JP2010029174A - ハイブリダイゼーション溶液 - Google Patents

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Abstract

【課題】核酸をハイブリダイゼーション法により特異的に検出する際に、試料核酸および/またはハイブリダイゼーション液中の遊離標的核酸と、核酸捕捉用プローブおよび/または核酸捕捉用基板との間に生じる非特異的な結合を抑制し、信頼性の高い結果を得ることを課題とする。
【解決手段】核酸をハイブリダイゼーション法により特異的に検出するためのハイブリダイゼーション溶液であって、Cot-1DNA、酵母total RNA、polyA 核酸、サケ精子DNAおよびニシン精子DNAからなる群から選択される三種類以上の非相同性核酸を含むハイブリダイゼーション溶液。
【選択図】なし

Description

本発明は、核酸を特異的に検出するためのハイブリダイゼーション溶液に関する。
分子生物学、生物技術分野において、特定の核酸の量や分布を検出するにあたり、DNAやRNA核酸分子が相補的に複合体を形成する原理、ハイブリダイゼーションを利用する技術の実用化が進んでいる。ハイブリダイゼーションの検出には、例えば、予め核酸試料に検出可能な標識を施し、その標識をDNAチップなどで間接的にDNA量を検出する方法がとられている。DNAチップは、多種・多数のDNAプローブを、基板表面に集積して固定したものであり、基板表面のプローブ核酸鎖と、細胞・組織などより採取したターゲット核酸鎖とのハイブリダイゼーションを検出することにより、細胞・組織などにおける遺伝子発現や塩基配列などを網羅的に解析することができる。このように、ハイブリダイゼーション反応は、核酸の持つ相補性を基本とするため、いかにして非特異的な反応を抑制し、特異的な反応のみを効率良く検出することができるかが重要な課題であった。
非特異的なハイブリダイゼーションを抑制し、検出の強度向上を図るために一般的に行われる手法の一つに、標的核酸配列や捕捉用核酸プローブ配列とは非相同的な核酸成分を添加することが知られている。例えば、非特許文献1に記載されているような一般的な条件下でハイブリダイズする場合、50μg/ml変性サケ精子DNAを添加することがある。また、生物材料由来のmRNAをcDNAへ逆転写するにあたって使用されるオリゴdT(PolyT)試薬の相補配列である、PolyA核酸を用いてより特異的なハイブリダイゼーション反応を試みることが可能である(特許文献1)。その他、非特異的なハイブリダイゼーションを抑制するための非相同的な核酸成分としては、ヒトCot-1 DNA(特許文献2)、酵母total RNA(特許文献3)、ヒトCot-1 DNAとサケ精子DNAの併用(特許文献4)が知られている。しかしながら、試料の調整工程にもよるが、一般に試料核酸中における標的核酸配列は極一部を占めるに過ぎず、非標的核酸の混入が大多数を占めることも多い。また、捕捉用核酸プローブ配列に関しても、例えばcDNAプローブやBACクローンを用いたプローブを使用する場合、捕捉用配列以外の塩基配列が混入することは避けられない。このように多くの非標的配列/非捕捉配列が存在する中、一種類のみの非相同性核酸ではハイブリダイゼーションの非特異性結合を効果的に抑制するのは不十分であった。
さらにハイブリダイゼーションの特異性や検出強度を向上する方法として、多糖や界面活性剤からなるポリマーの添加がある。例えばデキストラン硫酸ナトリウムまたはポリスチレンスルホン酸ナトリウムをハイブリダイゼーション溶液に添加することが知られている(例えば、特許文献5)。しかしながら、非特異的に結合する標的核酸および/または捕捉用核酸プローブの量を、信頼度の高い分析に必要な程度まで減少し高検出力を生み出すハイブリダイゼーションアッセイを可能にするには、デキストラン硫酸ナトリウム単体での使用のみでは不十分であることを発明者らは本出願の実施例に示す。また、ハイブリダイゼーション溶液中の硫酸デキストランによるプローブ配列と標的核酸配列の捕捉効率上昇の効果は、被分析体であるオリゴヌクレオチド(標的核酸および/または捕捉用プローブ)が長鎖(500塩基以上)である場合に限定され、被分析体が短鎖(100塩基以下)である場合に、その効果は詳しく見出されていない(特許文献6)。
同様に、ハイブリダイゼーション溶液にデンハルト溶液(例えば、特許文献1)やウシ血清アルブミン(BSA)を添加することで、非特異的なハイブリダイゼーションや核酸のプローブ支持体への吸着を防ぐとされている。しかしながら、例えば特許文献3においては、界面活性剤とデンハルト溶液をハイブリダイゼーション溶液に添加することにより、ハイブリダイゼーションの強度は向上したことは示されているが、その強度がハイブリダイゼーションの特異性を伴っていることは示されておらず、これら組成物を単独に添加することでは、診断ツールへ応用する場合に要求されるハイブリダイゼーション反応の厳密度、信頼度を十分に得うることは、いまだ証明されていない。
以上のように、これまで遺伝子のハイブリダイゼーション結果の検出にあたり、ハイブリダイゼーションの反応をより一層特異的に、効果的に、且つ厳密に行うための手段として多角的なアプローチが行われてきているが、十分な性能を持つハイブリダイゼーション溶液はいまだ得られていない。
特開2005−87109号公報 特開2006−250756号公報 特開2003−116564号公報 特開2000−232883号公報 特表平6−508992号公報 特表平1−500461号公報 Molecular Cloning - A laboratory manual - 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989
ハイブリダイゼーション反応においてハイブリダイゼーション強度を低下させることなく、非特異的なハイブリッド形成を抑制し、特異的な反応によるシグナルを感度良く検出することを課題とする。加えて、多糖やポリマーを添加することでハイブリダイゼーションの効率をより一層高め、更にその検出結果が再現性に優れ、信頼性が非常に高いものであることを見出し、本発明を完成した。
上記課題を解決するにあたり、本発明者らは、三種類以上の非相同性核酸を含むハイブリダイゼーション溶液が有効であることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の(1)〜(5)のハイブリダイゼーション溶液に関する。
(1)核酸をハイブリダイゼーション法により特異的に検出するためのハイブリダイゼーション溶液であって、Cot-1DNA、酵母total RNA、polyA 核酸、サケ精子DNAおよびニシン精子DNAからなる群から選択される三種類以上の非相同性核酸を含むハイブリダイゼーション溶液。
(2)前記非相同性核酸として少なくともCot-1DNA、酵母total RNAおよびpolyA核酸を含む、(1)に記載のハイブリダイゼーション溶液。
(3)さらにデキストラン硫酸ナトリウムを含む、(1)または(2)に記載のハイブリダイゼーション溶液。
(4)さらにデンハルト溶液を含む、(1)〜(3)のいずれかに記載のハイブリダイゼーション溶液。
(5)さらにウシ血清アルブミン(BSA)を含む、(1)〜(4)のいずれかに記載のハイブリダイゼーション溶液。
本発明のハイブリダイゼーション溶液を用いることにより、ハイブリダイゼーション反応において、試料中の標的核酸および/またはハイブリダイゼーション液中の遊離標識試薬が、核酸捕捉用のプローブおよび/または核酸捕捉用基板との間に生じる非特異的な結合を抑制し、核酸と核酸捕捉用のプローブの配列特異的な結合反応によって発せられるシグナルを強化することにより、ハイブリダイゼーション検出時におけるシグナル/ノイズ(S/N)比を向上し、ハイブリダイゼーションの検出精度を高めることができる。
以下、本発明の様々な実施形態を詳細に説明する。様々な実施形態を参照するが、それらは本開示の範囲を限定するものではなく、本開示の範囲は本明細書に添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。また、別途指示のない限り、本明細書中で用いる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当事者により一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本発明の実施や試験には、本明細書に記載するものと同じかまたは等しい任意の方法や材料もまた用いることができ、ここでは単に好適な方法および材料を記載するにすぎない。
本明細書中で使用する用語は、以下の定義を有する。
本明細書において、「核酸」および「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAのいずれも包含する核酸として用いられる。なお、上記DNA には、complementary DNA (cDNA)、ゲノムDNA、および合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、tRNA、ncRNA、miRNA、dsRNA、siRNA、smRNA、rasiRNA、および合成RNAのいずれもが含まれる。また、本明細書では、ポリヌクレオチドと核酸は互換的に使用される。
本明細書において、「遺伝子」とは、二本鎖DNAのみならず、それを構成する正鎖(またはセンス鎖)または相補鎖(またはアンチセンス鎖)などの各一本鎖DNAを包含することを意図して用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAなどを含む二本鎖DNA、cDNAを含む一本鎖DNA(正鎖)、該正鎖と相補的な配列を有する一本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれも含む。また該「遺伝子」は特定の塩基配列で示される「遺伝子」だけでなく、これらによってコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質、例えば同族体(すなわち、ホモログ)、スプライスバリアントなどの変異体、および誘導体をコードする「遺伝子」が包含される。
本明細書において「プローブ」とは、遺伝子の発現によって生じたRNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に検出するために使用されるポリヌクレオチドおよび/またはそれに相補的なポリヌクレオチドを包含する。ここで相補的なポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)とは、特定の塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、またはその部分配列(ここでは便宜上、これを正鎖と呼ぶ)に対してA:T(U)、G:Cといった塩基対関係に基いて、塩基対に相補的な関係にあたるポリヌクレオチドを意味する。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズできる程度の相補関係を有するものであってもよい。
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、プローブが特定の標識配列に対して、他の配列に対するよりも検出可能に大きな程度(例えばバックグラウンドよりも少なくとも二倍)でハイブリダイズする条件をいう。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、ハイブリダイゼーションが行われる環境によって異なる。ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄条件のストリンジェンシーを制御することにより、プローブに対して100%相補的である標的配列が同定されうる。
本発明書において「非相同性核酸」とは、ハイブリダイゼーションの標的となる核酸配列と相補な配列を持たない、または相同性が極めて低いポリヌクレオチドである。すなわち、ハイブリダイゼーション反応において、核酸試料の標的塩基配列および/または核酸プローブの捕捉用塩基配列とハイブリダイズしないが、核酸試料中に含まれる非標的塩基配列および/または核酸プローブ上に存在しうる非捕捉用塩基配列とハイブリダイズしうるポリヌクレオチドである。例えば、標的核酸の由来する生物種とは別の生物種から抽出した核酸を示す。また、由来する生物種が同じであっても標的塩基配列とは相同性の低い核酸、例えば反復配列を含む核酸、を示す。
本明細書において「ダイナミックレンジ」とは、標識した核酸が発する識別可能なシグナルの最小値と最大値の比率であり、シグナルを検出できる力を示す。すなわち、ダイナミックレンジの値はどれだけ細かい信号まで再現できるかを示し、実質的に利用できる検出力の高さを意味するものである。また、高ダイナミックレンジは遺伝子発現量の測定データを信頼度の高い診断アルゴリズム判定に応用するための必須条件である。ダイナミックレンジは、同種、同量の標的核酸試料を用いても、異なる工程や方法を経ることにより変化しうる。本発明は高特異性に加えて、高ダイナミックレンジを得る最も効果的ハイブリダイゼーション方法を開示するものである。
本明細書において「S/N比」は、検出に有用な正規検出信号(S)と検出に有用でないノイズ信号(バックグラウンド信号、N)との比を意味し、この比の値が大きいほど、検出精度が高い。「ノイズ」は、ハイブリダイゼーションの検出において、バックグラウンドとなる検出信号(例えば、蛍光強度)を意味する。なお、本発明では、例えば、DNAチップ上で捕捉用核酸プローブの載っていないスポット(ブランク)が発する蛍光強度をノイズ蛍光と呼ぶ。
本発明のハイブリダイゼーション溶液は、核酸捕捉用のプローブおよび/または核酸捕捉用基板への試料核酸および/またはハイブリダイゼ−ション液中の遊離標識試薬の非特異的結合を防ぐための抑制剤として、三種類以上の非相同性核酸を含むことを特徴とする。
非特異的結合抑制剤として挙げられる第一の非相同性核酸としては、反復配列を含む核酸であり、具体例として、Cot-1 DNAが挙げられる。Cot-1 DNAは哺乳類胎盤由来の核酸として得ることができ、それぞれの生物種に対して特有の配列を含む。例えば、ヒトではヒト特有の配列を含み、AlnIおよびKpnI反復配列を多く含む(Weiner, A.M., et al. (1986) Ann. Rev. Biochem. 55, 631.、Britten, R.J., et al. (1986) Methods Enzymol. 29, 363.)。またマウスCot-1 DNAにおいては、マウス特有の配列を含み、B1、B2、L1ファミリーの反復配列を多く含む(Weiner, A.M., et al. (1986) Ann. Rev. Biochem. 55, 631.、Britten, R.J., et al. (1986) Methods Enzymol. 29, 363.)。Cot-1 DNAはインビトロジェン株式会社からヒトCot-1 DNA(商標、カタログナンバー15279-011)およびMouse Cot-1 DNA(商標、カタログナンバー18440-016)として提供されているが、使用にあたってはこれに限らず、いずれの入手手段によるCot-1 DNAであっても使用可能である。なお、本発明における非相同性核酸として使用するCot-1 DNAの生物種はハイブリダイゼーションの標的となる核酸の生物種に依存しないが、ヒト遺伝子配列の解析においてはヒトCot-1 DNAを含むのが好ましく、マウス遺伝子配列の解析においてはマウスCot-1 DNAを含むのが好ましい。
また、非特異的結合抑制剤として挙げられる第二の非相同性核酸としては、検出対象とする試料の生物種に由来しない配列を含むことが好ましい。例えば、酵母から抽出したtotal RNA(酵母total RNA)、サケ由来の精子DNA(サケ精子DNA)、ニシン由来の精子DNA(ニシン精子DNA)など、容易に大量に入手可能な核酸配列を利用することができ、中でも酵母total RNAを利用することがより好ましい。
また、非特異的結合抑制剤として挙げられる第三の非相同性核酸としては、生物から得られた試料中に含まれる核酸をハイブリダイゼーション用に前処理するにあたって使用される核酸試薬の非特異的ハイブリダイゼーションを抑制するために、このような核酸試薬に対して相補的な配列を含む核酸である。具体的には、生物材料由来のmRNAをcDNAへ逆転写するにあたって使用されるオリゴdT(PolyT)試薬の相補配列である、PolyA核酸などが挙げられる。PolyA核酸の長さとして好ましくは5〜500塩基、より好ましくは10〜100塩基である。PolyA核酸については、通常の天然型ヌクレオチドを用いるか、あるいは通常のDNA/RNA自動合成機、例えば、Applied Biosystems社製 392 DNA/RNA自動合成機を使用して、合成することで得られる。またオペロンバイオテクノロジー社が提供するPoly dA (20mer)などの市販品を使用することも可能である。またこのような非相同性核酸は、ポリヌクレオチドを部分的に人工改造して得られるLNA(Locked Nucleic Acid)を用いたオリゴからも製造可能である(Kaur, H., et al. Biochemistry 2006. 45(23): 7347-55)。
本発明のハイブリダイゼーション溶液は上記非相同性核酸を三種類以上含むことが好ましく、その組み合わせについては特に制限はないが、Cot-1 DNA、酵母total RNAおよびPolyA核酸を含んでいることがより好ましい。なお、これら非相同性核酸の最適使用濃度としては、0.01-10 mg/mlが好ましく、さらに0.01-3 mg/mlが好ましく、さらに0.01-1 mg/mlで使用することが最も好ましい。
本発明のハイブリダイゼーション溶液にはまた、多糖、好ましくはデキストラン硫酸ナトリウムを含むことができる。デキストランはD-グルコースが多くつながった多糖類の一種で、乳酸菌などによりショ糖から生成される。デキストランはその吸水作用から核酸濃度を上げた状態と同じ条件を創り上げるため、ハイブリダイゼーション速度を加速する効果がある。デキストラン硫酸ナトリウムの最適使用濃度としては1-30%が好ましく、より好ましくは1-20%であり、さらに3-10%で使用することが最も好ましい。またデキストランは多糖類であることから多様な分子量をとりうるが、その分子量は3,000-100,000 Daの範囲で利用することが可能である。より好ましくは分子量5,000-30,000 Daのデキストランを使用する。
本発明のハイブリダイゼーション溶液にはまた、デンハルト溶液を含むことができる。デンハルト溶液とは、0.02% BSA、0.02% Ficoll、0.02% polyvinyl pirrolidoneを含む溶液であり、非特異的な会合や吸着を抑制する働きを持つ。デンハルト溶液の最適使用濃度としては、1-30xが好ましく、より好ましくは1-10xであり、さらに5xで使用することが最も好ましい。
本発明のハイブリダイゼーション溶液には、タンパク質の非特異的吸着の抑制剤を含むことができる。抑制剤としては、BSAを用いることが好ましい。BSAはバックグラウンドノイズとなる非特異的吸着をブロックすることにより、S/N比が向上し、高感度なアッセイが望める。BSAの最適使用濃度としては、1-100 mg/mlが好ましく、より好ましくは5-50 mg/mlであり、さらに10 mg/mlで使用することが最も好ましい。
その他、本発明のハイブリダイゼーション溶液にはハイブリダイゼーション反応の感度を高めるために有用な物質を含んでもよく、例えば、ハイブリダイゼーション反応中に生じる気泡はハイブリダイゼーション反応を物理的に阻害するおそれがあるため、気泡の発生を抑制する消泡剤等を含んでいてもよい。
本発明のハイブリダイゼーション溶液を使用して、標的となる核酸とプローブとをハイブリダイズする方法は特に限定されず、当業者にとって公知の方法、例えばMolecular Cloning - A laboratory manual - 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989に開示される方法を好ましく採用することができるが、特異的なハイブリダイゼーション反応を促進させる目的で、非相同性核酸と標的となる核酸を混合し高温で数分間、好ましくは95℃で5分間加温し、それを急冷することによって、予め核酸の高次構造をほぐし、プローブとのハイブリッド形成を行いやすい状態としてから、ハイブリダイゼーション反応を行う温度で前もって温めておいたハイブリダイゼーション溶液に溶解し、ハイブリダイゼーション反応を行うことがより好ましい。
本発明のハイブリダイゼーション溶液による核酸の検出方法は、狭く限定されないが、例えば、予め標識した標的となる核酸鎖とプローブ核酸鎖、あるいは標的となる核酸鎖と予め標識したプローブ核酸鎖がハイブリダイズした複合体中の該標識体から発せられる信号を検出する方法が挙げられる。なお、ここでいう「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(たとえば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識としては、例えば、蛍光(例えば、フルオレセイン又はローダミンなど)、放射能(例えば、32P、131I、35Sなど)、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)、ハプテン(例えば、ジゴキシゲニンまたはDIGなど)、燐光、および化学発光(ケミルミネッセンス、およびバイオルミネッセンスなど)を利用した任意の標識を挙げることができるが、それらに限定されない。
これらの標識体は、例えば標的となる核酸の逆転写もしくは増幅時、または酵素反応によってプローブ核酸作製時に酵素反応により直接核酸に取り込まれたり、アミノアリルやビオチン‐アビジンなどの複合体を介して標的核酸に結合標識する。また、標的核酸に化学的な直接修飾を用いる標識方法、例えばMirus社のLabelIT(商標)やKreatech社のULS(商標)、にも本発明であるハイブリダイゼーション溶液は効果的に使用することができる。さらに核酸捕捉用の単一の標準核酸断片(タグ)を有する適当な標識化試薬、例えば標識されたデンドリマー核酸を用いて試料核酸と核酸捕捉用プローブのハイブリダイゼーションを検出することができる。標識方法は、標的核酸とプローブのハイブリダイゼーションを検出可能な方法なのであれば特にこれら方法に限定されない。
本発明のハイブリダイゼーション溶液を使用して核酸を検出する場合、標的となる核酸を転写反応やPCRによって増幅することで高感度に検出することが可能であるが、標的となる核酸を増幅しない場合においても核酸を高感度に検出することができる。
本発明のハイブリダイゼーション溶液を使用した核酸の検出は、サザンブロッティングまたはノーザンブロッティング法として知られる方法の他、それらの応用であるマクロアレイ、マイクロウェル、DNAチップ等によって実施されうるが、検出のためのツールはこれらに限らない。
前記DNAチップとしては、特に限定はないが、一般に販売されているものを用いることができる。例えば、アフィメトリックス社のGeneChip(商標) Arrays、アジレント・テクノロジー株式会社のオリゴDNAチップ、またOperon社のOpArray(商標)、などが挙げられるが、より好ましくは、支持体に凹凸部を持ち、ハイブリダイゼーション溶液をビーズで拡販することができる東レ株式会社の3D-Gene(商標)が挙げられる。本発明であるハイブリダイゼーション溶液をこのようなDNAチップに用いることにより、試料核酸の増幅なしでも低発現遺伝子の検出が可能となる。
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、実施例の範囲に限定されるものではなく、単に特許請求する発明について考えられる多くの実施形態のうちのいくつかを記載したにすぎない。
1.非相同性核酸を含むハイブリダイゼーション溶液の検討
方法:
標的核酸試料の調整
標的核酸試料は、HEPG2及びK562培養細胞より抽出されたtotal RNAを逆転写反応により合成したcDNAを用いた。すなわち、逆転写反応にはInvitrogen社のSuperscript(商標)IIキットを使用し、プライマーには、PolydTに特異的核酸配列(タグ)が結合しているものを用いた。作成されたcDNAは、既存のtotal RNAを分解する目的で0.5M NaOH/50mM EDTA 3.5μLを添加し65℃15分間で反応後、1M Tris-HCl, pH7.5 5μLを加えて中和した。更に、余分な反応組成や酵素を除去するため、シリカ系精製カラム(“DNA Clean & Concentrator-25”, Zymo Inc.)で精製を行い、cDNAを抽出した。核酸試料調整および標識には“Expression Array Detection Kit for Microarray, Cy5及びCy3 3DNA Array 50”(フナコシ社/Genisphere Inc)を用い、特別な記載が無い限り製造者のプロトコールに従った。
ハイブリダイゼーション反応
標的核酸試料は、ハイブリダイゼーション反応時の非特異的核酸結合を抑制するために、
(比較例1−1)PolyA60 (10mg/mL、オペロンバイオテクノロジー) 1μL
(比較例1−2)PolyA60 (10mg/mL、オペロンバイオテクノロジー) 1μLおよび酵母 total RNA (10mg/mL、Ambion/Applied Biosystems) 1μL、
または、
(実施例1)PolyA60 (10mg/mL、オペロンバイオテクノロジー) 1μL、酵母 total RNA (10mg/mL、Ambion/Applied Biosystems) 1μLおよびヒトCot-1 DNA(1mg/mL、インビトロジェン) 10μL、
と混合し、95℃、5分間熱変性反応後4℃以下で急冷した後、4xSSC(クエン酸緩衝液)、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液、25%ホルムアミド、5xデンハルト溶液、5%デキストラン硫酸ナトリウムおよびBSA 1mg/100μLの組成の溶液と混合して総量を100μLとした。
この混合液を、1198個のヒトの遺伝子に対応したプローブを登載したカスタムDNAチップである“3D-Gene(商標)” 1000柱基板(東レ株式会社)にアプライした。ハイブリダイゼーション反応は、恒温チャンバー内で250 rpmの旋回振とう(東京理化器械株式会社)しながら42℃、16時間遮光して行った。ハイブリダイゼーション反応後は、表1記載の工程でDNAチップを洗浄した。
Figure 2010029174
DNAチップを洗浄後、遠心乾燥し、標識反応を“Expression Array Detection Kit for Microarray, Cy5およびCy3 3DNA Array 50”(フナコシ社/Genisphere Inc)添付のプロトコールに従って行った。標識反応後は、表1記載の洗浄工程で再びDNAチップを洗浄し、遠心乾燥した。
DNAチップ画像の取り込みと発現遺伝子データの分析
DNAチップの画像はDNAアレイスキャナー(ScanArrayLite、PerkinElmer, Japan)によって532 nm及び635 nm励起蛍光画像をレーザー強度100%で取得し、GenePix Pro5.0(Molecular Devide)によって数値化した。
各DNAチップそれぞれについて、Cy3又はAlexa-555(532 nm励起)及びCy5又はAlexa-555(635 nm励起)の蛍光強度をそれぞれ数値化し、有効スポットの抽出、バックグラウンド減算と色素間補正を行った。有効スポットの判定では、ブランクスポットの蛍光強度を基準とした。まず全ブランクスポットの蛍光強度を抽出して強度順のランクをつけ、全ブランクスポット数の5%にあたる、最上位スポット及び最下位スポット(今回使用したカスタムDNAチップでは6スポットずつ)の蛍光強度を除いたブランクスポットについて、532nm蛍光、635nm蛍光の平均強度及びその標準誤差(SD)を得た。続いてDNAチップ上のすべてのスポットについて532nm、635nmそれぞれの蛍光強度を得たうえで、ブランクスポットの蛍光強度の平均+2SDをそれらから減算し、532nm、635nmのいずれかの蛍光強度について得られた値がマイナス値になる場合、そのスポットを非有効スポットと判定して、以後の解析より除いた。次に、有効スポットについてブランクスポットの蛍光強度の平均(上下5%のスポットは除かれている)をバックグラウンド値として各スポットの蛍光強度絶対値からそれぞれ減算した。各DNAチップにおける色素間補正として、グローバルノーマリゼーションを行った。すなわちDNAチップ1枚について、有効スポットの532nm蛍光強度および635nm蛍光強度のメディアン値を得て、それらが等しくなるように係数を設定して532nm蛍光強度を補正した。補正を行った532nm蛍光強度及び635nm蛍光強度を用いて2サンプル間の遺伝子発現量の比であるM値:log2(532nm蛍光強度/635nm蛍光強度)を計算し、その標準偏差(SD)をダイナミックレンジとして算出した。DNAチップ基板間の検出結果再現性は各スポットにおけるM値を用いて相関係数としてPearson’s correlation (R)を算出した。
結果:
ハイブリダイゼーション溶液に、一種類の非相同性核酸(PolyA60)のみを用いる比較例1と比較し、二種類の非相同性核酸(PolyA60および酵母total RNA)を加えた比較例2は、ダイナミックレンジの拡大幅が2%弱に留まった(表2)。さらにもう一種類を添加し三種の非相同性核酸(PolyA、酵母total RNAおよびヒトCot-1 DNA)を用いた実施例1においては、ダイナミックレンジが比較例1と比べ11%以上拡大した。例えば、M値の最小値は比較例1においては-6.6だが、実施例1においては-7.1に下がり、これはつまり遺伝子発現量比が最小0.010倍から0.0073倍まで検出可能となったことを示す。また同様に、M値の最大値は比較例1においては6.8だが、実施例1においては7.2に上昇し、遺伝子発現量比が最大111倍から147倍に拡大した。つまり、比較例1から実施例1に方法を改善することによってダイナミックレンジが拡大したことで、微弱な信号もバックグラウンド(ノイズ)に取り込まれず、より大きなシグナルとして検出可能になり分析に用いることができた。
また、三種類の非相同性核酸を用いることで二枚のDNAチップ実験の結果についての再現性も一層向上した。よって、PolyA60のみを使用した比較例1−1やPolyA60および酵母total RNAの二種を使用した比較例1−2よりも、三種の非相同性核酸(ヒトCot-1 DNA、polyA60および酵母total RNA)を混合使用した実施例1の方が、検出力が有意に増し、より微弱なシグナルが高感度で取得可能となった。
Figure 2010029174
2.ハイブリダイゼーション溶液におけるデキストラン硫酸ナトリウム、デンハルト溶液およびBSAの添加
方法:
標的核酸試料の調整
実施例1記載の方法と同様に行った。
ハイブリダイゼーション反応
標的核酸試料は、PolyA60 (10mg/mL、オペロンバイオテクノロジー) 1μL、酵母 total RNA (10mg/mL、Ambion/Applied Biosystems) 1μLおよびヒトCot-1 DNA(1mg/mL、インビトロジェン) 10μLと混合し、95℃、5分間熱変性反応後4℃以下で急冷した後、以下の溶液と混合した。
(実施例2A)基本組成として、4xSSC(クエン酸緩衝液)、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液、25%ホルムアミドとした。
(実施例2B)(実施例2A)の溶液にデキストラン硫酸ナトリウム5000(和光純薬工業)を最終濃度が5%となるよう添加した。
(実施例2C)(実施例2B)の溶液に50xデンハルト溶液(Sigma-Aldrich)11μLを添加し最終濃度を5xとして使用した。
(実施例2D)(実施例2B)の溶液にBSA(Sigma-Aldrich)を1.1mg添加し最終濃度を1mg/100μLとして使用した。
各ハイブリダイゼーション溶液の総量を100μLとし、1198個のヒトの遺伝子に対応したプローブを登載したカスタムDNAチップである“3D-Gene(商標)” 1000柱基板(東レ株式会社)にアプライし、実施例1記載の方法と同様にハイブリダイゼーション反応、洗浄工程および標識反応を行った。
DNAチップ画像の取り込みと発現遺伝子データの分析
DNAチップ画像の取り込みと発現遺伝子データの分析は、1.記載の方法と同様に行った。
結果:
ハイブリダイゼーション溶液の基本組成のみを使用した実施例2Aと比較し、さらにデキストラン硫酸ナトリウムを添加した実施例2Bにおいては、ダイナミックレンジが5%近く拡大した(表3)。デキストランに加えて更にデンハルト溶液を添加した実施例2Cにおいては、ダイナミックレンジがさらに14%、実施例2Aと比較すると20%近く拡大した。上記溶液にさらにBSAを添加した実施例2Dにおいては、ダイナミックレンジがさらに2%拡大し、実施例2Aと比較すると統合的に22%の拡大となった。また、シグナル強度はデンハルト溶液を添加したことで上昇し、BSAとの相乗作用により有効スポット数が最終的に18%増加した。また、実施例2A〜2Dへ上記記載の各組成物を添加していくことによって二枚のDNAチップ実験の結果についての再現性も徐々に向上し最終的に相関係数が3%近く上昇した。尚、上記記載の各組成物の添加によっても、バックグラウンド蛍光値の上昇は見られず、シグナル強度は上昇したため、シグナル/ノイズ(S/N)比が約3割増大した。
Figure 2010029174
3.DNAチップ検出結果のqRT-PCRによる比較検証
方法:
本発明記載の方法により得られた結果を、他手法で信頼度の高い遺伝子発現定量法である定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)の結果と比較検証した。
標的核酸試料の調整
標的核酸試料は、1.のtotal RNAを用いた。DNAチップ用の逆転写反応にはGE Healthcare/Amersham社のCyscribe 1st-strand cDNA labeling キットを使用し、dCTPと結合したCyanine-3およびCyanine-5を標識蛍光色素としてcDNAに取り込ませた。また、逆転写反応には、dTプライマーのみを使用した。作成されたcDNAは、既存のtotal RNAを分解する目的で0.5M NaOH/50mM EDTA 3.5μLを添加し65℃、15分間で反応後、1M Tris-HCl, pH7.5 5μLを加えて中和した。更に、余分な反応組成や酵素を除去するため、シリカ系精製カラム(“DNA Clean & Concentrator-25”, Zymo Inc.)で精製を行い、cDNAを抽出した。
qRT-PCRには、上記細胞培養より抽出されたtotal RNAをHigh capacity RNA to cDNA kit(Applied Biosystems)により逆転写反応し、cDNAを作成した。
ハイブリダイゼーション反応
ハイブリダイゼーション溶液を以下の方法で準備した。
(比較例3)比較例1−1記載の方法により処理した。
(実施例3)実施例1記載の方法により処理した。
比較例3または実施例3記載の方法で用意した混合液を、1198個のヒトの遺伝子に対応したプローブを登載したカスタムDNAチップである“3D-Gene(商標)” 1000柱基板(東レ株式会社)にアプライした。ハイブリダイゼーション反応は、恒温チャンバー内で250 rpmの旋回振とう(東京理化器械株式会社)しながら42℃、16時間遮光して行った。ハイブリダイゼーション反応後は、表1記載の工程でDNAチップを洗浄した。洗浄後、DNAチップを遠心乾燥した。
DNAチップ画像の取り込みと発現遺伝子データの分析
DNAチップ画像の取り込みと発現遺伝子データの分析は、1.記載の方法と同様に行った。
qRT-PCR
比較例3および実施例3で使用しているカスタムDNAチップ“3D-Gene(商標)” 1000柱基板(東レ株式会社)に登載されているプローブ1198個が対応するヒト遺伝子から、以下26遺伝子(PCSK6、HYAL2、FABP1、ASNS、C20orf19、CPS1、P4HA2、NEK6、COL5A1、GSTO2、UGCGL2、PRSS8、ABCC5、SYT3、FBXO45 、GAPD、APOE、ENO1、SOX9、TTR、PGC、FN1、MAGEA1、RAB31、TUBB6、VCL)を発現量の大小や再現性における観点から幅広く選抜した。内在性コントロールとしては、組織種や細胞種に関わらず安定な発現量が認められているPoLR2A遺伝子を使用した(Canales R.D., et al. Nat Biotechnol. 2006 Sep;24(9):1115-22)。qRT-PCRにはTaqMan法(Applied Biosystems社)を採用し、必要なプライマーおよびプローブはTaqMan Gene Expression Assays Inventroied(Applied Biosystems社)で既存のものを使用した。これら全てのTaqManプライマーおよびプローブについては、五つの異なる希釈溶液を二重複で用いて検量線を作成し、各遺伝子の増幅効率を確認した。qRT-PCRによる遺伝子発現量は、四重複のサンプルの平均を比較Ct(ΔΔCt)法により求めた。
結果:
ハイブリダイゼーション溶液の基本組成のみを使用した比較例3と比較し、三種の非相同性核酸、デキストラン硫酸ナトリウム、デンハルト溶液およびBSAを添加した実施例3においては、ダイナミックレンジが2倍以上上昇した(表4)。つまり、検出能力が二倍以上に向上した。また、相関係数であるPearson’s correlation (R)で見た二枚のDNAチップについての再現性も二割近く上昇していた。
Figure 2010029174
次に、上記比較例3および実施例3記載の結果をqRT-PCRの結果と比較検証した。qRT-PCRの検量線の結果、3個の遺伝子(SYT3、PGCおよびMAGEA1)については増幅効率が平均から著しく離れたため分析から削除し、残り23個の遺伝子について比較例3および実施例3の結果と比較した(図1)。比較例3記載の方法とTaqMan法の比較では、前者の遺伝子発現量差、つまりダイナミックレンジが小さいため、回帰直線の傾きが0.33と低かった(表4)。これに対し、実施例3記載の方法とTaqMan法の比較では、ダイナミックレンジが拡大したため、実施例3における回帰直線の傾きは二倍の0.66と向上した。加えて、DNAチップを用いたハイブリダイゼーション法とqRT-PCRという二手法の相関係数(Spearman’s correlation)も、比較例3の場合は0.85であるが、実施例3の場合は0.94と向上した。また、この相関は遺伝子発現量の大小に依存しない一定な関係であることが確認された。
従って、遺伝子発現量の定量として全く別種法でありながら、本発明のハイブリダイゼーション溶液を使用したDNAチップによる定量方法はqRT-PCRによる定量方法との相関が高いことから、本発明のハイブリダイゼーション溶液は、遺伝子発現量を定量する際に高特異的であり、再現性も高く、より信頼度の高い組成であることが裏付けられた。
4.単色法によるDNAチップ検出結果のqRT-PCRによる比較検証
方法:
単色法によるDNAチップ検出結果を、qRT-PCRの結果と比較検証した。
標的核酸試料の調整
qRT-PCRにおける単色標的核酸試料としてHEPG2細胞のtotal RNAを用いた。逆転写反応においては、Invitrogen社のSuperscript(商標)IIキットとBiotin-16-dUTP(ロッシュダイアグノスティック)を用いて標的核酸にビオチンを取り込ませた。精製は1.記載の方法と同様に行った。
ハイブリダイゼーション反応
ハイブリダイゼーション溶液を以下の方法で準備した。
(比較例4)比較例1記載の方法により処理した。
(実施例4)実施例1記載の方法により処理した。
比較例4または実施例4記載の方法で用意した混合液を、1198個のヒトの遺伝子に対応したプローブを登載したカスタムDNAチップである“3D-Gene(商標)” 1000柱基板(東レ株式会社)にアプライした。ハイブリダイゼーション反応は、恒温チャンバー内で250rpmの旋回振とう(東京理化器械株式会社)しながら42℃、16時間遮光して行った。ハイブリダイゼーション反応後は、表1記載の工程でDNAチップを洗浄した。洗浄後、DNAチップを遠心乾燥した。
後染めによる単色標識反応
標識には、“UltraAmp Streptavidin 20, Oyster 650”(Genisphere Inc, #SA0460)を用い、DNAチップ上の標的核酸に取り込まれたビオチンと30分間反応させた。反応後は表1記載の方法でDNAチップを洗浄し遠心乾燥した。
DNAチップ画像の取り込みと発現遺伝子データの分析
比較例4および実施例4におけるDNAチップ画像の取り込みと発現遺伝子データの分析は、実施例1記載の方法と同様に行った。
qRT-PCR
qRT-PCRによるHEPG2細胞試料の遺伝子発現量検出は、3. 記載の方法と同様にTaqMan法で行った。
結果:
単色法において、ハイブリダイゼーション溶液の基本組成のみを使用した比較例4記載の方法とTaqMan法の比較をすると、回帰直線の傾きが0.81であったが、三種の非相同性核酸(PolyA、酵母total RNAおよびヒトCot-1 DNA)を添加した実施例4とTaqMan法の比較をすると回帰直線の傾きが0.94と向上した。これは、実施例4が比較例4と比較しダイナミックレンジがより大きく、TaqMan法に近いことを示している。さらに、DNAチップを用いたハイブリダイゼーション法とTaqMan法という二手法の相関係数(Person’s correlation)も、比較例4の場合は0.87であるが、実施例3の場合は0.93と向上し、この相関は遺伝子発現量の大小に依存しない一定な関係であることが確認された。特に、VCL、ASNS、PCSK6、TTR、CPS1、ABCC5遺伝子の発現量に関しては、実施例4が比較例4よりも一層TaqMan法に近い結果を生み出した(図2)。
従って、遺伝子発現量の定量として全く別種法でありながら、本発明のハイブリダイゼーション溶液を使用したDNAチップによる定量方法は、単色標識においても二色法と同様にqRT-PCRによる定量方法との相関が高いことから、本発明のハイブリダイゼーション溶液は、遺伝子発現量を定量する際に特異性、再現性、信頼性、且つ汎用性の高い組成であることが裏付けられた。
本発明により、ハイブリダイゼーション反応においてハイブリダイゼーション強度を低下させることなく、非特異的なハイブリッド形成を抑制し、特異的な反応によるシグナルを感度良く検出できること、更にその検出結果が再現性に優れ、非常に高い信頼性が可能となるので、より迅速かつ正確な遺伝子の検出の際のハイブリダイゼーション溶液に適用できる。更に、本発明を応用し臨床検体を用いた診断用DNAチップのハイブリダイゼーション溶液としても適用可能である。
分析可能な23遺伝子について、比較例3(図左)および実施例3(図右)記載の方法によるDNAチップを用いたハイブリダイゼーションの結果と、TaqMan法で得られた結果との比較プロット図である。y軸はDNAチップによるハイブリダイゼーション結果から求められたM値を、x軸はTaqMan法で得られた四重複のCt値の平均から求められたΔΔCtを示す。 VCL、ASNS、PCSK6、TTR、CPS1、ABCC5遺伝子についてqRT-PCRであるTaqMan法(灰色)、実施例4記載の方法(黒色)および比較例4記載の方法(白色)によりの発現量を検出した比較を示す。x軸は遺伝子名を、y軸は検出された各遺伝子の発現量(比較例4および実施例4についてはシグナルのlog2値、TaqMan法については―C値)をメヂアンで標準化した。

Claims (5)

  1. 核酸をハイブリダイゼーション法により特異的に検出するためのハイブリダイゼーション溶液であって、Cot-1DNA、酵母total RNA、polyA核酸、サケ精子DNAおよびニシン精子DNAからなる群から選択される三種類以上の非相同性核酸を含むハイブリダイゼーション溶液。
  2. 前記非相同性核酸として少なくともCot-1DNA、酵母total RNAおよびpolyA核酸を含む、請求項1に記載のハイブリダイゼーション溶液。
  3. さらにデキストラン硫酸ナトリウムを含む、請求項1または2に記載のハイブリダイゼーション溶液。
  4. さらにデンハルト溶液を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のハイブリダイゼーション溶液。
  5. さらにウシ血清アルブミン(BSA)を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のハイブリダイゼーション溶液。
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