JP2010117232A - マッサージ評価方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】皮膚を刺激するマッサージの効果をより的確に評価するために、マッサージの刺激を受けた皮膚の反応を検出する評価方法を開発する。
【解決手段】本発明は、物理的刺激処理を施された皮膚から単離された皮膚組織片を培養液中で培養するステップか、物理的刺激処理を施さない皮膚から単離された皮膚組織片に物理的刺激処理を施してから培養するステップかのいずれかと、前記培養液中に放出された前記皮膚組織片由来のオキシトシンを定量するステップとを含む、皮膚への物理的刺激処理の効果の評価方法を提供する。本発明の評価方法において、前記物理的刺激処理はマッサージの場合がある。
【選択図】なし
【解決手段】本発明は、物理的刺激処理を施された皮膚から単離された皮膚組織片を培養液中で培養するステップか、物理的刺激処理を施さない皮膚から単離された皮膚組織片に物理的刺激処理を施してから培養するステップかのいずれかと、前記培養液中に放出された前記皮膚組織片由来のオキシトシンを定量するステップとを含む、皮膚への物理的刺激処理の効果の評価方法を提供する。本発明の評価方法において、前記物理的刺激処理はマッサージの場合がある。
【選択図】なし
Description
本発明は、皮膚への物理的刺激処理の効果の評価方法、具体的には、オキシトシン放出量を指標とする皮膚へのマッサージの効果の評価方法に関する。
マッサージは、血液循環の改善や筋肉の緊張の緩和を通じて心身をリラックスさせて快適にするので、ストレスの激しい生活を送る現代人に人気がある。しかし、快不快の判断には主観が入るため、マッサージ効果の評価は困難である。より効果的で効率的なマッサージ方法を開発するためには、まず、客観的なマッサージ効果の評価方法を確立する必要がある。
従来のマッサージ効果の評価方法には、体幹及び/又は顔面の筋緊張度を施術の前後に計測し、該筋緊張度の緩和の度合いを指標とする評価方法(特許文献1)や、皮膚表面を冷却又は加温した場合の皮膚血流量の変化率を指標とする評価方法(特許文献2)がある。また、唾液中の免疫グロブリンを測定することを特徴とする、マッサージ方法の評価法(特許文献3)や、全身的な生化学的指標として、マッサージの前後に唾液中の副腎皮質ホルモン量を測定し、その変化の割合を指標とするマッサージの評価方法(特許文献4)も知られている。
特開2006−334186
特開2008−113876
特開平8−15257
特開平11−23579
しかし、これらの指標は、血管や筋肉及び唾液腺のように、マッサージ刺激の影響が間接的に及ぶ組織、器官の反応を検出しているにすぎないのであって、マッサージ刺激を直接受ける皮膚の反応を検出しているわけではない。また、マッサージ方法には筋肉の凝りをほぐすタイプもあるが、皮膚表面を刺激するタイプもある。そこで、皮膚を刺激するマッサージの効果をより的確に評価するためには、マッサージの刺激を受けた皮膚の反応を検出する評価方法を開発する必要がある。
本発明は、物理的刺激処理を施された皮膚から単離された皮膚組織片を培養液中で培養するステップか、物理的刺激処理を施さない皮膚から単離された皮膚組織片に物理的刺激処理を施してから培養するステップかのいずれかと、前記培養液中に放出された前記皮膚組織片由来のオキシトシンを定量するステップとを含む、皮膚への物理的刺激処理の効果の評価方法を提供する。
本発明の評価方法において、前記物理的刺激処理はマッサージの場合がある。
本明細書において「物理的刺激処理」とは、圧力、熱、電気その他の物理的刺激を与える処理をいう。圧力による刺激には、皮膚を押したり、さすったり、なでたり、叩いたり、ひねったりすることによる刺激が含まれる。前記圧力による刺激は、ヒトの手又は足か、マッサージ用器具かにより皮膚に直接圧力を加えるマッサージによる刺激の場合がある。
オキシトシンは、9個のアミノ酸残基からなるペプチドホルモンである。オキシトシンは、大脳の視床下部の室傍核や視索上核に存在する大細胞性神経細胞で合成され、脳下垂体後葉から血中に放出されることが知られる。その生物学的活性として子宮収縮作用、乳汁射出作用等が知られる。また、近年、オキシトシンの鼻腔内投与により他人への信頼が増大すること(Kosfeld M.ら、Nature(2005)、435:673−676)、オキシトシンの経鼻投与により恐怖感が減少すること(Kirsch P.ら、J.Neurosci.(2005)25:11489−93)等が報告された。また、動物及びヒトでの研究から、脳のオキシトシンは、社会的認識記憶の形成、養育行動を含む社会的行動を調節し、不安神経症を含むストレス応答を下向き調節することが明らかとなった(東田陽博、蛋白質 核酸 酵素(2007)、52:1832−1839、Neumann、I.D.、Cell Metabolism(2007)、5:231−233)。このようにオキシトシンは、従来より知られている生物学的活性に加えて、人間関係の維持に必要な高次の心の働きに関与する機能も有する物質であり、情動の改善に有効であると考えられる。
以下の実施例で詳しく説明するとおり、本発明は、オキシトシンと、オキシトシン前駆体をエンコードするmRNAとが皮膚に存在すること、皮膚に刺激を与えることにより皮膚からのオキシトシンの放出量が増大すること、皮膚からのオキシトシンの放出量は、刺激の与え方に依存して増大することの新規な発見に基づく。とくに、刺激の与え方に依存して皮膚からのオキシトシンの放出量が増大することから、オキシトシンはマッサージ効果の評価方法の指標として有望である。
また、オキシトシンは上述のように経鼻投与により信頼感の増大、恐怖感の減少等の効果を発揮する物質であるので、皮膚に刺激を与えることによって放出されたオキシトシンは、快適さというマッサージの効果に直接関与する可能性がある。
そこで、本発明の評価方法は、心身が快適になるというマッサージの最も重要な効果に関与する可能性がある物質を指標とするため、マッサージの効果をより正確に評価できることが期待される。
本発明は、以下の実施例で示すとおり、皮膚組織、特に、表皮上層から角層にかけての細胞にオキシトシンが存在するとの知見に基づく。したがって、本発明において物理的刺激処理を施された皮膚から単離された皮膚組織片は、少なくとも表皮上層から角層にかけての細胞を含む。
本明細書において培養液中に放出された皮膚組織片由来のオキシトシンの量とは、皮膚への物理的刺激処理前に皮膚細胞内で生成され、該刺激処理後、培養下で細胞外に放出されたオキシトシンの量と、前記刺激処理後、培養下で皮膚細胞内で生成され、細胞外に放出されたオキシトシンの量との和から、培養液中で分解されたオキシトシンの量と、培養下で皮膚細胞に吸着または取り込まれたオキシトシンの量とを引いた差の量をいう。
本発明における「培養」は、刺激を与えた皮膚からオキシトシンが培養液中に放出されるのに十分な培養条件であれば、どのような培養条件で行なっても構わない。前記培養条件は、培養時間、培養温度等を含む。前記培養時間は、皮膚中のオキシトシンを培養液中に放出させるための十分な時間を確保することが好ましい。前記培養条件は、37°Cで24時間培養を行なう場合がある。
本発明における培養液は、本発明の皮膚から単離された皮膚組織片を浸漬し培養することができるものであって、皮膚組織片の細胞におけるオキシトシン生成及び細胞外への放出を妨げたり、培養中に皮膚組織片の細胞が死んで細胞内のタンパク質分解酵素が培養液中に放出されて培養液中のオキシトシンを分解することが起きないものであれば、どのような組成の培養液であってもかまわない。ただし、元来オキシトシンを含有する血清や脳下垂体抽出物を添加した培養液は、皮膚由来のオキシトシンの定量に影響するため用いない。好ましくは前記培養液は、Defined Keratinocyte−SFM(インビトロジェン)または Epilife AOF Kit (インビトロジェン)の場合がある。
本発明における培養液中に放出されたオキシトシンを定量するステップは、当業者に周知の方法により実行される場合がある。例えば前記測定は、前記培養液を逆相クロマトグラフィその他の方法によってオキシトシン分画を精製し、これを適当なバッファーに再溶解させることによって、濃縮と溶媒液の変更とを行った上で、ELISA法により定量する場合がある。前記ELISA法は、例えばOxytocin EIA Kit(Assay Designs,Inc.)を使用して実施される場合がある。代替的には、前記濃縮と溶媒液の変更とを行った後、オキシトシンを蛍光物質で標識し、HPLC法により分析しオキシトシンの溶出ピークを定量する場合がある。
以下の実施例により本発明について詳細な説明を行なうが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
1.オキシトシンの存在部位についての検討
1−1.方法
免疫組織化学的な実験には、ヒト(ボランティア提供者3名、年齢55−66才、女性)の皮膚、及びヘアレスマウスHR−1(Hrhr/Hrhr、7週齢、雄)の背中の皮膚組織片を得て、凍結ブロックを作製し、6μm厚の組織切片を薄切した。切片はメタノールで固定後、抗オキシトシン抗体(Chemicon)と蛍光標識2次抗体(インビトロジェン)を用いて染色し、その蛍光画像を取得した。
1−1.方法
免疫組織化学的な実験には、ヒト(ボランティア提供者3名、年齢55−66才、女性)の皮膚、及びヘアレスマウスHR−1(Hrhr/Hrhr、7週齢、雄)の背中の皮膚組織片を得て、凍結ブロックを作製し、6μm厚の組織切片を薄切した。切片はメタノールで固定後、抗オキシトシン抗体(Chemicon)と蛍光標識2次抗体(インビトロジェン)を用いて染色し、その蛍光画像を取得した。
分子遺伝学的な実験には、RT−PCR法によりオキシトシン前駆体mRNAの検出を行った。PCR反応の鋳型として、ヒト新生児由来の表皮ケラチノサイト(クラボウ)から作製したcDNAと、ヒト皮膚由来のcDNA(BioChain Inc.)を用いた。PCR反応のポジティブコントロールとしてヒト脳由来のcDNA(Clontech)を用いた。オキシトシンcDNAの増幅に用いたプライマーの配列を表1に示す。表1の配列a、b、c及びdのヌクレオチド配列はそれぞれPCR反応は例えばPhusion DNA ポリメラーゼ(NEB)を用いて添付のプロトコールに従って行った。得られたPCR産物は分子量マーカー(100bpラダー、東洋紡)とともにアガロースゲル電気泳動法で分離し、臭化エチジウムで染色したバンドの蛍光画像を取得した。
1−2.結果
図1は、ヒトの顔面の皮膚組織切片(図1A及びB)と、ヘアレスマウスHR−1系統の皮膚組織切片(図1C及びD)とについての抗オキシトシン抗体による染色パターンを示す免疫組織化学的染色標本の顕微鏡写真(図1A及びC)と、それぞれに隣接する組織切片のヘマトキシリン−エオジン染色標本の顕微鏡写真(図1B及びD)である。図1A及びCではオキシトシン抗体が反応した部位が黒色で示される。図1B及びDでは組織構築状態が示される。これらの結果より、ヒト及びマウスの両方で、皮膚、特に表皮上層から角層にオキシトシンが存在することが明らかとなった。
図1は、ヒトの顔面の皮膚組織切片(図1A及びB)と、ヘアレスマウスHR−1系統の皮膚組織切片(図1C及びD)とについての抗オキシトシン抗体による染色パターンを示す免疫組織化学的染色標本の顕微鏡写真(図1A及びC)と、それぞれに隣接する組織切片のヘマトキシリン−エオジン染色標本の顕微鏡写真(図1B及びD)である。図1A及びCではオキシトシン抗体が反応した部位が黒色で示される。図1B及びDでは組織構築状態が示される。これらの結果より、ヒト及びマウスの両方で、皮膚、特に表皮上層から角層にオキシトシンが存在することが明らかとなった。
図2は、ヒトの皮膚および培養ケラチノサイトについてのRT−PCRの結果を示す。図2Aはプライマーaとbを使用したPCRの結果で、予想される390bpのDNA断片が検出された。図2Bは図2AのPCRで増幅されたDNAの内部配列を確認するために行ったNested PCRの結果である。図2AのPCR反応液の一部をとって鋳型とし、プライマーcとdを使用したPCRを行った結果、予想される201bpのDNA断片が検出された。用いたプライマーの組み合わせは、いずれもゲノム上のイントロンをはさむ位置にアニールするように設計されており、ここで検出されたバンドの長さが予想どおりであったことから、増幅されたcDNAはゲノム由来ではなく、mRNA由来であると推測される。すなわち、脳と同様にヒト皮膚および培養ケラチノサイトにおいて、オキシトシン前駆体のmRNAが発現していることが明らかとなった。
2.ケラチノサイトによるオキシトシンの産生の検討
2−1.方法
(ATPγs添加の影響の検討)
ケラチノサイトとして、継代数4までのヒト新生児由来表皮ケラチノサイト(クラボウ)を使用した。培養液はDefined Keratinocyte−SFM(インビトロジェン)を用いた。前記ケラチノサイトを、直径10cmのディッシュにコンフルエントになるまで、1日おきに培養液を交換しながら37°Cで数日間培養した後、培養液中の塩化カルシウム濃度を1.8mMに上げることにより分化を誘導した。その45時間後に、各ディッシュ中の最終濃度が0、10、30、100及び300μMとなるようにアデノシン 5’−(3−チオ)三リン酸四リチウム塩(Sigma、以下、「ATPγs」という。)を添加し、引き続き37°Cで培養を継続した。ATPγsの添加から10分後に、培養液を回収し、オキシトシン量を以下のとおりELISA法により測定した。
2−1.方法
(ATPγs添加の影響の検討)
ケラチノサイトとして、継代数4までのヒト新生児由来表皮ケラチノサイト(クラボウ)を使用した。培養液はDefined Keratinocyte−SFM(インビトロジェン)を用いた。前記ケラチノサイトを、直径10cmのディッシュにコンフルエントになるまで、1日おきに培養液を交換しながら37°Cで数日間培養した後、培養液中の塩化カルシウム濃度を1.8mMに上げることにより分化を誘導した。その45時間後に、各ディッシュ中の最終濃度が0、10、30、100及び300μMとなるようにアデノシン 5’−(3−チオ)三リン酸四リチウム塩(Sigma、以下、「ATPγs」という。)を添加し、引き続き37°Cで培養を継続した。ATPγsの添加から10分後に、培養液を回収し、オキシトシン量を以下のとおりELISA法により測定した。
ELISA法によるオキシトシン定量
回収した培養液中のオキシトシンを逆相カラム(C18 Sep―pak Light、Waters)を用いて精製及び濃縮し、溶出は60%アセトニトリルおよび0.1%トリフルオロ酢酸を含む水溶液で行った。具体的にはオキシトシンを含むカラム溶出液画分を凍結乾燥させた後、少量の緩衝液(EIAキットに含まれる)に再溶解し、培養液中オキシトシンを20倍以上に濃縮した。その後、濃縮オキシトシン溶液中のオキシトシン濃度を、Oxytocin EIA Kit(Assay Designs,Inc)を使用する競合ELISA法により測定した。測定の手順はキットに添付されたマニュアルの指示に従った。簡潔には、96穴マルチウェルプレートの各ウェルにはヤギ抗ウサギIgGが不動化されており、これにウサギ抗オキシトシン抗体を結合させた。そして、オキシトシンを含むサンプルをアルカリフォスファターゼとコンジュゲートされたオキシトシンと混合してから抗オキシトシン抗体と結合させた。対照実験としてはサンプルのかわりに既知量のオキシトシンをアルカリフォスファターゼとコンジュゲートされたオキシトシンと混合した。アルカリフォスファターゼによる呈色反応の吸光度の測定を行って、既知量のオキシトシンによる競合阻害による吸光度の変化から片対数標準曲線を作成して、サンプルの吸光度に対応するオキシトシン量を決定した。
回収した培養液中のオキシトシンを逆相カラム(C18 Sep―pak Light、Waters)を用いて精製及び濃縮し、溶出は60%アセトニトリルおよび0.1%トリフルオロ酢酸を含む水溶液で行った。具体的にはオキシトシンを含むカラム溶出液画分を凍結乾燥させた後、少量の緩衝液(EIAキットに含まれる)に再溶解し、培養液中オキシトシンを20倍以上に濃縮した。その後、濃縮オキシトシン溶液中のオキシトシン濃度を、Oxytocin EIA Kit(Assay Designs,Inc)を使用する競合ELISA法により測定した。測定の手順はキットに添付されたマニュアルの指示に従った。簡潔には、96穴マルチウェルプレートの各ウェルにはヤギ抗ウサギIgGが不動化されており、これにウサギ抗オキシトシン抗体を結合させた。そして、オキシトシンを含むサンプルをアルカリフォスファターゼとコンジュゲートされたオキシトシンと混合してから抗オキシトシン抗体と結合させた。対照実験としてはサンプルのかわりに既知量のオキシトシンをアルカリフォスファターゼとコンジュゲートされたオキシトシンと混合した。アルカリフォスファターゼによる呈色反応の吸光度の測定を行って、既知量のオキシトシンによる競合阻害による吸光度の変化から片対数標準曲線を作成して、サンプルの吸光度に対応するオキシトシン量を決定した。
(EGTA添加の影響の検討)
0及び2mMのエチレングリコール ビス(2−アミノエチルエーテル)四酢酸(以下、「EGTA」という。和光純薬)を培地中にさらに添加した条件を設定した以外は、上述したのと同じ手順で同様の操作を行なった。EGTAはATPγs添加の5分前から添加した。
0及び2mMのエチレングリコール ビス(2−アミノエチルエーテル)四酢酸(以下、「EGTA」という。和光純薬)を培地中にさらに添加した条件を設定した以外は、上述したのと同じ手順で同様の操作を行なった。EGTAはATPγs添加の5分前から添加した。
2−2.結果
図3は、それぞれの濃度のATPγsを添加し培養した後の培養液中のオキシトシン濃度の分析結果を示す棒グラフである。ATPγsを添加しない条件ではオキシトシン濃度は1pg/mL程度であったが、ATPγsの添加量の増加に伴いオキシトシン量も増大し、添加量300μMでは7pg/mLを超える濃度となった。
図3は、それぞれの濃度のATPγsを添加し培養した後の培養液中のオキシトシン濃度の分析結果を示す棒グラフである。ATPγsを添加しない条件ではオキシトシン濃度は1pg/mL程度であったが、ATPγsの添加量の増加に伴いオキシトシン量も増大し、添加量300μMでは7pg/mLを超える濃度となった。
図4は、2mMのEGTAを含む培地中にそれぞれの濃度のATPγsを添加し培養した後の培養液中のオキシトシン濃度の分析結果を示す棒グラフである。EGTAを含む条件では、ATPγsの添加量の増加に伴うオキシトシン量の増大が抑制された。
ATPγsは、ATPの難分解性誘導体である。ATPは、そのケラチノサイトへの添加により濃度依存的にケラチノサイト内のCa2+濃度の上昇を引き起こすことが知られている(J. Clin. Invest.(1992) 90,42−51;Biochem.J.(2004)380,329−338)。EGTAは、Ca2+に高い親和性を有するキレート剤であり、本実施例ではEGTAを培地中に添加することにより培地中のCa2+はEGTAに捕捉され、培地中のCa2+濃度は極めて低いと考えられる。図3及び4の結果、ケラチノサイトへのATPγsの添加は、P2X受容体等のような細胞膜のイオンチャネルを介して培地中のCa2+をケラチノサイトの細胞質内に流入させることにより細胞内Ca2+濃度を増大させ、オキシトシン放出を促すと考えられる。以上より、ケラチノサイトは、細胞内Ca2+の増大を介してオキシトシンを放出すると考えられる。
3.マッサージした皮膚によるオキシトシンの産生及び放出の検討
3−1.方法
実験にはヘアレスマウスHR−1(Hrhr/Hrhr、14週齢、雄)を用いた。マッサージ処置を施す場合は、背部の皮膚を採取し1.5cm×2.5cmの大きさに切った後、テフロンメッシュ上に載せ、培養液MCDB153(Sigma)を入れた培養皿に浮かせた。37℃インキュベーターで3時間培養後、皮膚組織片の角層上にウレタンゴムシートを敷き、その上から、円柱形状のおもり(直径2cm、高さ2cm、重さ53g)をのせ、機械刺激をした。おもりの曲面がウレタンゴムシートに接するように置き培養皿ごとシーソー型振とう機(1分間に23.5往復)にのせ、1時間おもりを転がし続けたものをマッサージ処置(Rolling)とした。また、おもりの底面が接するように置き、1時間静置したものを荷重処置(Press)とした。また無処置対照として、ウレタンゴムシートの上には何も載せずに同じ時間静置した。刺激後、ウレタンゴムシートを除去し、それぞれの皮膚を1.25mLの新しい培地に浮かべ、37°Cで24時間培養した。その後培養液を回収し、オキシトシン量を実施例2と同様にELISA法により測定した。
3−1.方法
実験にはヘアレスマウスHR−1(Hrhr/Hrhr、14週齢、雄)を用いた。マッサージ処置を施す場合は、背部の皮膚を採取し1.5cm×2.5cmの大きさに切った後、テフロンメッシュ上に載せ、培養液MCDB153(Sigma)を入れた培養皿に浮かせた。37℃インキュベーターで3時間培養後、皮膚組織片の角層上にウレタンゴムシートを敷き、その上から、円柱形状のおもり(直径2cm、高さ2cm、重さ53g)をのせ、機械刺激をした。おもりの曲面がウレタンゴムシートに接するように置き培養皿ごとシーソー型振とう機(1分間に23.5往復)にのせ、1時間おもりを転がし続けたものをマッサージ処置(Rolling)とした。また、おもりの底面が接するように置き、1時間静置したものを荷重処置(Press)とした。また無処置対照として、ウレタンゴムシートの上には何も載せずに同じ時間静置した。刺激後、ウレタンゴムシートを除去し、それぞれの皮膚を1.25mLの新しい培地に浮かべ、37°Cで24時間培養した。その後培養液を回収し、オキシトシン量を実施例2と同様にELISA法により測定した。
3−2.結果
図5は、マッサージ処置、荷重処置及び対照の無処置のそれぞれの群の皮膚の培養液から回収されたオキシトシンの測定結果を示す棒グラフである。それぞれの棒グラフは、それぞれの群における3個の皮膚組織片が放出したオキシトシン量の平均値を示す。それぞれの誤差棒は、3個の分析結果の標準偏差を示す。対照群のオキシトシン濃度の平均値は20pg/mL未満であり、荷重処理群では対照群と同程度であったのに対して、マッサージ群では40pg/mL程度であり対照群の約2倍の濃度であった。対照群のオキシトシン濃度の測定値とマッサージ群のオキシトシン濃度の測定値との間でスチューデントのt検定を実施したところ、危険率はp<0.01(Cont vs Rolling:p=0.0050; Cont vs Press:p=0.7186; Press vs Rolling:p=0.0044)と算出され、マッサージ群におけるオキシトシン濃度の増大の程度は、対照群と比較して統計学的に有意であった。この結果から、皮膚におけるオキシトシンの放出量がマッサージのような物理的刺激処理により増大することが明らかとなるとともに、皮膚におけるオキシトシンの産生量がマッサージにより増大する可能性が示唆された。
図5は、マッサージ処置、荷重処置及び対照の無処置のそれぞれの群の皮膚の培養液から回収されたオキシトシンの測定結果を示す棒グラフである。それぞれの棒グラフは、それぞれの群における3個の皮膚組織片が放出したオキシトシン量の平均値を示す。それぞれの誤差棒は、3個の分析結果の標準偏差を示す。対照群のオキシトシン濃度の平均値は20pg/mL未満であり、荷重処理群では対照群と同程度であったのに対して、マッサージ群では40pg/mL程度であり対照群の約2倍の濃度であった。対照群のオキシトシン濃度の測定値とマッサージ群のオキシトシン濃度の測定値との間でスチューデントのt検定を実施したところ、危険率はp<0.01(Cont vs Rolling:p=0.0050; Cont vs Press:p=0.7186; Press vs Rolling:p=0.0044)と算出され、マッサージ群におけるオキシトシン濃度の増大の程度は、対照群と比較して統計学的に有意であった。この結果から、皮膚におけるオキシトシンの放出量がマッサージのような物理的刺激処理により増大することが明らかとなるとともに、皮膚におけるオキシトシンの産生量がマッサージにより増大する可能性が示唆された。
Claims (2)
- 物理的刺激処理を施された皮膚から単離された皮膚組織片を培養液中で培養するステップか、物理的刺激処理を施さない皮膚から単離された皮膚組織片に物理的刺激処理を施してから培養するステップかのいずれかと、前記培養液中に放出された前記皮膚組織片由来のオキシトシンを定量するステップとを含むことを特徴とする、皮膚への物理的刺激処理の効果の評価方法。
- 前記物理的刺激処理はマッサージであることを特徴とする、請求項1に記載の評価方法。
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