動子の変位量に対して線形的に変化しない(上下方向におけるディテントと可動子の変位量との間に比例関係が成立しない)。可動子が図面上方に移動した場合におけるディテントの変化の様子を説明したが、可動子が図面下方に移動した場合も同様である。ディテントの線形性が実現されない振動発生器900では、可動子を所望の周波数にて安定的に振動させることが困難である。
以下、本発明の実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。参照される各図において、同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分に関する重複する説明を原則として省略する。尚、或る物体の断面図においては、後述の図3等の如く一般的に該物体の断面部位に対して斜線が施されるが、後に参照される一部の断面図(例えば図8(a))においては、図示煩雑化の防止のため、該斜線の図示を省略することがある。
図1は、本発明の実施形態に係る振動発生器1の外観斜視図である。振動発生器1は、ボタン電池のような高さの比較的低い円柱形状の外形を有している。その円柱の中心軸に沿って振動発生器1を2つに切って得られる片方の部材(振動発生器1の半分)の外観斜視図を図2に示す。また、その片方の部材を側面から見た平面図、即ち、上記中心軸に沿った面を断面とする、振動発生器1の断面図を図3に示す。図4は、振動発生器1の構成部材の分解図である。振動発生器1は、例えば、携帯電話機のような携帯端末の内部又は該携帯端末の付属品内部に設けられる。
振動発生器1は、内部に空洞を有する円柱形状のケース10と、磁性材料にて形成された固定子ヨーク(固定子磁性体)20と、固定子ヨーク20に巻かれたコイル21と、円筒形状を有する永久磁石30と、永久磁石30の内周側に設けられ且つ磁性材料にて形成された円筒形状の可動子ヨーク(可動子磁性体)31と、永久磁石30の外周側に設けられた円筒形状の重量体32と、弾性体であるバネ材41及び42とを有する。図4に示す如く、ケース10は、円盤状のケース部材11とカップ状のケース部材12を接合することで形成される。尚、図示の便宜上、図2においてコイル21の図示を省略しており、図4においてコイル21並びにバネ材41及び42の図示を省略している。
固定子ヨーク20(第1磁性体)及びコイル21によって固定子が形成され、永久磁石30、可動子ヨーク31(第2磁性体)及び重量体32によって可動子が形成される。固定子及び可動子並びにバネ材41及び42は、ケース10内部に収容される。固定子をケース10に固定する一方で、バネ材41及び42を用いて可動子をケース10内で振動可能なように配置することで振動発生器1が形成される。
コイル21の中心軸をZ軸と定義する。そうすると、図3は、Z軸に沿った面を断面とする、振動発生器1の断面図に相当する。以下、Z軸に沿った断面をZ断面と呼ぶと共にZ断面を断面とする断面図をZ断面図と呼ぶ。また、Z断面図上において、Z軸に直交する軸をX軸と定義する。X軸に沿った断面をX断面と呼ぶと共にX断面を断面とする断面図をX断面図と呼ぶ。X軸とZ軸は、固定子ヨーク20の中心点と一致する原点Oにて交差する。更に、X軸とZ軸を座標軸とする二次元直交座標面をXZ座標面と呼ぶ。また、特に断りなき限り、以下の説明における第1〜第4象限とは、XZ座標面における第1〜第4象限を指す。
ケース10内に配置された固定子ヨーク20、永久磁石30、可動子ヨーク31及び重量体32は、全て、Z軸を回転軸とする回転体であると言える。XZ座標面において、ケース10内に配置された固定子ヨーク20、永久磁石30、可動子ヨーク31及び重量体32は、Z軸に対して線対称の構造を有していると共に可動子の振動停止時においてはX軸に対しても線対称の構造を有している。
振動発生器1の構造及び動作について、詳細に説明する。図5(a)及び(b)は、固定子ヨーク20の構成部材である中央ヨーク25及びカップ状ヨーク26の外観斜視図であり、図6は、コイル21が巻かれた中央ヨーク25と2つのカップ状ヨーク26との結合方法を示す図である。
中央ヨーク25は、円柱形状のヨーク(棒状のヨーク)であり、中央ヨーク25の外周面に沿ってコイル21が巻かれる。中央ヨーク25の外形形状である円柱の中心軸は、コイル21の中心軸であるZ軸に一致する。カップ状ヨーク26は、上面及び下面の内、一方の面にのみ磁性材料の底面を有する円筒形状のヨークであり、カップ状の外形を有している。カップ状ヨーク26の内周半径は、中央ヨーク25の外周半径よりも大きい。図6に示す如く、中央ヨーク25にコイル21を巻いた後、中央ヨーク25の上面に第1のカップ状ヨーク26の底面が密着するように中央ヨーク25と第1のカップ状ヨーク26を結合すると共に中央ヨーク25の下面に第2のカップ状ヨーク26の底面が密着するように中央ヨーク25と第2のカップ状ヨーク26を結合する。これにより、コイル21が巻かれた固定子ヨーク20が形成される。
永久磁石30、可動子ヨーク31及び重量体32の夫々の外形は、上述したようにZ軸を中心軸とする円筒形状(輪形状)である。従って、図7に示す如く、永久磁石30は、X断面図において、内周と内周よりも半径の大きい外周とを有する輪状図形を描く。可動子ヨーク31及び重量体32も同様である。永久磁石30の内周面と可動子ヨーク31の外周面が接するように永久磁石30と可動子ヨーク31が結合され、且つ、永久磁石30の外周面と重量体32の内周面が接するように永久磁石30と重量体32が結合されることによって可動子が形成される。重量体32は、可動子の質量を所望の質量に設定するための重りである。永久磁石30の比透磁率は1に近い値(例えば、1.1)を有する一方で、固定子ヨーク20及び可動子ヨーク31の比透磁率は十分に大きな値(例えば、数百〜数万)を有する。重量体32の比透磁率は任意である。
本実施形態では、永久磁石30の内周側がN極、永久磁石30の外周側がS極であると想定する(勿論、それらを逆にすることも可能である)。従って、永久磁石30の内周面及び外周面はそれぞれN極面及びS極面であり、永久磁石30のN極面はコイル21の外周面に対向している(図3等参照)。
バネ材41はZ軸方向が伸張方向となるように、その一端がケース10の上方側の内面(ケース部材12の内面)に固定されると共に、その他端が可動子の上面に結合されている。バネ材42はZ軸方向が伸張方向となるように、その一端がケース10の下方側の内面(ケース部材11)に固定されると共に、その他端が可動子の下面に結合されている。このため、可動子を上方向に移動させる力を加えれば、Z軸方向にバネ材41が縮む一方でバネ材42が伸び、可動子を下方向に移動させる力を加えれば、Z軸方向にバネ材41が伸びる一方でバネ材42が縮む。ここで、上方向はZ軸の正側の方向に対応し、下方向はZ軸の負側の方向に対応している。
図1及び図6を含む各図面には示されていないが、固定子ヨーク20及びケース10に設けられた穴などを介してコイル21の両端に電気的に接続された一対のリード線がケース10の外側に引き出されている。この一対のリード線に交流電圧を印加することでコイル21に交流電流が流れ、該交流電流に応じた磁極が固定子ヨーク20に現れる。
コイル21に電流を流しておらず、可動子の振動が停止している時、バネ材41及び42による推力(以下、機械推力という)が均衡して、Z軸方向における可動子の中心はX軸上に位置する。コイル21に交流電流を流すことで、可動子をZ軸方向に振動させる磁気による推力(以下、磁気推力という)が発生して、磁気推力と機械推力に従って可動子がZ軸方向に振動する。
コイル21に第1方向の電流を流した時には、図8(a)に示す如く、固定子ヨーク20の上側及び下側が夫々N極及びS極になり、永久磁石30のN極と固定子ヨーク20の上側磁極(N極)とが反発しあう一方で永久磁石30のN極と固定子ヨーク20の下側磁極(S極)とが吸引しあうため、可動子を下方向(Z軸の負側)に向かわせる磁気推力が発生する。一方、コイル21に第1方向とは逆の第2方向の電流を流した時には、図8(b)に示す如く、固定子ヨーク20の上側及び下側が夫々S極及びN極になり、永久磁石30のN極と固定子ヨーク20の下側磁極(N極)とが反発しあう一方で永久磁石30のN極と固定子ヨーク20の上側磁極(S極)とが吸引しあうため、可動子を上方向(Z軸の正側)に向かわせる磁気推力が発生する。
尚、固定子はケース10に固定されていると共にバネ材41及び42の各一端もケース10に固定されているため、バネ材41及び42は、ケース10を介して固定子と可動子を連結する弾性体であると言える。或いは、ケース10自体も固定子の構成部材に含まれる、と考えることもできる。また、可動子がZ軸方向に振動可能となるように、ケース10を介することなく固定子と可動子を直接的に弾性体にて連結するようにしてもよい。
図9(a)は、XZ座標面上の、固定子ヨーク20、永久磁石30、可動子ヨーク31及び重量体32を表している。但し、図示の煩雑化防止のため、図9(a)には、XZ座標面の第1象限内のそれらの形状のみを示している。XZ座標面における注目点の位置を(x,z)にて表し、位置(x,z)に配置された点を点(x,z)と表記する。注目点に対するx及びzは、夫々、注目点のX座標値(X軸上の座標値)及びZ座標値(Z軸上の座標値)を表している。
XZ座標面の第1象限において、固定子ヨーク20は、第1〜第3四角形を連結した図形を成す(図9(b)も参照)。第1四角形は、点(0,0)と一致する原点O、点(x1,0)、点(x1,z3)及び点(0,z3)を4頂点とする長方形であり、第2四角形は、点(x1,z2)、点(x3,z2)、点(x3,z3)及び点(x1,z3)を4頂点とする長方形であり、第3四角形は、点(x2,z1)、点(x3,z1)、点(x3,z2)及び点(x2,z2)を4頂点とする長方形である。固定子ヨーク20の内、この第3四角形を描く部分を、突出部50と呼ぶ。尚、固定子ヨーク20の内の、X座標値がx2以上且つx3以下の部分を、突出部50と捉えるようにしてもよい。
XZ座標面の第1象限において、可動子ヨーク31は、点(x4,0)、点(x5,0)、点(x5,zQ)及び点(x4,zQ)を4頂点とする長方形を成し、永久磁石30は、点(x5,0)、点(x6,0)、点(x6,zQ)及び点(x5,zQ)を4頂点とする長方形を成し、重量体32は、点(x6,0)、点(x7,0)、点(x7,zQ)及び点(x6,zQ)を4頂点とする長方形を成す。ここで、0<x1<x2<x3<x4<x5<x6<x7、且つ、0<z1<z2<z3、である。
カップ状ヨーク26(図6参照)の外周面に相当する、X軸方向における固定子ヨーク20の外周面は、可動子ヨーク31と空隙52を介して対向している。X軸方向における固定子ヨーク20の該外周面を符号51によって表し、それを磁路形成用対向面或いは単に対向面と呼ぶ。対向面51と可動子ヨーク31との間の空隙52の厚み方向はX軸方向であり、空隙52の厚みは(x4−x3)によって表される。
Z軸方向における可動子ヨーク31の外側端部の位置を表すZ軸座標値zQは、可動子の振動過程において様々な値をとるが、そのZ軸座標値zQは、常に、対向面51の振動中心側端部の位置を表すZ軸座標値z1よりも大きい。即ち、常に、不等式「zQ>z1」が成立するように可動子は振動する。上述したように固定子ヨーク20等はX軸及びZ軸に対して線対称の構造を有しているから、不等式「zQ>z1」と同様の関係が、XZ座標面の第2〜第4象限においても成り立つ。つまり、対向面51の、可動子の振動中心(X軸)に近い側の端部(z1)が、Z軸方向における可動子ヨーク31の外側端部(zQ)よりも、常に、可動子の振動中心の近くに位置するように可動子は振動せしめられる。
振動発生器1において形成される磁路について説明する。図10は、図8(a)に対応する電流をコイル21に流した時の磁束の流れを、固定子及び可動子のZ断面に重畳した図である。破線301及び302は、コイル21に電流を流したことによって発生した磁束(換言すれば、コイル21の励磁による磁束)の磁路を表している。破線311〜314は、永久磁石30の発生磁束の磁路を表している。
対向面(磁路形成用対向面)51及び可動子ヨーク31間の空隙52の厚み(x4−x3)は、XZ座標面における第1象限内の突出部50及び第4象限内の突出部50間における空隙の厚みの半分(即ち、z1)よりも小さい。このため、コイル21の励磁による磁束は、主として前者の空隙(空隙52)を通る。つまり、XZ座標面の第1及び第4象限内に形成される磁路301は、第1及び第4象限内の空隙52を経由する磁路である(磁路302も同様)。
より具体的には、原点Oを起点として考えた場合、磁路301は、原点Oを起点として、第1象限内の固定子ヨーク20と、第1象限内の対向面51と、第1象限内の空隙52と、第1象限内の可動子ヨーク31と、第1及び第4象限間の可動子ヨーク31と、第4象限内の可動子ヨーク31と、第4象限内の空隙52と、第4象限内の対向面51と、第4象限内の固定子ヨーク20と、を通じて原点Oに至る磁路である。
一方、永久磁石30の発生磁束は、永久磁石30のN極面から可動子ヨーク31、空隙52及び突出面51を介して固定子ヨーク20の突出部50に入り(図9(a)参照)、突出部50内をZ軸方向に流れた後、対向面(磁路形成用対向面)51と永久磁石30のS極面との間の空隙を通って永久磁石30のS極面に至る。従って例えば、第1象限内に形成される磁路311は、永久磁石30のN極面を起点として、第1象限内の可動子ヨーク31と、第1象限内の空隙(第1空隙)52と、第1象限内の対向面51と、第1象限内の突出部50と、第1象限内における対向面51と永久磁石30のS極面との間の空隙(第2空隙;図10において可動子ヨーク31及び永久磁石30の上方側の空間)と、第1象限内における永久磁石30のS極面と、を通じて永久磁石30のN極面に至る磁路である。第2〜4象限内に形成される磁路312〜314についても同様である。
また、図11の破線320の如く、第1象限内の空隙52を介して第1象限内の突出部50に入った後、Z軸近傍の固定子ヨーク20を通り、第4象限内における対向面51と永久磁石30のS極面との間の空隙(第2空隙;図11において可動子ヨーク31及び永久磁石30の下方側の空間)を経由して永久磁石30のS極面に通じる磁路も、永久磁石30の発生磁束の磁路として形成されうる。
このように、磁路形成用対向面51及び可動子ヨーク31は、固定子にて発生した磁束を流れやすくするように機能する(該磁束の磁路の形成に寄与する)。加えて、それらは、永久磁石30による磁束の磁路の形成にも寄与する。
ところで、コイル21に交流電流を流すことで可動子をZ軸方向に振動させる磁気推力が発生すると上述したが、コイル21に電流を流していなくても、可動子の位置に依存して、可動子をZ軸方向に移動させようとする磁気推力が発生する。従来の振動発生器の説明においても述べたように、コイル21に電流を流していないときに生じる磁気推力はディテントと呼ばれる。
振動発生器1では、例えば、可動子が一定の周波数(例えば、158Hz)にて振動するように各構成部材が設計される。上述したように、可動子を所望の一定周波数にて振動させるためには(換言すれば、可動子の共振周波数f0を該一定周波数に保つためには)、可動子の変位量に対してディテントが線形的に変化する必要がある。振動発生器1の構造は、この要望に応える。
まず、図12(a)〜(c)を参照して、振動発生器1の可動子に作用するZ軸方向のディテントを説明する。振動中心から見た、Z軸方向における可動子の変位量をzDにて表す。XZ座標面において、Z軸に直交する方向に沿った、可動子の中心線がX軸上に位置する状態において、変位量zDはゼロである。変位量zDがゼロの状態から可動子がZ軸の正の方向に移動するにつれて変位量zDはゼロを起点として増大し、変位量zDがゼロの状態から可動子がZ軸の負の方向に移動するにつれて変位量zDはゼロを起点として減少するものとする。
図12(a)〜(c)は、XZ座標面上における固定子ヨーク20と可動子ヨーク31及び永久磁石30との位置関係を示す図である。但し、図12(a)、(b)及び(c)は、夫々、変位量zDが0、zU1及びzU2の時の該位置関係を示している。ここで、0<zU1<zU2である。また、zU2は、可動子の振動過程における変位量zDの最大値(正の最大値)に相当する。
コイル21に電流を流していない状態において変位量zDがゼロである時(即ち、可動子が振動中心に位置している時)、第1及び第2象限内の突出部50を含む固定子ヨーク20の上部と永久磁石30及び可動子ヨーク31とが引き付けあう力(以下、力αという)と第3及び第4象限内の突出部50を含む固定子ヨーク20の下部と永久磁石30及び可動子ヨーク31とが引き付けあう力(以下、力βという)とがちょうど均衡するため、Z軸方向におけるディテントはゼロとなる。力αは上方向成分(Z軸の正の方向に向かう成分)を有する一方、力βは下方向成分(Z軸の負の方向に向かう成分)を有する。
図12(b)及び(c)に示す如く変位量zDが正である時、磁気的なバランスをとるべく、ディテントは可動子をzD=0の状態に戻すように働く。可動子をzD=0の状態に戻す方向に働くディテントの大きさは、zDがゼロから増大するにつれて増大する。これは、zDがゼロから増大するにつれて磁気的なバランスの崩れが増大するからである。
例えば、図12(b)及び(c)に示す状態の夫々において、上記の力αと力βが生じるが、突出部50の存在と固定子ヨーク20、永久磁石30及び可動子ヨーク31の構造対称性から、力αの上方向成分は“zD=zU1”の時よりも“zD=zU2”の方が小さくなる一方で、力βの下方向成分は“zD=zU1”の時よりも“zD=zU2”の方が大きくなる。このため、zDがゼロから増大するにつれて、可動子を下方向に向かわせるディテントの大きさは増大する。
振動発生器1におけるディテントの線形性を検証するために、以下に示すようなシミュレーションを行った。図13(a)、(b)及び(c)は、夫々、シミュレーションに用いられた第1、第2及び第3構造モデルにおける固定子及び可動子のZ断面図を表している。固定子及び可動子の構造が第1、第2及び第3構造モデル間で異なる点を除き、シミュレーション条件は、第1、第2及び第3構造モデル間で同じである。
図13(a)に対応する第1構造モデルは、固定子ヨーク120及びコイル121から成る固定子と永久磁石130及び可動子ヨーク131から成る可動子とを備えた振動発生器モデルである。固定子ヨーク120、コイル121、永久磁石130及び可動子ヨーク131は、振動発生器1における固定子ヨーク20、コイル21、永久磁石30及び可動子ヨーク31と同等のものをモデル化したものであり、固定子ヨーク120、コイル121、永久磁石130及び可動子ヨーク131の構造及びそれら間の位置関係は、振動発生器1におけるものと同様である。
図13(b)に対応する第2構造モデルは、固定子ヨーク120a及びコイル121から成る固定子と永久磁石130及び可動子ヨーク131から成る可動子とを備えた振動発生器モデルであり、図26に対応する従来構造に類似する構造をモデル化したものである。固定子ヨーク120aは、固定子ヨーク120から突出部50(図9(a)参照)に相当する部分を除去したものである。突出部50に相当する部分の有無が異なる点を除き、第1構造モデルと第2構造モデルは同じである。
XZ座標面において固定子ヨーク120aはH型構造を有しているため、固定子ヨーク120aは、第1〜第4象限の夫々においてX軸方向に向かって突出している部分を有する。可動子が振動中心に位置している時、固定子ヨーク120aのX軸方向に向かって突出している部分の位置と可動子ヨーク131の位置とは、Z軸方向において重なり合わない。具体的には、第2構造モデルにおいて、可動子が振動中心に位置している時には、|zQ|=|z2|が成立する(図9(a)参照)。つまり、第1象限に関して言えば、可動子が振動中心に位置している時、永久磁石130及び可動子ヨーク131の上端(図14の端部150に対応)と、固定子ヨーク120aのX軸方向に向かって突出している部分の下端(図14の端部151に対応)は、X軸方向に一直線上に並ぶ。
図13(c)に対応する第3構造モデルは、固定子ヨーク120及びコイル121から成る固定子と永久磁石130aから成る可動子とを備えた振動発生器モデルである。第3構造モデルにおける可動子には、可動子ヨーク131に相当する磁性体が設けられておらず、永久磁石130aの固定子側の磁極面が直接空隙を介して固定子ヨーク120の突出部(図9(a)の突出部50に対応)と対向する。その空隙の厚みと、第1構造モデルにおける固定子ヨーク120及び可動子ヨーク131間の空隙の厚みは、同じである。また、永久磁石130及び130aのZ軸方向における厚みは同じであり、且つ、永久磁石130及び130aの体積は同じである。
図15のグラフは、変位量zDとZ軸方向(上下方向)におけるディテントとの関係のシミュレーション結果を示している。実線351、破線352及び破線353は、夫々、第1、第2及び第3構造モデルにおける該関係を示している。
図15のグラフおいて、軸361と軸362が交差する部分では変位量zD及びZ軸方向におけるディテントの大きさはゼロである。図15及び後述の図16のグラフおいて、軸361と軸362が交差する部分から、軸361に沿って図面右側に向かうにつれて対応する変位量zDがゼロから増大し、軸361に沿って図面左側に向かうにつれて対応する変位量zDがゼロから減少する。つまり、軸362の右側は図13(a)〜(c)の上方向の変位に対応し、軸362の左側は図13(a)〜(c)の下方向の変位に対応する。
可動子をZ軸の正の方向(上方向)に向かわせるディテントを正の値にて表し、可動子をZ軸の負の方向(下方向)に向かわせるディテントを負の値にて表す。図15のグラフおいて、軸361と軸362が交差する部分から、軸362に沿って図面上側に向かうにつれて対応するディテントがゼロから増大し、軸362に沿って図面下側に向かうにつれて対応するディテントがゼロから減少する。つまり、軸361の上側は図13(a)〜(c)の上方向に可動子を向かわせるディテントに対応し、軸361の下側は図13(a)〜(c)の下方向に可動子を向かわせるディテントに対応する。
図15の実線351から分かるように、振動発生器1に対応する第1構造モデルでは、可動子が振動中心からずれている時に可動子の位置を振動中心に戻そうとするディテントが生じており、且つ、可動子の変位量zDに対して該ディテントは概ね線形的に変化している(変位量zDとZ軸方向のディテントに略比例関係が成り立っている)。このため、振動過程においてKe(上記式(1)参照)の値が一定であるとみなすことができ、可動子の共振周波数f0を容易に一定に保つことができる。
一方、破線352及び図13(b)に対応する第2構造モデルでは、可動子が振動中心からずれている時に可動子の位置を更にずらす方向のディテントが生じおり、且つ、可動子の変位量zDに対して該ディテントは線形的に変化していない。このため、第2構造モデルに対応するような構造を有する振動発生器では、可動子の共振周波数f0を一定にすることが困難である。
破線353及び図13(c)に対応する第3構造モデルでは、固定子ヨークに突出部(図9(a)の突出部50に対応)が設けられていることから、可動子が振動中心からずれている時に可動子の位置を振動中心に戻そうとするディテントが生じることが分かる。しかしながら、第3構造モデルにおいて、可動子の変位量zDに対するディテントの線形性は第1構造モデルよりも劣っている。
また、第3構造モデルにおけるディテントの大きさは、第1構造モデルのそれよりも大きい。これは、第3構造モデルには可動子ヨークが設けられていない分、第3構造モデルにおける永久磁石の固定子ヨーク側の磁極面及び固定子ヨークの磁路形成用対向面(図9(a)の対向面51に対応)間の距離が、第1構造モデルにおけるそれよりも短いことに起因しているものと考えられる。
尚、Z軸方向におけるディテントの大きさは、なるだけ小さい方が良い。Z軸方向におけるディテントの大きさが大きいと、振動発生器における磁気バネ定数Keが大きくなり、所望の共振周波数f0を得るために必要な可動子の質量Mが大きくなって振動発生器の大型化を招くからである(上記式(1)参照)。よって、ディテントの大きさの面から見ても、振動発生器1に対応する第1構造モデルは、第3構造モデルに対して優位性を有していると言える。
また、第1構造モデルにおいて形成される磁路と第2構造モデルにおいて形成される磁路が相違することを確認するために、固定子のコイルに電流を流した時に生じるローレンツ力をシミュレーションによって調べた。このシミュレーションの結果を、図16に示す。
このシミュレーションでは、図8(a)に示すものと同様の向きの一定電流を、第1及び第2構造モデルのコイル121に流している。また、第1及び第2構造モデルの永久磁石130の、固定子側の磁極面は、図8(a)に示すものと同様、N極面である。この状態において、図26の磁路910の如く、第1及び第2構造モデルの永久磁石130からの磁束がコイル121の外周面を通って固定子ヨーク(120又は120a)の磁化方向に導かれたならば、フレミングの法則に従ってコイル121を図13(a)及び(b)の上方向(Z軸の正方向)に移動させるローレンツ力が働く。但し、コイル121は固定されているため、実際には反作用によって可動子を下方向(Z軸の負方向)に移動させる推力が生じる。
図16に対応するシミュレーションでは、上記ローレンツ力に基づいて可動子に作用するZ軸方向の推力(以下、ローレンツ推力という)の変位量zD依存性を調べている。図16の実線371及び破線372は、夫々、第1及び第2構造モデルにおける該依存性を示している。
図16のグラフおいて、軸361と軸362が交差する部分では変位量zD及びローレンツ推力の大きさはゼロである。可動子をZ軸の正の方向(上方向)に向かわせるローレンツ推力を正の値にて表し、可動子をZ軸の負の方向(下方向)に向かわせるローレンツ推力を負の値にて表す。本シミュレーションでは、ローレンツ推力は常に負である。図16のグラフおいて、軸361と軸362が交差する部分から、軸362に沿って図面下側に向かうにつれて対応するローレンツ推力がゼロから減少する。つまり、図16の下方に向かうにつれて負のローレンツ推力の絶対値が増大する。
図16の破線372から分かるように、第2構造モデルでは、比較的大きなローレンツ推力が生じている。第2構造モデルにおいては、図26の磁路910と同様の、永久磁石による磁路が形成されているためである。一方、図16の実線371から分かるように、第1構造モデルでは殆どローレンツ推力が発生していない。これは、第1構造モデルの固定子ヨークに突出部(図9(a)の突出部50に対応)が設けられていることに起因する。この突出部の存在により、図10の磁路311〜314のような磁路が第1構造モデルに形成されて、永久磁石130のN極面からの磁束はコイル121を殆ど通ることなく該突出部を介して永久磁石130のS極面に通じる。
このように、図16のシミュレーション結果からも、第1及び第2構造モデル間の磁路の相違が確認される。
上述したように、振動発生器1によれば、可動子の変位量に対してディテントが概ね線形的に変化するため、容易に可動子を所望の一定周波数で振動させることができる(可動子の共振周波数のずれが少ない)。また、図15のシミュレーションの説明において述べたように、ディテントの大きさ自体も比較的小さいため振動発生器の小型化にも寄与する。
上述の振動発生器1の構造は一構造例に過ぎない。上述の振動発生器1を基礎としつつ、その構造を様々に変形することが可能である。以下に、振動発生器1に適用可能な固定子及び可動子の構造変形例として第1〜第7変形構造を例示する。上述した振動発生器1の構造を、以下、便宜上、基本構造と呼ぶ。第1〜第7変形構造においても、基本構造と同様の磁路が形成され、基本構造と同様の効果が得られる。
基本構造における固定子ヨーク20、永久磁石30、可動子ヨーク31及び重量体32と同様に、第1〜第7変形構造における固定子ヨーク、永久磁石、可動子ヨーク及び重量体は、ケース10内に配置され、XZ座標面において、Z軸に対して線対称の構造を有していると共に可動子の振動停止時においてはX軸に対しても線対称の構造を有している。故に、以下の説明では、それらの断面構造をXZ座標面の第1象限にのみ着目して説明する場合がある。第1〜第7変形構造の説明において特に述べられない事項に関しては、上述した事項が適用される。矛盾が生じない限り、或る変形構造と他の変形構造を組み合わせたような構造を採用することも可能である。
[第1〜第3変形構造]
図17、図18及び図19は、夫々、第1、第2及び第3変形構造における固定子及び可動子のZ断面図である。第1〜第3変形構造における可動子は、基本構造におけるそれと同じである。第1変形構造における固定子は固定子ヨーク20aと固定子ヨーク20aに巻かれたコイル21とから成り、第2変形構造における固定子は固定子ヨーク20bと固定子ヨーク20bに巻かれたコイル21とから成り、第3変形構造における固定子は固定子ヨーク20cと固定子ヨーク20cに巻かれたコイル21とから成る。固定子ヨーク20a、20b及び20cに対するコイル21の巻き方は、基本構造におけるそれと同様である。
固定子ヨーク20と固定子ヨーク20a、20b及び20cとの間で断面構造が異なる。この相違をXZ座標面に注目して説明する(図9(a)及び(b)参照)。XZ座標面の第1象限において、固定子ヨーク20a、20b及び20cの夫々は、上述の第1〜第3四角形を連結した図形から一部図形を除去して得られる図形を成す。
固定子ヨーク20aにおいて、この一部図形は、例えば、点(x2,z1)、点(x2,z2)及び点(xA,z1)を3頂点とする三角形である。ここで、x2<xA<x3、である。固定子ヨーク20bにおいて、この一部図形は、例えば、点(x2,z1)、点(x2,z2)及び点(xA,z2)を3頂点とする三角形である。固定子ヨーク20cにおいて、この一部図形は、例えば、点(x3,z1)、点(x3,z3)及び点(xA’,z3)を3頂点とする三角形である。ここで、x2<xA’<x3、又は、x1<xA’<x3、である。
[第4変形構造]
図20は、第4変形構造における固定子及び可動子のZ断面図である。第4変形構造における固定子は、基本構造におけるそれと同じである。第4変形構造における可動子は、基本構造と同様の永久磁石30及び重量体32と、永久磁石30の固定子側の磁極面に接合された可動子ヨーク31dと、から成る。
可動子ヨーク31と可動子ヨーク31dとの間で断面構造が異なる。この相違をXZ座標面に注目して説明する(図9(a)及び(b)参照)。XZ座標面の第1象限において、可動子ヨーク31dは、図9(a)を参照しつつ上述した可動子ヨーク31が描く長方形から、一部図形を除去して得られる図形を成す。可動子が振動中心に位置している時において、この一部図形は、例えば、点(x4,0)、点(x4,zQ)及び点(xB,0)を3頂点とする三角形である。ここで、x4<xB<x5、である。
[第5変形構造]
図21は、第5変形構造における固定子及び可動子のZ断面図である。第5変形構造における可動子は、基本構造におけるそれと同じである。第5変形構造における固定子は固定子ヨーク20eと固定子ヨーク20eに巻かれたコイル21とから成る。固定子ヨーク20eに対するコイル21の巻き方は、基本構造におけるそれと同様である。
固定子ヨーク20と固定子ヨーク20eとの間で断面構造が異なる。この相違をXZ座標面に注目して説明する(図9(a)及び(b)参照)。XZ座標面の第1象限において、固定子ヨーク20eは、第4及び第5四角形を連結した図形を成す(図22も参照)。第4四角形は、原点O、点(x1,0)、点(x1,z3)及び点(0,z3)を4頂点とする長方形であり、第5四角形は、点(x1,z1)、点(x3,z1)、点(x3,z3)及び点(x1,z3)を4頂点とする長方形である。第4及び第5四角形が存在しない、点(x1,0)、点(x3,0)、点(x3,z1)及び点(x1,z1)で囲まれた領域内にコイル21が配置される。このため、第5変形構造(並びに後述の第6及び第7変形構造)におけるz1の具体的な値は、基本構造のそれよりも大きく設定されうる。
[第6変形構造]
図23は、第6変形構造における固定子及び可動子のZ断面図である。第6変形構造における固定子は、第5変形構造におけるそれと同じである(図21参照)。第6変形構造における可動子は、第4変形構造におけるそれと同じである(図20参照)。
[第7変形構造]
図24は、第7変形構造における固定子及び可動子のZ断面図である。第7変形構造における可動子は、基本構造におけるそれと同じである。第7変形構造における固定子は固定子ヨーク20gと固定子ヨーク20gに巻かれたコイル21とから成る。固定子ヨーク20gに対するコイル21の巻き方は、基本構造におけるそれと同様である。
固定子ヨーク20gは、図21の固定子ヨーク20eを変形したものであり、固定子ヨーク20e及び20g間で断面構造が異なる。この相違をXZ座標面に注目して説明する(図9(a)及び(b)参照)。XZ座標面の第1象限において、固定子ヨーク20gは、上述の第4及び第5四角形を連結した図形から一部図形を除去して得られる図形を成す(図22も参照)。この一部図形は、例えば、点(x3,z1)、点(x3,z3)及び点(xC,z3)を3頂点とする三角形である。ここで、0<xC<x3、である。
[各変形構造に対する考察]
第1〜第3変形構造においては、固定子ヨーク(20a、20b、20c)の、X軸方向における最外周面が、可動子ヨーク31と対向する磁路形成用対向面として機能する。第3変形構造における磁路形成用対向面は、可動子ヨーク31の固定子側の面(可動子ヨーク31の内周面)と平行ではないが、可動子ヨーク31の固定子側の面と空隙を介して対向している面であると言える。
第5〜第7変形構造においては、固定子ヨーク(20e、20g)の、X軸方向における最外周面が、可動子ヨーク(31、31d)と対向する磁路形成用対向面として機能する。第6及び第7変形構造においては、磁路形成用対向面と可動子ヨークの固定子側の面(可動子ヨークの内周面)とが平行ではないが、それらの磁路形成用対向面は、可動子ヨークの固定子側の面と空隙を介して対向している面であると言える。
尚、基本構造及び第1〜第4変形構造における固定子ヨークは、XZ座標面上の第1及び第4象限において又は第2及び第3象限においてCの字状の断面形状を有し、第5〜第7変形構造における固定子ヨークは、XZ座標面上の第1及び第4象限において又は第2及び第3象限においてコの字状の断面形状を有していると言える。
第1〜第7変形構造の何れを採用した場合であっても、基本構造と同様、磁路形成用対向面の、可動子の振動中心(X軸)に近い側の端部(z1)が、Z軸方向における可動子ヨークの外側端部(zQ)よりも、常に、可動子の振動中心の近くに位置するように可動子は振動せしめられる
また、第1〜第7変形構造の何れを採用した場合であっても、基本構造と同様、磁路形成用対向面と可動子ヨークとの間の最短距離は一定である。例えば、図19に対応する第3変形構造においては、磁路形成用対向面が可動子ヨークの内周面に対して傾いているため、前者と後者との間の距離(換言すれば、前者と後者との間に存在する空隙の厚み)はZ軸座標値の変化に対して変化する。図25は第3変形構造おける固定子及び可動子の拡大Z断面図であって、図25の符号401及び402は、共に、第3変形構造における磁路形成用対向面と可動子ヨークとの間の距離を表しているが、最も振動中心側の距離に対応する距離401は、距離402よりも短い。距離401は、上記最短距離であり、(x4−x3)によって表される(図9(a)参照)。
基本構造及び各変形構造では、磁路形成用対向面及び可動子ヨーク間の最短距離が一定に保たれるが故に、可動子が動いても、永久磁石による磁束の磁路の磁気抵抗はあまり変化しない。つまり、可動子の振動過程において永久磁石による磁束の流れに急激な変化は生じない。この結果、上述のディテントの線形性が実現される。