JP2010047822A - 打抜き加工性に優れたステンレス冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】製造工程で表面欠陥を発生せず、かつ加工工程で優れた打抜き加工性を有するフェライト系ステンレス冷延鋼板とその製造方法を提供する。
【解決手段】C:0.01〜0.06質量%,Si:0.02〜0.40質量%,Mn:0.30〜1.0質量%,P:0.05質量%以下,S:0.01質量%以下,Al:0.02質量%以下,N:0.01〜0.08質量%,Cr:16.0〜18.0質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるスラブの熱間圧延を仕上げ温度800〜1000℃で行ない、巻取り温度700℃以下で巻取って冷却した後、必要に応じて酸洗し、さらに冷間圧延を行ない、次いで加熱温度750〜850℃かつ保持時間20〜240秒で冷延板焼鈍を行なう。
【選択図】なし

Description

本発明は、優れた打抜き加工性を有するフェライト系ステンレス冷延鋼板とその製造方法に関するものである。
フェライト系ステンレス冷延鋼板は、耐食性に優れているので、建築材料,輸送機器,家庭電化製品,厨房機器,化学プラント,貯水槽,自動車部品等の様々な用途に使用されている。一方でフェライト系ステンレス冷延鋼板は、延性が乏しいという欠点を有しており、純度を高めて軟質化することによって延性を確保している。しかし、純度を高めて延性を付与したフェライト系ステンレス冷延鋼板は打抜き加工の際にだれが生じ易いので、精密な打抜き加工が困難である。
そこでフェライト系ステンレス冷延鋼板の打抜き加工性を向上させる技術が種々検討されている。
たとえば特許文献1には、C,Si,Mn,S,Cr,N,Al,Ti,V,B,Oの含有量を規定し、かつ各元素の含有量から算出されるTi/(C+N)値およびV/B値を規定することによって、打抜き性と成形性を改善したフェライト系ステンレス冷延鋼板が開示されている。しかしこの技術はTiを添加するので、フェライト系ステンレス冷延鋼板を製造する過程にて、そのTiがCやN,Oと結合してTi炭化物,Ti窒化物,Ti酸化物を形成し、表面欠陥を誘起する。
特開2001-254154号公報
本発明は、製造工程で表面欠陥を発生せず、かつ加工工程で優れた打抜き加工性を有するフェライト系ステンレス冷延鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。
発明者らは、フェライト系ステンレス冷延鋼板(以下、ステンレス冷延鋼板という)の表面欠陥を防止し、かつ打抜き加工性を向上する技術について検討した。その結果、表面欠陥の防止については、
(A)Tiを添加せず成分を設計する、
ことによって表面欠陥を防止でき、打抜き加工性の向上については、
(a)ステンレス冷延鋼板の成分を規定するとともに、熱間圧延の仕上げ温度と巻取り温度,冷間圧延した後の焼鈍の加熱温度と保持時間を規定することによって、冷延焼鈍板の固溶Nが増加し、結晶粒内の応力が増加する。この内部応力が打抜き加工時の亀裂の伝播を容易にし、ダレの発生を抑制する、
(b)冷間圧延した後の焼鈍(以下、冷延板焼鈍という)による板厚方向のフェライト結晶粒の成長を、熱延板におけるフェライト−マルテンサイト界面に析出したCr炭化物が抑制することによって、板厚方向の変形に対する抵抗力が増加し、さらにダレの発生が抑制される
ことによって打抜き加工性を向上できるという知見を得た。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、C:0.01〜0.06質量%,Si:0.02〜0.40質量%,Mn:0.30〜1.0質量%,P:0.05質量%以下,S:0.01質量%以下,Al:0.02質量%以下,N:0.01〜0.08質量%,Cr:16.0〜18.0質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、圧延方向に平行でかつ圧延面に垂直な断面の板厚方向のフェライト結晶粒径の平均値が10μm以下である組織と、を有するステンレス冷延鋼板である。
また本発明は、C:0.01〜0.06質量%,Si:0.02〜0.40質量%,Mn:0.30〜1.0質量%,P:0.05質量%以下,S:0.01質量%以下,Al:0.02質量%以下,N:0.01〜0.08質量%,Cr:16.0〜18.0質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、圧延方向に平行でかつ圧延面に垂直な断面の板厚方向のフェライト結晶粒径の平均値が10μm以下で、かつフェライト結晶粒のアスペクト比が4以下である組織と、を有するステンレス冷延鋼板である。
また本発明は、C:0.01〜0.06質量%,Si:0.02〜0.40質量%,Mn:0.30〜1.0質量%,P:0.05質量%以下,S:0.01質量%以下,Al:0.02質量%以下,N:0.01〜0.08質量%,Cr:16.0〜18.0質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるスラブの熱間圧延を仕上げ温度800〜1000℃で行ない、巻取り温度700℃以下で巻取って冷却した後、必要に応じて酸洗し、さらに冷間圧延を行ない、次いで加熱温度750〜850℃かつ保持時間20〜240秒で冷延板焼鈍を行なうステンレス冷延鋼板の製造方法である。
本発明によれば、製造工程で表面欠陥を発生せず、かつ加工工程で優れた打抜き加工性を発揮するフェライト系ステンレス冷延鋼板を得ることができる。
まず、本発明のステンレス冷延鋼板の成分の限定理由を説明する。
C:0.01〜0.06質量%
Cは、素材となるスラブを熱間圧延する際にマルテンサイト相を生成させ、かつCrと結合してCr炭化物をフェライト結晶粒の粒界に析出させる元素である。C含有量が0.01質量%未満では、この効果が十分に得られない。粒界に析出するCr炭化物が不足すると、板厚方向のフェライト結晶粒の成長を抑制できないので、打抜き加工におけるだれの発生を防止できない。一方、0.06質量%を超えると、スラブの熱間圧延によってマルテンサイトが多量に生成され、熱延鋼板が硬質化するので、冷間圧延に支障を来たす。したがって、Cは0.01〜0.06質量%の範囲内とする。
Si:0.02〜0.40質量%
Siは、フェライト系ステンレス鋼の溶製段階で脱酸剤として用いられる元素であるが、マルテンサイト相の生成量を減少させる。Si含有量が0.02質量%未満では、脱酸の効果が十分に得られない。一方、0.40質量%を超えると、マルテンサイト相の生成が減少するので板厚方向のフェライト結晶粒の成長を抑制できず、打抜き加工におけるだれの発生を防止できない。したがって、Siは0.02〜0.40質量%の範囲内とする。
Mn:0.30〜1.0質量%
Mnは、熱間圧延にて熱延鋼板にマルテンサイト相を生成させる元素である。Mn含有量が0.30質量%未満では、マルテンサイト相が十分に生成されないので板厚方向のフェライト結晶粒の成長を抑制できず、打抜き加工におけるだれの発生を防止できない。一方、1.0質量%を超えると、後述するSと結合してMnSの析出が促進され、ステンレス冷延鋼板の耐食性が低下する。したがって、Mnは0.30〜1.0質量%の範囲内とする。
P:0.05質量%以下
Pは、フェライト結晶粒の粒界に偏析して脆性破壊を誘起する。P含有量が0.05質量%を超えると、粒界における偏析の問題に加えて、固溶強化によって熱延鋼板が硬質化して、延性が著しく低下する。したがって、Pは0.05質量%以下とする。
S:0.01質量%以下
Sは、ステンレス冷延鋼板の耐食性を低下させる元素である。S含有量が0.01質量%を超えると、耐食性が著しく低下する。したがって、Sは0.01質量%以下とする。
Al:0.02質量%以下
Alは、フェライト系ステンレス鋼の溶製段階で脱酸剤として用いられる元素であるが、マルテンサイト相の生成量を減少させる。Al含有量が0.02質量%を超えると、マルテンサイト相の生成が減少するので板厚方向のフェライト結晶粒の成長を抑制できず、打抜き加工におけるだれの発生を防止できない。したがって、Alは0.02質量%以下とする。
N:0.01〜0.08質量%
Nは、フェライト結晶粒の粒内に固溶して、冷延板焼鈍した後のステンレス冷延鋼板のフェライト結晶粒に内部応力を蓄積する作用を有する。N含有量が0.01質量%未満では、その効果が十分に得られない。一方、0.08質量%を超えると、後述するCrと結合してCr窒化物を生成し、ステンレス冷延鋼板の耐食性向上に寄与するCrが減少する。したがって、Nは0.01〜0.08質量%の範囲内とする。
Cr:16.0〜18.0質量%
Crは、ステンレス冷延鋼板の表面に不動態皮膜を形成して耐食性を高める元素である。Cr含有量が16.0質量%未満では、十分な耐食性が得られない。一方、18.0質量%を超えると、ステンレス冷延鋼板のフェライト相が増加し、マルテンサイト相が十分に生成されないので板厚方向のフェライト結晶粒の成長を抑制できず、打抜き加工におけるだれの発生を防止できない。したがって、Crは16.0〜18.0質量%の範囲内とする。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物は可能な限り低減することが望ましい。
本発明のステンレス冷延鋼板はTiを含有しないので、Ti炭化物やTi窒化物に起因する表面欠陥を防止できる。さらに、後述するようにステンレス冷延鋼板の製造方法を規定することによって、その他の表面欠陥を防止する効果も得られる。
次に、ステンレス冷延鋼板用素材の組織を説明する。
板厚方向のフェライト結晶粒の平均粒径:10μm以下
ここで板厚方向とは、ステンレス冷延鋼板の圧延方向に平行でかつ圧延面に垂直な断面における板厚方向を指す。板厚方向に測定したフェライト結晶粒の粒径の平均値が10μmを超えると、板厚方向の変形に対する抵抗力が小さく、打抜き加工におけるだれの発生を防止できない。したがって、ステンレス冷延鋼板の打抜き加工性を確保するために、板厚方向のフェライト結晶粒の平均粒径を10μm以下とする。
次に、ステンレス冷延鋼板の製造方法を説明する。
転炉,電気炉等を用いて所定の成分を有するフェライト系ステンレス鋼を溶製(いわゆる1次精錬)し、さらに脱炭処理(いわゆる2次精錬)を施す。2次精錬は、強攪拌真空酸素脱炭法(いわゆるVOD法)を採用することが好ましい。
得られた溶鋼を連続鋳造法あるいは造塊法によってスラブとする。ただし、生産性の高い連続鋳造法を採用することが好ましい。
次いでスラブを、必要に応じて再加熱し、さらに仕上げ温度800〜1000℃で熱間圧延して熱延鋼板とし、その熱延鋼板を巻取り温度700℃以下で巻取って熱延コイルとする。本発明の成分では800〜1000℃の温度範囲で熱間圧延を終了させると、オーステナイト相の生成量が増加する。したがってこの温度範囲で熱間圧延を終了して、熱延鋼板に多量のオーステナイト相を生成させる。その後、熱延鋼板を700℃以下まで冷却して巻取ることによって、オーステナイト相からフェライト相への変態を抑制し、十分な量のマルテンサイト相を生成させる。そして、上記の温度で巻取ることにより、Cr窒化物の析出が抑制され、固溶N量を確保することが可能となる。
熱間圧延の仕上げ温度が800〜1000℃の範囲を外れると、熱延鋼板のオーステナイト相が減少するので、熱延コイルのマルテンサイト相が減少する。また、熱延鋼板の巻取り温度が700℃を超えると、オーステナイト相からフェライト相への変態が進行し、マルテンサイト相の生成量が減少する上、Cr窒化物の析出が促進され、固溶N量の確保が困難となる。
このようにして製造した熱延コイルを室温まで冷却した後、冷間圧延を行ない、さらに冷延板焼鈍(加熱温度:750〜850℃,保持時間:20〜240秒)を行なってステンレス冷延鋼板を得る。なお熱延コイルに、必要に応じて酸洗を施した後、冷間圧延を行なっても良い。冷延板焼鈍の加熱温度が750℃未満,保持時間が20秒未満では、フェライト結晶粒の再結晶が進行せず、ステンレス冷延鋼板の機械的性質が低下する。一方、加熱温度が850℃を超えると、冷延板焼鈍した後の冷却によってマルテンサイト相が生成するので、ステンレス冷延鋼板の機械的性質が低下する。保持時間が240秒を超えると、フェライト結晶粒の粒内に固溶するNが減少するので、打抜き加工の際にだれが発生し易くなる。
また、降伏点の伸びを消失させるため、ステンレス冷延鋼板にスキンパス圧延を施しても良い。スキンパス圧延の圧下率は、0.5〜1.5%の範囲内が好ましい。
実験炉を用いて表1に示す成分のフェライト系ステンレス鋼(30kg)をアルゴン雰囲気で溶製し、さらにスラブとした。そのスラブを1200℃に加熱して熱間圧延を行ない、板厚5mm,幅150mmの熱延鋼板とした。得られた熱延鋼板を550℃で1時間保持した後、冷却した。この熱延鋼板を550℃で1時間保持する処理は、実際の操業における熱延鋼帯を巻取って熱延コイルとしたときの保熱効果を想定した処理である。なお、熱間圧延の条件は表2に示す通りである。
Figure 2010047822
得られた熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延を行なって板厚1.2mmの冷延鋼板とし、さらに750〜820℃で焼鈍(すなわち冷延板焼鈍)を施してステンレス冷延鋼板とした。冷延板焼鈍の保持時間は表2に示す通りである。
Figure 2010047822
ステンレス冷延鋼板の幅方向中央部から組織観察用試験片(幅10mm,長さ15mm)を切り出した。この組織観察用試験片の圧延方向に平行でかつ圧延面に垂直な断面の板厚方向中央部(1mm×1mm)を王水で腐食し、光学顕微鏡で100倍の写真を撮影した。その写真に組織観察用試験片を板厚方向に垂直に貫く線分を描き、その線分と交わるフェライト結晶粒の数で板厚を除した値を平均粒径として算出した。その結果を表2に示す。
組織観察用試験片を切り出した残りのステンレス冷延鋼板を打抜き試験に供した。打抜き試験は、ポンチ径10mm,クリアランス10%で円形状に打抜いて、刃がえりを含めた反りの高さを測定し、その最大値をだれ高さとした。だれ高さが0.02mm以下を良(○)とし、0.02mm超えを不良(×)として評価した結果を表2に示す。
表2から明らかなように、発明例は、だれ高さが0.02mm以下であったのに対して、比較例は、だれ高さが0.02mmを超えた。つまり発明例は、いずれも優れた打抜き加工性を有することが確かめられた。

Claims (2)

  1. C:0.01〜0.06質量%、Si:0.02〜0.40質量%、Mn:0.30〜1.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Al:0.02質量%以下、N:0.01〜0.08質量%、Cr:16.0〜18.0質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、圧延方向に平行でかつ圧延面に垂直な断面の板厚方向のフェライト結晶粒径の平均値が10μm以下である組織と、を有することを特徴とするステンレス冷延鋼板。
  2. C:0.01〜0.06質量%、Si:0.02〜0.40質量%、Mn:0.30〜1.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Al:0.02質量%以下、N:0.01〜0.08質量%、Cr:16.0〜18.0質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるスラブの熱間圧延を仕上げ温度800〜1000℃で行ない、巻取り温度700℃以下で巻取って冷却した後、必要に応じて酸洗し、さらに冷間圧延を行ない、次いで加熱温度750〜850℃かつ保持時間20〜240秒で冷延板焼鈍を行なうことを特徴とするステンレス冷延鋼板の製造方法。
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