発明の概要
本発明は、細胞機能を変化させるための組成物および方法に関する。特に、本発明は、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物および(例えば、神経変性疾患の治療的処置および/または予防的治療として)その使用方法を提供する。さらに、本発明は、特定のセレン形態(例えば、SEL-PLEX)が、疾患および/または老化に関連する遺伝子の発現を変化させる能力を有するが、他のセレン形態(例えば、遊離セレノメチオニン)は有さないことを証明する。
したがって、本発明は、対象で(例えば、大脳皮質で)補体遺伝子の発現が低下するような条件下または一つもしくは複数のアルツハイマー病の徴候または症状が軽減または消失させるか、アルツハイマー病の発症または進行が遅延または防止されるような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を、対象(例えば、アルツハイマー病に罹患している対象、早期発症アルツハイマー病を有する対象、アルツハイマー病を有する対象、アルツハイマー病の指標となる徴候、症状、または病状を示す対象、アルツハイマー病を有する疑いのある対象、アルツハイマー病の指標となる徴候、症状、または病状を示す疑いのある対象、アルツハイマー病のリスクのある対象(例えば、アルツハイマー病にかかりやすい(例えば、家族歴があるかまたは遺伝的にかかりやすい(例えば、APO E変種を保有する)対象)、アルツハイマー病の指標となる病状を示すリスクのある対象、アルツハイマー病のモデル動物、またはアルツハイマー病のリスクを軽減することを望む健常な対象)に投与する工程を含む、アルツハイマー病の治療法もしくは防止方法、アルツハイマー病に関連する徴候または症状の軽減方法、アルツハイマー病の発症または進行に関連する生物学的事象を予防的に防止または最小限にする方法、またはアルツハイマー病の発症または進行に関連する遺伝子の遺伝子発現を軽減する方法を提供する。いくつかの態様では、治療は予防的である。いくつかの態様では、補体遺伝子発現は年齢に関連する。いくつかの態様では、補体遺伝子が、C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、C1qr、または他の補体遺伝子である。いくつかの態様では、予防的治療は、対象のアルツハイマー病の徴候および症状の発症を防止する。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物は、一つまたは複数の他のセレン形態を含む。本発明は、同時投与されるセレンの型に制限されない。実際、種々のセレン形態が同時投与に有用であることが意図され、セレノメチオニン、セレノシステイン、亜セレン酸化合物、セレン酸化合物、またはその誘導体、塩、もしくは修飾物が含まれるが、それらに限定されない。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))および一つまたは複数の異なるセレン形態を提供することにより、補体遺伝子の発現がさらに低下する。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))および一つまたは複数の異なるセレン形態を提供することにより、補体遺伝子の発現が相乗的に(例えば、さらにより)低下する。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))および一つまたは複数の異なるセレン形態を提供することにより、いずれかのセレン形態のみにより変化(例えば、低下)するよりも多くの遺伝子発現が変化(例えば、低下)する。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を、抗酸化剤と同時投与する。本発明は、使用する抗酸化剤に制限されない。実際、種々の抗酸化剤がセレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))との同時投与に有用であるあることが意図され、アルキル化ジフェニルアミン、N-アルキル化フェニレンジアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、ジメチルキノリン、トリメチルジヒドロキノリン、ヒンダードフェノール類、アルキル化ヒドロキノン、ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル、アルキリデンビスフェノール、チオプロピオネート、金属ジチオカルバメート、1,3,4-ジメルカプトチアジアゾール、油溶性銅化合物、NAUGALUBE 438、NAUGALUBE 438L、NAUGALUBE 640、NAUGALUBE 635、NAUGALUBE 680、NAUGALUBE AMS、NAUGALUBE APAN、Naugard PANA、NAUGALUBE TMQ、NAUGALUBE 531、NAUGALUBE 431、NAUGALUBE BHT、NAUGALUBE 403、NAUGALUBE 420、アスコルビン酸、トコフェロール、α-トコフェロール、スルフヒドリル化合物、メタ重亜硫酸ナトリウム、N-アセチル-システイン、リポ酸、ジヒドロリポ酸、リスベラトロール、ラクトフェリン、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ポリペプチド、ブチル化ヒドロキシトルエン、レチノイド、レチノール、パルミチン酸レチニル、トコトリエノール、ユビキノン、フラボノイド、イソフラボノイド、ゲニステイン、ダイゼイン、リスベラトロール、ブドウの種、緑茶、松の樹皮、プロポリス、IRGANOX、Antigene P、SUMILIZER GA-80、β-カロテン、リコピン、ビタミンC、ビタミンE、およびビタミンAが含まれるが、それらに限定されない。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を、アルツハイマー病治療薬と同時投与する。本発明は、いかなる特定のアルツハイマー病治療薬にも制限されない。実際、種々のアルツハイマー病治療薬が本発明で有用であるあることが意図され、NMDAアンタゴニスト、AChEインヒビター、および金属キレート剤が含まれるが、それらに限定されない。いくつかの態様では、NMDAアンタゴニストはメマンチンである。いくつかの態様では、AChEインヒビターは、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、またはガランタミンである。いくつかの態様では、金属キレート剤はクリオキノールである。いくつかの態様では、クリオキノールは亜鉛および銅をキレート化する。
本発明はまた、遺伝子(例えば、C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、C1qr、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンZ、およびカテプシンO、カルセニリン、プレセニリン1、プレセニリン2、ニカストリン、Apbb1/Fe65、Aplp1、および/またはApba1)の発現が変化するような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する工程と、その遺伝子発現を試験する工程とを含む、アルツハイマー病を有する対象の治療法を提供する。いくつかの態様では、セレンを含む組成物は、SEL-PLEXを含む。いくつかの態様では、遺伝子(例えば、プレセニリン1またはプレセニリン2)の発現を試験する工程は、オリゴヌクレオチドプローブの使用を含む。いくつかの態様では、遺伝子(例えば、プレセニリン1またはプレセニリン2)の発現を試験する工程は、PCRの使用を含む。いくつかの態様では、PCRはRT-PCRを含む。いくつかの態様では、試験は、投与前、投与中、および/または投与後に行う。いくつかの態様では、試験は診断用である。いくつかの態様では、試験は研究用である。
本発明はまた、カテプシン遺伝子の発現が対象(例えば、大脳皮質)で低下するような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する工程を含む、アルツハイマー病の治療法を提供する。いくつかの態様では、治療は予防的である。いくつかの態様では、カテプシン遺伝子発現は年齢に関連する。いくつかの態様では、カテプシン遺伝子は、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンZ、カテプシンO、または他のカテプシン遺伝子である。いくつかの態様では、カテプシン遺伝子発現の低下により、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のアミロイドβ-ペプチドへのプロセシングが減少する。いくつかの態様では、アミロイドβ-ペプチドレベルの減少により、対象の脳内のアルツハイマー病斑の形成が減少する。いくつかの態様では、予防的治療が対象におけるアルツハイマー病の徴候および症状の発症または進行を防止する。
本発明はまた、プレセニリン(例えば、プレセニリン1またはプレセニリン2)の発現が対象(例えば、大脳皮質)で低下するような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する工程を含む、アルツハイマー病の治療法を提供する。いくつかの態様では、治療は予防的である。いくつかの態様では、プレセニリン発現は年齢に関連する。いくつかの態様では、プレセニリン発現の低下により、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のアミロイドβ-ペプチドへのプロセシングが減少する。いくつかの態様では、アミロイドβ-ペプチドレベルの減少により、対象の脳内のアルツハイマー病斑の形成が減少する。いくつかの態様では、予防的治療は、対象におけるアルツハイマー病の徴候および症状の発症または進行を防止する。
本発明はまた、ニカストリンの発現が対象(例えば、大脳皮質)で低下するような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する工程を含む、アルツハイマー病の治療法を提供する。いくつかの態様では、治療は予防的である。いくつかの態様では、ニカストリン発現は年齢に関連する。いくつかの態様では、ニカストリン発現の低下により、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のアミロイドβ-ペプチドへのプロセシングが減少する。いくつかの態様では、アミロイドβ-ペプチドレベルの減少により、対象の脳内のアルツハイマー病斑の形成が減少する。いくつかの態様では、予防的治療が対象におけるアルツハイマー病の徴候および症状の発症または進行を防止する。
本発明はまた、ニカストリンおよび/またはカルセニリンの発現が対象(例えば、大脳皮質)で低下するような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する工程を含む、アルツハイマー病の治療法を提供する。いくつかの態様では、治療は予防的である。いくつかの態様では、ニカストリンおよび/またはカルセニリン発現は年齢に関連する。いくつかの態様では、ニカストリンおよび/またはカルセニリン発現の低下により、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のアミロイドβ-ペプチドへのプロセシングが減少する。いくつかの態様では、アミロイドβ-ペプチドレベルの減少により、対象の脳内におけるアルツハイマー病斑の形成が減少する。いくつかの態様では、予防的治療が対象のアルツハイマー病の徴候および症状の発症または進行を防止する。
本発明はまた、アミロイド前駆体タンパク質のプロセシングに関与する遺伝子の発現が低下するような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象におけるアミロイド前駆体タンパク質のプロセシングに関与する遺伝子の発現を阻害する方法を提供する。いくつかの好ましい態様では、アミロイド前駆体タンパク質のプロセシングに関与する遺伝子は、C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、C1qr、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンZ、およびカテプシンO、プレセニリン1、プレセニリン2、ニカストリン、カルセニリン、Apbb1/Fe65、Aplp1、および/またはApba1である。いくつかの態様では、セレンを含む組成物を、神経変性疾患の予防的治療または治療的処置として対象に投与する。本発明の方法を使用して、種々の対象(アルツハイマー病の指標となる病状を示すリスクのある対象およびアルツハイマー病を有する対象を含むが、それらに限定されない)を治療することができる。いくつかの態様では、セレンを含む組成物はSEL-PLEXを含む。いくつかの態様では、SEL-PLEXを含む組成物は一つまたは複数の他のセレン形態を含む。いくつかの態様では、セレンを含む組成物をアルツハイマー病治療薬と同時投与する。いくつかの態様では、セレンを含む組成物の投与により、対象におけるアルツハイマー病の徴候および症状の発症が阻害される。いくつかの態様では、セレンを含む組成物を抗酸化剤と同時投与する。
本発明はまた、β-アミロイドペプチドの生成に関与する遺伝子の発現が低下するような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象におけるβ-アミロイドペプチドの生成に関与する遺伝子の発現を阻害する方法を提供する。いくつかの好ましい態様では、β-アミロイドペプチドの生成に関与する遺伝子は、C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、C1qr、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンZ、およびカテプシンO、プレセニリン1、プレセニリン2、カルセニリン、ニカストリン、Apbb1/Fe65、Aplp1、ならびに/またはApba1である。いくつかの態様では、セレンを含む組成物を、神経変性疾患の予防的治療または治療的処置として対象に投与する。本発明の方法を使用して、種々の対象(アルツハイマー病の指標となる病状を示すリスクのある対象およびアルツハイマー病を有する対象を含むが、それらに限定されない)を治療することができる。いくつかの態様では、セレンを含む組成物はSEL-PLEXを含む。いくつかの態様では、SEL-PLEXを含む組成物は一つまたは複数の他のセレン形態を含む。いくつかの態様では、セレンを含む組成物をアルツハイマー病治療薬と同時投与する。いくつかの態様では、セレンを含む組成物の投与により、対象におけるアルツハイマー病の徴候および症状の発症が阻害される。いくつかの態様では、セレンを含む組成物を抗酸化剤と同時投与する。
本発明はまた、SEL-PLEXおよびアルツハイマー病治療薬を含む組成物を提供する。いくつかの態様では、アルツハイマー病治療薬は、NMDAアンタゴニスト、AChEインヒビター、および金属キレート剤からなる群より選択される。いくつかの態様では、NMDAアンタゴニストはメマンチンである。いくつかの態様では、AChEインヒビターはタクリン、ドネペジル、リバスチグミン、またはガランタミンである。いくつかの態様では、金属キレート剤はクリオキノールである。
本発明はまた、セレン、アルツハイマー病治療薬、および抗酸化剤を含む組成物を提供する。いくつかの態様では、セレンを含む組成物はSEL-PLEXを含む。いくつかの態様では、アルツハイマー病治療薬は、NMDAアンタゴニスト、AChEインヒビター、および金属キレート剤からなる群より選択される。
本発明はまた、Lhx8の発現が対象で増強されるような条件下または一つもしくは複数の認知機能の低下の徴候もしくは症状が軽減もしくは消失させるか、または認知機能の低下の発症もしくは進行が遅延もしくは防止されるような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を、対象に投与する工程を含む、対象(例えば、認知機能の低下に罹患している対象、認知機能の増強を望む対象、認知機能の低下の徴候、症状、または病状を示す対象、認知機能の低下の疑いのある対象、認知機能の低下のリスクがある対象(例えば、高齢の対象)、または認知機能のモデル動物)における認知機能を変化させる方法、認知機能の低下に関連する徴候または症状を軽減する方法、認知機能の低下の発症に関連する生物学的事象を予防的に防止または最小限にする方法、または認知機能の増加または低下に関連する遺伝子の遺伝子発現を変化させる(例えば、増強するか低下させる)方法を提供する。いくつかの態様では、認知機能の変化により対象の認知機能の低下が阻害される。いくつかの態様では、対象の認知機能低下を阻害する工程は、前脳基底部コリン作動性ニューロンの発達を促進する工程を含む。いくつかの態様では、対象における認知機能低下の阻害は、前脳基底部コリン作動性ニューロンの維持を含む。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物は一つまたは複数の異なるセレン形態を含む。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を抗酸化剤と同時投与する。
本発明は、さらに、TGFβ2の発現が対象で増強されるような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象における認知機能を変化させる方法を提供する。いくつかの態様では、認知機能の変化により、対象の認知機能の低下が阻害される。いくつかの態様では、対象における認知機能の低下の阻害は、対象におけるニューロン増殖の促進を含む。いくつかの態様では、ニューロン増殖は対象の小脳で起こる。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物は、一つまたは複数の他のセレン形態を含む。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を抗酸化剤と同時投与する。
本発明はまた、SEL-PLEXを含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象の認知機能低下を阻害するための予防的治療を提供する。いくつかの態様では、Lhx8の発現が対象で増強されるような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を投与する。いくつかの態様では、Lhx8発現の増強が前脳基底部コリン作動性ニューロンの発達および/または維持を促進する。いくつかの態様では、TGFβ2の発現が対象で増強されるような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を投与する。いくつかの態様では、TGFβ2発現の増強により、対象のニューロン増殖が促進される。いくつかの態様では、ニューロン増殖が対象の小脳で起こる。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物が一つまたは複数の他のセレン形態を含む。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を抗酸化剤と同時投与する。いくつかの態様では、予防的治療により、対象のアルツハイマー病の徴候および症状が防止される(例えば、その発症、再発を防止および/または改善する)。いくつかの態様では、予防的治療により、対象における多発性硬化症の徴候および症状が防止される(例えば、その発症、再発を防止および/または改善する)。いくつかの態様では、予防的治療により、対象におけるALSの徴候および症状が防止される(例えば、その発症、再発を防止および/または改善する)。いくつかの態様では、予防的治療により、対象におけるパーキンソン病の徴候および症状が防止される(例えば、その発症、再発を防止および/または改善する)。いくつかの態様では、予防的治療により、対象におけるハンチントン病の徴候および症状が防止される(例えば、その発症、再発を防止および/または改善する)。いくつかの態様では、補体遺伝子の発現が低下するような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を投与する。複数の補体遺伝子(C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、およびC1qrが含まれるが、それらに限定されない)は、本発明の組成物および方法を使用することにより減少することが証明された。
本発明は、対象に投与したセレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))の量に制限されない。実際、種々の異なる用量が本発明で有用であることが意図される。いくつかの態様では、対象に一日あたり25μg〜800μgのセレンが提供されるようにセレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する。いくつかの態様では、対象に一日あたり200μg〜400μgのセレンが提供されるようにセレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する。他の態様では、対象に一日あたり25μg〜75μgの間のセレンが提供されるようにセレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する。いくつかの態様では、対象に一日あたり25μg〜5000μgの間のセレンが提供されるように2つまたはそれ以上の異なるセレン形態(例えば、セロンメチオニン(selonmethionine)、Sod-sel、および/またはSEL-PLEX)を含む組成物を対象に投与する。
本発明はまた、年齢関連遺伝子発現(例えば、補体またはカテプシン遺伝子)が低下するような条件下または一つもしくは複数の老化(例えば、認知機能の喪失)の徴候または症状が軽減または消失させるか、老化過程の発症または進行が遅延または防止されるような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象(例えば、16歳を超える対象、25歳を超える対象、好ましくは40歳を超える対象、より好ましくは50歳を超える対象、さらにより好ましくは60歳を超える対象、または認知機能が低下しつつある対象、老化過程の徴候、症状、もしくは病状(例えば、認知機能の低下)を示す対象、老化のモデル動物、または老化過程の発症または進行を防止することを望んでいる対象)における、遺伝子(例えば、補体またはカテプシン遺伝子)の年齢関連発現を変化させる方法、年齢に関連する徴候または症状を軽減する方法、老化過程に関連する生物学的事象(例えば、認知機能の低下)を予防的に防止または最小限にする方法、または年齢の増加に相関する遺伝子の遺伝子発現を変化させる(例えば、増強または低下させる)方法を提供する。年齢と共に発現が変化する(例えば、増加する)多数の遺伝子は、本発明の組成物および方法で変化する(例えば、減少する)ことが意図され、補体遺伝子(例えば、C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、およびC1qr)、カテプシン遺伝子(例えば、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンZ、およびカテプシンO)、junbおよびホメオボックス(Hox)転写因子遺伝子が含まれるが、それらに限定されない。いくつかの態様では、対象に一日あたり200μgのセレンが提供されるようにセレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する。いくつかの態様では、対象に一日あたり25μg〜400μgの間のセレンが提供されるようにセレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物は、一つまたは複数の異なるセレン形態を含む。いくつかの態様では、一つまたは複数の異なるセレン形態は亜セレン酸ナトリウムを含む。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を、アルツハイマー病治療薬と同時投与する。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物の投与により、対象のアルツハイマー病の徴候および症状が阻害される(例えば、それらの発現、再発を予防するおよび/または改善する)。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を抗酸化剤と同時投与する。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を、神経変性疾患の予防的治療または治療的処置として対象に投与する。
いくつかの態様では、老化または老化過程を防止する(例えば、年齢関連遺伝子発現を弱める)ために、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を、カロリー制限食と組み合わせて対象に投与する。いくつかの好ましい態様では、本発明は、Lhx8発現が増強および/または上昇するような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する工程を含む、年齢に関連する認知機能を変化させる(例えば、神経回路を変化させる)方法を提供する。
本発明はまた、ニューロゲニン3(Neurog3)の発現が対象で低下するような条件または一つもしくは複数の糖尿病の徴候または症状を減少または消失させるか、糖尿病の発症または進行が遅延または防止される条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を、対象(例えば、糖尿病に罹患している対象、I型もしくはII型糖尿病を有する対象、糖尿病を有する対象、糖尿病の指標となる徴候、症状、もしくは病状を示す対象、糖尿病を有する疑いのある対象、糖尿病の指標となる徴候、症状、もしくは病状を示す疑いのある対象、糖尿病のリスクがある対象((例えば、糖尿病の家族歴もしくは遺伝的など)素因のある対象)、糖尿病の指標となる病状を示すリスクがある対象、糖尿病モデル動物、もしくは糖尿病のリスクを低下させることを望んでいる健常な対象)に投与する工程を含む、糖尿病の治療もしくは防止方法、糖尿病に関連する徴候もしくは症状を減少させる方法、糖尿病の発症もしくは進行に関連する生物学的事象を予防的に防止もしくは最小限にする方法、または糖尿病の発症もしくは進行と相関する遺伝子の遺伝子発現を低下させる方法を提供する。いくつかの態様では、治療は予防的である。本発明は、複数の糖尿病型のための組成物および方法を提供する。いくつかの態様では、本発明の組成物および方法で治療される糖尿病は、I型またはII型糖尿病である。いくつかの態様では、予防的治療により、対象の糖尿病の徴候および症状の発症が防止される。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物は、一つまたは複数の異なるセレン形態を含む。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を、糖尿病治療薬と同時投与する。複数の糖尿病治療薬を本発明の組成物および方法と共に使用することができ、バナジウム、メトホルミン、チアゾリジンジオン、TZD、中時間作用性インスリン、プロタミン含有中間型インスリン(neutral protamine Hagedorn)、NPH、長時間作用性インスリン、グラルギン、ランタス(Lantus)、インスリン、インスリンデテミル、レベミル(Levemir)、インクレチン模倣物、エクセナチド(Exenatide)、バイエッタ(Byetta)、スルホニル尿素剤、クロロプロパミド、トルブタミド、トラザミド、アセトヘキサミド、グリブリド、グリピジド、グリメピリド、メグリチニド(Meglitinide)、レパグリニド(Repaglinide)、プランジン(Prandin)、ビグアニド、メトホルミン、グルコファージ(Glucophage)、α-グルコシダーゼインヒビター、AGI、アカルボース、プレコース(Precose)、ミグリトール(Miglitol)、グリセット(Glyset)、ピオグリタゾン、アクトス(Actos)、ロシグリタゾン、アバンディア(Avandia)、アミリンアナログ、酢酸プラムリンチド(Pramlintide acetate)、およびシムリン(Symlin)が含まれるが、それらに限定されない。
本発明はまた、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物および糖尿病治療薬を提供する。
本発明はまた、以下の段階を含む、対象を処置する方法も提供する:対象と、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物とを用意する段階;およびセレンを含む組成物を投与していない対象のタウキナーゼ発現と比較して、タウキナーゼの発現が対象の脳内で低下するような条件下で、対象に組成物を投与する段階。本発明は、いずれの特定のタウキナーゼにも限定されない。いくつかの態様では、タウキナーゼはグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3-β(GSK-3β)である。いくつかの態様では、タウキナーゼはサイクリン依存性キナーゼ5(Cdk-5)である。いくつかの態様では、複数のタウキナーゼの発現は、対象において低下する。いくつかの態様において、対象は、タウオパチーを有する対象、タウオパチーの指標となる徴候もしくは症状もしくは病状を示す対象、タウオパチーの指標となる徴候もしくは症状もしくは病状を示すことが疑われる対象、タウオパチーの指標となる徴候もしくは症状もしくは病状を示すリスクがある対象、および/またはタウオパチーのリスクがある対象である。本発明は、タウオパチーの種類によって限定されない。実際、本発明の方法は、様々なタウオパチー(アルツハイマー病、ピック病(PiD)、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、嗜銀顆粒病、またはタウ遺伝子内の変異に起因する第17染色体に連鎖した家族性前頭側頭型認知症および/もしくはパーキンソン症候群(FTDP-17-タウ)を含むがこれらに限定されない)におけるタウキナーゼの発現を変化させることができる。いくつかの態様では、処置は予防的である。いくつかの態様において、タウキナーゼ(例えばGSK-3βおよび/またはCdk5)遺伝子発現は年齢に関連する。いくつかの態様において、対象の脳内でのタウキナーゼ(例えばGSK-3βおよび/またはCdk5)発現の低下は、対象の脳内のタウのリン酸化を減少する(例えば、過剰リン酸化を低減する)。いくつかの態様において、対象の脳内でタウキナーゼ(例えばGSK-3βおよび/またはCdk5)発現が低下すると、対象内の神経原線維濃縮体の存在量が低下する。いくつかの態様において、処置(例えば治療的処置および/または予防的処置)は、対象のタウオパチーの徴候および症状を阻止する(例えば、対象においてアルツハイマーの徴候および症状の発症を阻止するか、またはその存在量を減少させる)。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物は、一つまたは複数の他のセレン形態を含む。いくつかの態様では、一つまたは複数のセレン形態には亜セレン酸ナトリウムが含まれる。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を、抗酸化剤と同時投与する。いくつかの態様において、抗酸化剤は、アルキル化ジフェニルアミン、N-アルキル化フェニレンジアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、ジメチルキノリン、トリメチルジヒドロキノリン、ヒンダードフェノール類、アルキル化ヒドロキノン、ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル、アルキリデンビスフェノール、チオプロピオネート、金属ジチオカルバメート、1,3,4-ジメルカプトチアジアゾール、油溶性銅化合物、NAUGALUBE 438、NAUGALUBE 438L、NAUGALUBE 640、NAUGALUBE 635、NAUGALUBE 680、NAUGALUBE AMS、NAUGALUBE APAN、Naugard PANA、NAUGALUBE TMQ、NAUGALUBE 531、NAUGALUBE 431、NAUGALUBE BHT、NAUGALUBE 403、NAUGALUBE 420、アスコルビン酸、トコフェロール、α-トコフェロール、スルフヒドリル化合物、メタ重亜硫酸ナトリウム、N-アセチル-システイン、リポ酸、ジヒドロリポ酸、リスベラトロール、ラクトフェリン、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ポリペプチド、ブチル化ヒドロキシトルエン、レチノイド、レチノール、パルミチン酸レチニル、トコトリエノール、ユビキノン、フラボノイド、イソフラボノイド、ゲニステイン、ダイゼイン、リスベラトロール、ブドウの種、緑茶、松の樹皮、プロポリス、IRGANOX、Antigene P、SUMILIZER GA-80、β-カロテン、リコピン、ビタミンC、ビタミンE、およびビタミンAからなる群より選択される。いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を、アルツハイマー病治療薬と同時投与する。いくつかの態様では、アルツハイマー病治療薬は、NMDAアンタゴニスト、AChEインヒビター、および金属キレート剤からなる群より選択される。いくつかの態様では、NMDAアンタゴニストはメマンチンである。いくつかの態様では、AChEインヒビターは、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、またはガランタミンである。いくつかの態様では、金属キレート剤はクリオキノールである。いくつかの態様では、クリオキノールは亜鉛および銅をキレート化する。
本発明はまた、対象の乳汁産生を増加する方法を提供し、本方法は、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物を対象に投与する段階を含む。いくつかの態様では、セレンはSEL-PLEXである。いくつかの態様において、対象はウシである。しかし、本発明は、ウシに限定されない。実際、ヤギおよびヒツギを含むがこれらに限定されない乳汁を産生するどの哺乳動物も、本発明の組成物および方法から利益を得る可能性がある。いくつかの態様において、対象内で糖質およびエネルギー代謝が増大するような条件下で、セレンを投与する。いくつかの態様において、糖質およびエネルギー代謝が増大すると、より多くのエネルギーが対象内の乳汁産生プロセスに供給される。
本発明はまた、以下の段階を含む、対象を処置する方法も提供する:対象と、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物とを用意する段階;およびセレンを含む組成物を投与していない対象のGadd45b発現と比較して、Gadd45bの発現が対象において低下するような条件下で、対象に組成物を投与する段階。いくつかの態様において、対象のストレス(例えば酸化ストレス、代謝ストレス、DNA損傷、および/または細胞ストレス)を減少させることで、Gadd45bの発現は低下する。いくつかの態様において、Gadd45b発現は、脳以外の組織内で下方制御される。いくつかの態様では、Gadd45bの発現は、対象の二つまたはそれ以上の組織内で低下する。いくつかの態様では、二つまたはそれ以上の組織は、大脳皮質組織、肝臓組織、腸組織、および骨格筋組織を含む群より選択される。いくつかの態様では、対象において、肝臓組織特異的および骨格筋組織特異的Gadd45b遺伝子発現が1/2の低下より大きく低下する。いくつかの態様では、Gadd45bの発現は、対象の大脳皮質組織内ならびに大脳皮質以外の1つまたは複数の組織内で低下する。いくつかの態様では、大脳皮質以外の1つまたは複数の組織は、肝臓組織、腸組織、および骨格筋組織を含む群より選択される。いくつかの態様では、セレンを含む組成物には、SEL-PLEXが含まれる。いくつかの態様において、大脳皮質組織、肝臓組織、腸組織、および骨格筋組織内で、Gadd45bの発現は低下する。いくつかの態様において、組織内での発現は、1/1低下するかまたはそれより大きく低下する。いくつかの態様では、セレンを含む組成物を抗酸化剤と同時投与する。
定義
本明細書中で使用される、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」は、全て、共有結合性「ペプチド結合」によって連結したアミノ酸の一次配列をいう。一般に、ペプチドは、数個のアミノ酸、典型的には2〜50個のアミノ酸からなり、タンパク質より短い。用語「ペプチド」は、ペプチドおよびタンパク質を含む。いくつかの態様では、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質は合成であり、他の態様では、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質は組換えまたは天然に存在する。合成ペプチドは、人為的手段によってインビトロで産生された(すなわち、インビボで産生されていない)ペプチドである。
用語「試料」および「標本」は、その最も広い意味で使用し、任意の供給源から得た試料または標本を含む。本明細書中で使用される、用語「試料」は、動物(ヒトを含む)から得た生体試料をいうために使用し、流体、固体、組織、および気体を含む。本発明のいくつかの態様では、生体試料には、脳脊髄液(CSF)、漿液、尿、唾液、血液、ならびに血漿および血清などの血液製剤が含まれる。しかし、これらの例は、本発明で使用される試料型を制限すると解釈すべきではない。
本明細書中で使用される、用語「セレン強化酵母」および「セレン化酵母」は、無機セレン塩を含む培地で培養した任意の酵母(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))をいう。本発明は、使用したセレン塩に制限されない。実際、種々のセレン塩が本発明で有用であることが意図され、亜セレン酸ナトリウム、セレン酸ナトリウム、亜セレン酸コバルト、またはセレン酸コバルトが含まれるが、それらに限定されない。遊離セレノメチオニン(例えば、細胞または酵母に結合しない)は、酵母はこのセレン形態を組み込まないので、セレン強化酵母のセレン供給源として使用することもできる。培養中、セレンと硫黄との化学的類似性のために、酵母は、通常は細胞内に硫黄含有有機化合物として含まれる硫黄の代わりにセレンを組み込む。このような酵母調製物中のセレン含有化合物は、ポリペプチド/タンパク質に組み込まれた形態で存在するセレノメチオニンである。このような調製物中にセレノメチオニン形態で存在する総細胞セレン量は様々であるが、10%〜100%の間、20%〜60%、50%〜70%、および60%〜75%の間であり得る。セレン化酵母調製物中の有機セレンの残りは、セレノメチオニン生合成経路における中間体から主に構成されている。これらには、セレノシステイン、セレノシスタチオニン、セレノホモシステイン、およびセレノ-アデノシルセレノメチオニンが含まれるが、それらに限定されない。最終生成物中の残存無機セレン量は、一般に、非常に少ない(例えば、<2%)。しかし、この比率より高く(例えば、2%〜70%の間)または低く(例えば、0.1%〜2%の間)含む調製物も本発明に含まれるので、本発明はこの比率に制限されない。
本明細書中で使用される、用語「SEL-PLEX」は、酵母の成長速度に対するセレン塩の悪影響を最小限にし、無機セレンを細胞の有機物質に最適に組み込ませることができるように漸増量のサトウキビ糖蜜およびセレン塩を提供する流加培養法で培養した、乾燥させた生育不能なセレン強化酵母(例えば、アクセッション番号CNCM I-3060のサッカロミセス・セレビシエ、Collection Nationale De Cultures De Microorganismes (CNCM), Institut Pasteur, Paris, France)をいう。残存無機セレンは除去し(例えば、厳密な洗浄プロセスを使用して)、総セレン含有量の2%を超えない。
本明細書中で使用される、用語「有機セレン」は、硫黄がセレンに置換された任意の有機化合物をいう。したがって、有機セレンは、酵母によって生合成された任意のこのような化合物をいうことができるか、または化学合成された遊離有機セレン含有化合物をいうことができる。後者の例は、遊離セレノメチオニンである。
本明細書中で使用される、用語「無機セレン」は、一般に、任意のセレン塩(例えば、亜セレン酸ナトリウム、セレン酸ナトリウム、亜セレン酸コバルト、およびセレン酸コバルト)をいう。種々の他の無機セレン供給源も存在する(例えば、Merck index中に列挙されているものを参照のこと)。無機セレン供給源を使用してセレン化酵母を生成することができ、亜セレン酸ナトリウム、セレン酸ナトリウム、亜セレン酸コバルト、セレン酸コバルト、セレン酸、亜セレン酸、臭化セレン、塩化セレン、六フッ化セレン、酸化セレン、オキシ臭化セレン、オキシ塩化セレン、オキシフッ化セレン、硫化セレン、四臭化セレン、四塩化セレン、および四フッ化セレンが含まれるが、それらに限定されない。
本明細書中で使用される、用語「β-アミロイドタンパク質」は、膜貫通アミロイド前駆体タンパク質(APP)にタンパク質分解的に由来するタンパク質またはペプチドをいう。β-アミロイドタンパク質は、可溶性非線維性オリゴマーアミロイドβタンパク質集合体(assembly)(例えば、オリゴマーアミロイドβタンパク質集合体またはオリゴマー集合体)を形成することができ、一般に、2〜12個のβ-アミロイドタンパク質またはペプチドを含む。β-アミロイドタンパク質は、一般に12個より多くのβ-アミロイドタンパク質またはペプチドを含む繊維状集合体を形成することもできる。β-アミロイドタンパク質(例えば、個別または上記構造中で見出される)は、アルツハイマー病の特性の1つである斑形成に関与する。
本明細書中で使用される、用語「酸化ストレス」は、例えば、分子酸素を利用する代謝過程の副産物として生成される、酸素ラジカル(例えば、スーパーオキシド陰イオン(O2 -)、ヒドロキシラジカル(OH)、および過酸化水素(H2O2))の細胞傷害効果をいう(例えば、Coyle et al., Science 262:689-695 (1993)を参照のこと)。
本明細書中で使用される、用語「宿主」、「対象」、および「患者」は、研究、分析、試験、診断、または治療される任意の動物をいい、ヒトおよび非ヒト動物(例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、家禽類、魚類、甲殻類など)が含まれるが、それらに限定されない。本明細書中で使用される、用語「宿主」、「対象」、および「患者」は、特に示さない限り、交換可能に使用される。
本明細書中で使用される、用語「アルツハイマー病」および「AD」は、神経変性障害をいい、家族性アルツハイマー病および散発性アルツハイマー病を含む。用語「家族性アルツハイマー病」は、遺伝因子(すなわち、遺伝を示す)に関連するアルツハイマー病をいい、「散発性アルツハイマー病」は以前の疾患の家族歴に関連しないアルツハイマー病をいう。ヒト対象におけるアルツハイマー病の指標となる症状には、典型的には、軽度から重度の痴呆、進行性の記憶障害(軽度の物忘れから見当識障害および重度の記憶喪失)、視空間能力の低下、人格の変化、衝動調節能力の低下、判断の低下、他人への不信、頑固の増加、情動不安、計画力低下、意思決定の低下、および社会的引き籠もりが含まれるが、それらに限定されない。重症の場合、患者は言語の使用能力および伝達能力を喪失し、個人の衛生、食事、および着替えに補助を必要とし、最終的に寝たきりになる。脳組織内の特徴的な病状には、細胞外神経炎性β-アミロイド斑、神経原線維変化、神経原線維変性、顆粒空胞神経変性、シナプス脱落、および広範な神経細胞死が含まれる。
本明細書中で使用される、用語「早期発症アルツハイマー病」は、65歳以前で発症したと診断されるアルツハイマー病の症例診断で使用される分類をいう。本明細書中で使用される、用語「遅発性アルツハイマー病」は、65歳以降で発症したと診断されるアルツハイマー病の症例診断で使用される分類をいう。
本明細書中で使用される、用語「アルツハイマー病を有する対象」または「アルツハイマー病の指標となる徴候、症状、または病状を示す対象」、または「アルツハイマー病の指標となる徴候、症状、または病状を示す疑いのある対象」は、公知のアルツハイマー病の徴候、症状、および病状に基づいてアルツハイマー病を有するか有する可能性が高いと同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「アルツハイマー病の指標となる病状を示すリスクのある対象」および「アルツハイマー病のリスクのある対象」は、(例えば、対象の家族におけるアルツハイマー病の年齢または家族型遺伝パターンに起因する)アルツハイマー病発症のリスクがあると同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「アルツハイマー病治療薬」は、アルツハイマー病を治療または防止するために使用される薬剤をいう。このような薬剤には、小分子、薬物、抗体、および医薬品などが含まれるが、それらに限定されない。例えば、アルツハイマー病を治療するために使用される治療薬には、NMDAアンタゴニスト(例えば、メマンチン)およびAChEインヒビター(例えば、タクリン(Cognex)、ドネペジル(Aricept)、リバスチグミン(Exelon)、およびガランタミン(Reminyl)が含まれるが、それらに限定されない。
本明細書中で使用される、用語「タウオパチーを有する対象」または「タウオパチーの指標となる徴候または症状または病状を示す対象」または「タウオパチーの指標となる徴候または症状または病状を示すことが疑われる対象」とは、タウオパチーの公知の徴候、症状、または病状に基づいて、1つまたは複数のタウオパチー(例えば、ピック病(PiD)、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、嗜銀顆粒病、ならびにタウ遺伝子内の変異に起因する第17染色体に連鎖した家族性前頭側頭型認知症およびパーキンソン症候群(FTDP-17-タウ)を含むがこれらに限定されない。例えばLee et al., (2001) Annu. Rev. Neurosci. 24, 1121-1159; Iqbal et al., (2005) Biochim. Biophys. Acta 1739, 198-210を参照されたい(例えば、神経原線維変性により組織病理学的に特徴付けられる))を有するまたは有する可能性があるとして特定された対象を指す。
本明細書中で使用される、用語「タウオパチーの指標となる病状を示すリスクがある対象」および「タウオパチーのリスクがある対象」とは、タウオパチーを発症するリスクがあるとして特定された対象を指す(例えば、年齢または対象の家族内の疾患の家族性遺伝形質パターンに起因する)。
本明細書中で使用される、用語「病変」は、創傷もしくは損傷または組織内の病理学的変化をいう。例えば、アルツハイマー病を有する患者の脳内で認められるβ-アミロイド斑病変は、この疾患の特徴的な病理学的特徴とみなされる。
本明細書中で使用される、用語「筋萎縮性側索硬化症」および「ALS」は、進行性の筋力低下および萎縮を引き起こす脊髄および脳神経運動核(motor cranial nuclei)の前角細胞の破壊的障害として特徴づけられる、神経変性障害をいう。ヒトにおけるALSの指標となる症状には、一般的に軽度から重度の延髄筋の筋力低下、一つまたは複数の肢筋群(例えば、両側または対称性)の肢筋の筋力低下、前腕筋および上肢帯筋および下肢に関連して進行する内因性の手の筋肉の筋力低下および萎縮が含まれるが、それらに限定されない。上位および下位運動ニューロンの関連が特徴的である。患者は種々の反射異常亢進、クローヌス、痙縮、伸展性足底反応、および肢または舌の線維束形成を発症する。錐体路および皮質延髄路のワーラー変性を、MRI(前頭葉の高強度T2損傷)または剖検によって証明することができる。
本明細書中で使用される、用語「ALSを有する対象」、「ALSの指標となる徴候、症状、または病状を示す対象」、または「ALSの指標となる徴候、症状、または病状を示す疑いのある対象」は、公知のALSの徴候、症状、および病状に基づいてALSを有するか有する可能性が高いと同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「ALSの指標となる病状を示すリスクのある対象」および「ALSのリスクのある対象」は、(例えば、対象の家族におけるALSの年齢または家族型遺伝パターンに起因する)ALS発症のリスクがあると同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「ALS治療薬」は、ALSを治療または防止するために使用される薬剤をいう。このような薬剤には、小分子、薬物、抗体、および医薬品などが含まれるが、それらに限定されない。例えば、ALSを治療するために使用される治療薬には、リルゾール(Riluzole)、バクロフェン(Baclofen)(リオレサール(Lioresal))、およびチザニジン(Tizanidine)(ザナフレックス(Zanaflex))が含まれるが、それらに限定されない。
本明細書中で使用される、用語「ハンチントン病」および「HD」は、大脳基底核および皮質中のニューロンの特定のサブセット内の細胞喪失に関連する、成人発症常染色体優性遺伝性障害である神経変性障害をいう。HDの特徴には、不随意運動(例えば、舞踏病(度を超え、自発的に運動し、不規則に発症し、無作為に分散し、不意な状態)がHDの特徴である)、痴呆、および挙動の変化が含まれる。HDにおける神経病理学的性質は新線条体内で起こり、そこでは選択的なニューロンの脱落およびアストログリオーシスに付随して尾状核および被殻の著しい萎縮が起こる。顕著なニューロンの脱落は、大脳皮質の深層でも認められる。他の領域(淡蒼球、視床、視床下核、黒質、および小脳を含む)では、病期に依存して萎縮の程度が変化する。
本明細書中で使用される、用語「HDを有する対象」、「HDの指標となる徴候、症状、または病状を示す対象」、または「HDの指標となる徴候、症状、または病状を示す疑いのある対象」は、公知のHDの徴候、症状、および病状に基づいてHDを有するか有する可能性が高いと同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「HDの指標となる病状を示すリスクのある対象」および「HDのリスクのある対象」は、(例えば、対象の家族におけるHDの年齢または家族型遺伝パターンに起因する)HD発症のリスクがあると同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「HD治療薬」は、HDを治療または防止するために使用される薬剤をいう。このような薬剤には、小分子、薬物、抗体、および医薬品などが含まれるが、それらに限定されない。例えば、HDを治療するために使用される治療薬には、バルプロ酸(例えば、デパコテ(Depakote)、デパケン(Depakene)、およびデパコン(Depacon))、クロナゼパムなどのベンゾジアゼピン(例えば、クロノピン(Klonopin))、抗精神病薬(例えば、リスペリドン(例えば、リスパダール(Risperdal))およびハロペリドール(例えば、ハルドール(Haldol))、ラウオルフィアアルカロイド(例えば、レスペリン(resperine))、および抗鬱薬(例えば、パロキセチン(例えば、パキシル(Paxil))が含まれるが、それらに限定されない。
本明細書中で使用される、用語「パーキンソン病」および「PD」は、ドーパミン作動性黒質線条体ニューロンの脱落に関連する進行性神経変性障害である神経変性障害をいう。PDの特徴には、黒質中の色素性ドーパミン作動性ニューロンの脱落およびレヴィ小体の存在が含まれる。
本明細書中で使用される、用語「PDを有する対象」、「PDの指標となる徴候、症状、または病状を示す対象」、または「PDの指標となる徴候、症状、または病状を示す疑いのある対象」は、公知のPDの徴候、症状、および病状に基づいてPDを有するか有する可能性が高いと同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「PDの指標となる病状を示すリスクのある対象」および「PDのリスクのある対象」は、(例えば、対象の家族におけるPDの年齢または家族型遺伝パターンに起因する)PD発症のリスクがあると同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「PD治療薬」は、PDを治療または防止するために使用される薬剤をいう。このような薬剤には、小分子、薬物、抗体、および医薬品などが含まれるが、それらに限定されない。例えば、PDを治療するために使用される治療薬には、レボドパ/PDIおよびレボドパ/カルビドパ(例えば、シネメット(Sinemet)、シネメット CR)などのドーパミンプロドラッグ、アポモルヒネ(例えば、エイポキン(Apokyn))、ブロモクリプチン(例えば、パーロデル(Parlodel))、ペルゴリド(例えば、ペルマックス(Permax))、プラミペキソール(例えば、ミラペックス(Mirapex))、およびロピニロール(例えば、レキップ(Requip))などのドーパミンアゴニスト、トルカポン(例えば、タスマー(Tasmar))およびエンタカポン(例えば、コムタン(Comtan))などのカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)インヒビター、トリヘキシフェニジル(例えば、アーテン(Artane)、トリヘキシ(Trihexy))、およびベンズトロピンメシレート(例えば、コジェンティン(Cogentin))などの抗コリン作動薬、セレギリン(例えば、エルデプリル(Eldepryl))およびアマンタジン(例えば、シンメトレル(Symmetrel))などのMAO-Bインヒビターが含まれるが、それらに限定されない。
本明細書中で使用される、用語「多発性硬化症」および「MS」は、中枢神経系(CNS)の炎症性脱髄性疾患である神経変性障害をいう。単球およびリンパ球の血管周囲浸潤によって特徴づけられるMS病変は、病理組織標本中の硬化領域(用語「斑の硬化症」)として出現する。MSの特徴には、脳、脳幹、視神経、および脊髄の実質中のリンパ球およびマクロファージの細静脈周囲(perivenular)の浸潤、ほとんど絶え間ない病変形成、ならびに身体障害につながる進行性臨床経過が含まれる。
本明細書中で使用される、用語「MSを有する対象」、「MSの指標となる徴候、症状、または病状を示す対象」、または「MSの指標となる徴候、症状、または病状を示す疑いのある対象」は、公知のMSの徴候、症状、および病状に基づいてMSを有するか有する可能性が高いと同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「MSの指標となる病状を示すリスクのある対象」および「MSのリスクのある対象」は、MS発症のリスクがあると同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「MS治療薬」は、MSを治療または防止するために使用される薬剤をいう。このような薬剤には、小分子、薬物、抗体、および医薬品などが含まれるが、それらに限定されない。例えば、MSを治療するために使用される治療薬には、免疫調節薬(例えば、インターフェロンβ-1a(Avonex)、インターフェロンβ-1a(Rebif)、インターフェロンβ-1b(Betaseron)、酢酸グラチラマー(Copaxone)、およびナタリズマブ(Tysabri))、コルチコステロイド(例えば、メチルプレドニゾロン)、ならびに免疫抑制薬(例えば、ミトキサントロン(Novantrone)、シクロホスファミド(Cytoxan、Neosar))、アザチオプリン(IMURAN)、メトトレキセート(Rheumatrex)が含まれるが、それらに限定されない。
本明細書中で使用される、用語「糖尿病」は、膵島細胞の壊死およびインスリン分泌の欠如によって特徴づけられる自己免疫疾患をいう。例えば、1型糖尿病患者はインスリン依存性である。糖尿病の特性には、様々な重症度のインスリン分泌欠損を有する末梢インスリン耐性、ならびに低血糖症および高血糖症、感染症リスクの増加、微小管合併症(例えば、網膜症、腎症)、神経障害性合併症、および大血管性疾患を含む合併症が含まれる。
本明細書中で使用される、用語「糖尿病を有する対象」、「糖尿病の指標となる徴候、症状、または病状を示す対象」、または「糖尿病の指標となる徴候、症状、または病状を示す疑いのある対象」は、公知の糖尿病の徴候、症状、および病状に基づいて糖尿病を有するか有する可能性が高いと同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「糖尿病の指標となる病状を示すリスクのある対象」および「糖尿病のリスクのある対象」は、(例えば、対象の家族における糖尿病の年齢、体重、人種、または家族型遺伝パターンによる)糖尿病発症のリスクがあると同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「糖尿病治療薬」は、糖尿病を治療または防止するために使用される薬剤をいう。このような薬剤には、小分子、薬物、抗体、および医薬品などが含まれるが、それらに限定されない。例えば、糖尿病を治療するために使用される治療薬には、インスリン感受性を増加させるための経口薬(例えば、メトホルミン、チアゾリジンジオン(TZD))、中時間作用性インスリン(例えば、プロタミン含有中間型インスリン (NPH))、長時間作用性インスリン(例えば、グラルギン(ランタス)インスリン、インスリンデテミル(レベミル))、インクレチン模倣物(例えば、エクセナチド(バイエッタ))、スルホニル尿素剤(例えば、クロロプロパミド、トルブタミド、トラザミド、アセトヘキサミド、グリブリド、グリピジド、およびグリメピリド)、メグリチニド(例えば、レパグリニド(プランジン))、ビグアニド(例えば、メトホルミン(グルコファージ))、α-グルコースインヒビター(AGI)(例えば、アカルボース(プレコース)、ミグリトール(グリセット))、チアゾリジンジオン(例えば、ピオグリタゾン(アクトス)、ロシグリタゾン(アバンディア)およびアミリンアナログ(例えば、酢酸プラムリンチド(シムリン))が含まれるが、それらに限定されない。
本明細書中で使用される、用語「卒中の指標となる病状を示すリスクのある対象」および「卒中のリスクのある対象」は、(例えば、対象の家族における卒中の年齢、体重、人種、または家族型遺伝パターンによる)卒中発症のリスクがあると同定された対象をいう。
本明細書中で使用される、用語「認知機能」は、一般に、思考能力、論理的能力、集中力、または記憶能力をいう。したがって、用語「認知機能の低下」は、思考能力、論理的能力、集中力、または記憶能力の欠如の悪化をいう。
本明細書中で使用される、用語「抗体」は、抗原決定基に特異的に結合し、その産生を刺激した抗原決定基と同一か構造的に関連したタンパク質に特異的に結合する任意の免疫グロブリンをいう。したがって、抗体は、その産生を刺激した抗原を検出するためのアッセイで有用であり得る。モノクローナル抗体は、Bリンパ球(すなわち、B細胞)の単一クローンに由来し、一般に、構造および抗原特異性が均一である。ポリクローナル抗体は、多数の異なる抗体産生細胞クローンに由来するので、その構造およびエピトープ特異性が不均一であるが、全て同一抗原を認識する。いくつかの態様では、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を粗調製物として使用する一方、好ましい態様では、これらの抗体を精製する。例えば、いくつかの態様では、粗抗血清中に含まれるポリクローナル抗体を使用する。また、用語「抗体」は、任意の供給源(例えば、ヒト、げっ歯類、非ヒト霊長類、ウサギ、ヤギ、ウシ、ウマ、ヒツジなど)から得た任意の免疫グロブリン(例えば、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDなど)を含むことが意図される。
本明細書中で使用される、用語「自己抗体」は、抗体を産生した宿主生物に生得の抗原(すなわち、抗原は、「自己」抗原に向けられる)に特異的に結合する任意の免疫グロブリンをいう。自己抗体が存在することを、本明細書中では「自己免疫」という。
本明細書中で使用される、用語「抗原」を、抗体によって認識されうる任意の物質に関して使用する。この用語は、任意の抗原および「免疫原」(すなわち、抗体形成を誘導する物質)を含むことが意図される。したがって、免疫原性反応では、抗原または抗原の一部の存在に応答して抗体が産生される。用語「抗原」および「免疫原」を、各高分子または抗原性高分子の均一もしくは不均一な集団をいうために使用する。用語「抗原」および「免疫原」は、一つまたは複数のエピトープを含むタンパク質分子またはタンパク質分子の一部を包含することが意図される。多くの場合、抗原は、免疫原でもあるので、用語「抗原」はしばしば「免疫原」と交換可能に使用される。いくつかの好ましい態様では、免疫原性物質を、免疫化動物の血清中において適切な抗体の存在を検出するためのアッセイにおける抗原として使用する。
本明細書中で使用される、用語「抗原断片」および「抗原の一部」などを、抗原の一部に関して使用する。抗原断片または一部は、典型的には、全抗原の一部から大部分までであるが、100%ではないサイズ範囲である。しかし、抗原の「少なくとも一部」が特定されている状況では、全抗原も存在することが意図される(例えば、被験試料は抗原の一部のみを含むことを意図しない)。いくつかの態様では、抗原断片および/またはその一部は抗体によって認識される「エピトープ」を含むが、他の態様では、これらの断片および/または一部は抗体によって認識されるエピトープを含まない。さらに、いくつかの態様では、抗原断片および/または一部は免疫原性ではないが、好ましい態様では、抗原断片および/または一部は免疫原性である。
本明細書中で使用される、用語「抗原決定基」および「エピトープ」は、特定の抗体可変領域と接触する抗原の一部をいう。タンパク質またはタンパク質の断片(一部)を宿主動物を免疫化するために使用する場合、タンパク質の多数の領域はタンパク質上の所与の領域または三次元構造(これらの領域および/または構造を、「抗原決定基」という)に特異的に結合する抗体の産生を誘導する可能性が高い。いくつかの状況では、抗原決定基は、抗体との結合に関して無傷な抗原(すなわち、免疫応答を誘発するために使用される「免疫原」)と競合する。
抗体と抗原の間の相互作用に関して使用する場合、用語「特異的結合」および「特定基に結合する」は、抗原上の特定の構造(すなわち、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存する相互作用を説明する。言い換えれば、抗体は、一般に全タンパク質への結合(すなわち、非特異的結合)よりもむしろ抗原に固有のタンパク質構造を認識して結合する。
本明細書中で使用される、用語「免疫測定法」は、抗原の検出または定量のために少なくとも1つの特異的抗原を使用する任意のアッセイ法をいう。免疫測定法には、ウェスタンブロット、ELISA、放射性免疫測定法、および免疫蛍光法が含まれるが、それらに限定されない。
用語「ウェスタンブロット」、「ウェスタン免疫ブロット」、「免疫ブロット」、および「ウェスタン」は、膜支持体上に固定されたタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの免疫学的分析をいう。タンパク質を分離するためのポリアクリルアミドゲル電気泳動(すなわち、SDS-PAGE)によってタンパク質を最初に分離し、その後にタンパク質をゲルからニトロセルロースまたはナイロンメンブレンなどの固体支持体に移す。次いで、固定タンパク質を、関心対象の抗原に対して反応性を有する抗体に曝露する。抗体(すなわち、一次抗体)の結合を、一次抗体に特異的に結合する二次抗体の使用によって検出する。二次抗体を、典型的には、着色した反応生成物の産生によって抗原-抗体複合体を視覚化させるか発光酵素反応(例えば、ECL試薬、Amersham)を触媒する酵素に結合する。
本明細書中で使用される、用語「ELISA」は、酵素結合免疫吸着法(またはEIA)をいう。多数のELISA法および応用が当技術分野において公知であり、多数の参考文献に記載されている(例えば、Crowther, 「Enzyme-Linked Immunosorbent Assay (ELISA)」, in Molecular Biomethods Handbook, Rapley et al. (eds.), pp. 595-617, Humana Press, Inc., Totowa, N.J. (1998); Harlow and Lane (eds.), Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1988); Ausubel et al. (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, Ch. 11, John Wiley & Sons, Inc., New York (1994)を参照のこと)。さらに、多数の市販のELISA試験システムが存在する。
本明細書中で使用される、用語「レポーター試薬」、「レポーター分子」、「検出基質」、および「検出試薬」を、抗原に結合した抗体を検出および/または定量することができる試薬に関して使用する。例えば、いくつかの態様では、レポーター試薬は、抗体に結合した酵素の比色基質である。抗体-酵素複合体への適切な基質の添加により、比色または蛍光定量的シグナルが得られる(例えば、関心対象の抗原への複合抗体の結合後)。他のレポーター試薬には、放射性化合物が含まれるが、それらに限定されない。この定義は、検出システムの一部としてビオチンおよびアビジンに基づく化合物(例えば、ニュートラビジンおよびストレプトアビジンが含まれるが、それらに限定されない)の使用も含む。
本明細書中で使用される、用語「シグナル」は、一般に、反応(例えば、抗原への抗体の結合)が起こったこと示す任意の検出可能なプロセスに関して使用する。放射性、蛍光定量的、または比色生成物/試薬の形態のシグナルを本発明で適用することが意図される。本発明の種々の態様では、シグナルを定性的に評価するが、別の態様では、シグナルを定量的に評価する。
本明細書中で使用される、用語「固体支持体」は、抗体、抗原、および他の被験成分などの試薬が結合する、任意の固体または固定された物質に関して使用する。例えば、ELISA法では、マイクロタイタープレートのウェルにより、固体支持体が得られる。固体支持体の他の例には、顕微鏡スライド、カバーガラス、ビーズ、粒子、細胞培養フラスコ、および多くの他の適切な要素が含まれる。
本明細書中で使用される、用語「対象中における組織の特徴づけ」は、組織試料の一つまたは複数の性質の同定をいう。いくつかの態様では、本明細書中に詳述の種々の遺伝子の発現またはその欠如の同定によって組織を特徴づける。
本明細書中で使用される、用語「遺伝子発現を特異的に検出することができる試薬」は、本明細書中に詳述の種々の遺伝子(例えば、SelW、Sepn1、SelR、Sod2、Dio2、Glo1、Phb、Lhx8、TGF-β32、Neurog3、Spry2、Gstt2、Gstt1、Gsta3、Gsta4、Gstm1、Gstm2またはGstm3、Clq、Clqα、Clqβ、Clqγ、CORS-26、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンZ、カテプシンO、ニカストリン、プレセニリン1、プレセニリン2、カルセニリン、Apbbl/Fe65、Aplp1、Apbal、Gstpl、Gstzl、Gstm7、Gadd45glp、Gadd45bが含まれるが、それらに限定されない)の発現を検出することができるかまたは検出に十分な試薬をいう。適切な試薬の例には、mRNAまたはcDNAと特異的にハイブリダイズすることができる核酸プローブおよび抗体(例えば、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体)が含まれるが、それらに限定されない。
本明細書中で使用される、用語「有効量」は、有利または望ましい結果を得るのに十分な組成物(例えば、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む)の量をいう。一つまたは複数の投与、適用、または用量で有効量を投与することができ、特定の処方または投与経路に制限されないことが意図される。
本明細書中で使用される、用語「投与」および「投与する工程」は、対象(例えば、対象、インビボ、インビトロ、エクスビボ細胞、組織、および器官)に薬物、プロドラッグ、もしくは他の薬剤、または治療的処置(例えば、本発明の組成物)を付与する行為をいう。ヒトの身体への例示的な投与経路は、眼(眼内)、口(経口)、皮膚(局所または経皮)、鼻(鼻腔内)、肺(吸入)、口腔粘膜(口腔内)、耳、直腸、膣、および注射(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内など)などであり得る。
本明細書中で使用される、用語「同時投与」および「同時投与する工程」は、対象への少なくとも2つの薬剤(例えば、SEL-PLEXおよび一つまたは複数の他の薬剤(例えば、アルツハイマー病治療薬)または第2のセレン形態を含む組成物)または療法の投与をいう。いくつかの態様では、2つまたはそれ以上の薬剤または療法の同時投与は平行して行われる。他の態様では、第一の薬剤/療法は第二の薬剤/治療薬前に投与される。当業者は、種々の使用薬剤または治療薬の処方および/または投与経路を変化させることができることを理解している。当業者は、同時投与のための適切な用量を容易に決定することができる。いくつかの態様では、薬剤または治療薬を同時投与した場合、各薬剤または治療薬を、その単独投与に適切な用量よりも低い用量で投与する。したがって、同時投与は、薬剤または治療薬の同時投与により、潜在的に有害な(例えば、毒性の)薬剤の必要な用量が低下し、かつ/または2つまたはそれ以上の薬剤の同時投与により他の薬剤の同時投与を介して1つの薬剤の有益な効果に対する対象の感度が増す態様において、特に望ましい。
本明細書中で使用される、用語「治療」または文法上の等価物は、疾患(例えば、神経変性疾患)の症状の改善および/または逆転を含む。本発明のスクリーニング法で使用することができる場合、疾患に関連する任意のパラメータを改善する化合物を、治療化合物として同定することができる。用語「治療」は、治療的処置および予防的または防止的手段両方をいう。例えば、本発明の組成物および方法を使用した治療から利益を受けることができる者には、疾患および/または障害(例えば、神経変性疾患、糖尿病または認知機能の欠如もしくは喪失)を既に有する者、ならびに(例えば、本発明の予防的治療を使用して)疾患および/または障害を防止すべき者が含まれる。
本明細書中で使用される、用語「疾患のリスクがある」は、特定の疾患を経験する素因を有する対象(例えば、ヒト)をいう。この素因は、遺伝的(例えば、遺伝性障害などの疾患を経験する特定の遺伝的傾向)であるか、他の要因(例えば、年齢、体重、環境条件、環境中に存在する有害化合物への曝露など)に起因し得る。したがって、本発明はいかなる特定のリスクにも限定されないことが意図され、かつ本発明は任意の特定の疾患に制限されないことが意図される。
本明細書中で使用される、用語「疾患に罹患している」は、特定の疾患を経験している対象(例えば、ヒト)をいう。本発明はいかなる特定の徴候または症状や疾患にも制限されないことが意図される。したがって、本発明は、任意の範囲の疾患(例えば、ほぼ無症状から完全に症状のでている疾患まで)を経験している対象を含むことが意図され、対象は特定の疾患に関連する少なくともいくつかの証拠(例えば、徴候および症状)を示す。
本明細書中で使用される、用語「疾患」および「病的状態」は、正常な機能の実施を妨害または改変し、環境要因(栄養失調、工業災害、または気候など)、特定の感染体(蠕虫、細菌、またはウイルスなど)、生物の固有の欠損(種々の遺伝的異常など)、またはこれらおよび他の要因の組み合わせに応答し得る、生きた動物または任意のその器官もしくは組織の正常な状態の任意の障害に関連する状態、徴候、および/または症状を説明するために交換可能に使用される。
用語「化合物」は、疾患、疾病、病気、または身体機能の障害を治療または防止するために使用することができる、任意の化学物質、医薬品、および薬物などをいう。化合物は、公知および潜在的な治療化合物を含む。本発明のスクリーニング方法を使用したスクリーニングによって、化合物が治療的であるかどうかを決定することができる。「公知の治療化合物」は、(例えば、動物試験またはヒトへ投与した以前の経験によって)このような治療で有効であることが示された治療化合物をいう。言い換えれば、公知の治療化合物は、疾患(例えば、神経変性疾患)の治療で有効な化合物に制限されない。
本明細書中で使用される、用語「キット」は、試薬と他の物質との組み合わせに関して使用する。キットは栄養素および薬物などの試薬ならびに投与手段を含み得ることが意図される。用語「キット」は試薬および/または他の物質との特定の組み合わせに制限されないことが意図される。
本明細書中で使用される、用語「毒性の」は、毒物の投与前の細胞または組織と比較して、対象、細胞、または組織に対する任意の不利益な効果または有害な影響をいう。
本明細書中で使用される、用語「薬学的組成物」は、活性成分(例えば、SEL-PLEXを含む組成物)と、組成物をインビトロ、インビボ、またはエクスビボでの診断または治療上の使用に特に適切にするキャリア(不活性または活性)との組み合わせをいう。
本明細書中で使用される、用語「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」は、対象に投与した場合に、実質的に有害反応(例えば、毒性、アレルギー性)または免疫学的反応を示さない組成物をいう。
本明細書中で使用される、用語「局所的に」は、皮膚および粘膜細胞の表面、および組織(例えば、肺胞、口腔、舌下、咀嚼器官、または鼻粘膜、ならびに中空器官または体腔の内側を覆う他の組織および細胞)への本発明の組成物の適用をいう。
本明細書中で使用される、用語「薬学的に許容されるキャリア」は、任意の標準的な薬学的キャリア(リン酸緩衝生理食塩水、水、乳濁液(例えば、油/水乳濁液または水/油乳濁液など)、種々の型の湿潤剤、任意および全ての溶剤、分散媒、コーティング、ラウリル硫酸ナトリウム、等張剤、吸収遅延剤、崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム)などが含まれるが、それらに限定されない)をいう。組成物は、安定剤および防腐剤も含み得る。キャリアの例としては、安定剤およびアジュバントである(例えば、Martin, Remington's Pharmaceutical Sciences, 15th Ed.,Mack Publ. Co., Easton, Pa. (1975)(参照により本明細書に組み入れられる)を参照のこと)。
本明細書中で使用される、用語「薬学的に許容される塩」は、標的対象(例えば、哺乳動物対象および/またはインビボ、エクスビボ、細胞、組織、もしくは器官)において生理学的に許容される(例えば、酸または塩基との反応によって得られる)本発明の化合物の任意の塩をいう。本発明の化合物の「塩」は、無機または有機の酸および塩基に由来し得る。酸の例には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン-p-スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、スルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、およびベンゼンスルホン酸などが含まれるが、それらに限定されない。シュウ酸などの他の酸は、それ自体は薬学的に許容されないが、本発明の化合物およびその薬学的に許容される酸付加塩の獲得における中間体として、有用な塩の調製に使用することができる。
塩基の例には、アルカリ金属(例えば、ナトリウム)水酸化物、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム)水酸化物、アンモニア、および式NW4 +(式中、WはC1-4アルキルである)などの化合物が含まれるが、それらに限定されない。
塩の例には、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、カンホレート、カンホスルホネート、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、 フルコヘプタノエート、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩 、ヘプタノエート、 ヘキサノエート、塩化物、臭化物、ヨウ化物、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パルモエート、ペクチネート、過硫酸塩、フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシレート、およびウンデカン酸塩などが含まれるが、それらに限定されない。塩の他の例には、式Na+、NH4 +およびNW4 +(式中、WはC1-4アルキル基である)などの適切な陽イオンと複合した、本発明の化合物の陰イオンが含まれる。治療で使用するために、本発明の化合物の塩は、薬学的に許容されることが意図される。しかし、薬学的に許容されない酸と塩基との塩も、例えば、薬学的に許容される化合物の調製または精製で使用することができる。
治療で使用するために、本発明の化合物の塩は、薬学的に許容されることが意図される。しかし、薬学的に許容されない酸と塩基との塩も、例えば、薬学的に許容される化合物の調製または精製で適用することができる。
本明細書中で使用される、用語「核酸分子」は、分子を含む任意の核酸(DNAまたはRNAが含まれるが、それらに限定されない)をいう。この用語は、DNAおよびRNAの任意の既知の塩基アナログ(4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルシュードウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシ-アミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルケオシン、5'-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン(oxybutoxosine)、シュードウラシル、ケオシン(queosine)、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、シュードウラシル、2-チオシトシン、および2,6-ジアミノプリンが含まれるが、それらに限定されない)を含む配列を含む。
用語「遺伝子」は、ポリペプチド、前駆体、またはRNA(例えば、rRNA、tRNA)の産生に必要なコード配列を含む核酸(例えば、DNA)配列をいう。ポリペプチドは、全長コード配列またはコード配列の任意の部分(全長または断片の所望の活性または機能特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達、免疫原性など)が保持される限り)によってコードされうる。この用語はまた、遺伝子が全長mRNAの長さに対応するように、いずれかの末端から約1kbまたはそれ以上離れて5'末端および3'末端上のコード領域に隣接して位置する構造遺伝子および配列のコード領域を含む。コード領域の5'に位置しmRNA上に存在する配列を、5'非翻訳配列という。3'またはコード領域の下流に位置しmRNA上に存在する配列を、3'非翻訳配列という。用語「遺伝子」は、cDNAおよび遺伝子のゲノム形態の両方を含む。遺伝子のゲノム形態またはクローンは、「イントロン」、「介在領域」、または「介在配列」と呼ばれる非コード配列で遮断されたコード領域を含む。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントであり、イントロンはエンハンサーなどの調節エレメントを含み得る。イントロンは、核または一次転写産物から除去されるか、「スプライシングされる」ので、イントロンは伝令RNA(mRNA)転写産物中に存在しない。転写時にmRNAは新生ポリペプチド中のアミノ酸の配列または順序を特定するように機能する。
本明細書中で使用される、用語「遺伝子発現」および「発現」は、遺伝子の「転写」(すなわち、RNAポリメラーゼの酵素作用)による遺伝子中でコードされた遺伝情報をRNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、またはsnRNA)に変換するプロセスおよびタンパク質コード遺伝子についてはmRNAの「翻訳」によるタンパク質への変換プロセスをいう。遺伝子発現は、プロセス中の多数の段階で調節することができる。「上方制御」または「活性化」は、遺伝子発現産物(例えば、RNAまたはタンパク質)の産生を増加および/または増強する調節をいい、「下方制御」または「抑制」は、産生を減少させる調節をいう。上方制御または下方制御に関与する分子(例えば、転写因子)を、しばしば、それぞれ「アクチベーター」および「リプレッサー」と呼ぶ。
イントロンを含むことに加えて、遺伝子のゲノム形態は、RNA転写産物に存在する配列の5'末端および3'末端の両方に存在する配列も含み得る。これらの配列を、「隣接」配列または領域という(これらの隣接配列は、mRNA転写産物に存在する非翻訳配列の5'または3'に位置する)。5'隣接領域は、遺伝子の転写を調節するか影響を与える、プロモーターおよびエンハンサーなどの調節配列を含み得る。3'隣接領域は、転写の終結、転写後切断、およびポリアデニル化を指示する配列を含み得る。
用語「野生型」は、天然に存在する供給源から単離した遺伝子または遺伝子産物をいう。野生型遺伝子は、集団中に最も頻繁に認められる遺伝子であり、そのため任意に遺伝子の「正常」または「野生型」形態を意図される。対照的に、用語「改変された」または「変異体」は、野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に、配列および機能的性質の改変(すなわち、特徴が変化)を示す遺伝子または遺伝子産物をいう。天然に存在する変異体を単離することができることに留意すべきである。これらを、野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に、特徴が変化している(核酸配列の変化を含む)という事実によって同定する。
本明細書中で使用される、用語「〜をコードする核酸分子」、「〜をコードするDNA配列」、および「〜をコードするDNA」は、デオキシリボ核酸鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドの順序または配列をいう。これらのデオキシリボヌクレオチドの順序により、ポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸の順序が決定される。したがって、DNA配列は、アミノ酸配列をコードする。
本明細書中で使用される、用語「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチド」および「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド」は、遺伝子または言い換えれば遺伝子産物をコードする核酸配列のコード領域を含む核酸を意味する。コード領域は、cDNA、ゲノムDNA、またはRNA形態中に存在し得る。DNA形態で存在する場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、一本鎖(すなわち、センス鎖)または二本鎖であり得る。エンハンサー/プロモーター、スプライス接合部、ポリアデニル化シグナルなどの適切な調節エレメントを、転写の適切な開始および/または一次RNA転写産物の正確なプロセシングが必要な場合、遺伝子のコード領域の極めて近くに置くことができる。または、本発明の発現ベクター中で使用されるコード領域は、内因性エンハンサー/プロモーター、スプライス接合部、介在配列、ポリアデニル化シグナルなど、または内因性および外因性調節エレメントの両方の組み合わせを含み得る。
本明細書中で使用される、用語「オリゴヌクレオチド」は、短い一本鎖ポリヌクレオチド鎖をいう。オリゴヌクレオチドは、典型的には、200残基未満(例えば、15〜100の間)の長さであるが、本明細書中で使用されるように、この用語はまた、より長いポリヌクレオチド鎖を含むことを意図する。オリゴヌクレオチドは、しばしば、その長さで呼ばれる。例えば、24残基のオリゴヌクレオチドを、「24mer」という。オリゴヌクレオチドは、セルフハイブリダイゼーション(self-hybridizing)または他のポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションによって二次構造および三次構造を形成することができる。このような構造には、二重鎖、ヘアピン、十字形、ベンド、および三重鎖が含まれ得るが、それらに限定されない。
本明細書中で使用される、用語「相補的な」または「相補性」を、塩基対合則に関連するポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチド配列)に関して使用する。例えば、配列「5'-A-G-T-3'」は、配列「3'-T-C-A-5'」と相補的である。相補性は「部分的」であってよく、塩基対合則にしたがっていくつかのみ核酸の塩基が適合する。または、核酸間が「完全」または「全て」相補的であり得る。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度に有意に影響を与える。これは、核酸間の結合に依存する増幅反応および検出方法で特に重要である。
用語「相同性」は、相補性の程度をいう。部分的な相同または完全な相同(すなわち、同一)が存在し得る。部分的相補配列は、完全に相補的な核酸分子が標的核酸にハイブリダイズするのを少なくとも部分的に阻害する核酸分子であり、「実質的に相同」である。標的配列への完全に相補的な配列のハイブリダイゼーションの阻害を、低ストリンジェンシー条件下で、ハイブリダイゼーションアッセイ(サザンブロットまたはノーザンブロット、溶液ハイブリダイゼーションなど)を使用して試験することができる。実質的に相同な配列またはプローブは、低ストリンジェンシー条件下で、標的への完全に相同な核酸分子の結合(すなわち、ハイブリダイゼーション)について競合するか阻害する。これは、低ストリンジェンシー条件は非特異的結合を許容する条件であるということではなく、低ストリンジェンシー条件は、2つの配列の相互結合が特異的な(すなわち、選択的な)相互作用である必要がある。非特異的結合が存在しないことは、実質的に非相補的(例えば、約30%未満の同一性)である第2の標的の使用によって試験することができ、非特異的結合の存在下で、プローブは第2の非相補的標的とハイブリダイズしない。
cDNAまたはゲノムクローンなどの二本鎖核酸配列に関して使用する場合、用語「実質的に相補的」は、上記の低ストリンジェンシー条件下で、二本鎖核酸配列のいずれかまたは両方の鎖とハイブリダイズすることができる任意のプローブをいう。
遺伝子は、一次RNA転写産物のディファレンシャルスプライシングによって生成される複数のRNA種を産生することができる。同一遺伝子のスプライス変種であるcDNAは、配列が同一または完全に相同な領域(両cDNA上の同一のエクソンまたは同一のエクソンの一部を示す)および完全な非同一領域(例えば、cDNA1上のエクソン「A」の存在を示すが、cDNA2では代わりにエクソン「B」を含む)を含む。2つのcDNAが配列同一性領域を含むので、これらは共に両cDNAで見出された配列を含む全遺伝子または遺伝子の一部に由来するプローブとハイブリダイズし、したがって、2つのスプライス変種はこのようなプローブおよび互いに実質的に相同である。
一本鎖核酸配列に関して使用する場合、用語「実質的に相同な」は、上記の低ストリンジェンシー条件下で、一本鎖核酸配列とハイブリダイズすることができる(すなわち、相補的である)任意のプローブをいう。
本明細書中で使用される、用語「ハイブリダイゼーション」を、相補核酸の対合に関して使用する。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強さ(すなわち、核酸間の結合の強度)は、核酸間の相補度、関与する条件のストリンジェンシー、形成されたハイブリッドのTm、および核酸内のG:C比などの因子に影響を受ける。その構造内に相補核酸の対合を含む単一の分子を、「セルフハイブリダイゼーションした」という。
本明細書中で使用される、用語「Tm」を、「融解温度」に関して使用する。融解温度は、二本鎖核酸分子集団が半分になって一本鎖に解離する温度である。核酸のTmの計算式は当技術分野において周知である。標準的基準によって示すように、以下の式によってTmの予測値を簡単に計算することができる:核酸が1M NaCl水溶液中に存在する場合、Tm = 81.5 + 0.41(%G+C)(例えば、Anderson and Young, Quantitative Filter Hybridization, in Nucleic Acid Hybridization (1985)を参照のこと)。他の基準には、Tmの計算のために構造および配列の特徴を考慮したより精巧な演算処理が含まれる。
本明細書中で使用される、用語「ストリンジェンシー」を、核酸がハイブリダイズする温度、イオン強度、および有機溶媒などの他の化合物の存在に関して使用する。「低ストリンジェンシー条件」下では、関心対象の核酸配列は、その正確な相補的配列、1塩基がミスマッチした配列、密接に関連した配列(例えば、90%またはそれ以上の相同性を有する配列)、および部分的にしか相同性を有さない配列(例えば、50%〜90%の相同性を有する配列)とハイブリダイズする。「中程度のストリンジェンシー条件」下で、関心対象の核酸配列は、その正確な相補的配列、1塩基がミスマッチした配列、および密接に関連した配列(例えば、90%またはそれ以上の相同性)とハイブリダイズする。「高ストリンジェンシー条件」下で、関心対象の核酸配列は、その正確な相補的配列および(温度などの条件に依存して)1塩基がミスマッチした配列とハイブリダイズする。言い換えれば、高ストリンジェンシー条件下で、温度を上昇させて1塩基ミスマッチを有する配列へのハイブリダイゼーションを排除することができる。
核酸ハイブリダイゼーションに関して使用する場合、「高ストリンジェンシー条件」は、約500ヌクレオチドのプローブを使用する場合、5×SSPE (43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4・H2O、および1.85g/l EDTA(NaOHでpH 7.4に調整)、0.5%SDS、5×Denhardt試薬、および100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液中における42℃での結合またはハイブリダイゼーション、ならびにその後0.1×SSPE、1.0%SDSを含む溶液中における42℃での洗浄と等価な条件を含む。
核酸ハイブリダイゼーションに関して使用する場合、「中程度のストリンジェンシー条件」は、約500ヌクレオチドのプローブを使用する場合、5×SSPE (43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4・H2O、および1.85g/l EDTA(NaOHでpH 7.4に調整)、0.5%SDS、5×Denhardt試薬、および100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液中における42℃での結合またはハイブリダイゼーション、ならびにその後1.0×SSPE、1.0%SDSを含む溶液中における42℃での洗浄と等価な条件を含む。
「低ストリンジェンシー条件」は、約500ヌクレオチドのプローブを使用する場合、5×SSPE (43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4・H2O、および1.85g/l EDTA(NaOHでpH 7.4に調整)、0.1%SDS、5×Denhardt試薬(50×Denhardt試薬は、500mlあたり、5 g Ficoll (Type 400, Pharamcia)、5 g BSA (Fraction V; Sigma)を含む)、および100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液中における42℃での結合またはハイブリダイゼーション、ならびにその後5×SSPE、0.1%SDSを含む溶液中における42℃での洗浄と等価な条件を含む。
当業者は、低ストリンジェンシー条件を含むように多数の等価な条件を使用することができることを十分に承知しており、プローブの長さおよび性質(DNA、RNA、塩基組成)、標的の性質(DNA、RNA、塩基組成、溶液中に存在しているか、または固定化されているなど)、塩および他の成分の濃度(例えば、ホルムアミド、硫酸デキストラン、ポリエチレングリコールの有無)などの要因を考慮し、上記列挙の条件と異なるが等価な低ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件を得るために、ハイブリダイゼーション溶液を変化させることができる。さらに、当業者は、高ストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションを促進する条件(例えば、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄工程の温度の上昇、ハイブリダイゼーション溶液中でのホルムアミドの使用など)を承知している(上記に定義の「ストリンジェンシー」を参照のこと)。
本明細書中で使用される、用語「プライマー」は、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物の合成が誘導される条件下(すなわち、ヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼなどの誘導剤の存在下、適切な温度、およびpH)におかれた場合に合成の出発点として作用することができる、精製された制限消化物として天然に存在するか合成によって産生されたオリゴヌクレオチドをいう。プライマーは、増幅有効性を最大にするには一本鎖であることが好ましいが、または二本鎖でもよい。二本鎖の場合、伸長産物を調製するために使用する前に、プライマーを、その鎖を分離するように最初に処理する。好ましくは、プライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、誘導剤の存在下での伸長産物の合成をプライミングする(prime)のに十分に長くなければならない。プライマーの正確な長さは、多数の因子(温度、プライマーの供給源、および方法の使用を含む)に依存する。
本明細書中で使用される、用語「プローブ」は、精製された制限消化物として天然に存在するか、合成、組換え、またはPCR増幅によって産生され、関心対象の別のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチド配列)をいう。プローブは、一本鎖または二本鎖であり得る。プローブは、特定の遺伝子配列の検出、同定、および単離で有用である。本発明で使用される任意のプローブを、任意の検出システム(酵素(例えば、ELISAおよび酵素に基づく組織化学的アッセイ)、蛍光システム、放射性システム、および発光システムが含まれるが、それらに限定されない)で検出可能なように、任意の「レポーター分子」で標識することが意図される。本発明はいかなる特定の検出システムまたは標識にも制限されないことが意図される。
用語「単離された」は、「単離オリゴヌクレオチド」または「単離ポリヌクレオチド」などの核酸に関して使用される場合、同定され、通常その天然供給源中で結合している少なくとも1つの成分または夾雑物から分離されている核酸配列をいう。単離核酸は、天然と異なる形態または状況で存在する。対照的に、非単離核酸は、天然に存在する状態で見られるDNAおよびRNAなどの核酸である。例えば、所与のDNA配列(例えば、遺伝子)は、隣接遺伝子に近接した宿主細胞の染色体上に見出され、特定のタンパク質をコードする特定のmRNA配列などのRNA配列は複数のタンパク質をコードする多数の他のmRNAとの混合物として細胞内で見出される。しかし、所与のタンパク質をコードする単離核酸には、例として、核酸が天然の細胞と異なる染色体位置に存在するか、天然と異なる核酸配列に隣接する、通常は所与のタンパク質を発現する細胞中の核酸が含まれる。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドは、一本鎖形態または二本鎖形態で存在し得る。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドがタンパク質を発現するために利用される場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは最小のセンス鎖またはコード鎖を含むが(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは一本鎖であり得る)、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含み得る(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは二本鎖であり得る)。
本明細書中で使用される、用語「精製された」または「精製するために」は、試料由来の成分(例えば、夾雑物)の除去をいう。例えば、夾雑非免疫グロブリンタンパク質の除去によって抗体を精製する。標的分子に結合しない免疫グロブリンの除去によって抗体を精製することもできる。非免疫グロブリンタンパク質の除去および/または標的分子に結合しない免疫グロブリンの除去により、試料中の標的反応性免疫グロブリンの比率が増加する。別の例では、組換えポリペプチドを細菌宿主細胞中で発現させ、宿主細胞タンパク質の除去によってポリペプチドを精製し、それにより、試料中の組換えポリペプチドの比率が増加する。
本明細書中で使用される、用語「ベクター」を、ある細胞から別の細胞へDNAセグメントを輸送する核酸分子に関して使用する。用語「媒体(vehicle)」を、時折、「ベクター」と交換可能に使用する。ベクターは、しばしば、プラスミド、バクテリオファージ、または植物もしくは動物ウイルスに由来する。
本明細書中で使用される、用語「発現ベクター」は、特定の宿主生物中で機能的に連結されたコード配列の発現に必要な所望のコード配列および適切な核酸配列を含む組換えDNA分子をいう。原核生物における発現に必要な核酸配列は、通常、プロモーター、オペレーター(任意)、およびリボソーム結合部位(しばしば他の配列を含む)を含む。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー、ならびに終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルを使用することが公知である。
本明細書中で使用される、用語「トランスフェクション」は、外来DNAの真核細胞への移入をいう。当技術分野において公知の種々の手段(リン酸カルシウム-DNA共沈、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、ポリブレン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、微量注入、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染、および微粒子銃を含む)によってトランスフェクションを行うことができる。
用語「安定なトランスフェクション」または「安定にトランスフェクトされた」は、トランスフェクトされた細胞のゲノムへの外来DNAの移入および組み込みをいう。用語「安定なトランスフェクタント」は、外来DNAがゲノムDNAに安定に組み込まれた細胞をいう。
用語「一過性トランスフェクション」または「一過性にトランスフェクトされた」は、トランスフェクトされた細胞のゲノムに外来DNAが組み込まれない、外来DNAの移入をいう。外来DNAは、数日間トランスフェクトした細胞の核内にとどまる。この間、外来DNAを、染色体内で内因性遺伝子の発現を支配する調節管理(regulatory control)に供する。用語「一過性トランスフェクタント」は、外来DNAを取り込んだが、このDNAを組み込まなかった細胞をいう。
本明細書中で使用される、用語「選択マーカー」は、必須栄養素を欠く培地中での成長能力を付与する酵素活性をコードする遺伝子(例えば、酵素細胞ではHIS3遺伝子)の使用をいう。さらに、選択マーカーは、選択マーカーが発現される細胞に抗生物質または薬物に対する耐性を付与することができる。選択マーカーは「優性」であることができ、優性選択マーカーは任意の真核細胞株で検出することができる酵素活性をコードする。優性選択マーカーの例には、哺乳動物中で薬物G418耐性を付与する細菌アミノグリコシド3'ホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo遺伝子ともいう)、抗生物質であるハイグロマイシンへの耐性を付与する細菌ハイグロマイシンGホスホトランスフェラーゼ(hyg)遺伝子、およびミコフェノール酸の存在下での成長能力を付与する細菌キサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(gpt遺伝子ともいう)が含まれる。他の選択マーカーは、関連酵素活性を欠く細胞株と組み合わせて使用しなければならないという点で優性ではない。非優性選択マーカーの例には、tk-細胞株と組み合わせて使用されるチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、CAD欠損細胞と組み合わせて使用されるCAD遺伝子、およびhprt-細胞株と組み合わせて使用される哺乳動物ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hprt)遺伝子が含まれる。哺乳動物細胞株中での選択マーカー使用の概説は、Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1989) pp.16.9-16.15に記載されている。
本明細書中で使用される、用語「細胞培養物」は、任意のインビトロ細胞培養物をいう。連続継代細胞系(例えば、不死化表現型)、初代細胞培養物、形質転換細胞株、有限細胞株(例えば、非形質転換細胞)、および任意の他のインビトロで維持した細胞集団はこの用語の範囲内に含まれる。
本明細書中で使用される、用語「真核生物」は、「原核生物」と区別することができる生物をいう。この用語は、真核生物の通常の特徴(核膜を境界とし、その中に染色体を有する真核の存在、膜結合細胞小器官の存在など)および真核生物で一般に認められる他の特徴を示す細胞を有する全ての生物を含むことが意図される。したがって、この用語には、真菌、原生動物、および動物(例えば、ヒト)などの生物が含まれるが、それらに限定されない。
本明細書中で使用される、用語「インビトロ」は、人工的環境および人工的環境内で起こるプロセスまたは反応をいう。インビトロ環境は、試験管および細胞培養からなり得るが、それらに限定されない。用語「インビボ」は、天然の環境(例えば、動物または細胞)および天然の環境内で起こるプロセスまたは反応をいう。
用語「被験化合物」および「候補化合物」は、疾患、疾病、病気、または身体機能の障害(例えば、アルツハイマー病、ALS、パーキンソン病など)の治療または防止のための候補である任意の化学物質、医薬品、および薬物などをいう。被験化合物は、公知および潜在的な治療化合物を含む。本発明のスクリーニング方法を使用したスクリーニングによって、被験化合物が治療薬であるかどうかを決定することができる。
本明細書中で使用される場合、用語「試料」は、その最も広い意味で使用する。1つの意味では、任意の供給源ならびに生体試料および環境試料から得た標本または培養物が含まれることを意味する。生体試料を動物(ヒトを含む)から得ることができ、流体、固体、組織、および気体を含む。生体試料には、血漿および血清などの血液製剤が含まれる。環境試料には、表面物質、土壌、水、血症、および産業試料などの環境物質が含まれる。しかし、このような例は、本発明で適用可能な試料型を制限すると解釈すべきではない。
用語「RNA干渉」または「RNAi」は、siRNAによる遺伝子発現のサイレンシングまたは低下をいう。これは、二重鎖領域中でサイレンシング遺伝子の配列と相同なsiRNAによって開始される動物および植物中の配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングプロセスである。遺伝子は、生物に対して内因性でも外因性でもよく、染色体に組み込まれて存在してもゲノムに組み込まれずにトランスフェクションベクター中に存在してもよい。遺伝子の発現は、完全または部分的に阻害される。RNAiは、標的RNAの機能を阻害すると見なすこともでき、標的RNAの機能は完全でも部分的でもよい。
用語「siRNA」は、短い干渉RNAをいう。いくつかの態様では、siRNAは、約18〜25ヌクレオチド長の二重鎖または二本鎖の領域を含み、しばしば、siRNAは各鎖の3'末端に2つから4つまでの不対ヌクレオチドを含む。siRNAの二重鎖または二本鎖領域の少なくとも1つの鎖は、標的RNA分子と実質的に相同であるか、実質的に相補的である。標的RNA分子に相補的な鎖は「アンチセンス鎖」であり、標的RNA分子に相同な鎖は「センス鎖」であり、siRNAアンチセンス鎖にも相補的である。siRNAはまた、さらなる配列も含むことができ、このような配列の非限定的な例には、結合配列またはループならびにステム構造および他の折りたたみ構造が含まれる。siRNAは、無脊椎動物および脊椎動物におけるRNA干渉の誘発、ならびに植物での転写後遺伝子サイレンシング時の配列特異的RNA分解の誘発での鍵となる媒介物として機能するようである。
用語「標的RNA分子」は、siRNAの短い二本鎖領域の少なくとも1つの鎖が相同的または相補的であるRNA分子をいう。典型的には、このような相同性または相補性が約100%である場合、siRNAは、標的RNA分子の発現をサイレンシングまたは阻害することができる。プロセシングmRNAはsiRNAの標的であると考えられるにもかかわらず、本発明は任意の特定の仮説に制限されず、このような仮説は本発明の実施に必要ない。したがって、他のRNA分子もsiRNAの標的であり得ることが意図される。このような標的には、非プロセシングmRNA、リボソームRNA、ウイルスRNAゲノムが含まれる。
発明の詳細な説明
セレンは、体内のグルタチオン(GSH)とその主なSe含有抗酸化酵素(グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)およびチオレドキシンレダクターゼ)との相互作用による全生組織における抗酸化防御機構の制御局面に関与する微量元素である(例えば、Goehring et al., J. Anim. Sci. 59, 725-732 (1984); Gerloff et al, J. Anim. Sci. 70, 3934-3940 (1992)を参照のこと)。グルタチオンおよびGPXは、脂質酸化を開始および拡大することができるフリーラジカル攻撃を消失させることによって、膜リン脂質の不飽和結合の完全性を防御する能力を有する(例えば、Meister and Anderson, Annu. Rev. Biochem. 52, 711-760 (1983); Deleve and Kaplowitz, Pharm. Ther. 52, 287-305 (1991); Palmer and Paulson, Nutr. Rev.55, 353-361 (1997)を参照のこと)。
いくつかの疫学的研究において、セレンは癌リスクの低下にも関連している(例えば、Salonen et al., Am. J. Epidemiol. 120: 342-349 (1984); Willett et al, Lancet 2: 130-134 (1983); Virtamo et al., Cancer 60: 145-148 (1987)を参照のこと)。広範な投薬量での動物研究において、天然および合成起源の種々のセレン化合物は、腫瘍成長を阻害することが示されている(例えば、Ip,. J. Nutr. 128: 1845-1854 (1998)を参照のこと)。ほとんどの動物研究が癌の化学的予防に薬理学的用量のセレン(>2 mg/kg)を使用しているにもかかわらず(例えば、Ip,. J. Nutr. 128: 1845-1854 (1998)を参照のこと)、セレン欠損は、乳癌(例えば、Ip and Daniel, Cancer Res. 45: 61-65 (1985)を参照のこと)およびUVB誘導性皮膚癌(例えば、Pence et al., 102: 759-761 (1994)を参照のこと)を増強することも示された。
生理学的用量(0.2mg)のセレンを含む最近のヒトにおける無作為な二重盲検癌防止試験により、肺癌、前立腺癌、および腸癌の減少が証明された(例えば、Clark et al., J. Am. Med. Assoc. 276:1957-1963 (1996)を参照のこと)。
数十年間のセレンの作用機構に関する研究にもかかわらず、セレンの他の潜在的な標的(例えば、遺伝子または調節経路)およびセレン投与によって対象に提供することができる有益な効果に関して知られていることは皆無かそれに近い。どのセレン形態(例えば、有機、無機、またはその両方)がこれらの効果を発揮するために使用することができ、そしてできないのかについての情報が不足している。したがって、異なる形態のセレンを使用して対象(例えば、ヒト、ウシ、または他の哺乳動物)の一定の系(例えば、神経系、内分泌系、および代謝系)に利益を与えることができる種々の方法を解明することは非常に有益である。さらに、どのようにして種々のセレン形態が対象に効果を発揮する能力に相違があるのかということについての理解により、このような治療によって利益を得ることができる疾患または障害を罹患しているかリスクのある対象の治療をカスタマイズすることができる(例えば、特定のセレン形態を、疾患または障害を治療または防止するために単独または他の公知の薬剤と共に使用することができる)。
したがって、本発明は、どのようにして特定のセレン型(例えば、セレノメチオニン(SeM)、亜セレン酸ナトリウム(Sod-sel)、およびSEL-PLEX)を使用して対象が利益を得ることができるのかを証明する。特に、本発明は、本発明の組成物および方法を使用して、対象の一般的健康状態および認知機能を安定化または増大させることができることを証明する。例えば、本明細書中に詳述するように、本発明は、細胞機能を変化させ、それにより対象の複数の系(神経学的系、神経系、内分泌系、代謝系、および免疫系が含まれるが、それらに限定されない)に有益な効果を提供する組成物および方法を提供する。本発明はまた、疾患の治療または防止のための他の薬剤とのセレンの使用方法を提供する。したがって、本発明は、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物ならびに治療薬および/または予防薬としてのその使用方法(例えば、神経変性疾患、認知機能の増強、または年齢関連遺伝子発現の遅延のため)を提供する。対象に有益な効果をもたらすために本発明の組成物および方法を使用することができる複数の方法を例示するために以下に例を提供し、これは、本発明の範囲を制限すると解釈されることを意味しない。
I.神経変性疾患
いくつかの態様では、本発明は、神経変性疾患の予防的治療または治療的処置のために、個別のまたは一つもしくは複数の薬剤と組み合わせたセレンの投与を提供する。好ましい態様では、本発明は、神経変性疾患の発症リスクのある対象にセレンを含む組成物を投与し、それにより神経変性疾患を防止する工程を含む予防的治療を提供する。他の好ましい態様では、本発明は、神経変性疾患の治療または予防のために使用される薬剤をセレンを含む組成物と組み合わせて対象に投与する工程を含む、神経変性疾患の治療または防止方法を提供する。本発明は、一定のセレン形態が上記方法と適合することができる一方で、他のセレン形態ができないことを初めて証明する。したがって、いくつかの態様では、本発明は、生物学的に利用可能であり、かつ単独または神経変性疾患の治療もしくは予防のために使用される薬剤と同時投与され、選択されたセレン形態が神経変性疾患を治療または予防するように機能する、一つまたは複数のセレン(例えば、SEL-PLEXおよび/またはSod-sel)を提供する。
対象に投与するセレンの形態は、治療されると考えられる標的(例えば、遺伝子)に依存する。本発明によって証明されるように、達成される有益な効果の存在およびレベルは、使用されるセレンの型によって変化する(実施例2〜10を参照のこと)。好ましい態様では、SEL-PLEXの形態でセレンを投与する。他の態様では、亜セレン酸ナトリウムとしてセレンを投与する。さらに他の態様では、セレノメチオニンまたはセレン強化酵母としてセレンを投与する。いくつかの態様では、セレノシステインまたはセレン酸化合物としてセレンを投与する。いくつかの態様では、セレンを、薬剤(例えば、神経変性疾患の治療に使用する薬剤)と化学的に結合させて、セレン-薬剤誘導体を形成することができる。
一旦所望のセレン形態が選択されると、これを単独または神経変性疾患の予防または治療のために使用する一つまたは複数の薬剤と組み合わせて投与することができる。薬剤は、このような治療の規制当局(例えば、US Food and Drug Administration (FDA)またはEuropean Medicines Evaluation Agency(EMEA))によって承認された薬剤であり得る。本発明の組成物および方法は、種々の神経変性疾患(アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、脊椎小脳失調症、フリードライヒ運動失調症、および筋緊張性ジストロフィが含まれるが、それらに限定されない)の治療に有用であることが意図される。
A.アルツハイマー病
本発明のいくつかの態様では、本発明の組成物および方法を、アルツハイマー病の治療で使用する。アルツハイマー病(AD)は痴呆の一般的原因であり、社会生活機能および労働を著しく妨害するのに十分な重症度の後天性の認知障害および行動障害である。
ADは、米国で約500万人が罹患し、全世界で3000万人を超える人々が罹患している。非常に多数の個体の認識機能障害レベルが減少し(例えば、最小認識機能障害)、これは末期痴呆に進行することが多く、患者数が増加する。多くの国(特に先進工業国)で最も急速に増加している年齢群を構成する高齢者が優先的に罹患するので、ADの有病率は今世紀実質的に増加すると予想される。統計上の推定により、米国でのこの障害の患者数は2050年までに約3倍になることが示されている。
ADは、経済的観点から大きな公衆衛生問題でもある。米国では、AD患者の治療費は、1990年代初期には1100億ドルを上回り、患者あたりの年間平均費用は約45,000ドルである。神経変性疾患の経済効果の評価方法は依然として未熟であるので、これらの数字は過小評価の可能性が高い。
ADの解剖病理学には、神経原線維変化(NFT);顕微鏡レベルの老人斑(SP);および主に関連領域、特に側頭葉の内側面を含む大脳皮質の萎縮が含まれる。NFTおよびSPはADの特徴であるにもかかわらず、これらは疾病特有ではない。実際、ADと異なる多数の他の神経変性病態がNFT(例えば、進行性核上麻痺、ボクサー痴呆)またはSP(例えば、通常の加齢)によって特徴づけられる。したがって、これらの病変の単なる存在は、ADの診断に十分ではない。これらの病変は、ADの現在の組織病理学的基準を満たすために十分な数かつ特徴的な局所的分布で存在しなければならない。
NFTおよびSPに加えて、アルツハイマー病の最初の論文が発表されて以来、ADの多数の他の病変が認識されている。これらには、最終的に障害の認識的および行動的発現を媒介する(1)Shimkowiczの顆粒空胞変性、(2)Braak et al.のニューロピルスレッド(neuropil thread)、および(3)ニューロン脱落およびシナプス変性が含まれる。
ADは、世界で最も一般的な神経変性障害である。ADでは、海馬および大脳皮質のニューロンが選択的に脱落する。AD個体の脳は以下の2つの特徴的な病変を示す:細胞外アミロイド斑(または老人斑)および過剰リン酸化タウタンパク質の神経原線維変化(例えば、Selkoe, Nature 426, 900-904 (2003)を参照のこと)。アミロイド斑は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の小さな毒性切断産物(Aβ40およびAβ42を示す)を含む。apoE4(アポリポタンパク質E4)遺伝子型は、AD発症の強力な危険因子であり、おそらくβ-アミロイドタンパク質(Aβ)沈着および神経原線維変化に影響を与え得る(例えば、Roses, Curr. Opin. Neurol. 4,265-270(1996)を参照のこと)。常染色体優性様式で遺伝する3つの遺伝子の変異は、ADの稀な家族型早期発生形態に関与していた。これらの遺伝子には、APP、プレセニリン1(PS1)、およびプレセニリン2(PS2)をコードする遺伝子が含まれる。ADの家族型および散発性型の両方における1つの一般的な事象は、毒性β-アミロイドタンパク質の産生および沈着の増加である。この所見により、過剰なAβ産生がこの疾患の主な原因であるという「アミロイドカスケード仮説」が導かれた。
APPは、I型膜タンパク質であり、巨大な細胞外領域、膜貫通ヘリックス、および短い細胞質テールを含む。毒性Aβは、セクレターゼの複合体によるAPPの制御された膜内タンパク質分解を起源とする。APPの最初の切断は、β-またはα-セクレターゼによって媒介され、APPのほとんどの細胞外部分が2つの断片(APPs-αおよびAPPs-β)として放出され、C末端膜結合断片の後方で遊離する。次いで、このAPP部分は、巨大タンパク質複合体(γ-セクレターゼ)によっていくつかの部位(アミノ酸(aa)711(Ab40)ならびにaa713(Aβ42)、aa714(Aβ43)、およびaa720(Aβ49)での少なくとも3つのさらなるサブサイトを含む)で切断される。APPのいくつかの変異(Swedish変異、γ-セクレターゼ切断部位でのクラスターなど)により、Aβペプチドおよびプロトフィブリルの形成量が増加する(例えば、Singleton et al., Hum. Mol. Genet. 13 (Spec. no. 1), R123-R126 (2004)を参照のこと)。
γ-セクレターゼ複合体の正確な組成物は依然として議論の余地があるが、プレセニリン1(PS1)、プレセニリン(PS2)、ニカストリン、Aph-1、およびPen-2が必要なようである(例えば、Haas and Steiner, Trends Cell Biol. 12, 556-562 (2002); Edbauer et al., Nat, Cell Biol. 5, 486-488 (2003); Haass, EMBO J. 23, 483-488 (2004)を参照のこと)。PS1は、膜貫通領域中のその基質を切断する膜貫通ドメインアスパルチルプロテアーゼである。PS1は、おそらく、Aβ断片の生成を担う。さらなる関連タンパク質はカルセニリンである。カルセニリンは、アルツハイマー病脳内のニューロンおよび正常膠細胞中で過剰発現(例えば、上方制御)される(例えば、Jin et al., Neuroreport 16, 451-455 (2005)を参照のこと)。カルセニリンの過剰発現によってセクレターゼ活性が増強し、このことは、カルセニリンがg-セクレターゼの調節因子であることを証明する(例えば、Jo et al., Neurosci Lett, 378, 59-64 (2005)を参照のこと)。
稀な家族型早期発症ADにおいて100を超えるPS1およびPS2のミスセンス変異が同定されている(例えば、Hutton et al., Essays Biochem. 33, 117-131(1998)を参照のこと)。培養およびトランスジェニックマウスにおける実験により、これらの変異によりAβ産生が増加することが明らかとなった(例えば、Scheuner. et al., Nat Med. 2, 864-870 (1996); Borchelt et al., Neuron 19, 939-945 (1997)を参照のこと)。逆に、PS1を欠くマウスではAβ40およびAβ42の産生が減少し(例えば、De Strooper, et al., Nature 391, 387-390 (1998); Naruse, et al., 21, 1213-1221 (1998)を参照のこと)、PS1がγ-セクレターゼ活性において極めて重要な役割を果たすことが示唆される。カスパーゼ酵素によるAPPのC末端切断も毒性に必要であり得る(例えば、Lu et al., Nat. Med. 6, 385-386 (2000)を参照のこと)。
どのようにしてAβがその損傷を行うのかということに関していくつかの機構が提案されている。1つの見解により、Aβプロトフィブリルが小膠細胞を活性化し、炎症反応および神経毒性サイトカインの放出を誘発することが示唆される。イブプロフェンを含む非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)により、ADの発症が遅延する(例えば、Stewart et al., Neurology 48, 626-632 (1997)を参照のこと)。さらに、NSAIDは、Aβ42の産生を減少させる(例えば、Weggen et al., Nature 414,212-216 (2001)を参照のこと)。
第2の見解では、Aβプロトフィブリルは、興奮毒性によってニューロン付近を損傷することができる神経膠細胞からグルタミン酸などの興奮性アミノ酸の過剰な放出を誘発する。N-メチル-D-アスパルテート(NMDA)サブタイプのグルタミン酸受容体の過剰活性化により、細胞内Ca2+が増加し、ニューロン一酸化窒素シンターゼを活性化し、その結果として一酸化窒素(NO)を生成する。過剰に生成された場合、NOはスーパーオキシドアニオン(O2 -)と組み合わされて、高反応性の神経毒性生成物ペルオキシ亜硝酸(ONOO-)が形成され、ミトコンドリア損傷を一部介して酸化ストレスおよびニトロサティブストレス(nitrosative stress)をさらに誘導する。実際、非競合NMDA受容体チャネル遮断薬(メマンチン)の陽性第3相ヒト試験により、AD治療が最近承認された(例えば、Lipton, Nature 428, 473 (2004)を参照のこと)。
コリン作動性伝達およびシナプス密度は、AD患者で顕著に減少する。シナプス損傷機構は未知であるが、Aβの拡散性のオリゴマー形態は重要であり得る。シナプス機能障害は、おそらく、ADにおける記憶喪失および認知障害に寄与する。実際、APPトランスジェニックマウスは、Aβ沈着前にシナプス欠損の細胞的、生化学的、および電気生理学的証拠(学習および記憶の相関関係と見なされる興奮性シナプス後電位および長期増強作用の減少を含む)が明らかとなった(例えば、Chapman et al., Nat. Neurosci. 2,271-276 (1999)を参照のこと)。γ-セクレターゼの阻害により、オリゴマーAβおよびLTP欠損が減少する(例えば、Walsh et al., Nature 416, 535-539 (2002)を参照のこと)。
Aβは、酸化還元反応性金属と結合し、その後フリーラジカルを放出することによって有害な効果を媒介することもできる(例えば、Bush et al., J. Biol. Chem. 268, 16109-16112 (1993); Bush et al.,Science 265, 1464-1467 (1994); Lovell et al., J. Neurol. Sci. 158, 47-52 (1998); Dong et al.,Biochemistry 42, 2768-2773 (2003); Opazo et al., J. Biol. Chem. 277, 40302-40308 (2002);Bush et aL, Alzheimer Dis. Assoc. Disord. 17, 147-150 (2003); 36 Huang et al., Biochemistry 38, 7609-7616 (1999)を参照のこと)。亜鉛および銅のキレート化により、神経防御作用が得られる(例えば、Bush, Aging 23, 1031-1038 (2002)を参照のこと)。例えば、クリオキノール(CQ)(亜鉛および銅もキレート化して血液脳関門を通過する抗生物質)により、脳内Aβ沈着が減少し、変異APPトランスジェニックマウスの学習能力が改善される(例えば、Cherny et al., Neuron 30, 665-676(2001)を参照のこと)。
米国において、ADの生涯リスクは1:4〜1:2と見積もられている。65歳以上の個体の14%より多くがADを有し、有病率は80歳以上の個体で少なくとも40%に増加する。米国と類似の有病率が先進工業国で報告されている。人口における高齢者区分の急速な増加を経験している国は、米国に近い比率を有する。
ADは、男性および女性の両方が罹患する。多数の研究は、ADのリスクは男性よりも女性で有意に高いことを示している。この相違は閉経後の女性におけるエストロゲンの神経栄養効果の喪失に起因すると主張する著者もいる。他の因子もこの相対的相違に影響を与え得る。
ADは、一般に、認知的症状によって診断される。ADの評価では、脳MRIまたはCTスキャンは、散在した皮質および/または大脳の萎縮を示す。これらの研究も使用して、他のCNS疾患を除外する。EEGおよびタウタンパク質試験も使用して、診断を確認し、痴呆を引き起こす他の疾患を除外する。
AD療法の要は、大脳皮質および海馬中のAChの枯渇を軽減するための中枢作用性コリン作動性インヒビターの使用である。ADの臨床症状は大脳皮質に対するコリン作動性神経支配の喪失に部分的に起因すると考えられるので、AChE(コリンエステラーゼのシナプス(または特異的)形態)によるAChの分解の妨害によってコリン作動性欠失を軽減するための化合物が開発された。より最近利用可能になったいくつかの化合物は、しばしばBuChEと呼ばれる非シナプス(または非特異的)コリンエステラーゼも阻害する物質である。
ADの初期および中期での使用がFDAによって承認されているAChEインヒビターは、タクリン(Cognex)、ドネペジル(Aricept)、リバスチグミン(Exelon)、およびガランタミン(galanthamine, Reminyl)である。これらのなかで、タクリンおよびリバスチグミンはBuChEも阻害する。AD過程でBuChEレベルが増加し、かついくつかのAD病変(老人斑を含む)で存在するので、これはその治療有効性に重要であり得る。他の治療と入れ替わっているので、現在、タクリンはたとえ使用されるとしてもほとんど使用されていない。
臨床研究数の増加により、Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale(ADAS-cog)などの手段によって測定したところ、コリンエステラーゼ阻害は穏やかであるが検出可能な効果(認知能力の改善)を有し得ることが証明された。より最近の証拠は、ChEIもADの非認知徴候を緩和することができることを示す。例えば、Neuropsychiatric Inventoryなどの手段の使用によって評価したところ、これらは行動徴候を緩和することができ、Progressive Deterioration Scaleの使用によって評価したところ、日常生活の活動能力を改善することができる。
一般に、ChEIは疾患の間継続するコリン作動性ニューロンの変性の根本にある原因に対応していないので、恩恵は一過性である。増加するChEIの巨大ファミリーは最初はADの初期および中期のみで有用であると予想されていたが、結果は、以下のことを示す:(1)進行期の認知能力を改善すること、(2)行動徴候を有意に改善すること(例えば、徘徊、激昂、進行期に関連する社会的に不適切な行動)、および(3)ADに起因する痴呆に加えられた、推定の血管成分を有する患者、およびAD(ADのレヴィ小体変種)としばしば同時に起こるか重複するDLB患者で有用であること。
ChEIは、共通の副作用プロフィールを有し、最も頻繁なものは吐気、嘔吐、下痢、およびめまいである。これらは、典型的には、用量に関連し、所望の維持量へのゆっくりとした増量(uptitration)によって緩和することができる。食品によってその吸収ピークが低下する薬物(例えば、リバスチグミン)の使用により、副作用をさらに緩和し、ChEI治療の許容度を改善することができる。
NMDAアンタゴニストは、AD治療を示した最も新しい薬剤クラスである。2003年10月現在で、このクラスで唯一承認されている薬物はメマンチンである。これらの薬剤を単独またはAChEインヒビターと組み合わせて使用することができる。したがって、いくつかの態様では、本発明の組成物および方法を、ADの治療的処置および/または予防的治療のための上記薬剤と組み合わせて使用する。
好ましい態様では、本発明は、患者のアルツハイマー病の症状(例えば、上記)が軽減する条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物をアルツハイマー病患者に投与する工程を含む、アルツハイマー病患者の治療法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物のアルツハイマー病対象への投与により、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングに関与するタンパク質をコードする遺伝子(例えば、ニカストリン、プレセニリン1、プレセニリン2、カルセニリン、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンZ、またはカテプシンO)の発現の低下によってアルツハイマー病に関連する症状が緩和される(実施例10を参照のこと)。他の好ましい態様では、本発明の組成物および方法を使用して、アミロイドペプチドの生成に関与する遺伝子(例えば、Apbb1、Aplp1、およびApba1)の発現を変化させる(例えば、低下させる)。いくつかの好ましい態様では、本発明の組成物および方法を、アルツハイマー病を防止するための予防的治療として使用する。いくつかの態様では、本発明の組成物および方法を、アルツハイマー病治療のための他の公知の治療的処置(例えば、上記のもの)を組み合わせて使用する。さらに他の態様では、本発明は、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物、アルツハイマー病治療薬、および一つまたは複数の抗酸化剤を対象に同時投与する工程を含む、アルツハイマー病の予防的治療および/または治療的処置方法を提供する。他の態様では、本発明の組成物および方法を使用して、アミロイド前駆体タンパク質のプロセシングに関与するタンパク質をコードする遺伝子、β-アミロイドペプチドの生成に関与する遺伝子、および補体関連遺伝子(例えば、ニカストリン、プレセニリン1、プレセニリン2、カルセニリン、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンZ、カテプシンO、Apbb1、Aplp1、Apba1、C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、およびC1qr)の発現の阻害を含む、アルツハイマー病に関連する神経変性を防止および/または治療する(実施例10を参照のこと)。したがって、いくつかの態様では、本発明は、アミロイド前駆体タンパク質のプロセシングに関与する遺伝子の発現が低下する条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象におけるアミロイド前駆体タンパク質のプロセシングに関与する遺伝子の発現を阻害する方法を提供する。いくつかの態様では、本発明は、β-アミロイドペプチドの生成に関与する遺伝子の発現が低下するような条件下で、セレンを含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象におけるβ-アミロイドペプチドの生成に関与する遺伝子の発現を阻害する方法を提供する。いくつかの態様では、本発明は、補体遺伝子の発現が低下するような条件下で、対象にセレンを含む組成物を投与する工程を含む、対象における補体遺伝子(例えば、C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、およびC1qr)(実施例10を参照のこと)の発現を阻害する方法を提供する。好ましい態様では、セレンを含む組成物はSEL-PLEXを含む。SEL-PLEXを含む組成物はまた、他のセレン形態(例えば、Sod-sel)を含むことができるので、上記遺伝子の発現の下方制御を増強することができる。
B.筋萎縮性側索硬化症(ALS)
本発明のいくつかの態様では、本発明の組成物および方法を、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の予防的治療または治療的処置で使用する。ALSは、進行性の筋力低下および萎縮を引き起こす脊髄および脳神経運動核の前角細胞の破壊的障害である。
米国におけるALSの頻度は、100,000人あたり約5人である。ALSは、10年以内に死亡する。ほとんどの場合、5年以内に死亡する。家族型若年発症ALS患者によってはより長い期間(20〜30年)生存することが報告されている。米国では、ALSは、非白人よりも白人でより頻繁に罹患し、白人:非白人比は1.6:1である。ALSに罹患した男性:女性の比は、1.5:1である。40歳から70歳で発症する。
ALSは、進行性の筋肉の消耗および筋力低下を起こし、最終的に麻痺し、呼吸不全になり、死亡する、運動ニューロンの変性を含む。おそらく症例の10%が家族型であり、そのうちの約2〜3%が、(触媒)機能の喪失よりも機能に対する毒性を生じるCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)をコードする遺伝子の変異に起因する(例えば、Rosen et al., Nature 362, 59-62 (1993)を参照のこと)。正確な発病機構は明らかではないが、運動ニューロン機能障害に関与し、死は、タンパク質の誤った折りたたみおよび凝集、軸索輸送の欠損、ミトコンドリア機能障害、および膠細胞へのグルタミン酸の誤った再取り込みによる興奮毒性による。最近の構造的証拠により、いくつかのCu/Zn SOD1変異が酵素の正常な二量体を不安定化し、凝集が進行し、家族型アミロイドポリニューロパシーと同様に、条件に依存してアミロイドまたは孔が形成されることが示唆される(例えば、Hough et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 5976-5981 (2004);Koo et al., Proc. Nail. Acad. Sci. USA 96, 9989-9990 (1999)を参照のこと)。したがって、二量体の安定化は、治療介入として提案されている(例えば、Ray and Lansbury, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 5701-5702 (2004)を参照のこと)。
散発性ALSに関する最近の報告(非常に多数の症例を示す)により、ニューロンへのCa2+侵入を増加させる、グルタミン酸受容体のGluR2サブユニットにおける異常なRNA編集が明らかとなった(例えば、Kawahara et al,Nature 427, 801 (2004); Lipton, Nat. Med. 10, 347 (2004)を参照のこと)。この機構は神経死に寄与し得るので、過度に活性なカルシウム透過性グルタミン酸受容体への反作用または潜在的に機能傷害性を示すRNA編集酵素の代償などの可能な治療標的が示唆される。
患者は、延髄性筋(bulbar muscle)または一つもしくは複数の四肢筋肉群の筋力が低下し得る。常に両側または対照的に現れるわけではない。主に延髄性形態は、通常、より急速な悪化および死に至る。四肢の筋力低下は主に遠位である。内因性の手の筋肉の筋力低下および萎縮が顕著である。筋力低下は、前腕筋、肩帯筋、および下肢に進行する。
上位および下位運動ニューロンの関連が特徴的である。患者は種々の反射異常亢進、クローヌス、痙縮、伸展性足底反応、および肢または舌の線維束形成を発症する。錐体路および皮質延髄路のワーラー変性を、MRI(前頭葉の高強度T2損傷)または剖検によって証明することができる。外眼筋、膀胱の筋肉、および肛門括約筋は、典型的に回避される。
ALS症例のほぼ10%が家族型であり、疾患は常染色体優性様式で伝播する。これらの家族型症例の10%〜20%で銅/亜鉛SOD1遺伝子が変異する。SOD1媒介性神経損傷の一次機構は現在知られていないにもかかわらず、アポトーシス、興奮毒性、および酸化ストレスは病因において重要な役割を果たすと考えられる。散発性ALSは、家族型ALSと臨床的特徴を共有する。しかし、これらの患者でSOD1変異または多型は同定されなかった。疾患の病状の共通の経路は、類似の表現型を導く異なる分子異常で役割を果たし得る。
SOD1のノックアウトマウスは、ヒトALSと非常に類似した運動ニューロンに対する選択的損傷を伴う進行性筋萎縮および衰弱を示す。変異SOD1分泌と神経毒性との間に因果関係が存在するようである(例えば、変異タンパク質が分泌されない)。しかし、ALSラットモデルへの野生型SODの注入により、疾患発症が有意に遅延する(例えば、J. Neurosci, 25, 108-117 (2005)を参照のこと)。さらに、CuのSODへの有効な負荷には銅(Cu)シャペロンが必要であることが示された(例えば、Nat. Neurosci, 5, 301-307 (2002)を参照のこと)。したがって、野生型SODの正常レベルを維持するかその発現または機能を増強する能力により、ALS対象に有利な治療効果を得ることができる。
さらに、前脳基底部コリン作動性ニューロン数の減少はALS対象の脳のいくつかの領域で認められることが示されている(例えば、Neurochem Int. 46, 357-368, (2005)を参照のこと)。したがって、前脳基底部コリン作動性ニューロンの成長および/または維持に関与する遺伝子の上方制御能力により、ALS対象に有益な効果をもたらすことができる。
炎症プロセスが存在し得るにもかかわらず、新規の証拠は、ALSの基礎としてCNSにおけるニューロン細胞死を促進する複数の機構を指摘する。ヒト家族型ALSおおびマウスALSモデルにおけるスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)変異の最近の証拠は、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、および興奮毒性経路がニューロン細胞死プロセスに関与し得るという見解を支持する。
ALSは、一つもしくは複数の四肢の筋力低下、萎縮、または線維束形成として知らぬ間に始まる。発症は通常遠位であるが、より近位の筋肉を含むように段階的に進行する。舌の萎縮および線維束形成が認められる。呼吸不全は、通常後期の事象である。身体検査により、内在性の手の筋肉の筋力低下および萎縮、反射異常亢進、伸展性足底反応、およびクローヌスが明らかとなる。大腿線維束形成も一般的である。反射異常亢進は変化することができ、いくつかの場合、存在しなくてよい。感覚の関与は、あるとすれば、最小である。患者は、筋力低下のために筆記不可能性を示し得る。歩行機能を保持することができる。
ニードルEMGおよび神経伝導研究は、ALS診断の確認に最適な試験である。広範性の神経支配除去サイン、化合物筋活動電位の振幅の減少、および通常の伝導速度によって、ALSの確認が容易になる。しかし、ALSのより詳細な確認のために、World Federation of Neurologyの小委員会によって、より厳しい電気生物学的基準が開発され、運動ニューロン疾患のための「E1 Escorial」基準という。
リルゾールは、ALSに治療有効性を示す唯一の薬物である。リルゾールは、興奮性アミノ酸(グルタミン作動性(glutaminergic))経路と反作用すると考えられるが、ALSにおけるその正確な作用機構は知られていない。2回の無作為化試験において、偽薬と比較して無気管切開での生存の延長が示された。しかし、これらの試験後、死亡率の統計的に有意な相違は認められなかった。他の臨床試験では、クレアチン、ヒト組換えIGF-1、および毛様体神経栄養因子(CNTF)も有望であった。
鎮痙薬を使用して、四肢硬直の症状を有する患者の痙縮および筋肉痙攣も緩和する。例には、バクロフェン(リオレサール)、およびチザニジン(ザナフレックス)が含まれる。いくつかの態様では、SEL-PLEXを上記薬剤と組み合わせて使用する。
したがって、いくつかの態様では、本発明の組成物および方法を、ALS治療のために他の公知の治療的処置(例えば、上記)と組み合わせて使用する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、セレンを含む組成物のALSを有する疑いのある対象への投与により、対象における遺伝子(例えば、SOD遺伝子、Lhx8、TGFβ-2、または本明細書中に記載の他の遺伝子)の発現が増強され、それによりALSを治療する。いくつかの態様では、本発明は、SOD遺伝子発現が増強されるような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象におけるSOD遺伝子(例えば、SOD1およびSOD2)の発現を増強する方法を提供する。好ましい態様では、セレンを含む組成物は、SEL-PLEXを含む(実施例4を参照のこと)。SEL-PLEXを含む組成物はまた、他のセレン形態(例えば、Sod-sel)を含むことができるので、SOD遺伝子の発現を増強することができる。
C.パーキンソン病
いくつかの態様では、本発明の組成物および方法(例えば、SEL-PLEX)を、パーキンソン病の予防的治療および治療的処置に使用する。パーキンソン病(以後、「PD」)は、ドーパミン作動性黒質線条体ニューロンの脱落に関連する進行性神経変性障害である。PDは、一般的な神経障害として認識されており、60歳を超える個体の約1%が罹患している。臨床的特徴には、安静時振戦、固縮、運動緩徐、および体位不安定性が含まれる。PDの症状は、黒質緻密部中の色素性ドーパミン作動性(DA)ニューロンの選択的および進行性変性に起因する。
PDの神経病理学的所見には、黒質中の色素性ドーパミン作動性ニューロンの脱落およびレヴィ小体の存在が含まれる。ドーパミン作動性ニューロンの脱落は、黒質外腹側(ventral lateral substantia nigra)でより著しく起こる。約60〜80%ドーパミン作動性ニューロンは、PDの臨床症状が出現する前に脱落する。レヴィ小体は、周囲にハローおよび密集したコアを有する同心円状で好酸性の細胞質封入体である。黒質の色素性ニューロン内のレヴィ小体の存在は特発性PDに特徴的であるが、疾病特有ではない。レヴィ小体は、皮質、基底核、青斑、脊髄の中間外側細胞柱、および他の領域にも見出される。レヴィ小体は、非定型パーキンソン症候群、ハレルフォルデン・スパッツ病および他の障害のいくつかの症例で見出されるので、PDに特異的ではない。偶発的レヴィ小体は、パーキンソン病の臨床的徴候のない患者の死後に見出される。偶発的レヴィ小体の有病率は、加齢と共に増加する。偶発的レヴィ小体を、PDの発症前に存在すると仮定した。α-シヌクレインは、レヴィ小体の構造成分である。レヴィ小体は、α-シヌクレインを染色し、ほとんどのユビキチンも染色する。
大脳基底核運動回路は、通常の運動に必要な皮質アウトプット(output)を調整する。大脳皮質からのシグナルを、大脳基底核視床皮質運動回路によって処理し、フィードバック経路を介して同一領域に戻す。運動回路からのアウトプットは、淡蒼球の内部セグメント(GPi)および黒質網様部(SNr)に指向する。この阻害アウトプットは、視床皮質経路に指向し、行動を抑制する。
大脳基底核回路内に2つの経路が存在し、これらを直接経路および間接的経路という。直接経路では、線条体からのアウトフロー(outflow)は、GPiおよびSNrを直接阻害する。間接的経路は、線条体と淡蒼球の外部セグメント(GPe)との間およびGPeと視床下核(STN)との間に阻害的連結部を含む。視床下核は、GPiおよびSNrに興奮性の影響を与える。GPi/SNrは、阻害的アウトプットを視床の外側腹側核(VL)に送る。D1受容体を含む線条体ニューロンは、直接経路を構成し、GPi/SNrの方向へ突き出ている。D2受容体を含む線条体ニューロンは、間接的経路の一部であり、GPeの方向へ突き出ている。
直接経路を活性化して間接的経路を阻害するために黒質線条体(SNc)ニューロンからドーパミンを放出させる。PDでは、線条体ドーパミンの減少により、GPi/SNrからの阻害的アウトプットが増加する。視床皮質経路阻害の増加により、行動が抑制される。直接経路を介して、線条体ドーパミン刺激の減少により、GPi/SNrの阻害が減少する。間接的経路を介して、ドーパミン阻害の減少によりGPeの阻害が増加し、STNが抑制される。STNアウトプットの増加により、視床へのGPi/SNrの阻害的アウトプットが増加する。
PDの稀な遺伝性形態により、この障害の分子経路が洞察されている(例えば、Hardy et al., Lancet Neurol. 2, 221-228 (2003)を参照のこと)。少なくとも4つの遺伝子(α-シヌクレイン(PARK1)、パーキン(PARK2)、DJ-1 (PARK7)、およびPTEN(第10染色体上で欠失されたホスホン酸およびテンシンホモログ)誘導性キナーゼ1(PINK1、PARK6としても公知)を含む)の変異がPDに関与している(例えば、Polymeropoulos, et al, Science 276, 2045-2047 (1997); Kitada et al.,Nature 392, 605-608 (1998); Bonifati et al., Science 299, 256-259 (2003);Valente et al., Science 304, 1158-1160 (2004)を参照のこと)。パーキンは、E3リガーゼ(ユビキチン-プロテアソーム系(UPS)による分解のためにターゲティングする特定の基質へのユビキチンの付加を触媒する)である。パーキンは、散発性PDにおける酸化ストレスおよびニトロサティブストレスの標的である。RINGドメイン中のシステイン残基は、タンパク質機能を変化させるニトロサティブ修飾および酸化的修飾に感受性を示す。新規の所見は、パーキンE3リガーゼ活性をNOによって修飾し、それにより環境ストレスがPDの遺伝性形態に類似する分子異常および臨床表現型に関連づけられることを示す(例えば、Chung et al, Science 304, 1328-1331 (2004)を参照のこと)。
いくつかの態様では、本発明の組成物(例えば、SEL-PLEX)を、PD治療のための他の治療介入を使用して投与する。本発明は、PD治療に有用な特定の治療介入に制限されない。いくつかの態様では、本発明の組成物を、PD治療における外科的介入と共に投与することができる。PD治療で有用な外科的介入には、定位手術(例えば、視床切除術、視床脳深部刺激、淡蒼球切除術、淡蒼球刺激、視床直下部切除術、視床下部刺激、およびニューロン移植)が含まれるが、それらに限定されない。いくつかの態様では、本発明の組成物を、PD治療におけるドーパミンプロドラッグと共に投与する。PD治療に有用なドーパミンプロドラッグには、レバドパ/PDIおよびレボドパ/カルビドパ(例えば、シネメット, シネメット CR)が含まれるが、それに制限されるわけではない。ドーパミンを産生するためのL-DOPAの投与などの現在の治療は、症候性のみであり、ニューロンの進行的脱落を停止または遅延しない。実際、いくつかの研究では、ドーパミンを介した酸化的損傷によりニューロンがさらに損傷し得ることが示唆されている(例えば、Xu et al., Nat. Med. 8, 600-606 (2002)を参照のこと)。したがって、いくつかの態様では、本発明の組成物を、PD治療薬(例えば、L-DOPA)および抗酸化剤と投与する。同時投与に適切な抗酸化剤を本明細書中に記載する。
いくつかの態様では、本発明のセレンを含む組成物を、PDの治療においてドーパミンアゴニストと共に投与する。PD治療で有用なドーパミンアゴニストには、アポモルヒネ(例えば、エイポキン)、ブロモクリプチン(例えば、パーロデル)、ペルゴリド(例えば、ペルマックス)、プラミペキソール(例えば、ミラペックス)、およびロピニロール(例えば、レキップ)が含まれるが、それに制限されるわけではない。いくつかの態様では、本発明の組成物を、PD治療においてカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)インヒビターと共に投与する。PD治療で有用なCOMTインヒビターには、トルカポン(例えば、タスマー)およびエンタカポン(例えば、コムタン)が含まれるが、それに制限されるわけではない。いくつかの態様では、本発明の化合物を、PD治療において抗コリン作動薬と共に投与する。PD治療で有用な抗コリン作動薬には、トリヘキシフェニジル(例えば、アーテン、トリヘキシ)、およびベンズトロピンメシレート(例えば、コジェンティン)が含まれるが、それに制限されるわけではない。いくつかの態様では、本発明の化合物を、PD治療においてMAO-Bインヒビターと共に投与する。PD治療で有用なMAO-Bインヒビターには、セレギリン(例えば、エルデプリル)が含まれるが、それに制限されるわけではない。いくつかの態様では、本発明の化合物を、PD治療でアマンタジン(例えば、シンメトレル)と共に投与する。
D.ハンチントン病
いくつかの態様では、本発明の組成物および方法(例えば、SEL-PLEX)を、ハンチントン病の予防的治療および治療的処置で使用する。ハンチントン病(以後、「HD」)は、10,000人の個体が罹患している常染色体優性遺伝性神経変性障害である。これは、ハンチンチン遺伝子中の複数のCAG反復の挿入に起因する。他のpolyQ関連神経変性障害と同様に、これにより、巨大タンパク質ハンチンチン(Htt)のN末端ポリグルタミン(polyQ)が拡大する。疾患重症度は、HDに明白に連結した40を超える反復を有するpolyQストレッチの長さに依存する。polyQ拡大は、線条体および大脳皮質のニューロンが選択的に脱落して有毒機能が獲得されると考えられる。
HDの特性には、不随意運動、痴呆、および挙動の変化が含まれる。HDの神経病理学的性質は新線条体内で起こり、選択的なニューロンの脱落およびアストログリオーシスによって尾状核および被殻の肉眼的萎縮が起こる。顕著なニューロンの脱落は、大脳皮質の深層(deep layer)でも認められる。他の領域(淡蒼球、視床、視床下核、黒質、および小脳を含む)では、病期に依存して萎縮の程度が変化する。
ハンチンチンの機能は、知られていない。通常、細胞質中に存在する。種々の細胞小器官(輸送小胞、シナプス小胞、微小管、およびミトコンドリアを含む)の細胞質表面へのハンチンチンの結合により、神経変性に関連し得る正常な細胞の相互作用の発生の可能性が高まる。変異ハンチンチンのN末端断片が蓄積し、HD患者および種々の動物の脳内およびHDの細胞モデル中の細胞核中に封入体を形成する。
HD患者は、神経学的異常パターンと神経医学的異常パターンとが混合している。舞踏病(度を超え、自発的に運動し、不規則に発症し、無作為に分散し、突発的な状態)は、HDの特性である。舞踏病の重症度は、身ぶりおよび表現の軽度の間欠性誇張を伴う情動不安、手を落ち着きなく動かすこと、および不安定なダンスのような歩き方から日常生活に支障を来たすような連続的な暴力的行動まで様々であり得る。HDのさらなる臨床的特徴には、例えば、運動緩慢、無動症、ジストニー、眼球運動異常、痴呆、鬱病、および他の精神医学的徴候が含まれる。
カルパインは、ハンチントンタンパク質分解および疾患の病理学的性質において重要な役割を果たすプロテアーゼである。カルパインファミリーメンバー(カルパイン-5を含む)は、HD組織培養およびトランスジェニックマウスモデルでレベルが上昇するか活性化される(例えば、J Biol Chem, 279,20211-20220(2004)を参照のこと)。
本発明の組成物および方法を、これらがカルパイン遺伝子の発現レベルを変化させることができるかどうかを決定するために分析した。セレンの種々の形態を含む組成物(例えば、SeM、Sod-sel、およびSEL-PLEX)を対象に投与し、カルパイン遺伝子の発現レベルをモニタリングした。カルパイン-5の発現レベルを、以下の方法での処置によって変化させた:セレノメチオニン(SM)+1.32*、Sod-sel-1.07、SEL-PLEX-1.44*。
いくつかの態様では、本発明のセレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を、HD治療のために使用する。好ましい態様では、本発明は、カルパイン遺伝子の発現が低下するような条件下で、対象にセレンを含む組成物を投与する工程を含む、HD対象の治療法を提供する。いくつかの態様では、カルパイン遺伝子はカルパイン-5である。いくつかの態様では、本発明の組成物を、他のHD治療のための治療薬と共に投与する。本発明は、HD治療に有用な特定の治療薬に限定されるわけではない。いくつかの態様では、HD治療において、セレンを含む組成物を抗痙攣薬と共に投与する。HD治療で有用な抗痙攣薬には、バルプロ酸(例えば、デパコテ、デパケン、およびデパコン)およびクロナゼパム(例えば、クロノピン)などのベンゾジアゼピンが含まれるが、それらに限定されない。いくつかの態様では、HD治療において、セレンを含む組成物を抗精神病薬と共に投与する。HD治療で有用な抗精神病薬には、リスペリドン(例えば、リスパダール)およびハロペリドール(例えば、ハルドール)が含まれるが、それらに限定されない。いくつかの態様では、HD治療において、セレンを含む組成物をラウオルフィアアルカロイドと共に投与する。HD治療で有用なラウオルフィアアルカロイドには、レスペリン(resperine)が含まれるが、それらに限定されない。いくつかの態様では、HD治療において、セレンを含む組成物を抗鬱薬と共に投与する。HD治療で有用な抗鬱薬には、パロキセチン(例えば、パキシル)が含まれるが、それらに限定されない。
E.多発性硬化症
いくつかの態様では、本発明の組成物および方法を、多発性硬化症の治療で使用する。多発性硬化症(MS)は、中枢神経系(CNS)の炎症性脱髄疾患である。単球およびリンパ球の血管周囲性浸潤によって特徴づけられるMS病変は、病理組織標本中で硬化部分として認められるので、用語「斑の硬化症」ともいう。
MSは、ほぼ一定に病変を形成し、身体障害を発症する進行性臨床経過をたどる機能病である。磁気共鳴映像法(MRI)で検出された8〜10個ごとの新規の病変について、典型的には、1個の臨床症状しか証明することができなかった。再発性弛張性MS患者は、年間平均20個の新規の病変を有し、1個または2個が臨床的に悪化する。
MRIの出現により、MSの診断を確認する能力は劇的に改良された。MRIは、脳、脳幹、視神経、または脊髄白質中の種々の位置の高T2シグナル強度の病変を特徴的に示す。典型的な症例では、病変は、室周囲領域で起こり、脳梁で起こり得る。より新しいMRI技術(例えば、磁化移動、流体減衰反復回復(fluid attenuated inversion recovery)(FLAIR)、MR分光法(MRS))により、MSの不均一性、予後、および治療効果に関する重要な情報が得られる見込みがある。
疾患の病因発見における集中的な取り組みにもかかわらず、MSの病原因子は同定されていない。この疾患は、おそらく、分娩後のホルモンの変化によって悪化し得る。MSはいくつかの異なる環境因子によって引き起こされる異種障害であり得ると議論される場合もある。実際、4つのMS発作のうちの1つしかウイルス感染に関連しない。
この疾患は、原発性進行性、再発性弛張、再発性進行性および二次進行性表現型などの異なる形態で存在し得る。この疾患は北半球地方在住の白色人種でより一般的であるので、遺伝的感受性因子が起因し得る。この感受性は、環境因子に加えて、この疾患の開始および維持に影響を与える複雑かつ異種の因子群の一部であり得る。さらに、15歳以前の高リスク領域への移行は、MSの発症リスクが増大することが知られており、環境因子の仮説がさらに支持される。
MSは、脳、脳幹、視神経、および脊髄の実質中でのリンパ球およびマクロファージの脳室周辺浸潤によって特徴づけられる。表面上の接着分子の発現は、これらの炎症性細胞が血液脳関門を貫通する能力の基礎となるようである。電気泳動におけるオリゴクローナルバンドパターンによって証明することができる脳脊髄液(CSF)中の免疫グロブリンG(IgG)レベルの増加により、MSの重要な体液性(すなわち、B細胞活性化)成分が示唆される。実際、抗体産生形質細胞の種々の浸潤度がMS病変中で証明された(画像1を参照のこと)。白質斑組織の分子研究は、インターロイキン(IL)-12(強力な炎症性物質)が初期形成病変中で高レベルに発現することを示した。
米国では、MSの患者数は米国のみで約350,000人である。毎年、約10,000人が新たにMSと診断されている。全世界で100万人より多くが罹患している。MSは、労働年齢群の相当数が能力的に障害を負っている。MS患者は、通常、(特に寝たきりの患者では)MS自体よりもむしろ合併症(反復性感染を含む)によって死亡する。MS患者の平均余命は一般集団よりも7年短い。
MS患者は、北欧系統集団でより頻繁に認められる。疾患重症度を人種差によって説明することもできるかどうかは議論の余地がある。MSの一致率は、一卵性双生児で20〜40%であり、非メンデル性遺伝の素因遺伝因子の存在が示唆される。
MSは、男性よりも女性の方が罹患するが(1.6〜2:1)、この相違の根底は知られていない。この比は、MSの発症年齢が15歳以前または50歳以後の患者でさらに高くなり(3:1)、疾患過程に対するホルモン成分が示唆される。男性は原発性進行性MSを発症する傾向があり、女性はより再発する傾向がある。MSは、最も一般的には、18歳〜50歳の間で罹患するが、任意の年齢群で罹患し得る。
C4d免疫反応性補体活性化乏突起膠細胞(C4d-CAO)がMSで記載されている(例えば、Schwab and McGeer, Experimental Neurology, 174,81-88 (2002)を参照のこと)。C4d-CAOは、300〜500μmの小型のMS斑を描写すると報告している。巨大なMS病変では、補体カスケードのC1q-C9成分に対応する免疫反応性線維が同定され、MS病変と共に補体カスケードの完全な活性化が存在することを示す。C4d-CAOの脱髄領域との関連は、MSの開始事象としての初期補体成分による乏突起膠細胞に対する直接的攻撃を証明した。さらに、不完全な補体活性化により、この工程が可逆的であり得ることを示した(例えば、Schwab and McGeer, Experimental Neurology, 174, 81-88 (2002)を参照のこと)。
薬物療法は、身体障害への進行の遅延、再発率の減少、無再発患者数の増加、および最初の再発までの時間の増加、ならびにMRI病変負荷、萎縮、および「T1ホール」または新規の病変の存在の減少を目指す。したがって、いくつかの態様では、本発明のセレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を、MSの治療および/または防止に使用する。好ましい態様では、本発明は、補体遺伝子の発現が低下するような条件下で、対象にセレンを含む組成物を投与する工程を含む、MS対象の治療法を提供する。いくつかの態様では、補体遺伝子は、C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、および/またはC1qrを含む。いくつかの態様では、本発明の組成物を、他のMS治療の治療薬と共に投与する。本発明は、MS治療に有用な特定の治療薬に限定されるわけではない。いくつかの態様では、セレンを含む組成物を、身体障害への進行を遅延させ、MRIによる新規のMS損傷数を減少させる免疫調節薬(例えば、インターフェロンβ-1a(Avonex)、インターフェロンβ-1a(Rebif)、インターフェロンβ-1b(Betaseron)、酢酸グラチラマー(Copaxone)、およびナタリズマブ(Tysabri))、急性炎症を軽減し、MSの急性憎悪からの回復促進するコルチコステロイド(例えば、メチルプレドニゾロン);免疫応答を抑制するために使用される免疫抑制薬(例えば、ミトキサントロン(Novantrone)、シクロホスファミド(Cytoxan、Neosar))、アザチオプリン(IMURAN)、メトトレキセート(Rheumatrex)と共に投与する。さらなる薬物を使用して、鬱病、痙縮、緊張性痙攣、疲労、泌尿器系機能障害、および勃起障害などの一般的な二次病態を治療することができる。いくつかの態様では、セレンを含む組成物を、上記の薬剤と組み合わせて使用する。
II.認知機能
中枢神経系は、脳および脊髄からなる。体内の全ての他の神経は、末梢神経系を含む。遠心性神経は、中枢神経系から身体の全部分(末梢)へ指令を運ぶ。求心性神経は、末梢神経系から中枢神経系に痛みの強さなどの情報を運ぶ。遠心性神経には以下の2つの型が存在する:骨格筋に向かう体性神経および平滑筋、腺、および心臓に向かう自律神経。電気的活動形態の指令を、神経線維または軸索に沿って伝達する。神経を制御する(支配する)軸索の末端と筋肉または腺との間に、シナプスまたはシナプス間隙と呼ばれる隙間が存在する。伝導した電気的インパルス(活動電位)が神経終末に達した場合、神経伝達物質と呼ばれる化学物質の放出を誘発する。これらの化学物質は、シナプス間隙を横切って拡散し、接合後部膜(postjunctional mambrane)上の特定の構造(受容体)と反応する。次いで、受容体は、活性化または励起されるといわれ、その活性化は一連の化学的事象を誘発し、最終的に筋収縮などの生物学的反応を引き起こす。神経伝達物質の放出、拡散、および受容体活性化を含むプロセスを、集合的に伝達という。多数の伝達型が存在し、その名称が関与する特定の神経伝達物質に由来する。したがって、コリン性伝達は、神経伝達物質であるアセチルコリンの放出およびシナプス後受容体の活性化を含む。受容体に結合して活性化する物はアゴニストと呼ばれる。したがって、アセチルコリンは、全コリン作動性受容体の内因性アゴニストである。
中枢神経系を離れた後、体性神経から骨格筋まではたった1つのシナプス(すなわち、神経終末と筋肉との間を支配するもの)しか持たない。このシナプスでの神経伝達物質はアセチルコリンである。したがって、この筋神経接合部(myo-(for muscle)-neural junction)は、コリン作動性伝達の1つの部位である。接合後部受容体を、運動終板という。自律神経は、体性神経と対照的に、中枢神経系と神経支配構造(終末器官)との間にさらなるシナプスを有する。これらのシナプスは、神経節と呼ばれる構造中に存在し、これらは、神経-末端器官接合部(nerve-to-end organ junction)の代わりに神経-神経接合部(nerve-to-nerve junctions)である。しかし、体性神経と同様に、自律神経も最後に神経-末端器官シナプスを有する。自律神経節中の神経伝達物質もアセチルコリンであるので、これは、別のコリン作動性伝達部位を示す。運動終板および神経節受容体を、外因性に添加したニコチンによって活性化することもできる。したがって、ニコチンは、ニコチン性コリン作動性受容体と呼ばれるコリン作動性受容体の特定のサブファミリーのアゴニストである。
自律神経系には以下の2つの解剖学的および機能的に異なる部(division)が存在する:交感神経部および副交感神経部。2つの部分の節前線維は機能的に同一であり、これらは節後線維中の活動電位を開始させるために神経節中のニコチン性コリン作動性受容体を支配する。したがって、全ての神経節はほとんど同一である。しかし、副交感神経部の節後線維のみがコリン作動性である。交感神経部の節後線維は、一般に、しかし常にではないが、ノルエピネフリンを分泌する。自律神経系の副交感神経部の節後線維によって支配されるコリン作動性受容体を、外因的に添加したムスカリン(毒茸(ベニテングダケ(Amanita muscaria))で少量見出されるアゴニスト)によって活性化することもできる。これらは、ムスカリン性コリン作動性受容体と呼ばれるコリン作動性受容体の第2のサブセットから構成される。
神経節および運動終板中の受容体は共にニコチンに反応するが、これらは実際にはニコチン性受容体の2つの異なる亜群から構成される。コリン作動性受容体の3つの各ファミリーを、内因性アセチルコリンまたは添加したアゴニストによるその活性化を防止するための特定の受容体アンタゴニストによって遮断することができる。したがって、特定の遮断薬は、自律神経系の副交感神経部の節後線維によって支配されるムスカリン性コリン作動性受容体、交感神経および副交感神経節の両方におけるニコチン性コリン作動性、ならびに体性神経系の筋神経接合(運動終板)でのニコチン性コリン作動性受容体が公知である。これらの受容体が遮断された場合、その正常かつ連続的な活性化に関連する進行中の生物活性が失われる。例えば、運動終板の遮断により、全身性弛緩性麻痺が起こる。
自律神経系の交感神経部にはいくつかの異常な線維が存在する。例えば、汗腺に向かう交感神経の節後神経は、ほとんどの他の交感神経線維と同様にアドレナリン作動性の代わりにコリン作動性であり、これらはムスカリン受容体を支配する。副腎に向かう交感神経は、全ての自律神経節のようにニコチン性である受容体を刺激するが、節後線維は存在しない。腺自体は、交感神経の節後線維と類似しているが、神経伝達物質の分泌の代わりに、エピネフリンおよびノルエピネフリンを血流に分泌し、ホルモンとして機能する。これらのホルモンは、体内でアドレナリン作動性受容体を活性化する。中枢神経系中のニコチン性受容体およびムスカリン性受容体は完全に理解されていない。
コリン作動薬は、副交感神経系と同一の効果が得られる薬物である。コリン作動薬は、アセチルコリンと同一の効果が得られる。アセチルコリンは、副交感神経系の最も一般的な神経ホルモン(身体の毎日の働きを担う末梢神経系の一部)である。交感神経系は興奮時に作用し、副交感神経系は、唾液分泌、消化、および筋弛緩などの日常的活動に対応する。
コリン作動薬をいくつかの方法で使用することができる。コリン作動性筋興奮薬を使用して、重症筋無力症(myathenia gravis)(重篤な筋力低下を引き起こす疾患)を診断および治療する。この薬物クラスには、塩化アンベノニウム(Mytelase)、塩化エドロホニウム(Tensilon)、ネオスチグミン(Prostigmine)、およびピリドグスチミナ(Mestincn)が含まれる。これらの薬物は、尿閉のリスクの低下および手術で使用される筋弛緩薬の効果を逆転させるために手術でも広範に使用されている。
コリン作動薬は、緑内障(眼圧の増加によって発症する疾患)の制御でも使用されている。この目的のために使用される最も一般的な薬物は、デメカリウム(Humorsol)およびエクチオフェート(echtiophate)(Phospholine iodide)である。
コリン作動薬は、通常、2つの方法のうちの1つで作用する。アセチルコリンの効果を直接模倣するものもあれば、アセチルコリンエステラーゼの効果を遮断するものもある。アセチルコリンエステラーゼは、天然に存在するアセチルコリンを破壊する酵素である。酵素の遮断により、天然に存在するアセチルコリンはより長く作用する。コリン作動薬は、処方によってのみ利用可能である。これらは、点眼液、カプセル、錠剤、または注射として利用可能である。
認知機能は、特に、MS、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ALSなどのいくつかの疾患で減少または悪化することが証明されている。
MSでは、例えば、最も影響を受ける可能性が高い認知機能は、記憶であるようである。神経変性疾患を有する対象で頻繁に影響をうける他の認知機能には情報処理スピード、実行機能(計画および優先順位づけ)、視空間機能(視覚認知および構成能力の障害)、要約の推理および問題解決、注意および集中力を持続させた注意、ならびに異なる作業課題の間で注意を分ける能力が含まれる。MSで認められる最も厄介な認知障害の1つは、喚語困難(単語が喉まででかかっているが思い出せない経験)である。
認知機能障害または低下の最初の徴候は、僅かであり得る。患者は、仕事または家庭での日常生活において発言するための正しい単語を発見することが困難であるか、何をしたか思い出すことに問題がある場合がある。以前に容易であった決定が、現在はあまり判断できない。しばしば、家族が最初にこの問題に気づき始め、挙動または個人的習慣の変化に気づく。認知機能障害は、家庭および職場での役割遂行に影響を与え得る。認知機能は、老化または投薬によっても影響を受け得る。
実質的な生物学的証拠は、認知機能に対するエストロゲンの重要性を支持する。エストロゲン受容体は、脳全体で同定されており、特に前脳基底部に集中しているようである。前脳基底部は、海馬に対するコリン作動性支配の主な供給源であるので、特に対象となる。コリン作動系が記憶および学習の制御で重要な神経伝達系である一方で、海馬は認知機能を媒介する主な脳の領域である。モデル動物および細胞株を使用した実験では、エストロゲンが認知機能に影響を与え得るいくつかの機構が同定された。
前脳基底部コリン作動性ニューロン(BFCN)は、学習および記憶などの認知機能に関与し、アルツハイマー病(AD)などのいくつかの神経変性疾患が影響を受ける。LIMホメオボックスタンパク質8遺伝子(Lhx8)は、BFCNの適切な発達および維持に重要である(例えば、Mori et al., Eur. J. Neurosci., 19, 3129 (2004)を参照のこと)。
Lhx8遺伝子中にヌル変異を有するマウスは、前脳コリン作動性ニューロンの発達が欠損している(Zhao et al., Proc. Nat. Acad. Sci. 100: 9005 (2003))。Lhx8変異体は、基底核(大脳皮質へのコリン作動性投入の主な供給源)を欠いていた。
本発明の組成物および方法を使用して、Lhx8の認められた発現量は、Se欠損対象と一定のセレン形態(例えば、SeMまたはSod-sel)を投与した対象との間で有意な相違は認められなかった。しかし、対象にSEL-PLEXを含む組成物を投与した場合(例えば、食事性補給物を投与)、Lhx8の発現は、12.9倍上方制御された(p<0.01)(実施例5を参照のこと)。したがって、いくつかの好ましい態様では、本発明は、SEL-PLEXを含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象の神経機能(例えば、コリン作動性神経成長および認知機能に関連する機能)を維持および/または安定化する方法を提供する。好ましい態様では、SEL-PLEXを、Lhx8発現が増強されるような条件下で、対象に投与する。いくつかの好ましい態様では、本発明の組成物および方法を、認知機能消失を予防するための予防的治療として使用する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、認知機能の消失は、前脳基底部のコリン作動性ニューロンの発達の促進または前脳基底部コリン作動性ニューロンの単なる維持(例えば、アポトーシスの欠如)によって起こり得る。いくつかの態様では、SEL-PLEXを含む組成物を、重症筋無力症の治療のために重症筋無力症の疑いのある対象に投与する。いくつかの態様では、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を、重症筋無力症の治療のために他の公知の治療薬(例えば、上記のもの)と組み合わせて同時投与する。さらに他の態様では、本発明は、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物およびコリン作動性筋興奮薬を対象に同時投与する工程を含む、重症筋無力症の予防的治療および/または治療的処置方法を提供する。
別の遺伝子産物(形質転換成長因子β2(TGF-β2))は、発達中の小脳中でニューロン増殖を増加させることが公知である(例えば、Elvers et al., Mechanisms of Development, 122, 587 (2004)を参照のこと)。さらに、TGF-β2は小脳中の顆粒細胞前駆体の成長および生存因子であり、内因性TGF-β2の抗体媒介性中和により小脳顆粒細胞前駆体の増殖が抑制された神経変性が誘導されることが示された。TGF-β2のノックアウト(例えば、欠失)は小脳が発達する前に一定範囲の欠失を発達させて死亡するTGF-β2欠損マウスが有する致死表現型であることも示された(例えば、Sanford et al., Development, 124, 2659 (1997)を参照のこと)。
一定のセレン形態(例えば、SeMまたはSod-Sel)を投与した対象におけるTGF-β2の発現レベルは、コントロールと比較して変化した。しかし、対象にSEL-PLEXを含む組成物を投与した場合(例えば、食事性補給物を投与)、TGF-βの発現は、2.4倍上方制御された(実施例5を参照のこと)。したがって、いくつかの態様では、本発明は、SEL-PLEXを含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象の小脳機能を増加させる方法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、対象へのセレンを含む組成物(例えば、SEL-PLEXを含む毎日の食事性補給物)の投与により、神経活性が増加し(例えば、ニューロンの増殖が増加する)、そして/または神経変性が阻害される。いくつかの好ましい態様では、本発明は、TGF-β発現が増強するような条件下で、SEL-PLEXを含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象の神経機能(例えば、コリン作動性ニューロン成長および機能)を維持および/または安定化する方法を提供する。いくつかの好ましい態様では、SEL-PLEXを含む組成物を、(例えば、神経機能を増強するLhx8およびTGF-βなどの遺伝子の上方制御による)認知機能の消失を防止するための予防的治療として使用する。
III.年齢関連遺伝子発現の遅延
脳の老化により、認知機能および運動技能の障害が起こり、これはアルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)などのいくつかの一般的な神経障害の主な危険因子である。現在の研究により、通常の脳の老化は、大規模なニューロン脱落と対照的に、特定の神経回路での微妙な形態学的変化および機能的変化に関連することが示唆される(例えば、Morrison and Hof, Science 278, 412-419 (1997)を参照のこと)。実際、種々の哺乳動物種の中枢神経系の老化は、錐体ニューロンの萎縮、シナプスの萎縮、線条体ドーパミン受容体の減少、蛍光色素の蓄積、細胞骨格の異常、ならびに反応性星状細胞および小膠細胞などの多数の特徴を共有する(例えば、Finch and Roth, in Basic Neurochemistry (eds Seigel, G., Agranoff, J.B., Albers, W.R.W., Fisher, S.K. & Uhler, M.D.)613-633 (Lippincott-Raven, Philadelphia, 1999を参照のこと)。
CNS老化の仮定機構には、核およびミトコンドリアゲノムの不安定性(例えば、Gaubatz, in Molecular Basis of Aging (ed. Macieira-Coelho, A.) 71-182 (CRC Press, Boca Raton, 1995)を参照のこと)、神経内分泌機能障害(例えば、McEwen, Front. Neuroendocrinol. 20, 49-70(1998)を参照のこと)、活性酸素種の産生(例えば、Sohal and Weindruch,Science 273, 59-63 (1996)を参照のこと)、カルシウム代謝の変化(例えば、Disterhoft et al., Hypothesis of Aging and Dementia (New York Academy of Sciences Press, New York, 1994を参照のこと)、炎症媒介性神経損傷(例えば、Blumenthal, J. Gerontol. Biol. Sci. Med. Sci. 52, B1-B9 (1997)を参照のこと)が含まれる。カロリー制限(哺乳動物における内的老化速度を遅延させることが示されている唯一の介入)(例えば、Weindruch and Walford, The Retardation of Aging and Disease by Dietary Restriction(C.C. Thomas, Springfield, Illinois, 1988)を参照のこと)は、精神運動および空間記憶作業の年齢関連減少を遅延させ(例えば、Ingram et al., J. Gerontol. 42, 78-81 (1987)を参照のこと)、樹状突起棘の年齢関連消失を減少させ(例えば、Moroi-Fetters et al., Neurobiol. Aging 10, 317-322 (1989)を参照のこと)、PDモデルの神経変性を減少させる(例えば、Duan and Mattson, J. Neurosci.Res. 57, 195-206 (1999)を参照のこと)。
脳の老化は、分子レベル(例えば、マウスの新皮質および小脳の老化の遺伝子発現プロフィールによる)で特徴づけられる(例えば、Lee et al., Nature Genetics, 25, 294-297 (2000)を参照のこと)。老化マウスは、炎症反応、酸化ストレス、および神経栄養性支持(neurotrophic support) を示す遺伝子発現を示す。転写レベルでは、マウス脳の老化は、ヒト神経変性障害との類似性を示す(例えば、Lee et al., Nature Genetics, 25, 294-297 (2000)を参照のこと)。
老化マウスでは、補体カスケード遺伝子C4、C1qa、C1qb、およびC1qcの協奏的誘導が認められた(例えば、Lee et al., Nature Genetics, 25, 294-297 (2000)を参照のこと)。本明細書中に記載のように、これらの遺伝子は、炎症および細胞溶解に関与する体液性免疫系の一部である。炎症性ペプチド断片が産生される脳内の補体タンパク質の産生は、卒中に関連する神経損傷に寄与し(例えば、Huang et al., Science 285, 595-599(1999)を参照のこと)、老化ラットの線条体で認められた(例えば、Pasinetti et al., Synapse 31, 278-284 (1999)を参照のこと)。
さらに、カテプシンD、S、およびZをコードする遺伝子の協調誘導が老化マウスで認められた(例えば、Lee et al., Nature Genetics, 25, 294-297 (2000)を参照のこと)。カテプシンは、リソソームタンパク質分解系の主な構成要素である。カテプシンは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のアミロイドβ-ペプチドへのプロセシングに関与し、アルツハイマー病患者の脳で誘導される(例えば、Lemere et al., Am. J. Pathol. 146, 848-860 (1995)を参照のこと)。
老化は、酸化物生成の増加に関連することが周知である(例えば、Peinado et al., Anat Rec, 247, 420 (1997)を参照のこと)。例えば、高活性酸素種(ROS)は、広範な細胞損傷(DNA損傷、脂質過酸化、細胞内酸化還元均衡の変化、および酵素の不活化を含む)を促進する。ROSからの防御における重要な主役となる機構は、種々の反応による酸化ストレスの副産物から防御するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)ファミリーによって実施される(例えば、Hayes et al., Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 45, 51, (2004)を参照のこと)。
したがって、いくつかの好ましい態様では、本発明は、補体関連遺伝子発現が低下するような条件下で、SEL-PLEXを含む組成物(例えば、SEL-PLEXを含む食事性補給物)を対象に投与する工程を含む、対象の補体関連遺伝子(例えば、C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、またはC1qr)の年齢関連発現を遅延させる方法を提供する(実施例10を参照のこと)。いくつかの態様では、本発明は、補体遺伝子(例えば、C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、またはC1qr)の発現が低下するような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を卒中リスクのある対象(例えば、高齢者)に投与する工程を含む、卒中の予防的治療または治療的処置を提供する。他の好ましい態様では、本発明は、カテプシン遺伝子発現が低下するような条件下で、SEL-PLEXを含む組成物(例えば、SEL-PLEXを含む食事性補給物)を対象に投与する工程を含む、対象のカテプシン遺伝子発現(例えば、カテプシンD、カテプシンS、またはカテプシンZ)の年齢関連発現を遅延させる方法を提供する(実施例10を参照のこと)。いくつかの態様では、本発明は、患者のアルツハイマー病症状が減少するような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物をアルツハイマー病患者に投与する工程を含む、アルツハイマー病患者の治療法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物のアルツハイマー病対象への投与により、カテプシン遺伝子発現(例えば、カテプシンD、カテプシンS、またはカテプシンZ)の低下によってアルツハイマーに関連する症状が軽減する。いくつかの態様では、本発明の組成物および方法を、年齢関連遺伝子発現を防止するための予防的治療として使用する。いくつかの態様では、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を、老化を防止する(例えば、年齢関連遺伝子発現を低下させる)ためにカロリー制限された食事と組み合わせて対象に投与する。いくつかの好ましい態様では、本発明は、Lhx8発現が増強および/または上昇するような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を対象に投与する工程を含む、年齢に関連する神経回路の変化(例えば、上記)を変化させる方法を提供する(実施例6を参照のこと)。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、Lhx8発現の増強および/または上昇により、前脳基底部コリン作動性ニューロン(BFCN)レベルを維持するために適切な発達および/または作業が刺激される。
カロリー制限食に応答して一定の転写因子が有意に上方制御され、それ自体が老化を抑制することがさらに示された(例えば、Lee et al., Nature Genetics, 25, 294-297 (2000)を参照のこと)。例えば、神経発達に関与すると提案されているホメオボックス(Hox)転写因子が下方制御された。本発明の組成物および方法を使用して、いくつかのHox転写因子がセレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を投与された対象で上方制御されることが理解された。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、Hox因子発現の増強および/または上昇は、老齢対象において正常な神経活性を維持するように機能する。
IV.内分泌系および糖尿病
本発明のいくつかの態様では、本発明の組成物および方法を糖尿病の治療で使用する。真性糖尿病は、その破壊的合併症の発症を制限し、かつ合併症が発症した場合にこれを管理するための長期間の医学的配慮が必要な慢性疾患である。これは過度に高額な費用がかかる疾患であり、2002年に米国で糖尿病と診断された患者は6.2%(すなわち、1820万人)を占めた。この年の糖尿病患者の1人あたりの医療費は、13,243ドルであり、糖尿病でない人では2560ドルであった。
2つの真性糖尿病型は、1型および2型である。1型糖尿病は、膵島細胞の壊死およびインスリン分泌の完全な欠如によって特徴づけられる自己免疫疾患である。1型糖尿病患者は、インスリンに依存する。合併症は、2型糖尿病に対する以下に記載の合併症に類似している。唯一の治療法は、インスリン注射である。
2型真性糖尿病は、以前は成人発症糖尿病と呼ばれていた。現在、小児における肥満症の流行および無活動により、2型糖尿病は非常に若年で発症する。2型糖尿病は、典型的には、40歳を超える個体で発症するが、糖尿病の家族歴を有する2歳の若い小児が糖尿病と診断された。
2型糖尿病は、様々な重症度のインスリン分泌欠損症を有する末梢インスリン耐性によって特徴づけられる。2型糖尿病の発症には、両欠損が存在しなければならない:全ての過体重個体はインスリン耐性を示すが、インスリンのβ細胞集団を増加させる能力がない個体のみが糖尿病を発症する。正常なグルコース耐性から異常なグルコース耐性へと進行することにより、食後の血糖値が最初に増加する。最終的には、肝臓での糖新生が増加し、空腹時高血糖症になる。
2型糖尿病を発症した患者の約90%が肥満症である。2型糖尿病患者は幾らかの内因性インスリンの分泌能力を保持するので、いくつかの理由でインスリン摂取を停止させた場合、インスリン摂取患者はDKAを発症しない。したがって、この患者はインスリンを必要とすると考えられるが、インスリンに依存しない。さらに、2型糖尿患者は、しばしば、体重が減少した場合、抗糖尿病薬またはインスリンでの治療を必要としない。
若年発症の成人型糖尿病(MODY)は、25歳より若い個体で発症する同一家族の多数の世代が影響を受ける2型糖尿病の形態である。いくつかの型が存在する。いくつかの原因遺伝子を、市販のアッセイ法を用いて検出することができる。
妊娠糖尿病(GDM)は、妊娠中に発症するかまずは認識される、任意の程度の耐糖能低下として定義される。GDMは、米国の全妊婦の約4%で起こる合併症であるが、研究した集団によってはこの比率は1〜14%であり得る。未治療のGDMでは、巨人症、低血糖症、低カルシウム血症、および高ビリルビン血症を誘発し得る。さらに、GDMの母親の帝王切開分娩および慢性高血圧症の比率が増加した。GDMをスクリーニングするために、妊娠24〜28週で50gのグルコーススクリーニング試験を行うべきである。スクリーニングから1時間後の患者の血漿グルコース濃度が140mg/Lを超える場合、次に100gで3時間の経口グルコース耐性試験を行う。
米国で約1300万人が糖尿病と診断されており、別の500万人は糖尿病の診断が未確定である。約10%が1型糖尿病であり、残りが2型である。
糖尿病に関連する罹患率および死亡率は、短期および長期の合併症に関連する。合併症には、低血糖症および高血糖症、感染症リスクの増加、微小管合併症(例えば、網膜症、腎症)、神経障害性合併症、および太い血管の疾患(macrovascular disease)が含まれる。
糖尿病は、20〜74歳の成人における失明の主な原因であり、非外傷性下肢切断および末期腎疾患(ESRD)の主要な原因である。
2型真性糖尿病は、非ヒスパニック系白人よりもヒスパニック系、ネイティブアメリカン、アフリカ系アメリカ人、およびアジア/太平洋諸島系でより有病率が高い。罹患率は、本質的に、全人口で男女で同等である。より長寿になり、かつ老化と共に糖尿病の有病率が増加するので、2型糖尿病は一般的になりつつある。2型糖尿病は、小児肥満症の有病率の増加に関連して、若年層で以前よりも頻繁に認められる。2型糖尿病は依然として通常は40歳またはそれ以上の成人で発症しているにもかかわらず、疾患の罹患率は、他の年齢群よりも青年期および若年成人でより急速に増加している。
ニューロゲニン3(neurogenin 3)(Neurog3)は、膵臓内分泌部の分化における重要な転写因子である。Neurog3は、インスリン遺伝子発現の活性化経路の重要部分であり、グルコース耐性を改善するための一助となる(例えば、Watada, Endocrine Journal, 51, 255 (2004)を参照のこと)。正常レベル未満のNeurog3(例えば、過小発現)は、一定の糖尿病型で役割を果たすと考えられる(例えば、Lee et al., Genes Dev. 16: 1488 (2002)を参照のこと)。
Fingerstickグルコース試験は、事実上全ての糖尿病患者の診断で適切である。200 mg/dLを超える確証的ランダム血漿グルコースレベルを有する制御不良の糖尿病の症状(例えば、多尿症、多飲多渇症、夜間頻尿、疲労、体重減少)を有する患者を糖尿病と診断することができる。
ランダム血清グルコースレベルが糖尿病を示唆する無症候性患者では、空腹時血漿グルコース(FPG)濃度を測定すべきである。経口グルコース耐性試験は、もはや糖尿病の日常的診断に推奨されていない。2つの異なる状況での126mg/dLを超えるFPGレベルを糖尿病と診断する。110〜125mg/dLのFPGレベルを、IFG障害と見なす。110mg/dL未満のFPGレベルを正常なグルコース耐性と見なすが、90mg/dLを超える血糖値は、他の特徴が認められる場合、代謝症候群のリスクが高さと関連し得る。
膵島細胞の自己抗体は、初期1型糖尿病で認められるが、2型糖尿病で認められない。診断から6ヶ月以内のこれらの自己抗体の測定は、1型および2型糖尿病の区別を補助することができる。
ほとんどの糖尿病患者は2型糖尿病であり、これらのほとんどは診断時に無症候である。これらの患者の最初の治療は、医学的栄養療法試験(MNT、食事療法)である。したがって、無症候患者で偶然にEDにおける血糖値の増加が見出された場合、患者の主治医は追跡することができる。制御が不十分で以前に診断されていない糖尿病の軽度の症状を有する患者を、通常、外来患者として低用量のスルホニル尿素剤またはメトホルミンで最初に治療することができる。
新規に発見された2型糖尿病および400mg/dLを超えるグルコースレベルの著しい症状を示す患者の治療は議論の余地がある。周到な追跡を準備することができる場合、最大用量のスルホニル尿素剤を開始することができ、かつ外来患者として治療することができる。患者は、一般に、1〜2日でより気分が良くなり、1週間で血糖値が著しく低下する。患者のスルホニル尿素用量を、MNTに従うにつれて減少させることができ、患者によっては食事のみによって糖尿病を制御することができる。適量の流体を嚥下することができない患者、重篤な共存する病状(例えば、心筋梗塞(MI)、全身性感染)を有する患者、および信頼できる追跡ができない患者を、一般に、治療開始のために入院させるべきである。
経口抗糖尿病治療の目的は、血糖値を正常付近(90〜130mg/dLまたは80〜140mg/dLの空腹時レベルおよび7%未満のHbA1Cレベル)に低下させて患者の生存期間中この範囲を維持することである。無症状または軽度の症状を有する患者を、最初にMNT(食事療法)で治療し、治療中MNTを勧めるべきである。患者が中程度から顕著な糖尿病の症状を示した場合、薬物投与を開始する。
2型糖尿病は、インスリン抵抗性を低下させ、かつβ細胞の機能を増大させることを目的とする。多くの患者では、β細胞の機能障害が長期間で悪化し、外因性インスリンが矯正される。2型糖尿病患者はインスリン抵抗性およびβ細胞機能障害両方を示すので、インスリン感受性を増加させるための経口薬(例えば、メトホルミン、チアゾリジンジオン(TZD))を、しばしば、就寝時に中時間作用性インスリン(例えば、プロタミン含有中間型インスリン(neutral protamine Hagedorn)(NPH))と共に投与するか午前中もしくは夕方に長時間作用性インスリン(例えば、グラルギン(ランタス)インスリン、インスリンデテミル(レベミル))と共に投与した。空腹時インスリン分泌を増加させるために、スルホニル尿素剤などのインスリン分泌促進薬を投与することもできる。
薬物には、グルコース依存性インスリン分泌を模倣し、グルカゴン分泌の上昇を抑制し、胃排出を遅延させるインクレチン模倣物(例えば、エクセナチド(バイエッタ))、残存β細胞機能を有する患者の膵臓β細胞からのインスリン分泌の増加によってグルコースを減少させるスルホニル尿素剤(例えば、クロロプロパミド、トルブタミド、トラザミド、アセトヘキサミド、グリブリド、グリピジド、およびグリメピリド)、短時間作用性分泌促進薬であるメグリチニド(例えば、レパグリニド(プランジン))、肝臓糖新生の減少(一次効果)および末梢インスリン感受性の増加(二次効果)によってインスリンの感受性を増加させるビグアニド(例えば、メトホルミン(グルコファージ))、α-グルコシダーゼの作用(炭水化物消化)を阻害し、食後血糖値のピークを遅延および軽減するα-グルコースインヒビター(AGI)(例えば、アカルボース(プレコース)、ミグリトール(グリセット))、おそらく遊離脂肪酸レベルに影響を与えるグルコース取り込みの増加を補助する核タンパク質転写の増加によって末梢インスリン感受性を増加させるチアゾリジンジオン(例えば、ピオグリタゾン(アクトス)、ロシグリタゾン(アバンディア)、胃排出の遅延、食後グルカゴン放出の減少、および食欲の調整によって内因性アミリンに影響を与えるアミリンアナログ(例えば、酢酸プラムリンチド(シムリン))が含まれる。いくつかの態様では、SEL-PLEXを、上記薬剤と組み合わせて使用する。
本発明の組成物および方法を使用して、SEL-PLEXを含む組成物を投与した対象でNeurog3発現が1.7倍に有意に上方制御されるのに対して、SeMまたはSod-sel治療を行った対象ではNeurog3発現は有意に変化しないことが確定された(実施例6を参照のこと)。
したがって、いくつかの好ましい態様では、本発明は、対象中でNeurog3の発現が変化する(例えば、増強する)ような条件下で、SEL-PLEXを含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象(例えば、糖尿病の対象)を治療する方法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、SEL-PLEXを含む組成物の糖尿病対象への投与により、Neurog3発現の上方制御を介して対象のグルコース耐性が緩和される。いくつかの態様では、本発明は、一つまたは複数の他の薬剤(例えば、バナジウムまたは上記の薬剤)と共にSEL-PLEXを含む組成物を対象に投与する工程を含む、糖尿病対象の治療法を提供する。いくつかの態様では、本発明は、Neurog3発現が増強するような条件下で、セレンを含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象のNeurog3発現を増強する方法を提供する。好ましい態様では、セレンを含む組成物は、SEL-PLEXを含む。SEL-PLEXを含む組成物はまた、セレンの他の形態(例えば、Sod-sel)を含み得る。
V.セレンを含む組成物および製剤
栄養セレンレベルは、FDAによって確立されている(21 C.F.R.101.9(c)(8)(iv), January 1994を参照のこと)。ヒトおよび動物は、一定限度の量の無機および有機形態のセレンを安全に代謝することができ、非メチル化セレンをモノメチル化誘導体またはジメチル化誘導体またはトリメチル化誘導体に変換することができ、モノメチル化誘導体が最も有毒である。(例えば、Bedwal, R.S., et al., Medial Hypoteses, 41 (2):150-159 (August 1993)を参照のこと)。FDAは、セレンについて70μgの1日あたりの標準摂取量(RDI)を承認している。1日あたり600μgのセレン投薬量が安全であると報告されている。(例えば、Ferris G.M. Lloyd, et al., App. Clin. Biochem., 26:83-88 (1989)を参照のこと)。ほぼこの投薬量で、通常の酵素活性のグルタチオンレダクターゼは、肝臓および赤血球中でセレノグルタチオンをセレン化水素に安全に変換し、最後に排出される。したがって、このようなより低い投薬量では、遊離金属形態で存在するセレンを体内で安全に代謝および排出することができる。しかし、多数の微量元素(例えば、セレン)と同様に、より高い投薬量または濃度では有益な効果は逆転し、危険な毒性が出現する。(例えば、Furnsinn, C. et al., Internat'l J. of Obesity and Related Metab. Dis., 19(7):458-463 (1995)を参照のこと)。
したがって、比較的低濃度で投与する場合、セレンは有益な健康への効果を示すが、より高い濃度では、セレンは劇的な毒性を示し、その結果潜在的な健康への効果が失われ、毒性が一番の懸念となるので、自然形態のセレンの投与は、科学的および医学的矛盾を含む。
上記のように、本発明は、一定のセレン形態(例えば、SEL-PLEX)が対象に有益な効果をもたらすことができるが、他のセレン形態(例えば、セレノメチオニン)ではできないことを最初に証明する。本発明は、複数のセレン形態の使用を意図する。セレンの供給源は、合成または天然の供給源であってよく、セレンは有機または無機であってよい。この証拠は、有機形態のセレン(例えば、セレノメチオニンおよびセレン強化酵母)は、無機形態よりも毒性が低く、かつ良好に吸収され得ることを示した(例えば、Mahan, Proceedings of the 15th Annual Symposium Nottingham University Press, Nottingham, UK, pp. 523-535 (1999)を参照のこと)。本明細書に記載するように、対象中の治療されると考えられる標的(例えば、神経変性疾患または他の疾患に関与する遺伝子発現)に依存して、複数のセレン形態を単独または互いに組み合わせて使用することができる。セレンの天然の供給源には、セレン強化(例えば、セレン化)酵母が含まれるが、それらに限定されない。使用される酵母株は制限されるわけではない。
本発明の一定の好ましい態様では、SEL-PLEX(Alltech, Lexington, KY)は、製剤および組成物に最適なセレン形態である。いくつかの態様では、SEL-PLEXを含む組成物は、他のセレン形態と比較してより生物学的に許容される形態を提供する(実施例9を参照のこと)。しかし、他のセレン形態(SEL-PLEXの誘導体もしくは修飾物を含む)または他のセレン形態(セレン強化酵母、セレノメチオニン、セレノシステイン、亜セレン酸化合物、セレン酸化合物、またはその誘導体、塩、もしくは修飾物)も本発明で適用することができる。したがって、いくつかの好ましい態様では、これらの各セレン形態を、製剤の成分として使用することができる。または、上記の各セレン形態を、薬物または治療薬(例えば、アルツハイマー病治療薬)に結合させて(例えば、化学的または物理的に)、セレン-薬物誘導体を形成することができる。さらに、組成物および製剤は、1つの形態またはセレンに制限されるわけではない。実際、組成物または製剤は、複数のセレン形態(例えば、SEL-PLEXおよびSod-sel)を含み得る。
本発明の種々の態様で適用される他のセレン形態は、米国特許第6,911,550号、第6,197,295号、第5,221,545号、6および第6,576,233号、ならびに米国特許出願第20010043925号、第20050069594号、および第20050089530号(その全体が参照により本明細書に組み入れられる)に記載されている。
したがって、本発明は、一つまたは複数のセレン形態を単独または少なくとも1つの他の薬剤(安定化化合物またはアルツハイマー治療薬など)と組み合わせて含むことができ、任意の滅菌生体適合性薬学的キャリア(生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、および水が含まれるが、それらに限定されない)中で投与することができる薬学的組成物を提供する。
本発明の方法は、疾患の治療(例えば、予防的または治療的)または生理学的状態の変化に適用される。セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む生理食塩水などの薬学的に許容されるキャリアを対象(例えば、患者)に静脈内投与することができる。化合物の標準的な細胞内送達方法を使用することができる(例えば、リポソームを介した送達)。このような方法は、当技術分野において周知である。本発明の製剤は、静脈内、皮下、筋肉内、および腹腔内などの非経口投与に有用である。
医学分野で周知であるように、任意の1つの対象の投薬量は、多数の要因(患者のサイズ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与時間および経路、一般的な健康状態、ならびに同時に投与される他の薬物との相互作用を含む)に依存し得る。
したがって、本発明のいくつかの態様では、セレンを含む組成物および/または製剤を、単独または他のセレン形態、薬物、小分子と組み合わせるか、賦形剤または薬学的に許容されるキャリアと混合した薬学的組成物で対象に投与することができる。本発明の1つの態様では、薬学的に許容されるキャリアは薬学的に不活性である。本発明の別の態様では、セレンを含む組成物を、単独で個体または疾患もしくは病態(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、糖尿病など)に罹患している対象に投与することができる。セレンを含む組成物(例えば、SEL-PLEX単独または一つもしくは複数のセレン形態との組み合わせ)を、毎日の消費のために栄養ドリンクまたは食品(例えば、ENSUREまたはPOWERBARなど)、マルチビタミン、栄養製品、食品などに添加することができる。
治療によって変化すると考えられる標的(例えば、老化に関連する遺伝子発現)に依存して、これらの薬学的組成物を処方し、全身または局所に投与することができる。処方および投与技術を、「Remington's Pharmaceutiical Sciences」(Mack Publishing Co, Easton Pa.)の最新版で見出すことができる。適切な経路には、例えば、経口または経粘膜投与および非経口送達(筋肉内、皮下、脊髄内、髄腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、または鼻腔内への投与を含む)が含まれ得る。
注射のために、本発明の薬学的組成物を、水溶液、好ましくは生理学的に適合可能な緩衝液(ハンクス液、リンゲル液など)、または生理学的緩衝化生理食塩水中に処方することができる。組織または細胞投与のために、浸透すべき特定の障壁に適切な浸透剤を製剤中で使用することができる。このような浸透剤は、一般に、当技術分野において周知である。
他の態様では、本発明の薬学的組成物を、経口投与に適切な投薬量で当技術分野において周知の薬学的に許容されるキャリアを使用して処方することができる。このようなキャリアは、薬学的製剤を、治療すべき患者による経口または鼻腔内摂取のために、錠剤、丸薬、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、および懸濁液などに処方することができる。
本発明での使用に適切な薬学的組成物には、意図する目的を達成するための有効量で有効成分が含まれる組成物が含まれる。例えば、有効量の薬物は、特定の遺伝子(例えば、Lhx8、プレセニリン1、プレセニリン2、またはApbb1)の発現を変化させる量で存在し得る。有効量の決定は、特に本明細書に提供された開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
有効成分に加えて、これらの薬学的組成物は、活性化合物の薬学的に使用することができる調製物への処理を促進する賦形剤および助剤を含む適切な薬学的に許容されるキャリアを含み得る。経口投与のために処方された調製物は、錠剤、糖衣錠、カプセル、または溶液の形態であり得る。
本発明の薬学的組成物を、それ自体が公知の様式(例えば、従来の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠作製、摩砕、乳化、カプセル化、捕捉、または凍結乾燥プロセスの手段による)で製造することができる。
非経口投与のための薬学的製剤には、水溶性形態の活性化合物の水溶液が含まれる。さらに、活性化合物の懸濁液を、適切な油性注射懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒または媒質(vehicle)には、ゴマ油などの脂肪油またはオレイン酸もしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームが含まれる。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなどの懸濁液の粘度を増加させる物質を含み得る。任意で、懸濁液はまた、適切な安定剤または高度に濃縮した溶液を調製するための化合物の溶解性を増加させる薬剤を含み得る。
経口用の薬学的調製物を、活性化合物をと固体賦形剤との混合、任意では、得られた混合物の摩砕、および所望ならば錠剤または糖衣錠のコアを得るための適切な助剤添加後の顆粒混合物の処理によって得ることができる。適切な賦形剤は、糖(ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む)などの炭水化物またはタンパク質の充填剤;トウモロコシ、コムギ、コメ、ジャガイモなど由来のデンプン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース;ガム(アラビアガムおよびトラガカントガムを含む);ならびにゼラチンおよびコラーゲンなどのタンパク質である。所望ならば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、またはそれらの塩などの崩壊剤または可溶化剤を添加することができる。
アラビアガム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル(carbopol gel)、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、ならびに適切な有機溶媒もしくは溶媒混合物も含み得る濃縮糖溶液などの適切なコーティングを使用して糖衣錠コアが得られる。製品の区別または活性化合物の量(すなわち、投薬量)を特徴づけるために、錠剤または糖衣剤に染料または色素を添加することができる。
経口で使用することができる薬学的調製物には、ゼラチンから作製した押し込み型のカプセルならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどのコーティングから作製した軟性密封カプセルが含まれる。押し込み型カプセルは、ラクトースまたはデンプンなどの充填剤または結合剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および任意に安定剤と混合した有効成分を含み得る。軟カプセルでは、活性化合物を、安定剤を含むか含まない脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体中に溶解または懸濁することができる。
薬学的に許容されるキャリア中に処方された本発明の化合物を含む組成物を、適切なコンテナに入れ、表示の病態の治療に向けてラベリングする。セレンを含む組成物または製剤のために、ラベル上に表示した病態には、神経変性疾患または認知機能の予防的治療または治療的処置が含まれ得る。
薬学的組成物を塩として提供することができ、多数の酸(塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、シュウ酸などが含まれるが、それらに限定されない)を使用して形成することができる。塩は、対応する遊離塩基形態である水性溶媒または他のプロトン性溶媒でより溶解性が高い傾向がある。他の場合、好ましい調製物は、使用前に緩衝液と組み合わせるpH範囲が4.5〜5.5の1mM〜50mMヒスチジン、0.1%〜2%スクロース、2%〜7%マンニトールを含む凍結乾燥粉末であり得る。
本発明の方法で使用される任意の化合物のために、治療有効用量を、細胞培養アッセイから最初に評価することができる。次いで、好ましくは、望ましい循環濃度範囲を達成するためにモデル動物(特に、マウスモデル)における投薬量を処方する。
治療有効用量は、(例えば、遺伝子発現の変化によって)疾患状態または病態の症状を緩和または防止する量をいう。このような化合物の毒性および治療有効性を、例えば、LD50(集団の50%が死滅する用量)およびED50(集団の50%で治療有効性を示す用量)の決定のための細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定することができる。毒作用と治療効果との間の用量比は治療指数であり、LD50/ED50比として示すことができる。治療係数の高い化合物が好ましい。これらの細胞培養アッセイおよびさらなる動物研究から得たデータを、ヒトで使用するための投薬量の一定範囲を処方する際に使用することができる。このような化合物の投薬量は、好ましくは、毒性がほとんどないか全くないED50を含む一定範囲の濃度内に含まれる。投薬量は、使用される投薬形態、患者の感受性、および投与経路に依存してこの範囲内で変化する。
治療を受ける患者を考慮して対象または医師によって正確な投薬量を選択することができる。十分なレベルの活性部分を得るため、または望ましい効果(例えば、対象の遺伝子発現の変化)を保持するためには、投薬量および投与を調整する。考慮することができるさらなる要因には、病態の重症度;患者の年齢、体重、および性別;食事、投与の時間および頻度、薬物の組み合わせ、反応感受性、ならびに治療耐性/応答が含まれる。長時間作用性薬学的組成物を、特定の製剤の半減期およびクリアランス率に依存して3〜4日、毎週、または2週間に1回投与することができる。
いくつかの態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を、25μg/日から800μg/日の間の1日量で投与する(例えば、毎日対象に25μgから800μgの間のセレンを提供するように、SEL-PLEXを対象に投与する)。好ましい態様では、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を、200μg/日から500μg/日の間の1日量で投与する。他の好ましい態様では、セレンを、200μg/日から400μg/日の間の1日量で投与する。25μgから800μgの間以外の用量を使用してもよい。いくつかの態様では、単回用量のセレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を、1日1回投与する。他の態様では、1日に、2回、3回、4回、またはそれ以上投与することができる(例えば、朝1回および夜1回または4〜6時間毎に1回)。例えば、いくつかの態様では、セレンを、3回、3回より多く、2回、または2回未満で対象に投与する。いくつかの好ましい態様では、1日量を、持続放出カプセルで投与する。いくつかの好ましい態様では、1日量は、25〜75μgのセレンである。他の好ましい態様では、200μgのセレン(有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))である。
本発明の薬学的組成物を、局所または全身治療が望ましいかどうかおよび治療領域に既存して、種々の方法で投与することができる。投与は、局所(眼および粘膜(膣および直腸送達を含む)を含む)、肺(例えば、粉末またはエアゾールの吸入または吹送(噴霧器を含む)、気管内、鼻腔内、上皮、および経皮)、経口、または非経口であり得る。非経口投与には、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、もしくは筋肉内への注射もしくは注入;または頭蓋内(例えば、髄腔内または脳室内)への投与が含まれる。セレンを含む組成物および製剤は、経口投与に特に有用であると考えられる。
局所投与のための薬学的組成物および製剤には、経皮パッチ、軟膏、ローション、クローム、ゲル、点滴薬、座剤、スプレー、液体、および粉末が含まれ得る。従来の薬学的キャリア、水性、粉末、または油性基剤、および増粘剤などが、必要であるか、または望ましい。
経口投与のための組成物および製剤には、粉末もしくは顆粒、懸濁液もしくは水溶液もしくは非水性溶剤、カプセル、サシェ、または錠剤が含まれる。増粘剤、香味剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤、または結合剤が望ましい。
非経口、髄腔内、または脳室内投与のための組成物および製剤には、緩衝液、希釈剤、および他の適切な添加剤(浸透増強剤、キャリア化合物、および他の薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤などであるが、それらに限定されない)も含み得る滅菌水溶液が含まれ得る。
したがって、いくつかの態様では、本発明の薬学的組成物には、溶液、乳濁液、およびリポソーム含有製剤が含まれるが、それらに限定されない。これらの組成物を、種々の成分(予備成形脂質、自己乳化固体、および自己乳化半固体が含まれるが、これに限定されるわけではない)から生成することができる。
単位投薬形態で都合良く存在し得る本発明の薬学的製剤を、製薬産業で周知の従来技術にしたがって調製することができる。このような技術は、有効成分を薬学的キャリアまたは賦形剤と組み合わせる工程を含む。一般に、有効成分と液体キャリアもしくは微粉化固体キャリアまたはその両方との均一かつ十分な組み合わせおよび必要に応じた生成物の成形によって製剤を調製する。
したがって、いくつかの態様では、本発明の組成物を、任意の多くの可能な投薬形態(錠剤、カプセル、液体シロップ、ソフトゲル、座剤、および浣腸剤などであるが、それらに限定されない)に処方することができる。本発明の組成物を、液体、半液体、または混合溶剤中での懸濁液として処方することもできる。水性懸濁液は、さらに、懸濁液の粘度を増加させる物質(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、および/またはデキストランを含む)を含み得る。懸濁系はまた、安定剤を含み得る。
本発明の1つの態様では、薬学的組成物を処方し、泡沫(foam)として使用することができる。薬学的泡沫には、乳濁液、マイクロエマルジョン、クリーム、ゼリー、およびリポソームが含まれるが、それらに限定されない。本来は基本的に類似するが、これらの製剤は最終生成物の成分および粘稠度が様々である。
本発明の組成物は、さらに、薬学的組成物中で従来見出される補助成分を含み得る。したがって、例えば、組成物は、さらなる適合性を示す薬学的に活性な物質(例えば、止痒薬、収斂薬、局所麻酔薬、または抗炎症薬など)を含み得るか、本発明の組成物の種々の投薬形態の物理的処方に有用なさらなる物質(色素、香味剤、防腐剤、抗酸化剤、乳白剤、増粘剤、および安定剤など)を含み得る。しかし、このような物質は、添加した場合、本発明の組成物の成分の生物活性を過度に妨害すべきではない。製剤を滅菌し、所望ならば、製剤の核酸に悪影響を与えない助剤(例えば、潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与える塩、緩衝液、着色料、香味剤、および/または芳香族物質など)と混合することができる。
いくつかの態様では、本発明は、(a)一つまたは複数のセレン形態(例えば、SEL-PLEXおよび/またはSod-sel)および(b)一つまたは複数の他の薬剤(例えば、アルツハイマー病治療薬)を含む薬学的組成物を提供する。このようなアルツハイマー病治療薬の例を上に記載する。いくつかの態様では、2つまたはそれ以上の組み合わせ薬(例えば、アルツハイマー病治療薬)を、同時または連続的に使用することができる。
本発明には、本明細書に記載のセレンを含む化合物と一つまたは複数のさらなる活性剤(例えば、アルツハイマー病治療薬、抗酸化剤など)とを同時に投与する工程も含まれる。実際、本発明のさらなる態様は、本発明のセレンを含む組成物の同時投与によって先行技術の治療薬および/または薬学的組成物を増強する方法を提供することである。同時投与手順では、薬剤を同時または連続的に投与することができる。1つの態様では、本明細書に記載の化合物を、他の活性剤の前に投与する。薬学的製剤および投与様式は、上記の任意のものであり得る。さらに、2つまたはそれ以上の同時投与薬剤を、異なる様式または異なる製剤を使用してそれぞれ投与することができる。
同時投与される薬剤は、治療を受ける病態の型に依存する。例えば、治療を受ける病態が神経変性疾患である場合、さらなる薬剤は、アルツハイマー病治療薬、ALS治療薬、またはハンチントン病治療薬などであり得る。治療をうける病態が糖尿病である場合、さらなる薬剤は糖尿病治療薬であり得る。治療を受ける病態が認知機能である場合、さらなる薬剤は抗酸化剤であり得る。アルツハイマー病治療薬、糖尿病治療薬、または抗酸化剤などの同時投与されるさらなる薬剤は、当技術分野において周知の任意の薬剤(現在臨床で使用されている薬剤が含まれるが、それらに限定されない)であり得る。
本明細書に記載されている種々の疾患および障害は、しばしば以下の2つの主要な要因によって制限される:(1)薬物耐性の発生、および(2)公知の治療薬の毒性。いくつかの治療薬は、有害な副作用(非特異的リンパ球毒性および腎毒性を含む)を示す。
本明細書に記載の方法は、これらの両方の問題に取り組む。治療有効性を達成する投薬量の増加が必要な薬物耐性を、本明細書に記載のセレンを含む化合物と公知の薬剤との同時投与によって克服する。いくつかの態様では、本明細書に記載の化合物により、標的細胞の公知の薬剤への感受性が高まるので(およびその逆)、治療有効性を達成するために多くのこれらの薬剤を必要としない。
特許請求の範囲に記載の感作機能は公知の治療薬の毒作用に関連する問題にも取り組む。公知の薬剤が有毒である例では、全症例で、特に、薬物耐性により必要投薬量が増加した症例では、投薬量を制限することが望ましい。したがって、いくつかの態様では、特許請求の範囲に記載の化合物を公知の薬剤と同時投与する場合、これらにより必要な投薬量が減少し、それにより副作用が減少する。さらに、特許請求の範囲に記載の化合物はそれら自体が中程度の用量で有効かつ非毒性を示すので、より比率が高いこれらの化合物の同時投与により、公知の有毒治療薬よりも所望の効果を達成しながら毒作用が最小になる。
VI.抗酸化剤
本発明のいくつかの態様では、抗酸化剤を本発明の組成物または製剤と同時投与する。本発明は、使用した抗酸化剤の型に制限されない。実際、種々の抗酸化剤が、本発明で有用であることが意図され、アルキル化ジフェニルアミン、N-アルキル化フェニレンジアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、ジメチルキノリン、トリメチルジヒドロキノリンおよびこれら由来のオリゴマー組成物、ヒンダードフェノール類、アルキル化ヒドロキノン、ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル、アルキリデンビスフェノール、チオプロピオネート、金属ジチオカルバメート、1,3,4-ジメルカプトチアジアゾールおよび誘導体、油溶性銅化合物など、Naugalube(登録商標)438、Naugalube 438L、Naugalube 640、Naugalube 635、Naugalube 680、Naugalube AMS、Naugalube APAN、Naugard PANA、Naugalube TMQ、Naugalube 531、Naugalube 431、Naugard BHT、Naugalube 403、およびNaugalube 420、アスコルビン酸、トコフェロール(α-トコフェロールを含む)、水溶性抗酸化剤(スルフヒドリル化合物など)およびその誘導体(例えば、メタ重亜硫酸ナトリウムおよびN-アセチル-システイン)、リポ酸およびジヒドロリポ酸、リスベラトロール、ラクトフェリン、アスコルビン酸誘導体(例えば、アスコルビン酸パルミテートおよびアスコルビン酸ポリペプチド)、ブチル化ヒドロキシトルエン、レチノイド(例えば、レチノールおよびパルミチン酸レチニル)、トコトリエノール、ユビキノン、フラボノイド、イソフラボノイド、およびその誘導体(例えば、ゲニステインおよびダイゼインを含む抽出物)を含む抽出物、リスベラトロールなどを含む抽出物、ブドウの種、緑茶、松の樹皮、プロポリス、Irganoxl0lO、1035、1076、1222 (Ciba Specialty Chemicals Co.、Ltd.製)、Antigene P、3C、FR、Sumilizer GA-80 (Sumitomo Chemical Industries Co.、Ltd.製)、β-カロテン、リコピン、ビタミンC、E、およびA、ならびに他の物質が含まれるが、それらに限定されない。
例えば、いくつかの態様では、本発明は、SEL-PLEXを含む組成物を対象に投与する工程を含む、脳組織の酸化ストレスの副産物から保護する方法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、SEL-PLEXを含む組成物の対象への投与により、対象におけるGST遺伝子(例えば、Gstp1、Gstz1、およびGstm7)の発現が低下する。いくつかの態様では、SEL-PLEXを含む組成物の対象への投与により、対象の脳組織(例えば、新皮質)におけるDNA損傷レベルが減少する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、本発明の組成物および方法を使用した治療(例えば、SEL-PLEXを含む食事補給)によって(例えば、脳内での)細胞ホメオスタシスが安定化し、DNA損傷誘導性遺伝子(例えば、Gadd45b)の発現が低下する。
いくつかの態様では、本発明は、SelW発現が変化する(例えば、増加する)ような条件下で、Sod-selおよび/またはSEL-PLEXを含む組成物を細胞に投与する工程を含む、H2O2細胞傷害性に対する細胞の感受性を減少させる方法を提供する(例えば、実施例3を参照のこと)。いくつかの態様では、本発明は、SelW発現が変化するような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEXおよび/またはSod-sel)を含む組成物を投与する工程を含む、対象のSelW発現を低下させる方法を提供する。いくつかの態様では、本発明は、SelR発現が変化する(例えば、増加する)ような条件下で、Sod-selおよび/またはSEL-PLEXを含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象における酸化的損傷タンパク質の修復を促進する方法を提供する(例えば、実施例3を参照のこと)。
本発明は、さらに、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物(例えば、栄養補給物)を対象に投与する工程を含む、対象(例えば、酸化ストレスを経験した対象)におけるスーパーオキシドラジカルを減少させる方法を提供する。さらに、いくつかの態様では、本発明は、セレンを含む一定の組成物(例えば、SEL-PLEXを含むセレン補給物)を投与した対象における酸化ストレスを扱う能力の増強を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、セレンを含む組成物(例えば、SEL-PLEXを含む食事性補給物)を投与した対象は、セレンの選択形態(例えば、SEL-PLEX)が対象のスーパーオキシドラジカルレベルを変化させる(例えば、減少させる)能力により、酸化ストレスを扱う能力が増強する。いくつかの態様では、スーパーオキシドラジカルの減少は、本発明の組成物および方法で治療した対象の脳内(例えば、大脳皮質)で起こる(例えば、以下の実施例10を参照のこと)。
本発明の組成物および方法は種々の状況(研究および臨床診断を含む)で適用することを企図している。例えば、本発明の組成物および方法はまた、APP代謝研究(例えば、そのレベルを変化させることができるタンパク質および医薬品の分析による)およびアルツハイマー病の病変を観察するためのインビボ研究で適用される。さらに、試料中のオリゴマーおよび/または繊維状β-アミロイドタンパク質集合体を定量する方法は、長期にわたる対象試料中のオリゴマーβ-アミロイドタンパク質集合体レベルの減少がアルツハイマー病治療の有効性を示すことが意図されるので、アルツハイマー病治療の有効性のモニタリングおよび/または決定において適用される。
神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病)に関連する遺伝子(例えば、プレセニリン1、プレセニリン2)の発現レベルが変化するような条件下で、セレン(例えば、有機セレン(例えば、セレン化酵母(例えば、SEL-PLEX)))を含む組成物で神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病)を有する対象を処置する工程と、その後に一つまたは複数の被験化合物を同時投与する工程とを含み、一つまたは複数の被験化合物を神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病)に関連する遺伝子(例えば、プレセニリン1、プレセニリン2)の発現を変化させる能力について試験する方法であって、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病)の新規の治療を同定する方法も本明細書において提供される。神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病)に関連する遺伝子の発現レベルの変化は、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病)の治療で使用することができる化合物を示す。これらの方法を使用して、他の疾患および病態のための化合物(例えば、本明細書に記載もの)をスクリーニングすることができる。
本発明によって提供された組成物および方法の使用は、ヒトおよび非ヒト対象ならびにこれらの対象由来の試料を含み、研究および診断への適用も含む。したがって、本発明はいかなる特定の対象および/または適用状況に制限されないことを意図する。
実験
本発明の一定の好ましい態様および局面を証明およびさらに例示するために以下の実施例を提供するが、これらは本発明の範囲を制限すると解釈すべきではない。
実施例1
材料および方法
動物の管理
雄C57BL/6Jマウスを単独で収容し、離乳直後(21日齢)に下記の実験飼料の提供を開始した。マウスを、William S. Middleton Memorial Veterans Administration Medical Center (Madison,WI)のShared Aging Rodent Facilityに維持した。温度および湿度を一定に維持した。12時間の明暗サイクルが得られるように室内照明を制御した。
実験飼料を、Harlan Teklad(Madison, WI)によって作製した。飼料のセレン含有量を、Covance Inc. (Madison, WI)によって決定した。5匹の動物は、以下の治療群に含まれた:セレン欠損食(SD);飼料の最終セレン含有量が1ppmであるようにセレノメチオニン(SM、Sigma, St. Louis, MOから入手)を補足した飼料;飼料の最終セレン含有量が1ppmであるように亜セレン酸ナトリウム(SS, Sigma)を補足した飼料;または飼料の最終セレン含有量が1ppmであるようにSEL-PLEX(SP、Alltech, Lexington, Ky)を補足した飼料。マウスに水およびその各飼料を100日間自由に与えた。飼料を4℃の暗所で保存し、飼料を1週間に2回給餌器に添加した。
組織試料調製およびマイクロアレイ分析
マウスを100日目で頸部脱臼によって屠殺した。腸発現研究のために、腸を生理食塩水で2回洗浄し、小腸を測定し、3つのセグメントに等分した。空腸に相当する小腸の真ん中の3cmの領域(〜300mgの組織)を切断し、生理食塩水で再度リンスして内容物を完全に除去し、液体窒素で急速冷凍し、-80℃で保存した。脳(例えば、大脳皮質)研究のために、周辺の脳から大脳皮質を分離し、組織を液体窒素中で急速冷凍し、-80℃で保存した。
TRIZOL(Life Technologies, Grand Island, NY)のグアニジンイソチオシアネート法を使用して総RNAを単離し、各試料を、遺伝子発現プロフィールのために使用した。総RNAを、RNeasy Mini kit(Qiagen, Valencia, CA)によって精製した。T7 RNAポリメラーゼプロモーターが組み込まれたT7-(dT)24プライマーと共にGeneChip Expression 3'-Amplification Reagents One-Cycle cDNA Synthesis Kit(Affymetrix, Santa Clara, CA)を使用して、5mgの総RNAを二本鎖cDNAへの変換によって標的RNAを調製した。Genechip Sample Cleanup Module(Affymetrix, Santa Clara, CA)を使用して二本鎖cDNAを精製した後、GeneChip Expression 3'-Amplification Reagents for IVT Labeling(Affymetrix, Santa Clara, CA)を使用して二本鎖cDNAからビオチン標識cRNAを合成した。Genechip Sample Cleanup Moduleを用いてビオチン標識cRNAを精製し、加熱(94℃で35分間)によって断片化した。
GeneChip Hybridization Oven 640を使用して、15μgのcRNA断片をMouse Genome 430 2.0 Array(Affymetrix, Santa Clara, CA)とハイブリダイズさせた(45℃で16時間)。ハイブリダイゼーション後、遺伝子チップを自動で洗浄し、Affymetrix GeneChip Fluidics Station 450を使用して、ストレプトアビジン-フィコエリトリンビオチン化抗ストレプトアビジンで染色した。レーザーによって細胞のシグナル強度を検出するために、Affymetrix GeneChip Scanner 3000(Affymetrix, Santa Clara, CA)を使用してDNAチップをスキャニングした。スキャニング後、Affymetrix GeneChip Operating Software(GCOS)を使用して全ての計算を行った。
データ分析
1. プローブセット識別子およびシグナル強度値を含むスプレッドシートを、Microsoft Excel(Macintosh OS-Xオペレーティングシステムのバージョン11.1.1)で開き、要約統計量(各治療群についての平均シグナル強度、平均の標準誤差)を作成した。以下の治療群について両側t検定(等分散)を行った:SM対SD、SS対SD、およびSP対SD。さらに、全チップ(N=20)のシグナル強度の和として、各プローブセットの「シグナル強度スコア」を計算した。
2. Affymetrixウェブサイトから最新版の注釈ファイルをダウンロードした。このファイル中のデータを使用して、段階1中の遺伝子発現データに注釈をつけた。得られたファイルを、カンマ区切り値(CSV)ファイルとしてエクスポートした。
3. 段階2由来のCSVファイルを、データベースアプリケーション(Macintosh OS-XオペレーティングシステムのMySQLバージョン4.1.12)にインポートした。
4. MySQLを使用して、文字「_x_at」および「_s_at」で終了するプローブセット識別子をデータセットから除去した。Affymetrixにしたがって、これらの拡張子を有するプローブセットを固有の遺伝子にマッピングしない(すなわち、1より多い遺伝子由来の転写産物は1つのプローブセットとハイブリダイズすることができる)。これらのプローブセットの除去後、データをCSVファイルとしてエクスポートした。
5. 段階3由来のファイルをMicrosft Excelで開き、データセット内の同一遺伝子の複数の出現を同定した。2つ(またはそれ以上)のプローブが同一の遺伝子を示すと判断された場合、最も大きな「シグナル強度スコア」を有するプローブセット(段階2を参照のこと)を保持し、さらなるプローブセットをデータセットから削除した。この段階で、各プローブセットは1つの転写産物のみを示し、それにより、以後は用語「プローブセット」は、用語「遺伝子」と交換可能である。
6. 食事療法によって特定の遺伝子の発現がどのような影響を受けるかについての情報を含めるためにデータファイル中に新規のカラムを作製した。段階1に記載のt検定由来のp値を使用して、遺伝子を以下のカテゴリーの1つに並べ替えた(この情報を新規カラムに書き留めた);以下でいう「統計的に有意な」は目的のp値が<0.01(0.01と等価またはそれ未満)であることを意味することに留意のこと。
a.「SelMeth特異的」:SM対SDの比較のみにおいてこの遺伝子の発現が統計的に有意に変化すること(すなわち、遺伝子発現がSS対SDまたはSP対SDの比較のいずれにおいても特異的に有意に相違しなかった)。
b.「SodSel特異的」:SS対SDの比較のみにおいてこの遺伝子の発現が統計的に有意に変化すること。
c.「SelPlex特異的」:SP対SDの比較のみにおいてこの遺伝子の発現が統計的に有意に変化すること。
d.「SelMeth-SodSel」:SM対SDおよびSS対SDの比較のみにおいてこの遺伝子の発現が統計的に有意に変化すること。
e.「SelMeth-SelPlex:SM対SDおよびSP対SDの比較のみにおいてこの遺伝子の発現が統計的に有意に変化すること。
f.「SodSel-SelPlex」:SS対SDおよびSP対SDの比較のみにおいてこの遺伝子の発現が統計的に有意に変化すること。
g.「影響なし」:この遺伝子の発現が、SD飼料と比較してSM、SS、またはSP飼料によって有意に影響を受けなかった。
h.「全てに影響を受ける」:この遺伝子の発現が、SD群と比較してSM、SS、またはSP群で有意に異なった。
7. データセットを、2つのサブセットに分割した(一方は「十分に特徴づけられた遺伝子」(Affymetrixのプローブセット注釈づけ情報にしたがって本質的に固有の遺伝子名称および遺伝子記号を有する転写産物)を含み、他方は「非特徴づけ転写産物」(データセット中の残りの全プローブセット(発現した配列タグ、cDNA配列などを含む)))。
8. 次いで、データの「十分に特徴づけられた遺伝子」サブセット中の各遺伝子を、Affymetrixによって提供された注釈づけ情報の「GO Biological Process」カラムを使用して「遺伝子機能」を割り当て、複数かつ多様な遺伝子存在論(GO)情報が提供された場合、National Center for Biotechnology Information(NCBI)データベース(Entrez-Gene, PubMedなど)由来の情報を使用して、その遺伝子の機能についての「コンセンサスオピニオン」を作成した。
実施例2
マウス腸の遺伝子発現を変化させる食事性セレン
食事性セレン(例えば、SeM、Sel-sod、およびSEL-PLEXなどの種々の供給源由来)がマウスの腸および脳(例えば、大脳皮質)中の種々のタンパク質機能群および種々のタンパク質経路の生理学(例えば、生理学的ホメオスタシス)および発現パターン(例えば、タンパク質または遺伝子の発現パターン)を変化させる能力を試験した。
したがって、本発明の目的は、本発明の組成物および方法が種々の遺伝子の発現レベル(例えば、mRNAレベル)を変化させることができるかどうかを決定することである。分析した1つの遺伝子群は、セレンと古典的に関連する遺伝子であった。上記のように、食事性セレンを与えるマウスと与えないマウスとの間または給餌したセレンの供給源が異なるマウス間において遺伝子の発現レベルを分析した(例えば、下記の表1を参照のこと)。セレン欠損飼料、セレノメチオニン(Se-methまたはSeM)、亜セレン酸ナトリウム(Sod-selまたはSS)を含む飼料、またはSEL-PLEX(SEL-PLEXまたはSP)を含む飼料を与えたマウスの体重は有意な相違が認められなかった(図1を参照のこと)。
セレンは、主にセレン(セレノシステインとして)がグルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-Px)の重要な成分であるので、抗酸化系におけるその役割で知られている。グルタチオンペルオキシダーゼは、過酸化水素および脂質ヒドロペルオキシドを代謝または解毒する酵素クラスである。したがって、これらは、好気性細胞代謝の副産物として産生された活性酸素種(ROS)に起因する損傷から細胞を防御するように機能する(例えば、Arthur, Cell. Mol. Life Sci. 57, 1825, (2000)を参照のこと)。
したがって、セレン補給(例えば、食事性セレン補給)を受けた対象と受けていない対象(例えば、セレン欠損対象)とでGSH-Pxの発現レベルが変化するかどうかを決定した。本発明の組成物および方法を使用して、セレン欠損対象と比較して、セレン補給(例えば、Se-meth、Sod-sel、およびSEL-PLEXを受けた)を受けた対象のGSH-Px遺伝子発現で有意な変化倍率(FC)が存在することを証明した。2つのGSH-Px遺伝子の発現レベルの変化倍率を、以下の表1に記載する。
セレンと関連する他の遺伝子の発現も試験し、変化するかを決定した。例えば、セレン含有酵素(例えば、チオレドキシンレダクターゼ1(Trx-1))の上方制御(例えば、Rundlof and Arner, Anitoxidants and Redox Signaling, 6, 41 (2004)を参照のこと)を観察した。チオレドキシン系は、ROSに対する重要な防御であり、チオレドキシンおよびNADPHを使用してチオレドキシンを還元するチオレドキシンレダクターゼからなる。セレン補給を受けた対象では、チオレドキシンレダクターゼ1遺伝子発現の増加倍率は以下であった:SeM、1.8;SS、1.7;SP1.8(p値は全て<0.01)。したがって、本発明の組成物および方法は、以前にセレンと関連することが公知の遺伝子発現を変化させるように機能した。
別のセレン含有酵素、ヨードチロニンデヨードナーゼ1型(例えば、Larsen and Berry, Annu. Rev. Nutr., 15, 323 (1995)を参照のこと)も本発明の組成物および方法を使用して、発現の増加が示された。この酵素は、チロキシン(T4)の生物活性甲状腺ホルモン(T3)への変換を担う。以下のように、セレン補給により、ヨードチロニンデヨードナーゼ1型の発現レベル(例えば、核酸発現)が増加した:SeM、2.0倍増加;SS、2.8倍増加;SP、2.1倍増加。
実施例3
セレン供給源依存性様式でセレン含有タンパク質コード遺伝子の発現レベルを変化させる食事性セレン
セレン(Se)は、現在、多数のセレン含有タンパク質中にセレノシステインとして組み込まれることが公知であり、グルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-Px、実施例2を参照のこと)は原型的な例である。セレノシステインは、UGAコドンによって特異的にコードされ、終止コドンとしてのUGAの通常の機能を超えることができる同時翻訳機構によってペプチド鎖に挿入される。真核生物では、UGAコドンの有効なセレノシステイン組み込みには、通常mRNA 3'非翻訳領域(3'-UTR)中に存在する細胞タンパク質因子およびシス作用性構造シグナル(特徴的なステム-ループ構造のセレノシステイン挿入配列(SECIS)からなる)が必要である(例えば、Peterlin et al., (1993), In Human Retroviruses; Cullen, Ed.; Oxford University Press: New York; pp. 75-100; Le and Maizel, Theor. Biol. 138:495 (1989)を参照のこと)。必要なタンパク質因子は、肝細胞、リンパ球、マクロファージ、血小板、および他の血球などのセレン含有タンパク質を発現する一定の細胞型中に存在すると推定される。このような細胞型では、mRNA中のSECISエレメントの存在は、セレノシステインとして翻訳されるべきインフレームUGAコドンに必要かつ十分である。
いくつかのセレン含有タンパク質コード遺伝子の発現レベルは、セレン補給に影響を受けた。重要には、本発明は、種々のセレン供給源における同一遺伝子(例えば、セレン含有タンパク質および本明細書に記載の他の遺伝子)の発現レベルを変化させる能力には有意な相違が存在することを初めて証明した。例えば、セレン含有タンパク質W(SelW)の発現は、SeMによって有意に変化しなかった。しかし、Sod-selおよびSEL-PLEXは、SelWを5.1倍上方制御した。SelWは、その発現レベルがセレン欠損下で維持される場合、多数の組織(脳を含む)で発現される。SelWは、グルタチオン依存性抗酸化剤であり、CHO細胞およびH1299ヒト肺癌細胞中でのSelWの過剰発現により、H2O2細胞傷害性に対する両細胞株の感受性が顕著に減少することが示されている(例えば、Jeong et al., FEBS Letter, 517, 225 (2002)を参照のこと)。したがって、いくつかの態様では、本発明は、SelW発現が変化する(例えば、増加する)ような条件下で、Sod-selおよび/またはSEL-PLEXを含む組成物を細胞に提供する工程を含む、H2O2に対する細胞の感受性を減少させる方法を提供する。
セレン供給源依存性の遺伝子発現(セレン含有タンパク質N1(Sepn1)遺伝子の発現レベル)を変化させる能力のさらなる例示は、SeMまたはSod-selによって有意に影響をうけなかったが、SEL-PLEXによって1.8倍に増加した(p<0.02)。Sepn1が筋肉の完全性において重要な役割を果たすと考えられる。例えば、ヒトでは、マルチミニコア疾患(multiminicore disease)は、虚弱および構造筋肉の変化などの病状を有する先天性神経筋疾患の領域からなる。全マルチミニコア疾患症例のうちの1/3はSepn1遺伝子の変異に起因することが公知である(例えば、Neuromuscul. Disord. 15 (4), 299-302(2005); Am. J. Hum. Genet. 71(4), 739-749 (2002)を参照のこと)。したがって、いくつかの態様では、本発明は、Sepn1発現が変化する(例えば、増加する)ような条件下で、SEL-PLEXを含む組成物を細胞に提供する工程を含む、筋肉の完全性を維持する方法を提供する。
メチオニンスルホキシドレダクターゼは、遊離およびタンパク質結合メチオニンスルホキシドにおける対応するメチオニンへの還元を触媒する(例えば、Brot et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78, 2155 (1981); Weissbach et al., Arch. Biochem. Biophys. 397, 172 (2002)を参照のこと)。活性酸素種(ROS)によるメチオニンの酸化により、メチオニン-S-スルホキシド(Met-S-SO)およびメチオニン-R-スルホキシド(Met-R-SO)のジアステレオマー混合物が得られる。2つの異なる酵素ファミリーはこれらのスルホキシドの還元のために進化し、メチオニン-S-スルホキシドレダクターゼ(MsrA)はMet-S-SOに立体特異的であり、メチオニン-R-スルホキシドレダクターゼ(MdrB)はMet-R-SOに立体特異的である。以前に記載されたこれらの酵素の機能には、酸化損傷タンパク質の修復、タンパク質機能の制御、およびメチオニンスルホキシドの可逆的形成による酸化物の排除が含まれる(例えば、Levine et al., IUBMB Life 50, 301 (2000)を参照のこと)。
今日まで、以下の2つの哺乳動物MsrBタンパク質が同定されている:セレン含有タンパク質Rと呼ばれるセレノシステイン(Sec)含有タンパク質(SelR;例えば、Kryukov et al., J. Biol. Chem. 274, 33888 (1999);Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 4245 (2002)のこと)およびSecの代わりにCysが存在するCBS-1と呼ばれるそのホモログ(例えば、Jung et al., FEBS Lett. 527, 91 (2002))。Sec含有MsrBは、哺乳動物においてのみ記載されている。MsrBファミリーのメンバーは力学的(例えば、Kumar et al., J. Biol. Chem. 277, 37527 (2002); Olry et al., J. Biol. Chem. 277, 12016 (2002)参照のこと)および構造的(Lowther et al., Nat. Struct. Biol. 9, 348 (2002))に特徴づけられている。
SelR(セレン含有タンパク質X1としても公知)の遺伝子は、SeMet食事補給に有意に影響を受けないが、Sod-selおよびSEL-PLEXによってそれぞれ1.3倍(p<0.01)および1.2倍(p<0.05)上方制御された。上記のように、SelRはメチオニンスルホキシドレダクターゼである。タンパク質中のメチオニン残基は、ROSによる損傷に感受性を示すが、SelRなどの酵素による、得られたメチオニンスルホキシドの還元によって修復することができる(例えば、Kim and Gladyshev, Mol Biol Cel 15, 1055, (2004)を参照のこと)。したがって、いくつかの態様では、本発明は、SelRの発現が変化する(例えば、増加する)ような条件下で、Sod-selおよび/またはSEL-PLEXを含む組成物を対象に提供する工程を含む、対象における酸化的損傷タンパク質の修復を促進する方法を提供する。
実施例4
選択的食事性セレン形態はストレス誘導性タンパク質の発現を変化させる
スーパーオキシドジムスターゼ遺伝子(例えば、SOD1およびSOD2)は、酸化的リン酸化の副産物として産生されたスーパーオキシド(例えば、スーパーオキシドラジカル)からの最初の防御ラインであるミトコンドリア内フリーラジカル捕捉酵素をコードする。(例えば、Li et al. Nature Genet. 11: 376 (1995)を参照のこと)。相同組換えによるトランスジェニックマウスにおけるSod2遺伝子の不活化(例えば、ホモ接合性変異体)により、マウスは拡張型心筋症、肝臓および骨格筋中の脂質の蓄積、ならびに代謝性アシドーシスによって生後10日以内に死亡する(例えば、Li et al. Nature Genet. 11:376 (1995)を参照のこと)。細胞化学的分析により、コハク酸デヒドロゲナーゼ(complexII)およびアコニターゼ(トリカルボン酸サイクル酵素)活性の心臓における著しい減少および他の器官におけるより小さい減少が明らかとなった。この所見により、MnSODは、スーパーオキシドによる直接的不活化に感受性を示すミトコンドリア酵素の完全性の維持による組織の正常な生物学的機能に必要であることが示唆される。
活性酸素種(ROS)は、広範な変性過程(筋萎縮性側索硬化症、虚血性心疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、および老化を含む)に関与している。ROSは、酸化的リン酸化、そのエネルギー発生経路の有毒副産物としてミトコンドリアによって生成される。上記のように、マウスにおけるSODのミトコンドリア形態の遺伝的不活化により、拡張型心筋症、肝臓脂質蓄積、および新生児早期死亡が起こる(例えば、Li et al. Nature Genet. 11: 376 (1995)を参照のこと)。SOD模倣物(MnTBAP)での処置により、この全身性病変からSod2-/-変異マウスが救われ、劇的に延命されることが報告されている(例えば、Melov et al., Nature Genet. 18: 159 (1998)を参照のこと)。生存している動物は、3週齢までに全身衰弱に進行する顕著な運動障害を発症した。神経病理学的評価により、細胞傷害性浮腫で認められるものに類似するグリオーシスおよびミエリン内空砲形成に関連する皮質および脳幹の核の顕著な海綿状変性ならびにリー病およびカナヴァン病などのミトコンドリア異常に関連する障害が示された。MnTBAPの血液脳関門通過の不全により、進行性神経病理は、ROSの過剰なミトコンドリア産生に起因することが示唆されている(例えば、Melov et al., Nature Genet. 18:159 (1998)を参照のこと)。
SOD1のノックアウトマウスは、ヒトALSと非常に類似した運動ニューロンに対する選択的損傷を伴う進行性筋萎縮および衰弱を示す。変異SOD1分泌と神経毒性との間に因果関係が存在するようである(例えば、変異タンパク質が分泌されない)。しかし、ALSラットモデルへの野生型SODの注入により、疾患発症が有意に遅延する(例えば、J. Neurosci, 25, 108-117 (2005)を参照のこと)。さらに、CuのSODへの有効な負荷には銅(Cu)シャペロンが必要であることが示された(例えば、Nat. Neurosci, 5, 301-307 (2002)を参照のこと)。したがって、野生型SODの正常レベルを維持するかその発現または機能を増強する能力により、ALS対象に有利な治療効果を得ることができる。
さらに、前脳基底部コリン作動性ニューロン数の減少はALS対象の脳のいくつかの領域で認められることが示されている(例えば、Neurochem Int. 46, 357-368, (2005)を参照のこと)。したがって、前脳基底部コリン作動性ニューロンの成長および/または維持に関与する遺伝子の上方制御能力により、ALS対象に有益な効果をもたらすことができる。
したがって、食事性セレン補給がSOD遺伝子(例えば、SOD1およびSOD2)の発現レベルを変化させることができるかどうかを決定した。セレン(例えば、SEL-PLEXまたはSod-sel)を含む組成物を与えた対象は、SOD1発現を示し、増強した(例えば、それぞれ1.2倍および1.92倍)。さらに、これらの対象はまた、SODのCuシャペロン(CCS)の発現における増強を示した(それぞれ、1.19倍および1.28倍)。したがって、本発明は、SOD1および/またはCCSの発現が増強されるような条件下で、セレンを含む組成物を投与する工程を含む、ALS対象を治療する方法を提供する。
いくつかの態様では、本発明は、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物(例えば、栄養補給物)を対象に提供する工程を含む、対象(例えば、酸化ストレスを経験した対象)におけるスーパーオキシドラジカルを減少させる方法を提供する。さらに、いくつかの態様では、本発明は、セレンを含む一定の組成物(例えば、SEL-PLEXを含むセレン補給物)を与えた対象における酸化ストレスを扱う能力の増強を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明が任意の特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、セレンを含む組成物(例えば、SEL-PLEXを含む食事性補給物)を与えた対象は、セレンの選択形態(例えば、SEL-PLEX)が対象のスーパーオキシドラジカルレベルを変化させる(例えば、減少させる)能力により、酸化ストレスを扱う能力が増強する。いくつかの態様では、スーパーオキシドラジカルの減少は、本発明の組成物および方法で治療した対象の脳内(例えば、大脳皮質)で起こる(例えば、以下の実施例10を参照のこと)。
SEL-PLEXの別の固有の効果は、ストレス誘導性セレン含有タンパク質(ヨードチロニンデヨードナーゼII型(Dio2))の発現を有意に下方制御する能力であった。
甲状腺ホルモンは、発達中の脳、下垂体前葉、および褐色脂肪組織などのいくつかの哺乳動物組織で重要な制御効果を有する(例えば、Croteau et al. J. Clin. Invest. 98: 405-417, (1996)を参照のこと)。血漿中よりもむしろ組織自体に比較的高い比率で受容体結合トリヨードチロニンが認められる。外環(5プライム位)でチロキシンT4のT3への脱ヨード化を触媒するヨードチロニンデヨードナーゼII型(Dio2)のこれらの組織中での発現により、Dio2がT3のこの「局所」産生を担い、それにより、これらの組織中での甲状腺ホルモン作用の影響に重要であることが示唆される。さらに、Dio2活性は、甲状腺機能低下状態で顕著に上昇し、このような条件下で、の循環T3の大量産生の触媒を担うようである。ヨードチロニンデヨードナーゼI型およびIII型のcDNAから、デヨードナーゼはセレノシステインをコードするインフレームでTGATGAコドンを含むことが留意された(例えば、Croteau et al. J. Clin. Invest. 98: 405-417, (1996)を参照のこと)。これらのセレン含有タンパク質の触媒特性および組織発現パターンは、Dio2と異なる。Dio2と異なり、Dio1は肝臓および腎臓で発現し、硫酸化甲状腺ホルモン複合体の環内脱ヨード化が可能である。Dio3は、T4およびT3を不活性代謝産物に変換するための環内デヨードナーゼとして機能する。初期発生中の胎盤およびいくつかの胚組織中でのその発現により、発達中の組織を成体レベルの甲状腺ホルモンへ早期曝露するのを防ぐための役割を果たすことが示唆される。Dio2はまた、いくつかの胚および新生児組織中に存在し、重要な発達段階における適切なレベルのT3の脳への提供に不可欠である。
Dio2は、寒冷ストレスに反応した褐色脂肪組織中で10〜50倍に上方制御される(例えば、de Jesus et al., J. Clin. Invst., 108, 1379 (2001)を参照のこと)。
セレン枯渇により中皮腫細胞株における基本的内因性Dio2の発現および活性が低下することが示された(例えば、J. Biol. Chem. 276: 30183 (2002)を参照のこと)。この枯渇を、セレン補給によって用量および時間依存性様式で逆にすることができる。非加水分解性cAMPアナログへの曝露後にもDio2の発現および活性が増加した。チロキシン基質の曝露によりDIO2の分解が増加し、それによりDIO2活性が低下する。チロキシンの存在下での内因性DIO2の短い半減期(1時間未満)および増加したDIO2分解は、プロテアーゼインヒビターへの曝露によって減少または消失された。
本発明の組成物および方法を使用して行った実験により、SeMetおよびSod-selがDio2の発現レベルを変化させる能力を示さず、SEL-PLEXによってこの遺伝子が有意に1/2.3に下方制御されることが示された。したがって、本発明は、Dio2発現が低下するような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を対象に提供する工程を含む、対象のストレス(例えば、細胞ストレス)を減少させる方法を提供する。いくつかの好ましい態様では、本発明は、Dio2発現が低下するような条件下で、SEL-PLEXを含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象の内分泌機能を安定化させる方法を提供する。
本発明の実施に機構の理解は必要なく、かつ本発明が任意の特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、セレンを含む組成物(例えば、SEL-PLEXを含む食事性補給物)での対象の治療により、Dio2発現が低下し、それにより対象の細胞ストレスが減少する。したがって、Dio2発現の固有の変化(例えば、低下)により、一定のセレン形態(例えば、SEL-PLEX)を与えた対象は治療を受けていない対象より低いストレスを経験する/低いストレス下にあることが証明される。
いくつかの他のストレス関連遺伝子の発現は、一定のセレン型によって独自に変化した(例えば、下方制御された)(例えば、発現はSEL-PLEXによって変化するかSeMまたはSod-selでの処置によって変化しない)。1つの例は、グリオキサラーゼ1(Glo1)遺伝子であった。グリオキサラーゼは、メチルグリオキサール(好気的解糖の細胞傷害性副産物)の主な解毒経路である(例えば、Amicarelli et al., Carcinogenesis, 19, 519 (1998)を参照のこと)。
Glo1遺伝子がアルツハイマー病(AD)および前頭側頭型痴呆のトランスジェニックマウスモデルの脳組織内で約1.6倍に上方制御されることが示された(例えば、Chen et al., Proc. Nat. Acad. Sci. 101: 7687 (2004)を参照のこと)。GLO1も非痴呆コントロールと比較してヒトアルツハイマー病脳で上昇し、GLO1免疫組織化学によりAD脳内で強く染色された火炎状ニューロンが検出された。データは、ヒト疾患のモデル動物に適用したトランスクリプトミクスの可能性を証明し、神経変性疾患における以前に同定されなかったグリオキサラーゼIの役割が示唆された(例えば、Chen et al., Proc. Nat. Acad. Sci. 101: 7687 (2004)を参照のこと)。
本発明の組成物および方法を使用して行った実験は、Glo1の発現レベルはSeMetまたはSod-Selによって有意に影響を受けないことを示す。しかし、SEL-PLEXでの処置(例えば、食事補給)により、発現が1/1.3低下した(p<0.01)。したがって、本発明は、対象のGlo1発現が低下するような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEXまたはその誘導体)を含む組成物を対象に提供する工程を含む、対象(例えば、アルツハイマー病対象)の治療法を提供する。
セレン補給によって成長停止遺伝子およびDNA損傷誘導性遺伝子の発現も変化した(例えば、低下した)(例えば、以下の表2を参照のこと)。したがって、いくつかの態様では、本発明は、一定のセレン形態(例えば、SEL-PLEX)を補給された対象におけるDNAの損傷および成長の停止に関連する遺伝子の下方制御によって証明された、対象のDNA損傷を減少させる組成物(例えば、SEL-PLEXを含む)および方法を提供する。したがって、いくつかの態様では、本発明は、DNA損傷が減少するような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を対象に提供する工程を含む、DNA損傷を減少させる方法を提供する。
セレン処置によってその発現が変化した別のクラスのタンパク質はプロヒビチンである。プロヒビチンは、細胞内の種々の機能(細胞周期の調節、アポトーシスへの関与、およびミトコンドリア呼吸鎖酵素の集合体を含む)を割り当てられたタンパク質である。これらは、ミトコンドリア膜内に存在し、その発現はミトコンドリアタンパク質および核コードミトコンドリアタンパク質の合成の不均衡に起因する代謝ストレスによって誘導されることが公知である。プロヒビチンは、互いに共同して、特にミトコンドリアストレス状況でミトコンドリア活性を調整するように作用する(例えば、Coates et al., Exp. Cell. Research, 265, 262 (2001)を参照のこと)。一般に、老化と共に、ミトコンドリアストレスが付随して増加する。
本発明の組成物および方法を使用して、一定のセレン形態(例えば、SEL-PLEX)で処置した対象はプロヒビチン(Phb)発現が1/1.3に有意に下方制御されるが(p<0.05)、Sod-selではPhb発現が有意に変化せず、SeMではPhb発現が1.6倍に有意に上方制御される(p<0.05)ことが認められた。したがって、いくつかの態様では、本発明は、プロヒビチン遺伝子の年齢関連発現が低下するような条件下で、SEL-PLEXを含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象におけるプロヒビチン遺伝子の年齢関連発現を変化させる方法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明が任意の特定の作用機構に限定されないが、一定のセレン形態(例えば、SEL-PLEX)の提供により、老化に関連するミトコンドリアストレスが減少するのに対して、他のセレン形態(例えば、セレノメチオニン)ではミトコンドリアストレスを減少させることができず、増加させる可能性すらある。したがって、これにより、対象のストレス(酸化または他の形態)を減少させるために、一定のセレン形態(例えば、SEL-PLEX)を含む一定の組成物の使用がさらに支持されるが、他のセレン形態(例えば、SeMまたはSod-sel)では支持されない。したがって、一般に、本発明は、(例えば、食事性補給物によって)対象に投与した場合に他のセレン形態(例えば、SeMおよび/またはSod-sel)の投与によって誘導されるストレス誘導性遺伝子の発現を誘導しない一定のセレン形態(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を提供する。したがって、いくつかの態様では、本発明は、Phb発現が低下するような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を対象に提供する工程を含む、対象における細胞ストレス(例えば、代謝ストレス)を減少させる方法を提供する。
実施例5
ニューロン遺伝子発現を変化させる食事性セレンの選択形態
前脳基底部コリン作動性ニューロン(BFCN)は、学習および記憶などの認知機能に関与し、アルツハイマー病(AD)などのいくつかの神経変性疾患が影響を受ける。LIMホメオボックスタンパク質8遺伝子(Lhx8)は、BFCNの適切な発達および維持に重要である(例えば、Mori et al., Eur. J. Neurosci., 19, 3129 (2004)を参照のこと)。
Lhx8遺伝子中にヌル変異を有するマウスは、前脳コリン作動性ニューロンの発達が欠損していることが報告されている(Zhao et al., Proc. Nat. Acad. Sci. 100: 9005 (2003))。Lhx8変異体は、基底核(大脳皮質へのコリン作動性投入の主な供給源)を欠いていた。さらに、コリン作動性ニューロン数は、これらの変異を有する皮質下前脳のいくつかの他の領域で減少した。コリン作動性ニューロンは形成されないが、短縮Lhx8 mRNAおよびホメオボックス遺伝子Gbx1のmRNAを発現する細胞の存在によって示されるように、その特異化(specification)における最初の工程は保存されるようであった。これらの結果により、前脳中のコリン作動性ニューロンの発達におけるLhx8の重要な役割を支持する遺伝的証拠が得られる。
本発明の組成物および方法を使用して、認められたLhx8の発現レベルは、Se欠損対象と一定のセレン形態(例えば、SeMまたはSod-sel)との間に有意な相違は認められなかった。しかし、対象をSEL-PLEXを含む組成物で処置した場合(例えば、食事性補給物を与えた場合)、Lhx8の発現は12.9倍上方制御された(p<0.01)。したがって、いくつかの態様では、本発明は、Lhx8発現が増強するような条件下で、SEL-PLEXを含む組成物を対象に提供する工程を含む、対象における神経学的機能(例えば、コリン作動性ニューロン成長および機能)を維持および/または安定化する方法を提供する。
さらに、別の遺伝子産物(形質転換成長因子β2(2TGF-β2))は、発達中の小脳におけるニューロン増殖を増加させることが公知である(例えば、Elvers et al., Mechanisms of Development, 122, 587 (2004)を参照のこと)。さらに、TGF-β2が小脳中の顆粒細胞前駆体の成長因子および生存因子であり、内因性TGF-β2の抗体媒介中和により小脳顆粒細胞前駆体の増殖が抑制されて神経変性が誘導されることが示されている。TGF-β2のノックアウト(例えば、欠失)は、一定範囲が欠失し、小脳発達前に死滅するTGF-β2欠損マウスの致死表現型であることも証明されている(例えば、Sanford et al., Development, 124, 2659 (1997)を参照のこと)。
本発明の組成物および方法を使用して、コントロールと比較して、一定のセレン形態(例えば、SeMまたはSod-Sel)を与えた対象ではTGF-β2の発現レベルは変化しなかった。しかし、対象をSEL-PLEXを含む組成物で処置した場合(例えば、食事性補給物を与えた場合)、TGF-β発現は2.4倍に上方制御された。したがって、いくつかの態様では、本発明は、SEL-PLEXを含む組成物を対象に提供する工程を含む、対象の小脳機能を増大させる方法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、対象へのセレンを含む組成物(例えば、SEL-PLEXを含む毎日の食事性補給物)の提供により、神経活性が増加し(例えば、ニューロンの増殖が増加する)、かつ/または神経変性が阻害される。
実施例6
糖尿病関連遺伝子の発現を変化させる食事性セレンの選択形態
ニューロゲニン3(Neurog3)は、膵臓内分泌部の分化における重要な転写因子である。Neurog3は、インスリン遺伝子発現の活性化経路の重要部分であり、グルコース耐性を改善するための一助となる(例えば、Watada, Endocrine Journal, 51, 255 (2004)を参照のこと)。正常レベル未満のNeurog3(例えば、過小発現)は、一定の糖尿病型で役割を果たすと考えられる(例えば、Lee et al., Genes Dev. 16: 1488 (2002)を参照のこと)。本発明の組成物および方法を使用して、SEL-PLEXを含む組成物を与えた対象でNeurog3発現が1.7倍に有意に上方制御されるのに対して、SeMまたはSod-sel治療を行った対象ではNeurog3発現は有意に変化しないことが確定された。したがって、いくつかの態様では、本発明は、対象中でNeurog3の発現が変化する(例えば、増強する)ような条件下で、SEL-PLEXを含む組成物を対象に提供する工程を含む、対象(例えば、糖尿病の対象)を治療する方法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、SEL-PLEXを含む組成物の糖尿病対象への提供により、Neurog3発現の上方制御を介して対象のグルコース耐性が緩和される。
実施例7
増強された呼吸器系機能に関連する遺伝子の発現を上方制御する食事性セレンの選択形態
ショウジョウバエ(Drosophila)呼吸器系および哺乳動物肺は、線維芽細胞成長因子(FGF)ファミリーのメンバーとその同族受容体との間のシグナル伝達によって媒介される上皮と間葉との相互作用に依存する分岐形態形成過程によって形成される。Branchless(ショウジョウバエFGFホモログ)は、気管枝の先端に発現する(例えば、Sutherland et al., Cell 87, 1091 (1996))。Branchlessは、ブレスレス(Breathless)と呼ばれる気管細胞の移動を指示し、二次分岐(secondary branch)および末端分岐(terminal branch)を誘導するFGF受容体ホモログを活性化する(例えば、Glazer and Shilo, Genes Dev 5, 697 (1991)を参照のこと)。
sprouty遺伝子(Spry2)産物は、ショウジョウバエでFGFアンタゴニストとして機能し、sproutyの過剰発現はBranchless経路における下流エフェクターの活性化を遮断するのに対して、sproutyヌル変異はBranchless下流遺伝子の機能を増強し、それにより気管分岐化を増強する(例えば、Hacohen, et al., Cell 92, 253 (1998)を参照のこと)。ショウジョウバエおよびマウスでは、Spry2遺伝子産物は、呼吸器器官形成を負に調整することが証明されている(例えば、Teftt et al., Current Biology, 9, 219 (1999)を参照のこと)。
本発明の組成物および方法を使用して、SEL-PLEXがsproutyホモログ2遺伝子(Spry2)を下方制御する固有の能力を有することが証明された。詳細には、SEL-PLEXを含む組成物を与えた対象は、Spry2遺伝子発現の有意な低下(1/1.7低下)が示される一方で、他のセレン形態(例えば、SeMまたはSod-sel)を含む組成物を与えた対象はSe欠損対照と比較してSry2の発現レベルに変化を示さなかった。したがって、本発明は、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を対象に提供する工程を含む、対象呼吸器系を増強する方法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物での対象の処置により、Spry2遺伝子発現の低下を介して呼吸器系機能が増強する。
実施例8
老化および認知機能に関連する遺伝子の発現を変化させる食事性セレンの選択形態
老化は、酸化物生成に関連することが周知である(例えば、Peinado et al., Anat Rec, 247, 420 (1997)を参照のこと)。例えば、高活性酸素種(ROS)は広範な細胞損傷(DNA損傷、脂質過酸化、細胞内酸化還元のバランスの変化、および酵素の不活化を含む)を促進する。ROSに対する防御における重要な主な機構は、種々の反応による酸化ストレスの副産物からの保護であり、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)ファミリーによって実施される(例えば、Hayes et al., Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 45, 51, (2004)を参照のこと)。神経変異領域では、カテコールアミンの酸化により、アミノクロム、ドーパクロム、ノルアドレノクロム、およびアドレノクロムが得られ、これらは酸化還元サイクルによってO2 -を産生し得るので有害である。これらのキノン含有化合物を、GSTの作用(酸化還元サイクルを防止する反応)によってGSHに結合することができる(例えば、Dagnino-Subiabre et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 274, 32 (2000)を参照のこと)。ドーパミンから形成されたO-キノンをGSTによってGSHに結合することもでき、この反応はヒト脳内でのドーパミン作動系における変性過程と戦うと考えられる(例えば、この過程と戦う能力の喪失はパーキンソン病などの疾患において重要な役割を果たし得る)。
微生物、植物、ハエ、魚類、および哺乳動物では、GSTの発現は、酸化促進剤への曝露によって上方制御され、実際、細胞質GSTのプロモーター領域は、Michael反応受容体および酸化ストレスへの曝露時に転写的に活性化する酸化防止剤応答エレメントを含む(例えば、Hayes et al., Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 45, 51, (2004)を参照のこと)。
したがって、本発明の組成物および方法を、GST遺伝子の発現レベルを変化させることができるかどうかを決定するために分析した。種々のセレン形態(例えば、SeM、Sod-sel、およびSEL-PLEX)を含む組成物を対象に投与し、GST遺伝子の発現レベルをモニタリングした。いくつかのGST遺伝子の発現レベルは、Se欠損食を与えた対照対象と比較してセレン補給によって変化した(以下の表3を参照のこと)。
驚いたことに、遊離食事性セレノメチオニン(SeM)を与えた対象は、これらの遺伝子の発現パターンに変化が認められなかった(例えば、GST遺伝子は下方制御されなかった)。しかし、Sod-selおよびSEL-PLEXを与えた対象は、GST遺伝子の発現が変化した(例えば、低下した)。したがって、本発明は、遺伝子(例えば、GST遺伝子および本明細書に記載の遺伝子)の発現プロフィールにおいて応答を誘発する種々のセレン供給源の能力には明らかな相違が存在することを提供する。
機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、SEL-PLEXを含む組成物での対象の治療により、対象のストレスが減少し(例えば、酸化ストレスレベルがより低くなる)、それにより、SEL-PLEXを与えた対象におけるGST遺伝子の発現は全体的に下方制御される。したがって、本発明は、GST遺伝子(例えば、Gstt2、Gstt1、Gsta3、Gsta4、Gstm1、Gstm2、またはGstm3)の発現が低下するような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEXまたはsod-sel)を含む組成物を対象に提供する工程を含む、対象の酸化ストレスを減少する方法を提供する。いくつかの態様では、2つまたはそれ以上の異なるセレン形態(例えば、SEL-PLEXおよびSod-sel)を対象に投与する。いくつかの態様では、2つまたはそれ以上のセレン形態により、相加効果が得られる(例えば、GST発現がさらに低下する)。いくつかの態様では、2つまたはそれ以上のセレン形態により、GST遺伝子発現低下の相加効果を超える効果(例えば、相乗効果)が得られる。いくつかの態様では、2つまたはそれ以上のセレン形態の対象への投与により、GST遺伝子発現を低下させるいずれかのセレン供給源の効果を無効にしない。いくつかの態様では、本発明は、GST遺伝子であるユビキチン遺伝子の発現が下方制御されるような条件下で、セレンを含む組成物(例えば、SEL-PLEXを含む食事性補給物)を対象に提供する工程を含む、パーキンソン病対象を治療する方法を提供する。
いくつかの態様では、本発明は、セレンを含む組成物(例えば、SEL-PLEXを含む食事性補給物)を対象に提供する工程を含む、年齢関連進行(例えば、酸化ストレスレベルの増加)を遅延させる方法を提供する。他の態様では、本発明は、セレンを含む組成物(例えば、SEL-PLEXを含む食事性補給物)を対象に提供する工程を含む、対象の神経変性を阻害する(例えば、神経変性を発症させるかその原因となる酸化ストレスを減少させる)方法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、ストレス誘導性遺伝子(例えば、GST遺伝子)が下方制御されるセレンを含む組成物(例えば、SEL-PLEXを含む食事性補給物)での対象の治療により、神経変性の年齢遅延および予防が達成される。さらに、本発明は、一定のセレン形態(例えば、SEL-PLEX)が対象の種々の遺伝子発現プロフィールを変化させることができるが、他のセレン形態(例えば、SeMおよび/またはSod-sel)ではできないことを証明する。したがって、本発明は、いくつかの態様では、SEL-PLEXは、(例えば、任意の認知機能の保持および延長ならびに老化の遅延のために)栄養介入での使用において他のセレン形態(例えば、SeMまたはSod-sel)よりも優れていることを提供する。
下記のように、腸組織中で得られた遺伝子発現変化のセレン供給源依存性特性を証明するデータ(例えば、上記の実施例2〜8を参照のこと)は、他の組織(例えば、脳組織)でも認められる。さらに、以下の実施例9に記載するように、一定のセレン形態(例えば、SEL-PLEX)は、種々の他のセレン供給源と比較して、(例えば、脳組織内の)セレン蓄積量に関して優れた生物学的利用能を有することを証明する。
実施例9
白卵を産卵するニワトリおよびその子孫における脳セレン濃度に対する種々のセレン供給源の効果
本発明の組成物および方法を使用して、ニワトリおよびその子孫における脳Se濃度の蓄積に対する種々のSe供給源の効果を評価した。
2004年6月28日から2004年11月16日まで、Coldstream Research Facilityで研究を行った。6つの治療食を全部で48羽のニワトリ(r=8)に与え、2004年9月16日から3日連続で交配した。治療食は以下であった。
基本(Se添加なし)
亜セレン酸塩(.3ppm)
Sel Plex(.3ppm)
Tepsel(.3ppm)
Se2000(.3ppm)
Selenosource(.3ppm)
孵化した雛を2つの群に分けた。雛の半分を脳の回収のために屠殺し、残りの雛をSe欠損食で14日間育て、その時点で雛を脳の回収のために屠殺した。ニワトリの脳は、Se含有量について個別に分析したのに対して、雛の脳は試料サイズが小さいので、ホモジナイズし、プールした。
ニワトリおよび雛の脳のSe濃度を、以下の表4および5にそれぞれ示す。Selenosourceの値は、分析した1羽のニワトリ脳しか示さないため、統計分析に含めなかった。
SEL-PLEXを与えたニワトリは、モデル中に含まれる他の全ての治療と比較して最も高いSe濃度を示した。基本治療と比較した場合、残りの任意の治療に起因する脳Se含有量の増加は認められなかった。雛脳中の脳Se濃度は、全治療中で最も高い数字を示す。
(表4)ニワトリ脳Se濃度
*NE=試料が1つであるので評価せず。
SE-標準誤差
したがって、本発明の方法(例えば、遺伝子発現プロフィールの変更)での使用が好ましいことに加えて、SEL-PLEXdを含む組成物により、(例えば、食事性補給物としてまたは他の手段によって対象に提供した場合)、他のセレン形態の同一の消費と比較して、(例えば、脳組織で)最も高いレベルの生物学的に利用可能なセレンも得られる。
実施例10
脳(例えば、大脳皮質)での遺伝子発現に対する食事性セレンの選択形態の影響
本発明の組成物および方法を、老化過程の変化(例えば、老化に関連することが公知の遺伝子発現レベルの変化)で役割を果たし得るかどうかを決定するために試験した。一般に、本発明の組成物および方法で治療した対象は、老化過程の逆転または遅延と一致する遺伝子発現プロフィールを示す。例えば、本発明の組成物および方法を使用して得た遺伝子発現プロフィールと非常に高齢の(例えば、30月齢)マウス(例えば、Lee, et al., Nature Genetics 25: 294 (2000)を参照のこと)の脳組織から得た遺伝子発現プロフィールとの比較により、2コホート間でほぼ反対の遺伝子発現パターンが認められた。
例えば、老化動物では、補体カスケード遺伝子C4、C1qa、C1qbおよびC1qcの協奏的誘導が認められた(例えば、Lee, et al., Nature Genetics 25:294 (2000)を参照のこと)。
補体系は、しばしば細胞受容体によって活性化される血清糖タンパク質のタンパク質分解性切断に関連する複雑なカスケードである。このカスケードは、最終的に、炎症反応、食細胞の化学走性およびオプソニン化、ならびに細胞溶解を誘導する(例えば、Villiers et al., Crit Rev Immunol.;24:465 (2004);Morgan et al., Immunol Lett. 97:171 (2005)を参照のこと)。
補体因子C3a、C5a、およびC4は、血管拡張、毛細管の増加、透過性、および白血球接着分子の発現を誘導することができる。補体C3aおよびC4bは、食細胞と微生物との橋渡しするオプソニンである。補体C3aおよびC4aは、食細胞の化学走性を促進する。補体C3bは、巨大な不溶性免疫凝集体の形成由来の損傷の防止を補助する抗原-抗体複合体のオプソニンであり得る。補体C5aは、C3aがアナフィラトキシンであることと同様に、抗微生物プロテアーゼおよび酸素ラジカルの好中球放出の誘導のための走化性誘因物質である。補体C5b、C6、C7、およびC8の複合体は、18個までのC9分子の、グラム陰性細菌およびウイルス感染細胞などの望ましくない生物の原形質膜に挿入されるチューブ様膜攻撃複合体への重合を媒介する。脂質二重膜を介したこのチャネルにより、細胞が溶解する。虚血性梗塞はまた、補体カスケードの開始を引き起こし得る。虚血性損傷後、組織中の膜攻撃複合体が過剰に蓄積し得る。補体活性化の他の副作用には、好中球、好塩基球、および肥満細胞の脱顆粒、好中球産物であるエラスターゼおよび酸素ラジカルの望ましくない放出、ならびに体外血液循環が含まれる。免疫疾患およびアルツハイマー病のための潜在的治療薬として補体インヒビターが示唆されている。
補体経路
補体カスケードが開始され得る以下の3つの経路が解明されている:古典的経路、別経路、およびレクチン経路。3つの全経路は、共通の交差点(補体C3)に合流する(例えば、図2を参照のこと)。
古典的経路:
古典的経路は特定の抗体応答を媒介する。古典的経路は、細胞表面抗原への補体の結合によって開始される。C1の補体C1qサブユニットへの抗体の結合により、触媒的に活性なC1sサブユニットが得られる。次いで、2つの活性化C1sサブユニットは、補体C2およびC4からのC3転換酵素の集合体(補体C4b2a)を触媒することができる。
別経路:
別経路は、カスケード開始に抗体作用は必要ないが、外来細胞表面成分によって開始される。別経路では、補体C3は自発的に分解されて、補体BがC3bに結合する。Baサブユニットの分散により、活性な別経路C3転換酵素(C3bBb)が得られる。C3bBbは、合流前のプロパージンの共通経路への結合およびC3の変換によって安定化する。
レクチン経路:
レクチン経路は古典的経路に類似している。C1qは、レクチン経路に関与しない。オプソニンの代わりに、マンナン結合タンパク質(MBP)が開始過程に関与する。
脳内での補体タンパク質の産生により、炎症性ペプチドが生成し、脳卒中に関連する神経損傷に寄与する。重要には、補体経路の活性化成分はアルツハイマー病(AD)病変および多発性硬化症などの他の神経変性障害に関与することが証明された(例えば、Yasojima et al., Am. J. Pathology, 154, 927 (1999);Schwab and McGeer, Exp. Neurology, 174, 81 (2002)を参照のこと)。AD脳の研究は、補体遺伝子(例えば、mRNA)の強い上方制御および補体活性化産物のウェスタンブロットにおける強いバンドの出現を示した。幼若マウスに対する老齢マウスの脳内の補体成分の変化倍率は以下であった:補体C4(4.9倍の上方制御);C1qa(1.7倍の上方制御);C1qb(1.8倍の上方制御);C1qc(1.8倍の上方制御)(例えば、Lee, et al., Nature Genetics 25:294 (2000)を参照のこと)。
したがって、本発明の組成物および方法が大脳皮質中の補体遺伝子の発現を変化させることができるかどうかを決定した。種々のセレン供給源を使用した補体系成分をコードする遺伝子の発現レベルに対するセレン補給の効果は以下であった。
表6に例示するように、本発明の組成物および方法は、(例えば、アルツハイマー病などの神経変性疾患で異常に発現することが証明されている)種々の補体遺伝子の発現を変化させることができた。詳細には、補体成分遺伝子は、セレンによって統計的に有意に下方制御された(例えば、SEL-PLEX、P<0.01。それに対して、SeMまたはSod-selを含む組成物の対象への提供では、補体成分遺伝子の統計的に有意な変化が示されなかった)。セレン(例えば、SEL-PLEX)補体カスケードに関連する遺伝子の発現を低下させる能力により、遺伝子発現プロフィール(例えば、発現レベルの減少)が得られ、これは、カロリー制限(老化遅延)マウスの複数の組織で認められたものと非常に類似している(例えば、Sohal and Weindrich, Science, 273, 59(1996)を参照のこと)。
したがって、いくつかの態様では、本発明は、補体関連遺伝子発現が低下するような条件下でセレンを含む組成物(SEL-PLEXを含む食事性補給物)を対象に提供する工程を含む、対象における補体関連遺伝子(例えば、C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、およびC1qr)の年齢関連遺伝子を遅延させる方法を提供する。いくつかの態様では、本発明は、対象のアルツハイマー病の症状を軽減するような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物をアルツハイマー病患者に提供する工程を含む、アルツハイマー病患者を治療する方法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、アルツハイマー病対象へのセレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物の提供により、補体関連遺伝子(例えば、C1q、C1qα、C1qβ、C1qγ、およびC1qr)の発現の低下によってアルツハイマー病に関連する症状が軽減される。いくつかの態様では、本発明の組成物および方法を、アルツハイマー病の発症を防止するための予防的治療として使用する。いくつかの態様では、本発明の組成物および方法を、神経疾患(例えば、アルツハイマー病)治療のための他の公知の治療法と組み合わせて使用する。他の態様では、本発明の組成物および方法を使用して、(例えば、補体関連遺伝子発現の阻害またはGST遺伝子などの細胞ホメオスタシスに有害な影響を与える本明細書に記載の他の遺伝子発現の阻害によって)神経変性を防止することができる。
本発明の組成物および方法は、TNF/C1q/アジポネクチンスーパーファミリーの新規のメンバー(CORS-26)の発現も変化させた。CORS-26は、アジポネクチンと構造が類似しており、関節炎滑膜中で炎症性および破壊性を発揮する(例えば、Tarner et al., Arthritis Res. & Therapy, 7, 23(2005)を参照のこと)。一定のセレン形態(例えば、SeMおよびSod-Sel)で治療した対象は、CORS-26の発現レベルを変化させなかったのに対して、他のセレン形態(例えば、SEL-PLEX)を含む食事性補給物を与えた対象は発現が1/4.61低下した。したがって、いくつかの態様では、本発明は、関節炎に関連する症状が減少するような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を対象に提供する工程を含む、対象の関節炎を治療する方法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、SEL-PLEXを含む組成物の対象への提供により、CORS-26遺伝子発現の低下によって関節炎に関連する症状が軽減される。
幼若マウスと比較して老齢マウスで有意な発現レベルを示す他の遺伝子クラスは、カテプシンである(例えば、カテプシンD,SおよびZ,例えば、Lee, et al., Nature Genetics 25:294 (2000)を参照のこと)。カテプシンは、リソソームタンパク質分解系の主要成分であり、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のアミロイドβ-ペプチドへのプロセシングに関与している。重要には、これらは、AD患者の脳内で誘導される(例えば、Lemere et al., Am. J. Pathology, 146, 848 (1995)を参照のこと)。本発明の組成物および方法を使用して、多数のカテプシンをコードする遺伝子の発現は、セレン補給(最も明白には亜セレン酸ナトリウムおよびSEL-PLEX)に応答して下方制御された(以下の表7を参照のこと)。
(表7)
*Se欠損マウスと比較して有意な下方制御。
アミロイド前駆体タンパク質(APP)に関与する他の遺伝子がセレン補給に応答して下方制御されることがさらに証明された。他の例は、γ-セクレターゼである。酵素複合体(γ-セクレターゼ)は、APPを切断してアミロイド-βペプチド(AD斑の主成分)を放出する。ニカストリンは、プレセニリン(Aph-1およびPen-2)と相互作用して、γセクレターゼ活性を有する高分子量の複合体を形成する膜貫通糖タンパク質である(Confaloni et al.,Molecular Brain Research, 136, 12 (2005))。ニカストリンおよびプレセニリンをコードする遺伝子の発現レベルは、本発明のセレンを含む一定の組成物(例えば、最も明白かつ有意には、SEL-PLEX)に応答して下方制御された。
(表8)
*Se欠損動物と比較して有意。P<0.01。
さらに、βアミロイドペプチド生成に関連する多数の遺伝子には、本発明の組成物および方法(例えば、セレン補給、以下の表を参照のこと)での治療に応答して下方制御された。例えば、アミロイドβ(A4)前駆体タンパク質結合ファミリーBメンバー1遺伝子(Apbb1/Fe65)。Apbb1/Fe65は、主に神経系で発現するアダプタータンパク質である。APPは、γ-セクレターゼによって膜貫通領域で切断される。APPのγ切断により、アルツハイマー病の細胞外アミロイドβペプチドが産生され、細胞内テール断片が放出される。APPの細胞質テールは核アダプタータンパク質Fe65およびヒストンアセチルトランスフェラーゼTIP60と多量体複合体を形成することが証明された(例えば、Cao and Sudhof, Science 293:115 (2001)を参照のこと)。Apbb1/Fe65はAPPに結合し、相互作用はApbb1/Fe65中のホスホチロシン結合ドメインおよびAPPのカルボキシ末端細胞質ドメインを介して媒介される。Fe65は、APPの輸送およびプロセシング(ADの病因の中心であるβ-アミロイドの産生を含む)を媒介する(例えば、Kesavapany et al., Neuroscience, 115, 951, (2002)を参照のこと)。
(表9)
*Se欠損動物と比較して有意。P<0.01。
したがって、いくつかの態様では、本発明は、患者におけるアルツハイマー病の徴候および症状を軽減するような条件下で、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物をアルツハイマー病患者に提供する工程を含む、アルツハイマー病患者を治療する方法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物のアルツハイマー病対象への提供により、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングに関与するタンパク質をコードする遺伝子(例えば、ニカストリン、プレセニリン1、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンZ、またはカテプシンO)またはβアミロイドペプチドの生成に関与する遺伝子(例えば、Apbb1、Aplp1、およびApba1)の発現の低下によってアルツハイマー病に関連する症状が軽減される。いくつかの態様では、本発明の組成物および方法を、アルツハイマー病の発症を防止するための予防的治療として使用する。いくつかの態様では、本発明の組成物および方法を、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ALSなど)の治療のための他の公知の治療法と組み合わせて使用する。他の態様では、本発明の組成物および方法を使用して、(例えば、アミロイド前駆体タンパク質のプロセシングに関与するタンパク質をコードする遺伝子またはβアミロイドペプチドの生成に関与する遺伝子の発現の阻害によるか、逆に、認知機能に有利な効果を与える遺伝子(例えば、Lhx8)の発現の増強によって)神経変性を防止する。
老化マウス脳の研究により、新皮質の損傷または低酸素ストレスに応答して同時誘導される初期応答遺伝子(JunbおよびFos)の発現の誘導も同定された(例えば、Lee, et al., Nature Genetics 25:294 (2000); Hermann et al., Neuroscience, 88, 599 (1999)を参照のこと)。新皮質では、Junbは1.8倍上方制御された。本発明は、本発明の組成物および方法を使用してJunbの発現を下方制御することが可能であることを証明する。詳細には、本発明は、本発明の組成物および方法(例えば、SEL-PLEXでの食事補給)を使用して、脳組織(例えば、新皮質)における初期応答遺伝子(例えば、Junb)の発現を下方制御することが可能であることを提供する。
腸組織において作成したデータと同様に、本発明の組成物および方法での治療に応答したDNA損傷誘導性遺伝子の下方制御が認められた。例えば、腸組織では、SEL-PLEX治療によってGadd45b発現の低下が証明され(p<0.05)、全セレン治療(例えば、SeM、Sod-sel、およびSEL-PLEX)によってGadd45g1pの発現の低下が証明された(p<0.05)。脳では、本発明の組成物および方法を使用して以下のように遺伝子発現が変化した。
腸データと脳データとの間の他の類似点は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)発現領域で認められた。例えば、腸では、Sod-selおよびSEL-PLEX群で、GST遺伝子、Gsta3、Gsta4、およびGstm3の発現の低下が証明された(p<0.05)。脳では、本発明の組成物および方法を使用して、以下のように記載の多数の他のGST遺伝子の遺伝子発現が変化した。
したがって、本発明は、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を対象に提供する工程を含む、脳組織における酸化ストレスの副産物から保護する方法を提供する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物の対象への提供により、GST遺伝子(例えば、Gstp1、Gstz1、およびGstm7)の発現が低下する。いくつかの態様では、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物の対象への提供により、対象の脳組織(例えば、新皮質)におけるDNA損傷レベルが減少する。機構の理解が本発明の実施に必要でなく、かつ本発明がいかなる特定の作用機構に限定されないが、いくつかの態様では、本発明の組成物および方法を使用した治療(例えば、SEL-PLEXを含む食事補給)によって(例えば、脳内での)細胞ホメオスタシスが安定化し、DNA損傷誘導性遺伝子(例えば、Gadd45g1p)の発現が低下する。
実施例11
タウキナーゼの発現を低下させる選択的な形態のセレンの食事補給
アルツハイマー病(AD)は、世界的に最も一般的な神経変性障害である。ADでは、海馬および大脳皮質のニューロンが選択的に喪失している。ADに罹患した個人の脳は、2つの特徴的な病変を示す:過剰リン酸化されたタウタンパク質の細胞外アミロイド(または老人性)班および細胞内神経原線維濃縮体(Selkoe, Nature 426, 900?904 (2003)を参照されたい)。ニューロン(およびグリア細胞)内のタウの過剰リン酸化および蓄積は、他のタウオパチー(例えば、これらに限定されないが、ピック病(PiD)、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、嗜銀顆粒病、ならびにタウ遺伝子内の変異に起因する第17染色体に連鎖した家族性前頭側頭型認知症およびパーキンソン症候群(FTDP-17-タウ)を含み、タウオパチーと総称される。例えば、Lee et al., (2001) Annu. Rev. Neurosci. 24, 1121-1159; Iqbal et al., (2005) Biochim. Biophys. Acta 1739, 198-210を参照されたい)と同様に、アルツハイマー病(AD)の主要な病理学的特徴の1つである。これらのタウオパチーは、神経原線維変性により組織病理学的に特徴付けられる。
神経原線維濃縮体は、過剰リン酸化状態の微小管(MT)関連タンパク質タウで構成される対らせんフィラメントの束である(例えば、Goedert, (2001) Curr. Opin. Genet. Dev. 11, 343-351; Stoothoff and Johnson (2005) Biochim. Biophys. Acta 1739, 280-297を参照されたい)。ADの脳由来の対らせんフィラメントタウにおいて、約25のリン酸化部位が特定されている(例えば、Morishima-Kawashima et al., (1995) J. Biol. Chem. 270, 823-829; Hanger et al., J. Neurochem. 71, 2465-2476; Imahori and Uchida, (1997) J. Biochem. (Tokyo) 121, 179-188を参照されたい)。特徴的なリン酸化部位は、セリンまたはトレオニン残基とその後のプロリンである。リン酸化は、タウがMTに結合しMTを重合させる能力を低下させ、その結果、MTから解離した可溶性形態のタウが増加する。したがって、神経原線維の変化(例えば、対らせんフィラメント(PHF)、ねじれたリボン、または直線上のフィラメント(SF)のいずれか)は、異常に過剰リン酸化されたタウによって形成される。微小管の構造の構築と維持を促進する正常なタウとは異なり、異常(例えば、過剰リン酸化)タウは、これらの機能を喪失するだけでなく、正常なタウ、MAP1およびMAP2を隔離して、微小管の分解を引き起こす。脱リン酸化がそれをほぼ正常なタンパク質に回復させることから、異常タウのこのような有害な挙動は、その過剰リン酸化に起因する。異常な過剰リン酸化はまた、タウが自己集合してPHFおよび/またはSFになるよう促進する(例えば、Iqbal and Grundke-Iqbal, Curr Alzheimer Res. 2(3):335-41 (2005)を参照されたい)。
タウの過剰リン酸化は、インビボでタウの特異的部位をリン酸化するいくつかのキナーゼ(例えばタウキナーゼ)によって制御される。例えば、タウをリン酸化する2つのセリン/トレオニンキナーゼは、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3-β(GSK-3β)およびサイクリン依存性キナーゼ5(Cdk-5)である。
ADにおけるGSK-3β-免疫沈降サルコシル不溶性画分は、組換えタウをリン酸化する能力を有する。さらに、ADにおける老人斑の神経原線維濃縮体および異栄養性神経突起を伴う多くのニューロン、ならびに他のタウオパチーにおけるピック小体および他のホスホ-タウ含有ニューロンおよびグリア細胞において、GSK-3βが見出される(例えば、Ferrer et al., Curr Alzheimer Res.;2(1):3-18 (2005)を参照されたい)。
Cdk5は、p35またはp39 Cdk5アクチベーターによって活性化されたプロリンに対するSer/Thrキナーゼである(例えば、Tang and Wang, (1996) Prog. Cell Cycle Res. 2, 205-216; Dhavan and Tsai, (2001) Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 2, 749-759; Hisanaga and Saito, (2003) Neurosignals 12, 221-229を参照されたい)。p35およびp39が、ニューロンでは限られた発現を示すことから、Cdk5活性は、分化したニューロンで主に検出される。上記のように、Cdk5は、生きたニューロン内のタウをリン酸化するタウプロテインキナーゼの1つであり、ADにおいてタウのいくつかの対らせんフィラメントエピトープを生成することもできる(例えば、Paudel et al., (1993) J. Biol. Chem. 268, 23512-23518; Ishiguro et al., (1992) J. Biol. Chem. 267, 10897-10901を参照されたい)。
GSK-3βおよびCdk5の両方が、アルツハイマー病(AD)および他のタウオパチーに関連するタウ過剰リン酸化および神経原線維濃縮体形成に関与することから、セレン補給(例えば、食事によるセレン補給)を受けた対象と受けていない対象(例えば、セレン欠損対象)とでGSK-3βおよびCdk5の発現レベルが変化するかどうかを判定した。本発明の組成物および方法を使用して、セレンを補給しない食事を受けた対象と比較して、亜セレン酸ナトリウム(SS)およびSEL-PLEX(SP)を含むセレン補給を受けた対象のGSK-3β遺伝子発現では有意な倍率変化(Fc)があったが、セレノメチオニン(SM)を受けた対象ではなかったことを実証した。さらに、セレンを補給しない食事を受けた対象と比較して、SEL-PLEX(SP)を含むセレン補給を受けた対象のCdk5遺伝子発現では有意な倍率変化(Fc)があったが、亜セレン酸ナトリウム(SS)またはセレノメチオニン(SM)を受けた対象ではなかった。GSK-3βおよびCdk5遺伝子の発現レベルの倍率変化を、以下の表13に記載する。
したがって、いくつかの態様において、タウキナーゼ遺伝子発現を低下させ、それによってアルツハイマー病および他のタイプのタウオパチーに関連するタウの過剰リン酸化と神経原線維濃縮体形成の可能性を減少させるために、対象はセレンの選択形態(例えばSEL-PLEX)を含む食事補給を用いることができる(例えば、医師が処方する、食物サプリメントとして摂るなど)ことを、本発明は提供する。
実施例12
Gadd45bの発現を低下させる選択的な形態のセレンの食事補給
Gadd45β(Gadd45b)は増殖停止において機能し、DNA損傷、遺伝毒性ストレス、およびTGFβシグナルによって誘導可能である(例えば、Vairapandi et al., J Cell Physiol 192: 327-338, 2002; Yoo et al., J Biol Chem 278: 43001-43007, (2003)を参照されたい)。Gadd45bはまた、複雑な乾燥ストレス反応にも関与している(例えば、 Huang and Tunnacliffe, FEBS Lett. 2005 Sep 12;579(22):4973-7を参照されたい)。さらに、Gadd45bは発癌物質への応答の際に誘導され(例えば、Iida et al., Carcinogenesis 26(3):689-99 (2005)を参照されたい)、かつ紫外線B(UVB)による細胞死につながりかつそれを誘導するシグナル伝達カスケードに関与している(例えば、Thyss et al., EMBO J. 24(1):128-37 (2005)を参照されたい)。CD4+ T細胞内のGadd45βの欠損は、TCR刺激または炎症性サイトカインに対するT細胞応答を損ない(例えば、ERK、p38、およびJNK活性化は全て、Gadd45β-欠損CD4+ T細胞内で実質的に抑制される)、同族のシグナルおよび炎症性シグナルの両方を継続させることに関与すると考えられる(例えば、Lu et al., Nat Immunol. 5(1):38-44 (2004)を参照されたい)。
セレンの食事補給は、脳(例えば皮質)組織内のGadd45b発現を有意に低下させた(実施例10参照)。したがって、ストレス状態(例えば酸化ストレス、DNA損傷、および全身の細胞損傷)に反応して、Gadd45bが複数の経路および体の複数の領域と細胞区画で機能することが示されたことから、セレン補給(例えば、食事によるセレン補給)を受けた対象と、受けていない対象(例えば、セレン欠損対象)とで、組織の多数のタイプ(例えば、皮質組織に加えて)で、Gadd45bの発現レベルが変化するかどうかを判定した。
本発明の組成物および方法を用いて、様々なタイプの組織にわたり、Gadd45b遺伝子発現の有意な倍率変化(Fc)があったことが実証された。例えば、セレン補給の供給源としてSEL-PLEXを受けた対象は、皮質組織(ctx)、腸組織(int)、肝臓組織(liv)、および骨格筋組織(skm)内で、Gadd45b遺伝子発現の有意な低下を示した(下記の表14参照)。
亜セレン酸ナトリウムを受けた対象は、皮質組織および骨格筋内で、Gadd45b遺伝子発現の有意な低下を示した。セレノメチオニンを受けた対象は、皮質組織でのみ、Gadd45b遺伝子発現の有意な低下を示した。したがって、いくつかの態様では、様々なタイプの組織(例えば、皮質、腸、肝臓、および骨格筋組織)内でGadd45b遺伝子発現を低下させる能力において、セレンの様々な形態(例えばSEL-PLEX)が、セレンの他の形態(例えば、亜セレン酸ナトリウムおよびセレノメチオニン)より優れていることを、本発明は提供する。機構の理解が本発明の実施に必須でなく、かつ本発明はいかなる特定の作用機構にも限定されないが、いくつかの態様では、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む食事補給により、対象は恒常性状態(例えば、ストレス(例えば、酸化ストレス、DNA損傷、または全身性細胞ストレス)の低いレベルによって特徴付けられる)を維持することが可能となり、つまり検出可能なGadd45b遺伝子発現レベルの低下をもたらす。
実施例13
エネルギー代謝を増大し、乳汁産生を増加させるセレンの選択形態の食事補給
米国の家庭の食費合計のおよそ12%は、乳製品である。乳汁および乳製品は、これらだけで米国の食料供給における利用可能な総カロリーの10%を提供し、さらに人の栄養素のための必須アミノ酸の最良の天然源の1つを代表している。乳汁のこのような栄養特性は、特に成長期の子供の食事において、長く中心に据えられてきた。8000〜10000の異なるタイプの乳製品が利用可能であると見積もられ、これは乳汁を特別多用途の生製品としている。
乳汁は、水、脂肪、タンパク質、ラクトース、およびミネラルから構成される。これらの成分の濃度は、ウシ間および品種間で異なる。乳汁の経済的価値と同様に、栄養価も、その固形成分に直接関係している。固形成分が増えると、その栄養価は高くなり、かつ乳製品の収量はあがる。例えば、チーズの収量は、乳汁のカゼイン含有量に直接関連する。
ウシの妊娠期間は9ヶ月である。出産の直前、乳汁は新生仔に備えて乳房に分泌される。出産時、初乳として知られる乳腺からの液体が分泌される。72時間以内に、初乳の組成は、新鮮な乳汁(例えば、食料供給において収集され用いられる)の組成へと戻る。
次いで乳汁分泌すなわち乳汁産生期間は、平均305日間続き、約7000 kgの乳汁が産生される(図5参照)。これは、仔牛が成長に約1000 kgしか必要としないことを考えると、非常に大量である。乳汁分泌中、通常、出産後2〜3ヶ月の時点で収量は最大となり、約40〜50 L/日得られる。搾乳寿命内で、ウシは通常、その3度目の乳汁分泌あたりで産生のピークに達するが、収量が良好なままであれば(例えば、費用効率に関して十分高い収量)、さらなる(例えば5〜8)乳汁分泌のための産生を維持させることができる。
出産後約1〜2ヶ月で、ウシは再度発情期に入る。ウシは出産後約3ヶ月で受精させることができ、このため出産の一年サイクルとなる。例えば、ウシは15ヶ月で最初の受精をさせることができ、そのため最初の仔牛が生まれる時、そのウシは2歳である。しばしば、次の出産の約60日前には、ウシは乳汁を出さなくなる。胎児のための母胎の必要に起因して乳汁が徐々に減るため、かつ乳房に次の搾乳サイクルのための準備期間が必要となるため、この段階では通常搾乳はしない。
ウシの一生は、下記の表15に記載のように要約することができる。
乳汁は、乳腺で合成される。乳汁を産生する単位である腺房は、乳腺内にある。腺房には、管系に接続している内腔と呼ばれる中央の貯蔵領域を取り囲む単層の上皮分泌細胞が含まれる。同様に、分泌細胞は、筋上皮細胞の層と毛細血管に取り囲まれている。
乳汁産物の原材料は、血流を介して分泌細胞に運ばれる。1 Lの乳汁のための成分を輸送するのに、通常400〜800 Lの血液が必要となる。これらの成分の例には、以下が含まれる。
タンパク質:構築される塊は、血液中でアミノ酸である。カゼインミセルまたはその小さい凝集体は、分泌細胞内のゴルジ小胞内で凝集を開始し得る。
脂質:C4〜C14脂肪酸が細胞内で合成され、一方C16およびより大きな脂肪酸は、ルーメン水素添加の結果として予備形成され、かつ血液内を直接輸送される。ならびに
ラクトース:乳汁は、血液と浸透圧が平衡であり、ラクトース、カリウム、ナトリウム、および塩化物によって制御される;ラクトース合成は、分泌される乳汁の容量を調節する。
通常、乳汁成分は、主に小胞体(ER)およびそれに接着したリボソームによって、細胞内で合成される(図6参照)。ERのためのエネルギーは、ミトコンドリアによって供給される。成分は次に、ゴルジ装置へ受け渡され、このため結果として成分は小胞の形態で細胞外へ移動する。水性の非脂肪成分を含む小胞と液滴(ERによって合成される)の両方が、細胞質と頂端部細胞膜とを通り、内腔に沈着しなければならない。乳汁脂肪の小球膜は、分泌細胞の頂端部細胞膜で構成されると考えられる。
本発明の開発の間、セレン(例えば、亜セレン酸ナトリウムまたはSEL-PLEX)の食事補給が乳汁産生にどのような効果を与えるかを判定するために実験を行った。いくつかの独立した実験を行った。最初に(プリンスエドワードアイランド)、セレン補給を受けていないウシと比較して、セレンの食事補給は、脂肪補正乳(脂肪補正乳は、産生された乳汁の単位あたりの通常のエネルギー取り込み基準との比較を可能にする方法として役立つ)の正味7.6%の増加、または約2kg/日の乳汁産生の増加をもたらした。第二の研究では(フロリダ)、SEL-PLEXを補給したウシで、セレンを補給しなかったウシと比較して、脂肪補正乳産生が 0.9 kg/日多かった。第三の研究では(カリフォルニア)、SEL-PLEXを補給したウシで、セレンを補給しなかったウシより、脂肪補正乳産生が1.9kg/日多かった。
したがって、いくつかの態様では、本発明は乳汁産生を増加させる組成物(例えばSEL-PLEXを含む)および方法を提供する。例えばいくつかの態様において、本発明は対象(例えばウシ)の乳汁産生を増加する方法を提供し、本方法は、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物を対象に投与する(例えば、毎日)段階を含む。
機構の理解が本発明の実施に必須でなく、かつ本発明はいかなる特定の作用機序にも限定されないが、いくつかの態様では、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物の対象への投与により、糖質とエネルギー代謝が亢進し、それによって乳汁産生を増加させるエネルギー供給が増大する(例えば、乳汁の一日の産生量の増加または出産サイクル間の乳汁分泌期間の延長)。
機序の理解は本発明の実施に必須ではなく、かつ本発明はいかなる特定の作用機序にも限定されないが、いくつかの態様では、代謝における重要なエネルギー産生段階に関与する酵素の遺伝子発現が増大すると、ATP合成が亢進される(例えば、それによってより多くの乳汁産生のためのエネルギー増大が提供される)。機序の理解は本発明の実施に必須ではなく、かつ本発明はいかなる特定の作用機序にも限定されないが、いくつかの態様では、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物の対象への投与が、ミトコンドリアによって生成されるエネルギーを増大させる(例えば乳汁産生の過程において)。いくつかの態様において、セレン(例えば、SEL-PLEX)を含む組成物の対象への投与が、内腔内に沈着する水性の非脂肪成分および/または液滴を増加させる(例えば、それによって乳汁産生が増加する)。
上記明細書中に記載の全ての刊行物および特許は、参照により本明細書に組み入れられる。上記記載の本明細書の組成物および方法の種々の修正形態および変更形態は、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、当業者に自明である。本発明は特定の好ましい態様と共に記載しているが、特許請求の範囲に記載の本発明はこのような特定の態様に過度に制限されないと理解すべきである。実際、関連分野の当業者に自明の本発明の実施のために記載の様式の種々の修正形態は、本発明の範囲内であることが意図される。