JP2010115115A - 新規糖尿病性腎症感受性遺伝子 - Google Patents

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Abstract

【課題】糖尿病性腎症の発症や進行を予防しまたは治療するための有効成分となりえる物質を探索する方法の提供。糖尿病性腎症を発症する潜在的危険性の高い患者を選択する方法、ならびに当該方法に有効に利用することのできる試薬キットの提供。
【解決手段】抗糖尿病性腎症剤の有効成分のスクリーニングに際して、下記の工程を行う:
(1)被験物質とEHF遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(2)被験物質を接触させた細胞のEHF遺伝子の発現量を測定する工程、及び
(3)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞のEHF遺伝子の発現量よりも小さい被験物質を選択する工程。
【選択図】なし

Description

本発明は、糖尿病性腎症の罹患およびその進行に関連する遺伝子に関する新たな知見を提供するものである。この新たな知見に基づいて、本発明は、具体的には糖尿病性腎症の発症やその進行を予防ないしは治療するために有用な成分をスクリーニングする方法に関する。さらに本発明は、被験者について、糖尿病性腎症を発症する蓋然性が高いか否かを判断し、糖尿病性腎症を発症する潜在的危険性の高い患者を選択する方法、ならびに当該方法に有効に利用することのできる試薬キットに関する。
糖尿病性腎症は、世界的に末期腎不全の主原因である。わが国でも1998年以降、糖尿病性腎症が慢性糸球体腎炎を抜いて新規透析導入の原因疾患の第1位となり、2003年には透析導入患者の4割を超えるほどに増加している。The United Kingdom Prospective Diabetes Study(UKPDS)の結果によると、糖尿病性腎症患者では1年間に2〜3%の割合で次の病期へ進行し、また腎不全期以降の年間死亡率は約20%にも達し、その予後は極めて不良である。従って、早期からの適切な治療介入により腎症の進展と透析導入を抑制することは、患者の予後と医療経済の両面から非常に重要である(非特許文献1参照)。
近年の糖尿病性腎症に関する疫学的研究・家系調査の結果から、腎症の発症が一部の糖尿病患者に限定されていること、および腎症患者に家族内集積が認められることから、腎症の発症・進展に何らかの遺伝因子の存在が示唆され、これまでに多くの遺伝子が糖尿病性腎症感受性候補遺伝子として検討されてきた。こうした糖尿病性腎症の遺伝因子解明により、個々の症例に対する治療法をあらかじめ予測、選択する事、いわゆるオーダーメイド医療の実現が可能となる。しかしながら、未だ明確に糖尿病性腎症感受性候補遺伝子としてのコンセンサスが得られる遺伝子の同定には至っていない。
当該候補遺伝子として最もよく解析されている遺伝子は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子の第16イントロンに存在する287塩基対の挿入(I)/欠失(D)遺伝子多型である。通常のケース・コントロールスタディでは、D対立遺伝子と腎症との相関を示した成績が多く、また18のケース・コントロールスタディのメタアナリシスおよび1型糖尿病症例の前向き追跡研究から、D対立遺伝子は腎症のリスク遺伝子と考えられるものの、いわゆるmajor geneとは考えにくいとされている(非特許文献2参照)。
また近年、上記候補遺伝子としてNCALD遺伝子が見出された。具体的には、当該遺伝子は、糖尿病性腎症の発症やその進行に深く関わる糖尿病性腎症感受性遺伝子であり、糖尿病性腎症の発症や進行を予防しまたは治療するための方法を開発するための有用なターゲット遺伝子となること、また、当該NCALD遺伝子内に位置する3SNPs(SNP999, SNP1307, SNP1340)が糖尿病性腎症の潜在的発症リスクと有意な関係を有していることが報告されている(特許文献1参照)。
ところでpodocalyxin(ポドカリキシン)は、糸球体上皮細胞のpodocyteの膜表面に硫酸基を有する糖蛋白として存在する1回膜貫通型タンパクであり、細胞内ドメインでNa(+)/H(+)-exchanger regulatory factor 2(NHERF2)およびezrinと結合し、これを介してアクチンファイバーと結合している(非特許文献3参照)。このタンパク質は、糸球体の濾過隙の開放に働き、NHERF2、ezrin及びアクチンとの相互作用によって足突起形態の維持に関与することが知られており、podocalyxin遺伝子を欠失させたノックアウトマウスは、podocyteの足突起およびスリット膜が形成されず無尿のため生後1日で死亡することが報告されている(非特許文献4参照)。すなわち糸球体上皮細胞でのpodocalyxin発現の低下や発現不全は、糸球体濾過機能を低下させ腎機能を不全にする要因となることから、その正常な発現は腎機能を正常に維持するうえで極めて重要である。
一方、EHF(ets homologous factor)は、上皮細胞に特異的に発現することを特徴とするETS転写因子のサブファミリー(ESEs)に属するタンパク質であり、転写レプレッサーとして機能することが知られているが(非特許文献5)、その他、喘息の感染や発癌に関連することも報告されている(例えば、特許文献2〜5、非特許文献6等)。
当該EHFには、同一遺伝子内に複数の多型(SNPs)が存在することが報告されており(特許文献6)、近年の研究では、この因子における遺伝子多型が糖尿病を含む自己免疫疾患の診断に役立つことも記載されているが(特許文献7)、腎疾患、特に糖尿病性腎症との関連については報告されていない。
「糖尿病合併症」最新医学別冊 新しい診断と治療のABC(30)、最新医学社発行、第101頁 「糖尿病合併症」最新医学別冊 新しい診断と治療のABC(30)、最新医学社発行、第93頁 The Journal of Clinical Investigation, Vol.108, No.2, 2001, p.289-301 J. Exp. Med. Volume 194, Number 1, July 2, 2001, p.13-27 J. Biol. Chem., Vol.276, No.23, 2001, p.20397-20406 Mol. Cancer Ther., 2006, 5(12), 2006, p.3191-3196 特開2007−129905号公報 US 6087485 WO2006/062118 WO2000/055320 WO2001/022920 US 6812339 WO2006/062118
前述するように、糖尿病性腎症の遺伝因子を解明し、糖尿病性腎症の発症やその進行との関連を明確にすることは、個々の症例に最も適した治療法の選択(オーダーメード医療の実現)に繋がると同時に、糖尿病性腎症発症やその進行に対する予防剤や治療剤の有効成分を探索する手段を提供し、さらには特異的かつ安全性の高い医薬品を開発することを可能にするものと考えられる。
本発明の目的は、糖尿病性腎症の発症やその進行に関連する遺伝子(以下、本明細書では「糖尿病性腎症感受性遺伝子」ともいう)を提供するとともに、当該遺伝子と糖尿病性腎症の発症やその進行との関係を明確にすることを目的とする。また本発明の目的は、糖尿病性腎症の発症や進行を予防しまたは治療するための有効成分となりえる物質を探索する方法(スクリーニング方法)を提供することである。
さらに本発明は、被験者について、糖尿病性腎症を発症する蓋然性が高いか否かを判断し、糖尿病性腎症を発症する潜在的危険性の高い患者を選択する方法、ならびに当該方法に有効に利用することのできる試薬キットを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく、糖尿病性腎症に関するゲノムワイドな相関解析を行ったところ、糖尿病性腎症と強い関連を認めるSNP(一塩基多型)が、ヒトのEHF(ets homologous factor)の遺伝子(以下、「EHF遺伝子」ともいう)のイントロン1領域内に1箇所〔+48位 T/C(rs717582)〕存在し、当該SNP座(rs717582)にシトシン(C)を有するC対立遺伝子保有者(CCまたはCT)は、C対立遺伝子非保有者(TT)に比して、糖尿病性腎症の発症リスクが有意に高いことを見出した。EHF遺伝子のイントロン1の1位〜100位の塩基配列を配列番号1に示す。
また、本発明者らは、EHFを過剰発現させた糸球体上皮細胞では、糸球体濾過機能に係わるpodocalyxinの発現が有意に低下する一方、当該EHFの発現をsiRNAで抑制することにより、podocalyxinの発現が回復することを確認した。このことは、EHFの発現が腎機能の低下に深く関与し、糖尿病性腎症の病態を悪化させる因子であることを示唆するものである。
これらの知見から、本発明者らは、EHF遺伝子が糖尿病性腎症の発症やその進行に深く関わる糖尿病性腎症感受性遺伝子であり、糖尿病性腎症の発症や進行を予防しまたは治療するための方法を開発するための有用なターゲット遺伝子となることを確信した。さらに、本発明者らは、EHF遺伝子内に位置する糖尿病性腎症と有意な関連性を有するSNP(rs717582)と糖尿病性腎症の潜在的発症リスクとの関係を見出し、これから被験者について当該SNPの塩基(T/C)を測定することによって、当該被験者の糖尿病性腎症の潜在的発症リスクを評価することができることを確信した。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の具体的態様を有するものである。
I.糖尿病性腎症の予防または治療に有効な成分をスクリーニングする方法
項1.下記の工程を有する、糖尿病性腎症の予防または治療剤をスクリーニングする方法:
(1)被験物質とEHF遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(2)被験物質を接触させた細胞のEHF遺伝子の発現量を測定する工程、及び
(3)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞のEHF遺伝子の発現量よりも小さい被験物質を選択する工程。
項2.下記の工程を有する、糖尿病性腎症の予防または治療剤をスクリーニングする方法:
(1’)被験物質とEHFを産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(2’)被験物質を接触させた細胞またはその細胞画分のEHFの産生量を測定する工程、及び
(3’)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞もしくはその細胞画分のEHFの産生量よりも小さい被験物質を選択する工程。
項3.下記の工程を有する、糖尿病性腎症の予防または治療剤をスクリーニングする方法:
(1”)被験物質とEHFを産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分を接触させる工程、
(2”)被験物質を接触させた細胞またはその細胞画分のEHFの作用を検出する工程、及び
(3”)上記の検出した作用が、被験物質を接触させない対照細胞またはその細胞画分のEHFの作用よりも低い被験物質を選択する工程。
項4.EHFの作用が転写抑制作用である、項3記載のスクリーニング方法。
項5.EHF遺伝子を発現可能な細胞またはEHFを産生可能な細胞が、糸球体上皮細胞である項1〜4のいずれかに記載のスクリーニング方法。
項6.糖尿病性腎症の予防または治療剤の有効成分を探索する方法である項1〜5のいずれかに記載のスクリーニング方法。
II.糖尿病性腎症の罹患リスクが高い被験者の選別方法
項7.被験者由来の生体試料(被験試料)におけるEHF遺伝子のmRNA発現量を測定する工程を含み、ここで、被験試料における当該発現量が、正常人由来の生体試料(対照試料)におけるEHF遺伝子のmRNA発現量よりも大きいことを、前記被験者が糖尿病性腎症に罹患する可能性が高いとの指標とする、糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い被験者の選別方法。
項8.被験者由来の生体試料(被験試料)におけるEHFの産生量を測定する工程を含み、ここで、被験試料における当該産生量が、正常人由来の生体試料(対照試料)におけるEHFの産生量よりも大きいことを、前記被験者が糖尿病性腎症に罹患する可能性が高いことの指標とする、糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い被験者の選別方法。
項9.被験者由来の生体試料(被験試料)におけるEHF遺伝子のイントロン1に存在する48番目における塩基を検出する工程を含み、当該塩基がシトシンであることを、前記被験者が糖尿病性腎症に罹患する可能性が高いことの指標とする、糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い被験者の選別方法。
III.糖尿病性腎症の罹患リスク診断キット
項10.EHF遺伝子のイントロン1に存在する48番目における塩基を検出するための試薬を含む、糖尿病性腎症の罹患性診断キット。
IV.糖尿病性腎症の予防又は治療剤
項11.EHF遺伝子の発現を抑制するsiRNAを有効成分として含む糖尿病性腎症の予防又は治療剤。
項12.上記siRNAが、配列番号7に記載する塩基配列を有するオリゴヌクレオチドおよび配列番号8に記載する塩基配列を有するオリゴヌクレオチドからなる二本鎖RNAである、項11に記載する糖尿病性腎症の予防又は治療剤。
本発明のスクリーニング方法によれば、糖尿病性腎症の発症や進行を予防または治療するのに有効な成分を取得することが可能になる。また当該方法は、糖尿病性腎症の予防または治療に有効な新規薬剤の開発に有効に利用することができる。
さらに本発明が提供する糖尿病性腎症感受性遺伝子ならびに糖尿病性腎症感受性SNPによれば、被験者(特に糖尿病患者)について腎症を発症する相対的な危険度を簡便に検出することができる。本発明の検出方法は、in vitroでしかも医師等の専門的な知識を要することなく簡単に実施することができる方法である。本発明の方法によって腎症を発症する潜在的な危険度が相対的に高いことが判明した被験者(糖尿病患者)に対しては、その旨を告知し、予め腎症の発症を防ぐか、または少しでも遅延させるための的確な対策を講じることができる。従って、本発明は、糖尿病性腎症の発症を予防するための、または糖尿病性腎症の発症を遅延させるための検査方法として極めて有用である。さらに本発明は上記方法において使用される試薬を提供するものであり、これにより上記方法を簡便に実施することが可能となる。
1.本発明で使用する用語の定義
本明細書における塩基配列(ヌクレオチド配列)、核酸などの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAc-IUB communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138; 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作製のためのガイドライン」(特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。
本明細書中において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、及び1本鎖DNA(センス鎖)、並びに当該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)、及びそれらの断片のいずれもが含まれる、また、本明細書で「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。
また、本明細書中において、「ヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は、核酸と同義であって、DNAおよびRNAの両方を含むものとする。また、これらは2本鎖であっても1本鎖であってもよく、ある配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」)といった場合、特に言及しない限り、これに相補的な配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)も包括的に意味するものとする。さらに、「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)がRNAである場合、配列表に示される塩基記号「T」は「U」と読み替えられるものとする。
本明細書において「遺伝子多型」とは、2つ以上の遺伝的に決定された対立遺伝子がある場合にそれらの対立遺伝子間に見られる相違のことを言う。具体的には、ヒトの集団において、ある一個体のゲノム配列を基準として、他の1または複数の個体ゲノム中の特定部位に、1又は複数のヌクレオチドの置換、欠失、挿入、転移、逆位などの変異が存在するとき、その変異が当該1または複数の個体に生じた突然変異でないことが統計学的に確実か、または当該個体内特異変異でなく、1%以上の頻度で集団内に存在することが家系的に証明される場合、その変異を「遺伝子多型」とする。本明細書で用いる「遺伝子多型」の意味には、単一のヌクレオチドの変化によって引き起こされる多型であるいわゆる一塩基多型〔Single Nucleotide Polymorphism:SNP〕が含まれる。「一塩基多型」とは、単一の核酸の変化によって引き起こされる多型である。多型は選択された集団の1%より大きな頻度、好ましくは10%以上の頻度で存在する。また「ハプロタイプ」とは、一つのアレル(ハプロイド)に存在する遺伝子変異の組み合わせをいう。
本明細書において「糖尿病性腎症感受性遺伝子」とは、糖尿病患者のうち腎症を発症しやすい体質または腎症に進行しやすい体質を決める遺伝子のことをいう。
本明細書において「糖尿病性腎症」とは、糖尿病が進行して腎臓にも影響が及び、タンパク尿を伴う腎障害が起こる状態を言う。糖尿病性腎症の患者は高血糖による腎機能の障害から、原尿を作る能力が損なわれ、最終的には腎不全となる。統計によれば、糖尿病性腎症による末期腎不全で透析治療を始める患者数は年々増加しており、現在、透析導入患者の原因疾患として糖尿病性腎症は第1位になっている。より具体的には、本発明が対象とする「糖尿病性腎症」には、糖尿病網膜症を発症し、かつ尿中アルブミン排泄率が200μg/分以上であるかまたは尿中アルブミン/クレアチニン比が300mg/gCr以上である症例、ならびに糖尿病網膜症を発症し、且つ人工透析療法を受けている症例が含まれる。
本明細書に記載する各塩基番号は、The National Center for Biotechnology Information data baseの位置情報に基づくものである。また、本明細書において各SNPの位置番号である48位は、EHF遺伝子のイントロン1の1番目の塩基を1としたときの位置情報を意味する。なお、EHF遺伝子のイントロン1の塩基配列を配列番号1に記載する。
2.糖尿病性腎症感受性遺伝子および糖尿病性腎症感受性SNP
本発明者らは、糖尿病性腎症感受性遺伝子を探索するために、多くの日本人2型糖尿病患者を対象として、gene-based SNPsを用いたケースコントロール相関解析ならびに連鎖不平衡(LD)マッピングを行うことにより、第11番染色体p12(11p12)領域に存在するets homologous factor遺伝子(EHF遺伝子)のイントロン1の塩基配列上に存在する1つのSNP(rs717582)を見出し、糖尿病性腎症を発症している患者は、当該SNPがシトシン(C)になっている頻度が有意に高く、このことから、当該SNPが糖尿病性腎症の発症やその進行に有意に関係していることが示唆された(糖尿病性腎症感受性SNP)。また本発明者らは、EHFを過剰発現している系では、腎臓の糸球体濾過機能に重要なpodocalyxinの発現が有意に低下していることから、EHF遺伝子の発現の亢進(増加)が、腎症の悪化、すなわち糖尿病性腎症の発症と深く関わっていることを見出し、EHF遺伝子が糖尿病性腎症の発症やその進行に深く関わる糖尿病性腎症感受性遺伝子であるとの結論に至った。
当該ヒトEHF遺伝子は、ヒト第11染色体のゲノム配列(Genbank Sequence Accession IDs: NC-_000011.8)中、塩基番号34599244番〜34639657番に位置する40414bpの遺伝子である(Genbank Sequence Accession:NM_012153.5/ NP_036285.2)。
EHF遺伝子と疾患との関連性については、従来、糖尿病を含む自己免疫疾患との関連性(特許文献7参照)が報告されているが、腎疾患、特に糖尿病性腎症との関連については報告されていない。
実施例1で示すように、SNP(rs717582)がシトシン(C)の対立遺伝子を有する2型糖尿病患者は、糖尿病性腎症を発症しやすい傾向にあった。従って、当該糖尿病性腎症感受性SNPは、糖尿病性腎症の発症または進行のしやすさを規定する糖尿病性腎症の遺伝的素因マーカーであり、ヒト被験者について、特に2型糖尿病患者について糖尿病性腎症の易発症性・易進行性を判断する指標となる。
すなわち、当該糖尿病性腎症感受性SNP(rs717582)の塩基がシトシン(C)である場合、当該SNPを有する被験者は、遺伝的に糖尿病性腎症を発症しやすいか、または糖尿病から腎症に発展進行しやすい体質を備えている(糖尿病性腎症に感受性)と判断することができる。
3.糖尿病性腎症の予防または治療に有効な成分をスクリーニングする方法
前述するように、本発明者らは、EHF遺伝子の発現の亢進(増加)が、podocalyxin遺伝子の発現低下を伴い、糖尿病性腎症の発症やその進行に深く関わっていることを見出した。このことから、EHFが糖尿病性腎症の発症抑制またはその進行抑制に関わっており、EHF遺伝子の発現(mRNA発現)を抑制させて、podocalyxin遺伝子の発現低下を防止しえる物質は、糖尿病性腎症の予防または治療に有効な成分として有用であると考えられる。
下記に説明する本発明のスクリーニング方法は、被験物質の中から、(3-1)EHF遺伝子の発現(mRNA発現)抑制、(3-2)EHFの産生量の低下、または(3-3)EHFが有する作用の低下、を指標として、これらの作用を示す物質を探索することによって、糖尿病性腎症の予防剤または治療剤(以下、これらを総称して「抗糖尿病性腎症剤」ともいう)の有効成分を取得しようとするものである。
なお、抗糖尿病性腎症剤の有効成分となりえる候補物質としては、核酸、ペプチド、タンパク質、有機化合物(低分子化合物、高分子化合物を含む)、無機化合物などを挙げることができる。本発明のスクリーニング方法は、これらの候補物質を含む試料を対象として実施することができる(これらを総称して「被験物質」という)。ここで、候補物質を含む試料には、細胞抽出物、遺伝子ライブラリーの発現産物、微生物培養上清、および菌体成分などが含まれる。
(3-1) EHF遺伝子の発現を抑制する作用を有する物質のスクリーニング方法
当該スクリーニングは、被験物質の中から、EHF遺伝子の発現を抑制する作用を有する物質を、EHF mRNAの発現量を指標として探索し、抗糖尿病性腎症剤の有効成分として取得する方法である。
当該方法は、具体的には下記の工程(1)〜(3)を行うことによって実施することができる。
(1)被験物質とEHF遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(2)被験物質を接触させた細胞のEHF遺伝子の発現量を測定する工程、及び
(3)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞のEHF遺伝子の発現量よりも小さい被験物質を選択する工程。
かかるスクリーニングに用いられる細胞としては、天然または組み換え体の別を問わず、EHF遺伝子を発現し得る細胞であればよい。なおEHF遺伝子の由来も特に制限されず、ヒト由来であっても、またヒト以外のマウスなどの哺乳類やその他の生物種に由来するものであってもよいが、好ましくはヒト由来のEHF遺伝子である。かかる細胞として、具体的には、EHF遺伝子を有する糸球体上皮細胞(ヒトおよびその他の生物種由来のものを含む)、および単離調製された糸球体上皮細胞の初代培養細胞を挙げることができる。
また、定法に従って、EHF遺伝子のcDNAを有する発現ベクターを導入してEHF mRNAを発現可能な状態に調製された形質転換細胞を使用することもできる。なお、スクリーニングに用いられる細胞の範疇には、細胞の集合体である組織も含まれる。
本発明のスクリーニング方法(3-1)の工程(1)において、被験物質とEHF遺伝子発現可能細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、当該細胞が死滅せず、且つEHF遺伝子が発現し得る培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択することが好ましい。
候補物質の選別は、例えば上記条件で被験物質とEHF遺伝子発現可能細胞とを接触させて、EHF遺伝子の発現を抑制させてそのmRNAの発現量を低下させる物質を探索することによって行うことができる。具体的には、被験物質存在下でEHF遺伝子発現可能細胞を培養した場合のEHF mRNAの発現量が、被験物質非存在下で上記に対応するEHF遺伝子発現可能細胞を培養した場合に得られるEHF mRNAの発現量(対照発現量)よりも小さいことを指標として、細胞と接触させた当該被験物質を候補物質として選別することができる。
EHF mRNAの発現量の測定(検出、定量)は、EHF遺伝子発現可能細胞のEHF mRNAの発現量を、当該EHF mRNAの塩基配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドなどを利用したノーザンブロット法やRT−PCR法、リアルタイム定量PCR法などの公知の方法、またはDNAアレイを利用した測定方法を実施することなどにより行うことができる。
(3-2) EHFの産生を低下させる作用を指標とした物質のスクリーニング方法
当該スクリーニングは、被験物質の中から、EHFの産生を低下させる作用を有する物質を、EHFの産生量の低下を指標として探索し、抗糖尿病性腎症剤の有効成分として取得する方法である。
当該方法は、具体的には下記の工程(1’)〜(3’)を行うことによって実施することができる。
(1’)被験物質とEHFを産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(2’)被験物質を接触させた細胞または細胞画分のEHFの産生量を測定する工程、及び
(3’)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞(EHFを産生可能な細胞)または被験物質を接触させない細胞画分(EHFを産生可能な細胞から調製)のEHFの産生量よりも小さい被験物質を選択する工程。
かかるスクリーニングに用いられる細胞(対照細胞を含む)としては、天然または組み換え体の別を問わず、EHF遺伝子が発現してEHFを産生し得る細胞であればよい。なおEHF遺伝子の由来も特に制限されず、ヒト由来であっても、またヒト以外のマウスなどの哺乳類やその他の生物種に由来するものであってもよいが、好ましくはヒト由来のEHF遺伝子である。かかる細胞として、具体的には、EHF遺伝子を有する糸球体上皮細胞(ヒトおよびその他の生物種由来のものを含む)、および単離調製された糸球体上皮細胞の初代培養細胞を挙げることができる。
また、定法に従って、EHF遺伝子のcDNAを有する発現ベクターを導入してEHFを産生可能な状態に調製された形質転換細胞を使用することもできる。なお、スクリーニングに用いられる細胞の範疇には、細胞の集合体である組織も含まれる。
本発明のスクリーニング方法(3-2)の工程(1’)において、被験物質とEHF産生可能細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、当該細胞が死滅せず、且つEHF遺伝子が発現し且つEHFが産生し得る培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択することが好ましい。
候補物質の選別は、例えば上記条件で被験物質とEHF産生可能細胞またはその細胞画分とを接触させて、EHFの産生量を低下させる物質を探索することによって行うことができる。具体的には、被験物質存在下でEHF産生可能細胞またはその細胞画分を培養した場合のEHF産生量が、被験物質非存在下で上記に対応するEHF産生可能細胞またはその細胞画分を培養した場合に得られるEHFの産生量(対照産生量)よりも小さいことを指標として、細胞または細胞画分と接触させた当該被験物質を候補物質として選別することができる。
EHF産生量の測定(検出、定量)は、EHF産生可能細胞またはその細胞画分から得られるEHFの量を、当該EHFに対する抗体(抗EHF抗体)を利用してウエスタンブロット法や免疫沈降法、ELISA等の公知の方法を行うことによって実施することができる。
(3-3) EHFの作用を低下させる作用を指標とした物質のスクリーニング方法
当該スクリーニングは、被験物質の中から、EHFの作用を低下させる作用を有する物質を、EHF作用の低下を指標として探索し、抗糖尿病性腎症剤の有効成分として取得する方法である。
当該方法は、具体的には下記の工程(1”)〜(3”)を行うことによって実施することができる。
(1”)被験物質とEHFを産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分を接触させる工程、
(2”)被験物質を接触させた細胞または細胞画分のEHFの作用を検出する工程、及び
(3”)上記の検出した作用が、被験物質を接触させない対照細胞(EHFを産生可能な細胞)または細胞画分(EHFを産生可能な細胞から調製)のEHFの作用よりも低い被験物質を選択する工程。
当該スクリーニングで用いられる細胞、並びに工程(2”)において被験物質と接触させる方法や条件は、前述する(3-2)のスクリーニング方法にて記載したものを同様に使用することができる。
候補物質の選別は、上記条件で被験物質とEHF産生可能細胞またはその細胞画分とを接触させて、EHFの作用を低下させる物質を探索することによって行うことができる。具体的には、被験物質存在下でEHF産生可能細胞またはその細胞画分を培養した場合に生じるEHFの作用が、被験物質非存在下で上記に対応するEHF産生可能細胞または細胞画分を培養した場合に得られるEHFの作用(対照作用)よりも低いことを指標として、当該被験物質を候補物質として選別することができる。
ここで、EHFの作用とは、EHFの有する機能をさす。例えば、EHFの発現量の上昇とともにpodocalyxinの発現量を低下させることが挙げられる。その他に、転写活性抑制作用(非特許文献5等参照)など従来からEHFが有する機能として公知であったもの全てが含まれる。なお、糖尿病性腎症の関連因子である上記EHFまたはその遺伝子の発現量の測定は、当業者の周知の方法によれば可能である。またその転写活性抑制作用をはじめとする様々な機能も、標的因子のmRNAを測定する方法、または転写活性を直接Run-on assay法で測定する方法など、公知の方法により測定することができる。
上記(3-1)〜(3-3)のスクリーニング方法で選別された物質は、糸球体上皮細胞においてEHF遺伝子の発現増加(亢進)を抑制して、腎機能に重要な役割を担うpodocalyxinの発現低下を抑制する作用を有するものであり、よって糖尿病性腎症の発症やその進行を予防する組成物または糖尿病性腎症を改善する組成物の有効成分として使用することが可能である。
上記のスクリーニング方法によって選別された候補物質は、さらに糖尿病性腎症を有する病態非ヒト動物を用いてスクリーニングにかけることもできる。かくして選別される候補物質は、さらに糖尿病性腎症を有する病態非ヒト動物を用いた薬効試験、安全性試験、さらに糖尿病性腎症を有する患者(ヒト)もしくはその前状態にある患者(ヒト)への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的な糖尿病性腎症の予防または治療用組成物の有効成分を選別取得することができる。
このようにして選別された物質は、必要に応じて構造解析を行った後、その物質の種類に応じて、化学的合成、生物学的合成(発酵を含む)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができ、糖尿病性腎症予防・治療用組成物の調製に使用することができる。
4.糖尿病性腎症の罹患リスクが高い被験者(糖尿病性腎症易罹患者)の選別方法
本発明は、また被験者について糖尿病性腎症の罹患・進行リスク(糖尿病性腎症を発症し易いまたは進行易いか/発症し難いまたは進行し難いかの別)を測定し、当該被験者の中から上記リスクの高い被験者を選別する方法を提供する。なお、本発明では、これらのリスクが高い被験者を「糖尿病性腎症易罹患者」と称する。
その選別方法としては、被験者の被験試料について、(4-1) EHF遺伝子の発現量(mRNA発現量)を指標とする方法、(4-2) EHFの産生量を指標とする方法、および(4-3) EHF遺伝子の糖尿病性腎症感受性SNPを指標とする方法、を挙げることができる。
(4-1) EHF遺伝子の発現量(mRNA発現量)を指標とする糖尿病性腎症易罹患者の選別方法
当該方法は、被験者由来の生体試料におけるEHF遺伝子の発現量、すなわちEHF mRNA発現量を測定することによって行うことができる。ここで生体試料としては、EHF遺伝子を発現し得る細胞を含む試料であればよいが、具体的には、血液を挙げることができる。
EHF mRNA発現量の測定方法は、上記(3-1)の方法で説明するように、定法に従って行うことができる。
かかる測定の結果、被験者の生体試料(被験試料)におけるEHF mRNAの発現量が、正常人由来の生体試料(対照試料)におけるEHF mRNAの発現量(対照発現量)よりも大きい場合に、前記被験者は糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い(糖尿病性腎症易罹患性)と判断することができる。
ここで「正常」とは、少なくとも腎症を発症していないか、または腎症を発症する前段階でもないという意味で用いられる。具体的には尿中アルブミン排泄率が20μg/分未満または尿中アルブミン/クレアチニン比が30mg/gCr未満である場合に、腎症に関して「正常」と判断することができる。
(4-2) EHFの産生量を指標とする糖尿病性腎症易罹患者の選別方法
当該方法は、被験者由来の生体試料におけるEHFの産生量を測定することによって行うことができる。ここで生体試料としては、EHF遺伝子を発現し、EHFを産生し得る細胞を含む試料であればよいが、具体的には血液を挙げることができる。
EHF産生量の測定方法は、上記(3-2)の方法で説明するように、定法に従って行うことができる。
かかる測定の結果、被験者の生体試料(被験試料)におけるEHFの産生量が、正常人由来の生体試料(対照試料)におけるEHFの産生量(対照産生量)よりも大きい場合に、前記被験者は糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い(糖尿病性腎症易罹患性)と判断することができる。
(4-3) EHF遺伝子の糖尿病性腎症感受性SNPを指標とする糖尿病性腎症易罹患者の選別方法
当該方法は、被験者から得られるゲノムDNAを対象として、ヒトEHF遺伝子のイントロン1の48位(rs717582)について塩基を検出し同定する工程を有するものである:
本発明の検出方法として好ましくは、ヒト被験者から得られるゲノムDNAを対象として、ヒトEHF遺伝子のイントロン1の48位(rs717582)について塩基を検出し同定する工程を有し、さらに、検出し同定した塩基がシトシン(C)である場合に、当該被験者を、糖尿病性腎症に罹りやすい者(糖尿病性腎症易罹患者)として判定し、選択する工程を有することができる。
当該方法によれば、糖尿病性腎症易罹患性及び糖尿病性腎症難罹患性の別、すなわち糖尿病性腎症罹患リスクを判定し診断することができる。当該糖尿病性腎症罹患リスクの判定(診断)は、上記SNPの塩基の別を判断基準(判断指標)として医師等の専門知識を有する者の判断を要することなく、機械的(自動的)に行なうことができる。このため、本発明の方法は、糖尿病性腎症の罹患危険度の検出方法と言うことができる。
なお、上記ゲノムDNAの抽出および目的塩基の検出は、公知の方法〔例えば、Bruce, et al., Geneme Analysis/A laboratory Manual (vol.4), Cold Spring Harbor Laboratory, NY., (1999)〕を用いて行うことができる。
ゲノムDNAの抽出を行う検体は、被験者および臨床検体等から単離されたあらゆる細胞(培養細胞を含む。但し生殖細胞は除く)、組織(培養組織を含む)、臓器、または体液(例えば、唾液、リンパ液、気道粘膜、精液、汗、尿等)などを材料とすることができる。該材料としては末梢血から分離した白血球または単核球が好ましく、特に白血球が最も好適である。これらの材料は、臨床検査において通常用いられる方法に従って単離することができる。
例えば白血球を材料とする場合、まず被験者より単離した末梢血から常法に従って白血球を分離する。次いで、得られた白血球にプロティナーゼKとドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を加えてタンパク質を分解、変性させた後、フェノール/クロロホルム抽出を行うことによりゲノムDNA(RNAを含む)を得る。RNAは、必要に応じてRNaseにより除去することができる。なお、ゲノムDNAの抽出は、上記の方法に限定されず、当該技術分野で周知の方法(例えば、Sambrook J. et. al., “Molecular Cloning: A Laboratry Manual (2nd Ed.)”Cold Spring Harbor Laboratory, NY)や、市販のDNA抽出キット等を利用して行なうことができる。さらに必要に応じて、ヒト第11染色体(11p12)上のEHF遺伝子またはそのイントロン1を含むDNAを単離してもよい。当該DNAの単離は、EHF遺伝子またはそのイントロン1にハイブリダイズするプライマーを用いて、ゲノムDNAを鋳型としたPCR等によって行うことができる。
目的塩基を検出する工程において、上記のようにして得られたヒトゲノムDNAを含む抽出物から、糖尿病性腎症に極めて関連性の深い糖尿病性腎症感受性SNPを検出する。なお、当該塩基の検出は、ヒトゲノムDNAを含む試料からさらに単離したヒト第11染色体上のEHF遺伝子、好ましくはそのイントロン1を含むLDブロック中の塩基配列を直接決定し、各ブロック内に位置する当該SNPの塩基の変異を調べる方法によってもよい。
例えば目的の塩基を検出する方法としては、上記のように該当領域の遺伝子配列を直接決定する方法の他に、多型配列が制限酵素認識部位である場合は、制限酵素切断パターンの相違を利用して、遺伝子型を決定する方法(以下、RFLPという)、多型特異的なプローブを用いハイブリダイゼーションを基本とする方法(例えば、チップやガラススライド、ナイロン膜上に特定なプローブを張り付け、それらのプローブに対するハイブリダイゼーション強度の差を検出することによって、多型の種類を決定する、または、特異的なプローブのハイブリダイゼーションの効率を、鋳型2本鎖増幅時にポリメレースが分解するプローブの量を検出することにより遺伝子型を特定する方法、ある種の2本鎖特異的な蛍光色素が発する蛍光を温度変化を追うことにより2本鎖融解の温度差を検出し、これにより多型を特定する方法、多型部位特異的なオリゴプローブの両端に相補的な配列を付け、温度によって該当プローブが自己分子内で2次構造をつくるか、ターゲット領域にハイブリダイズするかの差を利用して遺伝子型を特定する方法など)がある。また、さらに鋳型特異的なプライマーからポリメレースによって塩基伸長反応を行わせ、その際に多型部位に取り込まれる塩基を特定する方法(ダイデオキシヌクレオタイドを用い、それぞれを蛍光標識し、それぞれの蛍光を検出する方法、取り込まれたダイデオキシヌクレオタイドをマススペクトロメトリーにより検出する方法)、さらに鋳型特異的なプライマーに続いて変異部位に相補的な塩基対または非相補的な塩基対の有無を酵素によって認識させる方法などがある。
以下、従来公知の代表的な遺伝子多型の検出方法を列記するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
(a)RFLP(制限酵素切断断片長多型)法、(b)PCR−SSCP法(一本鎖DNA高次構造多型解析)〔Biotechniques, 16, 296-297 (1994)、及びBiotechniques, 21, 510-514 (1996)〕、(c)ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法〔Clin. Chim. Acta, 189, 153-157 (1990)〕、(d)ダイレクトシークエンス法〔Biotechniques, 11, 246-249 (1991)〕、(e)ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法〔Nuc. Acids. Res., 19, 3561-3567 (1991);Nuc. Acids. Res., 20, 4831-4837 (1992)〕、(f)変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis;DGGE)法〔Biotechniques, 27, 1016-1018 (1999)〕、(g)RNaseA切断法〔DNA Cell. Biol., 14, 87-94 (1995)〕、(h)化学切断法〔Biotechniques, 21, 216-218 (1996)〕、(i)DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法〔Genome Res., 8, 549-556 (1998)〕、(j)TaqMan−PCR法〔Genet. Anal., 14, 143-149 (1999);J. Clin. Microbiol., 34, 2933-2936 (1996)〕、(k)インベーダー法〔Science, 5109, 778-783 (1993);J. Biol. Chem., 30,21387-21394 (1999);Nat. Biotechnol., 17, 292-296 (1999)〕、(l)MALDI−TOF/MS法(Matrix Assisted Laser Desorption-time of Flight/Mass Spectrometry)法〔Genome Res., 7, 378-388 (1997);Eur. J. Clin. Chem. Clin. Biochem., 35, 545-548 (1997)〕、(m)TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10756-10761 (1997)〕、(n)モレキュラー・ビーコン(Molecular Beacons)法〔Nat. Biotechnol., 1, 49-53 (1998);遺伝子医学、4, 46-48 (2000)〕、(o)ダイナミック・アレル−スペシフィック・ハイブリダイゼーション(Dynamic Allele-Specific Hybridization;DASH)法〔Nat. Biotechnol.,1, 87-88 (1999);遺伝子医学、4, 47-48 (2000)〕、(p)パドロック・プローブ(Padlock Probe)法〔Nat. Genet.,3, 225-232 (1998) ;遺伝子医学、4, 50-51 (2000)〕、(q)UCAN法〔タカラ酒造株式会社ホームぺージ(http://www.takara.co.jp )参照〕、(r)DNAチップまたはDNAマイクロアレイ(「SNP遺伝子多型の戦略」松原謙一・榊佳之、中山書店、p128-135)、(s)ECA法〔Anal. Chem., 72, 1334-1341, (2000)〕。
以上は代表的な遺伝子多型検出方法であるが、本発明の糖尿病性腎症罹患リスクの判定には、これらに限定されず、他の公知または将来開発される遺伝子多型検出方法を広く用いることができる。また、本発明の遺伝子多型検出に際して、これらの遺伝子多型検出方法を単独で使用してもよいし、また2以上を組み合わせて使用することもできる。
以上、本発明の方法((4-1)〜(4-3))によって、糖尿病性腎症を発症するかまたはそれが進行する潜在的な危険度が相対的に高いことが判明した被験者に対しては、その旨を告知し、予め糖尿病性腎症の発症または進行を防ぐための的確な対策を講じることができる。従って、本発明は、糖尿病性腎症の発症や進行を予防するための検査方法として、さらには糖尿病性腎症に伴って生じる他の疾患や症状発生の予防のための検査方法として極めて有用である。
5.糖尿病性腎症の罹患リスク診断キット
本発明はまた、糖尿病性腎症の罹患リスクを診断するための試薬キット(診断キット)を提供する。特に、上記(4-3)で説明する糖尿病性腎症易罹患者の選別方法に使用される診断キットを提供する。
(5-1)プローブ
上記(4-3)にて説明する糖尿病性腎症感受性SNP並びに当該塩基を含むヌクレオチドの検出には、ヒト第11染色体(11p12)のEHF遺伝子上の糖尿病性腎症感受性SNPを含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該SNPを検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドが用いられる。かかるオリゴまたはポリヌクレオチドは、上記EHF遺伝子上においてSNP4139を含む16〜500塩基長、好ましくは20〜200塩基長、より好ましくは20〜50塩基長の連続した遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするように、上記塩基長を有するオリゴまたはポリヌクレオチドとして設計される。
ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら、Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USA, 第2版、1989に記載の条件)において、他のDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。好適には当該オリゴまたはポリヌクレオチドは、上記検出するSNPを含む遺伝子領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有することが望ましいが、かかる特異的なハイブリダイゼーションが可能であれば、完全に相補的である必要はない。
かかるオリゴまたはポリヌクレオチドとしては、下記(a)に示すオリゴまたはポリヌクレオチド(但し、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。
(a) EHF遺伝子の塩基配列において、イントロン1の48位(rs717582)に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド。
当該オリゴまたはポリヌクレオチドは、被験者について糖尿病性腎症に対する罹患性やその進行性を判定するために、ヒト第11染色体上のEHF遺伝子上に位置する糖尿病性腎症感受性SNP(rs717582)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズするオリゴまたはポリヌクレオチド「プローブ」として設計される。なお、これらのオリゴまたはポリヌクレオチドは、EHF遺伝子の塩基配列に基づいて、例えば市販のヌクレオチド合成機によって常法に従って作成することができる。
さらに好ましくは、当該プローブは、上記各SNPを含むオリゴヌクレオチドが検出できるように、放射性物質、蛍光物質、化学発光物質、または酵素等で標識される(後述)。
上記プローブ(オリゴまたはポリヌクレオチド)は任意の固相に固定化して用いることもできる。このため本発明はまた、上記プローブ(オリゴまたはポリヌクレオチド)を固定化プローブ(例えばプローブを固定化した遺伝子チップ、cDNAマイクロアレイ、オリゴDNAアレイ、メンブレンフィルター等)として提供するものである。当該プローブは、好適には糖尿病性腎症感受性遺伝子検出用のDNAチップとして利用することができる。
固定化に使用される固相は、オリゴまたはポリヌクレオチドを固定化できるものであれば特に制限されることなく、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーまたはその他の基板等を挙げることができる。固相へのオリゴまたはポリヌクレオチドの固定は、予め合成したオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上に載せる方法であっても、また目的とするオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上で合成する方法であってもよい。固定方法は、例えばDNAマイクロアレイであれば、市販のスポッター(Amersham社製など)を利用するなど、固定化プローブの種類に応じて当該技術分野で周知である〔例えば、photolithographic技術(Affymetrix社)、インクジェット技術(Rosetta Inpharmatics社)によるオリゴヌクレオチドのin situ合成等〕。
例えば、TaqMan PCR法〔Livak KJ. Gene Anal. 14, 143 (1999), Morris T. et al., J. Clin. Microbiol. 34, 2933 (1996)〕の場合、糖尿病性腎症感受性SNPを含む領域に相補的な20塩基長程度のオリゴヌクレオチドがプローブとして設計される。当該プローブは、5’末端を蛍光色素、3’末端を消光物質により標識され、検体DNAと特異的にハイブリダイズするが、そのままでは発光せず、別に加えられたPCRプライマーの上流からの伸長反応により5’側の蛍光色素結合が切断され、遊離した蛍光色素により検出される。
Invader法〔Lyamichev V. et al., Nat. Biotechnol. 17, 292 (1999)〕では、多型部位に隣接する配列(3’側と5’側の2種)に相補的なオリゴヌクレオチドがプローブとして設計される。検出は、これら2種のプローブと検体とは無関係な第3のプローブによって達成される。
(5-2)プライマー
本発明は、またヒト第11染色体のEHF遺伝子上の糖尿病性腎症感受性SNPを含む配列領域を特異的に増幅するためのプライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドを提供する。
かかるオリゴまたはポリヌクレオチドとしては、下記(a)に示すオリゴまたはポリヌクレオチド(但し、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする15〜30塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。
(a) ヒトEHF遺伝子の塩基配列において、イントロン1の48位(rs717582)に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド。
このようなオリゴヌクレオチドは、EHF遺伝子において、糖尿病性腎症感受性SNPの塩基(ヌクレオチド)を含む連続したオリゴまたはポリヌクレオチドの一部に特異的にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜30塩基長、好ましくは18〜25塩基長程度のオリゴヌクレオチドとして設計される。増幅するオリゴまたはポリヌクレオチドの長さは、用いられる検出方法に応じて適宜設定されるが、一般的には15〜1000塩基長、好ましくは20〜500塩基長、より好ましくは20〜200塩基長である。
ヒト第11染色体のEHF遺伝子上の、糖尿病性腎症感受性SNP(rs717582)近傍の15塩基長以上連続した塩基配列に特異的にハイブリダイズする塩基配列を有する上記の各種オリゴヌクレオチドは、本発明においてプライマーとして利用することができる。なお、これらのオリゴヌクレオチドは、ヒトEHF遺伝子の塩基配列に基づいて、例えば市販のヌクレオチド合成機によって常法に従って作製することができる。
Mass Array法にMALDI-TOF/MS(Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization Time-Of-Flight Mass Spectrometry)を応用した方法〔Haff LA. et al. Genome Res. 7, 378 (1997), Little DP. et al., Nature Medicine 3, 1413-1416 (1997)〕を例にとって、プライマーの具体的な利用方法を説明する。この場合、シリコンチップ上に固定した検体DNAに前記プライマーをハイブリダイズさせ、ddNTPを添加して一塩基だけを伸長させる。次いで、一塩基伸長産物を分離し、質量分析法により多型を検出する。この方法では、プライマーは通常15塩基長以上で可能な限り短く設計することが望ましい。
(5-3)標識物
上記本発明のプローブまたはプライマーには、遺伝子多型検出のための適当な標識物、例えば蛍光色素、酵素、タンパク質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が付加されたものが含まれる。
なお、本発明において用いられる蛍光色素としては、一般にヌクレオチドを標識して、核酸の検出や定量に用いられるものが好適に使用でき、例えば、HEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxylfluorescein、緑色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、NED(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄色蛍光色素)、あるいは、6−FAM(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄緑色蛍光色素)、ローダミン(rhodamin)またはその誘導体〔例えば、テトラメチルローダミン(TMR)〕を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光色素でヌクレオチドを標識する方法は、公知の標識法のうち適当なものを使用することができる〔Nature Biotechnology, 14, 303-308 (1996)参照〕。また、市販の蛍光標識キットを使用することもできる(例えば、アマシャム・ファルマシア社製、オリゴヌクレオチドECL 3’−オリゴラベリングシステム等)。
また、本発明のプライマーには、その末端に多型検出のためのリンカー配列が付加されたものも含まれる。このようなリンカー配列としては、例えば、前述したインベーダー法で用いられるオリゴヌクレオチド5’末端に付加される、フラップ(多型近傍の配列とは全く無関係な配列)等が挙げられる。
以上の、プローブまたはプライマー(標識されていてもよい)は、糖尿病性腎症罹患リスクの診断用試薬として利用することができる。
(5-4)糖尿病性腎症罹患リスク診断用試薬キット(診断キット)
本発明の診断キットは、糖尿病性腎症罹患リスクの診断に使用する試薬として、上記プローブまたはプライマーとして用いられるオリゴまたはポリヌクレオチド(なお、これらは標識されていても、また固相に固定化されていてもよい)を少なくとも1つ含むものである。本発明の診断キットは上記プローブまたはプライマーの他、必要に応じてハイブリダイゼーション用の試薬、プローブの標識、ラベル体の検出剤、緩衝液など、本発明の方法の実施に必要な他の試薬、器具などを適宜含んでいてもよい。
.糖尿病性腎症の予防又は治療剤
後述する実施例3に示すように、EHF遺伝子のsiRNAによると、EHF遺伝子を導入した細胞におけるEHF mRNAの発現が抑制されるとともに、podocalyxin遺伝子の発現を促進することができる。このことから、EHF遺伝子の発現を抑制するsiRNAは、糖尿病性腎症の予防又は治療剤の有効成分として使用することができることがわかる。
ゆえに本発明は、EHF遺伝子の発現を抑制するsiRNAを有効成分とする糖尿病性腎症の予防又は治療剤を提供する。
本発明が対象とするsiRNAは、二本鎖であり、EHF遺伝子の標的配列に相補的な配列であるセンス鎖と該センス鎖に相補的な配列であるアンチセンス鎖がハイブリダイズしてなっている。かかるsiRNAは、EHF遺伝子の発現を抑制するものであれば特に制限されないが、好ましくは配列番号7に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、その相補鎖として配列番号8に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドからなる二本鎖RNAを挙げることができる。
本発明の予防または治療剤は、上記のEHF遺伝子の発現を抑制するsiRNAに加え、任意の担体や添加剤、例えば医薬上許容される担体および添加剤を含むことができる。
医薬上許容される担体および添加剤としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤;セルロース、メチルセルロース等の結合剤;デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑剤;クエン酸、メントール等の芳香剤;安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤;メチルセルロース、ポリビニルピロリド等の懸濁剤;界面活性剤等の分散剤;水、生理食塩水等の希釈剤;ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
経口投与に好適な製剤としては、液剤、カプセル剤、サッシェ剤、錠剤、懸濁液剤、乳剤等を挙げることができる。非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、非経口的な投与製剤としては、他に水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。
本発明の予防または治療剤の投与量は、投与対象となる被験者の体重や年齢、並びに病気の重篤度等によって異なり、一概に設定することはできないが、例えば、成人1日あたり有効成分量として約0.1〜約500mg/kg体重を挙げることができる。
本発明の予防・治療剤は、糖尿病性腎症の予防または治療に有効に使用することができる。
本発明を、下記実施例等により説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例において、遺伝子操作、細胞培養等には、特に断りのない限り、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition (1989) (Cold Spring Harbor Laboratory Press), Current Protocols in Molecular Biology (Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)等に記載された方法を用いた。
実施例1 ゲノムワイドSNPs解析
(1)対象2型糖尿病患者
インフォームドコンセントの下、滋賀医科大学、東京女子医科大学、順天堂大学、川崎医科大学、岩手医科大学、取手協同病院、川井クリニック、大阪市立総合医療センター、千葉徳洲会病院、または大阪労災病院に定期的に来診する2型糖尿病患者を対象として実験を行なった。
なお、対象とした2型糖尿病患者は、下記診断基準に従って2つのグループに分類した:
1)糖尿病性腎症症例(94症例):糖尿病網膜症と、明らかな糖尿病性腎症(尿中アルブミン排泄率が200μg/分を超えるか、若しくは尿中アルブミン/クレアチニン比が300mg/gCrを超える)とを伴う患者、又は慢性透析療法を受けている患者、
2)対照群(94症例):腎機能障害の兆候は示していないが糖尿病網膜症を伴う患者(尿中アルブミン排泄率が20μg/分未満か、若しくは尿中アルブミン/クレアチニン比が30mg/gCr未満)。
(2)DNA試料の調製
前記2型糖尿病患者の末梢血液を採血し、得られた末梢血液10mlを3000回転で5分間遠心分離して、血清を除去した。ついで、得られた産物に、赤血球溶解液を添加して、室温で20分間インキュベートした。その後、インキュベーション後の混合物を、3000回転で5分間遠心分離して、上清を除去した。得られた沈殿に、プロティナーゼKを添加し、37℃で4時間以上インキュベートした。得られた産物を、フェノール−クロロホルムで処理し、得られた上層(水層)を回収し、これにイソプロパノールを添加して、DNAの沈殿を生じさせた。ついで、これを遠心分離(12000回転、10分)してDNAを回収し、1mlの70v/v%エタノール含有水溶液(含水エタノール)を添加し、得られたDNAのペレットをTE緩衝液(組成:10mM Tris-HCl, 1mM EDTA(pH8.0))に溶解し、DNA試料を得た。
(3)遺伝子型の判定
斯くして調製したDNA試料を用いて、インベーダー法により遺伝子型の判定を行った。解析するSNPは、Japanese SNPデータベース(IMS-JST SNPsデータベース:http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp)から無作為に選択した。各SNP遺伝子座の遺伝子型を、Multiplex PCRと組み合わせたインベーダー法(例えば、オオニシ(Ohnishi Y.)ら,J. Human. Genet., 46, 471-477, 2001等を参照のこと)により解析した。
より詳細な遺伝子多型の検索をダイレクトシーケンス法にて行った。ETS ホモローガス ファクター(EHF)を含むゲノム配列に関連するジーンバンク(GenBank)の情報を基にデザインしたPCRプライマーを用いて、標的部位を増幅した。また、PCRプライマーのデザインに際して、ベッデル(Bedell)ら、(Bioinformatics, 16, 1040-1041, 2000)に記載されたように、商品名「REPEAT MASKERプログラム」(ワシントン大学より供給。ウェブページアドレス:http://repeatmasker.genome.washington.eduにて利用可能)により、検索対象から反復エレメントを排除した。
Multiplex PCRで採用した反応溶液および反応条件は、次の通りである:
反応溶液
組成:16.6mM (NH4)2SO4, 67mM Tris(pH8.8), 6.7mM MgCl2, 10mM 2-メルカプトエタノール, 6.7μM EDTA, 1.5mM dNTP, 10xTaqミックス(2.5U/μl Taq DNAポリメラーゼ, 31.25U/μl Taq Antibody), 0又は10% DMSO, 各0.25μMプライマー。
反応条件
95℃, 5分の反応後、95℃で15秒と60℃で45秒と72℃で3分とを1サイクルとする反応を40サイクル。
上記Multiplex PCRで増幅された産物をdH2Oで、1:11に希釈し、384プレートの各ウェルに分注した。ついで、プレートを風乾し、プレート上の各ウェルに、3μlインベーダー反応液(組成:10x緩衝液、10x FRETプローブ、10x cleavase、アレルプローブ)を添加した。その後、63℃で20分間インキュベートし、ついで、プレートの各ウェルについて、蛍光(励起波長:520nm, 蛍光波長:546nm)を測定した。
一方、TaqMan PCR は、下記の反応条件で行った。
ゲノムDNA(1ng/well)を384プレートの各ウェルに分注した後、風乾し、これに反応溶液(組成:10x ExTaq Buffer, dNTP 0.2mM, ExTaq HS 0.5U, primer & probe mix 0.125μl)5mlを加え、50℃で2分間、95℃で10分間反応させた後、92℃で15秒と60℃で1分とを1サイクルとする反応を35サイクル行なう。
斯くしてTaqMan PCRで増幅された産物についても、上記と同様にして蛍光(励起波長:520nm, 蛍光波長:546nm)を測定して遺伝子型を判定した。
(4)SNPの選択
糖尿病性腎症症例の94検体及び対照群の94検体のそれぞれに対し、81315個のSNP座について遺伝子タイピングを行なった。ついで、2x3分割表又は2x2分割表を用いた統計学的データを評価することにより、糖尿病性腎症症例と対照群との間の遺伝子型又は対立遺伝子頻度に、有意な差異を示したSNPを選択した。
なお、相関解析、ハプロタイプ頻度及びHardy-Weinberg平衡の統計解析並びに連鎖不均衡係数(D’)の算出は、デブリン(Devlin B.)ら(Genomics, 29, 311-322, 1995)及びニールセン(Nielsen DM.)ら(Am. J. Hum. Genet., 63, 1531-1540, 1998)の方法に従って行なった。
以上のスクリーニングにおいて、糖尿病性腎症症例の患者と対照群の個体との間で0.01未満のp値を示したSNP座を、さらに多数の患者を対象として、ゲノムワイドで解析した。
その結果、ある特定のSNP座(rs717582)において、糖尿病性腎症との強い相関が認められた。当該SNPは、第11番染色体上のETS ホモローガス ファクター(EHF)遺伝子のイントロン1(配列番号1)に存在し、この48番目に位置するSNPのシトシン対立遺伝子頻度が、糖尿病性腎症群で対照群に比し有意に高くなっていた。
なお、このSNP座(rs717582)領域を増幅するために使用したプライマーの塩基配列を配列番号2および3に、またこの領域のSNPを含む増幅領域を検出するために使用したインベーダープローブの塩基配列を配列番号4に示す。また当該SNPを含む増幅領域のT対立遺伝子およびC対立遺伝子を検出するためのアレルプローブの塩基配列を、それぞれ配列番号5および6に示す。
このSNPのアレル頻度を、糖尿病性腎症症例と対照群とで対比した結果を表1に示す。
Figure 2010115115
表2に遺伝子型分布を示す。
Figure 2010115115
かかる検討結果から、このSNP座(rs717582)におけるC対立遺伝子保有者では、糖尿病性腎症の発症リスクが、T対立遺伝子非保有者に比べて、有意に高くなっていることが明らかとなった。
実施例2 Pod-7細胞へのEHF導入によるpodocalyxin発現変動の確認
ラット糸球体上皮細胞株Pod-7に、ETS ホモローガスファクター(EHF)を過剰発現させ、podocalyxin発現の変動を調べた。
(1)方法
Pod-7細胞(2 x 104 cells/0.5ml/well)を10%血清入りD-MEM/F-12培地を用いて24ウェルプレートに蒔いて37℃, 5% CO2環境下で培養を開始した。翌日に、これにhuman EHF遺伝子またはGFP遺伝子の発現ベクターを含むレトロウィルスを添加し(各々0.4μl、2μl、10μl)、4時間感染させた後に培地を除いて、血清入り培地に置換した。感染3日後に6ウェルプレートに蒔いて培養を継続し、さらに3日後に100mmディッシュ3枚に蒔いて培養を継続した。2日後(感染からは8日後)に溶解剤を加えて、常法に従いtotal RNAをカラム抽出した。次に、5μg相当量のtotal RNAを逆転写してPCR用のtemplateとし、合成primerを用いて定量real-time PCR法にてEHF mRNA量、podocalyxin mRNA量およびNHERF2 mRNA量を測定した。この時、同時測定したGAPDH mRNA量によって補正し、相対値とした。
(2)結果
Pod-7細胞を、human EHF遺伝子またはGFP遺伝子発現ベクターを含むレトロウィルスを用いて感染導入し、得られた細胞におけるpodocalyxin mRNA発現を定量real-time PCR法にて確認した。
結果を図1a〜cに示す。図1aに示すように、EHF感染量が多くなるにつれて用量依存的にpodocalyxin mRNAの発現率が低下した。この時、図1bに示すように、EHF感染量が多くなるにつれて用量依存的にEHF mRNA発現が増加していた。一方、図1cに示すように、EHFの感染量が多くなるにつれてNHERF2発現率は低下傾向にあった。
(3)考察
以上の結果から、糸球体濾過機能に重要なpodocalyxinの発現はEHFの導入によって低下することがわかり、EHFは腎症においては病態悪化因子であることが示された(図1a)。さらに、podocalyxinと細胞内アクチン骨格とを仲介しているpodocalyxinの細胞内裏打ちタンパクであるNHERF2の発現は、EHFの導入によって低下する傾向にあることが分かった(図1c)。すなわち、上記のことから、EHFがpodocalyxinのみならずpodocalyxinの細胞内結合因子の発現の抑制を介しても、腎症の悪化に関わっている可能性が示された。
実施例3 EHF感染導入Pod-7細胞でのpodocalyxin発現量変動の可逆性の解析
EHF感染導入Pod-7細胞におけるEHF発現をsiRNAによって抑制し、podocalyxin発現の回復の有無を調べた。
(1)方法
上記の結果から、EHF感染によるpodocalyxinの発現制御は可逆的であることが示された。このことは、EHFの発現を抑制することにより、podocalyxinの発現を促進させて腎症の治療が可能となることを示唆するものである。
実施例4 糖尿病性腎症モデルマウスでのEHF発現の確認
糖尿病性腎症モデルマウス(db/dbマウス) の腎皮質におけるEHF発現を、定量PCRを用いて調べた。
(1)方法
糖尿病性腎症モデルマウス(db/dbマウス)およびC57BL/6 leanマウス(いずれも13週齢)から腎臓を採取し、PBSにて灌流後、腎皮質組織片を採取し、溶解剤を加えて常法に従いtotal RNAを抽出した。次に、1.1μg相当量のtotal RNAを逆転写してPCR用のtemplateとし、合成primerを用いて定量real-time PCR法にてEHF mRNA量を測定した。この時、同時に測定した36B4 mRNA量によって補正し、36B4 mRNA量に対する相対値(EHF mRNA量/36B4 mRNA量)として算出した。
また、上記方法で採取した腎皮質部位の一部を免疫組織化学用にTISSUE-TEK(MILES)に包埋して凍結した。クライオスタットで薄切片を作成後、2% PFA/4% Sucrose/PBSで10分間固定し、さらに0.3% Triton X-100/PBSで10分間透過化処理を行った。10% FBS/PBSで50分間ブロッキングした後、抗podocalyxin抗体(自製抗体、x100 diluted/10% FBS/PBS)を用いて室温で2時間反応を行った。0.1% Tween20/PBSによる5分間の洗浄を3回行った後、2次抗体(抗ウサギポリクローナル抗体; x100 diluted/PBS)を用いて室温で1時間反応を行った。0.1% Tween20/PBSによる5分間の洗浄を3回行った後、10% PBS/glycerolで包埋し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
(2)結果
db/dbマウスおよびC57BL/6 leanマウスの腎皮質におけるEHFの発現量(EHF mRNA量/36B4 mRNA量)を図3aに、また各腎皮質凍結切片の免疫組織画像を図3bに示す。
図3aに示すように、腎皮質におけるEHF発現は、C57BL/6 leanマウスに比べて糖尿病性腎症モデルマウス(db/dbマウス)でEHF発現が増加していた(n=2 平均値をグラフ化)。また、図3bに示すように、podocalyxinの発現は糸球体上皮細胞で強く発現していたが、C57BL/6 leanマウスに比べて糖尿病性腎症モデルマウス(db/dbマウス)ではその発現が低下していた。
(3)考察
以上示すように、糖尿病性腎症モデルマウス(db/dbマウス)ではEHFの発現が亢進しており(図3a)、逆に糸球体上皮細胞でのpodocalyxinの発現が低下していたことから(図3b)、糖尿病性腎症の病態において、EHF発現が増加し、その結果podocalyxin発現が低下して腎症を悪化させている可能性が示唆された。
実施例5 EHF発現を亢進させる因子の探索
EHFの発現を増加させる因子を探索した。
(1)方法
Pod-7細胞(1 x 105 cells/2ml/well)を、10%血清入りD-MEM培地を用いて6ウェルプレートに蒔いて37℃, 5% CO2環境下で培養を開始した。翌日に血清を除去して培養を続け、さらに翌日、(a)TNF-α(5ng/ml)添加、(b)IL-1β(5ng/ml)添加、または(c)両因子添加〔TNF-α(5ng/ml)+IL-1β(5ng/ml)〕を行って刺激を開始し、7.5時間後に溶解剤を加えて常法に従いtotal RNAを抽出した。次いで1μg相当量のtotal RNAを逆転写してPCR用のtemplateとし、合成primerを用いて定量real-time PCR法にてEHF mRNA量を測定した。この時、同時測定したGAPDH mRNA量によって補正し、GAPDH mRNA量に対する相対値(EHF mRNA量/GAPDH mRNA量)を算出した。
(2)結果
結果を図4に示す。図4に示すように、Pod-7細胞に対して(a)TNF-α添加、(b)IL-1β添加、および(c)両因子添加を行った際のEHF mRNA発現は、TNF-α添加によっては殆ど変化なかったが、IL-1β添加によって約1.4倍増加した。また、TNF-αおよびIL-1βを同時に添加することにより、EHF mRNA発現は約2倍にまで増加した。
(3)考察
以上のことから、炎症性サイトカインであるIL-1βによってEHF発現が亢進すること、特にTNF-αおよびIL-1βの併用によってEHF発現が相乗的に亢進することが判明した。糖尿病には肥満を伴って炎症性サイトカインの発現亢進が認められる場合があることから、上記の結果は、糖尿病によりEHF発現が上昇する可能性を示唆するものであった。
実施例2において、EHF遺伝子を過剰に発現させるように導入したPod-7細胞における各遺伝子〔podocalyxin(図a)、EHF(図b)、NHERF2(図c)〕の発現を検討した結果を示す。対照として、通常のPod-7細胞(intact)、GFP(Green Fluorescent Protein)を過剰に発現させたPod-7細胞を用いて、同様に各遺伝子の発現を検討した結果を併せて示す。 実施例3において、EHF遺伝子を発現させるように導入したPod-7細胞において、EHFの発現をsiRNAで抑制させた場合の、EHFの発現量(EHF mRNA量)(図a)とpodocalyxinの発現量(podocalyxin mRNA量)(図b)を調べた結果を示す。対照として、EHF siRNAに代えてnegative control siRNAを用いて、同様に各遺伝子の発現を検討した結果を併せて示す。なお、結果は、同時に測定したGAPDH mRNAの量との相対比(Ratio)で示す。 実施例4において、糖尿病性腎症モデルマウス(db/dbマウス)と正常マウス(C57BL/6 leanマウス)の腎臓におけるEHFの発現量(EHF mRNA量)(図a)、およびpodocalyxinの発現量(図b)を調べた結果を示す。なお、図aの縦軸は、同時に測定したGAPDH mRNAの量との相対比(Ratio)を示す。 実施例5において、EHF遺伝子を発現させるように導入したPod-7細胞を、炎症性サイトカインである(a)TNF-α、(b)IL-1β、(c)TNF-α+IL-1βの存在下または非存在下(intact)で培養した場合における、EHFの発現量(EHF mRNA量)を調べた結果を示す。なお、縦軸は、同時に測定したGAPDH mRNAの量との相対比(Ratio)を示す。
配列番号1は、EHF遺伝子イントロン1における1位〜100位の塩基配列を示す。
配列番号2および3は、rs717582領域を増幅するためのプライマーの塩基配列を示す。
配列番号4はSNPを含む増幅領域を検出するためのインベーダープローブの塩基配列を、配列番号5はSNPを含む増幅領域のT対立遺伝子を検出するためのアレルプローブの塩基配列を、また配列番号6はSNPを含む増幅領域のC対立遺伝子を検出するためのアレルプローブの塩基配列を、それぞれ示す。
配列番号7および8は、EHF siRNA(Invitrogen社の「STEALTH SELECT RNA」の二本鎖RNAの塩基配列を示す。

Claims (10)

  1. 下記の工程を有する、糖尿病性腎症の予防または治療剤をスクリーニングする方法:
    (1)被験物質とEHF遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
    (2)被験物質を接触させた細胞のEHF遺伝子の発現量を測定する工程、及び
    (3)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞のEHF遺伝子の発現量よりも小さい被験物質を選択する工程。
  2. 下記の工程を有する、糖尿病性腎症の予防または治療剤をスクリーニングする方法:
    (1’)被験物質とEHFを産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
    (2’)被験物質を接触させた細胞またはその細胞画分のEHFの産生量を測定する工程、及び
    (3’)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞もしくはその細胞画分のEHFの産生量よりも小さい被験物質を選択する工程。
  3. 下記の工程を有する、糖尿病性腎症の予防または治療剤をスクリーニングする方法:
    (1”)被験物質とEHFを産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分を接触させる工程、
    (2”)被験物質を接触させた細胞またはその細胞画分のEHFの作用を検出する工程、及び
    (3”)上記で検出した作用が、被験物質を接触させない対照細胞またはその細胞画分のEHFの作用よりも小さい被験物質を選択する工程。
  4. EHF遺伝子を発現可能な細胞またはEHFを産生可能な細胞が、糸球体上皮細胞である請求項1〜3のいずれかに記載のスクリーニング方法。
  5. 糖尿病性腎症の予防または治療剤の有効成分を探索する方法である請求項1〜4のいずれかに記載のスクリーニング方法。
  6. 被験者由来の被験試料におけるEHFのmRNA発現量を測定する工程を含み、ここで、被験試料における当該発現量が、正常人由来の対照試料におけるEHFのmRNA発現量よりも大きいことを、前記被験者が糖尿病性腎症に罹患する可能性が高いとの指標とする、糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い被験者の選別方法。
  7. 被験者由来の被験試料におけるEHFの産生量を測定する工程を含み、ここで、被験試料における当該産生量が、正常人由来の対照試料におけるEHFの産生量よりも大きいことを、前記被験者が糖尿病性腎症に罹患する可能性が高いことの指標とする、糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い被験者の選別方法。
  8. 被験者由来の被験試料におけるEHF遺伝子のイントロン1に存在する48番目における塩基を検出する工程を含み、これらの塩基がシトシンであることを、上記被験者が糖尿病性腎症に罹患する可能性が高いことの指標とする、糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い被験者の選別方法。
  9. EHF遺伝子のイントロン1に存在する48番目における塩基を検出するための試薬を含む、糖尿病性腎症の罹患性診断キット。
  10. EHF遺伝子の発現を抑制するsiRNAを有効成分として含む糖尿病性腎症の予防又は治療剤。
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