[ブレーキ制御装置の油圧回路]
図1は、本実施例1のブレーキ制御装置が適用された液圧ユニットHUの油圧回路構成を示す。以下、前左輪FL、前右輪FR、後左輪RL、後右輪RRのそれぞれに対応して設けられている構成については、a,b,c,dの記号を添えて区別する。液圧ユニットHUは、軽量化及び高剛性化を実現可能なアルミブロック等のハウジングを有しており、このハウジング内に油圧回路が形成され、また電磁弁やポンプ等のアクチュエータを収容している。液圧ユニットHUには、マスタシリンダM/C、ホイルシリンダ5a〜5dおよびリザーバRESがブレーキ配管を介して接続されている。
油圧回路は独立した2つの系統に分かれており、第1ブレーキ回路1および第2ブレーキ回路2を有している。第1ブレーキ回路1はマスタシリンダM/Cと前輪側のホイルシリンダ5a、5bとを接続している。第2ブレーキ回路2はリザーバRESと前後輪のホイルシリンダ5a〜5dとを接続している。また、ホイルシリンダ5a〜5dとリザーバRESとを接続するリターン回路が、第2ブレーキ回路2との間で油路を一部共通しつつ、設けられている。
ブレーキペダルBPは、運転者のブレーキ操作を倍力装置BSへ伝達する。ブレーキペダルBPには、ブレーキペダルBPのストローク量を検出するストロークセンサ12が設けられている。倍力装置BSは、ブレーキペダルBPから伝達される力を例えばエンジン負圧を用いて増幅する負圧ブースタであり、該増幅した力によりマスタシリンダM/Cのマスタシリンダピストンを作動させることで、運転者のペダル踏力をアシストする。
リザーバRESは、ブレーキ液を貯留するリザーバタンクであり、マスタシリンダM/C及び第2ブレーキ回路2に接続されている。
マスタシリンダM/Cは、マスタシリンダピストンにより隔成された2つの液圧室(加圧室)を有しており、これらの液圧室はマスタシリンダピストンから伝達される力に比例したマスタシリンダ圧を発生する。一方の液圧室は、第1ブレーキ回路1の前左輪FL側の系統である第1ブレーキ回路1Aに接続されている。他方の液圧室は、第1ブレーキ回路1の前右輪FR側の系統である第1ブレーキ回路1Bに接続されている。各液圧室はリザーバRESからブレーキ液の供給を受けるとともに、マスタシリンダピストンのストローク時にはリザーバRESとの連通が遮断される。
リザーバRES側を上流とし、ホイルシリンダ5側を下流とすると、第1ブレーキ回路1A、1Bの下流側の端には、それぞれホイルシリンダ5a,5bが接続されている。また、第1ブレーキ回路1Aには第1増圧制御弁6aが設けられ、第1ブレーキ回路1Bには第1増圧制御弁6bが設けられている。
第1増圧制御弁6は常開の電磁弁であり、コイルに流される電流に応じて弁位置が開と閉の2位置に制御される、いわゆるオン・オフ弁である。第1増圧制御弁6a,6bは、コントロールユニットCUからの指令電流により開閉動作を行い、それぞれ第1ブレーキ回路1A,1Bを連通・遮断する。
リザーバRESに接続された第2ブレーキ回路2の下流には、ポンプPが接続されている。ポンプPは、ブレーキ液をリザーバRESから吸い上げ、下流側(第2増圧制御弁7a〜7d)へ高い液圧(ポンプ吐出圧)を供給する外接型のギアポンプである。モータMはDCブラシモータであり、コントロールユニットCUからのデューティ比信号に基づき回転数制御され、ポンプPを駆動する。
第2ブレーキ回路2のポンプPの下流には、下流側から上流側(ポンプP)へのブレーキ液の流れを防止するチェック弁9が設けられている。
第2ブレーキ回路2は、チェック弁9の下流側で、前輪側の系統である第2ブレーキ回路2Aと、後輪側の系統である第2ブレーキ回路2Bとに分岐している。第2ブレーキ回路2Aの下流側は油路2a,2bに分岐し、第2ブレーキ回路2Bの下流側は油路2c、2dに分岐している。油路2aは、第1増圧制御弁6aの下流側の第1ブレーキ回路1Aに接続され、第1ブレーキ回路1Aを介して前左輪FLのホイルシリンダ5aに接続されている。同様に、油路2bは、第1増圧制御弁6bの下流側の第1ブレーキ回路1Bに接続され、第1ブレーキ回路1Bを介して前右輪FRのホイルシリンダ5bに接続されている。一方、油路2c、2dは、それぞれ後輪RL,RRのホイルシリンダ5c,5dに接続されている。
油路2a〜2dには、それぞれ常閉の第2増圧制御弁7a〜7dが設けられている。第2増圧制御弁7a〜7dは、いずれもコイルに流される電流に応じて弁開度がリニアに制御される、いわゆる比例弁である。コントロールユニットCUからの指令電流により開閉動作を行い、それぞれ油路2a〜2dを連通・遮断する。開弁することで、チェック弁9と第2増圧制御弁7a〜7dとの間のブレーキ回路(チェック弁9の下流の第2ブレーキ回路2A,2B、及び第2増圧制御弁7a〜7dの上流の油路2a〜2d)内の液圧(以下、ポンプ圧という。)をホイルシリンダ5a〜5dに供給し、閉弁することで上記供給を遮断する。
以上のように、前輪FL,FRのホイルシリンダ5a,5bには、第1ブレーキ回路1を介してマスタシリンダM/Cが接続されているだけでなく、第2ブレーキ回路2を介してポンプPが接続されている。一方、後輪RL,RRのホイルシリンダ5c,5dには、第1ブレーキ回路1を介してマスタシリンダM/Cが接続されておらず、第2ブレーキ回路2を介してポンプPのみが接続されている。
第2増圧制御弁7a〜7dの下流の油路2a〜2dには、それぞれ油路3a〜3dの一端が接続されている。油路3a〜3dの他端は、ポンプPの上流側の第2ブレーキ回路2に接続されている。「ホイルシリンダ5→油路3→第2ブレーキ回路2→リザーバRES」により、ブレーキ液をホイルシリンダ5からリザーバRESに戻すリターン回路が形成されている。
油路3a〜3dには、それぞれ減圧制御弁8a〜8dが設けられている。前輪FL,FRに設けられた減圧制御弁8a,8bは常閉の比例電磁弁であり、後輪RL,RRに設けられた減圧制御弁8c,8dは常開の比例電磁弁である。減圧制御弁8a〜8dは、コントロールユニットCUからの指令電流により開閉動作を行い、それぞれ油路3a〜3dを連通・遮断する。開弁することでブレーキ液をホイルシリンダ5a〜5dからリザーバRESに戻し、ホイルシリンダ圧を抜き減圧する。
ポンプPとチェック弁9との間の第2ブレーキ回路2には、リリーフ用の油路4の一端が接続されている。油路4の他端は、減圧制御弁8a〜8dの上流側の油路3a〜3d(のいずれか)に接続されている(尚、ポンプPの上流側のブレーキ回路2に直接接続してもよい。)。すなわち、油路4は第2ブレーキ回路2を介してリザーバRESに接続されている。油路4には、リリーフ弁11が設けられている。リリーフ弁11は、ポンプ吐出圧が所定値(例えば本油圧回路の所定耐圧)以上となった場合に開弁し、ポンプPの吐出側をリザーバRESに直接連通させることで、ポンプ吐出圧が上記所定値を上回ることを防止する。
第2増圧制御弁7a〜7dとホイルシリンダ5a〜5dとの間の油路上には、それぞれホイルシリンダ5a〜5dの液圧(ホイルシリンダ圧)を検出するホイルシリンダ圧センサ13a〜13dが設けられている。また、各輪FL〜RRの回転速度を検出する車輪速センサ14a〜14dが各輪毎に設けられており、検出されたホイルシリンダ圧及び車輪速はコントロールユニットCUに入力される。
コントロールユニットCUは、ストロークセンサ12、ホイルシリンダ圧センサ13、車輪速圧センサ14から入力される検出値、および車両側から入力される走行状態に関する情報に基づき情報処理を行い、第1,第2増圧制御弁6,7、減圧制御弁8、及びモータMを制御する。コントロールユニットCUは、液圧ユニットHUと一体に設けられた機電一体型であってもよいし、液圧ユニットHUとは別体に設けられていてもよい。
ホイルシリンダ圧の制御においては、まず、ブレーキ操作状態に基づき運転者の要求制動力を算出する。ブレーキ操作状態はストロークセンサ12により検出する。尚、別途設けられたマスタシリンダ圧センサやブレーキスイッチにより検出することとしてもよい。この要求制動力と車両側から送られる走行状態に関する情報(車両側の要求制動力)、及びホイルシリンダ圧センサ13により検出されたホイルシリンダ圧に基づき、ホイルシリンダ圧の目標値を演算する。この目標値に基づいて各ホイルシリンダ5a〜5dに制御液圧を付与することで、通常ブレーキのほか、ABS制御や自動ブレーキ制御を実行可能である。
ここで、通常ブレーキとは、運転者のブレーキ操作に応じた制動力(ホイルシリンダ圧)を各輪に発生させる制御である。ABS制御は、運転者のブレーキ操作時に車輪がロック傾向になったことを検知すると、当該車輪につき、ロックを防止しつつ最大の制動力を発生させるようホイルシリンダ圧の減圧・保持・増圧を繰り返す制御である。自動ブレーキ制御は、車両旋回時に車両姿勢の安定を図る車両運動制御や駆動輪スリップを抑制するトラクションコントロール制御のほか、車間距離制御、衝突回避制御等で実行される。また、運転者の緊急ブレーキ操作時にマスタシリンダ圧よりも高いホイルシリンダ圧を発生させるブレーキアシスト制御も、ここでは自動ブレーキ制御に含む。
上記のように後輪RL,RR側では、ブレーキペダルBPの入力からホイルシリンダ5までがメカ的に切り離されており、常に第2ブレーキ回路2(ポンプ圧)によってのみホイルシリンダ5c,5dが増圧されうる。このため、自動ブレーキ制御等の制御ブレーキ時だけでなく、通常ブレーキ時にも、ポンプPを駆動して後輪側の制動力を発生させる。すなわち、ポンプPや第2増圧制御弁7c,7d等のアクチュエータを電気的に制御することで、運転者のブレーキ操作量に応じたブレーキ液圧を発生させる、いわゆるブレーキ・バイワイヤ(電動油圧ブレーキ)となっている。
尚、前輪FL,FR側では、第1,第2ブレーキ回路1,2が互いに独立してホイルシリンダ5a,5bを増圧可能に設けられ、状況に応じて第1,第2ブレーキ回路1,2を選択できる。このため、運転者操作による増圧(通常ブレーキ)とポンプPによる増圧(ABS制御や自動ブレーキ制御)の干渉が防止され、良好な制御性及びペダルフィールが確保されている。また通常ブレーキ中、後輪側で回生ブレーキを実行し、液圧制動力と回生制動力とを協調して制御することも可能である。
(第2増圧制御弁)
以下、第2増圧制御弁7の構成について説明する。図2は、第2増圧制御弁7の軸方向断面図である。説明のためプランジャ76の軸方向にx軸を設け、プランジャ76に対してアマチュア72の側を正方向と定義する。第2増圧制御弁7は、プランジャ76がバルブシート面77bに当接した閉弁状態とバルブシート面77bから離間した開弁状態とに切換可能なポペット式の常閉型比例電磁弁である。第2増圧制御弁7は、通電により電磁力を発生するコイル71と、この電磁力によりストロークするプランジャ76と、プランジャ76との間で流量及び液圧を制御するバルブシート部材77と、プランジャ76をバルブシート部材77に当接する方向に付勢するバネ73と、を有している。
コイル71はケース71a内に収容されている。コイル71の内周には、ケース71aに対して固定された有底円筒状のアマチュアコア72aと、コイル71に対してx軸方向に摺動可能なアマチュア72と、一端がアマチュアコア72aの底部に設置されるとともに他端がアマチュア72のx軸正方向端面に設置されたバネ73と、が設けられている。バネ73は、x軸方向に圧縮された状態で設置されており、アマチュア72をx軸負方向側に付勢している。この押し付け力により、アマチュア72のx軸負方向側端面は、プランジャ76のx軸正方向側端面に当接している。このようにプランジャ76は、アマチュア72と一体に、バネ73によりx軸負方向側に付勢されている。
液圧ユニットHUのハウジング74には、x軸正方向側端面からx軸負方向に向かって円筒状の収容孔74aが形成されている。収容孔74aは、油路2a〜2d(のいずれか)の上流側(ポンプPの吐出側)に連通するとともに、下流側(ホイルシリンダ5)にも連通している。
収容孔74aには、中空円筒状のシリンダ部材75がx軸正方向側から嵌合されている。シリンダ部材75の内周には、バルブシート部材77がx軸負方向側から嵌合されている。バルブシート部材77には油路77aがx軸方向に貫通形成されており、バルブシート部材77のx軸正方向端にはバルブシート面(弁座)77bが形成されている。バルブシート部材77のx軸負方向端は、シートプラグ77cにより収容孔74aの内周面に固定されている。
シリンダ部材75の内周には、プランジャ(弁体)76がx軸正方向側から挿入されている。プランジャ76は、シリンダ部材75に対してx軸方向に摺動可能である。プランジャ76のx軸負方向側の先端部76aは、シリンダ部材75の内周面とバルブシート面77bとにより囲まれて形成されたシリンダ室75a内に突出して、バルブシート面77bに対向しており、バルブシート面77bに着座及び離座可能となっている。シリンダ部材75の側壁には、連通孔75bが貫通形成されており、連通孔75bは、シリンダ室75aと油路2の下流側とを、オイルフィルタ78を介して連通している。
尚、シリンダ部材75とシートプラグ77cとの間には、収容孔74aの内周面とバルブシート部材77の外周面とをシールするシール材79が設置されており、ブレーキ液が油路77aを介さず収容孔74aの内周面を伝って漏出して油路2の上流側と下流側が直接連通することを防止している。
次に、第2増圧制御弁7の作用について説明する。プランジャ76がx軸負方向側に移動することで先端部76aがバルブシート面77bに着座し、油路77aとシリンダ室75aとの連通、すなわちポンプPの吐出側とホイルシリンダ5との連通を遮断する。一方、プランジャ76がx軸正方向側に移動することで先端部76aがバルブシート面77bから離間し、ポンプPの吐出側とホイルシリンダ5とを連通する。
プランジャ76に作用する、バネ73の付勢力(バネ力)とコイル71の電磁力と流体力の3力の関係により、プランジャ76の移動量が決定される。この移動量は、プランジャ先端部76aとバルブシート面77bとの間に形成される流路の径、すなわち弁開度に相当し、この弁開度によって油路2(高圧、上流側)から油路2(低圧、下流側)への流量が制御され、ホイルシリンダ圧が増圧制御される。
コイル71の通電状態では、アマチュアコア72a、ケース71a、及びアマチュア72に磁界が発生し、磁路が形成される。形成された磁路により、磁化されたアマチュアコア72aとアマチュア72の間に吸引力が発生する。この吸引力(電磁力)は、バネ力に抗してアマチュア72及びプランジャ76をx軸正方向に移動させるように作用する。この電磁力の大きさは、コントロールユニットCUからの制御電流に応じて変化し、コイル71に流れる電流値Iが大きくなるほど増大する。一方、バネ力はプランジャ76をx軸負方向に押し付けるため、コイル71の無通電状態では、バネ力により、プランジャ先端部76aがバルブシート面77bに当接し、閉弁状態となる。
また、プランジャ76の先端部76aには、高圧の油路2(上流側)から低圧の油路2(下流側)へのブレーキ液の流出を防ぐことにより発生する力、すなわち受圧力が発生する。この受圧力(流体力)は、バネ力に抗して、言い換えると電磁力をアシストして、プランジャ76をx軸正方向に移動させるように作用する。この流体力の大きさは、ポンプ圧とホイルシリンダ圧との差圧ΔP(=ポンプ圧−ホイルシリンダ圧)に、プランジャ76の断面積(軸直方向での受圧面積)Sを乗じた値となる。
第2増圧制御弁7a〜7bは、電気的な失陥が発生した場合に備え(例えば後輪RL,RRについてフェール時の輪ロックを防止して車両を牽引可能にするため)、常閉式とされている。また、ホイルシリンダ5にブレーキ液が供給されている場合、閉弁時には液圧をホイルシリンダ5内に閉じ込め、ホイルシリンダ圧が作用する方向(x軸負方向)にプランジャ76(弁体)が閉弁する。このように、ホイルシリンダ圧がプランジャ76に対して閉弁方向に作用する、言い換えればポンプ圧がプランジャ76に対して開弁方向に作用するようにしている。これは、高圧のポンプ圧を低圧のホイルシリンダ5に供給する際、第2増圧制御弁7の開制御に必要な電流を小さくする等のためである。
ここで、一般的なトラクションコントロール等のブレーキ制御を行う場合や、後輪で回生ブレーキを実行しつつポンプPを作動して前輪に高圧を供給するような場合には、非制御対象輪の第2増圧制御弁7では、ポンプPの増圧力に抗して閉弁しておくことができる力が必要である。この力はバネ力で決定されるため、バネ73の大きなセット荷重が必須となる。
すなわち、ある輪についてはポンプPにより液圧を供給して制動力を発生させ、他の輪については制動力を発生させないような制御を考えると、この制御中は上記他の輪に対応する第2増圧制御弁7を閉弁しておく必要がある。しかし、常閉の第2増圧制御弁7では、常開弁と異なり、閉弁方向の電磁力を発生できない。また、ポンプ圧のほうがホイルシリンダ圧よりも高い上記制御場面では流体力は開弁方向に働くため、バネ73しか閉弁方向の力を発生できない。よって、上記のような制御場面に備え、第2増圧制御弁7では、バネ力が強くなるように、バネ73のバネ定数を通常よりも高く設定している。すなわち、無通電状態であっても、常に流体力よりも大きなバネ力を発生させることで、上流の高圧の油路2から下流の低圧の油路2へのブレーキ液の漏出を抑制可能としている。
コントロールユニットCUは、ホイルシリンダ圧の増圧制御時、制御対象輪のホイルシリンダ圧センサ13で検出される値が目標ホイルシリンダ圧と一致するように、ポンプPの回転数を制御する。これにより、チェック弁9と第2増圧制御弁7a〜7dとの間のブレーキ回路内に、ホイルシリンダ圧の増圧に必要なブレーキ液量、すなわちポンプ圧を確保する。またコントロールユニットCUは、当該輪のホイルシリンダ圧センサ13で検出される値が目標ホイルシリンダ圧と一致するように、当該輪の第2増圧制御弁7に対して制御電流を出力し、第2増圧制御弁7の弁開度をフィードバック制御する。これにより、上記ブレーキ回路からホイルシリンダ5に向けて必要なブレーキ液量を供給する。
(後輪側の減圧制御弁)
後輪側の減圧制御弁8c,8dは、電気的な失陥が発生した場合に備えて(例えば後輪RL,RRのロックを防止するため)、常開式とされている。すなわち、バネ力が開弁方向に作用するようにバネが設置されている。ホイルシリンダ5にブレーキ液が供給されている場合、コイルへの通電により閉弁し、液圧をホイルシリンダ5内に閉じ込める。また、プランジャ(弁体)が開弁する方向にホイルシリンダ圧が作用する。このようにホイルシリンダ圧がプランジャに対して開弁方向に作用するようにしているのは、失陥時に確実に開弁させてホイルシリンダ5からリザーバRESにブレーキ液を抜く等のためである。そして、バネ力は、第2増圧制御弁7よりも小さく設定されている。その他の構成は第2増圧制御弁7と同様である。
(ホイルシリンダ圧制御)
次に、コントロールユニットCUで実行される後輪RL,RRのホイルシリンダ圧制御の流れを、図3のフローチャートにより説明する。この制御フローは、通常ブレーキ、自動ブレーキ制御及びABS制御において、後輪の各ホイルシリンダ5c,5d毎に実行される。
ステップS1では、運転者および車両側の要求制動力の演算結果に基づき、ホイルシリンダ圧を制御するか否かを判断する。制御する場合、ホイルシリンダ圧目標値の入力を受け、この目標値に応じた閾値(下限α0と上限α1)を設定してS2へ移行する。制御しない場合、S7へ移行する。この閾値については後述する。
S2では、ホイルシリンダ圧センサ13で検出された値に基づき、ホイルシリンダ圧を増圧するか否かを判断する。具体的には、ホイルシリンダ圧の検出値が上記閾値の下限α0を下回っていれば、増圧すると判断してS3へ移行する。検出値が閾値下限α0を下回っていなければ、増圧しないと判断してS8へ移行する。
S3では、当該輪の第2増圧制御弁7を開き、第2ブレーキ回路2(油路2c又は2d)を連通させる。また、当該輪の減圧制御弁8を閉じ、モータMをオンし、ポンプPを駆動する。これにより、第2増圧制御弁7(第2ブレーキ回路2)を介してポンプ圧がホイルシリンダ5に供給され、ホイルシリンダ圧が増圧される。
S4では、ホイルシリンダ圧が目標値に到達したか否かを判断する。具体的には、ホイルシリンダ圧の検出値が上記閾値の上限α1以上であれば、目標値に到達したと判断してS5へ移行する。ホイルシリンダ圧の検出値が閾値上限α1未満であれば、目標値に到達していないと判断してS3へ戻り、引き続きホイルシリンダ5の増圧を行う。
S5では、当該輪の第2増圧制御弁7を閉じ、第2ブレーキ回路2(油路2c又は2d)を遮断する。また、モータMをオフし、ポンプPの駆動を停止して、ポンプ圧によるホイルシリンダ圧の増圧を終了する。その後、S6へ移行する。
S6では、運転者および車両側の要求制動力の演算結果に基づき、当該輪のホイルシリンダ圧を引き続き制御するか否かを判断する。制御を続ける場合、ホイルシリンダ圧目標値の入力を受け、閾値を設定してS2へ戻る。終了する場合、S7へ移行する。
S7では、第2増圧制御弁7を閉じ、減圧制御弁8を開き、モータMをオフとする。これにより第2ブレーキ回路2を遮断し、リザーバRESとホイルシリンダ5とを連通させ、ホイルシリンダ圧をリザーバRESに抜き減圧する。これにより制御フローを終了する。
S8では、ホイルシリンダ圧センサ13で検出された値に基づき、ホイルシリンダ圧を減圧するか否かを判断する。具体的には、ホイルシリンダ圧の検出値が閾値上限α1を上回っていれば、減圧すると判断してS9へ移行する。検出値が閾値上限α1を上回っていなければ、減圧しないと判断してS12へ移行する。
S9では、当該輪の第2増圧制御弁7を閉じ、第2ブレーキ回路2(油路2c又は2d)を遮断する。また、減圧制御弁8を開き、リザーバRESとホイルシリンダ5とを連通させ、ホイルシリンダ圧をリザーバRESに抜き減圧する。その後、S10へ移行する。
S10では、ホイルシリンダ圧が目標値に到達したか否かを判断する。具体的には、ホイルシリンダ圧の検出値が閾値上限α1以下であれば、目標値に到達したと判断してS11へ移行する。ホイルシリンダ圧の検出値が閾値上限α1を上回っていれば、目標値に到達していないと判断してS9へ戻り、引き続きホイルシリンダ5の減圧を行う。
S11では、減圧制御弁8を閉じ、リザーバRESとホイルシリンダ5との間を遮断することで、ホイルシリンダ圧の減圧を終了する。その後、上記S6へ移行する。
S12では、当該輪の第2増圧制御弁7及び減圧制御弁8を閉じ、ホイルシリンダ圧を増圧も減圧もせずに保持する。その後、上記S6へ移行する。
なお、前輪FL,FR側のホイルシリンダ圧制御も基本的に後輪側と同様である。後輪側との相違点は、ホイルシリンダ圧制御を実行しない場合(S1でNOのとき)は、S7の代わりに、第1増圧制御弁6を開き、第2増圧制御弁7および減圧制御弁8を閉じ、モータMをオフとする。これにより、第1ブレーキ回路1(油路1A又は1B)が連通され、マスタシリンダ圧がホイルシリンダ5に供給されうる。すなわち運転者操作によりホイルシリンダ圧を増圧可能な通常ブレーキモードとなる。一方、自動ブレーキ制御等を行うために、ホイルシリンダ圧制御を開始する場合(S1でYESのとき)は、第1増圧制御弁6を閉じ、上記S2〜S6,S8〜S12のステップによりホイルシリンダ圧制御を実行する。制御を終了するときは、上記と同様に通常ブレーキモードとする。
(閾値の説明)
ブレーキ制御時、ホイルシリンダ圧は、ある決定された目標値と一致するように制御される。しかし、ブレーキ制御装置は複数の機械要素で構成されるため、制御系として遅れ要素を持つ。また外乱等も多い。このため実際のホイルシリンダ圧は、目標値に対して高低の誤差を持たざるを得ない。この誤差を許容しなかった場合、ホイルシリンダ圧を目標値に対して収束させるべく半永久的に液圧操作が繰り返されることになる。この場合、アクチュエータへの繰り返し通電によるエネルギの浪費や、繰り返されるアクチュエータ作動による騒音や自励振動、耐久性悪化など、様々な面で問題が発生する。
よって、一般的には、目標となる値に対して、その上下に所定の余裕代(閾値)を持たせ、この閾値下限を下回る場合は増圧し、閾値上限を上回る場合は減圧する。そして、ホイルシリンダ圧がこの閾値内に収まると増減圧制御を終了し、液圧を保持する。このように増圧・保持・減圧の状態のいずれか1つに切り替える理由は、増圧・減圧の制御を同時に行うと、一方の制御が他方の制御に影響を与えてしまい、系が不安定になるためである。
ここで、閾値の上限と下限との差が大きい場合、この上限と下限との間でのホイルシリンダ圧変動が運転者にG変動として伝わり、違和感を与えるおそれがある。すなわち、例えば走行中の車両において運転者がある一定の減速操作を行ったとき、一定のホイルシリンダ圧が、車両を停止させようとする方向に一定の制動力として働く。この車両を減速させる制動力は、運転者に対して減速Gとして伝わる。よって、運転者のブレーキ操作中、(後輪RL,RRの)ホイルシリンダ圧の変動幅が大きい場合、これが運転者にG変動として伝わってしまう。
そこで、一般的には、閾値の上下限の差をある程度の大きさまで許容し、ホイルシリンダ圧がこの許容範囲内に収まった時点で増減圧制御を終了させる。上記差は、例えばある一定の減速操作において、運転者がG変動を感じないとされる程度の大きさに、車両特性に応じて個々に設定される。以上に従い、本実施例1では、上記のようにホイルシリンダ圧の目標値の入力を受けると、この目標値に応じて適当な閾値(下限α0と上限α1)を設定する。
(停止時制御)
本実施例1では、コントロールユニットCUが、車輪速センサ14等の検出値に基づき、車両が停止状態であるか否かを判断する(停止判断手段)。そして、車両が停止状態にあると判断すると、そのとき運転者のブレーキ操作に応じて設定されているホイルシリンダ圧目標値の閾値上限を、α1からα2(>α1)へ引き上げる操作を行う。この停止時閾値上限α2と通常の閾値下限α0との間の範囲が、停止時目標ホイルシリンダ圧の閾値となる。
車両停止中は、検出されるホイルシリンダ圧が上記停止時目標ホイルシリンダ圧の閾値内に収まるように、図3の制御フローに基づき後輪RL,RRのホイルシリンダ圧を制御する。そして、車両の停止状態を解除する指令が出されると、すぐに停止時閾値上限α2を元の閾値上限α1へと戻す。停止状態解除指令は、運転者のブレーキペダルBPのストローク量や、ストローク量の時間変化率に基づき、又は車両制御を行うコントロールユニットの指令信号等により検出する。
図4は、走行中に運転者がブレーキ操作を行って車両が減速し、停止した後であって、運転者がブレーキペダルBPを戻して軽く踏んだまま(通常ブレーキで)停車している場合に、上記停止時制御を実行したときのタイムチャートであり、液圧(後輪RL,RRのホイルシリンダ圧及びポンプ圧)と後輪RL,RRの第2増圧制御弁7c,7dのコイル71に通電される電流値Iの時間変化を示す。停車中、後輪RL,RRのホイルシリンダ圧を一定の目標値の閾値(α0〜α2)内に収めるべく、図4のように制御が行われる。
すなわち、車両が停止状態にあると判断すると、そのときのブレーキ操作に応じて設定されているホイルシリンダ圧目標値の閾値上限を、α1からα2へ引き上げる。時刻t1までは、ホイルシリンダ圧が閾値上限α2を上回っているため、ホイルシリンダ圧を減圧する。すなわち、モータMをオフしたまま、第2増圧制御弁7c,7dを閉じ、減圧制御弁8c,8dを開く。第2増圧制御弁7は閉弁状態であるため、電流値Iはゼロである。
ホイルシリンダ圧の減少とともに、チェック弁9と第2増圧制御弁7a〜7dとの間のブレーキ回路内に保持されている液圧、すなわちポンプ圧は、ホイルシリンダ圧よりも若干大きな値にまで、急速に減少する。これは、上記ブレーキ回路内からは第2増圧制御弁7a〜7d等を通ってブレーキ液が微かに漏れ出しているからである。また、上記ブレーキ回路が設けられている液圧ユニットHUのハウジング74は剛性が高いため、液量の変化に対する液圧の変化分は大きく、僅かなリーク量でもポンプ圧が大きく減少するからである。
よって、ポンプ圧とホイルシリンダ圧との差圧ΔPは、ポンプ圧がホイルシリンダ圧よりも若干高い値で維持されるようになるまで、減少する。したがって、仮に、この状態で第2増圧制御弁7を開弁した場合、開弁に必要な電流値Iを描くと、図4の一点鎖線のように、差圧ΔPの減少に応じて上昇する。
時刻t1で、ホイルシリンダ圧が閾値上限α2以下となり、かつ閾値下限α0以上であるため、ホイルシリンダ圧を保持する。すなわち、モータMをオフとしたまま、第2増圧制御弁7及び減圧制御弁8を閉じる。第2増圧制御弁7は閉弁状態であるため、電流値Iはゼロのままである。
ここで、機械要素で構成される弁7,8によってホイルシリンダ圧を保持することから、弁7,8の高圧側から低圧側へと微小に液が漏れ出し、ホイルシリンダ圧を長時間保つことは困難である。すなわち、ホイルシリンダ5内からは減圧制御弁8を通ってブレーキ液が微かに漏れ出しているため、ホイルシリンダ圧は徐々に減少していく。ホイルシリンダ5に接続されたブレーキ配管の剛性は、液圧ユニットHUのハウジング74よりも低いため、上記リークによるホイルシリンダ圧の減少勾配は緩やかである。また、ポンプ圧も、第2増圧制御弁7からのブレーキ液のリークにより、ホイルシリンダ圧の減少に応じて、ホイルシリンダ圧よりも若干高い値を保ったまま減少していく。以上の状態は、ホイルシリンダ圧が閾値下限α0を下回る時刻t2まで続く。ここで、閾値上限α2が高く設定されているため、緩やかに減少するホイルシリンダ圧が閾値下限α0を下回るまでの時間は長い。
時刻t2で、ホイルシリンダ圧が閾値下限α0を下回ると、ホイルシリンダ圧を増圧する。すなわち、モータMをオンとし、第2増圧制御弁7を開き、減圧制御弁8を閉じる。これにより、時刻t2以後、ホイルシリンダ圧の増圧に必要な分だけポンプ圧が上昇するとともに、第2増圧制御弁7を通って高圧のブレーキ液がホイルシリンダ5に供給され、ホイルシリンダ圧が上昇する。差圧ΔPは小さいままであるため、第2増圧制御弁7を開弁するために必要な電流値Iは大きく、時刻t2以後、急上昇する。時刻t3で、電流値Iは、小さな差圧ΔP*に応じた大きな値I*となる。
時刻t3で、ホイルシリンダ圧が閾値上限α2を上回ると、上記と同様にホイルシリンダ圧を減圧する。また、時刻t4で、ホイルシリンダ圧が閾値上限α2以下になると、上記と同様にホイルシリンダ圧を保持する。第2増圧制御弁7が閉じられる時刻t3以後、電流値Iはゼロに向けて急速に低下し、時刻t5以後、再びゼロに維持される。時刻t4以後も、時刻t1〜t4と同様の制御を行い、「保持→増圧→減圧」のサイクルを、長い周期T1で繰り返す。
(比較例と対比した本実施例1の作用効果)
図5は、停止時制御を実行しない点のみが実施例1と異なる比較例における、図4と同様のタイムチャートである。停車中、ホイルシリンダ圧を目標値の閾値(α0〜α1)内に収めるべく、図5のように制御が行われる。
すなわち、比較例では、車両が停止状態にあると判断しても、そのときの閾値上限をα1のままとする。時刻t1までは、ホイルシリンダ圧が閾値上限α1を上回っているため、ホイルシリンダ圧を減圧する。第2増圧制御弁7は閉弁状態であるため、電流値Iはゼロである。差圧ΔPは、第2増圧制御弁7等からのリークによってポンプ圧が減少し、ホイルシリンダ圧よりも若干高い値で維持されるようになるまで、減少する。よって、仮に、この状態で第2増圧制御弁7を開弁した場合に必要な電流値Iを描くと、図5の一点鎖線のように、差圧ΔPの減少に応じて上昇する。
時刻t1で、ホイルシリンダ圧が閾値上限α1以下となるため、ホイルシリンダ圧を保持する。時刻t1以後、減圧制御弁8からのリークによりホイルシリンダ圧が緩やかに減少していく。しかし、閾値上限α1が低く設定されているため、ホイルシリンダ圧が緩やかに減少したとしても閾値下限α0を下回るまでの時間は短い。時刻t2で閾値下限α0を下回ると、ホイルシリンダ圧を増圧する。よって、時刻t2以後、ポンプ圧及びホイルシリンダ圧が上昇する。差圧ΔPが小さいため、第2増圧制御弁7の開弁に必要な電流値Iは大きく、時刻t2以後に急上昇する。時刻t3で、電流値Iは小さな差圧ΔP*に応じた大きな値I*となる。
時刻t3で、ホイルシリンダ圧が閾値上限α1を上回ると、上記と同様にホイルシリンダ圧を減圧する。また、時刻t4で、ホイルシリンダ圧が閾値上限α1以下になると、上記と同様にホイルシリンダ圧を保持する。時刻t5〜t7でも、時刻t2〜t4と同様の制御を行う。以後同様に、「保持→増圧→減圧」のサイクルを短い周期T2(<T1)で繰り返す。
電流値Iに着目すると、第2増圧制御弁7が閉じられる時刻t3以後、電流値IはI*から僅かにオーバーシュートした後に低下していく。しかし、次回の増圧開始時刻t5までの時間が短いため、コイル71の電流値Iは十分に下がりきらないまま次の上昇を開始する。そして、差圧ΔPは小さい値ΔP*のままであるため、ホイルシリンダ圧が閾値(α0〜α1)内に制御される間、電流値Iは、大きな値I*近傍に維持される。
上記のように、常閉の第2増圧制御弁7のバネ力は通常よりも強く設定されているため、第2増圧制御弁7を開弁するためには、このバネ力の分だけ大きな電流が必要となる。そして、第2増圧制御弁7の上流(ポンプ側)と下流(ホイルシリンダ側)との間の差圧ΔPが小さいほど、開弁のために大きな電流が必要となる。これらの結果として、大きな電流値I*が必要となる。
ここで、液圧ユニットHUの油圧回路構成上、少なくとも後輪RL,RRでは、ホイルシリンダ圧の増圧は常にポンプPにより行われる。ポンプPによる増圧操作を行う場合、第2増圧制御弁7に通電を行って開弁し、ポンプPからホイルシリンダ5までの間の流路を形成させる。一方、機械要素で構成される弁(第2増圧制御弁7、減圧制御弁8)によりホイルシリンダ圧を保持する場合、弁(減圧制御弁8)の高圧側から低圧側へと微小に液が漏れ出すため、ポンプPによる増圧操作を行わなければ、ホイルシリンダ圧を長時間保つことは困難である。
つまり、ホイルシリンダ圧を保持する場合、ホイルシリンダ圧が目標値の閾値下限α0を下回るたびに、閾値内に収まるよう、第2増圧制御弁7及びポンプPに通電が行われる。また、弁(第2増圧制御弁7)の高圧側から低圧側へと微小に液が漏れ出すため、ホイルシリンダ圧を保持する間、ポンプ圧とホイルシリンダ圧との差圧ΔPは小さくならざるを得ない。
よって、閾値が狭いままである比較例では、差圧ΔPが小さい状態で第2増圧制御弁7を頻繁に開弁し、大きな電流I*(付近の電流)を通電し続けることになる。ここで、第2増圧制御弁7のコイル71で消費されるエネルギは、時間と電流値Iを掛け合わせた面積に相当する(図6の塗り潰し部分)。よって、大きな電流を通電し続けると、消費エネルギが大きくなってしまう(尚、ポンプPにも繰り返し通電が行われるため、消費エネルギが大きくなる。)。また、長時間ホイルシリンダ圧を保持しようとしたとき、大電流を長時間通電することになるため、コイル71の温度が過度に上昇する。よって、第2増圧制御弁7の耐久性が悪化する等のおそれがあった。
これに対し、本実施例1では、停止時制御により、停車中のホイルシリンダ圧目標値の閾値上限α2を走行中の車両に適用される閾値上限α1よりも高く設定した。このように、停車中に保持されるホイルシリンダ圧の閾値上限を増加させ、この閾値上限α2まで増圧を行うことで、第2増圧制御弁7に通電される電流値Iの時間変化を図4のようにすることができる。
すなわち、「保持→増圧→減圧」の周期T1を長くして(T1>T2)、増圧制御の頻度(第2増圧制御弁7の作動頻度)を極力少なくする。これにより第2増圧制御弁7への通電時間の合計を短くする。言い換えると保持制御の時間、すなわち第2増圧制御弁7への非通電時間を長くする。よって、図4に示すように、コイル71に通電される電流値Iがゼロになる時間が長くなり、停止時制御を実行しない場合と比べて、図7の塗り潰し部分だけ、第2増圧制御弁7で消費される余分なエネルギ(電流消費)を少なくすることができる。また、コイル71の発熱を抑制することができる。したがって、第2増圧制御弁7の耐久性及び信頼性も向上できる。
そして、車両が停止状態のときにのみこの停止時制御が実行されるため、実ホイルシリンダ圧が閾値下限α0から閾値上限α2の間で上下しても、運転者にG変動として伝わらず、違和感を与えるおそれがない。また、運転者のブレーキ操作等の停止状態解除の指示により瞬時に元の閾値上限α1へと戻されるため、停止時制御の実行が運転者に認識されることはなく、違和感を与えない。
また、停車中のホイルシリンダ圧目標値の閾値下限は、走行中の車両に適用される閾値下限と同様、目標値(運転者のブレーキ操作)に応じた値α0に設定するため、停車中、必要最低限の制動力は確保できる。
尚、停止時制御の閾値上限α2は、常開型の減圧制御弁8c,8dが保持可能な液圧であり、なおかつ(減圧制御弁8c,8dに)連続通電を行っても減圧制御弁8c,8dのコイルが過剰に発熱してしまうといったことがない液圧範囲内で決定され、第2増圧制御弁7と減圧制御弁8c,8dとの間で、消費される電流に折り合いがつく閾値が最適と考えられる。
すなわち、後輪RL,RR側の減圧制御弁8c,8dは、ホイルシリンダ圧がプランジャに対して開弁方向に作用する常開弁である。このため、通電量を増やすことで保持液圧を可変にできるものの、閾値上限α2をあまりに高く設定してしまうと、保持されるホイルシリンダ圧(減圧制御弁8c,8dで開弁方向に作用する差圧)が大きくなる。よって、減圧制御弁8c,8dを閉じておくために必要な電流値が大きくなり、この状態が長く続くと、減圧制御弁8c,8dのコイルの消費電流が過大になるおそれがある。一方、閾値上限α2をあまりに低く設定してしまうと、第2増圧制御弁7の作動頻度が高くなり、コイル71の消費電流が過大になるおそれがある。よって、閾値上限α2は、望ましくは、減圧制御弁8c,8dと第2増圧制御弁7の消費電流の合計が最小となるような値に設定する。
[実施例1の効果]
以下、本実施例1から把握される本発明のブレーキ制御装置の作用効果を列挙する。
(1)運転者のブレーキ操作に応じて演算された目標ホイルシリンダ圧(ホイルシリンダ圧目標値)になるように電磁弁(第2増圧制御弁7)を駆動するブレーキ制御装置において、車両の停止状態を判断する停止判断手段(車輪速センサ14、コントロールユニットCU)と、電磁弁(第2増圧制御弁7)を駆動するコントロールユニットCUと、を備え、電磁弁(第2増圧制御弁7)は、少なくとも液圧源(ポンプP)とホイルシリンダ5との間に設けられ、閉弁時には液圧をホイルシリンダ5内に閉じ込め、ホイルシリンダ圧が作用する方向に弁体(プランジャ76)が閉弁する常閉弁であって、コントロールユニットCUは、停止判断時に目標ホイルシリンダ圧の閾値上限を上記演算された目標ホイルシリンダ圧の閾値上限α1に対して増加させることとした(α2>α1)。
よって、第2増圧制御弁7の作動頻度を低くして、消費エネルギ(電流消費)を少なくすることができる。また、第2増圧制御弁7の発熱を抑制し、第2増圧制御弁7の耐久性及び信頼性を向上できる、という効果を有する。
(2)少なくとも液圧源(ポンプP)とホイルシリンダ5との間に設けられ、閉弁時には液圧をホイルシリンダ5内に閉じ込め、ホイルシリンダ圧が弁体(プランジャ76)に対して閉弁方向に作用する常閉の電磁弁(第2増圧制御弁7)を、運転者のブレーキ操作に応じて演算された目標ホイルシリンダ圧になるように駆動するブレーキ制御装置において、ホイルシリンダ圧が目標ホイルシリンダ圧の閾値下限α0を下回ると電磁弁(第2増圧制御弁7)を開弁駆動するコントロールユニットCUを備え、コントロールユニットCUは、車両が停止しているときは目標ホイルシリンダ圧の閾値上限α1よりも高い閾値上限α2を設定し、この高い閾値上限α2を有する停止時目標ホイルシリンダ圧に基づきホイルシリンダ圧を制御することとした。
よって、上記(1)と同様の効果を得ることができるとともに、停車中、閾値下限α0が十分な大きさに設定されているため、必要最低限の制動力を確保できる、という効果を有する。
(3)コントロールユニットCUは、車両が停止してから所定時間後には、目標ホイルシリンダ圧の閾値上限α1よりも高い閾値上限α2を設定し、この高い閾値上限α2を有する停止時目標ホイルシリンダ圧に基づきホイルシリンダ圧を制御し、運転者の発進意思を検出したときは停止時目標ホイルシリンダ圧に基づくホイルシリンダ圧制御を中止することとした。
すなわち、本実施例1では、車両が停止状態にあると判断すると直ちに閾値上限をα2へ引き上げることとしたが、所定時間経過してから(停止状態を再度確認して)閾値上限を引き上げることとしてもよい。これにより、運転者の停止意思が確実な場合にのみ停止時制御を実行し、無駄な制御を省くことができる。また、発進意思を検出したときは停止時制御を直ちに中止することで、運転者に違和感を与えるおそれがない、という効果を有する。
(4)コントロールユニットCUは、停止判断時には、上記演算された目標ホイルシリンダ圧に基づく制御を中止し、電磁弁(第2増圧制御弁7)への通電も中止することとした。
すなわち、目標ホイルシリンダ圧の閾値上限を上記演算された目標ホイルシリンダ圧の閾値上限α1に対して増加させれば、電磁弁(第2増圧制御弁7)への通電の頻度が減る。これは、上記演算された目標ホイルシリンダ圧に基づく制御を中止し、電磁弁(第2増圧制御弁7)への通電を中止することと実質的に同義となる(図4参照)。よって、上記(1)と同様の効果を有する。
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、実施例1では、本停止時制御を、液圧ユニットHUの第2増圧制御弁7について適用することとしたが、少なくとも液圧源とホイルシリンダとの間に設けられ、閉弁時には液圧をホイルシリンダ内に閉じ込め、ホイルシリンダ圧が作用する方向に弁体が閉弁する常閉弁であれば適用することができ、液圧ユニットHUとは異なる油圧回路構成を有するブレーキ制御装置に停止時制御を適用することとしてもよい。
実施例1では、液圧源としてポンプを用いたが、他の液圧源、例えばアキュムレータや、電動式ないし油圧式の倍力装置等を用いてもよい。例えば液圧源としてのアキュムレータの下流に切換弁を設け、この切換弁の開閉を介して(さらに下流の)常閉弁およびホイルシリンダに任意の液圧を供給するような油圧回路構成では、差圧が小さい状態で常閉弁を頻繁に開制御する場面を想定できる。
また、実施例1では、常閉の第2増圧制御弁7として、制御性や静粛性等に優れた比例制御弁を用いたが、弁体の位置が2位置に制御される簡便なオン・オフ弁を用い、これをデューティ制御することとしてもよい。また、ポペット式以外の形式の制御弁を用いてもよい。