JP2010124801A - インターフェロン療法の効果予測用マーカーおよびインターフェロン作用増強剤のスクリーニング方法 - Google Patents

インターフェロン療法の効果予測用マーカーおよびインターフェロン作用増強剤のスクリーニング方法 Download PDF

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一彰 茶山
Hiroyasu Tsukada
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Abstract

【課題】I型インターフェロン(IFN)療法における患者の治療効果を予測するためのIFN応答性関連遺伝子を同定し、患者の当該遺伝子を解析することによるI型IFN療法の治療効果の予測方法を提供すること、当該遺伝子の発現量または活性を指標とする免疫増強剤・I型IFN作用増強剤のスクリーニング方法等を提供すること。
【解決手段】ヒトマイトジェン活性化プロテインキナーゼ活性化プロテインキナーゼ3(MAPKAPK3)遺伝子領域に存在する特定の遺伝子多型、および該多型と連鎖不平衡の関係にある遺伝子多型を検出し得るポリヌクレオチドを含有する、I型IFNによる治療に対する感受性予測用試薬。被験者における当該遺伝子多型、MAPKAPK3の発現量もしくは活性を指標とする、I型IFNによる治療に対する感受性予測方法。MAPKAPK3の発現もしくは活性の抑制を指標とする、I型IFN作用増強剤のスクリーニング方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、I型インターフェロン療法における患者の治療効果を予測するためのマーカー、およびMAPKAPK3の発現量または活性を指標とする免疫増強剤のスクリーニング方法等に関する。
慢性C型肝炎は、C型肝炎ウイルス (HCV) の感染を原因とするウイルス性疾患であり、その治療には最も治療効果が高いインターフェロン (IFN) 療法が用いられている。IFN療法には、I型IFN、すなわちIFN-αおよびIFN-βが、具体的には天然型IFN-αやペグIFN-α等が用いられており、もっとも治療効果が高いとされている。
しかしながら、IFN-α単独療法や、IFN-αおよび抗ウイルス剤 (例えばリバビリン) の併用療法で十分な治療効果が認められない患者も多く、HCVの遺伝子型1bに感染した患者の約50%、遺伝子型1b以外のHCVに感染した患者の約20%ではHCVが排除されないことが報告されている(非特許文献1、2および3を参照)。
慢性C型肝炎に対するIFN療法の治療効果が患者によって異なる原因の研究は世界中で精力的に行われ、治療効果に影響を及ぼす因子としてウイルス側因子と宿主 (ヒト) 側因子が報告されている。ウイルス側因子としてはHCV遺伝子型1bかつ治療前血中ウイルス量が高値の場合、治療抵抗性であることが報告されている (非特許文献3および4を参照)。
一方、IFN治療効果に影響を及ぼす宿主側の因子としては、年齢、性別、人種などが報告されている (非特許文献5を参照)。また、サイトカインなどの遺伝的多型がIFN療法の治療効果と関連することが報告されている (非特許文献5および6を参照)。
I型IFNはIFN受容体に結合した後に、受容体下流のシグナル伝達経路を活性化し、種々の遺伝子の発現を誘導して抗HCV作用を惹起する。そのためIFN受容体と同様に、IFN受容体下流のシグナル伝達分子にその発現量や機能を変化させる遺伝的多型があれば、IFN療法の治療効果に影響を与える可能性が考えられる。しかしながら、これまでにIFN受容体下流のシグナル伝達分子がIFN療法の治療効果と関連するとの報告はなされていない。
N. Engl. J. Med. 2002; 347: 975-982 NIH Consens Statement 1997; 15: 1-41 Ann. Intern. Med. 2000; 132: 296-305 J. Viral. Hepat. 2000; 7: 250-257 Hepatology 2004; 39: 880-890 J. Hepatol. 2002; 36: 271-277
本発明が解決しようとする課題は、IFN療法における患者の治療効果を予測するためのIFN応答性関連遺伝子を同定し、患者の当該遺伝子を解析することによるIFN療法の治療効果の予測方法を提供することである。また、本発明が解決しようとする別の課題は、当該遺伝子の発現量または活性を指標とする免疫増強剤、IFN作用増強剤のスクリーニング方法等を提供することにある。
本発明者らは、IFN療法の治療効果と関連する遺伝子を見出すべく、遺伝的多型すなわち、一塩基多型 (SNP, single nucleotide polymorphism) に着目して鋭意検討を行った。SNPとは無作為に抽出された集団において頻度が1%以上の点突然変異として定義され、遺伝子上には約1000塩基対ごとに一つ存在するため、遺伝的多型の良いマーカーとなり得る。隣接するSNP間では相同染色体間の組み換えがおこらないことから(連鎖不平衡)、連鎖不平衡となる複数のSNPの遺伝的多様性は選択された一つのSNPにより代表でき、当該SNPは「タグSNP」と定義される (Nat. Rev. Cancer 2004, 4, 850-860; Nat. Genet. 2001, 29, 233-237)。具体例で説明すると、SNP1がA対立遺伝子またはT対立遺伝子であり、隣接するSNP2がC対立遺伝子またはG対立遺伝子の場合に、SNP1のA対立遺伝子とSNP2のC対立遺伝子が同じ染色体上にあり、他方の相同染色体上にSNP1のT対立遺伝子とSNP2のG対立遺伝子がある場合を設定する。SNP1とSNP2の間で減数分裂時に組み換えが起こらない場合、次世代でも同じ染色体上にSNP1のA対立遺伝子とSNP2のC対立遺伝子があり、同じ染色体上にSNP1のT対立遺伝子とSNP2のG対立遺伝子があり、対立遺伝子間に関連性が生じる(これを連鎖不平衡という)。その場合、SNP1がA対立遺伝子であれば、SNP2はC対立遺伝子であるため、この2ヶ所のSNPはSNP1で代表可能となる。多くの場合では、隣接する複数のSNP間で強い関連性があり連鎖不平衡となることが実証されており、連鎖不平衡となる領域の多型性はタグSNPで代表することが可能となる。
近年、SNP解析技術とその理論は飛躍的に発達しており、症例群 (疾患罹患者群または薬剤応答性がある群) と対照群 (健常者 (もしくは他疾患罹患者) 群または薬剤応答性が無い群) の2群間において、タグSNPの対立遺伝子の頻度を比較することにより、2群間で有意な差のあるSNPを探索して、疾患や薬剤応答性に関連する遺伝子 (疾患感受性遺伝子または薬剤応答性関連遺伝子) を同定する手法を用いて、症例対照相関解析が行われている。
そこで、本発明者らは、IFN受容体下流のシグナル伝達経路である、JAK-STAT経路およびp38 MAPキナーゼ経路に着目してSNP解析を行った。
ここで、JAK-STAT経路とは、Janus-activated kinase (JAK)-signal transducer activator of transcription (STAT) 経路であり、I型IFNの抗HCV作用に必須のシグナル伝達経路である。I型IFNが細胞表面のIFN受容体 (IFNAR1とIFNAR2のヘテロダイマー)に結合すると、受容体の細胞内領域でJAK1とチロシンキナーゼ2 (tyrosine kinase 2) が活性化され、さらにSTAT1およびSTAT2がリン酸化される。その後、STAT1およびSTAT2はIFN regulatory factor 9と複合体を形成して核に移行し、抗HCV作用を示す多数の遺伝子の転写を誘導する。そのため、本発明者らは、上記のIFNAR1、IFNAR2、JAK1、tyrosine kinase 2、STAT1、STAT2およびIFN regulatory factor 9に着目してタグSNPを選択した。
また、p38 MAP(p38 mitogen-activated protein)キナーゼ経路は、JAK-STAT経路と協調してI型IFNの抗HCV作用に関与することが報告されている。I型IFNがIFN受容体に結合すると、ras-related C3 botulinum toxin substrate 1 (RAC-1) が活性化され、その下流に存在するMAPキナーゼキナーゼ(MAP kinase kinases;MAPKK) ファミリーのMAPKK3およびMAPKK6がリン酸化される (J. Biol. Chem. 2000, 275, 27634-27640; J. Biol. Chem. 2005, 280, 10001-10010)。リン酸化されたMAPKK3およびMAPKK6はp38 MAPキナーゼを活性化して、活性化されたp38 MAPキナーゼはMAP kinase-activated protein kinase 2 (MAPKAPK2) およびMAP kinase-activated protein kinase 3 (MAPKAPK3) を活性化し、抗HCV作用を誘導することが報告されている (J. Biol. Chem. 1999, 274, 30127-30131; J. Biol. Chem. 2001, 276, 28570-28577; J. Biol. Chem. 2004, 279, 970-979; Biochem. Biophys. Res. Commun. 2004, 321, 722-727)。本発明者らは、上記のRAC-1、MAPKK3、MAPKK6、p38 MAP kinase、MAPKAPK2およびMAPKAPK3に着目してタグSNPを選択した。
選択されたタグSNPについて症例対照相関解析を行った結果、慢性C型肝炎に対するIFN療法の治療効果に関連する宿主 (ヒト) 遺伝子のSNPを同定することに成功した。同定されたSNPの遺伝子型予測により、IFN治療効果の予測が可能になった。また、同定されたSNPはI型のIFN治療効果に影響を与える遺伝子のコード領域またはその近傍に存在する可能性が高いが、本発明者らは当該遺伝子としてMAPKAPK3を同定し、その遺伝子産物がIFNの治療効果にネガティブに働くタンパク質であることを見出した。従って、MAPKAPK3の発現もしくは活性を阻害する物質は、免疫賦活剤、詳しくはI型IFNによる治療効果を向上させる薬剤となることが期待される。
本発明は上記の知見により、完成するに至ったものである。
すなわち本発明は、
〔1〕ヒト第3番染色体短腕3p21.3に位置するマイトジェン活性化プロテインキナーゼ活性化プロテインキナーゼ3(MAPKAPK3)遺伝子領域に存在する遺伝子多型であって、以下の群:
A)配列番号1で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(C>T);
B)配列番号2で表わされる塩基配列中第388番目の塩基におけるSNP(A>G);
C)配列番号3で表わされる塩基配列中第404番目の塩基におけるSNP(G>A);
D)配列番号4で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(A>G);
E)配列番号5で表わされる塩基配列中第201番目の塩基におけるSNP(A>T);
F)配列番号6で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(T>C);
G)配列番号7で表わされる塩基配列中第201番目の塩基におけるSNP(G>A);
H)配列番号8で表わされる塩基配列中第372番目の塩基におけるSNP(G>A);
I)配列番号9で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(A>G);
J)配列番号10で表わされる塩基配列中第402番目の塩基におけるSNP(C>T);
K)配列番号11で表わされる塩基配列中第462番目の塩基におけるSNP(T>C);
L)配列番号12で表わされる塩基配列中第370番目の塩基におけるSNP(A>G);
M)配列番号13で表わされる塩基配列中第367番目の塩基におけるSNP(G>A);
N)配列番号14で表わされる塩基配列中第199番目の塩基におけるSNP(C>T);
O)配列番号15で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(G>A);および
P)配列番号16で表わされる塩基配列中第125番目の塩基におけるSNP(A>C)
(但し、括弧内はメジャー対立遺伝子>マイナー対立遺伝子を示す。)
から選択される少なくとも1つの遺伝子多型において、少なくとも各マイナー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドを含んでなる、I型インターフェロンによる治療に対する感受性予測用試薬、
〔2〕各メジャー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドをさらに含む、上記〔1〕に記載の試薬、
〔3〕各対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドが、各配列番号で表わされる塩基配列において該対立遺伝子を含む10〜200の連続した塩基配列もしくはその相補鎖配列からなるMAPKAPK3遺伝子断片と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るプローブ、および/または該遺伝子断片を増幅し得るプライマーである、上記〔1〕または〔2〕に記載の試薬、
〔4〕MAPKAPK3遺伝子断片が10〜50の連続した塩基配列からなる、上記〔3〕に記載の試薬、
〔5〕MAPKAPK3遺伝子断片が15〜30の連続した塩基配列からなる、上記〔3〕に記載の試薬、
〔6〕(1)被験者由来の遺伝子サンプルを使用し、ヒト第3番染色体短腕3p21.3に位置するMAPKAPK3遺伝子領域に存在する遺伝子多型であって、以下の群:
A)配列番号1で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(C>T);
B)配列番号2で表わされる塩基配列中第388番目の塩基におけるSNP(A>G);
C)配列番号3で表わされる塩基配列中第404番目の塩基におけるSNP(G>A);
D)配列番号4で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(A>G);
E)配列番号5で表わされる塩基配列中第201番目の塩基におけるSNP(A>T);
F)配列番号6で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(T>C);
G)配列番号7で表わされる塩基配列中第201番目の塩基におけるSNP(G>A);
H)配列番号8で表わされる塩基配列中第372番目の塩基におけるSNP(G>A);
I)配列番号9で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(A>G);
J)配列番号10で表わされる塩基配列中第402番目の塩基におけるSNP(C>T);
K)配列番号11で表わされる塩基配列中第462番目の塩基におけるSNP(T>C);
L)配列番号12で表わされる塩基配列中第370番目の塩基におけるSNP(A>G);
M)配列番号13で表わされる塩基配列中第367番目の塩基におけるSNP(G>A);
N)配列番号14で表わされる塩基配列中第199番目の塩基におけるSNP(C>T);
O)配列番号15で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(G>A);
P)配列番号16で表わされる塩基配列中第125番目の塩基におけるSNP(A>C);
(但し、括弧内はメジャー対立遺伝子>マイナー対立遺伝子を示す。)、および
Q)前記SNPと連鎖不平衡の関係にある遺伝子多型
から選択される少なくとも1つの遺伝子多型を試験する工程、および
(2)(1)の試験の結果、マイナー対立遺伝子の存在が認められた場合、被験者のI型インターフェロンによる治療に対する感受性が低いと判断する工程
を含む、被験者のI型インターフェロンによる治療に対する感受性の予測方法、
〔7〕遺伝子サンプルが、ゲノムDNAまたはRNAを含む、上記〔6〕に記載の予測方法、
〔8〕(1)被験者由来サンプルにおけるMAPKAPK3遺伝子またはMAPKAPK3の発現量を測定する工程、および
(2)前記発現量が高い場合に、被験者のI型インターフェロンによる治療に対する感受性が低いと予測する工程
を含む、被験者のI型インターフェロンによる治療に対する感受性の予測方法、
〔9〕(1)被験者由来サンプルにおけるMAPKAPK3の活性を測定する工程、および
(2)前記活性が高い場合に、被験者のI型インターフェロンによる治療に対する感受性が低いと予測する工程
を含む、被験者のI型インターフェロンによる治療に対する感受性の予測方法、
〔10〕被験者が、I型インターフェロンによる治療が適用され得る疾患の患者である、上記〔6〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の予測方法、
〔11〕I型インターフェロンによる治療が適用され得る疾患の患者がHCV感染患者である、上記〔10〕に記載の予測方法、
〔12〕HCV感染患者がHCV遺伝子型1b感染患者である、上記〔11〕に記載の予測方法、
〔13〕(1)被験物質がMAPKAPK3遺伝子またはMAPKAPK3の発現を抑制するか否かを測定する工程、および
(2)前記発現を抑制する被験物質を、I型インターフェロン作用増強剤の候補物質として選択する工程
を含む、I型インターフェロン作用増強剤のスクリーニング方法、
〔14〕(1)被験物質がMAPKAPK3の活性を抑制するか否かを測定する工程、および、
(2)前記活性を抑制する被験物質を、I型インターフェロン作用増強剤の候補物質として選択する工程
を含む、I型インターフェロン作用増強剤のスクリーニング方法、
〔15〕MAPKAPK3の発現を抑制する物質またはMAPKAPK3阻害活性を有する物質を有効成分として含有する、I型インターフェロン作用増強剤、
〔16〕HCV感染症治療または予防薬である、上記〔15〕に記載のI型インターフェロン作用増強剤、
〔17〕HCV感染症がHCV遺伝子型1b感染症である、上記〔16〕に記載のI型インターフェロン作用増強剤、および
〔18〕ヒト第3番染色体3p21.3に位置するMAPKAPK3遺伝子領域の部分塩基配列であって、配列番号3で表わされる塩基配列中第404番目の塩基を含む10〜200の連続した塩基配列もしくはその相補鎖配列を含み、かつ当該塩基がAであるポリヌクレオチド
に関する。
本発明により、IFN療法、詳しくはI型IFN療法における患者の治療効果を予測するためのマーカーを提供することが可能になった。すなわち本発明により、慢性C型肝炎におけるIFN療法の治療効果を判断するためのマーカーである、MAPKAPK3の遺伝子領域上のSNPが提供される。また、当該SNPを有するか否かに基づいて被験者の遺伝子型を予測することにより、当該被験者がIFN療法を受けた場合の治療効果を予測することが可能となる。
IFN療法は投与期間が半年以上の長期間に及び、かつ副作用が報告されていることから (Adv. Intern. Med. 1994, 39, 241-275)、予め治療効果の予測が可能になれば、最適な治療法の選択、適切な投与量、投与期間の判断が可能になると考えられ、患者にとって有益である。
さらに、本発明により、MAPKAPK3の発現量または活性を指標とするI型IFNの作用増強剤のスクリーニング方法等を提供することが可能になった。すなわち、MAPKAPK3はI型IFNのシグナル伝達を抑制する作用を有することが明らかとなったことから、当該MAPKAPK3の発現もしくは活性を阻害する物質は、I型IFNによる治療に対する感受性を向上させる。従って、当該物質は、I型IFNの治療効果を向上させる薬剤として有用である。そしてMAPKAPK3の発現もしくは活性を阻害するか否かを指標として、I型IFNの作用増強剤をスクリーニングすることができる。
以下に本発明を詳細に説明する。
本明細書において、MAPKAPK3とは、
(a)配列番号18(Genbank: NM_004635.3)で表わされるアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号17(Genbank: NM_004635.3)で表わされる塩基配列を含むポリヌクレオチドでコードされるタンパク質、
(c)(c-1)配列番号18で表わされるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換されたアミノ酸配列、(c-2)配列番号18で示されるアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、または(c-3)配列番号17で表わされる塩基配列の第110番目〜第1258番目の塩基配列を有するDNAに対し相補性を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつI型IFN刺激によりリン酸化されたMAPKAPK3がheat shock protein 25 (Hsp25)をリン酸化する活性 (J Biol Chem. 2001; 276(30): 28570-7) を有する蛋白質である。
ここで、前記(c-1)における「アミノ酸の欠失、付加、挿入もしくは置換」や前記(c-2)における「70%以上の配列同一性」には、例えば、配列番号18で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質が細胞内で受けるプロセシング、該蛋白質が由来する生物の種差、個体差、組織間の差異等により天然に生じる変異や、人為的なアミノ酸の変異等が含まれる。
前記(c-1)における「アミノ酸の欠失、付加もしくは置換」(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res., 12, 9441-9456 (1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
前記で改変されるアミノ酸の数については、少なくとも1残基、具体的には1若しくは数個、またはそれ以上である。かかる改変の数は、当該蛋白質のheat shock protein 25 (Hsp25) リン酸化活性などMAPKAPK3の活性を見出すことのできる範囲であれば良い。
また前記欠失、付加または置換のうち、特にアミノ酸の置換に係る改変が好ましい。当該置換は、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似した性質を有するアミノ酸への置換がより好ましい。このような置換としては、例えば、i)グリシン、アラニン;ii)バリン、イソロイシン、ロイシン;iii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、iv)セリン、スレオニン;v)リジン、アルギニン;vi)フェニルアラニン、チロシンのグループ内での置換が挙げられる。
「配列同一性」とは、2つのDNAまたは2つの蛋白質間の配列の同一性および相同性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象のDNAまたは蛋白質は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加または欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。このような配列同一性に関しては、例えば、Vector NTIを用いて、ClustalWアルゴリズム(Nucleic Acid Res., 22(22): 4673-4680 (1994))を利用してアラインメントを作成することにより算出することができる。尚、配列同一性は、配列解析ソフト、具体的にはVector NTI、GENETYX-MACや公共のデータベースで提供される解析ツールを用いて測定される。前記公共データベースは、例えば、ホームページアドレスhttp://www.ddbj.nig.ac.jpにおいて、一般的に利用可能である。
本発明における配列同一性は、70%以上であればよいが、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上である。
前記(c-3)における「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)、50%フォルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSCで50℃の条件(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSCで50℃の条件(高ストリンジェンシーな条件)までから選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
上述のMAPKAPK3(タンパク質)の具体例として、配列番号18で示されるアミノ酸配列からなるヒトMAPKAPK3の他、チンパンジー(Genbank Acc. No.: XP_516486.2)、マウス(Genbank Acc. No.:NP_849238.1)、ラット(Genbank Acc. No.: NP_001012127.1)、ニワトリ(Genbank Acc. No.: XP_414262.2)、イヌ(Genbank Acc. No.: XP_541872.2)、ウシ(Genbank Acc. No.: NP_001029951.1)等の他の動物種のオルソログを挙げることができる。
本明細書において、MAPKAPK3遺伝子とは、上記MAPKAPK3をコードする塩基配列を有する遺伝子を表わす。具体的には、配列番号17で示される塩基配列からなるヒトMAPKAPK3 cDNAの他、チンパンジー(Genbank Acc. No.: XM_516486.2)、マウス(Genbank Acc. No.:NM_178907.2)、ラット(Genbank Acc. No.: NM_001012127.1)、ニワトリ(Genbank Acc. No.: XM_414262.2)、イヌ(Genbank Acc. No.: XM_541872.2)、ウシ(Genbank Acc. No.:NM_001034779.1)等の他の動物種のオルソログを挙げることができる。
I.本発明のマーカー多型およびその検出用試薬
本発明の第一の態様は、上述の〔1〕〜〔5〕に記載のI型IFNによる治療に対する感受性予測用試薬に関する。すなわち、上記〔1〕のA)〜P)に示される一塩基多型(SNP)は、いずれも互いに連鎖不平衡となるSNPであり、本発明のマーカー多型として有用である。ここで「連鎖不平衡」とは、連鎖不平衡係数r2が0.64以上、好ましくは0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型である。「連鎖不平衡係数r2」は、2つのSNPについて第一のSNPの各対立遺伝子を(A, a)、第二のSNPの各対立遺伝子を(B, b)とし、4つのハプロタイプ(AB, Ab, aB, ab)の各頻度をPAB, PAb, PaB, Pabとすると、下記式により得られる。
r2=(PABPab−PAbPaB)2/(PAB+PaB)(PaB+Pab)(PAB+PAb)(PAb+Pab)
また上記SNPと連鎖不平衡となるその他の既知多型についても、例えば、HapMapデータベース (http://www.hapmap.org/index.html.ja) 等を用いて同定することができる。本明細書において「(遺伝子)多型」とは、ゲノムDNA上の1または複数の塩基の変化(置換、欠失、挿入、転位、逆位等)であって、その変化が集団内に1%以上の頻度で存在するものをいい、例えば、1個の塩基が他の塩基に置換されたもの(SNP)、1〜数十塩基が欠失もしくは挿入されたもの(DIP)、2〜数十塩基を1単位とする配列が繰り返し存在する部位においてその繰り返し回数が異なるもの(繰り返し単位が2〜4塩基のものをマイクロサテライト多型、数〜数十塩基のものをvariable number of tandem repeat (VNTR)という)等が挙げられるが、好ましくはSNPである。このようにして同定されたA)〜P)に示されるSNPと連鎖不平衡となる遺伝子多型も本発明のマーカー多型として有用である。更に、現在は未報告の遺伝子多型においても、A)〜P)に示されるSNPと連鎖不平衡となるものは、同様に本発明のマーカー多型として有用である。したがって、A)〜P)に示されるSNPと連鎖不平衡となる遺伝子多型を検出し得るポリヌクレオチドもまた、本発明のマーカー多型検出用試薬、すなわちI型IFNによる治療に対する感受性予測用試薬に包含される。
ここで、「ヒト第3番染色体短腕3p21.3に位置するマイトジェン活性化プロテインキナーゼ活性化プロテインキナーゼ3(MAPKAPK3)遺伝子領域」とは、配列番号18で示されるヒトMAPKAPK3をコードする遺伝子を含むゲノム領域であり、NCBI genome sequence ID番号 NT_022517.17において、contig番号50594605(第1エキソンの5’末端)〜50626723(第11エキソンの3’末端)で示される領域並びにその上流および下流約5kbpの領域を挙げることができる。当該遺伝子領域の遺伝子配列は、個体差、組織間の差異等により天然に生じる変異を含む。
「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAを共に含む概念である。ここで「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖(正鎖とも言う)およびアンチセンス鎖(相補鎖または逆鎖とも言う)といった各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。
ここでアンチセンス鎖(相補鎖、逆鎖)とは、正鎖に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味するものである。
なお、遺伝子またはDNAは、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン、またはイントロンを含むことができる。
また、「RNA」とは、1本鎖RNAのみならず、それに相補的な配列を有する1本鎖RNA、さらにはそれらから構成される2本鎖RNAを包含する趣旨で用いられる。
さらに、DNAとRNAとのキメラ分子やDNA:RNAハイブリッドもまた、本明細遺書におけるポリヌクレオチドに包含される。
「対立遺伝子」とは、染色体上の同一の遺伝子座(座位)を占めることができる遺伝構成要素が複数存在する場合、その一つの型と定義される。
機能単位としての遺伝子を必ず含む概念ではなく、SNPについても同一遺伝子座に複数の塩基が存在する場合もある。すなわち、両親由来の1対の相同な染色体において相同な遺伝子座に位置する複数種の遺伝子や塩基を示し、本明細書の場合は相同な遺伝子座に位置するSNPを示す。例を挙げて説明すると、ある遺伝子座について父親由来の染色体ではA、母親由来の染色体ではGの場合、それぞれA対立遺伝子、G対立遺伝子という概念をしめす。英語表記はA allele、G alleleとなる。
本明細書において、「メジャー対立遺伝子(major allele)」とは、該当する遺伝子座で、SNPが存在する場合に高頻度で出現する方の塩基を表す。例えば、父親由来の染色体ではA、母親由来の染色体ではGのSNPを想定した場合、A対立遺伝子の頻度が80%、G対立遺伝子の頻度が20%の場合、50%を超える頻度を示すAのSNPをメジャー対立遺伝子と言う。一方、該当する遺伝子座で、SNPが存在する場合に低頻度で出現する方の塩基(上記の例においては、GのSNP)をマイナー対立遺伝子と言う。
本発明において、〔1〕のA)に記載のマーカー多型は、配列番号1で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNPであり、NCBI [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/] が提供するSNPデータベースdbSNP [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/] でのID番号:rs616589で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50603633で示され、MPKAPK3遺伝子の第2イントロンの第8414位に相当する塩基がCまたはT(C>T;メジャー対立遺伝子>マイナー対立遺伝子で示す。以下同じ)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のB)に記載のマーカー多型は、配列番号2で表わされる塩基配列中第388番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs1385025で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50626066で示され、MPKAPK3遺伝子の3'UTR領域の第585位に相当する塩基がAまたはG(A>G)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のC)に記載のマーカー多型は、配列番号3で表わされる塩基配列中第404番目の塩基におけるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50625003で示され、MPKAPK3遺伝子の第10イントロンの第363位に相当する塩基がGまたはA(G>A)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のD)に記載のマーカー多型は、配列番号4で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs375544で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50597830で示され、MPKAPK3遺伝子の第2イントロンの第2611位に相当する塩基がAまたはG(A>G)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のE)に記載のマーカー多型は、配列番号5で表わされる塩基配列中第201番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs3792323で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50600335で示され、MPKAPK3遺伝子の第2イントロンの第5116位に相当する塩基がAまたはT(A>T)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のF)に記載のマーカー多型は、配列番号6で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs3792325で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50603578で示され、MPKAPK3遺伝子の第2イントロンの第8359位に相当する塩基がCまたはT(T>C)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のG)に記載のマーカー多型は、配列番号7で表わされる塩基配列中第201番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs616689で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50608536で示され、MPKAPK3遺伝子の第2イントロンの第13317位に相当する塩基がAまたはG(G>A)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のH)に記載のマーカー多型は、配列番号8で表わされる塩基配列中第372番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs3804632で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50611366で示され、MPKAPK3遺伝子の第2イントロンの第16147位に相当する塩基がAまたはG(G>A)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のI)に記載のマーカー多型は、配列番号9で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs396302で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50614472で示され、MPKAPK3遺伝子の第2イントロンの第19253位に相当する塩基がAまたはG(A>G)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のJ)に記載のマーカー多型は、配列番号10で表わされる塩基配列中第402番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs808148で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50618663で示され、MPKAPK3遺伝子の第3イントロンの第723位に相当する塩基がCまたはT(C>T)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のK)に記載のマーカー多型は、配列番号11で表わされる塩基配列中第462番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs808149で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50618736で示され、MPKAPK3遺伝子の第3イントロンの第796位に相当する塩基がCまたはT(C>T)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のL)に記載のマーカー多型は、配列番号12で表わされる塩基配列中第370番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs745356で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50621340で示され、MPKAPK3遺伝子の第5イントロンの第1573位に相当する塩基がAまたはG(A>G)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のM)に記載のマーカー多型は、配列番号13で表わされる塩基配列中第367番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs876105で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50623813で示され、MPKAPK3遺伝子の第8イントロンの第114位に相当する塩基がAまたはG(A>G)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のN)に記載のマーカー多型は、配列番号14で表わされる塩基配列中第199番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs876104で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50623981で示され、MPKAPK3遺伝子の第8イントロンの第282位に相当する塩基がCまたはT(C>T)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のO)に記載のマーカー多型は、配列番号15で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs9879397で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50625646で示され、MPKAPK3遺伝子の3'UTR領域の第165位に相当する塩基がAまたはG(G>A)である遺伝子多型である。
本発明において、〔1〕のP)に記載のマーカー多型は、配列番号16で表わされる塩基配列中第125番目の塩基におけるSNPであり、前記SNPデータベースdbSNPでのID番号:rs2170840で示されるSNPである。当該多型は、ヒトMAPKAPK3遺伝子領域を含むゲノム配列NT_022517.17においてcontig番号50626521で示され、MPKAPK3遺伝子の3'UTR領域の第1040位に相当する塩基がAまたはC(A>C)である遺伝子多型である。
本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドは、被験者がI型IFNによる治療に対して感受性を示すか否かを予測するために有用である。疾患対照相関解析の結果、本発明のマーカー多型におけるマイナー対立遺伝子の頻度は、I型IFNによる治療の著効群におけるそれよりも非著効群において有意に高いことが示された。従って、被験者が、本発明のマーカー多型においてマイナー対立遺伝子を有するか否かを試験することにより、該被験者がI型IFNによる治療に対して感受性を示すか否かを予測することができる。したがって、本発明のI型IFNによる治療に対する感受性予測用試薬は、本発明のマーカー多型において、少なくともマイナー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドを含有するものである。例えば、上記〔1〕のA)のマーカー多型にあっては、配列番号1で表わされる塩基配列中第301番目の塩基を含む、連続した10〜200の塩基配列またはその相補鎖配列であって、当該塩基がT(相補鎖配列にあってはA)である配列の存在を検出し得るものである。
具体的には、本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドは、Taqmanプローブ法、Invaderプローブ法(Third Wave社)、GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)やBeadchip (ILLUMINA社)など遺伝子チップを用いたSNPタイピング法、ダイレクトシークエンス法、SSCP法 (single-stranded comformational polymorphism analysis) 、ASP-PCR法 (allele-specific primer PCR analysis) などといった公知の遺伝子解析方法におけるプライマーまたはプローブとして用いられる。すなわち、プライマーであれば、本発明のマーカー多型部位を含むヒトMAPKAPK3遺伝子断片を増幅し得る1対のポリヌクレオチドであり、プローブであれば、当該多型部位を含むヒトMAPKAPK3遺伝子領域とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドである。ここで「ストリンジェントな条件」とは上記と同義である。
本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドの長さは、当該多型部位を含む10〜200の連続した塩基配列を有するヒトMAPKAPK3遺伝子断片を検出し得るものであれば特に制限はなく、具体的には該ポリヌクレオチドの用途に応じて、長さを適宜選択し設定することができる。
本発明のポリヌクレオチドをプライマーとして用いる場合には、10bp〜200bp、好ましくは15bp〜50bp、より好ましくは15bp〜35bpの塩基長を有するものが例示できる。また検出プローブとして用いる場合には、10bp〜200bpの塩基数、好ましくは10bp〜50bp、より好ましくは15bp〜30bpの塩基長を有するものが例示できる。
本発明のマーカー多型において、マイナー対立遺伝子はI型IFNによる治療に対する非感受性対立遺伝子であるのに対し、メジャー対立遺伝子は感受性対立遺伝子である。すなわち、被験者がメジャー対立遺伝子のホモ接合型である遺伝子型を有する場合、ヘテロ接合型やマイナー対立遺伝子のホモ接合型と比較して、I型IFNによる治療に対して感受性である頻度が顕著に高い。したがって、本発明のI型IFNによる治療に対する感受性予測用試薬は、本発明のマーカー多型において、メジャー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドをさらに含有していることが望ましい。
本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドがプローブとして用いられる場合、該プローブは多型性の検出に適した付加的配列(ゲノムDNAと相補的でない配列)を含んでいてもよい。例えば、Invaderプローブ法に用いられるアレルプローブは、多型部位の塩基の5’末端にフラップと呼ばれる付加的配列を有する。
また、該プローブは、適当な標識剤、例えば、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。あるいは、蛍光物質(例:FAM、VIC等)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。かかる実施態様においては、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドがプライマーとして用いられる場合、該プライマーは、多型性の検出に適した付加的配列(ゲノムDNAと相補的でない配列)、例えばリンカー配列を含んでいてもよい。
また、該プライマーは、適当な標識剤、例えば、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。
上記核酸プローブおよび/またはプライマーは、各々別個に(あるいは可能であれば混合した状態で)水もしくは適当な緩衝液(例:TEバッファーなど)中に適当な濃度(例:2×〜20×の濃度で1〜50μMなど)となるように溶解し、約-20℃で保存することができる。
本発明のI型IFNによる治療に対する感受性予測用試薬は、多型検出法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、該試薬がTaqMan PCR法による多型検出用である場合には、該試薬は、10×PCR反応緩衝液、10×MgCl2水溶液、10×dNTPs水溶液、Taq DNAポリメラーゼ(5U/μL)等をさらに含むことができる。
II.I型IFNによる治療に対する感受性の予測方法
本発明はまた、被験者がI型IFNによる治療に対する感受性を有するか否かを、当該被験者の遺伝子型を調べることによって予測する、上記〔6〕または〔7〕に記載の予測方法を包含する。
ここで測定対象試料となる被験者由来の遺伝子サンプルは、被験者(患者等)の遺伝子、すなわちゲノムDNAおよびRNAを含む生体試料であれば特に限定はなく、使用する検出方法の種類に応じて適宜選択することができる(但し、RNAもしくはそれに由来するポリヌクレオチドを遺伝子サンプルとする場合、検出すべきマーカー多型としては、ヒトMAPKAPK3遺伝子のエキソン部分に存在するものが選択される)。該試料は、例えば、被験者の生体組織、具体的には、血液、肝生検、頬粘膜などを採取し、そこから常法に従って調製したゲノムDNAまたはtotal RNAを用いてもよいし、さらに該RNAをもとにして調製される各種のポリヌクレオチドを用いてもよい。被験者由来サンプルからのゲノムDNAおよびRNAの調製は、当業者に周知の任意の方法を用いればよい。
具体的には、上述の本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドを、常法に従ってプライマーまたはプローブとして利用し、Taqmanプローブ法、Invaderプローブ法(Third Wave Technologies社)、GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)やBeadchip (ILLUMINA社)など遺伝子チップを用いたSNPタイピング法、ダイレクトシークエンス法、SSCP法 (single-stranded comformational polymorphism analysis)、ASP-PCR法 (allele-specific primer PCR analysis)、などといった、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法で試験すればよい。
例えば、Taqmanプローブ法およびInvaderプローブ法を用い、以下の群:
A)配列番号1で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(C>T);
B)配列番号2で表わされる塩基配列中第388番目の塩基におけるSNP(A>G);
C)配列番号3で表わされる塩基配列中第404番目の塩基におけるSNP(G>A);
D)配列番号4で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(A>G);
E)配列番号5で表わされる塩基配列中第201番目の塩基におけるSNP(A>T);
F)配列番号6で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(T>C);
G)配列番号7で表わされる塩基配列中第201番目の塩基におけるSNP(G>A);
H)配列番号8で表わされる塩基配列中第372番目の塩基におけるSNP(G>A);
I)配列番号9で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(A>G);
J)配列番号10で表わされる塩基配列中第402番目の塩基におけるSNP(C>T);
K)配列番号11で表わされる塩基配列中第462番目の塩基におけるSNP(T>C);
L)配列番号12で表わされる塩基配列中第370番目の塩基におけるSNP(A>G);
M)配列番号13で表わされる塩基配列中第367番目の塩基におけるSNP(G>A);
N)配列番号14で表わされる塩基配列中第199番目の塩基におけるSNP(C>T);
O)配列番号15で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(G>A);
P)配列番号16で表わされる塩基配列中第125番目の塩基におけるSNP(A>C);
(但し、括弧内はメジャー対立遺伝子>マイナー対立遺伝子を示す。)、および
Q)前記SNPと連鎖不平衡の関係にある遺伝子多型
から選択される遺伝子多型の当該多型部位を含むヒトMAPKAPK3遺伝子断片が特異的に生成されることを確認することができる。Taqmanプローブ法を利用してSNP遺伝子型を予測する方法は当業者に周知であり、例えばApplied Biosystems社が市販するTaqMan(登録商標)SNP Genotyping Assays試薬を用い、SNP領域を検出するPCRプライマーおよびSNP対立遺伝子を識別する蛍光標識されたTaqManプローブおよび被験者の遺伝子サンプル由来のゲノムDNAを混合して、キットの添付文書に従って反応させ、蛍光シグナルを解析することにより、サンプル中に含まれるSNP対立遺伝子の遺伝子型を検出する方法を例示することができる(Nat Genet 2003; 34: 395-402)。
また、Invaderプローブを用いてSNP遺伝子型を同定する方法も当業者に周知であり、Third Wave Technologies社が市販するSNP対立遺伝子を識別するInvaderプローブおよび反応試薬を混合し、被験者の遺伝子サンプル由来のゲノムDNAを鋳型としてkit推奨の方法に従い反応させ、汎用の蛍光プレートリーダーで蛍光シグナルを検出することにより、サンプル中に含まれるSNP対立遺伝子の遺伝子型を検出する方法を例示することができる(J Hum Genet 2001; 46: 471-477)。
ノーザンブロット法を利用する場合、上述の〔1〕に記載のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドをプローブとして用いればよい。具体的には、前記プローブを放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された前記プローブ(DNAまたはRNA)とRNAとの二重鎖を、前記プローブの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルとして放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham PharamciaBiotech社製)を用いて、該プロトコールに従って前記プローブを標識し、細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、前記プローブの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
また、被験者の遺伝子型は、GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)やBeadchip (ILLUMINA社)など遺伝子チップを利用して検出することもでき、本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドの配列を含む10-100bpまでの任意の長さのポリヌクレオチドをプローブとして用いることが可能である。GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)やBeadchip (ILLUMINA社)を用いた方法は当業者に周知であり、AFFYMETRIX社およびILLUMINA社からのkit推奨の方法に従い、本発明のポリヌクレオチドをプローブに含むDNAチップを、被験者由来の遺伝子サンプルとハイブリダイズさせることにより、サンプル中に含まれるSNP対立遺伝子の遺伝子型を検出する方法を例示することができる。
「I型IFN」にはIFN-αおよびIFN-βが含まれる。ここでIFN-αはさらにわずかに特異性の異なる小さなアイソフォーム(isoform)に分類されているが、本明細書におけるIFN-αは、これらのアイソフォームの混合物である天然型IFN-αも、これらのアイソフォームが単離された組換えタンパク質等もすべて包含する概念である。アイソフォームとしては、IFN-α2a、IFN-α2b等が挙げられる。
「I型IFNによる治療に対する感受性が高い」とは、I型IFNを投与された場合に期待される薬理作用を示す状態を意味する。具体的には、ウイルス感染症に罹患した患者であれば、血中ウイルスRNA量の低下、完全な消滅、肝機能改善の指標である血中ALT (alanine transaminase、アラニンアミノ基転移酵素)値の正常化などが挙げられる。
I型IFNによる治療に対する感受性が高い患者は、I型IFNによる治療効果が期待され得る。
I型IFNによる治療が有効な疾患、すなわちI型IFNにおる治療が適用され得る疾患としては、HCV、HBV (hepatitis B virus) 等のウイルス感染症、ウイルス感染が原因と考えられる亜急性硬化性全脳炎、HTLV-I (human adult T cell leukemia virus-I) 脊髄症等、肝硬変からの発癌等があげられる。また、腎癌、多発性骨髄腫、白血病なども挙げられる。
I型IFNにおる治療が適用され得る疾患の患者としては前記疾患に罹患している患者等が挙げられる。該患者がHCV感染症患者である場合、HCV遺伝子型1bである患者はI型IFNによる治療に対する感受性において、本発明のマーカー多型との相関がより顕著であるので、本発明の予測方法を実施するのが好ましい。
一方、I型IFNによる治療に対する感受性が低い患者は、I型IFNを投与しても血中ウイルスRNA量が低下しない、低下しても完全に消滅しない、血中ALT値が正常化しない、一度消滅しても治療後にウイルスRNAが再増殖する等の所見を呈する。
被験者由来の遺伝子サンプルにおいて、上述のA)〜Q)のうちの少なくとも1つの遺伝子多型について試験した結果、被験者がマイナー対立遺伝子を有する場合、該被験者はI型IFNによる治療に対する感受性が低いと予測することができる。より好ましくは、上述のA)〜Q)ののうちの少なくとも1つの遺伝子多型について試験した結果、メジャー対立遺伝子をホモにもつ場合、I型IFNによる治療に対する感受性が高く、ヘテロ接合型の場合、メジャー対立遺伝子をホモにもつ場合に比べてI型IFNによる治療に対する感受性が低く、マイナー対立遺伝子をホモにもつ場合、I型IFNによる治療に対する感受性がさらに低いと予測することができる。
本発明のマーカー多型において、マイナー対立遺伝子を有するハプロタイプでは、MAPKAPK3遺伝子の発現がメジャー対立遺伝子を有するハプロタイプにおけるそれよりも亢進しており、産生されたMAPKAPK3がIFN刺激により誘導される抗ウイルス遺伝子の発現を抑制することで、I型IFNによる治療効果を低下させ、もしくは無効にしている。したがって、本発明はまた、上記〔8〕または〔9〕に記載の、MAPKAPK3遺伝子もしくはMAPKAPK3の発現量、またはMAPKAPK3の活性を指標とした、被験者のI型IFNに対する感受性の予測方法を包含する。
MAPKAPK3遺伝子の発現量を測定する方法としては、特に限定は無く、ノーザンブロット法、RT-PCR法、in situハイブリダーゼーション法、Taqmanプローブ法GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)など遺伝子チップを用いた公知の方法などが挙げられる。
具体的には、MAPKAPK3遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/またはその相補的なポリヌクレオチドをプライマーまたはプローブとして用いることによって、RNA中の本遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。そのようなプローブもしくはプライマーは、本遺伝子の塩基配列(GenBank accession番号:NM_004635.3を参照)をもとに、例えばprimer 3(HYPERLINK http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。
ノーザンブロット法を利用する場合、前記プライマーもしくはプローブを用いて、上記で述べた方法に従って、MAPKAPK3遺伝子発現量を測定すればよい。
RT-PCR法を利用する場合も、細胞由来のRNAから上記で述べた方法に従って、MAPKAPK3遺伝子発現量を測定すればよい。同様に、上述のTaqman probe (Applied Biosystems社) やAffimetrix社遺伝子チップを用いる方法で測定することもできる。
MAPKAPK3の発現量を測定する方法としては、特に限定は無いが、ウェスタンブロット法、ELISA法などが挙げられる。
ウェスタンブロット法は、一次抗体として本蛋白質を認識する抗体を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAI-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体としてMAPKAPK3を認識する抗体を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を利用して該プロトコールに従って検出し、マルチバイオメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
抗体は、その形態に特に制限はなく、前記MAPKAPK3を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよく、さらにはMAPKAPK3を構成するアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12〜11.13)。
MAPKAPK3(蛋白質)の活性を測定する方法としては、特に限定は無いが、I型IFN刺激によりリン酸化されたMAPKAPK3がheat shock protein 25 (Hsp25) をリン酸化する活性 (文献:J Biol Chem. 2001; 276(30): 28570-7)を測定すればよい。
上述のとおり測定したMAPKAPK3もしくはMAPKAPK3遺伝子の発現量またはMAPKAPK3の活性が、I型IFNに感受性を示さない対照者におけるこれらの発現量(標準値という)に比べて低い値を示す場合に、被験者がI型IFN療法の治療効果が高いまたはI型IFNに対する感受性を有すると予測することができる。
尚、I型IFNに対する感受性についての標準値は、別途I型IFNにより誘導される抗ウイルス遺伝子の発現をリアルタイム定量PCR法により解析することによって確認することができる。ここで、IFN-α誘導性の抗ウイルス遺伝子は多数公知であり、例としては、myxovirus resistance A (MxA, NM_002462) や2-prime, 5-prime oligoadenylate synthetase 1 (OAS1, NM_016816.2) などが挙げられる。
III. I型IFN作用増強剤のスクリーニング方法
本発明は、上記〔13〕または〔14〕に記載のI型IFN作用増強剤のスクリーニング方法を包含する。
被験物質がMAPKAPK3遺伝子の発現を抑制するか否かを測定する方法としては、特に限定は無く、上記IIに記載のMAPKAPK3遺伝子発現量の測定方法を用いればよい。
すなわち、(1-1)被験物質と、MAPKAPK3遺伝子を発現可能な細胞とを接触させ、次いで(1-2)被験物質を接触させた細胞における、MAPKAPK3遺伝子の発現量を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞におけるMAPKAPK3遺伝子の発現量と比較すればよい。
前記(1-1)において用いられるMAPKAPK3遺伝子としては、MAPKAPK3遺伝子を発現している細胞であれば特に限定は無く、使用する細胞の内在性のMAPKAPK3遺伝子、外来遺伝子として細胞に導入されたMAPKAPK3遺伝子のいずれでも良いが、使用する細胞の内在性のMAPKAPK3遺伝子が好ましい。外来遺伝子として導入する場合、MAPKAPK3遺伝子は用いられる細胞の由来動物種のMAPKAPK3遺伝子であることが好ましい。
具体的には、ヒト肝細胞由来細胞株Huh7およびHepG2等の細胞に、MAPKAPK3発現ベクターを導入されてなる形質転換細胞等が挙げられる。由来動物種としては、ラット、マウス、モルモット等のげっ歯類哺乳動物、イヌ、サル、ヒト等が挙げられる。
前記細胞としては、動物の組織や臓器から分離された細胞や、同一の機能・形態を持つ集団を形成している細胞(組織)等も含まれ、いかなる分化過程にある細胞であってもよい。
「対照細胞」とは(1-1)の工程で用いられるMAPKAPK3遺伝子を発現可能な細胞において、被験物質を接触させない場合の当該細胞を表す。「被験物質を接触させない場合」には、被験物質の代わりに被験物質と同量の溶媒(ブランク)を添加する場合や、本遺伝子の発現に影響を与えないネガティブコントロール物質を添加する場合も含まれる。
上記で用いられる「MAPKAPK3遺伝子を発現している細胞」の調製方法について以下に説明する。
まず、MAPKAPK3遺伝子を、通常の遺伝子工学的方法(例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法)に準じて取得する。次いで、MAPKAPK3遺伝子が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドを作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、さらに形質転換された宿主細胞(形質転換体)を培養することで得られる細胞を用いればよい。上記プラスミドとしては、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自立的に増殖できるものであって、宿主細胞からの単離・精製が容易であり、宿主細胞中で機能可能なプロモーターを有し、検出可能なマーカーをもつ発現ベクターに、本蛋白質をコードする遺伝子が導入されたものを好ましく挙げることができる。尚、発現ベクターとしては、各種のものが市販されている。例えば、大腸菌での発現に使用される発現ベクターは、lac、trp、tacなどのプロモーターを含む発現ベクターであって、これらはファルマシア社、宝酒造等から市販されている。当該発現ベクターに本蛋白質をコードする遺伝子を導入するために用いられる制限酵素も宝酒造等から市販されている。さらなる高発現を導くことが必要な場合には、MAPKAPK3遺伝子の上流にリボゾーム結合領域を連結してもよい。用いられるリボゾーム結合領域としては、Guarente L.ら(Cell 20, p543)や谷口ら(Genetics of Industrial Microorganisms, p202, 講談社)による報告に記載されたものを挙げることができる。
哺乳動物細胞での発現に使用されるベクターは、SV40ウイルスプロモーター、サイトメガロウィルスプロモーター(CMVプロモーター)、Raus Sarcoma Virusプロモーター(RSVプロモーター)、βアクチン遺伝子プロモーター、aP2遺伝子プロモーター等のプロモーターを含む発現ベクターであって、これらは、東洋紡社、宝酒造社等から市販されている。
宿主細胞としては、原核生物もしくは真核生物である微生物細胞、昆虫細胞または哺乳動物細胞等を挙げることができる。例えば、MAPKAPK3の大量調製が容易になるという観点では、大腸菌等を好ましく挙げることができる。
前記のようにして得られたプラスミドは、通常の遺伝子工学的方法により前記宿主細胞に導入することができる。
形質転換体の培養は、微生物培養、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞の培養に使用される通常の方法によって行うことができる。例えば大腸菌の場合、適当な炭素源、窒素源およびビタミン等の微量栄養物を適宜含む培地中で培養を行う。培養方法としては、固体培養、液体培養のいずれの方法でもよく、好ましくは、通気撹拌培養法等の液体培養を挙げることができる。
また、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死なないように、その培養条件(温度、pH、培地組成など)を大きく変化させない条件を採用することが好ましい。
MAPKAPK3遺伝子を発現可能な細胞と接触させる被験物質の濃度としては、特に限定は無く、通常約0.1μM〜約100μMであればよく、好ましくは1μM〜50μMであればよい。細胞と被験物質とを接触させる時間は、特に限定されるものでなく適時設定するものであるが、例えば5分間〜30分間程度あり、好ましくは10分間〜20分間程度である。被験物質は適宜、水、リン酸バッファーもしくはトリスバッファー等のバッファー、エタノール、アセトン、ジメチルスルホキシドもしくはこれらの混合物などの溶媒に溶解または懸濁して用いることができる。
被験物質を添加した細胞におけるMAPKAPK3遺伝子の発現が被験物質を添加しない対照細胞での発現量と比較して統計学的に有意に低下していれば該被験物質はMAPKAPK3遺伝子の発現抑制物質として選択することができる。好ましくは、1/2以下、1/5以下、更に好ましくは1/10以下であれば、該被験物質はMAPKAPK3遺伝子の発現抑制物質として選択することができる。
あるいは、MAPKAPK3のプロモーター領域の下流にルシフェラーゼ等のマーカーとなるタンパク質をコードする遺伝子を挿入したレポーターベクターを構築して、ルシフェラーゼ活性を指標としてMAPKAPK3プロモーターの転写活性を阻害または促進する化合物をスクリーニングすることも可能である。
すなわち、(1-1)被験物質と、MAPKAPK3遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞とを接触させ、(1-2)被験物質を接触させた細胞における、前記レポーター遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較することができる。
ここで「MAPKAPK3遺伝子の発現制御領域」とは、通常、当該染色体遺伝子の上流数kbから数十kbの範囲を指し、例えば、(i)5’-レース法(5'-RACE法)(例えば、5’full Race Core Kit(宝酒造社製)等を用いて実施されうる)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5’末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5’-上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;、を含む手法等により同定することが出来る。
MAPKAPK3遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子は、当業者に公知の方法で調製すればよい。すなわち、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons,Inc.等に記載される通常の遺伝子工学的手法に従って切り出された本遺伝子の発現調節領域を、レポーター遺伝子を含むプラスミド上に組み込むことができる。
レポーター遺伝子としては、グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼおよびグリーン蛍光タンパク質(GFP)等が挙げられる。
調製した本遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を、通常の遺伝子工学的手法を用いて、当該レポーター遺伝子を導入する細胞において使用可能なベクターに挿入し、プラスミドを作製し、適当な宿主細胞へ導入することができる。レポーター遺伝子に応じた選抜条件の培地で培養することにより、形質転換細胞を得ることができる。
また、レポーター遺伝子の発現量を測定する方法としては、個々のレポーター遺伝子に応じた方法を利用すればよい。例えば、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、前記形質転換細胞を数日間培養後、当該細胞の抽出物を得、次いで当該抽出物をルシフェリンおよびATPと反応させて化学発光させ、その発光強度を測定することによりプロモーター活性を検出することができる。この際、ピッカジーンデュアルキット(登録商標;東洋インキ製)等の市販のルシフェラーゼ反応検出キットを用いることができる。
被験物質を添加した細胞におけるレポーター遺伝子の発現が被験物質を添加しない対照細胞での発現量と比較して統計学的に有意に低下していれば該被験物質はMAPKAPK3遺伝子の発現抑制物質として選択することができる。好ましくは、1/2以下、1/5以下、更に好ましくは1/10以下であれば、該被験物質はMAPKAPK3遺伝子の発現抑制物質として選択することができる。
被験物質がMAPKAPK3(タンパク質)の発現を抑制するか否かを測定する方法としては、特に限定は無く、上記IIに記載のMAPKAPK3発現量の測定方法を用いればよい。
すなわち、(1-1)被験物質と、MAPKAPK3を発現可能な細胞とを接触させ、
次いで(1-2)被験物質を接触させた細胞における、MAPKAPK3の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞におけるMAPKAPK3の発現量と比較すればよい。ここで、「MAPKAPK3を発現可能な細胞」としては、前述の「MAPKAPK3遺伝子を発現可能な細胞」と同じものが挙げられる。
被験物質を添加した細胞におけるMAPKAPK3の発現が被験物質を添加しない対照細胞での発現量と比較して統計学的に有意に低下していれば該被験物質はMAPKAPK3遺伝子の発現抑制物質として選択することができる。好ましくは、1/2以下、1/5以下、更に好ましくは1/10以下であれば、該被験物質はMAPKAPK3の発現抑制物質として選択することができる。
被験物質がMAPKAPK3(蛋白質)の活性を抑制するか否かを測定する方法としては、特に限定は無いが、I型IFN刺激によりリン酸化されたMAPKAPK3がheat shock protein 25 (Hsp25) をリン酸化する活性 (文献:J Biol Chem. 2001; 276(30): 28570-7) を測定すればよい。
すなわち、(1-1)被験物質と、MAPKAPK3およびHsp25を含む溶液とを接触させ、次いで(1-2)被験物質を接触させた溶液における、MAPKAPK3のHsp25リン酸化活性を測定し、測定した活性値を被験物質に接触させない対照溶液におけるMAPKAPK3の活性値と比較すればよい。ここで、「MAPKAPK3およびHsp25を含む溶液」としては、単離精製されたMAPKAPK3およびHsp25を含む適当なバッファー溶液や前述の「MAPKAPK3を発現可能な細胞」を含む溶液を用いることができる。ここでHsp25は、前記細胞が元来発現しているHsp25を用いてもよいし、別途Hsp25を含む溶液を添加してもよいし、Hsp25を同時に発現できるように遺伝子導入された細胞を用いてもよい。これらの測定は、当業者に周知の方法で行うことができる。
MAPKAPK3は、一般の蛋白質の単離・精製に通常使用される方法を組み合わせて得ることができる。例えば、前記のMAPKAPK3を発現可能な細胞を培養することにより得られた形質転換体を遠心分離等で集め、該形質転換体を破砕または溶解せしめ、必要であれば蛋白質の可溶化を行い、イオン交換、疎水、ゲルろ過等の各種クロマトグラフィーを用いた工程を単独で、若しくは組み合わせることにより精製すればよい。精製された蛋白質の高次構造を復元する操作をさらに行ってもよい。また、例えば、前記の培養により得られた形質転換体を遠心分離などで除去し、培養上清から本蛋白質を前記と同様にして精製してもよい
被験物質を添加した溶液におけるMAPKAPK3の活性が被験物質を添加しない対照溶液での活性値と比較して統計学的に有意に低下していれば該被験物質はMAPKAPK3遺伝子の活性抑制物質として選択することができる。好ましくは、1/2以下、1/5以下、更に好ましくは1/10以下であれば、該被験物質はMAPKAPK3の活性抑制物質として選択することができる。
MAPKAPK3の活性を、IFN刺激により誘導される、GAS配列やISRE配列の制御下にある遺伝子の発現を指標として試験することもできる。GAS配列やISRE配列を含むプロモーターの下流に上記のようなレポーター遺伝子を連結して適当な宿主細胞に導入し、被験物質の存在下および非存在下で、該細胞にMAPKAPK3を接触させ、両条件下でのレポーター遺伝子産物の発現量を測定する。被験物質の存在下で、IFN刺激によるレポーター遺伝子の発現量が、被験物質を添加しない対照細胞での発現量と比較して統計学的に有意に低下していれば該被験物質はMAPKAPK3遺伝子の活性抑制物質として選択することができる。好ましくは、1/2以下、1/5以下、更に好ましくは1/10以下であれば、該被験物質はMAPKAPK3の活性抑制物質として選択することができる。
また、GAS配列やISRE配列の制御下にあるレポーター遺伝子に代えて、IFN刺激により誘導される抗ウイルス遺伝子、例えば、myxovirus resistance A (MxA, NM_002462) や2-prime, 5-prime oligoadenylate synthetase 1 (OAS1, NM_016816.2) などの発現量を、例えばRT-PCR法などを用いて測定することによっても、MAPKAPK3の活性抑制物質を選択することができる。
本発明のスクリーニング方法において用いられる被験物質に特に限定は無く、蛋白質、ペプチド、核酸、無機化合物、天然もしくは合成化学的に調製された有機化合物等が挙げられる。被験物質として、具体的には、アミノ酸3〜50残基、好ましくは5〜20残基のペプチドライブラリーや、当業者に公知のコンビナトリアルケミストリーの技術を用いて調製された分子量100〜2000、好ましくは200〜800の低分子有機化合物ライブラリーを挙げることができる。
本発明のスクリーニング方法で見出された物質には特に限定はなく、低分子有機化合物のみならず、抗体、アンチセンスRNA、またはsiRNA、mRNA等も含まれる。
IV. I型IFN作用増強剤
本明細書において、「I型IFN作用増強剤」とは、I型IFNの治療効果を促進する薬剤を表わす。
I型IFNの治療効果を促進するとは、I型IFNシグナルの活性亢進、I型IFN誘導遺伝子の発現亢進、I型IFNによって惹起される抗ウイルス作用の亢進、抗原提示細胞やT細胞などエフェクター細胞に対する活性亢進などを意味する。I型IFNシグナルとしては、具体的には、JAK/STAT (Janus-activated kinase/signal transducer and activator of transcription)経路もしくはRacI/p38経路のシグナル伝達が挙げられる。I型IFN誘導遺伝子としては、具体的には2-prime, 5-prime oligoadenylate synthetase 1 (OAS1)やmyxoviru resistance A (MxA)などが挙げられる。I型IFNによって惹起される抗ウイルス作用を促進するとは、I型IFNの抗ウイルス作用によりウイルス量が減少または完全に排除されることが挙げられる。抗原提示細胞に対するI型IFNの作用としては、抗原提示作用活性化および補助刺激分子などの発現向上など、T細胞への作用としては細胞障害活性の亢進などが挙げられる。
本発明のスクリーニング方法で見出される化合物は、I型IFN作用増強剤として、HCV、HBV (hepatitis B virus)等のウイルスによる感染、ウイルス感染が原因と考えられる亜急性硬化性全脳炎、HTLV-I (human adult T cell leukemia virus-I)脊髄症等、肝硬変からの肝癌移行の治療もしくは予防のために用いることができる。また、腎癌、多発性骨髄腫、白血病などの治療もしくは予防に対しても有効性が期待される。
また、MAPKAPK3の発現を抑制する他の物質として、MAPKAPK3に対するアンチセンス核酸、siRNA(shRNA)、リボザイムなどが挙げられ、MAPKAPK3の活性を抑制する他の物質として、MAPKAPK3に対する中和抗体、MAPKAPK3の基質アナログなどが挙げられる。MAPKAPK3に対するアンチセンス核酸、siRNA(shRNA)、リボザイムなどは、上述のMAPKAPK3遺伝子の塩基配列に基づいて、公知の設計ソフトを用いて適宜設計し、DNA/RNA自動合成機を用いて容易に合成することができる。また、MAPKAPK3に対する中和抗体は、上記スクリーニング法に使用される抗MAPKAPK3抗体と同様の方法により作製し、その中和活性(例えば、Hsp25リン酸化阻害)を確認することにより選択することができる。ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体は、自体公知の手法により取得することができる。また、MAPKAPK3の基質アナログは、MAPKAPK3の基質タンパク質、例えばHsp25のリン酸化部位とその近傍のアミノ酸配列を含むオリゴペプチドを化学合成することにより得ることができる。
これらを医薬品として用いるにあたり、そのままもしくは公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、希釈剤、増量剤、結合剤、滑沢剤、流動助剤、崩壊剤、界面活性剤等などが含まれる)や慣用の添加剤などと混合して医薬組成物として調製することができる。当該医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、懸濁液などの経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの非経口投与剤)等に応じて、全身的にまたは局所的に、経口投与または非経口投与することができる。非経口投与する場合には、静脈投与、皮内投与、皮下投与、直腸投与、経皮投与すること等が可能である。
前記の適当な投与剤型は許容される通常の担体、賦型剤、結合剤、安定剤、希釈剤等に有効成分(本発明スクリーニング方法により選抜される物質またはその薬学的に許容される塩等)を配合することにより製造することができる。また注射剤型で用いる場合には、許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を添加することもできる。
また投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象または患者の年齢、体重、症状などによって異なり一概に規定できないが、通常、経口の場合には成人で1日あたり有効成分量として、数mg〜2g程度、好ましくは5mg〜数十mg程度を、1日1〜数回にわけて投与することができる。注射の場合には成人で有効成分量として約0.1mg〜約500mgを投与すればよく、1日の投与量を1回または数回に分けて投与することができる。
本発明はまた、上記IIの予測方法によりI型IFNによる治療に対する感受性が低いと判断された患者に対して投与される、上記IVのI型IFN作用増強剤、該薬剤とI型IFNとを組み合わせてなる併用剤を提供する。該併用剤において用いられるI型IFNの剤形、投与経路および投与量などは、それを適用する患者が罹患する疾患において通常使用されるものであればよい。本発明のI型IFN作用増強剤とI型IFNとは、合剤として、別個に同時に、もしくは経時的に投与されてよい。
さらに、本発明は、上記IIの予測方法によりI型IFNによる治療に対する感受性が高いと判断された患者に対して投与される、I型IFNを有効成分として含有する医薬を提供する。該医薬において用いられるI型IFNの剤形、投与経路および投与量などは、それを適用する患者が罹患する疾患において通常使用されるものであればよい。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔タグSNPの選定〕
I型IFNシグナル伝達に関与する遺伝子として、表1に示すIFNAR1、IFNAR2、JAK1、tyrosine kinase 2、STAT1、STAT2、IFN regulatory factor 9、ras-related C3 botulinum toxin substrate 1、MAPKK3、MAPKK6、p38 MAP kinase、MAPKAPK2およびMAPKAPK3の13遺伝子から合計116のタグSNPを選定した。タグSNPの選定はHapMapデーターベース (http://www.hapmap.org/index.html.ja) に登録されている日本人集団で頻度5%以上のSNPを各遺伝子領域から抽出した後、Haploviewプログラム (http://www.broad.mit.edu/mpg/haploview) を用いて行った。Haploviewプログラムでは、SNP間の関連性の強さを示す尺度として統計量r2>0.8を用いて連鎖不平衡領域を計算した。連鎖不平衡領域の範囲は、各遺伝子について転写開始点の約2000bp上流から終止コドンの約1500bp下流までを含むように決定した。表1に示すとおり、各遺伝子の連鎖不平衡領域の数はIFNAR1は3、IFNAR2は6、JAK1は8、Tyrosine kinase 2は3、STAT1は23、STAT2は1、IFN regulatory factor 9は5、ras-related C3 botulinum toxin substrate 1は7、MAPKK3は5、MAPKK6は35、p38 MAP kinaseは10、MAPKAPK2は6およびMAPKAPK3は4であり、各連鎖不平衡領域からタグSNPとして1 SNPを選定した。以下に表中の略号を示す。
IFNAR:type I IFN receptor;
JAK:Janus-activated kinase;
STAT:signal transducer and activator of transcription;
MAP:mitogen-activated protein;
MAPKK:MAP kinase kinases;
MAPKAPK:MAP kinase-activated protein kinase
Figure 2010124801
Figure 2010124801
Figure 2010124801
〔慢性肝炎C型肝炎患者における116タグSNPの遺伝子型の判定〕
広島大学病院、広島大学医学部関連病院、および虎ノ門病院において慢性C型肝炎に対するIFN療法を完了し、かつ本研究への参加の同意を得た患者1055名からゲノムDNAを調製して、上記実施例1で選定した116タグSNPの遺伝子型の判定を行った。タグSNPの遺伝子型の判定はInvader assay法 (J Hum Genet 2001;46:471-477) またはTaqman法 (Nat Genet 2003;34:395-402) を用い、方法は各引用文献の方法に従った。各患者の年齢、性別、感染したHCV遺伝子型、治療前血中ウイルス量、肝線維化に関する患者背景、すなわち著効群と非著効群を比較した結果を表2に示した。
Figure 2010124801
各患者は1日1回600万単位IFNを8週間連続で筋肉内投与後、1週間に2回600万単位IFNを16週間投与するIFN治療を完了した。治療効果の予測は、投与完了6ヶ月後の血中HCV RNA量の陰性化を指標として著効または非著効とした。HCV感染全患者について治療著効群と非著効群の2群間で各タグSNPの対立遺伝子頻度および遺伝子型頻度を解析した。また、IFN療法の治療効果が特に低いことが報告されているHCV遺伝子型1bに感染した患者については、HCV遺伝子型1b感染患者に層別化したサブグループのみでの解析も同様に行った。結果については実施例3-4(表3-6)に後述する。
〔IFN治療効果と関連するMAPKAPK3遺伝子上のタグSNP rs616589およびrs3792323の同定〕
HCV遺伝子型1b感染患者において、治療著効群と非著効群の2群間で有意な差があるタグSNPを2ヶ所同定した。同定したタグSNPはMAPKAPK3の第2イントロンに位置するSNP rs616589 (G/A) およびrs3792323 (A/T)であり、残りの114タグSNPについては有意な差は認められなかった。さらにMAPKAPK3のSNP rs616589およびrs3792323と連鎖不平衡となる14ヶ所のSNPについても同様に解析した結果、IFN療法の治療効果と関連することを同定した。なお、rs616589のNCBIでの登録alleleはC/Tであり〔1〕に記載したが、以後の実施例ではMAPKAPK3のセンス鎖に対応させてG/Aと記載する。rs3792323はNCBIでの登録alleleとMAPKAPK3のセンス鎖が一致しているため、そのまま記載する。
表3では同定したタグSNP rs616589の対立遺伝子頻度について解析した結果を示す。すなわち、HCV感染全患者およびHCV遺伝子型1b感染患者サブグループにおいて、治療効果 (著効/非著効) とSNP対立遺伝子 (G/A) の2×2分割表を作成して、P値 (カイ2乗検定による片側P値)、オッズ比および95%信頼区間を計算した。
Figure 2010124801
その結果、HCV全遺伝子型感染患者において、A対立遺伝子の頻度は著効群32.0%に対し非著効群36.4%、G対立遺伝子の頻度は著効群68.0%に対し非著効群63.6%であり、2群間で有意な差が認められた (P値0.034、オッズ比1.21、95%信頼区間1.02-1.46)。
更に、HCV遺伝子型1b感染患者において、A対立遺伝子の頻度は著効群26.4%に対し非著効群37.8%、G対立遺伝子の頻度は著効群73.6%に対し非著効群62.2%であり、2群間で有意な差が認められた (P値0.000056、オッズ比1.69、95%信頼区間1.31-2.19)。
同様に表4では同定したタグSNP rs3792323 (A/T)の対立遺伝子頻度について解析した結果を示す。
Figure 2010124801
その結果、HCV全遺伝子型感染患者において、T対立遺伝子の頻度は著効群28.2%に対し非著効群31.6%、A対立遺伝子の頻度は著効群71.8%に対し非著効群68.4%であった。
更に、HCV遺伝子型1b感染患者において、T対立遺伝子の頻度は著効群22.4%に対し非著効群33.4%、A対立遺伝子の頻度は著効群77.6%に対し非著効群66.6%であり、2群間で有意な差が認められた (P値0.000052、オッズ比1.74、95%信頼区間1.33-2.28)。
多重検定の補正のために、統計学的に最も厳しい有意水準の補正手法であるBonferroni法を適用した結果、同定されたタグSNP rs616589およびrs3792323はHCV遺伝子型1b感染患者において有意と判定された (P値×解析したタグSNP数116 = 補正後P値<0.05)。
表5では、同定したタグSNP rs616589 (G/A) の遺伝子型頻度について、著効群および非著効群間での関連を解析した結果を示す。尚、A対立遺伝子優性遺伝モデルでは、A対立遺伝子の形質がG対立遺伝子の形質より優性と仮定して、GAヘテロ接合型患者の表現型はA対立遺伝子の形質と分類した。治療効果 (著効/非著効) と遺伝子型 (GG/GA+AA) の2×2分割表を作成して、P値 (カイ2乗検定による片側P値)、オッズ比および95%信頼区間を計算した。A対立遺伝子劣性遺伝モデルでは、A対立遺伝子の形質がG対立遺伝子の形質より劣性と仮定して、GAヘテロ接合型患者の表現型はG対立遺伝子の形質と分類した。治療効果 (著効/非著効) と遺伝子型 (GG+GA/ AA) の2×2分割表を作成して同様に解析した。
Figure 2010124801
HCV全遺伝子型感染患者において、AAホモ接合型の頻度は著効群10.1%に対して非著効群13.2%であり、GG接合型の頻度は著効群46.0%に対して非著効群40.3%であった。
また、HCV遺伝子型1b感染患者において、AAホモ接合型の頻度は著効群6.3%に対して非著効群13.7%であり、GG接合型の頻度は著効群53.4%に対して非著効群38.0%であった。A対立遺伝子優性遺伝モデルでは、A対立遺伝子の形質がG対立遺伝子の形質より優性と仮定して、GAヘテロ接合型患者の表現型はA対立遺伝子の形質と分類した。治療効果 (著効/非著効) と遺伝子型 (GG/GA+AA) の2×2分割表を作成して、P値 (カイ2乗検定による片側P値)、オッズ比および95%信頼区間を計算した。その結果、P値0.00023であった。また、A対立遺伝子劣性遺伝モデルでは、A対立遺伝子の形質がG対立遺伝子の形質より劣性と仮定して、GAヘテロ接合型患者の表現型はG対立遺伝子の形質と分類した。治療効果 (著効/非著効) と遺伝子型 (GG+GA/ AA) の2×2分割表を作成して同様に解析した結果、P値0.0055であった。多重検定の補正のために最も厳しい有意水準の補正手法であるBonferroni法を適用した結果、A対立遺伝子優性遺伝モデルにて有意と判定された。
以上の結果から、A対立遺伝子をホモ接合型またはヘテロ接合型にもつ場合に、I型IFNによる治療に対する感受性が低いと予測できることがわかった。
同様に表6では、同定したタグSNP rs3792323 (A/T) の遺伝子型頻度について、著効群および非著効群間での関連を解析した結果を示す。
Figure 2010124801
HCV全遺伝子型感染患者において、TTホモ接合型の頻度は著効群8.1%に対して非著効群9.9%であり、AA接合型の頻度は著効群51.8%に対して非著効群46.8%であった。
また、HCV遺伝子型1b感染患者において、TTホモ接合型の頻度は著効群4.3%に対して非著効群10.7%であり、AA接合型の頻度は著効群59.6%に対して非著効群43.8%であった。T対立遺伝子優性遺伝モデルでは、T対立遺伝子の形質がA対立遺伝子の形質より優性と仮定して、ATヘテロ接合型患者の表現型はT対立遺伝子の形質と分類した。治療効果 (著効/非著効) と遺伝子型 (AA/AT+TT) の2×2分割表を作成して、P値 (カイ2乗検定による片側P値)、オッズ比および95%信頼区間を計算した。その結果、P値0.00019であった。また、T対立遺伝子劣性遺伝モデルでは、A対立遺伝子の形質がG対立遺伝子の形質より劣性と仮定して、ATヘテロ接合型患者の表現型はA対立遺伝子の形質と分類した。治療効果 (著効/非著効) と遺伝子型 (AA+AT/ TT) の2×2分割表を作成して同様に解析した結果、P値0.0074であった。多重検定の補正のために最も厳しい有意水準の補正手法であるBonferroni法を適用した結果、T対立遺伝子優性遺伝モデルにて有意と判定された。
以上の結果から、T対立遺伝子をホモ接合型またはヘテロ接合型にもつ場合に、I型IFNによる治療に対する感受性が低いと予測できることがわかった。
〔IFN療法の治療効果に独立して寄与する因子の多変量解析を用いた検討〕
慢性C型肝炎のIFN療法の治療効果に寄与する因子として、HCV遺伝子型、治療前血中HCV RNA量、患者年齢、性別および肝線維化などが報告されている。同定したSNP rs616589およびrs3792323がそれぞれ独立して治療効果へ寄与する可能性を検討するため、HCV全遺伝子型感染患者および遺伝子型1b感染患者を対象とした多変量Logistic回帰解析を変数漸増法 (stepwise forward selection method)を用いて行った。
HCV全遺伝子型の感染患者における結果を表7に示す。説明変数には、rs616589 (G vs A)、rs3792323 (A vs T)、治療前血中HCV RNA量 (低vs高)、HCV遺伝子型 (non-1b vs 1b)、患者年齢 (1歳ずつ加齢)、性別 (男性vs女性) および肝線維化段階 (F0-1 vs F2-4)を用いた。変数漸増法は有意水準P<0.05で行い、解析ソフトにはStatFlex 5.0 software package (Artec社)を用いた。
Figure 2010124801
その結果、タグSNP rs616589は独立してIFN療法の治療効果に有意に寄与する因子であり、タグSNP rs616589のG対立遺伝子をもつ場合はA対立遺伝子をもつ場合と比較して治療著効となる可能性が1.64倍高いことが示された (P値0.036、95%信頼区間1.03-2.60)。一方、タグSNP rs3792323は独立して寄与する有意な因子として選択されなかった。この結果より、SNP rs616589およびrs3792323はそれぞれ独立してIFN療法の治療効果に寄与する因子ではなく、どちらか一方のSNPにより多型を代表できることが示された。HapMapデータベースの日本人集団ではSNP rs616589とrs3792323の連鎖不平衡尺度はr2=0.79であり、r2>0.8を指標とすると異なるタグSNPとして選択された。しかし、本研究で解析したより多数の日本人集団1055名のSNP遺伝子型頻度より計算すると、これら2 SNPはr2=0.82であり異なるタグSNPとは選択されず、同じ連鎖不平衡領域に位置するSNPであった。
以上の結果から、HCV全遺伝子型の感染患者におけるI型IFNによる治療に対する感受性は、加齢により低くなり、男性は女性より高く、HCV 遺伝子型非1b感染患者では1b感染患者より感受性が高く、HCV RNA量が低い程感受性が高くなることが分かった。また、当該SNPと治療効果との関連が確認され、当該SNPが独立因子として、I型IFNによる治療に対する感受性と関連していることが確認され、タグSNP rs616589ではG対立遺伝子を有する患者の感受性が高いことがわかった。
同様に、HCV遺伝子型1b感染患者における結果を表8に示す。説明変数には、rs616589 (G vs A)、rs3792323 (A vs T)、治療前血中HCV RNA量 (低vs高)、患者年齢 (1歳ずつ加齢)、性別 (男性vs女性) および肝線維化段階 (F0-1 vs F2-4)を用いた。変数漸増法は有意水準P<0.05で行い、解析ソフトにはStatFlex 5.0 software package (Artec社)を用いた。
Figure 2010124801
その結果、タグSNP rs3792323は独立してIFN療法の治療効果に寄与する因子であり、タグSNP rs3792323のA対立遺伝子をもつ場合はT対立遺伝子をもつ場合と比較して治療著効となる可能性が3.41倍高いことが示された (P値0.0011、95%信頼区間1.63-7.12)。一方、タグSNP rs616589は独立して寄与する有意な因子として選択されなかった。この結果はHCV全遺伝子型感染患者の結果と同様に、SNP rs616589およびrs3792323はそれぞれ独立してIFN療法の治療効果に寄与する因子ではなく、どちらか一方のSNPにより多型を代表できることを示す。
以上の結果から、HCV遺伝子型1bの感染患者におけるI型IFNによる治療に対する感受性は、加齢により低くなり、肝線維化の進行が進んでいないほど感受性が高く、かつHCV RNA量が低い程感受性が高いことがわかる。また、当該SNPと治療効果との関連が確認され、当該SNPが独立因子として、I型IFNによる治療に対する感受性と関連していることが確認され、HCV遺伝子型1b感染患者ではタグSNPrs3792323のA対立遺伝子を有する患者の感受性が高いことがわかった。
患者臨床背景には偏りがあるため、その偏りを補正するために多変量Logistic回帰解析を変数強制投入法を用いて行い、同定したSNP rs616589およびrs3792323のそれぞれがIFN療法の治療効果に寄与する程度を解析した。表9では、HCV全遺伝子型感染患者におけるrs3792323の寄与する程度を示す。説明変数にはrs3792323 (A vs T)、治療前血中HCV RNA量 (低vs高)、HCV遺伝子型 (non-1b vi 1b)、患者年齢 (1歳ずつ加齢)、性別 (男性vs女性) および肝線維化段階 (F0-1 vs F2-4)を用いた。
Figure 2010124801
その結果、1歳加齢するごとに0.98倍、男性は女性より1.56倍、HCV遺伝子型non-1b感染患者は1b感染患者より3.83倍、HCV RNA量が低い患者は高い患者より6.02倍著効となる可能性が高いことが示された。一方、rs3792323のA対立遺伝子をもつ場合はT対立遺伝子をもつ場合と比較して1.54倍、繊維化段階F0-1の患者はF2-4の患者より1.08倍と示され治療効果に寄与する傾向は認められたが、P=0.05の有意水準では有意と判定されなかった。
同様に表10では、HCV全遺伝子型感染患者において、多変量Logistic回帰解析変数強制投入法により患者背景因子の偏りを補正した場合の、rs616589のIFN治療効果に寄与する程度を示す。
Figure 2010124801
その結果、1歳加齢するごとに0.98倍、男性は女性より1.56倍、HCV遺伝子型non-1b感染患者は1b感染患者より3.91倍、HCV RNA量が低い患者は高い患者より5.98倍著効となる可能性が高いことが示された。一方、rs616589のG対立遺伝子をもつ場合はA対立遺伝子をもつ場合と比較して1.60倍、繊維化段階F0-1の患者はF2-4の患者より1.10倍と示され治療効果に寄与する傾向は認められたが、P=0.05の有意水準では有意と判定されなかった。
表11では、HCV遺伝子型1b感染患者において、多変量Logistic回帰解析変数強制投入法により患者背景因子の偏りを補正した場合の、rs3792323のIFN治療効果に寄与する程度を示す。説明変数には、rs3792323 (A vs T)、治療前血中HCV RNA量 (低vs高)、患者年齢 (1歳ずつ加齢)、性別 (男性vs女性) および肝線維化段階 (F0-1 vs F2-4)を用いた。
Figure 2010124801
その結果、rs3792323のA対立遺伝子をもつ場合はT対立遺伝子をもつ場合と比較して治療著効となる可能性が3.33倍であることが示された(P値0.0014、95%信頼区間1.59-6.96)。rs3792323のT対立遺伝子は非著効となるリスク因子と示された。他の説明変数について著効となる可能性は、1歳加齢するごとに0.97倍、繊維化段階F0-1の患者はF2-4の患者より1.64倍と示され、SNP rs3792323より小さな寄与であった。性別は有意と示されなかった。また、ウイルス側因子であるHCV RNA量は、ウイルス量が低い患者は高い患者より8.14倍著効となる可能性が高かった。
同様に表12では、HCV遺伝子型1b感染患者において、多変量Logistic回帰解析変数強制投入法により患者背景因子を補正した場合の、rs616589のIFN療法の治療効果に寄与する程度を示す。説明変数には、rs616589 (G vs A)と上述のHCV RNA量、年齢、性別および肝線維化段階を用いた。
Figure 2010124801
その結果、rs616589のG対立遺伝子をもつ場合はA対立遺伝子をもつ場合と比較して治療著効となる可能性が3.20倍であることが示された(P値0.0012、95%信頼区間1.58-6.50)。rs616589のA対立遺伝子は非著効となるリスク因子と示された。他の説明変数について著効となる可能性は、1歳加齢するごとに0.97倍、繊維化段階F0-1の患者はF2-4の患者より1.68倍と示され、SNP rs3792323より小さな寄与であった。性別は有意と示されなかった。一方、ウイルス側因子であるHCV RNA量は、ウイルス量が低い患者は高い患者より8.27倍著効となる可能性が高かった。
以上の結果より、MAPKAPK3遺伝子の第2イントロンに位置するSNP rs616589 (G/A) およびrs3792323 (A/T) は慢性C型肝炎のIFN療法の治療効果に関連し、これらSNPの遺伝子型判定によりIFN療法の治療効果の予測が可能であることが示された。また、これら2 SNPは非常に強い連鎖不平衡となるため、どちらか一方で多型を代表可能であることが示された。
〔MAPKAPK3 コーディング領域中のアミノ酸置換となるSNPの探索〕
MAPKAPK3のアミノ酸配列が変化することにより、IFN療法の治療効果が影響される可能性を検討するため、患者48名分のゲノムDNAを用いてMAPKAPK3の全コーディング領域におけるSNPの存在の有無を解析した。各患者のゲノムDNAを鋳型としてMAPKAPK3の全コーディング領域をPCR法により増幅後、飯田ら (J Hum Genet 2001;46:668-683) および尾崎ら (Nat Genet 2002;32:650-654.) が報告したPCR産物ダイレクトシークエンス法を用いてSNPの有無を確認した。その結果、解析した患者48名のゲノムDNAにおいてMAPKAPK3の全コーディング領域にはアミノ酸置換となるSNPや遺伝的多型は存在せず、集団内に1/96以上の頻度で出現するSNPは存在しないことを確認した。以上の結果より、MAPKAPK3は発現量を介してIFN療法の治療効果に影響する可能性が高いと考えられた。
〔ASTQ法 (allele specific transcript quantification) によるSNP対立遺伝子特異的MAPKAPK3発現量の解析〕
実施例3および4よりrs616589およびrs3792323はどちらか一方のSNPにより多型を代表できることが示された。そのため、より低いP値を示すSNP rs3792323 (A/T) の対立遺伝子の違いによって、MAPKAPK3の発現が異なる可能性をASTQ法により検討した。ASTQ法とは、着目するSNPの対立遺伝子についてヘテロ遺伝子型由来のmRNAに含まれる各対立遺伝子特異的な転写産物を定量する方法であり、大沢 (J Hum Genet 2007;52:143-151) らおよび神山ら (Hum Genet 2007;122:397-407) の方法に従って行った。同定したタグSNPはイントロンにあるため、mRNAとして定量する際にはイントロン配列はスプライシングにより削除されるため検出できない。そのため、同定したSNPと連鎖不平衡にあり、mRNA上で検出できるSNPをHapMapデータおよびHaploviewプログラムを用いて検索した結果、MAPKAPK3の3’非翻訳領域中のSNP rs 1385025 (A/G) がマーカーSNPとして利用可能であった。従ってASTQ法には、タグSNP: rs3792323 (A/T) およびマーカーSNP:rs1385025 (A/G) が両方ともヘテロ接合型の患者5名の肝生検サンプルを用いた。これら5名の患者では、タグSNP:rs3792323のA対立遺伝子はマーカーSNPのA対立遺伝子と同一の染色体上 (ハプロタイプ1) にあり、タグSNP:rs3792323のT対立遺伝子はマーカーSNPのG対立遺伝子と同一の染色体上 (ハプロタイプ2) にあることが理論的に特定される。ハプロタイプとは、連鎖するSNPの対立遺伝子の組み合わせとして定義される。
上記5名の肝生検サンプルから精製したRNAを鋳型としてSuperScript III Platimun Two-Step qRT-PCR kit (Invitrogen社) を用いてfirst strand cDNAを合成した。このcDNAを鋳型としてマーカーSNP rs 1385025 (A/G)を含む領域をforwardプライマー 5’-CCTGTGAATGCTGAGTGAGCGAGTA-3’(配列番号19)およびreverseプライマー 5’-AGTCACCCTTTGGGTCGGGAATAGT-3’(配列番号20)を用いてPCR法にて増幅後、マーカーSNPの各対立遺伝子に特異的なインベーダープローブ (Third Wave Technologies社) を用いてA対立遺伝子特異的およびG対立遺伝子特異的MAPKAPK3を定量した。陰性コントロールとして、患者5名の血液から精製したゲノムDNAを鋳型としたPCR産物を用いた。患者5名はマーカーSNPのヘテロ遺伝子型であるため、各対立遺伝子特異的なMAPKAPK3のPCR産物量は等しくなる。ASTQ法の反応には、1×signal buffer、1×FRET Mix (FRET22/FTRE7)、30 ng cleavase(R) enzyme、0.3 μl probe mixture (全試薬Third Wave Technologies社) および2 ng PCR産物を含むtotal 5ulの反応液を調製し、反応条件は95oC 5分- (63oC 1 分)×40サイクルで行い、検出にはM×3000P Multiplex Quantitative PCR system (Stratagene社) を用いた。
ASTQ法の結果を図1に示した。図1Aの縦軸は各対立遺伝子特異的MAPKAPK3発現量を示す。図1Bは、MAPKAPK3発現比を肝生検由来cDNAと陰性コントロールゲノムDNAについて比較した結果を示し、縦軸はMAPKAPK3発現比を示す。各患者は、患者1 (●)、患者2 (○)、患者3 (▲)、患者4 (△)および患者5 (□) により示す。ここで、統計学的有意性は、paired t test (A) および unpaired t test (B) により検定した。各患者について3サンプルずつ解析 (triplicate) して、実験は3回繰り返し行った。データは平均値±標準偏差で示す。
図1Aは、マーカーSNP rs 1385025 (A/G) について、A対立遺伝子特異的MAPKAPK3およびG対立遺伝子特異的MAPKAPK3の発現量を解析した結果であり、患者肝生検サンプルではG対立遺伝子特異的MAPKAPK3の発現量が有意に高いことが示された (P値0.006)。一方、陰性コントロールのゲノムDNAでは有意な差は認められなかった。マーカーSNPのG対立遺伝子はタグSNP rs3792323のT対立遺伝子と連鎖不平衡であり、これら2対立遺伝子を含むハプロタイプ2では、他方のハプロタイプ1よりもMAPKAPK3の発現が有意に高いことが示された。
また図1Bでは、MAPKAPK3発現比について示した。陰性コントロールのゲノムDNAではMAPKAPK3発現比は1:1であるが、肝生検サンプルcDNAでは発現比が1より有意に大きいことが示された (P値0.035)。以上の結果より、ハプロタイプ2においてMAPKAPK3の転写活性が高いことが示された。ハプロタイプ2はタグSNP rs3792323のT対立遺伝子を含み、T対立遺伝子は非著効群に高頻度であり非著効となるリスク因子であることが示されているため (実施例3および実施例4)、非著効患者の肝臓ではMAPKAPK3が高発現するために、IFN療法の治療効果が低くなると考えられた。
〔MAPKAPK3高発現によるIFN-αシグナル伝達への影響の検討〕
MAPKAPK3の高発現がIFN-αのシグナル伝達に与える影響を解析するため、IFN-α刺激によるISRE配列 (IFN-stimulated response element) およびGAS配列 (IFN-γ activated site) からのluciferase遺伝子の転写誘導を指標としたレポータージーンアッセイを行った。ISRE配列およびGAS配列は、IFN-αによって誘導される多数の抗ウイルス作用を示す遺伝子のプロモーター領域に存在し、IFN-αによる抗ウイルス作用の誘導に重要であることが公知である。ヒト肝癌由来細胞株Huh7細胞に10 ngのfirefly luciferase vector pISRE-TA-Luc (A) またはpGAS-TA-Luc (B) と1 ng renilla luciferase vector pRL-TKを導入し、同時に40 ngのMAPKAPK3発現ベクター、陰性コントロールとしてmockベクターまたは陽性コントロールとしてSOCS1 (suppressor of cytokine signaling 1) 発現ベクターを導入した。すなわち、ヒト肝癌由来細胞株Huh7細胞を7×103 cells/wellで96 well plateに播種した24時間後、FuGENE 6 transfection reagent (Roche Applied Science社) を用いて10 ngのISRE配列またはGAS配列を含むfirefly luciferase vector (pISRE-TA-LucまたはpGAS-TA-Luc、BD biosciences社) と1 ng renilla luciferase vector (pRL-TK、 Promega社) を導入し、同時に40 ngのMAPKAPK3発現ベクター (pDEST51/MAPKAPK3)、mockベクター (pDEST51/mock) またはSOCS1 (suppressor of cytokine signaling 1) 発現ベクター (pDEST51/ SOCS1) を導入した。遺伝子導入の24時間後にIFN-αを添加して、さらに24時間培養後にDual-Luciferase Assay kit (Promega社) を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。firefly luciferase 活性は、renilla luciferase活性によって導入効率の補正を行い、luciferase相対活性として示した。統計学的検定は、Kruskal-Wallis testにより多群間の有意性を確認した後に、Scheffe’s testにより2群間の有意性を検定した。各群3サンプルずつ解析 (triplicate) して、実験は3回繰り返し行った。
結果を図2に示す。縦軸にルシフェラーゼ相対活性として示した。データは平均値±標準偏差で示した。図中*は各IFN-α濃度での陰性コントロールと比較したP値が0.05未満であることを示す。ISRE配列およびGAS配列からのルシフェラーゼの転写誘導は、陽性コントロールとしてIFN-αシグナル伝達を抑制するSOCS1発現ベクターを一過性に高発現させた場合、陰性コントロールのmockベクターと比較して有意に抑制された。同様に、MAPKAPK3を一過性に過剰発現させた場合も、陰性コントロールのmockベクターと比較して、ISRE配列およびGAS配列からのルシフェラーゼの転写誘導が有意に抑制された。この結果より、MAPKAPK3の高発現によりIFN-αシグナルが抑制されることが示された。
〔MAPKAPK3高発現によるIFN-αの抗HCV作用への影響の検討〕
IFN-αの抗HCV作用に対するMAPKAPK3の影響を検討するため、HCV RNAが自律複製するHCVレプリコン細胞 (J Virol 2001;75:8516-8523.) にMAPKAPK3を一過性に高発現させ、IFN-αで24間刺激後のHCV RNA量およびIFN-αにより誘導される抗ウイルス遺伝子の発現をリアルタイム定量PCR法により解析した。
HCVレプリコン細胞を12 well plateに13×104 cells/wellで播種した24時間後に、Lipofectamine LTX (Invitrogen社) を用いて300 ng のGFP発現ベクター (pDEST51/GFP) を導入し、同時に700 ngのMAPKAPK3発現ベクター (pDEST51/ MAPKAPK3) またはコントロール用mockベクター (pDEST51/mock) を導入した。遺伝子導入の24時間後に回収して、FACS Vantageフローサイトメトリー (Becton Dickinson社) を用いてGFP陽性細胞のみを分取して、96 well plateに3×104 cells/wellで再播種した。24時間培養後にIFN-αを添加し、さらに24時間培養後に細胞を回収して、RNeasy Micro kit (Qiagen社) を用いてRNAを精製し、RNase-Free DNase I (Qiagen社) を用いてDNAのコンタミを除去後、SuperScript III Platimun Two-Step qRT-PCR kit (Invitrogen社) を用いてfirst strand cDNAを合成した。
IFN-α誘導性の抗ウイルス遺伝子2-prime, 5-prime oligoadenylate synthetase 1 (OAS1) のリアルタイム定量PCRにはTaqman probe法を用いた。PCR反応には、1×Ex Taq buffer (Takara社)、0.5 U Takara Ex Taq HS (Takara社)、200 μM dNTPs、0.25 μl Taqman probe (Applied Biosystems社)、50 nM ROX reference dye (Invitrogen社)、および 4 μl first strand cDNAを含む20 μlの反応液を調製した。PCR反応条件は95℃1分、 (95℃15秒, 60℃1分)×50サイクルで行った。OAS1用Taqmqn probeにはAssay ID Hs00242943_m1 (Applied Biosystems社) を用いた。IFN-α誘導性の抗ウイルス遺伝子myxovirus resistance A (MxA) およびHCV RNAのリアルタイム定量PCRにはSYBR Green法を用いた。PCR反応には、1×Platinum SYBR Green qPCR SuperMix-UDG (Invitrogen社)、200 nM each primer、50 nM ROX reference dye (Invitrogen社)、および 5 μl first strand cDNAを含む20 μlの反応液を調製した。PCR反応条件は50℃2分、95℃2分、(95℃15秒, 60℃30秒)×50サイクルで行った。用いたプライマーは、MxA遺伝子にはforwardプライマー5’-CCAGGTATACAGGGGTGCATT-3’(配列番号21;Genbank Acc No.:NM_002462, position_1950-1970)およびreverseプライマー5’-CGTCTGGAGCATGAAGAACTG-3’(配列番号22;Genbank Acc No.:NM_002462, position_2146-2166)、HCV RNAにはforwardプライマー5’-CCGCTCAATGCCTGGAGAT-3’(配列番号23;Genbank Acc No.:S62220, position_207-225)およびreverseプライマー5’-CTTTCGCGACCCAACACTACTC-3’(配列番号24;Genbank Acc No.:S62220, position_255-276)を用いた。内部標準遺伝子としてglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH) にはforwardプライマー5’-CCACATGGCCTCCAAGGA-3’(配列番号25;Genbank Acc. No.:NM_002046, position_1089-1106)およびreverseプライマー5’-CCCAGCAGTGAGGGTCTCTCT-3’(配列番号26;Genbank Acc. No.:NM_002046, position_1152-1172)を用いて、各標的遺伝子の相対発現量を算出した。標準曲線の作成には、各標的配列が挿入されたベクターの段階希釈系列を用いた。リアルタイム定量PCR法の反応および検出はMx3000P Multiplex Quantitative PCR system (Stratagene社) を用いた。
IFN-α刺激24時間後のOAS1遺伝子発現量(A)、MxA遺伝子発現量(B)、およびHCV RNA量(C)を定量PCR法にて解析した。各遺伝子発現量として内部標準遺伝子により補正した相対値を算出した。各群3サンプルずつ解析(triplicate)して、実験は3回繰り返し行った。データは平均値±標準偏差で示す。*は各IFN-α濃度でのベクターコントロールと比較したP値が0.05未満であることを示す (Student’s t-test)。
結果を図3に示す。
図3Aは各濃度のIFN-αで刺激後のIFN-α誘導遺伝子OAS1の発現量を示し、MAPKAPK3を一過性に高発現させた結果、OAS1遺伝子の発現量はベクターコントロールと比較して有意に抑制された。
同様に、図3BはIFN-α誘導遺伝子MxAの発現量を示し、MAPKAPK3高発現により、MxA遺伝子の発現量はベクターコントロールと比較して有意に抑制された。
図3Bでは縦軸にIFN-α未刺激時のHCV RNA量を基準とした各IFN-α濃度でのHCV RNA量の比 (% of control)を示し、MAPKAPK3高発現によりIFN-αの抗HCV作用はベクターコントロールと比較して有意に減弱された。以上の結果より、MAPKAPK3高発現によってIFN-α誘導性の抗ウイルス遺伝子群の発現が抑制され、IFN-αの抗HCV作用が減弱されることが示された。
以上の結果から、1)MAPKAPK3遺伝子上のタグSNP rs616589 (G/A) およびrs3792323 (A/T) は慢性C型肝炎に対するIFN療法の治療効果に相関しており、2)タグSNP rs616589のA対立遺伝子およびタグSNP rs3792323のT対立遺伝子は非著効群に高頻度のリスク因子であり、3)タグSNP rs3792323がT対立遺伝子の場合はA対立遺伝子と比較してMAPKAPK3の発現が高いことが示された。さらにMAPKAPK3の高発現により、4)IFN-αシグナル伝達が抑制され、5)IFN-αの抗HCV作用が有意に減弱された。
本発明は、I型IFN療法、詳しくはI型IFN療法における患者の治療効果を予測するためのマーカーであり、患者におけるI型IFN療法の有効性を予測するために有用である。すなわち本発明により、慢性C型肝炎のIFN療法の治療効果を予測するためのマーカーである、MAPKAPK3の遺伝子領域上のSNPが提供される。また、当該SNPを有するか否かに基づいて被験者の遺伝子型を予測することにより、当該被験者がIFN療法を受けた場合の治療効果を予測することが可能となる。
IFN療法は投与期間が半年以上の長期間におよびかつ、副作用が報告されていることから(Adv. Intern. Med. 1994, 39, 241-275)、予め治療効果の予測が可能になれば、最適な治療法の選択、適切な投与量、投与期間の判断が可能になると考えられ、患者にとって有益である。
さらに、本発明により、MAPKAPK3の発現量または活性を指標とする免疫増強剤のスクリーニング方法等を提供することが可能になった。すなわち、MAPKAPK3はIFN-αのシグナル伝達を抑制する作用を有することが明らかとなったことから、当該MAPKAPK3の発現もしくは活性を阻害する物質は、IFNの治療効果を向上させる免疫賦活剤として有用である。そしてMAPKAPK3の発現もしくは活性を阻害するか否かを指標として、当該免疫賦活剤をスクリーニングすることができる。
同定したタグSNP rs3792323 (A/T)の対立遺伝子の違いによって、MAPKAPK3の発現が異なる可能性をASTQ法 (allele specific transcript quantification) によって検討した結果を示す図である。 MAPKAPK3の高発現がIFN-αのシグナル伝達に与える影響を解析するため、IFN-α刺激によるISRE配列 (IFN-stimulated response element) およびGAS配列 (IFN-γ activated site) からのluciferase遺伝子の転写誘導を指標としたreporter gene assayを行った結果を示す図である。 IFN-αの抗HCV作用に対するMAPKAPK3の影響を検討するため、HCVレプリコン細胞にMAPKAPK3を一過性に高発現させ、IFN-αで24間刺激後のHCV RNA量およびIFN-αにより誘導される抗ウイルス遺伝子の発現をリアルタイム定量PCR法により解析した結果を示す図である。

Claims (18)

  1. ヒト第3番染色体短腕3p21.3に位置するマイトジェン活性化プロテインキナーゼ活性化プロテインキナーゼ3(MAPKAPK3)遺伝子領域に存在する遺伝子多型であって、以下の群:
    A)配列番号1で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(C>T);
    B)配列番号2で表わされる塩基配列中第388番目の塩基におけるSNP(A>G);
    C)配列番号3で表わされる塩基配列中第404番目の塩基におけるSNP(G>A);
    D)配列番号4で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(A>G);
    E)配列番号5で表わされる塩基配列中第201番目の塩基におけるSNP(A>T);
    F)配列番号6で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(T>C);
    G)配列番号7で表わされる塩基配列中第201番目の塩基におけるSNP(G>A);
    H)配列番号8で表わされる塩基配列中第372番目の塩基におけるSNP(G>A);
    I)配列番号9で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(A>G);
    J)配列番号10で表わされる塩基配列中第402番目の塩基におけるSNP(C>T);
    K)配列番号11で表わされる塩基配列中第462番目の塩基におけるSNP(T>C);
    L)配列番号12で表わされる塩基配列中第370番目の塩基におけるSNP(A>G);
    M)配列番号13で表わされる塩基配列中第367番目の塩基におけるSNP(G>A);
    N)配列番号14で表わされる塩基配列中第199番目の塩基におけるSNP(C>T);
    O)配列番号15で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(G>A);および
    P)配列番号16で表わされる塩基配列中第125番目の塩基におけるSNP(A>C)
    (但し、括弧内はメジャー対立遺伝子>マイナー対立遺伝子を示す。)
    から選択される少なくとも1つの遺伝子多型において、少なくとも各マイナー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドを含んでなる、I型インターフェロンによる治療に対する感受性予測用試薬。
  2. 各メジャー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドをさらに含む、請求項1に記載の試薬。
  3. 各対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドが、各配列番号で表わされる塩基配列において該対立遺伝子を含む10〜200の連続した塩基配列もしくはその相補鎖配列からなるMAPKAPK3遺伝子断片と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るプローブ、および/または該遺伝子断片を増幅し得るプライマーである、請求項1または2に記載の試薬。
  4. MAPKAPK3遺伝子断片が10〜50の連続した塩基配列からなる、請求項3に記載の試薬。
  5. MAPKAPK3遺伝子断片が15〜30の連続した塩基配列からなる、請求項3に記載の試薬。
  6. (1)被験者由来の遺伝子サンプルを使用し、ヒト第3番染色体短腕3p21.3に位置するMAPKAPK3遺伝子領域に存在する遺伝子多型であって、以下の群:
    A)配列番号1で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(C>T);
    B)配列番号2で表わされる塩基配列中第388番目の塩基におけるSNP(A>G);
    C)配列番号3で表わされる塩基配列中第404番目の塩基におけるSNP(G>A);
    D)配列番号4で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(A>G);
    E)配列番号5で表わされる塩基配列中第201番目の塩基におけるSNP(A>T);
    F)配列番号6で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(T>C);
    G)配列番号7で表わされる塩基配列中第201番目の塩基におけるSNP(G>A);
    H)配列番号8で表わされる塩基配列中第372番目の塩基におけるSNP(G>A);
    I)配列番号9で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(A>G);
    J)配列番号10で表わされる塩基配列中第402番目の塩基におけるSNP(C>T);
    K)配列番号11で表わされる塩基配列中第462番目の塩基におけるSNP(T>C);
    L)配列番号12で表わされる塩基配列中第370番目の塩基におけるSNP(A>G);
    M)配列番号13で表わされる塩基配列中第367番目の塩基におけるSNP(G>A);
    N)配列番号14で表わされる塩基配列中第199番目の塩基におけるSNP(C>T);
    O)配列番号15で表わされる塩基配列中第301番目の塩基におけるSNP(G>A);
    P)配列番号16で表わされる塩基配列中第125番目の塩基におけるSNP(A>C);
    (但し、括弧内はメジャー対立遺伝子>マイナー対立遺伝子を示す。)、および
    Q)前記SNPと連鎖不平衡の関係にある遺伝子多型
    から選択される少なくとも1つの遺伝子多型を試験する工程、および
    (2)(1)の試験の結果、マイナー対立遺伝子の存在が認められた場合、被験者のI型インターフェロンによる治療に対する感受性が低いと判断する工程
    を含む、被験者のI型インターフェロンによる治療に対する感受性の予測方法。
  7. 遺伝子サンプルが、ゲノムDNAまたはRNAを含む、請求項6に記載の予測方法。
  8. (1)被験者由来サンプルにおけるMAPKAPK3遺伝子またはMAPKAPK3の発現量を測定する工程、および
    (2)前記発現量が高い場合に、被験者のI型インターフェロンによる治療に対する感受性が低いと予測する工程
    を含む、被験者のI型インターフェロンによる治療に対する感受性の予測方法。
  9. (1)被験者由来サンプルにおけるMAPKAPK3の活性を測定する工程、および
    (2)前記活性が高い場合に、被験者のI型インターフェロンによる治療に対する感受性が低いと予測する工程
    を含む、被験者のI型インターフェロンによる治療に対する感受性の予測方法。
  10. 被験者が、I型インターフェロンによる治療が適用され得る疾患の患者である、請求項6〜9のいずれか1項に記載の予測方法。
  11. I型インターフェロンによる治療が適用され得る疾患の患者がHCV感染患者である、請求項10に記載の予測方法。
  12. HCV感染患者がHCV遺伝子型1b感染患者である、請求項11に記載の予測方法。
  13. (1)被験物質がMAPKAPK3遺伝子またはMAPKAPK3の発現を抑制するか否かを測定する工程、および
    (2)前記発現を抑制する被験物質を、I型インターフェロン作用増強剤の候補物質として選択する工程
    を含む、I型インターフェロン作用増強剤のスクリーニング方法。
  14. (1)被験物質がMAPKAPK3の活性を抑制するか否かを測定する工程、および、
    (2)前記活性を抑制する被験物質を、I型インターフェロン作用増強剤の候補物質として選択する工程
    を含む、I型インターフェロン作用増強剤のスクリーニング方法。
  15. MAPKAPK3の発現を抑制する物質またはMAPKAPK3阻害活性を有する物質を有効成分として含有する、I型インターフェロン作用増強剤。
  16. HCV感染症治療または予防薬である、請求項15に記載のI型インターフェロン作用増強剤。
  17. HCV感染症がHCV遺伝子型1b感染症である、請求項16に記載のI型インターフェロン作用増強剤。
  18. ヒト第3番染色体3p21.3に位置するMAPKAPK3遺伝子領域の部分塩基配列であって、配列番号3で表わされる塩基配列中第404番目の塩基を含む10〜200の連続した塩基配列もしくはその相補鎖配列を含み、かつ当該塩基がAであるポリヌクレオチド。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2016178898A (ja) * 2015-03-24 2016-10-13 国立大学法人旭川医科大学 非アルコール性脂肪性肝疾患及び/又は非アルコール性脂肪肝炎の発症リスク及び/又は重症化リスクの判定方法、並びに該判定用オリゴヌクレオチドキット
JP2018025934A (ja) * 2016-08-09 2018-02-15 ヤフー株式会社 判定装置、判定方法および判定プログラム

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