JP2010116592A - ナットプロジェクション溶接継手 - Google Patents
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Abstract
【課題】ナットと鋼板との接合強度(押込み剥離強度およびトルク剥離強度)を向上させると共に、接合強度のばらつきも低減することのできるナットプロジェクション溶接継手を提供する。
【解決手段】本発明のナットプロジェクション溶接継手は、鋼板の化学成分組成を適切に調整すると共に、溶接熱影響部の最大深さ部を含み鋼板表面に垂直な方向での硬度分布において、(a)ビッカース硬さが400Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの30%以上であるか、または(b)ビッカース硬さが300Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの50%以上である。
【選択図】図3
【解決手段】本発明のナットプロジェクション溶接継手は、鋼板の化学成分組成を適切に調整すると共に、溶接熱影響部の最大深さ部を含み鋼板表面に垂直な方向での硬度分布において、(a)ビッカース硬さが400Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの30%以上であるか、または(b)ビッカース硬さが300Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの50%以上である。
【選択図】図3
Description
本発明は、鋼板とナットをプロジェクション溶接によって溶接することによって構築される溶接継手に関するものであり、特に鋼板とナットとの接合強度(押込み剥離強度およびトルク剥離強度)を向上させたナットプロジェクション溶接継手に関するものである。
例えば、自動車のフロントサイドメンバー、センターピラー、ヒンジレインフォーメントのような自動車部材は、ドアを取り付けるヒンジ等を付ける必要性から、鋼板にナットを溶接接合し、そこにボルトでヒンジ部品を取り付けるように構築されている。こうした部材を構築するに当たっては、プロジェクション溶接法によって鋼板表面にナットを溶接接合(本発明では、これを「ナットプロジェクション溶接」と呼んでいる)して溶接継手を形成するのが一般的である。このような溶接構造物において、溶接継手に要求される特性としては、鋼板とナットとの接合強度が高く、ばらつきが小さいことが必要である。
プロジェクション溶接法に関して、これまでにも様々な技術が提案されている。例えば特許文献1には、プロジェクション溶接における溶接用電極の配分を工夫することによって溶接作業性に優れたものとする技術が提案されている。また、特許文献2では、通電操作を、比較的低電流で行なう第1通電操作と、比較的高電流で行なう第2通電操作で行なうことによって、溶接強度(接合強度)を高めた技術が提案されている。またこの技術では、ナットの鋼板側の端部に複数の突起を設け、上記第1通電操作の加圧によって、これら複数の突起の突出長を均一にして溶接部の平坦度を上げることで、複数の突起間における電流配分の均一化を図り、溶接強度(接合強度)の向上およびそのばらつきの低減を図ることも開示されている。
これらの技術では、溶接条件を適切にすることによって、接合強度の向上やそのばらつきの低減を図るものであるが、こうした条件設定だけでは、必ずしも良好な効果が発揮されていないのが実情である。こうしたことから、違う観点から溶接継手の接合強度の向上が図れるような技術が望まれているのが実情である。
一方、鋼板自体の特性を改善するものとして、例えば特許文献3のような技術も提案されている。この技術では、鋼板の化学成分組成を適切に調整し、プロジェクション溶接部の溶接面に生成する酸化物をシリケート系とすることによって、溶接継手に形成される酸化物を溶接面から排出し易くして、接合強度を高めるものである。しかしながら、酸化物を排出することによる接合強度向上効果には、どうしても限界があることになる。
通常の鋼板の溶接性を高めるための一般的な考え方としては、化学成分組成を調整すると共に、高い要求強度であっても炭素当量Ceqを比較的低めに抑える手段が採用されている(例えば、特許文献4)。しかしながら、こうした手段は、鋼板の溶接性を高めるものであって、ナット溶接の特性を高めるものではなく、良好な接合強度を発揮する溶接継手が実現できないのが実情である。
特開2002−178161号公報
特開2004−50280号公報
特開2005−281816号公報
特開平6−65637号公報
本発明は前記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、ナットと鋼板との接合強度(押込み剥離強度およびトルク剥離強度)を向上させると共に、接合強度のばらつきも低減することのできるナットプロジェクション溶接継手を提供することにある。
前記目的を達成することのできた本発明のナットプロジェクション溶接継手とは、鋼板表面にナットをプロジェクション溶接した溶接継手であって、前記鋼板は、C:0.12〜0.25%(「質量%」の意味、化学成分組成について以下同じ)、Si:0.2〜2.0%、Mn:1.2〜3.5%、Al:0.01〜2.0%を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物であり、該不可避的不純物中のP:0.015%以下(0%を含まない)およびS:0.01%以下(0%を含まない)である化学成分組成を有し、且つ溶接熱影響部の最大深さ部を含み鋼板表面に垂直な方向での硬度分布において、(a)ビッカース硬さが400Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの30%以上であるか、または(b)ビッカース硬さが300Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの50%以上である点に要旨を有するものである。
本発明のナットプロジェクション溶接継手で用いる鋼板には、必要によって、更に、Cu:1%以下(0%を含まない)、Ni:1%以下(0%を含まない)、Cr:1%以下(0%を含まない)、Mo:1%以下(0%を含まない)、V:0.05%以下(0%を含まない)、Nb:0.05%以下(0%を含まない)、Ti:0.05%以下(0%を含まない)、B:0.003%以下(0%を含まない)およびCa:0.003%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有させることも有用であり、含有される成分に応じて鋼板およびナットプロジェクション溶接継手の特性が更に改善される。
本発明においては、鋼板の化学成分組成を厳密に規定すると共に、ナットプロジェクション溶接によって形成される溶接熱影響部の硬度分布を適切に制御することによって、接合強度(押込み剥離強度およびトルク剥離強度)に優れた溶接継手が得られ、こうした溶接継手は、自動車のフロントサイドメンバーやセンターピラー、ヒンジレインフォースメント等の部材の構成素材として有用である。
本発明者は、ナットと鋼板をプロジェクション溶接したときの接合強度に優れた溶接継手の実現を目指して様々な角度から検討した。そして、まず溶接継手の接合強度に関与する要因として、溶接によって形成される溶接接合部周辺の硬度分布と接合強度の関係について検討した。
ナットプロジェクション溶接では、溶接時に鋼板とナットの接触部分が溶融することによって溶融部が形成され、この溶融部がその後凝固することによって溶接接合部となり、その周辺に溶接時の熱によって溶接熱影響部(以下、「溶接HAZ」と呼ぶことがある)が形成され、溶接継手が構成されることになる。このとき形成される溶接接合部の形態は、溶接条件(溶接電流、通電時間、加圧力)等によって影響されることは知られている。ナットプロジェクション溶接によって形成された溶接構造物の接合強度(剥離強度)の良否は、従来ではナットと鋼板との拡散接合の存否によって判断されてきた。即ち、接合強度が優れたものと評価される溶接構造物は、上記溶接接合部でナットと鋼板の境界面(接合界面)が識別できない程度に一体的になっている場合(これを「拡散接合」と呼ぶ)であり、そうでない場合(これを「非拡散接合」と呼ぶ)には接合強度が低下しているものと考えられている。
図1は、拡散接合と非拡散接合の状態を示す図面代用顕微鏡写真である。溶接接合部において、拡散接合状態が達成されていれば、剥離強度が高くなり、そのばらつきも小さく抑えることができると考えられている。本発明者の検討結果によれば、溶接接合部における接合状態が拡散接合であることは勿論であるが、更に溶接接合部周辺に形成される溶接HAZの硬度分布によっても、溶接継手の剥離強度が大きく影響されるとの着想が得られた。即ち、溶接HAZの硬度分布において、高硬度の領域をできるだけ広くすることによって、剥離強度をより一層高くすることができ、そのばらつきも小さく抑えることができることが判明したのである。
具体的には、溶接HAZの最大深さ部を含み鋼板表面に垂直な方向での硬度分布において、(a)ビッカース硬さが400Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの30%以上であるか、または(b)ビッカース硬さが300Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの50%以上であるという要件を満足させれば、十分な剥離強度が確保できることを見出し、本発明を完成した。即ち、溶接HAZの硬度分布において、少なくともビッカース硬さが400Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの30%以上あれば、優れた剥離特性(強度、ばらつき等)が確保できたのである。或いは、ビッカース硬さが400Hv以上の領域の厚さを鋼板厚さの30%以上確保できなくても、ビッカース硬さが300Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの50%以上確保できれば、優れた剥離特性(強度、ばらつき等)が確保できるのである。
これまで、剥離強度を確保するための手段としては、溶接HAZの硬度分布を制御することは行なわれていなかった。また、このような観点から、鋼板の成分調整が行なわれることもなかった。これに対して、本発明では、ナットプロジェクション溶接によって形成される溶接ナットの剥離強度は、鋼板とナット(即ち、ナットの突起部)とが拡散接合によって接合されていることによっても確保されるが、更に溶接HAZにどれだけの高硬度領域が存在するかによって、剥離特性(強度、ばらつき等)が改善されるだけではなく、従来よりも低電流、短時間溶接(即ち、省電力による省エネルギーと省コスト)で同程度の剥離強度が確保できることになる。
本発明のナットプロジェクション溶接継手に適用する鋼板は、その化学成分組成が適正に調整されていることも必要である。次に、化学成分組成の範囲限定理由を説明する。
[C:0.12〜0.25%]
Cは溶接HAZ(鋼板側の溶接HAZ)の焼入れ性(硬度)を高めるため、更には焼入れ深度を支配する重要な元素である。所望の効果を確保するためには0.12%以上含有させる必要がある。しかしながら、Cを過剰に含有させると、耐溶接割れ性が却って低下することになる。こうしたことから、その上限は0.25%とする必要がある。C含有量の好ましい下限は0.15%であり、好ましい上限は0.20%である。
Cは溶接HAZ(鋼板側の溶接HAZ)の焼入れ性(硬度)を高めるため、更には焼入れ深度を支配する重要な元素である。所望の効果を確保するためには0.12%以上含有させる必要がある。しかしながら、Cを過剰に含有させると、耐溶接割れ性が却って低下することになる。こうしたことから、その上限は0.25%とする必要がある。C含有量の好ましい下限は0.15%であり、好ましい上限は0.20%である。
[Si:0.2〜2.0%]
Siは脱酸に必要な元素であり、その効果を発揮させるためには、少なくとも0.2%以上含有させる必要がある。しかしながら、Siが過剰に含有されると、鋼材の溶接性や靭性が劣化するので、2.0%以下とする必要がある。Si含有量の好ましい下限は0.3%であり、好ましい上限は1.8%である。
Siは脱酸に必要な元素であり、その効果を発揮させるためには、少なくとも0.2%以上含有させる必要がある。しかしながら、Siが過剰に含有されると、鋼材の溶接性や靭性が劣化するので、2.0%以下とする必要がある。Si含有量の好ましい下限は0.3%であり、好ましい上限は1.8%である。
[Mn:1.2〜3.5%]
Mnは焼入れ性を向上させて鋼板内部の強度を確保する上で有効な元素であり、こうした効果を発揮させるためには、Mnは1.2%以上含有させる必要がある。しかしながらMnを過剰に含有させると、鋼材の溶接性や靭性が劣化するので上限を3.5%とする。Mn含有量の好ましい下限は1.5%であり、好ましい上限は3.3%である。
Mnは焼入れ性を向上させて鋼板内部の強度を確保する上で有効な元素であり、こうした効果を発揮させるためには、Mnは1.2%以上含有させる必要がある。しかしながらMnを過剰に含有させると、鋼材の溶接性や靭性が劣化するので上限を3.5%とする。Mn含有量の好ましい下限は1.5%であり、好ましい上限は3.3%である。
[Al:0.01〜2.0%]
Alは脱酸に必要な元素であり、その効果を発揮させるためには、少なくとも0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、Alが過剰に含有されると、鋼板の靭性低下をもたらすので、その上限を2.0%とした。Al含有量の好ましい下限は0.02%であり、好ましい上限は1.8%である。
Alは脱酸に必要な元素であり、その効果を発揮させるためには、少なくとも0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、Alが過剰に含有されると、鋼板の靭性低下をもたらすので、その上限を2.0%とした。Al含有量の好ましい下限は0.02%であり、好ましい上限は1.8%である。
本発明の鋼板において、上記基本成分の他は、鉄および不可避的不純物(例えば、P,S,N,O等)からなるものであるが、その特性を阻害しない程度の微量成分(許容成分)も含み得るものであり(例えば、Zr,希土類元素等)、こうした鋼板も本発明の範囲に含まれるものである。また、上記不可避的不純物のうち、P,Sについては、下記のように抑制することが好ましい。
[P:0.015%以下(0%を含まない)]
Pは不可避的に混入してくる不純物であり、鋼板の靭性に悪影響を及ぼすのでできるだけ少ない方が好ましい。こうした観点から、Pは0.015%以下に抑制するのが良い。P含有量の好ましい上限は0.013%である。
Pは不可避的に混入してくる不純物であり、鋼板の靭性に悪影響を及ぼすのでできるだけ少ない方が好ましい。こうした観点から、Pは0.015%以下に抑制するのが良い。P含有量の好ましい上限は0.013%である。
[S:0.01%以下(0%を含まない)]
Sは、鋼板中の合金元素と化合して種々の介在物を形成し、鋼板の延性や靭性に有害に作用する不純物であるので、できるだけ少ない方が好ましいのであるが、実用鋼の清浄度の程度を考慮して0.01%以下に抑制するのがよい。尚、Sは鋼に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%とすることは工業生産上困難である。
Sは、鋼板中の合金元素と化合して種々の介在物を形成し、鋼板の延性や靭性に有害に作用する不純物であるので、できるだけ少ない方が好ましいのであるが、実用鋼の清浄度の程度を考慮して0.01%以下に抑制するのがよい。尚、Sは鋼に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%とすることは工業生産上困難である。
本発明の鋼板には、必要によって、Cu:1%以下(0%を含まない)、Ni:1%以下(0%を含まない)、Cr:1%以下(0%を含まない)、Mo:1%以下(0%を含まない)、V:0.05%以下(0%を含まない)、Nb:0.05%以下(0%を含まない)、Ti:0.05%以下(0%を含まない)、B:0.003%以下(0%を含まない)およびCa:0.003%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有させることも有効である。これらの成分を含有させるときの範囲限定理由は、次の通りである。
[Cu:1%以下(0%を含まない)]
Cuは、固溶強化、析出強化による強度向上に有効な元素であり、必要によって含有される。しかしながら、Cuの含有量が過剰になると、熱間加工性が劣化し、鋼板表面に割れが生じやすくなるので、1%以下(より好ましくは0.8%以下)とするのがよい。尚、上記効果を発揮させるための好ましい下限は、0.3%程度である。
Cuは、固溶強化、析出強化による強度向上に有効な元素であり、必要によって含有される。しかしながら、Cuの含有量が過剰になると、熱間加工性が劣化し、鋼板表面に割れが生じやすくなるので、1%以下(より好ましくは0.8%以下)とするのがよい。尚、上記効果を発揮させるための好ましい下限は、0.3%程度である。
[Ni:1%以下(0%を含まない)]
Niは、鋼板の靭性を向上させるのに有効な元素であり、必要によって含有される。しかしながら、Niの含有量が過剰になると、スケール疵が発生しやすくなって、またコストアップになるので、1%以下(より好ましくは0.8%以下)とするのがよい。尚、上記効果を発揮させるための好ましい下限は、0.3%程度である。
Niは、鋼板の靭性を向上させるのに有効な元素であり、必要によって含有される。しかしながら、Niの含有量が過剰になると、スケール疵が発生しやすくなって、またコストアップになるので、1%以下(より好ましくは0.8%以下)とするのがよい。尚、上記効果を発揮させるための好ましい下限は、0.3%程度である。
[Cr:1%以下(0%を含まない)]
Crは、焼入れ性を向上させるのに有効な元素であり、必要によって含有される。しかしながら、Crの含有量が過剰になると、溶接性を阻害するので、1%以下(より好ましくは0.8%以下)とするのがよい。尚、上記効果を発揮させるための好ましい下限は、0.3%程度である。
Crは、焼入れ性を向上させるのに有効な元素であり、必要によって含有される。しかしながら、Crの含有量が過剰になると、溶接性を阻害するので、1%以下(より好ましくは0.8%以下)とするのがよい。尚、上記効果を発揮させるための好ましい下限は、0.3%程度である。
[Mo:1%以下(0%を含まない)]
Moは焼入れ性を向上させ、焼戻し軟化抵抗を増大させるのに有効な元素であり、必要によって含有される。しかしながら、Moの含有量が過剰になると、溶接性を阻害するので、1%以下(より好ましくは0.8%以下)とするのがよい。尚、上記効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、0.3%程度である。
Moは焼入れ性を向上させ、焼戻し軟化抵抗を増大させるのに有効な元素であり、必要によって含有される。しかしながら、Moの含有量が過剰になると、溶接性を阻害するので、1%以下(より好ましくは0.8%以下)とするのがよい。尚、上記効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、0.3%程度である。
[V:0.05%以下(0%を含まない)]
Vは少量の添加によって焼入れ性を高め、焼戻し軟化抵抗を増大させるのに有効な元素である。しかしながら、多量に含有されると溶接性を阻害するので、0.05%以下(より好ましくは0.03%以下)とするのが良い。尚、上記効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、0.01%程度である。
Vは少量の添加によって焼入れ性を高め、焼戻し軟化抵抗を増大させるのに有効な元素である。しかしながら、多量に含有されると溶接性を阻害するので、0.05%以下(より好ましくは0.03%以下)とするのが良い。尚、上記効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、0.01%程度である。
[Nb:0.05%以下(0%を含まない)]
Nbは結晶粒微細化作用を有し、また直接焼入れ・焼戻しを行なう場合には、析出強化作用をもたらす元素である。しかしながら、多量に含有されると溶接性、靭性を劣化するため、0.05%以下(より好ましくは0.02%以下)とするのが良い。尚、上記効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、0.003%程度である。
Nbは結晶粒微細化作用を有し、また直接焼入れ・焼戻しを行なう場合には、析出強化作用をもたらす元素である。しかしながら、多量に含有されると溶接性、靭性を劣化するため、0.05%以下(より好ましくは0.02%以下)とするのが良い。尚、上記効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、0.003%程度である。
[Ti:0.05%以下(0%を含まない)]
Tiは、脱酸作用を発揮する他、Bを含有する場合には、Nの固定によるBの焼入れ性向上効果の促進作用を有する。しかしながら、Tiの含有量が過剰になると鋼板の靭性が劣化するので、0.05%以下(より好ましくは0.03%以下)とするのが良い。尚、上記効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、0.005%程度である。
Tiは、脱酸作用を発揮する他、Bを含有する場合には、Nの固定によるBの焼入れ性向上効果の促進作用を有する。しかしながら、Tiの含有量が過剰になると鋼板の靭性が劣化するので、0.05%以下(より好ましくは0.03%以下)とするのが良い。尚、上記効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、0.005%程度である。
[B:0.003%以下(0%を含まない)]
Bは微量で焼入れ性の向上をもたらす元素である。しかしながら、Bの含有量が過剰になると鋼板の靭性が劣化するので、0.003%以下(より好ましくは0.002%以下)とするのが良い。尚、上記効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、0.0003%程度である。
Bは微量で焼入れ性の向上をもたらす元素である。しかしながら、Bの含有量が過剰になると鋼板の靭性が劣化するので、0.003%以下(より好ましくは0.002%以下)とするのが良い。尚、上記効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、0.0003%程度である。
[Ca:0.003%以下(0%を含まない)]
Caは非金属介在物の球状化作用を有し、異方性の低減に有効な元素である。しかしながら、Caの含有量が過剰になると介在物の増加により靭性が却って劣化するので、0.003%以下(より好ましくは0.002%以下)とするのが良い。尚、上記効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、0.0005%程度である。
Caは非金属介在物の球状化作用を有し、異方性の低減に有効な元素である。しかしながら、Caの含有量が過剰になると介在物の増加により靭性が却って劣化するので、0.003%以下(より好ましくは0.002%以下)とするのが良い。尚、上記効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、0.0005%程度である。
本発明で用いる鋼板は、表面処理せずに冷間圧延後の状態で溶接母材として使用できるものであるが、必要によって、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき等を施しても良く、いずれも本発明の鋼板に含まれるものである。また、本発明の溶接継手を形成するときのナットの素材(鋼種)についても、通常使用されているものであれば良く、形状や成分等は特に限定されるものではないが、例えば炭素鋼や合金鋼等が使用できる。
本発明で用いる鋼板は、その板厚も適切な範囲とすることが好ましい。即ち、プロジェクション溶接は抵抗溶接であるので、適切な溶接電流の範囲内で良好な溶接継手を形成させるためには、板厚が3.0mm以下の薄板とすることが好ましい。しかしながら、板厚があまり薄くなると、良好な溶接接合部および溶接HAZを形成しても鋼板(母材)自体が破断するので、0.8mm以上とすることが好ましい。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変形することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
下記表1に化学成分組成を示す各種溶鋼(鋼種A〜O)を、通常の溶製法によって溶製し、この溶鋼を冷却してスラブとした後(厚さ:10mm)、1250℃に加熱して熱間圧延を行ない(圧延終了温度:850℃)、板厚が3.0mmの熱間圧延材を得た。この熱間圧延材に対して、冷間圧延を行なった後、880℃で120秒加熱後空冷の条件で焼鈍を行ない、様々な板厚(1.2mm、1.6mm)の各種鋼板を得た。尚、下記表1中「−」は元素を添加していないことを示している。
得られた各鋼板について、下記の条件でナットプロジェクション溶接を行ない、ナットプロジェクション溶接性調査のための供試材(溶接継手)を作製した。
[ナットプロジェクション溶接条件]
図2は、ナットプロジェクション溶接する状態を説明する図であり、図中1は鋼板(母材)、2はナット、3はボルト挿入孔、4は電極押え、5は位置決めピン、6は上部電極(可動電極)、7は下部電極(固定電極)を夫々示す。ナット2には、下方の各角部に突起2aが形成されており、この部分で鋼板1と接触するようにされている。また鋼板1には、位置決めピン5が挿入されると共に、溶接後にボルト(図示せず)が挿入されるための孔1aが穿設されている。こうした構成において、鋼板1の上部に、位置決めピン5によってナット2を所定位置に配置し、上部電極6と下部電極7間に挟んで上方から加圧しつつ、電極6,7間に通電することによって、鋼板1とナット2(突起2a)との溶接を行なうようにされる。
図2は、ナットプロジェクション溶接する状態を説明する図であり、図中1は鋼板(母材)、2はナット、3はボルト挿入孔、4は電極押え、5は位置決めピン、6は上部電極(可動電極)、7は下部電極(固定電極)を夫々示す。ナット2には、下方の各角部に突起2aが形成されており、この部分で鋼板1と接触するようにされている。また鋼板1には、位置決めピン5が挿入されると共に、溶接後にボルト(図示せず)が挿入されるための孔1aが穿設されている。こうした構成において、鋼板1の上部に、位置決めピン5によってナット2を所定位置に配置し、上部電極6と下部電極7間に挟んで上方から加圧しつつ、電極6,7間に通電することによって、鋼板1とナット2(突起2a)との溶接を行なうようにされる。
JIS B 1196規定による1D形M8×1、強度区分8Tのナット2[4個の突起2aの突出距離(図2に示したA)が1mm]を用い、上記各種鋼板1[外形:50×50×t(mm)]とナットプロジェクション溶接を行なった。このときの、他の溶接条件(詳細な仕様)は、下記の通りである。
[その他の溶接条件]
溶接機:50kV定置式ダイレクト通電方式(単相交流)
電極:ナットプロジェクション用電極(クロム鋼)
溶接電流:8〜12kA
冷却水流量:上下2L(リットル)/分
初期加圧時間:50サイクル/60Hz
加圧力:300kgf(2940MPa)
溶接時間:5〜40サイクル/60Hz
保持時間:5サイクル/60Hz
溶接機:50kV定置式ダイレクト通電方式(単相交流)
電極:ナットプロジェクション用電極(クロム鋼)
溶接電流:8〜12kA
冷却水流量:上下2L(リットル)/分
初期加圧時間:50サイクル/60Hz
加圧力:300kgf(2940MPa)
溶接時間:5〜40サイクル/60Hz
保持時間:5サイクル/60Hz
作製した供試材について、溶接HAZにおける硬度分布を下記の方法によって測定した。
[硬度分布測定方法]
図3は、溶接HAZの硬度分布測定状況を説明するための図であり、前記図2と対応する部分には同一の参照符号が付してある。ナット2の突起部2aと鋼板1とは、プロジェクション溶接されることによって、接合部(接合界面:図中Eで示す部分)およびその周囲に溶接HAZ13が形成されるが、この溶接HAZ13の最大深さ部12を含み鋼板表面に垂直な方向(図3のD方向)での硬度分布を測定する。このとき、鋼板1とナット2の接合界面Eからの鋼板表面に垂直方向距離を、ナット側をマイナス、鋼板側をプラスとして、夫々の距離における硬度を測定した。尚、溶接HAZ13は、接合部からナット側および鋼板側の双方に形成される領域の合計したものである(即ち、接合部Eは溶接HAZ13内に包含された形態となる)。
[硬度分布測定方法]
図3は、溶接HAZの硬度分布測定状況を説明するための図であり、前記図2と対応する部分には同一の参照符号が付してある。ナット2の突起部2aと鋼板1とは、プロジェクション溶接されることによって、接合部(接合界面:図中Eで示す部分)およびその周囲に溶接HAZ13が形成されるが、この溶接HAZ13の最大深さ部12を含み鋼板表面に垂直な方向(図3のD方向)での硬度分布を測定する。このとき、鋼板1とナット2の接合界面Eからの鋼板表面に垂直方向距離を、ナット側をマイナス、鋼板側をプラスとして、夫々の距離における硬度を測定した。尚、溶接HAZ13は、接合部からナット側および鋼板側の双方に形成される領域の合計したものである(即ち、接合部Eは溶接HAZ13内に包含された形態となる)。
そして、上記硬度分布において、(A)ビッカース硬さが400Hv以上の領域の厚さ、または(B)ビッカース硬さが300Hv以上の領域の厚さを測定し、その領域の鋼板厚さとの比(板厚比)を測定した。尚、各供試材については、4箇所の突起のうち、対角の位置にある2つの突起について硬度分布を測定し、その平均値を求めた。
例えば、上記表1に示した鋼種Cを用い、各種板厚(1.2mm、1.6mm)において、溶接電流(8kA、12kA)および溶接時間(5サイクル、10サイクル、20サイクル)を変えたときの、硬さ分布、および各硬さ領域の板厚比(%)を、下記表2に示す(後記表3の実験No.12〜16に相当)。
上記と同様にして、上記した各鋼種(鋼種A〜O)について、板厚(1.2mm、1.6mm)、溶接電流(8kA、10kA、12kA)、溶接時間(5サイクル、10サイクル、20サイクル、30サイクル、40サイクル)を変えて得られた溶接継手の上記各領域の板厚比(%)を下記表3に示す(実験No.1〜33)。
上記表3に示した各溶接継手について、JIS B 1196に規定する試験方法に従って剥離強度(押込み剥離強度およびトルク剥離強度)を測定すると共に、それらのばらつきについて測定した。剥離強度およびそのばらつきを測定するときの試験方法は、下記の通りである。
[押込み剥離試験条件]
図4は、押込み剥離試験を説明するための図である。ナット2と鋼板1を溶接した供試材の鋼板1側(図2では上方側)から孔1aを通して、M8(呼び径:8mm)のボルト8をねじ込み、ボルト頭部から圧縮荷重Fをかけ、ナット2が剥離したとき(即ち、突起1aが鋼板から剥離したとき)の荷重(押込み剥離強度)を測定した。このとき、各条件(実験No.1〜33)の夫々において300個の供試材について測定を行ない、その平均値を求めた。またばらつきについては、供試材300個について測定したときの最大値と最小値の差(最大値−最小値)を求めた。尚、押込み剥離強度のJISに規定する合格基準(M8ボルトのときの押込み剥離強度)は、3730N以上である。
図4は、押込み剥離試験を説明するための図である。ナット2と鋼板1を溶接した供試材の鋼板1側(図2では上方側)から孔1aを通して、M8(呼び径:8mm)のボルト8をねじ込み、ボルト頭部から圧縮荷重Fをかけ、ナット2が剥離したとき(即ち、突起1aが鋼板から剥離したとき)の荷重(押込み剥離強度)を測定した。このとき、各条件(実験No.1〜33)の夫々において300個の供試材について測定を行ない、その平均値を求めた。またばらつきについては、供試材300個について測定したときの最大値と最小値の差(最大値−最小値)を求めた。尚、押込み剥離強度のJISに規定する合格基準(M8ボルトのときの押込み剥離強度)は、3730N以上である。
[トルク剥離試験条件]
図5は、トルク剥離試験を説明するための図である。ナット2と鋼板1を溶接した供試材のナット2に、トルクレンチ10付きのソケット11を嵌め込み、トルクレンチ10によって、ボルト挿入孔3の軸心(前記図2のB)に垂直な平面内で回転力を与え、ナット2が剥離したとき(即ち、図2、3に示した突起2aが鋼板から剥離したとき)のトルク(トルク剥離強度)を測定した。このとき、各条件(実験No.1〜33)の夫々において300個の供試材について測定を行ない、その平均値を求めた。またばらつきについては、300個について測定したときの最大値と最小値の差(最大値−最小値)を求めた。尚、トルク剥離強度のJISに規定する合格基準(M8ボルトのときの押込み剥離強度)は、20.5N・m以上である。
図5は、トルク剥離試験を説明するための図である。ナット2と鋼板1を溶接した供試材のナット2に、トルクレンチ10付きのソケット11を嵌め込み、トルクレンチ10によって、ボルト挿入孔3の軸心(前記図2のB)に垂直な平面内で回転力を与え、ナット2が剥離したとき(即ち、図2、3に示した突起2aが鋼板から剥離したとき)のトルク(トルク剥離強度)を測定した。このとき、各条件(実験No.1〜33)の夫々において300個の供試材について測定を行ない、その平均値を求めた。またばらつきについては、300個について測定したときの最大値と最小値の差(最大値−最小値)を求めた。尚、トルク剥離強度のJISに規定する合格基準(M8ボルトのときの押込み剥離強度)は、20.5N・m以上である。
これらの結果を、板厚、溶接条件(溶接電流、溶接時間)と共に、下記表4に示す。また、下記表4には、鋼板とナットの接合部における接合状況(非拡散接合または拡散接合)を顕微鏡観察した結果も同時に示した。また下記表4において、本発明で規定する要件を満足して良好な値を示したものは、評価として「○」を示し、いずれかの特性が劣化しているものを評価として「×」を示した。
この結果から明らかなように、本発明で規定する要件を満足するもの(実験No.3,4,7,8,11,13,14,16〜33)では、隔離強度が高く且つそのばらつきの小さい供試材(溶接継手)が得られていることが分かる、これに対して、本発明で規定するいずれかの要件を外れるものでは(実験No.1,2,5,6,9,10,12,15)では、いずれかの特性が劣化していることが分かる。
1 鋼板(母材)
2 ナット
3 ボルト挿入孔
4 電極押え
5 位置決めピン
6 上部電極
7 下部電極
8 ボルト
10 トルクレンチ
11 ソケット
13 溶接HAZ
2 ナット
3 ボルト挿入孔
4 電極押え
5 位置決めピン
6 上部電極
7 下部電極
8 ボルト
10 トルクレンチ
11 ソケット
13 溶接HAZ
Claims (2)
- 鋼板表面にナットをプロジェクション溶接した溶接継手であって、前記鋼板は、C:0.12〜0.25%(「質量%」の意味、化学成分組成について以下同じ)、Si:0.2〜2.0%、Mn:1.2〜3.5%、Al:0.01〜2.0%を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物であり、該不可避的不純物中のP:0.015%以下(0%を含まない)およびS:0.01%以下(0%を含まない)である化学成分組成を有し、且つ溶接熱影響部の最大深さ部を含み鋼板表面に垂直な方向での硬度分布において、(a)ビッカース硬さが400Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの30%以上であるか、または(b)ビッカース硬さが300Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの50%以上であることを特徴とするナットプロジェクション溶接継手。
- 前記鋼板は、更に、Cu:1%以下(0%を含まない)、Ni:1%以下(0%を含まない)、Cr:1%以下(0%を含まない)、Mo:1%以下(0%を含まない)、V:0.05%以下(0%を含まない)、Nb:0.05%以下(0%を含まない)、Ti:0.05%以下(0%を含まない)、B:0.003%以下(0%を含まない)およびCa:0.003%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有するものである請求項1に記載のナットプロジェクション溶接継手。
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JP2008289945A JP2010116592A (ja) | 2008-11-12 | 2008-11-12 | ナットプロジェクション溶接継手 |
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JP7560006B1 (ja) | 2023-04-24 | 2024-10-02 | Jfeスチール株式会社 | プロジェクション溶接継手及びその製造方法 |
-
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- 2008-11-12 JP JP2008289945A patent/JP2010116592A/ja not_active Withdrawn
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