JP2009287703A - グリース封入転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】高温、高速回転下で使用されても水素脆性に起因する軸受転走面での剥離を効果的に抑制できるグリース封入転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪2および外輪3から選ばれた少なくとも一つの軌道輪に熱処理および表面処理を施し、グリース7を封入したグリース封入転がり軸受1であって、熱処理は所定の窒素富化層を形成する処理であり、表面処理は軌道輪を電解エッチングした後、所定の酸に浸漬し被膜を形成した後、軌道輪をクロム酸と、所定の酸と、マグネシウム、カルシウム、バリウムの炭酸塩または硫酸塩から選ばれた少なくとも一つの物質の過飽和量と、界面活性剤とを含む水溶液で電解する処理であり、グリースは、アルミニウム粉末およびアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一つのアルミニウム系添加剤を基油と増ちょう剤とからなるベースグリース 100 重量部に対して 0.05〜10 重量部配合してなる。
【選択図】図1
【解決手段】内輪2および外輪3から選ばれた少なくとも一つの軌道輪に熱処理および表面処理を施し、グリース7を封入したグリース封入転がり軸受1であって、熱処理は所定の窒素富化層を形成する処理であり、表面処理は軌道輪を電解エッチングした後、所定の酸に浸漬し被膜を形成した後、軌道輪をクロム酸と、所定の酸と、マグネシウム、カルシウム、バリウムの炭酸塩または硫酸塩から選ばれた少なくとも一つの物質の過飽和量と、界面活性剤とを含む水溶液で電解する処理であり、グリースは、アルミニウム粉末およびアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一つのアルミニウム系添加剤を基油と増ちょう剤とからなるベースグリース 100 重量部に対して 0.05〜10 重量部配合してなる。
【選択図】図1
Description
本発明は特異性のある水素に起因する脆性剥離を防止したグリース封入転がり軸受に関し、特にオルタネータ、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ、電動ファンモータ等の自動車電装補機やモータ等に用いられるグリース封入転がり軸受に関する。
近年、自動車の高速化・コンパクト化が進みエンジン・電装補機用軸受は高速・高荷重・高振動といった過酷な条件下で使用されるようになっている。特にオルタネータで使用される軸受では高速・高荷重回転に伴う軸受自体の発熱と、オルタネータ内のコイルの発熱により一般的な軸受鋼の焼戻温度(約 180℃)をこえるような状況下で使用されている。こういった状況に伴い、オルタネータ用軸受などでは損傷起点部に白層を伴った特異な剥離が散見されている。この白層の形態は、転動疲労によって生じるWEC( White Etching Constituent )や非金属介在物の周りに発生するバタフライとは違い、転動方向に対して方向性を持たないことが特徴である。この損傷が発生した軸受では明らかに鋼中水素量が増加しており、白層内に存在する亀裂が結晶粒界に沿って非常に内部まで進展していることから、損傷の発生には水素が関与していることは確実と考えられる。以後、この白層を伴う特異な剥離を水素脆性剥離と称することにする。
水素脆性剥離は転動時に発生した化学的に活性な金属新生面の触媒作用で潤滑剤が分解し、発生した水素が鋼中に侵入することにより生じると考えられる。そのため、水素脆性剥離の対策技術として、金属表面が露出しない黒染処理のような表面処理を目的とした軌道輪の転走面に厚さ 0.1〜2.5μm の酸化皮膜を形成したグリース封入軸受(特許文献1参照)が有効とされている。また、材質面からの対策方法として、脆性剥離が発生し難いような熱処理を施す方法として転動体、内輪、外輪のうち少なくとも1つの部材に窒素富化層を有し、かつ表層部の球状化炭化物の面積率が 10%以上を占める転がり軸受が知られている(特許文献2参照)。
しかしながら、表面処理に関しては、使用条件の急速な過酷化に伴って金属表面の酸化被膜は摩耗による消失が懸念されるため、恒久的な対策とはいい難い状況が出てきている。また、材料についても水素脆性剥離に対し、多量のクロムを添加することは材料コストアップに繋がるため採用し難く、コストアップ要素の少ない潤滑剤での対策が現在の主流となっているのが実情である。しかし、潤滑剤での対策だけでは必ずしも十分であるとはいえない。
特開平2−190615号公報
特開2004−278781号公報
本発明はかかる問題に対処するためになされたものであり、高温、高速回転下で使用されても水素脆性に起因する軸受転走面での剥離を効果的に抑制できるグリース封入転がり軸受の提供を目的とする。
本発明のグリース封入転がり軸受は、内輪および外輪と、これら内外輪の転走面間に介在する複数の転動体とを備え、上記内輪および外輪から選ばれた少なくとも一つが、熱処理後に表面処理を施こされた軸受鋼からなる軌道輪(A)であり、上記転動体の周囲にグリース(B)が封入された転がり軸受であって、前記軌道輪(A)は、(1)上記熱処理として、浸炭窒化処理を施した後に、200〜300℃の焼戻処理を施し、(2)上記表面処理として、該軌道輪を陽極にし、硫酸、りん酸、硝酸、硫酸塩、りん酸塩および硝酸塩から選ばれた少なくとも一つの物質を含有する水溶液を電解液とし、周波数が 20〜100 KHz の超音波を付与して電解エッチングした後、この電解エッチングした軌道輪を、クロム酸 15〜300 g/l と、硫酸 30〜850 g/l または硝酸 40〜500 g/l とを含有した室温〜120℃の処理液に浸漬し該軌道輪に被膜を形成した後、この被膜を形成した軌道輪を陰極とし、クロム酸を 50〜150 g/l と、りん酸および/または硫酸を 0.1〜100 ml/l と、マグネシウム、カルシウム、バリウムの炭酸塩または硫酸塩から選ばれた少なくとも一つの物質の過飽和量と、界面活性剤とを含む水溶液を電解液として電解処理された軌道輪であり、上記グリース(B)は、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなり、上記添加剤は、アルミニウム粉末およびアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一つのアルミニウム系添加剤を含有し、該アルミニウム系添加剤の配合割合はベースグリース 100 重量部に対して 0.05〜10 重量部であることを特徴とする。
上記浸炭窒化処理は、800〜1000℃にて 1〜5 時間の1次焼入後に、730〜830℃にて 0.5〜2 時間の2次焼入を施す処理であることを特徴とする。
上記電解エッチングで使用する硫酸およびりん酸は 50〜150 g/l 、硝酸は 50〜500 g/l 、これらの塩は 60〜800 g/l であることを特徴とする。
上記アルミニウム化合物は、炭酸アルミニウムおよび硝酸アルミニウムから選ばれた少なくとも一つの化合物であることを特徴とする。
また、上記増ちょう剤は、ウレア系増ちょう剤であることを特徴とする。
また、上記基油は、アルキルジフェニルエーテル油およびポリ-α-オレフィン油から選ばれた少なくとも一つの油であることを特徴とする。
また、上記増ちょう剤は、ウレア系増ちょう剤であることを特徴とする。
また、上記基油は、アルキルジフェニルエーテル油およびポリ-α-オレフィン油から選ばれた少なくとも一つの油であることを特徴とする。
本発明のグリース封入転がり軸受は、第一の効果として、軌道輪の熱処理と表面処理とにより軌道輪の表面に十分な厚さの不働態被膜が強固に形成され、水素脆性剥離を防止することができる。
軌道輪の熱処理(1)については、軸受鋼を用いた軌道輪の表層部に窒素富化層を形成する浸炭窒化処理を施した後、200〜300℃の焼戻処理を施し表層部の残留オーステナイト量を減少させることで表面硬度が向上し、十分な耐摩耗性を確保できる。ここで、表層部とは表面より 50μm の深さまでの部分をいう。耐摩耗性の向上は金属新生面の発生を防ぐ効果がある。また、窒素富化層における鋼のオーステナイト粒度番号が10番をこえる範囲とすることにより、転動疲労に対する抵抗性が向上するとともに、割れ強度(静的破壊強度)や靭性が向上する。そして、上記特徴を持つ鋼材に対し高温焼戻を実施し表層部の残留オーステナイト量を減少させることで、ミクロ的な塑性変形に伴うクラックの発生を抑止し、水素脆性剥離寿命の延長を図ることができる。
その後の表面処理として、エッチング処理および不動態被膜形成処理(2)、および電解処理(3)を施す。すなわち、軌道輪の表面には活性転移の多い塑性変形組織を有する欠陥層が形成されているが、この欠陥層を電解エッチングにより除去することができ、極めて防錆性に優れた被膜を形成するための下地処理ができ、不動態被膜形成処理においてクロム酸を所定量含有する処理液に軌道輪を浸漬することにより、軌道輪表面に十分な厚さの不働態被膜を形成することができる。電解処理において、Ca2+、Mg2+、Ba2+ イオンを含有する電解液を用いて、電解処理することにより画期的に防錆性を付与させることができる。
軌道輪の熱処理(1)については、軸受鋼を用いた軌道輪の表層部に窒素富化層を形成する浸炭窒化処理を施した後、200〜300℃の焼戻処理を施し表層部の残留オーステナイト量を減少させることで表面硬度が向上し、十分な耐摩耗性を確保できる。ここで、表層部とは表面より 50μm の深さまでの部分をいう。耐摩耗性の向上は金属新生面の発生を防ぐ効果がある。また、窒素富化層における鋼のオーステナイト粒度番号が10番をこえる範囲とすることにより、転動疲労に対する抵抗性が向上するとともに、割れ強度(静的破壊強度)や靭性が向上する。そして、上記特徴を持つ鋼材に対し高温焼戻を実施し表層部の残留オーステナイト量を減少させることで、ミクロ的な塑性変形に伴うクラックの発生を抑止し、水素脆性剥離寿命の延長を図ることができる。
その後の表面処理として、エッチング処理および不動態被膜形成処理(2)、および電解処理(3)を施す。すなわち、軌道輪の表面には活性転移の多い塑性変形組織を有する欠陥層が形成されているが、この欠陥層を電解エッチングにより除去することができ、極めて防錆性に優れた被膜を形成するための下地処理ができ、不動態被膜形成処理においてクロム酸を所定量含有する処理液に軌道輪を浸漬することにより、軌道輪表面に十分な厚さの不働態被膜を形成することができる。電解処理において、Ca2+、Mg2+、Ba2+ イオンを含有する電解液を用いて、電解処理することにより画期的に防錆性を付与させることができる。
本発明のグリース封入転がり軸受は、第二の効果として、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースにアルミニウム粉末およびアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一つのアルミニウム系添加剤を配合したグリースを使用するので、軸受の摩擦摩耗面または摩耗により露出した金属新生面においてアルミニウム化合物が反応し、アルミニウム被膜が軸受転走面に生成する。転走面はアルミニウム被膜に覆われ、転動体と金属接触を起こすことなく、水素脆性剥離を防止することができる。
本発明のグリース封入転がり軸受は、上記第一の効果と、上記第二の効果とを有するので、水素の発生防止および割れ強度の向上から得られる相乗効果により脆化現象の遅延を達成し、自動車や産業機械に使用される軸受で見られる転走面で生じる白色組織変化を伴った特異的な剥離を効果的に防止し、飛躍的に水素脆性剥離寿命を長寿命化することができる。
本発明のグリース封入転がり軸受の実施例について図面にしたがって説明する。図1は本発明の一実施例を示す深溝玉軸受の断面図である。図2および図3は本発明の他の実施例を示す深溝玉軸受の断面図である。
図1に示すグリース封入転がり軸受1は、SUJ2材からなり同心に配置された内輪2および外輪3と、内輪転走面、外輪転走面間に介在する転動体4と、この転動体4を保持する保持器5と、内、外輪の軸方向両端開口部をシールするシール部材6と、軸受空間に封入されたグリース7とから構成される。
外輪外周面3a、外輪内周面3b、外輪端面3cに、熱処理により窒素富化層と、表面処理によるCrの酸化被膜とが、それぞれ形成されている。グリース7はアルミニウム系添加剤が配合されたグリースである。上記熱処理、表面処理、アルミニウム系添加剤が配合されたグリースについては、後述する。
図1に示すグリース封入転がり軸受1は、SUJ2材からなり同心に配置された内輪2および外輪3と、内輪転走面、外輪転走面間に介在する転動体4と、この転動体4を保持する保持器5と、内、外輪の軸方向両端開口部をシールするシール部材6と、軸受空間に封入されたグリース7とから構成される。
外輪外周面3a、外輪内周面3b、外輪端面3cに、熱処理により窒素富化層と、表面処理によるCrの酸化被膜とが、それぞれ形成されている。グリース7はアルミニウム系添加剤が配合されたグリースである。上記熱処理、表面処理、アルミニウム系添加剤が配合されたグリースについては、後述する。
図2に示すグリース封入転がり軸受11は、SUJ2材からなり同心に配置された内輪12および外輪13と、内輪転走面、外輪転走面間に介在する転動体14と、この転動体14を保持する保持器15と、内、外輪の軸方向両端開口部をシールするシール部材16と、軸受空間に封入されたグリース17とから構成される。内輪内周面12a、内輪外周面12b、内輪端面12cに、図1の場合と同様の窒素富化層とCrの酸化被膜とが、それぞれ形成されている。グリース17はアルミニウム系添加剤が配合されたグリースである。
図3に示すグリース封入転がり軸受21は、SUJ2材からなり同心に配置された内輪22および外輪23と、内輪転走面、外輪転走面間に介在する転動体24と、この転動体24を保持する保持器25と、内、外輪の軸方向両端開口部をシールするシール部材26と、軸受空間に封入されたグリース27とから構成される。外輪外周面23a、外輪内周面23b、外輪端面23cおよび内輪内周面22a、内輪外周面22b、内輪端面22cに、図1の場合と同様の窒素富化層とCrの酸化被膜とが、それぞれ形成されている。グリース27はアルミニウム系添加剤が配合されたグリースである。
上述した各実施形態では、本発明のグリース封入転がり軸受を深溝玉軸受として説明したがアンギュラ軸受やころ軸受等の他形式の転がり軸受にも採用することができる。
本発明のグリース封入転がり軸受に用いられる、軸受鋼からなる軌道輪(A)は、浸炭窒化処理と焼戻処理とからなる熱処理(1)を施すことを必須条件としている。浸炭窒化熱処理としては、内輪および外輪から選ばれた少なくとも一つの軌道輪に、オーステナイト粒度番号が10番をこえる範囲にある窒素富化層を形成する処理が例示できる。また、焼戻処理としては、上記浸炭窒化熱処理後において、200〜300℃の焼戻処理を施して、表層部の残留オーステナイト量を 15 重量%以下とする処理が例示できる。軸受鋼としては、例えば標準軸受鋼(JIS-SUJ2(Cr:1.3〜1.6 重量%))が挙げられる。
上記熱処理工程の例を図4を用いて説明する。図4は本発明の実施形態における軌道輪の熱処理工程を示す図である。図4に示すように本発明の実施形態における軌道輪の熱処理工程は、1次焼入工程と2次焼入工程と焼戻工程とからなり、1次焼入工程は浸炭窒化工程Aと、第1の冷却工程Bとを含み、2次焼入工程は再加熱工程Cと、第2の冷却工程Dとを含んでいる。
まず、1次焼入工程において鋼製部材を約 730℃であるA1 変態点(以下、A1 点と記す)以上の温度で浸炭窒化する浸炭窒化工程Aが実施される。具体的には、成形工程において軌道輪の概略形状に成形された鋼製部材はA1 点以上の温度である 800℃以上 1000℃以下の温度T1 、たとえば 850℃に加熱され、60分間以上 300分間以下の時間、たとえば 150分間保持される。このとき、鋼製部材は一酸化炭素、水素、窒素を含有する浸炭性ガスであるRXガスにアンモニア(NH3 )を添加した雰囲気において加熱されて、表層部の炭素濃度および窒素濃度が所望の濃度に調整される。これにより、浸炭窒化工程Aが完了する。その後、鋼製部材が、たとえば油中に浸漬されることにより(油冷)、A1 点以上の温度からマルテンサイト変態点(以下、Ms 点と記す)以下の温度に冷却される第1の冷却工程Bが実施される。これにより1次焼入処理が完了する。
次に、2次焼入工程に入る。1次焼入処理が施された鋼製部材はA1 点以上の温度である 730℃以上 830℃以下の温度T2 、たとえば 810℃に再び加熱される再加熱工程Cが実施され、その後 30分間以上 120分間以下の時間、たとえば 50分間保持される。このとき、浸炭窒化処理において調整された炭素濃度および窒素濃度が所望の濃度となるように、たとえば脱炭を防止するため、たとえばRXガスを含む雰囲気において加熱される。さらに、鋼製部材が、たとえば油冷されることにより、A1 点以上の温度からMs 点以下の温度に急冷されて焼入硬化される第2の冷却工程Dが実施される。これにより2次焼入処理が完了する。
さらに2次焼入処理が完了した鋼製部材はA1 点以下の温度である 200℃以上 300℃以下の温度、たとえば 260℃に加熱され、30分間以上 240分間以下の時間、たとえば 120分間保持されて、その後冷却され焼戻工程Eが完了する。
以上の手順により、本発明の実施形態における軌道輪の熱処理工程は完了する。ここで、温度T2 は、オーステナイト結晶粒を小さくする観点から、前述のように 760℃以上 830℃以下とすることが望ましい。また、同様の観点から、温度T2 はT1 よりも低い温度とすることが好ましい。さらに、再加熱工程における鋼製部材の表層部の昇温速度は、A1 点において 3℃/分以上であることが好ましい。これにより、旧オーステナイト結晶粒の大きさのバラツキが小さい整粒組織を有する鋼からなる軌道輪を製造することができる。
なお、上述の再加熱工程における鋼製部材の表層部の昇温速度は、たとえば以下のように測定することができる。すなわち、鋼製部材の表層部に熱電対を接続し、再加熱工程における当該表層部の温度の推移を測定し、記録する。そして、当該表層部の温度が上昇してA1 点を通過する前後の 5℃の範囲における 1分間あたりの温度上昇(昇温速度)を算出する。この昇温速度が 3℃/分以上であれば、上述の条件、すなわち再加熱工程における鋼製部材の表層部の昇温速度は、A1 点において 3℃/分以上であることを満たす。
上記熱処理の中で高温焼戻を実施し、内部の残留オーステナイト量を減少させることで、ミクロ的な塑性変形に伴う局部的なクラックの発生を抑止することができる。外部から侵入してきた水素原子は鋼中の変位やクラックにトラップされて局部的に鋼材の強度を低下させるため、脆化を伴った剥離に到ると推測される。すなわち、高温焼戻の実施により、水素脆性剥離寿命の延長を図ることができる。ただし、高温焼戻による表層部の残留オーステナイト量の減少は表面硬度を低下させるため、疲労強度の低下に繋がる。しかし、微細な結晶粒で形成される窒化富化層は降伏点の低下を抑制する効果があるため、疲労強度の低下を少なく抑えることができる。
そして、高温部で使用される場合、水素脆性とともに残留オーステナイトがマルテンサイト変態する際に生じる膨張による寸法変化も問題となる。寸法変化による軸受内すきまの増加は、振動・衝撃荷重の原因となり早期剥離を誘発する。窒化処理を実施するとオーステナイトが安定化するため、表層部には 15 重量%をこえるオーステナイトが残留する。高温焼戻処理を実施し、予め残留オーステナイトを減少させることで、使用中の寸法変化を抑制することができる。
本発明のグリース封入転がり軸受は、上記熱処理を施された軌道輪(A)に以下に示す表面処理(2)を施すことを他の必須条件とする。上記軌道輪は、該軌道輪を陽極にし、硫酸、りん酸、硝酸および/またはそれらの塩から選ばれた少なくとも一つの物質を含有する水溶液を電解液とし、周波数が 20〜100 KHz の超音波を付与して電解エッチングした後、電解エッチングした軌道輪を、クロム酸 15〜300 g/l と、硫酸 30〜850 g/l または硝酸 40〜500 g/l とを含有した室温〜120℃の処理液に浸漬し上記軌道輪に被膜を形成した後、被膜を形成した軌道輪を陰極とし、クロム酸を 50〜150 g/l と、りん酸および/または硫酸を 0.1〜100 ml/l と、マグネシウム、カルシウム、バリウムの炭酸塩または硫酸塩から選ばれた少なくとも一つの物質の過飽和量と、界面活性剤とを含む水溶液を電解液として電解することによって表面処理される。
軌道輪表面の欠陥層を電解エッチングにより除去し、クロム酸を所定量含有する処理液に軌道輪を浸漬することにより、軌道輪表面に十分な厚さの不働態被膜を形成し、Ca2+、Mg2+、Ba2+ イオンを含有する電解液を用いて、電解処理することにより画期的に防錆性を付与させることができる。この結果、軌道輪の表面に十分な厚さの不動態被膜が強固に形成され、水素脆性剥離を防止することができる。
本発明において上記エッチング処理では、軌道輪を陽極にし、硫酸、りん酸、硝酸および/またはそれ等の塩から選ばれる1または2以上を含有する水溶液を電解液とし、周波数が 20〜100 KHz の超音波を付与しながら該軌道輪を電解エッチングする。
硫酸、りん酸、硝酸および/またはそれ等の塩としては、硫酸、りん酸、硝酸、およびこれ等の酸のナトリウム塩またはカリウム塩を用いることができる。硫酸とりん酸は 50〜150 g/l 、硝酸は 50〜500 g/l が好ましく、これ等の酸のナトリウム塩またはカリウム塩は 60〜800 g/l が好ましい。また電解は、電解電圧が 2〜50 V で、電解電流が 0.1 A/dm2 から 50 A/dm2 で、電解時間は 10〜120 秒とすることができる。
軌道輪の表面には活性転移の多い塑性変形組織を有する欠陥層が形成されているが、この欠陥層は、後の表面処理にて付与する防錆性の効果を低減する。上記エッチング処理においてこの欠陥層を電解エッチングにより除去する。その結果、後で述べる不動態被膜形成処理および電解処理において、極めて防錆性が優れた被膜を形成する事ができる。本発明では 20〜100 KHz の超音波振動を付与しながら電解エッチングを行なうが、この超音波振動によって短時間で欠陥層を除去することができる。
本発明において不動態被膜形成処理では、エッチング処理した軌道輪を、クロム酸 15〜300 g/l と硫酸 30〜850 g/l または硝酸 40〜500 g/l とを含有した室温〜120℃の処理液に浸漬し軌道輪に被膜を形成する。この処理液に 10〜120分間浸漬すると軌道輪の表面には十分な厚さの不働態被膜が形成される。
本発明において電解処理では、不働態被膜が形成された軌道輪を陰極にし、クロム酸を 50〜150 g/l とりん酸 0.1〜100 ml/l および/または硝酸を 0.1〜100 ml/l とマグネシウム、カリウム、バリウムの炭酸塩または硫酸塩から選ばれる 1 または 2 以上の過飽和量と界面活性剤とを含む水溶液を電解液として電解する。この電解は、例えば電解電圧を 0.1〜20 V 、電解電流を 0.5〜2 A/dm2 とし、電解時間を 10〜300分とすることによって達成される
本発明において不働態が形成された被膜は、十分な厚い不働態被膜であるために優れた防錆性を有する。電解処理は不働態被膜が形成された被膜に画期的な防錆性能を付与するために行なう。すなわち電解処理にはCa2+、Mg2+、Ba2+ イオン含有する電解液を用いる。この結果、陰極では水素雰囲気が形成され、画期的に防錆性を具備するに至る。
本発明のグリース封入転がり軸受は、上記熱処理(1)および表面処理(2)を施した軌道輪(A)を用いることに加えて、アルミニウム系添加剤を配合したグリース(B)を封入することを特徴としている。
本発明に用いるアルミニウム系添加剤は、アルミニウム粉末およびアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一つである。アルミニウム化合物としては、炭酸アルミニウム、硫化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムおよびその水和物、硫酸アルミニウム、フッ化アルミニウム、臭化アルミニウム、よう化アルミニウム、酸化アルミニウムおよびその水和物、水酸化アルミニウム、セレン化アルミニウム、テルル化アルミニウム、りん酸アルミニウム、りん化アルミニウム、アルミン酸リチウム、アルミン酸マグネシウム、セレン酸アルミニウム、チタン酸アルミニウム、ジルコン酸アルミニウム等の無機アルミニウム、安息香酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム等の有機アルミニウムが挙げられる。これらアルミニウム系添加剤は、1種類または2種類を混合してグリースに添加してもよい。本発明において特に好ましいのは、耐熱耐久性に優れ、熱分解しにくいため、極圧性効果の高いアルミニウム粉末である。
アルミニウム系添加剤の配合割合は、ベースグリース 100 重量部に対して 0.05〜10 重量部である。すなわち、(1)アルミニウム系添加剤がアルミニウム粉末のみである場合、ベースグリース 100 重量部に対してアルミニウム粉末を 0.05〜10 重量部、(2)アルミニウム系添加剤がアルミニウム化合物のみである場合、ベースグリース 100 重量部に対してアルミニウム化合物を 0.05〜10 重量部、(3)アルミニウム系添加剤がアルミニウム粉末とアルミニウム化合物とである場合、ベースグリース 100 重量部に対して、アルミニウム粉末とアルミニウム化合物とを合せて 0.05〜10 重量部配合する。アルミニウム系添加剤の配合割合が 0.05重量部未満であると水素脆性による転走面での剥離を効果的に防止できない。また、10 重量部をこえても剥離防止効果がそれ以上に向上しない。
本発明に使用できる基油としては、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油等の鉱油、高度精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、フィッシャー・トロプシュ法により合成されたGTL油、ポリ-α-オレフィン油、アルキルナフタレン、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂、ポリオールエステル油、りん酸エステル油、ポリマーエステル油、芳香族エステル油、炭酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、アルキルベンゼン油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等を使用できる。これらの中で、耐熱性と潤滑性に優れたアルキルジフェニルエーテル油、または、ポリ-α-オレフィン油を用いることが好ましい。
本発明に使用できる増ちょう剤としては、ベントン、シリカゲル、フッ素化合物、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、力ルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられる。これらの中で、耐熱性、コスト等を考慮するとウレア系化合物が好ましい。
ウレア系化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
基油にウレア系化合物等の増ちょう剤を配合して、上記アルミニウム系添加剤等を配合するためのベースグリースが得られる。ウレア系化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中でイソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させて作製する。
ベースグリース 100 重量部中に占める増ちょう剤の配合割合は、1〜40 重量部、好ましくは 3〜25 重量部配合される。増ちょう剤の含有量が 1 重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となり、40 重量部をこえると得られたベースグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られ難くなる。
また、アルミニウム系添加剤とともに、必要に応じて公知のグリース用添加剤を含有させることができる。この添加剤として、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系、フェノール系化合物等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、金属スルホネート、多価アルコールエステルなどの防錆剤、有機モリブデンなどの摩擦低減剤、エステル、アルコールなどの油性剤、りん系化合物などの摩耗防止剤等が挙げられる。これらを単独または 2 種類以上組み合せて添加できる。
実施例1
表1に示すSUJ2材からなる転がり軸受の内輪および外輪(以下、軌道輪と記す)に図4に示す1次焼入工程および2次焼入工程からなる浸炭窒化処理および焼戻工程に示される焼戻処理を以下のとおり実施した。
まず、上記軌道輪を、1次焼入工程としてアンモニア(NH3 )ガスが添加されたRXガス雰囲気において、昇温速度 3℃/分以上で 850℃まで加熱しその温度で、150 分間保持した。その後油中に浸漬することにより 120℃以下に冷却した。
次に、2次焼入工程としてRXガス雰囲気において、810℃で 50分間保持した。その後油中に浸漬することにより 120℃以下に急冷した。
次に、焼戻工程として 260℃で 120分間保持し、その後室温まで冷却して熱処理済み軌道輪試験片を得た。
表1に示すSUJ2材からなる転がり軸受の内輪および外輪(以下、軌道輪と記す)に図4に示す1次焼入工程および2次焼入工程からなる浸炭窒化処理および焼戻工程に示される焼戻処理を以下のとおり実施した。
まず、上記軌道輪を、1次焼入工程としてアンモニア(NH3 )ガスが添加されたRXガス雰囲気において、昇温速度 3℃/分以上で 850℃まで加熱しその温度で、150 分間保持した。その後油中に浸漬することにより 120℃以下に冷却した。
次に、2次焼入工程としてRXガス雰囲気において、810℃で 50分間保持した。その後油中に浸漬することにより 120℃以下に急冷した。
次に、焼戻工程として 260℃で 120分間保持し、その後室温まで冷却して熱処理済み軌道輪試験片を得た。
次に、得られた熱処理済み軌道輪試験片に電解エッチング、クロム処理および電解からなる表面処理を以下のとおり実施した。
熱処理済み軌道輪試験片を陽極にし、硫酸 100 g/l を含有する水溶液を電解液とし、周波数が 50 KHz の超音波を付与しながら該軌道輪を電解エッチングした。また電解は、電解電圧 10 V で、電解電流 10 A/dm2 で、電解時間 20秒の条件にて実施した。エッチング処理した軌道輪を、クロム酸 100 g/l と硫酸 150 g/l とを含有した 60℃の処理液に 20分間浸漬し軌道輪に被膜を形成した。この被膜を形成した軌道輪を陰極にし、クロム酸を 100 g/l と、硫酸 50 ml/l と、炭酸カルシウムの過飽和量と界面活性剤とを含む水溶液を電解液として、電解電圧 10 V 、電解電流 1 A/dm2 、電解時間 20分の条件にて電解を行ない、熱処理および表面処理済みの軌道輪を得た。この軌道輪を組み付けて転がり軸受を得た。
熱処理済み軌道輪試験片を陽極にし、硫酸 100 g/l を含有する水溶液を電解液とし、周波数が 50 KHz の超音波を付与しながら該軌道輪を電解エッチングした。また電解は、電解電圧 10 V で、電解電流 10 A/dm2 で、電解時間 20秒の条件にて実施した。エッチング処理した軌道輪を、クロム酸 100 g/l と硫酸 150 g/l とを含有した 60℃の処理液に 20分間浸漬し軌道輪に被膜を形成した。この被膜を形成した軌道輪を陰極にし、クロム酸を 100 g/l と、硫酸 50 ml/l と、炭酸カルシウムの過飽和量と界面活性剤とを含む水溶液を電解液として、電解電圧 10 V 、電解電流 1 A/dm2 、電解時間 20分の条件にて電解を行ない、熱処理および表面処理済みの軌道輪を得た。この軌道輪を組み付けて転がり軸受を得た。
次に、表1のグリースを、上記転がり軸受に封入して試験用軸受を得た。得られた試験用軸受の急加減速試験を行ない剥離発生寿命時間を測定した。試験方法および試験条件を以下に示す。また、結果を表1に併記する。
<急加減速試験>
電装補機の一例であるオルタネータの回転べルトを巻きかけたプーリを支持する回転軸を内輪で支持する転がり軸受の急加減速試験を行なった。急加減速試験条件は、回転軸先端に取り付けた試験用軸受に対する負荷荷重を 1960 N 、回転速度は 0〜18000 rpm で運転条件を設定し、浸炭窒化処理鋼およびアルミニウム粉末添加グリース封入軸受でも水素脆性剥離の発現を加速させるために、試験軸受内に流れる電流を 0.5 A として急加減試験を実施した。そして、軸受内に異常剥離が発生し、振動検出器の振動が設定値以上になって発電機が停止する時間(剥離発生寿命時間、h )を計測した。
電装補機の一例であるオルタネータの回転べルトを巻きかけたプーリを支持する回転軸を内輪で支持する転がり軸受の急加減速試験を行なった。急加減速試験条件は、回転軸先端に取り付けた試験用軸受に対する負荷荷重を 1960 N 、回転速度は 0〜18000 rpm で運転条件を設定し、浸炭窒化処理鋼およびアルミニウム粉末添加グリース封入軸受でも水素脆性剥離の発現を加速させるために、試験軸受内に流れる電流を 0.5 A として急加減試験を実施した。そして、軸受内に異常剥離が発生し、振動検出器の振動が設定値以上になって発電機が停止する時間(剥離発生寿命時間、h )を計測した。
比較例1
実施例1において軌道輪に表面処理を施さなかったこと以外は実施例1と同様に処理して得られた試験用軸受の急加減速試験を行ない剥離発生寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
実施例1において軌道輪に表面処理を施さなかったこと以外は実施例1と同様に処理して得られた試験用軸受の急加減速試験を行ない剥離発生寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
比較例2
実施例1において軌道輪に 260℃×120min焼戻処理および表面処理を施さなかったこと以外は実施例1と同様に処理して得られた試験用軸受の急加減速試験を行ない剥離発生寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
実施例1において軌道輪に 260℃×120min焼戻処理および表面処理を施さなかったこと以外は実施例1と同様に処理して得られた試験用軸受の急加減速試験を行ない剥離発生寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
比較例3
実施例1において軌道輪に浸炭窒化処理および 260℃×120min焼戻処理を施さなかったこと以外は実施例1と同様に処理して得られた試験用軸受の急加減速試験を行ない剥離発生寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
実施例1において軌道輪に浸炭窒化処理および 260℃×120min焼戻処理を施さなかったこと以外は実施例1と同様に処理して得られた試験用軸受の急加減速試験を行ない剥離発生寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
比較例4
実施例1において軌道輪に各処理を施さなかったこと以外は実施例1と同様の試験用軸受の急加減速試験を行ない剥離発生寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
実施例1において軌道輪に各処理を施さなかったこと以外は実施例1と同様の試験用軸受の急加減速試験を行ない剥離発生寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
比較例5
実施例1においてグリースにアルミニウム粉末を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の試験用軸受の急加減速試験を行ない剥離発生寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
実施例1においてグリースにアルミニウム粉末を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の試験用軸受の急加減速試験を行ない剥離発生寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
本発明のグリース封入転がり軸受は、内輪および外輪から選ばれた少なくとも一つの軌道輪の表層部に窒素富化層を形成した後、高温焼戻処理を施し、さらに電解表面処理を施して不動態被膜を形成し、アルミニウム系添加剤を配合したグリースを封入してなるので、転走面で生じる白色組織変化を伴った特異的な剥離を効果的に防止し、飛躍的に水素脆性剥離寿命を長寿命化することができる。このため、高温・高速回転と高荷重をともに受ける各種産業機械に用いられる軸受、特にオルタネータ等、自動車電装・補機に用いられる軸受として好適に利用できる。
1、11、21 グリース封入転がり軸受
2、12、22 内輪
3、13、23 外輪
4、14、24 転動体
5、15、25 保持器
6、16、26 シール部材
7、17、27 グリース
2、12、22 内輪
3、13、23 外輪
4、14、24 転動体
5、15、25 保持器
6、16、26 シール部材
7、17、27 グリース
Claims (6)
- 内輪および外輪と、これら内外輪の転走面間に介在する複数の転動体とを備え、前記内輪および外輪から選ばれた少なくとも一つが、熱処理後に表面処理を施こされた軸受鋼からなる軌道輪(A)であり、前記転動体の周囲にグリース(B)が封入されたグリース封入転がり軸受であって、
前記軌道輪(A)は、
(1)前記熱処理として、浸炭窒化処理を施した後に、200〜300℃の焼戻処理を施し、
(2)前記表面処理として、前記軌道輪を陽極にし、硫酸、りん酸、硝酸、硫酸塩、りん酸塩および硝酸塩から選ばれた少なくとも一つの物質を含有する水溶液を電解液とし、周波数が 20〜100 KHz の超音波を付与して電解エッチングした後、この電解エッチングした軌道輪を、クロム酸 15〜300 g/l と、硫酸 30〜850 g/l または硝酸 40〜500 g/l とを含有した室温〜120℃の処理液に浸漬し前記軌道輪に被膜を形成した後、この被膜を形成した軌道輪を陰極とし、クロム酸を 50〜150 g/l と、りん酸および/または硫酸を 0.1〜100 ml/l と、マグネシウム、カルシウム、バリウムの炭酸塩または硫酸塩から選ばれた少なくとも一つの物質の過飽和量と、界面活性剤とを含む水溶液を電解液として電解処理された軌道輪であり、
前記グリース(B)は、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなり、前記添加剤は、アルミニウム粉末およびアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一つのアルミニウム系添加剤を含有し、該アルミニウム系添加剤の配合割合はベースグリース 100 重量部に対して 0.05〜10 重量部であることを特徴とするグリース封入転がり軸受。 - 前記浸炭窒化処理は、800〜1000℃にて 1〜5 時間の1次焼入後に、730〜830℃にて 0.5〜2 時間の2次焼入を施す処理であることを特徴とする請求項1記載のグリース封入転がり軸受。
- 前記表面処理において、前記電解エッチングで使用する硫酸およびりん酸は 50〜150 g/l 、硝酸は 50〜500 g/l 、これらの塩は 60〜800 g/l であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のグリース封入転がり軸受。
- 前記アルミニウム化合物は、炭酸アルミニウムおよび硝酸アルミニウムから選ばれた少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載のグリース封入転がり軸受。
- 前記増ちょう剤は、ウレア系増ちょう剤であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載のグリース封入転がり軸受。
- 前記基油は、アルキルジフェニルエーテル油およびポリ-α-オレフィン油から選ばれた少なくとも一つの油であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載のグリース封入転がり軸受。
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WO2012066913A1 (ja) * | 2010-11-16 | 2012-05-24 | Ntn株式会社 | 転がり軸受および転がり軸受の製造方法 |
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