JP2010019225A - シリンダブロック - Google Patents

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幸治 笠原
Takahiro Harada
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Abstract

【課題】シリンダライナを鋳包んだシリンダブロックにおいて、エンジン実働時におけるシリンダボアの真円度を高める。
【解決手段】アルミニウム合金製のシリンダブロック本体2に鋳鉄製のシリンダライナ3を鋳包む。このとき、隣接するシリンダライナ3を鋳包むシリンダ壁5の結合部の窪みに肉盛部9を形成して、窪みを小さくする。そして、シリンダライナ3のシリンダボア4を機械加工によって真円に仕上る。肉盛部9を設けたことにより、シリンダライナ3の鋳包み時に、シリンダブロック本体2とシリンダライナ3との熱膨張差によって生じる残留歪が均一化されるので、エンジン実働時に温度上昇によってその残留歪が解放されたとき、シリンダボア4の4次変形が緩和されることになり、その真円度を高めることができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、シリンダブロック本体にシリンダライナが鋳包まれたシリンブロックに関するものである。
自動車等のレシプロエンジンのシリンダブロックには、例えば図6に示すシリンダブロック1のように、アルミニウム合金製のシリンダブロック本体2に鋳鉄製のシリンダライナ3を鋳包んでシリンダボア4を形成するものがある。シリンダブロック1は、各シリンダライナ3を鋳包むシリンダ壁5どうしが互いに連結されて一体化されたサイアミーズ型であり、一体化されたシリンダ壁5の周囲にウォータジャケット6が形成されている。また、各シリンダボア4の周囲には、ウォータジャケット6の外側に4つのシリンダヘッドボルト穴7が等間隔で配置されており、これらのシリンダヘッドボルト穴7にシリンダヘッドボルトを螺着して、シリンダブロック1のデッキ面8にガスケット(図示せず)を介してシリンダヘッド(図示せず)が締結される。
ところで、上述のような構造の従来のシリンダブロック1では、次のような問題がある。シリンダブロック1の製造工程において、図7(A)に示すように、真円のシリンダボア4を有するシリンダライナ3を金型にセットして、アルミニウム合金製のシリンダブロック本体2のシリンダ壁5に鋳包んだとき、鋳鉄製のシリンダライナ3(熱膨張率小)とアルミニウム合金製のシリンダブロック本体2(熱膨張率大)との熱膨張差により、図7(B)に示すように、アルミニウム合金の溶湯が冷却固化する際、シリンダライナ3が強く収縮されて残留歪を生じる。この状態で、図7(C)に示すように、シリンダボア4は、機械加工によって高い精度で真円に仕上げられる。しかしながら、図7(D)に示すように、エンジン実働時には、シリンダブロック本体2及びシリンダライナ3の熱膨張によって残留歪が解放されることにより、シリンダボア4が変形することになる。
V型6気筒エンジンのシリンダブロックの片バンク(3つのシリンダボアを有する)を例にとると、図8に示すように、前後両端に配置されたシリンダライナ3を鋳包んだアルミニウム合金の収縮によって中央のシリンダライナ3が潰されるため、特に中央のシリンダボア4の変形が大きくなり、問題となる。
また、エンジン実働時においては、シリンダヘッドボルトの締付け、高温下における熱応力によって上述の変形が助長されることになり、図6中に二点鎖線で示すように、シリンダボア4は、その周囲に配置された4つのシリンダヘッドボルト穴7の近傍が内側に膨出して、略十字形となる4次変形と呼ばれる変形を生じて、真円度が低下することになる。
このように、シリンダボア4の真円度が低下すると、ピストン(ピストンリング)との密着性が低下して、エンジンの圧縮、燃焼圧力の低下、オイル消費量の増大及びピストンリングの磨耗の原因となる。また、ピストンのシール性を確保するために、ピストンリングの張力を大きくする必要があり、これにより、ピストンの摺動摩擦が増大して、燃料消費率が悪化する。
そこで、従来、例えば特許文献1に記載されたシリンダブロックでは、シリンダライナの外周面に縦リブを設けてシリンダライナの剛性を高めることにより、シリンダヘッドボルトの締付けに対して、シリンダボアの変形を抑制するようにしている。
特開2006−2602号公報
しかしながら、上記特許文献1に記載されたものでは、シリンダライナの構造が複雑であるため、製造コストが高く、また、シリンダライナとシリンダブロック本体との熱膨張差によるシリンダボアの変形については、対策が採られておらず、改善の余地がある。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、シリンダライナを鋳包んだシリンダブロックにおいて、エンジン実働時におけるシリンダボアの真円度を高めるようにしたシリンダブロックを提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために、本発明は、シリンダブロック本体にシリンダライナが鋳包まれ、前記シリンダライナを鋳包む略円筒状のシリンダ壁の周囲にウォータジャケットが形成され、隣接する前記シリンダ壁どうしが互いに結合されたサイアミーズ型のシリンダブロックにおいて、
前記シリンダ壁の結合部に肉盛部を形成して、隣接する前記シリンダ壁の間の窪みを小さくしたことを特徴とする。
(発明の態様)
以下に、本発明において特許請求が可能と認識される発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の(1)乃至(3)の内容が請求項1乃至3に対応する。
(1)シリンダブロック本体にシリンダライナが鋳包まれ、前記シリンダライナを鋳包む略円筒状のシリンダ壁の周囲にウォータジャケットが形成され、隣接する前記シリンダ壁どうしが互いに結合されたサイアミーズ型のシリンダブロックにおいて、
前記シリンダ壁の結合部に肉盛部を形成して、隣接する前記シリンダ壁の間の窪みを小さくしたことを特徴とするシリンダブロック。
このように構成したことにより、鋳包み時に生じる残留歪が肉盛部によって均一化されるので、エンジン実働時に、熱膨張によって残留歪が解放されたとき、シリンダボアの変形が均一化されることにより、エンジン実働時のシリンダボアの真円度を高めることができる。
なお、シリンダブロック本体とシリンダライナとの熱膨張率が同じ場合でも、溶湯から冷却、固化するシリンダブロック本体と、これに鋳包まれるシリンダライナとの間では、冷却条件等が異なり、残留歪が生じるので、このような場合でも本発明を適用することができる。
(2)(1)の構成において、前記肉盛部は、前記ウォータジャケットの底部付近に配置されていることとを特徴とするシリンダブロック。
このように構成したことにより、鋳包み時の残留歪の影響の大きいウォータジャケットの底部付近のシリンダボアの変形を均一化して、エンジン実働時のシリンダボアの真円度を高めることができる。
(3)(1)又は(2)の構成において、前記シリンダブロック本体は、アルミニウム合金製であり、前記シリンダライナは、鋳鉄製であることを特徴とするシリンダブロック。
このように構成したことにより、アルミニウム合金(熱膨張率大)と鋳鉄(熱膨張率小)との熱膨張差によって生じる残留歪によるシリンダボアの変形を均一化して、エンジン実働時のシリンダボアの真円度を高めることができる。
本発明のシリンダブロックによれば、エンジン実働時のシリンダボアの真円度を高めることができる。
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図6に示すものに対して、同様の部分には、同一の符号を付して説明する。
図1乃至図3に示すように、本実施形態に係るシリンダブロック1は、V型6気筒エンジン用のシリンダブロックであって、V字型に配置された各バンクに、それぞれ3つのシリンダボアが直列に配置されているが、片側のバンクのみを図示する。
シリンダブロック1は、アルミニウム合金鋳物であるシリンダブロック本体2の各バンクに、直列に配置された3つの鋳鉄製のシリンダライナ3が鋳包まれている。シリンダブロック1は、隣接するシリンダライナ3を鋳包む円筒状のシリンダ壁5どうしが互いに結合されて一体化されたサイアミーズ型であり、一体化されたシリンダ壁5の周囲にウォータジャケット6が形成されている。また、シリンダブロック1は、オープンデッキ構造であり、ウオータジャケット6は、シリンダヘッド本体3のシリンダヘッド結合面であるデッキ面8上に開口されている。
シリンダブロック本体2のシリンダボア4の周囲には、ウオータジャケット6の外側に複数のシリンダヘッドボルト穴7(ねじ穴)が設けられており、デッキ面8にガスケットを介して結合されるシリンダヘッドの上部から、シリンダヘッドボルトを挿通してシリンダヘッドボルト穴7に螺合して締付けることにより、シリンダヘッドがシリンダブロック1のデッキ面8に締結される。シリンダヘッドボルト穴7は、各シリンダボア4の周囲に略等間隔(90°間隔)で4つずつ配置されるように設けられており、図示の片バンクには合計8個のシリンダボルト穴7が設けられている。
各シリンダ壁5の結合部の両側の窪みには、ウォータジャケット6の底部側に肉盛部9が形成されて、窪みが小さくなっている。肉盛部9は、ウォータジャケット6の底部側の肉盛高さが最も高く、デッキ面8側に向かってなだらかに傾斜されて低くなり、シリンダボア4の軸方向中央部付近まで延ばされている。肉盛部9は、ダイカスト法等によってシリンダブロック1を成型する際、金型によってシリンダ壁5と一体に成型される。
このようにして成型されたシリンダブロック1は、シリンダボア4がボーリング、ホーニング等によって所定の仕上げ精度で真円になるように機械加工され、また、デッキ面8及びシリンダヘッドボルト穴7等の各部が機械加工されて完成する。
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
シリンダブロック1は、アルミニウム合金鋳物であるシリンダブロック本体2(熱膨張率大)に鋳鉄製のシリンダライナ3(熱膨張率小)を鋳包んだものであるため、ダイカスト等による成型時に、アルミニウム合金の溶湯が冷却、固化する際、これらの熱膨張差、冷却条件の相違等により、熱膨張率の小さい鋳鉄製のシリンダライナ3には、圧縮応力が生じ、熱膨張率の大きいアルミニウム合金製のシリンダブロック本体2のシリンダ壁5には引張応力が生じる。その結果、図7(B)に示すように、シリンダライナ3が強く収縮されて残留歪を生じる。
このとき、残留歪の影響が大きいウォータジャケット6の底部付近に肉盛部を形成してシリンダ壁5の結合部の窪みを小さくしたことにより、その部位のアルミニウム合金の収縮によるシリンダボア4の変形量が大きくなり、その結果、シリンダボア4の円周上の各部の変形量及び残留歪が均一化される。
鋳包み時のシリンダボア4の変形量を図5(A)に示す。図5(A)は、シリンダボア4の円周方向の中心角毎の各部の変形量(径方向の収縮量)を示しており、曲線の位置が中心に近いほど変形量が大きく、外周に近いほど変形量が小さいことを表している。肉盛部9を設けていない場合、図5(A)中に破線で示されるように、曲線の左右に節(他の部位に比して変形量の大きい部分)が見られるのに対して、肉盛部9を設けた場合、図5(A)中に実線で示されるように、曲線の左右の上部及び下部の変形量が大きくなり、その結果、左右の節の部分が殆ど無くなり、変形量が均一化されている(図5(A)中のP部参照)。
この状態で、図7(C)に示すように、シリンダボア4を真円になるように所定の仕上げ精度で機械加工する。このとき、残留歪は、均一化された状態となっている。そして、シリンダヘッドボルトによってデッキ面8にシリンダヘッドを締結して、組立てられたエンジンを運転すると、シリンダブロック1では、高温下の熱膨張によって、鋳包み時に生じた残留歪が解放されて、シリンダボア4が変形するが、残留歪が均一化されているので、変形後のシリンダボア4は、前述の4次変形が緩和されて真円度が高められることになる。
エンジン実働時のシリンダボア4の変形量を図5(B)に示す。図5(B)は、図5(A)と同様、シリンダボア4の円周方向の中心角毎の各部の変形量(径方向の収縮量)を示しており、曲線の位置が中心に近いほど変形量が大きく、外周に近いほど変形量が小さいことを表している。肉盛部9を設けていない場合、図5(B)中に破線で示されるように、曲線の左右に節が見られるのに対して、肉盛部9を設けた場合、図5(B)中に実線で示されるように、節部が改善されて変形量が均一化されて、エンジン実働時のシリンダボア4の真円度が高められている(図5(B)中のQ部参照)。
このようにして、エンジン実働時におけるシリンダボア4の真円度を高めることにより、シリンダボア4とピストンとの密着性を高めて、エンジンの圧縮、燃焼圧力の低下、オイル消費量の増大及びピストンリングの磨耗を防止することができる。また、ピストンのシール性が高まるので、ピストンリングの張力を小さくすることができ、これにより、ピストンの摺動摩擦を低減して、燃料消費率を向上させることができる。
なお、肉盛部9は、上記実施形態では、鋳包み時の残留歪の影響の大きいウォータジャケット6の底部付近に形成しているが、実際のシリンダボア4の変形に応じて、適当な部位に設ければよい。このとき、図4に示すように、肉盛部9によってシリンダ壁5の結合部の窪みを完全に無くすことも可能である(図4は、シリンダ壁5の形状のみを示している)。しかしながら、このようにした場合、シリンダボア4の変形に対しては有利であると考えられるが、シリンダボア4の冷却性等の制約が生じるため、上記実施形態のようにシリンダ壁5の結合部の窪みを残すことが望ましい。
上記実施形態では、アルミニウム合金製のシリンダブロック本体に鋳鉄製のシリンダライナが鋳包まれたシリンダブロックについて説明しているが、本発明は、これらの材質に限らず、シリンダブロック本体にシリンダライナを鋳包むことにより、熱膨張率差、冷却条件の相違等によって残留応力が生じるものであれば、他の材質のもの、あるいは、シリンダブロック本体とシリンダライナとが同材質のものにも適用することができる。
また、本発明は、シリンダライナを鋳包んでシリンダボアを形成し、隣接するシリンダ壁が互いに結合されて一体化されたサイアミーズ型のシリンダブロックであれば、V型エンジンのほか、直列エンジン等の他の形式の多気筒エンジンにも適用することができる。
本発明の一実施形態に係るシリンダライナを鋳包んだV型エンジンのシリンダブロックの片バンクの一部を破断して示す斜視図である。 図1に示すシリンダブロックの片バンクの平面図である。 図1に示すシリンダブロックの片バンクを図2のA−A線によって破断して示す斜視図である。 図1に示すシリンダブロックの片バンクにおいて、肉盛部によって結合部の窪みを無くしたシリンダ壁を示す斜視図である。 本発明の一実施形態に係るシリンダブロックのシリンダライナ鋳包み時及びエンジン実働時のシリンダボアの変形量を示すグラフ図である。 従来のシリンダライナを鋳包んだシリンダブロックの平面図である。 シリンダライナを鋳包んだシリンダブロックの製造工程及びエンジン実働時におけるシリンダボアの変形状態を示す説明図である。 V型6気筒エンジンのシリンダブロックの片バンクにおける、シリンダライナ鋳包み時の各シリンダボアの変形状態を示す説明図である。
符号の説明
1 シリンダブロック、2 シリンダブロック本体、3 シリンダライナ、5 シリンダ壁、6 ウォータジャケット、9 肉盛部

Claims (3)

  1. シリンダブロック本体にシリンダライナが鋳包まれ、前記シリンダライナを鋳包む略円筒状のシリンダ壁の周囲にウォータジャケットが形成され、隣接する前記シリンダ壁どうしが互いに結合されたサイアミーズ型のシリンダブロックにおいて、
    前記シリンダ壁の結合部に肉盛部を形成して、隣接する前記シリンダ壁の間の窪みを小さくしたことを特徴とするシリンダブロック。
  2. 前記肉盛部は、前記ウォータジャケットの底部付近に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロック。
  3. 前記シリンダブロック本体は、アルミニウム合金製であり、前記シリンダライナは、鋳鉄製であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリンダブロック。
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