JP2010131569A - 含フッ素重合体薄膜を有する基材及びその製造方法 - Google Patents

含フッ素重合体薄膜を有する基材及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】基材との密着性、耐擦傷性、耐離型性、防汚性に優れた、含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体薄膜を、表面に有する基材の製造方法の提供。
【解決手段】下記<1>〜<4>の工程を<1>〜<4>の順序で実施する、表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
<1>基材表面を、極性官能基を有するシランカップリング剤で処理する工程、
<2>前記極性官能基との反応性を有する反応性官能基を有し、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体で基材表面をコートする工程、
<3>基材を加熱処理する工程、
<4>含フッ素溶媒で基材表面を洗浄する工程。
【選択図】なし

Description

本発明は、表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材及びその製造方法に関する。
近年、光学素子、半導体など、微細パターンを有する物品を製造する方法としてナノインプリント法が注目されている。また、微細加工技術の発展に伴い、微細パターンを有する基材表面上にピンホールがなく、かつ、均一な含フッ素重合体重合体薄膜を形成し、基材に耐薬品性・防水性・防湿性・離型性等を付与する技術が求められている。
ナノインプリント法としては、熱式ナノインプリント法と光ナノインプリント法が提案されている。熱式ナノインプリント法では、ガラス転移温度以上に加熱し軟化した熱可塑性樹脂に、表面に微細パターンを有するナノインプリント用のモールドをプレスし、冷却し固化させた後に該モールドから樹脂を離型することで微細パターンを基板上の樹脂に転写する。一方、光ナノインプリント法では、光硬化性樹脂組成物を表面に微細パターンを有するナノインプリント用の透明モールドに充填した後、該透明モールドを通してUVなどの光を照射し、光硬化性樹脂組成物を硬化させ、モールドから硬化樹脂を離型することで微細パターンを基板上に転写する。
いずれの方法においても、通常、ナノインプリント用のモールドは樹脂との離型性が充分でなく、モールドから樹脂を離型する際に樹脂表面の微細パターンが変形したり、欠落するため精度が低下しやすいため、モールドに予め離型剤を塗布するなどの方法で離型性を付与することが重要となる。光ナノインプリント法の場合、光硬化性組成物を光硬化させるため、離型剤が光透過性および耐光性を有することが重要となる。
また、タッチパネルディスプレイや指紋認証デバイスなどの接触型のデバイスにおいては指紋などの汚れが付着するため、防汚剤を被覆するなど汚染防止処理が施されている。
従来、これらの離型剤や防汚剤として表面エネルギーの小さい含フッ素化合物が広く用いられてきた。該含フッ素化合物としては、基材との密着性、汚染物質の拭き取り性、耐久性の観点で含フッ素シランカップリング剤が用いられる。例えば、ケイ素含有含フッ素重合体と含フッ素有機溶剤を含有する処理液を基材表面に塗布する表面処理方法(例えば、特許文献1参照)や−CF2−基を有するクロロシラン系化学吸着剤を一成分とする塗布溶液を噴霧状で塗布して基材表面に共有結合を有する化学吸着膜を形成する方法(例えば、特許文献2参照)などが知られている。
しかしながら、離型剤や防汚剤としての含フッ素シランカップリング剤を使用して得た薄膜は、ナノインプリント用のモールドや接触型のデバイスなどに利用する場合に、基材と薄膜との密着性、離型性、防汚性等が充分でなかった。
ナノインプリント技術において含フッ素脂肪族環構造を有する重合体が注目されている。例えば、特許文献3においては、含フッ素脂肪族環構造を有する重合体をナノインプリント用のモールドの中間層および表面層として用いると、モールドの微細パターンを寸法精度よく樹脂に転写でき、変形が少ない転写微細パターンを有する基材が製造できる。含フッ素脂肪族環構造を有する重合体は透明性、耐光性に優れているため、光硬化性樹脂に対し、効率よく光線、例えば、UV光を照射することが可能となる。また、含フッ素脂肪族環構造を有する重合体は離型性や防汚性に優れているため、硬化した光硬化性樹脂の表面の転写微細パターンを変形させずに離型することが可能となる。このため、変形が少ない転写微細パターンを有する基材を得ることができる。
含フッ素脂肪族環構造を有する重合体は、液相法により、薄膜を形成できることが知られている(例えば、特許文献4参照)。しかし、得られる薄膜は、その厚さが数10nm以上となり厚いため、ナノインプリント用モールドや接触型のデバイスなどに適用する場合、基材との密着性や、耐擦傷性が不十分であるという問題がある。
本発明者らは、含フッ素脂肪族環構造を有する重合体を気相法で形成する方法を特願2007−241155号において提案している。該方法では、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有し、重量平均分子量が3,000〜80,000の含フッ素重合体を物理的に蒸着することにより、基材上に厚さ10nm〜100μmの含フッ素重合体薄膜を形成できる。しかし、該方法により、厚さ10nm未満の薄膜を形成しようとすると、得られた薄膜にピンホールが発生することが明らかとなった。
したがって、これまで、含フッ素脂肪族環状構造を有する重合体を用いて、ピンホール等の欠陥のない、厚さ10nm未満の薄膜を表面に有する基材を得ることができず、そして、離型性や防汚性に優れる薄膜を表面に有する基材を得ることができなかった。
特開平9−202648号公報 特開平6−327971号公報 国際公開第2006−547915号パンフレット 特開平11−209685号公報
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解決し、厚さ10nm未満の含フッ素脂肪族環構造を有する重合体の薄膜を表面に有する基材及びその製造方法を提供することである。
上記の目的を達成するため、本発明は、以下の[1]〜[14]の構成を有する、表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法、および、その方法で製造された表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材、ならびに該基材の用途を提供する。
[1]下記<1>〜<4>の工程を<1>〜<4>の順序で実施することを特徴とする、表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
<1>基材表面を、極性官能基を有するシランカップリング剤で処理する工程、
<2>前記極性官能基との反応性を有する反応性官能基を有し、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体で基材表面をコートする工程、
<3>基材を加熱処理する工程、
<4>含フッ素溶媒で基材表面を洗浄する工程。
[2]前記主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体が、下記一般式(1)〜(5)からなる群から選ばれる1種以上の繰り返し単位を有する含フッ素重合体である、上記[1]に記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
Figure 2010131569
(一般式(1)〜(5)において、hは0〜5の整数、iは0〜4の整数、jは0または1、h+i+jは1〜6、sは0〜5の整数、tは0〜4の整数、uは0または1、s+t+uは1〜6、p、qおよびrはそれぞれ独立に0〜5の整数、p+q+rは1〜6、R1、R2、R3、R4、X1およびX2はそれぞれ独立にH、D(重水素)、F、Cl、OCF3またはCF3であり、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立にH、D(重水素)、F、Cl、Cn2n+1、Cn2n+1-mClmkまたはCn2n+1-mmkであり、R5、R6、X1およびX2のうち少なくとも1つはFを含有し、nは1〜5の整数、mは0〜5の整数、2n+1−m≧0、kは0〜1の整数であり、R7およびR8が連結して環を形成してもよい。)
[3]前記含フッ素重合体薄膜の厚さが1nm以上10nm未満である、前記[1]または[2]に記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
[4]前記含フッ素重合体で基材表面をコートする工程が、前記含フッ素重合体を蒸着源とする物理的蒸着法により前記基材表面をコートする工程である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
[5]前記含フッ素重合体で基材表面をコートする工程が、前記含フッ素重合体を含む溶液の塗布により前記基材表面をコートする工程である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
[6]前記含フッ素重合体が有する反応性官能基が、カルボキシ基、酸ハライド基、アルコキシカルボニル基及びカーボネート基からなる群から選ばれる1種以上の官能基である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
[7]前記極性官能基が、アミノ基、ヒドロキシ基及びグリシジル基からなる群から選ばれる1種以上である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
[8]前記加熱処理の温度が70℃超400℃以下である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
[9]前記シランカップリング剤で基材表面を処理する工程が、前記シランカップリング剤を蒸着源とする物理的蒸着法により前記基材表面を処理する工程である、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
[10]前記シランカップリング剤で基材表面を処理する工程が、前記シランカップリング剤を含む溶液の塗布により前記基材表面を処理する工程である、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
[11]前記基材表面を洗浄する工程における含フッ素溶媒が、前記含フッ素重合体を常温下で1質量%以上溶解する含フッ素溶媒である、上記[1]〜[10]のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
[12]上記[1]〜[11]のいずれかに記載の方法により製造された表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材。
[13]上記[12]に記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材からなるインプリント用モールド。
[14]上記[12]に記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材からなる防汚性物品。
本発明の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法によれば、ピンホール等の欠陥のない、厚さ1nm以上10nm未満の含フッ素脂肪族環構造を有する重合体の薄膜を表面に有する基材を容易に得ることができる。
また、本発明の方法により製造された、表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材は、薄膜と基材表面との密着性に優れ、薄膜が耐擦傷に優れるため、該基材は、離型性、防汚性に優れる。したがって、該基材は、インプリント用モールドや防汚性物品として適用性に優れ、それらの物品は、耐擦傷、離型性、防汚性に著しく優れる。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず始めに、本発明で使用する用語について説明する。
「含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体」
本発明における主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体とは、含フッ素脂肪族環構造を構成する炭素原子のうち少なくとも1つが該含フッ素重合体の主鎖を構成する炭素原子であるものをいう。
含フッ素脂肪族環構造を構成する炭素原子のうち、主鎖を構成する炭素原子は、該含フッ素重合体を構成する単量体が有する重合性二重結合に由来する。
たとえば、含フッ素重合体が、後述するような環状単量体を重合させて得た含フッ素重合体の場合は、該二重結合を構成する2個の炭素原子が主鎖を構成する炭素原子となる。
また、2個の重合性二重結合を有する単量体を環化重合させて得た含フッ素重合体の場合は、2個の重合性二重結合を構成する4個の炭素原子のうちの少なくとも2個が主鎖を構成する炭素原子となる。
含フッ素脂肪族環構造としては、環骨格が炭素原子のみから構成されるものであってもよく、炭素原子以外に、酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を含む複素環構造であってもよい。含フッ素脂肪族環としては、環骨格に1〜2個の酸素原子を有する含フッ素脂肪族環が好ましい。
含フッ素脂肪族環構造の環骨格を構成する原子の数は、3〜9個が好ましく、3〜6個がより好ましい。すなわち、含フッ素脂肪族環構造は4〜10員環であることが好ましく、4〜7員環であることがより好ましい。
本発明において、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体としては、下記一般式(1)〜(5)からなる群から選ばれる1種以上の繰り返し単位を有する含フッ素重合体が好ましい。
Figure 2010131569
上記一般式(1)〜(5)において、hは0〜5の整数、iは0〜4の整数、jは0または1、h+i+jは1〜6、sは0〜5の整数、tは0〜4の整数、uは0または1、s+t+uは1〜6、p、qおよびrはそれぞれ独立に0〜5の整数、p+q+rは1〜6、R1、R2、R3、R4、X1およびX2はそれぞれ独立にH、D(重水素)、F、Cl、OCF3またはCF3であり、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立にH、D(重水素)、F、Cl、Cn2n+1、Cn2n+1-mClmkまたはCn2n+1-mmkであり、R5、R6、X1およびX2のうち少なくとも1つはFを含有する基であり、nは1〜5の整数、mは0〜5の整数、2n+1−m≧0、kは0〜1の整数であり、R7およびR8が連結して環を形成してもよい。
本発明において、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体としては、上記一般式(1)〜(5)からなる群から選ばれる1種以上の繰り返し単位のみからなる含フッ素重合体であってもよく、上記一般式(1)〜(5)から選ばれる繰り返し単位と、上記一般式(1)〜(5)以外の繰り返し単位とを含有する含フッ素重合体であってもよい。
上記一般式(1)〜(5)以外の繰り返し単位としては、フッ素を含有する繰り返し単位であっても、フッ素を含有しない繰り返し単位であってもよいが、フッ素を含有する繰り返し単位がより好ましい。
さらに、上記含フッ素重合体としては、離型性および防汚性に優れることから、過フッ素化重合体が好ましい。ここで、「過フッ素化(Perfluorinated)重合体」とは、実質的に重合体を構成する炭素原子に結合した全ての水素原子がフッ素原子に置換されている重合体をいう。
上記一般式(1)における、R1、R2、R3、R4としては、それぞれ独立にF、OCF3またはCF3が好ましい。また、h+i+jは、1〜4が好ましい。
上記一般式(2)における、R1、R2、R3、R4としては、それぞれ独立にF、OCF3またはCF3が好ましい。また、s+t+uは、1〜5が好ましい。
上記一般式(3)における、p+q+rは、1〜5が好ましい。
上記一般式(4)における、X1およびX2としては、それぞれ独立にF、OCF3またはCF3が好ましい。R5、R6としては、それぞれ独立にH、F、またはCn2n+1が好ましい。
上記一般式(5)におけるR7およびR8としては、それぞれ独立にH、F、またはCn2n+1が好ましい。
上記一般式(1)〜(5)からなる群から選ばれる1種以上の繰り返し単位を与える単量体としては、2つ以上の重合性二重結合を有する含フッ素単量体(a)を環化重合して得られる含フッ素重合体、及び、環状含フッ素単量体(b)を重合して得られる含フッ素重合体が挙げられる。
含フッ素単量体(a)の具体例としては、ペルフルオロ(ブテニルビニルエーテル)(CF2=CFOCF2CF2CF=CF2)、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)(CF2=CFOCF2CF=CF2)、ペルフルオロ(1−メチル−3−ブテニルビニルエーテル)(CF2=CFCF2CF(CF3)OCF=CF2)、および下記式で示される非共役ジエンなどが挙げられる。
CFX3=CX4OCX56OCX4=CX3
(式中、X3およびX4はF、ClまたはHであり、X5およびX6はFまたはCF3である。)
環状含フッ素単量体(b)の具体例としては、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(4−メトキシ−1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソール)等が挙げられる。
上記、一般式(1)〜(5)以外の繰り返し単位を与える単量体としては、上記環状含フッ素単量体と共重合可能なものであればよく、特に限定されない。具体的には、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペンなどのC2〜C8のペルフルオロオレフィン、クロロトリフルオロエチレンなどのC2〜C8のクロロフルオロオレフィン、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)またはペルフルオロ(アルキルオキシアルキルビニルエーテル)などの含フッ素単量体が挙げられる。また、エチレン、プロピレン、イソブテン等の炭化水素オレフィン、メチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル、酢酸ビニル等の有機酸のビニルエステル、塩化ビニル等の非フッ素単量体が挙げられる。より好ましくは、上記の含フッ素単量体である。
本発明における含フッ素重合体としては、含フッ素重合体中における、一般式(1)〜(5)からなる群から選ばれる1種以上の繰り返し単位の含有量は、30〜100モル%が好ましく、40〜100モル%がより好ましく、80〜100モル%が最も好ましい。含フッ素単量体(a)の単独重合体であることがさらに好ましい。
本発明における含フッ素重合体は、後述する工程<1>で基材表面を処理するシランカップリング剤中の極性官能基との反応性を有する反応性官能基を有する。
含フッ素重合体が有する反応性官能基としては、カルボキシ基、酸ハライド基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルシラン基、アルコキシシラン基、トリクロロシラン基、カーボネート基、ヒドロキシ基などが挙げられる。これらの中でもカルボキシ基、酸ハライド基、アルコキシカルボニル基及びカーボネート基からなる群から選ばれる1種以上の官能基であることがより好ましく、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基が最も好ましい。カルボキシ基、酸ハライド基、アルコキシカルボニル基及びカーボネート基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を有することにより、基材表面に形成される含フッ素重合体薄膜が耐久性に著しく優れる。これは基材表面との密着性が向上するためと考えられる。
なお、本発明における含フッ素重合体は、反応性官能基密度が2.5×10-6mol/g〜1×10-2mol/gであることが好ましく、3×10-6mol/g〜5×10-3mol/gであることがより好ましく、4×10-6mol/g〜3×10-3mol/gであることがさらに好ましい。官能基濃度が2.5×10-6mol/g未満の場合、基材との密着性を向上させる効果が不十分となる場合がある。一方で1×10-2mol/gを超えると、基材との密着性に寄与しない官能基によって光吸収が生じ、膜の透明性が損なわれる場合がある。反応性官能基密度が上記の範囲にあると基材表面との密着性に優れ、薄膜の透明性にも優れる。
本発明における含フッ素重合体の重量平均分子量は、1,000〜500,000が好ましく、1,000〜200,000がより好ましく、1,000〜150,000が最も好ましい。
また、含フッ素重合体の分子量の尺度としては、極限粘度を用いてもよい。この場合、30℃、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン中で測定した極限粘度が、0.003〜0.7dl/gであることが好ましく、0.003〜0.3dl/gがより好ましく、0.003〜0.2dl/gが最も好ましい。
なお、含フッ素重合体は一般的に表面自由エネルギーが小さいため、離型性および防汚性に優れることが知られているが、含フッ素重合体は水や有機溶媒に溶けにくく、また、熱安定性が高いために溶融成形困難であり、薄膜を形成することが困難である。一方で、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体は、段落[0042]に例示するもののような含フッ素溶媒に溶解することから、含フッ素溶媒に溶解させた溶液を塗布する等の液相処理や、比較的低温で十分な蒸気圧を持つことから該含フッ素重合体を蒸着源とする物理的蒸着法による気相処理を行なうことによって、容易に薄膜を形成することができる。このような理由から、本発明における含フッ素重合体薄膜には、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体が好適である。
「基材」
本発明において、表面に含フッ素重合体薄膜が形成される基材としては、金属、ガラス、セラミック等の基材が挙げられる。これらの基材は、板状、円筒状、球状、棒状、ブロック状、板状、円筒状、凸レンズ状、凹レンズ状等の基材、さらにはナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーの微細パターンを表面に有する基材など、幅広い形状の基材を好適に利用することができる。とりわけ、基材表面に所定の微細パターンを形成された基材や、基材表面に3次元構造を有する矩体基材が好適に利用できる。
基材の成形および加工方法としては、特に限定されず公知の方法が利用できる。また、これらの基材の表面に、例えば銅製の配線や透明導電膜などが設けられていてもよい。
本発明において、後述する工程<1>において、基材表面とシランカップリング剤とが高密度に反応する必要がある。すなわち、基材表面に汚れなどが付着している場合、汚れ成分がシランカップリング剤との反応を阻害し、高密度に反応させることができなくなる。この観点から、予め基材表面を洗浄することが好ましい。洗浄方法としては、硫酸やフッ酸などの酸またはオゾンによる酸化処理、プラズマによる表面エッチング処理、UV光による光洗浄処理、研磨剤による研磨またはバフ掛けまたはウェットブラストなどの物理的洗浄処理など、公知の方法が利用できる。上記の洗浄方法を1つのみを使用しても良く、2種もしくはそれ以上を組み合わせて使用してもよい。
「シランカップリング剤」
後述する工程<1>で使用する極性官能基を有するシランカップリング剤としては、構造式R1 4-n−Si−(R2−X)nで示されるシランカップリング剤が例示できる。式中、R1は、基材表面の−OH基と化学結合することにより、基板表面との密着性に寄与する変性シラン基であり、変性シラン基の種類としてはハロゲン、アルコキシル基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基又はヒドロキシ基が好ましい。これらの中でも貯蔵安定性、易製造性および基板との反応性の観点から、ハロゲン、アルコキシル基、又はヒドロキシ基がより好ましい。R1の数は、1〜3であることが好ましく、基板表面との密着性の観点からR1の数は3であることがより好ましい。R2−Xは、含フッ素重合体が有する反応性官能基との化学結合の形成に寄与する極性官能基である。R2としては特に限定されないが、易製造性の観点から、炭素数1〜10の直鎖状、分岐状、環状アルキレン基が好ましい。より好ましくは炭素数1〜10の直鎖状または分岐状アルキレン基である。極性官能基であるXとしてはエポキシ基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、イソシアネート基、グリシジル基、アミノ基またはメルカプト基が好ましい。これらの中でも易製造性の観点から、アミノ基がより好ましい。
極性官能基を有するシランカップリング剤の具体例としてはアミノ基を有する3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン等のアミノシラン類が例示できる。
以下、本発明の含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法について説明する。
本発明の含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法は、下記<1>〜<4>の工程を<1>〜<4>の順序で実施することを特徴とする。
<1>基材表面を、極性官能基を有するシランカップリング剤で処理する工程
<2>前記極性官能基との反応性を有する反応性官能基を有し、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体で基材表面をコートする工程
<3>基材を加熱処理する工程
<4>含フッ素溶媒で基材表面を洗浄する工程
以下に、各工程についての詳細を説明する。
「工程<1>」
工程<1>は、含フッ素重合体薄膜との密着性を向上させるために、含フッ素重合体薄膜を形成する前に、予め基材表面をシランカップリング剤で処理する工程である。
通常、含フッ素重合体のもつ離型性のため、基材表面と該基材上に形成される含フッ素重合体薄膜とは密着性が低いことが知られている。予め基材表面をシランカップリング剤で処理した場合、該シランカップリング剤が含フッ素重合体と基板との化学結合を形成するための中間層をなすため、含フッ素重合体薄膜と基材表面との密着性が向上する。この目的で使用するシランカップリング剤は、基材表面の−OH基と化学結合を形成する変性シラン基と、含フッ素重合体に含まれる反応性官能基と化学結合を形成する極性官能基を有する必要がある。このようなシランカップリング剤の詳細については上述した通りである。
工程<1>において、極性官能基を有するシランカップリング剤により基材表面を処理する方法は特に限定されず、シランカップリング剤の均一性、基材表面の形状などによって液相処理および気相処理を適宜選択することができる。
液相処理、すなわち、極性官能基を有するシランカップリング剤を含む溶液を基材表面に塗布する処理では、極性官能基を有するシランカップリング剤を可溶する溶媒により0.001〜20質量%に希釈した溶液を用いることができる。液相処理方法としてスピンコート法、ディッピング法、ポッティング法、ロールコート法、バーコート法、印刷法、ダイコート法、カーテンフローコート法、スプレーコート法など公知の方法を用いることができる。
一方、気相処理では極性官能基を有するシランカップリング剤を希釈せずに用いる。気相処理方法としてシランカップリング剤を蒸着源とする物理的蒸着法が例示される。物理的蒸着法としては、真空蒸着法、スパッタ法が挙げられるが、装置の簡便さより、真空蒸着法が好適に利用できる。真空蒸着法は、抵抗加熱法、電子ビーム加熱法、高周波誘導加熱法、反応性蒸着、分子線エピタキシー法、ホットウォール蒸着法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法などに細分することができるが、いずれの方法も適用することができるが、装置の簡便さより、抵抗加熱法が好適に利用できる。真空蒸着装置は特に制限なく、公知の装置が利用できる。
液相処理および気相処理のいずれの場合であっても、基材と反応しなかった余剰のシランカップリング剤を除去するために、シランカップリング剤で処理した後の基材を適宜洗浄することが好ましい。洗浄方法については特に限定はされないが、洗浄溶媒に浸漬させるなどの方法を用いることができる。なお、真空下で乾燥させることによっても、基材と反応しなかった余剰のシランカップリング剤を除去することができる。
「工程<2>」
工程<2>は、工程<1>で極性官能基を有するシランカップリング剤で処理した基材表面を、反応性官能基を有し、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体でコートする工程である。工程<2>に用いる含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体の詳細については上述した通りである。
工程<2>において、含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体で基材表面をコートする方法は特に限定されず、基材表面の形状などによって液相処理および気相処理を適宜選択することができる。
液相処理とは、含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を含む溶液を基材表面に塗布する処理である。含フッ素重合体を含む溶液を基材表面に塗布する方法としては、スピンコート法、ディッピング法、ポッティング法、ロールコート法、バーコート法、印刷法、ダイコート法、カーテンフローコート法、スプレーコート法などが例示され、スピンコート法、ディッピング法、スプレーコート法が装置の簡便性から好適に用いられる。
溶液に用いる溶媒としては、含フッ素重合体を溶解する限り特に限定されないが、ペルフルオロアルカンCn2n+2[nは6〜8の整数]やペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)やc−C1017CF3などのペルフルオロカーボン類、N(Cn2n+13 [nは2〜4の整数]などのペルフルオロトリアルキルアミン類、Cl(CFClCF2n Cl[nは1〜7の整数]などのクロロフルオロカーボン類、CHFClCF2CF2Clなどのハイドロクロロフルオロカーボン類、C613Hなどのハイドロフルオロカーボン類、C613OCH3やCF2HCF2OCH2CF3などのハイドロフルオロエーテル類、ペルフルオロベンゼンやペルフルオロトルエンなどのペルフルオロベンゼン類などの含フッ素溶媒が挙げられる。これらの中でも環境負荷の観点、および、溶解性の観点から、ハイドロフルオロカーボン類、ハイドロフルオロエーテル類がより好ましい。これらの含フッ素溶媒は2種類以上を併用して使用してもよい。
気相処理としては、極性官能基との反応性を有する反応性官能基を有し、含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を蒸着源とする物理的蒸着法による処理が好適に用いたれる。物理的蒸着法としては、真空蒸着法、スパッタ法が挙げられるが、含フッ素重合体からのフッ素原子の脱離を抑制すること、含フッ素重合体の主鎖の開裂を抑制すること、および、装置の簡便さより、真空蒸着法が好適に利用できる。真空蒸着法は、抵抗加熱法、電子ビーム加熱法、高周波誘導加熱法、反応性蒸着、分子線エピタキシー法、ホットウォール蒸着法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法などに細分することができるが、いずれの方法も適用することができる。含フッ素重合体からのフッ素原子の脱離を抑制すること、含フッ素重合体の主鎖の開裂を抑制すること、および、装置の簡便さより、抵抗加熱法が好適に利用できる。真空蒸着装置は特に制限なく、公知の装置が利用できる。
成膜条件は適用する真空蒸着法の種類により異なるが、抵抗加熱法の場合、蒸着前真空度は1×10-3Pa以下が好ましく、より好ましくは1×10-4Pa以下である。
蒸着源の加熱温度は、フッ素原子の脱離や含フッ素重合体の主鎖の開裂を生じることなく、該含フッ素重合体蒸着源が十分な蒸気圧を有する温度であれば特に制限はない。
具体的には100℃〜400℃が好ましく、150℃〜400℃がより好ましく、200℃〜400℃がとりわけ好ましい。加熱温度が100℃未満の場合は、実用的な成膜速度を得るのに十分な蒸気圧が得られない。一方で、加熱温度が400℃を超えるとフッ素原子の脱離や含フッ素重合体の主鎖の開裂が発生し、含フッ素重合体薄膜の性能が低下する。
真空蒸着時、基材温度は常温から200℃までの範囲であることが好ましい。基材温度が200℃を超えると、成膜速度が低下する、基材の熱膨張により冷却時に含フッ素重合体薄膜にしわなどの欠陥が形成される、などの問題が生じる。基材温度は好ましくは150℃以下であり、より好ましくは100℃以下である。
なお、基材温度を70℃超とした場合、後述する工程<3>を同時に実施することができる。
液相処理および気相処理のいずれにおいても、含フッ素重合体で基材表面をコートする際のコート層(含フッ素重合体の膜)の厚さは、該基材表面を完全に被覆できる限り特に制限は無く、例えば、10nm〜1μmとすることができる。但し、含フッ素重合体で基材表面を均一にコートするため、および、コート層(含フッ素重合体の膜)にピンホールが生じるのを防止するため、該コート層(含フッ素重合体の膜)の厚さは30nm以上が好ましい。なお、実用性の観点から、該コート層(含フッ素重合体の膜)の厚さは30nm〜500nmがより好ましく、30nm〜100nmがさらに好ましい。
「工程<3>」
工程<3>は、基材を加熱処理することにより、シランカップリング剤が有する極性官能基と、含フッ素重合体が有する反応性官能基と、の間で化学反応を進行させる工程である。これにより、コート層(含フッ素重合体の膜)と基材表面との密着性、および、該コート層(含フッ素重合体の膜)の膜強度が向上する。
さらに、工程<2>として液相処理を実施した場合、加熱処理によって、基材表面に塗布した溶液中の溶媒を取り除く工程も兼ねることができる。
工程<3>における加熱処理条件は、基材の種類、含フッ素重合体の種類および該含フッ素重合体が有する反応性官能基の種類、ならびにシランカップリング剤が有する極性官能基の種類によって異なる。加熱処理雰囲気については水蒸気雰囲気、不活性ガス雰囲気もしくは空気雰囲気下が好ましく、操作の簡便さから空気雰囲気下がより好ましい。加熱処理温度については、70℃以下では加熱処理による効果を十分得ることができない。一方で、熱処理温度が400℃を超えると、含フッ素重合体が有する反応性官能基およびシランカップリング剤が有する極性官能基が分解し、その機能が損なわれる。よって、加熱処理温度は70℃超400℃以下が好ましく、60〜200℃が実用性の観点からより好ましい。加熱処理時間については1〜120分が好ましく、10〜60分が実用性の観点からより好ましい。
「工程<4>」
工程<4>は、加熱処理後の基材表面を含フッ素溶媒で洗浄する工程である。上述したように、工程<3>では、基材を加熱処理することにより、シランカップリング剤が有する極性官能基と、含フッ素重合体が有する反応性官能基と、の間で化学反応が進行するが、このような化学反応に関与するのは、コート層(含フッ素重合体の膜)のうち、基板表面に面した位置に存在する含フッ素重合体が有する反応性官能基のみである。したがって、コート層を形成する含フッ素重合体の中には、反応性官能基がシランカップリング剤の極性官能基と化学反応を形成していないもの(以下、「反応性官能基が未反応の含フッ素重合体」という。)も存在する。このような反応性官能基が未反応の含フッ素重合体は、コート層(含フッ素重合体の膜)から容易に脱離しやすく、コート層(含フッ素重合体の膜)の剥離の原因となる。
工程<4>において、加熱処理後の基材表面を含フッ素溶媒で洗浄することにより、反応性官能基が未反応の含フッ素重合体が基材表面から除去され、基材表面との密着性に優れた含フッ素重合体薄膜が形成されることとなる。
工程<4>で使用する洗浄方法については特に限定はされないが、加熱処理後の基材を含フッ素溶媒中に浸漬する方法が、簡便である、含フッ素溶媒を再利用しやすいなどの理由から好ましい。なお、加熱処理後の基材を含フッ素溶媒中に浸漬する方法を用いる場合、超音波洗浄器を使用しても良い。洗浄時間(浸漬時間)については特に限定されないが、10秒〜60分が好ましく、30秒〜10分が実用性の観点でより好ましい。
工程<4>における含フッ素溶媒としては、上記した含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を常温下1質量%以上溶解することのできる溶媒が好適に用いられる。このような含フッ素溶媒は特に限定はされないが、ペルフルオロアルカンCn2n+2[nは6〜8の整数]やペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)やc−C1017CF3などのペルフルオロカーボン類、N(Cn2n+13 [nは2〜4の整数]などのペルフルオロトリアルキルアミン類、Cl(CFClCF2n Cl[nは1〜7の整数]などのクロロフルオロカーボン類、CHFClCF2CF2Clなどのハイドロクロロフルオロカーボン類、C613Hなどのハイドロフルオロカーボン類、C613OCH3やCF2HCF2OCH2CF3などのハイドロフルオロエーテル類、ペルフルオロベンゼンやペルフルオロトルエンなどのペルフルオロベンゼン類、などが挙げられる。環境負荷の観点、および、溶解性の観点から、ハイドロフルオロカーボン類、ハイドロフルオロエーテル類がより好ましい。含フッ素溶媒は2種類以上を併用して使用してもよい。
上述した工程<1>〜<4>を実施することにより、含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体薄膜を表面に有する基材が得られる。ここで、含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体薄膜の厚さは1nm以上10nm未満が好ましい。含フッ素重合体薄膜の厚さがこの範囲であると、該基材をインプリント用モールドや接触型のデバイスとして使用した場合に耐擦傷性に優れている。
含フッ素重合体薄膜の厚さは、2nm以上10nm未満がより好ましく、2nm〜5nmがとりわけ好ましい。
なお、含フッ素重合体薄膜の厚さは、分光エリプソメトリーおよびX線反射率法により測定することができる。
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが本発明はこれらに限定されない。なお、以下に示す例のうち例1〜6が実施例である。
(評価項目、評価方法)
<反応性官能基密度>
各合成例により得られた含フッ素重合体の反応性官能基密度を、核磁気共鳴分光法(NMR)を用い、1H−NMRにて測定した。
<接触角(CA)>
含フッ素重合体薄膜が形成された基材表面における水の接触角を、接触角測定装置(協和界面化学製、製品名;CA−X150)を用いて測定した。
<重量平均分子量>
含フッ素重合体の重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。まず、分子量既知の含フッ素重合体標準試料を、GPCを用いて測定し、ピークトップの溶出時間と分子量から、較正曲線を作成した。ついで、含フッ素重合体蒸着源を測定し、較正曲線から分子量を求め、重量平均分子量を求めた。移動相溶媒には(ペルフルオロヘキシルオキシ)メタン(C613OCH3)を用いた。
<固有粘度>
含フッ素重合体の固有粘度は、ガラスウベローデ管を用い、30℃の1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン(C613H)中にて測定した。
<膜厚測定1>
基材表面に形成した含フッ素重合体薄膜の厚さは、薄膜解析用X線回折計(RIGAKU社、ATX−G)を用いてX線反射率法により、反射X線の干渉パターンを得、その干渉パターンの振動周期から算出した。
<膜厚測定2>
基材表面に形成した含フッ素重合体薄膜の厚さを、光干渉式膜厚測定装置(浜松ホトニクス社、C10178)を用いて光干渉法により測定することで求めた。
<耐摩耗性試験>
含フッ素重合体薄膜が形成された基材表面を、ラビングテスター(株式会社井元製作所 商品名:ラビングテスターA 1566)を用い、KURAFLEX(登録商標) CLEAN WIPER(クラレクラフレックス社製、型番:VS−30C)を荷重500gで1000往復させる拭き取り試験を行った。該試験前後の基材表面における水の接触角を測定し、該試験前後の接触角の変化から含フッ素重合体薄膜の耐久性を評価した。
<離型性試験>
含フッ素重合体薄膜が形成された基材表面と、UV硬化樹脂(日立化成工業社製、商品名:ヒタロイド)をスピンコーティングにより塗布した厚みが50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと、をローラーにより圧着し、これに50mJ/cm2のUVを照射しUV硬化樹脂を硬化させ、基材からPETフィルムを剥離させる試験を行い、上記工程を10回行った後、基材の離型性およびUV硬化樹脂の基材表面への付着具合を確認した。基材表面を5mm×5mmの碁盤目状に分割し、硬化樹脂が付着した碁盤目の個数を碁盤目の総数で除して百分率としたものを「樹脂付着率」として求めた。
(含フッ素重合体の調製)
[合成例1]
ペルフルオロ(ブテニルビニルエーテル)の30g、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンの30g、メタノールの0.5g及び重合開始剤として((CH32CHOCOO)2の0.44gを、内容積50mlのガラス製反応器に入れた。系内を高純度窒素ガスにて置換した後、40℃で24時間重合を行った。得られた溶液を、666Pa(絶対圧)、50℃の条件で脱溶媒を行い、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体Aを28g得た。重合体Aのペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)中30℃における固有粘度[η]は、0.04dl/gであった。
[合成例2]
重合体Aを空気中320℃で8時間熱処理を行った後、メタノール中に浸漬させて、反応性官能基として−COOCH3基を有する重合体Bを得た。重合体Bのペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)中30℃における固有粘度[η]は、0.04dl/gであった。
また、前述の方法により、反応性官能基密度を測定した結果、反応性官能基(−COOCH3)密度は1×10-4mol/gであった。
[合成例3]
重合体Aを特開平11−152310に記載の方法により、F2ガスにより不安定末端基を−CF3基に置換し、重合体Cを得た。したがって、重合体Cは反応性反応基を有しない。重合体Cのペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)中30℃における固有粘度[η]は、0.04dl/gであった。
[合成例4]
重合体Aを特開平04−189880に記載の方法により、空気中320℃で6時間熱処理を行った後、水中に浸漬させて、反応性官能基として−COOH基を有する重合体Dを得た。重合体Dのペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)中30℃における固有粘度[η]は、0.04dl/gであった。
また、前述の方法により、反応性官能基密度を測定した結果、反応性官能基(−COOH)密度は2×10-4mol/gであった。
[合成例5]
ペルフルオロ(ブテニルビニルエーテル)の38g、CF2=CFOCF2CF2CF2COOCH3の2g、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンの40g、メタノールの0.5g及び重合開始剤として((CH32CHOCOO)2の0.44gを、内容積50mlのガラス製反応器に入れた。系内を高純度窒素ガスにて置換した後、40℃で24時間重合を行った。得られた溶液を、666Pa(絶対圧)、50℃の条件で脱溶媒を行い、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有さない直鎖の含フッ素重合体Eを32g得た。重合体Eのペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)中30℃における固有粘度[η]は、0.04dl/gであった。
(気相処理による含フッ素重合体薄膜の形成)
[例1]
重合体Bおよび基材としてスライドガラス(松浪硝子工業社製、型番:S111)を用い、気相処理には真空蒸着装置(ULVAC社製、VTR−350M)を用いた。
まず、シランカップリング剤として3−アミノプロピルエトキシシランをモリブデン製ボート上に0.5ml充填し、真空蒸着装置内を10Pa以下まで排気し、3−アミノプロピルエトキシシランを蒸発させ、その蒸気を基材表面に接触させた。3−アミノプロピルエトキシシランによる処理は基材を加熱せず行い、その基板温度は30℃であった。
続いて重合体Bを真空蒸着装置内のモリブデン製ボートに1.2g充填し、真空蒸着装置内を1×10-3Pa以下に排気した。重合体Bを配置したボートを昇温速度10℃/min以下の速度で加熱し、ヒーター温度が200℃をこえた時点でシャッターを開けて基材表面への成膜を開始させた。ヒーター温度が250℃をこえた時点でシャッターを閉じて基材表面への成膜を終了させた。重合体Bの蒸着時は基材を加熱せず行い、その基板温度は30℃であった。成膜終了時点の蒸着源の温度は250℃であった。堆積された含フッ素重合体Bの膜の厚みを膜厚測定2の方法で測定した結果、400nmであった。
含フッ素重合体Bが堆積された基材を、オーブンを用いて加熱処理した。加熱処理雰囲気は空気雰囲気下、加熱処理温度は100℃、加熱時間は60分間とした。
その後、含フッ素溶媒である(ペルフルオロヘキシルオキシ)メタン100mlに、上記した加熱処理後の基材を25℃において5分間浸して洗浄することにより、反応性官能基が未反応の重合体Bを除去し、表面に含フッ素重合体(重合体B)薄膜が形成された基材aを得た。
基材a表面に形成されている含フッ素重合体(重合体B)薄膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定した結果、3nmであった。
前述した方法により基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は106°であった。この結果から該基材表面に含フッ素重合体薄膜が形成されたと判断される。
また、前述した方法により耐摩耗性試験を実施した後の基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は105°であった。この結果から、含フッ素重合体薄膜の剥離は見られなかったと判断される(表1参照)。
なお、含フッ素重合体薄膜を形成する前の基材(スライドガラス(松浪硝子工業社製、型番:S111))表面における水の接触角は10°以下であった。
[例2]
真空蒸着後の含フッ素重合体(重合体B)の厚みを30nmとしたこと以外は、例1と同様にして真空蒸着を行い、加熱処理を行い、含フッ素溶媒を用いて洗浄することにより、表面に含フッ素重合体(重合体B)薄膜が形成された基材bを得た。
前述した方法により、基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は103°であった。この結果から、基材表面に含フッ素重合体(重合体B)薄膜が形成されたと判断される。
基材b表面に形成されている含フッ素重合体(重合体B)薄膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定した結果、3nmであった。
また、前述した方法により耐摩耗性試験を実施した後の基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は102°であった。この結果から、含フッ素重合体薄膜の剥離は見られなかったと判断される(表1参照)。
[例3]
基材としてニッケル基板を用いたこと以外は、例1と同様にして真空蒸着を行い、加熱処理を行い、含フッ素溶媒を用いて洗浄することにより、基材表面に含フッ素重合体(重合体B)薄膜が形成された試料Wを得た。
前述した方法により、基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は108°であった。この結果から、基材表面に含フッ素重合体(重合体B)薄膜が形成されたと判断される。
基材表面に形成されている含フッ素重合体(重合体B)薄膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定した結果、3nmであった。
また、前述した方法により離型性試験を実施した後の基材について、目視によりUV硬化樹脂の基材表面への付着具合を確認したところ、試験面への付着は確認されず、樹脂付着率は0%であり、優れた離型性を示した(表2参照)。
[比較例1]
シランカップリング剤の気相処理を行わなかったこと以外は、例1と同様にして真空蒸着を行い、加熱処理を行い、含フッ素溶媒を用いて洗浄することにより、基材cを得た。
前述した方法により、基材c表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は66°であった。この結果から、該基材c表面には含フッ素重合体(重合体B)薄膜がほとんど形成されていないと判断される。
基材c表面に形成されている含フッ素重合体(重合体B)薄膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定を試みたところ、干渉パターンが観察されず、該基材c表面には含フッ素重合体(重合体B)薄膜がほとんど形成されていないことが確認された。
また、前術した方法により耐摩耗性試験を実施した後の基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は40°であった。この結果から、該基材c表面には含フッ素重合体(重合体B)薄膜がほとんど形成されていないと判断される。
[比較例2]
基材の加熱処理を行わなかったこと以外は、例1と同様にして真空蒸着を行い、加熱処理を行い、含フッ素溶媒を用いて洗浄することにより、基材dを得た。
前述した方法により、基材d表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は84°であった。この結果から、基材d表面には含フッ素重合体(重合体B)薄膜がほとんど形成されていないと判断される。
基材d表面に形成されている含フッ素重合体(重合体B)薄膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定を試みたところ、干渉パターンが観察されず、基材d表面には含フッ素重合体(重合体B)薄膜がほとんど形成されていないことが確認された。
また、前述した方法により耐摩耗性試験を実施した後の基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は62°であった。この結果から、該基材表面から該含フッ素重合体(重合体B)薄膜がほとんど形成されていないと判断される。
[比較例3]
基材の加熱処理温度を70℃としたこと以外は、例1と同様にして真空蒸着を行い、加熱処理を行い、含フッ素溶媒を用いて洗浄することにより、表面に含フッ素重合体(重合体B)薄膜が形成された基材eを得た。
前述した方法により、基材e表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は109°であった。この結果から、基材表面に含フッ素重合体(重合体B)薄膜が形成されたと判断される。
基材e表面に形成されている含フッ素重合体(重合体B)薄膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定した結果、3nmであった。
また、前述した方法により耐摩耗性試験を実施した後の基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は78°に低下した。この結果から、ラビングにより該基材表面から該含フッ素重合体(重合体B)薄膜が剥離したと判断される。
[比較例4]
重合体Bの代わりに重合体Cを用いた以外は、例1と同様にして真空蒸着を行い、加熱処理を行い、含フッ素溶媒を用いて洗浄することにより、基材fを得た。
前述した方法により、基材f表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は72°であった。この結果から、この結果から、基材f表面には含フッ素重合体(重合体C)薄膜がほとんど形成されていないと判断される。この基材fに関しては耐摩耗性試験を実施しなかった。
基材f表面に形成されている含フッ素重合体(重合体C)薄膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定を試みたところ、干渉パターンが観察されず、基材f表面には含フッ素重合体(重合体C)薄膜がほとんど形成されていないことが確認された。
[比較例5]
基材としてニッケル基板を用いたこと、および洗浄工程を行わなかったこと以外は、例2と同様にして真空蒸着を行い、加熱処理を行うことにより、基材表面に含フッ素重合体(重合体B)の膜が形成された試料Xを得た。
前述した方法により、基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は102°であった。この結果から、基材表面に含フッ素重合体(重合体B)の膜が形成されたと判断される。
基材表面に形成されている含フッ素重合体(重合体B)の膜の厚さを膜厚測定2の方法で測定した結果、30nmであった。
また、前述した方法により、離型性試験を実施した後の基材をUV硬化樹脂の基材表面への付着具合を目視により確認したところ、UV硬化樹脂の付着が観察された。UV硬化樹脂の付着率は70%であり、離型性が乏しいことが確認された(表2参照)。
(液相処理による含フッ素重合体薄膜の形成)
[例4]
重合体Bをペルフルオロトリブチルアミンに溶解し、濃度が10質量%となるように調製した溶液と基材としてスライドガラス(松浪硝子工業社製、型番:S111)を用い、液相処理にはスピンコーターを用いた。
まず、エタノール/純水=95/5(重量比)の溶媒に0.05質量%溶解した3−アミノプロピルトリエトキシシランをフロートガラス基材表面に1ml滴下し、回転数500rpmで20秒間、ついで、回転数4000rpmで20秒間スピンコートを行うことにより基材表面をシランカップリング剤で処理した。シランカップリング剤での処理後、基材を自然乾燥させた後、純水にて洗浄し乾燥させた。
続いて上記した重合体Bの溶液をシランカップリング剤で処理した基板表面に0.5ml滴下し、回転数500rpmで5秒間、ついで、回転数2000rpmで20秒間スピンコートすることにより、基材表面に重合体Bの膜を形成した。
表面に重合体Bの膜を形成した基材を、オーブンを用いて加熱処理した。加熱処理雰囲気は空気雰囲気下、加熱処理温度は200℃、加熱時間は60分間であった。加熱処理により、重合体Bの反応性官能基と、シランカップリング剤の極性官能基と、を反応させ、かつ、膜の内部の溶媒を除去した。堆積された重合体Bの膜の厚みを膜厚測定2の方法で測定した結果、500nmであった。
その後、含フッ素溶媒である(ペルフルオロヘキシルオキシ)メタン100mlに上記した加熱処理後の基材を浸し、5分間、25℃において洗浄することにより、表面に含フッ素重合体(重合体B)薄膜が形成された基材gを得た。
前述した方法により、基材g表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は108°であった。この結果から、基材g表面に含フッ素重合体(重合体B)薄膜が形成されたと判断される。
基材g表面に形成されている含フッ素重合体(重合体B)薄膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定した結果、3nmであった。
また、前述した方法により耐摩耗性試験を実施した後の基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は102°であった。この結果から、含フッ素重合体(重合体B)薄膜の剥離は見られなかったと判断される。
[例5]
重合体Bの代わりに重合体Dを用いた以外は[例4]と同様の手順を行い、表面に含フッ素重合体(重合体D)薄膜が形成された基材hを得た。
前述した方法により、基材h表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は106°であった。この結果から、基材h表面に含フッ素重合体(重合体D)薄膜が形成されたと判断される。
基材表面に形成されている含フッ素重合体(重合体D)薄膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定した結果、3nmであった。
また、前述した方法により耐摩耗性試験を実施した後の基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は102°であった。この結果から、含フッ素重合体(重合体D)薄膜の剥離は見られなかったと判断される。
[例6]
重合体Bの代わりに重合体Eを用いた以外は[例4]と同様の手順を行い、表面に含フッ素重合体(重合体E)薄膜が形成された基材iを得た。
前述した方法により、基材i表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は107°であった。この結果から、基材i表面に含フッ素重合体(重合体E)薄膜が形成されたと判断される。
基材i表面に形成されている含フッ素重合体(重合体E)薄膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定した結果、3nmであった。
また、前述した方法により耐摩耗性試験を実施した後の基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は101°であった。この結果から、含フッ素重合体(重合体E)薄膜の剥離は見られなかったと判断される。
[比較例6]
含フッ素重合体の末端にシランカップリング剤が反応した材料としてCYTOP(登録商標)(旭硝子株式会社製、型番:CTL−Mタイプ、重量平均分子量:150,000)を含む溶液を用いた。基材としてスライドガラス(松浪硝子工業社製、型番:S111)を用い、液相処理にはスピンコーターを用いた。
まず、含フッ素重合体(CYTOP)を含む溶液を、ペルフルオロトリブチルアミンにて、濃度が9%となるように調整した後、フロートガラス基材表面に0.5ml滴下し、回転数500rpmで5秒間、ついで、回転数3000rpmで20秒間スピンコートすることにより、基材表面に含フッ素重合体(CYTOP)の膜を形成した。
続いて、表面に含フッ素重合体(CYTOP)の膜を形成した基材を、オーブンを用いて加熱処理した。加熱処理雰囲気は空気雰囲気下、加熱処理温度は200℃、加熱時間は60分間であった。加熱処理により、該含フッ素重合体(CYTOP)の膜を基材表面と反応させ、かつ、該膜の内部の溶媒を除去した。堆積された該含フッ素重合体(CYTOP)の膜の厚みを膜厚測定2の方法で測定した結果、1000nmであった。
その後、含フッ素溶媒である(ペルフルオロヘキシルオキシ)メタン100mlに上記した加熱処理後の基材を浸し、5分間、25℃において洗浄することにより、表面に含フッ素重合体(CYTOP)の薄膜が形成された基材jを得た。
前述した方法により、基材j表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は110°であった。この結果から、基材j表面に含フッ素重合体(CYTOP)の薄膜が形成されたと判断される。
基材j表面に形成されている含フッ素重合体(CYTOP)薄膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定した結果、3nmであった。
また、前記のような方法により耐摩耗性試験を実施した後の基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は53°に低下した。この結果から、含フッ素重合体(CYTOP)の薄膜が剥離したと判断される。
[比較例7]
含フッ素重合体として、末端が−CF3である、反応性官能基を有さないCYTOP(登録商標)(旭硝子株式会社製、型番:CTX−Sタイプ、重量平均分子量:250,000)溶液を用いた以外は[例4]と同様の手順を行い、表面に含フッ素重合体(CYTOP)薄膜が形成された基材kを得た。
前述した方法により、基材k表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は40°であった。この結果から、基材k表面には含フッ素重合体(CYTOP)の薄膜がほとんど形成されていないと判断される。この基材kに関しては耐摩耗性試験を実施しなかった。
基材k表面に形成されている含フッ素重合体(CYTOP)薄膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定を試みたところ、干渉パターンが観察されず、基材k表面には含フッ素重合体(CYTOP)の薄膜がほとんど形成されていないことが確認された。
[比較例8]
含フッ素シランカップリング剤F(ダイキン工業社製、商品名:オプツールDSX)のペルフルオロヘキサン溶液を用い、基材としてスライドガラス(松浪硝子工業社製、型番:S111)を用い、液相処理にはスピンコーターを用いた。
まず、該含フッ素シランカップリング剤F溶液をペルフルオロヘキサンにて、濃度が1%となるように調整した後、基材表面に0.5ml滴下し、回転数500rpmで5秒間、ついで、回転数3000rpmで20秒間スピンコートすることにより、基材表面を含フッ素シランカップリング剤で処理した。
続いて、含フッ素シランカップリング剤で表面処理した基材を、オーブンを用いて加熱処理した。加熱処理雰囲気は空気雰囲気下、加熱処理温度は150℃、加熱時間は60分間であった。加熱処理により、含フッ素シランカップリング剤Fと基材表面とを反応させ、かつ、含フッ素シランカップリング剤F溶液中の溶媒を除去した。
その後、含フッ素溶媒である1,1,2,2,3−ペンタフルオロ−1,3−ジクロロプロパン100mlに上記した加熱処理後の基材を5分間、25℃において浸し、洗浄することにより、表面に含フッ素シランカップリング剤Fの膜が形成された基材lを得た。
前述した方法により、基材l表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は112°であった。この結果から、基材l表面に含フッ素シランカップリング剤Fの膜が形成されたと判断される。
基材l表面に形成されている含フッ素シランカップリング剤Fの膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定した結果、3nmであった。
また、前述した方法により耐摩耗性試験を実施した後の基材l表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は95°であった。この結果から、含フッ素シランカップリング剤Fの膜が若干剥離したと判断される。
[比較例9]
基材としてニッケル基板を用いたこと以外は、比較例8と同様の手順で含フッ素シランカップリング剤F溶液を塗布し、加熱処理を行い、含フッ素溶媒を用いて洗浄することにより、基材表面に含フッ素シランカップリング剤Fの膜が形成された試料Yを得た。
前述した方法により、基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は112°であった。この結果から、基材上に含フッ素シランカップリング剤Fの膜が形成されたと判断される。
基材表面に形成されている含フッ素シランカップリング剤Fの膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定した結果、3nmであった。
また、前述した方法により離型性試験実施した後の基材を目視によりUV硬化樹脂の基材表面への付着具合を確認したところ、UV硬化樹脂の付着が観察された。UV硬化樹脂の付着率は65%であり、離型性が乏しいことが確認された(表2参照)。
[比較例10]
含フッ素シランカップリング剤G(旭硝子社製、CF3O(CF2CF2O)xCF2CONHCH2CH2CH2Si(OCH33)および基材としてスライドガラス(松浪硝子工業社製、型番:S111)を用い、気相処理には真空蒸着装置(ULVAC社製、VTR−350M)を用いた。
まず、含フッ素シランカップリング剤Gをモリブデン製ボート上に0.5ml充填し、真空蒸着装置内を1×10-2Pa以下まで排気し、含フッ素シランカップリング剤Gを蒸発させ、その蒸気を基材表面に接触させた。
続いて、含フッ素シランカップリング剤Gによる表面処理を行った基材を、オーブンを用いて加熱処理した。加熱処理雰囲気は空気雰囲気下、加熱処理温度は150℃、加熱時間は60分間であった。加熱処理により、含フッ素シランカップリング剤Gと基材表面とを反応させた。
その後、含フッ素溶媒である1,1,2,2,3−ペンタフルオロ−1,3−ジクロロプロパン100mlに上記した加熱処理後の基材を浸し、5分間、25℃において洗浄することにより、表面に含フッ素シランカップリング剤Gの膜が形成された基材mを得た。
前述した方法により、基材m表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は111°であった。この結果から、基材表面に含フッ素シランカップリング剤Gの膜が形成されたと判断される。
基材m表面に形成されている含フッ素シランカップリング剤Gの膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定した結果、2nmであった。
また、前述した方法により耐摩耗性試験を実施した後の基材m表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は109°であった。この結果から、含フッ素シランカップリング剤Gの膜の剥離はほとんど見られなかったと判断される。
[比較例11]
基材としてニッケル基板を用いたこと以外は、比較例10と同様の手順で含フッ素シランカップリング剤G溶液を塗布し、加熱処理を行い、含フッ素溶媒を用いて洗浄することにより、基材表面に含フッ素シランカップリング剤Gの膜が形成された試料Zを得た。
前述した方法により、基材表面における水の接触角を測定した結果、水の接触角は111°であった。この結果から、基材上に含フッ素シランカップリング剤Gの膜が形成されたと判断される。
基材表面に形成されている含フッ素シランカップリング剤Gの膜の厚さを膜厚測定1の方法で測定した結果、2nmであった。
また、前述した方法により離型性試験を実施した後の基材表面を目視によりUV硬化樹脂の基材表面への付着具合を確認したところ、UV硬化樹脂の付着が観測された。UV硬化樹脂の付着率は20%であり、離型性がやや乏しいことが確認された(表2参照)。
Figure 2010131569
Figure 2010131569
本発明により得られる基材は、基材との耐擦傷性、耐離型性および防汚性に優れる含フッ素重合体薄膜を表面に有するため、離型性や防汚性が要求される用途の物品に好適である。このような物品の具体例としては、ナノインプリントモールド等のインプリント用モールドや、防汚性が要求される物品(防汚性物品)などに好適に利用できる。なお、防汚性物品の具体例としては、防汚性が付与された太陽電池カバーガラス、医療器具、タッチパネルディスプレイのような接触型デバイスが挙げられる。

Claims (14)

  1. 下記<1>〜<4>の工程を<1>〜<4>の順序で実施することを特徴とする、表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
    <1>基材表面を、極性官能基を有するシランカップリング剤で処理する工程、
    <2>前記極性官能基との反応性を有する反応性官能基を有し、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体で基材表面をコートする工程、
    <3>基材を加熱処理する工程、
    <4>含フッ素溶媒で基材表面を洗浄する工程。
  2. 前記主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体が、下記一般式(1)〜(5)からなる群から選ばれる1種以上の繰り返し単位を有する含フッ素重合体である請求項1に記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
    Figure 2010131569
    (一般式(1)〜(5)において、hは0〜5の整数、iは0〜4の整数、jは0または1、h+i+jは1〜6、sは0〜5の整数、tは0〜4の整数、uは0または1、s+t+uは1〜6、p、qおよびrはそれぞれ独立に0〜5の整数、p+q+rは1〜6、R1、R2、R3、R4、X1およびX2はそれぞれ独立にH、D(重水素)、F、Cl、OCF3またはCF3であり、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立にH、D(重水素)、F、Cl、Cn2n+1、Cn2n+1-mClmkまたはCn2n+1-mmkであり、R5、R6、X1およびX2のうち少なくとも1つはFを含有し、nは1〜5の整数、mは0〜5の整数、2n+1−m≧0、kは0〜1の整数であり、R7およびR8が連結して環を形成してもよい。)
  3. 前記含フッ素重合体薄膜の厚さが1nm以上10nm未満である、請求項1または2に記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
  4. 前記含フッ素重合体で基材表面をコートする工程が、前記含フッ素重合体を蒸着源とする物理的蒸着法により前記基材表面をコートする工程である、請求項1〜3のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
  5. 前記含フッ素重合体で基材表面をコートする工程が、前記含フッ素重合体を含む溶液の塗布により前記基材表面をコートする工程である、請求項1〜3のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
  6. 前記含フッ素重合体が有する反応性官能基が、カルボキシ基、酸ハライド基、アルコキシカルボニル基及びカーボネート基からなる群から選ばれる1種以上の官能基である、請求項1〜5のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
  7. 前記極性官能基が、アミノ基、ヒドロキシ基及びグリシジル基からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
  8. 前記加熱処理の温度が70℃超400℃以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
  9. 前記シランカップリング剤で基材表面を処理する工程が、前記シランカップリング剤を蒸着源とする物理的蒸着法により前記基材表面を処理する工程である、請求項1〜8のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
  10. 前記シランカップリング剤で基材表面を処理する工程が、前記シランカップリング剤を含む溶液の塗布により前記基材表面を処理する工程である、請求項1〜8のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
  11. 前記基材表面を洗浄する工程における含フッ素溶媒が、前記含フッ素重合体を常温下で1質量%以上溶解する含フッ素溶媒である請求項1〜10のいずれかに記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材の製造方法。
  12. 請求項1〜11のいずれかに記載の方法により製造された表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材。
  13. 請求項13に記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材からなるインプリント用モールド。
  14. 請求項13に記載の表面に含フッ素重合体薄膜を有する基材からなる防汚性物品。
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