JP2010100967A - 熱処理炉ならびに耐炎化繊維束および炭素繊維の製造方法 - Google Patents

熱処理炉ならびに耐炎化繊維束および炭素繊維の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】外気流入による熱処理炉の温度むら、およびエネルギー効率の低下を解決する熱処理炉を提供する。
【解決手段】被処理物が出入りする横型スリット状の開口部3を、対向する2つの側壁の上下方向に複数段有する熱処理室2と、前記熱処理室の上部または下部に被処理物の走行方向に対して交差方向に加熱気体を供給する加熱気体吹き出し口5と、前記加熱気体吹き出し口と対向する側に熱処理室内の加熱気体を吸入する加熱気体吸い込み口6とを有し、前記2つの側壁の外側には、被処理物が出入りする横型スリット状の開口部を外側側壁の上下方向に複数段有するシール室11を設けてなる熱処理炉1であって、前記熱処理室の加熱気体の流れと同一方向となるよう、前記シール室の上部または下部に気体を供給する気体吹き出し口と、該気体吹き出し口と対する方向に気体を吸入する気体吸い込み口を有することを特徴とする熱処理炉。
【選択図】図1

Description

本発明は、耐炎化繊維を製造するための熱処理炉ならびに耐炎化繊維および炭素繊維の製造方法に関する。
従来の熱処理炉、特に炭素繊維の製造に用いられる熱処理炉としては、熱処理室の上部に設けた加熱気体吹き出し口および下部に設けた加熱気体吸い込み口と、熱処理室の側壁に糸条導入口と糸条導出口(この糸条導入口と糸条導出口は、本発明における横型スリット状の開口部に当たる。以下同じ)とを有し、熱処理室内で糸条を水平方向に走行させながら、その糸条に上方から加熱気体を吹き付けて熱処理するようにした熱処理炉が知られている(例えば、特許文献1参照)。
ここでいう水平方向とは、地面に対して概略平行となる方向のことである。概略平行とした理由の1つは、糸条は自重によって懸垂するため、その走行方向は地面に対して完全に平行とはならないためである。また、熱処理室の両側で糸条を支えるガイドローラーに段差があるなどの原因で、糸条の走行方向が地面に対して傾斜しても、糸条が熱処理室の向かい合う2側面に渡してあれば、概略平行といえる。
このような熱処理炉において、例えばそれが耐炎化炉である場合、ポリアクリロニトリル(PAN)系のプリカーサー(前駆体繊維)からなる糸条を、複数糸条水平面内において所定のピッチを保ちながら並列させて熱処理室内に導入され、かつ、熱処理室の両側に設置されたガイドローラーによって走行方向を反転されながら熱処理室内への出入を繰り返し、熱処理室の上下方向においても所定のピッチを保ちながら走行し、耐炎化処理される。さらに特許文献1に開示されている熱処理炉においては、熱処理室側壁の糸条導入口および糸条導出口の外側に隣接してシール室を設け、そのシール室に排気機構を備えることで、熱処理室から流出する加熱気体を排気し、有害ガスの炉外への漏出を防止している。
しかしながら、前記特許文献1に開示された熱処理炉では、生産性を上げるための一手段として熱処理室内を出入りする段数を増やす場合、流れが糸条を通過する際に生じる抵抗が大きくなり、流れの上流から下流に向けて生じる圧力低下が増大する。このため、熱処理室内と炉外雰囲気との圧力差も増大し、前記シール室だけでは熱処理室内への外気流入を防ぐことができなくなる。結果、熱処理室の上方に設けた糸条導入口および糸条導出口からは熱処理室内の加熱気体が流出し、熱処理室の下方に設けた糸条導入口および糸条導出口からは外気が熱処理室内へ流入するようになる。
熱処理室内への外気流入は、熱処理室内の温度むらを引き起こし、製品の品質を低下させるという問題がある。また、外気の流入した領域は、温度が低いために糸条の熱処理が進行せず、生産性が低下する。また、加熱気体吸い込み口から排出される加熱気体を加熱気体吹き出し口に戻して循環使用する場合、外気の流入によって温度が低下した循環加熱気体を、再び所望の温度に加温するためのヒーター消費電力量が増えるため、エネルギー効率が低下するという問題がある。
また特許文献2では、加熱気体に作用する熱の浮力に着目し、熱処理室の加熱気体方向を下方から上方にすることで、熱の浮力を活用し上流から下流に向けて生じる圧力低下を低減させて、熱処理室から外気への加熱気体の流出および熱処理室への外気流入を抑制しているが、効果は完全ではなく一部の外気流入は回避できない。また熱処理室の気体吹き出し口の手前では、風速むらを抑制するため流れを整流化するため熱処理室内の流れと同一方向にある程度の整流ゾーンを設ける必要があり、気体吹き出し口を下方にすると糸条導入口および糸条導出口の位置が全体的に高い位置になり階段昇降等で作業負荷が上がる問題がある。
さらに特許文献3では、前記シール室の上部に漏出加熱気体吸い込み口および下部に漏出加熱気体吹き出し口を設け、熱処理室の上方の糸条導入口および糸条導出口からシール室へ流出してきた加熱気体をシール室の上部で吸入し、その吸入した加熱気体を循環させてシール室の下部に供給している。こうすることで、熱処理室の下方の糸条導入口および糸条導出口では、高温のシール室の加熱気体が流入してくるようになり、これにより有害ガスの炉外への漏出を防止すると共に、熱処理室内への低温の外気流入も抑制している。
しかしながら、前記特許文献3に開示された熱処理炉をもってしてもやはり外気流入の抑制は完全でなく、逆にシール室上部の雰囲気吸入によって上方の糸条導入出口からの熱処理室内の加熱気体の流出が促進し、それにより、下方の糸条導入出口から熱処理室内への流入も促進して、シール室下部からの循環加熱気体だけでなく外気も一部流入してしまう問題がある。
また、シール室上部の漏出加熱気体吸い込み口からは熱処理室から流出した加熱気体だけではなく外気も一緒に吸入するため、吸入した加熱気体は温度が低下する。それを熱処理室内の温度のままシール室下部の漏出加熱気体吹き出し口から供給し熱処理室内へ流入させることを考えると、シール室の漏出加熱気体吸い込み口と漏出加熱気体吹き出し口との間の循環経路内にヒーター等の加温設備を別途設置し、熱処理室内の所望の温度まで加温する必要が有り、結果エネルギー効率が低下する。
特開平11−173761号公報 特開2003−183975号公報 特開2007−284842号公報
本発明の課題は、前記従来技術の問題点である外気流入による熱処理炉の温度むら、およびエネルギー効率の低下を解決しようとするものであり、ポリアクリロニトリル系繊維束を耐炎化する熱処理炉および耐炎化繊維の製造方法並びに炭素繊維の製造方法を提供するものであり、さらに詳しくは、工程安定性および設備費が安価なかつ省エネ効果に優れた熱処理炉および耐炎化繊維の製造方法並びに炭素繊維の製造方法を提供することにある。
本発明は前記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、
(1)被処理物が出入りする横型スリット状の開口部を、対向する2つの側壁の上下方向に複数段有する熱処理室と、前記熱処理室の上部または下部に被処理物の走行方向に対して交差方向に加熱気体を供給する加熱気体吹き出し口と、前記加熱気体吹き出し口と対向する側に熱処理室内の加熱気体を吸入する加熱気体吸い込み口とを有し、前記2つの側壁の外側には、被処理物が出入りする横型スリット状の開口部を外側側壁の上下方向に複数段有するシール室を設けてなる熱処理炉であって、前記熱処理室の加熱気体の流れと同一方向となるよう、前記シール室の上部または下部に気体を供給する気体吹き出し口と、該気体吹き出し口と対する方向に気体を吸入する気体吸い込み口を有することを特徴とする熱処理炉。
(2)前記熱処理室の加熱気体吹き出し口側の内部圧力Pas、加熱気体吸い込み口側の内部圧力Padの関係がPas>Padでかつ、前記シール室の気体吹き出し口側の内部圧力Pbs、気体吸い込み口側の内部圧力Pbdの関係がPbs>Pbdである前記(1)に記載の熱処理炉。
(3)前記スリット状開口部の任意の2段について、気体吹き出し口側に近い方をm段目、遠い方をn段目とし、m、n段目における前記熱処理室と前記シール室の被処理物が出入りする開口部近傍における前記熱処理室側の内部圧力をPam、Pan、前記シール室側の内部圧力をPbm、Pbnとしたとき、Pam>Pan、かつPbm>Pbnである前記(1)または(2)に記載の熱処理炉。
(4)前記スリット状開口部近傍の任意の段における前記熱処理室側の内部圧力をPax、前記シール室側の内部圧力をPbxとしたとき、Pax,Pbxの関係が、xの大小に関わらずPbx−Pax≒constant≧0である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の横型熱処理炉。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の横型熱処理炉を用い、ポリアクロニトリル系繊維束を、対向する2つの側壁に有するスリット状の開口部とシール室の外側側壁に有するスリット状の開口部に通過せしめ、折り返して熱処理室を複数回通過させて酸化性加熱気体中で耐炎化処理する耐炎化繊維束の製造方法。
(6)前記(5)に記載の製造方法で得られた耐炎化繊維束を、不活性雰囲気中で炭素化処理する炭素繊維の製造方法。
本発明によれば、熱処理室内からの加熱気体の流出と熱処理室への低温外気の流入を防ぎ、熱処理室内の温度むらを小さくすることが可能であり、工程安定性の確保と、品質の均一性の向上が実現できる。
また、熱処理室内の温度均一性に優れているため、熱処理室の加熱気体を循環使用する際に必要な加温用ヒーターの消費電力量が小さくなり、省エネ効果がある。
さらに、熱処理室とシール室の気体の受け渡しが無くなることで、シール室の気体を循環使用する際の加温用ヒーターを設置する必要がなくなり設備を簡略にすることができる。
付け加えて、熱処理室内から外気への加熱気体の流出を防ぐことで、周囲の雰囲気温度・有害ガス濃度を改善でき、作業スペースにおけるクリーンな環境衛生を確保することができる。
以下、図面に示す実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る熱処理炉の概略構成図である。
本発明の熱処理炉1は、熱処理室2の被処理物が出入りする側壁4の外側に、シール室11を有する熱処理炉であり、熱処理室2、シール室11それぞれに、加熱気体の循環手段を持ち、かつ、加熱気体の循環方向が、熱処理室2とシール室11で同じ方向であるものである。
本実施態様において、熱処理室2は、被処理物Aが出入りするスリット状の開口部3を、対向する2つの側壁4に複数段有し、前記熱処理室2の上部に位置し下方に向けて加熱気体を供給する加熱気体吹き出し口5と、前記吹き出し口5と対向する下部に位置し熱処理室2内の加熱気体を吸入する加熱気体吸い込み口6とを有する。また、熱処理室2の下部の吸い込み口6から熱処理室2の上部の吹き出し口5へ加熱気体を循環させる加熱気体循環路7および加熱気体循環ファン8と、加熱気体を所望の温度まで加温する加熱気体加温用電気ヒーター9が熱処理室外に設けられている。シール室11は、被処理物Aが出入りするスリット状の開口部12を、対向する2つの側壁13に複数段有する。シール室11は、その上部に位置し下方に向けて気体を供給するシール気体吹き出し口14と、前記吹き出し口14と対向する下部に位置しシール室11内の気体を吸入するシール気体吸い込み口15とを有し、吸い込み口15から吹き出し口14へ気体を循環させるシール気体循環路16と、シール気体循環ファン17が設けられている。
本発明の熱処理炉は、繊維束を耐炎化する場合、耐炎化炉内から外気への有害ガスの流出および熱処理室内への低温外気の流入を抑制するものである。
熱処理炉1としては、炉外にガイドローラー10を複数個介し、酸化性加熱気体を熱処理室2の上部に設けられた加熱気体吹き出し口5から被処理物Aである糸の走行方向に対して交差する方向、好ましくは直角方向に吹き付け、耐炎化繊維を得る耐炎化繊維の製造装置において特に有効である。
前記の如く、熱処理炉1の外側にガイドローラー10を配設することにより、熱処理炉1に人が入ることなく作業が可能であることから、スタート準備のし易さ、メンテナンスのし易さや、定常運転時に巻き付きや糸切れが発生した場合でも生産設備を停止することなく処置が可能であり、炉内にローラーを配設する耐炎化装置に対し生産性は優れている。一方、炉内の気密性や熱効率の観点からは、糸を炉外に搬出および搬入するための開口部が必要であり、また糸を一度冷却することから、炉内にローラーを配設する炉に対して耐炎化効率は劣るが、長期連続運転、多糸条化、高糸条密度化が求められており、炉外にローラーが配設されている炉が優位である場合が多いと考えられる。
酸化性加熱気体を炉の上部から糸の走行方向と交差する方向、好ましくは直角方向に吹き付けることにより、糸の走行方向に対して並行方向に吹き付ける方法に対して酸化反応に伴う発熱を効率よく除熱できるため、高温、短時間での耐炎化処理が可能である。
一方、糸の走行方向に対して交差する方向、好ましくは直角方向に加熱気体を吹き付けることで、糸が抵抗となり、前記したように流れが糸を通過する際に生じる抵抗で、流れの上流から下流に向けて圧力低下が生じる。すなわち、熱処理室2の吹き出し口5側の内部圧力Pasと吸い込み口6側の内部圧力Padの関係がPas>Padとなる。なお、ここで、吹き出し口側と吸い込み口側という場合の位置は、側壁からの距離は、同じで加熱気体の吹きつけ方向における位置は相対的なものと定義する。かかる定義は、後述するシール室の吹き出し口側と吸い込み口についても同様とする。
さらに具体的にいうと、被処理物が出入りするスリット状の開口部3の任意の2段について、吹き出し口5側に近い方をm段目、遠い方をn段目とし、m、n段目における開口部3近傍における熱処理室2の内部圧力をPam、Panとしたとき、Pam>Panとなり、熱処理室2の下方の内部圧力は上方の内部圧力より小さくすることが好ましい。なお、ここで開口部3近傍とは、開口部の幅方向の中央の位置で開口部3から側壁4に垂直な方向に50mmの位置とする。
このため、炉上方では被処理物Aが出入りするスリット状の開口部3から一部の加熱気体が外気へ流出し、炉下方では開口部3から、熱処理炉1の周辺の外気を吸い込むこととなる。炉外の低温の雰囲気ガスを吸い込むことによって、熱処理室2内下方の温度を低下し、熱処理室2内の温度むらを促進させてしまう。
加熱気体の流出および外気の流入を抑制するため、被処理物が出入りするスリット状の開口部3を極力狭くするなどする必要があるものの、ゼロにすることは実質不可能である。
前記特許文献3のように上方の被処理物が出入りするスリット状の開口部3から流出した加熱気体をシール室11の上部で吸入し、その吸入した加熱気体を循環ファンにて循環させてシール室11の下部で供給し被処理物が出入りするスリット状の開口部3から流入させる方法があるが、外気流入の防止は完全ではなく、シール室上部で吸入しシール室下部で供給するということは、熱処理室2と同じくシール室11の吹き出し口側の内部圧力Pbsと吸い込み口側の内部圧力Pbdの関係がPbs>Pbdとなる。さらに具体的にいうと、被処理物が出入りするスリット状の開口部3の任意の2段について、吹き出し口側に近い方をm段目、遠い方をn段目とし、m、n段目における開口部3近傍におけるシール室11の内部圧力をPbm、Pbnとしたとき、Pbm>Pbnとなり、シール室11の下方の内部圧力は上方の内部圧力より大きくなっていくこととなる。
しかしながらこれは、前記の熱処理室2の上方と下方の内部圧力の関係と相反するため、高さ方向の中心から上方または下方にいくにつれ熱処理室2とシール室11の内部圧力の差が大きくなっていき、結果上方での熱処理室2からの流出と下方での熱処理室2への流入を促進し、循環してきた加熱気体だけでなく外気をも一部流入してしまう。
また、前記の通りシール室11の吸い込み口からは熱処理室から流出した加熱気体だけではなく外気も一緒に吸入するため、吸入した加熱気体は温度が低下する。その降温した加熱気体を再度加温するためヒーター等の加温設備を新たに設置する必要があり、エネルギー効率は低下してしまう。
したがって本発明においては、Pas>Pad、Pbs>Pbdの現象を活用し、熱処理室2とシール室11の上方と下方の内部圧力の差をいかに小さくするかについて着目した。すなわち、本発明においては、前記熱処理室2の対向する2つの側壁4の外側に、被処理物Aが出入りするスリット状の開口部12を外側側壁13に複数段有するシール室11を設けてなる熱処理炉であって、前記シール室11は、熱処理室と同じく、上部に位置し下方に向けて気体を供給するシール気体吹き出し口14と、前記吹き出し口14と対向する下部に位置し気体を吸入するシール気体吸い込み口15とを有し、吸い込み口15から吹き出し口14へ気体を循環するシール気体循環路16と、シール気体循環ファン17をシール室外に設けることを特徴とする。
上記したように、熱処理室内の加熱気体の流れと同じ方向にシール室内に気体を流すことで、前記した熱処理室2の上方と下方の内部圧力の関係と同じ傾向、すなわち、シール室11の下方の内部圧力は上方の内部圧力より小さくなっていくこととなる。該方法により、高さ方向中心から上方または下方にいくにつれの熱処理室2とシール室11の内部圧力の差の拡がりを抑えられ、熱処理室2とシール室11との間の気体の流れ、すなわち開口部3からの熱処理室2の加熱気体の流出および熱処理室2への外気の流入が劇的に減少する。
さらにシール室11内の流れの速さを大きくするなどして、Pbs≧Pas,Pbd≧Padとすると、熱処理室2とシール室11との間の気体の流れはほぼゼロになる。さらに好ましくは上方からx段目の開口部3近傍における熱処理室2側の内部圧力をPax、シール室11側の内部圧力をPbxとすると、上方から下方にいくにつれて、すなわちxが大きくなるにつれてPaxと共にPbxも小さくなり、Pax−Pbx≒constant≧0にすることが出来れば、全ての段の開口部3において気体の流れはゼロとすることができる。なお、ここで、Paxは開口部の幅方向の中央の位置で熱処理室の開口部3から、熱処理室に向かって側壁4に垂直な方向に50mmの位置、Pbxは、開口部3からシール室に向かって側壁4に垂直な方向に50mmの位置とする。
また、これは前記特許文献2のような熱処理室の加熱気体の流れが下方から上方へとなっている耐炎化炉でも同じことが言える。図2は、本発明の別の実施態様に係る熱処理炉の概略構成図である。熱処理室と同じく、シール室11の下部にシール気体吹き出し口14、上部にシール気体吸い込み口15を設置し、シール気体循環ファン17にてシール室内を熱処理室の加熱気体の流れと同じ方向に下方から上方へ気体を流すことで、開口部3からの熱処理室の加熱気体の流出および熱処理室への外気の流入が劇的に減少する。さらにシール室11内の流れの速さを大きくするなどして、Pbs≧Pas,Pbd≧Padとすると、熱処理室2とシール室11との間の気体の流れはほぼゼロになる。
なお、本発明は、開口部3が多段になればなるほど、また熱処理室2、シール室11内の気体の流れ方向に抵抗物が多くあればあるほどより効果的となってくる。特に、生産性を上げるため熱処理室内を出入りする糸条の段数を増やした耐炎化炉、もしくは熱処理室2とシール室11内に流れを整流化する多孔板や糸条が切れた場合他糸条に絡みつくのを防ぐ板や棒を複数設置している耐炎化炉に効果的となってくる。
また、本発明により熱処理室2とシール室11の気体の受け渡しが無くなることで、シール室11の気体は加熱気体である必要もなくなり、結果シール室気体吸い込み口15からシール室気体吹き出し口14への循環経路内に加温用ヒーターを別途設置する必要もなくなり、設備費が安くエネルギー効率に優れた耐炎化炉を提供できる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
[実施例1]太さ1.1デシテックスのPAN系のプリカーサー単糸を12,000本束ねた糸条を耐炎化処理した。熱処理室の上部に加熱気体吹き出し口を設け、下部に加熱気体吸い込み口を設けることで、熱処理室の上方から下方へ加熱気体を流し、糸条に対して上方から加熱気体を吹き付けた。加熱気体吸い込み口から吸入した加熱気体は、再び加熱気体吹き出し口に戻して循環使用した。加熱気体吸い込み口と加熱気体吹き出し口との間に設けたファンの回転数を変更し、加熱気体吹き出し口および加熱気体吸い込み口における加熱気体の平均速度が1m/秒になるように制御した。また、加熱気体吸い込み口と加熱気体吹き出し口との間に設けた加温用電気ヒーターによって、加熱気体吹き出し口における加熱気体の平均温度が250℃になるように制御した。
同じく、シール室の上部にシール気体吹き出し口を設け、下部にシール気体吸い込み口を設けることで、シール室の上方から下方へ常温気体を流し、糸条に対して上方から常温気体を吹き付けた。シール気体吸い込み口から吸入した気体は、再びシール気体吹き出し口に戻して循環使用した。シール気体吸い込み口とシール気体吹き出し口との間に設けたファンの回転数を変更し、シール気体吹き出し口およびシール気体吸い込み口における気体の平均速度が2m/秒になるように制御した。なお、シール室内の気体の温度は、常温の気体にファン熱で加温され55℃であった。
糸条は、熱処理室の両側に設置されたガイドローラーによって走行方向を反転しながら、熱処理室内へ19回の出入を繰り返すようにした。糸条の走行速度は0.05m/秒とした。上下方向の糸条ピッチは0.2m、水平面内の糸条ピッチは0.01mとした。熱処理室の側面を構成する側壁のうち、糸条導入口または糸条導出口を有さない側壁から0.3m内側までの領域を未処理ゾーンとした。炉外雰囲気の温度は30℃であった。
耐炎化炉の上方から下方へ高さ方向5箇所に測定点を決め、圧力測定管と熱電対を糸条導入口または糸条導出口から差し込み、それぞれの測定点にて内部圧力と室内温度を測定した。5箇所の測定点は、糸条導入口および糸条導出口を有する熱処理室の側壁から0.2m離れた位置に、糸条の最上段付近に設けたものをA点、糸条の最下段付近に設けたものE点とし、残りの3点はA点とE点との間にほぼ等間隔になるように設け、上からB点、C点、D点とした。
また、前記測定点5箇所の高さの糸条導入口または糸条導出口の開口面内に、風速計を差し込み気体の流出または流入の風速も測定した。
さらに熱処理室とシール室の加温用電気ヒーターの消費電力もそれぞれ測定した。
測定結果を表1に示す。
[比較例1]太さ1.1デシテックスのPAN系のプリカーサー単糸を12,000本束ねた糸条を耐炎化処理した。従来の熱処理炉と同様に、シール室の上部に漏出加熱気体吸い込み口を設け、下部に漏出加熱気体吹き出し口を設けることで、熱処理室の上方の糸条導入口および糸条導出口からシール室へ流出してきた加熱気体をシール室の上部で吸入し、その吸入した加熱気体を循環させてシール室の下部に供給させた。また加熱気体の循環経路には加温用電気ヒーターを設置し、気体吹き出し口における加熱気体の平均温度が250℃になるように制御した。その他の条件は実施例1と同じにした。概略図を図3に示す。
実施例1と同様の測定を行った。結果を表2に示す。実施例1と比べ、顕著な熱処理室内の温度低下、および、糸条導入口または糸条導出口の開口面内の気体の流出・流入の風速上昇が見られ、熱処理室からの加熱気体が流出し、熱処理室へ外気が流入していることが明らかになった。
また、熱処理室とシール室の加温用電気ヒーターの消費電力も大きいことから前記現象を裏付けることができる。
このように、本発明によって、シール室の気体を熱処理室と同じく上方から下方へ流すことで、熱処理室内からの有害ガスの流出と熱処理室内への低温外気の流入とを防ぎ、熱処理室内の温度均一性を大幅に向上させることができた。またそれによるヒーター消費電力の省エネ効果も大きく改善することができた。
本発明に係る熱処理炉および耐炎化方法は、特に耐炎化処理を必要とする用途に好適であり、中でも炭素繊維製造工程に用いて好適なものである。
本発明の一実施態様に係る熱処理炉の概略構成図である。 本発明の別の実施態様に係る熱処理炉の概略構成図である。 従来用いられてきた熱処理炉の一般的な概略構成図である。
符号の説明
1:熱処理炉
2:熱処理室
3:熱処理室のスリット状の開口部
4:熱処理室の側壁
5:加熱気体吹き出し口
6:加熱気体吸い込み口
7:加熱気体循環路
8:加熱気体循環ファン
9:加熱気体加温用電気ヒーター
10:ガイドローラー
11:シール室
12:シール室のスリット状の開口部
13:シール室の外側側壁
14:シール気体吹き出し口
15:シール気体吸い込み口
16:シール気体循環路
17:シール気体循環ファン
18:漏出加熱気体吸い込み口
19:漏出加熱気体吹き出し口
20:漏出加熱気体循環路
21:漏出加熱気体循環ファン
22:漏出加熱気体加温用電気ヒーター
A:被処理物
Pas:熱処理室の加熱気体吹き出し側の内部圧力
Pad:熱処理室の加熱気体吸い込み側の内部圧力
Pbs:シール室のシール気体吹き出し側の内部圧力
Pbd:シール室のシール気体吸い込み側の内部圧力

Claims (6)

  1. 被処理物が出入りする横型スリット状の開口部を、対向する2つの側壁の上下方向に複数段有する熱処理室と、前記熱処理室の上部または下部に被処理物の走行方向に対して交差方向に加熱気体を供給する加熱気体吹き出し口と、前記加熱気体吹き出し口と対向する側に熱処理室内の加熱気体を吸入する加熱気体吸い込み口とを有し、前記2つの側壁の外側には、被処理物が出入りする横型スリット状の開口部を外側側壁の上下方向に複数段有するシール室を設けてなる熱処理炉であって、前記熱処理室の加熱気体の流れと同一方向となるよう、前記シール室の上部または下部に気体を供給する気体吹き出し口と、該気体吹き出し口と対する方向に気体を吸入する気体吸い込み口を有することを特徴とする熱処理炉。
  2. 前記熱処理室の加熱気体吹き出し口側の内部圧力Pas、加熱気体吸い込み口側の内部圧力Padの関係がPas>Padでかつ、前記シール室の気体吹き出し口側の内部圧力Pbs、気体吸い込み口側の内部圧力Pbdの関係がPbs>Pbdである請求項1に記載の熱処理炉。
  3. 前記スリット状開口部の任意の2段について、気体吹き出し口側に近い方をm段目、遠い方をn段目とし、m、n段目における前記熱処理室と前記シール室の被処理物が出入りする開口部近傍における前記熱処理室側の内部圧力をPam、Pan、前記シール室側の内部圧力をPbm、Pbnとしたとき、Pam>Pan、かつPbm>Pbnである請求項1または2に記載の熱処理炉。
  4. 前記スリット状開口部近傍の任意の段における前記熱処理室側の内部圧力をPax、前記シール室側の内部圧力をPbxとしたとき、Pax,Pbxの関係が、xの大小に関わらずPbx−Pax≒constant≧0である請求項1〜3のいずれかに記載の横型熱処理炉。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の横型熱処理炉を用い、ポリアクロニトリル系繊維束を、対向する2つの側壁に有するスリット状の開口部とシール室の外側側壁に有するスリット状の開口部に通過せしめ、折り返して熱処理室を複数回通過させて酸化性加熱気体中で耐炎化処理する耐炎化繊維束の製造方法。
  6. 請求項5に記載の製造方法で得られた耐炎化繊維束を、不活性雰囲気中で炭素化処理する炭素繊維の製造方法。
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