JP2010167824A - 減衰力制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 バルブによる減衰力特性段数の切換作動のハンチングの発生を防止することができる減衰力制御装置を提供すること。
【解決手段】 バルブ31により段階的に切り換えられるダンパの減衰力特性のうち、隣接する減衰力特性間に中間帯域が設定される。要求減衰力が中間帯域に属する場合には、要求段数は、その中間帯域を挟む隣接する減衰力特性を表す2つの段数のうちのいずれか一方に一律に設定される。したがって、要求減衰力が2つの減衰力特性の中心付近を推移した場合には、要求減衰力は中間帯域に属する減衰力となり、その推移の変動によって要求段数が変化することはない。これにより減衰力特性段数の切換作動のハンチングを防止できる。
【選択図】 図15

Description

本発明は、車両のサスペンション装置などの振動系の減衰力を可変制御する減衰力制御装置に関する。
車両のサスペンション装置は、車体側の部材であるバネ上部材と車輪側の部材であるバネ下部材との間に介装されたサスペンションスプリング(バネ)およびダンパを備える。このサスペンション装置は振動系を構成する。サスペンションスプリングは例えば路面などから入力される振動を緩衝するとともに、バネ上部材とバネ下部材との間に振動を生じさせる。また、ダンパはバネ上部材−バネ下部材間の振動を減衰する。
車両の走行状況に応じて、上記振動の速度に対する減衰力の変化特性(減衰力特性)を変更することができるダンパを搭載したサスペンション装置が知られている。このような可変減衰型のサスペンション装置においては、所定の制御則(例えば非線形H制御則あるいはスカイフック制御則)にしたがってダンパの減衰力特性が制御される。
特許文献1は、スカイフック制御理論または非線形H制御理論に基づいてサスペンション装置の減衰力を制御する減衰力制御装置を開示している。この減衰力制御装置によれば、車両の単輪モデルに非線形H制御理論を適用することによって、制御目標の減衰力である要求減衰力が計算される。そして、ダンパの減衰力特性が、計算された要求減衰力に最も近い減衰力を発生する減衰力特性となるように、例えば切換バルブを用いて段階的に制御される。
特開2001−1736号公報
特許文献1に記載の減衰力制御装置によれば、上述したように、ダンパの減衰力特性は、計算された要求減衰力に最も近い減衰力を発生するように段階的に制御される。この場合、計算された要求減衰力が、段階的に制御されるダンパの減衰力特性のうちの隣接する2つの減衰力特性の中心付近を推移する場合に、切換バルブによる段数切換作動のハンチングが発生するおそれがある。
図19は、ダンパの減衰力特性と、所定の制御理論(例えば非線形H制御理論)に基づいて計算された要求減衰力の推移を表す減衰力特性グラフである。図に示されるグラフにおいて、横軸が振動の速度、すなわちバネ上部材とバネ下部材との間の振動の相対速度(バネ上−バネ下相対速度)であり、縦軸が減衰力である。計算された要求減衰力は黒丸により表されており、その推移の方向は、黒丸の点を結んだ線分の矢印により表されている。また、グラフ中のDNにより表される直線は、切換バルブにより切り換えることができるダンパの減衰力特性を表す段数(減衰力特性段数)がDNである場合における減衰力特性線であり、DN+1により表される直線は段数がDN+1である場合における減衰力特性線である。グラフ中の一点鎖線Sは、段数DNにより表される減衰力特性線と段数DN+1により表される減衰力特性線の中心を通る減衰力特性を表す直線(中心減衰力特性線)である。また、段数DNにより表される減衰力特性と段数DN+1により表される減衰力特性は、切換バルブにより切換可能なダンパの減衰力特性のうちの隣接する減衰力特性である。
要求減衰力が図19に示されるように推移するとき、従来では、要求減衰力が中心減衰力特性線Sよりも下方を推移する場合は、制御目標の段数である要求段数Dreqが段数DNに設定され、要求減衰力が中心減衰力特性線Sよりも上方を推移する場合は要求段数Dreqが段数DN+1に設定される。こうして要求段数Dreqが設定された後に、ダンパの減衰力特性が要求段数Dreqにより表される減衰力特性となるように切換バルブが作動する。これにより、減衰力の制御が行われる。
図19のAで示される領域においては、要求減衰力が中心減衰力特性線Sの付近を推移している。またこの領域においては、要求減衰力の推移の勾配が中心減衰力特性線Sの勾配とほぼ等しくなっている。この場合、要求減衰力の微妙な変化によって、要求減衰力の推移が中心減衰力特性線Sに対して上下に変動する。この変動により、要求段数Dreqが段数DNと段数DN+1との間で頻繁に切り換わる。切換バルブは要求段数Dreqに基づいて作動するために、上記した状況においては切換バルブによる段数切換作動のハンチングが発生する。このようなハンチングが発生した場合、切換バルブの劣化の進行が早まるとともに、減衰力特性が頻繁に変更されるために車両の乗り心地が悪くなる。また、ハンチングしている間は段数が定まらないので、段数の切換作動の応答遅れが生ずる。
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、サスペンション装置などの振動系の振動を抑制するように減衰力特性を可変制御する減衰力制御装置において、上記したハンチングを防止することができる減衰力制御装置を提供することを目的とする。
本発明の減衰力制御装置は、バネ上部材とバネ下部材との間に取付けられたダンパおよびバネを備える振動系の振動を抑制するように、前記ダンパの減衰力特性を可変制御する減衰力制御装置であり、前記ダンパの減衰力特性を段階的に切り換える切換手段と、前記振動系を制御対象とした減衰力制御モデルに非線形H制御理論を適用することにより、制御目標となる減衰力である要求減衰力を計算する要求減衰力計算手段と、前記要求減衰力に基づき、前記切換手段により切換可能な前記ダンパの減衰力特性を表す減衰力特性段数の制御目標となる要求段数を設定する要求段数設定手段と、前記ダンパの減衰力特性が前記要求段数により表される減衰力特性となるように、前記切換手段の作動を制御する切換制御手段と、を備える。また、前記要求段数設定手段は、前記要求減衰力が、前記減衰力特性段数により表される前記ダンパの減衰力特性のうちの隣接する減衰力特性間に設定される減衰力特性領域であって、前記隣接する減衰力特性の中心を通る減衰力特性である中心減衰力特性を含み且つ予め設定された減衰力幅を有する中間帯域に属する減衰力であるときに、前記要求段数を、その中間帯域を挟んで隣接する2つの減衰力特性を表す減衰力特性段数のうちのいずれか一方の減衰力特性段数に設定し、前記要求減衰力が前記中間帯域に属さない減衰力であるときに、前記要求段数を、前記要求減衰力に最も近い減衰力を発生する減衰力特性を表す減衰力特性段数に設定する。この場合、前記減衰力制御装置は、中間帯域を記憶した中間帯域記憶手段を更に備えるものであるのがよい。
上記発明によれば、切換手段により切換可能なダンパの複数の減衰力特性のうち、隣接する2つの減衰力特性間に中間帯域が設定されている。この中間帯域は、振動の速度に対する減衰力の変化特性を表す減衰力特性図上に帯状に表される減衰力特性領域であって、減衰力特性段数により表される複数の減衰力特性のうちの隣接する2つの減衰力特性の中心を通る中心減衰力特性の一部または全部を含み、予め設定された所定の減衰力幅を有する。
このような中間帯域を設けることにより、要求減衰力の推移が中心減衰力特性の上下に変動しても、その変動は中間帯域内にて行われることになる。要求減衰力が中間帯域に属する場合は、要求段数は、その中間帯域を挟んで隣接する2つの減衰力特性を表す減衰力特性段数のうちのいずれか一方の減衰力特性段数に一律に設定される。すなわち要求減衰力が中間帯域に属している間は、要求段数は変化しない。よって、要求減衰力の推移が中心減衰力特性の上下に変動した場合でも、切換手段による段数切換作動のハンチングは起こらない。よって、ハンチングが防止される。
前記中間帯域は、上述のように振動の速度に対する減衰力の変化特性を表す減衰力特性図上において、隣接するダンパの減衰力特性間に設定される減衰力特性領域であるが、この領域は、振動系の振動速度の全範囲に亘って設定されていても、振動速度の一部の範囲にのみ設定されていてもよい。また、中間帯域は、隣接する全ての減衰力特性間に設定されていてもよいが、隣接する一部の減衰力特性間に設定されているものであってもよい。
また、中間帯域の減衰力幅とは、中間帯域における減衰力方向の幅のことであり、この減衰力幅は予め設定される。幅の大きさは設計者により任意に設定することができる。この場合、中間帯域の減衰力幅は、要求減衰力がその中間帯域に含まれる中心減衰力特性付近を推移しているときに、要求減衰力の推移がその中心減衰力特性に対して変動する幅よりも広くなるように設定されるとよい。
また、前記中間帯域記憶手段は、中間帯域そのものを記憶していてもよいが、中間帯域を他の減衰力特性領域と区別することができる減衰力を記憶していてもよい。例えば後述の実施形態で示されるように、中間帯域記憶手段は、各中間帯域の上限を表す上限減衰力および下限を表す下限減衰力を記憶していてもよい。
また、前記要求段数設定手段は、要求減衰力が中間帯域に属する減衰力であるときに要求段数を設定する場合、予め決められた規則に従って、その中間帯域を挟んで隣接する2つの減衰力特性を表す減衰力特性段数のうちのいずれか一方の減衰力特性段数に設定し、要求減衰力がその中間帯域に属している間は設定した要求段数を維持するとよい。このようにして要求段数を設定および維持することで、要求減衰力が中間帯域に属している間は要求段数が一つの減衰力特性段数に一律に設定される。
また、前記要求段数設定手段は、要求減衰力が中間帯域に属する減衰力であるか否かを判定する判定手段を備えているとよい。そして、この判定手段によって要求減衰力が中間帯域に属する減衰力と判定された場合に、要求段数設定手段は要求段数を一つの減衰力特性段数に一律に設定するとよい。また、要求段数設定手段は、要求減衰力が中間帯域に属する減衰力であるときに要求段数を一つの減衰力特性段数に設定した後、所定の微小時間、あるいは所定の条件が成立するまで、設定した要求段数を維持するように要求段数を設定してもよい。これによれば、要求減衰力の推移が中間帯域の境界近傍でその境界の上下に変動した場合にも、切換手段による段数切換作動のハンチングが防止される。
また、前記要求段数設定手段は、要求減衰力が中間帯域に属する減衰力である場合には、要求減衰力の推移を考慮して要求段数を設定するものであるのがよい。具体的には、前記要求段数設定手段は、要求減衰力が中間帯域を表す減衰力よりも小さい減衰力を表す減衰力特性領域である低減衰力特性領域から中間帯域に推移したか、中間帯域を表す減衰力よりも大きい減衰力を表す減衰力特性領域である高減衰力特性領域から中間帯域に推移したかを考慮して、要求段数を設定するものであるのがよい。要求減衰力が中間帯域に属するまでの推移によってその後の推移を予測できる。したがって、要求減衰力の推移を考慮して要求段数を設定し、減衰力特性段数が設定された要求段数となるように切換手段を制御することにより、要求減衰力の推移を見越した減衰力制御を行うことができる。
また、前記要求段数設定手段は、要求減衰力が低減衰力特性領域から中間帯域に推移した場合には、要求段数を、中間帯域を挟んで隣接する2つの減衰力特性を表す減衰力特性段数のうち、発生する減衰力が大きい減衰力特性を表す減衰力特性段数に設定するものであるのがよい。この場合、要求段数設定手段は、要求減衰力が中間帯域に属する減衰力となる直前に要求減衰力計算手段により計算された要求減衰力である直前要求減衰力が低減衰力特性領域に属する場合に、要求減衰力が低減衰力特性領域から中間帯域に推移したものと判断し、要求段数を、中間帯域を挟んで隣接する2つの減衰力特性を表す減衰力特性段数のうち、発生する減衰力が大きい減衰力特性を表す減衰力特性段数に設定するものであるのがよい。
要求減衰力が低減衰力特性領域から中間帯域に推移してきた場合、要求減衰力は、その後中間帯域の上限を上回り、高減衰力特性領域に進むように推移するものと予測される。よってこの場合には要求段数を、中間帯域を挟む減衰力特性のうち、より大きな減衰力を発生する減衰力特性を表す減衰力特性段数に設定することにより、要求減衰力の推移を見越して減衰力を制御することができる。また、予測される要求減衰力の推移に基づき早めに減衰力特性段数を切り換えることができるので、減衰力特性段数の切換応答を早めることができる。
また、前記要求段数設定手段は、要求減衰力が高減衰力特性領域から中間帯域に推移した場合には、要求段数を、中間帯域を挟んで隣接する2つの減衰力特性を表す減衰力特性段数のうち、発生する減衰力が小さい減衰力特性を表す減衰力特性段数に設定するものであるのがよい。この場合、要求段数設定手段は、直前要求減衰力が高減衰力特性領域に属する場合に要求減衰力が高減衰力特性領域から中間帯域に推移したものと判断し、要求段数を、中間帯域を挟んで隣接する2つの減衰力特性を表す減衰力特性段数のうち発生する減衰力が小さい減衰力特性を表す減衰力特性段数に設定するものであるのがよい。
要求減衰力が高減衰力特性領域から中間帯域に推移してきた場合、要求減衰力は、その後中間帯域の下限を下回り、低減衰力特性領域に進むように推移するものと予測される。よってこの場合には要求段数を、中間帯域を挟む減衰力特性のうち、より小さな減衰力を発生する減衰力特性を表す減衰力特性段数に設定することにより、要求減衰力の推移を見越して減衰力を制御することができる。また、予測される要求減衰力の推移に基づき早めに減衰力特性段数を切り換えることができるので、減衰力特性段数の切換応答を早めることができる。
上記において、低減衰力特性領域とは、振動速度に対する減衰力の変化特性を表す減衰力特性図により表される減衰力特性領域内において、振動速度が同一である条件下で中間帯域と比較した場合、中間帯域の下限を表す減衰力である下限減衰力よりも小さい減衰力を表す領域である。また、高減衰力特性領域とは、減衰力特性領域内において、振動速度が同一である条件下で中間帯域と比較した場合、中間帯域の上限を表す減衰力である上限減衰力よりも大きい減衰力を表す領域である。
なお、上記説明した本発明において、減衰力の大小比較は絶対値による比較である。減衰力に正負を付してその方向まで表示しているときには、正負を除いた絶対値によって大小が決められる。
また、前記中間帯域は、切換制御手段による切換手段の作動の制御を行わない切換制御不感帯域であってもよい。中間帯域を不感帯として設定し、この不感帯領域に要求減衰力が属する場合は切換手段の作動を無制御の状態とすることにより、切換作動のハンチングが確実に防止される。
また、上記振動系は車両のサスペンション装置であるのがよい。これによれば、本発明の減衰力制御を車両のサスペンション装置に適用することにより、車両の乗り心地が向上する。
本実施形態に係る車両のサスペンション制御装置の全体概略図である。 ダンパの減衰力特性を表す減衰力特性グラフである。 減衰力特性テーブルの一例である。 減衰力特性グラフ上に中間帯域を表した図である。 図4の一部拡大図である。 中間帯域テーブルの一例である。 要求減衰力計算処理の流れを示すプログラムフローチャートである。 要求段数計算処理の流れを示すプログラムフローチャートである。 要求段数計算処理の流れを示すプログラムフローチャートである。 サスペンション装置の単輪モデルを示す図である。 単輪モデルを基に設計した一般化プラントおよび状態フィードバックコントローラからなる閉ループシステムのブロック線図である。 下側減衰力および上側減衰力と要求減衰力との関係を表す減衰力特性グラフである。 要求減衰力の推移を表す減衰力特性グラフである。 要求減衰力の推移を表す減衰力特性グラフである。 要求減衰力の推移を表すリサージュ波形とダンパの減衰力特性および各中間帯域とを重ね合わせた減衰力特性グラフである。 図14のA部拡大図である。 図14のB部拡大図である。 中間帯域が不感帯域である場合における、要求段数設定処理の流れを示すプログラムフローチャートである。 中間帯域の他の設定例を示した減衰力特性グラフである。 従来技術における、要求減衰力の推移を示した減衰力特性グラフである。
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態に係る車両のサスペンション制御装置1の全体を表す概略図である。このサスペンション制御装置1は、サスペンション装置SPと電気制御装置ELを備えている。
サスペンション装置SPは、ダンパ10とサスペンションスプリング20を備えている。ダンパ10は、シリンダ11と、ピストン12と、ピストンロッド13とを備えて構成されており、タイヤ60に連結したロアアームやナックル等のバネ下部材LAと、車体等により構成されるバネ上部材HAとの間に介装されている。シリンダ11は、内部に粘性流体が封入された中空の部材であり、その下端にてバネ下部材LAに連結されている。ピストン12は、シリンダ11の軸方向に移動可能となるようにシリンダ11の内部に挿入されている。このピストン12によって、シリンダ11の内部が上下室R1,R2に区画されている。また、ピストン12には連通路12aが形成されており、この連通路12aにより上下室R1,R2が連通される。ピストンロッド13は棒状の部材であって、その一端がピストン12に連結され、その連結部位からシリンダ11内を上方に向かって延設され、その他端にてバネ上部材HAに連結されている。
サスペンションスプリング20は、ダンパ10と並列するようにバネ上部材HAとバネ下部材LAとの間に設けられている。サスペンションスプリング20は、タイヤ60を介して路面から入力される振動を緩衝するとともに、バネ下部材LAに対してバネ上部材HAを振動させる。この振動に伴い、バネ上部材HAに連結されたダンパ10のピストン12が、バネ下部材LAに連結されたダンパ10のシリンダ11内で振動する。ピストン12の振動により連通路12a内をシリンダ11内の粘性流体が流れる。このときの流体抵抗が振動に対する減衰力となり、ピストン12の振動、すなわちバネ下部材LAに対するバネ上部材HAの振動が減衰する。このようにサスペンション装置SPは振動系を構成し、その振動はダンパ10により発生される減衰力により減衰される。
また、サスペンション制御装置1は、可変絞り機構30を備えている。可変絞り機構30はバルブ31およびアクチュエータ32を備える。アクチュエータ32によりバルブ31の作動が制御される。バルブ31は連通路12aに取付けられている。バルブ31の作動により連通路12aの開度が複数段階に切り換えられる。この切り換えにより連通路12aの開度が大きくなるとダンパ10の減衰力が低めに設定され、連通路12aの開度が小さくなるとダンパ10の減衰力が高めに設定される。このようにバルブ31の作動によりダンパ10の減衰力特性(バネ下部材LAに対するバネ上部材HAの振動の速度(バネ上−バネ下相対速度)に対する減衰力の変化特性)が段階的に切り換えられる。なお、バルブ31として、ロータリーバルブなどの公知のバルブを採用することができる。バルブ31によりダンパ10の減衰力特性を切り換えるための具体的構造については公知であるのでその説明を省略する。
図2は、バルブ31により切換可能なダンパ10の減衰力特性を表す減衰力特性グラフである。このグラフは、バネ下部材LAとバネ上部材HAとの間の振動の速度、すなわちバネ上−バネ下相対速度に対する減衰力の変化特性(減衰力特性)を示すグラフであり、横軸がバネ上−バネ下相対速度、縦軸が減衰力である。図に示されるように、ダンパ10の減衰力特性は、バルブ31の作動によって段階的に切り換えられる。本実施形態において減衰力特性は7段階に切り換え可能であり、各減衰力特性はバルブ31の切り換え段数Dにより表される。例えば段数Dが1段(D1)であるときは、勾配が最も小さい減衰力特性線Aによりその減衰力特性が表される。この場合は減衰力が最もソフトな仕様になる。段数Dの値が大きくなるほど、その段数により表される減衰力特性線の勾配が大きくなる。そして、段数Dが最大の段数の7段(D7)であるときは、勾配が最も大きい減衰力特性線Bによりその減衰力特性が表される。この場合は減衰力が最もハードな仕様となる。なお、段数DN(N=1〜6)により表される減衰力特性と段数DN+1により表される減衰力特性は、減衰力特性グラフ上で互いに隣接する関係にある。バルブ31が本発明の切換手段に相当し、各段数Dが本発明の減衰力特性段数に相当する。
図2に示した減衰力特性線はあくまで一例であり、各段数Dにより表される減衰力特性は、この図に示された特性になるとは限らない。例えば図において各段数により表される各減衰力特性は一本の直線により表されるが、折れ点が存在するような特性でも良いし、また曲線で表される特性であってもよい。
次に、図1に示される電気制御装置ELについて説明する。電気制御装置ELは、バネ上加速度センサ41、バネ下加速度センサ42、ストロークセンサ43、タイヤ変位量センサ44およびマイクロコンピュータ50を備えている。バネ上加速度センサ41はバネ上部材HAに組み付けられており、バネ上部材HAの絶対空間に対する上下方向の加速度であるバネ上加速度xpb"を検出する。バネ下加速度センサ42はバネ下部材LAに組み付けられており、バネ下部材LAの絶対空間に対する上下方向の加速度であるバネ下加速度xpw"を検出する。これらのバネ上加速度xpb"およびバネ下加速度xpw"は、ともに上方向に向かう加速度を正の加速度として検出するとともに、下方向に向かう加速度を負の加速度として検出する。ストロークセンサ43は、バネ上部材HAとバネ下部材LAとの間に設けられており、バネ下部材LAの基準位置から上下方向の変位量(基準位置から上方向の変位を正、下方向の変位を負とする)であるバネ下変位量xpwと、バネ上部材HAの基準位置から上下方向の変位量(基準位置から上方向の変位を正、下方向の変位を負とする)であるバネ上変位量xpbとの差であるバネ上−バネ下相対変位量xpw-xpbを検出する。タイヤ変位量センサ44はバネ下部材LAに取付けられており、路面の基準位置から上下方向の変位量(基準位置から上方向の変位を正、下方向の変位を負とする)である路面変位量xprとバネ下変位量xpwとの差であるバネ下相対変位量xpr-xpwを検出する。
バネ上加速度センサ41、バネ下加速度センサ42、ストロークセンサ43およびタイヤ変位量センサ44は、マイクロコンピュータ50に電気的に接続されていて、各センサにより検出された値はマイクロコンピュータ50に受け渡される。マイクロコンピュータ50は、受け渡された値を基にアクチュエータ32の作動を制御することによって、サスペンション装置SPの減衰力を制御する。このマイクロコンピュータ50および可変絞り機構30を含めた構成が、本発明の減衰力制御装置に相当する。
また、マイクロコンピュータ50は図1に示されるように、要求減衰力計算部51および要求段数設定部52を有している。要求減衰力計算部51は、上記各センサにより検出された値を入力するとともに、非線形H制御理論に基づいて、制御目標となる減衰力である要求減衰力Freqを計算する。そして、計算した要求減衰力Freqおよび、これらの計算に用いるために内部で計算したバネ上−バネ下相対速度xpw'-xpb'を出力する。要求段数設定部52は、要求減衰力計算部51が出力した要求減衰力Freqおよびバネ上−バネ下相対速度xpw'-xpb'を入力するとともに、入力したこれらの値に基づいて、バルブ31により切換可能なダンパ10の減衰力特性を表す段数の制御目標となる要求段数Dreqを設定する。そして、設定した要求段数Dreqに対応する指示信号をアクチュエータ32に出力する。
さらにマイクロコンピュータ50は、そのメモリ内に減衰力特性テーブル53および中間帯域テーブル54を有している。減衰力特性テーブル53は図2に示される減衰力特性を記憶したテーブルである。具体的には、複数のバネ上−バネ下相対速度に対し、ダンパ10が発生することのできる減衰力(例えば図2に示される減衰力FN(N=1〜7))が、段数DN(N=1〜7)ごとに減衰力特性テーブルに記憶されている。図3に減衰力特性テーブル53の一例を示す。図3においてvがバネ上−バネ下相対速度を表し、Dが段数を表している。図3に示されるように、減衰力特性テーブル53に記憶されている減衰力は、バネ上−バネ下相対速度vおよび段数DNに対応して記憶されている。テーブル中に示される減衰力FN(v)は、バネ上−バネ下相対速度がvであり、ダンパ10の減衰力特性を表す段数がDNである場合に発生される減衰力を表す。
中間帯域テーブル54は、複数のバネ上−バネ下相対速度に対し、各段数DN(N=1〜7)により表される減衰力特性線の間に設定される中間帯域を表す減衰力を記憶したテーブルである。この中間帯域について、以下に説明する。
図4は、減衰力特性グラフ上に中間帯域を示した図である。図5は図4の一部を拡大した図である。図4および図5において、灰色で示された領域が中間帯域である。これらの図に示されるように、中間帯域は、減衰力特性グラフ上において、各段数により表されるダンパ10の減衰力特性のうち、隣接する減衰力特性間にそれぞれ形成される減衰力特性領域である。この中間帯域は予め設定されている。中間帯域は、その領域を挟んでいる両側の隣接する2つの減衰力特性を表す段数を用いて表示されている。具体的には、N段目(N=1〜6)の段数DNにより表される減衰力特性とN+1段目の段数DN+1により表される減衰力特性の間に設けられる中間帯域は、RN:N+1として表されている。
中間帯域RN:N+1は、段数DNおよび段数DN+1により表される減衰力特性の中心を通る減衰力特性(中心減衰力特性)を表す中心減衰力特性線SN:N+1(図3において一点鎖線で示される)の一部または全部(図においては全部)を含み、この中心減衰力特性線SN:N+1に沿って帯状に形成されている。中心減衰力特性線SN:N+1の勾配は、それを挟むダンパ10の減衰力特性線の勾配の丁度中間の勾配である。また、中間帯域RN:N+1は、中心減衰力特性線SN:N+1により表される減衰力を中心として上下に広がる減衰力幅を持つ。中心減衰力特性線SN:N+1よりも上側の幅と下側の幅は等しくてもよいし異なっていてもよい。減衰力幅は任意に設定することができる。この場合、要求減衰力計算部51により計算された要求減衰力Freqが中心減衰力特性線SN:N+1付近を推移するときに、その推移が中心減衰力特性線SN:N+1に対して上下に変動する幅よりも大きくなるように、減衰力幅を設定するとよい。本実施形態においては、ダンパ10の減衰力特性を表す減衰力特性線のうち隣接する2つの減衰力特性線間における減衰力の差(FN+1-FN)に所定の割合を乗じた大きさが、その2つの減衰力特性線間に形成される中間帯域の減衰力幅として予め設定されている。この割合も任意に設定することができるが、好ましくは5〜10%程度の割合であるとよい。またこの割合は、本実施形態ではバネ上−バネ下相対速度によっては変化しない固定割合であるが、バネ上−バネ下相対速度に応じて変化する可変割合であってもよい。また、各中間帯域の減衰力幅はそれぞれ異なっていてもよいし、同じでもよい。
また、本実施形態においては、後述する線形減衰係数により表される減衰力特性から離れている領域に形成されている中間帯域であるほどその減衰力幅が大きくされている。すなわち、減衰力特性グラフ上において、線形減衰係数により表される減衰力特性線の勾配との差がより大きい勾配を持つ中心減衰力特性線を含む中間帯域ほど、その減衰力幅が大きくされている。この線形減衰係数により表される減衰力特性線の一例が図4において太線Aで表されている。図に示されるように、この減衰力特性線Aは、段数D1〜D7により表されるダンパの減衰力特性の可変範囲のほぼ中央を通る。したがって、上記可変範囲の上限付近および下限付近に位置する中間帯域、例えばR6:7やR1:2で表される中間帯域の減衰力幅は大きく、上記可変範囲の中央付近に位置する中間帯域、例えばR3:4やR4:5で表される中間帯域の減衰力幅は小さくなるように、それぞれの中間帯域の減衰力幅が設定されている。
上記のように形成される中間帯域は、その上限の減衰力を表す上限減衰力および下限の減衰力を表す下限減衰力によってその境界部分が特定される。この上限減衰力および下限減衰力はバネ上−バネ下相対速度に応じて変化する。図5には、バネ上−バネ下相対速度がv1であるときにおける、ある中間帯域RN:N+1の上限減衰力FRUN:N+1および下限減衰力FRDN:N+1が示されている。図5からわかるように、上限減衰力FRUN:N+1と下限減衰力FRDN:N+1によって、バネ上−バネ下相対速度がv1であるときにおける中間帯域RN:N+1の上下境界が表されるとともに、両減衰力の差によって、バネ上−バネ下相対速度がv1であるときにおける中間帯域RN:N+1の減衰力幅が表される。中間帯域テーブル54は、このような上限減衰力FRUN:N+1および下限減衰力FRDN:N+1(N=1〜6)を、複数のバネ上−バネ下相対速度に対し、中間帯域ごとに記憶している。
図6は、中間帯域テーブル54の一例である。この図からわかるように、中間帯域テーブル54は、各中間帯域RN:N+1(N=1〜6)の境界を表す上限減衰力FRUN:N+1および下限減衰力FRDN:N+1を、複数のバネ上−バネ下相対速度に対応させて記憶している。テーブル中の上限減衰力FRUN:N+1(v)および下限減衰力FRDN:N+1(v)は、バネ上−バネ下相対速度がvであるときにおける中間帯域RN:N+1の上限減衰力および下限減衰力を表す。中間帯域テーブル54が中間帯域記憶手段に相当する。なお、上限減衰力および下限減衰力がバネ上−バネ下相対速度および段数の関数として表すことができる場合には、中間帯域テーブル54は、図6に示される表に代えて、その関数を記憶しておいてもよい。
減衰力特性テーブル53に記憶された減衰力FN(N=1〜7)や、中間帯域テーブル54に記憶された上限減衰力FRUN:N+1(N=1〜6)および下限減衰力FRDN:N+1(N=1〜6)は、要求段数設定部52が要求段数Dreqを設定する際に参照される。
上記構成のサスペンション制御装置1において、以下に、サスペンション装置SPの減衰力制御について説明する。車両のイグニッションがONとされた場合、マイクロコンピュータ50は微小間隔毎に、あるいはセンサ入力値が所定の閾値を越えた場合(つまり減衰力制御が必要となる場合)に、図7、図8Aおよび図8Bに示されるプログラムを繰り返し実行する。
図7は、マイクロコンピュータ50の要求減衰力計算部51が実行する要求減衰力計算処理の流れを示すプログラムフローチャートである。要求減衰力計算部51は、この処理を図7のステップ100(以下、ステップ番号をSと略記する)にて開始し、次のS102にて、バネ上加速度センサ41からバネ上加速度xpb"を、バネ下加速度センサ42からバネ下加速度xpw"を、ストロークセンサ43からバネ上−バネ下相対変位量xpw-xpbを、タイヤ変位量センサ44からバネ下相対変位量xpr-xpwを、それぞれ入力する。次に、S104にて、バネ上加速度xpb"を積分することにより、バネ上部材HAの上下方向の変位速度(上方向の速度を正、下方向の速度を負とする)であるバネ上速度xpb'を、バネ下加速度xpw"を積分することにより、バネ下部材LAの上下方向の変位速度(上方向の速度を正、下方向の速度を負とする)であるバネ下速度xpw'を計算する。また、バネ上−バネ下相対変位量xpw-xpbを微分することにより、バネ下速度xpw'とバネ上速度xpb'との差であるバネ上−バネ下相対速度xpw'-xpb'を計算する。さらに、バネ下相対変位量xpr-xpwを微分することにより、路面の上下方向の変位速度(上方向の速度を正、下方向の速度を負とする)である路面速度xpr'とバネ下速度xpw'との差であるバネ下相対速度xpr'-xpw'を計算する。なお、バネ上−バネ下相対速度xpw'-xpb'は、シリンダ11に対するピストン12の振動速度であり、これはサスペンション装置SPの振動の速度を表す。
続いて要求減衰力計算部51は、S106にて、サスペンション装置SPを制御対象とした減衰力制御モデルに非線形H制御理論を適用して、制御により変動する減衰力を表す可変分の減衰係数である可変減衰係数Cvを計算する。可変減衰係数Cvの計算手法の概略は、例えば以下のようである。
図9は、サスペンション装置SPの運動を表す車両の単輪モデルを示す図である。この単輪モデルは2自由度振動系である。図において、Mbはバネ上部材HAの質量、Mwはバネ下部材LAの質量、Ksはサスペンションスプリング20のバネ定数、Csは予め設定されたダンパ10の線形減衰係数、Cvはダンパ10の可変減衰係数、Ktはタイヤ60のバネ定数である。このモデルの運動方程式は下記式(eq.1)および下記式(eq.2)により表される。
なお、式中のx**'は変位量x**の1階時間微分(dx**/dt)を、x**"は変位量x**の2階時間微分(d2x**/dt2)を表す。
上記式(eq.1)および式(eq.2)によりその運動が表される図1の単輪モデルの状態空間表現は、状態量xpが下記に示す変位および速度、外乱w1が路面速度xpr'、制御入力uが可変減衰係数Cvである場合、下記式(eq.3)のように表される。
サスペンション装置SPの減衰力制御の目的は、振動系の振動を抑制することである。具体的には、バネ上部材HAの振動に大きく影響するバネ上速度xpb'、車両の乗り心地に大きく影響するバネ上加速度xpb"、タイヤ60の振動に大きく影響するバネ上−バネ下相対速度xpw'-xpb'を同時に抑制することである。したがって、これらのバネ上速度xpb'、バネ上加速度xpb"およびバネ上−バネ下相対速度xpw'-xpb'が、評価出力zpとして選択される。この場合、評価出力の出力方程式は、下記式(eq.4)のように表される。
また、バネ上加速度xpb"とバネ上−バネ下相対変位量xpw-xpbは比較的検出し易い。したがって、観測出力ypがこれらのバネ上加速度xpb"およびバネ上−バネ下相対変位量xpw-xpbである場合、観測出力ypの出力方程式は、下記式(eq.5)のように表される。なお、観測出力ypには観測ノイズw2が含まれているものとする。
図10は、図9の単輪モデルにより表されるサスペンション装置SPを制御対象として設計した一般化プラントおよび状態フィードバックコントローラKよりなる閉ループシステムSを表すブロック線図である。図に示されるように、評価出力zpに周波数重みWsが作用している。周波数重みWsは、重みの大きさが周波数に応じて変化する重みであり、伝達関数で与えられる動的重みである。この周波数重みの採用により、制御性能を向上させたい周波数帯域のゲインが大きくされる。周波数重みWsの状態空間表現は、式(eq.6)により表される。
式(eq.6)において、xwは周波数重みWsの状態量を表し、zwは周波数重みWsの出力を表す。また、Aw,Bw,Cw,Dwは制御仕様により定まる定数行列である。これらの行列は、車両の乗り心地を向上させるためにバネ上加速度xpb"に対するゲインが3〜8Hz程度の周波数領域で低下し、バネ上部材HAの共振を抑制するためにバネ上速度xpb'に対するゲインがバネ上共振付近(0.5〜1.5Hz程度)の周波数領域で低下し、さらにバネ下部材LAの共振を避けるためにバネ上−バネ下相対速度xpw'-xpb'に対するゲインがバネ下共振付近(10〜14Hz程度)の周波数領域で低下するように、設定される。
また、評価出力zpに周波数重みWsを作用させた出力には非線形重みαが作用している。非線形重みαは、状態量の原点近傍外における制御性能を改善させるために導入される重みであり、状態量の原点近傍外におけるL2ゲインを積極的に抑えるように設定される。この非線形重みαの導入により制御性能が改善された減衰力制御を行うことができる。
図10に示される閉ループシステムSの状態空間表現は、下記式(eq.7)のように表される。
式(eq.7)中、D121(x)の成分DwDp12(xp)を0とした場合、式(eq.7)は、下記式(eq.8)のように書き表される。
本実施形態においては、図10の閉ループシステムSにより表された減衰力制御モデルに非線形H制御理論を適用することによって、制御入力uである可変減衰係数Cvが制御される。ここで、非線形H制御問題は、システムを内部安定とし、且つ外乱の評価出力への影響を抑えるようにシステムを制御することであり、この問題は、図10に示される閉ループシステムSのL2ゲイン||S||L2が、ある与えられた正定数γ未満となるような状態フィードバックコントローラKを設計することと言える。この制御問題の解を求めるためには、ハミルトンヤコビ偏微分不等式を解かなければならないが、この不等式の解を解析的に求めることは難しい。しかし、一般化プラントの状態空間表現が双線形システムである場合には、近似的にリカッチ不等式を解くことにより、制御問題の解を求めることができる。式(eq.8)により表されるシステムは双線形システムである。したがって、非線形H制御問題が可解であるためには、下記式(eq.9)に示されるリカッチ不等式を満たす正定対称行列Pが存在することが必要十分条件となる。
このとき状態フィードバックコントローラK(=K(x)=u)の一つは、下記式(eq.10)により与えられる。
ここで、m(x)は任意の正定スカラー値関数である。式(eq.9)および式(eq.10)に基づいて閉ループシステムSの状態フィードバックコントローラKを設計することにより、制御入力uすなわち可変減衰係数Cvが計算される。
非線形H制御理論に基づくサスペンション装置SPの減衰力制御は公知の技術であり、上記特許文献1により具体的な解法が示されている。また、上記解法以外にも、種々の解法が用いられる。例えば、一般化プラントを構築する際に、評価出力に係る周波数重みWsに加えて制御入力に係る周波数重みWuを設定し、さらにこの周波数重みWuに非線形重みを作用させてもよい。そして、これらの重みを考慮して状態フィードバックコントローラKを設計してもよい。また、車両の各輪のバネ下運動に車体のヒーブ、ピッチ、ロール運動を加味した7自由度振動系を制御対象とした制御モデルに非線形H制御理論を適用して、上記運動を加味した可変減衰係数を各輪について求めてもよい。
図7のS106にて上記のような計算手法により可変減衰係数Cvを計算した後は、要求減衰力計算部51は、次のS108にて要求減衰係数Creqを計算する。要求減衰係数Creqは、可変減衰係数Cvに線形減衰係数Csを加算することにより求められる。ここで、線形減衰係数Csは、制御により変動しない固定分の減衰係数であり、予め設定されている。続いて要求減衰力計算部51はS110に進み、制御目標の減衰力である要求減衰力Freqを計算する。要求減衰力Freqは、要求減衰係数Creqとバネ上−バネ下相対速度xpw'-xpb'とを積算することにより求められる。次いでS112に進み、計算した要求減衰力Freqおよびバネ上−バネ下相対速度xpw'-xpb'を出力する。その後S114に進んでこの処理を終了する。このように、要求減衰力計算部51は、サスペンション装置SPを制御対象とした減衰力制御モデルに非線形H制御理論を適用することによって求められた可変減衰係数Cvに基づいて、要求減衰力Freqを計算する。要求減衰力計算部51、特に要求減衰力計算部51が行う要求減衰力計算処理中のS106,S108,S110の処理が、本発明の要求減衰力計算手段に相当する。
図8Aおよび図8Bは、マイクロコンピュータ50の要求段数設定部52が実行する要求段数設定処理の流れを示すプログラムフローチャートである。要求段数設定部52はこの処理を図8AのS200にて開始し、次のS202にて、要求減衰力計算部51が計算した要求減衰力Freqおよびバネ上−バネ下相対速度xpw'-xpb'を入力したか否かを判定する。入力していない場合(S202:No)はS236に進んでこの処理を終了する。入力した場合(S202:Yes)はS204に進み、減衰力特性テーブル53を参照し、入力したバネ上−バネ下相対速度xpw'-xpb'に対応して記憶されている減衰力FN(N=1〜7)を、ダンパ10の減衰力特性を表す段数毎に抽出する。
次いで、要求段数設定部52はS206に進み、段数毎に抽出した7個の減衰力FN(N=1〜7)の中から、FM≦Freq≦FM+1(Freqが負である場合はFM+1≦Freq≦FM)を満たす上側減衰力FM+1および下側減衰力FMを計算する。この場合、要求段数設定部52は、抽出した7個の減衰力FNの中から隣接する段数に対応する2つの減衰力を選び出す。そして、選び出した2つの減衰力の間に要求減衰力Freqが入っているかいないかについて、全ての隣接する段数に対応する2つの減衰力の組み合わせについて判定する。これにより上側減衰力FM+1および下側減衰力FMを計算することができる。
図11は、計算された上側減衰力FM+1および下側減衰力FMと要求減衰力Freqとの関係を減衰力特性グラフ上に表した図である。図に示されるように、バネ上−バネ下相対速度がxpw'-xpb'であるときに計算された要求減衰力Freqが点A,A,Aのいずれかにより表されるものすると、これらの点は、上側減衰力FM+1を表す点Bと下側減衰力FMを表す点Cとの間に位置する。したがって、段数毎に抽出した7個の減衰力FNのうち、要求減衰力Freqに最も近い減衰力は、上側減衰力FM+1と下側減衰力FMのいずれかということになる。
また、図からわかるように、上側減衰力FM+1は段数DM+1により表される上側減衰力特性線LM+1上の減衰力であり、下側減衰力FMは段数DMにより表される下側減衰力特性線LM上の減衰力である。よって、要求減衰力Freqに最も近い減衰力を発生することができる減衰力特性段数は、段数DM+1か段数DMのいずれかということになる。本明細書において、上側減衰力特性線LM+1を表す段数DM+1を上側段数、下側減衰力特性線LMを表す段数DMを下側段数と呼ぶ。また、図からわかるように、上側減衰力特性線LM+1と下側減衰力特性線LMとの間には、中間帯域RM:M+1が設定されている。したがって、上側段数DM+1および下側段数DMは、中間帯域RM:M+1を挟んで隣接する2つの減衰力特性を表す段数に相当する。
要求段数設定部52はS206にて上側減衰力FM+1および下側減衰力FMを計算した後にS208に進み、中間帯域テーブル54を参照することにより、上限減衰力FRUM:M+1および下限減衰力FRDM:M+1を抽出する。このとき抽出される上限減衰力FRUM:M+1および下限減衰力FRDM:M+1は、図11に示されるように、上側減衰力特性線LM+1と下側減衰力特性線LMの間に形成された中間帯域RM:M+1を表す上限減衰力および下限減衰力のうち、バネ上−バネ下相対速度xpw'-xpb'に対応して記憶されている上限減衰力および下限減衰力である。
次に、要求段数設定部52はS210に進み、要求減衰力Freqの絶対値が下限減衰力FRDM:M+1の絶対値以上であり、且つ上限減衰力FRUM:M+1の絶対値以下であるか否かを判定する。下限減衰力FRDM:M+1および上限減衰力FRUM:M+1は中間帯域RM:M+1の上限および下限を表す減衰力であるから、このステップでは、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力であるか否かを判定していることになる。
S210にて、要求減衰力Freqが下限減衰力FRDM:M+1と上限減衰力FRUM:M+1との間の値であると判定した場合(S210:Yes)はS212に進む。なお、S210の判定結果がYesである場合は、要求減衰力Freqは図11の点Aにより表される。すなわち要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する。
S212では、要求段数設定部52は、フラグFLGが”0”に設定されているか否かを判定する。このフラグFLGは、要求減衰力が中間帯域に属する減衰力であるか否か、すなわちS210の判定結果がYesであるか否かを表すフラグである。フラグFLGが”0”に設定されている場合は、要求減衰力が中間帯域に属する減衰力ではないことを表し、フラグFLGが”1”に設定されている場合は、要求減衰力が中間帯域に属する減衰力であることを表す。
S212の判定結果がYesである場合、すなわちフラグFLGが”0”に設定されている場合はS214に進む。S214においては、フラグFLGを”1”に設定する。次いで要求段数設定部52はS216に進み、前回の要求段数設定処理にて入力した要求減衰力Freq*の絶対値が、中間帯域RM:M+1の下限を表す下限減衰力FRDM:M+1*の絶対値未満であるか否かを判定する。なお、下限減衰力FRDM:M+1*は、前回の要求段数設定処理にてS208で抽出された下限減衰力である。
ここで、S216による判定は、S212の判定結果がYesである場合にのみ行われる。S212の判定結果がYesであるということ、つまりフラグFLGが”0”であるということは、前回の要求段数設定処理時に要求減衰力Freq*が中間帯域に属する減衰力ではないと判定されたことを示している。またS212の判定は、S210の判定結果がYesである場合にのみ行われる。S210の判定結果がYesであるということは、今回の要求段数設定処理において要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力であると判定されたことを示している。つまり、S216における判定の対象となる要求減衰力Freq*は、要求減衰力が中間帯域に属する減衰力となる直前に要求減衰力計算処理にて計算された要求減衰力である。この要求減衰力、つまりS216における判定対象となる要求減衰力Freq*が本発明の直前要求減衰力に相当する。
S216にて、直前要求減衰力Freq*の絶対値が下限減衰力の前回値FRDM:M+1*の絶対値未満であると判定した場合(S216:Yes)は、要求段数設定部52はS218に進む。S216の判定結果がYesである場合における要求減衰力の推移について、図12を用いて説明する。図12は、直前要求減衰力Freq*と今回入力した要求減衰力Freqとの関係を減衰力特性グラフ上に表した図である。図において、上側減衰力特性線LM+1と下側減衰力特性線LMとに囲まれた減衰力特性領域のうち、中間帯域RM:M+1の上方に位置し、中間帯域RM:M+1により表される減衰力よりも大きい減衰力を表す領域が高減衰力特性領域RM+1とされている。高減衰力特性領域RM+1に属する減衰力の絶対値は、バネ上−バネ下相対速度が同一である条件下で比較したときに、中間帯域RM:M+1の上限を表す上限減衰力FRUM:M+1の絶対値よりも大きい。すなわち高減衰力特性領域RM+1に属する減衰力は、中間帯域RM:M+1を表す減衰力よりも大きい。また、上側減衰力特性線LM+1と下側減衰力特性線LMとに囲まれた減衰力特性領域のうち、中間帯域RM:M+1の下方に位置し、中間帯域RM:M+1により表される減衰力よりも小さい減衰力を表す領域が低減衰力特性領域RMとされている。低減衰力特性領域RMに属する減衰力の絶対値は、バネ上−バネ下相対速度が同一である条件下で比較したときに、中間帯域RM:M+1の下限を表す下限減衰力FRDM:M+1の絶対値よりも小さい。すなわち低減衰力特性領域RMに属する減衰力は、中間帯域RM:M+1を表す減衰力よりも小さい。
S216の判定結果がYesである場合、つまり、直前要求減衰力Freq*の絶対値が下限減衰力FRDM:M+1*の絶対値よりも小さい場合は、図12からわかるように直前要求減衰力Freq*は低減衰力特性領域RMに属する。また、今回入力した要求減衰力Freqは中間帯域RM:M+1に属する。両減衰力の位置関係から、要求減衰力は低減衰力特性領域RMから中間帯域RM:M+1に推移してきたものと判断できる。要求減衰力がこのように推移してきた場合、要求減衰力は、図の破線Aで示されるように、その後中間帯域RM:M+1を上方に突き抜けて高減衰力特性領域RM+1に入り、上側減衰力特性線LM+1に近づくように推移することが予測される。したがって、要求段数設定部52はこのような要求減衰力の推移を考慮して、S216の判定結果がYesである場合にはS218にて要求段数Dreqを上側段数DM+1に設定する。
また、S216にて、直前要求減衰力Freq*の絶対値が下限減衰力の前回値FRDM:M+1*の絶対値以上であると判定した場合(S216:No)は、要求段数設定部52はS220に進む。S216の判定結果がNoである場合における要求減衰力の推移について、図13を用いて説明する。図13は、直前要求減衰力Freq*と今回入力した要求減衰力Freqとの関係を減衰力特性グラフ上に表した図である。S216の判定結果がNoである場合、つまり、直前要求減衰力Freq*の絶対値が下限減衰力の前回値FRDM:M+1*の絶対値以上である場合は、図13からわかるように直前要求減衰力Freq*は高減衰力特性領域RM+1に属する減衰力であることがわかる。また、今回入力した要求減衰力Freqは中間帯域RM:M+1に属する。両減衰力の位置関係から、要求減衰力は高減衰力特性領域RM+1から中間帯域RM:M+1に推移してきたものと判断できる。要求減衰力がこのように推移してきた場合、要求減衰力は、図の破線Bで示されるように、その後中間帯域RM:M+1を下方に突き抜けて低減衰力特性領域RMに入り、下側減衰力特性線LMに近づくように推移することが予測される。したがって、要求段数設定部52はこのような要求減衰力の推移を考慮して、S216の判定結果がNoである場合にはS220にて要求段数Dreqを下側段数DMに設定する。
S218またはS220にて要求段数Dreqを設定した後は、要求段数設定部52はS222に進み、設定した要求段数Dreqをアクチュエータ32に出力する。アクチュエータ32は、ダンパ10の減衰力特性を表す段数が要求段数Dreqとなるようにバルブ31の作動を制御する。アクチュエータ32およびS222の処理が、本発明の切換制御手段に相当する。要求段数設定部52はS222にて要求段数Dreqを出力した後にS224に進み、今回入力した要求減衰力Freqを直前要求減衰力Freq*に代入し、今回抽出した下限減衰力FRDM:M+1を下限減衰力の前回値FRDM:M+1*に代入する。その後S236に進んでこのプログラムを終了する。
また、S212にて、フラグFLGが”0”に設定されていないと判定した場合(S212:No)、つまり既にフラグFLGが”1”に設定されている場合は、上記したS214〜S222の処理を飛ばしてS224に進む。S212の判定結果がNoである場合は、前回入力した要求減衰力Freq*も今回入力した要求減衰力Freqも中間帯域RM:M+1に属する減衰力である場合、つまり要求減衰力が中間帯域RM:M+1内を推移している場合である。このような場合にS214〜S222の処理を行わないようにすることで、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1内を推移している間は、要求段数Dreqが、その中間帯域RM:M+1を挟んで隣接する減衰力特性を表す上側段数DM+1および下側段数DMのうち、最初に要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属すると判定されたときに決められた段数に維持される。これにより要求段数Dreqが一律に設定される。
また、S210の判定結果がNoである場合は、要求段数設定部52は図8BのS226に進む。S210の判定結果がNoであるときは、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属さない。つまり、要求減衰力Freqが図11の点Aまたは点Aにより表される。この場合は、S226以降の処理によって、要求段数Dreqが、中間帯域RM:M+1を挟む隣接する2つの減衰力特性を表す上側段数DM+1および下側段数DMのうち、要求減衰力Freqに最も近い減衰力を発生する減衰力特性を表す段数に設定される。
S226では、要求段数設定部52は、フラグFLGが”1”に設定されているか否かを判定する。フラグFLGが”1”に設定されている場合(S226:Yes)はS228に進んでフラグFLGを”0”に設定する。その後S230に進む。フラグFLGが”1”に設定されていない場合(S226:No)はS228の処理を飛ばしてS230に進む。
S230では、要求段数設定部52は要求減衰力Freqの絶対値が上限減衰力FRUM:M+1の絶対値よりも大きいか否かを判定する。要求減衰力Freqの絶対値が上限減衰力FRUM:M+1の絶対値よりも大きい場合(S230:Yes)は、要求減衰力Freqは例えば図11の点Aにより表される。図からわかるように点Aにより表される要求減衰力Freqは中間帯域RM:M+1の上方に位置する(なお、要求減衰力Freqが負であるときは、要求減衰力Freqは中間帯域RM:M+1の下方に位置する)。この場合、要求減衰力Freqに最も近い減衰力を発生する減衰力特性は、上側段数DM+1により表される上側減衰力特性線LM+1になる。よって、S230の判定結果がYesである場合は、要求段数設定部52はS232に進んで要求段数Dreqを上側段数DM+1に設定する。これにより、要求段数Dreqが、要求減衰力Freqに最も近い減衰力を発生する減衰力特性を表す段数に設定される。
また、S230の判定結果がNoである場合、つまり要求減衰力Freqの絶対値が上限減衰力FRUM:M+1の絶対値以下である場合は、要求減衰力Freqは例えば図11の点Aにより表される。図からわかるように点Aは中間帯域RM:M+1の下方に位置する(なお、要求減衰力Freqが負であるときは、要求減衰力Freqは中間帯域RM:M+1の上方に位置する)。この場合、要求減衰力Freqに最も近い減衰力を発生する減衰力特性は、下側段数DMにより表される下側減衰力特性線LMになる。よって、S230の判定結果がNoである場合は、要求段数設定部52はS234に進んで要求段数Dreqを下側段数DMに設定する。これにより、要求段数Dreqが、要求減衰力Freqに最も近い減衰力を発生する減衰力特性を表す段数に設定される。S232またはS234にて要求段数Dreqを設定した後は、要求段数設定部52はS222に進み、設定した要求段数Dreqを出力する。次いで、S224に進み、要求減衰力Freqを直前要求減衰力Freq*に代入し、下限減衰力FRDM:M+1を下限減衰力の前回値FRDM:M+1*に代入する。その後S236に進んでこのプログラムを終了する。
上記した処理からわかるように、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力である場合には、要求段数設定部52は、直前要求減衰力Freq*が低減衰力特性領域RMに属するか高減衰力特性領域RM+1に属するかに基づいて要求減衰力Freqの推移を判断し、その推移を考慮して、その中間帯域RM:M+1を挟む上側減衰力特性線LM+1を表す上側段数DM+1および下側減衰力特性線LMを表す下側段数DMのうちのいずれか一方の段数に一律に要求段数Dreqを設定する。また、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属さない減衰力である場合には、要求段数設定部52は、その要求減衰力Freqに最も近い減衰力を発生する減衰力特性を表す段数に要求段数Dreqを設定する。要求段数設定部52が本発明の要求段数設定手段に相当する。
図14は、要求減衰力計算部51が計算した要求減衰力Freqの推移を表すリサージュ波形をダンパ10の減衰力特性線および各中間帯域と重ね合わせた減衰力特性グラフである。この図に示されたリサージュ波形により表される要求減衰力Freqの値に基づいて、要求段数Dreqが上記説明した規則に従い設定される。
図15は、図14の領域Aの枠内を拡大した図である。図15において、要求減衰力Freqは黒丸により表されている。また、要求減衰力Freqの推移の方向は黒丸を結んだ線分の矢印により表されている。図に示されるように、要求減衰力Freqは下側段数D6により表される下側減衰力特性線L6と上側段数D7により表される上側減衰力特性線L7との間を推移している。またこの2つの減衰力特性線間には中間帯域R6:7が設定されている。また、中間帯域R6:7の上側の領域が高減衰力特性領域R7、下側の領域が低減衰力特性領域R6である。図からわかるように、要求減衰力Freqは低減衰力特性領域R6から中間帯域R6:7に入るように推移している。つまり、この図は、図8AのS216にて直前要求減衰力Freq*の絶対値が下限減衰力の前回値FRD6:7*の絶対値よりも小さい(S216:Yes)と判定された場合における、要求減衰力の推移を示している。要求減衰力Freqは、低減衰力特性領域R6から中間帯域R6:7に入った後に中間帯域R6:7を横断し、中間帯域R6:7の上方を突き抜けて高減衰力特性領域R7に入り、上側減衰力特性線L7に近づくように推移している。
要求減衰力Freqが低減衰力特性領域R6内を推移している時は、要求段数Dreqが下側段数D6に設定される。要求減衰力Freqが中間帯域R6:7に属する減衰力となったときに要求段数Dreqが上側段数D7に設定される。要求段数Dreqが上側段数D7に設定された後、要求減衰力Freqが中間帯域R6:7内を推移しているとき、および、高減衰力特性領域R7内を推移しているときは、要求段数Dreqが上側段数D7に維持される。
また、要求減衰力Freqが上側減衰力特性線L7と下側減衰力特性線L6の中心を通る中心減衰力特性線S6:7付近を推移しているときに、要求減衰力Freqの推移の勾配が中心減衰力特性線S6:7の勾配に近づく場合がある。このような場合には、要求減衰力Freqの推移が中心減衰力特性線S6:7の上下に変動することもある。従来はこの変動により要求段数Dreqが上側段数D7と下側段数D6との間で頻繁に変化し、これによりバルブ31による段数の切換作動がハンチングしていた。本実施形態においては、上記変動は中間帯域R6:7内で行われるので、要求減衰力の推移が変動していても、要求段数Dreqが上側段数D7に一律に設定される。このため上記のようなハンチングは起こらない。
図16は、図14の領域Bの枠内を拡大した図である。図16においても要求減衰力Freqは黒丸により表され、その推移の方向は黒丸を結んだ線分の矢印により表されている。図に示されるように、要求減衰力Freqは下側段数D1により表される減衰力特性線L1と上側段数D2により表される減衰力特性線L2との間を推移している。またこの2つの減衰力特性線間には中間帯域R1:2が設定されている。中間帯域R1:2の上側の領域が高減衰力特性領域R2、下側の領域が低減衰力特性領域R1である。図からわかるように、要求減衰力Freqは高減衰力特性領域R2から中間帯域R1:2に入るように推移している。つまり、この図は、図8AのS216にて直前要求減衰力Freq*の絶対値が下限減衰力の前回値FRDM:M+1*の絶対値以上である(S216:No)と判定された場合における要求減衰力の推移を示している。要求減衰力Freqは、高減衰力特性領域R2から中間帯域R1:2に入った後に中間帯域R1:2を横断し、中間帯域R1:2の下方を突き抜けて低減衰力特性領域R1に入り、下側減衰力特性線L1に近づくように推移している。
要求減衰力Freqが高減衰力特性領域R2内を推移している時は、要求段数Dreqが上側段数D2に設定される。要求減衰力Freqが中間帯域R1:2に属する減衰力となったときに要求段数Dreqが下側段数D1に設定される。要求段数Dreqが下側段数D1に設定された後、要求減衰力Freqが中間帯域R1:2内を推移しているとき、および、低減衰力特性領域R1内を推移しているときは、要求段数DreqがD1に維持される。
また、図からわかるように、要求減衰力Freqが上側減衰力特性線L2と下側減衰力特性線L1の中心を通る中心減衰力特性線S1:2付近を推移しているときには、要求減衰力Freqの推移の勾配が中心減衰力特性線S1:2の勾配に近づく場合がある。このような場合には、要求減衰力Freqの推移が中心減衰力特性線S1:2の上下に変動することもある。従来はこの変動により要求段数Dreqが上側段数D2と下側段数D1との間で頻繁に変化し、これによりバルブ31による段数の切換作動がハンチングしていた。本実施形態においては、上記変動は中間帯域R1:2内で行われので、要求減衰力の推移が変動していても、要求段数Dreqが下側段数D1に一律に設定される。このため上記のようなハンチングは起こらない。
以上のように、本実施形態によれば、サスペンション装置SPを制御対象とした減衰力制御モデルに非線形H制御理論を適用することによって要求減衰力Freqが求められる。具体的には、上記減衰力制御モデルを表す図10の閉ループシステムSのL2ゲインがある与えられた正定数γ未満になるように状態フィードバックコントローラKが決定され、決定された状態フィードバックコントローラKにより可変減衰係数Cvが求められる。そして、求められた可変減衰係数Cvに基づいて要求減衰力Freqが計算される。こうして計算された要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する場合には、要求段数Dreqは、その中間帯域RM:M+1を挟む隣接する2つの減衰力特性を表す上側段数DM+1および下側段数DMのうちのいずれか一方に一律に設定される。したがって、要求減衰力Freqが2つの減衰力特性の中心を表す中心減衰力特性付近を推移し、その推移が中心減衰力特性に対して上下に微小変動した場合においても、その微小変動は中間帯域RM:M+1内にて行われるため要求段数Dreqは変化しない。このためバルブ31の段数の切換作動のハンチングが防止される。
また、中間帯域は、その減衰力幅が、その中間帯域を挟んで隣接する減衰力特性線間の減衰力幅の5〜10%の割合の広がりを持つように設定されている。これにより、中心減衰力特性付近における要求減衰力の推移の変動が、ほぼ確実に中間帯域内で行われる。
また、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力である場合には、要求段数設定部52は、直前要求減衰力Freq*に基づいて要求段数Dreqを設定する。直前要求減衰力Freq*の大きさから要求減衰力Freqの推移が把握できるため、この直前要求減衰力Freq*に基づいて要求段数Dreqを設定することにより、要求減衰力Freqの推移の傾向を加味して減衰力を制御することができる。
また、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力である場合には、要求段数設定部52は、直前要求減衰力Freq*が低減衰力特性領域RMに属する減衰力であるのか高減衰力特性領域RM+1に属する減衰力であるのかに基づいて、要求減衰力が低減衰力特性領域RMから中間帯域RM:M+1に推移してきたのか高減衰力特性領域RM+1から中間帯域RM:M+1に推移してきたのかを判断する。そして、この判断に基づいて要求段数Dreqを設定する。これにより、要求減衰力の推移を見越した減衰力制御が行われる。
また、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力である場合において、直前要求減衰力Freq*が低減衰力特性領域RMに属する減衰力であるときには、要求段数設定部52は、要求減衰力が低減衰力特性領域RMから中間帯域RM:M+1に推移してきたものと判断する。この場合、要求減衰力はその後中間帯域RM:M+1を上回って高減衰力特性領域RM+1に入り、上側減衰力特性線LM+1に近づくように推移すると予測されるため、要求段数設定部52は要求段数Dreqを上側段数DM+1に設定する。これにより、要求減衰力の推移を見越した減衰力制御を行うことができるとともに、予測される要求減衰力の推移に基づき早めに段数の切換作動を開始することができる。よって、バルブ31による段数切換応答を早めることができる。
また、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力である場合において、直前要求減衰力Freq*が高減衰力特性領域RM+1に属する減衰力であるときには、要求段数設定部52は、要求減衰力が高減衰力特性領域RM+1から中間帯域RM:M+1に推移してきたものと判断する。この場合、要求減衰力はその後中間帯域RM:M+1を下回って低減衰力特性領域RMに入り、下側減衰力特性線LMに近づくように推移すると予測されるため、要求段数設定部52は要求段数Dreqを下側段数DMに設定する。これにより、要求減衰力の推移を見越した減衰力制御を行うことができるとともに、予測される要求減衰力の推移に基づき早めに段数の切換作動を開始することができる。よって、バルブ31による段数切換応答を早めることができる。
上記実施形態においては、図8AのS216にて、直前要求減衰力Freq*の絶対値が下限減衰力の前回値FRDM:M+1*の絶対値よりも小さいか否かを判定することによって、直前要求減衰力Freq*が低減衰力特性領域RMに属する減衰力であるか、高減衰力特性領域RM+1に属する減衰力であるかを判断している。これに代えて、直前要求減衰力Freq*の絶対値が上限減衰力の前回値FRUM:M+1*の絶対値よりも大きい減衰力か否かを判定することによって、直前要求減衰力Freq*が高減衰力特性領域RM+1に属する減衰力であるか低減衰力特性領域RMに属する減衰力であるかを判断してもよい。
また、上記実施形態においては、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力ではない場合には、要求減衰力Freqに最も近い減衰力を発生する減衰力特性を表す段数に要求段数Dreqが設定される。これに対し、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力ではない場合であっても、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力であると判断されてから所定時間が経過していない場合は、要求段数Dreqを、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力であるときに設定されていた段数に維持するようにしてもよい。このような制御は例えばタイマーを用いて行うことができる。具体的には、要求段数設定部52は、図8AのS210にて要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力であると最初に判定されたときにタイマーによる時間計測を開始し、計測時間が予め定められた所定時間を経過していない場合には、たとえ要求減衰力Freqがその後中間帯域RM:M+1に属さない減衰力となった場合であっても、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属するときに設定された要求段数Dreqを維持する。このように制御することで、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1の下限および上限にて変動した場合に要求段数が頻繁に切り換わることによるハンチングを防止することができる。
図17は、上記実施形態の図8Aおよび図8Bにより示される要求段数設定処理とは異なるプログラムフローチャートを示す図である。図17において図8Aと同一の処理ステップは同一のステップ番号により表示されている。この例では、中間帯域は、アクチュエータ32による段数の切換制御が行われない切換制御不感帯域として用いられる。つまり、要求減衰力が中間帯域に属する減衰力であるときには、要求段数の設定は行われない。
図17において、要求段数設定部52は、S202〜S208の処理により、上側減衰力FM+1、下側減衰力FM、上限減衰力FRUM:M+1、下限減衰力FRDM:M+1を求めた後、S210にて、要求減衰力Freqの絶対値が下限減衰力FRDM:M+1の絶対値以上であり且つ上限減衰力FRUM:M+1の絶対値以下であるか否かを判定する。この判定結果がNoである場合、すなわち要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属さない減衰力である場合には、S302に進み、以降の処理によって、要求段数Dreqが要求減衰力Freqに最も近い減衰力を発生する段数に設定される。すなわち要求段数設定部52は、S302にて要求減衰力Freqの絶対値が上限減衰力FRUM:M+1の絶対値よりも大きいか否かを判定し、要求減衰力Freqの絶対値が上限減衰力FRUM:M+1の絶対値よりも大きい場合(S302:Yes)はS304にて要求段数Dreqを上側段数DM+1に設定する。一方、要求減衰力Freqの絶対値が上限減衰力FRUM:M+1の絶対値以下である場合(S302:No)はS306にて要求段数Dreqを下側段数DMに設定する。要求段数Dreqの設定後はS308にて要求段数Dreqを出力する。その後、S236に進んでこの処理を終了する。
一方、図17のS210にて、要求減衰力Freqが下限減衰力FRDM:M+1以上であり且つ上限減衰力FRUM:M+1以下であると判定された場合(S210:Yes)は、要求段数設定部52は直接S236に進んでこの処理を終了する。すなわち、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力である場合は要求段数Dreqの設定処理を行わずにこのプログラムを終了する。このため、要求減衰力Freqが中間帯域RM:M+1に属する減衰力であるときは、アクチュエータ32によるバルブ31の切換制御の状態が無制御の状態となる。このような制御を行うことにより、要求減衰力Freqの推移が中間帯域RM:M+1内にて変動した場合でも、要求段数Dreqは変化しない。これにより、要求減衰力Freqの推移の変動によるバルブ31の切換作動のハンチングが防止される。
本発明は、上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態においては、ダンパ10により発生し得る減衰力特性を直線的に表しているが、各減衰力特性が折れ点を有するものでもよい。この場合、隣接する減衰力特性間に設けられる中間帯域も減衰力特性の形状に習って折れ点部分を持つように形成されるとよい。また、中間帯域は、例えば図18にて灰色の領域で示されるように特定のバネ上−バネ下相対速度領域についてのみ設定するものであってもよい。この場合、要求減衰力が隣接する2つの減衰力特性の中心付近を推移する領域を予め求めておき、求めた領域についてのみ、中間帯域を設定すればよい。また、全ての隣接する減衰力特性間に中間帯域を設定するのではなく、図18に示されるように特定の隣接する減衰力特性間にのみ中間帯域を設定するものであってもよい。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。
1…サスペンション制御装置、10…ダンパ、20…サスペンションスプリング(バネ)、30…可変絞り機構(減衰力制御装置)、31…バルブ(切換手段)、32…アクチュエータ(切換制御手段)、50…マイクロコンピュータ(減衰力制御装置)、51…要求減衰力計算部(要求減衰力計算手段)、52…要求段数設定部(要求段数設定手段)、53…減衰力特性テーブル、54…中間帯域テーブル(中間帯域記憶手段)、Creq…要求減衰係数、Cv…可変減衰係数、Dreq…要求段数、FRUM…上限減衰力、FRDM…下限減衰力、Freq…要求減衰力、HA…バネ上部材、LA…バネ下部材、RN:N+1…中間帯域、SP…サスペンション装置(振動系)

Claims (8)

  1. バネ上部材とバネ下部材との間に取付けられたダンパおよびバネを備える振動系の振動を抑制するように、前記ダンパの減衰力特性を可変制御する減衰力制御装置において、
    前記ダンパの減衰力特性を段階的に切り換える切換手段と、
    前記振動系を制御対象とした減衰力制御モデルに非線形H制御理論を適用することにより、制御目標となる減衰力である要求減衰力を計算する要求減衰力計算手段と、
    前記要求減衰力に基づき、前記切換手段により切換可能な前記ダンパの減衰力特性を表す減衰力特性段数の制御目標となる要求段数を設定する要求段数設定手段と、
    前記ダンパの減衰力特性が前記要求段数により表される減衰力特性となるように、前記切換手段の作動を制御する切換制御手段と、を備え
    前記要求段数設定手段は、
    前記要求減衰力が、前記減衰力特性段数により表される前記ダンパの減衰力特性のうちの隣接する減衰力特性間に設定される減衰力特性領域であって、前記隣接する減衰力特性の中心を通る減衰力特性である中心減衰力特性を含み且つ予め設定された減衰力幅を有する中間帯域に属する減衰力であるときに、前記要求段数を、その中間帯域を挟んで隣接する2つの減衰力特性を表す減衰力特性段数のうちのいずれか一方の減衰力特性段数に設定し、前記要求減衰力が前記中間帯域に属さない減衰力であるときに、前記要求段数を、前記要求減衰力に最も近い減衰力を発生する減衰力特性を表す減衰力特性段数に設定することを特徴とする減衰力制御装置。
  2. 請求項1に記載の減衰力制御装置において、
    前記要求段数設定手段は、前記要求減衰力が前記中間帯域に属する減衰力である場合には、前記要求減衰力の推移を考慮して前記要求段数を設定することを特徴とする、減衰力制御装置。
  3. 請求項1または2に記載の減衰力制御装置において、
    前記要求段数設定手段は、前記要求減衰力が前記中間帯域に属する減衰力である場合には、前記要求減衰力が、前記中間帯域を表す減衰力よりも小さい減衰力を表す減衰力特性領域である低減衰力特性領域から前記中間帯域に推移したか、前記中間帯域を表す減衰力よりも大きい減衰力を表す減衰力特性領域である高減衰力特性領域から前記中間帯域に推移したかを考慮して、前記要求段数を設定することを特徴とする、減衰力制御装置。
  4. 請求項3に記載の減衰力制御装置において、
    前記要求段数設定手段は、前記要求減衰力が前記低減衰力特性領域から前記中間帯域に推移した場合には、前記要求段数を、前記中間帯域を挟んで隣接する2つの減衰力特性を表す減衰力特性段数のうち、発生する減衰力が大きい減衰力特性を表す減衰力特性段数に設定することを特徴とする、減衰力制御装置。
  5. 請求項3または4に記載の減衰力制御装置において、
    前記要求段数設定手段は、前記要求減衰力が前記高減衰力特性領域から前記中間帯域に推移した場合には、前記要求段数を、前記中間帯域を挟んで隣接する2つの減衰力特性を表す減衰力特性段数のうち、発生する減衰力が小さい減衰力特性を表す減衰力特性段数に設定することを特徴とする、減衰力制御装置。
  6. 請求項4に記載の減衰力制御装置において、
    前記要求段数設定手段は、前記要求減衰力が前記中間帯域に属する減衰力となる直前に前記要求減衰力計算手段により計算された要求減衰力である直前要求減衰力が前記低減衰力特性領域に属する場合に、前記要求減衰力が前記低減衰力特性領域から前記中間帯域に推移したと判断することを特徴とする、減衰力制御装置。
  7. 請求項5に記載の減衰力制御装置において、
    前記要求段数設定手段は、前記要求減衰力が前記中間帯域に属する減衰力となる直前に前記要求減衰力計算手段により計算された要求減衰力である直前要求減衰力が前記高減衰力特性領域に属する場合に、前記要求減衰力が前記高減衰力特性領域から前記中間帯域に推移したと判断することを特徴とする、減衰力制御装置。
  8. 請求項1に記載の減衰力制御装置において、
    前記中間帯域は、前記切換制御手段による前記切換手段の作動の制御を行わない切換制御不感帯域であることを特徴とする、減衰力制御装置。
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