以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
本発明の一実施の形態に係る電解液は、例えば二次電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
溶媒は、化3で表されるニトリル化合物のうちの少なくとも1種を含有している。このニトリル化合物を含有していない場合や、他のニトリル化合物を含有している場合と比較して、電解液の化学的安定性が向上するからである。化3に示したニトリル化合物は、ニトリル基(−CN)と電子吸引性基(X)とが直接結合された部位を1あるいは2以上有する鎖状の化合物である。
(Rはz価の有機基であり、Xは−C(=O)−、−O−C(=O)−、−S(=O)−、−O−S(=O)−、−S(=O)
2 −、あるいは−O−S(=O)
2 −であり、zは1以上の整数である。ただし、XはR中の炭素原子に結合している。)
化3中のRについて説明した「z価の有機基」とは、炭素鎖あるいは炭素環を基本骨格とするz価の基の総称である。この「z価の有機基」は、炭素鎖あるいは炭素環を基本骨格として有していれば、全体としてはどのような構造を有する基であってもよく、炭素以外の他の元素の1種あるいは2種以上を構成元素として有していてもよい。この「他の元素」としては、例えば、水素、酸素あるいはハロゲンなどが挙げられる。なお、上記した炭素鎖は、直鎖状であってもよいし、1あるいは2以上の側鎖を有する分岐状であってもよい。
上記した「他の元素」は、「有機基」中にどのような形態で含まれていてもよい。この「形態」とは、元素の数や組み合わせなどを意味し、それらについては任意に設定可能である。具体的には、水素が含まれる形態としては、例えば、アルキル基、ビニル基、アリール基、アルキレン基、ビニレン基、あるいはアリーレン基などが挙げられる。酸素が含まれる形態としては、例えば、オキソ基(−O−)などが挙げられる。ハロゲンが含まれる形態としては、例えば、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化ビニル基、ハロゲン化アリール基、ハロゲン化アルキレン基、ハロゲン化ビニレン基、あるいはハロゲン化アリーレン基などが挙げられる。このハロゲンの種類は、任意に設定可能である。もちろん、「他の元素」が含まれる形態は、上記以外の他の形態であってもよい。
ただし、化3において、Xは、R中における炭素原子以外の原子(例えば酸素原子)に結合しておらず、必ず炭素原子に結合している。
なお、Rは、上記した一連の形態によって構成される基の誘導体であってもよい。この「誘導体」とは、上記した一連の基に1あるいは2以上の置換基が導入された基を意味し、その置換基の種類は、任意に設定可能である。
Rの炭素数は、特に限定されないが、極端に多すぎないのが好ましく、できるだけ少ないのがより好ましい。ニトリル化合物の溶解性および相溶性が高くなるため、有機溶媒などと安定して混合されるからである。
Rは、上記した一連の形態によって構成される基であれば、どのような基であってもよい。このRの具体例については、後述する化4〜化6を参照する場合において、詳細に説明する。
なお、化3中のXのうち、非対称な構造を有するもの(−O−C(=O)−,−O−S(=O)−,−O−S(=O)2 −)については、そのオキソ基(−O−)がRあるいはニトリル基のどちらに結合していてもよい。すなわち、Xが−O−C(=O)−であると共にzがz=1である場合を例に挙げて説明すれば、化3に示したニトリル化合物の構造は、R−O−C(=O)−CNであってもよいし、R−C(=O)−O−CNであってもよい。このことは、−O−S(=O)−あるいは−O−S(=O)2 −についても同様である。ただし、どちらかと言えば、オキソ基はRに結合しているのが好ましい。容易に入手可能であると共に、電解液において高い化学的安定性が得られるからである。
中でも、化3に示したニトリル化合物は、化4〜化6で表される化合物であるのが好ましい。電解液において高い化学的安定性が得られるからである。
(R1は1価の有機基であり、X1は−C(=O)−、−O−C(=O)−、−S(=O)−、−O−S(=O)−、−S(=O)
2 −、あるいは−O−S(=O)
2 −である。ただし、X1はR1中の炭素原子に結合している。)
(R2は2価の有機基であり、X2は−C(=O)−、−O−C(=O)−、−S(=O)−、−O−S(=O)−、−S(=O)
2 −、あるいは−O−S(=O)
2 −である。ただし、X2はR2中の炭素原子に結合している。)
(R3は(z1+z2)価の有機基であり、X3およびX4は−C(=O)−、−O−C(=O)−、−S(=O)−、−O−S(=O)−、−S(=O)
2 −、あるいは−O−S(=O)
2 −であり、z1およびz2は1以上の整数である。ただし、X3およびX4は異なる種類であり、それらはR3中の炭素原子に結合している。)
化4に示した化合物は、化3中のRが1価の基(R1)であると共にzがz=1である化合物である。この化4に示した化合物は、ニトリル基と電子吸引性基(X1)とが直接結合された部位を1つだけ有しており、その電子吸引性基の種類は1種類(X1)である。化3に示したニトリル化合物が化4に示した化合物であれば、zの数(イソシアネート基と電子吸引性基とが直接結合された部位の数)が最小限に抑えられるので好ましい。これにより、ニトリル化合物が他の溶媒等と一緒に混合されて電解液に用いられた場合に、優れた相溶性が得られると共に、電極反応時においてニトリル化合物が優先的に反応(分解)することによって他の溶媒等の分解反応が抑制される。
化4中のR1は、化3中のRについて説明した場合と同様に、1価の有機基であれば、どのような構造を有していてもよい。1価の有機基であるR1としては、例えば、直鎖状あるいは分岐状のアルキル基や、アリール基や、アルキル基とオキソ基とが結合された基(アルコキシ基)や、それらをハロゲン化した基や、それらの誘導体などが挙げられる。なお、「それらをハロゲン化した基」とは、上記したアルキル基等のうちの少なくとも一部の水素がハロゲンによって置換された基である。このハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素が好ましい。高い効果が得られるからである。もちろん、R1は、上記した一連の基以外の他の基であってもよい。
中でも、R1は、炭素数1以上10以下のアルキル基、アリール基、炭素数1以上10以下のハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、あるいはそれらの誘導体であるのが好ましい。電解液において高い化学的安定性が得られると共に、優れた相溶性が得られるからである。なお、R1がアルキル基あるいはハロゲン化アルキル基である場合の炭素数は、1以上5以下であるのがより好ましい。より高い効果が得られるからである。
化4に示した化合物の具体例としては、化7〜化18で表される化合物が挙げられる。X1の種類は、化7および化8において−C(=O)−、化9および化10において−O−C(=O)−、化11および化12において−S(=O)−、化13および化14において−O−S(=O)−、化15および化16において−S(=O)2 −、化17および化18において−O−S(=O)2 −である。
化5に示した化合物は、化3中のRが2価の基(R2)であると共にzがz=2である化合物である。この化5に示した化合物は、ニトリル基と電子吸引性基(X2)とが直接結合された部位を2つ有しており、その電子吸引性基の種類は1種類(X2)である。化3に示したニトリル化合物が化5に示した化合物であれば、zの数が少なく抑えられるため、化4に示した化合物と同様に、優れた相溶性が得られると共に、電極反応時において他の溶媒等の分解反応が抑制される。
化5中のR2は、化3中のRについて説明した場合と同様に、2価の有機基であれば、どのような構造を有していてもよい。2価の有機基であるR2としては、例えば、直鎖状あるいは分岐状のアルキレン基や、アリーレン基や、アリーレン基とアルキレン基とが結合された基や、アルキレン基とオキソ基とが結合された基や、それらをハロゲン化した基や、それらの誘導体などが挙げられる。この「アリーレン基とアルキレン基とが結合された2価の基」は、1つのアリーレン基と1つのアルキレン基とが結合された基であってもよいし、2つのアルキレン基が1つのアリーレン基を介して結合された基であってもよい。なお、「アルキレン基とオキソ基とが結合された基」とは、2つのアルキレン基が1つのエーテル結合を介して結合された基を意味する。また、「それらをハロゲン化した基」とは、上記したアルキレン基等のうちの少なくとも一部の水素がハロゲンによって置換された基である。このハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素が好ましい。高い効果が得られるからである。上記したアルキレン基、アリーレン基あるいはオキソ基などの数や結合順は、任意に設定可能である。もちろん、R2は、上記した一連の基以外の他の基であってもよい。
R2の具体例としては、化19の(1)〜(8)で表される直鎖状のアルキレン基や、化20の(1)〜(9)で表される分岐状のアルキレン基や、化21の(1)〜(3)で表されるアリーレン基や、化22の(1)〜(3)で表されるアリーレン基とアルキレン基とが結合された基や、化23の(1)〜(13)で表されるアルキレン基とオキソ基とが結合された基などが挙げられる。この他、上記した一連の基をハロゲン化した基として、化24の(1)〜(9)で表されるように、アルキレン基とオキソ基とが結合された基をハロゲン化した基が挙げられる。もちろん、アルキレン基とオキソ基とが結合された基に限らず、他のアルキレン基等がハロゲン化されてもよい。
中でも、R2は、直鎖状のアルキレン基あるいは直鎖状のハロゲン化アルキレン基が好ましい。電解液において高い化学的安定性が得られると共に、優れた相溶性が得られるからである。この場合には、炭素数が1以上4以下であるのが好ましく、1以上3以下であるのがより好ましい。より高い効果が得られるからである。
化5に示した化合物の具体例としては、化25〜化30で表される化合物が挙げられる。X2の種類は、化25において−C(=O)−、化26において−O−C(=O)−、化27において−S(=O)−、化28において−O−S(=O)−、化29において−S(=O)2 −、化30において−O−S(=O)2 −である。
化6に示した化合物は、化3中のRが(z1+z2)価の基(R3)であると共にzが(z1+z2)である化合物である。この化6に示した化合物は、ニトリル基と電子吸引性基(X3)とが直接結合された部位を1つあるいは2つ以上有し、かつ、ニトリル基と電子吸引性基(X4)とが直接結合された部位を1つあるいは2つ以上有しており、その電子吸引性基の種類は2種類(X3,X4)である。化3に示したニトリル化合物が化6に示した化合物であれば、異なる種類の電子吸引性基を有するため、優れた相溶性が得られると共に、電極反応時において他の溶媒等の分解反応が抑制される。
化6中のR3は、化3中のRについて説明した場合と同様に、(z1+z2)価の有機基であれば、どのような構造を有していてもよい。例えば、z1=1およびz2=1であると共にR3が2価の有機基である場合には、そのR3としては、化5中のR2と同様の基などが挙げられる。
化6に示した化合物の具体例としては、化31で表される化合物が挙げられる。X3およびX4の種類は、化31の(1)〜(5)において−C(=O)−および−S(=O)−、化31の(6)〜(10)において−C(=O)−および−S(=O)2 −である。
もちろん、ニトリル化合物が化3に示した構造を有していれば、化4〜化31に示した構造を有するものに限定されないことは言うまでもない。この場合において、幾何異性体が存在する化合物については、その幾何異性体もニトリル化合物に含まれる。
溶媒中における化3に示したニトリル化合物の含有量は、特に限定されないが、中でも、0.01重量%以上10重量%以下であるのが好ましい。電解液において高い化学的安定性が得られるからである。詳細には、含有量が0.01重量%よりも少ないと、電解液の化学的安定性が十分かつ安定に得られない可能性があり、含有量が10重量%よりも多いと、電気化学デバイスの主要な電気的性能(例えば二次電池における電池容量など)が低下する可能性がある。
この溶媒は、化3に示したニトリル酸化合物と共に、他の有機溶媒などの非水溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含有していてもよい。以下で説明する一連の溶媒は、任意に組み合わせてもよい。
非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、あるいはジメチルスルホキシドなどが挙げられる。中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルからなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。この場合には、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
特に、溶媒は、化32で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび化33で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。電気化学デバイスの電極反応時において電極の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。
(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
(R17〜R20は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
化32中のR11〜R16は、同一でもよいし、異なってもよい。すなわち、R11〜R16の種類については、上記した一連の基の範囲内において個別に設定可能である。化33中のR17〜R20についても、同様である。
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素、塩素あるいは臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。他のハロゲンと比較して、高い効果が得られるからである。
ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上であってもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
化32に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、炭酸ビス(フルオロメチル)が好ましい。高い効果が得られるからである。
化33に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、化34および化35で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化34に示した(1)の4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)のテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4−クロロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)のテトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(10)の4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(11)の4,4−ジフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(12)の4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。また、化35に示した(1)の4−フルオロ−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−メチル−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)の5−(1,1−ジフルオロエチル)−4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)の4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
また、溶媒は、化36〜化38で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有しているのが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
(R21およびR22は水素基あるいはアルキル基である。)
(R23〜R26は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
化36に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどが挙げられ、中でも、炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
化37に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも、炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。もちろん、R23〜R26としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在していてもよい。
化38に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(化38に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
なお、不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、化36〜化38に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)などであってもよい。
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)や酸無水物を含有しているのが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。
スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられ、中でも、プロペンスルトンが好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
酸無水物としては、例えば、コハク酸無水物、グルタル酸無水物あるいはマレイン酸無水物などのカルボン酸無水物や、エタンジスルホン酸無水物あるいはプロパンジスルホン酸無水物などのジスルホン酸無水物や、スルホ安息香酸無水物、スルホプロピオン酸無水物あるいはスルホ酪酸無水物などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などが挙げられ、中でも、コハク酸無水物あるいはスルホ安息香酸無水物が好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種あるいは2種以上を含有している。以下で説明する一連の電解質塩は、任意に組み合わせてもよい。
リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 H5 )4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)、あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。電気化学デバイスにおいて、優れた電気的性能が得られるからである。
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
特に、電解質塩は、化39〜化41で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化39中のR31およびR33は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化40中のR41〜R43および化41中のR51およびR52についても同様である。
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)
2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)
2 )
b4−C(=O)−、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−C(=O)−、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−C(R43)
2 −、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−S(=O)
2 −、−(O=)
2 S−(C(R42)
2 )
d4−S(=O)
2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)
2 )
d4−S(=O)
2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)
2 )
d5−C(=O)−、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−C(=O)−、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−C(R52)
2 −、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−S(=O)
2 −、−(O=)
2 S−(C(R51)
2 )
e5−S(=O)
2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)
2 )
e5−S(=O)
2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
なお、長周期型周期表とは、IUPAC(国際純正・応用化学連合)が提唱する無機化学命名法改訂版によって表されるものである。具体的には、1族元素とは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムである。2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムである。13族元素とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムである。14族元素とは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズおよび鉛である。15族元素とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスである。
化39に示した化合物としては、例えば、化42の(1)〜(6)で表される化合物などが挙げられる。化40に示した化合物としては、例えば、化43の(1)〜(8)で表される化合物などが挙げられる。化41に示した化合物としては、例えば、化44で表される化合物などが挙げられる。なお、化39〜化41に示した構造を有する化合物であれば、化42〜化44に示した化合物に限定されないことは言うまでもない。
また、電解質塩は、化45〜化47で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化45中のmおよびnは、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化47中のp、qおよびrについても同様である。
(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
化45に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 F5 SO2 )2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 F5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 F7 SO2 ))、あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ))などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
化46に示した環状の化合物としては、例えば、化48で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化48に示した(1)の1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、(2)の1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、(3)の1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、(4)の1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウムが好ましい。高い効果が得られるからである。
化47に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )などが挙げられる。
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であるのが好ましい。この範囲外では、イオン伝導性が極端に低下する可能性があるからである。
この電解液によれば、溶媒が化3に示したニトリル化合物を含有しているので、そのニトリル化合物を含有していない場合や、他のニトリル化合物を含有している場合と比較して、化学的安定性が向上する。より具体的には、化3に示したニトリル化合物は、ニトリル基と電子吸引性基(X)とが直接結合された部位を有している。このため、例えば化49あるいは化50で表されるように、ニトリル基だけを有していて電子吸引性基を有していない場合と比較して、自らが優先的に分解することによって他の溶媒等の分解を抑制しやすくなる。したがって、電極反応時において電解液の分解反応が抑制されるため、電気化学デバイスのサイクル特性および保存特性の向上に寄与することができる。この場合には、溶媒中におけるニトリル化合物の含有量が0.01重量%以上10重量%以下であれば、高い効果を得ることができる。
特に、化3に示したニトリル化合物が化4〜化6に示した化合物であれば、高い効果を得ることができる。この場合には、化4中のR1が炭素数1以上10以下のアルキル基、アリール基、炭素数1以上10以下のハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、あるいはそれらの誘導体であり、化5中のR2が炭素数1以上3以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であれば、より高い効果を得ることができる。
また、溶媒が、化32に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化33に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、化36〜化38に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、スルトンや、酸無水物を含有していれば、より高い効果を得ることができる。
また、電解質塩が、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種や、化39〜化41に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種や、化45〜化47に示した化合物からなる群のうちの少なくも1種を含有していれば、より高い効果を得ることができる。
次に、上記した電解液の使用例について説明する。ここで、電気化学デバイスの一例として二次電池を例に挙げると、上記した電解液は、以下のようにして用いられる。
(第1の二次電池)
図1および図2は第1の二次電池の断面構成を表しており、図2では図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して示している。ここで説明する二次電池は、例えば、負極22の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものである。この円柱状の電池缶11を用いた電池構造は、円筒型と呼ばれている。
電池缶11は、例えば、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などの金属材料によって構成されている。なお、電池缶11が鉄によって構成される場合には、例えば、ニッケルなどの鍍金が施されてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることによって取り付けられている。これにより、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の金属材料によって構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することにより、電流を制限して大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体20の中心には、センターピン24が挿入されていてもよい。この巻回電極体20では、アルミニウムなどの金属材料によって構成された正極リード25が正極21に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料によって構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接などされて電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接などされて電気的に接続されている。
正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて、正極結着剤や正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。中でも、コバルトを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
この他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
もちろん、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
正極結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
正極導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
負極22は、例えば、一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。ただし、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。
負極集電体22Aは、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。この負極集電体22Aの表面は、粗面化されているのが好ましい。いわゆるアンカー効果によって負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域において、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理によって微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法によって負極集電体22Aの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法を使用して作製された銅箔は、一般に「電解銅箔」と呼ばれている。
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて、負極結着剤や負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。この際、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料における充電可能な容量は、正極の放電容量よりも大きくなっているのが好ましい。なお、負極結着剤および負極導電剤に関する詳細は、例えば、それぞれ正極結着剤および正極導電剤と同様である。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらの2種以上が共存するものがある。
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム、ホウ素(B)、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素、ゲルマニウム(Ge)、スズ、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン(Sb)およびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素(C)を有するものが挙げられ、ケイ素に加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 N4 、Si2 N2 O、SiOv (0<v≦2)、SnOw (0<w≦2)、あるいはLiSiOなどが挙げられる。
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を有するものが挙げられ、スズに加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnSiO3 、LiSnO、あるいはMg2 Snなどが挙げられる。
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を有するものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、サイクル特性が向上するからである。
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として有し、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を有していてもよい。より高い効果が得られるからである。
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質な相であるのが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な反応相であり、これによって優れたサイクル特性が得られるようになっている。この相のX線回折によって得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムがより円滑に吸蔵および放出されると共に、電解質との反応性が低減されるからである。
X線回折によって得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することによって容易に判断することができる。例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性あるいは非晶質な反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この低結晶性あるいは非晶質な反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、炭素によって低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
なお、SnCoC含有材料は、低結晶性あるいは非晶質な相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を有している場合もある。
特に、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線か、Mg−Kα線を用いる)を試料表面に照射し、試料表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することによって、試料表面から数nmの領域の元素組成、および元素の結合状態を調べる方法である。
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が近傍に存在する元素との相互作用によって減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているので、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、高いエネルギー領域にピークはシフトするようになっている。
XPSにおいて、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素よりも陽性な元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素などと結合している場合には、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。
なお、XPS測定を行う場合には、表面が表面汚染炭素で覆われている際に、XPS装置に付属のアルゴンイオン銃で表面を軽くスパッタするのが好ましい。また、測定対象のSnCoC含有材料が負極22中に存在する場合には、二次電池を解体して負極22を取り出したのち、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極22の表面に存在する揮発性の低い溶媒と電解質塩とを除去するためである。これらのサンプリングは、不活性雰囲気下で行うのが望ましい。
また、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。なお、XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
このSnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合した混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解させたのち、凝固させることによって形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などを用いてもよい。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。SnCoC含有材料が低結晶性あるいは非晶質な構造になるからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミル装置やアトライタなどの製造装置を用いることができる。
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いるのが好ましい。このような合金に炭素を加えてメカニカルアロイング法を利用した方法によって合成することにより、低結晶化あるいは非晶質な構造が得られ、反応時間も短縮されるからである。なお、原料の形態は、粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を構成元素として有するSnCoFeC含有材料も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量が0.3質量%以上5.9質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるのが好ましい。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が11.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトと鉄との合計に対するコバルトと鉄との合計の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトと鉄との合計に対するコバルトの割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%以上79.5質量%以下であるのが好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の結晶性、元素の結合状態の測定方法、および形成方法などについては、上記したSnCoC含有材料と同様である。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な材料として、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料を用いた負極活物質層22Bは、例えば、気相法、液相法、溶射法、塗布法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成される。この場合には、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとが界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに拡散していてもよいし、負極活物質層22Bの構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、それらの構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。充放電時における負極活物質層22Bの膨張および収縮に起因する破壊が抑制されると共に、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の電子伝導性が向上するからである。
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(Chemical Vapor Deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電解鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、溶剤に分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法によって塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても、公知の手法を使用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
上記した他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。この炭素材料とは、例えば、易黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。炭素材料は、リチウムの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られ、さらに導電剤としても機能するので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
また、リチウムを吸蔵および放出することが可能な材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物とは、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどであり、高分子化合物とは、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどである。
もちろん、リチウムを吸蔵および放出することが可能な材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の負極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されもよい。
上記した負極活物質は、複数の粒子状をなしている。すなわち、負極活物質層22Bは、複数の粒子状の負極活物質(以下、単に「負極活物質粒子」という。)を有しており、その負極活物質粒子は、例えば、上記した気相法などによって形成されている。ただし、負極活物質粒子は、気相法以外の方法によって形成されていてもよい。
負極活物質粒子が気相法などの堆積法によって形成される場合には、その負極活物質粒子が単一の堆積工程を経て形成された単層構造を有していてもよいし、複数回の堆積工程を経て形成された多層構造を有していてもよい。ただし、堆積時に高熱を伴う蒸着法などによって負極活物質粒子を形成する場合には、その負極活物質粒子が多層構造を有しているのが好ましい。負極材料の堆積工程を複数回に分割して行う(負極材料を順次薄く形成して堆積させる)ことにより、その堆積工程を1回で行う場合と比較して負極集電体22Aが高熱に晒される時間が短くなり、熱的ダメージを受けにくくなるからである。
この負極活物質粒子は、例えば、負極集電体22Aの表面から負極活物質層22Bの厚さ方向に成長しており、その根元において負極集電体22Aに連結されているのが好ましい。充放電時において負極活物質層22Bの膨張および収縮が抑制されるからである。この場合には、負極活物質粒子が気相法などによって形成されており、上記したように、負極集電体22Aとの界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質粒子に拡散していてもよいし、負極活物質粒子の構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。
特に、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の表面(酸化物含有膜を設けないとしたならば電解液と接することとなる領域)を被覆する酸化物含有膜を有しているのが好ましい。酸化物含有膜が電解液に対する保護膜として機能し、充放電時において電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性および保存特性が向上するからである。なお、酸化物含有膜は、負極活物質粒子の表面の全部を被覆していてもよいし、一部だけを被覆していてもよいが、中でも、全部を被覆しているのが好ましい。電解液の分解反応が効果的に抑制されるからである。
この酸化物含有膜は、例えば、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の酸化物を含有しており、中でも、ケイ素の酸化物を含有しているのが好ましい。負極活物質粒子の表面を全体に渡って容易に被覆しやすいと共に、優れた保護作用が得られるからである。もちろん、酸化物含有膜は、上記以外の他の酸化物を含有していてもよい。
酸化物含有膜は、例えば、気相法あるいは液相法によって形成されており、中でも、液相法によって形成されているのが好ましい。負極活物質粒子の表面を広い範囲に渡って容易に被覆しやすいからである。液相法としては、液相析出法、ゾルゲル法、塗布法あるいはディップコーティング法などが挙げられ、中でも、液相析出法、ゾルゲル法あるいはディップコーティング法が好ましく、液相析出法がより好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、酸化物含有膜は、上記した一連の形成方法のうち、単独の形成方法によって形成されていてもよいし、2種以上の形成方法によって形成されていてもよい。
また、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質層22B内の隙間、すなわち後述する負極活物質粒子間の隙間や負極活物質粒子内の隙間に、リチウムと合金化しない金属材料を有しているのが好ましい。金属材料を介して複数の負極活物質粒子が結着されると共に、上記した隙間に金属材料が存在することで負極活物質層22Bの膨張および収縮が抑制されるため、サイクル特性および保存特性が向上するからである。
この金属材料は、例えば、リチウムと合金化しない金属元素を構成元素として有している。このような金属元素としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および銅からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられ、中でも、コバルトが好ましい。上記した隙間に金属材料が容易に入り込みやすいと共に、優れた結着作用が得られるからである。もちろん、金属材料は、上記以外の他の金属元素を有していてもよい。ただし、ここで言う「金属材料」とは、単体に限らず、合金や金属化合物まで含む広い概念である。
金属材料は、例えば、気相法あるいは液相法によって形成されており、中でも、液相法によって形成されているのが好ましい。負極活物質層22B内の隙間に金属材料が入り込みやすいからである。液相法としては、例えば、電解鍍金法あるいは無電解鍍金法などが挙げられ、中でも、電解鍍金法が好ましい。上記した隙間に金属材料がより入り込みやすいと共に、その形成時間が短くて済むからである。なお、金属材料は、上記した一連の形成方法のうち、単独の形成方法によって形成されていてもよいし、2種以上の形成方法によって形成されていてもよい。
なお、負極活物質層22Bは、上記した酸化物含有膜あるいは金属材料のいずれか一方だけを有していてもよいし、双方を有していてもよい。ただし、サイクル特性および保存特性をより向上させるためには、双方を有しているのが好ましい。また、いずれか一方だけを有する場合において、サイクル特性および保存特性をより向上させるためには、酸化物含有膜を有しているのが好ましい。なお、酸化物含有膜および金属材料の双方を有する場合には、どちらを先に形成してもよいが、サイクル特性および保存特性をより向上させるためには、酸化物含有膜を先に形成するのが好ましい。
ここで、図3〜図6を参照して、負極22の詳細な構成について説明する。
まず、負極活物質層22Bが複数の負極活物質粒子と共に酸化物含有膜を有する場合について説明する。図3は本発明の負極22の断面構造を模式的に表しており、図4は参考例の負極の断面構造を模式的に表している。図3および図4では、負極活物質粒子が単層構造を有している場合を示している。
本発明の負極では、図3に示したように、例えば、蒸着法などの気相法によって負極集電体22A上に負極材料が堆積されると、その負極集電体22A上に複数の負極活物質粒子221が形成される。この場合には、負極集電体22Aの表面が粗面化され、その表面に複数の突起部(例えば電解処理によって形成された微粒子)が存在すると、負極活物質粒子221が上記した突起部ごとに厚さ方向に成長するため、複数の負極活物質粒子221が負極集電体22A上において配列されると共に根元において負極集電体22Aの表面に連結される。こののち、例えば、液相析出法などの液相法によって負極活物質粒子221の表面に酸化物含有膜222が形成されると、その酸化物含有膜222は負極活物質粒子221の表面をほぼ全体に渡って被覆し、特に、負極活物質粒子221の頭頂部から根元に至る広い範囲を被覆する。この酸化物含有膜222による広範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜222が液相法によって形成された場合に得られる特徴である。すなわち、液相法を用いて酸化物含有膜222を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子221の頭頂部だけでなく根元まで広く及ぶため、その根元まで酸化物含有膜222によって被覆される。
これに対して、参考例の負極では、図4に示したように、例えば、気相法によって複数の負極活物質粒子221が形成されたのち、同様に気相法によって酸化物含有膜223が形成されると、その酸化物含有膜223は負極活物質粒子221の頭頂部だけを被覆する。この酸化物含有膜223による狭範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜223が気相法によって形成された場合に得られる特徴である。すなわち、気相法を用いて酸化物含有膜223を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子221の頭頂部に及ぶものの根元まで及ばないため、その根元までは酸化物含有膜223によって被覆されない。
なお、図3では、気相法によって負極活物質層22Bが形成される場合について説明したが、塗布法や焼結法などの他の形成方法によって負極活物質層22Bが形成される場合においても同様に、複数の負極活物質粒子の表面をほぼ全体に渡って被覆するように酸化物含有膜が形成される。
次に、負極活物質層22Bが複数の負極活物質粒子と共にリチウムと合金化しない金属材料を有する場合について説明する。図5は負極22の断面構造を拡大して表しており、(A)は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)写真(二次電子像)、(B)は(A)に示したSEM像の模式絵である。図5では、複数の負極活物質粒子221が粒子内に多層構造を有している場合を示している。
負極活物質粒子221が多層構造を有する場合には、その複数の負極活物質粒子221の配列構造、多層構造および表面構造に起因して、負極活物質層22B中に複数の隙間224が生じている。この隙間224は、主に、発生原因に応じて分類された2種類の隙間224A,224Bを含んでいる。隙間224Aは、隣り合う負極活物質粒子221間に生じるものであり、隙間224Bは、負極活物質粒子221内の各階層間に生じるものである。
なお、負極活物質粒子221の露出面(最表面)には、空隙225が生じる場合がある。この空隙225は、負極活物質粒子221の表面にひげ状の微細な突起部(図示せず)が生じることに伴い、その突起部間に生じるものである。この空隙225は、負極活物質粒子221の露出面において、全体に渡って生じる場合もあれば、一部だけに生じる場合もある。ただし、上記したひげ状の突起部は、負極活物質粒子221の形成時ごとにその表面に生じるため、空隙225は、負極活物質粒子221の露出面だけでなく、各階層間にも生じる場合がある。
図6は負極22の他の断面構造を表しており、図5に対応している。負極活物質層22Bは、隙間224A,224Bに、リチウムと合金化しない金属材料226を有している。この場合には、隙間224A,224Bのうちのいずれか一方だけに金属材料226を有していてもよいが、双方に金属材料226を有しているのが好ましい。より高い効果が得られるからである。
この金属材料226は、隣り合う負極活物質粒子221間の隙間224Aに入り込んでいる。詳細には、気相法などによって負極活物質粒子221が形成される場合には、上記したように、負極集電体22Aの表面に存在する突起部ごとに負極活物質粒子221が成長するため、隣り合う負極活物質粒子221間に隙間224Aが生じる。この隙間224Aは、負極活物質層22Bの結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間224Aに金属材料226が充填されている。この場合には、隙間224Aの一部でも充填されていればよいが、その充填量が多いほど好ましい。負極活物質層22Bの結着性がより向上するからである。金属材料226の充填量は、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
また、金属材料226は、負極活物質粒子221内の隙間224Bに入り込んでいる。詳細には、負極活物質粒子221が多層構造を有する場合には、各階層間に隙間224Bが生じる。この隙間224Bは、上記した隙間224Aと同様に、負極活物質層22Bの結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間224Bに金属材料226が充填されている。この場合には、隙間224Bの一部でも充填されていればよいが、その充填量が多いほど好ましい。負極活物質層22Bの結着性がより向上するからである。
なお、負極活物質層22Bは、最上層の負極活物質粒子221の露出面に生じるひげ状の微細な突起部(図示せず)が二次電池の性能に悪影響を及ぼすことを抑えるために、空隙225に金属材料226を有していてもよい。詳細には、気相法などによって負極活物質粒子221が形成される場合には、その表面にひげ状の微細な突起部が生じるため、その突起部間に空隙225が生じる。この空隙225は、負極活物質粒子221の表面積の増加を招き、その表面に形成される不可逆性の被膜の量も増加させるため、電極反応(充放電反応)の進行度を低下させる原因となる可能性がある。したがって、電極反応の進行度の低下を抑えるために、上記した空隙225に金属材料226が埋め込まれている。この場合には、空隙225の一部でも埋め込まれていればよいが、その埋め込む量が多いほど好ましい。電極反応の進行度の低下がより抑えられるからである。図6において、最上層の負極活物質粒子221の表面に金属材料226が点在していることは、その点在箇所に上記した微細な突起部が存在していること表している。もちろん、金属材料226は、必ずしも負極活物質粒子221の表面に点在していなければならないわけではなく、その表面全体を被覆していてもよい。
特に、隙間224Bに入り込んだ金属材料226は、各階層における空隙225を埋め込む機能も果たしている。詳細には、負極材料が複数回に渡って堆積される場合には、その堆積時ごとに負極活物質粒子221の表面に上記した微細な突起部が生じる。このことから、金属材料226は、各階層における隙間224Bに充填されているだけでなく、各階層における空隙225も埋め込んでいる。
なお、図5および図6では、負極活物質粒子221が多層構造を有しており、負極活物質層22B中に隙間224A,224Bの双方が存在している場合について説明したため、負極活物質層22Bが隙間224A,224Bに金属材料226を有している。これに対して、負極活物質粒子221が単層構造を有しており、負極活物質層22B中に隙間224Aだけが存在する場合には、負極活物質層22Bが隙間224Aだけに金属材料226を有することとなる。もちろん、空隙225は両者の場合において生じるため、いずれの場合においても空隙225に金属材料226を有することとなる。
セパレータ23には、上記した電解液が含浸されている。このセパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などによって構成されており、それらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
この二次電池は、例えば、以下の手順によって製造される。
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、正極結着剤と、正極導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどを用いて正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などを用いて塗膜を圧縮成型して正極活物質層21Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
次に、負極22を作製する。最初に、電解銅箔などからなる負極集電体22Aを準備したのち、蒸着法などの気相法を用いて負極集電体22Aの両面に負極材料を堆積させて、複数の負極活物質粒子を形成する。こののち、必要に応じて、液相析出法などの液相法を用いて酸化物含有膜を形成し、あるいは電解鍍金法などの液相法を用いて金属材料を形成し、または双方を形成することにより、負極活物質層22Bを形成する。
二次電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などして取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層および巻回させて巻回電極体20を作製したのち、その巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら巻回電極体20を電池缶11の内部に収納すると共に、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接し、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接する。続いて、上記した電解液を電池缶11の内部に注入して、セパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより、固定する。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
この円筒型の二次電池によれば、負極22の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表される場合に、上記した電解液を備えているので、充放電時において電解液の分解反応が抑制される。したがって、サイクル特性および保存特性を向上させることができる。
特に、負極22が高容量化に有利なケイ素等(リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を有する材料)を含む場合にサイクル特性および保存特性が向上するため、炭素材料などの他の負極材料を含む場合よりも高い効果を得ることができる。
この二次電池に関する他の効果は、上記した電解液と同様である。
(第2の二次電池)
第2の二次電池は、負極22の構成が異なる点を除き、第1の二次電池と同様の構成、作用および効果を有しており、同様の手順によって製造される。
負極22は、第1の二次電池と同様に、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。負極活物質層22Bは、例えば、負極活物質として、ケイ素あるいはスズを構成元素として有する材料を含んでいる。具体的には、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物、またはスズの単体、合金あるいは化合物を含んでおり、それらの2種以上を含んでいてもよい。
この負極活物質層22Bは、気相法、液相法、溶射法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成されたものであり、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとが界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。具体的には、界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに拡散していてもよいし、負極活物質層22Bの構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。充放電時において負極活物質層22Bの膨張および収縮に伴う破壊が抑制されると共に、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとの間の電子伝導性が向上するからである。
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長CVD法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電気鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。焼成法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合してから溶剤に分散させて塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
(第3の二次電池)
第3の二次電池は、負極22の容量がリチウムの析出および溶解に基づいて表されるリチウム金属二次電池である。この二次電池は、負極活物質層22Bがリチウム金属によって構成されている点を除き、第1の二次電池と同様の構成を有しており、同様の手順によって製造される。
この二次電池は、負極活物質としてリチウム金属を用いており、これによって高いエネルギー密度を得ることができるようになっている。負極活物質層22Bは、組み立て時から既に存在するようにしてもよいが、組み立て時には存在せず、充電時に析出したリチウム金属によって構成されるようにしてもよい。また、負極活物質層22Bを集電体としても利用することにより、負極集電体22Aを省略するようにしてもよい。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極集電体22Aの表面にリチウム金属となって析出する。一方、放電を行うと、例えば、負極活物質層22Bからリチウム金属がリチウムイオンとなって溶出し、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
この円筒型の二次電池によれば、負極22の容量がリチウムの析出および溶解に基づいて表される場合に、上記した電解液を備えているので、サイクル特性および保存特性を向上させることができる。この二次電池に関する他の効果は、上記した第1の二次電池と同様である。
(第4の二次電池)
図7は第4の二次電池の分解斜視構成を表しており、図8は図7に示した巻回電極体30のVIII−VIII線に沿った断面を拡大して示している。
この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、フィルム状の外装部材40の内部に、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30が収納されたものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料によって構成されており、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムによって構成されている。この外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着あるいは接着剤によって互いに接着された構造を有している。
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料によって構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
なお、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムによって構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムによって構成されていてもよい。
電極巻回体30は、セパレータ35および電解質36を介して正極33と負極34とが積層および巻回されたものであり、その最外周部は、保護テープ37によって保護されている。
正極33は、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものであり、その負極活物質層34Bが正極活物質層33Bと対向するように配置されている。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。
電解質36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
電解液の組成は、上記した第1の二次電池における電解液の組成と同様である。
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、あるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。電気化学的に安定だからである。
ゲル状の電解質である電解質36において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
この二次電池は、例えば、以下の3種類の製造方法によって製造される。
第1の製造方法では、最初に、例えば、上記した第1の二次電池における正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製して正極33および負極34に塗布したのち、溶剤を揮発させてゲル状の電解質36を形成する。続いて、正極集電体33Aに正極リード31を取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける。続いて、電解質36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させて巻回電極体30を作製する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させて巻回電極体30を封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図7および図8に示した二次電池が完成する。
第2の製造方法では、最初に、正極33に正極リード31を取り付けると共に、負極34に負極リード32を取り付ける。続いて、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層して巻回させたのち、その最外周部に保護テープ37を接着させて、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させて、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質36を形成する。これにより、二次電池が完成する。
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質36が形成されるため、二次電池が完成する。
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒などが電解質36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質36との間において十分な密着性が得られる。
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、負極34の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表される場合に、上記した電解液を備えているので、第1の二次電池と同様に、サイクル特性および保存特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
もちろん、ラミネートフィルム型の二次電池は、第1の二次電池と同様の構成に限らず、第2あるいは第3の二次電池と同様の構成を有していてもよい。
本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
(1)化4に示した化合物
まず、化3に示したニトリル化合物として化4に示した化合物を用いて、図7および図8に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。
(実施例1−1)
以下の手順により、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を有する材料であるケイ素を用いて、二次電池を製造した。この際、負極34の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
まず、正極33を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃×5時間の条件で焼成してリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物91質量部と、正極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部と、正極導電剤としてグラファイト6質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、バーコータを用いて帯状のアルミニウム箔(厚さ=12μm)からなる正極集電体33Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機を用いて圧縮成形して正極活物質層33Bを形成した。
次に、電解銅箔からなる負極集電体34A(厚さ=15μm)を準備したのち、電子ビーム蒸着法を用いて負極集電体34Aの両面に負極活物質としてケイ素を堆積させて負極活物質層34Bを形成することにより、負極34を作製した。この負極活物質層34Bを形成する場合には、10回の堆積工程を経て負極活物質粒子を形成することにより、その負極活物質粒子が10層構造を有するようにした。この際、負極集電体34Aの片面側における負極活物質粒子の厚さ(総厚)を6μmとした。
次に、電解液を調製した。最初に、炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを混合したのち、化4に示した化合物として化15(2)の化合物を加えて、溶媒を準備した。この際、ECとDECとの混合比を重量比で30:70とし、溶媒中における化15(2)の化合物の含有量を0.01重量%とした。こののち、溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させた。この際、六フッ化リン酸リチウムの含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
最後に、正極33および負極34と共に電解液を用いて二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体33Aの一端にアルミニウム製の正極リード31を溶接すると共に、負極集電体34Aの一端にニッケル製の負極リード32を溶接した。続いて、正極33と、微多孔性ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ35(厚さ=25μm)と、負極54とを積層および巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ37で巻き終わり部分を固定して、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成した。続いて、外側から、ナイロンフィルム(厚さ=30μm)と、アルミニウム箔(厚さ=40μm)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)とが積層された3層構造のラミネートフィルム(総厚=100μm)からなる外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着して、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納した。続いて、外装部材40の開口部から電解液を注入してセパレータ35に含浸させて巻回電極体30を作製した。最後に、真空雰囲気中において外装部材40の開口部を熱融着して封止することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。この二次電池については、正極活物質層33Bの厚さを調節することにより、満充電時において負極34にリチウム金属が析出しないようにした。
(実施例1−2〜1−7)
化15(2)の化合物の含有量を0.5重量%(実施例1−2)、1重量%(実施例1−3)、2重量%(実施例1−4)、3重量%(実施例1−5)、5重量%(実施例1−6)、あるいは10重量%(実施例1−7)としたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
(実施例1−8〜1−12)
化15(2)の化合物に代えて、化7(2)の化合物(実施例1−8)、化7(6)の化合物(実施例1−9)、化9(1)の化合物(実施例1−10)、化9(2)の化合物(実施例1−11)、あるいは化15(6)の化合物(実施例1−12)を用いたことを除き、実施例1−5と同様の手順を経た。
(比較例1−1)
化15(2)の化合物を用いなかったことを除き、実施例1−1〜1−12と同様の手順を経た。
(比較例1−2)
化15(2)の化合物に代えて化49の化合物を用いたことを除き、実施例1−5と同様の手順を経た。
これらの実施例1−1〜1−12および比較例1−1,1−2の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
サイクル特性を調べる際には、最初に、23℃の雰囲気中において2サイクル充放電させて、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同雰囲気中においてサイクル数の合計が100サイクルとなるまで繰り返し充放電させて、100サイクル目の放電容量を測定した。最後に、常温サイクル放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。充放電条件としては、0.2Cの電流で上限電圧4.2Vまで定電流定電圧充電したのち、0.2Cの電流で終止電圧2.7Vまで定電流放電した。この「0.2C」とは、理論容量を5時間で放電しきる電流値である。
保存特性を調べる際には、最初に、23℃の雰囲気中において2サイクル充放電させて、保存前の放電容量を測定した。続いて、再度充電させた状態で80℃の恒温槽中に10日間保存してから23℃の雰囲気中で放電させて、保存後の放電容量を測定した。最後に、高温保存放電容量維持率(%)=(保存後の放電容量/保存前の放電容量)×100を算出した。充放電条件については、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
なお、上記したサイクル特性および保存特性を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実施例および比較例についても同様である。
表1に示したように、負極活物質としてケイ素を含む場合には、溶媒が化15(2)の化合物等を含有する実施例1−1〜1−12において、それらを含有しない比較例1−1,1−2と比較して、ニトリル化合物の種類や含有量に依存せずに、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。
詳細には、ニトリル化合物の種類が異なる実施例1−5,1−8〜1−12では、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率がほぼ同等になった。
また、化15(2)の含有量が異なる実施例1−1〜1−7では、その含有量が増加するにしたがって、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率がいずれも増加したのちに減少する傾向を示した。この場合には、含有量が0.01重量%以上10重量%以上であると、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が高くなり、電池容量も高くなった。
さらに、化49の化合物を含有する比較例1−2では、それを含有しない比較例1−1と比較して、高温保存放電容量維持率は増加したが、常温サイクル放電容量維持率は大幅に減少した。これに対して、化15(2)の化合物等を含有する実施例1−5,1−8〜1−12では、比較例1−1と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率がいずれも増加した。この結果は、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率の双方を増加させるためには、ニトリル基だけを有する場合よりも、ニトリル基と電子吸引性基(−C(=O)−など)とが直接結合された部位を有する場合において有利であることを表している。
なお、ここでは、化15(2)の化合物等を単独で用いた場合の結果だけを示しており、それらを2種以上混合して用いた場合の結果を示していない。しかしながら、上記したように、化15(2)の化合物等を単独で用いた場合に、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率がいずれも増加することは明らかである。また、化15(1)の化合物等を組み合わせた場合に、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が減少する特別な理由も見当たらない。したがって、化15(2)の化合物等を2種以上混合させた場合においても、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が増加することは明らかである。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質としてケイ素を含む場合に、電解液の溶媒が化3に示したニトリル化合物(化4に示した化合物)のうちの少なくとも1種を含有することにより、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒中におけるニトリル化合物の含有量が0.01重量%以上10重量%以下であれば、優れた電池容量、サイクル特性および保存特性が得られることも確認された。
(実施例2−1,2−2)
溶媒としてDECに代えて炭酸ジメチル(DMC:実施例2−1)あるいは炭酸エチルメチル(EMC:実施例2−2)を用いたことを除き、実施例1−5と同様の手順を経た。
(実施例2−3)
溶媒として炭酸プロピレン(PC)を加え、ECとPCとDECとの混合比(重量比)を10:20:70としたことを除き、実施例1−5と同様の手順を経た。
(実施例2−4)
溶媒として、化32に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルである炭酸ビス(フルオロメチル)(DFDMC)を加えたことを、実施例1−5と同様の手順を経た。この際、溶媒中におけるDFDMCの含有量を5重量%とした。
(実施例2−5,2−6)
溶媒として、化33に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルである4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC:実施例2−5)、あるいはトランス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(t−DFEC:実施例2−6)を加えたことを除き、実施例1−5と同様の手順を経た。この際、溶媒中におけるFEC等の含有量を5重量%とした。
(実施例2−7)
溶媒として、化36に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルである炭酸ビニレン(VC)を加えたことを除き、実施例1−5と同様の手順を経た。この際、溶媒中におけるVCの含有量を5重量%とした。
(比較例2−1〜2−3)
化15(2)の化合物を用いなかったことを除き、実施例2−5〜2−7と同様の手順を経た。
これらの実施例2−1〜2−7および比較例2−1〜2−3の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
表2に示したように、溶媒の組成を変更した実施例2−1〜2−7においても、実施例1−5と同様に、比較例1−1,2−1〜2−3と比較して、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。
特に、DECをDMC等に変更したり、PCを加えた実施例2−1〜2−3では、実施例1−3と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率がほぼ同等以上になった。
また、FECやVC等を加えた実施例2−4〜2−7では、実施例1−5と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が高くなった。この場合には、実施例2−5,2−6の比較から明らかなように、ハロゲンの数が多くなると、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率がより高くなった。
なお、ここでは、溶媒として化36に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステル(炭酸ビニレン系化合物)を用いた場合の結果だけを示しており、化37あるいは化38に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステル(炭酸ビニルエチレン系化合物等)を用いた場合の結果を示していない。しかしながら、炭酸ビニルエチレン化合物等は、炭酸ビニレン系化合物と同様に常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率を増加させる機能を果たすため、前者を用いた場合においても後者を用いた場合と同様の結果が得られることは明らかである。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質としてケイ素を含む場合に、溶媒の組成を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒として、化32に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化33に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、化36〜化38に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を用いれば、特性がより向上することも確認された。特に、ハロゲンを有する鎖状炭酸エステルやハロゲンを有する環状炭酸エステルを用いる場合には、ハロゲンの数が多くなれば特性がより向上する。
(実施例3−1〜3−3)
電解質塩として、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 :実施例3−1)、化39に示した化合物である化42(6)に示した化合物(実施例3−2)、あるいは化45に示した化合物であるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI:実施例3−3)を加えたことを除き、実施例1−5と同様の手順を経た。この際、六フッ化リン酸リチウムの含有量を溶媒に対して0.9mol/kgとし、四フッ化ホウ酸リチウム等の含有量を溶媒に対して0.1mol/kgとした。
これらの実施例3−1〜3−3の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
表3に示したように、電解質塩の種類を変更した実施例3−1〜3−3では、実施例1−5と比較して、同等以上の常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。
なお、ここでは、電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウム、または化39あるいは化45に示した化合物を用いた場合の結果だけを示しており、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、または化40、化41、化46あるいは化47に示した化合物を用いた場合の結果を示していない。しかしながら、過塩素酸リチウム等は、四フッ化ホウ酸リチウム等と同様に常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率を増加させる機能を果たすため、前者を用いた場合においても後者を用いた場合と同様の結果が得られることは明らかである。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質としてケイ素を含む場合に、電解質塩の種類を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、電解質塩として、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、化39〜化41に示した化合物、あるいは化45〜化47に示した化合物を用いれば、特性がより向上することも確認された。
(実施例4−1)
負極活物質として、ケイ素に代えて、それと同様にリチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を有する材料であるSnCoC含有材料を用いて負極活物質層34Bを形成したことを除き、実施例1−5と同様の手順を経た。
この負極活物質層34Bを形成する場合には、最初に、コバルト粉末とスズ粉末とを合金化してコバルト・スズ合金粉末としたのち、炭素粉末を加えて乾式混合した。続いて、伊藤製作所製の遊星ボールミルの反応容器中に、上記した混合物10gを直径9mmの鋼玉約400gと一緒にセットした。続いて、反応容器中をアルゴン雰囲気に置換したのち、毎分250回転の回転速度による10分間の運転と10分間の休止とを運転時間の合計が20時間になるまで繰り返した。続いて、反応容器を室温まで冷却してSnCoC含有材料を取り出したのち、280メッシュのふるいを通して粗粉を取り除いた。
得られたSnCoC含有材料の組成を分析したところ、スズの含有量は49.5質量%、コバルトの含有量は29.7質量%、炭素の含有量は19.8質量%、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))は37.5質量%であった。この際、スズおよびコバルトの含有量については誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分析で測定し、炭素の含有量については炭素・硫黄分析装置で測定した。また、X線回折法によってSnCoC含有材料を分析したところ、2θ=20°〜50°の範囲に半値幅を有する回折ピークが観察された。さらに、XPSによってSnCoC含有材料を分析したところ、図9に示したように、ピークP1が得られた。このピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、それよりも低エネルギー側(284.5eVよりも低い領域)にSnCoC含有材料中におけるC1sのピークP3とが得られた。この結果から、SnCoC含有材料中の炭素は他の元素と結合していることが確認された。
SnCoC含有材料を得たのち、負極活物質としてSnCoC含有材料80質量部と、負極結着剤としてポリフッ化ビニリデン8質量部と、負極導電剤としてグラファイト11質量部およびアセチレンブラック1質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、バーコータを用いて帯状の電解銅箔(厚さ=15μm)からなる負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させたのち、ロールプレス機を用いて塗膜を圧縮成型した。この際、負極集電体34Aの片面側における負極活物質層34Bの厚さを50μmとした。
(実施例4−2)
実施例4−1と同様に、負極活物質としてSnCoC含有材料を用いたことを除き、実施例2−5と同様の手順を経た。
(比較例3−1,3−2)
化15(2)の化合物を用いなかったことを除き、実施例4−1,4−2と同様の手順を経た。
これらの実施例4−1,4−2および比較例3−1,3−2の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
表4に示したように、負極活物質としてSnCoC含有材料を用いた場合においても、表1および表2に示した結果と同様の結果が得られた。すなわち、溶媒が化15(2)の化合物を含有する実施例4−1,4−2では、それを含有しない比較例3−1,3−2と比較して、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。また、溶媒としてFECを加えた実施例4−2では、実施例4−1と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が高くなった。
なお、ここでは、化15(2)の化合物を用いた場合の結果だけを示しており、化7(2)の化合物等を用いた場合の結果を示していない。しかしながら、表1に示した結果から、負極活物質として同一の材料(ケイ素)を用いた場合に、化15(2)の化合物等を含有することにより、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が向上することは明らかである。このことからすれば、負極活物質として他の同一の材料(SnCoC含有材料)を用いた場合においても、化15(2)の化合物等を含有することによって常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が向上することは、明らかである。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質としてSnCoC含有材料を含む場合に、電解液の溶媒が化3に示したニトリル化合物(化4に示した化合物)のうちの少なくとも1種を含有することにより、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。
(実施例5−1〜5−11)
負極活物質として、ケイ素に代えて、炭素材料である人造黒鉛を用いて負極活物質層34Bを形成したことを除き、実施例1−1〜1−4,1−6〜1−12と同様の手順を経た。この負極活物質層34Bを形成する場合には、負極活物質として人造黒鉛90質量部と、負極結着剤としてポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合した負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとし、バーコータを用いて帯状の電解銅箔(厚さ=15μm)からなる負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機を用いて圧縮成形した。この際、負極集電体34Aの片面側における負極活物質層34Bの厚さが72.5μmとなるようにした。
(比較例4−1,4−2)
実施例5−1〜5−11と同様に人造黒鉛を用いたことを除き、比較例1−1,1−2と同様の手順を経た。
これらの実施例5−1〜5−11および比較例4−1,4−2の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
表5に示したように、負極活物質として人造黒鉛を用いた場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、溶媒が化15(2)の化合物等を含有する実施例5−1〜5−11では、それらを含有しない比較例4−1,4−2と比較して、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。また、実施例5−1〜5−6では、溶媒中におけるニトリル化合物の含有量が0.01重量%以上10重量%以下であると、電池容量も高くなった。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質として人造黒鉛を含む場合に、電解液の溶媒が化3に示したニトリル化合物(化4に示した化合物)のうちの少なくとも1種を含有することにより、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒中におけるニトリル化合物の含有量が0.01重量%以上10重量%以下であれば、優れた電池容量、サイクル特性および保存特性が得られることも確認された。
(実施例6−1〜6−7)
実施例5−1〜5−11と同様に負極活物質として人造黒鉛を用いたことを除き、実施例2−1〜2−7と同様の手順を経た。
(比較例5−1〜5−3)
実施例5−1〜5−11と同様に負極活物質として人造黒鉛を用いたことを除き、比較例2−1〜2−3と同様の手順を経た。
これらの実施例6−1〜6−7および比較例5−1〜5−3の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
表6に示したように、負極活物質として人造黒鉛を用いた場合においても、表2と同様の結果が得られた。すなわち、溶媒の組成を変更した実施例6−1〜6−7においても、実施例5−3と同様に、比較例4−1,5−1〜5−3と比較して、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。また、FECやVC等を加えた実施例6−4〜6−7では、それらを含有しない実施例5−3と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が高くなった。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質として人造黒鉛を含む場合に、溶媒の組成を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒として、化32に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化33に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、化36〜化38に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を用いれば、特性がより向上することも確認された。
(実施例7−1〜7−3)
実施例5−1〜5−11と同様に負極活物質として人造黒鉛を用いたことを除き、実施例3−1〜3−3と同様の手順を経た。
これらの実施例7−1〜7−3の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
表7に示したように、負極活物質として人造黒鉛を用いた場合においても、表3と同様の結果が得られた。すなわち、電解質塩の種類を変更した実施例7−1〜7−3では、実施例5−3と比較して、同等以上の常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質として人造黒鉛を含む場合に、電解質塩の種類を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、電解質塩として、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、化39〜化41に示した化合物、あるいは化45〜化47に示した化合物を用いれば、特性がより向上することも確認された。
(実施例8−1〜8−3)
負極活物質層34Bを形成する場合に、複数の負極活物質粒子を形成したのち、酸化物含有膜および金属材料をこの順に形成したことを除き、実施例1−5,2−5,2−6と同様の手順を経た。酸化物含有膜を形成する場合には、液相析出法によって負極活物質粒子の表面にケイ素の酸化物(SiO2 )を析出させた。この際、ケイフッ化水素酸にアニオン補足剤としてホウ素を溶解させた溶液中に、負極活物質粒子が形成された負極集電体34Aを3時間浸積し、その負極活物質粒子の表面にケイ素の酸化物を析出させたのち、水洗して減圧乾燥した。また、金属材料を形成する場合には、電解鍍金法によってコバルト(Co)の鍍金膜を成長させた。この際、鍍金液として日本高純度化学株式会社製のコバルト鍍金液を用い、電流密度を2A/dm2 〜5A/dm2 、鍍金速度を10nm/秒として、鍍金浴にエアーを供給しながら通電して負極集電体34Aの両面にコバルトを堆積させた。
(比較例6−1〜6−3)
実施例8−1〜8−3と同様に、酸化物含有膜および金属材料を形成したことを除き、比較例1−1,2−1,2−2と同様の手順を経た。
これらの実施例8−1〜8−3および比較例6−1〜6−3の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
表8に示したように、酸化物含有膜および金属材料を形成した場合においても、表1および表2に示した結果と同様の結果が得られた。すなわち、実施例8−1〜8−3では、実施例1−5と同様に、比較例1−1,6−1〜6−3と比較して、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。
特に、酸化物含有膜および金属材料を形成した実施例8−1では、それらを形成しなかった実施例1−5と比較して、常温サイクル放電維持率および高温保存放電容量維持率が高くなった。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質層34Bが酸化物含有膜および金属材料を含む場合においても、サイクル特性および保存特性が向上すると共に、それらの酸化物含有膜および金属材料を用いれば、特性がより向上することが確認された。
(実施例9)
負極活物質層34Bを形成する場合に、実施例8−1で説明した手順により、複数の負極活物質粒子を形成したのちに酸化物含有膜だけを形成したことを除き、実施例1−5と同様の手順を経た。
(比較例7)
実施例9と同様に、酸化物含有膜を形成したことを除き、比較例1−1と同様の手順を経た。
これらの実施例9および比較例7の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表9に示した結果が得られた。
表9に示したように、酸化物含有膜だけを形成した場合においても、表1に示した結果と同様の結果が得られた。すなわち、実施例9では、実施例1−5と同様に、比較例1−1,7と比較して、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。
特に、酸化物含有膜を形成した実施例9では、それを形成しなかった実施例1−5と比較して、常温サイクル放電維持率および高温保存放電容量維持率が高くなった。
なお、ここでは酸化物含有膜としてケイ素の酸化物を形成した場合の結果だけを示しており、ゲルマニウムやスズの酸化物を形成した場合の結果を示していない。しかしながら、ゲルマニウム等の酸化物は、ケイ素の酸化物と同様に常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率を増加させる機能を果たすため、前者を用いた場合においても後者を用いた場合と同様の結果が得られることは、明らかである。このことは、上記した一連の酸化物を任意の組み合わせで2種以上混合した場合についても同様である。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質層34Bが酸化物含有膜だけを含む場合においても、サイクル特性および保存特性が向上すると共に、その酸化物含有膜を用いれば、特性がより向上することが確認された。
(実施例10)
負極活物質層34Bを形成する場合に、実施例8−1で説明した手順により、複数の負極活物質粒子を形成したのちに金属材料だけを形成したことを除き、実施例1−5と同様の手順を経た。
(比較例8)
実施例10と同様に、金属材料を形成したことを除き、比較例1−1と同様の手順を経た。
これらの実施例10および比較例8の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表10に示した結果が得られた。
表10に示したように、金属材料だけを形成した場合においても、表1に示した結果と同様の結果が得られた。すなわち、実施例10では、実施例1−5と同様に、比較例1−1,8と比較して、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。
特に、金属材料を形成した実施例10では、それを形成しなかった実施例1−5と比較して、常温サイクル放電維持率および高温保存放電容量維持率が高くなった。
なお、ここでは金属材料としてコバルトの鍍金膜を形成した場合の結果だけを示しており、鉄、ニッケル、亜鉛あるいは銅の鍍金膜を形成した場合の結果を示していない。しかしながら、鉄等の鍍金膜は、コバルトの鍍金膜等と同様に常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率を増加させる機能を果たすため、前者を用いた場合においても後者を用いた場合と同様の結果が得られることは、明らかである。このことは、上記した一連の鍍金膜を任意の組み合わせで2種以上混合した場合についても同様である。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質層34Bが金属材料を含む場合においても、サイクル特性および保存特性が向上すると共に、その金属材料を用いれば、特性がより向上することが確認された。
なお、酸化物含有膜および金属材料の双方を形成した実施例8−1では、酸化物含有膜だけを形成した実施例9や、金属材料だけを形成した実施例10と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率がいずれも十分に高くなった。
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質層34Bが酸化物含有膜および金属材料を含むようにすれば、いずれか一方だけを含む場合よりも、優れたサイクル特性および保存特性が得られることが確認された。
(2)化5に示した化合物
次に、化3に示したニトリル化合物として化5に示した化合物を用いて、ラミネートフィルム型の二次電池を作製した。
(実施例11−1〜11−7)
化15(2)の化合物に代えて、化5に示した化合物として化29(2)の化合物を用いたことを除き、実施例1−1〜1−7と同様の手順を経た。
(実施例11−8,11−9)
化29(2)の化合物に代えて、化29(1)の化合物(実施例11−8)、あるいは化29(3)の化合物(実施例11−9)を用いたことを除き、実施例11−5と同様の手順を経た。
(比較例9−1)
化29(2)の化合物を用いなかったことを除き、実施例11−1〜11−9と同様の手順を経た。
(比較例9−2)
化29(2)の化合物に代えて化50の化合物を用いたことを除き、実施例11−5と同様の手順を経た。
これらの実施例11−1〜11−9および比較例9−1,9−2の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表11に示した結果が得られた。
表11に示したように、負極活物質としてケイ素を含む場合には、溶媒が化29(2)の化合物等を含有する実施例11−1〜11−9において、それらを含有しない比較例9−1,9−2と比較して、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。
特に、化29(2)の含有量が異なる実施例11−1〜11−7では、その含有量が0.01重量%以上10重量%以上であると、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が高くなり、電池容量も高くなった。
なお、ここでは、化29(2)の化合物等を単独で用いた場合の結果だけを示しており、それらを2種以上混合して用いた場合の結果を示していない。しかしながら、上記したように、化29(2)の化合物等を単独で用いた場合に、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率がいずれも増加することは明らかである。また、化29(1)の化合物等を組み合わせた場合に、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が減少する特別な理由も見当たらない。したがって、化29(2)の化合物等を2種以上混合させた場合においても、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が増加することは明らかである。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質としてケイ素を含む場合に、電解液の溶媒が化3に示したニトリル化合物(化5に示した化合物)のうちの少なくとも1種を含有することにより、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒中におけるニトリル化合物の含有量が0.01重量%以上10重量%以下であれば、優れた電池容量、サイクル特性および保存特性が得られることも確認された。
(実施例12−1〜12−7)
実施例11−1〜11−9と同様に化29(2)の化合物を用いたことを除き、実施例2−1〜2−7と同様の手順を経た。
(比較例10−1〜10−3)
化29(2)の化合物を用いなかったことを除き、実施例12−5〜12−7と同様の手順を経た。
これらの実施例12−1〜12−7および比較例10−1〜10−3の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表12に示した結果が得られた。
表12に示したように、溶媒の組成を変更した実施例12−1〜12−7においても、実施例11−5と同様に、比較例9−1,10−1〜10−3と比較して、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。
特に、DECをDMC等に変更したり、PCを加えたり、FECやVC等を加えた実施例12−1〜12−7では、実施例11−5と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が高くなった。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質としてケイ素を含む場合に、溶媒の組成を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒として、化32に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化33に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、化36〜化38に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を用いれば、特性がより向上することも確認された。
(実施例13−1〜13−3)
実施例11−1〜11−9と同様に化29(2)の化合物を用いたことを除き、実施例3−1〜3−3と同様の手順を経た。
これらの実施例13−1〜13−3の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表13に示した結果が得られた。
表13に示したように、電解質塩の種類を変更した実施例13−1〜13−3では、実施例11−5と比較して、同等以上の常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質としてケイ素を含む場合に、電解質塩の種類を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、電解質塩として、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、化39〜化41に示した化合物、あるいは化45〜化47に示した化合物を用いれば、特性がより向上することも確認された。
(実施例14−1,14−2)
化15(2)の化合物に代えて、化5に示した化合物として化29(2)の化合物を用いたことを除き、実施例4−1,4−2と同様の手順を経た。
(比較例11−1,11−2)
化29(2)の化合物を用いなかったことを除き、実施例14−1,14−2と同様の手順を経た。
これらの実施例14−1,14−2および比較例11−1,11−2の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表14に示した結果が得られた。
表14に示したように、負極活物質としてSnCoC含有材料を用いた場合においても、表11および表12に示した結果と同様の結果が得られた。すなわち、溶媒が化29(2)の化合物を含有する実施例14−1,14−2では、それを含有しない比較例11−1,11−2と比較して、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。また、溶媒としてFECを加えた実施例14−2では、実施例14−1と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が高くなった。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質としてSnCoC含有材料を含む場合に、電解液の溶媒が化3に示したニトリル化合物(化5に示した化合物)のうちの少なくとも1種を含有することにより、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。
(実施例15−1〜15−8)
実施例5−1〜5−11と同様に人造黒鉛を用いたことを除き、実施例11−1〜11−4,11−6〜11−9と同様の手順を経た。
(比較例12−1,12−2)
実施例5−1〜5−11と同様に人造黒鉛を用いたことを除き、比較例9−1,9−2と同様の手順を経た。
これらの実施例15−1〜15−8および比較例12−1,12−2の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表15に示した結果が得られた。
表15に示したように、負極活物質として人造黒鉛を用いた場合においても、表11と同様の結果が得られた。すなわち、溶媒が化29(2)の化合物等を含有する実施例15−1〜15−8では、それらを含有しない比較例12−1,12−2と比較して、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。また、実施例15−1〜15−6では、溶媒中におけるニトリル化合物の含有量が0.01重量%以上10重量%以下であると、電池容量も高くなった。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質として人造黒鉛を含む場合に、電解液の溶媒が化3に示したニトリル化合物(化5に示した化合物)のうちの少なくとも1種を含有することにより、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒中におけるニトリル化合物の含有量が0.01重量%以上10重量%以下であれば、優れた電池容量、サイクル特性および保存特性が得られることも確認された。
(実施例16−1〜16−7)
実施例5−1〜5−11と同様に負極活物質として人造黒鉛を用いたことを除き、実施例12−1〜12−7と同様の手順を経た。
(比較例13−1〜13−3)
化29(2)の化合物を用いなかったことを除き、実施例16−5〜16−7と同様の手順を経た。
これらの実施例16−1〜16−7および比較例13−1〜13−3の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表16に示した結果が得られた。
表16に示したように、負極活物質として人造黒鉛を用いた場合においても、表12と同様の結果が得られた。すなわち、溶媒の組成を変更した実施例16−1〜16−7においても、実施例15−3と同様に、比較例12−1,13−1〜13−3と比較して、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。また、FECやVC等を加えた実施例16−4〜16−7では、それらを含有しない実施例15−3と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が高くなった。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質として人造黒鉛を含む場合に、溶媒の組成を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒として、化32に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化33に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、化36〜化38に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を用いれば、特性がより向上することも確認された。
(実施例17−1〜17−3)
実施例5−1〜5−11と同様に負極活物質として人造黒鉛を用いたことを除き、実施例13−1〜13−3と同様の手順を経た。
これらの実施例17−1〜17−3の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表17に示した結果が得られた。
表17に示したように、負極活物質として人造黒鉛を用いた場合においても、表13と同様の結果が得られた。すなわち、電解質塩の種類を変更した実施例17−1〜17−3では、実施例15−3と比較して、同等以上の常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質として人造黒鉛を含む場合に、電解質塩の種類を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、電解質塩として、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、化39〜化41に示した化合物、あるいは化45〜化47に示した化合物を用いれば、特性がより向上することも確認された。
なお、ここでは、化3に示したニトリル化合物として化4あるいは化5に示した化合物を用いた場合の結果だけを示しており、化6に示した化合物を用いた場合の結果を示していない。しかしながら、化6に示した化合物は、その化学式中に化4あるいは化5に示した化合物と共通する部分(ニトリル基と電子吸引性基とが直接結合された部位)を有するため、やはり常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率を増加させる機能を果たす。これにより、前者を用いた場合においても後者を用いた場合と同様の結果が得られることは明らかである。
上記した表1〜表17の結果から、本発明の二次電池では、電解液の溶媒が化3に示したニトリル化合物のうちの少なくとも1種を含有することにより、負極活物質の種類、溶媒の組成、あるいは電解質塩の種類などに依存せずに、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。
この場合には、負極活物質として、炭素材料(人造黒鉛)を用いた場合よりも、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を有する材料(ケイ素あるいはSnCoC含有材料)を用いた場合において、放電容量維持率の増加率が大きくなった。このことから、前者の場合よりも後者の場合において、より高い効果が得られることが確認された。この結果は、負極活物質として高容量化に有利なケイ素を用いると、炭素材料を用いる場合よりも電解液が分解しやすくなるため、電解液の分解抑制効果が際立って発揮されたものと考えられる。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の電解液の使用用途は、必ずしも二次電池に限らず、二次電池以外の他の電気化学デバイスであっても良い。他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
また、上記した実施の形態および実施例では、二次電池の種類として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池や、負極の容量がリチウムの析出および溶解に基づいて表されるリチウム金属二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の二次電池は、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に伴う容量とリチウムの析出および溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和によって表される二次電池についても、同様に適用可能である。この場合には、負極活物質としてリチウムを吸蔵および放出することが可能な材料が用いられ、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料における充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように正負極間の容量が調整される。
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が円筒型およびラミネートフィルム型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本発明の二次電池は、角型、コイン型およびボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の1族元素や、マグネシウム(Mg)あるいはカルシウム(Ca)などの2族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。これらの場合においても、負極活物質として、上記した実施の形態で説明した負極材料を用いることが可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の電解液あるいは二次電池における化3に示したニトリル化合物の含有量について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明しているが、その説明は、含有量が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、含有量が上記した範囲から多少外れてもよい。
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、23,35…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム、221…負極活物質粒子、222…酸化物含有膜、224(224A,224B)…隙間、225…空隙、226…金属材料。