JP2010101409A - 係合装置 - Google Patents

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大輔 友松
Arata Murakami
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修司 森山
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真史 山本
Daisuke Tokozakura
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Abstract

【課題】伝達トルク容量を増大し、かつ引き摺り損失を低減することが可能な係合装置を提供する。
【手段】同軸上で相対回転可能な第1回転部材2および第2回転部材3と、それらが回転半径方向で対向する対向面2a,3a間に形成された隙間5と、隙間5を含み回転部材2,3間の空間に形成された流体室8と、流体室8に介在させられるとともに基液9a中に磁性体9bを分散させた構成で磁界の作用により粘性が変化する磁性流体9と、隙間5に磁界を発生させる励磁手段10とを備え、隙間5の磁界を制御して磁性流体9の粘性を変化させることにより回転部材2,3間の伝達トルク容量を制御する係合装置において、少なくともいずれかの対向面2a,3aに、基液9aをはじく撥液性を有する撥液層11を形成し、遠心力が作用する場合に基液9aの隙間5内からの排出を促す方向に傾いた傾斜2c,2d,3c,3dを設ける。
【選択図】図3

Description

この発明は、2つの回転部材の間で、磁界が作用することにより見かけの粘性が増大する磁性流体を介して、選択的に動力伝達を行う係合装置に関するものである。
従来、2つの回転部材の間で選択的に動力伝達を行う係合装置として、磁界が作用することにより見かけの粘性が増大する磁性流体(もしくは磁気粘性流体,MR流体)を利用したクラッチが知られている。例えば、特許文献1には、入力軸の駆動力を流体の粘性摩擦によって出力軸に伝達する可変クラッチが記載されている。この特許文献1に記載された可変クラッチは、流体内に混入された磁性成分と、その流体内における磁性成分の磁気的結合力を変化させて流体の見かけの粘性を変化させる可変手段とを有し、可変手段により粘性流体内に混入された磁性成分の密度を変化させてクラッチの係合度合いを制御するように構成されている。
なお、特許文献2には、磁性粒子が封入された連結空隙を介して対向する第1連結主体および第2連結主体と、連結空隙に磁束を発生させてその連結空隙内の磁性粒子同士を固化させることにより第1連結主体と第2連結主体とを連結させる電磁コイルとから構成された磁性粒子式電磁連結装置が記載されている。
また、特許文献3には、固定部材に対し回転部材を回転自在に支承するラジアル軸受部を有し、固定部材と回転部材との間にオイルを充填するとともに、ラジアル軸受部の軸方向両端側に隙間変化部が形成された軸受のシール装置に関する発明が記載されていて、オイルとして磁性流体を使用した実施の形態が開示されている。またこの特許文献3には、オイルの濡れ拡散を生じ難くしてオイルを保持し易くするために、隙間変化部の内壁面に撥油処理やフッ素樹脂コーティングを施すようにした実施の形態も開示されている。
特開平8−277853号公報 実公平3−31863号公報 特許第2937839号公報
上記の特許文献1に記載された可変クラッチは、前述したように、可変手段により粘性流体内に混入された磁性粉あるいは磁性流体などの磁性成分の密度を変化させることにより、クラッチの係合度合いを制御するように構成されている。より具体的には、可変手段として入力軸側と出力軸側との2個所に設けられた電磁石に通電する電流をそれぞれ制御してそれら2つの電磁石の励磁状態をそれぞれ変化させて、粘性流体内に混入された磁性成分を粘性流体内で入力軸側もしくは出力軸側に移動させることにより、粘性流体内における磁性成分の密度を変化させるようになっている。したがって、この特許文献1に記載された可変クラッチによれば、電磁石により粘性流体内に混入させた磁性成分の密度を変化させることによって、粘性流体の粘性を変化させて入力軸側の回転要素と出力軸側の回転要素との間の係合度すなわちクラッチの伝達トルク容量を自由に設定することができる、とされている。
しかしながら、この特許文献1に記載された可変クラッチは、磁性粉あるいは磁性流体などの磁性成分を粘性流体内に混入して用いているので、その粘性流体内における磁性成分の密度が、例えば従来の磁性粉を用いたパウダクラッチと比較して、磁気結合している磁性粉間の摩擦力が相対的に低くなる。そのため、クラッチ係合時の伝達トルク容量が、従来のパウダクラッチ等と比較して相対的に小さくなってしまう問題があった。また、入力軸側の回転要素と出力軸側の回転要素との間には粘性流体が常に介在しているので、クラッチ解放時すなわち動力伝達が不要な時であっても、粘性流体の粘性抵抗による引き摺り損失が発生してしまう問題があった。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、伝達トルク容量を増大し、かつ引き摺り損失を低減することが可能な係合装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、同一軸線上で互いに相対回転可能に配置された第1回転部材および第2回転部材と、該第1回転部材と該第2回転部材とがそれらの回転半径方向で互いに対向するそれぞれの対向面の間に形成された隙間と、該隙間を含み前記第1回転部材と前記第2回転部材との間の空間に形成された流体室と、該流体室に介在させられるとともに基液中に磁性体を分散させることにより構成されて磁界が作用することにより粘性が増大する磁性流体と、前記隙間に磁界を発生させる励磁手段とを備え、該励磁手段により前記隙間に発生させる磁界を制御することにより前記磁性流体の粘性を変化させて前記第1回転部材と前記第2回転部材との間の伝達トルク容量を制御する係合装置において、少なくともいずれか一方の前記対向面に、前記基液をはじく撥液性を有する撥液層が形成されているとともに、前記隙間内における前記磁性流体に前記回転半径方向の遠心力が作用する場合に前記隙間内からの前記基液の排出を促す方向に傾いた傾斜が設けられていることを特徴とする係合装置である。
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記磁性流体と接する前記流体室内の表面に、前記撥液層が形成されていることを特徴とする係合装置である。
請求項1の発明によれば、第1回転部材と第2回転部材との間の隙間に磁界を発生させることにより、隙間内に介在している磁性流体の磁性体が磁界に吸引され、それら磁性体同士が互いに締結した状態になって隙間内におけるせん断抵抗となる。すなわち隙間内における磁性流体の粘性が増大する。その結果、第1回転部材と第2回転部材との間の相対回転が規制されて第1回転部材と第2回転部材との間が動力伝達可能な状態になる。すなわち、第1回転部材と第2回転部材との間の伝達トルク容量が増大し、第1回転部材と第2回転部材との間が係合状態になる。この場合、第1回転部材と第2回転部材との係合力(もしくは締結力)すなわち係合装置の伝達トルク容量は、隙間内の磁性流体の粘性が高いほど大きくなる。
そして、磁性流体を介在させる隙間の表面、すなわち隙間を形成している第1,第2回転部材のそれぞれの対向面のうち少なくともいずれか一方に、磁性流体の基液を撥液する撥液層が形成されるとともに、各部材が回転して磁性流体に遠心力が作用する際に隙間内の磁性流体がその隙間から排出され易くなる方向に傾いた傾斜が設けられる。したがって、隙間に磁界を発生させて第1回転部材と第2回転部材との間を係合状態にする場合に、隙間内の磁性流体は、隙間内からの基液の排出が促進され、隙間内に基液が介在しない状態もしくは隙間内の磁性流体における基液の密度が低下した状態、すなわち隙間内の磁性流体における磁性体の密度が増大した状態でそれら磁性体同士が互いに締結し合うことになる。そのため、隙間内の磁性流体の粘性抵抗もしくはせん断抵抗を高めて、第1回転部材と第2回転部材との間をより強い力で係合すること、すなわち係合装置の伝達トルク容量を増大することができる。
また、磁性流体を介在させる隙間の表面に撥液層が形成されていることにより、その撥液層が形成されている部分と磁性流体との間の摩擦抵抗が低下する。そのため、第1回転部材と第2回転部材との間を解放状態にする場合、すなわち第1回転部材と第2回転部材との間の動力伝達を遮断する場合に、第1回転部材と第2回転部材との間における磁性流体を介した引き摺り損失を低減することができる。
また、請求項2の発明によれば、第1回転部材と第2回転部材との間の隙間の表面に加えて、第1回転部材と第2回転部材との間の空間に形成されて磁性流体を介在させる流体室内の表面、すなわち流体室内における磁性流体と接触する面に、磁性流体の基液を撥液する撥液層が形成される。そのため、第1回転部材と第2回転部材との間を解放状態にするもしくは第1回転部材と第2回転部材との間の動力伝達を遮断する場合に、第1回転部材と第2回転部材との間における磁性流体を介した引き摺り損失を一層低減することができる。
なお、この発明における撥液性とは、いわゆる撥水性および撥油性を総称したものであり、したがって、磁性流体の基液に対する撥液性を有する撥液層とは、例えば基液が水性材料である場合は、撥水性を有する撥水層であり、あるいは基液が油性材料である場合は、撥油性を有する撥油層のことを示すものである。
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。この発明の係合装置は、動力源が発生する動力、具体的には回転力(トルク)を、第1,第2の2つの回転部材の間で選択的に伝達もしくは遮断するように構成されている。それら第1回転部材と第2回転部材との間における動力の伝達のために、磁界が作用することにより粘性が増大する磁性流体が第1回転部材と第2回転部材との間に形成された隙間に介在させられていて、そして、その隙間に磁界を発生させるための励磁手段として電磁コイルや電磁石など磁界や磁力を電気的に制御可能な機構が設けられている。
したがって、励磁手段を電気的に制御することにより、第1回転部材と第2回転部材との間の隙間に介在させられている磁性流体の粘性を変化させて第1回転部材と第2回転部材との間の動力の伝達・遮断状態すなわち伝達トルク容量を制御するように構成されている。例えば、電磁コイルに通電して第1回転部材と第2回転部材との間の隙間に磁界を発生させることにより、隙間内の磁性流体の粘性を増大させ、もしくは実質的に固化させて、第1回転部材と第2回転部材との間で磁性流体を介して動力の伝達を行い、また、電磁コイルに通電させず第1回転部材と第2回転部材との間の隙間に磁界を発生させないことにより、隙間内の磁性流体の粘性を低下させ、すなわち磁性流体の流動性を最大にして、第1回転部材と第2回転部材との間の動力伝達を遮断するようになっている。
図1に、この発明を電磁力を利用してクラッチの開・閉(係合・解放)を行う電磁クラッチに適用した例を示してある。符号1は、この電磁クラッチCLの入力軸であり、その一方の端部は、例えばエンジンやモータなどの動力源(図示せず)と動力伝達可能に直接もしくは間接的に連結されていて、そして、この入力軸1の他方の端部は、所定の軸受(図示せず)などにより回転自在に支持された駆動輪2に一体に連結されている。したがって、この駆動輪2は、入力軸1を回転軸として回転する回転部材であり、この発明の第1回転部材に相当している。また、駆動輪2は、後述する受動輪3および磁性流体9等を収容するケーシングを兼ねていて、中空構造の円板状の部材により形成されている。なお、上記の駆動輪2や後述の受動輪3などを含め、この電磁クラッチCL全体を収容するハウジング(図示せず)を備えた構成とすることもできる。
駆動輪2の中空部分に、受動輪3が駆動輪2と互いに相対回転可能に配置されている。そしてこの受動輪3と、入力軸1と同一軸線上で相対回転可能に配置された出力軸4とが一体に連結されている。すなわちこの受動輪3は、出力軸4を回転軸として回転する回転部材であり、この発明の第2回転部材に相当している。したがって、駆動輪2と受動輪3とは、入力軸1および出力軸4と同じ軸線上で互いに相対回転可能に配置されている。
受動輪3は、上記のように駆動輪2の中空部分に駆動輪2と相対回転可能に配置されていて、受動輪3の外周面と駆動輪2の中空部分の内周面との間には所定の間隔が設けられている。特に、それら駆動輪2と受動輪3とが回転半径方向(図1での上下方向)で互いに対向するそれぞれの対向面2a,3aの間、すなわち駆動輪2の中空部分の内周面が回転半径方向で受動輪3の外周面と対向する対向面2aと、その対向面2aと回転半径方向で対向する受動輪3の外周面の対向面3aとの間には、ギャップ(隙間)5が形成されている。言い換えると、駆動輪2と受動輪3とが回転半径方向で互いに対向する部分に、駆動輪2の対向面2aと受動輪3の対向面3aとからなるギャップ5が形成されている。
受動輪3は、上記のギャップ5における対向面3aの対向面2aと対向する部分の面積を広く確保するため、その対向面3aが形成される受動輪3の外周部分がフランジ状に形成されている。そして、その外周部分より内周側の部分がウェブ状に形成されている。すなわち、外周部分の厚さ寸法(図1での左右方向の寸法)と比較して内周部分が薄肉に形成されている。したがって、駆動輪2の中空部分内における駆動輪2の中空部分の内周面と受動輪3の外周面との間には、上記のギャップ5と、そのギャップ5よりも相対的に間隔が広い駆動輪2と受動輪3とが軸線方向(図1での左右方向)で互いに対向する部分の空間6とが形成される。
なお、上記の駆動輪2および受動輪3は、後述する電磁コイル10に通電して駆動輪2およびギャップ5ならびに受動輪3の間に磁界を発生させるために、磁性を帯びることが可能な材料、例えば鉄やニッケルなどを含む金属材料により形成されている。
上記のように一方の端部が受動輪3と一体に連結された出力軸4の他方の端部は、駆動輪2の中空部分の開口部2bから外部に延出されていて、所定の軸受(図示せず)などにより回転自在に支持されている。そして、例えば変速機の入力軸(図示せず)や駆動輪もしくは駆動部材に動力を伝達する駆動軸(いずれも図示せず)と動力伝達可能に連結されている。
また、駆動輪2の開口部2bの内径は、出力軸4の外径よりも若干大きく設定されていて、それら駆動輪2の開口部2bと出力軸4との間には、駆動輪2の中空部分すなわち上記のギャップ5および空間6の液密性を確保し、かつ開口部2bと出力軸4との間の摺動を容易にするシール軸受7、もしくはオイルシールやOリングなどのパッキン7が取り付けられている。したがって、ギャップ5と空間6とにより形成される空間8は、液密性を備えた流体室8となっていて、これが後述する磁性流体を封入して介在させる、この発明における流体室に相当している。
上記のように、駆動輪2の中空部分の駆動輪2と受動輪3との間に形成されるギャップ5を含む流体室8は液密性を備えていて、その流体室8の内部に、この発明における磁性流体に相当する磁性流体9もしくは磁気粘性流体9あるいはMR流体(MRF;Maguneto Rheological Fluids)9(以下、仮にこれらを磁性流体9と記す)が封入されている。この磁性流体9は、従来知られているものであり、磁気を印加することによりその流動性が低下するもしくは固化する流体、言い換えると、磁界が作用することによりその粘性が増大するもしくは固化する流体である。
具体的には、磁性流体9は、図2に示すように、媒体となる基液(ベース液)9a中に、例えば鉄粉などの磁性体(磁性粒子)9bをその表面に界面活性剤9cを吸着させて分散させることにより構成されるコロイド溶液であって、界面活性剤9cと基液9aとの親和力、および界面活性剤9c同士の反発力により、基液9a中で磁性体9bが凝集したり沈降したりすることなく安定した分散状態が保たれている。
基液9aとしては、例えば、水、鉱物油、イソパラフィン、アルキルナフタレン、パーフルオロポリエーテルなどを用いることができる。また、磁性体9bとしては、例えば、マグネタイト(鉄粉)あるいはマンガン亜鉛フェライトなどの強磁性微粒子などを用いることができる。
このようにして流体室8に封入されて介在させられる磁性流体9に対して、ギャップ5において磁界を作用させ、ギャップ5内の磁性流体9の流動性を低下させるもしくは実質的に固化させるための電磁コイル10が駆動輪2に取り付けられている。すなわち、電磁コイル10に通電することにより、駆動輪2の対向面2aを含む内周部分からギャップ5および受動輪3の対向面3aを含む外周部分を通る磁界が発生するように、駆動輪2に電磁コイル10が取り付けられている。
電磁コイル10には、電磁コイル10に電流を供給する電源(図示せず)と、その電流値を制御する制御装置(図示せず)とが接続されている。例えば、電磁コイル10と電源および制御装置等との間を通電用のブラシ(図示せず)を用いて電気的に接続することにより、駆動輪2および受動輪3の回転時もしくは停止時の何れの場合においても、電磁コイル10に電流を供給し、ギャップ5部に発生させる磁界を制御することができるように構成されている。すなわち、この電磁コイル10が、上記のギャップ5に磁界を発生させるこの発明における励磁手段に相当している。
したがって、電磁コイル10を電気的に制御してギャップ5に発生させる磁界を制御することにより、ギャップ5に介在している磁性流体9の粘性(もしくは流動性)を制御することができる。すなわち、電磁コイル10に所定の電流を通電することにより、その電流値に応じた強さの磁界をギャップ5に発生させ、ギャップ5内の磁性流体9の粘性を増大させる、もしくはギャップ5内の磁性流体9を実質的に固化させることができる。そのため、ギャップ5における駆動輪2と受動輪3との間の磁性流体9による摩擦抵抗を増大させて駆動輪2と受動輪3との間の相対回転を規制し、それら駆動輪2と受動輪3との間を動力伝達可能な状態にすることができる。すなわち、駆動輪2と受動輪3との間の伝達トルク容量を増大させて、電磁クラッチCLを係合状態にすることができる。
ここで、前述したように、電磁コイル10に通電してギャップ5に磁界を発生させた電磁クラッチCLの係合時に、駆動輪2と受動輪3との間の動力伝達を所定の粘性を有する基液9a中に磁性体9bを混合した磁性流体9を介して行う場合は、例えば従来のパウダクラッチ(電磁粒子式クラッチ)と比較して、係合時の伝達トルク容量が相対的に小さくなる。また、非係合時すなわち解放時には、磁性流体9の基液9aの粘性抵抗による引き摺り損失が生じてしまう。
そこで、この発明における電磁クラッチCLでは、係合時の伝達トルク容量を大きくし、かつ解放時の引き摺り損失を低減するために、動力伝達のための磁性流体9が介在させられるギャップ5の対向面2aと対向面3aとに、磁性流体9の基液9aに対する撥液性を有する撥液層が形成されるとともに、それら対向面2a,3aに、駆動輪2と受動輪3とが回転してギャップ5内における磁性流体9に回転半径方向の遠心力が作用する場合に磁性流体9の基液9aがギャップ5内から流体室8の空間6側へ排出され易くなる方向に傾いた傾斜が設けられている。
すなわち、図3に示すように、駆動輪2の対向面2aおよび受動輪3の対向面3aに、それぞれ、傾斜2c,2dおよび傾斜3c,3dが形成されている。具体的には、駆動輪2の対向面2aには、対向面2aの幅方向(図3での左右方向)のほぼ中央部分が山形の頂点となるように、言い換えれば、対向面2aがギャップ5内において内側(図3での下側)に凸となるように、2面の傾斜2cおよび傾斜2dが形成されている。一方、受動輪3の対向面3aには、対向面3aの幅方向(図3での左右方向)のほぼ中央部分が谷形の底となるように、言い換えれば、対向面3aがギャップ5内において内側(図3での下側)に凹となるように、2面の傾斜3cおよび傾斜3dが形成されている。
このように、磁性流体9が介在させられるギャップ5の対向面2aおよび対向面3aに、それぞれ上記のような傾斜2c,2dおよび傾斜3c,3dが形成されることにより、ギャップ5に磁界が発生させられてギャップ5内の磁性流体9の磁性体9bがその磁界に引きつけられ、それら磁性体9b同士が互いに締結して集積した場合に、磁性流体9の基液9aがギャップ5内から排出され易くなっている。
具体的には、ギャップ5内の磁性流体9の基液9aに、駆動輪2および受動輪3の回転半径方向の遠心力、すなわち基液9aがギャップ5の外側(図3での上側)に移動させられる方向の力が作用すると、磁界の影響を受けない基液9aは、その遠心力によりギャップ5の外側すなわち対向面2a側に移動する。そして対向面2aに設けられた傾斜2c,2dに当接することによって、基液9aにはギャップ5内から排出される方向の遠心力の分力が働くことになる。その分力の作用によってギャップ5内からの基液9aの排出が促進されて、それら基液9aが排出された分、ギャップ5内における磁性流体9中の磁性体9bの密度が他の部分と比較して相対的に高くなる。その結果、ギャップ5内での磁性体9bによる締結力が増大し、駆動輪2と受動輪3とがより強い締結力で係合される。すなわち、電磁クラッチCLの伝達トルク容量が増大する。
なお、対向面3aに設けられる傾斜3c,3dは、上記のようにしてギャップ5内の基液9aに遠心力が作用する際に、対向面2aの傾斜2c,2dのように、基液9aにギャップ5内から排出される方向の遠心力の分力を発生させる機能はないものの、対向面2aの傾斜2c,2dとそれぞれ同じかもしくはほぼ同じ傾きとなるように形成することにより、基液9aがギャップ5内から排出される方向へ移動するのをガイドするガイド面として機能する。したがって、対向面3aに設けられる傾斜3c,3dは、上記の対向面2aに設けられる傾斜2c,2dと同様に、ギャップ5内における磁性流体9に駆動輪2および受動輪3の回転半径方向の遠心力が作用する場合に、ギャップ5内からの基液9aの排出を促す方向に傾いた傾斜であると言える。
また、上記のように、対向面2aの傾斜2c,2dと対向面3aの傾斜3c,3dとがそれぞれ同じかもしくはほぼ同じ傾きとなるように形成されることにより、仮に対向面2aと対向面3aとに傾斜が設けられなかった場合と比較して、ギャップ5の磁極面積すなわちギャップ5に磁界を発生させた場合に磁気が作用する部分の面積を増加させることができる。電磁クラッチCLの伝達トルク容量はこの面積に比例して大きくなるので、したがって、上記のように対向面2aの傾斜2c,2dと対向面3aの傾斜3c,3dとを形成することにより、電磁クラッチCLの伝達トルク容量を増大させることができる。
そして、各対向面2a,3aの表面、すなわち各傾斜2c,2d,3c,3dの表面には、撥液処理が施されて磁性流体9の基液9aを撥液する撥液層11が形成されている。この撥液層11は、磁性流体9の媒体である基液9aをはじく特性、すなわち基液9aに対する撥液性(撥水性もしくは撥油性)、言い換えると基液9aに対する非濡れ性を有しており、各対向面2a,3aの表面に、例えば、テトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン樹脂)やトリフルオロエチル等で代表されるフッ素系コーティング、あるいはシリコン系やパラフィン系のコーティングなどを施すことにより形成することができる。あるいは、各対向面2a,3aの表面に、微細な凹凸形状が連続するいわゆるフラクタル構造の層を生成することにより、各対向面2a,3aの表面と基液9aとの接触角を大きくして、基液9aに対する撥液性を有する撥液層11を形成することも可能である。
このように、ギャップ5の各対向面2a,3aの表面に、それぞれ上記のような撥液層11が形成されることにより、前述のようにギャップ5に磁界が発生させられてギャップ5内の磁性流体9の磁性体9bがその磁界に引きつけられ、それら磁性体9b同士が互いに締結して集積した場合に、磁性流体9の基液9aがギャップ5内から排出される際の、基液9aと撥液層11との間の摩擦抵抗が低減される。そのため、ギャップ5内からの基液9aの排出が一層促進されて、それら基液9aが排出された分、ギャップ5内における磁性流体9中の磁性体9bの密度が他の部分と比較して相対的に高くなる。その結果、ギャップ5内での磁性体9bによる締結力が一層増大し、駆動輪2と受動輪3とがより一層強い締結力で係合される。すなわち、電磁クラッチCLの伝達トルク容量が一層増大する。
さらに、上記のように基液9aと撥液層11との間の摩擦抵抗が低減されることにより、ギャップ5内の磁性流体9に磁界が作用させられず駆動輪2と受動輪3との間で動力伝達を行わない場合に、磁性流体9の通常(磁界が作用していない状態)の粘性により不可避的に発生する引き摺り損失が低減する。したがって、ギャップ5内の磁性流体9に磁界が作用させられず駆動輪2と受動輪3との間で動力伝達を行わない場合、すなわち電磁クラッチCLの解放時に、磁性流体9の通常の粘性により不可避的に発生する引き摺り損失を低減することができる。
なお、上記のような撥液層11は、ギャップ5内の各対向面2a,3aに形成されるのと併せて、駆動輪2の中空部分の内周面と受動輪3の外周面との間に形成される空間6内の表面6aにも、同様に形成することができる。磁性流体9が封入される空間6内の表面6aに撥液層11を形成することにより、磁性流体9が空間6内で接する全ての部分、すなわち、磁性流体9と駆動輪2および受動輪3とが接する全ての部分において、撥液層11によって磁性流体9の基液9aとの間の摩擦抵抗を低減することができる。そのため、ギャップ5内の磁性流体9に磁界が作用させられず駆動輪2と受動輪3との間で動力伝達を行わない場合、すなわち電磁クラッチCLの解放時に、磁性流体9の通常の粘性により不可避的に発生する引き摺り損失を一層低減することができる。
図4に、この発明の電磁クラッチCLの他の構成例を示す。前述の図3に示した電磁クラッチCLが、ギャップ5の対向面2aと対向面3aとの両方に、ギャップ5内における磁性流体9に駆動輪2および受動輪3の回転半径方向の遠心力が作用する場合にギャップ5内からの基液9aの排出を促す方向に傾いた傾斜2c,2dおよび傾斜3c,3dと、さらに基液9aに対する撥液性を有する撥液層11とを形成した構成であるのに対して、この図4に示す例は、ギャップ5の一方の対向面2aのみに、ギャップ5内における磁性流体9に駆動輪2および受動輪3の回転半径方向の遠心力が作用する場合にギャップ5内からの基液9aの排出を促す方向に傾いた傾斜2c,2dと、さらに基液9aに対する撥液性を有する撥液層11とが形成された構成となっている。
すなわち、図4に示すように、ギャップ5の対向面2aには、前述の図3に示した構成例と同様の傾斜2c,2dが形成されている。そして、その対向面2aすなわち傾斜2c,2dの表面には、前述の図3に示した構成例と同様の撥液層11が形成されている。一方、ギャップ5の対向面3aには、傾斜や撥液層は形成されず、対向面3aは、その幅方向(図4での左右方向)で平坦な円周面となっている。なお、この場合の対向面3aに、上記のような撥液層11のみを形成した構成であってもよい。
前述の図3に示した構成例のように、電磁コイル10を励磁状態にしてギャップ5に磁界を発生させた際にギャップ5内からの基液9aの排出が促進されると、電磁クラッチCLの伝達トルク容量が増大することの背反として、ギャップ5内に基液9aが介在しなくなったもしくは介在する基液9aが少なくなった状態から、ギャップ5内に再び基液9aが充填されるのに時間がかかり、その分だけ電磁クラッチCLの応答性が低下してしまうことが考えられる。その点に対して、この図4に示す構成では、ギャップ5の一方の対向面2aのみに傾斜2c,2dが設けられ、他方の対向面3aは平坦な円周面として形成されることにより、ギャップ5内から基液9aが排出された後、再びギャップ5内へ基液9aが充填される際に、対向面3aに傾斜3c,3dが形成されていない分だけその基液9aの充填が容易になり、その分だけ電磁クラッチCLの応答性を向上させることができる。
つぎに、上述した電磁クラッチCLの作用について説明する。図3の(a)に示す状態は、電磁クラッチCLにおいて動力の伝達を必要としない解放状態であって、電磁コイル10はOFF状態(通電されていない状態)である。この状態では、電磁コイル10に通電されないことによりギャップ5には磁界が発生していないので、ギャップ5内の磁性流体9は通常の流動性を維持している。言い換えると、ギャップ5内の磁性流体9はその粘性が最小になっている。そのため、ギャップ5内の磁性流体9では、駆動輪2と受動輪3との間で動力を伝達できる程度の粘性抵抗もしくはせん断抵抗は発生せず、したがって、駆動輪2と受動輪3との間では動力は伝達されない。すなわち、電磁コイル10をOFF状態に制御することにより、この電磁クラッチCLは解放状態に設定される。
この電磁クラッチCLの解放状態では、例えば動力源の動力により駆動輪2が回転している場合に、駆動輪2と受動輪3との間のギャップ5および流体室8に磁性流体9が介在していることによって不可避的に引き摺り損失が発生する。すなわち、電磁クラッチCLの解放状態で駆動輪2が回転すると、磁性流体9の本来の(磁界が作用しない状態での)粘性により、流体室8内における駆動輪2と磁性流体9との間に摩擦力が不可避的に発生する。また、この摩擦力により駆動輪2のトルクの一部が磁性流体9に伝達されると、同様に、磁性流体9の本来の粘性により、流体室8内における磁性流体9と受動輪3との間に摩擦力が不可避的に発生する。したがって、これらの摩擦力あるいは磁性流体9の攪拌抵抗などが要因となり、引き摺り損失が発生する。
このとき、この電磁クラッチCLでは、前述したように、ギャップ5の内面、あるいはギャップ5および空間6内の表面すなわち流体室8内全体の表面に、磁性流体9の基液9aをはじく性質を有する撥液層11が形成されているので、駆動輪2と磁性流体9との間、および磁性流体9と受動輪3との間の摩擦力が低減される。その結果、電磁クラッチCLの解放時における引き摺り損失が低減される。
一方、電磁クラッチCLを係合状態にして、駆動輪2と受動輪3との間でトルクを伝達させる場合は、電磁コイル10がON状態(通電された状態)にされる。電磁コイル10に通電されると、図3の(b)に示すように、その電磁コイル10に近設されている駆動輪2の対向面2aと、ギャップ5と、ギャップ5を挟んで対向面2aと対向している受動輪3の対向面3aとの間で、磁界Mが形成される。
ギャップ5内に磁界Mが形成されると、ギャップ5内に介在していた磁性流体9にその磁界Mが作用し、ギャップ5内に発生した磁界Mに磁性流体9の磁性体9bが引き寄せられる。具体的には、ギャップ5内の磁性体9bが磁界Mの周辺に集積し、それら磁性体9b同士が磁気を帯びて互いに締結する。すなわち、ギャップ5内の磁性体9bが鎖状に集積して締結し合うことにより、ギャップ5内の磁性流体9の粘性が増大した状態、もしくはギャップ5内の磁性流体9が固化した状態になる。
なお、このとき、ギャップ5の内周面すなわち対向面2aおよび対向面3aには、前述したように、遠心力が作用する磁性流体9の基液9aに対してギャップ5内からの排出を促進する方向に傾いた傾斜2c,2dおよび傾斜3c,3dが形成されているとともに、磁性流体9の基液9aをはじく性質を有する撥液層11が形成されているので、ギャップ5内からの磁性流体9の基液9aの排出が一層促され、その結果、磁性体9bの密度が高くなり、磁性体9b同士が集積して締結する際の締結力が一層増大するようになっている。
電磁コイル10に通電されてギャップ5内の磁性流体9に磁界が作用させられることにより、磁性流体9の磁性体9b同士が集積して締結し、ギャップ5内の磁性流体9としては粘性が増大した状態になる。その結果、ギャップ5内では、その粘性が増大したもしくは固化した磁性流体9がせん断抵抗となり、駆動輪2と受動輪3との間がトルク伝達可能な状態になる。すなわち、電磁コイル10をON状態に制御することにより、この電磁クラッチCLは係合状態に設定される。
以上のように、この発明の係合装置によれば、電磁コイル10を励磁状態に制御して、駆動輪2と受動輪3との間のギャップ5に磁界を発生させることにより、ギャップ5内に介在させられている磁性流体9の粘性を増大させることができる。その場合、この発明の係合装置では、磁性流体9を介在させるギャップ5内の表面、すなわちギャップ5を形成している駆動輪2の対向面2aおよび受動輪3の対向面3aに、磁性流体9の基液9aをはじく性質を有する撥液層11が形成されるとともに、駆動輪2および受動輪3が回転して磁性流体9に遠心力が作用する際にギャップ5内の磁性流体9がそのギャップ5から排出され易くなる方向に傾いた傾斜2c,2dおよび傾斜3c,3dが設けられている。
したがって、ギャップ5に磁界を発生させて駆動輪2と受動輪3との間を係合状態にする場合に、ギャップ5内の磁性流体9は、ギャップ5からの基液9aの排出が促進され、ギャップ5内に基液9aが介在しない状態もしくはギャップ5内の磁性流体9における基液9aの密度が低下した状態、言い換えるとギャップ5内の磁性流体9における磁性体9bの密度が増大した状態で、それら磁性体9b同士が互いに締結し合うことになる。そのため、ギャップ5内の磁性流体9の粘性抵抗もしくはせん断抵抗を高めて、駆動輪2と受動輪3との間をより強い力で係合すること、すなわち係合装置の伝達トルク容量を増大することができる。
また、磁性流体9が介在させられるギャップ5内の表面すなわち対向面2aおよび対向面3aに、あるいはそれに加えて磁性流体9が介在させられる流体室8内の表面に、上記の撥液層11が形成されていることにより、その撥液層11が形成されている部分と磁性流体9との間の摩擦抵抗を低減することができる。そのため、駆動輪2と受動輪3との間を解放状態にする場合、すなわち駆動輪2と受動輪3との間の動力伝達を遮断する場合に、それら駆動輪2と受動輪3との間における磁性流体9を介した引き摺り損失を低減することができる。
この発明の構成を模式的に示す断面図である。 この発明で用いる磁性流体の構成を説明するための模式図である。 図1に示すこの発明の構成を具体的に説明するための部分的な拡大断面図である。 この発明の他の構成を具体的に説明するための部分的な拡大断面図である。
符号の説明
2…駆動輪(第1回転部材)、 3…受動輪(第2回転部材)、 2a,3a…対向面、 2c,2d,3c,3d…傾斜、 5…ギャップ(隙間)、 8…流体室、 9…磁性流体、 9a…基液、 9b…磁性体、 10…電磁コイル(励磁手段)、 11…撥液層、 CL…電磁クラッチ(係合装置)、 M…磁界。

Claims (2)

  1. 同一軸線上で互いに相対回転可能に配置された第1回転部材および第2回転部材と、該第1回転部材と該第2回転部材とがそれらの回転半径方向で互いに対向するそれぞれの対向面の間に形成された隙間と、該隙間を含み前記第1回転部材と前記第2回転部材との間の空間に形成された流体室と、該流体室に介在させられるとともに基液中に磁性体を分散させることにより構成されて磁界が作用することにより粘性が増大する磁性流体と、前記隙間に磁界を発生させる励磁手段とを備え、該励磁手段により前記隙間に発生させる磁界を制御することにより前記磁性流体の粘性を変化させて前記第1回転部材と前記第2回転部材との間の伝達トルク容量を制御する係合装置において、
    少なくともいずれか一方の前記対向面に、前記基液をはじく撥液性を有する撥液層が形成されているとともに、前記隙間内における前記磁性流体に前記回転半径方向の遠心力が作用する場合に前記隙間内からの前記基液の排出を促す方向に傾いた傾斜が設けられていることを特徴とする係合装置。
  2. 前記磁性流体と接する前記流体室内の表面に、前記撥液層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の係合装置。
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