以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は、本発明が適用される内燃機関のシステム図である。図中、10は、自動車用の圧縮着火式内燃機関即ちディーゼルエンジンであり、11は吸気ポートに連通されている吸気マニフォルド、12は排気ポートに連通されている排気マニフォルド、13は燃焼室である。本実施形態では、不図示の燃料タンクから高圧ポンプ17に供給された燃料が、高圧ポンプ17によりコモンレール18に圧送されて高圧状態で蓄圧され、このコモンレール18内の高圧燃料がインジェクタ14から燃焼室13内に直接噴射供給される。エンジン10からの排気ガスは、排気マニフォルド12からターボチャージャ19を経た後にその下流の排気通路15に流され、後述のように浄化処理された後、大気に排出される。なお、ディーゼルエンジンの形態としてはこのようなコモンレール式燃料噴射装置を備えたものに限らない。またEGR装置などの他の排気浄化デバイスを含むことも任意である。
エアクリーナ20から吸気通路21内に導入された吸入空気は、エアフローメータ22、ターボチャージャ19、インタークーラ23、スロットルバルブ24を順に通過して吸気マニフォルド11に至る。エアフローメータ22は吸入空気量を検出するためのセンサであり、具体的には吸入空気の流量に応じた信号を出力する。スロットルバルブ24には電子制御式のものが採用されている。
排気通路15には、排気ガス中のNOxを還元して浄化するNOx触媒、特に選択還元型NOx触媒34が設けられている。なお排気ガス中の未燃成分(特にHC)を酸化して浄化する酸化触媒や、排気ガス中の粒子状物質(PM)を捕集して燃焼除去するDPR(Diesel Particulate Reduction)触媒が追加して設けられてもよい。また、NOx触媒34に還元剤としての尿素水を添加するための尿素添加装置48が設けられている。具体的には、NOx触媒34の上流側の排気通路15に、尿素水を噴射するための尿素添加弁40が設けられている。尿素添加弁40には供給ライン41を通じて尿素供給ポンプ42から尿素水が供給され、尿素供給ポンプ42は尿素タンク44に貯留された尿素水を吸引して吐出する。
また、エンジン全体の制御を司る制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)100が設けられる。ECU100は、CPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。ECU100は、各種センサ類の検出値等に基づいて、所望のエンジン制御が実行されるように、インジェクタ14、高圧ポンプ17、スロットルバルブ24等を制御する。またECU100は、尿素添加量を制御すべく、尿素添加弁40及び尿素供給ポンプ42を制御する。ECU100に接続されるセンサ類としては、前述のエアフローメータ22の他、NOx触媒34の下流側に設けられたNOxセンサ50、NOx触媒34の上流側と下流側にそれぞれ設けられた触媒前排気温センサ52及び触媒後排気温センサ54が含まれる。NOxセンサ50は排気ガスのNOx濃度に応じた出力信号を発する所謂限界電流式NOxセンサである。その構造については後に詳しく述べる。
他のセンサ類として、クランク角センサ26、アクセル開度センサ27及びエンジンスイッチ28がECU100に接続されている。クランク角センサ26はクランク角の回転時にクランクパルス信号をECU100に出力し、ECU100はそのクランクパルス信号に基づきエンジン10のクランク角を検出すると共に、エンジン10の回転速度を計算する。アクセル開度センサ27は、ユーザによって操作されるアクセルペダルの開度(アクセル開度)に応じた信号をECU100に出力する。エンジンスイッチ28はユーザによってエンジン始動時にオン、エンジン停止時にオフされる。
選択還元型NOx触媒(SCR: Selective Catalytic Reduction)34は、ゼオライト又はアルミナなどの基材表面にPtなどの貴金属を担持したものや、その基材表面にCu等の遷移金属をイオン交換して担持させたもの、その基材表面にチタニヤ/バナジウム触媒(V2O5/WO3/TiO2)を担持させたもの等が例示できる。選択還元型NOx触媒34は、その触媒温度が活性温度域にあり、且つ、還元剤としての尿素が添加されているときにNOxを還元浄化する。尿素が触媒に添加されると、触媒上でアンモニアが生成され、このアンモニアがNOxと反応してNOxが還元される。
NOx触媒34の温度は、触媒に埋設した温度センサにより直接検出することもできるが、本実施形態ではそれを推定することとしている。具体的には、ECU100が、触媒前排気温センサ52及び触媒後排気温センサ54によりそれぞれ検出された触媒前排気温及び触媒後排気温に基づき、触媒温度を推定する。なお推定方法はこのような例に限られない。
NOx触媒34に対する尿素添加量は、NOxセンサ50により検出されるNOx濃度に基づき制御される。具体的には、検出NOx濃度の値が常にゼロになるように尿素添加弁40からの尿素噴射量が制御される。この場合、検出NOx濃度の値のみに基づいて尿素噴射量を設定してもよいし、或いは、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度とアクセル開度)に基づいてNOx濃度をゼロとするような基本尿素噴射量を設定し、且つ、この基本尿素噴射量を検出NOx濃度の値がゼロになるようにフィードバック補正してもよい。NOx触媒34が尿素添加時のみNOxを還元可能なので、基本的に尿素は、エンジン運転中且つ燃料噴射実行時に常時添加される。また、NOx還元に必要な最小限の量しか尿素が添加されないよう、制御が行われる。過剰に尿素を添加するとアンモニアが触媒下流に排出されてしまい(所謂NH3スリップ)、異臭等の原因となるからである。
次に、NOxセンサ50の詳細について説明する。図2〜図4にはNOxセンサ50のセンサ素子部の構造を示す。なお図3には図2のIII−III断面を示し、図4には図2のIV−IV断面を概略的に示す。
NOxセンサ50は、ポンプセルP、モニタセルM及びセンサセルSという3つのセルを有し、排気ガス中のNOx濃度を検出する。また本実施形態のNOxセンサ50は、排気ガス中の酸素濃度をも同時に検出可能ないわゆる複合型センサとして構成されている。
NOxセンサ50においては、酸化ジルコニア等の酸素イオン伝導性材料からなる一対のシート状の固体電解質(固体電解質素子)51,52が、アルミナ等の絶縁材料からなるスペーサ53を介して上下方向に積層されている。このうち上側の固体電解質51にはピンホール54が形成されており、このピンホール54を通じてセンサ周囲の排気ガス(被検出ガス)が第1チャンバ55内に導入される。第1チャンバ55は、ガス速度を律速するための律速通路、具体的には絞り56を介して、第2チャンバ57に連通されている。またピンホール54の入口は多孔質拡散層58で覆われ、センサ外部から第1チャンバ55に排気ガスが導入されるときのガス速度が律速されるようになっている。
下側の固体電解質52には、第1チャンバ55内に臨むようにしてポンプセルPが設けられており、ポンプセルPは、第1チャンバ55内に導入した排気ガス中の酸素を排出する或いは汲み出す働きをすると共に、酸素排出の際に排気ガス中の酸素濃度を検出する。ポンプセルPは、下側の固体電解質52と、これを挟んで対向配置された一対の電極59,60から構成され、特に第1チャンバ55内に位置する上側の電極(ポンプセル電極)59はNOxに対して概ね不活性の電極となっている。ポンプセルPは、第1チャンバ55内に存在する酸素を分解して下側の電極60より大気通路61に排出する。
また、上側の固体電解質51には、第2チャンバ57内に臨むようにしてモニタセルM及びセンサセルSが設けられている。モニタセルMは、第2チャンバ57内の酸素濃度に応じて起電力、又は電圧印加に伴う電流を発生する。他方センサセルSは、第2チャンバ57内のガス中のNOx濃度に応じた電流を発生する。
本実施形態では、図3及び図4に示すように、第1チャンバ55から第2チャンバ57へと向かう排気ガスの流れ方向に対して同等位置になるよう、モニタセルM及びセンサセルSが並列に配置されると共に、これらセルM,Sの、上側の大気通路62内に位置する電極が共通電極63となっている。即ちモニタセルMは、上側の固体電解質51とこれを挟んで対向配置された電極(モニタセル電極)64及び共通電極63とにより構成され、センサセルSは、同じく上側の固体電解質51とこれを挟んで対向配置された電極(センサセル電極)65及び共通電極63とにより構成されている。
下側の固体電解質52の下面にはアルミナ等よりなる絶縁層66が設けられ、この絶縁層66により前記大気通路61が区画形成されている。この絶縁層66には、センサ素子部全体を加熱するためのヒータ67が埋設されている。このヒータ79はECU100により約750〜800℃となるよう加熱制御される。
第1チャンバ55内に位置するポンプセル電極59と、第2チャンバ57内に位置するモニタセル電極64とは、NOxを還元若しくは分解し得る触媒能を有しないか又はその触媒能が低い材料から構成されている。本実施形態の場合、これら電極59,64は、金Auと白金Ptとセラミックスのサーメットからなる。一方、第2チャンバ57内のセンサセル電極65は、NOxを還元若しくは分解し得る触媒能を有し又はその触媒能が高い材料を含む。本実施形態の場合、センサ電極65は、ロジウムRhと白金PtとセラミックスとしてのジルコニアZrO2からなる多孔質サーメットから構成され、このうちロジウムRhがNOx、特にNOをも還元し得る高いNOx触媒能を有する。
排気ガスは多孔質拡散層58及びピンホール54を通って第1チャンバ55に導入される。そしてこの排気ガスがポンプセルPを通過する際、その電極59,60間にポンプセル電圧Vpを印加することで、第1チャンバ55内の酸素O2がポンプセル電極59と接触して酸素イオンO2−となる。この酸素イオンO2−は、下側の固体電解質52を通じて他方の電極60に向かって流れる。したがって、第1チャンバ55内の排気ガスに含まれる酸素が大気通路61に排出されることになる。なおポンプセルPに流れた電流(ポンプセル電流Ip)により排気ガスの酸素濃度ひいては空燃比が検出される。ポンプセル電極59により、排気ガス中のNO2がNOに還元されることはあるものの、NOはそれ以上還元されない。したがって第1チャンバ55内ではNOxがNOにほぼ単ガス化され、このNOxを含む排気ガスが絞り56を通じて第2チャンバ57内に導入される。
第2チャンバ57内において、モニタセルMでは、排気ガスの酸素濃度に応じた出力が発生する。モニタセルMの出力は、その電極64,63間に所定の電圧(モニタセル電圧Vm)を印加することで、モニタセル電流Imとして検出される。従ってこのモニタセル電流Imが第2チャンバ57内の酸素濃度を示すこととなる。他方、センサセルSでは、その電極65,63間に所定の電圧(センサセル電圧Vs)を印加することで、ガス中のNOx(殆どがNOである)が還元分解され、分解後の酸素O2がセンサセル電極65と接触して酸素イオンO2−となり、この酸素イオンO2−が上側の固体電解質51を通じて共通電極63に向かって流れ、酸素O2となって大気通路62に排出される。これに加え、センサセルSでは、ポンプセルPと同様の原理で、第2チャンバ57内の酸素O2を分解し酸素イオンO2−として共通電極63に導いて大気通路62に排出する。したがってセンサセルSには、第2チャンバ57内のNOx濃度と酸素濃度との合計濃度に応じた分解電流(センサセル電流Is)が流れることとなる。
ポンプセル電圧Vpは、第2チャンバ57内の酸素濃度が低濃度の所定値(例えば0.01ppm)となるように、言い換えればモニタセル電流Imがその所定濃度に対応した所定値となるように、モニタセル電流Imに基づいてフィードバック制御される。このときポンプセル電圧Vpが高いほど、第1チャンバ55から排出される酸素量は多くなり、逆にポンプセル電圧Vpが低いほど、第1チャンバ55から排出される酸素量は少なくなる。こうして第2チャンバ57内の酸素濃度は低濃度の一定値に制御されることとなる。
また、モニタセルMにより、第2チャンバ57内の酸素濃度に応じたモニタセル電流Imが計測され、センサセルSにより、第2チャンバ57内のNOx濃度と酸素濃度との合計濃度に応じたセンサセル電流Isが計測される。ECU100は、センサセル電流Isからモニタセル電流Imを減算し、その差Ix(=Is−Im)をNOxセンサ50の出力(出力電流)として求めると共に、当該出力Ixに基づいて所定のマップ(関数でもよい。以下同様。)からNOx濃度を求める。
なお、第2チャンバ57内の酸素濃度が低濃度の一定値であること、センサセル電流Isに含まれる酸素分が少ないと考えられること等から、センサセル電流Is自身をNOxセンサ出力Ixとしてもよいし、センサセル電流Isから予め定められた一定値を減じてNOxセンサ出力Ixとしてもよい。
ここで、モニタセルMとセンサセルSは、電極64,65におけるNOx触媒能の有無の違い(即ち材質の違い)を除けばほぼ同様に構成されている。具体的には、両電極64,65とも第2チャンバ57内に設置されており、また図3及び図4からも分かるように、両電極64,65は面積、形状も等しい。加えて、両電極64,65は第2チャンバ57内に並列配置されており、第2チャンバ57の入口である絞り56から等距離に位置されている。結果的に、モニタセルMとセンサセルSは感度が同等になり、同等の特性を有することとなる。なお、両電極64,65は第2チャンバ57内に直列配置することも可能である。例えばモニタセル電極64を絞り56に近い上流側に、センサセル電極65を絞り56から遠い下流側に配置してもよい。また両セルに対して共通電極63を用いずに個別の電極を用いることも可能である。
これとは対照的に、ポンプセルPとセンサセルSでは互いに特性等が異なるのが明らかである。例えば両セルの電極59,65は材質のみならず、設置チャンバが異なり、面積も異なる。ポンプセル電極59はセンサセル電極65よりかなり大きく形成されている。
次に、NOxセンサ50の活性判定について説明する。
前述したように、センサセルSには酸素吸着能がある。すなわち、センサセル電極65に含まれるロジウムRhが、NOをも還元し得る強い触媒能のほかに、酸素を吸着するといった酸素吸着能を与える主な成分である。他方、ポンプセルP及びモニタセルMにはこのような酸素吸着能がない。
図5は、NOxセンサ50の暖機過程におけるNOxセンサ出力Ixとセンサセル素子温との変化を示す。ここではエンジン停止状態でNOxセンサ50を空気中に常温で十分な時間放置し、センサセル電極65に飽和状態まで酸素を吸着させ、その後、エンジンを始動させずに、NOxセンサ50をオン(各セルとヒータに電圧を印加)し、ヒータ67のみでNOxセンサ50を暖機している。なお、センサセル電極65における酸素吸着は当該電極が低温であるほど起こりやすく、常温程度ではそれが確実に起こること、またNOxセンサ50の暖機後にはそれが起こらないことが分かっている。例えばNOxセンサ50のヒータ67の温度が約750〜800℃といった十分な高温に制御されているような場合には酸素吸着が起こらない。
時間t=0からヒータ67による加熱を開始すると、内燃機関が始動されておらず排気ガス及びこれに含まれるNOxが無い状態であるにも拘わらず、NOxセンサ出力IxがNOx濃度ゼロ相当の値Ix0から立ち上がり、あたかもNOx濃度が増大したかのような挙動を示す。これは、センサ放置中にセンサセル電極65に吸着された酸素O2が、センサセル電極65において分解され、酸素イオンとなって共通電極63に向かって移動し、センサセル電流Isが流れるからである。この立ち上がったNOxセンサ出力Ixは、センサセル電極65における吸着酸素の分解、脱離と共にやがてNOx濃度ゼロ相当の値Ix0に復帰する。
なお、エンジンを始動させてヒータ67による加熱を開始した場合には、排気ガス中のNOx濃度に応じたNOxセンサ出力が上乗せされることになる。即ち、図中のIx0が排ガスNOx濃度相当の値となる。このセンサ暖機過程ではNOx触媒34も暖機中で活性化していないのでその存在は無視し得るものである。
ここで図5に見られるように、センサセル素子温は、センサセル電極65上の吸着酸素が脱離しNOxセンサ出力Ixが正常になる前に、活性温度に達している。即ち、センサセル素子温が活性温度に達するタイミングt1は、NOxセンサ出力Ixが正常出力を発するようになるタイミングt2より早く、両者の間には時間差が生ずる。
他のモニタセルM及びポンプセルPも、センサセルSとほぼ同じタイミングで活性温度に達する。つまりセンサ自身としては既に実質的に活性化しているのだが、センサセルSに吸着した酸素を脱離、放出するのを待つ必要があり、それまでセンサ自身を活性化していると判定することができず、センサセル出力IsひいてはNOxセンサ出力Ixを使用することができない。
前述の特許文献1記載の装置では、ポンプセルが活性化してから一定時間経過した後に、センサセルが活性化した、即ちセンサセル出力を使用可能と判定する。しかし、センサセルにおける実際の酸素吸着量は、空気中への放置時間、放置時の素子温、セルの劣化度等に応じて異なるため、センサセルからの酸素脱離時間もその時々に応じて異なり、ポンプセルの活性化からセンサセルの活性化までの時間は必ずしも一定とはならない。そのため特許文献1記載の装置では、センサセルが未だ活性化していないのに活性化したと判定したり、センサセルが既に活性化したにも拘わらず未活性と判定する誤判定の問題がある。また、そもそもポンプセルとセンサセルとではその特性等が比較的大きく異なるため、これら両者の判定結果を利用してセンサ全体の活性判定を行うのは最善とは言い難い。
そこで本実施形態では、特にモニタセルMとセンサセルSが近似した或いはほぼ同等の特性等を有することに着目し、これらモニタセルMとセンサセルSの素子温を表すパラメータに基づいて、NOxセンサ50が活性化したか否かを判定するようにしている。
ここで、ポンプセルP、モニタセルM及びセンサセルSのいずれも、各セルの素子温とインピーダンスとの間に相関関係があり、素子温が高くなるにつれインピーダンスは低下する傾向にある。そこで本実施形態では各セルの素子温を表す(或いは相関する)パラメータとしてインピーダンスを用い、インピーダンスを検出することにより間接的に素子温を検出することとしている。
図6は、図5に対応した、NOxセンサ50の暖機過程におけるモニタセルMとセンサセルSのインピーダンスの変化を示す。図示するように、モニタセルMではエンジン停止中の酸素吸着が起こらないので、酸素吸着の影響はなく、暖機時間が進むにつれ(素子温が上昇するにつれ)インピーダンスは徐々に減少し、やがて活性温度相当の一定値に落ち着くようになる。なお、本実施形態ではモニタセルMの素子温即ちインピーダンスが活性温度相当の所定範囲内になるようにヒータ67が制御されるので、モニタセルMが活性温度に達した後は、そのインピーダンスがほぼ一定に制御される。
他方、センサセルSでは、詳しくは後述するが、吸着酸素の分解脱離に伴う分解電流が流れるので、その分、見掛け上の検出値としてのインピーダンスが低下する。つまり吸着酸素がなければモニタセルMと同じようなインピーダンス変化を呈するが、吸着酸素があるがためにモニタセルMより低下した状態のインピーダンス変化を呈す。センサセルSのインピーダンスは吸着酸素の脱離が進むにつれ徐々にモニタセルMのインピーダンスに近づき、吸着酸素の脱離が終了した時点でモニタセルMと同等のインピーダンスを示すようになる。このとき、モニタセルMとセンサセルSのインピーダンスが一定状態に落ち着くタイミングは、図5に示したt1,t2と等しい。
なお、図6の例では吸着酸素脱離終了後(t2以降)におけるモニタセルMとセンサセルSのインピーダンスを等しいとしているが、これらは異なっていてもよい。いずれにしても吸着酸素脱離終了後はそれ以前より両セルのインピーダンス差が小さくなる。本実施形態では、詳しくは後述するが、それらセルのインピーダンス差が十分小さい所定値以内となったとき、吸着酸素の脱離が終了した即ちセンサセル電流Isが使用可能になったとして、NOxセンサ50が活性化したと判定するようにしている。
図7には参考的に、図5に対応した、NOxセンサ50の暖機過程におけるモニタセルMとセンサセルSの素子温と電流値Im,Isの変化を示す。(A)に示すように、モニタセルMではエンジン停止中の酸素吸着が起こらないので、酸素吸着の影響はなく、素子温が活性温度に達するタイミングt1で、第2チャンバ57内の酸素濃度に見合った一定のモニタセル電流Imを出力するようになる。しかしながら(B)に示すように、センサセルSでは、吸着酸素の分解脱離に伴う分解電流が流れるので、素子温が活性温度に達するタイミングt1においても未だ、センサセル電流Isが第2チャンバ57内の酸素濃度に見合った一定値に収束しておらず、その後吸着酸素が脱離したタイミングt2でセンサセル電流Isが一定値に収束するようになる。
次に、モニタセルM及びセンサセルSのインピーダンスの検出方法を説明する。この検出はECU100により、いわゆる掃引法なる方法で実行される。図8に示すように、モニタセルM及びセンサセルSにそれぞれ印加される電圧Vm,Vs(総じてVで表す)を、所定時間(例えば100μs)毎に、単発的且つ瞬時的にΔVだけ変化させ(つまり交流電圧を瞬間的に印加し)、この電圧変化に応答して表れるモニタセルM及びセンサセルSの電流Im,Is(総じてIで表す)の変化量ΔIを検出する。そしてここでは前者を後者で割った値Z=ΔV/ΔIを簡略的にインピーダンスの値として扱う。交流電圧Vと交流電流Iとの間には、交流電圧Vの周波数fに応じて変化する位相差があり、通常交流電流は交流電圧より僅かに遅れる。本実施形態では、この位相差ができるだけ少なくなるような周波数fを選択して用いるようにしている。この周波数fの値は例えば1〜10kHzの範囲内にある値である。なお、ECU100は、かかるインピーダンス検出とは別のタイミングで、所定のサンプリング周期τ毎に、モニタセルM及びセンサセルSの電圧値及び電流値を検出している。そしてこれら電圧値及び電流値に基づいて酸素濃度やNOx濃度を検出するようにしている。以上の如きインピーダンス、電圧値及び電流値の検出はポンプセルPについても実行される。
ここで図9を用いてモニタセルMとセンサセルSにおける化学反応の違いを説明する。なおモニタセル電極64とセンサセル電極65は、これらが多孔質サーメットから構成されていることから、簡略的に、空孔部aと実部bに分けて図示されている。まず右半部に示すモニタセルの場合、モニタセル電極64の雰囲気の酸素O2が酸素イオンO2−に分解されて固体電解質51内を流れる。このときの反応点は空孔部aの底部、具体的には電極64と固体電解質51の界面付近であると考えられている。分解後の酸素原子Oは2価の電子2e−を受け取って酸素イオンO2−となり、共通電極63に向かって固体電解質51内を流れる。共通電極63に達した酸素イオンO2−は共通電極63上で酸素分子O2となり、大気通路62に排出される。
他方、左半部に示すセンサセルの場合、このような雰囲気酸素の分解反応に加え、雰囲気NOx特に一酸化窒素NOの分解反応、さらには吸着酸素が存在している場合にはその吸着酸素の分解反応が起きる。センサセル電極65の雰囲気の一酸化窒素NOは、窒素Nと酸素Oに分解され、そのうち窒素Nは窒素分子N2となって雰囲気に排出され、酸素Oはモニタセルと同様の反応を経て大気通路62に排出される。このときの反応点も空孔部aの底部、具体的には電極65と固体電解質51の界面付近であると考えられている。このような反応により、センサセルには雰囲気の酸素及び一酸化窒素の合計濃度に応じた分解電流が流れ、さらには吸着酸素量に応じた分解電流が流れることとなる。
次に、図10を用いてモニタセルMとセンサセルSの活性温度到達後のインピーダンス特性を説明する。なお図10は両セルの素子温を一定とした場合であり、暖機時間が進むにつれ素子温が上昇していく図6とは条件が異なる。(A)はモニタセルの場合、(B)はセンサセルの場合である。横軸は実数軸Z’、縦軸は虚数軸Z”であり、図中実線で示すのが各周波数f毎のインピーダンスZである。インピーダンスZはZ=Z’+Z”のベクトル和で表され、或いは複素数平面上の座標Z(Z’,Z”)で表される。図示されるようにインピーダンスZは複素数平面上において二つの連続する半円状を描く特性を有し、供給電圧の周波数fが高くなるほど実数成分Z’が小さくなるように変化する。
例えば(A)のモニタセルの場合で説明すると、二つの半円が交差する点c、即ち虚数成分Z”が極小(図示例ではゼロ)になる点cにおいて、インピーダンスZはほぼ抵抗値と等しくなる。そこでインピーダンス検出の際には、極小点cを得るような周波数fが予め選択される。前述したように、この周波数fの値は例えば1〜10kHzの範囲内の値である。極小点cよりも左側の部分、即ち極小点cよりも高周波数側のインピーダンスZは、電極64,62間に位置するジルコニア等の固体電解質51によるインピーダンスを表している。他方、極小点cよりも右側の部分、即ち極小点cよりも低周波数側のインピーダンスZは、モニタセルMの酸素分解反応に起因する界面抵抗によるインピーダンスを表している。極小点cは、固体電解質51と界面抵抗の両者の影響を含んでいる。
なお、インピーダンス検出時には、所定周波数fの交流電圧を与えたときの電圧変化量ΔVと電流変化量ΔIの比を単純にインピーダンスZ(=ΔV/ΔI)として検出している。よって検出されるインピーダンスZは、特性曲線上のインピーダンス(例えば点p (Zp’,Zp”))の実数成分(例えば点p’(Zp’,0))ということになる。図示例では極小点cにおいて虚数成分Z”がゼロであるが、これはゼロでないこともある。
ところで、以上のことは(B)のセンサセルにも当て嵌まり、実線で示すように、センサセルのインピーダンス特性はモニタセルのインピーダンス特性と近似ないし同等である。しかし、例えば一点鎖線で示すように、仮にセンサセルに酸素が吸着していたとすると、吸着酸素の分解反応が加わる結果、界面抵抗相当のインピーダンスがモニタセルのそれと相違するようになる。この結果、モニタセルと同じタイミング及び周波数でセンサセルのインピーダンス検出を行っても、実際に検出されるインピーダンスはモニタセルのインピーダンス(点c)と相違することとなる。
センサセルの界面抵抗相当のインピーダンスは、d3,d2,d1,dというように、吸着酸素が脱離するにつれて徐々に酸素脱離後の基準半円dに近づいていく。そしてこれに伴って、一定の周波数fを与えていても、検出されるインピーダンスは最初e3のようにモニタセルインピーダンスcから大きくズレており、徐々にe2,e1,eというようにモニタセルインピーダンスcに近づいていく。なお、図示例では酸素脱離時間に応じたセンサセルインピーダンス値の違い、より言えば酸素脱離時間に応じたモニタセルインピーダンスとセンサセルインピーダンスとの差の違いをはっきりと出すため、敢えて、インピーダンス検出時のセンサセル周波数をモニタセル周波数と異ならせ、前者を後者より僅かに低く設定している。言い換えれば、センサセル周波数を、センサセルインピーダンス極小点を得る周波数よりも僅かに低く設定している。これにより酸素脱離後の最終的なセンサセルインピーダンスeはモニタセルインピーダンスcと等しくならない(或いは両者の差が最小とならない)が、酸素脱離につれ両インピーダンスが近づいていくという特性ないし傾向はむしろ明確に出すことができる。このことから、インピーダンス検出時にはモニタセル及びセンサセルに異なった周波数の交流電圧を印加するのが好適であることが理解されよう。もっとも、最終的なセンサセルインピーダンスeをモニタセルインピーダンスcと等しくするように(或いは両者の差を最小とするように)、センサセル周波数をモニタセル周波数と等しく(或いはセンサセルインピーダンス極小点を得る周波数と等しく)設定することも当然可能である。
次に、図11に示すNOxセンサの活性判定ルーチンについて説明する。図示されるルーチンはECU100により所定周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
最初のステップS101では、エンジン始動後であるか否かが判断される。エンジン始動後でない、即ちエンジンが未だ始動されてないと判断された場合、本ルーチンが終了される。他方、エンジン始動後であると判断された場合、ステップS102においてヒータ67がオンされ、NOxセンサ50の暖機が実行される。なおヒータオンと同時に各セルへの電圧印加が開始され、NOxセンサ50自体が作動開始となる。またこのステップS102において、図示しない別ルーチンで検出されたモニタセルMとセンサセルSのインピーダンス値Zm,Zsが取得される。
次のステップS103においては、取得されたモニタセルMのインピーダンス値Zmが活性温度相当の所定値ZmH(例えば20Ω)に達したか否かが判断される。即ち、ヒータ67は、暖機初期は比較的大きな電流(例えば100%デューティ)を与えられて急速に加熱されるが、モニタセルMの素子温が一旦所定の活性温度域(約750〜800℃)に入ると、その活性温度域に維持されるように、ヒータ67への通電量がモニタセルインピーダンスZmに基づいてフィードバック制御される。そのモニタセル活性温度域に相当するインピーダンス範囲がZmL≦Zm≦ZmHである(図7参照)。このステップS103では、取得されたモニタセルインピーダンスZmが、モニタセル活性温度域の低温側しきい値を規定する所定値ZmH以下となったか否か、即ちモニタセルMが活性化したか否かが判断される。
モニタセルインピーダンスZmが所定値ZmH以下となってないと判断された場合、本ルーチンが終了される。他方、モニタセルインピーダンスZmが所定値ZmH以下となっていると判断された場合、即ちモニタセルMが活性化したと判断された場合、ステップS104において、取得されたモニタセルMとセンサセルSのインピーダンスZm,Zsの差(絶対値)ΔZms=|Zm−Zs|が算出される。また同時に、このインピーダンス差ΔZmsが比較的小さい所定の活性判定値α(>0)以下となっているか否かが判断される。
インピーダンス差ΔZmsが活性判定値α以下となってないと判断された場合、センサセルでの吸着酸素が未だ脱離してないとみなして、本ルーチンが終了される。他方、インピーダンス差ΔZmsが活性判定値α以下になったと判断された場合、センサセルでの吸着酸素が脱離終了したとみなして、ステップS105においてNOxセンサ50が活性化したと判断される。これによりセンサセルSの出力電流Isが使用可能となり、センサセル電流Isとモニタセル電流Imの差Ix(=Is−Im)に基づいてNOx濃度を検出可能となる。以上で本ルーチンが終了される。
このように、本実施形態ではモニタセルMとセンサセルSのインピーダンス、より具体的には両者の差ΔZmsに基づいてNOxセンサの活性化を判定するので、センサセルでの吸着酸素脱離終了と同時に即活性化と判定することができる。よって、センサセルにおける実際の酸素吸着量等が異なり、吸着酸素脱離時間が異なっても、これに応じて活性化の判定タイミングを変化させ、最適なタイミングでしかも誤判定することなく活性判定を行うことができる。
ところで、本発明者は、かかるモニタセルMとセンサセルSのインピーダンス、より具体的には両者の差を、NOxセンサ暖機後におけるNOxセンサの異常診断や出力補正にも好適に利用できることを見出した。そこでこれらについて順次説明する。
NOxセンサ50は、劣化するほど、同一NOx濃度に対する出力値Ixが低下する傾向にある。その主な要因はセンサセルSの劣化であり、特にセンサセル電極65が劣化(凝集等)するほどにセンサセルSの内部抵抗が増加し、素子インピーダンスが増加することに起因する。これに対し、モニタセルMの劣化はセンサセルSの劣化に比べて低いことが判明している。
図12にはモニタセルM及びセンサセルSの劣化度と、それぞれのインピーダンスとの関係を示す。図示するように、モニタセルMのインピーダンスは劣化度に拘わらず一定としているが、これはセンサ暖機後にはモニタセルインピーダンスがほぼ一定となるようにヒータ制御がなされているからである。これに対し、センサセルSのインピーダンスは、センサセルSの劣化度が増すにつれモニタセルインピーダンスに対して乖離(上昇)する傾向にある。そこで両セルのインピーダンス差ΔZmsが所定の異常判定値β以上になった場合にはセンサセルSが劣化した、つまりNOxセンサが異常になったと判定する。
一方、かかる異常となる前は、劣化度が増すほど両セルのインピーダンス差が増加する傾向にある。そこでこのインピーダンス差に基づいてNOxセンサ出力Ixを補正することにより、劣化による出力低下分を補償し、劣化度に拘わらずセンサの所定状態(例えば新品状態)におけるセンサ出力Ixを得ることができる。そしてセンサ劣化に伴う各種制御への影響を最小限に止めることが可能となる。
ここで図13に示すNOxセンサの異常診断及び出力補正ルーチンについて説明する。図示されるルーチンはECU100により所定周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
最初のステップS201では、前記ステップS101同様、エンジン始動後であるか否かが判断される。エンジン始動後でないと判断された場合には本ルーチンが終了される。他方、エンジン始動後であると判断された場合には、ステップS202においてNOxセンサ50の活性判定後であるか否か、即ち前記ステップS105(図11)によりNOxセンサ50の活性判定がなされた後か否かが判断される。
NOxセンサ50の活性判定後でないと判断された場合には本ルーチンが終了される。他方、NOxセンサ50の活性判定後であると判断された場合には、ステップS203において、前記ステップS102同様、モニタセルMとセンサセルSのインピーダンス検出値Zm,Zsが取得される。
次のステップS204においては、取得されたモニタセルMとセンサセルSのインピーダンスZm,Zsの差、即ちインピーダンス差ΔZms=|Zm−Zs|が算出されると共に、このインピーダンス差ΔZmsが所定の異常判定値β(>0)以上となっているか否かが判断される。この異常判定値βは、NOxセンサが交換を要するほどに劣化したときの両セルのインピーダンス差として設定されている。
インピーダンス差ΔZmsが異常判定値β以上となっている場合、ステップS205においてNOxセンサ50は異常と判定される。この場合、異常の事実をユーザに知らせるべくチェックランプ等の警告装置が起動させられる。以上で本ルーチンが終了される。
他方、インピーダンス差ΔZmsが異常判定値β未満となっている場合、NOxセンサ50は正常とみなされ、ステップS206において、NOxセンサ50の劣化度に応じた出力低下分を補償すべく、NOxセンサ50の出力Ixの補正が実行される。
NOxセンサ50の劣化度が増すほどNOxセンサ出力Ixは低下し、モニタセルMとセンサセルSのインピーダンス差ΔZmsは増大する傾向にある(図12参照)。そこでインピーダンス差ΔZmsが増大するほど、NOxセンサ出力Ixがより大きくなるような補正が行われる。具体的には、インピーダンス差ΔZmsに対応した出力補正係数Kが図14に示すようなマップから取得され、この取得された出力補正係数KがNOxセンサ出力Ixに乗算されてNOxセンサ出力Ixが補正される。マップにおいてはインピーダンス差ΔZmsが大きくなるほど1に対してより大きくなる出力補正係数Kが得られるようになっている。よって補正されたNOxセンサ出力Ixは、基準状態としてのセンサ新品状態のときの値を示すこととなる。もっとも、必ずしも新品状態のときの値に補正する必要はなく、正常範囲内であればいかなる劣化状態をも基準状態に設定してよい。
このように、NOxセンサ50が正常と判定されたときにはセンサ劣化度に応じた出力補正が実行されるので、センサ劣化度の影響を排除して所定の基準状態におけるNOxセンサ出力Ixを安定して得ることが可能となる。
なお、エンジン始動後(運転時)には、NOxセンサ50にNOxが供給され、センサセルSの検出インピーダンス値Zsに、NOx分解電流が流れることに起因する影響即ちNOx影響が出る場合もある。もっともNOxセンサ50に供給される排気ガスのNOx濃度は極めて低く、NOx影響は吸着酸素影響に比べれば著しく低いと予想される。しかしながらこのNOx影響をも考慮しようとする場合には、予め定めたNOx条件のときにインピーダンス検出を行うのが好ましい。例えばNOxセンサ50に供給される排気ガスのNOx濃度が所定範囲内にあるときに限ってインピーダンス検出を行うが如きである。なお後述するが、エンジンのフューエルカット時にはNOx濃度がゼロになるので、このときにインピーダンス検出を行うのが最も好ましいと考えられる。ここでNOxセンサ50に供給される排気ガスのNOx濃度は、NOxセンサ50自身の出力Ixで近似的に検出してもよい。或いは、NOxセンサ50の上流側にあるNOx触媒34の影響を排除するため、NOx触媒上流側の排気ガスのNOx濃度に基づいて推定しても良い。NOx触媒上流側の排気ガスのNOx濃度は、別のNOxセンサで検出したり、エンジン運転状態に基づいて推定したりすることが可能である。またNOx触媒上流側のNOx濃度に、尿素添加量、触媒浄化率、触媒温度、排気温度等を加味したモデルを用いて、NOxセンサ50に供給される排気ガスのNOx濃度を推定することが可能である。或いは、NOxセンサ50に供給される排気ガスのNOx濃度に基づき、センサセルSの検出インピーダンスZs、インピーダンス差ΔZms、異常判定値β及び出力補正係数Kの少なくとも一つを補正しても良い。これらのことを行うことにより、NOx影響を排除して異常診断及び出力補正の精度をより高めることが可能である。
ところで、前に述べたようなモニタセルMとセンサセルSのインピーダンスZm,Zs、具体的には両者のインピーダンス差ΔZmsに基づいて活性判定する方法では、センサ劣化度に応じてインピーダンス差ΔZmsが変化するので、実際に検出されたインピーダンス差ΔZmsを一定の活性判定値αと比較するだけではセンサ劣化度に応じて活性判定するタイミングが異なり、適切なタイミングで活性判定できなくなる可能性もある。そこで精度を高めるため、以下に説明するように、センサ劣化度に応じて活性判定値αを更新するのが好ましい。
まず、NOxセンサの活性判定後(即ちNOxセンサの暖機後)であって、且つエンジンのフューエルカット時に、モニタセルM及びセンサセルSのインピーダンスZm,Zsをそれぞれ検出する。そしてこれらインピーダンスZm,Zs、具体的には両者のインピーダンス差ΔZmsに基づいて、活性判定値αを更新する。
NOxセンサの活性判定後にはセンサセルにおける吸着酸素が脱離しているので、その吸着酸素の影響のないセンサセルインピーダンスZsを検出できる。そしてエンジンのフューエルカット時には、NOxセンサにNOxが供給されず、空気のみが供給される。従ってNOxの影響のないセンサセルSのインピーダンスZsを検出できる。これら両セルのインピーダンスZm,Zs、具体的にはインピーダンス差ΔZmsは、純粋にNOxセンサの劣化度を表すことになる。よってこれらインピーダンスZm,Zs或いはインピーダンス差ΔZmsに基づいて活性判定値αを更新することにより、活性判定の精度を高めることが可能となる。
また、同様の考え方で、異常診断及び出力補正を行うときのモニタセルMとセンサセルSのインピーダンスZm,Zsは、NOxセンサの活性判定後で且つフューエルカット時の値を用いるのが好ましい。こうすることにより異常診断及び出力補正の精度を高めることが可能となる。
図15に活性判定値αの更新ルーチンを示す。このルーチンはECU100により所定周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
最初のステップS301では、前記ステップS105(図11)におけるNOxセンサの活性判定がなされた後であるか否かが判断される。活性判定がなされた後でない、即ち未だ活性判定前と判断された場合には本ルーチンが終了される。他方、活性判定がなされた後であると判断された場合には、ステップS302において、エンジンの燃料噴射を停止するフューエルカット(F/C)が実行中であるか否かが判断される。なお、アクセル開度センサ27により検出されたアクセル開度が全閉であり、且つ、クランク角センサ26の検出値に基づき算出されたエンジン回転速度が所定のフューエルカット復帰速度より高い場合にフューエルカットが実行される。
フューエルカットが実行中でない場合には本ルーチンが終了される。他方、フューエルカットが実行中である場合には、ステップS303において、検出されたインピーダンス差ΔZmsに基づき活性判定値αが更新、学習される。インピーダンス差ΔZmsが大きいほど、即ちセンサ劣化度が大きいほど、活性判定値αはより大きい値に更新される。この更新は、インピーダンス差ΔZmsと活性判定値αとの関係を予め規定したマップにより行っても良いし、インピーダンス差ΔZmsと補正値との関係を予め規定したマップにより補正値を取得し、補正値を活性判定値αの基準値に乗算或いは加算して行っても良い。
こうして、センサ劣化度に応じ且つNOx影響のない活性判定値αを得て、精度の高い活性判定を行うことが可能となる。更新された活性判定値αは以降のエンジン始動時に読み込まれ、活性判定の際に使用される。
次に、NOxセンサの異常診断及び出力補正ルーチンの別の例を図16に基づいて説明する。図示されるルーチンはECU100により所定周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
最初のステップS401では、前記ステップS201同様にエンジン始動後であるか否かが判断される。エンジン始動後でないと判断された場合には本ルーチンが終了され、エンジン始動後であると判断された場合にはステップS402において、前記ステップS202同様、NOxセンサ50の活性判定後であるか否かが判断される。
NOxセンサ50の活性判定後でないと判断された場合には本ルーチンが終了され、NOxセンサ50の活性判定後と判断された場合には、ステップS403において、前記ステップS302同様、フューエルカット実行中であるか否かが判断される。
フューエルカットが実行中でない場合には本ルーチンが終了される。他方、フューエルカットが実行中である場合には、ステップS404において、前記ステップS203同様、モニタセルMとセンサセルSのインピーダンス検出値Zm,Zsが取得される。こうして吸着酸素やNOxの影響のない、より正確なインピーダンス検出値Zm,Zsを取得することが可能となる。
次のステップS405においては、前記ステップS204同様、取得されたインピーダンスZm,Zsの差即ちインピーダンス差ΔZms=|Zm−Zs|が算出されると共に、このインピーダンス差ΔZmsが異常判定値β以上となっているか否かが判断される。インピーダンス差ΔZmsが異常判定値β以上となっている場合には、ステップS406において、前記ステップS205同様、NOxセンサ50は異常と判定される。
他方、インピーダンス差ΔZmsが異常判定値β未満となっている場合、NOxセンサ50は正常とみなされ、ステップS407において、前記ステップS206同様、NOxセンサ出力Ixが補正される。このときには、ステップS405で算出された吸着酸素及びNOxの影響のないインピーダンス差ΔZmsに基づいて、図14に示すマップから出力補正係数Kが取得される。よってより高精度な補正を行うことが可能である。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は他の実施形態を採ることも可能である。例えば、本発明は内燃機関以外の任意の技術分野に適用可能である。また内燃機関に適用する場合、内燃機関は圧縮着火式内燃機関のほか、例えば火花点火式内燃機関、特に直噴リーンバーンガソリンエンジン等であってもよい。また排気浄化システムについても前記尿素SCRシステムの他、任意の排気浄化システムが可能である。NOxセンサについても本実施形態以外の構造のものが可能である。各セルの素子温を表すパラメータとしては、インピーダンス以外に例えばアドミタンスや抵抗値を用いてもよい。前記実施形態では同一ルーチンにてNOxセンサの異常診断と出力補正を行ったが(図13、図16参照)、これらのうちの一方のみを行うようにしてもよい。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。