JP2009261448A - 循環器治療用綿状構造物およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】端側吻合部位の外周に容易に密着可能な形状を有し、また顕微鏡下手術において施される微小血管吻合術においても適用可能であり、当該生分解性高分子が分解・吸収される過程において含まれた薬剤が徐放される機能を有する綿状構造物とその製造方法を提供する。
【解決手段】生分解性高分子からなり、平均繊維径が100〜10000nmであり、平均見掛け密度が10〜95kg/mである綿状構造物であって、その繊維中に薬剤を含むことを特徴とする循環器治療用綿状構造物、ならびに生分解性高分子と薬剤とを溶媒に同時に溶解させて溶液を製造する工程と、該溶液に高電圧を印加させる工程と、該溶液を噴出させる工程と、噴出させた溶液から溶媒を蒸発させて繊維構造体を形成させる工程と、形成された繊維構造体の電荷を消失させる工程と、電荷消失によって繊維構造体を累積させる工程とを含む、該綿状構造物の製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、外科手術時等に、血管に外装もしくは留置して使用する、薬剤を含有する生体内留置綿状構造物およびその製造方法に関する。
生活習慣病であるメタボリック症候群、糖尿病、高血圧の患者人口増加や高齢化に伴い、動脈硬化性の疾患は増加している。そのうち動脈硬化に伴う虚血性疾患では、バイパス手術が根治的な治療となるが、なかでも心筋虚血に対する冠動脈バイパス術は、米国で50万人以上、日本でも2万人以上の患者に毎年施行されている。一患者当たりの平均バイパス本数は約2.5本であり、その吻合部はおよそ3〜4カ所と推定される。
一方、血管吻合における吻合部狭窄は、しばしば認められるとともに、術後患者の生活の質だけでなく、予後をも左右する重大な合併症の一つである。しかも、吻合部狭窄は吻合技術の向上によっても避けがたい場合があり、そのことが治療を困難にしている。
吻合部狭窄の原因は、バイパスグラフトのしなやかさの欠如(compliance mismatch)や縫合糸による異物反応など材料的な問題以外に、吻合部の乱流や外的損傷など何らかの原因によって血管内皮細胞が障害を受け、内皮下組織が露出すると、血管中膜の平滑筋細胞や骨髄由来の間葉系細胞がその場で増殖し、さらにそれらの細胞から細胞外マトリクス(ECM)の産生が亢進し、新生内膜の肥厚を惹起し、吻合部狭窄を引き起こすといわれている。
同様のメカニズムで、経皮的冠動脈形成術(PCI)後には、血管内皮細胞の傷害を契機に新生内膜肥厚がおこる。このPCI後再狭窄に対して、最近、細胞増殖抑制効果のある薬剤(免疫抑制剤や抗がん剤)をコントロールリリースし、狭窄を抑制する「薬剤溶出性ステント(Drug Eluting Stent :DES)」というステントが開発されているており、これまでの治療体系を一変するほどの治療効果をあげている。
例えば、特許文献1には、血管に内装する金属ステント本体の表面に治療薬と生分解性高分子の混合物をコーティングしたステントが提案されている。しかし、ここで提案されたステントは血管内腔に留置されるものであり、外科的処置時に血管外周を覆う形で留置することは困難であるほか、微小な血管内腔に留置することも困難である。また、このような金属材料を使用したステントが半永久的に留置箇所に留まることにより炎症が惹起される懸念もある。
特許文献2では、手術後または外傷後の体内通路の貫通性維持を目的とした薬剤含有の生分解性高分子ラップが提案されている。しかし、ここで提案された装置は平面状であり、血管等の管どうしの端−端吻合部周囲に置くのには適した形状ではあるが、管の端と管の側面を吻合したような、より複雑な吻合部位周辺に供するのは困難である。
特許文献3では薬剤放出性の生分解性インプラントが提案されている。しかし、ここで示された実施態様では、溶融紡糸法により製造された繊維径20〜500μmの繊維が用いられている。こうした20〜500μmの繊維からなるインプラントでは柔軟性が乏しく、微小な血管の周囲を隙間なく密着させることが困難であることは容易に理解できる。なお、溶融紡糸法では20μm以下の繊維の作製は困難である。
特表2004−531299号明細書 特表2006−515186号明細書 特表2003−506401号明細書
本発明の目的は、一般的な外科的吻合に多く用いられる端側吻合部位の外周にも容易に密着可能な形状を有し、例えば顕微鏡下手術において施される微小血管吻合術においても適用可能であり、当該生分解性高分子が分解もしくは吸収される過程において、含まれた薬剤が徐放される機能を有する循環器治療用綿状構造物およびその製造方法を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、生分解性高分子からなり、平均繊維径が100〜10000nmであり、平均見掛け密度が10〜95kg/mである綿状構造物であって、その繊維中に薬剤を含むことを特徴とする循環器治療用綿状構造物である。
また、本発明は、生分解性高分子と薬剤とを溶媒に同時に溶解させて溶液を製造する工程と、該溶液に高電圧を印加させる工程と、該溶液を噴出させる工程と、噴出させた溶液から溶媒を蒸発させて繊維構造体を形成させる工程と、形成された繊維構造体の電荷を消失させる工程と、電荷消失によって繊維構造体を累積させる工程とを含む、上記循環器治療用綿状構造物の製造方法である。
本発明の綿状構造物は、柔軟性に富み、外科的血管吻合箇所の周囲をその箇所の形状にとらわれることなく容易に密着して覆うことが可能であり、例えば血管分岐形状に影響されることなく血管外壁周囲に密着して留置できる。
また、本発明の綿状構造物の生分解性高分子が生体内において溶解することで、綿状構造物に含まれる薬剤を徐放することができる。これにより、血管内壁へ薬剤を送達することもでき、適切な薬剤を選択することで、例えば血管内膜の肥厚を抑制できる。
さらに、本発明の綿状構造物は、任意に綿状構造物を構成する繊維径を設定可能であるため、薬剤徐放の速度や期間をも任意に設定できる。
本発明は、生分解性高分子からなり、平均繊維径が100〜10000nmであり、平均見掛け密度が10〜95kg/mである綿状構造物であって、その繊維中に薬剤を含むことを特徴とする循環器治療用綿状構造物である。本発明の綿状構造物は、単数または複数の繊維が積層され、必要に応じて繊維間が固定されて形成された3次元の構造体である。綿状構造物の形状は正方形であっても、円形であってもよく、その形状は問わない。綿状構造物の厚みに関しては、取扱いの観点から100μm以上であることが好ましく、さらに綿状構造物同士を重ねることで、厚みのある構造体を成形することも可能である。
本発明の綿状構造物は、揮発性溶媒に溶解可能な生分解性高分子からなる。揮発性溶媒に溶解可能な生分解性高分子としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリメリレンカーボネート、ポリグリセロールセバシン酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、メチルセルロース、プロピルセルロース、ベンジルセルロース、フィブロイン、並びにこれらの共重合体などが挙げられる。
これらのうち好ましくはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネート、ならびにこれらの共重合体などの脂肪族ポリエステルが挙げられ、さらに好ましくはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトンが挙げられる。なかでもポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体が好ましい。
本発明の綿状構造物においては、その目的を損なわない範囲で、上記以外のポリマーや他の化合物を併用してもよい。例えば、ポリマー共重合、ポリマーブレンド、化合物混合である。
さらに、本発明の綿状構造物には、その目的を損なわない範囲で、例えば金属、多糖、脂肪酸、リン脂質、界面活性剤、揮発性溶媒耐性微生物を含んでいてもよい。
本発明の綿状構造物は、平均繊維径が100〜10000nmである生分解性の繊維より形成される。平均繊維径が100nmより小さいと、薬剤を徐放する綿状構造物として用いるには繊維の生体内分解性が早すぎ、繊維中に含まれる薬剤が短時間に一度に放出されるため好ましくない。また平均繊維径が10000nmより大きいと、繊維中に含まれる薬剤の放出速度が遅すぎて好ましくない。より好ましい平均繊維径は500〜5000nmである。なお、繊維径とは繊維断面の直径を表す。しかし、ときには繊維断面の形状が楕円形になることもありうる。この場合の繊維径とは、該楕円形の長軸方向の長さと短軸方向の長さの平均をその繊維径として算出する。また、繊維断面が円形でも楕円形でもないときには円または楕円に近似して繊維径を算出する。
本発明の綿状構造物は、平均見掛け密度が10〜95kg/mである。ここで、平均見掛け密度とは、作製した綿状構造物の面積、平均厚、質量から割り出した密度を意味する。好ましい平均見掛け密度は50〜90kg/mである。平均見掛け密度が95kg/mより大きいと、微小血管周囲への適用に好ましくない。平均見掛け密度が10kg/mより小さいと、外科的手術取扱い時に必要な力学強度を保つことができないため好ましくない。
次に、有機高分子を溶媒に溶解させて溶液を製造する段階について説明する。本発明の製造方法における溶液中の溶媒に対する生分解性高分子の濃度は1〜30重量%であることが好ましい。生分解性高分子の濃度が1重量%より小さいと、濃度が低すぎるため繊維構造体を形成することが困難となり好ましくない。また、30重量%より大きいと得られる繊維構造体の繊維径が大きくなり好ましくない。より好ましい溶液中の溶媒に対する生分解性高分子の濃度は2〜20重量%である。
また、溶媒は一種を単独で用いてもよく、複数の溶媒を組み合わせてもよい。前記溶媒としては、生分解性高分子と薬剤を溶解可能で、かつ紡糸する段階で蒸発し、繊維を形成可能なものであれば特に限定されず、例えば、アセトン、クロロホルム、エタノール、2−プロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、水、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、1−プロパノール、ジクロロメタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸、蟻酸、ヘキサフルオロ−2−プロパノール、ヘキサフルオロアセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリジノン、N−メチルモルホリン−N−オキシド、1,3−ジオキソラン、メチルエチルケトン、上記溶媒の混合溶媒等が挙げられる。これらのうち、取扱い性や物性などから、ジクロロメタン、エタノールを用いることが好ましい。
次に、溶液に高電圧を印加させる段階と、溶液を噴出させる段階と、噴出された溶液から溶媒を蒸発させて繊維構造体を形成させる段階について説明する。
本発明の製造方法においては、生分解性高分子と薬剤を溶解した溶液を噴出させ、繊維構造体を形成させるために、溶液に高電圧を印加させる必要がある。電圧を印加させる方法については、生分解性高分子および薬剤を溶解した溶液を噴出させ、繊維構造体が形成されるものであれば特に限定されないが、溶液に電極を挿入して電圧を印加させる方法や、溶液噴出ノズルに対して電圧を印加させる方法などがある。また、溶液に印加させる電極とは別に補助電極を設けることも可能である。
印加電圧の値は、前記繊維構造体が形成されれば特に限定されないが、通常は5〜50kVの範囲である。印加電圧が5kVより小さい場合は、溶液が噴出されずに繊維構造体が形成されないため好ましくなく、印加電圧が50kVより大きい場合は、電極からアース電極に向かって放電が起きるために好ましくない。より好ましくは10〜30kVの範囲である。所望の電位は従来公知の任意の適切な方法で作ればよい。
生分解性高分子及び薬剤を溶解した溶液を噴出させた直後に生分解性高分子および薬剤を溶解させた溶媒が揮発して繊維構造体が形成される。通常の紡糸は大気圧下で行われるが、揮発が不十分である場合には陰圧下で行うなど、気圧を加減してもよい。また、紡糸する温度は溶媒の蒸発挙動や紡糸液の粘度にも依存するが、通常は0〜50℃の範囲であり、典型的には室温で行われる。
次に、形成された繊維構造体の電荷を消失させる段階について説明する。前記繊維構造体の電荷を消失させる方法は、前記繊維構造体の電荷を消失させる方法であれば特に限定を受けないが、好ましい方法として、イオナイザーにより電荷を消失させる方法が挙げられる。イオナイザーとは、内蔵のイオン発生装置によりイオンを発生させ、前記イオンを帯電物に放出させることにより前記帯電物の電荷を消失させうる装置である。本発明の製造方法で用いられるイオナイザーを構成する好ましいイオン発生装置として、内蔵の放電針に高電圧を印加させることによりイオンを発生する装置が挙げられる。
次に前記電荷消失によって繊維構造体を累積させる段階について説明する。前記電荷消失によって繊維構造体を累積させる方法は、前記繊維構造体が累積される方法であれば特に限定を受けないが、通常の方法として、電荷消失により繊維構造体の静電力を失わせ、自重により落下、累積させる方法が挙げられる。また必要に応じて、静電力を消失させた繊維構造体を吸引し、メッシュ上に累積させる方法、装置内の空気を対流させメッシュ上に累積させる方法などを行ってもよい。
また、本発明の綿状構造物は、単独で用いてもよいが、取扱い性やその他の要求事項に合わせて、他の部材と組み合わせて使用してもよい。
本発明の綿状構造物に含まれる薬剤の種類は、使用目的に合致し、揮発性溶媒に溶媒に可溶もしくは均一分散可能であり、溶解等によりその生理活性を損なわないものであるかぎり、特に限定されない。かかる条件が満たされるかぎり、例えば薬剤の熱安定性やpH安定性に関しても特段の限定はない。
かかる薬剤としては、タクロリムスもしくはその類縁体、スタチン系薬剤、またはタキサン系抗癌剤が例示でき、より具体的にはシロリムス、エベロリムス、ビオリムス、シクロスポリン、デキサメタゾン、プレドニゾロン、パクリタキセル、アクチノマイシンD、メトトレキセート、ビンクリスチン、5FU、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、およびロスバスタチンが挙げられる。
また本発明の綿状構造物に含まれる薬剤は、揮発性溶媒中において活性を維持することが可能であればタンパク質製剤、核酸医薬であってもよい。
本発明の綿状構造物に含まれる薬剤は、製造過程において揮発性溶媒中に生分解性高分子と共に均一に分散されており、形成された繊維構造体中においても薬剤は繊維中に均一に含まれる。もっとも、薬剤が生分解性高分子と完全な均一系を構成していなくても、生分解性高分子中で実質的に均一に存在し、本発明の目的が達成されるかぎり、例えば微小な結晶状態で分散していても、微小な液胞の状態で分散していてもよい。
形成された繊維構造体に含まれる薬剤は、それを坦持する生分解性高分子が分解されるとともに繊維構造体外に放出され、その放出は繊維構造体の消失まで持続する。すなわち薬剤の放出は生分解性高分子の分解速度に依存し、放出持続時間は繊維径に依存する。また、放出量は繊維構造体中に含まれる薬剤の濃度に依存する。したがって、生分解性高分子の種類、繊維径、薬剤の濃度を調節することにより、所望の薬剤放出条件を満たす本発明の綿状構造物を製造することができる。
本発明の実施態様のひとつに、患者の状態や用いる薬剤の種類に適した薬剤放出速度が得られる繊維径の繊維を用いた循環器治療用綿状構造物がある。そのような適切な薬剤放出速度を達成する本発明の綿状構造物を得るには、上記した項目を最適化すればよい。当業者であれば、試行によりその具体的数値を容易に定めることができよう。
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の各実施例、比較例における評価項目は以下のとおりの手法にて実施した。また、実施例中における各値は下記の方法で求めた。
1.平均繊維径:
得られた繊維構造体の表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)により、倍率2000倍で撮影して得た写真から無作為に20箇所を選んで繊維の径を測定し、すべての繊維径の平均値を求めて、平均繊維径とした。n=20である。
2.面積の測定:
0.1mm角の方眼紙上に綿状構造物を置き、綿状構造物の輪郭を写し取り、輪郭線内の升数を数えることにより算出した。
3.平均厚:
高精度デジタル測長機(株式会社ミツトヨ:商品名「ライトマチックVL−50)を用いて測長力0.01Nによりn=10にて綿状構造物の膜厚を測定した平均値を算出した。なお、本測定においては測定機器が使用可能な最小の測定力で測定を行った。
4.平均見掛け密度:
綿状構造物の質量を測定し、上記方法により求めた面積、平均厚をもとに平均見掛け密度を算出した。
[実施例1]
ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体(PLGA、50:50、多木化学株式会社)8重量部、ジクロロメタン−エタノール(7:2、和光純薬工業株式会社、特級)92重量部を室温(25℃)で混合し、溶液を作製した。混合溶液99重量部、FK506(タクロリムス、Cayman Chemical)1重量部で紡糸溶液を作製した。図1に示す装置を用いて紡糸を行い、綿状構造物を得た。溶液噴出ノズル1の内径は0.8mm、電圧は15kV、溶液噴出ノズル1から綿状構造物堆積棒6までの距離は20cm、綿状構造物堆積棒6からイオナイザー7までの距離は20cmであった。得られた綿状構造物を構成する繊維構造体の平均径は3.4μmであり、平均見掛け密度は70kg/mであった。
[実施例2]
実施例1にて作製した綿状構造物の加水分解試験を、ISO15814を参考にして行った。すなわち、作製した綿状構造物10mgを1mLチューブに入れ、1mLのリン酸バッファーを加えて気泡除去後、37℃でインキュベートした。測定は0、1、4、7、14、日と経時的に行った。インキュベートの後、遠心分離機にて(2,000×g)、上清と残存する綿状構造物とに分けた。
[実施例3]
実施例2にて回収した残存する綿状構造物を真空乾燥機にて3時間程度乾燥させた後、秤量した。秤量後、0.5mLの酢酸エチルに溶解し、そこに更に5mLのエタノール中に加えることでPLGAのみを再沈殿させた。遠心分離後(2,000×g)、上清を回収し、生分解性高分子を除去した後、Φ0.45μmのフィルターを通し、エバポレーターで減圧留去後、真空乾燥機にて完全に乾燥させた。
[実施例4]
実施例3にて得られた残渣中に含まれるFK506量を測定するため、残渣を0.3mLのエタノールで再溶解させ、Φ0.45μmのフィルターを通した後に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。HPLCはLC−10Aシステム装置(株式会社島津製作所)にて以下の条件で行った。
・移動相;水/テトラヒドロフラン/2−プロパノール=5/2/2(和光純薬株式会社、高速液体クロマトグラフィー用)
・カラム;ODSカラム(株式会社センシュー科学、PEGASIL ODS)
・ポンプ流速;0.8mL/分
・カラム温度;50℃
・測定波長;220nm
・インジェクション量;50μL
分析により得られた綿状構造物に含まれるFK506量を図2に示す。図2より、14日まで経時的にFK506量が減少しており、これにより綿状構造物よりFK506がリン酸バッファー中へ徐放していることがわかった。
[実施例5]
Wister系ラットの腎動脈(Φ約1mm)を綿状構造物にて密着させながら全周を覆う手術を行った。これは容易に実施可能であり、当該綿状構造物は微小環境下での操作性に優れていること、組織密着性に優れていることがわかった。
[実施例6]
Wister系ラットの腎動脈下の単純遮断による切断・再吻合の吻合部狭窄(内膜肥厚)モデルの吻合部にFK506を0、0.04、0.1、1重量%を含む綿状構造物5mgにて吻合部外周を密着するように覆い、FK506を含む綿状構造物の吻合部狭窄抑制効果の評価を行った。開始2週間後に吻合部周囲の組織を取り出し、ヘマトキシリン−エオジン染色にて組織学的評価を行った。その結果、FK506を1重量%含む綿状構造物を供した群において顕著な内膜肥厚抑制効果が観察された。
さらに、ヘマトキシリン−エオジン染色像を用い、以下の式により、血管内膜肥厚の程度を算出した。
(式) 血管内膜肥厚度=血管内膜厚/(血管内膜厚+血管中膜厚)
結果を図3に示す。これによれば、FK506を1重量%含む綿状構造物を供した群において顕著な内膜肥厚抑制効果が確認された。
本発明の綿状構造物は、一般的な外科的吻合に多く用いられる端側吻合部位の外周に容易に密着可能な形状を有し、また顕微鏡下手術において施される微小血管吻合術においても適用可能であり、薬剤を作用部位に的確に送達可能な装置として有用である。
本発明の製造方法を実施するための装置の一例を模式的に示した図である。 綿状構造物に含まれるFK506量の経時変化を示した図である。 ラット吻合部狭窄モデルに当該綿状構造物を供した際の2週間後の血管内膜肥厚度を比較した図である。
符号の説明
1 溶液噴出ノズル
2 溶液
3 溶液保持槽
4 電極
5 高電圧発生器
6 綿状構造物堆積棒
7 イオナイザー

Claims (9)

  1. 生分解性高分子からなり、平均繊維径が100〜10000nmであり、平均見掛け密度が10〜95kg/mである綿状構造物であって、その繊維中に薬剤を含むことを特徴とする循環器治療用綿状構造物。
  2. 生分解性高分子が、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシアルカン酸、カプロラクトン、ビニルアルコール、トリメチレンカーボネート、グリセロール、およびセバシン酸からなる群から選ばれる一つまたは複数の分子を重合してなるホモポリマーもしくはコポリマーである、請求項1に記載の綿状構造物。
  3. 生分解性高分子がポリ乳酸、またはポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体である請求項1に記載の綿状構造物。
  4. 患者の状態や用いる薬剤の種類に適した薬剤放出速度が得られる繊維径の繊維を用いた請求項1から3のいずれかに記載の綿状構造物。
  5. 薬剤がタクロリムスもしくはその類縁体、スタチン系薬剤、またはタキサン系抗癌剤である、請求項1から4のいずれかに記載の綿状構造物。
  6. 薬剤が0.4〜1wt%の濃度のタクロリムスである、請求項1から4のいずれかに記載の綿状構造物。
  7. 薬剤が血管内膜肥厚を抑制する効果を有するものである、請求項1から4のいずれかに記載の綿状構造物。
  8. 生分解性高分子と薬剤とを溶媒に同時に溶解させて溶液を製造する工程と、該溶液に高電圧を印加させる工程と、該溶液を噴出させる工程と、噴出させた溶液から溶媒を蒸発させて繊維構造体を形成させる工程と、形成された繊維構造体の電荷を消失させる工程と、電荷消失によって繊維構造体を累積させる工程とを含む製造方法により製造される、請求項1から7のいずれかに記載の綿状構造物。
  9. 生分解性高分子と薬剤とを溶媒に同時に溶解させて溶液を製造する工程と、該溶液に高電圧を印加させる工程と、該溶液を噴出させる工程と、噴出させた溶液から溶媒を蒸発させて繊維構造体を形成させる工程と、形成された繊維構造体の電荷を消失させる工程と、電荷消失によって繊維構造体を累積させる工程とを含む、請求項1から7のいずれかに記載の綿状構造物の製造方法。
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