この実施形態では、膝関節における大腿骨遠位端部の軟骨の形状情報や厚みその他の評価値を、超音波を用いて取得・算出するとともに、時を隔てて計測した軟骨形状同士を位置合わせすることで、両者の比較を容易にする装置を提供する。
実施形態の装置構成例を説明する前に、当該装置が対象とする膝関節(特に人間の)の内部構造について、図1を参照して簡単に説明する。図1は、立位での右足の膝関節の、体の正面側から見たときの模式的な断面図である。
図1に示すように、膝関節は、大腿骨100の遠位端部と、脛骨120の近位端部と、膝蓋骨130とから構成される。大腿骨100の遠位端の表面は軟骨105で覆われ、脛骨120の近位端の表面は軟骨125で覆われている。骨(例えば大腿骨100)の表面のうち軟骨で覆われた部分は、軟骨下骨と呼ばれる。大腿骨100の軟骨105と脛骨の軟骨125との間には半月板110が存在している。大腿骨100の遠位端は、立位の身体の正面方向から見た場合、図示のように二股に分かれて突起(それぞれ内側顆、外側顆と呼ばれる)しており、内側顆及び外側顆の軟骨105は、内側及び外側の半月板110にそれぞれ空いた穴を介して、脛骨120の近位端の軟骨125と接している。なお、以上に説明した膝関節部分は滑膜及び関節包140により覆われている。
大腿骨100の遠位端の軟骨105は、当該遠位端部の表面を広く覆っているが、そのうち立位の際に脛骨120の近位端の軟骨125と接する部分は、上半身の荷重を強く受ける部分である。この部分は、軟骨荷重部と呼ばれる。軟骨荷重部は摩耗しやすく、摩耗が著しくなると変形性膝関節症を引き起こす。変形性膝関節症の診断には軟骨荷重部の軟骨厚みが重要な判断指標となる。
人間の大腿骨100の遠位端の軟骨105の厚みは健常者で2〜3mm程度と薄いものである。したがって、超音波診断の手法でその厚みを精度よく測定しようとすれば、軟骨105の表面に対してできるだけ垂直に近い角度で超音波ビームを当てることが望ましい。ところが、立位では、大腿骨100の遠位端の軟骨荷重部は脛骨120の軟骨125に接しているので、仮にこの状態で軟骨荷重部の表面に垂直に近い角度で超音波ビームを当てようとすれば、脛骨側から上に向けて超音波ビームを当てる必要がある。しかし、そのような位置に超音波プローブを当てることは不可能である。また、仮にそのような位置に超音波プローブを配置できたとしても、軟骨は大腿骨又は脛骨の影になるので、超音波は軟骨には届きにくく、軟骨を画像化することは困難である。
これに対し、例えば椅子に座るなどして膝を大きく(例えば90度程度まで)曲げると、図2に示すように、大腿骨100遠位端の軟骨105の荷重部108が脛骨側から外れ、膝頭の正面側を向くようになる(図示の荷重部108は内側顆のものであり、外側顆の荷重部は図示を省略している。)。したがって、膝頭の正面側からプローブを当てれば、荷重部108の表面に対して垂直に近い角度で超音波ビームを当てることができる。そこで、この実施形態では、椅子に座るなどして膝を大きく曲げた状態で、超音波プローブにより大腿骨遠位端の軟骨の荷重部を含む膝内部の三次元領域のエコーを取得し、それらエコー信号に基づき軟骨の三次元形状を求める。
図3に、実施形態の超音波診断装置の機能構成の一例を示す。この例では、膝内部の三次元領域のエコーを取得するための超音波プローブとして、メカニカル三次元プローブ10を用いる。メカニカル三次元プローブ10は、振動素子が1次元配列された振動子アレイ12と、メカ走査機構14とを備える。
振動アレイ12によって超音波ビームが形成され、その超音波ビームは電子走査される。電子走査方式としては電子セクタ走査、電子リニア走査等が公知である。
メカ走査機構14は、振動子アレイ12を、当該アレイ12の電子走査の走査面と略垂直な方向に機械走査する。振動子アレイ12による電子走査とメカ走査機構14による機械走査の組合せにより、三次元領域がカバーされる。すなわち、一回の電子走査により1つの電子走査面の断層画像データを得ることができ、機械走査の走査位置ごとに電子走査を行うことで、複数の電子走査面の断層画像データの集まりを得ることができる。機械走査範囲全体の断層画像データの集まりが、メカニカル三次元プローブ10の走査範囲についての1つのボリュームデータである。
振動子アレイ12の電子走査形状は特に限定されず、例えば軟骨105の横幅をカバーする程度の幅(アレイ長)を持つリニア走査の振動子アレイ12を用いることもできる。また、コンベックス走査、コンケーブ(凹形)走査のプローブを用いてもよい。
また、例えば図4に示す例では、メカ走査機構14は、椅子等に座った状態で屈曲された膝に対し、太もも側から脛側まで膝頭に沿って上下にアーク(コンケーブ)走査を行う。図4は、被検者の膝を側面側から見た状態の図である。振動子アレイ12のアレイ方向は例えば図4の紙面に垂直な方向である。またメカ走査機構14の機械走査方向は、大腿骨100の遠位部に位置決めされた回転軸42を中心に、図中の矢印で示すように、上下に回転する方向である。回転軸42は、膝頭の両側にそれぞれ設ければよい。振動子アレイ12を収容する振動子部40の両側面には、各々の側の回転軸42から延びるアーム44が取り付けられており、図示しない駆動機構により振動子部40を矢印方向に動かすことができる。振動子部40の振動子アレイ12側には、水などの音響カップリング剤を封じた柔軟なスタンドオフ46が設けられている。測定時には、スタンドオフ46の一方の面が膝頭の形状に密着し、他方の面に沿って振動子アレイ12が矢印方向に移動する。図示は省略したが、これら振動子部40、回転軸42、アーム44、スタンドオフ46、振動子部40の駆動機構などは筐体内に収容することができる。その筐体には、膝を収容するための凹部が形成されており、その凹部にスタンドオフ46が設けられる。そして、その筐体を膝にかぶせてその凹部に膝頭を収容すると、スタンドオフ46やその近傍の筐体構造が例えば大腿200の上部や膝頭、脛等に当接する。これにより、回転軸42が大腿骨120の遠位部の、あらかじめ定めた範囲に位置決め固定されることになる。メカ走査機構14の走査は、モータなどを用いた自動走査でもよいし、手動で振動子部40を円弧状のガイドに沿って移動させる方式でもよい。メカ走査機構14は、振動子部40の回転位置(すなわち電子走査面の角度)を求めるエンコーダを備えている。このエンコーダの出力から、振動子アレイ12の電子走査面の角度が分かるので、その走査面における各点の三次元的な位置を求めることができる。
なお、図4に例示したような走査機構はあくまで一例に過ぎない。例えば、機械的なアーク走査のための上に例示したものに限られない。また、筐体を上下及び/又は前後に移動させる機構を設け、この機構により回転軸42を膝に対して位置決めするようにしてもよい。また、アーク走査の代わりに図5に示すように曲げた膝の前面に沿って振動子部40(振動子の配列方向は紙面に垂直)をリニアに機械走査してもよい。もちろん、機械走査の形状は、アークやリニアに限られるものではない。なお、アーク走査は、略円弧状に湾曲している軟骨100の多くの範囲に対し、垂直に近い方向から超音波ビームを当てることができる。
また、以上の例は、身体の横方向に素子配列方向に一致させるように配置した振動子部40を、身体の縦方向に沿って機械的にアーク走査又はリニア走査するものであったが、これは一例に過ぎない。この代わりに、図6に示すように身体の縦方向を素子配列方向とした振動子部40を身体の横方向に機械走査するようにしてもよい。図6はリニア走査を示しているが、これに限らず、アーク走査や他の走査形状でも構わない。
図3の説明に戻ると、送受信部16は、振動子アレイ12及びメカ走査機構14を駆動・制御して超音波ビームの送受信、電子走査、機械走査を実現する。送受信部16は、送信部の機能と受信部の機能を備える。送信部は送信ビームフォーマーとして機能する。すなわち、送信部から複数の送信信号が振動子アレイ12の複数の振動素子に対して供給される。これによって振動子アレイ12から超音波ビームパルスが生体内に放射される。生体内からの反射波は、振動子アレイ12にて受波される。これにより複数の振動素子から複数の受信信号が出力される。それらの受信信号は送受信部16の受信部に入力される。受信部は受信ビームフォーマーとして機能する。すなわち、複数の受信信号に対して整相加算処理を適用する。また受信部は、対数圧縮処理、フィルタ処理等といった各種の信号処理を行う。そのような処理を経た受信信号が、座標変換部18に入力される。受信信号は、被検体内の各点でのエコーレベル値を表す。
座標変換部18は、入力された受信信号(エコー信号)に対し、表示、画像処理、保存などのためのあらかじめ定めた共通座標系、例えば三次元デカルト座標系(XYZ座標系)、への座標変換処理を施す。すなわち、受信信号は被検体内各点のエコー強度の情報を含んでいるが、この場合の各点は、プローブ10の電子走査及び機械走査の走査形状により規定されるプローブ座標系でのものである。例えば、図4の例のように電子リニア走査の振動子アレイ12を機械的にアーク走査する場合、被検体内の点は、機械アーク走査の回転角θ、電子リニア走査における走査位置x、及びプローブ10からの距離(深さ)dからなる座標系で表現される。電子走査位置x及び距離dは送受信部16から得ることができ、機械走査位置(回転角θ)はメカ走査機構14が備えるエンコーダから得ることができる。このように、送受信部16が出力する受信信号は、プローブ座標系でのボリュームデータを表す。座標変換部18は、ボリュームデータをプローブ座標系から表示等のための共通座標系に座標変換するのである。また、座標変換部18は、共通座標系の点(ボクセル)のうち受信信号のデータ(エコーレベル値)がない点のデータを、その点の周囲の各点のデータを補間することにより求める。医用三次元画像における座標変換や補間は周知技術なので、これ以上の説明は省略する。
座標変換部18により座標変換された受信信号は、三次元データメモリ20に書き込まれる。三次元データメモリ20には、表示等のための共通座標系での各点(ボクセル)のエコーレベル値が記憶されることになる。すなわち、三次元データメモリ20には、座標変換後のボリュームデータが記憶される。
画像形成部28は、この三次元データメモリ20に記憶されたボリュームデータから、表示部30に表示する画像を生成する。例えば、画像形成部28は、指定された視点からボリュームデータをレンダリングすることで、その視点から見た被検体内部の三次元画像を生成する。また、画像形成部28は、ボリュームデータの中の指定された1以上の各断面(スライス)の画像を生成する機能を備えていてもよい。また、画像形成部28は、それら三次元画像や断面画像のうちの複数を1つの画面に配列する機能を持っていてもよい。
また、画像形成部28は、後述する軟骨抽出部24により抽出される大腿骨遠位端の軟骨の三次元形状情報に基づき、軟骨の三次元画像や断面画像を生成する機能を備える。また、生成した軟骨の三次元画像や断面画像を、走査範囲全体の三次元画像や断面画像に合成する機能を備えていてもよい。この合成では、軟骨の画像を走査範囲の他の部分から強調するようにしてもよい。例えば、軟骨の画像の色を走査範囲の他の部分の色とは異なった色とするなどである。
また、画像形成部28は、後述する定量化処理部34により計算される軟骨についての定量化データ(例えば軟骨の厚みなど)を、例えば数値などの形で表示画像に合成する機能を備える。
この他、必須ではないが、画像形成部28は、超音波診断装置が備える他の機能(例えばドプラ画像生成機能など)により得られる情報から、カラーフローマッピング画像(二次元血流画像)、カラー組織画像(組織運動表示画像)、パワードプラ画像などの各種画像を形成する機能を備えていてもよい。また、それら各種画像を、上述の三次元画像や軟骨の画像と合成して表示する機能を備えていてもよい。
画像形成部28は、例えばDSC(デジタルスキャンコンバータ)などにより構成される。画像形成部28によって生成された画像が、表示部30に表示される。
更に図3を参照して、軟骨抽出のための構成について説明する。
画像前処理部22は、三次元データメモリ20中のボリュームデータ、又はそのボリュームデータ中の断面のスライスデータに対して、軟骨抽出に適した画像にするための前処理を行う。画像前処理部22が行う前処理は、例えばノイズ低減のための平滑化、又は軟骨境界を明確化させるためのエッジ強調、又はその両方を含んだ処理である。以下、一例として、軟骨の形状特徴を利用した前処理の例を、図7〜図13を参照して説明する。この例は、ボリュームデータを、一方向に並んだ複数の断面スライスデータ(例えばXYZ座標系でX軸方向についてあらかじめ定めた間隔ごとにX=一定の断面をとったもの)に分解し、スライスデータごとに前処理を行う場合の例である。
図7は、超音波ビームの走査により得られる膝内部の断層画像を模式的に例示する図である。このような断面画像は、例えば、三次元データメモリ20内のボリュームデータから取り出された1断面のスライスデータを表示したものである。図7の断面画像例では、大腿骨300の内部,軟骨305の内部,及び音響カップリング剤が封入されたスタンドオフ360の内部は、それぞれ音響的にほぼ等質なので、超音波はほぼ反射されず、超音波画像上では暗い画像となる。膝関節を囲む筋肉350等の組織は、組織の微細構造による反射により比較的輝度の高いまだらな画像となる。筋肉350等の組織と軟骨305とは音響インピーダンスの差が大きいので、それら両者の境界すなわち軟骨の表面は、高輝度となる。同様に軟骨305と大腿骨300(軟骨下骨)との境界も高輝度となる。
図7の模式図においては、軟骨305と筋肉350との境界部分に微細な凹凸があり、1画素の格子内に暗い部分と明るい部分とが様々な割合で混在しているが、これは境界部分の画素の輝度値が画素ごとに大きく揺らいでいることを表現したものである。
このような超音波断層画像に対し、この例では、軟骨の形状特徴を強調するような平滑化処理を実行する。軟骨(特に大腿骨遠位端のそれ)は、厚みが2,3mm程度で基本的にその表面が滑らかであり、大腿骨遠位端の表面に張り付いている。そこで、この例では、平滑化にあたり注目画素の周囲全方向の画素(ボクセル)の値を用いるのではなく、軟骨と他組織との境界面(断層像の場合は境界線)すなわち軟骨の輪郭に沿った方向の画素のみを用いるような平滑化方法を用いる。
この方法では、画像前処理部22は、スライスデータのある注目画素の平滑化値を得るにあたり、その注目画素を中心として通る一定長の直線上にある各画素の輝度値を抽出し、それらの分散を計算する。
例えば、図8に示す例では、その一定長の長さを9画素としている。図8に示す1つ1つの格子が画素を示している。すなわち、図8の例では、スライスデータを構成する行列状に並んだ画素400群のうち、注目画素410を通る線分420が横切る9つの画素(図中では斜線ハッチングで示した)の輝度値(エコーレベル値)を取り出し、それらの分散値を計算する。分散値は例えば次式により計算すればよい。
分散値=1/n × Σ(Li - Lm)2
ここで、Li は、線分420上のn画素のうちのi(iは1からnまでの整数)番目の画素の輝度値であり、Lmはそれらn画素の輝度値の平均値である。Σは、i=1からi=nまでの総和である。なお、図8の例ではn=9であるが、9画素に限定されるわけではない。n個の画素のうちの1つは中心である注目画素410であり、その注目画素410の両側にそれぞれ残りの(n−1)個のうちの半数ずつが存在する。分散を求める際の線分の長さ(すなわち参照画素の数)は、スライスデータ(あるいはボリュームデータ)の解像度などを考慮して定めればよい。
このような分散値計算の処理を、図9に例示するように、1周(すなわちこの場合は0度から180度)の範囲で方向があらかじめ定めた間隔(例えば5度)ずつ異なる線分420−1、420−2,420−3,…のそれぞれについて行う。角度の刻み間隔は適宜定めればよい。分散計算対象の方向の線分420が横切るn個の画素は、都度計算してもよいが、注目画素に対するそれら各画素の相対位置を計算対象の方向ごとにあらかじめ計算して記憶装置(例えばリード・オンリー・メモリやハードディスク)に記憶しておき、計算対象の方向ごとにその相対位置と注目画素の位置から特定するようにしてもよい。
このようにして注目画素を中心とする各方向の線分についての分散値が求められると、画像前処理部22は、それら各方向のなかで分散値が最大となる方向を特定する。特定された方向は、軟骨や大腿骨、筋肉、スタンドオフなどといった各媒体間の境界(言い換えれば各媒体の輪郭)の法線方向を表す。
例えば、図10は、軟骨305と筋肉350との境界(言い換えれば軟骨の輪郭)より少し上に位置する注目画素410Aについての例である。この例では、注目画素410Aを中心とする各方向の線分420a、420b、420cのそれぞれについて、上述のように分散値を計算すると、線分420aについての分散値が最大となる。すなわち、それら各方向の線分420a〜cの中心(注目画素410A)の一方の側が横切る画素は筋肉350に属するので基本的に明るい画素であるのに対し、他方の側が横切る画素には軟骨305内の暗い画素が含まれる。そして、線分が軟骨305内に最も深く入った状態である線分420aのときにそれら暗い画素の数が最大となるため、分散値も最大となる。この線分420aの方向は、近傍にある軟骨305の輪郭に対する法線方向に近い方向となっている。
このように、注目画素410Aに対して上述の分散値が最大となる方向(線分420a)が特定できると、画像前処理部22は、スライスデータの面内で注目画素410Aの周囲近傍に存在する画素のうち、その方向に対し垂直な方向にある画素のみを用いてその注目画素の平滑化値を計算する。例えば、図11に示す例では、注目画素410Aを中心とし、分散最大方向に対して垂直な線分450aが横切る9つの画素(図ではドットハッチングで示した)の輝度値から、注目画素410Aの平滑化値が計算される。
分散最大方向に対して垂直な線分450aが横切る9つの画素は、都度計算してもよいが、方向ごとあらかじめ計算してハードディスク等の記憶装置に記憶しておき、その記憶データを読み出して利用するようにしてもよい。例えば、分散最大方向ごとに、それに垂直な線分450a上のそれら9つの参照画素の位置情報(例えば注目画素410Aに対する相対位置)を記憶装置に記憶しておき、分散最大方向が特定されればその方向に対応する各参照画素の相対位置をその記憶装置から求め、それら相対位置を注目画素の位置と組み合わせることで、各参照画素の絶対位置を特定すればよい。なお、参照画素の数を9個としたが、これは一例に過ぎない。参照画素の数は、軟骨表面の曲率、スライスデータ(あるいはボリュームデータ)の解像度、その解像度でのスペックルのサイズ(画素数)などを考慮して定めればよい。
線分420aは軟骨305と筋肉350との境界(すなわち軟骨の輪郭)の法線に近い方向の線なので、それに垂直な線分450aは、その境界に平行に近い方向の線分となる。注目画素410Aの全周囲の近傍画素の平均をとると、平均結果は軟骨305内の暗い画素も含んだ値となるが、軟骨305の輪郭の方向に沿った画素のみの平均であれば平均結果には軟骨305内の暗い画素は含まれにくい。
平滑化値は、例えば、それら9つの画素の輝度値の単純平均でよい。また、別の例として、例えば中心である注目画素410Aに近い画素ほど高い重みを与えた加重平均を平滑化値としてもよい。また、それら9つの画素の輝度値の平均値(単純平均又は加重平均)の大小に応じた係数をその平均値に乗じた値を平滑化値としてもよい。例えば平均値が高い(すなわち高輝度)ほど係数を大きくすることで、暗い部分と明るい部分のコントラストを向上させることもできる。いずれの場合でも、図11の例では、計算対象となる9つの画素はほとんど筋肉350に属する画素なので、注目画素410Aの平滑化値は高輝度値となる。
また、図12のように注目画素410Bが筋肉350と軟骨305との境界に位置する場合、画像前処理部22は、分散最大となる線分420dに対して垂直な線分450dを通る9つの画素(ドットハッチングで示す)を平均することで注目画素410Bの平滑化値を求める。この場合、その線分450dは軟骨305の輪郭の接線に近いものであり、それら9つの画素は軟骨305の輪郭又はその近傍に位置する画素である。
また、図示は省略するが、注目画素410が軟骨305の内部に位置する場合は、図11の場合と同様の考え方で、その注目画素410についての平滑化値は、軟骨305の輪郭の方向に沿った軟骨305内部の画素の平均となる。
なお、以上に例示した平滑化処理は、軟骨305と筋肉350との境界に沿った方向だけでなく、筋肉350とスタンドオフ360(図7参照)との境界、筋肉350と大腿骨300との境界、軟骨305と大腿骨300との境界などのように、大きな組織同士の境界に沿った方向についても平滑化を行うことになる。
なお、個々の注目画素についてみれば上述の方法で求めた分散最大の方向が必ずしも注目画素近傍の組織境界の法線方向に近くなるとは限らないが、大局的にみれば分散最大の方向は近傍の組織境界の法線方向に近いと考えられる。特に、軟骨305の表面は滑らかなので、筋肉350と軟骨305との境界、軟骨305と大腿骨300(軟骨下骨)との境界については、分散最大の方向はそれら境界の法線方向に近い。
以上に説明した組織境界の方向に沿った平滑化処理により、ノイズやスペックル等により必ずしも滑らかになっていない生スライスデータにおける軟骨305の輪郭(図10参照)が、図13に示すように滑らかになる。
注目画素の全周囲の近傍画素を用いた単純な平滑化では組織境界(特に軟骨と他組織との境界)がぼけてしまうが、組織境界の方向を考慮したこの例の平滑化では、そのような境界のぼけは抑止できる。この意味で、この例の平滑化処理は、エッジの維持あるいは強調(例えば平均値に応じた係数を乗じたものを平滑化値とする場合)の効果を持った平滑化と言える。
スライスデータ上の各画素をそれぞれ注目画素として、注目画素ごとに以上のような組織境界の方向性を考慮した平滑化を行うことで、スライスデータ全体を、組織境界を維持又は強調しつつ平滑化することができる。このような平滑化処理により、滑らかで鮮明な軟骨画像を得ることができる。なお、この平滑化処理では、筋肉350等の内部のスペックルは平滑化されるので、筋肉350は比較的高輝度の一様に近い画像となる。
ボリュームデータを構成する各スライスデータについて上述のような方向性を考慮した平滑化処理を行うことで、ボリュームデータ全体についての平滑化が実現できる。
なお、以上に例示した組織境界の方向性を考慮した平滑化は一例に過ぎない。この代わりに、既存の平滑化フィルタ処理とエッジ強調フィルタ処理の組合せを用いてもよい。
以上では、平滑化やエッジ強調(あるいはエッジ維持)に注目して説明したが、画像前処理部22は、そのような処理に加え、他の画像処理を行うものであってもよい。
また、以上の例では、ボリュームデータをスライスデータに分解し、スライスデータごとに前処理を行ったが、ボリュームデータに対して直接同様の前処理を施すことも可能である。例えば、組織境界の方向性を考慮した平滑化を行う方式の場合、上述のスライスデータごとの処理では二次元面内の各方向の中から画素値の分散が最大となる方向を特定したが、ボリュームデータに対する処理では注目画素(ボクセル)に関し三次元の各方向の中から画素値の分散が最大になる方向を特定すればよい。そして、その方向に対して垂直な面(例えば注目画素を中心とする円板)が横切る画素に基づき(例えばそれら画素の平均演算により)注目画素の平滑化値を計算すればよい。
さて、以上のように画像前処理部22の前処理結果は、軟骨抽出部24に渡される。画像前処理部22がスライスデータ単位で前処理を行う場合、前処理結果はスライスデータ単位で軟骨抽出部24に渡してもよい。また、スライスデータごとの前処理結果をまとめたボリュームデータをまとめて軟骨抽出部24に渡してもよい。以下では、スライスデータ単位で受け渡し、処理する場合を例示する。
この例では、軟骨抽出部24は、前処理結果のスライスデータを反転・二値化する。反転・二値化では、例えば、画像(スライスデータ)の各画素の値を反転してから、その反転結果をあらかじめ定めたしきい値と比較して二値化する。この場合、反転処理は、例えば、画素が取り得る最大値(1画素8ビットなら画素値255)から、現在の画素値を減算する処理でよい。二値化のためのしきい値は、反転の結果明るくなった軟骨部分と、反転の結果暗くなった軟骨周囲部分(筋肉や、軟骨と大腿骨との境界など)と、を区別できる値を、実験等により求めればよい。なお、画素値を反転してから二値化する代わりに、二値化してから画素値を反転してもよい。
反転・二値化のうち、二値化処理は例えば画像を組織ごとの部分に区別して軟骨抽出を容易にするためのものである。また反転処理は、超音波画像上では暗くなっている軟骨部分を明るく(すなわち白く)することで、ユーザにとって軟骨部分が実体組織であることを直感的に分かりやすくするためである。また、反転処理は、後述するエッジ抽出との整合性のために行っている。すなわち、後で例示するエッジ抽出フィルタは二値データのH(ハイ:すなわち「1」)の領域のエッジを抽出するものであるため、軟骨のエッジを抽出するために反転処理を行っているのである。したがって、二値データのL(ロー:すなわち「0」)の領域を抽出するエッジ抽出フィルタを用いる場合や、二値化結果の画像を表示する必要がない場合には、反転処理は行わなくてもよい。
図7に例示したスライスデータを、画像前処理部22による前処理後に反転・二値化すると、図14に示すような画像が得られる。図14の画像例では、軟骨305,大腿骨300などが白く、筋肉350等が黒く表示されている。
次に軟骨抽出部24は、反転・二値化後のスライスデータに対して、エッジ抽出処理を適用することで、そのスライスデータにおける組織境界のエッジを抽出する。抽出されるエッジには、軟骨の輪郭も含まれる。
このエッジ抽出処理では、二値化後のスライスデータに対してエッジ抽出フィルタを適用すればよい。エッジ抽出フィルタとしては、例えば、Laplacianフィルタ、Prewittフィルタ、Sobelフィルタ等の公知の二次の微分フィルタを用いればよい。
図14に例示した二値化後のスライスデータに対してエッジ抽出処理を行うと、例えば図15に示すような画像が得られる。エッジ抽出結果の二値画像では、エッジは黒(値“0”)、エッジ以外は白(値“1”)となる。図15では、軟骨輪郭306を含む、各種の境界が黒の輪郭線となっている。
軟骨抽出部24は、スライスデータを表示した画面上で、ユーザから軟骨内部(あるいは軟骨表面上)の点(以下、基準点Rと呼ぶ)の指定を受け付ける。基準点Rの指定を受け付ける際の画面に表示する画像は、反転・二値化後の画像(図14参照)でもよいし、エッジ抽出結果の画像(図15参照)でもよい。なお、基準点Rの指定は、入力部32が備えるマウスなどのポインティングデバイスを用いて行えばよい。図16は、エッジ抽出結果の画像に対して指定された基準点Rを示している。
次に、軟骨抽出部24は、基準点Rの近傍から軟骨輪郭306上の点を求める。図17の例では、基準点Rを通る縦線と軟骨輪郭306との交点A(上側),B(下側)を求めている(図17では、煩雑さを避けるため、軟骨輪郭306以外のエッジは省略している。)。図17の例では、基準点Rを起点に上方向に1画素ずつ順に進みながら、その過程で最初に見つかった黒画素が軟骨輪郭306上の点Aと判別できる。同様に基準点Rから下方向に進んで最初に見つかった黒画素が点Bである。
なお、軟骨305の内部にエッジが存在する場合を考慮するならば、軟骨抽出部24が、そのようにして求めた点A及びBの間隔を求め、その間隔が軟骨の厚み(通常2〜3mm程度)と比較して狭すぎる場合には、基準点Rの位置をあらかじめ定めた画素だけ横方向にずらしてから再度点A,Bを求めるようにしてもよい。その比較では、点AB間の間隔を、軟骨の厚みの知見に基づきあらかじめ定めたしきい値(例えば1.5mm)と比較すればよい。
なお、図17(及び図7、図14〜図16)の例では、薄い軟骨305の画像が、画面中でほぼ横方向に延びるように位置しているので、上下方向をほぼ軟骨の厚みの方向とみなすことができる。被検者が椅子に腰掛けるなどして屈曲した膝に対して、メカニカル三次元プローブ10の筐体を一定の向きで当接させれば(例えば、そのような向きをプローブ10に表示して、ユーザがその向きに従って当接させるか、機構上その向きにしか当接しないようにするなどすればよい)、得られるボリュームデータ(及びそこから求められるスライスデータ)の座標系は既知であるので、スライスデータを自動的に図17,図7等のような向きにすることができる。
以上のようにして、基準点Rの上下の軟骨輪郭306の点A,Bを特定すると、軟骨抽出部24は、各点A,Bに連結する黒画素の連結成分を探索する。例えば、点A,Bをそれぞれ起点として、注目画素の4近傍又は8近傍の画素から黒画素を探索し、黒画素が見つかればその黒画素を新たに注目画素として同様の探索を繰り返せばよい。以上のような探索処理により求められた黒画素の連結成分が、軟骨輪郭306である。図16に例示するエッジ抽出結果に対して探索処理を行えば、図18に示すように軟骨輪郭306のみが抽出できる。
以上のような処理を、ボリュームデータ中の各スライスデータについて繰り返す。各スライスデータから抽出された軟骨輪郭306の組が、三次元的な軟骨の輪郭形状を表す。
以上の抽出処理では軟骨内部又は表面の基準点をユーザに指定させているが、ボリュームデータを構成する多数のスライスデータのそれぞれに対しそのような指定を行うのは煩雑である。そこで、ユーザが1つのスライスデータで基準点を1つ指定すれば、その基準点から残りのスライスデータでの軟骨の基準点を自動的に決定するようにすることも好適である。そのための処理の例を以下に示す。
この例では、図19に示すように、あるスライスデータS0上でユーザが軟骨内の基準点R0を指定すると、軟骨抽出部24は、基準点R0を通る縦線と軟骨輪郭306との交点A0及びB0を起点としてそのスライスデータ上の軟骨輪郭306を抽出する。また、軟骨抽出部24は、それら点A0及びB0の中点C0の座標を求める。図では、一例として、ボリュームデータの座標系がXYZであり、各スライスデータはZ=一定の面であるとしている。したがって、中点C0の座標は(X,Y)で表される。
次に、軟骨抽出部24は、図20に示すように、ボリュームデータからスライスデータS0の隣のスライスデータS1を取り出し、そのスライスデータS1内で、点C0と同じ(X,Y)座標を持つ点を基準点R1とする。軟骨は三次元的に緩やかに湾曲した形状なので、あるスライスデータでの軟骨の上下輪郭の中点は、非常に高い確率で隣のスライスデータでも軟骨の上下輪郭の間に入ると考えられる。したがって、その基準点R1を用いて上述と同様の輪郭抽出処理を行うことができる。また、軟骨抽出部24は、それら基準点R1を通る縦線と軟骨輪郭306との交点A1及びB1の中点C1を求め、その中点C1の座標に基づき次のスライスデータS2の基準点R2を決定する。このように、スライスデータごとに基準点Rから軟骨輪郭306の点A,Bの中点Cを求め、その中点Cから隣のスライスデータでの基準点Rを定めるという処理を連鎖的に繰り返すことで、最初にあるスライスデータで基準点を1点指定すれば、残りの全てのスライスデータの基準点を自動的に定めることができる。
なお、次のスライスデータでの基準点を求めるための点は、点A,Bの厳密な中点Cでなくてもよく、中点Cに近い範囲の点でよい。ユーザが指定した基準点そのものは、軟骨の厚み方向の上下いずれかの端に偏っている場合もあり、その場合にはその点に対応する点は隣のスライスデータでは軟骨の外に出てしまう可能性がある。これに対し、指定された基準点に基づき軟骨の上下の輪郭上の点A,Bを求め、それら上下の輪郭上の点から次のスライスデータの基準点を求めるようにすれば、軟骨の外にはみ出る可能性をほぼなくすことができる。
また、このような基準点Rの自動決定処理では、あるスライスデータにて基準点Rから上下に向かって黒画素(輪郭)を探索する際に、軟骨の厚みを超える範囲まで探索しても黒画素が見つからなければ、スライスデータの配列方向についての軟骨端部に到達したと判定して処理を停止し、それ以降のスライスデータについては処理しないようにしてもよい。
以上、軟骨輪郭抽出の処理例を説明した。以上ではスライスデータごとに軟骨輪郭を抽出したが、この実施形態の手法はこれに限らない。例えば二次元面内の4近傍や8近傍の代わりに、三次元空間における上下前後左右の6近傍、又は14近傍の画素を探索ウインドウとすることで、連結成分の探索は三次元のボリュームデータに対しても同様に行うことができる。したがって、ボリュームデータから直接三次元的な軟骨輪郭を抽出することもできる。
また、軟骨抽出部24が行う抽出処理の別の例として、次のような処理もある。すなわち、この処理では、反転・二値化後のスライスデータに対して、周知のラベリング処理を行うことで、図21に示すように、白及び黒の各連結成分1,2,3,4を抽出する。なお、ラベルの値1,2,3,4等は軟骨抽出部24が内部的に保持していればよく、必ずしも画面表示しなくてよい。そして、軟骨抽出部24は、画面表示した二値画像上で、ユーザに軟骨に該当する点をマウス等により指定させ、指定された点のラベル値を含む連結成分を、軟骨305として抽出する。
さて、大腿骨遠位端の軟骨の抽出では、膝蓋骨による影が悪影響を及ぼす可能性がある。すなわち、図22に示すように、膝内部の超音波診断では、軟骨305の一部がプローブ10から見て膝蓋骨370の後ろに位置する。骨の背後は、超音波ビームの減衰や散乱などにより、エコーデータが小さく不鮮明になる。このため、輪郭抽出において軟骨305と膝蓋骨370の影375とが繋がってしまい、図23に例示するように、抽出される軟骨輪郭306に、膝蓋骨の影による不正確な部分308が含まれてしまう。そこで、以下では、そのような膝蓋骨の影響による不正確な部分を除去するために軟骨抽出部24が行う処理の例を説明する。
この処理の手順の一例を図24及び図25に示す。この手順では、軟骨抽出部24は、前述の例と同様、図26に例示するように、エッジ抽出結果のスライスデータ上で基準点Rの指定を受け付ける(S102)。そして、基準点Rから上下方向に向かってそれぞれ探索を行い、基準点から最も近い黒画素を見つける。見つかった黒画素が、軟骨の上下の輪郭線上の点A,Bである(S104)。ここで上側の輪郭は軟骨表面(すなわち軟骨とそれを覆う筋肉や体液との境界)であり、下側の輪郭は軟骨と大腿骨の軟骨下骨部との境界である。
次に軟骨抽出部24は、それら点A,Bをそれぞれ始点として、かつその始点から右方向及び左方向をそれぞれ進行方向として、輪郭端点検出処理(S200)を行う。この処理では、始点A,Bの2種類と、進行方向右、左の2種類と、の4種類の組合せのそれぞれについて、S200を実行することにより、軟骨の上側及び下側の輪郭のそれぞれについて、右端及び左端の点を求める。このステップS200の詳細手順の例を図25に示す。
図25の手順では、まず、始点(点A又は点B)を注目点Piとし(S202)、注目点Piを通る接線の傾き角θiを計算する(S204)。接線の傾き角θiは、数値計算分野で用いられている公知の方法により求めればよい。例えば、注目点Piが属する輪郭線(注目輪郭線と呼ぶ)において、注目点Piの両隣の点を求め、それら両隣の点を結ぶ直線の傾きを、注目点Piを通る接線の傾き角θiとすればよい。両隣の点を用いるのは一例に過ぎず、この代わりに注目点から左右それぞれあらかじめ定めた画素数ずつ離れた2つの点を用いてもよい。図27の例では、接線の傾き角θiは、注目点Piから右方向に延びる基準線に対する角度で表現しており、時計回りが正の方向である(ただしこれは一例に過ぎない)。
次に軟骨抽出部24は、注目輪郭線上で注目点Piに対し進行方向にある隣接点Pi+1を探索する(S206)。この探索では、例えば図28に示す参照ウインドウを用いればよい。すなわち、進行方向が右方向の場合は、(a)のように、注目点Piの上下及び右、右上、右下の5画素からなる参照ウインドウ内に黒画素があれば、その黒画素を隣接点Pi+1とすればよい。進行方向が左方向の場合は、(b)のように、注目点Piの上下及び左、左上、左下の5画素からなる参照ウインドウを用いればよい。参照ウインドウ内の画素には優先順位が設定されており、参照ウインドウ内に黒画素が複数存在する場合は、それら黒がそのうち最も優先順位の高い画素が隣接点Pi+1として検出される。
次に軟骨抽出部24は、S206で隣接点Pi+1が見つかったかどうかを判定し(S208)、見つかった場合は隣接点Pi+1を通る接線の傾き角θi+1を計算する(S210)(図27参照)。そして、隣接点Pi+1を通る接線の傾き角θi+1と注目点Piを通る接線の傾き角θiとの差(絶対値)を求め、その差と、あらかじめ設定されたしきい値Thとを比較する(S212)。しきい値Thは、軟骨表面の曲率に応じて、例えば5度や10度などとあらかじめ定めておけばよい。
その比較で、その差がしきい値より小さければ、隣接点Pi+1は、膝蓋骨の影響の部分には該当しないと判断し、隣接点Pi+1を次の注目点Piとし、隣接点Pi+1に対応する接線の傾き角θi+1を次の注目点Piに対応する傾き角θiとし(S214)、S206以下の処理を繰り返す。
ステップS206〜S214を繰り返すうちに、隣接点Pi+1が膝蓋骨の影による不正確な部分(図23の部分308)に達する(これに対し注目点Piは軟骨の輪郭上)と、θiとθi+1の差が大きくなる。すると、ステップS212の判定結果が否定(No)となり、処理はステップS216に進む。ステップS216では、軟骨抽出部24は、その時点での注目点Piを、進行方向についての軟骨輪郭の端点として記憶する。
例えば、図29に例示するように、軟骨の上側の輪郭上の点Aから右方向に処理を進めた場合、ステップS216では、点ARが上側輪郭の右端の点として記憶される。同様に点BRが下側輪郭の右端の点として記憶される。
また、ステップS206〜S214の処理ループで、注目点Piを進行方向に移動させていくうちに、注目点Piが軟骨輪郭の端に到達してしまう場合もある。この場合、ステップS206で進行方向の隣接点Pi+1を探しても見つからないので、処理はステップS208からステップS216に進み、軟骨抽出部24は、その時点の注目点Piを、進行方向についての軟骨輪郭の端点として記憶する。例えば、図23の軟骨輪郭306で、上下の点A,B(図28参照)からそれぞれ左方向に処理を進めると、どちらも軟骨輪郭306の左端の同じ点に到達し、その点を端点として記憶して処理が終わる。
以上のようにして軟骨輪郭の各端点が求められると、軟骨抽出部24は、軟骨の上側、下側の各輪郭線の右端点同士、左端点同士をそれぞれ直線で結ぶ(S106,S108)。S106及びS108はどちらを先に実行してもよい。なお、上下の端点が同一点である場合は、それら両者の直線で結ぶ必要はない。
以上のような処理を図23に例示した、不正確な部分308を含んだ軟骨輪郭306に適用すると、図30に例示するように、不正確な部分308が除かれた、閉じた軟骨輪郭306aが求められる。
以上に説明した図24及び図25の処理をボリュームデータ中の各スライスデータについて繰り返す。これにより求められたスライスデータごとの軟骨輪郭306aを組み合わせることで、膝蓋骨の影響による不正確な部分が除かれた、三次元の軟骨輪郭の表面形状が求められる。なお、この処理にも、前述の基準点Rの自動決定処理を適用することができる。基準点Rの自動決定処理を適用した場合、前述と同様に、ボリュームデータに含まれるスライスデータのうち軟骨輪郭306を含まないスライスデータには、図24及び図25の処理をしないようにすることもできる。
以上説明したように、図24及ぶ図25の処理手順では、注目点と隣接点との間での接線の傾き角の変化(差)が軽微である間は、隣接点は軟骨輪郭306上にある(すなわち不正確な部分308上にはない)と判断する。すなわち、そのような場合には、隣接点は、軟骨輪郭306上にある注目点に対して軟骨輪郭306に沿って滑らかに連続しているので、隣接点は軟骨輪郭306上の点であると判定するのである。これに対し、注目点と隣接点との間での接線の傾き角の変化が急峻(すなわち、しきい値Th以上)となると、隣接点が不正確な部分308に入ってしまったと判断し、その隣接点の直前の注目点までが正確な軟骨輪郭306であると判断するのである。
以上のような処理により、基準点Rの近傍にある軟骨輪郭306上の点A,Bに対してそれぞれ滑らかに連続する輪郭部分が、不正確な部分308が除去された正確な軟骨輪郭として抽出される。
以上の例では、輪郭の接線方向が急峻に変化する点を軟骨輪郭306の端点と判定したが、端点を見出すために着目する特徴は接線方向に限らない。輪郭の法線方向が急峻に変化する点を端点と判定してもよい。また、輪郭の微分係数が急激に変化する点を端点と判定してもよい。いずれにしても、この実施形態では、輪郭の方向性を示す特徴量が急峻に変化する点を端点と判定すればよい。
また、以上の例では、接線方向の傾き角の差をしきい値との比較することで、輪郭の方向性が急峻に変化したかどうかを判定したが、判定条件はこれに限るものではない。
次に、軟骨輪郭306から不正確な部分308を除去する処理の変形例を説明する。この例では、軟骨に対して三次元的な関心領域(以下、ROIという。ROIはRegion Of Interestの略)を設定し、輪郭のうちROIから外れる部分を除去する。この方法では、不正確な部分308を完全に除去することは困難だが、かなりの部分は除去することができ、しかも演算処理の高速化が期待できる。以下、この変形例におけるROIの設定方法の例を説明する。
この例では、画像前処理部22による組織境界の方向性を考慮した平滑化結果のボリュームデータ(より好適にはそれを反転・二値化した後のデータ)をボリュームレンダリングして表示部30に三次元表示する。そして、その三次元画像表示を入力部32を介してユーザに操作させ、視点位置や視線方向を選ばせることで、図31に示すように大腿骨遠位端の軟骨305をほぼ正面から見た状態が表示されるようにする。図31の例では、便宜上、軟骨305の三次元的な奥行きを等高線で表示しているが、実際の三次元表示はこのような表示に限るものではない。また、実際の超音波計測では、膝蓋骨の影になる部分があるので、軟骨の三次元形状の全体が図31のようにはっきりと見えるわけではないが、図31では説明の便宜上、明確な形状を示しておく。
次に、軟骨305の二股に分かれた部分のうちの内側顆(図では二股のうちの左側)の抽出のために、内側顆で最も視点に近い点(ここがおおよそ軟骨荷重部である)を通る横方向の軸(XY軸)と縦方向の軸(VW軸)とを入力部32を介してユーザに指定させる。XY軸は内側顆の短軸であり、VW軸は内側顆の長軸である。なお、内側顆を取り上げたのは、内側顆の方が膝蓋骨により覆われる部分が少ない(特に内側顆の荷重部は、一般に、図4〜図6のように膝を大きく曲げた状態では、膝蓋骨にはほとんど隠されない)ので、軟骨についての計測に好適だからである。
次に、VW軸を通り、視点から奥行方向に延びる平面(VW面500)でボリュームデータを切断し、その切断面の断層画像を表示部30に表示させる。図32はそのようなVW面500の断層画像の例である。図では、煩雑さを避けるために軟骨502の輪郭のみを示し周囲の組織の画像は示していないが、実際の断層画像では、周囲の組織の画像が存在する。ユーザは、このような断層画像を見ながら入力部32(例えばポインティングデバイス)を操作して、軟骨502の形状に沿った曲線504を指定する。
また、XY軸を通り、視点から奥行方向に延びる平面(XY面510)でボリュームデータを切断し、その切断面の断層画像を表示部30に表示させる。図33はそのようなXY面510の断層画像の例である。図では、煩雑さを避けるために軟骨512の輪郭のみを示し周囲の組織の画像は示していない。ユーザは、このような断層画像を見ながら入力部32を操作して、軟骨512を内包するROIの輪郭線514を指定する。ROIの輪郭線514は、軟骨512よりある程度大きくなるように指定すればよい。
抽出ROI設定部34(図3参照)は、以上のように指定された輪郭線514を、その中心(すなわちVW軸上の点)が曲線504を通るように平行移動させることで、三次元的なROIが設定する。すなわち、平行移動により、図34に例示するように、XY面に平行な各面510−1〜510−5で、それぞれ輪郭線514−1〜514−5が求められ、それら輪郭線の集まりにより囲まれる内部の領域が三次元的なROIとなる。
軟骨抽出部24は、元の反転・二値化後のボリュームデータ、あるいはエッジ抽出後のボリュームデータ(図23参照)のうち、そのように求められた三次元的なROIの内部のみを切り出す。これにより、膝蓋骨の影響による不正確な部分308(図23参照)のかなりの部分を除去することができる。
以上、軟骨抽出部24の処理内容の例を説明した。再び図3に戻ると、軟骨抽出部24により求められた軟骨の三次元形状データは、三次元データメモリ26に記憶される。画像形成部28は、その三次元データメモリ26内のデータをレンダリングして、三次元の軟骨画像を生成し、表示部30に表示する。画像形成部28は、レンダリングした軟骨画像を三次元データメモリ20内の、膝内部全体の生のボリュームデータをレンダリングした三次元画像と合成した画像を生成し、表示してもよい。合成は、例えば、軟骨画像を、膝内部全体の画像とは異なる色で表示し、両者を重畳するような処理でもよい。また、画像形成部28は、三次元データメモリ26内の軟骨形状のデータに基づき、ユーザから指定された断面での軟骨形状を表す画像を形成し、表示部30に表示してもよい。
次に、抽出された軟骨形状の情報に基づく、軟骨の定量評価のための仕組みについて説明する。この定量評価のために、この実施形態の超音波診断装置は、定量化処理部36,厚み計算部38及び計測ROI設定部39を備える。
定量化処理部36は、軟骨の厚みに基づく定量評価情報の計算や、その計算のための制御を行う。厚み計算部38は、定量評価情報を求めるための基礎情報として、軟骨の三次元形状上で選ばれた位置での軟骨の厚みを計算する。この厚み計算の手順の一例を、図35に示す。
図35の手順では、定量化処理部36が、三次元データメモリ26内の軟骨形状のデータに基づき軟骨の三次元画像を生成し、表示部30に表示させる(S300)。ユーザは、必要に応じて、入力部32のポインティングデバイス等を操作して軟骨の三次元画像の向きを見やすい向きに変更する。そして、ユーザは、軟骨の三次元的な輪郭(表面)上で、厚みを計算したい点又は範囲を指定し、定量化処理部36はその指定された点又は範囲を認識する(S302)。範囲が指定された場合、定量化処理部36は、その範囲に含まれる軟骨輪郭上の複数の点(画素=ボクセル)をそれぞれ厚み計算の対象点とする。以下では、図36に例示するように、厚み計算の対象点Aが1つ指定されたとして説明する。超音波計測では膝蓋骨の影に該当する部分等、見えない部分もあるが、図36でも、図31と同様便宜的に軟骨600の全体形状を示している。
なお、図36の例では、大腿骨遠位端の軟骨600の内側顆602にある軟骨荷重部に該当する点が計算対象点Aとして指定されている。例えば、大腿骨の骨軸(大腿骨の長手方向に向かって延びる大腿骨の中心軸)に平行に膝の外側から膝内部を見る方向を視線方向とする軟骨の三次元画像を形成した場合に、内側顆の軟骨荷重部は、その三次元画像中の内側顆602の範囲の中で、最も高い点(すなわち最も視点から見て手前の点)である。
ここで、例えば被検者が椅子に腰掛けた状態では、水平面内での太ももの伸びる方向がほぼ大腿骨の骨軸の方向と見なせるようになる。あるいは、椅子の座面の角度を適切に決めておくことで、大腿骨の骨軸の方向が水平面内になるようにすることができる。このようにしておけば、メカニカル三次元プローブ10を膝に対して位置決め配置した場合に、メカニカル三次元プローブ10の座標系と大腿骨の骨軸方向との位置関係を既知とすることができる。したがって、画像形成部28は、プローブ10により得られたボリュームデータあるいはそこから抽出した軟骨の形状を、骨軸方向を視線方向(例えば骨軸に沿って膝の外側から大腿骨遠位端の軟骨を見る方向)としてレンダリングすることができる。このようにレンダリングすれば、図36のように、視点側から見て最も手前側の点がほぼ軟骨荷重部であるような軟骨の三次元画像表示を自動生成することができる。ユーザは、その表示上で、軟骨荷重部の点(又は軟骨荷重部に該当するある程度の大きさの範囲)を指定することできる。
また、上述のように、視点側から見て最も手前側の点がほぼ軟骨荷重部であるような軟骨の三次元画像表示を自動生成することができれば、軟骨荷重部の点又は範囲をユーザが指定する代わりに、その三次元画像上で最も手前側の点や範囲を軟骨荷重部として自動検出することもできる。自動検出は、ユーザ指定の場合よりも精度は劣るかも知れないが、処理速度の向上には有益である。
さて計算対象点Aが指定されると、厚み計算部38は、その計算対象点Aにおける軟骨輪郭表面の法線方向を求める。
この法線方向の算出のために、厚み演算部37は、一例として、軟骨輪郭の面のうちその点Aの周囲近傍の中から、3つの参照点B,C,Dを求める(S304)。3つの参照点は、一例として、図37(図36の対象点A近傍を拡大した図)に例示するように、計算対象点Aからみて周囲360度の範囲で均等な方向(すなわち120度間隔の3方向)に位置するように選択することが好ましい。また、対象点Aから各参照点B,C,Dまでの距離はほぼ均等とすることが好ましい。その距離は1画素(ボクセル)程度でもよいが、数画素(例えば5,6画素程度)とした方が後の法線方向特定の精度向上が見込める。
次に、厚み計算部38は、それら参照点B,C,Dを通る平面Eの方程式を求める(S306)。このステップでは、平面の方程式
ax+by+cz+d=0
に参照点B,C,Dの三次元座標が(Bx,By,Bz),(Cx,Cy,Cz),(Dx,Dy,Dz)をそれぞれ代入することで、a,b,c,dを変数とする3つの式を求める。そして、それら3つの式からなる連立方程式を解くことで、変数a,b,c,dの比を求めることができ、その比から平面Eの方程式が求められる。この平面Eは、計算対象点Aにおける軟骨輪郭の接平面にほぼ等しい。
この処理では、その平面Eの法線方向を、計算対象点Aにおける輪郭表面の法線方向と見なす。平面ax+by+cz+d=0の法線ベクトルは(a,b,c)で表されるので、連立方程式を解いて変数a,b,c,dの比が分かれば、法線ベクトルも特定できる。
なお、法線ベクトルを求めるために用いる各参照点B,C,Dの三次元座標として、軟骨輪郭上の点のうち当該参照点の周囲近傍の複数点(画素)の三次元座標の平均値を用いてもよい。例えば、図38の例では、白抜きの丸印で示す点Bの三次元座標として、当該点B自身の三次元座標と、点Bの8近傍の点(黒丸印)の三次元座標と、の平均値を用いている。このように参照点の近傍点の座標を平均することで、抽出された軟骨輪郭に含まれる高周波な誤差成分を打ち消すことができ、法線ベクトルの精度を高めることが期待される。
次に厚み計算部38は、図39に示すように、計算対象点Aを通り、求めた法線ベクトルの方向に延びる直線を求める(S308)。これが、対象点Aを通る軟骨輪郭の法線である。厚み計算部38は、その法線が軟骨の三次元的な輪郭面と交わる点を、図40に例示するように、上下それぞれの輪郭面につき1つずつ求める(S310)。図40の例では、煩雑さを避けるため、点Aを通る法線が属する面で三次元的な軟骨輪郭を切断したときの断面図を模式的に示している。図示のように、2つの交点のうち一方の点は計算対象点A自身である。もう一方の交点を点Fとする。
厚み計算部38は、それら2つの交点AFを結ぶ線分の長さを計算する。この長さが、計算対象点Aの位置での軟骨の厚みである(S312)。
以上では計算対象点Aの周囲の3つの参照点を用いて法線ベクトルを求めたが、これは一例に過ぎない。この他にも例えば、計算対象点Aの近傍の複数の軟骨輪郭上の点の座標から、最小自乗法等の回帰演算により計算対象点Aでの軟骨輪郭の接平面の方程式を求め、この方程式の係数から法線ベクトルを求めてもよい。
以上では、軟骨表面、すなわち軟骨とそれを覆う筋肉や体液との境界の面に計算対象点を設定する場合を例示した。これに対し、軟骨の裏面、すなわち軟骨と大腿骨遠位端(軟骨下骨)との境界面に計算対象点を設定することもできる。これには、例えば、軟骨の三次元表示において軟骨の裏面側を表示し、その裏面上でユーザに計算対象点を指定させればよい。このとき、例えば、前述したメカニカル三次元プローブ10の座標系と大腿骨の骨軸方向との関係を既知である状況では、軟骨のボリュームデータを、大腿骨の骨軸に沿って大腿骨側からその軟骨を見る視線方向から見た状態でレンダリングすれば、軟骨の三次元画像を、視点から見て最も奥の点がほぼ軟骨荷重部であるような姿勢で表示することができる。したがって、ユーザはこの表示を見て、軟骨裏面側で軟骨荷重部に相当する点を指定することができる。そのような視点からの三次元画像から、軟骨荷重部に相当する点を自動判定してもよい。また、軟骨表面側でユーザに点を指定させ、その点を通る視線方向の直線が軟骨裏面に交わる点を求め、その点を計測対象点としてもよい。軟骨表面は、対向する骨の軟骨との摩擦による摩耗などで、凹凸が生じている場合がある。そのような場合、凹凸の部分に計測対象点を設定すると、その点での法線方向が正しい厚みの方向とはかなりずれたものとなる可能性がある。これに対し、軟骨裏面は大腿骨に張り付いており、そのような摩擦を受けないので、滑らかさを維持しており、そのような問題は少ない。
なお、一般的には、軟骨表面(軟骨と筋肉や体液との境界)も十分に滑らかな場合が多いので、軟骨表面上から軟骨荷重部等の計測対象点を選んでも精度の問題が生じない場合は多い。
以上、ある1点における軟骨の厚みの計算の仕方を説明した。この他にも、定量化処理部36は、軟骨の三次元画像上である程度の面積を持つ計測対象範囲の指定を受け付け、その範囲内の複数の点での軟骨の厚みについての統計情報を求めてもよい。この処理の例を図41に示す。
図41の手順では、まず定量化処理部36は、軟骨輪郭の三次元画像を表示部30に表示して(S320)、ユーザから計測対象範囲(計測ROI)の指定を受け付ける(S322)。ユーザは、入力部32のポインティングデバイス等を操作して、計測ROIを指定する。指定された計測ROIの情報は、計測ROI設定部39により認識され、定量化処理部36に伝えられる。
図42の例では、内側顆602の軟骨荷重部を含んだ範囲が、計測ROI610に指定されている。計測ROI610内に多数表示された黒丸が、そのROI内の点(すなわち画素=ボクセル)を模式的に示している。また図43は、内側顆602全体が計測ROI610に指定された場合の例である(図では、そのROIに含まれる計測対象の点を黒丸で示している)。
定量化処理部36は、指定された計測ROI内の各点ごとに、その点での軟骨の厚みを厚み計算部38に計算させる(S324)。そして定量化処理部36は、それら各点での軟骨の厚みを統計処理する(S326)。
統計処理は、例えば、それら各点での厚みの平均値又は分散又は標準偏差等の統計的特徴量のうちの1種類以上を求める処理である。また、統計処理は。図44に示すように、各点での厚みの分布マップ画像を生成する処理でもよい。図44は、内側顆602の部分の拡大画像を模式的に示しており、計測ROI内の点のうち、その点での軟骨厚みが当該ROI内での平均値以下の部分620と、平均値を超える部分622とを、表示形態(例えば色や濃度)で区別して表示している。分布マップ画像は、例えば、三次元空間におけるそれら各点の画素値を、その点での軟骨厚みに応じた値にすることにより生成できる。すなわち、この分布マップ画像は三次元的な画像である。図44の例では、軟骨厚みが平均値以下の点と、平均値を超える点という二段階の分布マップ画像を生成したが、段階数が更に多い分布マップ画像を生成することもできる。
また、定量化処理部36は、図45に示すように、計測ROI内の各点での軟骨厚みの度数分布を求めてもよい。
また、定量化処理部36は、軟骨の厚みに関する評価値以外の評価値を求めてもよい。例えば、三次元データメモリ26に保持された軟骨の三次元形状の情報から、軟骨の体積を求めることができる。また、軟骨表面の凹凸度を求めることもできる。凹凸度は、例えば、軟骨輪郭に該当するボクセルの数を計数し、その計数値を単位面積当たりに正規化することで求めればよい。単位面積当たりの軟骨輪郭のボクセル数が多いほど、凹凸度が高いと言える。
定量化処理部36が求めた定量情報は、画像形成部28により、膝内部の三次元画像又は軟骨の三次元画像又はそれら両者を合成したもの、に対して合成され、表示部30に表示される。例えば、定量化処理部36が計測ROIでの軟骨厚みの平均値等の統計値を求めた場合、画像形成部28は、その平均値の数値情報を、三次元画像等を表示した画面上に重畳する。計測ROIが設定されている場合は、その数値情報はそのROI内又は近傍に重畳してもよい。また、定量化処理部36が計測ROIでの軟骨厚みの分布マップ画像を求めた場合、画像形成部28は、その分布マップ画像を、膝内部の三次元画像や軟骨の三次元画像に重畳すればよい。また、画像形成部28は、計測ROI内の各点での軟骨厚みの度数分布を、三次元画像と並べて、あるいは別画面で、表示部30に表示させてもよい。
次に、実施形態の超音波診断装置における、軟骨の厚み等の評価値の経時的変化を求めるための支援機能について説明する。
例えば同一点での軟骨の厚みの経時的変化を正しく求めるには、異なる時点で求められた軟骨形状同士を正しく位置合わせする必要がある。
この位置合わせ処理を行うのが、図3における定量化処理部36中の位置合わせ部62である。データベース60は、過去の計測結果を蓄積するデータベースである。例えばデータベース60には、被検者の膝の計測が行われる都度、軟骨抽出部24が抽出した軟骨の形状情報(輪郭形状あるいはボリュームデータ)が、被検者のID(識別)情報及び計測日時に対応づけて登録される。被検者のID情報は、入力部32からユーザ(診断者)が入力したり、入力部32が備えるカードリーダにより被検者のIDカードを読み取ったり、カルテ情報などを管理する診断情報管理システム(図示省略)から取得したりすればよい。また、データベース60には、軟骨形状のデータの他にも、メカニカル三次元プローブ10により得られた(三次元データメモリ20内の)生のボリュームデータを登録してもよい。また、画像前処理部22の前処理結果のボリュームデータを登録してもよい。また、厚み計算部38が計算した軟骨荷重部の厚みや、軟骨荷重部近傍の厚みの統計値などといった評価値を登録してもよい。なお、データベース60には、登録された軟骨形状等が右足、左足のいずれのものであるかを示す情報も併せて登録する。
さて、2つの画像の位置合わせを行うには、例えば平面画像で考えた場合、一方の画像を回転、平行移動させ、他方の画像とピクセル毎に比較し、その差が最小になるような回転角、平行移動量を求めれば良い。つまり、画像の幅をw、高さをhとすると、一方の画像を−180度〜+180度まで例えば1度ずつ回転させ、x方向に−w〜+wまで1画素ずつ移動させ、y方向に−h〜+hまで1画素ずつ移動させながら、その都度他方の画像と比較し、最適な回転角、平行移動量を見つければ良い。しかし、この方法では処理するのに莫大な時間がかかってしまう。例えば、画像サイズが512×512画素であれば、1024×1024×360=94,371,840回もの比較演算が必要となる。奥行きある三次元画像データの場合はさらに莫大な処理時間となってしまう。
これに対し、以下に例示する処理方法では、比較演算の範囲を、軟骨の形状に沿った範囲に限定することで、処理時間の低減を図る。この処理方法を、図46に示す。
図46では、今回新たに計測した被検者の軟骨形状と、同じ被検者についての前回の軟骨形状の計測結果とを位置合わせする場合の例を説明する。
図46の手順では、まず、被検者の膝内部をメカニカル三次元プローブ10により計測し、前述の処理によりその被検者の膝軟骨の今回の形状計測結果を得る(S400)。このとき得られた膝内部の生のボリュームデータや、軟骨の三次元形状データを、その被検者のID情報に対応づけてデータベース60に登録してもよい。
超音波診断装置は、前回との比較を行うモードを有している。診断者がそのモードの実行を指示すると、位置合わせ部62は、その被検者の前回計測時の軟骨形状のデータをデータベース60から読み出す(S402)。ここで、今回の計測の最初に入力された被検者のID情報に対応づけて登録されている(今回の計測結果を除く)最新の軟骨形状のデータをデータベース60から検索すればよい。なお、今回計測したのが右足であれば、データベース60から前回の右足の軟骨形状データを検索する。
次に、位置合わせ部62は、画像形成部28に対し、計測した今回の軟骨形状のデータと検索した前回の軟骨形状のデータとを渡し、それら軟骨形状の三次元画像を例えば一画面上に左右に並べて配置した表示画像を生成させ、表示部30に表示させる。なお、前回と今回の画像を一画面に並べて表示する代わりに、一画面に1つずつ表示し、その都度以下の視点の変更や軸指定などの捜査を受けるようにしてもよい。
診断者は、画面表示された前回及び今回の軟骨三次元画像のそれぞれについて、入力部32が備えるポインティングデバイスなどを操作することにより、レンダリングの際の視点(あるいは視線方向)を変更することができる。この視点変更により、前回及び今回の軟骨三次元画像を、それぞれ、軟骨の内側顆における軟骨荷重部が正面に来る向きにする。このときの三次元画像の視線方向は、大腿骨の骨軸の方向にほぼ等しく、また軟骨荷重部での軟骨の厚みの方向にもほぼ等しい。
なお、前述の例のように、メカニカル三次元プローブ10と被検者の膝や太股との相対位置関係を機械的に規制するなどすれば、プローブ10の座標系と大腿骨の骨軸方向との位置関係を既知とすることができ、視点側から見て最も手前側の点がほぼ軟骨荷重部であるような軟骨の三次元画像表示を自動生成することができる。この場合、診断者は、視点変更を行わなくてよく、仮に行うとしても微少な変更でよい。
このようにして前回及び今回の軟骨三次元画像の向きが調整されると、次に位置合わせ部62は、診断者に、それら各軟骨三次元画像上で、内側顆の軟骨荷重部及びその荷重部を通る軟骨長手軸を指定させる(S404)。例えば図36に示されるように、軟骨の内側顆602は、軟骨荷重部が正面に向く方向から見た場合、内側顆と外側顆が並んでいる方向を横方向とすると、おおむね縦に長い形状をなしている。S404では、診断者は、ポインティングデバイスなどを用いて、軟骨荷重部を指定すると共に、その軟骨荷重部を通り内側顆の形状の長手方向に延びる線を長手軸として指定する。
図47には、今回の軟骨三次元画像(A)と前回の軟骨三次元画像(B)とのそれぞれにおいて(図では内側顆の荷重部近傍を拡大して示す)、軟骨荷重部630a及び630bと長手軸632a及び632bとが指定された状態を模式的に示している。
位置合わせ部62は、診断者が画面上で軟骨荷重部として指定した点から、レンダリングの視線方向に延びる直線と軟骨形状の手前側の表面との交点を、三次元空間での軟骨荷重部の点として求める。同様に、軟骨長手軸の三次元空間での方向は、視線方向に垂直な面内で、画面上で指定された方向に延びる方向となる。位置合わせ部62は、求めた三次元空間での軟骨荷重部の点を通る、その方向の軸を、軟骨長手軸と認識する。
なお、超音波診断では、膝蓋骨の影などの影響により内側顆全体を抽出できない場合もあるが、そのような場合でも、診断者は、内側顆のうちの抽出できた部分の形状や、外側顆、膝蓋面(内側顆と外側顆との間の部分)などとの関係を考慮することで、本来の長手軸方向を推定して指定することができる。
また、位置合わせ部62は、視線方向に垂直な面内で長手軸に垂直で、かつ三次元空間上で特定された軟骨荷重部の点を通る軸を、軟骨の短手軸として求める。図47には、今回及び前回の軟骨三次元画像での短手軸634a及び634bが示されている。
以上では、診断者に軟骨荷重部と長手軸方向を指定させたが、この代わりに軟骨荷重部と短手軸方向を指定させてもよい。また、長手軸と短手軸を指定させてもよく、この場合、例えば、それら両者の交点を軟骨形状の手前側の面に投影した点が軟骨荷重部となる。
次に、位置合わせ部62は、今回と前回の軟骨三次元画像の間で軟骨荷重部同士が一致するように今回の軟骨三次元画像を平行移動させるとともに、長手軸同士が一致するように今回の軟骨三次元画像を回転させる(S406)。
次に、位置合わせ部62は、前回と今回の軟骨三次元形状の各々について、それぞれ、指定された軟骨荷重部を通り長手軸及び視線方向にそれぞれ延びる直線を含んだ平面で切断した断面形状(長手軸断面と呼ぶ)を求める(S408)。例えば、図48の(A)には今回の長手軸断面640aが、(B)には前回の長手軸断面640bが、それぞれ例示されている。
次に位置合わせ部62は、今回の長手軸断面を前回の長手軸断面に位置合わせするための平行移動量及び回転角度を計算し、その計算結果に従って今回の軟骨三次元形状を平行移動及び回転させる。(S410)(詳細は後述)。
次に位置合わせ部62は、前回と今回の軟骨三次元形状の各々について、それぞれ、指定された軟骨荷重部を通り短手軸及び視線方向にそれぞれ延びる直線を含んだ平面で切断した断面形状(短手軸断面と呼ぶ)を求める(S412)。そして、今回の短手軸断面を前回の短手軸断面に位置合わせするための平行移動量及び回転角度を計算し、その計算結果に従って今回の軟骨三次元形状を平行移動及び回転させる。(S414)(詳細は後述)。以上により、今回の軟骨三次元画像が前回の軟骨三次元画像に対して三次元的に位置合わせされた状態となる。
次に、図49を参照して、長手軸断面及び短手軸断面についての位置合わせ(S410及びS414)の具体的な処理手順の例を説明する。以下では、長手軸断面同士の位置合わせの場合を例にとって説明するが、短手軸断面同士も同様の処理により位置合わせできる。
図49の手順では、まず位置合わせ部62は、今回の軟骨の長手軸断面形状の凸側の輪郭線(すなわち軟骨と筋肉等との境界)上に基準点Kを設定すると共に、前回の長手軸断面形状の凸側の輪郭線上に、例えば横方向について等間隔に、n個の検査点K1,K2,…,Knを設定する(S500)。図50の(A)には、今回の長手軸断面640aの表面に設定された基準点Kが例示され、(B)には前回の長手軸断面640bの表面に設定された検査点K1,K2,…,Knが例示される。以下では、説明を簡略化するため、今回の軟骨の長手軸断面形状を「断面形状X」と呼び、前回の軟骨の長手軸断面形状を「断面形状Y」と呼ぶことにする。
基準点Kとしては、例えば、表示画面上での断面形状Xの右端と左端との中点に該当する凸側の輪郭線上の点を選んでもよい。また、別の例として、指定された軟骨荷重部の点を基準点Kとしてもよい。また、検査点の個数nは、必要とする位置合わせの精度に応じて定めておけばよい。
次に位置合わせ部62は、カウンタjを1に初期化し(S502)、断面形状Xの基準点Kが断面形状Yの検査点Kjに一致するように、断面形状Xを平行移動させる(S504)。図51は、平行移動後の断面形状X(640a)とY(640b)との位置関係を示す。
そして位置合わせ部62は、この状態で、断面形状XとYとの重なり部分の面積を算出し、算出した面積をメモリ等に記憶する(S506)。面積は、例えば、重なり部分に含まれる画素の数を計数することで求めることができる。図52にハッチングで明示した部分650が重なり部分の例である。ここで、算出した面積は、jの値(この時点では1)及び断面形状Xの回転角度(この時点では0度)と対応づけて記憶しておく。なお、jの値の代わりに、基準点Kから検査点Kjまでのベクトル(平行移動を表す)をメモリに記憶しておいてもよい。
次に、位置合わせ部62は、断面形状Xを360度回転させ終わったかどうかを判定する(S508)。360度回転させ終わっていなければ、位置合わせ部62は、基準点Kを検査点Kjに一致させた状態で、基準点K回りに、あらかじめ定めた向き(図52の例では反時計回り)にあらかじめ定めた単位角度(例えば1度)だけ、断面形状X(640a)を回転させる(S510)。そして、再びS506で、断面形状XとYとの交わり部分の面積を計算し、その時点での平行移動ベクトル及び回転角度を表す情報と関連づけてメモリ等に記憶する。
基準点Kをある検査点Kjに一致させた状態で、S506〜S510の処理を繰り返す。そして、断面形状Xを360度回転させ終えると、S508の判定結果が肯定(Yes)となる。この場合、位置合わせ部62は、カウンタjの値がn(検査点Kjの総数)に達したか否かを判定し(S512)、達していなければjを1増加させて(S514)、ステップS504に戻る。すなわち、次の検査点Kjについて、同様の処理(S504〜S510)を繰り返す。
S504〜S514の処理をjがnに達するまで繰り返すと、S512の判定結果が肯定となる。この場合、位置合わせ部62は、メモリ等に記憶した重なり部分の面積の最大値を求める。断面形状X(640a)とY(640b)の重なり部分の面積が最大となった状態を図53に例示する。位置合わせ部62は、その面積の最大値に対応づけて記憶された平行移動量(ベクトル)及び回転角度だけ、今回の軟骨三次元画像を平行移動及び回転させる(S516)。
以上の処理により、長手軸断面形状を用いた位置合わせが完了する。この位置合わせは、今回の軟骨三次元画像を平行移動させ、短手軸回りに回転させるものである。
この後、S414で短手軸断面形状について同様の処理(図49)を行うことにより、今回の軟骨三次元画像を更に平行移動及び長手軸回りに回転させ、前回の軟骨三次元画像に位置合わせすることができる。
図49の手順では、今回の断面形状Xの基準点を前回の断面形状Yの全域に渡って設定された検査点の全てに対してそれぞれ移動させた場合について、それぞれ検査を行ったが、検査点の分布範囲を絞り込み、検査点の数を減らすこともできる。例えば、今回の断面形状Xの軟骨荷重部を基準点とし、前回の断面形状Yにおける軟骨荷重部の近傍のあらかじめ定めた範囲に検査点を設定するようにしてもよい。こうすることで、計算回数を低減することができる。
以上のように今回と前回の軟骨三次元画像を位置合わせすることで、それら両者を精度よく比較することができる。例えば、位置合わせをした後では、前回又は今回の軟骨三次元画像のいずれか一方の画像上で注目点を指定すれば、他方の画像上でその注目点に該当する点を特定することができる。今回と前回の軟骨三次元画像において各々の注目点での軟骨厚みを計算すれば、今回と前回とでほぼ同じ部位の厚みを求めることができる。
したがって、図3に示した経時変化算出部64は、例えば診断者から指定された同一点での軟骨厚みを、今回及び前回の軟骨三次元画像(又は軟骨輪郭形状)から求め、求めた両者の厚みを例えば並べて表示するための画像を生成することができる。また、その同一点での厚みが前回から今回までにどれだけ変化したか(増加又は減少)を計算し、その変化量を表示することもできる。
また、位置合わせを行えば、診断者が前回又は今回の軟骨三次元画像のうちの一方の上で、広さを持つ関心領域(例えば軟骨荷重部とその近傍範囲)を指定すると、他方の三次元画像上でそれに対応する関心領域が定まる。したがって、経時変化算出部64は、前回と今回との間で、同じ関心領域内の複数の点での軟骨厚みの統計情報(平均、分散、分布マップなど)をそれぞれ求めることができる。また、前回と今回での同じ関心領域での統計情報同士の差や比較結果なども、経時変化を示す分析結果の一種として求めることができる。
また、超音波計測により得られた膝内部の生のボリュームデータと軟骨抽出結果の位置関係は既知なので、前回と今回の軟骨三次元画像同士の位置合わせのための平行移動及び回転と同じだけ、今回の生のボリュームデータを平行移動及び回転させれば、今回のボリュームデータを前回のボリュームデータに位置合わせすることができる。
以上では、前回の軟骨三次元画像を基準とし、これに今回のものを位置合わせする場合を説明したが、位置合わせは前回と今回のどちらを基準にしても構わない。また、例えば基準となるXYZ座標系を定めておき、前回と今回の軟骨三次元画像の両方をそれら基準の座標系に位置合わせするようにしてもよい。この場合、例えば軟骨荷重部を基準座標系の原点とし、軟骨の長手軸、短手軸、三次元画像において軟骨荷重部が正面を向いた状態での視線方向を、例えばX軸、Y軸、Z軸の正の方向に一致するように位置合わせ(座標変換)すればよい。
また、以上の例では、今回新たに計測した軟骨形状と、記憶された前回の軟骨形状とを位置合わせして比較した。しかしながら、当業者ならば理解できるように、上述の位置合わせ処理は、前回と今回の計測結果の位置合わせに限らず、同じ被検者についての異なる2時点での計測結果同士の位置合わせ一般に適用可能である。例えば、データベース60に蓄積された同一被検者の過去の複数時点での計測結果情報の中から、診断者が2以上の各時点での軟骨形状を読み出し、それらを上述の処理により相互に位置合わせすることができる。
以上の例では、同一被検者の異なる時点の軟骨形状同士を位置合わせする基準として、軟骨の長手軸方向(又は短手軸方向)をユーザに指定させた。しかし、長手軸方向(又は短手軸方向)の代わりに、軟骨の形状における他の特徴的な方向を基準方向としてユーザに指定させてもよい。
以上に説明した例では、図3に示したように、画像前処理部22及び軟骨抽出部24は、三次元データメモリ20内の座標変換後のボリュームデータに対して処理を行った。しかし、これは一例に過ぎない。この代わりに、電子走査により得られる1フレームの画像ごとに、画像前処理部22及び軟骨抽出部24が処理を行ってもよい。この場合の装置構成の例を図54に示す。図54において、図3と同様の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
図54の例では、送受信部16により求められた1電子走査フレームの画像データがフレームメモリ52に蓄積される。画像前処理部22はこのフレームメモリ52内の画像データに対して上述の前処理を行い、軟骨抽出部24はその前処理結果に対して上述の軟骨抽出処理を行う。そして、座標変換部54は、軟骨抽出部24が抽出した電子走査フレームごとの軟骨輪郭の形状を、表示や保存のための共通座標系に変換し、その変換結果を三次元データメモリ26に蓄積する。また、フレームメモリ52内の電子走査フレームのデータは、座標変換部18により共通座標系へと座標変換され、その変換結果が三次元データメモリ20に格納される。
また、以上の例では、軟骨に該当する部分(例えば基準点R)をユーザに指定させ、これを元に軟骨抽出を行ったが、これは必須ではない。例えば、回転軸42(図4参照)を膝に対して適切に位置決めすることで、軟骨の画像がボリュームデータ中の、あらかじめ定めた範囲内に位置するようにすることができる。このようなボリュームデータ(あるいはその中のスライスデータ)(例えばエッジ抽出後が好適)と、例えばあらかじめ用意した軟骨の形状・サイズを表すテンプレート画像とのマッチング処理を行うことで、おおよそ軟骨であると推定される部分を求め、その中のある点乃至領域を基準点Rなどに選ぶことができる。このような処理は自動化することができる。
また、以上では膝内部のボリュームデータを得るために、電子走査の振動子アレイ12とメカ走査機構14を組み合わせたプローブ10を用いたが、この代わりに、電子的に二次元走査を行うプローブを用いてもよい。
以上に説明した実施形態によれば、超音波プローブという非侵襲で、かつMRIなどと比較して低コストの装置を用いて、大腿骨遠位端の軟骨の三次元形状を抽出することができる。そして、同一被検者について異なる時点で求めた軟骨形状同士を位置合わせすることで、異なる時点での軟骨の状態(例えば厚み)同士の比較精度を高めることが期待できる。
また、上記実施形態では、ユーザに軟骨荷重部や長手軸などの軟骨の特徴点、特徴方向を指定させ、それた特徴点、特徴方向を合わせるように、異なる時点での軟骨形状同士を位置合わせしている。これにより、比較的少ない計算処理量で精度の高い位置合わせを実現できる。
また、上記実施形態では、指定された軟骨荷重部及び長手軸方向により規定される面で三次元の軟骨形状を切断した断面同士でマッチングを行うことで、三次元形状同士のマッチングよりも計算量を低減することができる。
また、上記実施形態では、プローブと大腿骨骨軸との既知の位置関係に応じて、抽出した軟骨の三次元画像の向きを調整することで、変形性膝関節症の注目部位である軟骨荷重部を見つけやすい向きの軟骨の三次元表示を生成することができる。ユーザはこの表示を見ながら、軟骨荷重部に該当する点又は範囲を、容易に指定することができる。
10 メカニカル三次元プローブ、12 振動子アレイ、14 メカ走査機構、16 送受信部、18 座標変換部、20 三次元データメモリ、22 画像前処理部、24 軟骨抽出部、26 三次元データメモリ、28 画像形成部、30 表示部、32 入力部、34 抽出ROI設定部、40 振動子部、42 回転軸、44 アーム、46 スタンドオフ、100 大腿骨。