JP2009246242A - ペロブスカイト構造酸化物の製造方法 - Google Patents

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哲男 土屋
Yuki Miyamoto
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Abstract

【課題】 金属層と酸化物層の間に中間層を設けることなく、(111)面に高い配向性を有しかつ信頼性の高いペロブスカイト構造酸化物層を形成すること。
【解決手段】 金属層14上に、AサイトにBa、BサイトにTiを含むABO型ペロブススカイト構造酸化物の前駆体層20Aを形成する工程と、酸化物の前駆体層20Aを加熱して酸化物層20Bを形成する工程と、酸化物層20Bに対して、前記酸化物が結晶化しない照射条件で、レーザ光を照射する工程と、レーザ光が照射された層を加熱して結晶化させる工程と、を備える酸化物層の製造方法。
【選択図】 図3

Description

ペロブスカイト構造酸化物の製造方法に関する。
結晶配向度の方位や、その配向度によって電気特性が左右される酸化物として、AサイトにBa、BサイトにTiを含むABO型ペロブススカイト構造酸化物などが知られている。このような酸化物としては、例えば、BaTiO、(Ba,Sr)TiO(以下、BT、BSTという)等が例示できる。そして、電子デバイスの製造等においては、電極層上にBa及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物層を形成することが求められている。
しかし、電極としてPtを用いる場合、Pt上に、配向性を有するBT層やBST層を形成することは難しいため、例えば、配向性を有するPt上に、LaNiOのような金属酸化物の中間層を設けることが検討されている(非特許文献1参照)。
また、特許文献1では、(111)結晶面を有する金属層上に形成した酸化物層をレーザアニーリングして結晶化し、(100)面に優先配向する金属酸化物層を形成することが試みられている。
さらに、特許文献2では、ゲル状態の複合金属酸化物の前駆体層を500〜600℃で熱処理することによって、前駆体に含まれる有機物の分解・除去と、酸化物層の結晶化とを同時に行って、(111)面に優先配向するBST膜の形成を試みている。
Appl.Phys.Lett. 81(2002)5012 特開2008−028381号公報 特許第3007795号公報
しかしながら、BT及びBST等のペロブスカイト構造を有する酸化物層の配向性を向上させるために、非特許文献1のように基板と酸化物層との間に中間層を設けることは、コストの面で好ましくない。LaNiOのような導電性酸化物であっても、金属よりも低い導電性であるため、十分な電気特性が得られないことが想定される。
また、特許文献1のように金属酸化物層をレーザアニーリングによって結晶化させても、酸化物層の結晶面が配向する方位を、(111)面に優先配向させることが困難である。
さらに、特許文献2のように、酸化物層の前駆体を、一定の温度で熱処理し、分解及び結晶化を同時に行うと、前駆体中の有機物の分解工程が十分に完了できないため、酸化物層に炭素等の不純物が残存する可能性が高くなる。そして、BT、BST等の優れた誘電特性を有する酸化物層に炭素等の不純物が残留すると、酸化物層の誘電特性が低下する傾向にあり信頼性が十分でない。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、金属層と酸化物層の間に中間層を設けることなく、(111)面に高い配向性を有し、かつ信頼性の高いペロブスカイト構造酸化物層を形成することを目的とする。
本発明者等が検討したところ、前駆体の分解後、結晶化する前に、酸化物を結晶化しない条件で酸化物にレーザを照射することにより、結晶化後の酸化物の結晶性が極めて向上することを見出して本発明に想到した。
本発明に係る酸化物の製造方法は、金属層上に、AサイトにBa、BサイトにTiを含むABO型ペロブススカイト構造酸化物の前駆体層を形成する工程と、酸化物の前駆体層を加熱して酸化物層を形成する工程と、酸化物層に対して、酸化物が結晶化しない照射条件でレーザ光を照射する工程と、レーザ光が照射された層を加熱して結晶化させる工程と、を備える。
本発明によれば、酸化物の前駆体層を加熱して得られるアモルファス状態の酸化物層に対して、酸化物が結晶化しない照射条件でレーザ光が照射される。そして、その後に、レーザ光が照射された層を加熱して酸化物層を結晶化させることにより、金属層上に極めて高い配向性を有する酸化物層が形成される。
このような効果が得られる理由は明らかではないが、本発明者等は以下のように考えている。酸化物の前駆体を加熱し分解することにより形成された酸化物層は、アモルファス状態である。そして、本実施形態では、この酸化物層に対して結晶化が起こらない条件でレーザ光を照射している。結晶化が起こらない条件でレーザ光が照射されると、酸化物層の原子配列の状態は、その後の結晶化工程での、配向性の高い結晶化により適した状態、具体的には、レーザ光照射前よりも一層不規則性の高いアモルファス状態となっていると考えられる。そして、より一層不規則性の高い状態とされた酸化物層を、その後の加熱により結晶化するので、最終的に得られる酸化物の配向性が極めて高くなるものと考えられる。
さらに、本発明によれば、酸化物層を形成する工程と、結晶化させる工程とが分離されているので、結晶化前に分解を十分に行うことができ、不純物の含有も少なくすることができる。したがって、酸化物層の信頼性も高くなる。
ここで、レーザ光は、紫外線パルスレーザ光であり、紫外線パルスレーザ光の照射条件は、照射するレーザ光の総パルス数をXとし、1パルスあたりのエネルギーをY(J/cm)としたとき、
1≦X≦1170、かつ、60≦Y≦−0.0403X+165を満たす、又は、
1170≦X≦6000、かつ、60≦Y≦−0.0100X+130を満たすことが好ましい。
このような条件を満たす範囲でレーザ光照射を行うと、レーザ光照射後の酸化物層を容易にアモルファス状態に維持しつつ、その後の配向性の高い結晶化により適した状態に変化させることができると考えられる。
また、酸化物の前駆体層を加熱する温度が、酸化物の前駆体の分解温度以上であることが好ましい。
酸化物の前駆体層を加熱する温度を、酸化物の前駆体の分解温度以上に設定すると、酸化物層の前駆体層は十分に分解され、酸化物層中に、不純物が残留し難くなる。したがって、例えば、誘電率の低下等を防止でき、本発明により得られる誘電体は、その特性を十分に発揮することができる。なお、分解温度は、示差走査熱分析による発熱ピークがみられる温度である。
本発明によれば、金属層と酸化物層との間に中間層がなくても、(111)面に高い配向性を有し、かつ信頼性の高いペロブスカイト構造酸化物層を形成することができる。
以下に、図1〜5を参照しつつ、本実施形態に係る、AサイトにBa、BサイトにTiを含むABO型ペロブスカイト構造酸化物層の製造方法について具体的に説明する。ただし、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態は、金属層上に、Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体層を形成する「前駆体層形成工程」と、Ba及びTiを含む酸化物の前駆体層を加熱により分解してBa及びTiを含む酸化物層を形成する「酸化物層形成工程」と、Ba及びTiを含む酸化物層に対して酸化物が結晶化しないレーザ光の照射条件で、レーザ光を照射する「レーザ光照射工程」と、レーザ光が照射された層を加熱して結晶化させる「結晶化工程」と、を備える。以下、順に説明する。
(基板)
まず、金属層14を表面に有する基板10を用意する。基板10としては、例えば下地層のない金属14の単層でもよいが、金属層の結晶配向性を確保すべく、下地基材15の表面に金属層14が形成された多層構造であることが好ましい。金属層14としては、例えば、Ag,Al,Au,Cr,Cu,Ir,Ni,Pt,Ta,Ti等の金属層及びそれらの合金層が挙げられる。
下地基材15は特に限定されないが、例えば、Si,GaAs,GaP,InP,SiC等の半導体基板、SiO,Al,MgO,SrTiO等の酸化物基板、Cu,Ni,Fe等の金属基板、又はそれらを主とする合金、LTCC(Low Temperature Co−fired Ceramics)、アルミナ等のセラミックス基板、ガラスエポキシ樹脂基板(例えば、FR4)等の有機基板、PETフィルム等が挙げられる。
また、このような基板に、MgO,ITO,ZnO,SnO等の金属酸化物層、Au,Pt,Ag,Ir,Ru,Co,Ni,Fe,Cr,Al等の金属層等の下地層を1層
又は複数層形成した下地基材15も使用できる。これらの下地基材は、基板自体の酸化や、スパッタ法等により容易に形成できる。
具体的には、基板10としては、例えば、図1に示すように、Si等の半導体基板11上に、バッファ層として、SiO等の金属酸化物膜12、及び、TiO等の金属酸化物層13を積層したものが好ましい。SiO層は、Si基板を酸化性雰囲気中で高温にすることにより形成できる。また、TiO層はスパッタ等により形成できる。
続いて、基板10の表面に、金属層14を形成する。例えば、TiO/SiO/Siとされた基板10のTiO層の表面に、スパッタ法等により、0.01〜30μm程度のPt,Ni,Cu等の金属層を形成すると、表面が(111)結晶面に配向した金属層14を容易に得ることができて好ましい。ただし、金属層14の表面は、(111)結晶面に優先配向していなくても本発明の実施は可能である。
(前駆体層の形成工程)
続いて、基板10の表面の金属層14上に、Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体層20Aを、いわゆる化学溶液法によって形成する。化学溶液法では、金属アルコキシド、有機酸金属塩や無機金属塩等を含む溶液、すなわちBa及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体の原料となる金属化合物を含む溶液を、例えば、スピンコート法等によって金属層14上に塗布し、例えば100℃以下のオーブン等により乾燥して溶媒を蒸発させ、Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体層20Aを形成する。
前駆体の原料となる金属化合物としては、金属アルコキシド(例えば、Ti(OC、Ba(OC、Zr(OC、Sr(OC等)、有機酸金属塩(例えば、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸ジルコニル、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム等、ラウリン酸塩、アセチルアセトナート等)等が挙げられ、無機金属塩としては、金属硝酸塩(例えば、Ba(NO)、Sr(NO))、金属酢酸塩(例えば、Ba(CHCOO)・HO)、金属炭酸塩(例えば、BaCO、SrCO)等が挙げられる。なお、前駆体の原料となる金属化合物として、これらの塩を用いる場合には、後工程である「酸化物層形成工程」における前駆体層の加熱条件は、本工程で用いる前駆体の原料となる金属化合物を原料液として調整したものの分解温度以上であることが好ましい。
これらの各金属化合物を、溶媒に混合して溶液を形成し、形成したいBa及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の組成に応じて各溶液を混合し、その混合溶液を金属層上に塗布すればよい。溶媒としては、エタノール、メタノール等のアルコール、トルエン、キシレン等が挙げられる。そして、金属層上に塗布した混合溶液を乾燥させ、必要に応じて加水分解や縮合等を行わせることにより、前駆体層を形成する。Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物としては、BaTiO,BaSr1−xTiO,BaZrTi1−x,BaHfTi1−x,BaCa1−xTiOなどが挙げられるが、特に、Ba及びTiを含む金属化合物を用い、BaTiO、又は、BaSr1−xTiOを形成することが好ましい。
(酸化物層形成工程)
続いて、Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体層20Aを加熱により分解してBa及びTiを含む酸化物層を形成する。
Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体層20Aを加熱する温度は、特に限定されないが、この酸化物の前駆体の分解温度以上であることが好ましい。酸化物の前駆体の分解温度以上であれば、前駆体を酸化物に容易に分解させることができ、酸化物層中の炭素等の不純物の残留量を極めて低減できる。具体的には、この酸化物層形成工程は、炉内で前駆体層を加熱することにより行えばよく、例えば、図2に示すように、加熱炉としての加熱ステージ110上に基板10、及び、Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体層20Aを載置し、Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体層20Aを、酸化物の前駆体の分解温度以上に保持すればよい。雰囲気は特に限定されず、還元雰囲気、不活性雰囲気、酸化雰囲気のいずれであってもよいが、大気等の酸素含有雰囲気下で行うことが好ましい。分解温度以上に維持する時間は、1〜60分とすることが好ましい。
Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体の分解温度は、形成したいBa及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体の構造によって異なるが、示差走査熱量測定(DSC)によって観測される1つの吸熱ピークとして測定できる。例えば、Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体層20Aが、Ba又はTiをそれぞれ含有する金属アルコキシドから形成されたものである場合には、この前駆体の分解温度は概ね350℃〜400℃であるので、Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体層を加熱する温度が、350℃〜450℃であることが好ましい。
酸化物層形成工程において形成されたBa及びTiを含む酸化物層20Bは、アモルファス状態である。
なお、本工程の加熱方法は、酸化物の前駆体層を酸化物の前駆体の分解温度以上に加熱できれば、上述したように、酸化物の前駆体層を加熱炉等の加熱装置を用いて加熱することに限定されない。例えば、波長100〜500nmの紫外線パルスレーザを用いて加熱することも可能である。
(レーザ光照射工程)
続いて、上記工程を経て形成した、Ba及びTiを含む酸化物層20Bに対して、図3に示すように、レーザ光の照射を行う。レーザ光としては、紫外線パルスレーザ光が好ましい。紫外線パルスレーザ光の波長は、例えば、100〜500nm、好ましくは、100〜400nmである。具体的には、紫外線パルスレーザ光として、ArF(193nm)、XeCl(308nm)、KrF(248nm)等を媒質として用いるエキシマレーザ光を用いることが好ましい。
レーザ光照射工程では、Ba及びTiを含む酸化物層20Bが結晶化しない照射条件でレーザ光を照射することが必要である。Ba及びTiを含む酸化物層20Bが結晶化しない照射条件とは、レーザ光の照射によってBa及びTiを含む酸化物層20Bにエネルギーを与えてもBa及びTiを含む酸化物のXRD回折パターンにおいて、結晶面のピークが観察されない条件である。レーザ光により酸化物層に与えるエネルギーが強すぎると結晶化が進んでしまいアモルファス状態でなくなり結晶化状態となってしまう。この場合、次の結晶化工程を行っても、(111)面の十分な配向性が得られない。
紫外線パルスレーザを用いる場合、紫外線パルスレーザ光の1パルスあたりのエネルギー(照射フルエンス)Y、及び、照射するパルスレーザ光の総パルス数Xの組合せを適宜調整することにより、Ba及びTiを含む酸化物層20Bが結晶化しない照射条件を定めることができる。
このような紫外線パルスレーザ光の照射条件を、具体的に、図4を参照しながら説明する。図4は、照射する紫外線パルスレーザ光の1パルスあたりのエネルギーY(縦軸)と総パルス数X(横軸)との組合せを変化させて、照射直前の温度を100℃に保持した、90nmの酸化物(チタン酸バリウム)層20Bにレーザ光(KrFパルスレーザ、パルス周波数30Hz、1パルスの時間20ns)を照射し、照射後のBa及びTiを含む酸化物層が、アモルファス状態、微結晶状態、及び結晶状態のいずれであったかを示したグラフである。図4中の、丸印は、照射後も酸化物層がアモルファス状態であったことを示し、三角印は照射後のBa及びTiを含む酸化物層が微結晶化状態であったことを示し、X印は照射後のBa及びTiを含む酸化物層が結晶化していたことを示している。アモルファス状態とは、XRD回折パターンにおいて、結晶面のピークが観察されない状態のことであり、結晶化状態とは、XRD回折パターンにおいて、結晶面のピークが明確に観察される状態のことであり、微結晶化状態とは、XRD回折パターンにおいて回折線のピーク高さがはっきりと確認されるほどではないが、ノイズレベルよりもやや上回った状態である。
図4において、直線A以下の領域及び直線B以下の領域では、Ba及びTiを含む酸化物層を結晶化することなくレーザ光の照射ができる。すなわち、照射フルエンスYが大きいほど総パルス数Xは小さくする必要があり、照射フルエンスYが小さいほど総パルス数Xを大きくする必要がある。
ここで、直線Aは、Y(mJ/cm)=−0.0403X+165である。また、直線Bは、Y(mJ/cm)=−0.0100X+130である。直線Aと直線Bとの交点Cは、(X=1170,Y(mJ/cm)=118)である。
したがって、Ba及びTiを含む酸化物層に紫外線パルスレーザ光の照射を行うには、総パルス数Xが1≦X≦1170、かつ、照射フルエンスY(J/cm)が60≦Y≦−0.0403X+165を満たす、又は、層パルス数Xが1170≦X≦6000、かつ、照射フルエンスY(J/cm)が60≦Y≦−0.0100X+130を満たすことが好ましい。
なお、このレーザ光照射工程におけるレーザ光の照射条件は、照射するレーザ光のパルス周波数(1秒間に照射するパルスの数)には殆ど依存せず、周波数については特に限定はない。通常紫外線パルスレーザ光を使用する程度の周波数である、1〜400Hzとすればよい。なお、1パルスの照射時間も特に限定されず、例えば、1〜100nsとすることができる。
レーザ光の照射直前の、Ba及びTiを含む酸化物層20Bの温度も特に限定されないが、0〜400℃に維持することが好ましい。所定の温度に維持するには、具体的には、例えば、図3のような装置を用いればよい。すなわち、加熱ステージ110上に基板10、及び、Ba及びTiを含む酸化物層20Bを載置し、Ba及びTiを含む酸化物層20Bを0〜400℃に維持しつつ、このBa及びTiを含む酸化物層20Bに対してレーザ光源200からレーザ光を照射すればよい。
レーザ光照射工程における雰囲気は特に限定されず、還元雰囲気、不活性雰囲気、酸化雰囲気のいずれであってもよいが、酸素原子の不足による誘電損失の増大等の酸化物層の電気特性への影響を抑制すべく、酸化雰囲気で行うことが好ましく、大気等の酸素を含有する雰囲気で行うこともできる。
(結晶化工程)
続いて、レーザ光照射後のBa及びTiを含む酸化物層20Bを、加熱により結晶化させる。具体的には、加熱装置としての電気炉210の炉内でBa及びTiを含む酸化物層20Bを加熱することにより行えばよい。電気炉210は、加熱用のヒータ212が備えられた断熱性の壁211によって周囲が囲まれている。例えば、図5に示すように、加熱装置としての電気炉210内に、加熱対象物を置くための載置台214を用意し、その上に基板10、及び、上記条件の範囲内でのレーザ光照射後のBa及びTiを含む酸化物層20Bを載せ、このBa及びTiを含む酸化物層20Bを例えば、700℃に10分間保持し、加熱すればよい。加熱条件は、好ましくは、600〜1000℃において、1〜100分間であり、さらに好ましくは650〜900℃において、1〜40分間である。これにより、上記条件の範囲内でのレーザ光照射後のBa及びTiを含む酸化物層20Bの結晶化が行われ、極めて配向性の高い状態となったBa及びTiを含むペロブススカイト構造酸化物層20Cが得られる。
酸化物形成工程における雰囲気は特に限定されず、還元雰囲気、不活性雰囲気、酸化雰囲気のいずれであってもよいが、酸素原子の不足による誘電損失の増大等の酸化物層の電気特性への影響を抑制すべく、酸化雰囲気で行うことが好ましく、大気等の酸素を含有する雰囲気で行うこともできる。
なお、上述のようなBa及びTiを含むペロブススカイト構造酸化物の前駆体層20Aの形成工程と、Ba及びTiを含む酸化物層20Bの形成工程と、この酸化物層20Bに結晶化しない程度の条件でパルスレーザ光を照射する工程と、レーザ光照射後のBa及びTiを含む酸化物層20Bを結晶化させて(111)面に高い配向性を有するBa及びTiを含むペロブススカイト構造酸化物20Cを形成する工程と、を含む一連の工程を複数回繰り返すことにより、図6に示すように高い配向性を有するBa及びTiを含むペロブススカイト構造酸化物層20Cを多数積層して比較的厚みのある酸化物層20Dを形成してもよい。
なお、本工程の加熱方法は、Ba及びTiを含む酸化物層を結晶化できるのであれば、上述したように、酸化物層を加熱炉等の装置を用いて加熱することに限定されない。例えば、波長100〜500nmの紫外線パルスレーザを用いて加熱することも可能である
本実施形態によれば、Ba及びTiを含むペロブススカイト構造酸化物の前駆体層20Aを加熱し分解することにより形成されたBa及びTiを含む酸化物層20Bに対して、結晶化が行われない照射条件でレーザ光を照射し、その後、Ba及びTiを含む酸化物層20Bを加熱して結晶化している。これにより、金属層上にバッファ層を形成することなくBa及びTiを含むペロブススカイト構造酸化物層20Cを形成できる。特に、(111)面に十分に優先配向したBST層や、BT層の形成が可能である。
このような効果が得られる理由は明らかではないが、本発明者等は以下のように考えている。酸化物の前駆体を加熱し分解することにより形成されたBa及びTiを含む酸化物層20Bは、アモルファス状態である。そして、本実施形態では、この酸化物層20Bに対して結晶化が起こらない条件でレーザ光を照射している。結晶化が起こらない条件でレーザ光が照射されると、Ba及びTiを含む酸化物層20Bの原子配列の状態は、その後の結晶化工程での配向性の高い結晶化により適した状態、具体的には、レーザ光照射前よりも一層不規則性の高いアモルファス状態となっていると考えられる。そして、より一層不規則性の高いアモルファス状態とされたBa及びTiを含む酸化物層20Bを、その後の加熱により結晶化するので、最終的に得られるBa及びTiを含むペロブススカイト構造酸化物層20Cは高い配向性を有するものと考えられる。
上述のような製造方法によって得られたBa及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の結晶化層20C及び20Dは、高い配向性を有するので、例えば、薄膜コンデンサ素子等に好適に用いることができる。特に、このようなBa及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物層20Dの上にさらにCu層等の導体層を形成し、Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物層20Dを一対のCu層(電極層)14で挟んだ構造の積層体を有する電子デバイスは、薄膜コンデンサに限られず、FeRAM、チューナブルフィルタ等のデバイスにも使用可能である。
次に、具体的な実施例を示し更に詳細に本願発明について説明する。なお、本願発明は
以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
表面に熱酸化層が500nm形成された多結晶のSi基板上にスパッタ法によりTiO層を20nm形成し、さらに、TiO層上にスパッタ法により金属層としてPt層を200nm形成することにより、表面に金属層を有する基板を作成した。金属層であるPt層の表面は(111)結晶面に配向していた。
続いて、チタン及びバリウムをそれぞれ含有し、BT相当にして7wt%含むチタン酸バリウム層形成用の原料溶液(三菱マテリアル社製BST薄膜形成剤)を、スピンコータ(3000rpm、15sec)でPt層上に塗布し、ホットプレート上で150℃10分間乾燥させ、チタン酸バリウムの前駆体層を形成した。本前駆体層の分解温度は、395℃付近であるため、チタン酸バリウムの前駆体層を、ホットプレートで400℃10分間加熱を行って、Pt層上にアモルファスのチタン及びバリウムを含む酸化物層(厚さ約90nm)を形成した。
続いて、ホットプレート上で酸化物層を大気雰囲気下で100℃に維持しながら、KrFパルスレーザ光源から、1パルスあたりの照射エネルギーが70mJ/cm、1パルスあたりの照射時間が20ns、総パルス数が200、パルス周波数(1秒間に照射されるパルスの数)が30Hzとなるように紫外線パルスレーザ光を各場所に照射した。チタン及びバリウムを含む酸化物層はアモルファスのままであった。その後、チタン酸バリウム層を電気炉で700℃10分間加熱を行い、その後常温に戻した。この結果、Pt層上に、(111)面に高い配向性を有する結晶質のチタン酸バリウム層(厚さ約45nm)が形成された。XRD回折パターンを図7に示す。
(比較例1)
酸化物層にレーザ光照射を行わないこと以外は実施例1と同様にして、Pt層上に、チタン酸バリウム層(厚さ約45nm)を形成した。高い配向性を有するチタン酸バリウム層は得られなかった。
図1は、本発明の実施形態に係るBa及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物層の製造方法を説明するための概略断面図である 図2は、本発明の実施形態に係るBa及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物層の製造方法を説明するための図1に続く概略断面図である。 図3は、本発明の実施形態に係るBa及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物層の製造方法を説明するための図2に続く概略断面図である。 図4は、本発明の実施形態に係る好適なレーザ光の照射条件を示すグラフである。 図5は、本発明の実施形態に係るBa及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物層の製造方法を説明するための図3に続く概略断面図である。 図6は、本発明の実施形態に係るBa及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物層の製造方法を説明するための図5に続く概略断面図である。 基板及び(111)面に配向性を有するPt層上に形成されたチタン酸バリウム層(実施例1及び比較例1)のXRD回折パターン。
符号の説明
10…基板、20A…Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の前駆体層、20B…Ba及びTiを含む酸化物層、20C…Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物層、15…下地基材、210…電気炉、211…断熱壁、212…ヒータ、214…載置台。

Claims (3)

  1. 金属層上に、AサイトにBa、BサイトにTiを含むABO型ペロブススカイト構造酸化物の前駆体層を形成する工程と、
    前記酸化物の前駆体層を加熱して酸化物層を形成する工程と、
    前記酸化物層に対して、前記酸化物が結晶化しない照射条件でレーザ光を照射する工程と、
    前記レーザ光が照射された層を加熱して結晶化させる工程と、を備えるペロブスカイト構造酸化物の製造方法。
  2. 前記レーザ光は、紫外線パルスレーザ光であり、
    前記酸化物が結晶化しない照射条件は、照射する紫外線パルスレーザ光の総パルス数をXとし、1パルスあたりのエネルギーをY(J/cm)としたとき、
    1≦X≦1170、かつ、60≦Y≦−0.0403X+165を満たす、又は、
    1170≦X≦6000、かつ、60≦Y≦−0.0100X+130を満たす請求項1記載のペロブスカイト構造酸化物の製造方法。
  3. 前記酸化物の前駆体層を加熱する温度が、前記酸化物の前駆体の分解温度以上である請求項1又は2記載のペロブスカイト構造酸化物の製造方法。
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