特許文献1の装置に設けられたオイルポンプでは、各ラジアルピストン型ポンプの吐出状態をそれぞれ制御することによりポンプ容量を変更することができるが、ラジアルピストン型ポンプを複数設ける必要があるため、装置が大型化するおそれがある。
そこで、本発明は、ポンプ容量を変更可能であり、かつ装置の小型化を実現することが可能なピストンポンプ、及びそれを備えた動力伝達装置、並びにピストンモータを提供することを目的とする。
本発明のピストンポンプは、カム面を有し、かつ軸線回りに回転自在に設けられる第1回転部材と、前記カム面と対向する対向面に開口するとともに周方向に並ぶ複数のシリンダを有し、前記第1回転部材に対して相対回転可能に設けられる第2回転部材と、を備え、前記第1回転部材と前記第2回転部材とを相対回転させて前記第2回転部材の各シリンダにそれぞれ挿入されたピストンが前記カム面にて往復駆動されることにより各シリンダへの流体の吸入及び各シリンダからの流体の吐出が行われるピストンポンプにおいて、前記第2回転部材に前記複数のシリンダとして互いに直径の大きさが異なる複数種類のシリンダが設けられるとともに、前記複数のシリンダは同じ種類のシリンダにて構成される複数のシリンダ群に分けられ、前記シリンダに吸入される流体の流量及び前記シリンダから吐出される流体の流量の少なくともいずれか一方をシリンダ群毎に別々に変更可能な流量変更手段を備えていることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
本発明のピストンポンプによれば、流量変更手段によってシリンダに吸入される流体の流量及びシリンダから吐出される流体の流量の少なくともいずれか一方をシリンダ群毎に変更することにより、ポンプ容量を変更することができる。例えば、流量変更手段によって複数種類のシリンダのうち直径が最も小さいシリンダで構成されたシリンダ群のシリンダのみに流体が吸入されるように各シリンダに吸入される流体の流量を変更する、すなわちこのシリンダ群以外のシリンダ群のシリンダに吸入される流体の流量を0にすることにより、ポンプ容量を最小値に設定できる。一方、全てのシリンダに流体を吸入させることにより、ポンプ容量を最大値に設定できる。そして、シリンダに吸入される流体の流量を0にするシリンダ群を適宜選択することにより、ポンプ容量をこれら最大値と最小値の間で変化させることができる。また、複数のシリンダ群に分けられる複数種類のシリンダは第2回転部材に周方向に、すなわち同一周上に設けられているので、ポンプ容量を変更可能にしつつピストンポンプの小型化を実現することができる。本発明のピストンポンプでは、同じカム面でピストンが往復駆動される複数のシリンダの直径を相異させたので、直径が小さいほどそのシリンダの容積が小さくなる。周知のように容積を小さくするほどシリンダの吸入抵抗を低下させて速やかにシリンダ内に流体を充填することができる。そのため、直径の大きさが異なる複数種類のシリンダを複数のシリンダとして設けることにより、複数のシリンダのうち直径が最も大きいシリンダと比較してそれ以外のシリンダの吸入抵抗を低下させることができる。そのため、全てのシリンダに流体を吸入させたときのポンプ容量をある程度確保しつつ、ポンプの高回転化を実現することができる。
本発明のピストンポンプの一形態において、前記複数のシリンダ群は、それぞれ偶数個のシリンダにて構成され、前記複数のシリンダは、各シリンダ群の半分のシリンダがシリンダ内に流体が吸入される吸入行程のときに残りの半分のシリンダがシリンダから流体が吐出される吐出行程になるように前記複数のシリンダ群に分けられていてもよい(請求項2)。このように各シリンダ群のシリンダを構成することにより、各シリンダ群から吐出される流体の変動を抑制することができる。
この形態において、前記ピストンポンプは、前記複数のシリンダが前記第2回転部材の半径方向に延びるように設けられたラジアルピストンポンプであり、前記複数のシリンダ群には、前記吐出行程の時期が重なる一対のシリンダがそれぞれ含まれ、前記第2回転部材には、前記第2回転部材を前記軸線の方向から見たときに前記一対のシリンダの一方のシリンダが前記軸線に対する一方の側に配置され、他方のシリンダが前記軸線に対する他方の側に配置されていてもよい(請求項3)。シリンダから流体が吐出される際はピストンが第2回転部材の半径方向に押されるので、第2回転部材にはその半径方向からの荷重がかかる。この形態では、吐出行程の時期が重なる一対のシリンダの一方のシリンダを一方の側に他方のシリンダを他方の側に配置したので、一方のシリンダから第2回転部材に作用する荷重を他方のシリンダから第2回転部材に作用する荷重で弱めることができる。そのため、第2回転部材に掛かる荷重を小さくすることができる。
本発明のピストンポンプの一形態において、前記第1回転部材には、少なくとも一部が前記軸線方向に延びるように形成されるとともに前記軸線を中心とした同一周上に並ぶように配置され、かつ前記シリンダに吸入されるべき流体を導く複数の供給通路で構成される供給通路群がシリンダ群毎に設けられ、これら複数の供給通路群のうち、前記複数種類のシリンダのうちの直径が最も大きいシリンダで構成されたシリンダ群に対応して設けられている供給通路群が、前記第1回転部材の最も外周側に配置されていてもよい(請求項4)。同数の供給通路を同一周上に設ける場合、中心よりも外周に近い円周上に設ける方が供給通路間のピッチを大きく設定できる。そのため、外周側に設けられている供給通路群ほど、各供給通路の直径を大きく設定することができる。この形態では、直径が最も大きいシリンダで構成されたシリンダ群の供給通路群が最も外周側に配置されているので、この供給通路群の供給通路の直径を他の供給通路群の供給通路よりも大きく設定することができる。これにより、この供給通路群の各供給通路の吸入抵抗を低下させることができるので、直径が最も大きいシリンダに速やかに流体を吸入させることができる。そのため、ピストンポンプを高回転化させることができる。
また、前記第1回転部材には、少なくとも一部が前記軸線方向に延びるように形成されるとともに前記軸線を中心とした同一周上に並ぶように配置され、かつ前記シリンダに吸入されるべき流体を導く複数の供給通路で構成される供給通路群がシリンダ群毎に設けられ、これら複数の供給通路群のうち、前記複数種類のシリンダのうちの直径が最も小さいシリンダで構成されたシリンダ群に対応して設けられている供給通路群が、前記第1回転部材の最も外周側に配置されていてもよい(請求項5)。この場合、直径が最も小さいシリンダで構成されたシリンダ群に対応して設けられた供給通路群の供給通路の直径を他の供給通路群の供給通路よりも大きく設定できる。そのため、この形態では、直径が最も小さいシリンダで構成されたシリンダ群のみを使用する場合、すなわちポンプ容量を最も小さくした場合におけるピストンポンプの回転数を高回転化できる。
本発明のピストンポンプの一形態においては、前記第1回転部材の一端が回転自在に嵌め込まれる支持部を有するハウジングをさらに備え、前記支持部から前記第1回転部材内を経由して前記シリンダに流体を導く流体供給経路と、前記シリンダから前記第1回転部材内を経由して前記支持部に流体を導く流体排出経路とがシリンダ群毎に設けられ、前記流体供給経路は、前記第1回転部材の外周面に周方向に延びるように設けられ、前記支持部から流体を受け取る供給溝と、前記供給溝と対向するように前記支持部の内周面に開口し、前記シリンダに吸入されるべき流体が流出する流体供給口と、を備え、前記流体排出経路は、前記第1回転部材の外周面に周方向に延びるように設けられ、前記支持部に排出すべき流体が導かれる排出溝と、前記排出溝と対向するように前記支持部の内周面に開口し、前記排出溝から流体を受け取る流体排出口と、を備え、前記第1回転部材の外周面には、前記複数のシリンダ群のうちの一のシリンダ群に対応して設けられた前記流体排出経路の前記排出溝が一端に配置されるとともに、前記複数のシリンダ群のうちの他のシリンダ群に対応して設けられた前記流体排出経路の前記排出溝が他端に配置され、前記供給溝と前記排出溝とが前記軸線方向に並ぶように設けられていてもよい(請求項6)。流体供給経路はシリンダに吸入される流体が流れるため、シリンダが流体を吸入する際に内部の圧力が大気圧より低くなる場合がある。一方、流体排出経路はシリンダから吐出された流体が流れるため、その内部の圧力は大気圧より高くなる。第1回転部材は支持部に回転自在に支持されているので、第1回転部材と支持部との間には隙間が形成される。そのため、流体供給経路の内部の圧力が大気圧より低くなるとこの隙間から空気が流体供給経路内に吸入されるおそれがある。この形態では、第1回転部材の外周面に複数の供給溝と複数の排出溝とが並べて設けられ、かつその並びの両端には排出溝が配置される、すなわち流体供給経路が流体排出経路に挟まれるように配置されるので、流体供給経路の内部の圧力が大気圧より低くなっても内部の圧力が大気圧より高い流体排出通路によって空気の進入を防止することができる。そのため、流体供給通路の流体に空気が混入することを防止できる。
本発明の動力伝達装置は、上述したピストンポンプを備え、前記第1回転部材及び前記第2回転部材のうちの一方が動力源から動力が伝達される入力部材と一体回転するように連結され、他方が動力を出力する出力部材と一体回転するように連結されていることにより、上述した課題を解決する(請求項7)。
本発明の動力伝達装置によれば、上述したピストンポンプを備えているので、同様の理由により、ポンプ容量を変更可能であり、かつ装置の小型化を実現できる。また、流量変更手段によって各シリンダ群に吸入される流体の流量又は各シリンダ群から吐出された流体の流量を変更することにより、第1回転部材と第2回転部材すなわち入力部材と出力部材との回転数の差を変更することができる。
本発明の動力伝達装置の一形態においては、前記入力部材と前記出力部材との回転数の差の大きさに応じて前記流量変更手段を制御する制御手段をさらに備えていてもよい(請求項8)。直径が大きいシリンダほどそのシリンダ内に流体が充填されるまでにかかる時間が長くなるため、第1回転部材と第2回転部材との回転数の差が大きいと直径が大きいシリンダではその内部に流体が十分に充填されずピストンがカム面から離れるおそれがある。この場合、ピストンがカム面に沿って往復駆動しないので、ピストンポンプの動作が不安定になったり、入力部材から出力部材に適切に動力が伝達されないおそれがある。そこで、例えば、入力部材と出力部材との回転数の差が大きい場合は複数種類のシリンダのうち最も直径が小さいシリンダで構成されたシリンダ群のシリンダのみに流体が吸入されるように流量変更手段を制御する。このように流量変更手段を制御することにより、ピストンポンプを正常に動作させ、入力部材から出力部材に適切に動力を伝達することができる。
この形態においては、前記動力伝達装置が車両に搭載されるとともに前記動力源が内燃機関であり、前記制御手段は、前記車両の発進時に前記ピストンポンプのポンプ容量が徐々に増加するように前記流量変更手段を制御してもよい(請求項9)。車両の停止時は出力部材の回転数が0になるため、車両の発進時の初期においては第1回転部材と第2回転部材との回転数の差が最も大きい。そこで、このような初期においてはピストンポンプのポンプ容量を小さくすることにより、ピストンポンプを正常に動作させ、入力部材から出力部材に適切に動力を伝達することができる。そして、第1回転部材と第2回転部材との回転数の差が徐々に小さくなるに従ってポンプ容量を徐々に増加させ、ピストンが往復駆動されるシリンダ群を増加させることにより、第1回転部材と第2回転部材との間で伝達される動力を増加させることができる。そのため、本発明の動力伝達装置を車両の発進装置として機能させることができる。
本発明のピストンモータは、カム面を有し、かつ軸線回りに回転自在に設けられる第1回転部材と、前記カム面と対向する対向面に開口するとともに周方向に並ぶ複数のシリンダを有し、前記第1回転部材に対して相対回転可能に設けられる第2回転部材と、を備え、前記第1回転部材及び前記第2回転部材のうちの一方を固定し、前記第2回転部材の各シリンダに挿入されたピストンをそれらのシリンダに流体を供給して往復運動させ、そのピストン往復運動を前記カム面にて回転運動に変換して前記第1回転部材及び前記第2回転部材のうちの他方を回転させるピストンモータにおいて、前記第2回転部材に前記複数のシリンダとして互いに直径の大きさが異なる複数種類のシリンダが設けられるとともに、前記複数のシリンダは同じ種類のシリンダにて構成される複数のシリンダ群に分けられ、前記シリンダに供給される流体の流量及び前記シリンダから吐出される流体の流量の少なくともいずれか一方をシリンダ群毎に別々に変更可能な流量変更手段を備えていることにより、上述した課題を解決する(請求項10)。
本発明のピストンモータによれば、上述した本発明のピストンポンプと同様の理由により、ポンプ容量を変更可能であるとともに装置の小型化を実現できる。
本発明のピストンモータの一形態において、前記複数のシリンダ群は、それぞれ偶数個のシリンダにて構成され、前記複数のシリンダは、各シリンダ群の半分のシリンダがシリンダ内に流体が供給される供給行程のときに残りの半分のシリンダがシリンダから流体が吐出される吐出行程になるように前記複数のシリンダ群に分けられていてもよい(請求項11)。この場合、各シリンダ群から吐出される流体の変動を抑制することができる。
この形態において、前記ピストンモータは、前記複数のシリンダが前記第2回転部材の半径方向に延びるように設けられたラジアルピストンモータであり、前記複数のシリンダ群には、前記吐出行程の時期が重なる一対のシリンダがそれぞれ含まれ、前記第2回転部材には、前記第2回転部材を前記軸線の方向から見たときに、前記一対のシリンダの一方のシリンダが前記軸線に対する一方の側に配置され、他方のシリンダが前記軸線に対する他方の側に配置されていてもよい(請求項12)。この場合、一方のシリンダから第2回転部材に作用する荷重を他方のシリンダから第2回転部材に作用する荷重で弱めることができるので、第2回転部材にかかる荷重を小さくすることができる。
本発明のピストンモータの一形態において、前記第1回転部材には、少なくとも一部が前記軸線方向に延びるように形成されるとともに前記軸線を中心とした同一周上に並ぶように配置され、かつ前記シリンダに供給されるべき流体を導く複数の供給通路で構成される供給通路群がシリンダ群毎に設けられ、これら複数の供給通路群のうち、前記複数種類のシリンダのうちの直径が最も大きいシリンダで構成されたシリンダ群に対応して設けられている供給通路群が、前記第1回転部材の最も外周側に配置されていてもよい(請求項13)。この場合、直径が最も大きいシリンダで構成されるシリンダ群の供給通路の直径を他のシリンダ群の供給通路より大きく設定できる。そのため、直径が最も大きいシリンダに速やかに流体を吸入させ、ピストンモータを高回転化させることができる。
また、前記第1回転部材には、少なくとも一部が前記軸線方向に延びるように形成されるとともに前記軸線を中心とした同一周上に並ぶように配置され、かつ前記シリンダに供給されるべき流体を導く複数の供給通路で構成される供給通路群がシリンダ群毎に設けられ、これら複数の供給通路群のうち、前記複数種類のシリンダのうちの直径が最も小さいシリンダで構成されたシリンダ群に対応して設けられている供給通路群が、前記第1回転部材の最も外周側に配置されていてもよい(請求項14)。この形態では、ポンプ容量を最も小さくした場合におけるピストンモータの回転数を高回転化できる
本発明のピストンモータの一形態においては、前記第1回転部材の一端が回転自在に嵌め込まれる支持部を有するハウジングをさらに備え、前記支持部から前記第1回転部材内を経由して前記シリンダに流体を導く流体供給経路と、前記シリンダから前記第1回転部材内を経由して前記支持部に流体を導く流体排出経路とがシリンダ群毎に設けられ、前記流体供給経路は、前記第1回転部材の外周面に周方向に延びるように設けられ、前記支持部から流体を受け取る供給溝と、前記供給溝と対向するように前記支持部の内周面に開口し、前記シリンダに吸入されるべき流体が流出する流体供給口と、を備え、前記流体排出経路は、前記第1回転部材の外周面に周方向に延びるように設けられ、前記支持部に排出すべき流体が導かれる排出溝と、前記排出溝と対向するように前記支持部の内周面に開口し、前記排出溝から流体を受け取る流体排出口と、を備え、前記第1回転部材の外周面には、前記複数のシリンダ群のうちの一のシリンダ群に対応して設けられた前記流体供給経路の前記供給溝が一端に配置されるとともに、前記複数のシリンダ群のうちの他のシリンダ群に対応して設けられた前記流体供給経路の前記供給溝が他端に配置され、前記供給溝と前記排出溝とが前記軸線方向に並ぶように設けられていてもよい(請求項15)。ピストンモータの場合は、流体供給経路の圧力の方が流体排出経路の圧力よりも高くなる。そのため、このように一端と他端に流体供給経路の供給溝を配置することにより、流体供給経路によって流体排出経路への空気の進入を防止できる。
以上に説明したように、本発明によれば、複数のシリンダ群に分けられる複数種類のシリンダを第2回転部材に周方向に設け、シリンダに吸入される流体の流量及びシリンダから吐出される流体の流量の少なくともいずれか一方をシリンダ群毎に別々に変更できるので、ポンプ容量を変更可能にしつつ装置の小型化を実現することができる。
(第1の形態)
図1は、本発明の第1の形態に係る動力伝達装置が設けられた車両の動力伝達経路や各要素などを簡略化して示したスケルトン図である。車両1はその走行用動力源として内燃機関2が設けられている。内燃機関2の出力トルクはケーシング3内に収められた動力伝達装置4に入力され、変速などの各種操作が行われてから駆動輪12に伝達される。動力伝達装置4は、ダンパ機構5を介して入力部材としての入力軸6に伝達されたトルクがピストンポンプ(以下、ポンプと略称することがある。)7、前後進切替装置8、無段変速部9、伝動装置10、及び最終減速機11を経由して駆動輪12に伝達されるように構成されている。また、車両1には、車両1の全体を制御するために設けられたコンピュータである制御手段としてのエンジンコントロールユニット(ECU)100と、ECU100からの出力信号に基づいて動力伝達装置4の各部の油圧を制御する油圧制御装置110とが設けられている。ECU100は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成され、例えば車両1の走行状態に応じて内燃機関2の運転状態を制御する周知のコンピュータユニットである。
ポンプ7は、油圧源としてのオイルポンプ機能、内燃機関2側から無段変速部9側への回転の伝達を調整する機能、及び内燃機関2の始動装置を兼備している。ポンプ7は入力軸6と一体回転可能に設けられる第1回転部材としてのアウターレース13のカム面14によって第2回転部材としてのインナーレース15のシリンダ16に挿入されたピストン17をインナーレース15の半径方向に関して往復運動させることができるラジアルピストンポンプとして構成されている。インナーレース15側の回転は入力軸6の外側に同軸に設けられた中空状のコネクティングドラム18に伝達される。そのため、コネクティングドラム18が本発明の出力部材に相当する。
前後進切替装置8は、コネクティングドラム18と無段変速部9のプライマリ軸19との間に介在し、プライマリ軸19の回転方向を正転方向と逆転方向とに切り替える。前後進切替装置8は遊星歯車機構20を備えており、その遊星歯車機構20はコネクティングドラム18と一体回転するサンギア20aと、サンギア20aと噛み合いつつサンギア20aの周囲を公転する複数の第1ピニオンギア20bと、第1ピニオンギア20bと噛み合いつつサンギア20aの周囲を公転する複数の第2ピニオンギア20cと、第2ピニオンギア20cと噛み合うリングギア20dと、第1ピニオンギア20b及び第2ピニオンギア20cをサンギア20aの周りに公転可能かつ自転可能な状態で保持するとともにプライマリ軸19と一体回転するキャリア20eとを備えている。また、前後進切替装置8は、コネクティングドラム18とキャリア20eとの結合及びその結合の解除を行うクラッチ21と、コネクティングドラム18の回転の阻止及びその阻止の解除を行う第1制動装置22と、リングギア20dの回転の阻止及びその阻止の解除を行う第2制動装置23とを備えている。前後進切替装置8は、コネクティングドラム18の回転が許容されるように第1制動装置22を解除状態に切り替えるとともにリングギア20dの回転が許容されるように第2制動装置23を解除状態に切り替え、かつコネクティングドラム18とキャリア20eとをクラッチ21で結合することによりプライマリ軸19の回転方向を正転方向に切り替える。また、前後進切替装置8は、コネクティングドラム18の回転が許容されるように第1制動装置22を解除状態に切り替え、リングギア20dの回転が阻止されるように第2制動装置23を制動状態に切り替え、かつコネクティングドラム18とキャリア20eとをクラッチ21にて切り離すことによりプライマリ軸19の回転方向を逆転方向に切り替える。さらに前後進切替装置8は、内燃機関2の始動時にコネクティングドラム18の回転が阻止されるように第1制動装置22を制動状態に切り替え、リングギア20dの回転が許容されるように第2制動装置23を解除状態に切り替え、かつコネクティングドラム18とキャリア20eとをクラッチ21にて切り離す。前後進切替装置8がこの状態のときにポンプ7にオイルを供給することにより、供給したオイルでアウターレース13を回転させることができるので、内燃機関2を始動することができる。
無段変速部9はベルトを利用した周知の無段変速機構により構成されている。無段変速部9は、プライマリ軸19と一体回転するプライマリプーリ24及び伝動装置10に接続されるセカンダリ軸25と一体回転するセカンダリプーリ26及びベルト27により構成される。そして、ポンプ7の発生する油圧を用いて各プーリ24、26の溝幅を変化させることにより、各プーリ24、26に巻き掛けられるベルト27の巻き掛け径を変化させてプライマリ軸19とセカンダリ軸25との回転速度比を無段階に変更することができる。無段変速部9から出力された回転は、伝動装置10にて減速されてから最終減速機11でさらに減速されて駆動輪12に連結された駆動軸28に出力される。
次に図2〜図5を参照してポンプ7の詳細について説明する。図2は、図3のII−II線におけるポンプ7の断面図である。図3は図2のIII−III線におけるポンプ7の断面図であり、図4は図3に示したポンプ7の断面の中央部分を拡大して示した図である。図5は図2のIV−IV線におけるポンプ7の断面図である。ポンプ7は、車両1の車体に固定されるポンプハウジング30と、アウターレース13と、インナーレース15とを備えている。図2及び図3に示したようにインナーレース15には、第1の直径L1で形成される第1シリンダ16Aと、第1の直径L1より大きい第2の直径L2で形成される第2シリンダ16Bとがシリンダ16として形成されている。第1シリンダ16A及び第2シリンダ16Bは、カム面14と対向するインナーレース15の対向面15aに開口している。図3に示したように第1シリンダ16Aと第2シリンダ16Bとは、それぞれ4個ずつ設けられている。図2に示したようにこれらのシリンダ16A、16Bは、同一の周上に設けられている。以降、4個の第1シリンダ16Aを第1シリンダ群と称し、4個の第2シリンダ16Bを第2シリンダ群と称することがある。なお、第1シリンダ16Aと第2シリンダ16Bとを区別する必要がない場合は単にシリンダ16と称することがある。なお、第1シリンダ16Aと第2シリンダ16Bとは同じ深さに形成される。
アウターレース13とインナーレース15とは互いに相対回転可能に組み合わされ、これらはポンプハウジング30にベアリング31、32を介して軸線Ax回りに回転自在に支持されている。図1及び図2に示したように油圧制御装置110とポンプ7とは、第1オイル供給通路33、第2オイル供給通路34、第1オイル排出通路35、及び第2オイル排出通路36にて接続されている。図2に示したように、これらの通路33〜36は、ポンプハウジング30のうちアウターレース13が回転自在に嵌め込まれる支持部としての凹部30aの内面に開口している。第1オイル供給通路33及び第2オイル供給通路34は油圧制御装置110からポンプ7にオイルを送るための通路であり、第1オイル排出通路35及び第2オイル排出通路36はポンプ7から吐出されたオイルを油圧制御装置110に送るための通路である。そのため、凹部30aに開口している第1オイル供給通路33及び第2オイル供給通路34の開口部が本発明の流体供給口に相当し、凹部30aに開口している第1オイル排出通路35及び第2オイル排出通路36の開口部が本発明の流体排出口に相当する。図2に示したようにこれらの通路33〜36は、第1オイル供給通路33及び第2オイル供給通路34が、第1オイル排出通路35と第2オイル排出通路36との間に挟まれるように配置されている。言い換えると、第1オイル排出通路35がこれら通路の並びの一方の端に配置され、第2オイル排出通路36がこれら通路の並びの他方の端に配置されている。
上述したようにインナーレース15には、第1シリンダ16A及び第2シリンダ16Bがそれぞれ4個ずつ設けられている。すなわち、インナーレース15には8個のシリンダ16が設けられている。これら8個のシリンダ16は半径方向に延びるように形成され、インナーレース15の外周面に開口している。また、これら8個のシリンダ16は、周方向に等間隔、すなわち45°毎に設けられている。各第1シリンダ16Aには第1ピストン17Aがそれぞれ往復動自在に挿入され、各第2シリンダ16Bには第2ピストン17Bがそれぞれ往復動自在に挿入されている。第1ピストン17Aの直径は第1シリンダ16Aの直径L1とほぼ同じであり、第2ピストン17Bの直径は第2シリンダ17Bの直径L2とほぼ同じである。なお、第1ピストン17Aと第2ピストン17Bとを区別する必要がない場合は単にピストン17と称することがある。第1ピストン17Aは、その頂部に転動体としてのボール37Aを備えている。同様に第2ピストン17Bも、その頂部に転動体としてのボール37Bを備えている。第1シリンダ16Aには、第1ピストン17Aのボール37Aがカム面14に沿って転動するように第1ピストン17Aを半径方向外側に付勢する第1スプリング38Aが設けられている。第2シリンダ16Bにも同様に、第2ピストン17Bのボール37Bがカム面14に沿って転動するように第2ピストン17Bを半径方向外側に付勢する第2スプリング38Bが設けられている。以降、ボール37Aとボール37Bとを区別する必要がない場合は単にボール37と称することがある。同様に第1スプリング38Aと第2スプリング38Bとを区別する必要がない場合は単にスプリング38と称することがある。
図2に示したように各第1シリンダ16Aは、その底部から半径方向内側に延びてインナーレース15の内周面に開口する連通路39をそれぞれ備えている。一方、各第2シリンダ16Bは、その底部から軸線Axに沿って延びる連通路40をそれぞれ備えている。各連通路40は、アウターレース13の摺動面13aと対向するインナーレース15の接触面15bに開口している。
アウターレース13は、アウターレース本体41にカム面14を有するカム部42が複数のボルト43で一体回転するように組み付けられることにより形成されており、ポンプハウジング30の凹部30aに挿入される切替バルブ部13bと、インナーレース15が回転自在に取り付けられる軸部13cとを備えている。また、図2に示したようにアウターレース13には、軸線Ax方向に延び、切替バルブ部13bの外周面及び軸部13cの外周面にそれぞれ開口する第1供給通路44、第2供給通路45、第1排出通路46、及び第2排出通路47が設けられている。
第1供給通路44は、第1シリンダ16Aとポンプハウジング30の第1オイル供給通路33とを接続するための通路であり、軸線Axに沿って設けられる主通路44aと、切替バルブ部13bに設けられて主通路44aと第1オイル供給通路33とが接続されるように主通路44aからアウターレース13の半径方向に延びる入口部44bと、軸部13cに設けられて主通路44aと第1シリンダ16Aとが接続されるように主通路44aからアウターレース13の半径方向に延びる出口部44cとを備えている。図3及び図4に示したように第1供給通路44は、6本設けられている。そして、これら6本の第1供給通路44により、第1シリンダ群に対応して設けられた供給通路群が構成されている。切替バルブ部13bの外周面には、この外周面においてこれら6本の第1供給通路44が互いに連通するように供給溝44dが設けられている。この供給溝44dは、切替バルブ部13bの外周面に周方向に全周に亘って形成されている。
第1排出通路46は、第1シリンダ16Aとポンプハウジング30の第1オイル排出通路35とを接続するための通路であり、軸線Ax上に設けられる主通路46aと、軸部13cに設けられて主通路46aと第1シリンダ16Aとが接続されるように主通路46aからアウターレース13の半径方向に延びる入口部46bと、切替バルブ部13bに設けられて主通路46aと第1オイル排出通路35とが接続されるように主通路46aからアウターレース13の半径方向に延びる出口部46cとを備えている。図3及び図4に示したように第1排出通路46の主通路46aは1本であり、入口部46b及び出口部46cはその一本の主通路45aから放射状に延びるようにそれぞれ6個ずつ設けられている。切替バルブ13bの外周面には、この外周面においてこれら6個の出口部46cが互いに連通するように排出溝46dが設けられている。この排出溝46dは、切替バルブ部13bの外周面に周方向に全周に亘って形成されている。なお、第1排出通路46の主通路46aは、例えば切替バルブ部13bの中心に図2の右側から穴を開け、その穴の開口している端部、すなわち図2の右側の端部を栓部材46eで塞ぐことにより形成すればよい。
図3及び図5に示したように6本の第1供給通路44は、それらの主通路44aが第1排出通路46の主通路46aの周囲に周方向に等間隔で並ぶように、すなわち60°毎に配置されるように設けられている。そして、図4に示したように第1供給通路44の出口部44cと第1排出通路46の入口部46bとは、アウターレース13とインナーレース15とが組み合わされた場合に第1シリンダ16Aの連通路39が配置される軸部13cの同一断面上において周方向に等間隔で交互に並ぶように設けられている。そのため、軸部13cの外周面には、第1供給通路40の出口部40cと第1排出通路42の入口部42bとが同一周上に等間隔で交互に開口している。従って、アウターレース13とインナーレース15とが相対回転した場合、第1シリンダ16Aの連通路39には第1供給通路44の出口部44cと第1排出通路46の入口部46bとが交互に接続される。図4に示したように第1供給通路44の出口部44cと第1排出通路46の入口部46bとはそれぞれ6個ずつ設けられているため、第1シリンダ16Aの連通路39はアウターレース13とインナーレース15とが30°回転する毎に第1供給通路44の出口部44c及び第1排出通路46の入口部46bと交互に接続される。一方、図2に示したように第1供給通路44の入口部44bと第1排出通路46の出口部46cとは、第1供給通路44が第1オイル供給通路33と接続され、第1排出通路46が第1オイル排出通路35と接続されるように軸線Ax方向にずらして設けられている。
第2供給通路45は、第2シリンダ16Bとポンプハウジング30の第2オイル供給通路34とを接続するための通路であり、軸線Axに沿って設けられ、第2シリンダ16Bの底部に設けられた連通路40と対向するようにアウターレース13の摺動面13aに開口する主通路45aと、切替バルブ部13bに設けられて主通路45aと第2オイル供給通路34とが接続されるように主通路45aからアウターレース13の半径方向に延びる入口部45bとを備えている。図5に示したように第2供給通路45は6本設けられている。そして、これら6本の第2供給通路45により、第2シリンダ群に対応して設けられた供給通路群が構成されている。切替バルブ部13bの外周面には、この外周面においてこれら6本の第2供給通路45が互いに連通するように供給溝45cが設けられている。供給溝45cは、切替バルブ部13bの外周面に周方向に全周に亘って形成されている。
第2排出通路47は、第2シリンダ16Bとポンプハウジング30の第2オイル排出通路36とを接続するための通路であり、軸線Axに沿って設けられ、第2シリンダ16Bの連通路40と対向するように摺動面13aに開口する主通路47aと、切替バルブ部13bに設けられて主通路47aと第2オイル排出通路36とが接続されるように主通路47aからアウターレース13の半径方向に延びる出口部47bとを備えている。図5に示したように第2排出通路47は、6本設けられている。そして、切替バルブ部13bの外周面には、この外周面においてこれら6本の第2排出通路47が互いに連通するように排出溝47cが設けられている。排出溝47cは、切替バルブ部13bの外周面に周方向に全周に亘って形成されている。
図5に示したように第2供給通路45と第2排出通路47とは、アウターレース13に周方向に等間隔で交互に並ぶように設けられている。また、図2に示したように第2供給通路45と第2排出通路47とは、第2供給通路45の主通路45aと第2排出通路47の主通路47aとがアウターレース13とインナーレース15とが組み合わされた場合に第2シリンダ16Bの連通路40と対向し、かつ摺動面13aにおいて同一円周上に等間隔で交互に開口するように配置される。そのため、アウターレース13とインナーレース15とが相対回転した場合、第2シリンダ16Bの連通路40には、第2供給通路45の主通路45aと第2排出通路47の主通路47aとが交互に接続される。図5に示したように第2供給通路45と第2排出通路47とはそれぞれ6本ずつ設けられているため、第2シリンダ16Bの連通路40はアウターレース13とインナーレース15とが30°回転する毎に第2供給通路45の主通路45a及び第2排出通路47の主通路47aと交互に接続される。一方、図2に示したように第2供給通路45の入口部45bと第2排出通路47の出口部47bとは、第2供給通路45が第2オイル供給通路34と接続され、第2排出通路47が第2オイル排出通路36と接続されるように軸線Ax方向にずらして設けられている。
図5に示したように、軸部13cには第1供給通路44の出口部44cと第2供給通路45の主通路45aとが半径方向に並ぶように設けられている。また、第1排出通路46の入口部46bと第2排出通路47の主通路47aとは、軸部13cに半径方向に並ぶように設けられている。図2及び図5に示したようにアウターレース13には、中心に第1排出通路46が設けられ、その外側に第1供給通路44が設けられている。そして、第2供給通路45及び第2排出通路47は、第1供給通路44のさらに外側に設けられている。同一の円周上に複数の通路を周方向に並べて設ける場合は、中心よりも外周に近い円周上に設ける方が通路間のピッチを大きく設定できるので、直径の大きい通路を設けることができる。ポンプ7では、第2供給通路45及び第2排出通路47を第1供給通路44よりも外側に配置し、第2供給通路45及び第2排出通路47のそれぞれの直径を第1供給通路44の直径よりも大きくした。これにより、第2シリンダ16Bのオイルの吸入抵抗を第1シリンダ16Aのオイルの吸入抵抗より小さくできる。
図6は、切替バルブ部13bの一部を拡大して示した図である。図6に示したように切替バルブ部13bの外周面には、周方向に全周に亘って形成される複数のシール溝48が設けられており、各シール溝48にはシールリング49がそれぞれ嵌め込まれている。各シールリング49は、ポンプハウジング30の凹部30aの内面とそれぞれ接触し、外部へのオイルの漏れ及びオイルへの空気の混入を抑制する。図6に示したようにシール溝48は、切替バルブ13bの外周面のうち第1排出通路46の出口部46cの両側、及び第2排出通路47の出口部47cの両側に設けられている。上述したようにポンプハウジング30には、第1オイル供給通路33及び第2オイル供給通路34が第1オイル排出通路35と第2オイル排出通路36との間に挟まれるように配置されている。そのため、図2及び図6に示したように切替バルブ部13bの外周面には、第1供給通路44の入口部44b及び第2供給通路45の入口部45bが、第1排出通路46の出口部46cと第2排出通路47の出口部47bとの間に挟まれるように設けられている。シリンダ16にオイルを供給する各供給通路44、45は、その内部の圧力が大気圧より低くなる。一方、第1排出通路46及び第2排出通路47から排出されるオイルは、ポンプ7によって加圧されているため、これらの内部の圧力は大気圧より高い。そのため、このように第1排出通路46及び第2排出通路47を第1供給通路44及び第2供給通路45の外側に配置することにより、第1排出通路46及び第2排出通路47のオイルの吐出圧によって第1供給通路44及び第2供給通路45のオイルに空気が進入することを抑制できる。また、各シールリング49を第1排出通路46及び第2排出通路47のオイルの吐出圧によってそれぞれ各シール溝48の壁面と密着させることができる。そのため、オイル漏れやオイルへの空気の進入をより確実に抑制することができる。
図3に示したようにアウターレース13のカム面14は、径方向に突出する複数(図3では6個)の凸部14aと、径方向に窪む複数(図3では6個)の凹部14bとを備えている。これら凸部14aと凹部14bとは等間隔で交互に設けられ、互いに滑らかに連続するように接続されている。また、これら凸部14aと凹部14bは、第1供給通路44の出口部44c、第2供給通路45の主通路45a、第1排出通路46の入口部46b、及び第2排出通路47の主通路47aと対応付けて設けられている。例えば、これら凸部14a及び凹部14bは、図3に示したようにピストン17のボール37が凸部14aから凹部14bにカム面14に沿って移動するときに第1シリンダ16Aと第1供給通路44とが接続されるとともに第2シリンダ16Bと第2供給通路45とが接続され、かつピストン17のボール37が凹部14bから凸部14aにカム面14に沿って移動するときに第1シリンダ16Aと第1排出通路46とが接続されるとともに第2シリンダ16Bと第2排出通路47とが接続されるように設けられている。ピストン17のボール37が凸部14aから凹部14bにカム面14に沿って移動する場合、スプリング38によってピストン17が外周側に押し出されるので、オイルがシリンダ16内に吸入される。以降、この行程を吸入行程S1と称することがある。一方、ピストン17のボール37が凹部14bから凸部14aにカム面14に沿って移動する場合はカム面14によってピストン17がシリンダ16内に押し込まれるので、オイルがシリンダ16から吐出される。以降、この行程を吐出行程S2と称することがある。
図3に示したようにインナーレース15には、4個の第1シリンダ16Aが連続して配置されている。また、4個の第2シリンダ16Bも同様に連続して配置されている。図7はポンプ7の8個のシリンダ16及びカム面14を簡略化して示した図である。図7では、8つのシリンダ16を区別するため、第1シリンダ群を構成する4つの第1シリンダ16Aに#1〜#4の番号を付し、第2シリンダ群を構成する4つの第2シリンダ16Bに#11〜#14の番号を付す。上述したようにカム面14には凸部14a及び凸部14bがそれぞれ6個ずつ交互に等間隔で設けられているため、アウターレース13とインナーレース15とを相対回転させることにより図7に示したように各シリンダ16に対して吸入行程S1と吐出行程S2とが30°毎に交互に行われる。図8は、アウターレース13に対してインナーレース15が図7の矢印R方向に60°回転した場合における各シリンダ群を構成する4つのシリンダ16のピストン17の動作を示す図である。なお、図8の#1〜#4の番号及び#11〜#14の番号は図7で付した各シリンダ16の番号である。図8に示したようにポンプ7においては、第1シリンダ群を構成する#1〜#4の4つの第1シリンダ16Aのうち半分の第1シリンダ16Aが吸入行程S1になるときは残りの半分の第1シリンダ16Aが吐出行程S2になる。同様に第2シリンダ群を構成する#11〜#14の4つの第2シリンダ16Bも、それらのうちの半分の第2シリンダ16Bが吸入行程S1になるときは残りの半分の第2シリンダ16Bが吐出行程S2になる。そのため、各シリンダ群から吐出されるオイルの量が変動することを抑制できる。また、これにより油圧変動を抑制することができる。
次に図2を参照してポンプ7におけるオイルの流れについて説明する。なお、以下ではポンプハウジング30の第1オイル供給通路33及び第2オイル供給通路34の両方が油圧制御装置110を介してオイルが貯留されているオイルパン111(図1参照)と連通している場合について説明する。アウターレース13とインナーレース15とが相対回転すると、カム面14及びスプリング38によって各シリンダ16が往復駆動される。この際、図8に示したように各シリンダ群のうちの半分のシリンダ16は吸入行程S1になり、残りの半分のシリンダ16は吐出行程S2になる。そして、第1シリンダ群のうち吸入行程S1にある第1シリンダ16Aには図2に矢印F1で示したように、第1オイル供給通路33、第1供給通路44、及び連通路39を介してオイルパン111からオイルが吸入される。また、第2シリンダ群のうち吸入行程S1にある第2シリンダ16Bには図2に矢印F11で示したように、第2オイル供給通路34、第2供給通路45、及び連通路40を介してオイルパン111からオイルが吸入される。一方、第1シリンダ群のうち吐出行程S2にある第1シリンダ16Aからは図2に矢印F2で示したように、連通路39、第1排出通路46、及び第1オイル排出通路35を介して油圧制御装置110にオイルが吐出される。また、第2シリンダ群のうち吐出行程S2にある第2シリンダ16Bからは図2に矢印F12で示したように、連通路40、第2排出通路47、及び第2オイル排出通路36を介して油圧制御装置110にオイルが吐出される。そのため、第1オイル供給通路33及び第1供給通路44により第1シリンダ群の流体供給経路が形成され、第2オイル供給通路34及び第2供給通路45により第2シリンダ群の流体供給経路が形成される。また、第1オイル排出通路35及び第1排出通路46により第1シリンダ群の流体排出経路が形成され、第2オイル排出通路36及び第2排出通路47により第2シリンダ群の流体排出経路が形成される。ポンプ7から油圧制御装置110に吐出されたオイルは、一部が前後進切替装置8及び無段変速部9等の油圧供給部に送られ、残りがポンプ7に戻される。
このようにポンプ7においては、第1シリンダ群の各第1シリンダ16Aにオイルを供給及び排出するラインと、第2シリンダ群の各第2シリンダ16Bにオイル供給及び排出するラインとが別々に設けられている。そして、上述したように第2シリンダ16Bの直径L2は第1シリンダ16Aの直径L1より大きいため、吐出行程S2において第2シリンダ16Bから吐出されるオイルの量は第1シリンダ16Aから吐出されるオイルの量より多い。そのため、ポンプ7では第1シリンダ群と第2シリンダ群とを互いにポンプ容量が異なる別々のポンプとして機能させることができる。以降、第1シリンダ群の4つの第1シリンダ16Aが往復動することにより機能するポンプを第1ポンプ機構7A、第2シリンダ群の4つの第2シリンダ16Bが往復動することにより機能するポンプを第2ポンプ機構7Bと称することがある。なお、本発明におけるポンプ容量とは、アウターレース13に対してインナーレース15が1回転したときにポンプ7から吐出されるオイルの容量、いわゆる押しのけ容積を示す。
図1に戻って動力伝達装置4の各部の制御方法について説明する。動力伝達装置4の各部は、ECU100によって制御される。ECU100には各種センサが接続されており、これらセンサから車両1の走行状態を反映する各種パラメータに対応する信号及び内燃機関2の運転状態を反映する各種パラメータに対応する信号がそれぞれ入力される。ECU100に接続されるセンサとしては、例えば内燃機関2の回転速度に対応する信号を出力するクランク角センサ101、車両1の走行速度に対応する信号を出力する車速センサ102、及びアクセル開度に対応した信号を出力するアクセル開度センサ103などが接続されている。その他にもECU100には各種センサが接続されるが、それらの図示は省略した。ECU100は、これらセンサからの入力信号に基づいて動力伝達装置4に設けられているポンプ7、前後進切替装置8、及び無段変速部9のそれぞれの動作を制御する。ECU100は、例えば内燃機関2を始動すべき所定の始動条件が成立した場合に第1制動装置22が制動状態に切り替わり、第2制動装置23が解除状態に切り替わり、かつクラッチ21が切り離されるように前後進切替装置8を制御する。
図9を参照してECU100によるポンプ7の制御方法について説明する。図9は、ポンプ7の油圧回路を示す図である。ECU100は、油圧制御装置110を制御することによりポンプ7の動作を制御する。油圧制御装置110は、第1オイル供給通路33を全開する全開位置ONと第1オイル供給通路33を全閉する全閉位置OFFとに切替可能な第1切替弁112と、第2オイル供給通路34を全開する全開位置ONと第2オイル供給通路34を全閉する全閉位置OFFとに切替可能な第2切替弁113と、ポンプ7からオイルパン111に戻されるオイルの量を調整する流量制御弁114とを備えている。そのため、油圧制御装置110が本発明の流量変更手段に相当する。なお、図9は、第1切替弁112及び第2切替弁113がそれぞれ全開位置ONに切り替えられている状態を示している。図9に示したようにオイルは、オイルパン111からポンプ7によって汲み上げられる。そして、汲み上げられたオイルの一部が前後進切替装置8及び無段変速部9等の油圧供給部に供給され、その後オイルパン111に戻される。一方、汲み上げられたオイルの残りは、リターン通路115を介してポンプ7に戻される。流量制御弁114はこのリターン通路115に設けられている。
ECU100は、流量制御弁114の開度を調整することによりポンプ7から吐出されるオイルの量を調整し、これによりポンプ7のアウターレース13の回転数とインナーレース15の回転数との差(以下、回転数差と称することがある。)を調整する。例えば、流量制御弁114を閉じ側に制御するほどリターン通路115を介してオイルパン111に戻されるオイルの量が減少するので、ポンプ7から吐出されるオイルの量が減少する。そして、ポンプ7から吐出されるオイルの量が減少するほど各ピストン17が往復駆動する回数が減少するため、回転数差が小さくなる。上述したようにアウターレース13は入力軸6と一体回転可能に設けられ、インナーレース15の回転はコネクティングドラム18に伝達される。そのため、流量制御弁114の開度を調整することにより、入力軸6とコネクティングドラム18との動力の伝達効率、すなわち内燃機関2側と前後進切替装置8側との間の動力の伝達効率を調整できる。例えば、入力軸6に一定の動力が入力されるときに流量制御弁114を閉じ側に制御した場合、ポンプ7の吐出すべきオイル量が減少するので、回転数差が小さくなる。この場合、アウターレース13の回転数とインナーレース15の回転数が近付くため、入力軸6とコネクティングドラム18との間の動力の伝達効率が上昇する。一方、入力軸6に一定の動力が入力されるときに流量制御弁114を開き側に制御した場合は、ポンプ7の吐出すべきオイル量が増加するので、回転数差が大きくなる。そのため、入力軸6とコネクティングドラム18との間の動力の伝達効率が低下する。そこで、ECU100は、車両1の速度及び内燃機関2の回転速度などに応じて入力軸6からコネクティングドラム18にそのときの車両1の走行状態や内燃機関2の運転状態に適した大きさの動力が伝達されるように流量制御弁114の開度を調整する。
また、ECU100は、第1切替弁112及び第2切替弁113の動作をそれぞれ制御し、これによりポンプ容量を調整する。第1切替弁112を全閉位置OFFに切り替えた場合、第1シリンダ群の各第1シリンダ16Aへのオイルの吸入が阻止される。この場合、カム面14の凸部14aによって第1ピストン17Aが第1シリンダ16A内に押し込まれて第1シリンダ16A内からオイルが排出されるとその後はその第1シリンダ16Aにオイルが吸入されないので、第1ピストン17Aは第1シリンダ16A内に押し込まれた状態に保持される。そのため、第1ポンプ機構7Aによるオイルの汲み出しが禁止される。第2切替弁113を全閉位置OFFに切り替えた場合は、第2シリンダ群の各第2シリンダ16Bへのオイルの吸入が阻止される。そのため、上述した第1シリンダ群の場合と同様に第2ピストン17Bが第2シリンダ16B内に押し込まれた状態に保持される。そのため、第2ポンプ機構7Bによるオイルの汲み出しを禁止できる。
ポンプ7においては、第1切替弁112及び第2切替弁113のそれぞれの状態を切り替えることによりポンプ容量を4段階に変更できる。第1切替弁112及び第2切替弁113の両方を全開位置ONに切り替えた場合には、ポンプ7のポンプ容量が最大になる。以下、この状態を第1状態と称することがある。上述したように第2シリンダ16Bの直径L2は第1シリンダ16Aの直径L1より大きいので、第2ポンプ機構7Bのポンプ容量は第1ポンプ機構7Aのポンプ容量よりも多い。そのため、第1切替弁112を全閉位置OFFに切り替えるとともに第2切替弁113を全開位置ONに切り替えた場合にポンプ7のポンプ容量が2番目に大きな値になる。以下、この状態を第2状態と称することがある。そして、第1切替弁112を全開位置ONに切り替えるとともに第2切替弁113を全閉位置OFFに切り替えた場合にポンプ7のポンプ容量が3番目に大きな値になる。以下、この状態を第3状態と称することがある。第1切替弁112及び第2切替弁113の両方をそれぞれ全閉位置OFFに切り替えた場合にはポンプ容量が0となる。
図10は、第1切替弁112及び第2切替弁113の状態とポンプ7において動作するピストン16の容積の合計との対応関係を示した表である。第1切替弁112及び第2切替弁113の状態が第3状態の場合、すなわち第1ポンプ機構7Aのみを機能させた場合はポンプ7において動作するピストン16は第1ピストン16Aの4本のみである。そのため、この際のピストン16の容積の合計(以下、第1合計容積と称することがある。)V1は、第1シリンダ16Aの1個当たりの容積v1と第1シリンダ16Aの個数N1とを掛けた値となる。第1切替弁112及び第2切替弁113の状態が第2状態の場合、すなわち第2ポンプ機構7Bのみを機能させた場合はポンプ7において動作するピストン16は第2ピストン16Bの4本のみである。そのため、この際のピストン16の容積の合計(以下、第2合計容積と称することがある。)V2は、第2シリンダ16Bの1個当たりの容積v2と第2シリンダ16Bの個数N2とを掛けた値となる。第1切替弁112及び第2切替弁113の状態が第1状態の場合、すなわち第1ポンプ機構7A及び第2ポンプ機構7Bの両方を機能させた場合のピストン16の容積の合計は、第1合計容積V1と第2合計容積V2とを足した値となる。なお、ポンプ容量は、これらピストン16の合計容積にカム面14に設けられている凸部14a又は凹部14bの個数、すなわちアウターレース13に対してインナーレース15が1回転する間にピストン16が往復駆動される回数を掛けた値である。
ECU100は、車両1の走行状態や内燃機関2の運転状態に基づいて第1切替弁112及び第2切替弁113の状態を制御し、ポンプ7のポンプ容量を制御する。例えば、ECU100は、車両1の発進時にポンプ容量が徐々に大きくなるように第1切替弁112及び第2切替弁113を制御する。図11は、車両1の発進時におけるポンプ容量の制御方法の一例を示している。なお、図11の線Aはコネクティングドラム18の回転数、すなわちポンプ7から出力される回転数(以下、出力回転数と称することがある。)の時間変化の一例を示している。図11に示したように車両1が停止している期間、ECU100は第1切替弁112及び第2切替弁113の両方を全閉位置OFFに維持する。この場合、各ピストン17がシリンダ16内に押し込まれた状態に保持されるので、アウターレース13からインナーレース15への動力伝達が阻止される。
その後、ECU100は、まず第1切替弁112のみを全開位置ONに切り替える。これにより第1切替弁112及び第2切替弁113の状態が第1状態に切り替えられる。車両1の発進時は出力回転数が0から徐々に上昇するようにアウターレース13の回転数とインナーレース15の回転数との差を徐々に小さくする必要がある。車両1の停止時はコネクティングドラム18の回転数が0であるため、インナーレース15の回転数が0である。一方、アウターレース13には内燃機関2の回転数が伝達されている。そのため、車両1の発進時はアウターレース13の回転数とインナーレース15の回転数との差(回転数差)が大きくなり、ポンプ7が高回転となる。そこで、第1切替弁112及び第2切替弁113の状態を第1状態に切り替え、第1ポンプ機構7Aのみを機能させる。第1シリンダ16Aの直径L1は第2シリンダ16Bの直径L2よりも小さいため、第1シリンダ16Aの方が第2シリンダ16Bよりもオイルの吸入抵抗が小さい。そのため、第1シリンダ16Aの方が第2シリンダ16Bよりもオイルの吸入及び排出を速やかに行うことができる。従って回転数差が大きくても第1シリンダ17Aをカム面14に追従させて動作させることができる。また、第1ポンプ機構7Aのみを機能させることにより、ポンプ7から無駄にオイルが吐出されることを防止できる。
ECU100は、次に第1切替弁112を全閉位置OFFに切り替えるとともに第2切替弁113を全開位置ONに切り替える。すなわち、第1切替弁112及び第2切替弁113の状態を第2状態に切り替える。その後、ECU100は第1切替弁112を全開位置ONに切り替えて第1切替弁112及び第2切替弁113の状態を第3状態に切り替える。このようにアウターレース13の回転数とインナーレース15の回転数との差が小さくなるに従って第1切替弁112及び第2切替弁113の状態を切り替えることにより、ポンプ7のポンプ容量を徐々に増大させる。これにより、シリンダ17をカム面14の凸部14a及び凹部14bに追従させて動作させることができる。すなわち、シリンダ17のカム追従性を確保することができる。
ECU100は、ポンプ7の各シリンダ17がカム面14に追従して動作するようにアウターレース13の回転数とインナーレース15の回転数との差(回転数差)に応じて第1制御弁113及び第2制御弁114の状態を適宜切り替える。
以上に説明したように、第1の形態に係る動力伝達装置4によれば、同一周上に第1シリンダ16Aと第2シリンダ16Bとを設け、オイルの吸入及びオイルの排出をシリンダ群毎に別々に行うことができる。そのため、ポンプ容量を変更でき、かつ装置の小型化を実現できる。各シリンダ群は、半分のシリンダ16が吸入行程S1のときに残りの半分のシリンダ16が吐出行程S2になるように4つのシリンダ16で構成されている。そのため、各シリンダ群から吐出されるオイルの変動を抑制することができる。
ポンプ7では、第2供給通路45及び第2排出通路47を第1供給通路44よりも外側に配置して第2供給通路45及び第2排出通路47のそれぞれの直径を第1供給通路44の直径よりも大きくし、第2シリンダ16Bのオイルの吸入抵抗を第1シリンダ16Aのオイルの吸入抵抗より小さくした。第2シリンダ16Bは第1シリンダ16Aよりも直径が大きいため、このように第2シリンダ16Bの吸入抵抗を第1シリンダ16Aよりも優先的に低下させることにより、第1ポンプ機構7A及び第2ポンプ機構7Bの両方を機能させた場合におけるポンプ7の高回転化を実現できる。
図6に示したようにポンプ7では第1排出通路46及び第2排出通路47を第1供給通路44及び第2供給通路45の外側に配置したので、第1供給通路44及び第2供給通路45のオイルに空気が進入することを抑制できる。
(第2の形態)
図12及び図13を参照して本発明の第2の形態に係る動力伝達装置について説明する。なお、図12は第1の形態の図7に対応する図である。図12に示したようにこの形態では、第1の形態において#12の第2シリンダ16Bが配置されていた位置に第1シリンダ群の#2の第1シリンダ16Aが配置され、第1の形態において#2の第1シリンダ16Aが配置されていた位置に第2シリンダ群の#12の第2シリンダ16Bが配置されている点が異なる。すなわち、この形態では、第1の形態に対して#2の第1シリンダ16Aの位置と#12の第2シリンダ16Bの位置とを入れ替える。それ以外は第1の形態と同じであるため、第1の形態と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
第1の形態の図8に示したようにアウターレース13に対してインナーレース15が60°回転した場合、#2の位置にあるシリンダ16と#12の位置にあるシリンダ16とは同じ動作を行う。そのため、#1〜#4の4つの第1シリンダ16A及び#11〜#14の4つの第2シリンダ16Bを図12に示したように配置しても、各シリンダ群のうちの半分のシリンダ16が吸気行程S1のときは残りの半分のシリンダ16が吐出行程S2になる。
カム面14の凸部14aによってピストン17が半径方向中心側に押される吐出行程S2になると、その吐出行程S2のシリンダ16からインナーレース15に対して半径方向中心側に向かう荷重が作用する。第1の形態の図8に示したように各シリンダ群においては2つのシリンダ16の吐出行程S2が重なるため、インナーレース15にはこれら2つのシリンダ16から作用する荷重を合成した荷重(以下、合力と称することがある。)が作用する。図13は、この形態のポンプ7において#1の第1シリンダ16A及び#2の第1シリンダ16Aが両方とも吐出行程S2の場合にこれらのシリンダ16からインナーレース15に作用する荷重を示した図である。この形態ではインナーレース15を軸線Axの方向から見たときに#1の第1シリンダ16Aが軸線Axに対する一方の側(図13の上側)に配置され、#2の第1シリンダ16Aが軸線Axに対する他方の側(図13の下側)に配置される。そのため、一方の第1シリンダ16Aからインナーレース15に作用する荷重を他方の第1シリンダ16Aからインナーレース15に作用する荷重で弱めることができる。これにより、#1の第1シリンダ16Aの荷重P1と#2の第1シリンダ16Aの荷重P2とを合成した合力P3を小さくすることができる。
第2シリンダ群においても同様に#11の第2シリンダ16Bと#12の第2シリンダ16Bとが両方とも吐出行程S2になる場合は、これらの第2シリンダ16Bの荷重が互いに弱め合うため、インナーレース15にかかる荷重を小さくすることができる。
以上に説明したように第2の形態によれば、各シリンダ群のうち吐出行程S2が重なる一対のシリンダ16の一方のシリンダ16を軸線Axに対する一方の側に配置し、他方のシリンダ16を軸線Axに対する他方の側に配置したので、一方のシリンダ16の荷重を他方のシリンダ16の荷重で弱めることができる。そのため、インナーレース15にかかる荷重を小さくすることができる。
なお、この形態のポンプ7は図13に示したものに限定されず、各シリンダ群を構成する4つのシリンダ16のうち吐出行程S2が重なる一対のシリンダ16の一方が軸線Axに対する一方の側に配置され、他方が軸線Axに対する他方の側に配置されていればよい。例えば、第1の形態に対して第1シリンダ群の#3の第1シリンダ16Aの位置と第2シリンダ群の#13の第2シリンダ16Bの位置とを入れ替えてもよい。このように吐出行程S2が重なる一対のシリンダ16を配置することにより、一方のシリンダ16の荷重を他方のシリンダ16の荷重で弱めることができる。そのため、インナーレース15にかかる荷重を小さくすることができる。
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明のピストンポンプが備えるシリンダの数は8個に限定されない。本発明のピストンポンプのインナーレースには、周方向に並ぶ2個以上のシリンダが設けられていればよい。2個以上のシリンダが設けられていれば、これらのシリンダの直径の大きさを相異させることによりピストンポンプに直径の大きさが互いに異なる複数のシリンダ群を設けることができる。本発明のピストンポンプに設けられるシリンダ群の数は2つに限定されない。例えば、直径の大きさが互いに異なる3種類以上のシリンダを同一周上に設けて3つ以上のシリンダ群をピストンポンプに設けてもよい。この場合、オイルの吸入及びオイルの排出がシリンダ群毎に行われるように供給通路及び排出通路をシリンダ群毎にアウターレースに設ける。この場合、さらに細かくポンプ容量を変更することができる。
本発明のピストンポンプでは、第1供給通路及び第1排出通路を用いて第2シリンダへのオイルの供給及び第2シリンダからのオイルの排出を行い、第2供給通路及び第2排出通路を用いて第1シリンダへのオイルの供給及び第1シリンダからのオイルの排出を行ってもよい。上述したように第2供給通路及び第2排出通路は、第1供給通路よりも直径が大きいため、この場合は第2シリンダの吸入抵抗よりも第1シリンダの吸入抵抗を小さくできる。そのため、例えば車両1の発進時の初期など第1ポンプ機構のみを機能させる際のポンプの回転数を高回転化できる。
上述した各形態では、アウターレースと入力軸とが連結され、インナーレースとコネクティングドラムとが連結されていたが、これらの連結は逆でもよい。すなわち、インナーレースと入力軸とが連結され、アウターレースとコネクティングドラムとが連結されていてもよい。この場合でも入力軸とコネクティングドラムとの間の動力の伝達をポンプにて制御することができる。上述した各形態では、インナーレースとアウターレースとが同軸に設けられたラジアルピストンポンプを示したが、本発明が適用されるピストンポンプはこれに限定されない。例えば、アウターレースに対してインナーレースを偏心させて配置し、この偏心によって発生する間隔の変化を利用してピストンを往復動させるラジアルピストンポンプに本発明を適用してもよい。
本発明の動力伝達装置に設けられるピストンポンプは、ラジアルピストンポンプに限定されず、シリンダが軸線方向に往復駆動されるアキシャルピストンポンプでもよい。具体的には、例えば上述した形態の図2において開口部が図2の左側を向くように各シリンダ16を左回りに90°回転して設け、それら各シリンダ16の開口部と対向するようにアウターレース13にカム面14を設ければよい。そして、このように90°回転させたシリンダ16のうちの各第1シリンダ16Aにはアウターレース13の第1供給通路44及び第1排出通路46と交互に接続されるように連通路39をそれぞれ設け、各第2シリンダ16Bにはアウターレース13の第2供給通路45及び第2排出通路47と交互に接続されるように連通路40をそれぞれ設ける。それ以外の部分は、上述した形態のラジアルピストンポンプと同じでよい。このアキシャルピストンポンプにおいても同一周上に第1シリンダ16A及び第2シリンダ16Bが設けたので、装置の小型化を実現できる。また、オイルの吸入及びオイルの排出をシリンダ群毎に別々に行うことができるので、ポンプ容量を変更できる。
上述した各形態は動力伝達装置について示したものであるが、これらの形態の動力伝達装置に組み込まれているラジアルピストンポンプの部分は、オイルなどの流体を送るための単体のピストンポンプとして使用してもよい。また、周知のようにピストンポンプは、インナーレース又はアウターレースの一方を固定し、各シリンダに周方向に順番にオイルの導入及び排出を行うことによりインナーレース又はアウターレースの他方が回転するピストンモータとして機能させることができる。そのため、上述した各形態の動力伝達装置のピストンポンプは、ピストンモータとして使用することができる。これらの場合も上述した動力伝達装置と同様の理由により、ポンプ容量を変更でき、かつ装置の小型化を実現できる。なお、上述した各形態の吸入行程がピストンモータの供給行程に相当する。ピストンモータでは、シリンダに供給するオイルが流れる供給通路の圧力の方がシリンダから排出されたオイルが流れる排出通路の圧力よりも高くなる。そこで、ピストンモータでは、上述したピストンポンプとは逆に第1オイル排出通路及び第2オイル排出通路が第1オイル供給通路と第2オイル供給通路との間の挟まれるようにこれらの通路を配置する。すなわち、一端と他端にそれぞれオイル供給通路を配置する。これにより、排気通路への空気の進入を抑制することができる。