赤波長に対応した光ディスクと青波長に対応した光ディスクの双方において、片面2層ディスクの構造及び製造方法はほとんど変わらない。この発明の実施の形態では青波長に対応した次世代の光ディスク(HD_DVD−R)を取り扱うが、ディスク構造と製造方法は現行DVDと同じであるにもかかわらず色素特性(記録原理)が現行DVDとは異なるため、いくつかの問題が生じる。この発明の実施の形態ではその問題点を改善する。
この実施の形態では、ディスクの直径が120mmで厚さが1.2mm(0.6mmのポリカーボネート成形基板2枚の貼り合せ)であり、かつ有機色素材料を用いた記録層を2層持つ追記型の光ディスクであるとする。記録再生光については波長405nmでNA0.65の光学系を用いることとする。データ記録領域のグルーブ間トラックピッチは400nmであり、ディスク容量は1層あたり15GB、2層で計30GBであるとする。しかしこの発明の実施においては、これに限られるわけではない。例えば表面に0.1mmのカバー層を設けた光ディスクでも良く、直径80mmの光ディスクでも良く、更に高密度のパターンでも良く、更に短波長で更に高NAでも良い。ディスクの具体的な材料例としては、成形基板がポリカーボネート、記録層がアゾ系、ジアゾ系、シアニン系、フタロシアニン系、スチリル系、もしくはこれらの混合物などからなる有機色素材料、反射膜が銀(Ag)、アルミ(Al)、金(Au)またはこれらをベースとする金属化合物、接着剤はアクリル系またはエポキシ系の紫外線硬化樹脂、とする。但しこれらについても、この例示に限られるわけではない。
以下、図面を参照してこの発明の種々な実施の形態を説明する。図1は、この発明の一実施の形態に係る光ディスク(具体例として追記型の片面2層光ディスク)100の構成例を説明する図である。図1(a)(b)に例示されるように、この光ディスク100は、例えばポリカーボネート(PC)等の合成樹脂材料で円盤状に形成された透明樹脂基板101を備えている。この透明樹脂基板101には、同心円状またはらせん状に溝(グルーブ)が形成されている。この透明樹脂基板101は、スタンパを用いて射出成形により製造することができる。
すなわち、記録再生光入射側からみて、成形板101上にL0層の有機色素層105および(半透過・半反射性の)金属反射膜層106が設けられている。その奥に中間層104を兼ねたL1層パターンがフォトポリマーにより形成されている。そのフォトポリマー104上にL1層の有機色素層107および金属反射膜層198が設けられており、最後に紫外線硬化樹脂103によりダミー成形板102が貼り合わせられている。この構造は基本的に現行のDVD−Rでも次世代のHD_DVD−Rでも変わらない。
ここで、ポリカーボネート等の0.59mm厚透明樹脂基板101上に第1層目(L0)の有機色素記録層105および光半透過反射層106を順に積層し、その上にフォトポリマー(2P樹脂)104をスピンコートする。そして、その上に第2層目(L1)の溝(グルーブ)形状を転写して第2層目の有機色素記録層107および銀または銀合金等の反射膜108を順に積層する。こうしてL0およびL1の記録層が積層されたものに、他の0.59mm厚の透明樹脂基板(あるいはダミー基板)102が、UV硬化樹脂(接着層)103を介して貼り合わされる。上記有機色素の記録膜(記録層105および107)は、半透過反射層106及び中間層104を挟む2層構造となっている。こうして出来上がった貼り合わせ光ディスクの合計厚は、ほぼ1.2mmとなる。
ここで、透明樹脂基板101上には、例えばトラックピッチ0.4μm、深さ60nmのらせん状グルーブが(L0とL1の各層に)形成されている。このグルーブはウォブルしており、アドレス情報はこのウォブル上に記録されている。そして、この透明樹脂基板101上に、そのグルーブを充填するように、有機色素を含む記録層105、107が形成される。
この記録層105、107を形成する有機色素としては、その最大吸収波長領域が記録波長(例えば405nm)よりも長波長側にシフトしているものを用いることができる。また、記録波長領域において吸収が消滅しているのではなく、その長波長領域(例えば450nm〜600nm)でも相当の光吸収を有するように設計される。
上記有機色素(具体例は後述)は、溶媒に溶かすことで液体とし、スピンコート法により透明樹脂基板面に容易に塗布することができる。この場合、溶媒による希釈率、スピン塗布時の回転数を制御することにより、膜厚を高精度に管理することができる。
情報記録前のトラック上を記録用レーザ光によりフォーカシングまたはトラッキングした場合は、低光反射率である。その後、レーザ光により色素の分解反応が生じ、光吸収率が低下することにより、記録マーク部分の光反射率が上昇する。このため、レーザ光を照射して形成した記録マーク部分の光反射率が、レーザ光照射前の光反射率よりも高くなるという、いわゆるLow−to−High(またはL to H)の特性を実現している。
なお、記録レーザの照射で発生する熱により、L0層および/またはL1層のグルーブ底部に変形を伴なうことがある。この場合、記録後の再生時におけるレーザ反射光に(熱変形を伴わない場合と比較して)位相差が生じ得る。しかし、この発明の実施の形態により記録マークの変形を抑制または防止すれば、この位相差発生を抑制または回避できる。
ここで、記録時に基板変形を伴った記録マークであっても、その変形の程度を所定の限度内に管理すれば、(上記位相差の影響を実質的に受けないで)正常な記録再生を実行できる。この発明の実施においては、記録時に基板変形を伴った記録マークおよび記録時に基板変形を伴わない記録マークの併用を認めている。後述するが、図8(a)は記録時に基板変形を伴った記録マーク(High−to−Low)を例示し、図8(b)は記録時に基板変形を伴わない記録マーク(Low−to−High)を例示している。
この発明の一実施の形態において、透明樹脂基板101およびフォトポリマー(2P樹脂)104上に存在するL0層およびL1層に適用される物理フォーマットとしては、例えば以下のものがある。すなわち、追記型片面2層ディスクの一般パラメータは1層ディスクの一般パラメータとほとんど同じであるが、以下の点で異なる。ユーザが使用可能な記録容量は30GBであり、データ領域の内半径がレイヤー0(L0層)では24.6mmであり、レイヤー1(L1層)では24.7mmであり、データ領域の外半径が58.1mm(レイヤー0、レイヤー1共通)である。
図1(a)の光ディスク100において、システムリードイン領域SLAは、図1(c)に例示されるようにコントロールデータセクションを含み、このコントロールデータセクションは、物理フォーマット情報等の一部として、記録パワー(ピークパワー)、バイアスパワー等の記録に関するパラメータを、L0およびL1それぞれに対して含んでいる。
また、光ディスク100のデータ領域DA内のトラックには、図1(d)に例示されるように、所定の記録パワー(ピークパワー)およびバイアスパワーを伴うレーザにより、マーク/スペース記録が行われる。このマーク/スペース記録により、図1(e)に例示されるように、例えば高精細TV放送番組等のオブジェクトデータ(VOB等)とその管理情報(VMG)が、データ領域DA内の(L0および/またはL1の)トラック上に記録される。
この発明の一実施の形態において使用できる有機色素としては、シアニン色素、スチリル色素、アゾ色素等がある。特に、シアニン色素、スチリル色素は、記録波長に対する吸収率の制御がしやすく好適である。また、アゾ色素は、アゾ化合物単体で用いても良いし、アゾ化合物1分子またはそれ以上の分子と金属との錯体としても良い。
この発明の一実施の形態において使用できるアゾ金属錯体は、その中心金属Mとして、コバルト、ニッケル、あるいは銅を使用して光安定性を高めている。しかし、それに限らず、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀などを、アゾ金属錯体の中心金属Mとして使っても良い。
アゾ化合物は芳香環を持っており、その芳香環の構造はもちろんのこと、芳香環に様々な置換基を持たせることで、記録特性や保存特性、再生安定性などを最適化することが可能となる。この置換基は、嵩高いほど再生光耐久性が向上する傾向にあるが、記録時の感度も悪くなる傾向にあるため、どちらの特性も良好となるような置換基の選択が重要となる。また、この置換基は、溶剤への溶解度にも関与している。
これまで(記録レーザ波長が620nmより長いもの)の色素系情報記録媒体の記録メカニズムと異なり、本願発明が関係する短波長レーザ記録(記録波長が例えば405nm)ではその記録メカニズムが基板や色素膜体積の物理的変化でない。再生時、色素に記録時よりも弱いレーザを照射することによって、熱または光により記録層内の色素分子の配向変化、あるいは、色素分子内の立体配座の変化が徐々に生じてしまうが、色素分子内に嵩高い置換基が存在することにより、これらの変化を生じにくくする効果があると考えられる。これが、嵩高い置換基が再生光耐久性向上に寄与する理由である。
このときの嵩高い置換基とは、色素分子内芳香環に置換している炭素3つ以上からなる置換基を指し、例えば、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、n-ペンチル基、1−エチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基などがある。ここで、置換基の中には、酸素、硫黄、窒素、珪素、フッ素、臭素、塩素、ヨウ素など炭素以外の原子を含んでも良い。
図2は、この発明の一実施の形態に係る追記型片面多層(2層)光ディスクのL1層にバーストカッティングエリア(BCA)が形成されることを説明する図である。ここでは、レーザ受光面側の基板101にL0層が設けられ、L0層と向き合わせにL1層が設けられ、L1層の上に基板102が配置されて、基板厚1.2mmの張り合わせ2層ディスク100が構成されている。このディスク100の内周側のL1層上に、そのディスクに固有の情報がバーコード状のパターン(マーク)で記録されるBCA(Burst Cutting Area)が設けられる。
個々の光ディスクにはディスク製造時にディスク固有の情報を予め記録しておくことが望ましい。このとき記録されるディスク固有の情報は、例えばコピープロテクションなどで個々のディスクを識別する必要のあるとき等に使用される。CD、DVD、BD、HD_DVDなどの光ディスクにおいて、このようなディスク固有の情報(BCAレコード等)は、BCAと呼ばれるバーコード状のパターンとして、図2のように予めディスク内周部に刻まれる。その際、再生専用の2層光ディスクの場合には記録再生光の入射面から見て奥側の層に記録されるのが一般的である。
近年、光ディスクの大容量化への要望に応じ、再生専用型でなく記録型の光ディスクについても片面2層の光ディスクが開発されている。再生専用型と互換性を保つためには、記録型の2層光ディスクでも記録再生光の入射面から見て奥側の層にこのBCA信号を記録することが望ましい。しかしそれにはいくつかの問題点が存在する。以下にBCAの記録方法を述べると共に2層化した場合の問題点を挙げる。
BCAをディスクに設けるには、光ディスク成形時の型となるスタンパにBCAのパターンを刻んでおくという方法がある。しかしディスク一枚一枚に別個の固有の情報を記録するためには、製盤後のディスクに対して例えばレーザ光によりBCAパターンを刻む必要がある。通常、再生専用ディスクに対してBCAを記録する場合は、レーザで反射膜(アルミニウムや銀またはその合金)を焼ききることでパターンを作製する。また相変化記録型ディスクに対してBCAを記録する場合は、レーザで記録膜を相変化させて反射率を変えることでパターンを作製する。
一方、有機色素材料を用いた追記型の光ディスクの場合では、色素の感度は波長に対して非常に敏感であるため、短波長(例えば405nm)対応の色素を用いた次世代光ディスク(例えばBDやHD_DVD)に対して長波長(例えば650nm、680nm、あるいは780nm)のレーザを用いた現行のBCA記録装置を適用しても、満足にBCAパターンを記録できない。この場合、BCA記録装置のレーザパワーを強める事やBCA記録装置のレーザ波長をデータ記録波長(例えば405nm)に合わせて変更する事が考えられる。しかし、BCAの情報は手前の層(L0)越しに奥の層(L1)に記録するため、BCA記録装置の焦点深度が非常に深い(若しくはBCA記録光が平行光)事と相まって、この方法では手前の層の色素も反応してしまう。そしてそれがBCA信号再生時にノイズ(層間クロストーク信号)となってしまう。
そこで、この発明の実施の形態では、データの記録再生に用いる波長をA(nm)、BCA記録装置の波長をB(nm)としたとき、BCAを記録しない手前の層(L0)よりもBCAを記録する奥の層(L1)の方が波長Bに対する記録感度が高くなるように、使用する有機材料を選定している。実データ(MPEG4AVCなどでエンコードされた高精細ビデオデータ等)の記録に用いる波長とBCA情報の記録に用いる波長を別(A≠B)にしたままで、奥の層(L1)だけにBCA記録装置の波長にも対応した色素を用いる(例えば、405nm付近に感度を持つ色素と650nm〜780nm付近に感度を持つ色素といった、感度の違う2種類の色素を混合する)ことで、奥の層(L1)のみにBCA信号を選択的に記録することができる。BCAを記録する奥の層(L1)に相応しい色素の吸光度特性の実例については、図9を参照して後述する。
この実施の形態では、直径120mmで厚さが1.2mm(0.6mmのポリカーボネート成形基板2枚の貼り合せ)であり、かつ有機色素材料を用いた記録層を2層持つ追記型の光ディスクを例示している。記録再生光については波長(λ)405nmで開口数(NA)0.65の光学系を用いることとする。データ記録領域のグルーブ間トラックピッチは例えば400nmであり、BCA領域の位置は例えば半径22.2mm〜23.1mmの間とする。また、BCAパターンは、例えば幅(接線方向)数十μm、長さ(径方向)数百μm程度のバーコード状のパターンで構成される。
なお、この発明の実施の形態は上記例示に限られるわけではない。例えば、表面に0.1mmのカバー層を設けた光ディスクでも良く、直径80mmの光ディスクでも良く、更に高密度のトラックピッチパターンでも良く、更に短波長(例えばλが400nm以下)のレーザを使用しても良く、更に高開口数(NAが例えば0.8〜0.9)の光学系(対物レンズ)を使用しても良い。
この発明の実施の形態に係る追記型多層光ディスクの具体的な材料例としては、成形基板がポリカーボネート;成形に用いるスタンパがニッケル(Ni);記録層がアゾ系、ジアゾ系、シアニン系、フタロシアニン系、スチリル系、もしくはこれらの混合物からなる有機色素材料;反射膜が銀(Ag)、アルミ(Al)、金(Au)またはこれらをベースとする金属化合物;接着剤はアクリル系またはエポキシ系の紫外線硬化樹脂、とすることができる。これらの材料についても、上記の例示に限られるわけではない。ただしこの発明は記録層を複数持つ追記型光ディスクに関してのものであり、その代表例としての片面2層追記型光ディスクについては、その製造方法等を、図7を参照して後述する。
図3は、図2のBCAに記録されるBCAレコードの内容例を説明する図である。図3(a)に例示されるように、このレコードには、相対バイト位置0〜1にBCAレコードID(HD_DVDブックタイプ識別子を示す)が記述され、相対バイト位置2に適用規格のバージョン番号が記述され、相対バイト位置3にデータ長が記述され、相対バイト位置4に規格書のブックタイプとディスクタイプが記述され、相対バイト位置5に拡張パートバージョンが記述され、相対バイト位置6〜7はその他の情報記述用に予約されている。
BCAレコードのうち、そのディスクが準拠する規格書のブックタイプとディスクタイプの欄は、図3(b)に例示されるようになっている。すなわち、ブックタイプにはHD_DVD−R用の規格であることを示す情報を記述できるようになっており、ディスクタイプにはマーク極性フラグとツインフォーマットフラグを記述できるようになっている。
図3(b)のマーク極性フラグは、“0b”のときは記録マークからの信号が(隣接マーク間の)スペースからの信号よりも大きい“Low-to-High”ディスクであることを示し、“1b”のときは記録マークからの信号がスペースからの信号よりも小さい“High-to-Low”ディスクであることを示すことができる。また、ツインフォーマットフラグは、“0b”のときはツインフォーマットディスクではなく、“1b”のときはツインフォーマットディスクであることを示すことができる。ツインフォーマットディスクであるときは、(そのBACレコードが記録された)ディスクが2つの記録層を持ち、各層がDVDフォーラムで規定された別個のフォーマット(例えばHD_DVD-Video formatとHD_DVD-Video Recording format)を持つことになる。
現行DVDではツインフォーマットディスクは存在しないが、次世代のHD_DVDではツインフォーマットディスクが存在し得るので、BCAにツインフォーマットフラグを記述できるようになっていることは、この発明の一実施の形態に係る追記型多層(2層)光ディスク(次世代のHD_DVD用のディスク)にとって大きな意味がある。
図4は、図3のBCAレコード等を含む特定情報を図2のBCAに記録する装置の構成例を説明する図である。BCA記録装置によるBCA信号(図3のBCAレコード等の情報を含む信号)の記録は、完成形となったディスク100に対して行われる。コントローラ202からのBCA信号に応じてレーザ210を変調し、ディスク100の回転に同期させてバーコード状のBCAマークを記録する。BCA記録装置のレーザ波長には、600nm〜800nm(一般的には650nm〜780nmあるいは680nm〜780nm)の範囲内の1つが採用される。BCAの記録場所は、2層光ディスクならば一般的にL1層の内周部半径22.2mm〜23.1mm付近にある。BCA記録を行う際はL0層越しにL1層にレーザを照射することになるが、この発明の実施の形態では波長650nm〜780nm(あるいは680nm〜780nm)での吸光度(感度)を調整してある(L1層の感度>L0層の感度)。そのため、実質的な意味合いで、L1層にのみ選択的にBCA信号を正確に記録することができる。
このように各層の色素の感度(使用波長における吸光度)を調整することで、現在DVD製造ラインで一般的に使われているBCA記録装置のレーザ波長とレーザパワーそのままで、次世代光ディスクに対してBCA信号を記録することができる。また、L1層だけに選択的にBCA信号を記録することが可能なため、再生時にはL0層からの余分なクロストークノイズも無い。
すなわち、この発明の一実施の形態において、各層(L0、L1等)の色素の感度を調整する(例えば600nm〜800nmまたは650nm〜780nmもしくは680nm〜780nmにおけるL1層色素の感度もしくは吸光度が、L0層色素の感度もしくは吸光度よりも大きくなるような有機材料を用いる)。そうすることで、現在DVD製造ラインで一般的に使われているBCA記録装置のレーザ波長とレーザパワーのままで、次世代光ディスク(片面2層のHD_DVD−R等)に対してBCA信号を記録することができる。その際、L1層だけに選択的にBCA情報を記録することが可能なため、BCA信号再生時にL0層からの余分なクロストークノイズが混入しない。
図5は、図1または図2の追記型片面多層(2層)光ディスクのL1層に特定情報を記録(BCAポストカット)する手順の一例を説明するフローチャートである。図3のBCAレコード等の特定情報を含むBCA信号が図4のコントローラ202からレーザ出力制御部208に供給されると、その信号内容に対応して、レーザダイオード210から、波長600nm〜800nm(または650nm〜780nm、もしくは680nm〜780nm)の中の1つの波長のレーザ光が、パルシブに発光する(ST10)。こうして発光されたレーザ光パルスは、図1または図2に示すディスク100のL0層越しに、L1層のBCA記録場所に照射される(ST12)。この照射はディスク100の回転に同期して継続される。BCAへの記録情報の残りがなくなれば(ST14イエス)、L0層越しのL1層へのBCAポストカットが終了する。
図6は、図1または図2の追記型片面多層(2層)光ディスクのL1層から特定情報を再生する手順の一例を説明するフローチャートである。BCAに記録された情報を再生する際には、所定波長(例えば405nmまたは650nm)のレーザ光がL0層越しにL1層のBCAに照射される(ST20)。その反射光から、その光ディスクに関する特定情報(図3のBCAレコード等)が読み取られる(ST22)。この読み取りはディスク100の回転に同期して継続される。BCAからの読み取り情報の残りがなくなれば(ST24イエス)、L0層越しのL1層からのBCA再生は終了する。
図7は、この発明の一実施の形態に係る追記型片面2層光ディスクの製造工程例を説明する図である。この2層追記型光ディスクの作製方法を図7に沿って以下に述べる。フォトポリマー上にパターンを形成する関係上、単層ディスクや再生専用(ROM)ディスクに比べて工程が複雑になっている。しかし作製方法についても基本的には現行のDVD−Rでも次世代のHD_DVD−Rでも変わらない。
まず射出成形によりL0層の成形板を作製する(ブロック0301)。成形材料は一般的にポリカーボネートである。L0層の成形の型に使うスタンパはレーザ露光されたフォトレジストパターンからNiメッキにより作製される。成形板の寸法は直径120mm、内径15mm、厚さ0.6mmである。この成形板に対して記録層となる有機色素材料を周知のスピンコート法により塗布し、反射膜となる金属膜(例えば銀または銀合金)を周知のスパッタ法などにより成膜する(ブロック0302)。なお、このL0層は、レーザ光が通過できるよう半透明である。
これと並行してL1層の型となるプラスチックスタンパを同じく射出成形により作製する(ブロック0303)。成形材料は、一般的にはシクロオレフィンポリマーであるが、ポリカーボネートやアクリルなどでも良い。L1層のNiスタンパは同じくレーザ露光したフォトレジストのメッキにより作製するが、パターンの凹凸はL0層と逆にしておく。
記録層を形成したL0層成形板とプラスチックスタンパをフォトポリマーを介して貼り合わせて、紫外線を照射して硬化させる(ブロック0304)。その後、プラスチックスタンパを剥がしてL1層パターンが転写されたフォトポリマー層を剥き出しにする(ブロック0305)。次に、このL1層のフォトポリマー上に、記録層となる有機色素材料をスピンコートにより塗布し、さらに反射膜となる金属膜(例えば銀または銀合金)をスパッタ法などにより成膜する(ブロック0306)。
それと平行してダミー板(材料はポリカーボネート等)を射出成形により作製し(ブロック0307)、これを紫外線硬化接着剤により貼り合わせる事で2層の追記型光ディスクが完成形となる(ブロック0308)。なお、図示しないが、ダミー板には、インクジェットプリンタ等によるユーザ印刷用の表面コーティングを施したり、ディスク製造(または販売)メーカのブランド名や製品名等のパターンを付加してもよい。
以上のディスク構造および製造工程は、DVD−RとHD_DVD−Rで共通であるが、色素への記録原理は異なる。赤色対応のDVD−Rは、レーザに照射された有機色素が体積変化を起こしてプラスチック基板上の溝パターンを破壊することで、記録マークが形成される(図8a参照)。一方、青色対応のHD_DVD−Rは、レーザに照射された有機色素の化学変化により、光学特性が変わることで記録マークが形成される(図8b参照)。
いずれの記録原理も一長一短があるが、DVD−Rのように溝パターンを破壊することで記録マークを作る方法は、物理形状の変化を伴うため不可逆的であり再生耐久性に優れる。HD_DVD−Rにおいてこの記録原理が用いられないのは、色素反応時の体積変化や発熱量が溝パターンを形成しているポリカーボネート樹脂を破壊するには足らないことが一因である。しかし追記型2層光ディスクのL1層については上記で述べているようにその材料がフォトポリマー(一般的にはアクリル樹脂がベース)であり、その硬さや熱特性は比較的自由にコントロールできる。
よって、L1層パターンを形成するフォトポリマー104をL0層パターンを形成するポリカーボネート樹脂101に比べて、柔らかく(例えば弾性係数が3000MPa以下(@25℃)若しくは1500MPa以下(@100℃)または熱に弱く(例えばガラス転移温度が150℃以下)設定すれば、青色光を用いたHD_DVD−Rにおいて、少なくともL1層だけは物理形状変化による記録が出来ることになり、再生耐久性をはじめとする各種特性にマージンが出る。
この際、無論物理形状変化を伴わない記録方式にも利点があり(感度が良いなど)、有機色素の特性も種々存在し(例えばポリカーボネートを変形させる反応を起こしうる材料など)、またL0層とL1層に求められる特性(例えば記録感度)も異なる。そのため、例えば逆にL1層に硬くて耐熱性のあるフォトポリマーを用い、L0層にのみ物理形状変化を伴う記録を行う、といったことも考えられる。
また、一般的に物理形状変化を伴う(溝パターンが破壊される)記録はその反射率変化がHigh−to−Low(記録マーク部が他の未記録部分よりも反射率が低い)となり、化学的光学的変化のみの記録ではその反射率変化はLow−to−High(記録マーク部が他の未記録部分よりも反射率が高い)となる。どちらの反射率変化についても一長一短が有るため、両層で記録方式が異なるほうが望ましいことがある。例えば最初に記録する層は未記録時の反射率を高く(つまりHigh−to−Low)しておき、そうでないほうは反射率を低く(つまりLow−to−High)しておく。こうすることで最初の層への書き込みが安定し(特にフォーカスが安定する)、一般的に一筆書き(最初の層を書き終わってから次の層に移る)である追記型光ディスクに有利な光学特性を持つディスクを作成することが可能である。
図8(a)は記録時のレーザパワーにより基板変形を伴った記録マーク(High−to−Low)を例示し、図8(b)は記録時に基板変形を伴わない記録マーク(Low−to−High)を例示している。基板変形を伴う場合(図8a)も伴わない場合(図8b)も光学的な変化は記録されるので、いずれの場合でも情報の記録再生はできる。
図9は、L0層用色素材料にCD−R/DVD−R用色素材料を適量混合することによりL1層のBCA用色素材料が得られることを説明する図で、L0層およびL1層に用いようとする有機色素材料の吸光度と波長との関係を例示している。
ここでは、一例として、BCA情報を記録する奥の層(L1)に相応しい色素の吸光度特性のグラフを示す。図9に例示される色素は、波長405nmでデータの記録再生を行う次世代光ディスク(BD、HD_DVD等)用の色素であるため、当然405nm前後に感度を持つが、それに加えて、図9のグラフDのように、一般的なBCA記録装置のレーザ波長である680nm〜780nm(あるいは650nm〜780nmもしくは600nm〜800nm)の範囲内で若干記録感度を持たせてある。使用するレーザ波長で感度を持つ有機色素材料をBCAに用いれば、手前の層(L0)越しに奥の層(L1)へ正しくBCA情報を記録することができる。一方、手前の層(L0)の色素は、図9のグラフAのように、680nm〜780nm(あるいは650nm〜780nmもしくは600nm〜800nm)の範囲での記録感度を相対的に落としておく。そうすることで、奥の層(L1)のみに選択的にBCAを記録することが可能となる。
<BCA記録のため600nm〜800nmの範囲内に感度を持たせたL1層用色素材料について>
この発明の一実施の形態に係る追記型多層光ディスクは、波長405nmでデータの記録再生を行うディスクであるため。L0層、L1層共に波長405nmにおいて光吸収を持つ有機色素材料を用いる。更に、L1層の色素については、波長600nm〜800nmの範囲内のレーザ光を用いたBCA記録ができるように、600nm〜800nmの範囲内にも光吸収を持つようにすることができる。例えば、波長405nm近辺にのみ光吸収を持ったL0用色素(600nm〜800nmの範囲で光吸収が小さいか殆どないグラフA)に対して、600nm〜800nmの範囲内に光吸収を持つ色素を混ぜたもの(グラフD)をL1層用色素とする。
このような混合色素(グラフD)はL1層のBCA記録場所だけでもよいのだが、製造工程の簡略化(ひいては量産されるディスクの単価低減)のためには、L1層全体に混合色素(グラフD)を用いるとよい。L1層全体に混合色素(グラフD)を用いた場合、L1層のBCA記録再生をL0層越しに行えるのみならず、L1層のデータ領域は、青系レーザによる高密度記録と赤系レーザによる(相対的な)低密度記録の双方に対応可能となる。
図10はL0層用有機材料の金属錯体部分の具体例を示す図であり、図11はL0層用有機材料の色素部分の具体例を示す図である。図10に示したアゾ金属錯体の中心金属Mを中心とした円形の周辺領域が発色領域8となる。この発色領域8をレーザ光が通過すると、この発色領域8内の局在電子がレーザ光の電場変化に共鳴(共振)して、レーザ光のエネルギーを吸収する。この局在電子が最も共鳴(共振)してエネルギーを吸収し易い電場変化の周波数をレーザ光の波長に換算した値を最大吸収波長λmaxで表す。図10に示すような発色領域8(共鳴範囲)の長さが長くなる程、最大吸収波長λmaxが長波長側にシフトする。また、図10において中心金属Mの原子を代える事で中心金属M周辺の局在電子の局在範囲(中心金属Mが局在電子をどれだけ中心付近に引き寄せられるか)が変化し、最大吸収波長λmaxの値が変化する。例えばλmaxが405nm付近になるものを選択すれば、波長405nmに感度(光吸収)を持つ有機材料が得られることになる。
波長405nmに光吸収を持つL0層用色素材料としては、図10に一般構造式を示した有機金属錯体部と図11に示した色素材料部を組み合わせた構造を持つ有機色素材料を用いることができる。有機金属錯体の中心金属Mとしては、一般に、コバルトあるいはニッケル(その他スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀など)を用いることができる。また、色素材料部分としては図11(a)(b)(c)に一般構造式を示したシアニン色素、スチリル色素、モノメチンシアニン色素を用いることができる。
更に、波長405nm(450nm以下)のみならず600nm〜800nm(あるいは650nm〜780nmもしくは680nm〜780nm)の範囲内にも光吸収を持つL1層用色素材料としては、次のものを用いることができる。すなわち、上述のL0層用色素材料をベースに波長600nm〜800nm(あるいは650nm〜780nmもしくは680nm〜780nm)の範囲内に光吸収を持つCD−RまたはDVD−R用色素を混合する。これにより、データ記録用の波長405nmでの光吸収に加えて、BCA記録に用いる波長600nm〜800nm(あるいは650nm〜780nmもしくは680nm〜780nm)の範囲内の光吸収を持たせることができる。そのために混合するCD−RまたはDVD−R用色素としては、具体的には、アゾ色素、シアニン色素、フタロシアニン色素など公知の有機色素材料がある。また、その混合量は、例えば10wt.%程度が実用的である。
図12は、この発明の一実施の形態に係る光ディスク(記録後のマークに変形あるいは変化が生じないような有機色素材料を記録層に用いたディスク)100を用いた記録方法を説明するフローチャートである。図示しないディスクドライブの光ピックアップから、例えば波長405nmの変調されたレーザをディスク100の記録対象層(L0またはL1)に照射して、オブジェクトデータ(DVDまたはHD_DVDでは、VOB等)を記録する(ST100)。この記録が終了すると(ST102Y)、記録されたオブジェクトデータに関する管理情報(DVDまたはHD_DVDでは、VMG)がディスク100に書き込まれて(ST104)、1回の記録が終了する。
図13は、この発明の一実施の形態に係る光ディスク(記録後のマークに変形あるいは変化が生じないような有機色素材料を記録層に用いたディスク)100を用いた再生方法を説明するフローチャートである。図12のような処理でオブジェクトデータおよび管理情報が記録されたディスク100から、例えば波長405nmのレーザにより、管理情報が読み取られる(ST200)。読み取られた管理情報は、図示しない再生機器のワークメモリに一旦記憶される。この再生機器は、記憶した管理情報内の再生手順に関する情報等を参照して、記録されたオブジェクトデータを再生する(ST202)。この再生は、ユーザが再生終了を指示するか、管理情報内の再生手順情報が再生終了を示すところまで再生が進むと、終了する(ST204Y)。
<実施の形態の効果>
2層HD_DVD−R等の追記型多層光ディスクにおいて、片方の層はマーク記録時に基板樹脂の変形を伴わず(例えば図8a)、もう片方の層は変形を伴う(例えば図8b)ようにする。または、そうなるように、使用する色素および/または紫外線硬化樹脂(フォトポリマー)等の材料を選択する。このようにすることで、L0層の基板101の材料となるポリカーボネート(PC)はそのままであるとしても、L1層として使用できる色素、中間層104として使用できる紫外線硬化樹脂(フォトポリマー)などの各種材料の選択に幅が出来る。
<実施の形態のまとめ>
L1層のフォトポリマー(104)の特性を規定することで、追記型2層光ディスクにおいて2つの層(L0および/またはL1)の記録原理をそれぞれ異なるもの(物理形状変化の有り/無し)とする。
そうすることで、感度や再生耐久性などの諸特性を各層で同時に満たす有機色素材料の設計が可能となる。
また記録原理が異なるとHigh−to−Low記録であるかLow−to−High記録であるかも一般的に異なるため、このことも追記型光ディスクに有利な光学特性を両層で同時に満たすディスクの設計を可能にする。
なお、この発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、現在または将来の実施段階では、その時点で利用可能な技術に基づき、その要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。
また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。