JP2010047526A - 免疫グロブリン1量体の分離方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】限外濾過膜を用いて、少なくとも免疫グロブリン1量体とその凝集体を含む免疫グロブリン溶液をクロスフロー濾過することにより、免疫グロブリン1量体を高精度で分離する方法およびその限外濾過膜モジュール、クロスフロー濾過装置を提供すること。
【解決手段】限外濾過膜を用いて、高分子量化合物を含有する溶液をクロスフロー濾過する工程に続いて、免疫グロブリン1量体とその凝集体を含む免疫グロブリン溶液をクロスフロー濾過することにより、濾過初期から高い分画性能で免疫グロブリン1量体を分離できる。
【選択図】なし

Description

本発明は、限外濾過膜を用いて、免疫グロブリン1量体とその凝集体を含む免疫グロブリン溶液をクロスフロー濾過することにより、免疫グロブリン1量体を高精度で分離する方法およびその限外濾過膜モジュール、クロスフロー濾過装置に関する。
免疫グロブリン(抗体)は、主に血液中や体液中に存在し、体内に侵入してきた細菌・
ウイルスなどの微生物や、微生物に感染した細胞を抗原として認識して結合する。抗体が抗原へ結合すると、その抗原と抗体の複合体を白血球やマクロファージといった食細胞が認識・貪食して体内から除去するように働いたり、リンパ球などの免疫細胞が結合して免疫反応を引き起こしたりする。このように、免疫グロブリンは、感染防御機構において重要な役割を担っている。
免疫グロブリンを製造する方法としては、生体成分、主に血液から分離精製する方法やハイブリドーマなどの細胞から分離精製する方法などがある。しかしながら、生体成分には10万種以上のタンパク質やDNA、RNA、ウイルスなどの微生物が存在し、それらを免疫グロブリンから分離する必要がある。
さらに、免疫グロブリンには、複数の免疫グロブリンが非共有結合で結合した凝集体(主に2量体)も存在している。免疫グロブリン凝集体は、免疫グロブリン製剤を人体に静脈注射した際に現われる副作用、例えば、チアノーゼや血圧低下などのショック様反応や、呼吸困難などの気道症状、さらに皮疹等の原因のひとつとされている。この凝集体は互いに凝集して、より大きな多量体を作る傾向があり、溶液中に白濁や沈殿を生じることもある。また、他の蛋白質、菌、ウイルス等を核としてその周囲に結合し、抗原抗体複合体と呼ばれる巨大な蛋白質凝集体を形成する場合もある。一旦、形成された凝集体は、一般に容易に解離させることができない。それ故に、これら凝集体を溶液中から除去する方法は、従来から数多く提案されている。
これらが混合する溶液から免疫グロブリン1量体を分離するために数種類の精製方法が報告されている。例えば、イオン交換クロマトグラフィー法や疎水性クロマトグラフィー法、ゲルクロマトグラフィー法、化学的処理法、吸着法、限外濾過膜法などが挙げられる。
電荷や疎水性が大きく異なる物質を分離する場合、イオン交換クロマトグラフィーや疎水性クロマトグラフィー法は有効であるが、免疫グロブリン1量体と2量体のように電荷や疎水性の度合が近い物質では、十分に分離できない上、大量の溶離液、塩が必要である等の欠点がある。
一方、ゲルクロマトグラフィー法は、サイズ分離であるため、大きさの異なる免疫グロブリン1量体と2量体の分離に有効であるが、大量の免疫グロブリンを処理することはできず、作業に要する時間やコストが長大になる欠点がある。
化学物質を添加する化学的処理法は大量処理が可能であるが、処理に用いた薬品を溶液から除去する必要があり、さらには、処理によって免疫グロブリンの失活や変性を招きやすく、免疫グロブリンの透過率を低下させることとなる。
また、吸着方法も免疫グロブリン2量体の除去効率が高いとはいえず、さらに、化学的処理と同様に添加した吸着剤の除去という作業が必要となる。
最近、ロバストネスが高く、簡便で、大量の蛋白を処理できる限外濾過膜法が注目され、多くの報告例がある。一般に2成分を限外濾過で分離する場合、分画性能および透過量は、限外濾過膜表面に形成されるケーク層に影響されると考えられている。そのケーク層形成には、限外濾過膜の分画分子量とケーク層を構成する蛋白質などの粒子の濃度が重要因子として推測される。しかしながら、ケーク層の解析は困難であるため、ケーク層を制御する方法はほとんど分かっていない。
例えば、ウシ血清アルブミンとリゾチームの分離について報告されているが(非特許文献1)、ケーク層の解析や制御法についてはなんら記載されていない。ましてや、免疫グロブリン1量体と2量体の分離については全く記載されていない。
免疫グロブリンの膜分離法としては、ポリスルホン系高分子より成膜された限外濾過膜で濾過することによるグロブリン2量体の除去方法(特許文献1)が提案されている。しかしながら、この方法はデッドエンド法であるため膜内に大量の免疫グロブリンが捕捉され、厚いケーク層が形成されると推測され膜閉塞が起こる。その結果、免疫グロブリン1量体の透過率は40%前後と極めて低く、濾過速度や濾過容量も低くなり、工業的な有効性が高いとはいえない。
また、再生セルロース中空糸膜を用いてデッドエンド濾過することによる免疫グロブリン凝集体の除去方法(特許文献2)も提案されているが、孔径(分画分子量)が大きいために免疫グロブリン2量体がほとんど除去されず、免疫グロブリン2量体の分離法としては十分ではなかった。
溶液内に不純物の多い場合は、膜捕捉容量を考慮し、膜閉塞が起こりにくいクロスフロー濾過法が利用されることが多い。限外濾過膜を使用し、クロスフロー濾過することによって免疫グロブリン2量体を除去する方法(特許文献3)が提案されているが、免疫グロブリン1量体と2量体の分画性能についてのデータは全く記載されていない。特許文献3ではきわめて低い濃度で濾過を実施しており、免疫グロブリン1量体と2量体を分離できるケーク層が十分にできないと推測される。
また、分子量の相違が10倍未満である生体成分を、転移点での流束の5から100%の範囲のレベルに維持しながらクロスフロー濾過することで分離する方法(特許文献4)が提案されているが、10万以下の蛋白分離について報告されているだけで、免疫グロブリン1量体と2量体の分離についてのデータは全く記載されていない。
また、人血漿から分画された免疫グロブリンの水溶液から凝集体を除去した後、界面活性を有する安定剤の存在下、ポリオレフィン多孔質膜で濾過し、抗補体活性を低減させる方法(特許文献5)が提案されているが、免疫グロブリン1量体と2量体の分離に関する具体的なデータはない。さらに、免疫グロブリン凝集体(3量体以上)を通過させる孔径を有する膜を使用することが好ましいと記載されており、この膜では免疫グロブリン1量体と2量体を分離することは困難である。
さらに、血液から血漿を分離するための膜を用いても、免疫グロブリン2量体が除去できるとされているが(特許文献6)、この膜による除去効果は、2量体と孔の大きさの関係に起因するのではなく、膜素材と免疫グロブリン2量体との相互作用力による免疫グロブリン2量体の膜表面への吸着によるものであると考えられるため、吸着を起こさせ得る条件(例えば、溶液のpHやイオン強度)で使用する必要が生じ、わずかな条件の変化で期待される除去効果を得られないことが多い。加えて、これら従来の方法では、作業中に菌やウイルス等の微生物が外部から溶液中に混入する危険性が大きい。医薬品の場合、特にこのことは重大であるので、免疫グロブリン2量体除去の処理をした免疫グロブリン溶液に対して、これら微生物を不活化または除去する作業が必要となっている。
Separation Science and Technology,33(2),169−185(1998) 特公昭62−3815号公報 特開平6−279296号公報 特許第3746223号公報 特許第3828143号公報 特公平7−78025号公報 特開昭61−69732号公報
本発明は、限外濾過膜を用いて、免疫グロブリン1量体とその凝集体を含む免疫グロブリン溶液をクロスフロー濾過することにより、免疫グロブリン1量体を高精度で分離する方法およびその限外濾過膜モジュール、クロスフロー濾過装置を提供する。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、限外濾過膜を用いた免疫グロブリン1量体の分離方法において、高分子量化合物を含有する溶液をクロスフロー濾過する工程に続いて、免疫グロブリンの1量体とその凝集体を含む免疫グロブリン溶液をクロスフロー濾過することにより、濾過初期から高い分画性能を発現できることを見出した。
すなわち、限外濾過膜を用いて、高分子量成分を含有する溶液をクロスフロー濾過する工程に続いて、少なくとも免疫グロブリン1量体とその凝集体を含む免疫グロブリン溶液をクロスフロー濾過することにより、濾過初期から高い分画性能で免疫グロブリン1量体を分離できる方法およびその限外濾過膜モジュール、クロスフロー濾過装置を発明するに至った。
即ち、本発明は、
[1]限外濾過膜を用いて、高分子量化合物を含有する溶液をクロスフロー濾過する工程に続いて、少なくとも免疫グロブリン1量体とその凝集体を含む免疫グロブリン溶液をクロスフロー濾過することにより、免疫グロブリン1量体を分離することを特徴とする分離方法。
[2]該凝集体は、少なくとも免疫グロブリン2量体を含むことを特徴とする上記[1]に記載の分離方法。
[3]限外濾過膜の分画分子量が、10万以上50万未満であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の分離方法。
[4] 該免疫グロブリン溶液の濃度が、1〜150g/Lであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分離方法。
[5]該免疫グロブリン溶液の濃度を、実質一定に維持しながらクロスフロー濾過することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分離方法。
[6]高分子量化合物の数平均分子量が、15万以上100万未満であることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載の分離方法。
[7]該高分子量化合物が、天然高分子であることを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれかに記載の分離方法。
[8]該天然高分子が、蛋白質であることを特徴とする上記[7]に記載の分離方法。
[9]該蛋白質が、フィブリノーゲンであることを特徴とする上記[8]に記載の分離方法。
[10]該高分子量化合物が、合成高分子であることを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれかに記載の分離方法。
[11]該合成高分子が、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール系高分子から一つ以上選択されることを特徴とする上記[10]に記載の分離方法。
[12]該免疫グロブリンが、モノクローナル抗体であることを特徴とする上記[1]〜[11]のいずれかに記載の分離方法。
[13]該限外濾過膜が、ポリスルホン系高分子膜であることを特徴とする上記[1]〜[12]のいずれかに記載の分離方法。
[14]該ポリスルホン系高分子が下記式(4)〜(6)で表されるポリスルホン系高分子の少なくとも1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする上記[13]に記載の分離方法。
[化4]
Figure 2010047526
[化5]
Figure 2010047526
[化6]
Figure 2010047526
[15]該ポリスルホン系高分子が、ポリビニルピロリドンで親水化されたポリスルホン系高分子であることを特徴とする上記[13]または[14]に記載の分離方法。
[16]該限外濾過膜が、中空糸膜であることを特徴とする上記[1]〜[15]のいずれかに記載の分離方法。
[17]下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置を用いて行う上記[1]〜[16]のいずれかに記載の分離方法。
(イ)免疫グロブリン元液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)免疫グロブリン元液の濃度をコントロールできる手段
(ハ)免疫グロブリン元液の線速をコントロールできる手段
(ニ)限外濾過膜の濾過圧力をコントロールできる手段
[18]上記[1]〜[17]のいずれかに記載の分離方法に使用するモジュールおよび下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置。
(イ)免疫グロブリン元液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)免疫グロブリン元液の濃度をコントロールできる手段
(ハ)免疫グロブリン元液の線速をコントロールできる手段
(ニ)限外濾過膜の濾過圧力をコントロールできる手段
本発明の分離方法を実施することにより、濾過初期から高い分画性能で免疫グロブリン1量体を分離できる。本発明は、限外濾過膜を用いてクロスフロー濾過するだけであるので、クロマトグラフィーのような方法に比べてきわめて簡易な作業であり、大量の免疫グロブリンを処理できる。また、化学的処理方法とは異なり、免疫グロブリンの失活や変性を起こすこともない。さらに、公知の膜分離のように目詰まりを生じないので、免疫グロブリン1量体を高透過率で回収でき、かつ、免疫グロブリン2量体を効率よく除去することができる。
以下、本発明に係わる限外濾過膜による免疫グロブリン1量体を高精度で分離する方法およびその限外濾過膜モジュール、クロスフロー濾過装置について具体的に説明する。
本発明に係わる免疫グロブリン(抗体)とは、最も広範な意味で使用され、具体的にはモノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多特異的抗体(例えば、二重特異性抗体)などが挙げられる。
本発明に係わる免疫グロブリン凝集体とは、免疫グロブリンが疎水結合などによって2量体以上となった状態の免疫グロブリンのことを示す。例えば、免疫グロブリン2量体、3量体、4量体、5量体などが挙げられる。
本発明に係わるモノクローナル抗体とは、実質的には同質な抗体の集団から入手された抗体をいう。すなわち、集団を構成する個々の抗体は、わずかに存在し得る天然に存在し得る変異を除いて同じである。モノクローナル抗体は、非常に特異的であり、単一の抗原部位に対して指向される。さらに、典型的には、異なる抗体を含む従来のポリクローナル抗体の調製とは対象的に、それぞれのモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対する。修飾語「モノクローナル」は、実質的に同質の抗体集団から入手したという抗体の特徴を示す。
本発明に係わる免疫グロブリン(抗体)の例としては、天然のヒト抗体、もしくは遺伝子組み換え法で調製されたヒト化抗体やヒト型抗体、完全ヒト化抗体、キメラ抗体、マウス抗体などが挙げられる。
本発明に係わる抗体の具体例として、抗HER2レセプター抗体、抗CD20抗体、抗IL−8抗体、抗VEGF抗体、抗PSCA抗体、抗CD11a抗体、抗IgE抗体、抗Apo−2レセプター抗体、抗TNF−α抗体、抗組織因子(Tissue Factor)(TF)抗体、抗CD3抗体、抗CD25抗体、抗CD34抗体、抗CD40抗体、抗tac抗体、抗CD4抗体、抗CD52抗体、抗Fcレセプター抗体、抗癌胎児性抗原(CEA)抗体、胸部上皮細胞に特異的な抗体、結腸癌種細胞に結合する抗体、抗CD33抗体、抗CD22抗体、抗EpCAM抗体、抗GpIIb/IIIa抗体、抗RSV抗体、抗CMV抗体、抗HIV抗体、抗肝炎抗体、抗αvβ3抗体、抗ヒト腎細胞癌腫抗体、抗ヒト17−1A抗体、抗ヒト結腸直腸腫瘍抗体、抗ヒト黒色腫抗体、抗ヒト扁平上皮癌腫抗体、抗ヒト白血病抗原(HLA)抗体などが挙げられる。さらに具体的な例としては、Muramomab(製品名:Orthclone(OKT3))、Rituximab(製品名:Ritaxan)、Basiliximab(製品名:Simulect)、Daclizumab(製品名:Zenapax)、Palivizumab(製品名:Synagis)、Infliximab(製品名:Remicade)、Gemtuzumab zogamicn(製品名:Mylotarg)、Alemtuzumab(製品名:Mabcampath)、Adalimumab(製品名:Humira)、Omalizumab(製品名:Xolair)、Vevacizumab(製品名:Avastin)、Cetuximab(製品名:Erbitux)等が挙げられる。
本発明に係わる免疫グロブリン(抗体)の分子標的(抗原)としては、例えば、CD蛋白質( 例えば、CD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD34、およびCD40); HERレセプターファミリー(例えば、EGFレセプター、HER2,HER3またはHER4レセプター);細胞接着分子(例えば、LFA−1,Mac1,p150,95,VLA−4,ICAM−1,VCAM およびaまたはbのサブユニットを含むav/b3インテグリン(例えば、抗−CD11a,抗CD18,または、抗CD11b抗体)のメンバー);成長因子(例えば、VEGF);IgE,血液型抗原;flk2/flt3レセプター;肥満(OB)レセプター;mplレセプター;CTLA−4;蛋白質Cなどが挙げられる。他の分子と結合した可溶性抗原またはフラグメントも分子標的となる。例えば、レセプターのような膜貫通分子の場合、レセプターの細胞外領域のフラグメントが免疫抗原となる。あるいは、膜貫通分子を発現する細胞が免疫抗原となる場合もある。
一般に、濾過方法としてクロスフロー濾過とデッドエンド濾過が汎用濾過法として実施されている。クロスフロー濾過とは、蛋白質等の微細粒子が含まれる被処理液を膜に供給しつつ濾過して、異径の微粒子を分離するものである。膜面に堆積する微粒子(ケーク層)を微粒子溶液の平行流による剪断力にて掻き取りながら、安定したケーク層の状態を長期にわたって維持することで、分画性能を維持しようとするものである。一方、デッドエンド濾過は、膜面に対して垂直に微粒子を流すため、膜表面に微粒子が蓄積し、濾過時間と共に透過抵抗が次第に増加し、透過微粒子濃度が変化してしまう。垂直濾過やノーマル濾過とも呼称される。
本発明に係わるクロスフロー濾過(十字流濾過や平行濾過、タンジェンシャルフロー濾過とも呼称される)とは、膜面に対して平行に免疫グロブリン溶液を流し、せん断力により膜表面に堆積する物を押し流すことで、動的平衡が成立した一定のケーク層の状態を形成し、分画性能を維持したまま連続運転を可能にする濾過方式である。
クロスフロー濾過の場合、濾過開始後すぐにケーク層が形成され、分画性能が発現されると考えられていた。しかしながら、意外にも、ケーク層の形成には時間を要し、濾過初期の透過液中の免疫グロブリン2量体含有率がかなり高いことが分かった。そこで、免疫グロブリン溶液を用いてケーク層を形成させるのではなく、別の高分子量化合物でケーク層を形成した後に、免疫グロブリン溶液のクロスフロー濾過を行うことにより、濾過初期から免疫グロブリン1量体を高純度で分離することが可能になることを見出した。
本発明に係わるケーク層を形成させるための高分子量化合物を含有する溶液としては、免疫グロブリン溶液に用いる溶媒と同等の溶媒に高分子量化合物が溶解した溶液が好ましい。同等の溶媒を用いることによって、高分子量化合物を含有する溶液のクロスフロー濾過から免疫グロブリン溶液のクロスフロー濾過に切り換えた際に、ケーク層の状態変化を低減することができると考えられる。免疫グロブリン溶液に用いる溶媒については、後述する通り、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液が用いられる。
従って、本発明に係わるケーク層を形成させるための高分子量化合物は、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液の水溶液に溶解することが望ましく、水溶性高分子が良い。
本発明に係わるケーク層を形成されるための高分子量化合物は、膜表面上にケーク層を形成し、免疫グロブリン1量体とその凝集体の分離性能が発現することができれば、特に限定しない。ただし、高分子量化合物が医薬品中に混在することが問題となる場合は、膜透過性の低い高分子量化合物が望ましい。
従って、本発明に係わるケーク層を形成されるための高分子量化合物の数平均分子量は、膜表面上にケーク層を形成し、免疫グロブリン1量体とその凝集体の分離性能が発現することができれば、特に限定しないが、同様に、膜濾過しない分子量であることが望ましい。高分子量化合物の形状にもよるが、分子量の下限値としては、15万以上が好ましく、より好ましくは、20万以上である。分子量の上限値としては、100万未満が好ましく、より好ましくは、80万未満である。分画分子量10万以上50万未満の限外濾過膜で濾過する場合、分子量の下限値より小さい15万未満の高分子量化合物ではケーク層を形成しにくく、分子量の上限値を超えると、目詰まりを起こしやすく、後工程の免疫グロブリン1量体の透過性が大きく低減する懸念がある。
高分子量化合物の数平均分子量を測定する方法は、特に限定しないが、一般的な高分子分析法によって測定することが可能である。具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法、核磁気共鳴(NMR)法、光散乱法などが挙げられる。また、他の方法よって測定できる重量平均分子量や粘度平均分子量から数平均分子量を概算してもよい。
また、本発明に係わるケーク層を形成されるための高分子量化合物の大きさは、膜表面上にケーク層を形成し、免疫グロブリン1量体とその凝集体の分離性能が発現することができれば、特に限定しないが、本発明に係わる分画分子量10万以上50万未満の限外濾過膜で濾過する場合、該免疫グロブリン1量体の大きさと同等もしくはそれ以上の大きさを持つことが好ましい。それ以下になると、ケーク層が形成できなかったり、形成が遅い場合がある。また、膜を透過が起こり、高分子量化合物の種類によっては医薬品中の不純物として問題となる場合もある。免疫グロブリン1量体の大きさは、その種類にも依存するが、一般的に7〜14nm程度であることが知られている。従って、本発明に係わるケーク層を形成されるための高分子量化合物の大きさの下限値は7nm以上、より好ましくは7.5nm以上が良い。上限値は、目詰まりを起こさず、後工程の免疫グロブリン1量体の透過性が大きく低減しない範囲が好ましい。一般的には、100nm以下、より好ましくは、50nm以下である。
高分子量化合物の大きさを測定する方法は、特に限定しないが、一般的な分析方法によって測定することが可能である。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、動的光散乱測定などで測定することが可能である。
本発明に係わるケーク層を形成させるための高分子量化合物の具体例としては、天然高分子および合成高分子が挙げられる。またこれらを併用することもできる。
本発明に係わるケーク層を形成させるための天然高分子としては、蛋白質、核酸、脂質、多糖類などが挙げられる。本発明に係わるケーク層を形成するための蛋白質としては、フィブリノーゲン、カタラーゼ、フェリチン、サイログロブリンなどが挙げられ、特にフィブリノーゲンが好ましい。
本発明に係わるケーク層を形成させるための合成高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体や末端変性ポリエチレングリコールなどのポリエチレングリコール系高分子、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリビニルピロリドンなどが挙げられ、特にポリエチレングリコール、ポリアクリル酸が好ましい。
本発明に係わるケーク層を形成させるための高分子量化合物を含有する溶液の高分子量化合物濃度は、膜表面上にケーク層を形成し、免疫グロブリン1量体とその凝集体の分離性能が発現することができれば、特に限定しない。下限値としては、ケーク層を形成させるための最小濃度であり、0.01g/L以上、より好ましくは、0.1g/L以上、さらに好ましくは0.5g/L以上である。上限値としては、目詰まりを起こさない最大濃度であり、100g/L以下、好ましくは50g/L以下、さらに好ましくは、30g/L以下である。
本発明に係わるケーク層を形成させるための高分子量化合物を含有する溶液をクロスフロー濾過する時間は、膜表面上にケーク層を形成し、免疫グロブリン1量体とその凝集体の分離性能が発現することができれば、特に限定しない。一般的に、下限値としては0.01分間以上であり、より好ましくは0.1分間以上、さらに好ましくは、0.5分間以上である。上限値としては120分間以下であり、好ましくは90分間以下、より好ましくは60分間以下である。
本発明に係わるケーク層を形成させるための高分子量化合物を含有する溶液をクロスフロー濾過する条件と免疫グロブリン溶液のクロスフロー濾過の濾過条件は、後述するクロスフロー濾過条件の範囲内で実施することができる。形成されるケーク層の状態変化を軽減するためには、ケーク層を形成させるための高分子量化合物を含有する溶液をクロスフロー濾過する条件と免疫グロブリン溶液のクロスフロー濾過の濾過条件は、同等のクロスフロー濾過条件で実施する方が好ましい。また、膜表面上にケーク層を形成し、免疫グロブリン1量体とその凝集体の分離性能が発現することができれば、ケーク層を形成させるための高分子化合物を含有する溶液をデッドエンド濾過で実施することも可能である。
濾過する条件である線速とは、膜面に対して平行に流れる溶液の速度である。本発明において線速は、ケーク層を大きく変動させず、分画性能を発現させることができれば特に限定されるものではないが、例えば、下限としては0.1cm/秒以上、好ましくは1cm/秒以上、より好ましくは10cm/秒以上が良く、上限としては200cm/秒以下、より好ましくは100cm/秒以下が良い。200cm/秒超えると、免疫グロブリンへのストレスがかかり、凝集や白濁が起こりやすくなり、逆に、0.1cm/秒未満では、処理量が小さくなり、その結果、コストが高くなるなどの問題がある。
濾過圧力は、分画性能を発現させることができれば特に限定されるものではない。特許文献4では、膜全体に均一の圧力がかかるようにするため、免疫グロブリン透過液側から背圧をかけ、転移点でのトランスメンブラン圧(TMP)以下で濾過することで分画性能を発現させている。しかしながら、背圧をかけるための装置や低い圧力での濾過のため、処理量が低い問題点がある。本発明の分離方法では、転移点のTMPより高い圧力で濾過を行っても分画性能が維持することができ、その結果、免疫グロブリンの透過速度、すなわち処理量も大きいものとなる。
本発明において濾過圧力としては、下限として0.001MPa以上、好ましくは0.005MPa以上であり、上限としては0.3MPa以下、好ましくは0.20MPa以下が良い。0.001MPa未満では、処理量が低くなるため生産性が悪くなり、一方0.3MPa超えると急激なケーク層形成が引き起こされ、膜閉塞が起こる問題がある。
免疫グロブリン溶液の濃度は、単位時間当たりの処理量および膜の目詰まり等に影響するため、適切な濃度に設定することが望ましい。本発明において免疫グロブリン溶液の下限濃度は、他の条件によって異なるが、1g/L以上、好ましくは5g/L以上であれば、単位時間あたりの処理量を十分に確保できる。一方、逆に高濃度であるほど、粘度の低下に伴い、透過液量の低下、膜閉塞がおこる懸念があり、濃度上限を考慮する必要があるため、本発明において免疫グロブリン溶液の上限濃度は、他の条件によって異なるが、150g/L以下、好ましくは100g/L以下、さらに好ましくは50g/L以下であれば急激な膜閉塞を引き起こさないで、免疫グロブリン1量体を透過させることができる。以上のとおり、免疫グロブリン溶液の濃度の下限値は、1g/L、より好ましくは、5g/Lであり、上限値は、150g/L、より好ましくは100g/L以下、さらに好ましくは50g/L以下である。
濾過中の免疫グロブリン溶液の濃度変化は、免疫グロブリン1量体と免疫グロブリン2量体の分画性能や免疫グロブリン1量体の透過性能を維持させるために条件を変動させないで濾過することが好ましい。例えば、濾過中に免疫グロブリン溶液の濃度が徐々に高くなる場合、濾過閉塞が起こり、十分な透過量が得られなくなる場合がある。
一方、特許文献3や4のような透過量と同量の希釈液を添加する定容量クロスフロー濾過では、濾過が進むにつれて免疫グロブリン溶液濃度が低下する。この場合、濾過後半に透過する免疫グロブリン溶液の濃度が低下し、その結果、高収率で回収するためには長大な時間が必要となる。従って、本発明では短時間で高い分画性能と透過性能を達成するためには、免疫グロブリン溶液の濃度を一定濃度で濾過(定濃度濾過)することが好ましい。
濾過中の免疫グロブリン溶液の濃度変化は、濾過前の免疫グロブリン溶液の濃度を100とした時、下限としては50以上、好ましくは70以上、より好ましくは80以上が良く、上限としては200以下、好ましくは150以下、より好ましくは120以下が良い。特に、免疫グロブリン溶液の濃度を実質一定に維持しながらクロスフロー濾過することが最も好ましい。ここで示す「濃度を実質一定に維持しながら」とは、「濃度を軽微な変動にとどめながら」と同意である。例えば、操作や装置で濃度をコントロール時に起こる軽微な濃度変動などが含まれる。
しかしながら、濾過後半で、免疫グロブリン溶液の残量が少なくなり、濾過が困難になった場合、膜中や装置配管に残存する免疫グロブリン1量体を回収するために、希釈液や緩衝溶液、水、生理食塩水を添加し、濾過を実施する場合は、濃度一定で濾過を行う必要はない。
本発明に係わる免疫グロブリン1量体の分離において、免疫グロブリン1量体の50%以上が定濃度濾過で処理されることが好ましく、さらに好ましくは60%以上、最も好ましくは70%が定濃度濾過で処理されることが良い。たとえば、濾過開始から定濃度濾過で免疫グロブリン1量体を50%処理した後、等容量濾過を最後まで行っても良いし、濾過開始から等容量濾過を行い、免疫グロブリン1量体を20%処理した後、希釈液の供給を停止し、溶液濃度を濾過開始前の濃度まで戻した後、定濃度濾過を行っても良い。定濃度濾過と等容量濾過、希釈液無供給濾過を組み合わせ、免疫グロブリン1量体の50%以上が定濃度濾過で処理されれば、その順序は何ら限定されない。これによって、短時間、且つ、高回収率で免疫グロブリン1量体を精製することができる。
免疫グロブリン溶液中に、免疫グロブリン以外の生体成分を含むと、高精度な免疫グロブリン1量体の分離が難しいと考えていたが、意外にも免疫グロブリン以外の生体成分を含んでいても本発明の分離方法を行うと、純度の高い免疫グロブリン1量体が得られることがわかった。
免疫グロブリン溶液中に含んでいてもよい免疫グロブリン以外の生体成分としては、蛋白質、糖鎖、RNA、及び、DNAなどが挙げられる。具体的な例として、免疫グロブリン凝集体、フィブリノーゲン、免疫グロブリンとプロテインAからなる複合凝集体、血液凝固因子、細胞吸着因子、細胞成長因子、酵素、リボ蛋白、ホルモンおよびそれらの凝集物などが挙げられる。
免疫グロブリン以外の生体成分の分子量の下限としては、30万以上、好ましくは40万以上、さらに好ましく50万以上、上限としては、100万未満、好ましくは90万以下、さらに好ましく80万以下であれば免疫グロブリン1量体と高精度に分離できる。30万未満であれば、免疫グロブリン1量体を高精度に分離できない。一方、分子量が大きいほど高精度に分離できるが、分子量が高すぎると膜閉塞を起こしやすくなる。
以上のことは、本発明に係わる免疫グロブリン溶液には、免疫グロブリンの1量体とその凝集体(2量体、3量体、・・)及び分子量30万以上100万未満の生体成分を含む場合があり、この免疫グロブリン溶液であっても構わない。この場合、本発明は、免疫グロブリン1量体とその凝集体(2量体、3量体、・・)及び分子量30万以上100万未満の生体成分を含む免疫グロブリン溶液から、免疫グロブリン1量体を分離することをいう。また前提として上記生体成分が含んでなく、またはほとんど含んでない免疫グロブリン溶液から、免疫グロブリン1量体を分離することも本発明では当然に意味している。
本発明に係わる免疫グロブリン溶液中には、ウイルスを含んでも良い。
本発明に係わるウイルスとしては、直径18〜24nm程度のパルボウイルスやポリオウイルス、直径約40〜45nm程度の日本脳炎ウイルスや肝炎ウイルス、直径80〜100nm程度のHIVなどが挙げられる。最も除去する必要性があるものはパルボウイルスである。パルボウイルスは現在確認されているウイルスで最も小さいウイルスであるため、膜によるサイズ分画の場合、パルボウイルスが除去できれば、その他の大きいウイルスを除去できると考えられる。
ウイルスは、肝炎や後天性免疫不全症、日本脳炎、小児麻痺などの重篤な感染症を引き起こすため、ウイルス対数除去率(LRV)が4以上であることが好ましい。LRVは、下記式(7)で計算する。
LRV=log[(No×Vo)/(Nf×Vf)] (7)
LRV:ウイルス対数除去率
No:濾過前の免疫グロブリン元液中のウイルス感染価(TICD50/mL)
Nf:免疫グロブリン透過液中のウイルス感染価(TICD50/mL)
Vo:濾過前の免疫グロブリン元液の容量(mL)
Vf:免疫グロブリン透過液の容量(mL)
ウイルス除去性の評価に使用するパルボウイルスとしては、ヒトパルボウイルス(B19)、ブタパルボウイルス、イヌパルボウイルス、ネコパルボウイルス、Minute of miceなどが挙げられる。これらのウイルスの大きさは直径18〜24nm程度であり、どれを用いても評価することができるが、簡便な感染性評価方法が確立されているブタパルボウイルスやイヌパルボウイルスを用いることが好ましい。
本発明に係わる「限外濾過膜」とは、免疫グロブリン1量体と少なくとも免疫グロブリン2量体を分離するために使用する膜のことである。
限外濾過膜としては、所望の分画分子量を有する膜を製造でき、免疫グロブリンが吸着しなければ何ら限定しないが、例えば、ポリスルホン系高分子膜、芳香族エーテル系高分子膜、フッ素系高分子膜、オレフィン系高分子膜、セルロース系膜、(メタ)アクリル系高分子膜、(メタ)アクリロニトリル系高分子膜、ビニルアルコール系高分子膜などが挙げられる。好ましくは、ポリスルホン系高分子膜が良い。また分画分子量は、免疫グロブリン1量体と2量体を十分に分離できれば良く、10万以上、好ましくは15万以上、さらに好ましくは25万以上が良く、上限としては50万未満、好ましくは45万以下、さらに好ましくは40万以下に設定する必要がある。分画分子量が10万未満であると、免疫グロブリンの透過量が低下する問題があり、また、50万以上であると免疫グロブリン1量体および2量体が共に膜を透過し、分画性能が低下する。
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜は特に限定されるものではなく、分子中にスルホン基を有する高分子は全て用いることができる。ポリスルホン系高分子の例としては、例えば下記式(8)で表されるポリスルホン、下記式(9)で表されるポリエーテルスルホン、下記式(10)で表されるポリアリールスルホン等が挙げられる。式中lおよびm、nは繰り返し単位を表す。
[化8]
Figure 2010047526
[化9]
Figure 2010047526
[化10]
Figure 2010047526
これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。ポリスルホン系高分子は、必要に応じて高分子末端および/または主鎖中にエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また、免疫グロブリンの静電気的な特性との相性から、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、スルフォニル基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入しても良い。
本発明に係るポリスルホン系高分子の重量平均分子量は、下限として5,000以上、好ましくは1万以上、さらに好ましくは2万以上のものを用いることが良く、上限としては100万以下、好ましくは50万以下、さらに好ましくは30万以下のものを用いることが良い。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
本発明においては、ポリスルホン系高分子とともに、膜の孔の大きさをコントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ましい。親水化によって分離処理に供される免疫グロブリン溶液と本発明のポリスルホン系高分子からなる限外濾過膜との接触を良好にするものである。
親水性を付与する親水性高分子の種類は特に限定されるものではない。例えばポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどが挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドンは、ポリスルホン系高分子との相溶性がよく、膜全体の親水性を高める上で特に好ましい。
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜に親水性を付与する親水性高分子の重量平均分子量は、下限としては1,000以上、好ましくは5,000以上が良く、上限としては200万以下、好ましくは120万以下が良い。例えばポリビニルピロリドンではBASF社より様々なグレードが市販されており、その重量平均分子量が9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。本発明においては、K90を単独で用いるのが最も好ましい。
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜の親水性高分子の含量は、免疫グロブリンが膜に吸着しなければ特に限定されるものではない。例えば、下限として0.1重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上が良く、上限としては10重量%含有以下、好ましくは8重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下が良い。
本発明に係るポリスルホン系高分子膜の分画分子量は、免疫グロブリン1量体と2量体を十分に分離できれば良く、下限としては10万以上、好ましくは15万以上、さらに好ましくは25万以上が良く、上限としては50万未満、好ましくは45万以下、さらに好ましくは40万以下に設定する必要がある。分画分子量が10万未満であると、免疫グロブリンの透過量が低下する問題があり、また、50万以上であると免疫グロブリン1量体および2量体が共に膜を透過し、分画性能が低下する。
本発明に係る分画分子量は、アルブミン(66,000)、γ−グロブリン(160,000)、カタラーゼ(232,000)、フェリチン(440,000)、サイログロブリン(669,000)などの蛋白質やポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン等を用いて、デッドエンド濾過を行い、分子量と阻止率の関係から阻止率が90%となる分子量として算出される。
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば湿式成膜法が挙げられる。湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
本発明に係わる高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有するポリスルホン系高分子膜を製造できれば何ら限定はしないが、例えば、膜原液全体を100重量%とした場合、ポリスルホン系高分子の濃度範囲としては下限として1重量%以上、好ましくは2重量%以上、特に好ましくは3重量%以上である。また上限としては45重量%以下、好ましくは35重量%以下、特に好ましくは25重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。親水性高分子は、下限として0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、上限として20重量%以下、好ましくは10重量%以下で、均一に溶解した溶液が好適に使用される。また、膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒とは20℃の100g純水に10g以上溶解可能であり、かつ膜材料のポリスルホン系高分子を5重量%以上溶解するものが好ましく、更に好ましくは水に混和可能なものであれば何ら限定しない。具体的にはN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これらは2種以上組み合わせて使用できる。
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しない。例えば、純水、モノアルコール系溶媒、ポリオール系溶媒又はこれら2種以上の混合液などが好適に使用される。モノアルコール系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、ポリオール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。凝固液中にポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルホン酸、ポリ−p−スチレンスルホン酸ナトリウム、N,N−ジメチルアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの水溶性高分子を添加することも可能である。添加する水溶性高分子の分子量や添加量にも依存するが、これらを添加することにより濾過性能を向上させることが可能である。
また、凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ―ブチロラクトンなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
本発明に係わる湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であり、本発明の中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固をより促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
本発明の湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡糸口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。空間の温度と湿度を調整できれば何ら限定しないが、例えば、空走距離の下限としては0.001m以上、好ましくは0.005m以上、特に好ましくは0.01m以上、上限として2.0m以下、好ましくは1.5m以下、特に好ましくは1.2m以下である。また紡糸口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね300m/時間から9,000m/時間の速度が選択される。
本発明に係わる湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
湿式成膜法により得られた未乾燥のポリスルホン系高分子膜は、乾燥中の膜破断が生じない温度で乾燥させる。例えば、乾燥温度は、下限としては20℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、上限としては溶融温度以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜は特に限定されるものではなく、芳香族エーテル系高分子膜の例としては、下記式(11)で表されるものが挙げられる。
[化11]
Figure 2010047526
(R、R、R、R、R、Rは水素、炭素数1以上6以下を含む有機官能基、または、酸素、窒素または珪素を含有する炭素数6以下の非プロトン性有機官能基であり、それぞれ同一であっても、異なっても構わない。構造式中のqは繰り返し単位数である。異なる繰り返し単位を2成分以上含む共重合体でも構わない。)
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子の末端のフェノール性水酸基は、免疫グロブリン溶液中で安定して存在可能であるpHを維持するために、必要に応じてエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また、免疫グロブリンの静電気的な特性との相性から、高分子末端にアミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、スルフォニル基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入できる。
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜は、主として芳香族エーテル系高分子からなるものであるが、芳香族エーテル系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。例えば、ポリスチレンやその誘導体を含有しても良い。
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子の重量平均分子量は、下限としては5,000以上、好ましくは1万以上、特に好ましくは2万以上が良く、上限として100万以下、好ましくは50万以下、特に好ましくは30万以下が良い。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
本発明においては、芳香族エーテル系高分子とともに、膜の孔の大きさをコントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ましい。親水化によって分離処理に供される免疫グロブリン溶液と本発明の芳香族エーテル系高分子からなる限外濾過膜との接触を良好にするものである。
本発明に係わる親水性高分子としては、親水性を付与できるものであれば何ら限定しないが、免疫グロブリンとの電気的な相互作用を低減させるために、荷電構造を含まないノニオン性であることが望ましい。
本発明に係わる親水性高分子の分子量は、いかなる高分子化合物であっても構わない。
親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの親水性高分子化合物が例示される。また、これらの物質を親水性セグメントと疎水性セグメント含有する界面活性剤やブロック共重合体およびグラフト共重合体も親水性高分子として十分活用できる。例えば、ポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体などが好ましい。
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体は、高い親水性を有するポリエチレングリコールを親水性セグメントに有するため、親水性高分子として有効に活用できる。また、これらは二種以上を組み合わせて使用することもできる。この中でも好適に利用できるのは、ポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコールを親水性セグメントとして含有するブロック共重合体およびグラフト共重合体であり、その中も特にポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体が芳香族エーテル系高分子膜の親水性を向上させる親水性高分子として好適に利用できる。
本発明に係わる親水性高分子の分子量は、製造方法およびその条件によって適宜選ばれる。例えば、成膜方法が湿式成膜法で溶媒として非ハロゲン系水溶性有機溶媒を用いる場合、耐溶剤性の高い芳香族エーテル系高分子の溶解性は極めて低い。そのため、親水性高分子を膜原液にブレンドする場合、均一に溶解した膜原液を得るためには親水性高分子の分子量および添加量を適切に選択する必要がある。十分な添加量の親水性高分子を用いるためには、親水性高分子の分子量は、例えば、数平均分子量は、300以上、100,000以下であることが好ましい。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能である。より好ましい下限は、400以上、特に好ましい下限は、500以上であり、上限としてより好ましくは70,000以下、特に好ましくは、50,000以下である。
本発明に係わる親水性高分子が疎水性セグメントと親水性セグメントからなる化合物の場合、その親水性高分子の親水性セグメントの数平均分子量は、300以上、100,000以下であることが好ましい。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能である。より好ましい下限は、400以上、特に好ましい下限は、500以上であり、上限としてより好ましくは70,000以下、特に好ましくは、50,000以下である。
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体は、ポリスチレン系高分子由来のセグメントとポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントから成るブロック共重合体である。
本発明において用いられるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチレン系高分子由来のセグメントを形成するポリスチレン系高分子としては、下記式(12)に示す繰り返し単位からなるポリスチレン系高分子が好ましい。
[化12]
Figure 2010047526
(R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14は水素、フッ素を除くハロゲン原子、炭素数1以上6以下を含む有機官能基、または、酸素、窒素または珪素を含有する炭素数6以下の官能基であり、それぞれ同一であっても、異なっても構わない。構造式中のsは繰り返し単位数である。構造範囲内で異なる繰り返し単位を2成分以上含む共重合体でも構わない。)
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチレン系高分子由来のセグメントの数平均分子量は、300以上、1,000,000以下であることが必要である。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能であると同時に、水溶液に対して、溶出性が低減できる。より好ましい下限は、500以上、特に好ましい下限は、700以上であり、上限としてより好ましくは500,000以下、特に好ましい上限は、300,000以下である。
本発明において用いられるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントを形成するポリエチレングリコール系高分子とは、下記式(13)および/または(14)に示す繰り返し単位からなるポリエチレングリコール系高分子が好ましい。
[化13]
Figure 2010047526
[化14]
Figure 2010047526
(R15は、炭素数3以上、30未満の有機官能基である。特に親水性が大きく低下させることがなければ、R15にエーテル基、エステル基、水酸基、ケトン基、カルボン酸基を含有しても構わない。tおよびuは繰り返し単位数である。)
本発明において用いられるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントの数平均分子量は、例えば300以上、100,000以下であることが必要である。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能であると当時に、十分な親水性が得られる。より好ましい下限は、400以上、特に好ましい下限は、500以上であり、上限としてより好ましくは70,000以下、特に好ましくは、50,000以下である。
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントの組成比としては、該ポリスチレン系高分子由来のセグメントが全ポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の10重量%以上、99重量%以下であることが必要である。この組成比においては、十分な親水性を発現でき、かつ、溶出性が抑えられる。より好ましい下限値は、20重量%以上、特に好ましい下限値は、30重量%以上であり、より好ましい上限値は98重量%以下、特に好ましい上限値は、97重量%以下である。
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体のブロック構造は、2つの該セグメントから構成されるジブロック共重合体、3つの該セグメントから構成されるトリブロック共重合体、4つ以上の該セグメントから構成されるマルチブロック共重合体であっても構わない。また、これら2種以上のブロック共重合体の混合物であっても構わない。構成される各該セグメントの数平均分子量は同一であっても異なっても構わない。
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメント間は、高分子末端部分で直接化学的に結合される必要がある。製造するために、必要であれば、該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントを接続するためのスペーサーとして低分子化合物および/または有機官能基を利用してもよい。低分子化合物および/または有機官能基の数平均分子量が500以下の場合、該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントの効果を低下させること無く発現できる。具体的には、反応性官能基を有するラジカル重合開始剤を用いてスチレンを重合した後にポリエチレングリコールを縮合した際に形成されるポリスチレン−ポリエチレングリコール間の低分子化合物などが挙げられる。
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を製造する方法の一例としては、反応性官能基を有するラジカル重合開始剤を用いる方法がある。具体的には、カルボン酸基を有するアゾ系ラジカル重合開始剤を用い、カルボン酸基を酸塩化物基に化学的に変換した後、スチレンをラジカル重合することで末端に酸塩化物基を有するポリスチレンが得られる。次いで、ポリエチレングリコールと縮合することによってポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を得ることができる(高分子論文集、1976年、第33巻、P131)。ポリエチレングリコールユニット含有高分子アゾ重合開始剤を用いて、スチレンをラジカル重合することによってもポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を得ることができる。また、別の合成方法例として、リビング重合を利用する方法が挙げられる。具体的には、ニトロキシド系化合物によるリビングラジカル重合を用いてスチレンの重合を行い、高分子末端にニトロキシド化合物が結合した高分子を得られる。加水分解により高分子末端をヒドロキシル基に変換し、ポリエチレングリコールとのカップリング反応によりポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を得ることができる(Polymer、1998年、第39巻、第4号、P911)。
本発明における親水性高分子を用いて芳香族エーテル系高分子からなる限外濾過膜を親水化する方法は、例えば、成膜時に親水性高分子をあらかじめ混合するブレンド法、親水性高分子を含む溶液に膜を浸漬した後、乾燥させて親水性高分子を残留させる塗布法、膜表面に親水性のアクリル系モノマー、メタクリル系モノマー、アクリルアミド系モノマー等をグラフト重合する方法などが挙げられる。これらの方法を2つ以上組み合わせて行うことも可能である。芳香族エーテル系高分子に化学的変性を加えないブレンド法または塗布法が好ましく、製造面においては一段階の工程で親水化処理を行うことができるブレンド法が特に好ましい。
本発明に係る芳香族エーテル系高分子膜の分画分子量は、免疫グロブリン1量体と2量体を十分に分離できれば良く、10万以上、好ましくは15万以上、さらに好ましくは25万以上が良く、上限としては50万未満、好ましくは45万以下、さらに好ましくは40万以下に設定する必要がある。分画分子量が10万未満であると、免疫グロブリンの透過量が低下する問題があり、また、50万以上であると免疫グロブリン1量体および2量体が共に膜を透過し、分画性能が低下する。
本発明に係る分画分子量は、アルブミン(66,000)、γ−グロブリン(160,000)、カタラーゼ(232,000)、フェリチン(440,000)、サイログロブリン(669,000)などの蛋白質やPEG、デキストラン等を用いて、デッドエンド濾過を行い、分子量と阻止率の関係から阻止率が90%となる分子量として算出される。
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば湿式成膜法が挙げられる。湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒は、成膜条件において膜材料である芳香族エーテル系高分子を安定に5重量%以上溶解するものであれば如何なる溶媒を使用することができる。ただし、環境面およびコストの点から非ハロゲン系水溶性有機溶媒を用いることが好ましい。本発明における水溶性有機溶媒とは、20℃の100g純水に10g以上溶解可能である溶媒を示し、さらに好ましくは、水に混和可能なものである。具体的にはN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これらは2種以上組み合わせて使用できる。
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液の一例としては、良溶媒に親水性高分子を下限として0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、特に好ましくは1重量%以上、上限として45重量%以下、好ましくは35重量%以下、特に好ましくは25重量%以下で、均一に溶解した溶液が好適に使用される。
また、膜原液全体を100重量%とした場合、芳香族エーテル系高分子の使用範囲としては下限として1重量%以上、好ましくは2重量%以上、特に好ましくは3重量%以上である。また上限としては45重量%以下、好ましくは35重量%以下、特に好ましくは25重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。
また、膜原液の温度は、下限として25℃以上、好ましくは65℃以上、特に好ましくは80℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下にすることにより、芳香族エーテル系高分子の溶解性を高めることができ、さらに膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
本発明に係わる親水性芳香族エーテル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質をいう。具体的には純水、モノアルコール系溶媒、下記式(15)で表されるポリオール系溶媒又はこれら2種以上の混合液などが好適に使用される。
[化15]
Figure 2010047526
(R16は炭素数1以上、20以下を含む有機官能基、または、酸素原子を1つ以上と炭素数1以上、20以下とを含む構造であり、R16に水酸基、エーテル結合、エステル基、ケトン基、カルボン酸基などを1つ以上含んでいてもよい。)
式(15)に表されるポリオール系溶媒の一例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。
芳香族エーテル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液の粘度によって透水性能を制御することが可能である。凝固液の粘度を高くすることにより、凝固液の原液への浸透が緩やかになり、その結果、製造した膜の透水性能が向上することを見出した。高い透水性能を得るためには、凝固液の粘度が20℃で3cp以上であることが好ましい。より好ましくは、5cp以上である。凝固液の粘度を高めるためにポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸ナトリウム、N,N−ジメチルアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの水溶性高分子を添加することが可能である。また、上記ポリオール系溶媒などの20℃で5cp以上の高粘性溶媒を含有させることも好適である。
本発明に係わる凝固液の粘度は、ガラス製毛細管粘度計を用いて測定した値であり、測定方法としては、20℃恒温水槽中で恒温としたガラス製毛管粘度計に凝固液を入れ、30分以上放置後、恒温に達したとして測定を行うことにより動粘度が得られる。この得られた動粘度の値より下記式(16)により凝固液の粘度を得ることができる。なお、ガラス製毛細管粘度計としては、柴田科学(株)製のウベローテ粘度計などを用いることができる。
ν=η/ρ (16)
(ν:動粘度(mm/s)、η:粘度(cp)、ρ:密度(g/cm))
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ―ブチロラクトンなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として下限0重量%以上、上限90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
本発明に係わる湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であり、本発明の中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては、凝固液温度で決まる。成膜温度の下限としては25℃以上、好ましくは80℃以上、特に好ましくは90℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。特に成膜温度80℃以上、各沸点から10℃以上低い温度の範囲内で膜原液と凝固液が接触した場合において、特に高強度の膜を得ることできる。
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固を、より促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡糸口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、空走距離の下限としては0.01m以上、好ましくは0.05m以上、特に好ましくは0.1m以上、上限として2.0m以下、好ましくは1.5m以下、特に好ましくは1.2m以下である。また紡糸口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として20℃以上、好ましくは50℃以上、特に好ましくは80℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは25%以上、特に好ましくは50%以上であり、上限としては100%以下である。
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、巻取り速度は製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね600m/時間から9,000m/時間の速度が選択される。
本発明に係わる湿式成膜法を用いることで、膜として供されるのに十分な強度、伸度を有した芳香族エーテル系高分子膜を得ることができる。また本発明の湿式成膜法においては濃度誘起相分離を利用することで、温度誘起相分離を利用する溶融成膜法では得ることが困難な、傾斜構造を有する多孔膜構造が容易に製造可能であり、得られる本発明の膜に高い透水性能を付与することが可能である。
本発明に係わる湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
本発明に係わる湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度である。即ち、膜原液の温度、凝固液の温度、中空糸膜であれば二重紡口の温度、平膜であれば膜形成をサポートする金属プレート等の温度により決まる。成膜温度の下限としては20℃以上、好ましくは25℃以上、特に好ましくは30℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。特に成膜温度80℃以上、各沸点から10℃以上低い温度の範囲内で膜原液と凝固液が接触した場合において、特に高強度の膜を得ることができる。
湿式成膜法により得られた未乾燥の芳香族エーテル系高分子膜は、乾燥中の膜破断が生じない温度、例えば、20℃以上から芳香族エーテル系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。好ましい乾燥温度としては50℃以上、150℃以下、更に好ましくは60℃以上、140℃以下、特に好ましくは70℃以上、130℃以下である。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜は特に限定されるものではなく、(メタ)アクリル系高分子の例としては、下記式(17)で表されるものが挙げられる。
[化17]
Figure 2010047526
(式中、R17およびR18は炭素数1〜14のアルキル基またはアラルキル基を表す。アルキル基の水素原子またはアラルキル基の水素原子は炭素数1〜10のアルコキシ基によって置換されていてもよい。式中vおよびwは繰り返し単位を表す。)
その中でも、ポリ(メタ)アクリル酸やポリ(メタ)アクリル酸エステルなど用いることができる。好ましくはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチルおよびこれら2つ以上組み合わせた共重合体が良い。必要に応じて高分子末端および/または主鎖中にエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また、免疫グロブリンの静電気的な特性との相性から、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、スルフォニル基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入しても良い。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜は、主としてポリ(メタ)アクリル酸エステルからなるものであるが、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係る(メタ)アクリル系高分子の重量平均分子量は、下限としては5,000以上、好ましくは1万以上、特に好ましくは2万以上が良く、上限として100万以下、好ましくは50万以下、特に好ましくは30万以下が良い。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
本発明においては、(メタ)アクリル系高分子とともに、膜の孔の大きさをコントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ましい。親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどが挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドンは、(メタ)アクリル系高分子との相溶性がよく、膜全体の親水性を高める上で特に好ましい。
本発明で係わる(メタ)アクリル系高分子膜に親水性を付与する親水性高分子の重量平均分子量は下限としては1,000以上、好ましくは5,000以上が良く、上限として200万以下、好ましくは100万以下、特に好ましくは50万以下が良い。例えばポリビニルピロリドンではBASF社より様々なグレードが市販されており、その重量平均分子量が9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。
本発明に係る(メタ)アクリル系高分子膜の分画分子量は、免疫グロブリン1量体と2量体を十分に分離できれば良く、下限としては10万以上、好ましくは15万以上、さらに好ましくは25万以上が良く、上限としては50万未満、好ましくは45万以下、さらに好ましくは40万以下に設定する必要がある。分画分子量が10万未満であると、免疫グロブリンの透過量が低下する問題があり、また、50万以上であると免疫グロブリン1量体および2量体が共に膜を透過し、分画性能が低下する。
本発明に係る分画分子量は、アルブミン(66,000)、γ−グロブリン(160,000)、カタラーゼ(232,000)、フェリチン(440,000)、サイログロブリン(669,000)などの蛋白質やPEG、デキストラン等を用いて、デッドエンド濾過を行い、分子量と阻止率の関係から阻止率が90%となる分子量として算出される。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば湿式成膜法が挙げられる。湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒とは、水に混和可能なものであれば何ら限定しないが、20℃の純水100gに10g以上溶解可能であり、かつ膜材料の(メタ)アクリル系高分子を5重量%以上溶解するものが好まし。更に好ましくは、具体的にはN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。危険性、安全性、毒性の面からジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが好ましく用いられる。これらの溶媒は、単独で、もしくは2種以上組み合わせて使用できる。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有する(メタ)アクリル系高分子膜を製造できれば何ら限定はしない。膜原液における(メタ)アクリル系高分子の濃度に関しては、濃度を上げるにつれて成膜性は向上するが、逆に膜の空孔率は減少し、透水性が低下する傾向がある。そのため、膜原液全体を100重量%とした場合、(メタ)アクリル系高分子の濃度範囲としては分子量によって異なるが、下限として2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上である。また上限としては50重量%以下、好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。
また、膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
本発明において使用する膜原液には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法で親水性高分子を用いる場合、その役割は、主に外側の多孔支持層部分の多孔構造を促進して形成させるところにあり、膜原液の増粘効果を奏するものである。膜原液中に添加する親水性高分子の量は安定した成膜を行うために親水性ポリマーの分子量と添加量を適宜調整することもできる。膜原液の粘度が低い場合、成膜時に膜破れや膜切れなどを起こし、成膜性が不安定になる場合がある。逆に膜原液の粘度が高すぎる場合、多孔支持層を充分に成長させることができず、外層の多孔構造の空孔率が不十分となり、目的の高い透過性を持つ膜が得られにくくなる。更には、膜原液の粘度が上がることで、口金から吐出された原液がメルトフラクチャーを起こすことも危惧される。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法において、膜原液中の親水性高分子の濃度の上限値は、使用する親水性高分子の種類と分子量に応じて最適値が決定されるが、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しない。例えば、純水、モノアルコール系溶媒、ポリオール系溶媒又はこれら2種以上の混合液などが好適に使用される。モノアルコール系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、ポリオール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。凝固液中にポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸ナトリウム、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの水溶性高分子を添加することも可能である。添加する水溶性高分子の分子量や添加量にも依存するが、これらを添加することにより濾過性能を向上させることが可能である。また、凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法おいて中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は、上記の外部凝固液と同様の溶液を用いてもよく、また、空気、窒素、アンモニアガス等の気体を導入する乾湿式成膜法で製造しても良い。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であれば何ら限定しないが、成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。また、乾湿式成膜法として空気、窒素、アンモニアガス等の気体を凝固剤として用いている場合には、この工程は実施しない。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固をより促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。空間の温度と湿度を調整できれば何ら限定しないが、例えば、空走距離の下限としては0.001m以上、好ましくは0.005m以上、特に好ましくは0.01m以上、上限として2.0m以下、好ましくは1.5m以下、特に好ましくは1.2m以下である。また紡口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね300m/時間から9,000m/時間の速度が選択される。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
本発明に係わる湿式成膜法により得られた未乾燥の本発明の(メタ)アクリル系高分子膜の乾燥温度は、乾燥中の膜破断が生じない温度であれば何ら限定はしないが、例えば、20℃以上から(メタ)アクリル系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。好ましい乾燥温度は、下限として30℃以上、好ましくは40℃以上、上限として80℃以下、好ましくは70℃以下が良い。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系膜は特に限定されるものではなく、(メタ)アクリロニトリル系高分子の例としては、下記式(18)で表されるものが挙げられる。
[化18]
Figure 2010047526
(式中、R19およびR20は、水素またはメチル基を表す。R21は炭素数1〜14のアルキル基またはアラルキル基を表す。アルキル基の水素原子またはアラルキル基の水素原子は、炭素数1〜10のアルコキシ基によって置換されていてもよい。式中xおよyは繰り返し単位を表す。)
その中でも、ポリ(メタ)アクリロニトリルやポリ(メタ)アクリロニトリル酸エステルなど用いることができる。好ましくはポリアクリロニトリル、ポリメタアクリロニトリルが良い。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子を構成するモノマー組成は、(メタ)アクリロニトリル含量が少なくとも50重量%以上、好ましくは60重量%以上であり、(メタ)アクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル化合物の一種又は二種以上の含量が50重量%以下、好ましくは40重量%以下である。上記ビニル化合物としては、(メタ)アクリロニトリルに対して共重合性を有する公知の化合物であれば良く、特に限定されないが、好ましい共重合成分としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、イタコン酸、酢酸ビニル、(メタ)アクリルスルホン酸ナトリウム、p(パラ)−スチレンスルホン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルメタクリレート、メタアクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロライド、メタアクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニルピロリドン等を例示することができる。例えば、アクリロニトリル−アクリル酸メチル−PVP共重合体などが挙げられる。
必要に応じて高分子末端および/または主鎖中にエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また、免疫グロブリンの静電気的な特性との相性から、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、スルフォニル基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入しても良い。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜は、主として(メタ)アクリロニトリル系高分子からなるものであるが、(メタ)アクリロニトリル系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子の重量平均分子量は、下限としては5,000以上、好ましくは1万以上、特に好ましくは2万以上が良く、上限として100万以下、好ましくは50万以下、特に好ましくは30万以下が良い。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
本発明においては、(メタ)アクリロニトリル系高分子とともに、膜の孔の大きさをコントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ましい。親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどが挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドンは、(メタ)アクリロニトリル系高分子との相溶性がよく、膜全体の親水性を高める上で特に好ましい。
本発明で係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜に親水性を付与する親水性高分子の重量平均分子量は、下限としては1,000以上、好ましくは5,000以上が良く、上限としては200万以下、好ましくは100万以下、特に好ましくは50万以下が良い。
例えばポリビニルピロリドンではBASF社より様々なグレードが市販されており、その重量平均分子量が9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。
本発明に係る(メタ)アクリロニトリル系高分子膜の分画分子量は、免疫グロブリン1量体と2量体を十分に分離できれば良く、下限としては10万以上、好ましくは15万以上、さらに好ましくは25万以上が良く、上限としては50万未満、好ましくは45万以下、さらに好ましくは40万以下に設定する必要がある。分画分子量が10万未満であると、免疫グロブリンの透過量が低下する問題があり、また、50万以上であると免疫グロブリン1量体および2量体が共に膜を透過し、分画性能が低下する。
本発明に係る分画分子量は、アルブミン(66,000)、γ−グロブリン(160,000)、カタラーゼ(232,000)、フェリチン(440,000)、サイログロブリン(669,000)などの蛋白質やPEG、デキストラン等を用いて、デッドエンド濾過を行い、分子量と阻止率の関係から阻止率が90%となる分子量として算出される。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば湿式成膜法が挙げられる。湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒とは、水に混和可能なものであれば何ら限定しないが、20℃の純水100gに10g以上溶解可能であり、かつ膜材料の(メタ)アクリロニトリル系高分子を5重量%以上溶解するものが好ましい。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。危険性、安全性、毒性の面からジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが好ましく用いられる。これらの溶媒は、単独で、もしくは2種以上組み合わせて使用できる。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有する(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を製造できれば何ら限定はしないが、濃度を上げるにつれて成膜性は向上するが、逆に膜の空孔率は減少し、透水性が低下する傾向がある。そのため、膜原液全体を100重量%とした場合、(メタ)アクリロニトリル系高分子の濃度範囲としては、分子量によって異なるが、下限として2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上である。また上限としては50重量%以下、好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。(メタ)アクリロニトリル系高分子の濃度が2重量%未満では成膜原液の粘度が低く、成膜しにくい傾向にあり、50重量%より高いと成膜原液の粘度が高すぎ、成膜は困難となる傾向にある。また、原液粘度、溶解状態を制御する目的で水、塩類、アルコール類、エーテル類、ケトン類、グリコール類等の非溶剤を複数添加することも可能であり、その種類、添加量は組み合わせにより随時決定すればよい。
また、該膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
本発明において使用する膜原液には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法で親水性高分子を用いる場合、その役割は、主に外側の多孔支持層部分の多孔構造を促進して形成させるところにあり、膜原液の増粘効果を奏するものである。膜原液中に添加する親水性高分子の量は安定した成膜を行うために親水性ポリマーの分子量と添加量を適宜調整することもできる。膜原液の粘度が低い場合、成膜時に糸切れ、糸揺れなどを起こし、製糸性が不安定になる場合がある。逆に膜原液の粘度が高すぎる場合、多孔支持層を充分に成長させることができず、外層の多孔構造の空孔率が不十分となり、目的の高い透過性を持つ膜が得られにくくなる。更には、膜原液の粘度が上がることで、口金から吐出された原液がメルトフラクチャーを起こすことも危惧される。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法において、膜原液中の親水性高分子の濃度の上限値は、使用する親水性高分子の種類と分子量に応じて最適値が決定されるが、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しないが、例えば、純水、モノアルコール系溶媒、ポリオール系溶媒又はこれら2種以上の混合液などが好適に使用される。モノアルコール系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、ポリオール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。凝固液中にポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸ナトリウム、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチン、などの水溶性高分子を添加することも可能である。さらにn−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類などポリマーを溶解しない液体でも良い。添加する水溶性高分子の分子量や添加量にも依存するが、これらを添加することにより濾過性能を向上させることが可能である。また、凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であれば何ら限定しないが、成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固をより促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。空間の温度と湿度を調整できれば何ら限定しないが、例えば、空走距離の下限としては0.001m以上、好ましくは0.005m以上、特に好ましくは0.01m以上、上限として2.0m以下、好ましくは1.5m以下、特に好ましくは1.2m以下である。また紡口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね300m/時間から9,000m/時間の速度が選択される。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
本発明に係わる湿式成膜法により得られた未乾燥の本発明の(メタ)アクリロニトリル系高分子膜の乾燥温度は、乾燥中の膜破断が生じない温度であれば何ら限定はしないが、例えば、20℃以上から(メタ)アクリロニトリル系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。好ましい乾燥温度としては30℃以上、75℃以下である。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
本発明に係わるフッ素系高分子膜は、主としてフッ素系高分子からなるものであるが、フッ素系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わるフッ素系高分子は、フッ化ビニリデンのホモ重合体や、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、およびパーフルオロメチルビニルエーテルのモノマー群から選んだ1種又は2種のモノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体のことである。また、上記ホモ重合体および上記共重合体を混合して使用することもできる。その中でも、フッ化ビニリデンが好ましい。
本発明に係わるフッ素系高分子の重量平均分子量は、下限としては5万以上、好ましくは10万以上、特に好ましくは15万以上が良く、上限として500万以下、好ましくは200万以下、特に好ましくは100万以下が良い。一般に平均分子量が100万を超えるような樹脂については、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定が困難であるので、その代用として粘度法による粘度平均分子量をあてることができる。平均分子量が5万より小さいと、溶融成型の際のメルトテンションが小さくなり成形性が悪くなったり、膜の力学強度が低くなったりするので好ましくない。平均分子量が500万を超えると、均一な溶融混練が難しくなるために好ましくない。
免疫グロブリンの吸着による閉塞を防ぐために、膜に親水性を付与することが必要となる。親水化処理の方法としては、例えば、界面活性剤を含む溶液にフッ素系高分子膜を浸漬した後、乾燥してフッ素系高分子膜中に界面活性剤を残留させる方法、電子線やガンマ線等の放射線を照射する、あるいは過酸化物を用いることによって、フッ素系高分子膜の細孔表面に親水性のアクリル系モノマーやメタクリル系モノマー等をグラフトする方法、成膜時に親水性高分子を予め混合する方法、親水性高分子を含む溶液にフッ素系高分子膜を浸漬した後、乾燥してフッ素系高分子膜の細孔表面に親水性高分子の被膜を作る方法等が挙げられるが、親水化の永続性や親水性添加物の漏洩の可能性を考慮するとグラフト重合が最も好ましい。特に、特開昭62−179540号公報、特開昭62−258711号公報、および米国特許第4,885,086号明細書に開示された放射線グラフト重合法による親水化処理は、膜内全領域の細孔内表面に均一な親水化層を形成し得る点で好ましい。
本発明のグラフト重合に使用する親水性モノマーとしては、ビニル基を有する親水性モノマーであれば特に限定されるものではない。好ましくは、1個のビニル基を有するモノマーが良い。さらに、スルホン基、カルボキシル基、アミド基、中性水酸基、スルフォニル基、スルフォニル基、スルホン酸基等を含む(メタ)アクリル系モノマーが好適に使用できるが、免疫グロブリンを含む溶液を濾過する場合には中性水酸基を含むモノマーが特に好ましい。本発明に係わる親水性モノマーとは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解するモノマーである。例えば、ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシル基を有する、もしくはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマー、メタクリル酸トリエチルアンモニウムエチル等のアニオン交換基を有するビニルモノマー、メタクリル酸スルホプロピル等のカチオン交換基を有するビニルモノマー、ビニルピロリドン等のアミド結合を有するビニルモノマー等が挙げられる。中でも、1個以上のヒドロキシル基、あるいはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマーが、免疫グロブリン溶液の透過性が最も高いため好ましい。具体的には、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールのエステル類、アリルアルコール等の不飽和結合を有するアルコール類、および酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のエノールエステル類等が挙げられる。さらに、1個のビニル基を有する親水性モノマーとともに、2個以上のビニル基を有する架橋剤を、上記親水性モノマーに対して、20mol%以上、1,000mol%以下の割合で用いて、グラフト重合法によって共重合させることにより、充分に親水化が達成されたものである。
本発明に係わる使用する架橋剤は、上記親水性モノマーと共重合しうる2個以上のビニル基を有する架橋剤であり、親水性モノマーと同時に膜に接触させることにより導入する。架橋剤の数平均分子量は、下限としては、200以上、好ましくは250以上、より好ましくは300以上であり、上限としては、2,000以下、好ましくは1,000以下、より好ましくは600以下である。架橋剤の数平均分子量が200以上、2,000以下であると、免疫グロブリン溶液の高い濾過速度が得られ好ましい。本発明においては、2個以上のビニル基を有する架橋剤であれば、いかなる架橋剤も使用できるが、親水性の架橋剤が好ましい。ここで親水性の架橋剤とは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解する架橋剤である。
本発明で用いられる架橋剤の具体例としては、芳香族系ではジビニルベンゼン誘導体、脂肪族系ではエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等のようなメタクリル酸系の架橋剤、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等のような(メタ)アクリル酸系の架橋剤等が挙げられる。また、トリメチロールプロパントリメタクリレートのような3個の反応性基を有する架橋剤も用いることが出来る。また、架橋剤は2種類以上の混合物も用いることが出来る。本発明において、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、またはそれらの混合物を用いることが、免疫グロブリン1量体透過性と免疫グロブリン2量体除去性能の観点から最も好ましい。
本発明に係わるグラフト重合法とは、ラジカルが発生させる方法であれば何ら限定しないが、例えば、放射線開始剤の添加や電離性放射線や化学反応等の手段によってフッ素系高分子膜にラジカルを生成させ、そのラジカルを開始点として、該膜にモノマーをグラフト重合させる反応である。本発明において、フッ素系高分子膜にラジカルを生成させるためにはいかなる手段も採用しうるが、膜全体に均一なラジカルを生成させるためには、電離性放射線の照射が好ましい。電離性放射線の種類としては、γ線、電子線、β線、中性子線等が利用できるが、工業規模での実施には電子線またはγ線が最も好ましい。電離性放射線はコバルト60、ストロンチウム90、およびセシウム137などの放射性同位体から、またはX線撮影装置、電子線加速器および紫外線照射装置等により得られる。
本発明に係わる電離性放射線の照射線量は、1kGyから1,000kGyまでが好ましい。1kGy未満ではラジカルが均一に生成せず、1,000kGyを越えると膜強度の低下を引き起こすことがある。グラフト重合法は一般に膜にラジカルを生成した後、ついでそれを反応性化合物と接触させる前照射法と、膜を反応性化合物と接触させた状態で膜にラジカルを生成させる同時照射法に大別される。本発明においては、いかなる方法も適用しうるが、オリゴマーの生成が少ない前照射法が最も好ましい。
本発明では、ラジカルを生成したフッ素系高分子膜と、親水性モノマーおよび架橋剤との接触は、気相でも液相で達成されるが、本発明においては、グラフト反応が均一にすすむ液相で接触させる方法が好ましい方法である。グラフト反応をさらに均一に進めるために、親水性モノマーおよび架橋剤はあらかじめ溶媒中に溶解させてから、フッ素系高分子膜と接触させることが望ましい。親水性モノマーおよび架橋剤を溶解する溶媒としては、均一溶解できるものであれば特に限定されない。このような溶媒として、例えば、エタノールやイソプロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
本発明に係わるグラフト重合は、親水性モノマーと架橋剤を合わせた濃度で0.3容量%〜30容量%の反応液を用い、フッ素系高分子膜1gに対して10×10-5〜100×10-53の割合で反応を行うことが望ましい。該範囲内でグラフト重合を行えば、親水化層によって孔が埋まることもなく、均一性に優れた膜が得られる。
本発明に係わるグラフト重合時の反応温度は、重合反応が起これば特に限定されるものではないが、一般的に20℃から80℃までで行われる。
本発明に係わるグラフト重合は、フッ素系高分子膜と親水性のモノマーを接触させる際に、親水性のモノマーは気体、液体又は溶液のいずれの状態でもよいが、均一な親水化層を形成させるためには、液体又は溶液であることが好ましく、溶液であることが特に好ましい。
本発明に係わる親水性フッ素系高分子膜は、疎水性のフッ素系高分子膜に強固な架橋構造を有する親水化層を導入することで、免疫グロブリン1量体透過性と免疫グロブリン2量体阻止性を高いレベルで実現することができる。そのために、親水性モノマーに対して架橋剤を、下限としては、20mol%以上、好ましくは30mol%以上の割合で、上限としては、1,000mol%以下、好ましくは500mol%以下、さらに好ましくは200mol%以下の割合で用いることが良い。
本発明は、疎水性フッ素系高分子膜に親水化層を導入し、高い免疫グロブリン1量体透過性を実現する。そのために、疎水性フッ素系高分子膜にグラフトされるグラフト率は、下限として、3%以上、好ましくは4%以上、より好ましくは5%以上、上限として、50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下が良い。グラフト率が3%未満であると膜の親水性が不足し、タンパク質の吸着にともなう濾過速度の急激な低下を引き起こす。50%を越えると、比較的小さな孔が親水化層によって埋まってしまい、充分な濾過速度が得られない。ここで言うグラフト率とは下記式(19)で定義される値である。
グラフト率(%)=
(グラフト後の膜重量−グラフト前の膜重量)/グラフト前の膜重量×100 (19)
本発明に係わるフッ素系高分子膜の親水性の度合いは、接触角によって評価することができる。25℃における前進接触角および後退接触角の平均値が60度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましく、更に好ましくは30度以下である。また、簡便な評価法としては、フッ素系高分子膜を水と接触させた際に、膜の細孔内部に水が自発的に浸透すれば充分な親水性を持つと判断してよい。
本発明に係る親水性フッ素系高分子膜の分画分子量は、免疫グロブリン1量体と2量体を十分に分離できれば良く、下限としては10万以上、好ましくは15万以上、さらに好ましくは25万以上が良く、上限としては50万未満、好ましくは45万以下、さらに好ましくは40万以下に設定する必要がある。分画分子量が10万未満であると、免疫グロブリンの透過量が低下する問題があり、また、50万以上であると免疫グロブリン1量体および2量体が共に膜を透過し、分画性能が低下する。
本発明に係る分画分子量は、アルブミン(66,000)、γ−グロブリン(160,000)、カタラーゼ(232,000)、フェリチン(440,000)、サイログロブリン(669,000)などの蛋白質やPEG、デキストラン等を用いて、デッドエンド濾過を行い、分子量と阻止率の関係から阻止率が90%となる分子量として算出される。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば、溶融成膜法や湿式成膜法が挙げられる。溶融成膜法とは、膜材料と可塑剤を加熱することで均一混合させた後、冷却することにより相分離を発生させ、得られた膜フィルムから可塑剤を抽出することで膜を得る方法である。また、湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る代表的な溶融成膜法は、下記(a)〜(c)の工程を含む。
(a)フッ素系高分子と可塑剤を含む組成物を該フッ素系高分子の結晶融点以上に加熱して均一溶解した後、該組成物を吐出口から吐出し、膜を形成する工程;
(b)下記式(20)に定義するドラフト比が1以上15以下となるような引取速度で該膜を引取りながら、該フッ素系高分子に対して部分的な溶解性を有する不揮発性液体を、該温度が100℃以上に加熱された状態で、膜の一方の表面に接触させ、他方の膜表面は冷却する工程:
ドラフト比=(膜の引取速度)/(組成物の吐出口における吐出速度) (20)
(c)該可塑剤および該不揮発性液体の実質的な部分を除去する工程。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る溶融成膜法に用いられるポリマー濃度は、フッ素系高分子および可塑剤を含む組成物中に下限として、20重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%が良く、上限としては、90重量%以下、好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下が良い。ポリマー濃度が20重量%未満になると、成膜性が低下する、充分な力学強度が得られない等の不都合が発生する。ポリマー濃度が90重量%を超えると、得られるフッ素系高分子膜の孔径が小さくなりすぎるとともに、空孔率が小さくなるため、濾過速度が低下し、実用に耐えない。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る溶融成膜法に用いられる可塑剤としては、フッ素系高分子膜を製造する組成でフッ素系高分子と混合した際に樹脂の結晶融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いる。ここで言う不揮発性溶媒とは、大気圧下において250℃以上の沸点を有するものである。可塑剤の形態は、概ね常温20℃において、液体であっても固体であっても差し支えない。また、フッ素系高分子との均一溶液を冷却した際に、常温以上の温度において熱誘起型固液相分離点を持つような、いわゆる固液相分離系の可塑剤を用いても良い。可塑剤の中には、フッ素系高分子との均一溶液を冷却した際に、常温以上の温度において熱誘起型液液相分離点を有するものもあるが、一般に、液液相分離系の可塑剤を用いた場合は、得られたフッ素系高分子膜は大孔径化する傾向がある。ここで用いられる可塑剤は単品又は複数の物質の混合物であってもよい。
熱誘起型固液相分離点を測定する方法は、フッ素系高分子と可塑剤を含む所定濃度の組成物を予め溶融混練したものを試料として用い、示差走査熱量測定(DSC)などの熱分析により該樹脂の発熱ピーク温度を測定することにより求めることができる。また、該樹脂の結晶化点を測定する方法は、予め該樹脂を溶融混練したものを試料として用い、同様に熱分析により求めることができる。
本発明に係わる可塑剤としては、国際公開第01/28667号パンフレットに開示されている可塑剤が挙げられる。即ち、下記式(21)で定義する組成物の相分離点降下定数αが、下限として、0℃以上、好ましくは1℃以上、より好ましくは5℃以上が良く、上限として、40℃以下、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下の可塑剤が良い。相分離点降下定数が40℃を超えると、孔径の均質性や強度が低下してしまうために好ましくない。
α=100×(T −T)÷(100−C) (21)
αは相分離点降下定数(℃)
はフッ素系高分子の結晶化温度(℃)
は組成物の熱誘起固液相分離点(℃)
Cは組成物中のフッ素系高分子の濃度(重量%)
具体的には、エステル鎖の炭素鎖長が7以下のフタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、セバシン酸エステル類、エステル鎖の炭素鎖長が8以下のリン酸エステル類、クエン酸エステル類等が好適に使用でき、特にフタル酸ジヘプチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸トリ(2−エチルヘキシル)、リン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリブチル等が特に好ましい。
本発明において使用する組成物には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る溶融成膜法において、フッ素系高分子と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第一の方法は、該樹脂を押出機等の連続式樹脂混練装置に投入し、樹脂を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入してスクリュー混練することにより、均一溶液を得る方法である。投入する樹脂の形態は、粉末状、顆粒状、ペレット状の何れでもよい。また、このような方法によって均一溶解させる場合は、可塑剤の形態は常温液体であることが好ましい。押出機としては、単軸スクリュー式押出機、二軸異方向スクリュー式押出機、二軸同方向スクリュー式押出機等が使用できる。
フッ素系高分子と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第二の方法は、ヘンシェルミキサー等の撹拌装置を用いて、フッ素系高分子と可塑剤を予め混合して分散させ、得られた組成物を押出機等の連続式樹脂混練装置に投入して溶融混練することにより、均一溶液を得る方法である。投入する組成物の形態については、可塑剤が常温液体である場合はスラリー状とし、可塑剤が常温固体である場合は粉末状や顆粒状等とすればよい。
フッ素系高分子と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第三の方法は、ブラベンダーやミル等の簡易型樹脂混練装置を用いる方法や、その他のバッチ式混練容器内で溶融混練する方法である。この方法によれば、バッチ式の工程となるため生産性は良好とは言えないが、簡易でかつ柔軟性が高いという利点がある。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る溶融成膜法において、フッ素系高分子と可塑剤を含む組成物をフッ素系高分子の結晶融点以上の温度に加熱均一溶解させた後、Tダイやサーキュラーダイ、環状紡口の吐出口から平膜状、中空糸状の形状に押出す(a)の工程の後に、冷却固化させて成型を行う(b)の工程に移るが、この工程において、膜構造を形成する。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る溶融成膜法においては、均一に加熱溶解したフッ素系高分子と可塑剤を含む組成物を吐出口から吐出させ、下記式(22)で定義するドラフト比が1以上15以下となるような引取速度で該膜を引取りながら、該フッ素系高分子に対して部分的な溶解性を有する不揮発性液体を接触させ、膜を形成させる。
ドラフト比
=(膜の引取速度)/(組成物の吐出口における吐出速度) (22)

上記ドラフト比は、好ましくは下限としては、1.5以上、より好ましくは2以上が良く、好ましくは上限としては、10以下、より好ましくは7以下が良い。ドラフト比が1未満では膜にテンションがかからないために成型性が低下し、15を超える場合は、膜が引伸ばされるために、充分な厚みの粗大構造層を形成させることが難しい。ここで言う組成物の吐出口における吐出速度は下記式(23)で与えられる。
組成物の吐出口における吐出速度=
(単位時間当りに吐出される組成物の体積)/(吐出口の面積) (23)

吐出速度は、下限として、1m/分以上、好ましくは3m/分以上が良く、上限として、60m/分以下、より好ましくは40m/分以下が良い。吐出速度が1m/分未満の場合は、生産性が低下することに加えて、吐出量の変動が大きくなる等の問題が発生する。反対に、吐出速度が60m/分を超える場合は、吐出量が多いために吐出口で乱流が発生し、吐出状態が不安定になる場合がある。また、引取速度は吐出速度に合わせて設定することができ、下限としては、1m/分以上、好ましくは3m/分以上が良く、上限としては、200m/分以下、好ましく150m/分以下が良い。引取速度が1m/分未満の場合は、生産性、成型性が低下し、引取速度が200m/分を超える場合は、冷却時間が短くなる、膜にかかるテンションが大きくなることによって膜の断裂が起き易くなる。
本発明においては、可塑剤を除去するために抽出溶剤を使用する。抽出溶剤はフッ素系高分子に対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がフッ素系高分子膜の融点より低いことが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレンや1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、又は水が挙げられる。
本発明において、可塑剤を除去する第一の方法は、抽出溶剤が入った容器中に所定の大きさに切り取ったフッ素系高分子膜を浸漬し充分に洗浄した後に、付着した溶剤を風乾させるか、又は熱風によって乾燥させることにより行う。この際、浸漬の操作や洗浄の操作を多数回繰り返して行うとフッ素系高分子膜中に残留する可塑剤が減少するので好ましい。また、浸漬、洗浄、乾燥の一連の操作中にフッ素系高分子膜の収縮を抑えるために、フッ素系高分子膜の端部を拘束することが好ましい。
可塑剤を除去する第二の方法は、抽出溶剤で満たされた槽の中に連続的にフッ素系高分子膜を送り込み、可塑剤を除去するのに充分な時間をかけて槽中に浸漬し、しかる後に付着した溶剤を乾燥させることにより行う。この際、槽内部を多段分割することにより濃度差がついた各槽に順次フッ素系高分子膜を送り込む多段法や、フッ素系高分子膜の走行方向に対し逆方向から抽出溶剤を供給して濃度勾配をつけるための向流法のような公知の手段を適用すると、抽出効率が高められ好ましい。第一および第二の方法においては、何れも可塑剤をフッ素系高分子膜から実質的に除去することが重要である。実質的に除去するとは、分離膜としての性能を損なわない程度にフッ素系高分子膜中の可塑剤を除去することを指し、フッ素系高分子膜中に残存する可塑剤の量は1重量%以下となることが好ましく、さらに好ましくは100重量ppm以下である。フッ素系高分子膜中に残存する可塑剤の量は、ガスクロマトグラフィや液体クロマトグラフィー等で定量することができる。また、抽出溶剤を、該溶剤の沸点未満、好ましくは沸点−5℃以下の範囲内で加温すると、可塑剤と溶剤との拡散を促進することができるので抽出効率を高めることができ好ましい。
本発明においては、可塑剤を除去する工程の前若しくは後、又は前後において、フッ素系高分子膜に加熱処理を施すと、可塑剤を除去した際のフッ素系高分子膜の収縮の低減、フッ素系高分子膜の強度の向上、および耐熱性の向上といった効果が得られる。加熱処理の方法としては、熱風中にフッ素系高分子膜を配して行う方法、熱媒中にフッ素系高分子膜を浸漬して行う方法、または加熱温調した金属製のロール等にフッ素系高分子膜を接触させて行う方法がある。加熱処理において、寸法を固定した状態で行うと、特に微細な孔の閉塞を防ぐことができるために好ましい。加熱処理の温度は、融点以下で行う事が好ましい。ポリフッ化ビニリデンの場合、下限としては121℃以上、好ましくは125℃以下が良く、上限としては170℃以下、好ましくは165℃以下が良い。融点を超えると、加熱処理中に膜が破断する、細孔が潰れる等の不都合が発生する可能性がある。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る代表的な湿式成膜法について説明する。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒とは、水に混和可能なものであれば何ら限定しないが、20℃の純水100gに10g以上溶解可能であり、かつ膜材料のフッ素系高分子膜を5重量%以上溶解するものが好ましい。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。危険性、安全性、毒性の面からジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが好ましく用いられる。これらの溶媒は、単独で、もしくは2種以上組み合わせて使用できる。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有するフッ素系高分子膜を製造できれば何ら限定はしない。膜原液におけるフッ素系高分子の濃度に関しては、濃度を上げるにつれて成膜性は向上するが、逆に膜の空孔率は減少し、透水性が低下する傾向がある。そのため、膜原液全体を100重量%とした場合、フッ素系高分子の濃度範囲としては分子量によって異なるが、下限として2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上である。また上限としては50重量%以下、好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。
また、膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
本発明において使用する膜原液には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法で親水性高分子を用いる場合、その役割は、主に外側の多孔支持層部分の多孔構造を促進して形成させるところにあり、膜原液の増粘効果を奏するものである。膜原液中に添加する親水性高分子の量は安定した成膜を行うために親水性ポリマーの分子量と添加量を適宜調整することもできる。膜原液の粘度が低い場合、成膜時に膜破れや膜切れなどを起こし、成膜性が不安定になる場合がある。逆に膜原液の粘度が高すぎる場合、多孔支持層を充分に成長させることができず、外層の多孔構造の空孔率が不十分となり、目的の高い透過性を持つ膜が得られにくくなる。更には、膜原液の粘度が上がることで、口金から吐出された原液がメルトフラクチャーを起こすことも危惧される。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法において、膜原液中の親水性高分子の濃度の上限値は、使用する親水性高分子の種類と分子量に応じて最適値が決定されるが、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しない。例えば、純水、モノアルコール系溶媒、ポリオール系溶媒又はこれら2種以上の混合液などが好適に使用される。モノアルコール系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、ポリオール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。凝固液中にポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸ナトリウム、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの水溶性高分子を添加することも可能である。添加する水溶性高分子の分子量や添加量にも依存するが、これらを添加することにより濾過性能を向上させることが可能である。また、凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であれば何ら限定しないが、成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固をより促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。空間の温度と湿度を調整できれば何ら限定しないが、例えば、空走距離の下限としては0.001m以上、好ましくは0.005m以上、特に好ましくは0.01m以上、上限として2.0m以下、好ましくは1.5m以下、特に好ましくは1.2m以下である。また紡口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね300m/時間から9000m/時間の速度が選択される。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
本発明に係わる湿式成膜法により得られた未乾燥の本発明のフッ素系高分子膜の乾燥温度は、乾燥中の膜破断が生じない温度であれば何ら限定はしないが、例えば、20℃以上からフッ素系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。乾燥温度は、下限として、30℃以上、好ましくは40℃以上が良く、上限としては120℃以下、好ましくは100℃以下が良い。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
本発明に係わるオレフィン系高分子膜は、主としてオレフィン系高分子からなるものであるが、オレフィン系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わるオレフィン系高分子は、オレフィン類やアルケンをモノマーとして合成される高分子であり、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリ4−メチル1−ペンテンなどが挙げられる。さらに、上記ホモ重合体および上記共重合体を混合して使用することもできる。その中でも、ポリエチレンが好ましい。
本発明に係わるオレフィン系高分子の重量平均分子量は、下限としては5万以上、好ましくは10万以上、特に好ましくは15万以上が良く、上限として500万以下、好ましくは200万以下、特に好ましくは100万以下が良い。一般に平均分子量が100万を超えるような樹脂については、GPC測定が困難であるので、その代用として粘度法による粘度平均分子量をあてることができる。平均分子量が5万より小さいと、溶融成型の際のメルトテンションが小さくなり成形性が悪くなったり、膜の力学強度が低くなったりするので好ましくない。平均分子量が500万を超えると、均一な溶融混練が難しくなるために好ましくない。
免疫グロブリンの吸着による閉塞を防ぐために、膜に親水性を付与することが必要となる。親水化処理の方法としては、例えば、界面活性剤を含む溶液にオレフィン系高分子膜を浸漬した後、乾燥してオレフィン系高分子膜中に界面活性剤を残留させる方法、電子線やガンマ線等の放射線を照射する、あるいは過酸化物を用いることによって、オレフィン系高分子膜の細孔表面に親水性の(メタ)アクリル系モノマー等をグラフトする方法、成膜時に親水性高分子を予め混合する方法、親水性高分子を含む溶液にオレフィン系高分子膜を浸漬した後、乾燥してオレフィン系高分子膜の細孔表面に親水性高分子の被膜を作る方法等が挙げられるが、親水化の永続性や親水性添加物の漏洩の可能性を考慮するとグラフト重合が最も好ましい。特に、特開昭62−179540号公報、特開昭62−258711号公報、および米国特許第4,885,086号明細書に開示された放射線グラフト重合法による親水化処理は、膜内全領域の細孔内表面に均一な親水化層を形成し得る点で好ましい。
本発明のグラフト重合に使用する親水性モノマーとしては、ビニル基を有する親水性モノマーであれば特に限定されるものではない。好ましくは、1個のビニル基を有するモノマーが良い。さらに、スルホン基、カルボキシル基、アミド基、中性水酸基、スルフォニル基、スルホン酸基等を含む(メタ)アクリル系モノマーが好適に使用できるが、免疫グロブリンを含む溶液を濾過する場合には中性水酸基を含むモノマーが特に好ましい。本発明に係わる親水性モノマーとは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解するモノマーである。例えば、ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシル基を有する、もしくはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマー、メタクリル酸トリエチルアンモニウムエチル等のアニオン交換基を有するビニルモノマー、メタクリル酸スルホプロピル等のカチオン交換基を有するビニルモノマー、ビニルピロリドン等のアミド結合を有するビニルモノマー等が挙げられる。中でも、1個以上のヒドロキシル基、あるいはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマーが、免疫グロブリン溶液の透過性が最も高いため好ましい。
具体的には、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸と多価アルコールのエステル類、アリルアルコール等の不飽和結合を有するアルコール類、および酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のエノールエステル類等が挙げられる。さらに、1個のビニル基を有する親水性モノマーとともに、2個以上のビニル基を有する架橋剤を、上記親水性モノマーに対して、20mol%以上、1,000mol%以下の割合で用いて、グラフト重合法によって共重合させることにより、充分に親水化が達成されたものである。
本発明に係わる使用する架橋剤は、上記親水性モノマーと共重合しうる2個以上のビニル基を有する架橋剤であり、親水性モノマーと同時に膜に接触させることにより導入する。架橋剤は、数平均分子量200以上、2,000以下であることが好ましく、より好ましくは数平均分子量250以上、1,000以下、最も好ましくは数平均分子量300以上、600以下である。架橋剤の数平均分子量が200以上、2,000以下であると、免疫グロブリン溶液の高い濾過速度が得られ好ましい。本発明においては、2個以上のビニル基を有する架橋剤であれば、いかなる架橋剤も使用できるが、親水性の架橋剤が好ましい。ここで親水性の架橋剤とは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解する架橋剤である。
本発明で用いられる架橋剤の具体例としては、芳香族系ではジビニルベンゼン誘導体、脂肪族系ではエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等のようなメタクリル酸系の架橋剤、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等のような(メタ)アクリル酸系の架橋剤等が挙げられる。また、トリメチロールプロパントリメタクリレートのような3個の反応性基を有する架橋剤も用いることが出来る。また、架橋剤は2種類以上の混合物も用いることが出来る。本発明において、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、またはそれらの混合物を用いることが、免疫グロブリン1量体透過性と免疫グロブリン2量体除去性能の観点から最も好ましい。
本発明に係わるグラフト重合法とは、ラジカルを発生させる方法であれば何ら限定しないが、例えば、放射線開始剤の添加や電離性放射線や化学反応等の手段によってオレフィン系高分子膜にラジカルを生成させ、そのラジカルを開始点として、該膜にモノマーをグラフト重合させる反応である。本発明において、オレフィン系高分子膜にラジカルを生成させるためにはいかなる手段も採用しうるが、膜全体に均一なラジカルを生成させるためには、電離性放射線の照射が好ましい。電離性放射線の種類としては、γ線、電子線、β線、中性子線等が利用できるが、工業規模での実施には電子線またはγ線が最も好ましい。電離性放射線はコバルト60、ストロンチウム90、およびセシウム137などの放射性同位体から、またはX線撮影装置、電子線加速器および紫外線照射装置等により得られる。
本発明に係わる電離性放射線の照射線量は、1kGyから1,000kGyまでが好ましい。1kGy未満ではラジカルが均一に生成せず、1,000kGyを越えると膜強度の低下を引き起こすことがある。グラフト重合法は一般に膜にラジカルを生成した後、ついでそれを反応性化合物と接触させる前照射法と、膜を反応性化合物と接触させた状態で膜にラジカルを生成させる同時照射法に大別される。本発明においては、いかなる方法も適用しうるが、オリゴマーの生成が少ない前照射法が最も好ましい。
本発明では、ラジカルを生成したオレフィン系高分子膜と、親水性モノマーおよび架橋剤との接触は、気相でも液相で達成されるが、本発明においては、グラフト反応が均一にすすむ液相で接触させる方法が好ましい方法である。グラフト反応をさらに均一に進めるために、親水性モノマーおよび架橋剤はあらかじめ溶媒中に溶解させてから、高分子オレフィン系高分子膜と接触させることが望ましい。親水性モノマーおよび架橋剤を溶解する溶媒としては、均一溶解できるものであれば特に限定されない。このような溶媒として、例えば、エタノールやイソプロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
本発明に係わるグラフト重合は、親水性モノマーと架橋剤を合わせた濃度で0.3容量%〜30容量%の反応液を用い、オレフィン系高分子膜1gに対して10×10-5〜100×10-53の割合で反応を行うことが望ましい。該範囲内でグラフト重合を行えば、親水化層によって孔が埋まることもなく、均一性に優れた膜が得られる。
本発明に係わるグラフト重合時の反応温度は、重合反応が起これば特に限定されるものではないが、一般的に20℃から80℃までで行われる。
本発明に係わるグラフト重合は、オレフィン系高分子膜と親水性のモノマーを接触させる際に、親水性のモノマーは気体、液体又は溶液のいずれの状態でもよいが、均一な親水化層を形成させるためには、液体又は溶液であることが好ましく、溶液であることが特に好ましい。
本発明に係わる親水性オレフィン系高分子膜は、疎水性のオレフィン系高分子膜に強固な架橋構造を有する親水化層を導入することで、免疫グロブリン1量体透過性と免疫グロブリン2量体阻止性を高いレベルで実現することができる。そのために、親水性モノマーに対して架橋剤を、下限として20mol%以上、好ましくは30mol%以上、上限としては1,000mol%以下、好ましくは500mol%以下、さらに好ましくは200mol%以下の割合で用いることが良い。
本発明は、疎水性オレフィン系高分子膜に親水化層を導入し、高い免疫グロブリン1量体透過率を実現する。そのために、疎水性オレフィン系高分子膜にグラフトされるグラフト率は、下限として3%以上、好ましくは4%以上、さらに好ましくは5%以上が良く、上限としては50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下が良い。グラフト率が3%未満であると膜の親水性が不足し、タンパク質の吸着にともなう濾過速度の急激な低下を引き起こす。50%を越えると、比較的小さな孔が親水化層によって埋まってしまい、充分な濾過速度が得られない。ここで言うグラフト率とは、下記式(24)で定義される値である。
グラフト率(%)=
(グラフト後の膜重量−グラフト前の膜重量)/グラフト前の膜重量×100(24)
本発明に係わるオレフィン系高分子膜の親水性の度合いは、接触角によって評価することができる。25℃における前進接触角および後退接触角の平均値が60度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましく、更に好ましくは30度以下である。また、簡便な評価法としては、オレフィン系高分子膜を水と接触させた際に、膜の細孔内部に水が自発的に浸透すれば充分な親水性を持つと判断してよい。
本発明に係るオレフィン系高分子膜の分画分子量は、免疫グロブリン1量体と2量体を十分に分離できれば良く、下限としては10万以上、好ましくは15万以上、さらに好ましくは25万以上が良く、上限としては50万未満、好ましくは45万以下、さらに好ましくは40万以下に設定する必要がある。分画分子量が10万未満であると、免疫グロブリンの透過量が低下する問題があり、また、50万以上であると免疫グロブリン1量体および2量体が共に膜を透過し、分画性能が低下する。
本発明に係る分画分子量は、アルブミン(66,000)、γ−グロブリン(160,000)、カタラーゼ(232,000)、フェリチン(440,000)、サイログロブリン(669,000)などの蛋白質やPEG、デキストラン等を用いて、デッドエンド濾過を行い、分子量と阻止率の関係から阻止率が90%となる分子量として算出される。
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば溶融成膜法が挙げられる。溶融成膜法とは、膜材料と可塑剤を加熱することで均一混合させた後、冷却することにより相分離を発生させ、得られた膜フィルムから可塑剤を抽出することで膜を得る方法である。
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を得る代表的な溶融成膜法は、下記(a)〜(c)の工程を含む。
(a)オレフィン系高分子と可塑剤を含む組成物を該オレフィン系高分子の結晶融点以上に加熱して均一溶解した後、該組成物を吐出口から吐出し、膜を形成する工程;
(b)下記式(25)に定義するドラフト比が1以上15以下となるような引取速度で該膜を引取りながら、該オレフィン系高分子に対して部分的な溶解性を有する不揮発性液体を、該温度が100℃以上に加熱された状態で、膜の一方の表面に接触させ、他方の膜表面は冷却する工程
ドラフト比=(膜の引取速度)/(組成物の吐出口における吐出速度) (25)
(c)該可塑剤および該不揮発性液体の実質的な部分を除去する工程。
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を得る溶融成膜法に用いるポリマー濃度は、オレフィン系高分子および可塑剤を含む組成物中20〜90重量%が好ましく、より好ましくは30〜80重量%、そして最も好ましくは35〜70重量%である。ポリマー濃度が20重量%未満になると、成膜性が低下する、充分な力学強度が得られない等の不都合が発生する。ポリマー濃度が90重量%を超えると、得られるオレフィン系高分子膜の孔径が小さくなりすぎるとともに、空孔率が小さくなるため、濾過速度が低下し、実用に耐えない。
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を得る溶融成膜法に用いられる可塑剤としては、オレフィン系高分子膜を製造する組成でオレフィン系高分子と混合した際に樹脂の結晶融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いる。ここで言う不揮発性溶媒とは、大気圧下において250℃以上の沸点を有するものである。可塑剤の形態は、概ね常温20℃において、液体であっても固体であっても差し支えない。また、オレフィン系高分子との均一溶液を冷却した際に、常温以上の温度において熱誘起型固液相分離点を持つような、いわゆる固液相分離系の可塑剤を用いても良い。可塑剤の中には、オレフィン系高分子との均一溶液を冷却した際に、常温以上の温度において熱誘起型液液相分離点を有するものもあるが、一般に、液液相分離系の可塑剤を用いた場合は、得られたオレフィン系高分子膜は大孔径化する傾向がある。ここで用いられる可塑剤は単品又は複数の物質の混合物であってもよい。
熱誘起型固液相分離点を測定する方法は、オレフィン系高分子と可塑剤を含む所定濃度の組成物を予め溶融混練したものを試料として用い、示差走査熱量測定(DSC)などの熱分析により該樹脂の発熱ピーク温度を測定することにより求めることができる。また、該樹脂の結晶化点を測定する方法は、予め該樹脂を溶融混練したものを試料として用い、同様に熱分析により求めることができる。
本発明に係わる可塑剤としては、国際公開第01/28667号パンフレットに開示されている可塑剤が挙げられる。即ち、下記式(26)で定義する組成物の相分離点降下定数αが0〜40℃である可塑剤であり、好ましくは1〜35℃の可塑剤、更に好ましくは5〜30℃の可塑剤である。相分離点降下定数が40℃を超えると、孔径の均質性や強度が低下してしまうために好ましくない。
α=100×(T −T)÷(100−C) (26)
αは相分離点降下定数(℃)
はオレフィン系高分子の結晶化温度(℃)
は組成物の熱誘起固液相分離点(℃)
Cは組成物中のオレフィン系高分子の濃度(重量%)
具体的には、エステル鎖の炭素鎖長が7以下のフタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、セバシン酸エステル類、エステル鎖の炭素鎖長が8以下のリン酸エステル類、クエン酸エステル類等が好適に使用でき、特にフタル酸ジヘプチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸トリ(2−エチルヘキシル)、リン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリブチル等が特に好ましい。
本発明において使用する組成物には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を得る溶融成膜法において、オレフィン系高分子と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第一の方法は、該樹脂を押出機等の連続式樹脂混練装置に投入し、樹脂を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入してスクリュー混練することにより、均一溶液を得る方法である。投入する樹脂の形態は、粉末状、顆粒状、ペレット状の何れでもよい。また、このような方法によって均一溶解させる場合は、可塑剤の形態は常温液体であることが好ましい。押出機としては、単軸スクリュー式押出機、二軸異方向スクリュー式押出機、二軸同方向スクリュー式押出機等が使用できる。
オレフィン系高分子と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第二の方法は、ヘンシェルミキサー等の撹拌装置を用いて、オレフィン系高分子と可塑剤を予め混合して分散させ、得られた組成物を押出機等の連続式樹脂混練装置に投入して溶融混練することにより、均一溶液を得る方法である。投入する組成物の形態については、可塑剤が常温液体である場合はスラリー状とし、可塑剤が常温固体である場合は粉末状や顆粒状等とすればよい。
オレフィン系高分子と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第三の方法は、ブラベンダーやミル等の簡易型樹脂混練装置を用いる方法や、その他のバッチ式混練容器内で溶融混練する方法である。この方法によれば、バッチ式の工程となるため生産性は良好とは言えないが、簡易でかつ柔軟性が高いという利点がある。
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を得る溶融成膜法において、オレフィン系高分子と可塑剤を含む組成物をオレフィン系高分子の結晶融点以上の温度に加熱均一溶解させた後、Tダイやサーキュラーダイ、環状紡口の吐出口から平膜状、中空糸状の形状に押出す(a)の工程の後に、冷却固化させて成型を行う(b)の工程に移るが、この工程において、膜構造を形成する。
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を得る溶融成膜法においては、均一に加熱溶解したオレフィン系高分子と可塑剤を含む組成物を吐出口から吐出させ、下記式(27)で定義するドラフト比が1以上15以下となるような引取速度で該膜を引取りながら、該オレフィン系高分子に対して部分的な溶解性を有する不揮発性液体を接触させ、膜を形成させる。
ドラフト比=(膜の引取速度)/(組成物の吐出口における吐出速度) (27)

上記ドラフト比は、下限として1.5以上、好ましくは2以上、上限としては10以下、好ましくは7以下が良い。ドラフト比が1未満では膜にテンションがかからないために成型性が低下し、15を超える場合は、膜が引伸ばされるために、充分な厚みの粗大構造層を形成させることが難しい。
ここで言う組成物の吐出口における吐出速度は下記式(28)で与えられる。
組成物の吐出口における吐出速度=
(単位時間当りに吐出される組成物の体積)/(吐出口の面積) (28)

上記吐出速度の好ましい範囲は、下限として1m/分以上、好ましくは3m/分以上、上限としては60m/分以下、好ましくは40m/分以下が良い。吐出速度が1m/分未満の場合は、生産性が低下することに加えて、吐出量の変動が大きくなる等の問題が発生する。反対に、吐出速度が60m/分を超える場合は、吐出量が多いために吐出口で乱流が発生し、吐出状態が不安定になる場合がある。また、引取速度は吐出速度に合わせて設定することができるが、下限として1m/分以上、好ましくは3m/分以上、上限として200m/分以下、好ましくは150m/分以下が良い。引取速度が1m/分未満の場合は、生産性、成型性が低下し、引取速度が200m/分を超える場合は、冷却時間が短くなる、膜にかかるテンションが大きくなることによって膜の断裂が起き易くなる。
本発明においては、可塑剤を除去するために抽出溶剤を使用する。抽出溶剤はオレフィン系高分子に対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がオレフィン系高分子膜の融点より低いことが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレンや1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、又は水が挙げられる。
本発明において、可塑剤を除去する第一の方法は、抽出溶剤が入った容器中に所定の大きさに切り取ったオレフィン系高分子膜を浸漬し充分に洗浄した後に、付着した溶剤を風乾させるか、又は熱風によって乾燥させることにより行う。この際、浸漬の操作や洗浄の操作を多数回繰り返して行うとオレフィン系高分子膜中に残留する可塑剤が減少するので好ましい。また、浸漬、洗浄、乾燥の一連の操作中にオレフィン系高分子膜の収縮を抑えるために、オレフィン系高分子膜の端部を拘束することが好ましい。
可塑剤を除去する第二の方法は、抽出溶剤で満たされた槽の中に連続的にオレフィン系高分子膜を送り込み、可塑剤を除去するのに充分な時間をかけて槽中に浸漬し、しかる後に付着した溶剤を乾燥させることにより行う。この際、槽内部を多段分割することにより濃度差がついた各槽に順次オレフィン系高分子膜を送り込む多段法や、オレフィン系高分子膜の走行方向に対し逆方向から抽出溶剤を供給して濃度勾配をつけるための向流法のような公知の手段を適用すると、抽出効率が高められ好ましい。
第一および第二の方法においては、何れも可塑剤をオレフィン系高分子膜から実質的に除去することが重要である。実質的に除去するとは、分離膜としての性能を損なわない程度にオレフィン系高分子膜中の可塑剤を除去することを指し、オレフィン系高分子膜中に残存する可塑剤の量は1重量%以下となることが好ましく、さらに好ましくは100重量ppm以下である。オレフィン系高分子膜中に残存する可塑剤の量は、ガスクロマトグラフィや液体クロマトグラフィー等で定量することができる。また、抽出溶剤を、該溶剤の沸点未満、好ましくは沸点−5℃以下の範囲内で加温すると、可塑剤と溶剤との拡散を促進することができるので抽出効率を高めることができ好ましい。
本発明においては、可塑剤を除去する工程の前若しくは後、又は前後において、オレフィン系高分子膜に加熱処理を施すと、可塑剤を除去した際のオレフィン系高分子膜の収縮の低減、オレフィン系高分子膜の強度の向上、および耐熱性の向上といった効果が得られる。加熱処理の方法としては、熱風中にオレフィン系高分子膜を配して行う方法、熱媒中にオレフィン系高分子膜を浸漬して行う方法、または加熱温調した金属製のロール等にオレフィン系高分子膜を接触させて行う方法がある。加熱処理において、寸法を固定した状態で行うと、特に微細な孔の閉塞を防ぐことができるために好ましい。加熱処理の温度は、目的やオレフィン系高分子の融点以下で行う事が好ましい。ポリエチレンの場合、乾燥温度は、下限として、60℃以上、好ましくは65℃以上が良く、上限としては100℃以下、好ましくは95℃以下が良い。融点を超えると、加熱処理中に膜が破断する、細孔が潰れる等の不都合が発生する可能性がある。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子は、ポリビニルアルコールや部分アセタール化等の変性ポリビニルアルコールとエチレンやプロピレン、ビニルピロリドン、塩化ビニル、フッ化ビニル、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、イタコン酸等と共重合させた共重合体(ブロック共重合体、グラフト共重合体を含む)およびその誘導体である。その中でも、エチレン−ビニルアルコールの共重合体が好ましい。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子のケン化度は、下限としては80mol%以上、好ましくは85mol%以上が良く、上限としては100mol%以下、好ましくは95mol%以下が良い。
本発明にの係わるビニルアルコール系高分子鎖中のポリビニルアルコール含量は、少なくとも30重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上である。30重量%未満の場合は、膜の親水性が低くなる等の問題が発生するために好ましくない。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜は、主としてビニルアルコール系高分子からなるものであるが、ビニルアルコール系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子の重量平均分子量は、下限としては5,000以上、好ましくは1万以上、特に好ましくは5万以上が良く、上限として200万以下、好ましくは90万以下、特に好ましくは80万以下が良い。一般に平均分子量が100万を超えるような樹脂については、GPC測定が困難であるので、その代用として粘度法による粘度平均分子量をあてることができる。平均分子量が5,000より小さいと、膜の力学強度が低くなるため好ましくない。平均分子量が200万を超えると、均一な溶融混練が難しくなるために好ましくない。
本発明においては、ビニルアルコール系高分子膜に悪影響を及ぼさない範囲内で、更に付加的処理を施してもよい。付加的処理としては、例えば、架橋処理、化学的表面修飾による官能基導入などが挙げられる。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜の分画分子量は、免疫グロブリン1量体と2量体を十分に分離できれば良く、下限としては10万以上、好ましくは15万以上、さらに好ましくは25万以上が良く、上限としては50万未満、好ましくは45万以下、さらに好ましくは40万以下に設定する必要がある。分画分子量が10万未満であると、免疫グロブリンの透過量が低下する問題があり、また、50万以上であると免疫グロブリン1量体および2量体が共に膜を透過し、分画性能が低下する。
本発明に係る分画分子量は、アルブミン(66,000)、γ−グロブリン(160,000)、カタラーゼ(232,000)、フェリチン(440,000)、サイログロブリン(669,000)などの蛋白質やPEG、デキストラン等を用いて、デッドエンド濾過を行い、分子量と阻止率の関係から阻止率が90%となる分子量として算出される。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば湿式成膜法が挙げられる。湿式成膜法とは、膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて膜を得る方法である。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒としては、膜材料であるビニルアルコール系高分子を5重量%以上溶解するものが好ましく、水、アルコール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が例示できる。これらの溶媒は単独で、もしくは2種以上組み合わせて使用できる。工業的な面から水が最も好ましい。また、上記組成以外に凝固を促進するホウ酸や成膜安定性を向上させる界面活性剤、消泡剤等を適宜添加してもよい。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有するビニルアルコール系高分子膜を製造できれば何ら限定はしない。通常、ビニルアルコール系高分子および孔径形成剤をこれらに共通の溶媒で溶解したものが用いられる。膜原液におけるビニルアルコール系高分子の濃度に関しては、濃度を上げるにつれて成膜性は向上するが、逆に膜の空孔率は減少し、透水性が低下する傾向がある。そのため、膜原液全体を100重量%とした場合、ビニルアルコール系高分子の濃度範囲としては分子量によって異なるが、下限として2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上である。また上限としては50重量%以下、好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法における膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
本発明において使用する膜原液には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる孔形成剤としては、平均分子量200〜4,000,000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール類、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、グリセリン、ブタンジオール等の多価アルコール類、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類等が例示でき、単独あるいは2種類以上の混合物が用いられる。
本発明に係わる孔形成剤の添加量は、ビニルアルコール系高分子の種類、孔形成剤の種類により適宜異なるが、膜原液が後述する上限臨界共溶点を有するような添加量にするのが好ましい。上記の上限臨界共溶点とは、膜原液を高温で透明な均一状態とし、該原液の温度を徐々に下げていった時に透明溶液から白濁溶液に変化する時の温度のことで、白化点や曇点と同義である。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法で親水性高分子を用いる場合、その役割は、主に外側の多孔支持層部分の多孔構造を促進して形成させるところにあり、膜原液の増粘効果を奏するものである。膜原液中に添加する親水性高分子の量は安定した成膜を行うために親水性ポリマーの分子量と添加量を適宜調整することもできる。膜原液の粘度が低い場合、成膜時に膜破れや膜切れなどを起こし、成膜性が不安定になる場合がある。逆に膜原液の粘度が高すぎる場合、多孔支持層を充分に成長させることができず、外層の多孔構造の空孔率が不十分となり、目的の高い透過性を持つ膜が得られにくくなる。更には、膜原液の粘度が上がることで、口金から吐出された原液がメルトフラクチャーを起こすことも危惧される。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法において、膜原液中の親水性高分子の濃度の上限値は、使用する親水性高分子の種類と分子量に応じて最適値が決定されるが、通常40重量以下%、好ましくは30重量%以下である。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しないが、例えば、水系凝固剤としては、純水、硫酸ナトリウム等の脱水性塩類の水溶液、水酸化ナトリウムやアンモニア水等のアルカリ性物質の水溶液などが例示することができ、単独で使用することもできるし、組み合わせて使用してもよい。水系凝固剤以外にも、例えばメタノールやエタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、ポリオール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等のようなビニルアルコール系高分子の凝固能を有する有機系凝固剤を使用したり、水と組み合わせて使用することは自由である。凝固液中にポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコールアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリビニルアルコール酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸ナトリウム、N,N−ジメチルビニルアルコールアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの水溶性高分子を添加することも可能である。添加する水溶性高分子の分子量や添加量にも依存するが、これらを添加することにより濾過性能を向上させることが可能である。また、凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法おいて中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は、上記の外部凝固液と同様の溶液を用いてもよく、また、ヘキサン、流動パラフィン等といったビニルアルコール系高分子に対して全く凝固能を有さずしかも膜原液の溶媒と混和しないような有機溶剤を用いてもよい。また空気、窒素、アンモニアガス等の気体を導入した乾湿式成膜法で行っても良い。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であれば何ら限定しないが、成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。また、乾湿式成膜法として空気、窒素、アンモニアガス等の気体を凝固剤として用いている場合には、この工程は実施しない。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固をより促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。空間の温度と湿度を調整できれば何ら限定しないが、例えば、空走距離の下限としては0.001m以上、好ましくは0.005m以上、特に好ましくは0.01m以上、上限として2.0m以下、好ましくは1.5m以下、特に好ましくは1.2m以下である。また紡口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね300m/時間から9,000m/時間の速度が選択される。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、必要に応じて延伸、中和、水洗や湿熱処理、硫酸アンモニウム置換、乾燥などの処理をすることができる。膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。さらに、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキザール、ノナンジアール等のモノアルデヒドおよび/又は多価アルデヒドによるアセタール化や、エステル化、エーテル化等の変性処理をしたり、メチロール化合物や多価イソシアネートを用いた架橋化処理を単独あるいは組み合わせて行うことが可能である。また、紡糸後熱延伸および/又は熱処理したり、更に熱延伸および/又は熱処理後に上記の各種変性処理をすることができる。
本発明に係わる湿式成膜法により得られた未乾燥の本発明のビニルアルコール系高分子膜の乾燥温度は、乾燥中の膜破断が生じない温度であれば何ら限定はしないが、例えば、20℃以上からビニルアルコール系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。好ましい乾燥温度としては30℃以上、80℃以下である。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜の親水性の度合いは、接触角によって評価することができる。25℃における前進接触角および後退接触角の平均値が60度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましく、更に好ましくは30度以下である。また、簡便な評価法としては、ビニルアルコール系高分子膜を水と接触させた際に、膜の細孔内部に水が自発的に浸透すれば充分な親水性を持つと判断してよい。
本発明に係わるセルロース系高分子膜は、主としてセルロース系高分子からなるものであるが、セルロース系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わるセルロース系高分子は、銅アンモニア再生セルロースやセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースフェニルカルバニレートなどのセルロースエステル化合物、メチルセルロース、エチルセルロースなどのセルロースエーテルなど、およびこれらを組み合わせたブレンド化合物が挙げられる。その中でも、銅アンモニア再生セルロースが良い。
本発明に係わるセルロース系高分子の重量平均分子量は、下限としては5,000以上、好ましくは1万以上、特に好ましくは5万以上が良く、上限として100万以下、好ましくは90万以下、特に好ましくは80万以下が良い。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
本発明に係るセルロース系高分子膜の分画分子量は、免疫グロブリン1量体と2量体を十分に分離できれば良く、下限としては10万以上、好ましくは15万以上、さらに好ましくは25万以上が良く、上限としては50万未満、好ましくは45万以下、さらに好ましくは40万以下に設定する必要がある。分画分子量が10万未満であると、免疫グロブリンの透過量が低下する問題があり、また、50万以上であると免疫グロブリン1量体および2量体が共に膜を透過し、分画性能が低下する。
本発明に係る分画分子量は、アルブミン(66,000)、γ−グロブリン(160,000)、カタラーゼ(232,000)、フェリチン(440,000)、サイログロブリン(669,000)などの蛋白質やPEG、デキストラン等を用いて、デッドエンド濾過を行い、分子量と阻止率の関係から阻止率が90%となる分子量として算出される。
本発明に係わるセルロース系高分子膜の中空糸を製造する方法は何ら限定しないが、例えば、環状二重紡口の外側紡出口より紡糸原液を、該環状二重紡口の中央紡出口より上記紡糸原液に対するミクロ相分離兼凝固液である内部凝固液を、同時に吐出し、紡出筒に導入する。紡出筒とは紡口に直接連結された筒である。紡出筒には、紡糸原液が吐出された直後に外部凝固液と接触させるために外液で満たされており、定常的に送液され、紡糸原液とともに、下行管中を流下する。この時にミクロ相分離により粒子が形成され、三次元的につながった膜構造が固定されて多孔膜構造が完成される。
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒とは、セルロース系高分子を溶解させるものであれば何ら限定しないが、例えば、銅アンモニア溶液、などが挙げられる。
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有するセルロース系高分子膜を製造できれば何ら限定はしない。膜原液におけるセルロース系高分子の濃度に関しては、濃度を上げるにつれて成膜性は向上するが、逆に膜の空孔率は減少し、透水性が低下する傾向がある。そのため、膜原液全体を100重量%とした場合、セルロース系高分子の濃度範囲としては分子量によって異なるが、下限として2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上である。また上限としては25重量%以下、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは15重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。セルロース濃度が2重量%未満の時は、得られる中空糸膜の力学的特性が不十分となり、25重量%を越えると紡糸液調整および紡糸操作が困難になる。
本発明に係わる膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
本発明に係わる膜原液には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しないが、例えば、純水、水、パークレン、トリクレン、トリクロロトリフルオロエタン、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、水酸化ナトリウム、硫酸、硫酸アンモニウム、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリセリン、ポリエチレングリコール等のポリオール等、紡糸液に対して非凝固性又は微凝固性を示す液体などが挙げられる。このような凝固剤は、紡糸液の種類によって適宜選択して用いる。これらの凝固液から選ばれる少なくとも1種を含む溶液又はこれらの混合液が好ましく用いられる。好ましくは、アセトンとアンモニア、水からなる混合溶液が良い。
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる内部凝固液と外部凝固液は、同じ凝固液でも異なる凝固液でも良い。
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る成膜法として、空気、窒素、二酸化炭素、アルゴン、酸素、テトラフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン等のいわゆるフロンガス、その他ハロゲンガス等の気体を使用した乾湿式成膜法で製造しても良い。
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であれば何ら限定しないが、成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す内部凝固液は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。また、乾湿式成膜法として空気、窒素、アンモニアガス等の気体を凝固剤として用いている場合には、この工程は実施しない。
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法で紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)を設けて外部凝固液中に導入しても、あるいは直接外部凝固液に導入してもよい。空走距離は、紡糸原液が真っすぐに外部凝固液に進入する長さが好ましい。例えば、0.5m以下、好ましくは0.2m以下、特に好ましくは0.1m以下である。空走距離が長くなると成型性が悪くなり、中空糸形状を保持できなくなる。
本発明に係わる空走距離の空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
紡糸原液は、下行管中を流下している段階で中空糸膜の形状を有するようになり、この中空糸膜は、上行管の開口部より引き出され巻取枠に巻取られる。
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、下限としては、100m/時間以上、より好ましくは200m/時間以上が良く、上限としては、1,000m/時間以下、より好ましくは500m/時間以下が良い。
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
本発明に係わる湿式成膜法により得られた未乾燥のセルロース系高分子膜の乾燥温度は、乾燥中の膜破断が生じない温度であれば何ら限定はしないが、例えば、20℃以上からセルロース系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。乾燥温度は、下限としては、30℃以上、より好ましくは40℃以上が良く、上限としては、80℃以下、より好ましくは70℃以下が良い。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01〜48時間までが選択される。また、水および無機塩水溶液で精練された後に、グリセリンあるいはポリエチレングリコール等の公知の膜孔径保持剤が付与して、乾燥しても良い。
本発明に係わる紡出筒中の外部凝固液の流れの速度(外部凝固液速度)は、巻取速度より極端に遅い場合は、紡出筒中で延伸がかかるようになり、好ましくない。本発明では、外部凝固液速度と巻取速度の関係は、その速度差が20%以下にあることが望ましい。
本発明に係わる外部凝固液速度は凝固浴中の浴抵抗を抑えるために早い方が良い。しかしながら、外液流速が速くなりすぎると中空糸膜の糸揺れが激しくなり紡糸が困難になるので、適切な値に設定する必要がある。最も好ましくは、中空糸膜の糸揺れが生じない範囲での最大流速を選ぶことである。
本発明に係わる紡出筒の径は、大きい方が紡出作業は容易であるが、凝固液量を多量に必要とするために小さい方が望ましく、下限としては、3mm以上、より好ましくは5mm以上が良く、上限としては、20mm以下、より好ましくは10mm以下が良い。
本発明に係わる紡出筒の長さは、中空糸膜構造の形成に対応して適切な凝固時間を与え得るものでなければならないために、中空糸膜の紡糸速度に対応して適切な長さに設定されることが好ましい。その材質は、凝固液に対して耐久性のある素材であればどのような素材でも使用することが可能であるが、紡糸状態を観察することのできる透明の材質が望ましく、例えば、ガラス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等が使用できる。その中でも、紡糸原液が付着しにくいため紡出作業が容易であるという特徴をもつポリテトラフルオロエチレンが最も好適な材質である。
本発明の限外濾過膜の膜厚は、下限としては15μm以上、好ましくは20μm以上が良く、上限としては2,000μm以下、好ましくは1,000μm以下、特に好ましくは500μm以下が良い。膜厚が15μm未満であると限外濾過膜の強度が不充分になる傾向があり好ましくない。また、2,000μmを超えると免疫グロブリン1量体の透過性能が不充分となる傾向があり、好ましくない。
本発明に係わる限外濾過膜の中空糸の内表面、あるいは、平膜の片面に緻密な層を有している場合、その緻密層の厚みは、免疫グロブリン溶液の透過を向上させるために通常100μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1μm以下が良い。
本発明に係わる限外濾過膜の空孔率は、下限としては30%以上、好ましくは40%以上、特に好ましくは50%が良く、上限としては95%以下、好ましくは90%以下、特に好ましくは85%以下が良い。空孔率が30%未満であると濾過速度が不充分となり、95%を超えると限外濾過膜の強度が不充分となることから好ましくない。空孔率は、膜の断面積および長さから求めた見かけ体積と該膜の重量および膜素材の真密度から求めた数値である。
本発明に係わる限外濾過膜の形状は、分画性能を発現できれば特に限定されるものではないが、例えば、中空糸状、平膜状、チューブ状等、種々の形状を用いることができるが、体積に比して濾過有効膜面積の大きい中空糸状が有効である。
本発明に係わる限外濾過膜の膜表面構造についてはとくに制限はなく、円形、楕円形等の単独孔や連続的に繋がった連続孔、網状微細孔、スリット状微細孔等が挙げられる。
本発明における限外濾過膜は、免疫グロブリンが接触する膜表面が限外濾過膜であれば良く、構造を保持するためには、如何なる材質から成る基材(支持体)を用いてもよい。例えば、物理的強度を高めるために他の基材(支持体)として織布又は不織布や多孔性無機体など用い、これらの基材の上に限外濾過膜を成型した膜などが挙げられる。
本発明に係わるクロスフロー濾過を行うための装置は、免疫グロブリン濃度や線速、圧力などをコントロールできる装置であれば何ら限定しないが、例えば、免疫グロブリン溶液の濃度を吸光度計でモニタリングし、免疫グロブリン溶液の濃度を一定にするために希釈液を供給する装置と限外濾過膜に対して接線方向の線速と限外濾過膜を横切る圧力をコントロールする装置が一体となったクロスフロー濾過装置が挙げられる。
具体的には、図1のようなクロスフロー濾過装置が挙げられる。免疫グロブリン元液タンク(4)内の溶液の濃度を吸光度計が組み込まれた濃度コントローラー(11)でモニタリングし、その信号を送液ポンプ1(2)に信号を送って回転をコントロールし、希釈液用タンク(1)中の希釈液を添加しながら免疫グロブリン元液タンク(4)中の溶液濃度をコントロールする。さらに、圧力計1(5)および圧力計2(6)、流量計(10)で圧力と流量をモニタリングし、圧力・流量コントローラー(12)から調整バルブ(7)と送液ポンプ2(3)に信号を送って、限外濾過膜モジュール(8)に対して接線方向の線速と限外濾過膜を横切る圧力が設定値になるようにコントロールする。得られた免疫グロブリン透過液タンク(9)中の免疫グロブリン透過液の濃度および免疫グロブリン1量体と免疫グロブリン2量体の割合を測定できる装置、例えば、吸光度計やGPCが本クロスフロー濾過装置に連結していても良い。
本発明に係わる「免疫グロブリン元液」とは、分画性能評価および分離を行うために使用する免疫グロブリン溶液のことである。この溶液には、免疫グロブリン以外の生体成分やウイルスなどが含まれても良い。また、「免疫グロブリン透過液」とは、「限外濾過膜」によって分離・透過した溶液のことである。
また、図2のようなクロスフロー濾過装置でも良い。免疫グロブリン元液タンク(4)と限外濾過膜モジュール(8)との間に濃度をモニタリングできる装置、例えば、UVフローセル(13)などを設け、免疫グロブリン元液タンク(4)中の溶液濃度を濃度コントローラー(11)でモニタリングし、その信号を送液ポンプ1(2)に信号を送って回転をコントロールし、希釈液用タンク(1)中の希釈液を添加しながら免疫グロブリン元液タンク(4)中の溶液濃度をコントロールする。さらに、圧力計1(5)および圧力計2(6)、流量計(10)で圧力と流量をモニタリングし、圧力・流量コントローラー(12)から調整バルブ(7)と送液ポンプ2(3)に信号を送って、限外濾過膜モジュール(8)に対して接線方向の線速と限外濾過膜を横切る圧力が設定値になるようにコントロールする。得られた免疫グロブリン透過液タンク(9)中の免疫グロブリン透過液の濃度および免疫グロブリン1量体、2量体の割合を測定できる装置、例えば、吸光度計やGPCが本クロスフロー濾過装置に連結していても良い。
本発明に関わる免疫グロブリン濃度を調整するため溶媒や希釈液としては、免疫グロブリンの変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしない。例えば、リン酸カルシウム・生理食塩水(PBS)や生理食塩水、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、3−[(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸](AMPSO)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)、N−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)等のグッド緩衝剤、酢酸塩、グリシン、クエン酸塩、リン酸塩、ベロナール、ホウ酸塩、コハク酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、イミダゾール等の緩衝液等が挙げられる。また、これら緩衝液に免疫グロブリンを含んだ希釈液を使用しても良い。
本発明に係わる緩衝剤の濃度は、免疫グロブリンの変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしないが、例えば、下限として、1mM以上、好ましくは10mM以上、より好ましくは50mM以上が良く、上限としては、1M以下、好ましくは500mM以下、より好ましくは200mM以下が良い。
本発明に係わる緩衝剤のpHは、免疫グロブリンの変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしないが、例えば、下限として、pH3以上、好ましくはpH4以上、より好ましくはpH5以上が良く、上限としては、pH10以下、好ましくはpH9以下、より好ましくはpH8以下が良い。
免疫グロブリン溶液には、必要に応じ、凝集抑制剤や安定化剤、防腐剤などを添加しても良い。
濾過中、免疫グロブリンにストレスがかかるために凝集し、白濁する場合がある。その場合、界面活性剤や糖類などを凝集抑制剤として添加しても良い。
界面活性剤は、分子内に水になじみやすい部分(親水基)と、疎水部になじみやすい部分(疎水基)を持つ両親媒性分子である。界面活性剤は、その疎水基が免疫グロブリンの疎水部に相互作用し、免疫グロブリンの水への溶解性を高めると同時に、免疫グロブリン同士の疎水性相互作用を抑制し、凝集を抑制すると考えられている。
本発明に係わる界面活性剤としては、免疫グロブリンの変性や凝集を起こさず、分画性能に影響しなければ何ら限定されないが、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等が挙げられる。
本発明に係わる両イオン性界面活性剤としては、例えば、アミノ酸、アミノ酸誘導体、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。この中でも、特に、アミノ酸および/またはアミノ酸誘導体が良い。アミノ酸は免疫グロブリンの凝集を抑制する効果を発現する物質で、免疫グロブリン溶液に溶解することが可能であれば特に種類は限定しないが、例えば、リシン、アルギニン、アラニン、システイン、グリシン、セリン、プロリンなどが挙げられる。その中でも、リシンおよびアルギニン、アラニンが好ましく、特にリシンが効果を発現する。
本発明に関わるアミノ酸誘導体は、アミノ酸を化学修飾した物質であり、アセチル化アミノ酸、アシル化アミノ酸等がある。該アミノ酸および/または該アミノ酸誘導体は酸付加塩の形態で使用することもできる。酸付加塩を形成し得る酸としては、塩酸、硫酸等が挙げられる。これらを2種以上組み合わせて使用することも可能である。また、他の凝集抑制剤との併用も可能である。
本発明に係わる非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。この中でも、特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系高分子および/その誘導体が良い。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、免疫グロブリンの凝集を抑制する効果を発現する物質で、免疫グロブリン溶液に溶解することが可能であれば特に種類は限定しないが、例えば、ポリエチレングリコールおよび/またはポリエチレングリコール誘導体が挙げられ、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、また、ポリエチレングリコールを親水性セグメントとして含有する界面活性剤やブロック共重合体およびグラフト共重合体も凝集抑制剤として十分活用できる。これらを2種以上組み合わせて使用することも可能である。また、他の凝集抑制剤との併用も可能である。これらを2種以上組み合わせて使用することも可能である。また、他の凝集抑制剤との併用も可能である。
本発明に係わるカチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
本発明に係わるアニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
本発明に係わる界面活性剤の分子量の下限値としては30Da以上、さらに好ましくは、50Da以上であり、上限値としては、50,000Da以下、さらに好ましくは、30,000Da以下である。30Da未満では十分な凝集抑制効果が得られず、逆に、50,000Daを超えると界面活性剤や、免疫グロブリンと界面活性剤の複合体が膜への詰まりやファウリングの原因となる場合がある。
本発明に関わる糖類としては、免疫グロブリンの凝集を抑制する効果を発現する物質で、免疫グロブリン溶液に溶解することが可能であれば特に種類は限定しないが、具体的な糖類の例としては、グルコース、ソルビトール、ショ糖が挙げられる。
本発明における凝集抑制剤の濃度は、凝集抑制剤の種類に依存されるが、下限値としては、0.1g/L以上が好ましく、さらに好ましくは、0.5g/L以上であり、上限値としては、200g/L以下が好ましく、さらに好ましくは、150g/L以下である。下限値0.1g/L未満であれば、免疫グロブリンの凝集を抑制する効果が低く、上限値200g/L超えると、免疫グロブリン溶液の粘性が増加などによって免疫グロブリンの透過率の低下を引き起こす場合がある。
また、上記界面活性剤、糖類等は、凝集抑制効果以外に免疫グロブリンの劣化防止や吸着防止などの効果もある。さらに、無機塩も免疫グロブリンの劣化防止や吸着防止などの効果を有する。
本発明に係わる無機塩としては、塩化ナトリウムや塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。その濃度としては、例えば、下限値としては、1mM以上が好ましく、より好ましくは10mM以上、最も好ましくは50mM以上が良い。上限値としては、1M以下が好ましく、より好ましくは500mM以下、最も好ましくは200mM以下が良い。
本発明に係わる防腐剤としては、免疫グロブリンの性状や分画性能に影響を与えなければ何ら限定はしないが、例えば、アジ化ナトリウム等が挙げられる。その濃度の下限としては0.001重量%以上、好ましくは0.005重量%以上、上限としては1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下が良い。
本発明において、免疫グロブリン1量体及び2量体等の凝集体を含む免疫グロブリン溶液から、免疫グロブリン1量体を分離する際の分画性能の指標は、次のとおり考えられる。
免疫グロブリン1量体を医薬品として使用する場合、副作用を引き起こす可能性のある不純物生体成分をできるだけ除去した方が良い。免疫グロブリン2量体含有率が1%以下であれば、医薬品として安全性の高いものと考えられているので、それを達成できる免疫グロブリン1量体の透過率と免疫グロブリン2量体の透過率の比(免疫グロブリン2量体の透過率/免疫グロブリン1量体の透過率=透過率比)としては0.20以下が良く、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.10以下が良い。また、免疫グロブリン元液に含まれる免疫グロブリン2量体が少ない場合、透過液中の免疫グロブリン2量体含有率を1%以下にするためには、免疫グロブリン1量体の透過率と免疫グロブリン2量体の透過率の比が0.30以下であっても良い。
一方、免疫グロブリン1量体はできるだけ回収できる方が好ましい。従って、本発明に係わる免疫グロブリン1量体の透過率は80%以上が良く、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上が良い。
モノクローナル抗体の精製において、アフィニティクロマトグラフィー精製工程は必須な工程となっている。特に、プロテインAなどをリガンドとしたアフィニティクロマトグラフィーが利用されている。その分離原理は、リガンドに対する免疫グロブリンとその他の生体成分の親和性を利用して分離している。具体的には、免疫グロブリンや夾雑蛋白質、糖鎖、核酸を含む生体成分をアフィニティクロマトグラフィーに通し、免疫グロブリンだけを固定化したリガンドに特異的に結合させる。この特異的に結合した免疫グロブリンを、低いpH、高いpH、高い塩、競合リガンドなどを用いて固定リガンドからはずし、回収することで精製された免疫グロブリンが得られる。
しかしながら、アフィニティクロマトグラフィー精製工程で注意すべき点は、リガンドから免疫グロブリンを溶離するために低いpHや高い塩に接触させることが必要であるが、同時に免疫グロブリンを凝集させ、2量体以上の免疫グロブリン凝集体が副生させる問題やリガンド(例えば、プロテインA)が溶出し、免疫グロブリンと凝集体を形成する問題などがあった。
したがって、プロテインAなどをリガンドしたアフィニティクロマトグラフィー精製を行った後、本発明に係わる分離方法を行うことによって、免疫グロブリンを十分に精製することができる。
本発明に係わるプロテインAとは、天然の供給源から回収されたプロテインA、合成的に生成されたプロテインA(例えば、ペプチド合成によって、または組換え技術によって)、およびCH2/CH3領域(例えば、Fc領域)を有するタンパク質に結合する能力を保持するそれらの改変体を包含する。プロテインAは、Repligen、PharmaciaおよびFermatechから商業的に購入できる。プロテインAは、一般に、固相支持体材料にリガンドとして固定される。さらにプロテインAカラムとは、プロテインAが共有結合するクロマトグラフィー固体支持体マトリックスを含むアフィニティクロマトグラフィー樹脂またはカラムを示す。また、プロテインA以外のアフィニティクロマトグラフィーのリガンドとしては、プロテインL、プロテインGなどが挙げられる。これらのプロテインLおよびプロテインGについても、天然の供給源から回収されたもの、合成的に生成されたもの(例えば、ペプチド合成、または、組換え技術によって)、およびCH2/CH3領域(例えば、Fc領域)を有するタンパク質に結合する能力を保持するそれらの改変体を包含する。さらに、プロテインA、プロテインLおよびプロテインGを組み合わせて作成されたアフィニティクロマトグラフィー樹脂またはカラムを用いたアフィニティグラフィー精製方法も含有する。
本発明における限外濾過膜モジュールとは、例えばケーシング内に平膜もしくは中空糸膜を収容したものであり、少なくとも、免疫グロブリン溶液をケーシング内に注ぎ込む液体流入口を一つ以上、分離された液体を導出するための液体流出口を一つ以上供えたものをいう。モジュールに使用するケーシングは一つ以上のケーシング部品から組み立てられる。ケーシング部品の材料は金属、ガラス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など、必要に応じて選択できる。好適な材料は、内部の様子が観察可能な透明性を有する熱可塑性樹脂材料であり、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、硬質塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレンブタジエン共重合体、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。特に好適なものは透明性を有する非晶性樹脂であり、ポリスチレンブタジエン共重合体、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。
本発明に係わるモジュールに使用するケーシングを組み立てる際に使用されるケーシング部品の製造方法は、成型加工が可能であれば何ら限定しないが、例えば、溶接、プレス成型、射出成型、反応射出成型、超音波圧着、プラズマ融着、接着剤による接着などである。これらは単独でも2つ以上組み合わせても良い。特に好適なケーシング部品の製造方法としては材料に透明性を有する熱可塑性樹脂を用いた射出成型品と適切な接着剤で封止する方法である。
本発明に係わるモジュールに使用するケーシングおよび/またはケーシング部品には成型中、および/または成型後、および/または組み立て中、および/または組み立て後に、分離処理される液体と接触および/または接触しない表面に表面加工が実施できる。表面加工には種々の方法があるが、例えば親水化をする場合は親水性高分子の塗布や空気中でのプラズマ処理による表面酸化などが、疎水化する場合は撥水剤および/または離型剤の塗布が、また酸素透過を減少させる場合には蒸着法などにより酸化ケイ素膜をはじめとする各種無機コートを実施することができる。ケーシングおよび/またはケーシング材料への親水化加工を行うことでモジュール組み立て時に同種および/または異種材料界面の接着性制御が容易になり、疎水化加工を行うことで組み立て時に一時的に使用される各種保護フィルムなどとの剥離性を向上させることができる。
本発明に係わるモジュールの構造は、使用する膜の形状、例えば中空糸や平膜によって異なるが、中空糸や平膜などがケーシング内に適切に収容され、分離処理される免疫グロブリン溶液が混ざらない構造であれば良い。また金属メッシュや不織布などを膜の保持材として組み合わせてケーシングに収容し、モジュール化することもできる。
本発明に係わる分離方法は、サイズ分画によって分離する方法であるため、合成医薬品の精製や清酒、ビール、ワイン、発泡酒、お茶、ウーロン茶、野菜ジュース、果物ジュースなど各種飲料の精製、薬液や処理水等から微粒子分離、油水分離や液ガス分離用の分離上下水の浄化を目的とする分離などの用途にも利用できる。
本発明を次に実施例および比較例によって説明するが、これらに限定されるものではない。
[ポリスルホン系高分子膜の製造例]
<中空糸膜(PSf)の製造方法>
1,650gのN,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬工業(株)製、以下、DMAcと略す)に280gのポリスルホン(P1700、UCC社製、以下PSfと略す)および110gのポリビニルピロリドン(K−90、BASF社製、以下PVPと略す)を加え、膜原液用の5,000×10−6反応器に注ぎ込んだ。反応器の攪拌をしながら減圧と窒素置換を5回繰り返した。その後、60℃に反応器内液温度をあげ、均一なPSfのDMAc溶液を得た。均一に溶解したことを確認し、この段階で攪拌を停止し、減圧にして脱泡を行った。その後、大気圧と同じ圧力に戻し、60℃に保持された紡糸用の膜原液を得た。
純水450gにDMAc550gを混合し、内部凝固液用の3,000×10−6反応器に加えた。減圧と窒素置換を5回繰り返し、内部凝固液を得た。
60℃に保持された2重紡口(内直径100μm、スリットの幅50μm、外直径300μm)に内部凝固液をおよび膜原液を通液させた。それぞれの流速は紡糸時の巻取り速度に応じて適宜調整した。
得られた中空糸膜は空走距離0.6mで、60℃に保持された凝固槽中の外部凝固液(純水)中に導かれ、凝固を完了させたあと、巻取り装置で巻き取った。巻取り速度としては2,400m/時間から4,800m/時間で巻き取ることができた。
その後、得られた中空糸膜は60℃の純水を用いて浸漬・洗浄を繰り返し、その後70℃の熱風乾燥機で6時間乾燥した。この製造方法により、分画分子量36万、内径207μm、膜厚41μmのポリスルホン系高分子膜を製造することができた。
<ヒト免疫グロブリン1量体/2量体分画性能評価用溶液の調製>
ヒト免疫グロブリン5%溶液(グロベニン−I−ニチヤク、日本製薬(株)製)をpH処理を行い、不溶物を遠心分離し、上清を0.2μmのマイクロフィルターで濾過した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、日水社(株)製)で希釈して所定の濃度のヒト免疫グロブリン溶液を調製し、分画性能評価用溶液とした。GPC測定の結果、ヒト免疫グロブリン1量体および2量体の含有率は、それぞれ91%および8%であった。
<抗SCF抗体の製造例>
(1)免疫原の作製
SCFを高発現するHeLa細胞のcDNAライブラリーから単離したSCFのcDNAを動物細胞発現用ベクターpBCMGS−neoに組み込んだ後、これをマウス繊維芽細胞株Balb/3T3細胞に形質導入し、得られたトランスフェクタントを免疫原とした。
(2)ハイブリドーマの作製
(a)免疫
8週令のBalb/cマウス(雌)に上記トランスフェクタントを2週間間隔で腹腔内投与した。免疫の効果は、マウスの尾静脈から採取した末梢血の血清と免疫原との反応性により評価した。効果を確認した後、最終免疫、細胞融合を行った。
(b)細胞融合
最終免疫から4日後、免疫されたマウスの脾細胞とマウス骨髄腫由来細胞株SP−2を常法に従って細胞融合させた。
(c)抗SCF抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング
抗SCF抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング法として、トランスフェクタントおよびその親株細胞(Balb/3T3)を抗原とした間接抗体法を用いた。トランスフェクタントに結合し、親株細胞(Balb/3T3)には結合しない抗体を産生するハイブリドーマを選択し、クローニングした。
(d)抗体の精製
SCF発現クローンの培養上清を限外濾過濃縮した後、結合用緩衝液(BioRad Protein MAPS buffer)と等量混合した。Protein A−Sepharose CL−4B(ファルマシア社製)を結合用緩衝液で平衡化し、上記混合液をカラムに流して抗体を結合させた後、結合用緩衝液でカラムを洗浄した。0.2M Glycine−HCl buffer(pH3.0)をカラムに流して溶出を行い抗体画分を得た。次に、DEAE−Sepharose FF(GEヘルスケア社製)、Phenyl−Sepharose HP(GEヘルスケア社製)、Spephadex−G75(GEヘルスケア社製)の順で精製を行い、抗SCF抗体を単離した。
次に、抗SCF抗体pH処理を行い、不溶物を遠心分離し、上清を0.2μmのマイクロフィルターで濾過した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、日水社(株)製)で希釈して所定の濃度のSCFモノクローナル抗体溶液を調製し、分画性能評価用溶液とした。GPC測定の結果、SCFモノクローナル抗体1量体および2量体の含有率は、それぞれ96%および4%であった。
<分画分子量の測定>
各限外濾過膜を用いて、1wt%のウシアルブミン(シグマ−アルドリッチ社製、分子量6万)およびウシγ−グロブリン(インビトロジェン社製、分子量15万)、フェリチン(シグマ−アルドリッチ社製、分子量45万)を0.010MPaの定圧デッドエンドで濾過を行った。濾過開始から5分の間に透過した免疫グロブリン透過液中のアルブミンおよびγ−グロブリン、フェリチンの量を測定し、膜に捕捉された各蛋白質の捕捉率を算出した。各蛋白質の分子量と捕捉率との検量線を作製し、検量線から捕捉率90%の時の分子量を求め、その値を分画分子量と定めた。
<処理量、透過量、透過率および透過率比の計算方法>
処理量、透過量、透過率および透過率比を測定する方法としては、高速液体クロマトグラフフィー法、核磁気共鳴法、質量分析法、赤外分光法などの結果より算出する方法が挙げられるが、算出することができれば、これらに限定するものではない。本発明においては、処理量、透過量、透過率および透過率比は、下記の方法で算出した。免疫グロブリンの濃度は280nm波長を用いて吸光度計で吸光度を測定し算出した。免疫グロブリン1量体と2量体の重量比率は高速液体クロマトグラフフィー測定(東ソー(株)製のカラムG3000SWXLを2本、東ソー(株)製のSC8020システム、東ソー(株)製のUV8020検出器)を行い、280nm波長における吸収ピーク面積比から求めた。
(透過率の計算方法)
まず、膜に透過させた免疫グロブリンの全処理量は、下記式(29)〜(31)で計算できる。
W=W(Mo)+ W(Ag) (29)
W(Mo)
=V1×A1/A×G1(Mo)/100−V2×A2/A×G2(Mo)/100
(30)
W(Ag)
=V1×A1/A×G1(Ag)/100−V2×A2/A×G2(Ag)/100
(31)
W:膜に透過させた免疫グロブリンの処理量(g)
W(Mo):膜に透過させた免疫グロブリン1量体の処理量(g)
W(Ag):膜に透過させた免疫グロブリン2量体の処理量(g)
A:1g/Lの免疫グロブリン溶液の吸光度(Abs)
V1:濾過前の免疫グロブリン元液の容量(L)
A1:濾過前の免疫グロブリン元液の吸光度(Abs)
G1(Mo):濾過前の免疫グロブリン元液中の1量体含有率(%)
G1(Ag):濾過前の免疫グロブリン元液中の2量体含有率(%)
V2:濾過後の免疫グロブリン元液の容量(L)
A2:濾過後の免疫グロブリン元液の吸光度(Abs)
G2(Mo):濾過後の免疫グロブリン元液中の1量体含有率(%)
G2(Ag):濾過後の免疫グロブリン元液中の2量体含有率(%)

但し、濾過前の免疫グロブリン元液の容量が多く、処理量が少ない場合、免疫グロブリン溶液中の1量体と2量体の組成比が殆ど変化しないため、近似値として、下記式(32)および(33)から処理量を計算しても良い。
W(Mo)
=(V1×A1−V2×A2)/A×G1(Mo)/100 (32)
W(Ag)
=(V1×A1−V2×A2)/A×G1(Ag)/100 (33)

次に、膜を透過した免疫グロブリン1量体の透過量P(Mo)と2量体の透過量P(Ag)を式(34)および(35)で計算した。
P(Mo)=V3×A3/A×G3(Mo)/100 (34)
P(Ag)=V3×A3/A×G3(Ag)/100 (35)
P(Mo):膜を透過した免疫グロブリン1量体の透過量(g)
P(Ag):膜を透過した免疫グロブリン2量体の透過量(g)
A:1g/Lの免疫グロブリン溶液の吸光度(Abs)
V3:免疫グロブリン透過液の容量(L)
A3:免疫グロブリン透過液の吸光度(Abs)
G3(Mo):免疫グロブリン透過液中の1量体含有率(%)
G3(Ag):免疫グロブリン透過液中の2量体含有率(%)

さらに、免疫グロブリン1量体透過率および2量体透過率を式(36)および(37)で計算し、その透過率比(分画性能)を式(38)で算出した。
1量体透過率(%)=P(Mo)/W(Mo)×100 (36)
2量体透過率(%)=P(Ag)/W(Ag)×100 (37)
透過率比=2量体透過率/1量体透過率 (38)
[実施例1]
中空糸膜(PSf)の中空部分の断面積合計が0.005mとなるように本数を取り出し、ヒト免疫グロブリン1量体/2量体分画性能評価用の糸束を作製した。その糸束を図3に示すようなクロスフロー濾過装置に接続する。
次に、ケーク層を形成させるための高分子量化合物を含有する溶液として1g/Lのフィブリノーゲン(シグマ−アルドリッチ社製)−PBS溶液を装置内の免疫グロブリン元液タンク4にセットし、中空糸膜中での線速が10cm/秒、中空糸膜出側圧力の平均が0.010MPaとなるよう送液ポンプ2(3)を回転させ、調整バルブ(7)で調整した。20分間、クロスフロー濾過を行うことで濾過膜表面にケーク層を形成させ後、2.5g/Lのヒト免疫グロブリン溶液に置き換えた。濾過中、ヒト免疫グロブリン濃度が一定となるように希釈液用タンク(1)内のPBS溶液を免疫グロブリン元液タンク(4)内に添加した。1分間の透過液を回収し、免疫グロブリン2量体透過率/1量体透過率比(免疫グロブリン2量体透過率/1量体透過率)を測定した。
その結果、免疫グロブリン2量体透過率/1量体透過率比は、0.16であった。このことから1g/Lのフィブリノーゲン溶液をクロスフロー濾過することによりケーク層が形成され、後工程の濾過初期の1分間における免疫グロブリン溶液のクロスフロー濾過において免疫グロブリン1量体と2量体を効率よく分離できることが分かった。
[実施例2]
ケーク層を形成させるための高分子量化合物を含有する溶液として、10g/Lのフィブリノーゲン−PBS溶液に変えた事以外は、実施例1と同等に実験を行った。その結果、免疫グロブリン2量体透過率/1量体透過率比は、0.11であった。このことから10g/Lのフィブリノーゲン溶液をクロスフロー濾過することによりケーク層が形成され、後工程の免疫グロブリン溶液のクロスフロー濾過において免疫グロブリン1量体と2量体を効率よく分離できることが分かった。
[実施例3]
ケーク層を形成させるための高分子量化合物を含有する溶液として、1g/Lのポリエチレングリコール(平均分子量:500,000、和光純薬工業(株)製)−PBS溶液に変えた事以外は、実施例1と同等に実験を行った。その結果、免疫グロブリン2量体透過率/1量体透過率比は、0.11であった。このことから1g/Lのポリエチレングリコール溶液をクロスフロー濾過することによりケーク層が形成され、後工程の免疫グロブリン溶液のクロスフロー濾過において免疫グロブリン1量体と2量体を効率よく分離できることが分かった。
[実施例4]
ケーク層を形成させるための高分子量化合物を含有する溶液として、1g/Lのポリアクリル酸(平均分子量:250,000、和光純薬工業(株)製)−PBS溶液に変えた事以外は、実施例1と同等に実験を行った。その結果、免疫グロブリン2量体透過率/1量体透過率比は、0.11であった。このことから1g/Lのポリアクリル酸溶液をクロスフロー濾過することによりケーク層が形成され、後工程の免疫グロブリン溶液のクロスフロー濾過において免疫グロブリン1量体と2量体を効率よく分離できることが分かった。
[実施例5]
免疫グロブリン溶液として、2.5g/LのSCFモノクローナル抗体溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様に実験を実施した。濾過終了後、SCFモノクローナル抗体の1量体と2量体の透過率比(分画性能)を算出した結果、0.18であった。このことから、1g/Lのフィブリノーゲン溶液によってクロスフロー濾過することによりケーク層が形成され、後工程のSCFモノクローナル抗体のクロスフロー濾過においてSCFモノクローナル抗体1量体と2量体を効率よく分離できることが分かった。
[比較例]
ケーク層を形成させるための高分子量化合物を含有する溶液の代わりに、高分子量化合物を含有していないPBS溶液に変えた事以外は、実施例1と同等に実験を行った。その結果、免疫グロブリン2量体透過率/1量体透過率比は、0.62であった。このことから、高分子量化合物を含有しない溶液では、ケークの形成がなされず、免疫グロブリン溶液のクロスフロー濾過の初期段階の分離性能が低かった。
本発明に係る分離方法は、免疫グロブリンなどのバイオ医薬の分離・精製分野で好適に利用することができる。
本発明のクロスフロー濾過装置を例示する図である。 本発明のクロスフロー濾過装置を例示する図である。 本発明のクロスフロー濾過方法を例示する図である。
符号の説明
1 希釈液用タンク
2 送液ポンプ1
3 送液ポンプ2
4 免疫グロブリン元液タンク
5 圧力計1
6 圧力計2
7 調整バルブ
8 限外濾過膜モジュール
9 免疫グロブリン透過液タンク
10 流量計
11 濃度コントローラー1
12 圧力・流量コントローラー1
13 UVフローセル

Claims (18)

  1. 限外濾過膜を用いて、高分子量化合物を含有する溶液をクロスフロー濾過する工程に続いて、少なくとも免疫グロブリン1量体とその凝集体を含む免疫グロブリン溶液をクロスフロー濾過することにより、免疫グロブリン1量体を分離することを特徴とする分離方法。
  2. 該凝集体は、少なくとも免疫グロブリン2量体を含むことを特徴とする請求項1に記載の分離方法。
  3. 限外濾過膜の分画分子量が、10万以上50万未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の分離方法。
  4. 該免疫グロブリン溶液の濃度が、1〜150g/Lであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分離方法。
  5. 該免疫グロブリン溶液の濃度を、実質一定に維持しながらクロスフロー濾過することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分離方法。
  6. 高分子量化合物の数平均分子量が、15万以上100万未満であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の分離方法。
  7. 該高分子量化合物が、天然高分子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の分離方法。
  8. 該天然高分子が、蛋白質であることを特徴とする請求項7に記載の分離方法。
  9. 該蛋白質が、フィブリノーゲンであることを特徴とする請求項8に記載の分離方法。
  10. 該高分子量化合物が、合成高分子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の分離方法。
  11. 該合成高分子が、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール系高分子から一つ以上選択されることを特徴とする請求項10に記載の分離方法。
  12. 該免疫グロブリンが、モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の分離方法。
  13. 該限外濾過膜が、ポリスルホン系高分子膜であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の分離方法。
  14. 該ポリスルホン系高分子が下記式(1)〜(3)で表されるポリスルホン系高分子の少なくとも1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする請求項13に記載の分離方法。
    [化1]
    Figure 2010047526
    [化2]
    Figure 2010047526
    [化3]
    Figure 2010047526
  15. 該ポリスルホン系高分子が、ポリビニルピロリドンで親水化されたポリスルホン系高分子であることを特徴とする請求項13または14に記載の分離方法。
  16. 該限外濾過膜が、中空糸膜であることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の分離方法。
  17. 下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置を用いて行う請求項1〜16のいずれかに記載の分離方法。
    (イ)免疫グロブリン元液の濃度をモニタリングできる手段
    (ロ)免疫グロブリン元液の濃度をコントロールできる手段
    (ハ)免疫グロブリン元液の線速をコントロールできる手段
    (ニ)限外濾過膜の濾過圧力をコントロールできる手段
  18. 請求項1〜17のいずれかに記載の分離方法に使用するモジュールおよび下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置。
    (イ)免疫グロブリン元液の濃度をモニタリングできる手段
    (ロ)免疫グロブリン元液の濃度をコントロールできる手段
    (ハ)免疫グロブリン元液の線速をコントロールできる手段
    (ニ)限外濾過膜の濾過圧力をコントロールできる手段



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