JP2009520010A - 無痛覚 - Google Patents
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Abstract
【選択図】 なし
Description
フェノール誘導体は多くの神経調節効果を有することが主張されてきた。しかしながら、広範囲に及ぶ臨床治療の用途における唯一のフェノール誘導体は麻酔薬プロポフォール(2,6-ジイソプロピルフェノール)である。
麻酔状態の主要な特徴は、意識の消失、疼痛刺激の存在下における不動及び想起の欠如である。プロポフォールのような麻酔薬は、中枢神経系(CNS)内のγ-アミノ酪酸(GABAA)受容体を活性化することによりその麻酔薬効果を媒介するとされている。
一方、無痛覚は疼痛の欠如と定義されている。末梢及び/または中枢神経のメカニズムのうち、無痛覚は、脊髄の後角内の抑制性シナプス伝達が強められた結果として生じうる。脊髄内の抑制性シナプス後伝達は、主としてグリシン受容体を含むとされている。したがって、グリシン受容体科は、疼痛抑制を図る治療薬の標的サイトを意味する。
GABAA及びグリシン受容体はともに、イオンチャネル内蔵型受容体上科に属する。それらは5つのサブユニットがイオンチャネルを形成する一般的な構造を有する。α及びβサブユニットが、3α:2βの提案された生体内化学量論で五量体の受容体に会合する。GABAA受容体と同様にグリシン受容体は、作動物質の結合後の塩化物チャネルを開くことにより神経細胞の発火を抑制する。グリシン受容体は主として中枢神経系の下部領域に見出され、運動リズムの創出の制御、脊髄侵害受容反射反応の調整及び感覚シグナルの処理にかかわる。
R1、R2、R4及びR5の1以上は2乃至13個の炭素原子を含むアルキルであり、他は独立してHまたは2乃至13個の炭素原子を含むアルキルから選択される)
本発明の第三の面によれば、薬物として使用するための本発明の第一の面により定義された化合物が提供される。
本発明者らは、脊髄の後角内の抑制性シナプス伝達の損失が、炎症または神経損傷後の慢性疼痛の発生に重要な役割を果たすことを認めた。更に彼らは、脊髄内の抑制性シナプス後伝達が主としてグリシンを伴うことを認めた。このことから彼らは、ストリキニーネに敏感なグリシン受容体科が疼痛感作の抑制を図る治療薬の標的サイトを意味すると悟った。この認識は、Ahmadiらにより実施された研究(Nature Neuroscience (2001) Vol. 5 No.1 p34- 40)に基づいた。
本発明者らは、ヒドロキシル基に対してpara位にハロゲン及びorthoまたはmeso位に1または2個のメチル基を有するフェノール誘導体を研究することにより彼らの仮説を試験することにとりかかった。それらの結果は、Haeselerらにより公表され(British Journal of Pharmacology (2005) 145, p916-925)、ハロゲン化がグリシン受容体の共活性化または活性化を改良することを認めさせた。しかしながら、これらの初期の結果は、フェノール環上のメチル基の数または位置がグリシン受容体の共活性化のEC50に有意な影響を及ぼさないことを明示したように思われた。
本発明者らは麻酔薬プロポフォールの誘導体を製造し、驚くべきことに一般式Iの化合物がストリキニーネに敏感なグリシン受容体の非常に有効なプラスのアロステリック調節物質であることを見出した。
本発明者らは、グリシン受容体α1サブユニットが、アルコール、揮発性麻酔薬及びプロポフォールの結合に不可欠であるアミノ酸残基を有するサブユニットの領域においてGABAA受容体のα、β及びγサブユニットの膜貫通領域と相同の一次配列を共有することを認めたので出発点としてプロポフォールを使用した。更に彼らは、プロポフォールが、GABAA受容体におけるEC50より10倍高い濃度でグリシン受容体を活性化することが報告されたことを認めた。このことは、プロポフォールの望ましいグリシン活性化効果が、臨床診療において深い昏睡を誘導する濃度において得られるだけであることを意味するので、彼らはその他のプロポフォール誘導体がグリシン誘導体において改良された活性を示し、それにより鎮痛薬として有用であるか否かを研究するために、その他のプロポフォール誘導体を生成することを決心した。
化合物が、GABAA受容体よりストリキニーネに敏感なグリシン受容体に対して選択性を有することは好ましい。化合物は、GABAA受容体におけるEC50より低濃度においてグリシン受容体の共活性化に対するEC50を有するかもしれない。好ましくは、化合物は、GABAA受容体におけるEC50より10倍低いグリシン受容体の共活性化に対するEC50を有する。化合物が、GABAA受容体におけるEC50より100倍以上低いグリシン受容体の共活性化に対するEC50を有することが更に好ましい。
化合物はまた、プロポフォールのそれより低いグリシン受容体の共活性化のEC50値を有するべきである。例えば、化合物は、プロポフォールのそれより少なくとも10倍低いまたは100倍低いグリシン受容体の共活性化のEC50値を有してもよい。もっとも好ましい化合物(例えば、2,6-ジイソプロピル-4-クロロフェノール)は、プロポフォールのそれより1000倍低いグリシン受容体の共活性化のEC50値を有する(HEK293細胞中で異種発現したグリシン受容体に関して測定された)。
グリシン受容体の共活性化のEC50値を測定するのに適する方法は実施例1に開示されている。
プロポフォールの誘導体に関する実験を実施において、本発明者らは、ある種の好ましい化合物(例えば、実施例2で試験した2,6-ジイソプロピルフェノールの4-クロロ-、4-ブロモ-、4-ヨード-誘導体)が一桁のnM範囲で非常に低いEC50を示すことを認めさせた。このことは、本発明者らに、グリシン受容体において有効性となる(そして鎮痛剤として有用性となる)場合にはR1、R2、R4またはR5の種類が驚くほど重要であるが、GABA受容体には必要以上に影響を与えず、したがって意識に影響を及ぼすことはないことを悟らせる。
R1、R2、R4及びR5のうち2つはHであり、残りの2つは2乃至13、好ましくは3乃至6個の炭素原子を含むアルキルであるのが好ましい。2つのアルキル基はともに、それぞれorthoまたはmeso位であるのが更に好ましい。したがって、R1及びR5がアルキル基であってR2及びR4が水素であるか、R2及びR4がアルキル基であってR1及びR5が水素であるのが最も好ましい。
2,6-ジイソプロピル-4-クロロフェノール、2,6-ジイソプロピル-4-ブロモフェノール、及び2,6-ジイソプロピル-4-ヨードフェノールが、本発明による使用のための特に好ましい化合物である。本発明者らは、これらの化合物の各々が、親化合物であるプロポフォールより1000倍低い濃度でHEK293細胞において異種発現したグリシン受容体の機能を驚くほど増大させることを明らかにした(実施例を参照されたい)。当業者は、このことがこれらの化合物を本明細書に記載されているような鎮痛薬として特に有用とすることを認めるであろう。
本発明による化合物及びそのような化合物を含む薬物は多くの状況で鎮痛薬として使用されうる。
化合物はまた急性疼痛(例えば、負傷後の疼痛)の治療にも有用である。
本発明の化合物はまた、単剤療法として使用する場合には局所的麻酔薬及び鎮痛薬ならびにNSAID及びアヘン剤のすべてのよく知られている副作用を回避し、同時に、相加効果または相乗効果を図る種々の併用治療方法を可能にするので有利である。
疼痛が調節されうる特定の条件の例には、慢性腰痛、関節炎、癌性疼痛、三叉神経痛、脳卒中及び神経障害性疼痛が含まれる。
化合物は既存の疼痛の治療に使用されうるが、予防的治療が医学上必要であると考えられる場合、例えば、待機手術のまえにも使用されうる。
化合物は単剤療法の形(すなわち、化合物のみの使用)で鎮痛薬として使用されうるが、化合物は疼痛を軽減するその他の治療と組み合わせて投与されてもよい。好ましい併用療法には、一般式の化合物により調節される経路とは異なる疼痛プロセシング経路により疼痛を調節する鎮痛薬との化合物の使用が含まれる。そのような鎮痛薬には、モルヒネ、パラセタモール、及びNSAIDが含まれる。化合物はまた、間接的にのみグリシン受容体と相互作用する局所的麻酔薬(例えば、リグノカイン)と有効に組み合わせうる。
本発明の薬物は、特に化合物が使用される方法に依存して多くの種々の形をとりうる。したがって、例えば、薬物はフェノール誘導体の塩(例えば、ナトリウム塩)の形で化合物を含みうる。そのような塩は、粉末状で製造され、錠剤、カプセル、液体、軟膏、クリーム、ゲル、ヒドロゲル、エーロゾル、スプレー、ミセル、経皮パッチ、リポソームまたはヒトまたは動物に投与されうるいずれかのその他の適する形で添加されうる。
あるいは、本発明によるフェノール誘導体は適する溶剤中に溶解されて液体薬物を形成してもよい。溶剤は水性(例えば、PBSまたは蒸留水)でもよい。あるいは、溶剤はエタノールのようなアルコールでも、そのような溶剤の水性溶剤との混合物でもよい。
薬物は局所的治療に使用されるのが好ましい。そのような薬物は有効なサイトに投与するための液体として配合されうる。あるいは、液体は、注射またはエーロゾルとして投与されるために配合されうる。
化合物はまた持続または遅延放出デバイス内に添加されてもよい。そのようなデバイスは、例えば、皮膚上または皮下に挿入されてもよく、化合物は数週間または数ヶ月にわたって放出されうる。そのようなデバイスは、長期間にわたる慢性疼痛の患者(例えば、関節痛の患者)に特に有用かもしれない。デバイスは、通常常習的な投与を必要とする化合物が使用される場合に特に有利かもしれない。
最適投与量は当業者により決定されうるが、使用する特定の化合物、製剤の強さ、投与方法、及び軽減を必要とする疼痛の程度に伴って変化するであろう。被検者の年齢、体重、性別、食生活、及び投与時間を含む、治療される特定の被検者に依存する追加の因子は、投与量の調整に必要となろう。
製薬業界により従来使用されるような公知の手段(例えば、生体内実験、臨床試験等)が、組成物の特定の配合及び正確な治療規制(化合物の日用量及び投与回数)を確立するのに使用されうる。
一般的には、組織濃度がほぼ使用される化合物のEC50であるように標的サイトに化合物を送達するのに有効な投与量が示されるべきである。
日用量は、単回投与として(例えば、毎日1回の注射として)示されてもよい。あるいは、使用される化合物は1日に2回以上の投与を必要としてもよい。例として、慢性腰痛の治療には2,6-ジイソプロピル-4-クロロフェノールが2回(または疼痛の重症度に依存してそれより多くの回)の日用量の注射溶液または軟膏として投与されうる。治療を受ける患者は、目を覚ましたときに1回目を服用し、次いで夕方2回目を服用する(2回の服用の場合)か、その後3または4時間間隔で服用してもよい。あるいは、繰り返し服用することなく患者に最適投与量を提供するために、徐放性デバイスを使用してもよい。
更なる実施態様においては、賦形剤は液体であり、組成物は溶液である。非経口的投与に有用な液体溶液は、0.001乃至1質量%の式Iのフェノールを含みうる。別の実施態様においては、賦形剤は固体であり、組成物は錠剤である。更なる実施態様においては、賦形剤はゲルであり、組成物は局所使用用である。
本発明においては、“治療上有効量”は、化合物が有効である疼痛状態に苦しむ被験者に投与された場合に、疼痛の低減、鎮静、または退行を引き起こす化合物、薬物または組成物の量である。
“被験者”は、脊椎骨のある哺乳類の家畜またはヒトである。
固体の賦形剤には、滑剤、可溶化剤、懸濁化剤、充填剤、流動促進剤、圧縮助剤、バインダーまたは錠剤崩壊剤としても作用しうる1種以上の物質が含まれうる。それはまたカプセル化物質かもしれない。粉末においては、賦形剤は微粉状の活性成分と混合している微粉状の固体である。錠剤においては、活性成分は適する割合で必要な圧縮性を有する賦形剤と混合され、所望の形状及び寸法に圧縮される。粉末及び錠剤は、好ましくは99%以下の活性成分を含む。適する固体賦形剤には、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、乳糖、デキストリン、でんぷん、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリドン、低融点ろう状物質及びイオン交換樹脂が含まれる。
液体賦形剤は、溶液、懸濁液、乳濁液等の調製に使用される。フェノール誘導体は、水、エタノール、有機溶剤またはそれらの混合物のような薬学的に許容しうる液体賦形剤または薬学的に許容しうる油または脂質中に溶解または懸濁されうる。
本発明はまた、鎮痛薬としての有効性について化合物をスクリーニングする方法であって、試験化合物をオタマジャクシに適用し、GABA神経伝達媒介挙動に及ぼす化合物の影響をモニターし、かつグリシン神経伝達媒介挙動に及ぼす化合物の影響をモニターすることを含む方法であり、グリシン神経伝達の特徴を示す挙動を排他的にまたは主として誘導する化合物が推測上の鎮痛薬である方法を提供する。
スクリーニング方法の好ましい実施態様は実施例3に開示されている。
本発明を更に実施例により添付図面を参照して説明する。
この実施例は、多くのフェノール誘導体のグリシン受容体活性化及び塩化物電流に及ぼす影響を研究するために実施された予備的な実験(そのいくつかはHaeselerらにより公表されたそれ(前述))を説明する。当業者は、これらのデータが、フェノールのpara位におけるハロゲン化がグリシン受容体の活性化を向上させ、化合物が鎮痛薬として使用するのに適することを明らかにすることを認めるであろう。しかしながら、これらのデータは、フェノール環のアルキル化の種類が化合物の鎮痛薬の活性への適合性に及ぼすかもしれない驚くべき特別な影響を予期しない。このことは実施例2において論ずる。
1.1.1細胞培養、トランスフェクション
ラットのα1及びα1βグリシン受容体サブユニットを転換ヒト胚腎臓細胞(HEK 293)に一時的にトランスフェクトした。α1グリシン受容体サブユニットは効率よく異種発現系において同価同義受容体を形成する。βサブユニットは同価同義受容体を形成しないが、異価同義の受容体の機能に影響を及ぼし、グリシンの作動体作用及びピクロトキシン類似物の遮断効果に対する感度を低下させる。グリシン受容体α及びβサブユニットを共トランスフェクトする場合には、βポリペプチドの発現がαサブユニットのそれよりずっと効率的ではないので、それぞれのcDNAは1:10の比でで結合する。α1β異価同種の受容体における1000μMのピクロトキシンへの感度の低下はβサブユニットの発現の有効性の分析に使用された。細胞は、37℃において5%のCO2/空気の培養器中で、10%のウシ胎仔血清(FCS, Biochrom, Berlin, Germany)、100U/mlのペニシリン及び100μ/mlのストレプトマイシンを補足して、ダルベッコの改質イーグル培地(DMEM, Biochrom, Berlin, Germany)中で培養した。トランスフェクションのために、細胞を、50mMのK2HPO4及び20mMのK-アセテートを含む緩衝液(pH 7.35)中に懸濁させた。ラットのα1及びβグリシン受容体サブユニットの共トランスフェクションのために、各々がpCIS2発現ベクター(Invitrogen, San Diego, USA)中でサブクローン化された対応するcDNAを懸濁液に添加した。トランスフェクトされた細胞を視覚化するために、それらは緑色の蛍光たんぱく質のcDNA(GFP 10μg/ml)と共トランスフェクトされた。トランスフェクションのために、本出願人らはEquiBio(Kent, UK)によるエレクトロポレーションデバイスを使用した。トランスフェクトされた細胞をカバーガラス上に再び固定し、記録する前に15〜24時間培養した。
試薬はすべて、特に指摘されなければ、Sigma Chemicals(Deisenhofen, Germany)から入手した。
研究に使用するフェノール誘導体は、エタノール中の1M原液として調製し、光から保護され、ガラス容器中−20℃で貯蔵した。濃度はガラス瓶に注入された量から計算された。薬物を含むガラス瓶を60分間激しく振盪した。グリシン及びピクロトキシンは直接溶液中に溶解させた。
パッチ電極は、KCl 140mM、MgCl2 2mM、EGTA 11mM、HEPES 10mM、グルコース 10mMを含有し、溶液はNaCl 162mM、KCl 5.3mM、NaHPO4 0.6mM、KH2PO4 0.22mM、HEPES 15mM、グルコース 5.6mMを含有した。
標準全細胞実験(Hamill et al., (1981) Pflugers Arch., 391, 85-100.)は、−30mVの膜電位で実施した。細胞膜及びパッチクランプ電極間に形成される数GΩの電気的密封は、作動薬誘導チャネルの活性化による内向き電流をpA範囲で変化させる。ピペットの電気抵抗は約5MΩであり、約10MΩの全細胞構造における総アクセス抵抗に対応する。2秒の持続時間のパルスにおける作動薬の適用には超高速液体フィラメントスウィッチ技術(Franke et al., (1987) Neurosci. Lett., 77, 199-204)を使用した。研究に使用する作動薬及び/または薬物は、圧電結晶に連結する単一の流出流(内径0.15mmのガラス管)による円滑な液体フィラメントにより細胞に適用される。細胞を、このフィラメント及び連続的に流動するバックグラウンド溶液間の界面に置いた。電圧パルスを圧電結晶に加えると、管が研究に使用する細胞上にまたは細胞から離れるように上下に移動した。細胞の液体フィラメントに対する正しい位置は、各実験の前後に飽和(1000μM)グリシンのパルスを適用して確保した。実験を進める前に、グリシン活性化電流の大きさ及び形状が確実に安定化するように注意した。試験溶液及びグリシン(1000μM)は、別々の容器からではあるが、同一のガラス-ポリテトラフルオロエチレンかん流システムにより適用した。これらの容器の内容物は、表面かん流室にはいる直前の接合部で混合された。
薬物は、その作動薬作用を決定するために単独で適用されても、共活性化作用を決定するために飽和以下の濃度のグリシン(10μM)と組み合わせてもよいし、開いたチャネルの遮断を検出するために飽和濃度(1000μM)のグリシンと一緒に適用されてもよい。新規細胞を各薬物及び各手順について使用し、各設定について3回以上の実験を実施した。使用する最高薬物濃度に対応する希釈剤エタノールの量は、34000μMであった。エタノール自体はこの濃度においてグリシン受容体共活性化にも直接的活性化にも影響を及ぼさないことを本発明者らはすでに示した。
データの収集及び更なる分析のために、本発明者らはAxopatch 200B 増幅器をpClamp6ソフトウェア(Axon Instruments, Union City, CA, USA)と組み合わせて使用した。電流は2kHzでフィルターをかけた。適合手段は、非線形最小自乗Marquardt-Levenberg演算手順を用いて実施した。詳細は、適する図面の説明文または結果の欄に提供する。
作動薬として直接作用する化合物により誘導される最大電流応答は、それぞれの実験直後の薬物不在下における1000μMグリシンに対する最大応答の百分率として表された。共活性化効果は、E(%)=100[(I−I0)/ I0](式中、I0は10μMグリシンに対する電流応答である。)にしたがって、10μMグリシンにより誘発された電流の百分率として表された。活性化または共活性化電流は、それら自身の最大応答に対して正規化された。非ハロゲン化化合物については、3000μMより高濃度のフェノール誘導体がシール抵抗において下降し、信頼しうる結果が得られないので、用量-応答曲線は必ずしも平坦域の応答に達しなかった。これらの場合には、最大応答は、信頼しうる応答が記録される試験化合物の最高濃度における応答であった。用量-応答曲線は、(Inorm=[1+(EC50/[C])nH]-1)(式中、Inormは、最大内向き電流または最大共活性化電流(Imax−I0)により正規化された、作動薬のそれぞれの濃度[C]により直接的に誘導された電流、または作動薬−グリシン(10μM)混合物により共活性化された電流(I−I0)で、EC50はそれら自身の最大応答の50%に達する応答を引き起こすのに必要な濃度であり、かつnHはHill係数である)にしたがって適合させた。
α1β受容体について得られた結果のみを統計的検査方法で記録した。α1同価同種受容体において比較的高いグリシン感度が得られた結果、最高共活性化応答(1000μMグリシンの効果に関して)が時折低薬物濃度で観察され、α1同価同種受容体におけるHillフィットから誘導されるEC50値が過小評価される結果となる。それぞれ、ハロゲン化及び非ハロゲン化類似物間、1個対2個のメチル基を有する化合物間、またはフェノール性ヒドロキシル基に対してorthoまたはmeso位にメチル基を有する化合物間で、一方では最大効果における差異を示すために、他方においては半数影響効果に達するのに必要な濃度(EC50)における差異を示すために統計学的分析を実施した。曲線の適合及びHill曲線のパラメータの評価は、SAS Release 8.02のプログラム“PROC NLMIXED”を用いて実施した。このモデルにおいては、“実験”は支配下にある変数として処理され、パラメータの値(EC50及びnH)は正規分布したランダムの因子として処理される。2つの物質間のこれらのパラメータの平均の差異は、第二組のすべてのデータに関して活性化された一定のシフトパラメータΔEC50及びΔnHとして統一モデルに入れられた。双方の代替物に対してパラメータの差異がないという帰無仮説を試験するために、対応する(漸近的)t-値を使用した。帰無仮説はp<0.05で否定された。すべてのデータは、平均±SDとして表される。
ハロゲン化及び非ハロゲン化、モノ-及びジメチル化またはortho-またはmeso-メチル化構造類似物間の最大増強効果における差異の有意性を分析するために2つの試料のt-試験を実施した。
研究には、全部で94の細胞を用いた。HEK 293細胞におけるラットのα1同価同義及びα1βmRNAの発現は、天然作動薬の濃度を飽和させた(1000μM)後にα1受容体において−1.0±0.5nA及びα1β受容体において1.3±0.9nAの大きさのグリシン活性化内向き電流を示すグリシン受容体を発生した。各実験後に1000μMのグリシンとともに1000μMのピクロトキシンを適用すると、成功したβサブユニットの共発現が確認された。この実験の設定においては、1000μMのピクロトキシンがα1同価同義受容体を55±0.05%遮断したが、α1β受容体はピクロトキシンの影響をほとんど受けなかった(19±0.05%遮断)。共トランスフェクションに1:10の割合のα及びβcDNAを使用した場合には、ピクロトキシンを用いて確認された成功したβサブユニットの共発現は100%であった。過渡電流は急速に増大し、その後単相減衰した。感度低下の時間定数は、α1同価同義受容体において958±250分及びα1β受容体において1026±212分であった。1000μMのグリシンの存在下において感度が低下しないそれぞれの定常状態電流は、86±6%及び84±8%のピーク電流の大きさであった。
グリシンを適用しない場合には、2,6-ジメチルフェノール及び3,5-ジメチルフェノールのみが濃度依存性で受容体媒介内向き電流を直接的に活性化した。電流は、それぞれ高濃度(3000μM)の3,5-ジメチルフェノールまたは2,6-ジメチルフェノールの存在下において、最大グリシン(1000μM)応答の30±12%(α1、n=3)及び38±5%(α1β、n=3)及び32±6%(α1、n=3)及び33±10%(α1β、n=3)に達した。半数影響濃度(EC50)の推定値は、それぞれα1及びα1β受容体において、3,5-ジメチルフェノールに関しては1468±208及び1466±83μMであり、2,6-ジメチルフェノールに関しては1410±101及び1549±164μMであった。
α1及びα1β受容体におけるグリシンの用量―応答曲線は図3に示されている。グリシンのEC50は、それぞれα1において12.8±2.3μM及びα1β受容体において47.0±14.0μMであった。グリシン10μMは、1000μMのグリシンの応答の、α1βにおいて21±7%(n=34)及びα1受容体において46±5%(n=24)の電流応答を引き起こしたが、このグリシン感度の差異は有意(p<0.001)であった。グリシンが存在する限り、10μMのグリシンへの電流応答の感度低下は10%未満であった。
研究したすべてのフェノール誘導体は、α1及びα1β受容体の両方においてグリシン10μMへの電流応答を増強し、図4及び5はα1β受容体を用いて得られた典型的な電流の図形を示し、図6はα1同価同義受容体を用いて得られた電流の図形を示す。
最大の増強度に対して化合物間の有意な差異は検出されなかった。3-メチルフェノールに関して観察された増強効果だけが2-メチルフェノール関するそれより高かった(p=0.04)が、2-メチルフェノールを用いた実験に対して3-メチルフェノールを用いた実験におけるグリシン10μMへの応答のほうが低い結果かもしれない。
α1及びα1β受容体における正規化応答へのHill式の適合から誘導されるEC50値及びHill係数(±SD)は表1に示されている。
α1同価同種受容体において比較的高いグリシン感度が得られた結果、最高共活性化応答(1000μMグリシンの効果に関して)が時折低薬物濃度で観察され、α1同価同種受容体におけるHillフィットから誘導されるEC50値が過小評価される結果となり、したがってα1同価同種受容体に関するパラメータを有効性の決定に使用するべきではない。しかしながら、図4、5及び6の電流の図形及び表1に示される値により示されるように、α1β受容体と比較して同様な濃度範囲におけるα1同価同種受容体でのすべてのフェノール誘導体共活性化電流、したがってβ-サブユニットの発現は共活性化効果に必要ではない。
それぞれ300及び600μMより高濃度のハロゲン化化合物3,5-ジメチル-4-クロロフェノール及び3-メチル-4-クロロフェノールは、併用の終了時に大きな応答の逆戻りを示すとともに、1000μMのグリシンを併用したときにピーク電流の大きさを低下させた。電流の減衰はそれぞれの化合物及びグリシン(1000μM)の併用中に加速された。この効果を立証するために各化合物について全部で3回の実験を実施した。図8は典型的な電流の図形を示す。
これらのデータは、フェノール性ヒドロキシル基に対してpara位に塩素を有する置換フェノール誘導体が低濃度でグリシン受容体を共活性化し、それゆえ痙縮、筋肉弛緩、及び疼痛軽減の治療の潜在能力を提供しうることを示す。一層高い濃度においては、ジメチル化及び非ハロゲン化化合物のみが天然の作動薬の不在下でグリシン受容体を直接的に活性化した。これらの結果は、フェノール誘導体によるグリシン受容体の直接的活性化及び共活性化が明確な構造上の特徴を必要とすることを示す。βサブユニットの存在はフェノール誘導体によるグリシン受容体のプラスの調節にも直接的活性化にも必要とされない。
GABAA及びグリシン受容体は、哺乳動物の中枢神経系における抑制性神経伝達の主要な受容体である。GABAAは脳において最も重要な神経伝達物質であり、グリシンは脊髄及び脳幹下部において重要な役割を果たす。GABAA受容体は、構造上さまざまな鎮静麻酔薬及び抗不安薬の共通の標的サイトとして確認されているが、特にグリシン受容体を標的とする臨床上適用できる化合物はまだ確認されていない。グリシン受容体は、抗侵害受容作用及び筋肉弛緩作用を媒介する治療の有力候補として示唆されている。
グリシン受容体におけるCl-内向き電流を活性化または共活性化するフェノール誘導体の潜在力を決定する構造上の特徴は、GABA作動性受容体の活性化またはナトリウムチャネル遮断作用に関してすでに報告された要件に対して類似点及び相違点を示す。
要するに、これらのデータは、好ましくは電圧調節性ナトリウムチャネルまたはGABAA受容体よりむしろグリシン受容体選択性である本発明によるフェノール誘導体が、代表的な使用において望ましい様式の抗侵害受容、筋肉弛緩及び局所麻酔/抗痙攣作用を示すことを示唆した。当業者は、このことが、本発明による化合物が前述のように多くの疼痛状態の制御に有用であることを明らかにするのを認識するであろう。
1.フェノール誘導体は神経作動性化合物群を構成する。本研究の目的は、グリシン受容体におけるそれらの調節作用を決定する構造上の特徴を特定することである。
2.本発明者らは、HEK 293において異種発現したラットのα1及びα1βグリシン受容体による塩化物の内向き電流に及ぼす4種のメチル化フェノール誘導体及び2種のハロゲン化類似物の影響を研究した。
3.すべての化合物が、α1同価同種及びα1βグリシン受容体の両方において最大下のグリシン濃度の影響を増強した。α1β受容体におけるグリシン10μMの作用の最大増強度は化合物間で変わらなかったけれども、ハロゲン化化合物は、非ハロゲン化類似物と比較して、20倍以上低い濃度の低いμM範囲において半数影響増強効果を達成した(p<0.0001)。共活性化効果は、ハロゲン化化合物においては>300μMの濃度において抑制効果により無効になった。
4.ジメチル化化合物である2,6-及び3,5-ジメチルフェノール(>1000μMの濃度において)のみが、α1及びα1β受容体の両方を、1000μMのグリシンにより誘発された最大応答の30%まで直接的に活性化した。
これらの結果は、直接的活性化は2個以上のメチル基を有する化合物の高濃度においてのみ観察されるが、グリシン受容体機能をプラスに調節するフェノール化合物の潜在力の重大な構造上の特徴はpara位におけるハロゲン化であることを示す。βサブユニットの存在は両方の作用に必要とされない。
本発明者らは実施例1で要約した予備的な研究を展開して、鎮痛薬としてのフェノール誘導体の有効性を更に改良しようと努力した。彼らは多くのプロポフォールの誘導体を設計して試験し、驚いたことには、フェノール環上の2、3、5及び6位の置換基の種類(すなわち、一般式IのR1、R2、R4及びR5)が化合物のグリシン受容体選択性及びグリシン誘導体を活性化する効果に有意な影響を及ぼすことを見出した。これらの実験により、本発明の第一の面による化合物の有用性が明確に理解された。本発明による好ましい化合物のデータを、説明の目的で以下に提供する。驚くべきことに、これらの化合物は、nM範囲のグリシン受容体の共活性化のEC50値を有する。
グリシン受容体活性化(したがって疼痛制御)に関する多くの更なるハロゲン化プロポフォール誘導体の有効性を研究するために、実施例1で使用した実験手順を繰り返した。
本発明者らは、R1、R2、R4及びR5の2以上が2乃至13個の炭素原子のアルキル基からなる一般式Iの化合物がグリシン受容体を調節するのに特に有効であることを立証した。そのような化合物は、本発明による使用の特に好ましい化合物であり、R1、R2、R4及び/またはR5にメチル基を有する一般式Iによる化合物より一層良好な鎮痛薬の性質を示した(上記参照)。
好ましい化合物である4-クロロプロポフォール、4-ブロモプロポフォール及び4-ヨードプロポフォールの説明に役立つデータを以下に示す。
2.1:4-クロロプロポフォール
図9は、4-クロロプロポフォールを10μMのグリシンと併用したときの10μMのグリシンに対する電流応答の共活性化を示す典型的な電流の図形(上から3番目、4番目、5番目及び6番目の電流の図形)を示す。最初の図形は、最大上のグリシン濃度(1000μM)により誘発された電流を示す。ラットからのグリシン受容体のa-サブユニットは、HEK293細胞においてヒトのβサブユニットとともに共発現した。小さな細胞は、超高速アプリケーションデバイスを用い、全細胞モードで研究した。
図10は、4-クロロプロポフォールによる10μMのグリシンに対する電流応答の共活性化の濃度依存性(平均/SD、n=6)を示す。図10に提示された結果は、図11に示されたデータを提供するために図10に示されたデータを提供するために実施された試験を繰り返すことにより裏付けられた。したがって、図11もまた、4-クロロプロポフォールによる10μMのグリシンに対する電流応答の共活性化の濃度依存性(平均/SD、n=5)を示す。図10及び11から、1乃至100nMの濃度範囲で共活性化効果が観察されることに注目されたい。共活性化効果は、それより高濃度(≧1000μM)では抑制効果により無効になる。10μMより高濃度におけるピーク電流の大きさの下降は、たぶん比較的高い濃度における開いたチャネル遮断、すなわちプロポフォールに関して記載された現象のためである。ラットからのグリシン受容体のa-サブユニットは、HEK293細胞においてヒトのβサブユニットとともに共発現した。小さな細胞は、超高速アプリケーションデバイスを用い、全細胞モードで研究した。
これらのデータはまた、発現系としてHEK293の代わりに卵母細胞を用いた実験で確認された。
図13は、それ自身の最大応答(○)または1000μMグリシンにより誘発された最大応答(●)に対して正規化された4-クロロプロフォールにより直接的に活性化された電流(平均±SD、n=4)を示す。実線は示されたパラメータを用いたデータへのHillフィットである。直接的活性化効果は、共活性化効果より1000倍高い濃度において観察されることに注目されたい。
4-ブロモプロポフォール(4-ブロモ-2,6-ジイソプロピルフェノール)を用い、実施例1において実施した実験を繰り返した。
図14は、4-ブロモプロポフォールを10μMのグリシンと併用したときの10μMのグリシンに対する電流応答の共活性化を示す典型的な電流の図形(上から3番目、4番目、5番目及び6番目の電流の図形)を示す。最初の図形は、最大上のグリシン濃度(1000μM)により誘発された電流を示す。ラットからのグリシン受容体のa-サブユニットは、HEK293細胞においてヒトのβサブユニットとともに共発現した。小さな細胞は、超高速アプリケーションデバイスを用い、全細胞モードで研究した。
図15は、4-ブロモプロポフォールによる10μMのグリシンに対する電流応答の共活性化の濃度依存性(平均/SD、n=5)を示す。図15から、1乃至100nMの濃度範囲で共活性化効果が観察されることに注目されたい。共活性化効果は、それより高濃度(≧1000μM)では抑制効果により無効になる。
図16は、一番上の、最大上のグリシン濃度(1000μM)により誘発された電流に対する、天然の作動薬であるグリシンの不在下における4-ブロモプロポフォールにより誘発された電流の図形(上から2番目、3番目及び4番目の図形)を示す。ラットからのグリシン受容体のa-サブユニットは、HEK293細胞においてヒトのβサブユニットとともに共発現した。小さな細胞は、超高速アプリケーションデバイスを用い、全細胞モードで研究した。
図17は、それ自身の最大応答(○)または1000μMグリシンにより誘発された最大応答(●)に対して正規化された4-ブロモプロフォールにより直接的に活性化された電流(平均±SD、n=4)を示す。実線は示されたパラメータを用いたデータへのHillフィットである。直接的活性化効果は、共活性化効果より1000倍高い濃度において観察されることに注目されたい。
4-ヨードプロポフォール(4-ヨード-2,6-ジイソプロピルフェノール)を用い、実施例1において実施した実験を繰り返した。
図18は、4-ヨードプロポフォールを10μMのグリシンと併用したときの10μMのグリシンに対する電流応答の共活性化を示す典型的な電流の図形(上から3番目、4番目、5番目及び6番目の電流の図形)を示す。最初の図形は、最大上のグリシン濃度(1000μM)により誘発された電流を示す。ラットからのグリシン受容体のa-サブユニットは、HEK293細胞においてヒトのβサブユニットとともに共発現した。小さな細胞は、超高速アプリケーションデバイスを用い、全細胞モードで研究した。
図19は、4-ヨードプロポフォールによる10μMのグリシンに対する電流応答の共活性化の濃度依存性(平均/SD、n=4)を示す。図19から、1乃至100nMの濃度範囲で共活性化効果が観察されることに注目されたい。共活性化効果は、それより高濃度(≧1000μM)では抑制効果により無効になる。
図20は、一番上の、最大上のグリシン濃度(1000μM)により誘発された電流に対する、天然の作動薬であるグリシンの不在下における4-ヨードプロポフォールにより誘発された電流の図形(上から2番目、3番目及び4番目の図形)を示す。ラットからのグリシン受容体のa-サブユニットは、HEK293細胞においてヒトのβサブユニットとともに共発現した。小さな細胞は、超高速アプリケーションデバイスを用い、全細胞モードで研究した。
図12、13、16、17、20及び21は、天然の伝達物質であるグリシンの不在下において提供された2,6-ジイソプロピルフェノールの4-クロロ、4-ブロモ及び4-ヨード誘導体の作用に関する実験データを提供する。3種の化合物は、1桁のμM範囲のEC50の値、すなわち、グリシンの存在下におけるより1000倍大きい値を示した(図11、15及び19を参照されたい)。本発明者らはいずれかの特定の理論により束縛されたくはないが、これらの試験結果は、3種の4-ハロプロポフォール誘導体が直接的効果を示さないというより、グリシン受容体のゲートに及ぼす天然の伝達物質の効果を調節するということを示唆する。
本発明による化合物の有効性を確認した4-クロロプロポフォールについて更なる実験を実施した。これらの実験には以下の実験が含まれる。
(a)予備的な実験において、100nMの4-クロロプロポフォールは、アフリカツメガエルの卵母細胞中で発現した組み換えグリシンα1受容体により媒介されたグリシン(EC10)誘発電流を大きく増強した。これらのデータは、ヒトの細胞株(HEK 293)において発現した組み換え受容体に及ぼす4-クロロプロポフォールの影響に関するデータを支持するが、完全に異なる発現系を使用している。
(b)ラットの生体外脊髄製剤を用いる更なる一連の予備的な実験において、100nM〜1μMの4-クロロプロポフォールは、sIPSC(シナプスのグリシン受容体により媒介された)の延長及び持続性のコンダクタンス(シナプス以外のグリシン受容体により媒介された)の増大を引き起こした。重要なことには、これらのデータは、ヒトの細胞株並びにアフリカツメガエルの卵母細胞中で発現した組み換え受容体に関して報告された4-クロロプロポフォールの強力な作用が神経環境中の天然のグリシン受容体に関して再現されることを示唆する。
3.1序
アフリカツメガエルの幼生のリズミカルな泳ぎ挙動(図22A)は、移動運動を制御する脊髄神経ネットワークを探求する有力なモデル系として認められている。泳ぎの強さ、振動数及び継続期間は2つの阻害経路、すなわち、泳ぎを停止させる下行脳幹GABA経路及び泳ぎ中に達成される繰返し周期を制御する脊髄グリシン作動性経路により調節される。GABA経路の増強作用が泳ぎエピソードの継続時間を低下させ、グリシン作動性経路の増強作用(すなわち、ノルアドレナリンまたは酸化窒素による)が繰返し周期を増大させて泳ぎの振動数を減速させる。
本発明者らは、GABA受容体またはグリシン受容体のいずれかを調節する化合物の相対的な有効性を評価するのにこのモデルを利用しうることに気がついた。したがって、彼らは、本発明による疼痛の調節に有効な化合物をスクリーニングする方法として、以下に記載する試験を開発することができた。
一般的な麻酔薬であるエトミデート及びプロポフォールは、CNS内でGABA作動性シナプス経路を増強することによりアフリカツメガエルの幼生における泳ぎ行動に阻害効果を発揮することを示した。プロポフォールはまたより高濃度(40μM)においてシナプス後のグリシン受容体における作用により効果を媒介することを示した。このことは、プロポフォールがこの系においてGABAAの強力なアロステリック調節剤であるばかりでなく、グリシン受容体においても作用することを示した。
本研究においては、動けなくされた幼生において仮想の泳ぎに及ぼす4-クロロプロポフォール(本発明の第一の面による化合物)の作用を試験するためにアフリカツメガエルの卵母細胞を使用した。最初に、プロポフォールと比較したその麻酔薬の性質を決定するために4-クロロプロポフォールを受容体拮抗薬の不在下で使用し、次いで、それぞれビククリン及びストリキニーネを用いプロポフォールとGABA及びグリシン受容体の相互作用を評価した。
ステージ37/8の幼生(図22Ai)は、α-ブンガロトキシンで動けなくされ、記録室内に取り付けられたSylgardブロック上に確保されて、カエルリンガー(ringer)で再循環させた。胴体の左及び右側のわき腹の皮膚を除去して、腹側の根にある筋節間の裂け目を暴露し、3つのガラス吸引電極は、左側の吻側及び尾側の位置及び右側の吻側の位置にあり(図22Aiii)、“仮想の”泳ぎを記録した(図22B)。泳ぎ行動は、四番目のガラス吸引電極より尾の皮膚に加えられた短い1ミリ秒の電流パルスにより誘発された。薬物は直接漕に添加された。データはCED 1401インターフェースを用いてデジタル化し、スパイク2ソフトウェアを用いて表示し、Dataviewソフトウェア(Courtesy of W.J., Heitler, University of St. Andrews)を用いて分析した。
3.3.1:4-クロロプロポフォールは仮想泳ぎを調節する
図23は、仮想泳ぎに及ぼす10μMの4-クロロプロポフォールの影響を示す。4-クロロプロポフォールは泳ぎ中の繰返し周期を有意に増大させ(図23AiとAiiを比較されたい;各エピソードの終了時から抜粋)、その効果は各エピソード中持続し(図22B)、対照生理食塩水に戻すことにより部分的ではあるが有意に逆転した。5回の実験のデータから繰返し周期は平均で約20%増大する。吻側−尾側及び左側−右側遅延もそれぞれ8%及び19%増大した(図示せず)が、エピソード継続時間に有意な差はなかった(図24B)。生理食塩水洗浄は、繰返し周期に及ぼすこれらの効果を25〜30%、吻側−尾側遅延は12%及び左側−右側遅延は22%逆転させた。泳ぎ中に達成される繰返し周期は、一部は相反するグリシン作動性の阻害の強さにより規制されるので、これらの結果は、10μMの4-クロロプロポフォールのグリシン作動性神経伝達を増強する能力を示し、したがって、本発明による化合物がグリシン受容体において良好な活性を有することを示す。更に、エピソード継続時間に及ぼす有意な影響の欠如は、4-クロロプロポフォールがGABA作動性神経伝達にはまったくまたはわずかしか影響を及ぼさないことを示唆する。このことは、本発明の第一の面による化合物が、生体内モデルにおいてGABA受容体よりグリシン受容体に対して良好な選択性を有するので、疼痛の管理に関して有用であることを示す。4-クロロプロポフォールの選択性は、この系における麻酔薬プロポフォールのGABAに及ぼす一層有効な効果とは対照的である。しかしながら、麻酔薬の作用を更に確立するために、その後の実験は最初にGABAA受容体次いでグリシン受容体に対して拮抗薬(それぞれ、ビククリンメチオジド及びストリキニーネ)を使用した。
図25は、GABAA受容体を遮断するために40μMのビククリンメチオジドに暴露させた後(A)、ビククリンの存在下において10μMの4-クロロプロポフォールを添加した後(B)の腹側の根の行動の抜粋を示す。繰返し周期に及ぼす4-クロロプロポフォールの影響は、明らかにGABAA受容体の遮断後に持続された。この実験においては、4-クロロプロポフォールがエピソードの継続時間を平均2秒、及び繰返し周期をエピソードの開始時に8.2分(AiをBiと比較されたい)及びエピソードの終了時に20.3分(AiiをBiiと比較されたい)増大させた。ビククリン洗浄(図示せず)では、エピソードの継続時間を2秒及びエピソードの開始時の繰返し周期を2分減少させたが、エピソードの終了時に繰返し周期を更に6.5分増大させた。ビククリンは、平均繰返し周期が50.3分の迅速な泳ぎの短いエピソードを提供するが、4-クロロプロポフォール添加の20分後には平均繰返し周期は61.3分に増大するが、効果はビククリンメチオジドの洗浄により逆転して54.5分となった。
これらの結果は、10μMの4-クロロプロポフォールが、GABAA受容体とは異なる阻害受容体の増強によりその作用の大部分を媒介することを示す。グリシン受容体が重要な役割を果たすことを確認するために、次いで1μMのストリキニーネを使用した。
ビククリンの存在下における4-クロロプロポフォールによる繰返し周期の長期化は、以下の実験が強い根拠となる証拠を提供する、化合物のグリシン作動性伝達に及ぼす作用を示唆する。図27は、1μMのストリキニーネ使用の20分後(Ai)及び10μMの4-クロロプロポフォール使用の40分後(Aii)の腹側の根の行動の抜粋を示す。化合物の存在下(図27Aii)では、エピソードの継続時間は17秒減少した(A)が、繰返し周期はエピソードの開始時に平均0.5分だけ増大し(Bi)、エピソードの終了時に平均3.4分減少した(Bii)。ストリキニーネの洗浄(図示せず)はエピソードの継続時間を2秒増大させ(A)、エピソードの開始時(Bi)及び終了時(Bii)の繰返し周期をそれぞれ3分及び5.4分減少させた。図27Bは、泳ぎのエピソード中の繰返し周期に及ぼす4-クロロプロポフォールの影響の欠如を示す。化合物を1μMのストリキニーネ存在下で使用するときの仮想泳ぎの4つのパラメータに及ぼす影響を調べるのに集計されたデータ(n=3)を使用した。4-クロロプロポフォールは繰返し周期を著しくではないが2%未満減少させ、ストリキニーネの洗浄により更に3%減少させた。エピソードの継続時間(B)または左側−右側遅延(D)に及ぼす4-クロロプロポフォールにより媒介される影響はほとんどまたはまったくなかった。
10μMの濃度において、4-クロロプロポフォールは、グリシン作動性経路により媒介され、拮抗薬ビククリンメチオジド(40μM)及びストリキニーネ(1μM)の使用前後に仮想泳ぎのパラメータに及ぼす効果により支持された疎外作用を増強する。単独で使用される場合には、化合物は、繰返し周期、吻側−尾側及び左側−右側遅延の増大をもたらし、エピソードの継続時間を変化させない阻害経路の増強により仮想泳ぎを阻害する。GABAA受容体を40μMのビククリンメチオジドで遮断した後、4-クロロプロポフォールは仮想泳ぎに同様な影響を与えて、洗浄により逆転した効果とほぼ同じ百分率で繰返し周期及び左側−右側遅延を増大し続ける。この場合もエピソードの継続時間にはほとんど変化がないが、これらの実験では吻側−尾側遅延が明らか減少した。4-クロロプロポフォールのグリシン作動性神経伝達を増強する能力を決定するために、グリシン受容体を遮断するのに1μMのストリキニーネを使用した。化合物または洗浄により繰返し周期がわずかに減少し、エピソードの継続時間にも左側−右側遅延にも変化はなく、吻側−尾側遅延がわずかに上昇しただけであった。これらの結果は、グリシン作動性経路の増強による及びそれより程度は少ないがGABA作動性神経伝達の増強による仮想泳ぎを阻害する4-クロロプロポフォールの能力を支持する証拠を提供する。
ステージ37/8のアフリカツメガエルの幼生の仮想泳ぎは、主として脊髄内に位置する中枢パターン発生器(CPG)により調整されている。このネットワークは、下行及び交連介在ニューロン、及び運動ニューロンを含む。脊髄の両側にあるこれらのニューロンは厳密に交互に発火し、それにより両側の交互の筋収縮を提供する。泳ぎの励起は、グルタミン酸作動性下行介在ニューロンにより引き起こされる。左側−右側交代は、CPGの各半分の中心の周期の中ほどの相反する阻害を媒介するグリシン作動性交連介在ニューロンの働きによりもたらされる。仮想泳ぎのエピソードは自然にまたはGABAA受容体を活性化するために脊髄中にGABAを放出する吻側のセメント腺への圧力により活性化されたGABA作動性の中後脳の網様体脊髄路のニューロンにより終了する。この研究の目的は、ステージ37/8のアフリカツメガエルの幼生のCNS内の抑制性神経伝達に及ぼす4-クロロプロポフォールの効果を決定することである。
4-クロロプロポフォール(本発明の第一の面による化合物)は麻酔薬プロポフォールの誘導体であり、GABAA及びグリシン受容体を増強し、それにより仮想の泳ぎを阻害する抑制作用をアフリカツメガエルの幼生のCNSに及ぼすことが期待される。しかしながら、この実施例で論じられるように、4-クロロプロポフォールは、グリシン受容体(仮想の泳ぎを阻害すると分析された)に対する選択性を示し、それにより鎮痛薬としての4-クロロプロポフォールの有用性を示す、はっきりと識別できる効果を有することが見出された。
最初の組の実験は、10μMの4-クロロプロポフォールの効果を研究する。集めたデータ(n=5)は、繰返し周期、吻側−尾側及び左側−右側遅延の増大を示したが、エピソードの継続時間の変化は示さなかった。生理食塩水中での洗浄後、これらのパラメータを測定すると対照の値に戻った。主要な効果は泳ぎの振動数の低下であった。
プロポフォールはGABA作動性神経伝達をグリシン作動性神経伝達より大きく増強し、この証拠から当業者は4-クロロプロポフォールもGABAA伝達を増強してそれにより麻酔薬として作用すると推測した。しかしながら、その後の実験は、40μMのビククリンメチオジドの存在下における10μMのp-Cl-プロポフォールの効果を調査し、この場合は驚くべきことにそうではないことを示した。この実験においては、4-クロロプロポフォールは、繰返し周期は同様に増大するがエピソードの継続時間は変化しない、対照生理食塩水を化合物と比較した前述の実験と同様な結果を示した。繰返し周期に及ぼす効果はビククリン単独に戻すと可逆的であった。このことから、4-クロロプロポフォールは、GABAA受容体とのアロステリックな結合相互作用による仮想泳ぎの振動数にその影響を及ぼさないと結論しうる。その代わりに4-クロロプロポフォールはグリシン受容体上のアロステリックなサイトと結合し、これらの阻害経路を増強し、その結果として仮想泳ぎの振動数を低下させる。
4-クロロプロポフォールは、アフリカツメガエルの幼生の仮想泳ぎの振動数を減少させ、その効果は各エピソード中持続する。しかしながら、各エピソードの継続時間は有意には影響を受けなかった。これらの効果は、グリシン作動性神経伝達の増強により説明され、生体内モデルにおいて、本発明による化合物が、麻酔薬として有用であるプロポフォールのGABA選択性よりむしろグリシン受容体選択性であり、それゆえ鎮痛薬として有用であろうということを示す。
グリシン作動性阻害の強さの変化は、泳ぎの周波数に強力に影響することが知られている。例えば、阻害の低下(例えば、グリシンの使用による)は泳ぎの周波数を増大させ、グリシン作動性シナプシスの増強(例えば、ノルアドレナリンまたは酸化窒素を用いた)は泳ぎの周波数を低下させる。4-クロロプロポフォールの効果は、i)エピソードの継続時間に有意には影響を及ぼさない、及びii)効果はGABAA受容体を遮断するのに十分な濃度のビククリンの存在下において持続する、という理由で、GABA神経伝達に及ぼす影響により説明できない。これに対し、ストリキニーネの使用は4-クロロプロポフォールの泳ぎに及ぼす効果を遮断する。
4-クロロプロポフォールのこれらの効果は、低濃度(1μM)においてはGABAA受容体における作用により泳ぎを阻害するが、それより高い濃度(40μM)においてはグリシン受容体の増強により影響を及ぼすプロポフォールとは異なる主要な作用サイトを示す。4-クロロプロポフォールは、10μMではGABAA受容体において無視しうる効果しか示さないと思われるが、グリシン受容体にはこの濃度において強力な影響を及ぼす。このことは明らかに、プロポフォールと比較して本発明による化合物の驚くべき受容体選択性を示す。
本発明者らは、本発明による化合物の有効性を更に評価するために生体内疼痛モデルを開発した。
4.1方法
化合物が鎮痛薬の性質を有するか否かを試験するために、約250gのオスのSprague-Dawleyラットを使用した。
4.1.1予備実験
試験動物に、標準的な手順に従って髄腔内カニューレ挿入(IC)により投与された試験化合物または賦形剤で慢性収縮損傷(CCI)を受けさせる。
試験は2つの実験グループ(n+6/群)について実施する。
CCI+髄腔内カニューレ挿入(IC)+賦形剤
CCI+髄腔内カニューレ挿入(IC)+最高3回の投与
動物に、賦形剤及び化合物に関する毒性の徴候がないかどうか監視する。動物の挙動もまた評価する。
4.1.2主実験
神経障害性疼痛(坐骨神経のゆるい結さつ)のBennettモデル(当業者に公知である)を使用する。
結果判定法は、Frey or paw pressureによる熱である(Randell & Selitto (1957) Arch Int Pharmacodyn 4: p409-421に記載されている)。
賦形剤;化合物投与1;化合物投与2;化合物投与3;陽性の対照(ガバペンチン100mg/kg/日)を含む5群(各群はn=8)について試験する。
損傷後(7日後)のベースラインにおける値を得る。次いで小型の浸透圧ポンプにより連続的な髄腔内薬物投与を開始する。8、10及び14日後に更に3回の挙動試験を実施する。
4.2結果
本発明者らは、本発明による化合物がRandell & Selitto試験基準による鎮痛薬の性質を有することを期待する。
Claims (13)
- R3がハロゲンである請求項1記載の使用。
- 前記ハロゲンが塩素またはヨウ素である請求項2記載の使用。
- R1、R2、R4又はR5の2以上が2乃至13個の炭素原子を含むアルキル基である請求項1乃至3のいずれかに記載の使用。
- R1、R2、R4及びR5の2つがアルキル基であり、他の2つがHである請求項4記載の使用。
- 前記2つのアルキル基がともにorthoまたはmeso位である請求項5記載の使用。
- 前記化合物が、2,6-ジイソプロピル-4-クロロフェノール、2,6-ジイソプロピル-4-ヨードフェノール、2,6-ジイソプロピル-4-フルオロフェノール、2,6-ジイソプロピル-4-ブロモフェノール、3,5-ジイソプロピル-4-クロロフェノール、3,5-ジイソプロピル-4-ヨードフェノール、3,5-ジイソプロピル-4-フルオロフェノール及び3,5-ジイソプロピル-4-ブロモフェノールの一である請求項5記載の使用。
- 前記化合物が、4-ブロモプロポフォール、4-クロロプロポフォール及び4-ヨードプロポフォールの一である請求項5記載の使用。
- 1以上のアルキル基がイソプロピルである請求項1乃至8のいずれかに記載の使用。
- 慢性疼痛の治療のための請求項1乃至9のいずれかに記載の使用。
- 疼痛の治療を必要とする被験者に治療上有効量の請求項1乃至10のいずれかに記載の化合物を投与することを含む、前記被検者において疼痛を治療または軽減する方法。
- 請求項1乃至10のいずれかに記載の化合物を含む薬物。
- 鎮痛薬としての有効性について化合物をスクリーニングする方法であって、試験化合物をオタマジャクシに適用し、
GABA神経伝達媒介挙動に及ぼす化合物の影響をモニターし、
グリシン神経伝達媒介挙動に及ぼす化合物の影響をモニターする
ことを含む方法であり、かつ
グリシン神経伝達の特徴を示す挙動を排他的にまたは主として誘導する化合物が推測上の鎮痛薬である方法。
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