V.詳細な説明
本発明の化合物、組成物、物品、デバイスおよび/または方法が開示および記載される前は、これらは、そうでないと特定されない限り、特定の合成方法もしくは特定の組換え生物工学的手法に限定されないか、または、そうでないと特定されない限り、特定の試薬に限定されず、したがって、当然のことながら、これらは変わり得るということが理解されるべきである。また、本明細書中で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明する目的のみのためのものであり、限定するものとしては意図されないことも理解されるべきである。
A.定義
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確にそうでないと指示しない限り、複数への参照を含む。したがって、例えば、「薬学的キャリア(a pharmaceutical carrier)」に対する参照は、2以上のこのようなキャリアの混合物を含む、などである。
範囲は、本明細書中では、「約」1つの特定の値から、および/または、「約」別の特定の値まで、として表され得る。このような範囲が表される場合、別の実施形態は、1つの特定の値から、および/または、他の特定の値まで、を含む。同様に、値が、先行詞「約」を用いることによって、近似として表される場合、その特定の値が別の実施形態を形成することが理解される。さらに、範囲の各々の終点は、他の終点に関連して、そして、他の終点とは独立して、有意であることが理解される。また、多数の値が本明細書中に開示されること、そして、これらの値の各々はまた、その値自身に加えて、「約」その特定の値として本明細書中に開示されること、も理解される。例えば、値「10」が開示される場合、「約10」もまた開示される。また、値が、その値「以下(less than or equal to)」として開示されるとき、当業者により適切に理解されるように、「その値以上(greater than or equal to the value)」およびその値の間で可能な範囲もまた開示されることも理解される。例えば、値「10」が開示される場合、「10以下(less than or equal to 10)」ならびに「10以上(greater than or equal to 10)」もまた開示される。また、本出願の全体を通して、データは、多数の異なる形式で提供されること、そして、このデータが、終点および始点、ならびに、これらのデータ点の任意の組み合わせについての範囲を表すこと、も理解される。例えば、特定のデータ点「10」および特定のデータ点15が開示される場合、10および15より大きい(greater than)、10および15以上(greater than or equal to)、10および15未満(less than)、10および15以下(less than or equal to)、ならびに、10および15に等しい値も、10と15との間と同様に開示されるものとみなされることが理解される。また、2つの特定の単位の間の各単位もまた開示されることも理解される。例えば、10および15が開示される場合、11、12、13および14もまた開示される。
本明細書および添付の特許請求の範囲において、多数の用語に対して参照がなされ、これらの用語は、以下の意味を有するものとして規定されるべきである:
「必要に応じた」または「必要に応じて」は、引き続き記載される事象または状況が起こっても起こらなくてもよく、そして、その説明が、上記事象または状況が起こる場合と、その事象または状況が起こらない場合とを含むことを意味する。
本出願の全体を通して、種々の刊行物が参照される。これらの刊行物の開示は、その全体が、本願が属する分野の技術水準をより完全に説明するために、本明細書中に参考として援用される。開示される参考文献もまた、その参考文献が頼られる文脈において考察される、その参考文献中に含まれる題材について、個々に、そして具体的に本明細書中に参考として援用される。
B.方法
1.クロストーク
本明細書中で開示されるように、炎症が存在するとき、脳と末梢との間にはクロストークが存在する。本明細書中で使用される場合、「クロストーク」は、例えば、脳の細胞の、末梢の細胞に影響を及ぼす能力、および、末梢の細胞の、脳の細胞に影響を及ぼす能力、を指し得る。末梢および中枢神経系は、末梢および中枢神経系を含むサイクルを通して炎症を悪化させるように連絡し得る。炎症は、脳および中枢の神経細胞、ならびに、末梢の両方において生じ得る。本明細書中で開示されるように、末梢での事象は、中枢神経系の状態に影響を及ぼし得、そして、中枢神経系での事象は、末梢の状態に影響を及ぼし得る。この連絡は、血中で運ばれ得るか、または、神経細胞によって直接生成され得る炎症性メディエーター(サイトカイン)の作用を介して起こる。本明細書中で開示されるように、関節炎のような持続的な抹消の炎症は、中枢神経系の炎症と、アルツハイマー病(神経変性)のようなその後の脳への損傷、または慢性疼痛へとつながり得る。さらに、脳起源の炎症性状態は、発生段階または成人の生活の間に、末梢組織に影響を及ぼし得、それぞれ、骨格の変形および変性障害へとつながる可能性がある。
a)神経系
一局面では、本明細書中に開示されるクロスリンクは、神経系に関するものである。神経系は、2つの部分に分けられ得る:中枢および末梢。中枢神経系は、脳(encephalon or brain)と、脊髄(medulla spinalis or spinal cord)とから構成される。これらの2つの部分、脳および脊髄は、環椎の上部境界のレベルで互いに連続している。末梢神経系は、中枢神経系を身体中の全ての組織に接続する一連の神経から構成される。神経はたまた、脳脊髄系と交感神経系として分けられる。しかし、2つの群は、内奥で接続され、そして、密接に混じり合っているので、これらの区別は絶対的なものではない。神経細胞はまた、遠心性神経または求心性神経としても分類され得る。遠心性の神経細胞は、脳からの信号を末梢に伝達する神経細胞であり、そして、求心性の神経細胞は、末梢からの信号を脳に伝達する神経細胞である。
ニューロンは、疼痛経路として作用し、そして、これらの経路は、末梢、脊髄および脊柱上の要素を含む。この系の末梢部分は、一次性の求心性感覚ニューロンを含む。これらのニューロンは、侵害受容器と呼ばれ、そして、皮膚、筋肉、結合組織、心臓系、ならびに、腹部および胸部の内臓のような、身体の至るところで見出され得る。侵害受容器は、熱的、機械的または化学的な刺激を検出する莢になっていない(uncapsulated)神経終末であり、したがって、低分子レセプターではない。侵害受容器は、薄い髄鞘を持つ神経線維または無髄の神経線維であり得る。この薄い髄鞘を持つ種類は、A−δ線維と呼ばれ、そして、無髄の種類は、C−ポリモーダル(polymodal)線維と呼ばれる。Aδ線維とCδ線維との間の主な機能的な差異は、A−δ線維が迅速に伝達するのに対し、Cδ線維はゆっくりと伝達する点である。これは、Aδ線維が、速く、急で、十分に局在化された刺すような痛みとして感知される知覚を伝達し、C−ポリモーダル線維が、鈍く、ずきずきと痛み、焼けるような、あまり局在化されないような痛みとして感知される知覚を伝達する、熱的、機械的および化学的な刺激を介して、感覚を伝達することを意味する。
A−δおよびC−ポリモーダルの求心性線維の多くは、神経後根およびその神経節を通って、脊髄の後角に入る。広範なダイナミックレンジの神経は、皮膚、筋肉および内臓から、侵害受容性および非侵害受容性の入力を受ける。この集合点は、内臓の関連痛を説明し得る。次いで、脊髄視床路(STT)によって、インパルスが脳に伝達される。視床付近で、STTは、新脊髄視床路(neospinothalamus tract)および旧脊髄視床路(paleospinothalamus tract)へと分岐し、脳幹において、視床、視床下部、中脳水道周囲白灰質(PAG)へと神経刺激を発射する。視床の突起の感覚入力は、大脳皮質、基底核、および辺縁系へと神経刺激を発射する。下降性の経路は、脳から脊髄への伝達を行い、そして、求心性の感覚入力を制御および修正する。
侵害受容は、侵害受容器による組織損傷の検出として考えられ得る。侵害受容の調整は、末梢、脊髄、そして、脊柱上で起こる。組織損傷は、セロトニン、ヒスタミン、ブラジキニン、サイトカイン、プロスタグランジンおよびロイコトリエンのような、炎症を生じる化学的メディエーターの放出に関連しており、そして、末梢の系において起こる。痛みの伝達は、これらの事象により調整され、そして、これにより、侵害受容器の閾値の興奮性の閾値を低下させ、その結果、通常は痛みを伴わない刺激である刺激が、痛みを伴うようになる。これは、侵害受容器の感作と呼ばれる。侵害受容器を感作する2つの他の物質は、サブスタンスPおよびグルタミン酸であり、これらは、神経終末から放出され得る。
侵害受容器からの信号は、脊柱の後角において処理される。後角におけるA−δ線維およびCポリモーダル線維からの繰り返しかつ収束性の入力は、痛みの応答の生成により少ない刺激が必要とされる状態を生じ得る。これは、巻上げ(wind−up)現象として知られ、そして、サブスタンスP、ならびに、興奮性のアミノ酸であるグルタミン酸およびアスパラギン酸の放出によって開始されると考えられる。
脳はまた、脊髄に信号を送って、痛みの応答を調整する。脳幹のPAG領域は、高濃度のオピオイドレセプターを含み、そして、吻側髄質に、そして最終的には、後根に神経刺激を送り、上行性の痛みのインパルスを阻害する。したがって、オピオイドレセプターの活性化は、痛みの信号の伝達を妨げる。下行性経路はまた、脊髄の侵害受容の伝達も刺激し得る。
b)グリアの活性化
本明細書中に開示される場合、慢性の末梢性炎症は、痛みの発生に加えて、一次性(1°)の求心性の感覚線維の持続的な興奮の後に、脊髄の後角におけるグリア細胞の活性化をもたらす。この目的のために、グルタミン酸およびサブスタンスP(SP)のような興奮性の神経伝達物質は、このニューロンからグリアへのシグナル伝達を媒介する。次に、活性化されたグリア細胞は、炎症性サイトカインおよびプロスタノイドのような種々の炎症性メディエーター(例えば、IL−1β)の発現によって、感覚の入力を示す領域に近い後角に局在化された神経炎症を誘導し得る。本明細書中に開示される場合、グリアの活性化およびその後の後角のレベルでの神経炎症の発生は、末梢の炎症性疼痛のプロセスにおいて重要な役割を果たす。特に、グリアに由来する神経炎症は、シナプス後ニューロンの興奮を誘導することによって、痛みの中心性のプロセスに影響を及ぼし得る。さらに、シナプス前(1次性)ニューロンもまた、この機構により影響を受けて、1次性の求心性の感覚線維のさらなる興奮をもたらし得る。
本明細書中には、痛みにおけるグリア細胞の役割と、髄質の後角(脳幹)のレベルに局在化された神経炎症が痛みのプロセスに影響を及ぼし得る機構とが開示される。したがって、本明細書中には、被験体において末梢性の炎症を処置するための組成物および方法が提供され、この方法は、被験体の中枢神経系に、炎症の調節因子を投与する工程を包含する。特定の実施形態では、この投与は、全身性または末梢性の投与ではなく、脳幹に直接なされ得る。例えば、炎症の調節因子は、後角、大槽または被膜嚢(thecal sac)に直接投与され得る。
また、末梢性の炎症から生じるグリアの活性化は、神経の炎症性疾患につながり得ることも本明細書集に開示される。したがって、末梢性の炎症の処置は、神経の炎症性障害を処置または予防し得る。したがって、本明細書中には、被験体において脳障害を処置するための組成物および方法が提供され、この方法は、被験体の末梢の炎症部位に炎症の調節因子を投与する工程を包含する。
提供される組成物および方法のさらなる利点は、神経系と骨/関節との間の相互関係に関連し、この場合、神経炎症は骨の発生に影響を及ぼし(骨粗しょう症、関節炎など)、そして、骨/関節の疾患は、神経学的機能に影響し得る。例えば、正常な脳顔面頭蓋の成長は、頭蓋底の軟骨結合に神経を分布している節後交感神経線維を介して、交感神経系の生理学的機能に少なくとも部分的に依存している。交感神経系の変化は、骨格パターンの形成と軟骨の成熟に影響を与え、2つの系をつなぐブリッジとして、カテコラミンのホメオスタシスの変化を伴う。したがって、本明細書中には、被験体における骨疾患を処置または予防するための組成物および方法が提供され、この方法は、被験体の中枢神経系に炎症のメディエーターを投与する工程を包含する。例えば、炎症の調節因子は、後角、大槽または被膜嚢に直接投与され得る。
また、例えば、副甲状腺ホルモン(PTH)のような当該分野で公知の骨/関節の処置を用いて、脳障害を有する被験体を処置するための組成物および方法も提供される。さらに、骨疾患を予防/縮小し得る抗炎症因子(例えば、FIV(IL1−ra))を用いて、脳障害を有する被験体を処置するための組成物および方法が提供される。さらに、関節疾患を有する被験体を処置するための組成物および方法が提供され、上記処置はまた、神経学的疾患も軽減し得る。
一局面では、提供される方法のための炎症の調節因子は、傍分泌および/または内分泌の経路を介して、炎症促進性サイトカインであるインターロイキン−1βを調節し得る。例えば、提供される方法のための炎症の調節因子は、インターロイキン−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)であり得る。あるいは、提供される方法のための炎症の調節因子は、IL−1βであり得る。さらに、提供される方法のための炎症の調節因子は、拡散し得るIL−1raまたはIL−1βを発現する、骨髄芽球免疫細胞(例えば、単球、マクロファージ、樹状細胞またはこれらの前駆体)のような細胞であり得る。
「調節する」または「調節すること」は、活性の増加または減少を指す。これには、活性、状態、疾患、もしくは応答、または、他の生物学的パラメーターの阻害または促進が挙げられ得るがこれらに限定されない。炎症の阻害因子または活性化因子が好ましいかどうかは、炎症の部位および段階に依存し得る。たとえば、開示されるIL−1βの調節因子は、IL−1βシグナル伝達の阻害因子または活性化因子であり得る。炎症の部位および段階に基づいて好ましい調節を決定するために、本明細書中に開示される方法およびモデルを使用することは、当業者の技術の範囲ないである。したがって、本明細書中で使用される場合、「阻害する」または「阻害因子」はまた、そうでないと明白に述べられない限り、活性化因子および誘導因子のような調節因子を指し得る。
2.炎症
本明細書中に開示されるクロスリンクは、感覚の入力を示す領域に近い後角に局在化された神経炎症を伴い得る。したがって、中枢の神経組織(例えば、後角のグリア細胞)における炎症を調節する組成物および方法は、炎症および疼痛の遠位部位に対して効果を有し得る。同様に、末梢性の炎症を調節する組成物および方法は、神経炎症およびそこから生じた障害に影響を及ぼし得る。
したがって、本明細書中には、炎症を調節するために使用され得る、ポリペプチド、核酸、ベクターおよび細胞を含有する組成物が提供される。炎症は、疼痛、赤み、腫れ、そして、ときおり、機能不全によって特徴付けられる、過敏、損傷または感染に対する、組織の局在化された防御反応である。本明細書中で使用される場合、「炎症性障害」または「炎症性疾患」は、組織が、ウイルス、細菌、外傷、化学物質、熱、低温、または任意の他の有害な刺激によって損傷を受けるときに生じる持続性または慢性の炎症のような、炎症が関与するあらゆる状態、疾患または障害を指す。過敏または不快感は、例えば、皮膚の炎症、眼の炎症、腸の炎症などに起因する、哺乳動物の炎症から生じ得る。
一局面では、開示される方法の末梢性の炎症は、関節炎である。疾患としての関節炎は、多くの異なる障害および症状を含み得、そして、身体の多くの部分に影響を及ぼし得る。関節炎は代表的に、疼痛、動作の損逸、そして、ときおり、腫れを引き起こす。関節炎は、実際には、一連の100を超える現在の医学的状態について使用される用語である。関節炎は、最も一般的には老齢の個体に関連しているが、幼少ぐらいの早期に発症することもある。いくつかの形態は、その若い成人を冒す。関節炎の状態のうちの一般的な局面は、これらが、筋骨格系、より具体的には、2以上の骨が交わる関節を冒すことである。関節炎に関連する関節の問題は、関節軟骨(骨の端部を覆って、骨が互いに対して滑らかに動くことを可能にする、頑丈で滑らかな組織)および周囲の構造に対する疼痛、こわばり、炎症および損傷が挙げられ得る。このような損傷は、関節が関与する位置に依存して、関節の弱さ、不安定さおよび目に見える変形へとつながり得る。関節炎の状態の多くは、全身を冒すという点で、全身性である。これらの疾患において、関節炎は、身体の実質的にあらゆる器官またはシステム(心臓、肺、腎臓、血管および皮膚を含む)に対する損傷を引き起こし得る。
関節炎のいくつかの異なるタイプは、変形性関節症、慢性関節リウマチ、痛風、強直性脊椎炎、若年性関節炎、全身性エリテマトーデス(狼瘡)、強皮症および線維筋痛症である。変形性関節症は、関節において骨の端部を覆う軟骨が損なわれ、骨が骨に対して擦り付けられ始めるときに痛みおよび動作の損逸を引き起こす、変性性の関節疾患である。これは、関節炎の最も一般的な形態である。慢性関節リウマチは、身体の免疫系の活動の一部として関節の内層に炎症が起こされる自己免疫疾患である。慢性関節リウマチは、最も深刻かつ身体的損傷のあるタイプであり、主として、女性を冒す。痛風は、主として男性を冒す。これは通常、身体の化学における欠陥の結果である。この痛みを伴う状態は、小さな関節、特に、足の親指を攻撃することが最も多い。幸運なことに、痛風は、ほぼ常に、薬物治療および食事の変化により完全に制御され得る。強直性脊椎炎は、脊柱を冒す関節炎のタイプである。炎症の結果として、脊柱の骨は一緒に成長する。若年性関節炎は、小児において生じる関節炎の全てのタイプについての一般的な用語である。小児は、若年性慢性関節リウマチ、または狼瘡、強直性脊椎炎もしくは関節炎の他のタイプの小児型を発症し得る。全身性エリテマトーデス(狼瘡)は、身体全体の関節および他の結合組織に炎症および損傷を起こし得る障害である。強皮症は、皮膚の腫れ上がりおよび硬化引き起こす、身体の結合組織の疾患である。線維筋痛症は、広範囲に及ぶ痛みが、筋肉および骨に付着するものを冒す障害である。この疾患は、主として、女性を冒す。
小グリア細胞および星状細胞の活性化、ならびに、広範囲の炎症性メディエーターの局所的な発現によって特徴付けられる神経炎症は、外傷によるものであれ、発作によるものであれ、感染によるものであれ、神経変性によるものであれ、脳の損傷に対する基本と成る応答である。この局所的な組織の応答は、疑いなく、修復および復旧のプロセスの一部である。なお、末梢性の疾患における多くの炎症性の状態と同様に、神経炎症は、CNS障害の病理生理学に寄与し得る。例えば、アルツハイマー病(AD)において、グリアにより駆動されるAβ堆積に対する炎症性の応答は、ADにおける神経炎症の程度、炎症促進性サイトカイン遺伝子の特定の多型を有するADに対するリスクの増加、および、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を摂取する個体に対する疾患のリスクの減少によって実証されるように、神経の変性を促進すると考えられる。
本明細書中では、あらゆる炎症性疾患の研究および処置に関連した、提供される組成物および方法の使用が考慮される。したがって、提供される組成物および方法は、炎症性腸疾患の研究および処置に関連する。提供される組成物および方法は、慢性皮膚科学障害の研究および処置に関連する。
提供される組成物および方法の特定の利点は、本明細書中に記載される、炎症性メディエーターおよびその開示される調節因子を、末梢への投与によって、脳に送達する能力である。例えば、本明細書中に開示される核酸を、被験体内の標的部位へと送達し得るFIVベクターが本明細書中に開示される。開示されるFIV構築物は、循環中への注射によって全身性に、または、標的部位への注射によって局所的に送達され得、その結果、いずれの投与方法も、例えば、小グリア細胞または星状細胞のような脳内の細胞への核酸の送達をもたらし得る。全身投与後に脳に核酸またはトランスジーンを送達するためのFIVベクターの使用は、米国特許出願第10/978,927号およびPCT出願番号PCT/US05/04885(これらは、これらの出願がこの教示に関連している程度に、その全体が本明細書中に参考として援用される)に記載される。したがって、本明細書中に開示されるような神経の炎症性障害は、例えば、被験体の関節への注射を介した、本明細書中に考察されるような炎症性メディエーターの送達によって処置され得る。さらに、骨および/または関節に関連する炎症性状態は、本明細書中に考察されるように、関節内への注射によってか、または、全身への注射もしくはIP注射によって処置され得る。
慢性の炎症性障害としては、関節炎、炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患、乾癬およびアテローム性動脈硬化症が挙げられ、これらは全て市場が大きい。成人の12%は変形性関節症を有し、そして、米国において、臨床上の変形性関節症は、2100万人の患者において診断されており、そして、500,000近い股および膝の関節置換手術の原因である。さらに200万人の患者が、慢性関節リウマチを有する。
3.疼痛
組織に対する損傷の延長、すなわち、炎症から生じる損傷は、最終的には、その領域からの痛みをプロセスするニューロンにおける成形的な(非可逆的な)変化を生じ、これは、今度は、異痛症および/または痛覚過敏のいずれかを促進する。慢性的な疼痛は、これらの成形的な神経の変化の後に生じ、その結果、ニューロンは、現在「病的(sick)」であり、そして、末梢性の刺激(例えば、肢の切断、抜歯)がない場合でさえ疼痛が生じる。実際、その基礎は、現在ニューロパシー性であり、そして、ニューロンは、継続する組織の損傷がない場合でさえも、脳に痛みのメッセージを送り続ける。したがって、慢性疼痛は、末梢と中枢の神経組織との間の相互のクロストークから生じる慢性的な炎症を阻害することによって、処置または防止され得る。末梢と中枢神経系との間の開示されるクロストークの別の利点は、中枢の神経組織(例えば、後角)内の疼痛のインパルスを阻害することにより、慢性疼痛および末梢性の炎症性障害を処置する能力である。
世界中で約15億人の人が中程度〜重篤な慢性疼痛に苦しんでおり、そして、約5000万人のアメリカ人が疼痛に苦しんでいる。疼痛は、代表的には、2つのカテゴリーに分類される:侵害受容性の疼痛(体性疼痛)およびニューロパシー性の疼痛。侵害受容性の疼痛は、いくつかのタイプの外傷の後に検知される疼痛である。侵害受容性の疼痛は、神経系に接続される「侵害受容器」の感覚線維によって検知される。筋肉、軟部組織(靭帯、腱)、骨、関節または皮膚(または他の器官)への損傷の後、これらの感覚線維が刺激され、この刺激が、求心性ニューロンを介する脳への信号の伝達を引き起こす。侵害受容性の疼痛は、しばしば、深部のうずき、ずきずきする痛み、絶え間ない苦痛または圧痛(sore)の感作として特徴付けられる。侵害受容性の疼痛の一般的な例としては、外傷後疼痛(例えば、交通事故または転落)、術後疼痛、および関節炎の疼痛が挙げられる。侵害受容性の疼痛は通常局在化されており、そして、良好に治癒する。
ニューロパシー性の疼痛は、神経組織に対する損傷により引き起こされる疼痛である。ニューロパシー性の疼痛は、しばしば、灼熱痛(burning)、重篤な電撃痛(shooting pain)および/または持続的な感覚麻痺もしくは刺痛として特徴付けられる。背部疼痛に関連するニューロパシー性の疼痛の一般例は、坐骨神経痛、脊柱から腕へと下って移動する痛み、および、背部の外科手術後に持続する痛みが挙げられる。
いくつかの場合において、侵害受容性の疼痛の延長は、ニューロパシー性の疼痛へと進行し得、そして、患者は、侵害受容性の疼痛とニューロパシー性の疼痛の両方を同時に有し得ると考えられる。疼痛はまた、しばしば、急性疼痛または慢性疼痛として分類される。急性疼痛は、痛みの量が組織の損傷のレベルおよび持続期間と直接的に相関している疼痛として特徴付けられる。したがって、急性疼痛は、鋭利な物体に触れたときに即座に手を動かす反射のような、防御性の反射をもたらす。このタイプの疼痛は、損傷を受けたか、または病んでいる組織の一症状であり、その結果、根底にある問題が治癒されると、疼痛がなくなる。急性疼痛は、侵害受容性の疼痛の一形態である。一方で、慢性疼痛は、傷害の重篤度と相関しておらず、したがって、代表的には、防御機能を果たさない。組織に対する損傷の延長(すなわち、膝の疼痛または歯痛)は、最終的には、その領域からの痛みをプロセスするニューロンにおける成形的な(非可逆的な)変化を生じ、これは、今度は、異痛症および/または痛覚過敏のいずれかを促進する。慢性的な疼痛は、これらの成形的な神経の変化の後に生じ、その結果、ニューロンは、現在「病的」であり、そして、末梢性の刺激(例えば、肢の切断、抜歯)がない場合でさえ疼痛が生じる。実際、その基礎は、現在ニューロパシー性であり、そして、ニューロンは、継続する組織の損傷がない場合でさえも、脳に痛みのメッセージを送り続ける。ニューロパシー性の疼痛は、慢性疼痛の一形態である。本明細書中には、慢性疼痛を処置および軽減する方法および機構および組成物が開示される。慢性疼痛を引き起こす機構、ならびに、末梢の神経シグナル伝達および背部神経のシグナル伝達と炎症との関係が開示される。
a)疼痛の管理
本明細書中に提供される組成物および方法は、さらに、疼痛を管理する組成物および方法の使用を含み得る。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、しばしば、疼痛管理のための第一選択薬として利用される。NSAIDは主に、プロスタノイドの生成を阻害し、そして、疼痛誘発を担い得る末梢の炎症性状態を軽減することによって、その疼痛鎮静作用(pain−killing effect)を発揮する。あるいは、コルチコステロイドが、末梢の作用経路で利用され得る。対照的に、外から投与されたオピオイド薬物(モルヒネ)は、脳血液関門(BBB)を通過することによって、内因性オピオイドの作用を模倣する。同様に、BBBを通過する三環系抗うつ薬もまた、セロトニンおよびノルエピネフリンの再取り込みを阻害することによって、慢性疼痛の症例において使用されている。しかし、これらの薬物の4つの分類の各々は、重大な副作用によって特徴付けられ、これらの副作用は、その長期にわたる使用を禁じると同時に、しばしば、望ましくない処置の結果を示す。
b)オピオイドレセプターおよび作用機構
オピオイド鎮痛薬は、数百年にわたり、疼痛の管理に使用されてきた。アヘン自体は、ケシ科ケシであるPapaver somniferumの未熟な果実からの乳状液を乾燥させたものから構成される。モルヒネは、アヘンから単離される。オピオイドレセプターは、神経系の脊髄および脊柱上の領域に存在する。オピオイドは、後根神経節、一次性の求心性ニューロンの中枢の終末(LaMotte C,et al.,Brain Res 1976;112:407−12;Fields HL,et al.,Nature 1980;284:351−3)、ならびに、末梢の感覚神経線維およびその終末(Stein C,et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 1990;87:5935−9;Hassan AHS,et al.,Neuroscience 1993;55:185−95)におけるオピオイドレセプターに結合することによって、神経伝達を調節し得る。後根神経節および三叉神経節(Xie GX,et al.,Life Sciences 1999;64:2029−37;Li JL,et al.,Brain Res 1998;794:347−52)は、オピオイドレセプターに対するメッセンジャーRNA(mRNA)を含み(Schafer M,et al.,Eur J Pharmacol 1995;279:165−9;Mansour A,et al.,Brain Res 1994;643:245−65)、そして、一次性の求心性神経は、モルヒネの末梢性の抗侵害受容作用を媒介する(Bartho L,et al.,Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 1990;342:666−70)。内因性オピオイドおよびそのレセプターの存在は、強力な抗侵害受容作用を生じ得る。オピオイドは、感覚ニューロンの細胞体内のカリウムの流れを増加させ、そして、カルシウムの流れを減少させる(Werz MA,Macdonald RL.,Neurosci Lett 1983;42:173−8;Schroeder JE,et al.,Neuron 1991;6:13−20)。これらは共に、神経炎症(firing)および伝達物質の放出の阻害へとつながり得る。ニューロン全体で生じる動揺のプロセスは、オピオイドがなぜ末梢性の侵害受容終末の興奮と活動電位の伝達の両方を軽減するかを説明し得る(Andreev N,et al.,Neuroscience 1994;58:793−8;Russell NJW,et al.,Neurosci Lett 1987;76:107−12)。中枢の神経終末において(Yaksh TL,et al.,Nature 1980;286:155−7)、オピオイドは、末梢性の感覚神経終末からの興奮性かつ炎症促進性の化合物(例えば、サブスタンスP)のカルシウム依存性の放出を阻害し(Yaksh TL.,Brain Res 1988 458:319−24)、これは、オピオイドの抗炎症性作用に寄与する(Barber A,Gottschlich R.et al.,Med Res Rev 1992;12:525−62)。
3つの公知のオピオイドレセプター、μ−オピオイドレセプター、κ−オピオイドレセプターおよびδ−オピオイドレセプターが存在する。μ−レセプターはさらに、少なくとも2つのサブクラス、μ1−レセプターおよびμ2−レセプターに細分される。身体は、内因性オピオイドと呼ばれる、エンドルフィン、エンケファリンおよびジノルフィンのようなオピオイド様分子を生成する。μ−レセプターは、痛覚消失、呼吸抑制、徐脈、悪心/嘔吐および消化管の張りの減少を媒介することが知られる。
δ−レセプターは、脊柱上の痛覚消失を媒介し、そして、κ−レセプターは、不快気分および頻脈を媒介する。痛みのインパルスが脊髄および脊柱上の神経系を通って上行するとき、オピオイドレセプターの活性化は、これらのインパルスを阻害し、そして、後角からの痛みの伝達を阻害する。さらに、オピオイド鎮痛薬は、サブスタンスPのような疼痛メディエーターの脊髄領域へのシナプス前放出を防止する。
哺乳動物(例えば、ヒト)のようなあらゆる動物が、オピオイドレセプターを含有する。動物の種にまたがって、種々のオピオイドレセプターの相同体が存在するものと理解される。多数の異なるオピオイドレセプターの配列が、配列番号で示され、これには、μ−オピオイドレセプターが含まれる。ヒトμ−オピオイドレセプターは、本明細書中で、HUMORと称される。特定の言説または参照がHUMORに関してなされる場合、具体的にそうでないと示されない限り、この言説は、相同なレセプターに対しても等しく適用可能であることが理解される。
オピオイド鎮痛薬は、代表的には、3つの分類にグループ分けされる:天然に存在するもの(モルヒネ、コデイン);半合成モルヒネ誘導体(ヒドロモルヒネ、オキシコドン、ヒドロコドン);および合成品。合成のオピオイド鎮痛薬としては、モルヒナン誘導体(レボファノール);メタドン誘導体(メタドン、プロポキシフェン);ベンゾモルファン誘導体(ペンタゾシン);およびフェニルピペリジン誘導体(メペリジン、フェンタニル、スフェンタニル、アルフェンタニル、レミフェンタニル)が挙げられる。トラマドールは、ノルエピネフリンおよびセロトニンの再吸収も阻害するオピオイド鎮痛薬である。
オピオイド鎮痛薬を分類するための別の方法は、オピオイドレセプターにおけるその相互作用に基づいて、アゴニスト、部分アゴニスト、混合型アゴニスト/アンタゴニスト、および、アンタゴニストとして分類することである。μオピオイドレセプターおよびκオピオイドレセプターは、アゴニストにより刺激される。部分アゴニストは、低いμ−オピオイドレセプター活性を有し、そして、混合型アゴニスト/アンタゴニストは、特定のμオピオイドレセプターおよびκ−オピオイドレセプターのみを刺激する。アンタゴニストは、μ−オピオイドレセプターおよびκ−オピオイドレセプターに結合するが、レセプター活性を刺激しない。
いくつかのアゴニストは、モルヒネ、ヒドロモルヒネ、オキシモルヒネ、コデイン、オキシコドン、ヒドロコドン、ジヒドロコデイン、メタドン、メペリジン、フェンタニル、スフェンタニル、アルフェンタニルおよびレミフェンタニルである。部分アゴニストの例は、ブプレノルフィンである。ペンタゾシン、ナルブフィンおよびブトルファノールは、混合型アゴニスト/アンタゴニストの例である。アンタゴニストの例は、ナロキソンおよびナルメフェンである。オピオイドレセプターを分類する1つの方法は、例えば、アンタゴニストとして作用する分子、および、アゴニストとして作用する分子、として分類するものであることが理解される。したがって、レセプターは、「モルヒネがアゴニストとなるレセプター」として定義され得る。
CNS作用(例えば、鎮静、錯乱および呼吸抑制)のような、オピオイド鎮痛薬を摂取したときに生じ得る有害な副作用が多数存在する。消化管の有害な作用としては、悪心、嘔吐および便秘が挙げられる。ミオクローヌスとして知られる不随意筋収縮(痙攣)、徐脈および低血圧もまた生じ得る。最後に、オピオイド鎮痛薬を使用する際または延長して使用する際、身体的依存および精神的依存もまた生じ得る。したがって、多くの適応症におけるオピオイド鎮痛薬に対する必要性を減少または排除する、開示される組成物および方法に対する大きな必要性が存在する。
c)疼痛のためのμ−オピオイドレセプター治療
μ−オピオイドレセプターのようなオピオイドレセプターの標的化された発現を用いた疼痛の管理が、米国特許出願第10/546,179号(この教示についてその全体が本明細書中に参考として援用される)に記載される。疼痛の管理についての開示されるアプローチは、疼痛を経験する口顔の領域のような一次性のニューロンが分布する領域において、μ−オピオイドレセプターのようなオピオイドレセプターを標的化して発現させ、これらの一次性ニューロンを内因性オピオイドの抗侵害受容機構に対してより感受性とさせることを必要とする。したがって、疼痛を処置するための組成物および方法が開示される。組成物は、ベクターから発現されるオピオイドレセプターを含む。代表的には、これらの組成物は、疼痛点に送達される。その発現が、身体自身のオピオイド様分子の効力を高め、そして、疼痛を減少させるものと考えられる。
本明細書中に開示されるように、ヒトμ−オピオイドレセプター(HUMOR)に対するcDNAが、配列番号93に示される。μ−オピオイドレセプター(Raynor K,et al.,J Pharmacol Exp Ther.1995;272:423−8)は、本明細書中のベクター内に配置され、そして、初代線維芽細胞ならびに、N2a神経細胞株において発現される。ニューロン内でのμ−オピオイドレセプターの形質導入および安定な発現は、VSV−G擬似型(pseudotyped)免疫不全ウイルスベクター(FIV)を用いることにより達成され得る。
特定の実施形態では、疼痛点でのニューロン内のμ−オピオイドレセプターの発現は、ニューロンのような非分裂細胞内での形質導入を必要とする。これは、リポフェクションまたはカプセル化法のような形質導入機構を用いて、または、細胞分裂と共に機能するウイルスベクターシステム(例えば、FIVウイルスのようなレンチウイルス、または、アデノ随伴ウイルス、rAAVベクター、HSVアンプリコンおよびリポソーム)を介して達成され得る。
このFIVシステムは、そのレンチウイルスの特性により、最終的な分化細胞(ニューロンを含む)に感染し得ることが以前に示されている。FIV(μ−オピオイドレセプター)ベクターのようなベクターを、疼痛部位に末梢性に投与するための方法が開示される。その特定の部位に神経を分布させ、そして、侵害受容の信号を媒介するニューロンは、感染され、そして、安定に形質導入される。lacZおよびμ−オピオイドレセプターを発現するベクターを含むこれらのベクターは、末梢への注射により、マウスにおいて、インビボで、神経細胞へと形質導入し得る。
本明細書中では、TMJ領域内へのFIV(lacZ)の末梢性の注射の後に、三叉神経節の適切な領域に局在化するニューロン内で、レポーター遺伝子(lacZ遺伝子)を安定に発現させることと、ヒトμ−オピオイドレセプターのようなμ−オピオイドレセプターを含む種々の発現ベクターとが、開示される。
μ−オピオイドレセプター遺伝子をコードする配列を含むベクターが開示される。また、FIVベクター内にμ−オピオイドレセプター遺伝子がクローニングされたベクターも開示される。開示されたベクターを細胞(口顔領域の神経細胞のような、例えば、TMJおよび咬筋からの痛みに関する痛みの信号の伝達に関与する細胞を含む)に投与する工程を包含する方法が開示される。
また、開示されるベクターを用いて安定にトランスフェクトされたトランスジェニックマウスも開示される。これらのマウスは、例えば、疼痛のモデルおよび治療薬の実験用として使用され得る。
d)炎症のためのμ−オピオイドレセプター治療
HuMORのようなオピオイドレセプターを含む組成物はまた、痛みを減らすことに加えて、関節炎のような末梢性の炎症を減少させ得る。この作用は、間接的または直接的のいずれでもあり得る。例えば、ニューロンの形質導入の後の、HuMORによる侵害受容の軽減は、炎症の減少につながり得る。あるいは、HuMORを含む組成物による関節組織の形質導入は、末梢性の炎症を直接的に減少させ得る。例えば、関節の軟骨細胞におけるHuMORの過剰発現は、抗炎症作用を有し得る。
HuMORのようなオピオイドレセプターを含む組成物はまた、痛みを減らすことに加えて、神経炎症を減少させ得る。したがって、HuMORのようなオピオイドオピオイドレセプターは、本明細書中で開示されかつ使用されるような炎症性メディエーターであり得る。したがって、HuMORは、その中枢の炎症の減少または阻害に起因して、末梢性の炎症を処置するために中枢神経系へと投与され得る。
4.軟骨細胞の成熟
提供される組成物および方法のさらなる利点は、神経系と骨/関節との間の相互関係に関連し、この場合、神経炎症は骨の発生に影響を及ぼし(骨粗しょう症、関節炎など)、そして、骨/関節の疾患は、神経学的機能に影響し得る。例えば、正常な脳顔面頭蓋の成長は、頭蓋底の軟骨結合に神経を分布している節後交感神経線維を介して、交感神経系の生理学的機能に少なくとも部分的に依存している。交感神経系の変化は、骨格パターンの形成と軟骨の成熟に影響を与え、2つの系をつなぐブリッジとして、カテコラミンのホメオスタシスの変化を伴う。したがって、本明細書中には、被験体における骨疾患を処置または予防するための組成物および方法が提供され、この方法は、被験体の中枢神経系に炎症のメディエーターを投与する工程を包含する。
本明細書中に開示されるように、マウスHexB遺伝子座の標的化した欠失は、長骨成長板における軟骨細胞の成熟、ならびに、頭蓋底の軟骨結合を損ね、最終的には、骨格の成長および発生に影響を及ぼす。結果として生じるHexB−/−の骨格異常マウスは、β−ヘキソサミニダーゼの全身性の新生仔外回旋の後にレスキューされ得、β−ヘキソサミニダーゼ欠損は、発生の後期胚または産後早期(周産期)の段階の間に、軟骨細胞の分化および成熟に影響を与えることが示された。
軟骨細胞におけるβ−ヘキソサミニダーゼ発現の欠如は、新生仔期のFIV(HEX)全身投与後の肝細胞の形質導入(Kyrkanides,S.,et al.2005)と共に、対応する骨格の改善が、交差矯正(cross−correction)の内分泌経路によって媒介されることを示す。レセプター媒介性の酵素の移動(交差矯正)は、β−ヘキソサミニダーゼを含むリソソームの酵素の重要な特徴であり、それにより、分泌された酵素が、隣接細胞によって取り込まれ得る(傍分泌経路)か、血液の循環を介して遠隔地において取り込まれ得る(内分泌経路)。可溶性リソソーム酵素のリソソームへの輸送および区画化は、特定のレセプターによるそのオリゴ糖部分内のマンノース−6−リン酸(Man−6−P)の認識に依存している。こうして、リソソーム酵素と相互作用し得る2つの別個のタンパク質がさらに同定されており、そのうちの1つは、インシュリン様成長因子−II(IGF−II)にも結合するMan−6−Pレセプター(MPR;270kDa)であり、そして、もう1つは、カチオン依存性のMPR(CD−MPR;46kDa)(Munier−Lehmann,H,et al.1996)である。酵素補充療法(ERT)および骨髄移植(BMT)のような交差矯正をベースにした処置は、過去に、末梢の酵素欠損に対し、首尾よく対処している(von Specht,B.U.,et al.1979)。
多数の成長因子が、中枢の調節因子を代表するPTHrPと共に、軟骨形成および軟骨細胞の成熟を調節する。具体的には、PTHrPは、軟骨形成への参加の誘導因子(de Crombrugghe,B.,et al.2000)、そして、軟骨細胞肥大の進行の阻害因子(Ionescu,A.M.,et al.2001)の両方として機能する。これらのプロセスにおけるPTHrPの重要な調節性の役割は、遺伝的に変更されたマウスにおいて最良に例示され、このマウスにおいて、いずれかのPTHrPが除去されているか、または、そのレセプターの構成的に活性化された変異体が軟骨において過剰発現されている。軟骨細胞の成熟プログラムにおけるあらゆる変更が、正常な成長板の機能を中断させ得、そして、有意な骨格異常をもたらし得る。
HexB−/−軟骨細胞においてアップレギュレートされていることが見出されている、別の骨形成関連遺伝子は、COX−2であった。鳥類の間葉系肢芽細胞におけるいくつかの研究は、軟骨形成の間のシクロオキシゲナーゼについての重要な役割を示唆する。インドメタシン(Chepenik,K.P.,et al.1984;Biddulph,D.M.,et al.2000)およびPGE2の封鎖の両方が、軟骨形成を阻害する(Biddulph,et al.1991;Capehart,A.A.,& Biddulph,D.M.1991)。間葉系の肢芽培養物にPGE2を添加すると、(i)軟骨形成を高め;そして、(ii)COXの阻害因子であるインドメタシンの存在下で、軟骨形成を刺激する(Kosher,R.A.,& Walker,K.H.1983)。プロスタグランジンは、成長板の軟骨細胞によって合成され(Wong,P.Y.,et al.1977)そして、この合成は、機械的な負荷によって変更される(Mankin,K.P.,& Zaleske,D.J.1998)。PGE2の全身注射は、肥大性の軟骨細胞のサイズが減少し、そして、肢の成長が低下した、より薄い成長板を生じる(Ueno,K.,et al.1985;Furuta,Y.,& Jee,W.S.1986)。さらに、プロスタグランジンは、成長板の成熟を阻害する一方で(Zhang,X.,et al.2004;Li,T.F.,et al.2004)、成長板軟骨細胞の増殖および硫酸の取り込みを刺激する(O’Keefe,R.J.,et al.1992)。Sandhoff軟骨細胞におけるCOX−2の誘導は、これらのマウスにおける骨格異形成の調節性の発生と一致している。さらに、COX−2は、多数の遺伝的欠陥に対する集合点と一致しており、そのことにより、シクロオキシゲナーゼ−プロスタグランジン経路の活性化は、骨格の欠陥を一部担い得る。したがって、NSAIDおよびCOX−2選択的阻害因子の使用などで、冒された個体においてシクロオキシゲナーゼの活性を適時に阻害することは、骨格の異形成を管理し得る。
したがって、長骨成長板および頭蓋底軟骨結合における、増殖性/肥大前表現型から、肥大性/最終成熟型(terminally mature type)への、HexB−/−軟骨細胞の表現型の転換が存在する。Sandhoffの骨格欠陥の首尾よい新生仔期のレスキューは、軟骨細胞成熟の周産期での欠陥が、β−ヘキソサミニダーゼ欠損に従属的であることを示す。さらに、PGE2は、筋芽細胞の表現型から骨芽細胞の表現型へのC2C12分化に対して刺激性の作用を有する。総合すれば、これらの知見は、軟骨細胞の成熟の加速が、発生の周産期段階の間のβ−ヘキサミニダーゼ欠損に従属的であることを示す。
5.炎症性メディエーター
炎症は、炎症性メディエーターの発現または活性を調節することによって、部分的に影響され得る。本明細書中で使用される場合、炎症性メディエーターは、炎症を調節するタンパク質を指し、例えば、サイトカイン(例えば、IL−1β)、プロスタグランジン(例えば、プロスタグランジンE2(PGE2))、プロスタグランジン合成酵素(例えば、COX−1、COX−2、cPGESおよびmPGES)およびこれらの調節因子が挙げられる。
a)インターロイキン−1
炎症性メディエーターの一例は、インターロイキン−1(IL−1)である。IL−1は、2つの主要なアイソフォームIL−1αおよびIL−1βとして存在する、強力な免疫調節性サイトカインである。これらの2つの分子は、配列において有意な相違を示し、そして、幾分異なる役割を有する。IL−1αは、一般に、直接的な細胞:細胞連絡に関与していると考えられており、一方で、IL−1βは分泌される。それにもかかわらず、これらの2つの分子は、IL−1レセプター1型(IL−1R1)として知られる同じ膜結合型レセプターを介して作用して、NFκBおよびMAPキナーゼの活性化を含む、炎症促進性シグナル伝達カスケードを促進する[Rothwell,N.J.およびG.N.Luheshi.Trends Neurosci.(2000)23:618−625]。
IL−1の作用と拮抗する少なくとも2つの分子が同定されている。IL−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)は、レセプター結合で競合し、そして、細胞内ドメインを欠くIL−1レセプター2型(IL−1R2)は、デコイレセプターとして機能すると考えられる[Rothwell,N.J.およびG.N.Luheshi.Trends Neurosci.(2000)23:618−625]。これらの分子の各々の発現が調節される。したがって、IL−1の炎症性応答への寄与は、これらのファミリーメンバー間の発現の相対的なバランスに依存する[Arend,W.P.Cytokine & Growth Factor Rev.(2002)13:323−340]。一例として、IL−1βの成熟型は、IL−1raからの分泌シグナルに結合し、このIL−1raからの分泌シグナルは、IL−1βの分泌シグナル配列と同じ配列である。
正常な軟骨および変形性関節炎の軟骨からの洗浄物および外植片の研究は、サイトカインが、疾患状態においてアップレギュレートされるという主張を支持する。具体的には、Moos et al.[Moos V,et al.(1999)J Rheumatol 26:870−9]は、10人の変形性関節症(OA)を持つ患者における膝または股の関節から採った軟骨が、コントロールと比較して、IL−1βを含むサイトカインがOAの軟骨においてアップレギュレートされていたことを示すことを実証した。Shin et al.[Shin S−j,et al.(2003)J Appl Physiol.;95:308−13]は、IL−1βの存在下での半月板におけるマトリックスのターンオーバーに対する機械的応力の影響を調べ、これらのプロセスにおける一酸化窒素(NO)の役割を決定した。圧縮に応答するプロテオグリカンの放出の刺激は、IL−1の存在とは無関係に、NOS2に依存していた。これらの知見は、IL−1が、NOに依存する経路を介して、細胞外マトリックスのターンオーバーに対する機械的応力の作用を調節し得ることを示唆する。Joosten et al.[Joosten LA,et al(1999)J Immunol;163:5049−55]は、IL−1のブロックが、破壊的な関節炎における軟骨および骨の保護治療となる一方で、TNF−αアンタゴニストが、組織破壊に対しほとんど作用を有さないことを実証した。Webb et al.[Webb GR,et al.(1998)Osteoarthr & Cartil 6167−76]は、OAの滑膜上清が、正常な滑膜上清よりも高い濃度のインターロイキン−1β(IL−1β)およびインターロイキン−6(IL−6)を含み、そして、これらのサイトカインに対する中和抗体が、OAの上清の能力を部分的に、または、完全にのいずれかで阻害し、軟骨細胞のp55 TNF−R発現を増加させたことを実証した。これらの結果は、OAの滑膜により産生されたIL−1およびIL−6が、触媒性サイトカインによる刺激に対しより感受性にすることによって、軟骨細胞を疾患の進行に寄与させることを示唆する。Smith et al.[Smith MD,et al.(1997)J Rheumatol 24:365−71]は、関節の軟骨の損傷程度にかかわりなく、OAを有する患者からの滑膜におけるIL−1α、IL−1βおよびTNFαの産生を調べた。Smithらは、炎症促進性サイトカインの産生による慢性的な炎症の変化は、早期のOAを有する患者からの滑膜の特徴であり、最も重篤な変化は、関節置換手術時の患者において見られたことを示唆している。この低グレードな滑膜炎は、OAの病因に寄与し得るサイトカインの産生をもたらす。
b)シクロオキシゲナーゼ COX
炎症性メディエーターの別の例は、酵素シクロオキシゲナーゼ(COX)である。シクロオキシゲナーゼは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の主要な標的であり、NSAIDは多くの炎症状態のための処置の頼みの綱である。シクロオキシゲナーゼは、アラキドン酸から、多様な生理学的プロセスにおいて作用する一群の強力な脂質メディエーターであるプロスタノイドへの変換の最初の段階を触媒する。
シクロオキシゲナーゼは、2つのアイソフォームで存在することが知られる:多くの組織において構成的に発現され、そして、プロスタノイドの恒常的な産生を担うCOX−1と、その発現が、成長因子、サイトカインおよびホルモンのような多様な刺激に応答して迅速に調節されることから、しばしば「誘発性」のアイソフォームと呼ばれるCOX−2(O’Banion MK,et al.(1991).J Biol Chem 266:23261−7;O’Banion MK,et al.(1992).Proc Natl Acad Sci U.S.A.89:4888−92)。これら2つのCOXアイソフォーム間の区別、その果たす役割、および、プロスタノイドの作用は、これまでに検討されている(Vane JR,et al.(1998).Annu.Rev.Pharmocol.Toxicol.38:97−120;Smith,WL,et al.(2000).Annu Rev Biochem 69:145−82]。
主要な炎症性プロスタノイドであるPGE2の産生を選択的に阻害することにおける関心は、報告によれば別個のCOXアイソフォームに結合するという、少なくとも2つのPGE2合成酵素アイソフォームの認識により高められている。より具体的には、膜結合型アイソフォーム(mPEGS)は、COX−2と機能的に結びつくが、細胞質型酵素(cPGES)は、PGE2のCOX−1依存性の産生と関連しているようである(Tanioka et al.2000;Murakami et al,2000)。細胞内局在化はいくつかの役割を果たし得るが、大部分は、機能的な結びつきが発現パターンの要因となる:COX−2に関して、mPGESは、炎症促進性の刺激によって劇的にアップレギュレートされるが、一方で、cPGESは、これまでのところ、試験した細胞系において構成的に発現される(Jackobson et al.,1999;Stichtenoth et al.,2001;Han et al.,2002)。さらに、COX−2およびmPGESは、アジュバント関節炎(adjuvant arthritis)のラットモデルにおいても同等にアップレギュレートされる(Mancini et al.,2001)。
C.組成物
開示される組成物を調製するために使用される成分、ならびに、本明細書中で開示される方法において使用される組成物自体が開示される。これらおよび他の材料が本明細書中で開示され、そして、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、グループなどが開示される場合、種々の個々の組み合わせおよび集合的な組み合わせの各々の具体的な参照、ならびに、これらの化合物のの並べ替えは、明白に開示されないかもしれないが、その各々が、本明細書中で具体的に企図および記載される、ということが理解される。例えば、特定のxxxが開示および考察され、そして、このxxxを含む多数の分子に対してなされ得る多数の変更が考察される場合、具体的にそうでないと示されない限り、xxxと、起こり得る変更との組み合わせおよび並べ替えの各々および全てが具体的に企図される。したがって、分子A、BおよびCのクラスが開示され、また、分子D、EおよびFのクラスと、組み合わせ分子の一例A−Dが開示される場合、各々が個々に列挙されない場合であっても、各々は、個々に、かつ集合的に企図される。すなわち、組み合わせA−E、A−F、B−D、B−E、B−F、C−D、C−EおよびC−Fが開示されているものとみなされることを意味する。同様に、これらの任意のサブセットまたは組み合わせもまた開示される。したがって、例えば、A−E、B−FおよびC−Eのサブグループが考慮され、開示される。この概念は、開示される組成物の作製方法および使用方法における工程を含む(がこれらに限定されない)本願の全ての局面に対して適用される。したがって、行われ得る種々の追加の工程が存在する場合、これらの追加の工程の各々は、開示される方法の任意の特定の実施形態、または複数の実施形態の組み合わせと共に行われ得ることが理解される。
1.抗炎症剤
抗炎症剤および/または抗ヒスタミン剤が、本明細書中に開示される組成物および方法において使用され得る。抗炎症剤の非限定的な例としては、以下が挙げられる:アルクロフェナク(Alclofenac);アルクロメタゾンジプロピオネート(Alclometasone Dipropionate);アルゲストンアセトニド(Algestone Acetonide);αアミラーゼ(alpha Amylase);アムシナファル(Amcinafal);アムシナフィド(Amcinafide);アムフェナクナトリウム(Amfenac Sodium);塩酸アミプリロース(Amiprilose Hydrochloride);アナキンラ(Anakinra);アニロラク(Anirolac);アニトラザフェン(Anitrazafen);アパゾン(Apazone);バルサラジド二ナトリウム(Balsalazide Disodium);ベンダザク(Bendazac);ベノキサプロフェン(Benoxaprofen);塩酸ベンジダミン(Benzydamine Hydrochloride);ブロメライン;ブロペラモール(Broperamole);ブデソニド;カルプロフェン(Carprofen);シクロプロフェン(Cicloprofen);シンタゾン(Cintazone);クリプロフェン(Cliprofen);プロピオン酸クロベタゾール(Clobetasol Propionate);酪酸クロベタゾン(Clobetasone Butyrate);クロピラク(Clopirac);プロピオン酸クロチカゾン(Cloticasone Propionate);酢酸コルメタゾン(Cormethasone Acetate);コルトドキソン(Cortodoxone);デカノエート(Decanoate);デフラザコート(Deflazacort);デラテストリル(Delatestryl);デポ−テストステロン(Depo−Testosterone);デソニド(Desonide);デスオキシメタゾン;デスオキシメタゾンジプロピオネート(Dexamethasone Dipropionate);ジクロフェナクカリウム;ジクロフェナクナトリウム;ジフロラゾンジアセテート(Diflorasone Diacetate);ジフルミドンアトリウム(Diflumidone Sodium);ジフルニサル;ジフルプレドネート(Difluprednate);ジフタロン(Diftalone);ジメチルスルホキシド;ドロシノニド(Drocinonide);エンドリゾン(Endrysone);エンリモマブ(Enlimomab);エノリカムナトリウム(Enolicam Sodium);エピリゾール(Epirizole);エトドラク;エトフェナメート(Etofenamate);フェルビナク;(Fenamole);フェンブフェン;フェンクロフェナク;フェンクロラク(Fenclorac);フェンドサル(Fendosal);フェンピパロン(Fenpipalone);フェンチアザク(Fentiazac);フラザロン(Flazalone);フルアザコート(Fluazacort);フルフェナム酸;フルミゾール(Flumizole);酢酸フルニソリド;フルニキシン(Flunixin);メグルミンフルニキシン(Flunixin Meglumine);ブチルフルコルチン(Fluocortin Butyl);酢酸フルオロメトロン;フルカゾン(Fluquazone);フルルビプロフェン;フルレトフェン(Fluretofen);プロピオン酸フルチカゾン;フラプロフェン(Furaprofen);フロブフェン(Furobufen);ハルシノニド(Halcinonide);プロピオン酸ハロベタゾール(Halobetasol Propionate);酢酸ハロプレドン(Halopredone Acetate);イブフェナク(Ibufenac);イブプロフェン;イブプロフェンアルミニウム;イブプロフェンピコノール(Ibuprofen Piconol);イロニダプ(Ilonidap);インドメタシン;インドメタシンアトリウム;インドプロフェン(Indoprofen);インドキソール(Indoxole);イントラゾール(Intrazole);酢酸イソフルプレドン(Isoflupredone Acetate);イソキセパク(Isoxepac);イソキシカム(Isoxicam);ケトプロフェン;塩酸ロフェミゾール(Lofemizole Hydrochloride);ロモキシカム(Lomoxicam);ロテプレドノールエタボネート(Loteprednol Etabonate);メクロフェナム酸ナトリウム;メクロフェナム酸;メクロリゾンジブチレート(Meclorisone Dibutyrate);メフェナム酸;メサラミン(Mesalamine);メセクラゾン(Meseclazone);メステロロン(Mesterolone);メタアンドロステノロン;メテノロン(Methenolone);酢酸メテノロン(Methenolone Acetate);メチルプレドニゾロンスルプタネート(Methylprednisolone Suleptanate);モミフルメート(Momiflumate);ナブメトン(Nabumetone);ナンドロロン(Nandrolone);ナプロキセン;ナプロキセンナトリウム;ナプロキソール(Naproxol);ニマゾン(Nimazone);オルサラジンナトリウム(Olsalazine Sodium);オルゴテイン(Orgotein);オルパノキシン(Orpanoxin);オキサンドロラン(Oxandrolane);オキサンプロジン(Oxaprozin);オキシフェンブタゾン(Oxyphenbutazone);オキシメトロン;塩酸パラニリン(Paranyline Hydrochloride);ペントサンポリスルフェートナトリウム(Pentosan Polysulfate Sodium);フェンブタゾンナトリウムグリセレート(Phenbutazone Sodium Glycerate);ピルフェニドン(Pirfenidone);ピロキシカム;桂皮酸ピロキシカム;ピロキシカムオルアミン(Piroxicam Olamine);ピルプロフェン;プレドナゼート(Prednazate);プリフェロン(Prifelone);プロドリン酸(Prodolic Acid);プロカゾン(Proquazone);プロキサゾール(Proxazole);クエン酸プロキサゾール(Proxazole Citrate);リメキソロン(Rimexolone);ロマザリット(Romazarit);サルコレックス(Salcolex);サルナセジン(Salnacedin);サルサラート;塩酸サンギナリウム(Sanguinarium Chloride);セクラゾン(Seclazone);セルメタシン(Sermetacin);スタノゾロール;スドキシカム(Sudoxicam);スリンダク;スプロフェン;タルメタシン(Talmetacin);タルニフルメート(Talniflumate);タロサレート(Talosalate);テブフェロン(Tebufelone);テニダップ(Tenidap);テニダップナトリウム(Tenidap Sodium);テノキシカム(Tenoxicam);テシカム(Tesicam);テシミド(Tesimide);テストステロン;テストステロンブレンド(Testosterone Blends);テトリダミン(Tetrydamine);チオピナク(Tiopinac);チキソコルトールピバレート(Tixocortol Pivalate);トルメチン;トルメチンナトリウム;トリクロニド(Triclonide);トリフルミデート(Triflumidate);ジドメタシン(Zidometacin);およびゾメピラックナトリウム。
抗ヒスタミン剤の非限定的な例としては、エタノールアミン類(ジフェンヒドラミンカルビノキサミンなど)、エチレンジアミン(トリペレナミンピリラミンなど)、アルキルアミン(クロロフェニラミド、デキシクロロフェニラミド、ブロモフェニラミド、トリプロリジンなど)、他の抗ヒスタミン薬(アステミゾール、ロラタジン、フェキソフェナジ、ブロフェニラミン(Bropheniramine)、クレマスチン、アセトアミノフェン、シュードフェフェドリン、トリプロリジンなど)。
2.炎症性メディエーターの調節因子
本明細書中には、炎症性メディエーターの活動を調節するように機能する組成物が提供される。「活動」は、本明細書中で使用される場合、本明細書中に開示される組成物のあらゆる機能またはプロセスを指し、そして、例えば、転写、翻訳、翻訳後修飾、転移、同好性(homophilic)もしくは異好性(heterophilic)の結合、分泌、エンドサイトーシス、または分解が挙げられる。したがって、本明細書中に提供される炎症性メディエーターの1以上の活動を阻害する組成物が開示される。これらの組成物は、本明細書中で、炎症性メディエーターの阻害因子と称される。本明細書中で使用される場合、阻害する(inhibit)または阻害すること(inhibiting)のような、阻害または阻害の一形態は、抑制すること、または、制限することを意味する。本明細書中で使用される場合、減少させること(reducing)または減少させる(reduces)のような、減少または減少の一形態は、例えば、サイズまたは量を減らすことを意味する。阻害または減少のうち一方が使用される場合はいつでも、明白にそうでないと示されない限り、もう一方もまた使用される得ことが理解される。例えば、何かが「阻害される」といわれる場合、その何かは、「減少させられる」ともいわれているとみなされる。
a)遺伝子発現のノックダウン
炎症性メディエーターの活動は、遺伝子発現のレベルで調節され得る。開示される炎症性メディエーターの阻害因子は、遺伝子発現の阻害因子であり得る。遺伝子発現を標的とする方法は、一般に、標的とされる遺伝子の配列に基づく。炎症性メディエーターの標的化されたノックダウンに適用され得る任意のこのような方法が開示される。「ノックダウン」とは、検出可能なmRNA発現における低下を意味する。核酸は、遺伝子発現をノックダウンさせるために一般に使用され、そして、一般に、mRNAのような、標的配列にハイブリダイズし得る配列を含む。このような機能的核酸の例は、アンチセンス分子、リボザイム、三重鎖形成核酸、外部ガイド配列(EGS)、および低分子干渉RNA(siRNA)が挙げられる。
アンチセンス分子は、基本的な塩基対形成または基本的でない塩基対形成のいずれかにより、標的核酸分子と相互作用するように設計される。アンチセンス分子と標的分子との相互作用は、例えば、RNAseHが媒介するRNA−DNAハイブリッドの分解により、標的分子の破壊を促進するように設計される。あるいは、アンチセンス分子は、通常は標的分子上で起こるプロセシングの機能(例えば、転写または複製)を妨げるように設計される。アンチセンス分子は、標的分子の配列に基づいて設計され得る。標的分子の最も接近可能な領域を見つけることによって、アンチセンスの効率を最適化するための多数の方法が存在する。例示的な方法は、DMSおよびDEPCを用いた、インビトロ選択実験およびDNA修飾研究である。アンチセンス分子は、10−6、10−8、10−10または10−12以下の解離定数(Kd)で標的分子に結合することが好ましい。アンチセンス分子の設計および使用において助けとなる方法および技術の代表的なサンプルは、以下の非限定的な米国特許のリストに見出され得る:米国特許第5,135,917号、同第5,294,533号、同第5,627,158号、同第5,641,754号、同第5,691,317号、同第5,780,607号、同第5,786,138号、同第5,849,903号、同第5,856,103号、同第5,919,772号、同第5,955,590号、同第5,990,088号、同第5,994,320号、同第5,998,602号、同第6,005,095号、同第6,007,995号、同第6,013,522号、同第6,017,898号、同第6,018,042号、同第6,025,198号、同第6,033,910号、同第6,040,296号、同第6,046,004号、同第6,046,319号および同第6,057,437号。しかし、iRNAもしくはsiRNAの作用またはこれらの使用は、任意のタイプの機構に限定されない。
本明細書中に開示される炎症性メディエーターについての配列に基づいて上述のように設計された、任意のアンチセンス分子が、本明細書中に開示される。アンチセンス配列の例は、IL−1α(配列番号70)、IL−1β(配列番号71)、COX−1(配列番号72)、COX−2(配列番号73)、cPGES(配列番号74)およびmPGES(配列番号75)について本明細書中に開示される。
リボザイムは、分子内または分子間のいずれかの化学的反応を触媒し得る核酸分子である。したがって、リボザイムは、触媒性の核酸である。リボザイムは、分子間反応を触媒することが好ましい。天然の系において見られるリボザイムに基づくヌクレアーゼまたは核酸ポリメラーゼタイプの反応を触媒する、ハンマーヘッド型リボザイム(例えば、以下の米国特許が挙げられるがこれらに限定されない:米国特許第5,334,711号、同第5,436,330号、同第5,616,466号、同第5,633,133号、同第5,646,020号、同第5,652,094号、同第5,712,384号、同第5,770,715号、同第5,856,463号、同第5,861,288号、同第5,891,683号、同第5,891,684号、同第5,985,621号、同第5,989,908号、同第5,998,193号、同第5,998,203号、LudwigおよびSproatによるWO 9858058、LudwigおよびSproatによるWO 9858057、ならびにLudwigおよびSproatによるWO 9718312)、ヘアピン型リボザイム(例えば、以下の米国特許が挙げられるがこれらに限定されない:米国特許第5,631,115号、同第5,646,031号、同第5,683,902号、同第5,712,384号、同第5,856,188号、同第5,866,701号、同第5,869,339号および同第6,022,962号)およびテトラヒメナ型リボザイム(例えば、以下の米国特許が挙げられるがこれらに限定されない:米国特許第5,595,873号および同第5,652,107号)のような、多数の種々のタイプのリボザイムが存在する。また、天然の系においては見られないが、特定のデノボ反応を触媒するように遺伝子操作された多数のリボザイムも存在する(例えば、以下の米国特許が挙げられるがこれらに限定されない:米国特許第5,580,967号、同第5,688,670号、同第5,807,718号および同第5,910,408号)。好ましいリボザイムは、RNAまたはDNAの基質を切断し、より好ましくは、RNA基質を切断する。リボザイムは、代表的に、標的基質の認識および結合と、その後の切断により核酸基質を切断する。この認識はしばしば、大部分は、基本的な塩基対相互作用または基本的でない塩基対相互作用に基づいている。この特性は、リボザイムを、核酸の標的特異的な切断のための特に良好な候補としている。なぜならば、標的基質の認識は、標的基質の配列に基づいているからである。種々の異なる反応を触媒させるためのリボザイムの作製方法および使用方法の代表的な例は、以下の米国特許の非限定的なリストに見出され得る:米国特許第5,646,042号、同第5,693,535号、同第5,731,295号、同第5,811,300号、同第5,837,855号、同第5,869,253号、同第5,877,021号、同第5,877,022号、同第5,972,699号、同第5,972,704号、同第5,989,906号および同第6,017,756号。
本明細書中に開示される炎症性メディエーターについての配列に基づいて上述のように設計された、任意のリボザイムが、本明細書中に開示される。ハンマーヘッド型リボザイムは、例えば、5’−GUC−3’配列にあるRNA基質を切断dして、GUC部位のすぐ3’側にあるmRNAを切断し得る。異なる配列において切断する遺伝子操作されたハンマーヘッド型リボザイムが知られており、そして、例えば、本明細書中に開示され、参考として援用される特許において開示されている。ハンマーヘッド型リボザイムは、代表的に3つの部分から構成される。第1の部分は、GUC認識部位の5’側の配列にハイブリダイズする領域であり、第1のハイブリダイゼーションアームと呼ばれ得る。第2の部分は、ハンマーヘッド型リボザイムのコア触媒ドメインを構成し、そして、代表的には、配列3’CAAAGCAGGAGUGCCUGAGUAGUC5’(配列番号82)を有する。この配列についてのバリエーションが知られており、そして、例えば、本明細書中に開示される特許において、本明細書中に開示され、そして、参考として援用される。第3の部分は、GUC切断部位のすぐ3’側にある配列にハイブリダイズし得る配列から構成され、そして、第2のハイブリダイゼーションアームと呼ばれ得る。ハイブリダイゼーションアームは、長さ3〜40ヌクレオチド、長さ5〜30ヌクレオチド、長さ8〜20ヌクレオチド、および長さ10〜15ヌクレオチド、ならびに、50ヌクレオチドまでの任意の長さのような基質に結合することが可能な、任意の長さであり得る。一例として、ハンマーヘッド型リボザイムは、mRNA標的配列内の核酸トリプレットGUCを識別し、次いで、本明細書中で考察されるような触媒コアに対し適切な、本明細書中で考察されるようにハイブリダイゼーションアームを識別することによって設計され得る。ハンマーヘッド型リボザイムの配列の例は、IL−1α(配列番号76)、IL−1β(配列番号77)、COX−1(配列番号78)、COX−2(配列番号79)、cPGES(配列番号81)およびmPGES(配列番号80)について本明細書中に開示されているが、本明細書中で考察されるように、他のものもまた開示されることが理解される。さらに、本明細書中で考察されるようなアッセイを用いて、インビトロおよびインビボの両方でのその活動レベルについて、所与のリボザイム(または、siRNAまたはアンチセンスのような任意の機能的核酸)を調べることができる。
三重鎖を形成する機能的な核酸分子は、一本鎖または二本鎖のいずれかの核酸と相互作用し得る分子である。三重鎖分子が標的領域と相互作用するとき、三重鎖と呼ばれる構造が形成され、この構造中に、Watson−Crick塩基対形成およびHoogsteen塩基対形成の両方に依存した複合体を形成する3本のDNA鎖が存在する。三重鎖分子は、これらが、高い親和性および特異性で標的領域に結合し得るので、好ましい。三重鎖を形成する分子は、10−6、10−8、10−10または10−12未満のKdで標的分子に結合することが好ましい。種々の異なる標的分子に結合させるための、三重鎖を形成する分子の作製方法および使用方法の代表例は、以下の非限定的な米国特許のリストに見出され得る:米国特許第5,176,996号、同第5,645,985号、同第5,650,316号、同第5,683,874号、同第5,693,773号、同第5,834,185号、同第5,869,246号、同第5,874,566号および同第5,962,426号。
外部ガイド配列(EGS)は、標的核酸分子に結合して複合体を形成する分子であり、そして、この複合体は、標的分子を切断するRNase Pによって認識される。EGSは、選択したRNA分子を特異的に標的とするように設計され得る。RNAse Pは、細胞内でトランスファーRNA(tRNA)をプロセシングする際に役立つ。細菌のRNAse Pは、標的RNA:EGS複合体を形成して、天然のtRNA基質を模倣するEGSを用いることによって、実質的にあらゆるRNA配列を切断するために補充され得る。(YaleによるWO 92/03566、ならびにForsterおよびAltman,Science 238:407−409(1990))。同様に、RNAの、真核生物EGS/RNAse P指向性切断は、真核生物細胞内で所望の標的を切断するために利用され得る(Yuan et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:8006−8010(1992);YaleによるWO 93/22434;YaleによるWO 95/24489;YuanおよびAltman,EMBO J 14:159−168(1995)ならびにCarrara et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)92:2627−2631(1995))。種々の異なる標的分子の切断を促進するための、EGS分子の作製方法および使用方法の代表例は、以下の非限定的な米国特許のリストに見出される:米国特許第5,168,053号、同第5,624,824号、同第5,683,873号、同第5,728,521号、同第5,869,248号および同第5,877,162号。
遺伝子発現はまた、RNA干渉(RNAi)により、非常に特異的な様式で効率的にサイレンシングされ得る。このサイレンシングは、元々、二本鎖RNA(dsRNA)の付加で観察された(Fire,A.,et al.(1998)Nature,391,806 811)(Napoli,C.,et al.(1990)Plant Cell 2,279 289)(Hannon,G.J.(2002)Nature,418,244 251)。いったんdsRNAが細胞内に入ると、dsRNAは、RNase III様の酵素であるダイサーによって、長さ21〜23ヌクレオチドで、3’末端に2ヌクレオチドのオーバーハングを含む二本鎖の低分子干渉RNA(siRNA)へと切断される(Elbashir,S.M.,et al.(2001)Genes Dev.,15:188−200)(Bernstein,E.,et al.(2001)Nature,409,363 366)(Hammond,S.M.,et al.(2000)Nature,404:293−296)。ATP依存性の工程において、siRNAは、一般にRNAi誘導型サイレンシング複合体(RISC)として知られる、複数のサブユニットからなるタンパク質複合体へと組み込まれ、このRISCは、siRNAを標的RNA配列へと導く(Nykanen,A.,et al.(2001)Cell,107:309 321)。いくつかの点において、siRNA二重鎖はほどけており、そして、アンチセンス鎖がRISCに結合したままであり、かつ、エンドヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼの組み合わせにより相補的なmRNA配列の分解を導くようである(Martinez,J.,et al.(2002)Cell,110:563−574)。しかし、iRNAもしくはsiRNAの作用またはこれらの使用は、任意のタイプの機構に限定されない。
低分子干渉RNA(siRNA)は、配列特異的な転写後の遺伝子のサイレンシングを誘導し、それによって、遺伝子発現を減少もしくは阻害さえもし得る二本鎖RNAである。一例において、siRNAは、siRNAと標的RNAの両方との間で配列が同一な領域において、mRNAのような相同なRNA分子の特異的な分解を誘発する。例えば、WO 02/44321は、3’末端のオーバーハングと塩基対形成する場合に、標的mRNAを配列特異的に分解し得るsiRNAを開示し、この文献は、これらのsiRNAの作製方法について本明細書中に参考として援用される。配列特異的な遺伝子のサイレンシングは、酵素ダイサーにより生成されるsiRNAを模倣する、合成の低分子二本鎖RNAを用いて、哺乳動物細胞において達成され得る(Elbashir,S.M.,et al.(2001)Nature,411:494 498)(Ui−Tei,K.,et al.(2000)FEBS Lett 479:79−82)。siRNAは、化学合成されてもインビトロ合成されてもよく、また、細胞内でsiRNAへとプロセシングされる低分子二本鎖ヘアピン様RNA(shRNA)の結果であってもよい。合成のsiRNAは、一般に、アルゴリズムおよび従来のDNA/RNA合成装置を用いて設計される。供給元としては、以下が挙げられる:Ambion(Austin,Texas)、ChemGenes(Ashland,Massachusetts)、Dharmacon(Lafayette,Colorado)、Glen Research(Sterling,Virginia)、MWB Biotech(Esbersberg,Germany)、Proligo(Boulder,Colorado)およびQiagen(Vento,The Netherlands)。siRNAはまた、Ambion社のSILENCER siRNA Construction Kitのようなキットを用いて、インビトロでも合成され得る。本明細書中に開示される炎症性メディエーターについての配列に基づいて上述のように設計された、任意のsiRNAが、本明細書中に開示される。siRNAの例としては、COX−1(配列番号47〜52)、COX−2(配列番号53〜58)、cPGES(配列番号41〜46)およびmPGES(配列番号59)が挙げられる。
ベクターからのsiRNAの生成は、shRNAの転写を介してより一般的になされる。例えば、Imgenex社のGeneSuppressor Construction KitsならびにInvitrogen社のBLOCK−iT誘導性RNAiプラスミドおよびレンチウイルスベクターのようなshRNAを含むベクターを生成するためのキットが利用可能である。本明細書中に開示される炎症性メディエーターについての配列に基づいて上述のように設計された任意のshRNAが本明細書中に開示される。shRNAプライマー配列の例が、COX−1(配列番号64〜65)、COX−2(配列番号66〜67)、cPGES(配列番号60〜61)およびmPGES(配列番号62〜63)について開示される。
b)結合の阻害
標的とされ得る炎症性メディエーターの別の活動は、例えば、レセプターのような他の分子への同好性および異好性の結合である。したがって、炎症性メディエーターの阻害因子は、リガンド結合の阻害因子であり得る。タンパク質のそのレセプターへの結合を阻害するための方法は、例えば、リガンドまたはレセプターのいずれかの結合部位で競合する分子の使用に基づき得る。
したがって、リガンド結合の阻害因子は、例えば、レセプターを活性化することなく、レセプターの結合と競合するポリペプチドであり得る。同様に、リガンド結合の阻害因子は、リガンドの結合と競合するデコイレセプターであり得る。このようなデコイレセプターは、可溶性レセプターであり得るか(例えば、膜貫通ドメインを欠く)、または、細胞において発現されるが、シグナルを伝達する能力を欠く変異型レセプターであり得る(例えば、細胞質のテイルを欠く)。リガンドまたはレセプターのいずれかに特異的な抗体もまた、結合を阻害するために使用され得る。リガンド結合の阻害因子はまた、被験体により自然な状態で生成され得る。あるいは、阻害性分子は、レセプターまたはリガンドのいずれかの標的とされる変異に基づいて設計され得る。
したがって、例示的な例として、リガンド結合の阻害因子は、IL−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)であり得る。リガンド結合の阻害因子はまた、IL−1raのフラグメントを含むポリペプチドであり得、ここで、このフラグメントは、IL−1R1に結合し得る。リガンド結合の阻害因子はさらに、IL−1R2であり得、このレセプターは、IL−1結合と競合し得るレセプターの可溶性形態である。リガンド結合の阻害因子はさらに、IL−1R1のフラグメントを含むポリペプチドであり得る。IL−1R1フラグメントは、Toll/インターロイキン−1(IL−1)レセプター(TIR)ドメイン(配列番号8のアミノ酸384〜528)を含む細胞質テイルを欠き得る。IL−1R1のフラグメントは、膜貫通ドメインに対応するアミノ酸を欠き得る。
3.炎症性メディエーター −配列
開示される炎症性メディエーターは、IL−1αの配列に基づいた核酸を含み得る。この核酸配列は、ヒトIL−1αの配列に基づいたものであり得る。ヒトIL−1αをコードする核酸の一例は、配列番号1、アクセッション番号NM_000575である。
開示される炎症性メディエーターは、IL−1βの配列に基づいた核酸を含み得る。この核酸配列は、ヒトIL−1βの配列に基づいたものであり得る。ヒトIL−1βをコードする核酸の一例は、配列番号2、アクセッション番号NM_000576である。
開示される炎症性メディエーターは、IL−1raの配列に基づいた核酸を含み得る。この核酸配列は、ヒトIL−1raの配列に基づいたものであり得る。ヒトIL−1raをコードする核酸の一例は、配列番号5、アクセッション番号NM_173842である。
開示される炎症性メディエーターは、IL−1R1の配列に基づいた核酸を含み得る。この核酸配列は、ヒトIL−1R1の配列に基づいたものであり得る。ヒトIL−1R1をコードする核酸の一例は、配列番号8、アクセッション番号NM_000877である。
開示される炎症性メディエーターは、IL−1R2の配列に基づいた核酸を含み得る。この核酸配列は、ヒトIL−1R2の配列に基づいたものであり得る。ヒトIL−1R2をコードする核酸の一例は、配列番号9、アクセッション番号NM_173343である。
開示される炎症性メディエーターは、COX−1の配列に基づいた核酸を含み得る。この核酸配列は、ヒトCOX−1の配列に基づいたものであり得る。ヒトCOX−1をコードする核酸の一例は、配列番号10、アクセッション番号M59979である。
開示される炎症性メディエーターは、COX−2の配列に基づいた核酸を含み得る。この核酸配列は、ヒトCOX−2の配列に基づいたものであり得る。ヒトCOX−2をコードする核酸の一例は、配列番号11、アクセッション番号NM_000963である。
開示される炎症性メディエーターは、mPGESの配列に基づいた核酸を含み得る。この核酸配列は、ヒトmPGESの配列に基づいたものであり得る。ヒトmPGESをコードする核酸の一例は、配列番号12、アクセッション番号NM_004878である。
開示される炎症性メディエーターは、cPGESの配列に基づいた核酸を含み得る。この核酸配列は、ヒトcPGES/p23の配列に基づいたものであり得る。ヒトcPGES/p23をコードする核酸の一例は、配列番号13、アクセッション番号L24804である。
本明細書中には、核酸が炎症のメディエーターの発現を阻害し得る機能的核酸が開示される。また、本明細書中には、発現制御配列に作動可能に連結された機能的核酸をコードする核酸を含む構築物が開示される。機能的核酸は、siRNAを含み得る。siRNAは、COX−1についての核酸配列(配列番号10)に由来し得る。したがって、siRNAは、核酸配列、配列番号47、48、49、50、51または52を有し得る。siRNAは、COX−2についての核酸配列(配列番号11)に由来し得る。したがって、siRNAは、核酸配列、配列番号53、54、55、56、57または58を有し得る。siRNAは、mPGESについての核酸配列(配列番号12)に由来し得る。従って、siRNAは、核酸配列、配列番号59を有し得る。siRNAは、cPGESについての核酸配列(配列番号13)に由来し得る。したがって、siRNAは、核酸配列、配列番号41、42、43、44、45または46を有し得る。
本明細書中には、発現制御配列に作動可能に連結されたポリペプチドをコードする核酸を含む構築物が開示され、ここで、このポリペプチドは、IL−1のIL−1R1への結合を阻害し得る。このポリペプチドは、IL−1raを含み得る。ポリペプチドは、アミノ酸配列、配列番号38を有し得る。このポリペプチドは、IL−1raのフラグメントを含み得る。このポリペプチドは、アミノ酸配列、配列番号38に対し、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%の同一性を有し得る。核酸は、配列、配列番号5を含み得る。この核酸は、核酸配列、配列番号5に対し、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%の同一性を有するポリペプチドをコードする。また、本明細書中に記載されるような、ストリンジェントな条件または他の条件下で、核酸配列、配列番号5に対してハイブリダイズし得る核酸も開示される。
ポリペプチドは、IL−1R1のフラグメントを含み得、このフラグメントは、IL−1に結合し得、そして、このフラグメントは、シグナルカスケードを活性化する能力が低下している。当業者は、標準的な生化学的および分子遺伝学的な技術および試薬を用いて、ポリペプチドのIL−1に結合する能力、または、シグナルカスケードを活性化する能力を容易に決定し得ることが理解される。一例として、フラグメントは、膜貫通ドメインを欠く短縮型であり得る。膜貫通ドメインが同定されていない場合、当業者は、例えば、疎水性プロットを用いて、アミノ酸配列に基づいてこのドメインのおおよその位置を推測し得ることが理解される。別の例として、フラグメントは、Toll/インターロイキン−1(IL−1)レセプター(TIR)ドメイン(配列番号8のアミノ酸384〜528)を含む細胞質テイルの一部を欠き得る。このポリペプチドは、アミノ酸配列、配列番号39を有し得る。このポリペプチドは、アミノ酸配列、配列番号39に対し、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%の同一性を有し得る。核酸は、配列、配列番号8を含み得る。核酸は、核酸配列、配列番号8に対し、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%の同一性を有するポリペプチドをコードする。また、本明細書中に記載されるような、ストリンジェントな条件または他の条件下で、核酸配列、配列番号8に対してハイブリダイズし得る核酸も開示される。
ポリペプチドは、IL−1R2を含み得る。このポリペプチドは、アミノ酸配列、配列番号40を有し得る。このポリペプチドは、IL−1R2のフラグメントを含み得、このフラグメントは、IL−1に結合し得、そして、このフラグメントは、シグナルカスケードを活性化する能力が低下している。このポリペプチドは、アミノ酸配列、配列番号40に対し、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%の同一性を有し得る。核酸は、核酸配列、配列番号9に対し、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%の同一性を有するポリペプチドをコードする。また、本明細書中に記載されるような、ストリンジェントな条件または他の条件下で、核酸配列、配列番号9に対してハイブリダイズし得る核酸も開示される。
本明細書中で開示されるポリペプチドはさらに、分泌シグナルを含み得る。分泌シグナルは、IL−1ra分泌シグナル配列であり得、これは、IL−1βの分泌シグナル配列と同じ配列である。したがって、分泌シグナルは、ポリペプチド配列、配列番号14を含み得る。分泌シグナルは、核酸配列、配列番号68によりコードされ得る。
開示される構築物は、ベクター送達系へと組み込まれ得る。したがって、本明細書中に提供される核酸を含むベクターが開示される。発現制御配列は、一般に、プロモーターである。プロモーターは、本明細書中で考察されるもののような、任意のプロモーターであり得る。
本明細書中に提供される構築物の標的化された送達および広域にわたる送達もまた開示される。広域にわたるトランスジーンの送達のための、擬似型(pseudotyped)のネコ免疫不全ウイルス(FIV)が開示される。治療用遺伝子の安定な発現は遺伝子の異常の持続的な修復の助けとなり、処置効率を高め、そして、長期にわたり治療の成果に寄与する。本明細書中に開示されるバックボーンFIV系のうちの1つは、Poeschla EM,et al.,Nature Medicine 4:354−357.(1998)に示される。例えば、本明細書中には、周産期にFIV(lacZ)を全身投与した後の、マウスにおける、3ヶ月を超えるレポーター遺伝子lacZの安定な発現が本明細書中に開示される。
これらの構築物を研究するためのモデル系は、IL−1βが切除により(exisionally)活性化されたトランスジェニック(XAT)マウス(IL−1βXAT)およびそのバリエーションである。バリエーションは、例えば、CLL1A1−IL−1βXATマウスにおいてのような、組織特異的なプロモーターの使用を含む。このマウスモデルは、米国特許出願第60/627,604号(この開示されるマウスも出るに関連する教示について、その全体が本明細書中に参考として援用される)の主題である。このマウスモデルは、FIV(Cre)のようなCreリコンビナーゼ発現ベクターの標的部位への送達に基づいて、局在化された炎症の誘導を可能にする。例えば、FIV(Cre)のCLL1A1−IL−1βXATマウスの関節への送達は、炎症をモデルの関節炎へと誘導し得る。したがって、このマウスモデルは、例えば、この提供される構築物の関節炎に対する作用を試験または最適化するために使用され得る。また、循環中または関節中のいずれかにベクターを注射した後に、本明細書中に提供される任意の核酸またはトランスジーンを被験体の脳に送達する、FIVベクターの能力が、本明細書中に開示される。したがって、IL−1βXATおよびそのバリエーションは、循環中または関節中へのFIV(Cre)の送達の後に、神経炎症のモデルとして使用され得る。
4.疼痛を処置するための組成物
神経細胞(例えば、末梢神経細胞)のような細胞において、1以上のオピオイドレセプターを発現させるための構築物およびベクターを含む、疼痛を処置するための組成物が開示される。本明細書中で考察されるように、オピオイドレセプターは、代表的には、脊髄または脊柱上の神経細胞において発現され、そして、代表的には、末梢ではこれらのレセプターは発現されない。開示される組成物および方法は、神経細胞においてオピオイドレセプターを発現させるように設計され、これらの神経細胞は、外傷に起因して損傷を受けているかまたは透過性となっているが、内因性オピオイドレセプターを有さないか、または、代表的には神経細胞の周辺において、内因性オピオイド様分子と反応するには不十分な数の内因性レセプターを有する。したがって、痛覚点付近の神経細胞におけるオピオイドレセプターの発現は、代表的に、この領域におけるオピオイドレセプターの量を増加させ、したがって、内因性オピオイド様分子に対する応答性を増加させる。オピオイドレセプターを発現させることにより、疼痛の感作が、オピオイド鎮痛薬の投与によってではなく、内因性オピオイド様化合物のより効率的な使用によって、低減され得る。しかし、オピオイド、オピオイド様分子、および/または、他の疼痛軽減分子は、開示されるオピオイドレセプターに加えて追加され得ることが理解される。
投与が顎の関節内領域に行われる方法が開示される。本明細書中に示される結果は、FIV(lacZ)の関節内注射が、関節のTMJ表面ならびに関節部の半月板への首尾よい遺伝子の移行をもたらすことを実証した。したがって、開示されるベクターの投与が関節のTMJ表面および関節部の半月板への送達をもたらす方法が開示される。
顎関節(TMJ)への侵害受容性神経の分布は、主に、三叉神経の下顎部分の耳介側頭神経により提供される(Sessle & Wu,1991)。その細胞体が三叉神経節の後外側部に位置するAδ神経線維およびC神経線維(Yoshino et al.,1998)は、遠位に神経刺激を発射し、そして、TMJ被膜の後外側部(Bernick,1962;Thilander,1964;Frommer & Monroe,1966;Klineberg,1971)、半月板の後帯および後部付着(Dressen et al.,1990;Kido et al.,1991,1993;Wink et al.,1992)の全体に分散した、被膜で覆われていない神経終末として終結する。口顔領域に神経を分布させる、感覚性の三叉神経への抗侵害受容遺伝子の移行は、TMJのような痛みを伴う部位へのレンチウイルスベクターの注射(覆われていない神経終末によるレンチウイルスベクターの取り込みと、感覚細胞の核への逆行性の移送をもたらす)の後に達成され得る。先の研究は、TMJから、三叉神経節(Yoshino et al.,1998)を含む中枢神経系(Romfh et al.,1979;Carpa,1987)へのホースラディッシュペルオキシダーゼの軸索の逆行性の移送を実証した。
任意のオピオイドレセプター遺伝子産物を発現し得る構築物が開示される。μ−オピオイドレセプター遺伝子産物のようなオピオイドレセプターを発現し得る構築物が開示される。μ−オピオイドレセプター構築物は、μ−オピオイドレセプタータンパク質の合成を可能にする。μ−オピオイドレセプター構築物は、代表的に、以下の3つの部分を含む:1)プロモーター、2)μ−オピオイドレセプターをコードする配列、および3)ポリAテイル。ポリAテイルは、ウシ成長ホルモンに由来するものであっても、合成のポリAテイルを含む任意のポリAテイルであってもよい。ウシ成長ホルモンのポリAテイルは、任意の遺伝子構築物の発現を増加させるだけでなく、その遺伝子構築物の安定性も高めるエレメントを有する。これらの3つの部分は、神経細胞のような最終的に分化した細胞に形質導入し得る、任意のベクター送達系へと組み込まれ得る。
プロモーターは、本明細書中で考察されるもののような、任意のプロモーターであり得る。本明細書中で考察されるように、μ−オピオイドレセプタータンパク質のようなオピオイドレセプターの、作製され得る機能的改変体が存在することが理解される。特定の実施形態では、プロモーターは、神経細胞特異的プロモーター(例えば、ニューロン特異的なエノラーゼプロモーター)のような、細胞特異的プロモーターである。他のプロモーターは、本明細書中に開示される。
プロモーターは、本明細書中で考察されるもののような、任意のプロモーターであり得る。本明細書中で考察されるように、μ−オピオイドレセプタータンパク質のようなオピオイドレセプターの、作製され得る機能的改変体が存在することが理解される。特定の実施形態では、プロモーターは、神経細胞特異的プロモーター(例えば、ニューロン特異的なエノラーゼプロモーター)のような、細胞特異的プロモーターである。
μ−オピオイドレセプターのcDNAは、American Tissue Culture Collectionから入手され得る。(American Tissue Culture Collection,Manassas,VA 20110−2209;μ−opioid receptor ATCC#.Raynor K,et al.,Characterization of the cloned human mu opioid receptor.J Pharmacol Exp Ther.1995;272:423−8)。
また、ヒトまたはマウスのμ−オピオイドレセプターならびにβ−ガラクトシダーゼレポーター遺伝子(lacZ)をコードする構築物も開示される。
μ−オピオイドレセプターをコードする配列を含む核酸が開示される。また、さらにプロモーター配列を含む核酸が開示され、ここで、μ−オピオイドレセプターが配列番号93もしくは95に示される配列に対して少なくとも80%の同一性を有するか、μ−オピオイドレセプターが配列番号92もしくは94に示される配列に対して少なくとも85%の同一性を有するか、μ−オピオイドレセプターが配列番号92もしくは94に示される配列に対して少なくとも90%の同一性を有するか、μ−オピオイドレセプターが配列番号92もしくは94に示される配列に対して少なくとも95%の同一性を有するか、そして/または、μ−オピオイドレセプターが配列番号92もしくは94に示される配列を有する。
また、開示される核酸を含むベクターが開示される。また、開示される核酸およびベクターを含む細胞が開示される。任意の細胞が、開示される構築物を用いて標的化され得る。しかし、例えば、神経細胞は、最終的に分化されている。これは、もはや分裂性ではないことを意味している。成熟な非分裂性の神経細胞の状態は、最終的に分化した細胞を規定し得る。したがって、分化細胞における安定な形質導入に関して、神経細胞は、魅力的な標的の代表例である。なぜなら、いったんDNAが組み込まれると、細胞内に留まらない可能性は非常に低いからである。
また、開示される核酸、ベクター、および本明細書中に開示される細胞を含む非ヒト哺乳動物が開示される。また、細胞を核酸でトランスフェクトする工程を包含する、細胞内にμ−オピオイドレセプターを提供する方法も開示される。また、開示される組成物を送達する方法も開示され、この方法において、トランスフェクションは、インビトロまたはインビボで起こる。開示される核酸、ベクターおよび/または細胞を投与する工程を包含する、トランスジェニック生物を作製する方法が開示される。
生物の発生の周産期段階の間に、その生物にレンチウイルスベクターをトランスフェクトする工程を包含する、トランスジェニック生物を作製する方法が開示される。開示される組成物を用いて、遺伝子操作された多能性幹細胞(例えば、胚性幹細胞)を生成するストラテジーを行い、本明細書中で考察されるような、遺伝子操作された細胞および生物を生成し得る。さらに、クローニングのストラテジーを用いて、1以上の開示される組成物を有する所望の生物を生成し得る。
また、任意の開示される化合物および組成物を投与する工程を包含する、疼痛を有する被験体を処置する方法も開示される。開示される構築物の、最終的に分化した細胞への送達もまた開示される。最終的に分化した細胞へとμ−オピオイドレセプターを送達するための、擬似型ネコ免疫不全ウイルス(FIV)が開示される。治療用遺伝子の安定な発現は持続的な発現の助けとなり、処置効率を高め、そして、長期にわたり治療の成果に寄与する。バックボーンFIV系は、そのレンチウイルスの特性に起因して、宿主ゲノム内へと関心のあるトランスジーンを効率的に組み込み、安定な遺伝子発現を可能にすることが示されている(Poeschla et al.,1998)。本明細書中では、周産期にFIV(lacZ)を全身投与した後の、N2a細胞におけるレポーター遺伝子lacZの安定な発現が開示される。
特定の実施形態では、構築物は、宿主のゲノムと一体になった生成物となる。例えば、HIVおよびLIVのようなレンチウイルスは、宿主の染色体内に治療用遺伝子をトランスフェクトさせて、一体になった生成物を形成させる特徴を有する。特定の実施形態では、要件は、ベクターが、神経細胞のような細胞の周辺、および/または、痛覚点の近くで発現することが可能であるということである。一体になった生成物と対照的なのは、例えば、HSVベクターおよびAVベクターを用いても生成され得る、エピソームの生成物である。したがって、一過性の発現が有益であり得る。発現の最適な時間は、生成される生成物の量および必要とされる量と相関する。例えば、特定の実施形態では、少なくとも3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、15日間、20日間、30日間、45日間、60日間、90日間、120日間、150日間、または180日間の発現が望ましい。
5.オピオイドレセプター
代表的に、オピオイドレセプターにはμ、δおよびκの3つのクラスがあると考えられる。これらのレセプターをコードする遺伝子がクローニングされている(Evans et al(1992)Science 258 1952;Kieffer et al(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89 12048;Chen et al(1993)Mol.Pharmacol.44 8;およびMinami et al(1993)FEBS Lett.329 291(これらは全て、オピオイドレセプターおよびその配列に関連する題材について、本明細書中に参考として援用される))。さらに、公知のオピオイドレセプターに対し高い相同性の程度を有し、そして、構造的基板に基づいている、オーファンレセプターが同定された。このレセプターは、ORL1(オピオイドレセプター様)と呼ばれるレセプターであると考えられる(Mollereau et al(1994)FEBS Lett.341 33(オピオイドレセプターおよびその配列に関連する題材について、本明細書中に参考として援用される))。これらのクローニングしたレセプターは、例えば、百日咳毒素感受性Gタンパク質と相互作用することによってオピオイドレセプターとして機能するので、これらのクローニングしたオピオイドレセプターは全て、1つの細胞外N末端領域と7つの膜貫通ドメインと細胞内のC末端テイル構造とを含む、同じ一般構造を持つ。薬物動態学的データおよび活性データから得られる証拠は、各レセプターにはサブタイプと、あまり十分には特徴付けられていないオピオイドレセプターのような他のタイプとが存在することが示され、この特徴付けられていないオピオイドレセプターとしては、ε、λ、ι、ζなどが知られる。μ−、δ−およびκ−レセプターについての異なるレセプターサブタイプを特徴付ける1つの方法は、遺伝子産物の異なる翻訳後修飾(グリコシル化、パルミトイル化、リン酸化、など)によるものである。また、ホモマーおよびヘテロマーの複合体を形成するため、または、RAMPのような付随タンパク質との遺伝子産物の相互作用からのレセプターの二量体化も、機能を果たし得、したがって、レセプターを特徴付ける別の方法を代表する。異なるオピオイドは、異なるオピオイドレセプターに対して異なる親和性を有する。例えば、μ−モルヒネ、δ−Leuエンケファリン(leukenkephalin)Metエンケファリン(metenkephalin)、κ−ジノルフィン、β−エンドルフィンは、種々のオピオイドレセプターに対して異なる親和性を有する。
a)μ−レセプターのサブタイプ
μ−レセプターの一形態をコードするMOR−1遺伝子は、δ−(DOR−1)レセプター、κ−(KOR−1)レセプターおよびオーファン(ORL1)レセプターをコードする遺伝子に対して約50〜70%の相同性を示す。MOR−1遺伝子の2つの異なるスプライシング改変体がクローニングされており、これらは、C末端テイルの8アミノ酸が異なる(存在しているか、していないかのいずれか)。このスプライシング改変体は、アゴニスト誘導性の内在化からの発生および回復の割合が異なっているが、その薬理学は、リガンド結合アッセイにおいて異なっているようには見えない。MOR−1ノックアウトマウスが作製されたが、このマウスは、疼痛を緩和しないことによって、そして、正の強化刺激特性(positive reinforcing properties)を示さないか、または、MOR−1遺伝子の非存在下で身体的依存性を誘導する能力によって、モルヒネに対して応答しない。これは、少なくともこの種において、モルヒネの痛覚消失が、δ−レセプターまたはκ−レセプターを介して媒介されないことを示す(Matthes et al(1996)Nature 383 818)。
μレセプターは、μ1群とμ2群とに分けられる。この分割は、例えば、ナロキサゾンおよびナロキソナジンがμ1部位への放射性リガンドの結合を無効にすることを示す結合および薬学的活性の研究に起因するものであり、そして、インビボでの研究が、ナロキサゾンがモルヒネ誘導性の抗侵害受容作用を選択的にブロックしたが、モルヒネ誘導性の呼吸抑制またはモルヒネに対する依存性の誘導をブロックしなかったことを示し、μ−レセプターの異なるタイプを示唆した(Ling et al(1984)Science 226 462およびLing et al(1985)J.Pharmacol.Exp.Ther.232 149)ことから、生じたものである。他の研究室におけるその後の研究では、この分類を確認できていない。
ヒトおよびマウスのμレセプターのペプチド配列を、それぞれ、配列番号92および94に示す。
また、6位が置換されたモルヒネのアナログ(例えば、モルヒネ−6b−グルクロニド、ヘロインおよび6−アセチルモルヒネ)はアゴニストとなるが、モルヒネ自体は相互作用しない、μレセプターの第3の形態と一致するデータも存在する(Rossi et al(1996)Neuroscience Letters 216 1(オピオイドレセプターならびにその機能および構造に関連する題材について、本明細書中に参考として援用される))。マウスに対する抗侵害受容試験は、モルヒネが、モルヒネ−6b−グルクロニド、ヘロインまたは6−アセチルモルヒネに対し、交差耐性を示さないことを示す。さらに、CXBX系統のマウスにおいて、モルヒネが効力の弱い抗侵害受容因子であるのに対し、モルヒネ−6b−グルクロニド、ヘロインおよび6−アセチルモルヒネは全て、強く抗侵害受容性である。ヘロインおよびモルヒネ−6−グルクロニドは、エキソン−1においてMOR−1遺伝子における破壊が遺伝子操作されたMOR−1ノックアウトマウスにおいて、依然として抗侵害受容性を生じるが、モルヒネは抗侵害受容性を生じない(Schuller et al(1999)Nature Neuroscience 2 151)。さらに、エキソン−1ではなく、エキソン−2が破壊されたMOR−1ノックアウトマウスにおいて、3つ全てのアゴニストは、抗侵害受容因子として無効であった。これは、エキソン−1 MOR−1変異マウスにおけるヘロインおよびモルヒネ−6−グルクロニドの抗侵害受容作用が、エキソン−1領域において、MOR−1遺伝子産物であるμ−オピオイドレセプターとは異なる、MOR−1遺伝子の代替的な転写物から生成されるレセプターを介して媒介されることを示す。
b)δ−レセプターのサブタイプ
ただ一つのδ−レセプター遺伝子がクローニングされているが(DOR−1)、インビボおよびインビトロの薬理学的実験に基づいて、δ−レセプターの重なる下位分類が提唱されている(δ1/δ2およびδcx/δncx)。
δレセプターのサブクラスは、薬理学的研究から生じたものである。インビボのげっ歯類研究からの結果を表1に示す。
クローニングされたDOR−1レセプターの薬理学的特性は、ほぼ、δ1サブタイプまたはδ2サブタイプのいずれかについて予測されたものの間にある。マウスおよびヒトの組換えレセプターは共に、DPDPEおよびデルトロフィン(deltorphin)II([3H]−ジプレノルフィンに取って代わり得る)に結合する。これは、δ1の分類ともδ2の分類とも異なる(Law et al(1994)J.Pharmacol.Exp.Ther.271 1686)。しかし、マウス組換えレセプターに結合する[3H]−ジプレノルフィンは、BNTXよりもナルトリベン(naltriben)で置き換えられる場合が多く、これは、このレセプターがδ2様であることと一致している。
オピオイドレセプターはまた、μ−レセプターおよびκ−レセプターの複合体であることが示されている。例えば、δレセプターサブタイプの一方のタイプδcxは複合体を形成し、別のタイプδncxは、複合体を形成しないようである(Rothman et al(1993)Handbook Exp.Pharmacol.Ed.A.Herz 104/1 p217)。
c)κ−レセプター
クローニングしたκ−レセプターは、配列番号96に示される配列を有し、これは、κ−レセプターの一例を代表するものである。
d)オーファンオピオイドレセプター
ラット、マウスおよびヒトの3つの種において、オーファンレセプターが同定されており、これらは全て、互いに対し90%より高い同一性を有する。このレセプターは、代表的には、オーファンレセプター様1についてORL−1と称される。ORL1に対する内因性ペプチドアゴニストは、ノシセプチンまたはオーファニンFQとして知られる。ORL1レセプターは、オーファンレセプターに対して構造的相同性を有するが、薬理学的相同性は有さない。μ−レセプター、κ−レセプターおよびδ−レセプターの全てに対し高い親和性を示す非選択的なリガンドは、ORL1レセプターに対して非常に低い親和性を有する。4つのレセプターの推定アミノ酸配列の比較は、構造的な相違を強調し、これは、共通のリガンドに結合しないことと一致する。膜貫通領域は、μ−レセプター、κ−レセプターおよびδ−レセプターにおいてその先端付近では保存されているが、ORL1では変化している。伝統的なレセプター(ラット)に対するORL1の部位特定変異は、伝統的なレセプターのリガンドに結合することを可能にする。例えば、ベンゾモルファンブレマゾシンは、TM5におけるAl213を、μ、κおよびδの保存されたLysに変更することによって、または、TM6のVal−Gln−Valの276〜278の配列を、保存されたIle−His−Ileモチーフに変更することによって、ORL1に結合する(Meng et al(1996)J.Biol.Chem.271 32016)。また、ORL1レセプターには多数のスプライシング改変体が存在し、今日までに、XOR(Wang et al(1994)FEBS Lett.348 75)と、第3の細胞外ループ内に追加の28アミノ酸を含む長い形態(XOR1L)と、マウスに由来する相同なレセプター、KOR−3と、5つのスプライシング改変体が報告されている(Pan et al(1998)FEBS Lett.435 65)。
e)内因性リガンド
哺乳動物において、内因性オピオイドペプチドは、主に4つの前駆体から駆動される:プロ−オピオメラノコルチン(opiomelanocortin)、プロ−エンケファリン、プロ−ジノルフィンおよびプロ−ノシセプチン/オルファニンFQ。ノシセプチン/オルファニンFQは、プロ−ノシセプチン/オルファニンFQからプロセシングされ、そして、ORL1−レセプターに対する内因性リガンドである;これは、μ−レセプター、δ−レセプターおよびκ−レセプターに対しほとんど親和性を有さない。表3は、オピオイドレセプターに対する内因性リガンドを示す。これらのペプチドは、異なる親和性でμ−レセプター、δ−レセプターおよびκ−レセプターに結合し、そして、ORL1−レセプターに対しごくわずかな親和性を有するが、専ら1つのオピオイドレセプタータイプに結合するものはなく、β−エンドルフィンは、κ−レセプターに対するよりもかなり低い親和性でμ−レセプターおよびδ−レセプターにおいて等活性(equiactive)であり;翻訳後の生成物であるN−アセチル−β−エンドルフィンは、いずれのオピオイドレセプターに対しても非常に低い親和性を有する。[Met]エンケファリンおよび[Leu]エンケファリンは、δ−レセプターに対し、μ−レセプターに対する親和性より10倍低い親和性を有し、そして、κ−レセプターに対しては、ごくわずかな親和性を有する。[Met]エンケファリンのN末端伸長物であるプロ−エンケファリンのプロセシングの他の生成物は、いくつかの生成物(例えば、μ−レセプターに対し最も高い親和性を示すメトルファミド(metorphamide))と比較して、δ−レセプターに対して選択性が低い。プロ−ジノルフィンのオピオイドフラグメント、特に、ジノルフィンAおよびジノルフィンBは、κ−レセプターに対して高い親和性を有するが、μ−レセプターおよびδ−レセプターに対しても有意な親和性を有する。
エンドモルフィン−1およびエンドモルフィン−2は、なお同定されていない前駆体の推定産物であり、これらは、μ−レセプターに対する内因性リガンドであることが提唱されており、高度に選択的である。エンドモルフィンは、アミド化されたテトラペプチドであり、そして、他の内因性オピオイドペプチド(表3)と構造的に関連性がない。これらのペプチドの細胞内局在化の研究は初期段階であるが、エンドモルフィン−2は、ラットの脳の不連続の領域において見出されており、これらの領域のうちいくつかは、高濃度のμ−レセプターを含むことが知られる。エンドモルフィン−2はまた、一次性の感覚ニューロンおよび脊髄後角においても存在しており、ここで、侵害受容の入力を調節するように機能し得る。
主に非選択的な哺乳動物のオピオイドペプチド(エンドモルフィンを除く)と比較して、両生類の皮膚は、μ−レセプターまたはδ−レセプターに対して選択的な、Dアミノ酸含有ペプチドの2つのファミリーを含む。デルモルフィンは、μ−選択的なヘプタペプチド(heptapeptide)Tyr−D−Ala−Phe−Gly−Tyr−Pro−Ser−NH2であり、δ−レセプターおよびκ−レセプターに対しては有意な親和性がない。対照的に、デルトルフィン−デルトルフィン(ダーマエンケファリン(dermenkephalin);Tyr−D−Met−Phe−His−Leu−Met−Asp−NH2)、[D−Ala2]−デルトルフィンIおよび[D−Ala2]−デルトルフィンII(Tyr−D−Ala−Phe−Xaa−Val−Val−Gly−NH2であり、ここで、Xaaはそれぞれ、AspまたはGluである)−は、δ−オピオイドレセプターに対し高度に選択的である。表3は、種々の内因性オピオイドレセプター分子を示す。
オピオイドレセプターの活性化は、一連の広範な細胞応答を生じる(表2)。例えば、直接的なGタンパク質bgまたはサブユニットが媒介する作用(例えば、内部修正するカリウムチャネルの活性化、電圧作動性カルシウムチャネル(N型、P型、Q型およびR型)の阻害、アデニリルシクラーゼの阻害、未知の中間機構の応答、PLA2の活性化、PLCbの活性化(おそらくは、直接的なGタンパク質bgサブユニットの活性化)、MAPキナーゼの活性化、大コンダクタンスのカルシウム依存性カリウムチャネル(large conductance calcium−activated potassium channel)の活性化、L型電位依存性カルシウムチャネルの活性化、T型電位依存性カルシウムチャネルの阻害、および、伝達物質のエキソサイトーシスの直接的な阻害)が存在する。また、他のエフェクター経路における応答(例えば、電位依存性カリウムチャネルの活性化(PLA2の活性化)、Mチャネルの阻害(PLA2の活性化)、過分極活性カチオンチャネル(Ih)の阻害(アデニリルシクラーゼ阻害後のcAMPレベルの低下)、細胞内遊離カルシウムレベルの上昇(PLCbの活性化、L型伝達作動性カルシウムコンダクタンスの活性化)、NMDA電流の相乗作用(プロテインキナーゼCの活性化)、伝達物質の放出阻害(アデニリルシクラーゼの阻害、カリウムチャネルの活性化および電圧作動性カルシウムチャネルの阻害)、神経興奮性の低下(カリウムチャネルの活性化)、神経の発射速度(neuronal firing rate)の上昇(阻害性伝達物質の放出阻害−脱抑制)、および遺伝子発現の変化(アデニリルシクラーゼ活性の長期にわたる変化、細胞内カルシウムレベルの上昇、cAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)の活性化))も存在する。
6.核酸
核酸ベースの種々の分子が本明細書中に開示され、これらとしては、例えば、IL−1ra、ならびに、本明細書中に開示される他のたんぱく質をコードする核酸、ならびに、種々の機能的核酸が挙げられる。開示される核酸は、例えば、ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、またはヌクレオチド代替物から構成される。これらおよび他の分子の非限定的な例は本明細書中で考察される。例えば、ベクターが細胞内で発現されるとき、発現されるmRNAは代表的にはA、C、GおよびUから構成されることが理解される。同様に、例えば、アンチセンス分子が、例えば外来性の送達により細胞または細胞環境中に導入される場合、アンチセンス分子は、細胞環境におけるアンチセンス分子の分解を減少させるヌクレオチドアナログから構成されていることが有益であることが理解される。
a)ヌクレオチドおよび関連の分子
ヌクレオチドは、塩基部分、糖部分およびリン酸部分を含む分子である。ヌクレオチドは、そのリン酸部分および糖部分を介して互いに連結され、ヌクレオチド間結合を形成し得る。ヌクレオチドの塩基部分は、アデニン−9−イル(A)、シトシン−1−イル(C)、グアニン−9−イル(G)、ウラシル−1−イル(U)およびチミン−1−イル(T)であり得る。ヌクレオチドの糖部分は、リボースまたはデオキシリボースである。ヌクレオチドのリン酸部分は、五価のリン酸である。ヌクレオチドの非限定的な例は、3’−AMP(3’−アデノシン一リン酸)または5’−GMP(5’−グアノシン一リン酸)である。
ヌクレオチドアナログは、塩基部分、糖部分またはリン酸部分のいずれかにいくつかのタイプの修飾を含むヌクレオチドである。ヌクレオチドへの修飾は、当該分野で周知であり、そして、例えば、5−メチルシトシン(5−me−C)、5−ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチンおよび2−アミノアデニン、ならびに、糖部分もしくはリン酸部分における修飾が挙げられる。
ヌクレオチド代替物は、ヌクレオチドに類似する機能的特性を有するが、リン酸部分を含まない分子(例えば、ペプチド核酸(PNA))である。ヌクレオチド代替物は、Watson−CrickまたはHoogsteenの様式で核酸を認識するが、リン酸部分以外の部分を介して互いに連結される分子である。ヌクレオチド代替物は、適切な標的核酸と相互作用したときに、二重らせん型の構造に従い得る。
また、他の型の分子(結合体)をヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログに連結して、例えば、細胞への取り込みを高めることも可能である。結合体は、ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログに化学的に連結され得る。このような結合体としては、コレステロール部分のような脂質部分が挙げられるがこれらに限定されない(Letsinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989,86,6553−6556)。
Watson−Crick相互作用は、ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド代替物のWatson−Crick面との少なくとも1つの相互作用である。ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド代替物のWatson−Crick面としては、プリン塩基のヌクレオチド、ヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド代替物のC2位、N1位およびC6位、ならびに、ピリミジン塩基のヌクレオチド、ヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド代替物のC2位、N3位、C4位が挙げられる。
Hoogsteen相互作用は、ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログのHoogsteen面で起こる相互作用であり、このHoogsteen面は、二重鎖DNAの主溝内で露出される。Hoogsteen面としては、プリンヌクレオチドのN7位と、C6位にある反応性基(NH2またはO)が挙げられる。
b)配列
例えば、IL−1raならびに本明細書中に開示される他のタンパク質に関連する種々の配列(Genbankに開示されている)が存在し、そして、これらおよび他の配列は、全体が、そして、その内部に含まれる個々の部分配列についても同様に、本明細書中に参考として援用される。
種々の配列が本明細書中に提供され、そして、これらおよび他の配列は、www.pubmed.govにおいてGenbank内に見出され得る。当業者は、配列の相違点および差異を区別する方法、ならびに、特定の配列に関連する組成物および方法を、他の関連する配列に対して調節する方法を理解する。本明細書中に開示され、かつ当該分野で公知の情報を仮定すると、プライマーおよび/またはプローブは任意の配列について設計され得る。
c)プライマーおよびプローブ
本明細書中に開示される遺伝子と相互作用し得るプライマーおよびプローブを含む組成物が開示される。特定の実施形態では、プライマーは、DNA増幅反応を支援するために使用される。代表的には、プライマーは、配列特異的な様式で伸長され得る。配列特異的な様式でのプライマーの伸長は、任意の方法を含み、この方法において、そのプライマーがハイブリダイズされるか、または、他の方法で結合される核酸分子の配列および/または組成が、プライマーの伸長により生成される産物の組成または配列を定めるか、または、影響を与える。したがって、配列特異的な様式でのプライマーの伸長としては、PCR、DNA配列決定、DNA伸長、DNA重合、RNA転写、または逆転写が挙げられるがこれらに限定されない。配列特異的な様式でプライマーを増幅する技術および条件が好まれる。特定の実施形態では、プライマーは、PCRまたは直接的な配列決定のような、DNA増幅反応のために使用される。特定の実施形態では、プライマーは、非酵素的技術を用いても伸長され得ることが理解され、この技術では、例えば、プライマーを伸長するために使用されるヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、化学的に反応して、プライマーを配列特異的な様式で伸長するように修飾される。代表的には、開示されるプライマーは、核酸または核酸の一領域とハイブリダイズするか、または、核酸の相補体または核酸の一領域の相補体とハイブリダイズする。
7.配列の類似性
本明細書中で考察されるように、用語「相同性」および「同一性」の使用は、類似性と同じものを意味することが理解される。したがって、例えば、語「相同性」の使用が、2つの非天然配列間で使用される場合、これは、必ずしもこれらの2つの配列間に進化的な関係性を示す必要はなく、これらの核酸配列間の類似性または関連性に注目していることが理解される。2つの進化的に関連する分子の間の相同性を決定するための方法の多くは、これらが進化的に関連しているかしていないかにかかわらず、配列の類似性を測定する目的で、任意の2以上の核酸またはタンパク質に対して慣用的に適用される。
一般に、本明細書中に開示される遺伝子およびタンパク質の任意の公知の改変体および誘導体または生じ得るものを規定する1つの方法は、特定の公知配列に対する相同性の観点から、その改変体および誘導体を規定することによるものであることが理解される。本明細書中に開示される特定の配列のこの同一性はまた、本明細書の別の箇所で考察される。一般に、本明細書中に開示される遺伝子およびタンパク質の改変体は、その規定配列またはネイティブな配列に対し、少なくとも約70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有する。当業者は、2つのタンパク質または核酸(例えば、遺伝子)の相同性を決定する方法を容易に理解する。例えば、相同性は、相同性がその最も高いレベルになるように2つの配列を整列させた後に計算され得る。
相同性を計算する別の方法は、公開されたアルゴリズムにより行われ得る。比較のための配列の最適な整列は、SmithおよびWaterman(Adv.Appl.Math.2:482(1981))の局所相同性アルゴリズムによって、NeedlemanおよびWunsch(J.Mol.Biol.48:443(1970))の相同性整列アルゴリズムによって、PearsonおよびLipman(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444(1988))の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ化されたインプリメンテーション(GAP、BESTFIT、FASTAおよびWisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのTFASTA)によって、または、検査(inspection)によって行われ得る。
同じタイプの相同性は、例えば、Zuker,M.Science 244:48−52,1989、Jaeger et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:7706−7710,1989、Jaeger et al.Methods Enzymol.183:281−306,1989(これらは、少なくとも核酸の整列に関する題材に関して、本明細書中に参考として援用される)に開示されるアルゴリズムによって、核酸について得られ得る。代表的に、任意の方法が使用され得、そして、特定の状況において、これらの種々の方法の結果は異なり得ることが理解されるが、当業者は、これらの方法のうち少なくとも1つを用いて同一性が見出される場合、配列は、規定される同一性を有し、そして、本明細書中に開示されるものと言われることを理解する。
例えば、本明細書中で使用される場合、別の配列に対して特定の相同性%を有するものと列挙される配列は、任意の1以上の上記の計算方法により計算したときに、列挙される相同性を有する配列と呼ばれる。例えば、Zukerの計算方法を用いて第一の配列が第二の配列に対して80%の相同性を有すると計算される場合、たとえ、任意の他の計算方法により計算するときに第一の配列が第二の配列に対して80%の相同性を有さないとしても、第一の配列は、本明細書中で規定されるように、第二の配列に対して80%の相同性を有する。別の例として、Zukerの計算方法とPearsonおよびLipmanの計算方法の両方を用いて第一の配列が第二の配列に対して80%の相同性を有すると計算される場合、たとえ、SmithおよびWatermanの計算方法、NeedlemanおよびWunshの計算方法、Jaegerの計算方法または任意の他の計算方法により計算するときに第一の配列が第二の配列に対して80%の相同性を有さないとしても、第一の配列は、本明細書中で規定されるように、第二の配列に対して80%の相同性を有する。なお別の例として、各計算方法を用いて第一の配列が第二の配列に対して80%の相同性を有すると計算される場合(実際には、しばしば、異なる方法は、異なる相同性%の計算結果を生じるが)、第一の配列は、本明細書中で規定されるように、第二の配列に対して80%の相同性を有する。
8.ハイブリダイゼーション/選択的ハイブリダイゼーション
用語「ハイブリダイゼーション」は、代表的に、少なくとも2つの核酸分子(例えば、プライマーまたはプローブと遺伝子)間の配列駆動性の相互作用を意味する。配列駆動性の相互作用とは、2つのヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド誘導体間でヌクレオチド特異的な様式で起こる相互作用を意味する。例えば、Cと相互作用するGまたはTと相互作用するAは、配列駆動性の相互作用である。代表的に、配列駆動性の相互作用は、ヌクレオチドのWatson−Crick面またはHoogsteen面において起こる。2つの核酸のハイブリダイゼーションは、当業者に公知の多数の条件およびパラメーターにより影響を及ぼされる。例えば、反応の塩濃度、pHおよび温度は全て、2つの核酸分子がハイブリダイズするかどうかに影響を及ぼす。
2つの核酸分子間の選択的なハイブリダイゼーションのためのパラメーターは、当業者に周知である。例えば、いくつかの実施形態では、選択的なハイブリダイゼーション条件は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件として規定され得る。例えば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーションおよび洗浄の段階のいずれかまたは両方の、温度および塩濃度の両方により制御される。例えば、選択的なハイブリダイゼーションを達成するためのハイブリダイゼーションの条件は、Tm(分子の半分がそのハイブリダイゼーション相手から解離する溶融温度)よりも低い約12〜25℃の温度の、高イオン強度の溶液(6×SSCまたは6×SSPE)におけるハイブリダイゼーションと、その後の、洗浄温度がTmより低い約5℃〜20℃となるように選択した、温度および塩濃度の組み合わせでの洗浄を含み得る。温度および塩の条件は、フィルター上に固定した参照DNAのサンプルが、関心のある標識核酸に対してハイブリダイズされ、次いで、異なるストリンジェンシーの条件下で洗浄される、予備実験において容易に実験的に決定される。ハイブリダイゼーションの温度は、代表的に、DNA−RNAハイブリダイゼーションおよびRNA−RNAハイブリダイゼーションについて、より高い。条件は、ストリンジェンシーを達成するために上述のように、または、当該分野で公知であるように使用され得る(Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,1989;Kunkel et al.Methods Enzymol.1987:154:367,1987(これらは、少なくとも核酸のハイブリダイゼーションに関連する題材について、本明細書中に参考として援用される))。DNA:DNAハイブリダイゼーションのための好ましいストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、6×SSCまたは6×SSPEにおける約68℃(水溶液中)と、その後の68℃での洗浄であり得る。ハイブリダイゼーションおよび洗浄のストリンジェンシーは、所望される場合、所望される相補性の程度が減少されるに従って、そしてさらに、可変性が探索される任意の領域のG−CまたはA−Tのリッチさに依存して、減少され得る。同様に、ハイブリダイゼーションおよび洗浄のストリンジェンシーは、所望される場合、所望される相同性が増加されるに従って、そしてさらに、高い相同性が所望される任意の領域のG−CまたはA−Tのリッチさに依存して、増加され得る。これらは全て、当該分野で公知である。
選択的なハイブリダイゼーションを規定するための別の方法は、他の核酸に結合する核酸のうちの一つの量(割合)に注目することによるものである。例えば、いくつかの実施形態では、選択的なハイブリダイゼーション条件は、限定的な核酸の少なくとも約60%、65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%が非限定的な核酸に結合する場合のものである。代表的には、非限定的なプライマーは、例えば、10倍、または100倍、または1000倍過剰である。このタイプのアッセイは、限定的なプライマーおよび非限定的なプライマーの両方が、例えば、そのkdを10倍、または100倍、または1000倍下回る条件下、あるいは、一方の核酸分子のみが、10倍、または100倍、または1000倍である条件下、あるいは、一方の核酸分子または両方の核酸分子が、そのKdを上回る条件下で行われ得る。
選択的なハイブリダイゼーションを規定するための別の方法は、所望の酵素的操作を促進するためにハイブリダイゼーションが必要とされる条件下で、酵素的に操作されるプライマーの割合に注目することによるものである。例えば、いくつかの実施形態では、選択的なハイブリダイゼーション条件は、プライマーの少なくとも約60%、65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%が、酵素的な操作を促進する条件下で酵素的に操作される場合のものであり、例えば、酵素的な操作がDNA伸長である場合、選択的なハイブリダイゼーション条件は、プライマー分子の少なくとも約60%、65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%が伸長される場合のものである。好ましい条件としてはまた、操作を行う者により示唆される条件、または、操作を行う酵素に適切であると当該分野で示される条件が挙げられる。
まさに相同性に関して、本明細書中に開示される、2つの核酸分子間のハイブリダイゼーションレベルを決定するための種々の方法が存在することが理解される。これらの方法および条件は、2つの核酸分子間のハイブリダイゼーションの種々の割合を提供し得るが、そうでないと示されない限り、任意の方法のパラメーターを満たすことで十分であることが理解される。例えば、80%のハイブリダイゼーションが必要とされる場合であり、かつ、ハイブリダイゼーションが任意のこれらの方法のうちの一つにおいて必要とされるパラメーター内で生じる限りは、このハイブリダイゼーションは、本明細書中に開示されるものとみなされる。
組成または方法が、集合的または単独でのいずれかで、ハイブリダイゼーションを決定するためのこれらの基準のうちの任意のひとつを満たす場合、その組成または方法が本明細書中に開示されるものであるということを当業者が理解する、ということが理解される。
9.組成物の細胞への送達
本明細書中に開示される核酸は、細胞または被験体内の細胞に送達され得る。インビトロまたはインビボのいずれかで、細胞に核酸を送達するために使用され得る多数の組成物および方法が存在する。これらの方法および組成物は、大きく、以下の2つのクラスに分けられ得る:ウイルスベースの送達系および非ウイルスベースの送達系。例えば、核酸は、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム沈降法、プラスミド、ウイルスベクター、ウイルス核酸、ファージ核酸、ファージ、コスミド、または、細胞中の遺伝的物質の転移によるか、あるいは、カチオン性リポソームのようなキャリアを介してなど、多数の直接的な送達系を介して送達され得る。ウイルスベクター、化学的トランスフェクタント(chemical transfectant)、または、DNAのエレクトロポレーションおよび直接拡散のような物理−機械的方法を含め、適切なトランスフェクション手段は、例えば、Wolff,J.A.,et al.,Science,247,1465−1468,(1990);およびWolff,J.A.Nature,352,815−818,(1991)により記載される。このような方法は、当該分野で周知であり、そして、本明細書中に記載される組成物および方法と共に使用するために容易に適合可能である。特定の場合、方法は、大きなDNA分子と特異的に機能するよう修正される。さらに、これらの方法は、キャリアの標的化特徴を用いることによって、特定の疾患および細胞集団を標的とするために使用され得る。
a)核酸ベースの送達システム
転移ベクターは、遺伝子を細胞内に送達するために使用される任意のヌクレオチド構築物(例えば、プラスミド)、または、遺伝子を送達するための一般的な戦略の一部(例えば、組換えレトロウイルスまたは組換えアデノウイルスの一部として)であり得る(Ram et al.Cancer Res.53:83−88,(1993))。
本明細書中で使用される場合、プラスミドまたはウイルスベクターは、例えば、IL−1ra構築物、COX−1 siRNA構築物、COX−2 siRNA構築物、cPGES siRNA構築物またはmPGES siRNA構築物のような開示される核酸を、分解させることなく細胞内に転移させる因子であり、そして、この因子が送達される細胞内での開示される配列の発現をもたらすプロモーターを含む。いくつかの実施形態では、IL−1ra構築物、COX−1 siRNA構築物、COX−2 siRNA構築物、cPGES siRNA構築物またはmPGES siRNA構築物のためのベクターは、ウイルス、レトロウイルス、またはレンチウイルスに由来する。ウイルスベクターは、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、AIDSウイルス、神経向性ウイルス、シンドビスウイルスおよび他のRNAウイルス(HIV骨格を有するこれらのウイルスおよびレンチウイルスを含む)であり得る。これらのウイルスの特性(これらのウイルスをベクターとして使用するのに適切にする特性)を共有するあらゆるウイルスファミリーもまた好ましい。レトロウイルスとしては、マウスマロネー白血病ウイルスすなわちMMLV、および、MMVLのベクターとしての所望される特性を発現するレトロウイルスが挙げられる。レトロウイルスベクターは、他のウイルスベクターよりも大型の遺伝的搭載量(genetic payload)(すなわち、開示されるIL−1ra構築物、COX−1 siRNA構築物、COX−2 siRNA構築物、cPGES siRNA構築物もしくはmPGES siRNA構築物、または、マーカー遺伝子のようなトランスジーン)を運ぶことが可能であり、そして、この理由から、一般に使用されるベクターとなっている。しかし、これらは、非増殖細胞においては有用ではない。アデノウイルスベクターは、比較的安定であり、かつ、扱いやすく、高い力価を持ち、そして、エアロゾル処方物において送達され得、そして、非分裂細胞にトランスフェクトし得る。ポックスウイルスベクターは、大きく、そして、遺伝子を挿入するためのいくつかの部位を有し、これらは、熱に対して安定性であり、そして、室温で貯蔵可能である。好ましい実施形態は、ウイルス抗原により誘引される宿主生物の免疫応答を抑制するように遺伝子操作されたウイルスベクターである。このタイプの好ましいベクターは、インターロイキン8またはインターロイキン10のコード領域を有する。
ウイルスベクターは、遺伝子を細胞に導入するために、化学物質または物理的な方法よりも高い相互作用(transactoin)能(遺伝子を導入する能力)を有し得る。代表的に、ウイルスベクターは、非構造的初期遺伝子、構造的後期遺伝子、RNAポリメラーゼIII、複製およびビリオン形成に必須の逆方向末端反復、および、ウイルスゲノムの転写および複製を制御するプロモーターを含む。ベクターとして加工される場合、ウイルスは、代表的に、1以上の初期遺伝子が除去され、そして、遺伝子または遺伝子/プロモーターカセットが、除去したウイルスDNAの代わりにウイルスゲノム内に挿入される。このタイプの構築物は、約8kbまでの外来の遺伝物質を運び得る。除去した初期遺伝子の必須の機能は、代表的に、その初期遺伝子の遺伝子産物をトランスで発現するように加工された細胞株により供給される。
(1)レトロウイルスベクター
レトロウイルスは、レトロウイルス科のウイルスファミリーに属する動物ウイルスであり、あらゆるタイプ、サブファミリー、属、または向性を含む。レトロウイルスベクターは一般に、Verma,LM.(Retroviral vectors for gene transfer.In Microbiology−1985,American Society for Microbiology,pp.229−232,Washington,(1985);本明細書中に参考として援用される)により記載されている。遺伝子治療にレトロウイルスベクターを使用するための方法の例は、米国特許第4,868,116号および同第4,980,286号;PCT出願公開WO 90/02806およびWO 89/07136;ならびにMulligan(Science 260:926−932(1993))(これらの教示は、本明細書中に参考として援用される)に記載される。
レトロウイルスは、本質的には、その核酸カーゴ(cargo)内に詰められたパッケージ(package)である。この核酸カーゴは、パッケージングシグナルを有し、このシグナルは、複製された娘分子が、パッケージの外被内に効率的にパッケージングされることを確実にする。パッケージングシグナルに加え、複製のため、そして、複製されたウイルスのパッケージングのためにシスで必要とされる多数の分子が存在する。代表的には、レトロウイルスのゲノムは、タンパク質外被の作製に関与する、gag遺伝子、pol遺伝子およびenv遺伝子を含む。標的細胞に転移されるのは、gag遺伝子、pol遺伝子およびenv遺伝子(これらは、代表的には外来DNAにより置き換えられる)である。レトロウイルスベクターは、代表的に、パッケージの外被内に組み込むためのパッケージングシグナル、gag転写ユニットの開始点を示す配列、逆転写に必須のエレメント(逆転写のtRNAプライマーを結合するためのプライマー結合部位を含む)、DNA合成の間にRNA鎖の転換を導く末端反復配列、DNA合成の第二鎖の合成のためのプライミング部位としてはたらく、3’LTRに対して5’側にあるプリンリッチな配列、および、宿主ゲノム内へのレトロウイルスのDNA状態の挿入を可能にするLTRの末端付近にある特定の配列、を含む。gag遺伝子、pol遺伝子およびenv遺伝子を除去することで、約8kbの外来配列をウイルスゲノム内に挿入することが可能になり、この外来配列は、逆転写され、そして、複製されると、新しいレトロウイルス粒子内にパッケージングされる。核酸のこの量は、各転写物のサイズに依存して、多くの遺伝子のうちの一つを送達するのに十分である。挿入物中に、他の遺伝子と共に正または負のいずれかの選択マーカーを含めることが好ましい。
多くのレトロウイルスベクター内の複製の機械類(machinery)およびパッケージングタンパク質は除去されているので(gag、polおよびenv)、ベクターは、代表的には、パッケージング細胞株に入れることによって生成される。パッケージング細胞株は、複製およびパッケージングの機械類を含むが、いかなるパッケージングシグナルも含まないレトロウイルスでトランスフェクトまたは形質導入された細胞株である。選択したDNAを有するベクターがこれらの細胞株内にトランスフェクトされると、ヘルパー細胞によってシスで提供される機械類により、関心のある遺伝子を含むベクターが複製され、そして、新しいレトロウイルス粒子内にパッケージングされる。これら機械類についてのゲノムは、パッケージングされない。なぜならば、これらは、必須のシグナルを欠失しているからである。
(2)アデノウイルスベクター
複製欠損型アデノウイルスの構築が記載されている(Berkner et al.,J.Virology 61:1213−1220(1987);Massie et al.,Mol.Cell.Biol.6:2872−2883(1986);Haj−Ahmad et al.,J.Virology 57:267−274(1986);Davidson et al.,J.Virology 61:1226−1239(1987);Zhang「Generation and identification of recombinant adenovirus by liposome−mediated transfection and PCR analysis」BioTechniques 15:868−872(1993))。これらのウイルスをベクターとして使用することの利点は、これらが他の細胞型に伝染し得る程度が制限されている点である。というのも、これらは、最初に感染した細胞内では複製し得るが、新しい感染性のウイルス粒子を形成でいないからである。組換えアデノウイルスは、気道上皮、肝細胞、血管内皮、CNS実質および多数の他の組織部位への直接的なインビボ送達の後に、高い遺伝子転移効率を達成することが示されている(Morsy,J.Clin.Invest.92:1580−1586(1993);Kirshenbaum,J.Clin.Invest.92:381−387(1993);Roessler,J.Clin.Invest.92:1085−1092(1993);Moullier,Nature Genetics 4:154−159(1993);La Salle,Science 259:988−990(1993);Gomez−Foix,J.Biol.Chem.267:25129−25134(1992);Rich,Human Gene Therapy 4:461−476(1993);Zabner,Nature Genetics 6:75−83(1994);Guzman,Circulation Research 73:1201−1207(1993);Bout,Human Gene Therapy 5:3−10(1994);Zabner,Cell 75:207−216(1993);Caillaud,Eur.J.Neuroscience 5:1287−1291(1993);およびRagot,J.Gen.Virology 74:501−507(1993))。組換えアデノウイルスは、特定の細胞表面レセプターに結合することによって、遺伝子の形質導入を達成し、その後、ウイルスは、野生型または複製欠損型のアデノウイルスと同じ様式で、レセプター媒介性のエンドサイトーシスにより内在化される(ChardonnetおよびDales,Virology 40:462−477(1970);BrownおよびBurlingham,J.Virology 12:386−396(1973);SvenssonおよびPersson,J.Virology 55:442−449(1985);Seth,et al.,J.Virol.51:650−655(1984);Seth,et al.,Mol.Cell.Biol.4:1528−1533(1984);Varga et al.,J.Virology 65:6061−6070(1991);Wickham et al.,Cell 73:309−319(1993))。
ウイルスベクターは、E1遺伝子が除去されたアデノウイルスに基づくものであり得、そして、これらのビリオンは、ヒト293細胞株のような細胞株において生成される。別の好ましい実施形態では、E1遺伝子およびE3遺伝子の両方が、アデノウイルスのゲノムから除去される。
(3)アデノ随伴ウイルスベクター
ウイルスベクターの別のタイプは、アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づくものである。この不完全なパルボウイルスは、多くの細胞型に感染し得、そして、ヒトに対して非病原性であることから、好ましいベクターである。AAV型のベクターは、約4〜5kbを輸送し得、そして、野生型のAAVは、19番染色体内に安定に挿入することが知られる。この部位特異的な組み込み特性を含むベクターは好ましい。このタイプのベクターの特に好ましい実施形態は、Avigen,San Francisco,CAにより生産されるP4.1 Cベクターであり、これは、単純疱疹ウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子HSV−tk、および/または、緑色蛍光タンパク質GFPをコードする遺伝子のようなマーカー遺伝子を含み得る。
別のタイプのAAVウイルスでは、AAVは、一対の逆方向末端反復(ITR)を含み、これらは、異種遺伝子に対し作動可能に連結された、細胞特異的な発現を指向するプロモーターを含む少なくとも1つのカセットに隣接して配置される。この文脈において、異種とは、AAVまたはB19パルボウイルスに対しネイティブではないあらゆるヌクレオチド配列または遺伝子を指す。
代表的には、AAVおよびB19のコード領域は除かれ、安全な非細胞傷害性ベクターが得られる。AAVのITRまたはその修飾物は、感染性と部位特異的な組み込みとを与えるが、細胞傷害性は与えず、そして、プロモーターは、細胞特異的な発現を指向する。米国特許第6,261,834号は、AAVベクターに関連する題材に関して、本明細書中に参考として援用される。
したがって、本発明のベクターは、実質的に毒性を伴わずに、哺乳動物の染色体内に組み込むことが可能なDNA分子を提供する。
ウイルスおよびレトロウイルス中に挿入された遺伝子は、通常、所望の遺伝子産物の発現の制御を補助するために、プロモーターおよび/またはエンハンサーを含む。プロモーターは、一般に、転写開始部位に関して比較的固定された位置にあるときに機能するDNAの配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼおよび転写因子の基本的な相互作用に必要とされるコアエレメントを含み、そして、上流エレメントと応答性エレメントとを含み得る。
(4)レンチウイルスベクター
ベクターは、レンチウイルスベクターであり得、これには、SIVベクター、HIVベクター、または、これらのベクターのハイブリッド構築物(HIV骨格を持つウイルスを含む)が挙げられるがこれらに限定されない。これらのベクターはまた、第一世代、第二世代および第三世代のレンチウイルスを含む。第三世代のレンチウイルスは、少なくとも3つの独立したプラスミドまたは構築物に分割された、レンチウイルスのパッケージング遺伝子を有する。また、ベクターは、これらのウイルスの特性(これらをベクターとしての使用に適切にする特性)を共有するあらゆるウイルスファミリーであり得る。レンチウイルスベクターは、特別なタイプのレトロウイルスベクターであり、代表的には、感染のために長期の潜伏期間を有することにより特徴付けられる。さらに、レンチウイルスベクターは、非分裂細胞にも感染し得る。レンチウイルスベクターは、ウイルスのレンチウイルス科に由来するウイルスの核酸骨格に基づいている。代表的に、レンチウイルスベクターは、レンチウイルス(例えば、SIVおよびHIV)の5’および3’のLTR領域を含む。レンチウイルスベクターはまた、代表的に、レンチウイルス(例えば、SIVおよびHIV)のRev応答性エレメント(RRE)を含む。
(a)ネコ免疫不全ウイルスベクター
開示される構築物がその内部で送達され得るベクターの一つのタイプは、Poeschla et al.(1998)により開発されたVSV−G擬似型ネコ免疫不全ウイルス系である。このレンチウイルスは、分裂細胞、増殖停止細胞ならびに有糸分裂後細胞に効率的に感染することが示されている。さらに、そのレンチウイルスの特性に起因して、このウイルスは、宿主のゲノム中へのトランスジーンの組み込みを可能にし、安定な遺伝子発現をもたらす。このウイルスは、3−ベクター系であり、これにより、各々が、別個の指示を与える:FIVベクターは、関心のあるトランスジーンと、パッケージング遺伝子およびエンベロープ遺伝子が変異したレンチウイルス装置とを有する。水泡性口内炎ウイルスのG−糖タンパク質ベクター(VSV−G;Burns et al.,1993)は、トランスでのウイルスエンベロープの形成に寄与する。第三のベクターは、トランスでのパッケージングの支持を与える(Poeschla et al,1998)。FIVの製造は、上記ベクターを293−T細胞に同時にトランスフェクトした後に、インビトロで達成される。次いで、FIV−リッチな上清を回収し、濾過し、そして、直接、または、遠心分離により濃縮した後に使用され得る。力価は、慣用的には、104〜107bfu/mlの間の範囲である。
(5)パッケージングベクター
上述のように、レトロウイルスベクターは、ウイルスの組み込み、組み込まれたウイルスの複製、組み込まれていないウイルスの複製、細胞への浸潤、およびウイルスの感染性粒子へのパッケージングのような多様な事物を制御する多数の異なる配列エレメントを含むレトロウイルスに基づく。ベクターは、理論上、その必須なエレメントの全て、ならびに、外来性遺伝子エレメント(外来性遺伝子エレメントが十分に小さい場合)を含み得るが、代表的には、必須なエレメントの多くは除去される。パッケージングおよび複製の成分は全て、被験体において使用される代表的なレトロウイルスベクター(レンチウイルスベクターを含む)から除去されているので、これらのベクターは、パッケージングベクターおよびパッケージング細胞株を使用することにより、最初の感染性粒子内にパッケージングされる必要がある。代表的に、レトロウイルスベクターは、レトロウイルスの莫大な数の機能が少なくとも2つのベクター(パッケージングベクターおよび送達ベクター)上に分離されるように加工されている。次いで、このタイプの系は、感染性粒子が生成され得る前に、同一細胞内に全てのエレメントを提供する全てのベクターが存在していることを必要とする。パッケージングベクターは代表的に、レトロウイルスに由来する構造遺伝子および複製遺伝子を有し、そして、送達ベクターは、好ましくは標的細胞において発現される外来性遺伝子エレメントを有するベクターである。これらのタイプの系は、パッケージングベクターのパッケージング機能を、複数のベクターに分割し得る(例えば、第三世代のレンチウイルス系)。Dull,T.et al.,「A Third−generation lentivirusベクターwith a conditional packaging system」J.Virol 72(11):8463−71(1998)。
レトロウイルスは、代表的に、エンベロープタンパク質(env)を含む。Envたんぱく質は、本質的には、核酸カーゴを取り囲むタンパク質である。さらに、細胞への感染特異性は、代表的なレトロウイルスに付随する特定のEnvタンパク質に基づく。代表的なパッケージングベクター/送達ベクター系において、Envタンパク質は、例えば、プロテアーゼ(pro)タンパク質またはインテグラーゼ(in)タンパク質とは別のベクターから発現される。
(6)パッケージング細胞株
ベクターは、代表的に、パッケージング細胞株内に入れることによって生成される。パッケージング細胞株は、複製およびパッケージングの機械類を含むが、いかなるパッケージングシグナルも含まないレトロウイルスでトランスフェクトまたは形質導入された細胞株である。選択したDNAを有するベクターがこれらの細胞株内にトランスフェクトされると、ヘルパー細胞によってシスで提供される機械類により、関心のある遺伝子を含むベクターが複製され、そして、新しいレトロウイルス粒子内にパッケージングされる。これら機械類についてのゲノムは、パッケージングされない。なぜならば、これらは、必須のシグナルを欠失しているからである。パッケージング細胞株の一つのタイプは、293細胞株である。
(7)大型搭載量(large payload)ウイルスベクター
大型のヒトヘルペスウイルスを用いた分子遺伝学実験は、大型の異種DNAフラグメントがクローニングされ、増殖され、そして、ヘルペスウイルスの感染に許容性の細胞において確立され得る手段を提供した(Sun et al.,Nature genetics 8:33−41,1994;CotterおよびRobertson,.Curr Opin Mol Ther 5:633−644,1999)。これらの大型DNAウイルス(単純疱疹ウイルス(HSV)およびエプスタイン−バーウイルス(EBV))は、特定の細胞に、150kbを超えるヒト異種DNAのフラグメントを送達する能力を有する。EBV組換え体は、感染したB細胞において、DNAの大きな断片をエピソームDNAとして維持し得る。330kbまでのヒトゲノム挿入物を有する個々のクローンは、遺伝的に安定であるようであった。これらのエピソームの維持は、特定のEBV核タンパク質であるEBNA1(EBVの感染の間、構成的に発現される)を必要とする。さらに、これらのベクターは、トランスフェクションのために使用され得、ここで、大量のタンパク質がインビトロで一過性に生成され得る。ヘルペスウイルスのアンプリコン系もまた、220kbを超えるDNAの断片をパッケージングするため、そして、DNAをエピソームとして安定に維持し得る細胞に感染させるために使用される。
他の有用な系としては、例えば、複製性および宿主が制限された非複製性のワクシニアウイルスベクターが挙げられる。
b)非核酸ベースのシステム
開示される組成物は、種々の方法で標的細胞に送達され得る。例えば、組成物は、エレクトロポレーションによって、または、リポフェクションによって、または、リン酸カルシウム沈降法によって送達され得る。選択される送達機構は、一部は、標的とされる細胞のタイプに依存し、そして、送達が、例えばインビボまたはインビトロのいずれで生じるかに依存する。
したがって、開示される核酸またはベクターに加え、組成物は、例えば、リポソーム(例えば、カチオン性リポソーム(例えば、DOTMA、DOPE、DC−コレステロール)またはアニオン性リポソーム)のような脂質を含み得る。リポソームはさらに、所望される場合、特定の細胞の標的化を容易にするためのタンパク質を含み得る。化合物およびカチオン性リポソームを含む組成物の投与は、標的器官に導入性の血液に投与されても、気道の標的細胞へと気道内に吸入されてもよい。リポソームに関しては、例えば、Brigham et al.Am.J.Resp.Cell.Mol.Biol.1:95−100(1989);Feigner et al.Proc.Natl.Acad.Sci USA 84:7413−7417(1987);米国特許第4,897,355号を参照のこと。さらに、化合物は、マクロファージのような特定の細胞型に対して標的化され得るマイクロカプセルの成分として投与され得、ここで、マイクロカプセルからの化合物の拡散または化合物の送達は、特定の速度または投薬量に設計される。
被験体の細胞内への外来性DNAの投与および取り込み(すなわち、遺伝子の形質導入またはトランスフェクション)を含む上記方法において、組成物の細胞への送達は、種々の機構を介してなされ得る。一例として、送達は、LIPOFECTIN、LIPOFECTAMINE(GIBCO−BRL,Inc.,Gaithersburg,MD)、SUPERFECT(Qiagen,Inc.Hilden,Germany)およびTRANSFECTAM(Promega Biotec,Inc.,Madison,WI)のような市販のリポソーム調製物、ならびに、当該分野で標準的な手順に従って開発された他のリポソームを用いて、リポソームを介してなされ得る。さらに、開示される核酸またはベクターは、Genetronics,Inc.(San Diego,CA)から利用可能な技術であるエレクトロポレーションによって、ならびに、SONOPORATION機器(ImaRx Pharmaceutical Corp.,Tucson,AZ)によって、インビボで送達され得る。
物質は、溶液中、懸濁液中であり得る(例えば、マイクロ粒子、リポソームまたは細胞内に組み込まれ得る)。これらは、抗体、レセプター、またはレセプターリガンドを介して、特定の細胞型に対して標的化され得る。以下の参考文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織へと標的化するためにこの技術を使用する例である(Senter,et al.,Bioconjugate Chem.,2:447−451,(1991);Bagshawe,K.D.,Br.J.Cancer,60:275−281,(1989);Bagshawe,et al.,Br.J.Cancer,58:700−703,(1988);Senter,et al,Bioconjugate Chem.,4:3−9,(1993);Battelli,et al.,Cancer Immunol.Immunother.,35:421−425,(1992);Pietersz and McKenzie,Immunolog.Reviews,129:57−80,(1992);およびRoffler,et al.,Biochem.Pharmacol,42:2062−2065,(1991))。これらの技術は、種々の他の特定の細胞型にも使用され得る。「ステルス(stealth)」のようなビヒクルおよび他の抗体結合体化リポソーム(脂質媒介性の薬物の結腸癌腫標的化を含む)、細胞特異的リガンドを介したDNAのレセプター媒介性標的化、リンパ球指向性の腫瘍標的化、ならびに、マウスの神経膠腫細胞のインビボでの高度に特異的な治療用レトロウイルスの標的化。以下の参考文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織へと標的化するためにこの技術を使用する例である(Hughes et al.,Cancer Research,49:6214−6220,(1989);ならびにLitzingerおよびHuang,Biochimica et Biophysica Acta,1104:179−187,(1992))。一般に、レセプターは、構成的であるかまたはリガンドにより誘導されたかのいずれかの、エンドサイトーシスの経路に関与する。これらのレセプターは、クラスリンで覆われた窪みにおいてクラスター形成し、クラスリンで覆われた小胞を介して細胞に入り、レセプターが振り分けられる酸性化されたエンドソームを通過し、次いで、細胞表面に再生利用されるか、細胞内に貯蔵されるか、または、リソソーム内で分解されるかのいずれかである。内在化の経路は、栄養物の取り込み、活性タンパク質の除去、高分子のクリアランス、ウイルスおよび毒素の日和見性の侵入、リガンドの解離および分解、ならびに、レセプターレベルの調節のような種々の機能を果たす。多くのレセプターは、細胞型、レセプターの濃度、リガンドのタイプ、リガンドの結合価、およびリガンド濃度に依存して、1以上の細胞内経路に従う。レセプター媒介性のエンドサイトーシスの分子および細胞の機構が検討されている(BrownおよびGreene,DNA and Cell Biology 10:6,399−409(1991))。
細胞に送達され、宿主細胞のゲノム中に組み込まれる予定の核酸は、代表的に、組み込み配列を含む。これらの配列は、しばしば、特にウイルスベースの系を使用する場合、ウイルスに関連する配列である。これらのウイルス組み込み系はまた、リポソームのような非核酸ベースの送達系を用いて送達される予定の核酸中にも組み込まれ得、その結果、この送達系中に含まれる核酸は、宿主のゲノム内に組み込まれるようになり得る。
宿主のゲノム中に組み込むための他の一般的な技術としては、例えば、種々腫のゲノムとの相同組換えを促進するように設計された系が挙げられる。これらの系は、代表的に、宿主細胞ゲノム内の標的配列と十分な相同性を有する、発現されるべき核酸に隣接して配置される配列に依存し、この宿主細胞ゲノムにおいて、ベクター核酸と標的核酸との間で組換えが起こり、送達した核酸を宿主ゲノム内に組み込ませる。相同組換えを促進するのに必要なこれらの系および方法は、当業者に公知である。
c)インビボ/エキソビボ
上述のように、組成物は、薬学的に受容可能なキャリア中で投与され得、そして、当該分野で周知の種々の機構(例えば、ネイキッドDNAの取り込み、リポソーム融合、遺伝子銃によるDNAの筋肉内注射、エンドサイトーシスなど)によって、インビボおよび/またはエキソビボで、被験体の細胞へと送達され得る。
エキソビボ法を採用する場合、細胞または組織は、取り出され、そして、当該分野で周知の標準的なプロトコールに従って、身体の外側で維持され得る。組成物は、例えば、リン酸カルシウム媒介性遺伝子送達、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションまたはプロテオリポソームのようなあらゆる遺伝子転移機構によって、細胞内に導入され得る。形質導入された細胞は、次いで、(例えば、薬学的に受容可能なキャリア中に)注入され得るか、または、細胞または組織のタイプについて標準的な方法によって、被験体内へと同位置に移植して戻され得る。種々の細胞の被験体内への移植または注入についての標準的な方法は公知である。
10.発現系
細胞に送達される核酸は、代表的に、発現制御システムを含む。例えば、ウイルスおよびレトロウイルスの系に挿入された遺伝子は、通常、所望の遺伝子産物の発現の制御を補助するために、プロモーターおよび/またはヘンハンサーを含む。プロモーターは、一般に、転写開始部位に関して比較的固定された位置にあるときに機能する、DNAの配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼおよび転写因子の基本的な相互作用に必要とされるコアエレメントを含み、そして、上流エレメントおよび応答性エレメントを含み得る。
a)ウイルスのプロモーターおよびエンハンサー
哺乳動物の宿主細胞におけるベクターからの転写を制御する好ましいプロモーターは、種々の供給源、例えば、ポリオーマ、サルウイルス40(SV40)、アデノウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、そして、最も好ましくは、サイトメガロウイルスのようなウイルスのゲノム、または、異種の哺乳動物プロモーター(例えば、βアクチンプロモーター)から得られ得る。SV40ウイルスの初期プロモーターおよび後期プロモーターは、SV40ウイルスの複製起点も含むSV40の制限フラグメントとして簡便に得られる(Fiers et al.,Nature,273:113(1978))。ヒトサイトメガロウイルスの最初期プロモーターは、Hind III E制限フラグメントとして簡便に得られる(Greenway,PJ.et al.,Gene 18:355−360(1982))。当然のことながら、宿主細胞または関連の種に由来するプロモーターもまた、本明細書において有用である。
エンハンサーは、一般に、転写開始部位から固定されない距離で機能し、転写ユニットに対して5’側(Laimins,L.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.78:993(1981))または3’側(Lusky,M.L.,et al.,Mol.Cell Bio.3:1108(1983))のいずれかであり得るDNA配列をいう。さらに、エンハンサーは、イントロン内(Banerji,J.L.et al.,Cell 33:729(1983))、ならびに、コード配列自体の内部(Osborne,T.F.,et al.,Mol.Cell Bio.4:1293(1984))であり得る。これらは、通常、長さ10bp〜300bpの間であり、そして、シスで機能する。エンハンサーは、プロモーター付近からの転写を高めるように機能する。エンハンサーはまた、しばしば、転写の調節を媒介する応答性エレメントを含む。プロモーターもまた、転写の調節を媒介する応答性エレメントを含み得る。エンハンサーは、しばしば、遺伝子の発現の調節を決定する。哺乳動物遺伝子に由来する多くのエンハンサー配列が現在知られるが(グロブリン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテインおよびインシュリン)、代表的には、遺伝子発現のために、真核生物細胞ウイルスに由来するエンハンサーを用いる。好ましい例は、複製起点(100〜270bp)の後ろ側(late side)にあるSV40エンハンサー、サイトメガロウイルスの最初期プロモーター、複製起点の後ろ側にあるポリオーマエンハンサー、および亜出のウイルスのエンハンサーである。
プロモーターおよび/またはエンハンサーは、光、または、その機能を誘引する特定の化学的事象のいずれかによって特異的に活性化され得る。システムは、テトラサイクリンおよびデキサメタゾンのような試薬によって調節され得る。また、ガンマ線照射のような放射線、またはアルキル化化学療法薬への暴露によって、ウイルスベクターの遺伝子発現を高める方法もある。
特定の実施形態では、プロモーターおよび/またはエンハンサーの領域は、転写されるべき転写ユニットの領域の発現を最大にするための、構成的なプロモーターおよび/またはエンハンサーとして機能し得る。特定の構築物では、プロモーターおよび/またはエンハンサーの領域は、特定の時点において特定の細胞型においてのみ発現される場合でさえ、あらゆる真核生物細胞型において活性である。このタイプの好ましいプロモーターは、CMVプロモーター(650塩基)である。他の好ましいプロモーターは、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(全長プロモーター)、およびレトロウイルスベクターのLTFである。
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒトまたは有核細胞)において使用される発現ベクターはまた、mRNAの発現に影響を及ぼし得る、転写の終結に必須の配列を含み得る。これらの領域は、組織因子タンパク質をコードするmRNAの非翻訳部分にあるポリアデニル化セグメントとして転写される。3’の非翻訳領域はまた、転写終結部位を含む。転写ユニットもまた、ポリアデニル化領域を含むことが好ましい。この領域の1つの利点は、転写されたユニットがプロセシングを受け、そして、mRNAのように輸送される可能性を高めるという点である。発現構築物におけるポリアデニル化シグナルの同定および使用は、十分に確立されている。相同なポリアデニル化シグナルがトランスジーン構築物において使用されることが好ましい。特定の転写ユニットでは、ポリアデニル化領域は、SV40初期ポリアデニル化シグナルに由来し、そして、約400の塩基から構成される。また、転写されるユニットは、他の標準的な配列を単独で含むか、または、上記配列と組み合わせて含み、構築物からの発現または構築物の安定性を向上させることが好ましい。
特定の実施形態では、プロモーターは、構成的プロモーターである。これは、他の因子を加えることなく、転写の調節をもたらすあらゆるプロモーターであり得る。このタイプのプロモーターの例は、CMVプロモーターおよびβアクチンプロモーター、ならびに、本明細書中で考察される他のプロモーターである。特定の実施形態では、プロモーターは、1以上の異なるタイプのプロモーターの融合物から構成され得る。例えば、CMVプロモーターおよびβアクチンプロモーターの調節性領域は、周知でありかつ十分に理解されており、これらの例は、本明細書中に開示される。例えば、これらのプロモーターの一部が、互いに融合されて、配列番号18に示されるもののような、CMV−βアクチン融合プロモーターを生成し得る。このタイプのプロモーターは、CMV成分とβアクチン成分とを有することが理解される。これらの成分は、独立してプロモーターとして機能し得、したがって、それ自体が、βアクチンプロモーターおよびCMVプロモーターと考えられる。プロモーターは、プロモーターの活動をもたらす公知のプロモーターの任意の部分であり得る。CMVプロモーターおよびβアクチンプロモーターを含む多くのプロモーターが、理解される機能的ドメインを有すること、そして、これらは、βアクチンプロモーターとして、またはCMVプロモーターとして使用され得ることは、十分に理解される。さらに、これらのドメインは決定され得る。例えば、配列番号15〜33は、多数のCMVプロモーター、βアクチンプロモーターおよび融合プロモーターを示す。これらのプロモーターは、比較され得、そして例えば、本明細書中に記載されるように、機能的な領域に輪郭が描かれる。例えば、これらの配列の各々は、独立して、または、任意の組み合わせで一緒に機能して、開示される核酸のためのプロモーター領域を提供し得る。
プロモーターはまた、細胞特異的プロモーターのような非構成的プロモーターでもあり得る。これらは、発生における特定の時点、または、段階、または、細胞の特定のタイプ(例えば、心筋細胞、または神経細胞、または骨細胞)で作動されるプロモーターである。細胞特異的プロモーターのいくつかの例は、神経エノラーゼ特異的プロモーター(NSE)、プロコラーゲンプロモーターCOL1A1(配列番号35)およびCOL2A1(配列番号36)、CD11bプロモーター(PBMC−小グリア細胞/マクロファージ/単球特異的)(配列番号69)、ならびに、グリア特異的グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター(配列番号34)である。
組換えシステムが、組織特異的な様式で発現され得ることが理解される。組織特異的な発現は、組織特異的プロモーターの存在に起因して生じ得ることが理解される。代表的に、組織特異的プロモーターの制御下のタンパク質は、そのプロモーターが特異的である組織内に存在することによって、そのプロモーターが活性になると、転写される。したがって、あらゆる細胞が、全体的に発現することなく、特定の遺伝子をコードし得る。したがって、標識したタンパク質は、他の付近の組織において発現すること(結果を悪化させ得る)も、発現が宿主に対して有害であるような組織において発現することもなく、特定の組織に存在することが示され得る。creリコンビナーゼが、EIIAプロモーター、乳房組織特異的なプロモーター(例えば、WAPプロモーター)、卵巣組織特異的なプロモーター(例えば、ACTBプロモーター)、または、骨組織特異的なプロモーター(例えば、オステオカルシン)の制御下にあるような方法が開示される。あらゆる組織特異的プロモーターが使用され得る。前立腺、精巣および神経に特異的なプロモーターもまた開示される。いくつかの組織特異的プロモーターの例としては、MUC1、EIIA、ACTB、WAP、bHLH−EC2、HOXA−1、α−フェトプロテイン(AFP)、オプシン(opsin)、CR1/2、Fc−γ−レセプター1(FC−γ−R1)、MMTVD−LTR、ヒトインシュリンプロモーター、Pdha−2が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、AFPプロモーターの使用は、肝臓に対する特異性をもたらす。別の例では、HOXA−1は、神経組織特異的プロモーターであり、したがって、HOXA−1の制御下で発現されるタンパク質は、神経組織においてのみ発現される。これらおよび他の組織特異的プロモーターについての配列は、当該分野で公知であり、そして、例えば、www.pubmed.govにおいて、Genbankに見出され得る。
b)マーカー
ウイルスベクターは、マーカー産物をコードする核酸配列を含み得る。このマーカー産物は、遺伝子が細胞に送達されたかどうかを決定するために使用され、いったん送達されると、発現される。好ましいマーカー遺伝子は、β−ガラクトシダーゼをコードするE.ColiのlacZ遺伝子および緑色蛍光タンパク質である。
いくつかの実施形態では、マーカーは、選択マーカーであり得る。哺乳動物細胞のための適切な選択マーカーの例は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ、ネオマイシン、ネオマイシンアナログであるG418、ヒドロマイシンおよびピューロマイシンである。このような選択マーカーが首尾よく哺乳動物の宿主細胞内に転移されると、形質転換された哺乳動物宿主細胞は、選択的な圧力下に置かれた場合に生き延び得る。選択レジメンには、広く用いられる2つの別個のカテゴリーが存在する。第一のカテゴリーは、細胞の代謝と、補充培地とは無関係に増殖する能力を欠く変異細胞株の使用に基づくものである。2つの例は以下のとおりである:CHO DHFR−細胞およびマウスLTK−細胞。これらの細胞は、チミジンまたはヒポキサンチンのような養分を加えることなく増殖する能力を欠く。これらの細胞は、完全なヌクレオチド合成経路に必要とされる特定の遺伝子を欠くので、これらは、欠けたヌクレオチドが補充培地中に提供されない限りは、生き延びることが出来ない。培地を補充することの代替は、インタクトなDHFRまたはTK遺伝子を、それぞれの遺伝子を欠く細胞に導入して、こうして、その増殖の要件を変更することである。DHFRまたはTK遺伝子で形質転換されなかった個々の細胞は、非補充培地においては生き延びることが出来ない。
第二のカテゴリーは、優性選択(dominant selection)(あらゆる細胞型において使用される選択スキームをいう)であり、これは、変異細胞株の使用を必要としない。これらのスキームは、代表低に、宿主細胞の増殖を停止させるために薬物を使用する。新規遺伝子を有するこれらの細胞は、薬物耐性を持つタンパク質を発現し、そして、選択を生き延びる。このような優性選択の例は、薬物ネオマイシン(Southern P.およびBerg,P.,J.Molec.Appl.Genet.1:327(1982))、ミコフェノール酸(Mulligan,R.C.およびBerg,P.Science 209:1422(1980))またはハイグロマイシン(Sugden,B.et al.,Mol.Cell.Biol.5:410−413(1985))を使用する。これら3つの例は、それぞれ、適切な薬物G418もしくはネオマイシン(ジェネティシン)、xgpt(ミコフェノール酸)、またはハイグロマイシンに対する耐性を持つために、真核生物の制御下で細菌の遺伝子を用いる。他のものとしては、ネオマイシンアナログであるG418およびピューロマイシンが挙げられる。
c)転写後調節性エレメント
開示されるベクターはまた、転写後調節性エレメントを含み得る。転写後調節性エレメントは、mRNAの安定性を高め得るか、または、転写されたmRNAの翻訳を高め得る。例示的な転写後調節性配列は、ウッドチャック肝炎ウイルスから単離されたWPRE配列である[Zufferey R,et al.,J Virol;73:2886−92(1999)]。転写後調節性エレメントは、外来性遺伝子に対して3’側および5’側の両方に位置し得るが、外来性遺伝子に対し3’側に位置することが好ましい。
d)形質導入効率エレメント(efficiency element)
形質導入効率エレメントは、ベクターのパッケージングおよび形質導入を向上させる配列である。これらのエレメントは、代表的に、ポリプリン配列を含む。形質導入効率エレメントの一例は、HIV−1 pSG3分子クローンに由来する、中心のポリプリン区域(polypurine tract)(ppt)および中心の末端部位(cts)を含む、ppt−cts配列である(HIV−1 pSG3クローンのbp4327〜4483)。
e)3’非翻訳領域
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒトまたは有核細胞)において使用される発現ベクターはまた、mRNAの発現に影響を及ぼし得る、転写の終結に必須の配列を含み得る。これら3’非翻訳領域は、外来遺伝子をコードするmRNAの非翻訳部分にあるポリアデニル化セグメントとして転写される。この3’の非翻訳領域はまた、転写終結部位を含む。転写ユニットもまた、ポリアデニル化領域を含み得る。この領域の1つの利点は、転写されたユニットがプロセシングを受け、そして、mRNAのように輸送される可能性を高めるという点である。発現構築物におけるポリアデニル化シグナルの同定および使用は、十分に確立されている。相同なポリアデニル化シグナルがトランスジーン構築物において使用され得る。転写ユニットの一実施形態では、ポリアデニル化領域は、SV40初期ポリアデニル化シグナルに由来し、そして、約400の塩基から構成される。転写されるユニットは、他の標準的な配列を単独で含むか、または、上記配列と組み合わせて含み、構築物からの発現または構築物の安定性を向上させ得る。
11.ペプチド
a)タンパク質改変体
ポリペプチドをコードする核酸を含む構築物が本明細書中に開示される。本明細書中で考察されるように、IL−1raのようなこれらのペプチドの各々には、本明細書中で企図される多数の改変体が存在し得る。IL−1raのような開示される公知の機能的タンパク質に加えて、開示される方法および組成物においても機能するこれらのタンパク質の誘導体も存在する。タンパク質の改変体および誘導体は、当業者に十分に理解され、そして、アミノ酸配列の修飾を含み得る。例えば、アミノ酸配列の修飾は、代表的に、3つのクラスのうち1以上に分類される:置換改変体、挿入改変体または欠失改変体。挿入としては、アミノ末端および/またはカルボキシル末端の融合、ならびに、単一もしくは複数のアミノ酸残基の配列間挿入が挙げられる。挿入は、通常、例えば、1〜4の残基のオーダーでの、アミノ末端またはカルボキシル末端の融合よりも小さい挿入である。実施例に記載されるもののような免疫原性融合タンパク質誘導体は、インビトロでの架橋によって、または、融合をコードするDNAで形質転換された組換え細胞培養によって、標的配列に免疫原性を付与するのに十分に大きなペプチドを融合させることによって作製される。欠失は、タンパク質配列からの1以上のアミノ酸残基の除去により特徴づけられる。代表的に、ほんの約2〜6残基がタンパク質分子内の任意の1つの部位において欠失される。これらの改変体は通常、タンパク質をコードするDNA内のヌクレオチドの部位特定変異誘発させ、それによって、改変体をコードするDNAをもたらし、その後、このDNAを組換え細胞培養において発現させることによって調製される。公知配列を有するDNAにおける所定の部位で置換変異を作製するための技術は周知であり、例えば、M13プライマー変異誘発およびPCR変異誘発である。アミノ酸置換は、代表的に、1残基であるが、一度に多数の異なる位置において生じ得る;挿入は、通常、約1〜10アミノ酸残基のオーダーである;そして、欠失は、約1〜30残基の範囲である。欠失または挿入は、好ましくは、隣接する対で作製される(すなわち、2残基の欠失または2残基の挿入)。置換、欠失、挿入またはこれらの任意の組み合わせは、最終的な構築物に到達するように組合され得る。変異は、リーディングフレーム外の配列で行わなければならず、そして、好ましくは、mRNAの二次構造をもたらし得る相補的な領域を作製しない。置換改変体は、少なくとも1つの残基が除かれ、その場所に異なる残基が挿入されたものである。このような置換は、一般に、以下の表3および4に従ってなされ、そして、保存的置換と称される。
機能または免疫学的同一性における実質的な変化は、表4にあるものよりも保存的でない置換を選択すること、すなわち、(a)置換の領域におけるポリペプチド骨格の構造(例えば、シートまたはらせんの立体配座)、(b)標的部位における分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖の嵩、を維持することに関する、これらの作用がより有意に異なる残基を選択することによって、つくられる。一般に、タンパク質の特性における最大の変化を生み出すと予測される置換は、(a)親水性残基(例えば、セリルまたはスレオニル)が疎水性残基(例えば、ロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリルまたはアラニル)で置換される置換;(b)システインまたはプロリンが任意の他の残基で置換される置換;(c)電気陽性側鎖(例えば、リシル、アルギニルまたはヒスチジル)が電気陰性残基(例えば、グルタミルまたはアスパルチル)で置換される置換;あるいは、(d)嵩高い側鎖を有する残基(例えば、フェニルアラニン)が、側鎖を有さない残基(例えば、グリシン)で置換される置換であり、この場合、(e)硫酸化および/またはグリコシル化のための部位数を増やすことによるものである。
例えば、1つのアミノ酸残基の、生物学的および/または化学的に類似する別の残基での置き換えは、保存的置換として当業者に公知である。例えば、保存的置換は、1つの疎水性残基を別の残基で置き換えること、または、1つの極性残基を別の残基で置き換えることである。この置換は、例えば、以下のような組み合わせを含む:GIy、Ala;VaI、Ile、Leu;Asp、GIu;Asn、GIn;Ser、Thr;Lys、Arg;およびPhe、Tyr。明白に開示される配列の各々のこのような保存的に置換されたバリエーションは、本明細書中に提供されるモザイクポリペプチド内に含まれる。
置換または欠失による変異誘発は、N−グリコシル化のための部位(Asn−X−Thr/Ser)またはO−グリコシル化のための部位(SerまたはThr)を挿入するために用いられ得る。システインまたは他の不安定な残基の欠失もまた望ましくあり得る。潜在的なタンパク質分解部位(例えば、Arg)の欠失または置換は、例えば、塩基性残基のうちの1つを欠失させるか、または、1つをグルタミニル残基もしくはヒスチジル残基で置換することによって達成される。
特定の翻訳後誘導体化は、発現されるポリペプチドに対する組換え宿主細胞の作用の結果である。グルタミニル残基およびアスパラギニル残基は、頻繁に、対応するグルタミル残基およびアスパリル残基へと翻訳後脱アミド化される。あるいは、これらの残基は、穏やかな酸性条件下で脱アミド化される。他の翻訳後修飾としては、プロリンおよびリジンの水酸化、セリル残基またはスレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化、リジン、アルギニンおよびヒスチジン側鎖のo−アミノ基のメチル化(T.E.Creighton,Proteins:Structure and Molecular Properties,W.H.Freeman & Co.,San Francisco pp 79−86[1983])、N末端アミンのアセチル化、そして、いくつかの例では、C末端カルボキシルのアミド化が挙げられる。
本明細書中に開示されるタンパク質の改変体および誘導体を規定する1つの方法は、特定の公知配列に対する相同性/同一性の観点から改変体および誘導体を規定することによるものであることが理解される。例えば、配列番号5は、IL−1raの特定の配列を示し、そして、配列番号9は、IL−1R2タンパク質の特定の配列を示す。具体的には、規定された配列に対して少なくとも70%または75%または80%または85%または90%または95%の相同性を有する、本明細書中に開示されるこれらのタンパク質および他のタンパク質の改変体が開示される。当業者は、2つのタンパク質の相同性を決定する方法を容易に理解する。例えば、相同性は、相同性がその最高レベルになるように2つの配列を整列させた後に計算され得る。
相同性を計算する別の方法は、公開されたアルゴリズムにより行われ得る。比較のための配列の最適な整列は、SmithおよびWaterman(Adv.Appl.Math.2:482(1981))の局所相同性アルゴリズムによって、NeedlemanおよびWunsch(J.MoL Biol.48:443(1970))の相同性整列アルゴリズムによって、PearsonおよびLipman(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444(1988))の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ化されたインプリメンテーション(GAP、BESTFIT、FASTAおよびWisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのTFASTA)によって、または、検査(inspection)によって行われ得る。
同じタイプの相同性は、例えば、Zuker,M.Science 244:48−52,1989、Jaeger et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:7706−7710,1989、Jaeger et al.Methods Enzymol.183:281−306,1989(これらは、少なくとも核酸の整列に関する題材に関して、本明細書中に参考として援用される)に開示されるアルゴリズムによって、核酸について得られ得る。
保存的な変異および相同性の説明は、特定の配列に対して少なくとも70%の相同性を有し、改変が保存的変異である実施形態のように、任意の組み合わせで互いに組合され得ることが理解される。
本明細書が種々のタンパク質およびタンパク質配列を考察する際、これらのタンパク質配列をコードし得る核酸もまた開示されることが理解される。これは、特定のタンパク質配列に関連する全ての変性配列、すなわち、1つの特定のタンパク質配列をコードする配列を有する全ての核酸、ならびに、タンパク質配列の開示される改変体および誘導体をコードする全ての核酸(変性核酸を含む)を包含する。したがって、特定の核酸配列の各々は本明細書中に完全には書かれ得ないが、これらの配列の各々および全ては、事実上、開示されるタンパク質配列によって、本明細書中に開示および記載されることが理解される。また、どの特定のDNA配列が生物内でそのタンパク質(開示されるタンパク質の特定の改変体が本明細書中に開示される)をコードするかを示すアミノ酸配列はないが、そのタンパク質が由来する特定の生物においてそのタンパク質をコードする公知の核酸配列もまた公知であり、そして、本明細書において開示および記載されることも理解される。
開示される組成物中に組み込まれ得る多数のアミノ酸およびペプチドのアナログが存在することが理解される。例えば、多数のDアミノ酸、または表3および表4に示されるアミノ酸とは異なる機能的置換を有するアミノ酸が存在する。天然に存在するペプチドの対抗する立体異性体ならびに、ペプチドアナログの立体異性体が開示される。これらのアミノ酸は、選択したアミノ酸でtRNA分子に電荷を与え、そして、部位特異的な方法でペプチド鎖内にアナログのアミノ酸を挿入するために例えばアンバーコドンを利用する構築物を遺伝子操作することによって、容易にポリペプチド鎖内に組み込まれ得る(Thorson et al.,Methods in Molec.Biol.77:43−73(1991)、Zoller,Current Opinion in Biotechnology,3:348−354(1992);Ibba,Biotechnology & Genetic Enginerring Reviews 13:197−216(1995)、Cahill et al.,TIBS,14(10):400−403(1989);Benner,TIB Tech,12:158−163(1994);IbbaおよびHennecke,Bio/technology,12:678−682(1994)(これらは全て、少なくともアミノ酸アナログに関連する題材について、本明細書中に参考として援用される)。
ペプチドを模倣するが、天然のペプチド結合を介して接続されていない分子が生成され得る。例えば、アミノ酸またはアミノ酸アナログのための結合としては、以下が挙げられ得る:CH2NH−−、−−CH2S−−、−−CH2−−CH2−−、−−CH=CH−−(シスおよびトランス)、−−COCH2−−、−−CH(OH)CH2−−および−−CHH2SO−−(これらおよび他の結合は、以下に見出され得る:Spatola,A.F.Chemistry and Biochemistry of Amino Acids,Peptides,and Proteins,B.Weinstein,eds.,Marcel Dekker,New York,p.267(1983);Spatola,A.F.,Vega Data(1983年3月),Vol.1,Issue 3,Peptide Backbone Modifications(一般的な総説);Morley,Trends Pharm Sci(1980)pp.463−468;Hudson,D.et al.,Int J Pept Prot Res 14:177−185(1979)(−−CH2NH−−、CH2CH2−−);Spatola et al.Life Sci 38:1243−1249(1986)(−−CH H2−−S);Hann J.Chem.Soc Perkin Trans.1 307−314(1982)(−−CH−−CH−−、シスおよびトランス);Almquist et al.J.Med.Chem.23:1392−1398(1980)(−−COCH2−−);Jennings−White et al.Tetrahedron Lett 23:2533(1982)(−−COCH2−−);Szelke et al.European Appln,EP 45665 CA(1982):97:39405(1982)(−−CH(OH)CH2−−);Holladay et al.Tetrahedron.Lett 24:4401−4404(1983)(−−C(OH)CH2−−);およびHruby Life Sci 31:189−199(1982)(−−CH2−−S−−)(これらは各々、本明細書中に参考として援用される))。特に好ましい非ペプチド結合は,−−CH2NH−−である。ペプチドアナログは、結合原子間に1つ以上の原子、例えば、b−アラニン、g−アミノ酪酸などを有し得ることが理解される。
アミノ酸アナログおよびアナログおよびペプチドアナログは、しばしば、より経済的な生産、より高い化学的安定性、向上された薬理学的特性(半減期、吸収、効能、効果など)、変更された特異性(例えば、生物学的活性の広域スペクトル)、低下した抗原性などのような、向上されたか、または所望される特性を有する。
D−アミノ酸はペプチダーゼなどにより認識されないので、D−アミノ酸は、より安定なペプチドを生成するために使用され得る。同じタイプのD−アミノ酸でのコンセンサス配列の1以上のアミノ酸の体系的な置換(例えば、L−リジンの代わりにD−リジン)は、より安定なペプチドを生成するために使用され得る。システイン残基は、2以上のペプチドを互いに環化または結合させるために使用され得る。これは、ペプチドを特定の立体配座に拘束するために有益であり得る(RizoおよびGierasch Ann.Rev.Biochem.61:387(1992)、本明細書中に参考として援用される)。
12.薬学的キャリア/薬学的生成物の送達
本明細書中に開示される組成物はまた、インビボで、薬学的に受容可能なキャリア中で投与され得る。「薬学的に受容可能」とは、生物学的に、または、他の点でも望ましくない物質ではない物質を意味し、すなわち、この物質は、あらゆる望ましくない生物学的作用を引き起こすことも、その物質が含まれる薬学的組成物の任意の他の成分と有害な様式で相互作用することもなく、核酸またはベクターと共に、被験体に投与され得る。キャリアは、本来、当業者に周知であるように、活性成分のあらゆる分解を最小限にし、そして、被験体におけるあらゆる有害な副作用を最小限にするように選択される。
組成物は、経口、非経口(例えば、静脈内)、筋肉内注射、腹腔内注射、経皮、体外、局所など(局所的な鼻腔内投与または吸入による投与を含む)で投与され得る。本明細書中で使用される場合、「局所的な鼻腔内投与」は、外鼻孔のうち一方または両方を通した鼻および鼻の通路内への組成物の送達を意味し、噴霧機構もしくは飛沫化機構(droplet mechanism)による、または、核酸もしくはベクターのエアロゾル化による送達を含み得る。吸入による組成物の投与は、噴霧もしくは飛沫化機構による送達を介して、鼻または口を通してなされ得る。送達はまた、挿管により呼吸系の任意の領域(例えば、肺)に直接なされ得る。必要とされる組成物の正確な量は、被験体の種、年齢、体重および全身状態、処置されるアレルギー性障害の重篤度、使用される特定の核酸もしくはベクター、その投与様式などに依存して、被験体ごとに異なる。したがって、組成物ごとについて正確な量を特定することは不可能である。しかし、適切な量は、本明細書中の教示を考慮して、慣用的に過ぎない実験を用いて、当業者により決定され得る。
組成物の非経口投与は、使用される場合、一般に、注射により特徴付けられる。注射可能物は、液体の溶液もしくは懸濁液として、注射前に液体中で懸濁溶液とするのに適切な固体形態として、または、エマルジョンとしてのいずれかで、従来の形態で調製され得る。非経口投与のためのより最近修正されたアプローチは、一定の投薬量が維持されるような、低速放出または持続放出の系を用いることを含む。例えば、米国特許第3,610,795号(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。
物質は、溶液中、懸濁液中であり得る(例えば、マイクロ粒子、リポソームまたは細胞内に組み込まれ得る)。これらは、抗体、レセプター、またはレセプターリガンドを介して、特定の細胞型に対して標的化され得る。以下の参考文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織へと標的化するためにこの技術を使用する例である(Senter,et al.,Bioconjugate Chem.,2:447−451,(1991);Bagshawe,K.D.,Br.J.Cancer,60:275−281,(1989);Bagshawe,et al.,Br.J.Cancer,58:700−703,(1988);Senter,et al.,Bioconjugate Chem.,4:3−9,(1993);Battelli,et al.,Cancer Immunol.Immunother.,35:421−425,(1992);PieterszおよびMcKenzie,Immunolog.Reviews,129:57−80,(1992);ならびにRoffler,et al.,Biochem.Pharmacol,42:2062−2065,(1991))。これらの技術は、種々の他の特定の細胞型にも使用され得る。「ステルス(stealth)」のようなビヒクルおよび他の抗体結合体化リポソーム(脂質媒介性の薬物の結腸癌腫標的化を含む)、細胞特異的リガンドを介したDNAのレセプター媒介性標的化、リンパ球指向性の腫瘍標的化、ならびに、マウスの神経膠腫細胞のインビボでの高度に特異的な治療用レトロウイルスの標的化。以下の参考文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織へと標的化するためにこの技術を使用する例である(Hughes et al.,Cancer Research,49:6214−6220,(1989);ならびにLitzingerおよびHuang,Biochimica et Biophysica Acta,1104:179−187,(1992))。一般に、レセプターは、構成的であるかまたはリガンドにより誘導されたかのいずれかの、エンドサイトーシスの経路に関与する。これらのレセプターは、クラスリンで覆われた窪みにおいてクラスター形成し、クラスリンで覆われた小胞を介して細胞に入り、レセプターが振り分けられる酸性化されたエンドソームを通過し、次いで、細胞表面に再生利用されるか、細胞内に貯蔵されるか、または、リソソーム内で分解されるかのいずれかである。内在化の経路は、栄養物の取り込み、活性タンパク質の除去、高分子のクリアランス、ウイルスおよび毒素の日和見性の侵入、リガンドの解離および分解、ならびに、レセプターレベルの調節のような種々の機能を果たす。多くのレセプターは、細胞型、レセプターの濃度、リガンドのタイプ、リガンドの結合価、およびリガンド濃度に依存して、1以上の細胞内経路に従う。レセプター媒介性のエンドサイトーシスの分子および細胞の機構が検討されている(BrownおよびGreene,DNA and Cell Biology 10:6,399−409(1991))。
a)薬学的に受容可能なキャリア
抗体を含む組成物は、薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせて治療的に使用され得る。
適切なキャリアおよびその処方は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(第19版)ed.A.R.Gennaro,Mack Publishing Company,Easton,PA 1995に記載される。代表的には、処方物を等張にするために、適切な量の薬学的に受容可能な塩が処方物中で使用される。薬学的に受容可能なキャリアの例としては、生理食塩水、Ringer溶液およびデキストロース溶液が挙げられるがこれらに限定されない。溶液のpHは好ましくは、約5〜約8であり、そしてより好ましくは、約7〜約7.5である。さらなるキャリアとしては、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリクス(このマトリクスは、成形された物品(例えば、フィルム、リポソームまたはマイクロ粒子)の形状である)のような持続放出調製物が挙げられる。例えば、投与経路および投与される組成物の濃度に依存して、特定のキャリアがより好ましくあり得ることは当業者に明らかである。
薬学的キャリアは当業者に公知である。これらは、最も代表的には、ヒトへの薬物の投与のための標準的なキャリアであり、滅菌水、生理食塩水、および生理学的pHの緩衝溶液が挙げられる。組成物は、筋肉内または皮下に投与され得る。他の化合物は、当業者により使用される標準的な手順に従って投与される。
薬学的組成物は、選択した分子に加えて、キャリア、増粘剤、希釈剤、緩衝剤、保存料、界面活性剤などを含み得る。薬学的組成物はまた、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔薬などのような1以上の活性な成分を含み得る。
薬学的組成物は、局所的な処置または全身性の処置のどちらが所望されているか、そして、処置される領域に依存して、多数の方法で投与され得る。投与は、局所的に(眼内、膣内、直腸内、鼻腔内を含む)、経口的に、吸入によって、または、非経口的に(例えば、静脈内への点滴、皮下、腹腔内もしくは筋肉内への注射による)なされ得る。開示される抗体は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内、または経皮で投与され得る。
非経口投与のための調製物としては、滅菌の水性もしくは非水性の溶液、懸濁液およびエマルジョンが挙げられる。非水性溶剤の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)および注射可能な有機エステル類(例えば、オレイン酸エチル)である。水性キャリアとしては、水、アルコール性/水性溶液、エマルジョンもしくは懸濁液(生理食塩水および緩衝化媒体を含む)が挙げられる。非経口用ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、Ringerのデキストロース液、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加Ringer溶液、または不揮発性油が挙げられる。静脈内用ビヒクルとしては、流体および養分の補充剤(replenisher)、電解質補充剤(例えば、Ringerのデキストロース液に基づくもの)などが挙げられる。例えば、抗菌剤、抗酸化物質、キレート化財および不活性ガスなどのような保存料および他の添加物もまた存在し得る。
局所投与用の処方物としては、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、ドロップ、坐剤、スプレー、液体および粉末が挙げられ得る。従来の薬学的キャリア、水性の粉末または油性の基材、増粘剤などは、必須であり得るか、または所望され得る。
経口投与用の組成物としては、散剤もしくは顆粒剤、水もしくは非水性媒体中の懸濁液もしくは溶液、カプセル、サシェ剤、または錠剤が挙げられる。増粘剤、矯味矯臭剤、希釈剤、乳化剤、分散補助剤または結合剤が所望され得る。
組成物のいくつかは、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸およびリン酸のような無機酸と、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸およびフマル酸のような無機酸との反応により、または、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムのような無機塩基と、モノアルキル、ジアルキル、トリアルキルならびにアリールアミンおよび置換エタノールアミンのような有機塩基との反応により形成される、薬学的に受容可能な酸付加塩もしくは塩基付加塩として投与され得る。
b)治療的用途
組成物を投与するための有効な投薬量およびスケジュールは、経験的に決定され得、そして、このような決定は、当該分野の技術範囲内である。組成物の投与のための投薬量の範囲は、障害の症状が影響を受ける所望の作用を生じるのに十分多い量である。投薬量は、有害な副作用(例えば、好ましくない交差反応、アナフィラキシー反応など)を引き起こす程度まで多くあるべきではない。一般に、投薬量は、患者の年齢、状態、性別および疾患の程度、投与経路、または、他の薬物がレジメン中に含まれているかどうか、によって変化し、そして、当業者により決定され得る。投薬量は、あらゆる逆の徴候(counterindication)の事象において個々の医師により調節され得る。投薬量は変化し得、そして、毎日、1日ごと、または数日ごとに、1回以上の用量の施薬において投与され得る。ガイダンスは、薬学的製品の定められたクラスについての適切な投薬量に関する文献において見出され得る。例えば、抗体に適切な用量を選択する際のガイダンスは、抗体の治療的使用に関する文献、例えば、Handbook of Monoclonal Antibodies,Ferrone et al.,eds.,Noges Publications,Park Ridge,NJ.,(1985)ch.22およびpp.303−357;Smith et al.,Antibodies in Human Diagnosis and Therapy,Haber et al.,eds.,Raven Press,New York(1977)pp.365−389において見出され得る。単独で使用される抗体の代表的な一日の投薬量は、上述の要因に依存して、1日につき体重1kgあたり約1μg〜100mgまで、またはそれ以上の範囲であり得る。
炎症を処置、阻害または予防するための、開示される組成物(例えば、ベクター)の投与後に、治療用ベクターの効率は、当業者に周知の種々の方法で評価され得る。例えば、当業者は、本明細書中に開示されるベクターのような組成物は、その組成物が炎症を減少させることを観察することによって、被験体において炎症を処置または阻害する際に有効であることを理解する。
13.動物
本明細書中に提供されるベクターまたは核酸のいずれかの生殖系列への伝達を含むトランスジェニック動物が本明細書中に提供される。一局面では、本明細書中に提供されるトランスジェニック動物は、切除により活性化されたトランスジェニック(XAT)動物である。開示されるトランスジェニック動物は、炎症性エレメントの時間的および空間的に調節されたトランスジーンの発現(Brooks,AI,et al.1991.Nature Biotech 15:57−62;Brooks,AI,et al.1999.Neuroreport 10:337−344;Brooks,AI.,et al.2000.Proc Natl Acad Sci USA 97:13378−13383)を有し得る。トランスジェニック動物が、本明細書中で考察されるように、組換え部位を含む核酸を含む場合、提供されるトランスジェニック動物内の細胞への、Creリコンビナーゼのようなリコンビナーゼの送達は、これらの細胞内での炎症の調節因子(例えば、IL−1β、IL−1ra、COX−2)の発現をもたらすことが理解される。
「トランスジーン」とは、細胞内に人工的に挿入され、そして、その細胞およびその子孫のゲノムの一部となる核酸配列を意味する。このようなトランスジーンは、その細胞に対し部分的または完全に異種性(例えば、異なる種に由来する)であり得る(が必ずしもそうでない)。用語「トランスジーン」は、広く、動物のゲノム中に導入されるあらゆる核酸を指し、おそらく通常はゲノム中に存在しない配列を有する遺伝子もしくはDNA、所定のゲノム中に存在はするが、通常は転写も翻訳(「発現」)もされない遺伝子、または、ゲノム中に導入することを望む任意の他の遺伝子もしくはDNAが挙げられるがこれらに限定されない。これは、非トランスジェニックゲノム中に通常存在するが、発現が変更されていることを望むか、または、変更された形態もしくは改変体の形態で導入することを望む、遺伝子を含み得る。トランスジーンは、1以上の転写調節配列と、選択した核酸の最適な発現のために必須であり得る任意の他の核酸(例えば、イントロン)とを含み得る。トランスジーンは、2個程度の少ないヌクレオチドの長さであり得るが、好ましくは、少なくとも約50、100、150、200、250、300、350、400もしくは500のヌクレオチドの長さであるか、または、これよりもなお長く、そして、例えば、全ゲノムであり得る。トランスジーンは、コード配列もしくは非コード配列、または、これらの組み合わせであり得る。トランスジーンは通常、適切な条件下で1以上のトランスジーンの発現を駆動し得る調節性エレメントを含む。「トランスジェニック動物」とは、上述のようなトランスジーンを含む動物を意味する。トランスジェニック動物は、当該分野で周知の技術により作製される。開示される核酸は、全体的に、または、部分的に、任意の組み合わせで、本明細書中に開示されるようなトランスジーンであり得る。
動物内の細胞を、本明細書中に開示される任意の核酸分子でトランスフェクトするプロセスにより生成される動物が開示される。動物内の細胞を、本明細書中に開示される任意の核酸分子でトランスフェクトするプロセスにより生成される動物であって、この動物が哺乳動物であるものが開示される。また、動物内の細胞を、本明細書中に開示される任意の核酸分子でトランスフェクトするプロセスにより生成される動物であって、この動物が、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタまたは霊長類であるものが開示される。
開示されるトランスジェニック動物は、任意の非ヒト動物、好ましくは、非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、リス、ハムスター、ウサギ、モルモット、ブタ、マイクロブタ(micropigs)、プレーリードッグ、ヒヒ、リスザルおよびチンパンジーなど)、トリまたは両生類(1以上の細胞が、ヒトの介入により(例えば、当該分野で周囲のトランスジェニック技術により)導入された異種核酸を含む)であり得る。核酸は、細胞の前駆体への導入によって(例えば、マイクロインジェクションによって)、または、組換えウイルスを用いた感染によって、直接的または間接的に細胞内に導入される。開示されるトランスジェニック動物はまた、直接操作された動物の子孫または1以上の開示された核酸を最初に受けた動物の子孫を含み得る。この分子は、染色体内に組み込まれ得るか、または、染色体外でDNAを複製し得る。トランスジェニック動物の生成に関する技術については、とりわけ、Hogan et al(1986)Manipulating the Mouse Embryo−−A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986)を参照のこと。
トランスジェニック実験に適切な動物は、Charles River(Wilmington,Mass.)、Taconic(Germantown,N.Y.)およびHarlan Sprague Dawley(Indianapolis,Ind.)のような標準的な商業上の供給元から入手され得る。例えば、トランスジェニック動物がマウスである場合、多くのマウス系統が適切であるが、C57BL/6雌性マウスは、胚の回収および転移のために使用され得る。雄性のC57BL/6は、交配のために使用され得,そして、精管切除した繁殖用の雄性C57BL/6は、偽妊娠を刺激するために使用され得る。精管切除したマウスおよびラットは、供給元から入手され得る。トランスジェニック動物は、マイクロインジェクション法および胚性肝細胞法を含むあらゆる公知の手順により作製され得る。げっ歯類の胚を操作するための手順、およびDNAのマイクロインジェクションのための手順は、Hogan et al.,Manipulating the Mouse Embryo(Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986)(この教示は、一般に公知であり、そして、本明細書中に援用される)に詳細に記載される。
トランスジェニック動物は、そのDNAを解析することによって同定され得る。この目的のために、例えば、トランスジェニック動物が、げっ歯類のような尾を持つ動物である場合、3週齢の動物から尾のサンプル(1〜2cm)が取られ得る。次いで、これらおよび他のサンプルからのDNAが、例えば、サザンブロット、PCRまたはスロットブロットによって調製および解析され、トランスジェニック創始(F(0))動物およびその子孫(F(1)およびF(2))を検出し得る。本発明はさらに、本発明のトランスジェニック動物と第二の動物との間の交配の子孫である、トランスジェニック非ヒト動物を提供する。トランスジェニック動物は、他のトランスジェニック動物と交配されてもよく、この場合、一方の遺伝子産物のもう一方の遺伝子産物に対する作用を調べるため、または、2つの遺伝子産物の合わさった作用を調べるために、異なるトランスジーンを用いて、2種のトランスジェニック動物が作製された。
提供される組成物は、関節炎のマウスも出るを用いて評価され得る。関節におけるIL−1βの延長した発現が、関節炎患者において見られるものに似た関節症の発生をもたらし得るので、延長された、低レベルでのIL−1βの関節内のトランスジェニック発現に基づいた、関節炎のマウスモデルが開示される。IL−1β、TNFαおよび他の炎症性メディエーター(例えば、プロスタノイド)の役割は、関節炎の病因において十分に認識されている。関節炎の2つの最も一般的な形態は、65歳以上の全成人の約80〜90%を冒す変形性関節症(OA)、および、一般的な米国の集団の約1%を冒す慢性関節リウマチ(RA)である。OAとRAとの間には明確な差異が存在するが、両方とも、炎症促進性カスケードに対し続発的に発症するようである。以前の動物モデル(メチル化ウシ血清アルブミン/IL−1βのモデル、IL−1βの関節内投与、遺伝子操作された滑膜細胞のエキソビボ転移後のIL−1βの構成的な関節内発現、ならびに、TNFαトランスジェニックマウスモデルを含む)は、関節炎の研究および新規治療の検討において価値があることが分かった。前記のIL−1βモデルは、有害な因子の直接投与に基づくものであるが、他方、TNFαトランスジェニックマウスは、インビボでのTNFαの延長された発現に基づくものであり、したがって、関節炎の発症におけるTNFαの役割に対し、価値ある洞察をさらにもたらした。しかし、トランスジェニックマウスの大部分に関しては、TNFα遺伝子導入は、非制御かつ特徴付けられていない発生段階での補償的変化に対し敏感である。
提供されるマウスモデルは、不活性な転写ユニットを含む生殖系列へと伝達される組換え基質を利用する方法(体細胞モザイク解析)と、関心のある遺伝子を「活性化する」Creリコンビナーゼを発現するウイルスベクターの体細胞遺伝子転移(somatic gene transfer)とに基づいている。IL−1β切除により活性化されたトランスジェニック(IL−1βXAT)マウスおよびそのバリエーションは、この方法を用いて作製された。提供されるマウスモデルは、米国特許出願第60/627,604号(その全体が本明細書中に参考として援用される)の主題である。このマウスモデルは、FIV(Cre)のようなCreリコンビナーゼ発現ベクターの標的部位への送達に基づいた、局在化された炎症の誘導を可能にする。バリエーションとしては、例えば、COL1A1−IL−1βXATマウスにおいてのような、細胞または組織特異的プロモーターの使用が挙げられる。例えば、FIV(Cre)の、例えば、COLL1A1−IL−1βXATマウスの関節への送達は、関節炎モデルに炎症を誘導し得る。このマウスモデルは、したがって、例えば、提供される構築物の関節炎に対する作用を検討または最適化するために使用され得る。別の例として、COLL1A1−IL−1βXATマウスの循環または関節へのFIV(Cre)の送達は、例えば、アルツハイマー病のモデルに対し、脳内の炎症を誘導し得る。
IL1βXATの調節は、(1)不活性な転写ユニットを含む生殖系列へと伝達される組換え基質(例えば、COLL1−IL1βXAT)、および(2)関心のある遺伝子を「活性化する」Creリコンビナーゼを発現するウイルスベクターの体細胞遺伝子転移を利用する、Cre/loxP分子遺伝学的方法によって、時間的(時間)および空間的(位置)な様式で制御される。したがって、これらのマウスは、マウスの関節(例えば、膝)におけるIL−1βの構成的な発現を誘導するために、本明細書中で使用され得る。一例として、局在化されたトランスジーン(すなわち、IL−1β)の活性化は、FIV(Cre)(関節の軟組織および硬組織を形質導入し得るレンチウイルス)の、関心のある領域への嚢内注射と、その後、
カセットが組換えにより切除され、遺伝子の転写をもたらすことによって、IL−1β
XATマウスにおいて達成され得る。組換えにより媒介される遺伝子の「活性化」は、感染した細胞の遺伝的構成を永続的に変更し、こうして、慢性的なIL−1β合成を可能にする。COLL1A1プロモーターは、さらに、軟骨細胞、骨細胞および線維芽細胞に対して遺伝子発現を標的化するために使用され得、このトランスジェニックマウスを、関心のあるあらゆる関節における関節炎の研究に利用可能とした。このプロモーターは、骨および軟骨における遺伝子発現を標的化することが示されており、そして、CMVプロモーターの代わりにIL−1β
XAT遺伝子においてクローニングされた:
COLL2は、別の適切なプロモーターである。このトランスジーンは、pRc/CMV−CreWT発現ベクターの一過的なトランスフェクションによってCreリコンビナーゼを発現させた後、または、レンチウイルスベクターFIV(Cre)により感染させた後に、マウスのNIH 3T3安定細胞株において構築および検討された。
Creのようなリコンビナーゼの体細胞遺伝子転移は、リコンビナーゼを生成する任意のタイプのベクター系を用いて行われ得る。しかし、特定の実施形態では、ベクター系は、自己不活性化ベクター系であり、このベクターにおいて、例えば、リコンビナーゼのプロモーターの両側に隣接して組換え部位が配置され、その結果、リコンビナーゼが生成されると、リコンビナーゼがその自身の生成をダウンレギュレートする、リコンビナーゼのための送達ベクターは、CRE媒介性であり得る。
例えば、不活性なCOLL1−IL1βXATの活性化は、自己不活性化Creネコ免疫不全ウイルスFIV(Cre)による、関心のある領域(例えば、膝)へのCreリコンビナーゼの転移によって媒介され得る。このFIVベクター系の作用は、これまでに、ウイルス溶液の関節内注射を受けたマウスにおいてレポーター遺伝子lacZ(β−ガラクトシダーゼ)を用いて調べられており[Kyrkanides S,et al.(2004).J Dental Res 83:65−70]、ここで、軟らかいTMJ組織(関節円板)および硬いTMJ組織(軟骨)の形質導入が実証された。FIV(Cre)ベクターは、lacZ遺伝子の代わりに、両側にloxPが隣接する(「フロックスド(floxed)」)nlsCreカセットをクローニングすることにより構築された;核局在化シグナル(nls)は、PCRによってcreオープンリーディングフレームへと融合し、その後、オーダーメイドのフロックスドクローニングカセットを用いて、製造業者の説明書に従って、TOPO 2.1ベクター(Invitrogen)へとクローニングした。自己不活性化cre遺伝子を開発する理由は、最近の論文に基づいており[Pfeifer AおよびBrandon EP,Kootstra Neeltje,Gage FH,Verma IM(2001).Proc Natl Acad Sci U.S.A.98:11450−5]、この論文で、著者らは、レンチウイルスベクターを用いた感染により媒介されるCreリコンビナーゼの延長された発現に起因する細胞毒性を報告した。提供される構築物において、FIV(Cre)での標的細胞の首尾よい形質導入の後に、適切なレベルのCreリコンビナーゼが生成され、COLL1−IL1βXATの切除による活性化がもたらされると、Creは、loxPが指向する自己切除性組換えによってcre遺伝子を不活性化するものと予想される。
14.キット
本明細書中に開示される方法を実施する際に使用され得る試薬を集めたキットが本明細書中に開示される。キットは、本明細書中で考察したか、または、開示される方法の実施において必要とされるかもしくは有益であると理解される、任意の試薬もしくは試薬の組み合わせを含み得る。例えば、キットは、方法の特定の実施形態で考察した増幅反応を行うためのプライマー、ならびに、プライマーを意図通りに使用するために必要とされる緩衝液および酵素を含み得る。
D.組成物の作製方法
本明細書中に開示される組成物、および、開示される方法を行うために必須の組成物は、具体的にそうでないと示されない限り、その特定の試薬または化合物について、当業者に公知の任意の方法を用いて作製され得る。
1.核酸の合成
例えば、プライマーとして使用されるオリゴヌクレオチドのような核酸は、標準的な化学合成法を用いて作製されても、酵素的な方法もしくは任意の他の公知の方法を用いて生成されてもよい。このような方法は、標準的な酵素的消化の後のヌクレオチドフラグメントの単離(例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989)第5章、第6章を参照のこと)から、例えば、MilligenまたはBeckmanのSystem lPlus DNA合成装置(例えば、Milligen−Biosearch,Burlington,MAのModel 8700自動合成装置またはABI Model 380B)を用いたシアノエチルホスホラミダイト法(cyanoethyl phosphoramidite method)による純粋な合成方法までの範囲に及び得る。オリゴヌクレオチドを作製するために有用な合成方法はまた、Ikuta et al.,Ann.Rev.Biochem.53:323−356(1984),(ホスホジエステル法および亜リン酸トリエステル法)およびNarang et al.,Methods Enzymol.,65:610−620(1980),(ホスホジエステル法)によっても記載される。タンパク質核酸分子は、Nielsen et al.,Bioconjug.Chem.5:3−7(1994)によって記載される方法のような公知の方法を用いて作製され得る。
2.ペプチド合成
配列番号5のような開示されるタンパク質を生成する一つの方法は、タンパク質化学の技術により、2以上のペプチドまたはポリペプチドを互いに連結することである。例えば、ペプチドまたはポリペプチドは、Fmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)化学またはBoc(tert−ブチルオキシカルボニル)化学(Applied Biosystems,Inc.,Foster City,CA)のいずれかを用いて、現在利用可能な研究室の機器を用いて化学合成され得る。当業者は、開示されるタンパク質に対応するペプチドまたはポリペプチドが、例えば、標準的な化学反応により合成され得ることを用意に理解し得る。例えば、ペプチドまたはタンパク質の他のフラグメントが合成され、その後、樹脂から切断され得るのに対して、ペプチドまたはポリペプチドが合成され、そして、その合成樹脂から切断されないことも可能であり、それによって、他のフラグメント上で機能的にブロックされた末端基を露出することができる。ペプチド縮合反応によって、これら2つのフラグメントは、それぞれ、そのカルボキシル末端およびアミノ末端に結合されたペプチドを介して共有結合され、抗体またはそのフラグメントを形成し得る。(Grant GA(1992)Synthetic Peptides:A User Guide.W.H.Freeman and Co.,N.Y.(1992);Bodansky MおよびTrost B.,Ed.(1993)Principles of Peptide Synthesis.Springer−Verlag Inc.,NY(これらは、少なくともペプチド合成に関連する題材について、本明細書中に参考として援用される)。あるいは、ペプチドまたはポリペプチドは、独立して、本明細書中に記載されるように、インビボで合成される。いったん単離されると、これらの独立したペプチドまたはポリペプチドは、同様のペプチド縮合反応を介して連結されて、ペプチドまたはそのフラグメントを形成し得る。
例えば、クローニングしたか、または、合成したペプチドセグメントの酵素的連結は、比較的短いペプチドフラグメントを接合して、より大きなペプチドフラグメント、ポリペプチドまたは全タンパク質ドメインを生成することを可能にする(Abrahmsen L et al.,Biochemistry,30:4151(1991))。あるいは、合成ペプチドのネイティブな化学的連結は、より短いペプチドフラグメントから、大きなペプチドまたはポリペプチドを合成的に構築するために利用され得る。この方法は、2段階の化学反応から構成される(Dawson et al.Synthesis of Proteins by Native Chemical Ligation.Science,266:776−779(1994))。第一の段階は、保護されていない合成ペプチド−−チオエーテルの、アミノ末端Cys残基を含む別の保護されていないペプチドセグメントとの化学選択的反応であり、最初の共有結合生成物としてチオエステルが連結された中間体を生じる。反応条件を変更することなく、この中間体は、同時に、迅速な分子間反応を受けて、連結部位にネイティブなペプチド結合を形成する(Baggiolini M et al.(1992)FEBS Lett.307:97−101;Clark−Lewis I et al.,J.Biol.Chem.,269:16075(1994);Clark−Lewis I et al.,Biochemistry,30:3128(1991);Rajarathnam K et al.,Biochemistry 33:6623−30(1994))。
あるいは、保護されていないペプチドセグメントが化学的に連結され、この場合、化学的連結の結果としてペプチドセグメント間に形成される結合は、非天然(非ペプチド)結合である(Schnolzer,M et al.Science,256:221(1992))。この技術は、タンパク質ドメインのアナログを合成するため、ならびに、全生物学的活性を有する比較的純粋なタンパク質を大量に合成するために使用されている(deLisle Milton RC et al.,Techniques in Protein Chemistry IV.Academic Press,New York,pp.257−267(1992))。
3.組成物を作製するためのプロセス
組成物を作製するためのプロセス、ならびに、組成物につながる中間体を作製するプロセスが開示される。これらの組成物を作製するための使用され得る種々の方法(例えば、合成化学的方法および標準的な分子生物学的方法)が存在する。これらおよび他の開示される組成物を作製する方法が具体的に開示されることが理解される。
プロモーターエレメントと本明細書中に開示される核酸エレメントとを作動可能な方法で連結する工程を包含するプロセスによって生成される核酸分子が開示される。この核酸エレメントは、例えば、リガンド結合阻害因子をコードし得る。したがって、プロモーターエレメントとIL−1raエレメントとを作動可能な方法で連結する工程を包含するプロセスによって生成される核酸分子が開示される。また、プロモーターエレメントとIL−1R2エレメントとを作動可能な方法で連結する工程を包含するプロセスによって生成される核酸分子が開示される。また、プロモーターエレメントとIL−1R1フラグメントエレメントとを作動可能な方法で連結する工程を包含するプロセスによって生成される核酸分子が開示される。また、プロモーターエレメントとIL−1フラグメントエレメントとを作動可能な方法で連結する工程を包含するプロセスによって生成される核酸分子が開示される。
また、プロモーターエレメントと核酸エレメントとを作動可能な方法で連結する工程を包含するプロセスによって生成される核酸分子が開示され、ここで、この核酸は、本明細書中に開示される遺伝子発現阻害因子をコードする。一例として、プロモーターエレメントとCOX−1 siRNAエレメントとを作動可能な方法で連結する工程を包含するプロセスによって生成される核酸分子が開示される。また、プロモーターエレメントとCOX−2 siRNAエレメントとを作動可能な方法で連結する工程を包含するプロセスによって生成される核酸分子が開示される。また、プロモーターエレメントとmPGES siRNAエレメントとを作動可能な方法で連結する工程を包含するプロセスによって生成される核酸分子が開示される。また、プロモーターエレメントとcPGES siRNAエレメントとを作動可能な方法で連結する工程を包含するプロセスによって生成される核酸分子が開示される。
さらに、任意の開示される核酸で細胞を形質転換するプロセスにより生成される細胞が開示される。天然に存在しない任意の開示される核酸で細胞を形質転換するプロセスにより生成される細胞が開示される。
任意の開示される核酸を発現させるプロセスにより生成される任意のペプチドが開示される。天然に存在しない任意の開示される核酸を発現させるプロセスにより生成される、天然に存在しない任意の開示されるペプチドが開示される。天然に存在しない任意の開示される核酸を発現させるプロセスにより生成される、任意の開示されるペプチドが開示される。
動物内の細胞を、本明細書中に開示される任意の核酸分子でトランスフェクトするプロセスにより生成される動物が開示される。動物内の細胞を、本明細書中に開示される任意の核酸分子でトランスフェクトするプロセスにより生成される動物であって、この動物が哺乳動物であるものが開示される。また、動物内の細胞を、本明細書中に開示される任意の核酸分子でトランスフェクトするプロセスにより生成される動物であって、この動物が、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタまたは霊長類であるものが開示される。また、マウス、有蹄類または非ヒト霊長類である哺乳動物が開示される。
また、本明細書中に開示される任意の細胞を動物に加えるプロセスにより生成される動物が開示される。
E.組成物の使用方法
1.研究ツールとしての組成物の使用方法
開示される組成物は、研究ツールとして種々の方法において使用され得る。例えば、配列番号5のような開示される組成物は、例えば、結合の阻害因子として作用させることによって、IL−1とIL−1R1との間の相互作用を研究するために使用され得る。
2.治療的用途
組成物を投与するための有効な投薬量およびスケジュールは、経験的に決定され得、そして、このような決定は、当該分野の技術範囲内である。組成物の投与のための投薬量の範囲は、障害の症状が影響を受ける所望の作用を生じるのに十分多い量である。投薬量は、有害な副作用(例えば、好ましくない交差反応、アナフィラキシー反応など)を引き起こす程度まで多くあるべきではない。一般に、投薬量は、患者の年齢、状態、性別および疾患の程度、投与経路、または、他の薬物がレジメン中に含まれているかどうか、によって変化し、そして、当業者により決定され得る。投薬量は、あらゆる逆の徴候(counterindication)の事象において個々の医師により調節され得る。投薬量は変化し得、そして、毎日、1日ごと、または数日ごとに、1回以上の用量の施薬において投与され得る。ガイダンスは、薬学的製品の定められたクラスについての適切な投薬量に関する文献において見出され得る。
炎症を処置、阻害または予防するために、開示される組成物(例えば、開示される構築物)を投与した後に、治療用構築物の効率は、当業者に周知の種々の方法で評価され得る。例えば、当業者は、本明細書中に開示される組成物(例えば、開示される構築物)は、その組成物がこれらの疾患に関連する状態の発症を低下させることを観察することによって、被験体において炎症を処置するか、または、炎症の作用を阻害もしくは減少させる際に有効であることを理解する。さらに、構築物から生成されるタンパク質または転写物の量は、あらゆる診断法を用いて解析され得る。例えば、この量は、被験体または患者からのサンプル(例えば、血液または神経細胞のような他の細胞であるが、これらに限定されない)において、構築物の核酸の存在を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応アッセイ、または、構築物から生成されるタンパク質の存在を検出するための抗体アッセイを用いて測定され得る。
F.実施例
以下の実施例は、本明細書において特許請求される化合物、組成物、物品、デバイスおよび/または方法が、いかにして作製および評価されるかの完全な開示および説明を当業者に提供する目的で提示され、そして、純粋に例として役立てることが意図され、開示を制限することは意図されない。数値(例えば、量、温度など)に関して精度を保証するために尽力したが、いくつかの誤差および偏差が考慮されるべきである。そうでないと示されない限り、部は重量部であり、温度は℃であるか、または、周囲の温度であり、そして、圧力は、ほぼ大気圧付近である。
1.実施例1:リソソーム蓄積症の異常な骨格形成の根底には、周産期の発生の間の軟骨細胞の成熟の加速がある
a)材料および方法
HexB−/−ノックアウトマウスは、もともと、C57BL/6の胚に入れた129S4 ES細胞を用いて開発され、その後、129S4バックグラウンドで維持されている(Sango,K.,et al.1996)。この元の系統は、Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME;系統の名称:それぞれ、B6;129S4−Hexatm1Rlp/JおよびB6;129S4−Hexbtm1Rlp/J)により市販されている。合計31匹のマウスをこの研究において用いた:HexB−/−マウス(N=16)、hexB+/−マウス(N=6)および野生型マウス(N=9)を、これまでに記載されたような、慣用的な動物の交配戦略および遺伝子型決定により生成した(Kyrkanides,S.,et al.2005)。簡単に述べると、純粋な129S4バックグラウンドのHexB+/−ノックアウト繁殖動物のペアを交配して、0.25の期待率でヘテロ接合性のHexB−/−ノックアウトマウスを得た。以下のプライマーセットを用いた尻尾の生検からのDNA抽出物のPCRにより、遺伝子型決定を行った:5’ATT TTA AAA TTC AGG CCT CGA3’(配列番号126)、5’CAT AGC GTT GGC TAC CCG TGA3’(配列番号127)および5’CAT TCT GCA GCG GTG CAC GGC3’(配列番号128)。後者を成熟するまで(60日齢)成長させ、次いで、繁殖動物として用い、その後の実験のために、1.00の期待率でHexB−/−の仔を産ませた。
ウイルスベクターの開発と動物の注射:ヒトβ−ヘキソサミニダーゼの両方のサブユニットをコードする2シストロン性(bicistronic)のトランスジーンHEXB−IRES−HEXAの構築物(pHEX)は、以前に記載された(Kyrkanides,S.,et al.2003)。簡単に述べると、ヒトHexB cDNAを、XhoI消化によりpHexB43プラスミド(ATCC,Manassas VA)から単離し、そして、pIRES発現ベクター(Clonetech)のXhoI部位に挿入した。HexA cDNAを、XhoI消化によりpBHA−5(ATCC)から単離し、その後、ブラントライゲーションにより、pIRESベクターのXbaI部位に挿入した。CMVプロモーターがトランスジーンの発現を駆動し、そして、第二のオープンリーディングフレームであるHexAの翻訳は、内部リボソーム進入配列(IRES)により促進される:CMV−HEXB−IRES−HEXA−pA。
FIV(HEX)と、擬似プラスミド(Burns,J.C,et al.1993)およびパッケージングプラスミド(の両方との開発のための骨格として用いられる不完全なFIVベクターCTRZlb(Poeschla,E.M.,et al.199)は、好意によりDr.David Looney(University of California at San Diego)から譲り受けた。簡単に述べると、CMV−HEXB−IRES−HEXA構築物を含むNheI−NotIセグメントを、平滑末端−突出末端ライゲーションにより、CTRZLbベクター(SstII−NotI)内にlacZの代わりにクローニングして、FIV(HEX)転移ベクターを作製した(Kyrkanides,S.,et al.2005)。FIVベクターを、以前に記載されたようにして、293H細胞内に入れた(Kyrkanides,S.,et al.2005;Kyrkanides,S.,et al.2003)。簡単に述べると、T75フラスコに293H細胞を播種し、そして、DMEM+10%FBS(Gemini,Woodland CA)中でほぼコンフルエンシーになるまで増殖させた。次いで、細胞を、Lipofectamine 2000試薬(Invitrogen)を製造業者の説明書に従って用いて、転移ベクターであるpFIV(HEX)、パッケージングベクターおよびVSV−G擬似ベクターを同時にトランスフェクトさせた。トランスフェクションから24時間後に、上清の培地を捨てて、新しい培地と交換した。トランスフェクションから60時間後に、ウイルスリッチな上清を回収し、0.45mmのSurfil(登録商標)−MFフィルター(Corning Seperations Division,Acton MA)を通して濾過し、そしてその後、Sorvall RC5B高速遠心機およびSLA−3000ローターを用いて、7,000gにて一晩遠心分離して濃縮した。その後、上清を捨て、そして、4℃にて、ウイルスのペレットを、40mg/mLのラクトースを含む通常の緩衝化生理食塩水(1mL)に一晩再懸濁させた。このウイルス溶液を、次いで、分注し、そして、さらなる使用まで凍結した(−80℃)。24ウェル組織培養プレートにおいて培養したCrfK細胞(American Tissue Culture Collection;Manassas,VA)におけるX−HEX組織化学により、FIV(HEX)について108感染粒子/mLにおいて、力価を計算した(Kyrkanides,S.,et al.2003)。FIV(HEX)がマウス細胞に形質導入する有効度は、以前に、初代マウス線維芽細胞およびテイ−サックス病を罹患する患者に由来する初代ヒト線維芽細胞において、インビトロで(Coriell Institute for Medical Research;cat.No.GMl 1853;Camden NJ)、さらに、Sandhoffマウスにおいて、インビボで(Kyrkanides,S.,et al.2005)試験された。HexB−/−ノックアウトの乳仔に、生後日数P4において、100μlの通常の生理食塩水中の107感染性FIV(HEX)粒子を腹腔内注射した。
頭蓋計測写真:頭蓋規格写真分析は、脳顔面頭蓋の骨格の成長に関する定量的な情報を提供した。簡単に述べると、ケタミン(40mg/kg)腹腔内注射により動物に麻酔をかけて、特別に誂えた頭蓋計測器上にその頭の正中面を頭蓋計測器のフィルムカセットに対して並行になるように位置決めして固定し、そして、長円錐形のX線照射器を以前に記載されたような予め調節した距離にて利用して、放射線写真を得た(Fujita,T.,et al.2004)。各動物における頭蓋および鼻骨上顎の測定値を、下顎体の長さについて正規化し、そして、比(ratio)として表した。この方法を用い、脳顔面頭蓋の形態学を、8週齢および16週齢の時点でマウスにおいて調べた。α=0.05およびTukeyの事後解析による分散法の解析を用いて、統計的解析を行った。全ての標識構造の同定および測定は、一人の調査員(PK)により行い、そして、試験官間の信頼性を、研究の開始前に、r>0.9として10枚の放射線写真についての相関係数により計算した。
組織学的研究:長骨成長板および頭蓋底の軟骨結合の組織学的解析を、16週齢のHexB−/−マウスから得たサンプルにおいて行った。簡単に述べると、ケタミン(40mg/Kg)およびペントバルビタール(100mg/Kg)の腹腔内麻酔により、マウスに深く麻酔をかけた。外科手術水準の麻酔下で、マウスに、経心臓的に(transcardially)リン酸緩衝化生理食塩水中4%のパラホルムアルデヒド(100mL)を灌流させた。その後、頭蓋底を切開し、筋肉・脂肪組織を除き、そして、一定速度で振動させながら、4℃にて7日間、EDTA溶液中に浸漬させることにより石灰質を除去した。次いで、この組織を、RHS−1マイクロ波組織プロセッサで処理し、その後、サンプルをパラフィン中に包埋した。組織を3μm厚の切片に切断し、そして、アルシアンブルーヘマトキシリン−オレンジG組織化学により、軟骨結合における軟骨の存在を検出した。
多数の抗原について、免疫組織化学解析を行った。一般に、組織のスライドは、まず、キシレン中で脱パラフィンし、段階的なアルコールを通して再水和し、そして、3% H2O2中で20分間クエンチングした。10mMのクエン酸緩衝液(pH6.0)を用いて、圧力釜中で抗原の回復を行った。コラーゲンII(Col−2)についてはまた、組織をペプシン(0.2%)で消化した。その後、この組織を、適切な一次血清溶液を用いてブロッキングし、その後、4℃にて一晩、一次抗体溶液中でインキュベーションした。翌朝、この切片をPBSでリンスし、そして、適切なビオチン化二次抗体溶液中で30分間インキュベートし、その後、PBSで洗浄し、そして、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン中でインキュベートした。AECをクロモゲン(chromagen)として用いた。切片を、ヘマトキシリンで対比染色し、その後、PBSで洗浄し、アルコール脱水し、キシレンできれいにし、そして、永久的な封入剤と共にカバーガラスを載せた。具体的には、ヤギ抗Col−2は、Lab Vision Corp.(Fremont CA)から購入し、そして、1:40希釈で用いた;ヤギ抗副甲状腺関連ペプチド(PTHrP)抗体(1:40希釈)は、Santa Cruz Biotechnology Inc.(Santa Cruz CA)から購入した。ウサギ抗(マウス)COX−2およびEP2抗体は、Cayman(Ann Arbor MI)から購入し、そして、ウサギ抗活性p38抗体は、Promega(Madison WI)から購入した。適切なビオチン結合二次抗体は、Jackson Immunoresearch(West Grove PA)から購入した。
インビトロ研究:軟骨細胞の分化および成熟のインビトロモデルであるC2C12細胞株を、ATCCから入手し、そして、以前に記載されたように、DMEM+10%正常ウシ血清中で4日間培養した(Katagiri,T.,et al.1994)。さらに、細胞を、培養倍地中で、BMP−2(300ng/mL)、あるいは、BMP−2+PGE2(10−8M)または組換えIL−1β(10ng/mL)またはブタプロスト(butaprost)(10−8M)で処理した。実験の終了時に、細胞を10%ホルマリンで固定した。BCIP/NBT組織化学法(Vector Labs,Burlingame CA)を用いて、アルカリホスファターゼの発現を評価した。Olympus CK41倒立顕微鏡を用いて、陽性染色された細胞を、10のランダムな20倍の視野においてカウントした。
b)結果
Sandhoff病を含むリソソーム蓄積症は、しばしば、長骨ならびに脳顔面頭蓋骨格の骨格奇形を発現し、このうち後者は、しばしば、冒された患者において最初かつ真っ先に気付かれる特徴である(Gorlin,R.J.,et al.1991)。骨格の欠陥の程度を定量的に評価するために、脳顔面頭蓋骨格の横向きの頭蓋規格写真分析を行った。この方法は、ヒト患者における骨格の欠陥の詳細な評価において慣用的に用いられている。
Sandhoffマウスにおける脳顔面頭蓋骨格の欠陥:β−ヘキソミニダーゼ欠損により影響を受ける脳顔面頭蓋骨格の構造を定量的な様式で決定するために、横向きの頭蓋計測写真についての角度および線形の測定を用いる頭蓋規格写真分析を、HexB−/−、HexB+/−および野生型の同腹仔から得た。データは、HexB−/−ノックアウトマウスが、HexB+/−マウスおよび野生型マウスと比較して、より短い鼻骨上顎深さ(Na−Rh)、より短い脳顔面頭蓋の深さ(Ba−Rh)およびより短い頭蓋底の深さ(Ba−Na)により特徴付けられることを明らかにした(図1)。興味深いことに、調べた動物において下顎の大きさには差異はなかった(P>0.1)。8週の時点と16週の時点との間で差異は認められなかったので、ここでは、8週の結果のみを示す。週ベースで総重量を測定することにより全体的な成長を評価し、そして、動物群間に差異は認められなかった(P>0.1)。要するに、上述の解析は、脳顔面頭蓋骨格の欠陥が、2つの重要な骨成長部位である、蝶形骨後頭軟骨結合と蝶形骨前軟骨結合(特殊な成長板)とから構成される骨構造である、動物の頭蓋底に局在化されることを示した。したがって、頭蓋底の軟骨結合を、組織学的方法および免疫組織化学的方法により、β−ヘキソサミニダーゼおよび野生型のマウスにおいて評価した。
HexB−/−マウスの成長板における軟骨細胞の表現型の転換:β−ヘキソサミニダーゼ欠損に対して続発的に発症する骨格の欠陥の根底にある病因を細胞レベルで調べるために、頭蓋底の蝶形骨後頭骨軟骨結合(SOS)と、大腿骨および脛骨の成長板とを、HexB−/−マウスおよび野生型マウスにおいて、組織学的技術および免疫組織化学的技術により評価した。性質上、HexB−/−のSOSは、軟骨細胞の過形成と共に、細胞外軟骨質含量の減少と、異常な異所性の骨形成とを発現した(図2)。さらに、正常なSOSの細胞構築の欠如が変異マウスにおいてはっきりと示され、これは、増殖ゾーンにおける軟骨細胞柱の形成の欠如と、休止ゾーンの完全な欠落とによって特徴付けられる(図2)。PTHrP発現(軟骨細胞成熟の阻害因子)の減少、ならびに、TRAPおよびVEGF(肥大性の最終的に成熟した軟骨細胞の指標)の誘導を含め、骨格形成に関連するマーカーの発現における変化もまた、軟骨細胞におけるCOX−2発現の有意な増加と共に観察された(図2)。
上記変化が、頭蓋底の軟骨結合に限定されるかどうか、または、他の軟骨内に由来する骨の成長板にも存在するかどうかを決定するために、長骨成長板の組織学的および免疫組織化学的解析(図3)を行った。性質上、HexB−/−の大腿骨および脛骨は、正常な成長板の細胞構築の欠如、軟骨細胞の過形成および網状骨形成の増加を示した。また、野生型の同腹仔に比べ、TRAP発現の顕著な増加が、HexB−/−の成長板において観察された。上記の免疫組織化学的解析の定量的解析は、長骨成長板および頭蓋底の軟骨結合における、Col−2、TRAPおよびCOX−2を発現する軟骨細胞の数の有意な増加を明らかにした(図4)。したがって、上記のデータは、野生型マウスにおける増殖性/前肥大性の軟骨細胞の、Sandhoffマウスにおける肥大性の最終的に成熟した軟骨細胞への細胞の表現型の転換を示す。
新生仔期のβ−ヘキソサミニダーゼの外回旋は、HexB−/−の骨格の発生をレスキューする:発生の窓(developmental window)(この間に、β−ヘキソサミニダーゼ欠損が軟骨細胞の成熟に影響を及ぼす)を決定するために、本発明者らは、発生の新生仔期段階においてβ−ヘキソサミニダーゼ欠損からSandhoffマウスをレスキューした。この目的のために、本発明者らは、以前に開発された方法(Kyrkanides,S.,et al.2003)、組換えネコ免疫不全ウイルスFIV(Hex)による治療遺伝子の全身性転移を採用した。頭蓋計測写真により評価すると、HexB−/−乳仔へのFIV(Hex)の投与から8週間後および16週間後に、脳顔面頭蓋の成長および発生の有意な軽減が臨床レベルで観察された(図1)。さらに、ウイルスによる形質導入から16週間後に、頭蓋底の軟骨結合の組織学的解析は、頭蓋底の軟骨結合(図2)および長骨成長板(図3)における細胞構築の正常化を明らかにした。骨マーカーの免疫組織化学的解析は、Sandhoff乳仔における新生仔期のFIV(Hex)処置が、PTHrPの発現を回復させ、Col−2ならびにTRAPの発現を軽減させたことを明らかにした(図2、3および4)。興味深いことに、治療遺伝子の存在は、成長板の軟骨細胞では観察されなかった。
COX−PG経路は、HexB−/−の脳顔面頭蓋の表現型に関与している:軟骨細胞の成熟に対するβ−ヘキソサミニダーゼ欠損の作用を媒介する可能性のある機構の探索を開始するために、軟骨細胞の分化および成熟の公知の刺激因子であるCOX−2の発現を、Sandhoffマウスおよび野生型マウスの成長板において評価した。COX−2の発現は、HexB−/−ノックアウトマウスでは、頭蓋底の軟骨結合および長骨成長板において上昇していた(図2および3)。新生仔期のFIV(Hex)治療は、HexB−/−マウスにおけるこのCOX−2誘導の改善をもたらし、β−ヘキソサミニダーゼ欠損と、COX−2誘導と軟骨細胞の成熟との間に関連性が存在する可能性を示唆した。実際、COX−2の公知の刺激因子であるストレス活性化p38 MAKもまた、成長板の軟骨細胞において誘導された(図4)。COX−2は、プロスタノイドおよびプロスタグランジン(特にPGE2)の産生において速度が制限されており、この作用は、HexB−/−および野生型の成長板の軟骨細胞に存在することが分かっているEP2を含む、EPレセプターにより媒介される。
軟骨細胞の成熟におけるCOX−PG経路の作用を、C2C12細胞株を用いることによりインビトロで評価した(図4)。BMP−2の刺激下でのC2C12細胞を分化させるためのPGE2の投与は、その骨芽細胞表現型への変換の加速をもたらし(多数の細胞が規定された期間内に変換された)、HexB−/−軟骨細胞におけるCOX−PG経路の活性化が、実際に、軟骨細胞の成熟の加速を誘導し得ることが示唆された。
2.実施例2:疼痛のプロセスにおけるグリア細胞およびIL1β
a)方法
FIVベクター。3つのタイプのFIVウイルスベクターを使用し得る:(A)FΙV(Cre)ならびに(B)FIV(gfp)およびFIV(IL1ra)(これらは、それぞれ、Creリコンビナーゼ、ならびに、レポーター遺伝子である緑色蛍光タンパク質(gfp)およびIL1raレセプターアンタゴニストをコードする)。FIVベクターは、以前に記載されたようにして、調製、パッケージング、および濃縮し得る(Kyrkanides et al.,2004,2005)。10μLのウイルス溶液中の合計106の感染性粒子は、外科的水準の麻酔下でマウスのTMJに関節内注射し得る。同様に、2μlのウイルス溶液を、以下に記載されるように、大槽内に注射する。
TMJの組織病理学。各時点で、マウスのサブセットを、CO2吸入により麻酔して、直ちに断頭した。この頭部を回収し、筋肉・脂肪組織を除き、そして、固定のために10%ホルマリン溶液中に浸漬させた。その後、これらの生検をEDTA溶液中で石灰質を除去し、処理し、そして、パラフィン包埋した。次いで、組織学的TMJ切片を切断して、ガラススライド上に集め、脱パラフィンし、そして、組織化学的染色および免疫細胞化学により解析した。100μmごとに集めた全TMJ顆を網羅する傍矢状連続切片を、倍率40倍で評価し得る。この技術は、1TMJにつき15の切片を生じる。(1)まず、TMJ切片を、H&EおよびアルシアンブルーオレンジG染色により染色し得る。関節軟骨における変性性の変化を光学顕微鏡下で評価して、等級分けし、そして、WilhelmiおよびFaust(1976)ならびにHelminen et al.(1993)に従って、以下の5つのカテゴリーに分類し得る:グレード0、明らかな変化なし;グレード1、関節軟骨の表面的な原線維化;グレード2、欠陥が石灰化していない軟骨に限られる;グレード3、欠陥が石灰化した軟骨へと拡がる;そして、グレード4、関節表面における軟骨下骨の露出。各TMJは、連続切片において観察される最高スコアに従って等級分けし得る。(2)IL1βXATトランスジーンの活性化および発現は、市販の抗体を用いた、ヒト成熟IL−1βならびに細菌β−ガラクトシダーゼ(lacZ)に対する免疫細胞化学(ICC)によって達成され得る。(3)多数の関節炎関連遺伝子(例えば、マウスIL−1β、IL−6、COX−2、MMP−9、col2およびADAMST5)の発現は、免疫細胞化学により評価され得る。(4)炎症細胞の潜在的な浸潤は、以前に記載された(Kyrkanides et al.2003,2004)ように、以下の抗原に対して惹起された抗体を用いて検出され得る:Mac−1/MHC−IIによる単球/マクロファージ;CD−3によるリンパ球。また、好中球は、ラット抗マウス好中球抗体(Serotec,Raleigh,NC)により検出され得る。(5)アポトーシスおよび増殖は、それぞれ、TUNELおよびPCNAの免疫細胞化学により評価され得る。細胞の同一性は、二重免疫細胞化学により確認され得る。全ての例において、細胞数の定量化は、1視野あたりの陽性細胞数、ならびに、染色プロフィールの両方の観点から説明され得る(Kyrkanides et al.2002,2003)。
脳幹および神経節の組織学。マウスを安楽死させた後、脳幹および三叉神経節を回収し、10%ホルマリン溶液中に浸漬させることにより固定させ得る(Kyrkanides et al.2002,2004)。簡単に述べると、脳幹は、18μmで水平方向に薄切し得、そして、この切片を連続的な様式でガラススライド上に集める。この研究において、各動物からの関心のある全領域(脳幹については閂に関して−5mm〜+10mm、および全三叉神経節)を網羅する切片を含め得る。
神経炎症:脳幹および神経節における炎症の発生は、(グリア線維産生タンパク質(GFAP)および主要組織適合遺伝子複合体II(MHC−II)に対して惹起される抗体を用いる)確立された方法を用いた、組織学的切片についての免疫細胞化学により評価され得る。さらに、炎症性サイトカイン(例えば、IL−1β、IL1−R1、IL1ra、TNFαおよびIL−6)ならびに、シクロオキシゲナーゼ経路の誘導性メンバー(COX−2、mPGES−1)の発現もまた評価され得る。
三叉神経の興奮:三叉脳神経の感覚成分の興奮は、免疫細胞化学により、三叉神経節および脳幹の三叉神経核複合体(三叉脳神経の主要知覚核、下行路および核を含む)のレベルで評価され得る。この目的のために、サブスタンスP(SP)およびカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)ならびにp38 MAPキナーゼおよびc−fosを含む、疼痛関連の刺激性ニューロカイン(neurokine)の発現が評価され得る。
リアルタイムRT−PCRによるmRNA量の定量化。mRNAレベルの定量化は、ICYCLER(Bio−Rad)と、蛍光マーカーとしてFAMを用いて構築したTAQMANプローブおよびBlackhole Iクエンチャー(Biosearch Technologies,Novato CA)を用いるリアルタイムqRT−PCRとを用いることにより達成する。cDNAサンプルのPCRの前に、PCR条件を、解析される各mRNAについて最適化する。アニーリング温度、プライマー濃度、およびTaqmanプローブ濃度を変化させることにより、標準曲線用の反応を行う。最初のcDNAテンプレートの段階希釈は、少なくとも5桁の量を超える線形の増幅を示す。
PCR反応を、25μlの容量で行い、iQ Supermix(Bio−Rad,Hercules CA;0.625U Taq、0.8mM dNTP、3mM Mg2+、0.2〜0.6μMの濃度の各プライマー、10〜100nMプローブおよび1μlのcDNAサンプル)を含める。一貫性を保証するために、最初にcDNAサンプル以外の全ての試薬を含むマスターミックスを調製する。プライマーは、Primer Express(Applied Biosystems)およびOligo 6.83プログラム(Molecular Biology Insights,Inc.,Cascade,CO)を用いて設計する。一般に、PCRの反応条件は以下の通りである:95℃で3分間の変性、その後、95℃で30秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、および72℃で60秒間の伸長による40サイクルの増幅。各リアルタイムPCRについて、標準曲線反応を行い、生成物の収量(閾値に達するサイクル数として表す)と、開始時のテンプレートの量との間に直接的な線形の相関を保証する。この相関は、常に、r=0.925より大きい。PCR反応の効率(e)を各反応につき決定する。最初のRNAの値におけるバリエーションについて補正するために、リボソーム18S RNAまたはGAPDH RNAのレベルを全てのサンプルについて決定し、そして、その後の全てのRNAの定量を正規化するために使用する。次いで、転写体の発現における相対的な変化を決定するために、正規化した閾値サイクル(Ct)値を、関数− 発現=(1+e)Ctを用いて変換する。データを、ANOVAおよびTukeyの事後検定により比較し、そして、JMP統計プログラム(SAS Institute)を用いて線形回帰により相関を決定する。P<0.05の確率を、統計的に有意とみなす。
3.実施例3:慢性TMJ関節炎は、脳幹におけるグリアの活性化および神経炎症を誘導する
Col1−IL1β
XATトランスジェニックマウスモデルにおいて慢性TMJ関節炎を発症させた後に、グリア細胞の活性化を、脳幹および三叉神経節において調べ得る。グリアの活性化は、これまでに、脳の炎症の発生に関連付けられているので、脳幹の神経炎症の発生を、このTMJ関節炎マウスモデルにおいて調べ得る。この戦略の利点は、以前のモデル(すなわち、カリーゲナン(careegenan)、フロイトアジュバント、ホルマリン注射)とは対照的に、慢性的な末梢性(TMJ)炎症の誘導と、数週〜数ヶ月の期間にわたる中枢の研究とを可能にするCol1−IL1β
XATトランスジェニックマウスモデルを用いることである。
a)方法
成体Col1−IL1βXATトランスジェニックマウスの左右のTMJへのFIV(Cre)両側関節内注射は、トランスジーンの活性化を誘導し、その後、ウイルスの形質導入から早くて8週間で、TMJ関節炎および疼痛の発症を誘導する。若い成体(2ヶ月齢)Col1−IL1βXATトランスジェニックマウスにTMJ炎症性疼痛を誘導した後、神経炎症の発生と三叉神経の感覚系の興奮とは、脳幹および三叉神経節において時間的および空間的に特徴付けられ得、そして、疼痛の発生は、インビボで挙動的に評価され得る。例えば、4群のマウスを、この実験において使用し得る:(a)左右両側にFIV(Cre)を関節内注射してTMJ関節炎および炎症性疼痛を発症させたCol1−IL1βXATトランスジェニックマウス;(b)レポーター遺伝子である緑色蛍光タンパク質を哺乳動物細胞に形質導入し得るウイルスベクターであるFIV(gfp)を関節内注射したCol1−IL1βXATトランスジェニックマウス、ウイルスによる関節内形質導入の作用に関するコントロール;(c)滅菌生理食塩水を注射したCol1−IL1βXATトランスジェニックマウス 注射手順の作用に関するコントロール;(d)滅菌生理食塩水を注射した野生型同腹仔 潜在的な老化作用に関するコントロール。
マウスを、以下の3つの時点で試験し得る:TMJ関節炎の誘導から2週間後、2ヵ月後および6ヵ月後。これらの時点は、Col1−IL1βXATトランスジェニックマウスのTMJにおけるトランスジーンの活性化の早くも2週間後には、実験群のマウスにおける疼痛を示唆する挙動の変化が最初に観察されたというデータに基づいて選択した。さらに、2ヶ月および6ヶ月の時点は、脳の神経炎症の潜在的な発生を時間的に特徴付ける目的で含め、この脳の神経炎症は、次いで、潜在的な慢性疼痛の発症へと進行する事象を説明し得る。この目的のために、TMJ関節炎を誘導してから8週間後のCol1−IL1βXATトランスジェニックマウスの脳幹における三叉脳神経の主要知覚核および副核尾における星状細胞の活性化が開示される。
b)実験結果
神経炎症:末梢の炎症性疼痛後の脳幹における炎症の発生は、組織学および分子レベルで、実験群マウスおよびコントロールマウスにおいて評価され得る。具体的には、グリア細胞の活性化は、まず、星状細胞活性化のマーカーであるグリア線維産生タンパク質(GFAP)、および、小グリア細胞活性化のマーカーである主要組織適合因子複合体II(MHC−II)に対して惹起された抗体を用いる確立された方法を用いて、脳幹の組織学的切片に対する免疫細胞化学により検討され得る。さらに、炎症性サイトカイン(例えば、IL−1β、IL1−R1、IL−1ra、TNFαおよびIL−6)、ならびに、シクロオキシゲナーゼ経路の誘導性メンバー(COX−2、mPGES−1)の発現もまた、免疫組織化学により評価され得る。分子レベルにおいて、IL−1β、TNFα、IL−6、iNOS、IL1−R1、IL1ra、COX−2およびmPGES−1を含む炎症性遺伝子のアレイを、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT−PCR)によりmRNAレベルで解析し得る。
三叉神経の興奮:三叉脳神経の感覚成分の興奮は、免疫細胞化学により、三叉神経節および脳幹の三叉神経核複合体(三叉脳神経の主要知覚核、下行路および核を含む)のレベルで評価され得る。この目的のために、サブスタンスP(SP)およびカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)ならびにp38 MAPキナーゼおよびc−fosを含む、疼痛関連の刺激性ニューロカインの発現が評価され得る。
TMJの炎症:TMJにおける炎症の発生は、組織学および分子レベルで評価され得る。この目的のために、関節炎に関連する炎症性サイトカイン(例えば、IL−1β、TNFα、IL−6、COX−2、mPGES−1およびMMP−9)の発現を、TMJの組織学的切片に関して免疫組織化学により、ならびに、実験群およびコントロールのマウスから回収したTMJ組織におけるqRT−PCRにより評価され得る。
疼痛挙動。口顔の疼痛は、口顔のグルーミングおよび下顎の開きに対する抵抗を評価することによって、挙動レベルで評価され得る。
4.実施例4:口顔疼痛のプロセスにおける脳幹神経の炎症の作用
グリアの活性化および神経炎症は、IL−1βのような炎症性メディエーターの中枢性の発現と、その後の神経興奮を介して、侵害受容を悪化させ得る。口顔の疼痛は、成体マウスの脳幹における急性、短期および長期の神経炎症の中枢性の誘導の後に評価され得る。この目的のために、神経炎症の3つのマウスモデルを用い得る。
急性モデル:このモデルは、大槽(脳幹の後ろでかつ小脳の下に位置する解剖学的な腔)内への直接投与による、脳幹のレベルでの、成体の野生型マウスにおけるIL−1β(2μLの水性溶液中10ng)のくも膜下槽内への単回の注射に基づく。この方法によるIL−1βの中枢性の作用は、30〜60時間の期間にわたり持続し得る。
短期モデル:このモデルは、小児用カテーテルを用いた大槽へのカニューレ挿入と、マウスの背部に皮下移植した浸透圧性ミニポンプにより供給される、2週間の期間にわたるIL−1β(または、Col1−IL1βXATトランスジェニックマウスにおいてはIL−1β中和抗体)の持続放出とに基づく。
長期モデル:このモデルは、成体GFAP−IL1βXATトランスジェニックマウスの脳幹における体細胞モザイク解析に基づく。GFAP−IL1βXATトランスジェニックマウスは、中枢神経系における星状細胞によるIL−1βの持続的な発現と、その後の、FIV(Cre)ウイルスを用いたCreリコンビナーゼによるトランスジーンの活性化とに基づく、慢性神経炎症のインビボモデルである。この目的のために、成体GFAP−IL1βXATトランスジェニックマウスの大槽内へのFIV(Cre)のくも膜下槽内への単回の注射が、IL−1βの永続的な放出を活性化し、その後、脳幹における慢性の神経炎症の発生を引き起こす。
これらの神経炎症の3つのモデルは、2〜3日から6ヶ月までの範囲の3つの補足的な(complimentary)期間にわたり、疼痛の中枢性のプロセスに対するIL1βに基づく神経炎症の作用の検討を可能にするので、異なる利点を提供する。
a)神経の興奮および痛覚過敏、また、自然に発生する侵害受容に対する、急性脳幹神経炎症の作用
IL−1βを、外科手術水準の麻酔下で、成体の雄性(2ヶ月齢)野生型マウス(C57/Bl6)の大槽内にへの単回注射により、くも膜下腔内に投与し得る。6時間後、マウスを、口顔のグルーミングおよび口の開きに対する抵抗により評価した、挙動(自然に発生する侵害受容)における中枢誘導性の変化について評価し得、そして、(IL−1β注射前の)挙動の基線測定と比較し得る。さらなるマウスの群に、同じ投与経路を介して等量の滅菌生理食塩水を与え、これをコントロールとして用い得る。さらに、痛覚過敏の発生が評価され得る。マウスの一部は、上記のような挙動上の評価(口顔のグルーミングおよび口の開きに対する抵抗性)を行った後に、さらに、TMJ内にホルマリン(生理食塩水中0.625%)の関節内注射によりチャレンジし得る。さらに、第三のセットのマウスは、処置を与えず、注射手順に関するコントロールとして用いる。この36時間の期間の終了後に全てのマウスを屠殺し、その脳幹および三叉神経節を解析のために回収し得る。
b)神経の興奮および痛覚過敏、また、自然に発生する侵害受容に対する、短期の脳幹神経炎症の作用
IL−1βを、小児用カテーテルを介してミニポンプを用いて、2週間の期間にわたり、2ヶ月齢の雄性マウス(C57/Bl6)の大槽内に投与し得る。浸透圧性のミニポンプは、外科手術麻酔下で、成体マウスの背部に皮下移植し得る。次いで、このマウスは、口顔のグルーミングおよび口の開きに対する抵抗により評価される挙動(自然に発生する侵害受容)における中枢誘導性の変化について評価され得る。(IL−1β投与前の)挙動の基線測定に対する比較もまたなされ得る。さらなるマウスの群に、同じ投与経路を介して等量の滅菌生理食塩水を与え、これをコントロールとして用い得る。さらに、痛覚過敏の発生が評価され得る。上記マウスの一部は、上記のような挙動上の評価を行った後に、さらに、TMJ内にホルマリン(生理食塩水中0.625%)の関節内注射によりチャレンジし得る。さらに、別のセットのマウスは、処置を与えず、注射手順に関するコントロールとして用いる。各時点で屠殺したマウスは、その脳幹、三叉神経節およびTMJを解析のために提供し得る。
c)神経の興奮および痛覚過敏、また、自然に発生する侵害受容に対する、脳幹におけるIL−1βの長期的発現の作用
GFAP−IL1βXATトランスジェニックマウスにおける体細胞モザイク解析を用いることにより、神経炎症の長期の作用を脳幹において評価し得る。簡単に述べると、くも膜下腔内の空間へのネコ免疫不全ウイルスベクターFIV(Cre)の単回注射は、GFAP−IL1βXATトランスジーンの発現を活性化し、そして、ウイルスによる形質導入の部位における神経炎症の発生をもたらす。このマウスモデルは、中枢神経系の炎症の他のモデルを上回る有意な利点を提供する:これは、星状細胞による成熟かつ生物学的に活性なIl−1βの慢性的な低レベルでの発現に基づいた、長期(数ヶ月)の神経炎症の、時間的および空間的に制御された様式での発生を容易にする。この目的のために、外科手術水準の麻酔下で、2ヶ月齢のGFAP−IL1βXATトランスジェニックマウスに、単回のFIV(Cre)注射を行い得る。次いで、このマウスは、口顔のグルーミングおよび口の開きに対する抵抗により評価される挙動(自然に発生する侵害受容)における中枢誘導性の変化について評価され得る。同じ投与経路を介して等量のFIV(lacZ)を与えたさらなるマウスをコントロールとして用い得る。最後に、滅菌生理食塩水を注射したマウスを、注射手順に関するコントロールとして用い得る。(IL−1β投与前の)挙動の基線測定に対する比較もまたなされ得る。さらに、痛覚過敏の発生が、TMJにおけるホルマリンの関節内注射とその後の挙動評価によりさらなるチャレンジを受けたマウスの一部において評価され得る。
d)TMJ関節炎のCol1−IL1βXATマウスモデルにおける疼痛プロセスに対する、短期のIL−1β中和の作用
マウスIL−1β(ポリクローナル;Antigenix America,Huntington St.NY)に対して惹起された中和抗体を、小児用カテーテルを介し、浸透圧性ミニポンプを用いたTMJ関節炎の発症を誘導された(FIV(Cre)の関節内注射から6週間後に開始する)Col1−IL1βXATトランスジェニックマウスの大槽内に、2週間の期間にわたり投与し得る。浸透圧性のミニポンプは、外科手術麻酔下で、成体マウスの背部に皮下移植し得る。次いで、このマウスは、口顔のグルーミングおよび口の開きに対する抵抗により評価される挙動における中枢誘導性の変化について評価され得る。さらなるマウスの群に、同じ投与経路を介して等量の滅菌生理食塩水を与え、これをコントロールとして用い得る。さらに、痛覚過敏の発生が評価され得る。上記マウスの一部は、挙動上の評価を行った後に、さらに、TMJ内にホルマリンの関節内注射によりチャレンジし得る。
5.実施例5:慢性TMJ関節痛の中枢性プロセシングにおけるIL−1レセプターIL1−R1の役割
脳幹におけるIL−1βシグナル伝達は、慢性TMJ関節炎に対し続発的な炎症性疼痛の場合などの、口顔の疼痛のプロセスにおいて重要である。IL−1βは、1型レセプター(IL1−R1)を介してその生物学的作用を発揮することが知られる。したがって、本明細書中に開示されるように、慢性TMJ関節炎に対し続発的な末梢性の炎症性疼痛は、三叉神経核複合体におけるグリア細胞の活性化をもたらし得、これは次いで、炎症性メディエーター、特にIL−1βの放出を介して、局在化された神経炎症を引き起こす。その後、IL−1βは、IL1−R1レセプターを介して、後角における疼痛のプロセスを調節する。疼痛の中枢性プロセスにおけるIL1−R1の役割の評価が開示される。
a)実験計画
慢性TMJ関節炎に対し続発的な炎症性疼痛の中枢性のプロセスにおけるIL1−R1の役割は、TMJ関節炎に対し続発的に口顔の疼痛(挙動の変化および三叉神経の感覚の興奮として評価される)を発症する、Col1−IL1βXATマウスモデルにおいて評価され得る。この目的のために、IL−1レセプターアンタゴニストIL1raを用いて、IL1−R1レセプター阻害の3つのモデルを使用し得る。IL1raは、哺乳動物において見出される内因性の抗炎症因子である。
急性の阻害:この戦略は、大槽内への直接注射により投与したIL1raの阻害作用に基づくものである。
短期の阻害:これは、移植した浸透圧性ミニポンプに接続された小児用カテーテルを介した、14日間の期間にわたる大槽内へのIL1raの投与に基づく。
長期の阻害:IL−1raを発現し得る組家FIVベクターを使用し得る。この筋書きにおいて、大槽内へのFIV(IL−1ra)の単回注射は、脳幹において、安定な形質導入と、IL−1raの慢性的な発現とをもたらす。
3つの異なる対得のIL1−R1レセプター阻害を含めた理由は、IL1−R1と疼痛のプロセスとの機能的−時間的な関係性をよりよく理解することの必要性に基づく。この目的のために、FIV(IL1ra)による長期の阻害は、慢性疼痛の管理における新しい展望を開き得る。
b)TMJ関節炎発症後の、口顔の疼痛の中枢性プロセスに対する、脳幹レベルでのIL1−R1レセプターの急性阻害の作用
慢性TMJ関節炎に対し続発的な口顔の疼痛を罹患するCol1−IL1βXATマウスに、記載されたように、TMJ関節炎の誘導から8週間後の時点で、外科手術水準の麻酔下で、大槽内にIL1raの単回くも膜下腔内注射(2μLの水性溶液中10ng)を与え得る。36時間後、マウスを、挙動の変化(口顔のグルーミングおよび口の開きに対する抵抗により評価される)について評価し得、そして、(IL1ra投与前の)基線測定に対する比較がなされ得る。さらなるマウスの群に、同じ投与経路を介して等量の通常の滅菌生理食塩水を与え得、これをコントロールとして用いる。さらに、挙動上の評価の後に、TMJ内へのホルマリンの関節内注射によりさらにチャレンジを受けた一部のマウスにおいて、痛覚過敏の発症が続き得る。
c)TMJ関節炎発症後の、口顔の疼痛の中枢性プロセスに対する、14日の機関にわたる脳幹レベルでのIL1−R1レセプターの阻害の作用
IL1raを、記載されるように、マウスの背部に皮下移植した浸透圧性のミニポンプに接続されたカニューレを介して、2週間の期間にわたり(6週〜8週)、Col1−IL1βXATマウスの大槽内に投与する(0.25μl/hr;5ng/μl)。この2週間の阻害期間の終わりに、挙動の変化(口顔のグルーミングおよび口の開きに対する抵抗により評価される)を評価し得、そして、(IL1ra投与前の)基線測定に対する比較がなされ得る。さらなるマウスの群に、同じ投与経路を介して等量の生理食塩水を与え得、これをコントロールとして用い得る。さらに、挙動上の評価の後に、TMJ内へのホルマリンの関節内注射によりさらにチャレンジを受けた一部のマウスにおいて、痛覚過敏の発症もまた評価され得る。この実験の終了時に全てのマウスを屠殺し、そして、解析のためにその脳幹および三叉神経節を回収し得る。
d)疼痛の長期プロセスに対する、レンチウイルスFIV(IL1ra)ウイルスベクターを用いたIL−1raくも膜下槽内形質導入の作用
TMJ関節炎の誘導から6週間後に、慢性TMJ関節炎に対し続発的な口顔の疼痛を罹患するCol1−IL1βXATマウスに、大槽内に、FIV(IL1ra)の単回くも膜下槽内注射(合計107の感染性粒子/mLを含む2μl)を与え得る。その後、マウスの一群を、8週目において試験し、第二群は4ヶ月において試験し、そして、第三群は、6ヶ月の時点で試験し得る。各期間の終わりに、マウスを、挙動の変化(口顔のグルーミングおよび口の開きに対する抵抗により評価される)を評価し得、そして、(IL1ra投与前の)基線測定に対する比較がなされ得る。さらなるマウスの群に、同じ投与経路を介して等用量のFIV(gfp)ベクターを与え得、これをコントロールとして用い得る。さらに、第三群のマウスに波滅菌生理食塩水を与え、これを注射手順についてのコントロールとし得る。さらに、これらのマウスにおいて、痛覚過敏の発症もまた評価し得る。この目的のために、上述のように、各時点において、マウスの一部に、挙動上の評価を行った後に、さらに、TMJ内にホルマリンの関節内注射によりチャレンジし得る。各実験手順の終了時に全てのマウスを屠殺し、そして、解析のためにその脳幹および三叉神経節を回収し得る。
6.実施例6:
マウスIL−1β(1μlの正常な生理食塩水中2ng)を、深く麻酔をかけたC57BL/6マウス(麻酔薬:ケタミン40mg/kg IP)の大槽内に、経皮的に注射した。2日後に、マウスを屠殺し、リン酸緩衝化生理食塩水中4%のパラホルムアルデヒドで経心臓輸注し、そして、脳幹を回収し、凍結し、そして、18μm厚の水平な切片を切断し、これをスライドガラス上に集めた。次いで、この組織学的スライドを、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP;μ33)およびグリア線維産生タンパク質(GFAP;Dako)に対して惹起された抗体を用いた免疫組織化学(IHC)により解析した。結果は、IL−1βが、これらのマウスの下行性三叉神経核(髄質の後角)におけるGFAPおよびCGRPの発現を誘導したことを示した(図6)。
図8は、トランスジェニックマウスを開発するために使用したGFAP−IL1βXATのトランスジーンの構造を示す。ROSA26レポーターマウスの脳におけるFIV(Cre)ウイルスの注射は、注射領域におけるレポーター遺伝子lcaZの活性化をもたらした。
GFAP−IL1βXATについて、2つのトランスジェニック系統、すなわち、787−2−1(マウス系統Aと命名)および787−2−2(系統B)を作製した。系統Bからの初代星状細胞培養物を、FIV(Cre)で処理し、ELISAにより評価したときに、トランスジェニックIL1βの発現の増加をもたらした(図9)。コントロール(Creで処理した野生型細胞またはgfpウイルスで処理したB細胞)においてはIL1βの欠如が見られた(図9)。
Bマウスの脳におけるFIV(Cre)の注射は、主要組織適合遺伝子−II(MHC−II)免疫組織化学(IHC)により評価したときに、小グリア細胞の活性化を、GFAP IHCにより評価したときに、星状細胞の活性化をもたらした(図10)。マウス系統Aもまた、少ない程度ではあるが、これらの遺伝子の誘導を示す。FΙV(gfp)は、いかなる脳の炎症をも誘導しなかった(図10)。単球の化学誘因性タンパク質−1(MCP−1)もまた、FIV(Cre)を注射したBマウス系統において誘導された(図11)。
図12に示されるように、GFAP−IL1βXATトランスジェニックマウスにおいて、観察される炎症は、FIV(Cre)注射後のIL−1βの誘導に起因するものであった。GFAP−IL1βXATマウスを、IL−1レセプター1型(IL1R1−/−)ノックアウトマウスと交配し、実験を繰り返した。GFAP−IL1βXATにおけるIL1R1の欠失は、先に観察された脳の炎症をなくした。GFAP−IL1βXATマウスの大槽内へのFIV(Cre)の注射(106ip/mLのウイルスストックを3μl)は、注射後2週および6週の時点でグルーミング行動により評価したときに、コントロール(生理食塩水またはgfpを注射)に対し、口顔の疼痛の挙動の有意な増加(p<0.01)をもたらした。これらのマウスにおけるIL1R1の欠失は、その痛みによる挙動をなくした(図13)。
図14Aに示されるように、IL−1レセプターアンタゴニストを発現するFIV(IL1ra)を構築した。ベクターの配列は、複数の制限酵素消化により確認した(図14B)。FIV(IL1ra)での293FT細胞の処理は、RT−PCRで評価したときに、IL1ra mRNAの誘導をもたらし(図14C)、そしてまた、上清培地において高いレベルのIL1raタンパク質をもたらした(図14D)。したがって、FIV(IL1ra)のようなIL1阻害因子は、中枢性に誘導された疼痛を阻害するために、慢性的な中枢性疼痛を罹患する被験体の大槽内に注射し得る。
7.実施例7:
a)ベクターの構築およびパッケージング
ラットのニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーターを、pTR−NT3myc−NSEベクター内に供給した。2.05kbのNSE配列を、BglIおよびHindIII制限酵素消化により切断した。BglI部位は、T4 DNAポリメラーゼで平滑化し、そして、この断片をその後、pBS−NSEを形成するpBluescript II KS+/−ファージミドのXhoI(平滑末端)−HindIII(突出末端)部位にクローニングした。ヒトμ−オピオイドレセプター(HuMOR)cDNAを、pcDNA3プラスミド内に供給した。1.6KbのHuMOR配列を、EcoRVおよびXbaI消化により切断し、そして、pBS−NSEのEcoRV−XbaI部位にクローニングして、pBS(NSE−HuMOR)を形成した。その後、HuMOR cDNAを、一過性の発現の実験のために、平滑末端−突出末端ライゲーションにより、pRc/CMV(Invitrogen,Carlsbad CA)発現ベクターのHindIII(平滑末端)−XbaI(突出末端)内にクローニングした。さらに、KpnI(平滑末端)−XbaI(突出末端)NSE−HuMOR(3.65Kb)フラグメントを、ベクターのCMVプロモーターを切除するために、pRc/CMV発現ベクターのNruI(平滑末端)−XbaI(突出末端)部位にクローニングした。
NSE−HuMORフラグメントをまた、ベクターのクローニング部位を修飾した後に、Lenti6 Lentiviral Expression System(ViraPowerTM;Invitrogen)内にクローニングした。具体的には、5’CACCTAATACGACTCACTATAGG3’(配列番号41)および5’CATTAACCCTCACTAAAG3’(配列番号42)のプライマーセットを用いて、707bpのフラグメントを、pIRESベクターのマルチプルクローニングサイト(Clontech)からPCRで増幅した。上側のプライマーは、CACC配列を含み、このCACC配列は、製造業者の説明書によれば、フラグメントの方向性トポイソメラーゼラーゼが媒介するpLenti6/V5−D−TOPOベクター内へとクローニングし、所望のNheI−SalI部位を持つ新規LVレンチウイルスベクターを作製することを支援する。次いで、CMVプロモーターを、ClaIおよびSpeI制限酵素消化により除き、そして、末端を平滑化して、ベクターを再度環化した。NSE−HuMORをLVベクター内にクローニングするために、pBS(NSE−HuMOR)をKpnI(平滑末端)−XbaI(突出末端)で消化し、そして、pIRESベクターのEcoRI(平滑末端)−XbaI(突出末端)にクローニングした。その後、NSE−HuMORを含むNheI−SalI pIRESフラグメントを、LVベクターのNheI−SalI部位へとクローニングして、LV(NSE−HuMOR)を作製した。
FIV(CMV−HuMOR)を構築するために、HuMOR cDNAを、HindIII消化によりpcDNA3プラスミドから切り出し、そして、pBSベクターのHindIII部位に、所望の5’−3’方向でクローニングした。その後、HuMORを含むXbaI−SalIセグメントを、pBSベクターから切り出し、そして、市販のFIV(LacZ)ベクター(Systems Biosciences;Mountain View,CA)内へと、lacZ遺伝子の代わりに、XbaI−SalI部位の間にクローニングした。
FIVベクターを、T75フラスコ内で培養した293−FT細胞(Invitrogen)内に入れ、DMEM+10%FBS(Gemini,Woodland,CA)中で、ほぼコンフルエンシーになるまで増殖させた。この細胞を、次いで、製造業者の説明書に従って、Lipofectamine 2000試薬(Invitrogen)を用いて、転移ベクターであるLV(NSE−HuMOR)またはFIV(HuMOR)、パッケージングベクター(Poeschla 1998)、および、VSV−G擬似ベクター(Burns 1993)を同時にトランスフェクトさせた。トランスフェクションから24時間後に、上清の培地を捨てて、新しい培地と交換した。トランスフェクションから60時間後に、ウイルスリッチな上清を回収し、0.45mmのSurfil(登録商標)−MFフィルター(Corning Seperations Division,Acton MA)を通して濾過し、そしてその後、Sorvall RC5B高速遠心機およびSLA−3000ローターを用いて、7,000gにて一晩遠心分離して濃縮した。その後、上清を捨て、そして、4℃にて、ウイルスのペレットを、40mg/mLのラクトースを含む通常の緩衝化生理食塩水(1mL)に一晩再懸濁させた。このウイルス溶液を、次いで、分注し、そして、さらなる使用まで凍結した(−80℃)。24ウェル組織培養プレートにおいて培養したCrfK細胞(American Tissue Culture Collection;Manassas,VA)において、力価測定した。具体的には、パッケージングの間に、LV(lacZ)またはFΙV(lacZ)を、それぞれ、転移ベクターに対して1:100の割合で混合物中に加えた。力価は、X−gal陽性細胞の数に基づいて計算し、そして、希釈係数に基づいて外挿した。力価は、慣用的には、107〜108感染性粒子/mLの範囲である。
b)インビトロでの研究
pRC/CMV−HuMORプラスミドおよびpRc/NSE−HuMORプラスミドを、製造業者の説明書(Invigrogen)に従ってLipofectamine 2000試薬を用いて、それぞれ、293FT細胞およびN2α細胞にトランスフェクトした。48時間後、TRIzol試薬(Invitrogen)を用いて総RNAを抽出し、そして、5’GAATTACCTAATGGGAACATGG3’(配列番号45)および5’GCAGACGATGAACACAGC3’(配列番号46)のプライマーセット(TA=56℃、30サイクル)を用いるRT−PCRによりHuMORのmRNAレベルを評価した。G3PDHハウスキーピング遺伝子転写体のレベルを、5’ACCACAGTCCATGCCATCAC3’(配列番号55)および5’TCCACCACCCTGTTGCTGTA3’(配列番号56)のプライマーセット(TA=58°C、30サイクル)を用いて評価した。N2α細胞におけるNSE−HuMORの発現はまた、Chemicon(AB 1580;Temecula,CA)から市販されるウサギ抗HuMOR IgG抗体(1:1,000希釈)を用いた免疫組織化学(IHC)により評価した。簡単に述べると、細胞を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、10%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、PBSでリンスし、PBS中の4%正常ヤギ血清(NGS)でブロッキングし、そして、室温にて、0.4%Triton−Xおよび4% NGSを含む一次抗体溶液中で60分間インキュベートした。次いで、細胞をPBSで洗浄し、再度、4% NGSでブロッキングし、その後、室温にて、二次抗体と共に60分間インキュベートした。次いで、細胞をPBSで洗浄し、そして、ABC溶液(Vector Laboratories,Burlingame VM)中で60分間インキュベートし、その後、免疫反応性の可視化(褐色の染色)のために、4分間、DAB溶液中でインキュベートした。N2α細胞もまた、インビトロでのm.o.i.が約2のLV(NSE−HuMOR)またはLV(lacZ)を感染させ、そして、60時間後に、製造業者の説明書に従って、TRIzol試薬(Invitrogen)を用いて、総RNAを回収した。上述のRT−PCRプロトコールにより、HuMORの発現を評価した。
c)動物での研究
記載した全ての動物の手順は、政府の法規に従うために、研究の開始前に、Institutional Animal Care and Use Committee(University Committee on Animal Resources)による視察を受け、そして、承認を得た(OLAW/PHS Assurance A3292−01)。全てのマウスは、AAALAC公認の特定病原菌を含まないバリア施設(specific pathogen free barrier facility)内に維持した。全ての手順は、施設の方針に従い、AVMAのガイドに従った。
2ヶ月齢のC57Bl6雄性野生型マウスの右TMJに、50μlのLV(NSE−HuMOR)またはLV(lacZ)を関節内注射した:合計5×105の感染性粒子/mLを各関節に注射した。簡単に述べると、マウスをケタミン(40mg/Kg)で麻酔し、そして、外科手術水準の麻酔下で、頬骨弓の上を前方から後方の方向に触診することにより、右TMJの位置を突き止めた。27 1/2Gの注射針を後方下向きの方向に挿入し、そして、溶液を上部関節内空間に注射した。注射後、マウスをそのケージに戻した。5週間後、マウスを安楽死させて、右側の三叉神経節を改修し、そして、以下のようにして解析した。HuMORの存在は、製造業者の説明書に従ってDNAzol試薬(Invitrogen)を用いた、神経節からのDNA抽出物におけるPCRにより評価した。HuMORの発現は、製造業者の説明書に従ってTRIzol試薬(Invitrogen)を用いた、神経節からの総RNA抽出物におけるRT−PCRにより評価した。
3ヶ月齢のCol1−IL−1βXATマウスに、上述のように、外科手術水準の麻酔下で、左右のTMJ内に、1×106のFIV(HuMOR)の感染性粒子を含む50μlを注射した。1週間後、マウスの両TMJ内に、5x106のFΙV(Cre)の感染性粒子を含む50μlの2回目の関節内注射を与え、そして、ケージに戻した。その後、マウスの挙動を、2週ごとに評価し、最終的には、FIV(Cre)の注射から8週間で屠殺した。
グルーミングの挙動を、先に記載された方法(Lai 2006)を適合させることにより評価した。簡単に述べると、マウスを、四方を鏡の壁で覆われた特別注文のケージ(12”×12”×12”)内に入れた。マウスが観察および記録できるよう、このケージには天井がない。各マウスを、その元のケージから、敷きわらを含む上記の観察用チャンバに移し、そして、30分間の馴化期間を与え、ストレスを最小限にした。挙動は、画像の拡大のためにCokinマクロデジタルレンズ(mode C043)を加えたSonyのデジタルレコーダー(Digital Handycam/Digital 8)を用いて、60分の期間にわたりビデオテープ上に記録した。次いで、このマウスをその元のケージに戻した。グルーミングは、単独の観察者によるセッションの間に、マウスがその顔面をこする、および/または、その頭部を引っ込める秒数をカウントすることにより、録画再生の間に測定した。マウスには、簡単な試験期間の間には、食事または水を与えなかった。挙動上の評価は、マウス群の割り当てに対して条件を伏せられた研究者により行った。挙動は、60分間の評価にわたり、3分の増分で特徴付けた。これらのデータは、FileMaker Pro V7(FileMaker Inc.;Santa Clara,CA)に入力し、そして、解析のためにExcel(登録商標)(Microsoft Inc.)にエクスポートした。
顎の開きに対する抵抗を、Pain Adaptation Model(Lund et al.1991)の原理に基づいて顎関節の機能障害を評価するための方法として用い、このPain Adaptation Modelの原理は、疼痛が筋肉の力を低下させることを示唆するものである。朝に、そして、試験の準備のために、ケタミンの腹腔内注射(40mg/Kg)によりマウスに麻酔をかけた。下門歯上に歯科用接着剤を用いて歯科矯正用フックを取り付け、そして、このマウスをそのケージに戻して、最短で4時間、麻酔から回復させた。評価は、同日の午後に再開した。次いで、各マウスを、プラスチック製(単回使用)の制限デバイス(これは、頭部および上顎を固定する一方で、下顎は自由にしたままにする)内に入れた。次いで、下顎を、歯科矯正用フックを介して、有線接続されたデジタル動力計(FGFシリーズ,Kernco Instruments)に接続し、この動力計は、AfD変換カード(NIO 16E1,National Instruments)を介してDELL PCコンピュータへと有線接続され、下顎を垂直方向に4mm動かそうと試みる間に、マウスにより示される抵抗を記録した。約220秒にわたる合計10,000のデータ点を、PCコンピュータ上のLab Viewソフトウェアパッケージ(National Instruments,Austin TX)により回収し、そして、5分の期間にわたりプロットした。各期間内に、下顎は、10回下降し、そして、約2秒間保持され、そして、下顎の各押し下げの間には20秒間の待機時間があった。各セッションの終わりに、マウスを屠殺した。
d)組織学 −免疫組織化学的研究
10%ホルマリン中で固定した後、マウスの頭部を切開し、筋肉・脂肪組織を除き、そして、一定速度で振動させながら、4℃にて7日間、EDTA溶液中に浸漬させることにより石灰質を除去した。次いで、TMJを、RHS−1マイクロ波組織プロセッサで処理し、その後、サンプルをパラフィン中に包埋し、組織を3μm厚の切片に切断し、そして、ガラススライド上に集めた。脳幹および神経節を、低温槽にて18μm厚の切片に凍結切断し、そして、ガラススライド上に集めた。全体的なTMJの組織病理学を、Lai et al.(2006)により先に記載されたスケール0〜4を用いて、アルシアンブルー−オレンジG組織化学により染色した切片において評価した。このスケールは、以下のように規定される:「0、明らかな変化なし;1、軟骨の表面的な原線維化、条痕;2、損傷が石灰化していない軟骨に限られる;3、欠陥が石灰化した軟骨へと拡がる;4、深部の欠陥が、石灰化した軟骨へと拡がる。関節の軟骨細胞のクローニングは、関節軟骨内に1以上の軟骨細胞を含む小腔の数をカウントすることにより評価した。
以下に記載される抗体を用い、多数の抗原について、免疫組織化学(IHC)解析を行った。一般に、脳幹および神経節の切片を、PBS中で再水和し、3% H2O2中で15分間脱色し、以下のように処理した。組織を、適切な一次血清溶液を用いてブロッキングし、その後、4℃にて一晩、一次抗体溶液中でインキュベーションした。翌朝、TMJ切片をPBSでリンスし、そして、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン中でインキュベーションし、AECを色素原として用い、そして、切片をヘマトキシリンで対比染色し、その後、PBSで洗浄した。脳幹および神経節の切片を、ABC試薬(Vector Laboratories,Burlingame CA)を、先に記載されたように(Kyrkanides et al.2004)、色素原としてのNickel−DABと組み合わせて使用したことを除いて、同様の様式で処理した。次いで、この切片を、アルコール脱水し、キシレンできれいにし、そして、永久的な封入剤と共にカバーガラスを載せた。この組織学的切片を、Olympus BX51顕微鏡を用いて光学顕微鏡下で評価した。顕微鏡に取り付けたSpot CCDデジタルカメラを用いて、顕微鏡写真を撮った。TMJ切片をキシレン中で脱パラフィンし、段階的なアルコールを通して再水和し、そして、3% H2O2中で20分間クエンチングした。10mMのクエン酸緩衝液(pH6.0)を用いて、90℃にて15分間、圧力釜中で抗原の回復を行った。これらの実験において使用した抗体としては、以下が挙げられる:ウサギ抗HuMOR抗体(AB 1580、1:1,000希釈;Chemicon,Temecula,CA)、ウサギ抗c−Fos抗体(SC−52、1:3,000希釈;Santa Cruz Biotechnology Inc,Santa Cruz CA)、ウサギ抗マウスIL−1β抗体(RMF 120、1:1,000希釈;Antigenix America,Huntington Station,NY)およびウサギ抗GFAP抗体(Z0334、1:1,000希釈;Dako,Carpinteria,CA)。GFAPの免疫反応性を、NIHイメージソフトウェアプログラム(Lai et al.2006)により、各顕微鏡視野(10×)におけるピクセルごとの免疫反応性の数として、脳幹および神経節の切片において測定した。c−Fos+およびIL−1β+の細胞の数を、各顕微鏡視野において、1人の研究者(SK)によってカウントした。
e)結果
(1)哺乳動物細胞におけるHuMORの発現
HuMORの過剰発現を、インビトロで、NSEプロモーターによりヒト由来のN2α神経細胞株において、ならびに、CMVプロモーターにより、ヒト由来の293FT線維芽細胞株において標的化させた(図15)。NSE−HuMORの過剰発現もまた、N2α細胞において免疫組織化学により検出され、これはまた、ナイーブな条件においてささやかな背景レベルのHuMOR発現を示した(図15C)。N2α細胞は、HuMOR mRNAレベルの増加により評価するとき(図16B)、m.o.i.約2のLV(NSE−HuMOR)(組換えレンチウイルスベクターシステム)(図16A)を用いて首尾よく感染された。予想通り、以前に、レポーターβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を哺乳動物細胞に形質導入することが示されているコントロールベクターLV(lacZ)は、N2α細胞内にHuMORの発現を誘導しなかった。インビボでは、LV(NSE−HuMOR)を、野生型マウスの顎関節(TMJ)内に関節内注射し、そして、ベクターを、同側の三叉神経節内で追跡した(図16C)。具体的には、TMJに神経を分布する一次性の感覚ニューロンの形質導入は、ヒトμ−オピオイドレセプターヌクレオチド配列とマウスμ−オピオイドレセプターヌクレオチド配列との間を区別するプライマーを用いたPCRにより、形質導入から5週間後に、三叉神経節のDNA抽出物におけるHuMORトランスジーンの存在により実証された。興味深いことに、HuMORの発現は、RT−PCRにより評価したとき、神経節にトランスジーンが存在するにもかかわらず、これらの神経節においては検出されなかった。これはおそらく、HuMOR転写コピー数が少ないこと、そして/または、LVの感染効率が限られていることに起因する。これらの結果は、関節内注射の後に三叉神経の感覚ニューロンを効率的に形質導入することが示されている(Kyrkanides et al.2004)FIV(CMV−HuMOR)、レンチウイルスベクタープラットフォーム(図16D)の構築を促した。
(2)組換えネコ免疫不全ウイルスによる三叉神経感覚ニューロンの形質導入
合計1x106の感染性FIV(CMV−HuMOR)粒子を含む50μlの水性溶液を、若い成体Col1−IL1βXATトランスジェニックマウスのTMJ関節空間内へ、両側に注射した。1週間後、これらのマウスに、合計5x106のFIV(Cre)の感染性粒子を含む第2の関節内注射を与え、先に記載されたように(Lai 2006)、トランスジーンの活性化と、TMJ内の関節炎とを誘導した。その後、HuMORの発現を、8週間後に三叉神経節において、IHCにより評価した。HuMOR免疫反応性細胞を、三叉神経節において観察し(図17A)、そして、これは、以前にTMJの神経支配への関与がほのめかされてきた(Kyrkanides 2004)この感覚性の神経節の領域に局在化していた。脳幹において、HuMORの免疫陽性線維は、主に、三叉神経の副核尾において観察され(図17C)、ほんのわずかな線維のみが主要知覚核のレベルに存在していた。これらの線維は、FIV(HuMOR)により末梢性に形質導入された感覚性の三叉神経線維の近位枝を代表する。さらに、HuMORの免疫反応性は、TMJの硬組織および軟組織(関節の線維軟骨および関節の半月板を含む)において観察された(図17D)。興味深いことに、met−エンケファリンおよびleu−nエンケファリンを含むμ−オピオイドレセプターリガンドは、副核尾に免疫局在化していたが(z図17E〜17F)、主要知覚核には局在化しておらず、この核が、TMJからの侵害受容の中枢性のプロセス(疼痛コントロール)において重要なエリアであることを示唆している。さらに、エンケファリンはまた、TMJにおいて、特に、滑膜組織において、主に後部に、そして、より少ない程度で半月板結合部前方に、免疫局在化していた(図17G)。TMJと脳幹核との間の解剖学的な関連は、DiIトレーサを用いる逆行性の追跡実験により確認された。右TMJにおけるトレーサの関節内投与は、副核尾における(図17H)、ならびに、主要三叉神経知覚核における(図17I)DiI蛍光の確認をもたらし、第V脳神経を介したこれらの構造の直接的な接続が示された。
(3)TMJにおけるHuMORの誘導が、疼痛の挙動を変え、そして、関節の病理を軽減する
Col1−IL1βXATマウスモデルにおける関節炎の開始前の、TMJ内のFIV(HuMOR)関節内注射は、口顔のグルーミング行動の減少により評価したときに、口顔の疼痛挙動を有意に軽減した(図18A)。さらに、FIV(HuMOR)での前処理は、口の開きに対する抵抗により測定したときに、関節の機能障害を低減させた(図18B)。興味深いことに、FIV(HuMOR)での前処理は、関節の病変の発症を有意に軽減させ、そして、関節炎マウスにおいて、軟骨細胞クローン化を減少させた。この目的のために、FIV(HuMOR)はまた、関節の軟骨細胞および半月板組織を形質導入し、観察される関節炎の軽減をある程度媒介した(図18Cおよび18D)。FIV(HuMOR)の関節内投与は、挙動には影響を及ぼさず(図18A)、そして、野生型コントロールにおける関節の構造に対して検出可能な作用を有さなかった(図18C、18Dおよび18G)。まとめると、FIV(HuMOR)での前処理は、TMJ関節炎を罹患する動物において、口顔の疼痛と、関節の機能障害とを改善し、そして、これらは、関節の病変の程度の減少と関連している。
(4)口顔の疼痛および脳幹の活性化活動
Col1−IL−1βXATマウスモデルにおけるTMJ関節炎、機能障害および疼痛の誘導には、脳幹に位置する三叉神経知覚核内のc−Fos免疫反応性の増加が伴った。このc−Fosは、痛覚過敏および疼痛に関連するニューロンの活性化のマーカーである。具体的には、c−Fos免疫陽性細胞数の有意な増加が、三叉神経の副核尾ならびに主要知覚核において観察された。さらに、コントロールと比較して、マウスIL−1βを発現する細胞の数における有意な数が、Col1−IL1βXAT関節炎マウスのこれらの核において観察された(図19A〜19F)IL−1βの発現は、主に、副核尾ならびに主要知覚核のレベルで観察された。中枢性のIL−1βは、以前に、痛覚過敏および疼痛の状態と関連付けられており、そして、このようなマーカーとしてここで用いた(Oka 1995;Sommer 1999)。さらに、FIV(HuMOR)での前処理は、コントロールマウスに匹敵するレベルまで、関節炎マウスにおけるこの中枢性のIL−1βの発現を規格化した。これらのデータは、TMJの侵害受容の中枢性のプロセスに関与する二次性の感覚ニューロンの活性化を示し、ならびに、このプロセスにおけるIL−1βについての中枢性の役割をほのめかす。
GFAP組織化学により評価したとき、大グリア細胞の活性化の有意なレベルがまた、コントロールと比較して、Col1−IL1βXAT関節炎マウスの副核尾および主要知覚核において認められた(図20)。さらに、FIV(HuMOR)での前処理は、このGFAPの誘導を、コントロールマウスにおいて観察されるレベルに匹敵するレベルまで軽減した。これらのセクションにおいては、Mac−1(CD11b+)(活性化された小グリア細胞(または浸潤性の単球)のマーカー)の免疫反応性を欠いていた。これらのデータは、大グリア細胞が、副核尾および主要知覚核のレベルでの口顔/TMJの疼痛と合わせて活性化され、このプロセスが、感覚性の求心性線維により媒介され、かつ、オピオイド系により調節され得ることを実証する。
8.実施例8:
TMJ内にCreベクターを注射したCol1−IL1βXATマウスは、TMJ注射から4週間後に口顔の侵害受容挙動の徴候を示し始めた(図21)。その後、FIV(IL1ra)を、大槽内への単回注射(1.5x106の感染性粒子を含む3μl)により、次いで、これらのマウスの一部に投与した。これらのマウスを次いで、そのケージに戻した。実験の終了時点(8週間後)に、全てのマウスを評価した。大槽内にFVI(IL1ra)を注射したTMJ関節炎を有するマウスの群は、侵害受容の挙動の軽減を示した(図21)。逆に、IL1ra処置なしのマウスでは、侵害受容の挙動が増加した(図21)。コントロールとして、コントロールのgfpベクターを注射したCol1−IL1βXATマウスは、4週の時点でも8週の時点でも、いかなる侵害受容の挙動も示さなかった(図21)。
これらのデータは、脳幹におけるIL1β−IL1R1シグナル伝達経路の活性化が、TMJ関節炎を罹患するマウスにおける口顔の侵害受容の挙動の発症に必須であることを実証する。さらに、IL1ra(または同様の化合物)でのIL1R1レセプターの阻害が、口顔の疼痛に対する新規治療の開発の基礎を提供し得る。
アルシアンブルー組織化学(AB/OG)、MMP−9免疫組織化学(MMP−9)、酸性プロテオグリカン(SO/FG)、およびII型コラーゲン免疫組織化学(Col−2)を、以下のマウス群におけるTMJの組織病理学的評価に用いた:コントロール−大槽(脳幹)にFIV(gfp)を注射したGFAP−IL1βXAT Tgマウス;実験群−大槽にFIV(Cre)を注射したGFAP−IL1βXAT Tgマウス;IL1R1−/−−GFAP−IL1βXAT;大槽にFIV(Cre)を注射したIL1R1−/−複合マウス;TMJにFIV(Cre)を注射し、その後、大槽にFIV(IL1ra)を注射したFIV(IL1ra)−Col1−IL1β−/− Tgマウス(図22Aおよび22B)。
これらのデータは、(1)マウス脳幹におけるIL1βの発現の中枢性の誘導が、TMJにおいて以下の組織学的な変化をもたらすこと:表在性軟骨層(AB/OG)における軟骨含量の減少;(2)関節炎の典型的なマーカーであるMMP−6およびIL−6のアップレギュレーション;(3)プロテオグリカン含量(SO/FG)の減少;(4)変形性関節症の初期段階に通常見られるCol−2発現の誘導。
TgマウスモデルにおけるIL1R1レセプターの欠失が、上述の病変を発症するマウス(IL1R1−/−群)をレスキューした。この目的のために、TMJにおける(末梢性に誘導された)関節炎を罹患するCol1−IL1βXAT Tgマウス(Lai et al.2005を参照のこと)の脳幹におけるIL1R1レセプターの阻害が、TMJの病変の改善をもたらした。
G.参考文献