JP2009242343A - 重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】操作が簡便であり、環境への負荷が小さく、イミダゾール環骨格上のアルキル基を高効率で重水素化できる、重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】重水の存在下、下記一般式(I)で表される化合物を加熱することを特徴とする重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法。加熱はマイクロ波照射により行うのが好ましく、さらに塩基共存下で加熱を行うのが好ましい。[式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基であり;Rは炭素数1〜3のアルキル基であり;Eは電子吸引性基である。]
[化1]
Figure 2009242343

【選択図】なし

Description

本発明は、重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法に関する。より具体的には、イミダゾール誘導体に重水素原子を結合させることで、重水素化されたイミダゾール誘導体を製造する方法に関する。
従来から重水素化化合物は、質量分析等、化学物質の微量分析における内部標準物質として利用されており、様々な重水素化化合物が得られれば、分析分野における大きな技術発展が可能になると期待されている。例えば、重水素化化合物を生体に投与することで、薬物動態の解析が可能となるため、創薬技術や医療技術の向上が見込まれる。また、身近な問題として、食品中の残留農薬の検出に関する問題がある。日本では、2006年5月29日に残留農薬基準法(所謂ポジティブリスト制度)が施行されており、今後、食品の安全管理がますます重要な課題となる。したがって、残留農薬の定量にも、内部標準物質として様々な重水素化化合物の利用が見込まれる。
このような背景から、所望の重水素化化合物を簡便かつ安価に製造できる技術の開発が望まれている。
上記のような医薬や農薬の分野で解析対象となる化学物質は、生体内での化学反応に関与するという性質上、イミダゾール環等の複素環を有するものが多いのが特徴である。したがって、複素環を有する化合物を重水素化する技術の確立は、とりわけ重要である。
従来、複素環を有する化合物を重水素化する方法としては、例えば、重水素化された溶媒中で、活性化された金属触媒存在下、複素環を有する化合物を密封状態で加熱還流する方法が開示されている(特許文献1参照)。
国際公開第2004/046066号パンフレット
しかし、特許文献1に記載の方法は、反応開始前に金属触媒を水素ガス又は重水素ガスに接触させて活性化させたり、反応容器内の気相部分を水素ガス又は重水素ガスで置換したり、あるいは反応液中で水素ガス又は重水素ガスをバブリングさせたりする必要があるなど、操作が煩雑であるという問題点があった。また、金属触媒の使用が必須であり、環境への負荷が大きいという問題点があった。さらに、例えば、複素環骨格上の置換基としてアルキル基を有するイミダゾール誘導体を原料として使用した場合、該アルキル基を重水素化することが困難であり、得られる化合物の種類が限られ、汎用性が低いという問題点があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、操作が簡便であり、環境への負荷が小さく、イミダゾール環骨格上のアルキル基を高効率で重水素化できる、重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、重水の存在下、下記一般式(I)で表される化合物を加熱することを特徴とする重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法である。
Figure 2009242343
[式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基であり;Rは炭素数1〜3のアルキル基であり;Eは電子吸引性基である。]
請求項2に記載の発明は、マイクロ波照射により加熱することを特徴とする請求項1に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法である。
請求項3に記載の発明は、さらに塩基共存下で、前記一般式(I)で表される化合物を加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法である。
請求項4に記載の発明は、重水の存在下、塩基を共存させずに加熱を行い、次いで塩基を共存させて加熱を行うことを特徴とする請求項3に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法である。
請求項5に記載の発明は、前記塩基が無機塩基であることを特徴とする請求項3又は4に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法である。
請求項6に記載の発明は、前記一般式(I)で表される化合物の量に対して0.3〜0.7倍モル量の前記塩基を共存させることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法である。
請求項7に記載の発明は、前記Rのアルキル基とイミダゾール環の4位の炭素原子とのいずれか一方又は両方のみを重水素化する請求項1〜6のいずれか一項に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法である。
請求項8に記載の発明は、反応系内における重水素及び水素の総量に占める重水素量の割合を、化合物の目標重水素化率と同等以上とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法である。
本発明によれば、簡便な操作で環境へ負荷をかけることなく、重水素化されたイミダゾール誘導体を製造できる。また、イミダゾール環骨格上のアルキル基を効率的に重水素化できる。
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明においては、重水の存在下、下記一般式(I)で表される化合物(以下、原料化合物(I)と略記することがある)を加熱することにより、重水素化されたイミダゾール誘導体を得る。
Figure 2009242343
[式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基であり;Rは炭素数1〜3のアルキル基であり;Eは電子吸引性基である。]
本発明において重水素化とは、原料化合物(I)に重水素原子を結合させることを指す。ここでいう「重水素原子」とは、ジュウテリウム(D,H)又はトリチウム(T,H)のことを指し、「重水素化」とは、ジュウテリウム化又はトリチウム化のことを指す。また、「結合」とは、共有結合等の化学結合を意味する。具体例としては、例えば、原料化合物(I)の4位の炭素原子に結合している水素原子を重水素原子で置換したり、Rのアルキル基の水素原子を重水素原子で置換することを指す。
結合させる重水素原子の数は、重水の使用量で調整でき、原料化合物(I)の種類や、目標とする目的物の重水素化率に応じて適宜調整すれば良い。本発明では、原料化合物(I)
において、R及びEの重水素化は、これらが交換性のプロトンを有していなければ、ほぼ無視できる割合でしか起こらない。ここで、交換性のプロトンとしては、水酸基やカルボキシ基の水素原子等が例示できる。また、たとえR又はEが交換性のプロトンを有していても、原料化合物(I)の重水素化反応に及ぼす影響は無視できるほど軽微である。そこで本発明においては、原料化合物(I)における、重水素原子で置換され得る水素原子とは、特にRのアルキル基の水素原子と、イミダゾール環の4位の炭素原子に結合している水素原子であるとみなし、前記重水素化率とは、これら重水素原子で置換され得る水素原子の総数に対する、これら水素原子のうち重水素原子で置換された水素原子の数の割合(%)を指すものとする。
(原料化合物(I))
前記一般式(I)中、Rは炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基である。
において、炭素数1〜3のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びイソプロピル基が例示できる。なかでも、メチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
において、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基は、前記アルキル基の少なくとも一つの水素原子が水酸基で置換されたものである。
該ヒドロキシアルキル基の水酸基の数は1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。水酸基が複数の場合、これら水酸基は、すべてが該ヒドロキシアルキル基中の同じ炭素原子に結合していても良いし、一部が異なる炭素原子に結合していても良いし、すべてが異なる炭素原子に結合していても良い。
該ヒドロキシアルキル基は、ヒドロキシエチル基であることが特に好ましい。
前記一般式(I)中、Rは炭素数1〜3のアルキル基であり、Rにおけるアルキル基と同様である。なかでも、メチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
前記一般式(I)中、Eは電子吸引性基である。ここで電子吸引性基とは、電子吸引性を有する基又は原子のことを指し、電荷を帯びたものでも良く、このようなものであれば、特に限定されない。
該電子吸引性基として、具体的には、ニトロ基(−NO)、水酸基(−OH)、メルカプト基(−SH)、シアノ基(−CN)、アルコキシ基(−OR)、カルボキシ基(−COOH)、一般式「−SR」で表される基(Rはアルキル基、アラルキル基又はアルケニル基を表す)、一般式「−C(=O)−OR」で表される基(Rはアルキル基、アラルキル基又はアルケニル基を表す)、一般式「−C(=O)−R」で表される基(Rはアルキル基、アラルキル基又はアルケニル基を表す)、一般式「−S(=O)−R」で表される基(Rはアルキル基、アラルキル基又はアルケニル基を表す)、エチニル基(−C≡CH)、フェニル基(−C)、一般式「−N 」で表される基(Rはアルキル基、アラルキル基又はアルケニル基を表す)、一般式「−S 」で表される基(Rはアルキル基、アラルキル基又はアルケニル基を表す)、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が例示できる。
上記で例示した電子吸引性基のうち、アルコキシ基(−OR)における「R」はアルキル基である。
該アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良い。直鎖状及び分岐鎖状のアルキル基は、炭素数が1〜5であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基が例示できる。環状のアルキル基は、単環式及び多環式のいずれでも良く、炭素数が5〜10であることが好ましく、炭素数が5〜7であることがより好ましい。
また、上記で例示した電子吸引性基のうち、一般式「−SR」、「−C(=O)−OR」、「−C(=O)−R」、「−S(=O)−R」、「−N 」又は「−S 」で表される基における「R」は、それぞれ独立にアルキル基、アラルキル基又はアルケニル基である。
としてのアルキル基は、前記Rとしてのアルキル基と同様である。
としてのアラルキル基は、前記Rとしてのアルキル基の一つ以上の水素原子がアリール基で置換されたものが例示でき、ここで置換されるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基が例示できる。
としてのアルケニル基は、前記Rとしてのアルキル基(ただし、メチル基を除く)のいずれかの炭素原子間の飽和結合(C−C)が、二重結合(C=C)に置き換えられた基が例示できる。
一般式「−N 」又は「−S 」で表される基のように、「R」を複数有する基においては、これら「R」はすべて同じでも良いし、一部が異なっていても良く、すべて異なっていても良い。
Eは電子吸引性が強い方が好ましく、ニトロ基(−NO)、シアノ基(−CN)又はフッ素原子であることが好ましく、ニトロ基(−NO)であることが特に好ましい。
原料化合物(I)でより好ましいものとしては、Rが炭素数1〜3のアルキル基又はヒドロキシエチル基であり、かつRがメチル基であり、かつEが前記電子吸引性基であるものが挙げられる。さらに、このような原料化合物(I)のなかでも、Eがニトロ基(−NO)、シアノ基(−CN)又はフッ素原子であるものが特に好ましい。
(重水)
本発明において、重水の使用量は、原料化合物(I)の種類や、目的物の目標重水素化率等を考慮して適宜調整すれば良い。そして、重水の使用量は、反応系内における重水素及び水素の総量に占める重水素量の割合が、目的物の目標重水素化率と同等以上となるように決定することが好ましい。
例えば、目的物の目標重水素化率が90%である場合には、前記割合が好ましくは91〜95%となるようにすると良い。ただし前記割合は、目標重水素化率に応じて、適宜調整することが好ましい。
なお、本発明において反応系とは、反応容器内の反応液及び気相部分を指すものとする。
例えば、原料化合物(I)中の重水素原子で置換され得る水素原子の数をA、これら水素原子のうち重水素原子で置換された水素原子の数をBとすると、目的物の重水素化率は、
B/A×100(%)
となる。
ところで、重水中で重水素化反応を行うと仮定した場合、反応容器内の体積に対する重水の体積の割合が通常の範囲内であれば、反応系内の水素原子は、原料化合物(I)と、重水中に混入している水(HO)に由来するものが大半を占める。ここで通常の範囲内とは、反応容器内の体積に対する重水の体積の割合が著しく小さい場合を除いた場合であり、具体的には、例えば、前記割合が5%以上である場合を指す。
一方、反応系内の重水素原子は、重水に由来するものが大半を占める。原料化合物(I)、及び水にも重水素原子が混入している可能性があるが、その量は極微量であるため無視できる。
そこで、原料化合物(I)の使用量をX(mol)、重水の使用量をY(mol)、重水の重水素濃縮度をZ(atom%、重水中の重水素原子及び水素原子の総量に占める重水素原子の量の割合)とすると、反応系内における水素原子の量I(mol)は、
I=(X×A)+{Y×2×(100−Z)/100)}
と近似できる。
一方、反応系内における重水素原子の量II(mol)は、
II=Y×2×Z/100
と近似できる。
したがって、反応系内における重水素及び水素の総量に占める重水素量の割合III(%)は、
III=II/(I+II)×100
となる。
例えば、原料化合物(I)としてA=4である1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾールを0.001mol(=X)、純度99.9atom%(=Z)の重水を0.1648mol(=Y)(3mL)使用した場合であれば、
I=0.001×4+{0.1648×2×(100−99.9)/100)}=0.0043
II=0.1648×2×99.9/100=0.3293
III=0.3293/(0.0043+0.3293)×100=98.71(%)
となる。
本発明においては、前記重水素量の割合IIIが、目的物の目標重水素化率「B/A×100」よりも大きくなるように、前記X、Y及びZのいずれか一つ以上を調整することが好ましい。
なお、ここでは上記のように、反応容器内の体積に対して重水の体積が著しく小さい場合を除いた条件下での例を挙げた。これに対し、重水の体積が著しく小さい場合でも、例えば、反応容器内の気相部分を、後記するように不活性ガスで置換したり、重水の使用量を増やすことで、何ら支障なく反応系内における重水素及び水素の総量に占める重水素量の割合を調整できる。
重水としては、純度が、好ましくは90atom%以上、より好ましくは95atom%以上、特に好ましくは99atom%以上のものが好適である。
そして重水素化反応は、重水を溶媒として行うのが好ましい。重水以外のものを溶媒として併用する場合には、水素原子を含まない溶媒を使用することが好ましい。
原料化合物は、必ずしも重水に溶解させる必要性はないが、重水素化反応を円滑に進行させるためには、反応条件を調節するなどして、溶解させることが好ましい。
(加熱方法)
重水素化反応は、重水の存在下で原料化合物(I)を加熱することで行うことができる。
加熱方法は、加熱時の温度を所望の範囲に設定できるものであればいずれでも良く、具体的には、オイルバスを使用する加熱、オートクレーブによる加熱、マイクロ波の照射による加熱等が例示できる。これらのなかでも、反応促進効果が高いことから、マイクロ波の照射による加熱が特に好ましい。
マイクロ波の照射による加熱で高い反応促進効果が得られる理由は、定かではないが、マイクロ波の照射により、反応液を急速にかつ均一に加熱できるので、重水素原子による水素原子の置換が速やかに進行するためであると推測される。
(塩基)
重水素化反応は、さらに塩基共存下で行うことが好ましい。すなわち、重水及び塩基の存在下で、原料化合物(I)を加熱することが好ましい。塩基を使用することで、重水素化反応を促進できる。
使用する塩基は、目的に応じて適宜選択でき、有機塩基及び無機塩基のいずれでも良い。ただし、有機塩基であれば、重水素原子で置換され得る水素原子の一分子中における数が少ないものほど好ましく、分子中に重水素原子で置換され得る水素原子を有していないものがより好ましい。これは、塩基中の水素原子の置換で消費される重水素原子の数が少ないほど、原料化合物(I)の重水素化が進行し易いと考えられるからである。
一方、無機塩基であれば、一分子中における重水素原子で置換され得る水素原子の数が少なく、通常汎用される無機塩基では1以下であるものがほとんどなので、特に制限なく使用できる。
本発明においては、重水素化反応が一層良好に進行することから、使用する塩基としては無機塩基が好ましい。
無機塩基としては特に限定されないが、好ましいものとして、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化セシウム及び炭酸セシウムが例示できる。なかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は炭酸ナトリウムがより好ましい。
塩基としては、重水素原子を有するものも使用できる。この場合、上記のような、塩基中の水素原子の置換による重水素原子の消費が抑制されるので好ましい。
重水素原子を有する塩基としては、水素原子を有する塩基において該水素原子の少なくとも一つが重水素原子で置換されたものが例示でき、塩基中のすべての水素原子が重水素原子で置換されたものが好ましい。無機塩基であれば、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム又は水酸化セシウムの水素原子が重水素原子で置換されたものが例示できる。
なお、本発明においては、上記のように、水素原子を有する塩基を使用した場合、反応液中において該水素原子が重水素原子で置換される可能性があるが、このような重水素化された塩基も、重水素化反応の促進に有用である。
塩基を共存させる場合、その量は適宜調整すれば良いが、原料化合物(I)の量に対して0.3〜0.7倍モル量であることが好ましく、0.4〜0.6倍モル量であることがより好ましい。塩基の量を下限値よりも多くすることで、目的物の重水素化率を一層向上させることができ、上限値よりも少なくすることで、原料化合物(I)や目的物の分解を抑制する高い効果が得られる。
(その他反応条件)
本発明によれば、原料化合物(I)において、Rのアルキル基又はヒドロキシアルキル基を重水素化することなく、Rのアルキル基とイミダゾール環の4位の炭素原子とのいずれか一方又は両方のみを重水素化できる。そして特に、少なくともマイクロ波の照射により加熱するか、塩基共存下で加熱を行うことにより、効率的に重水素化を行うことができる。
このように本発明は、従来の方法では困難であった、Rのアルキル基の重水素化を効率的に行える点で、特に優れたものである。
塩基を使用する場合には、塩基を使用することなく所定時間重水素化反応を行ってから、反応液に塩基を添加して、引き続き重水素化反応を行うなど、二段階で反応を行うと良い。すなわち、重水の存在下、塩基を共存させずに加熱を行い、次いで塩基を共存させて加熱を行うことが好ましい。このようにすることで、Rのアルキル基とイミダゾール環の4位の炭素原子における重水素化率を、一層向上させることができる。塩基を共存させずに加熱を行った場合には、イミダゾール環の4位の炭素原子が優先的に重水素化され、Rのアルキル基の重水素化率が、前記4位の炭素原子の重水素化率よりも低下する傾向にある。一方、反応当初より塩基を共存させた場合には、Rのアルキル基が優先的に重水素化され、前記4位の炭素原子の重水素化率が、Rのアルキル基の重水素化率よりも低下する傾向にある。しかし、まず塩基を共存させずに加熱を行うことで、前記4位の炭素原子を充分に重水素化し、次いで、塩基を共存させて加熱を行うことで、Rのアルキル基も充分に重水素化でき、その結果、得られる化合物の重水素化率が向上すると考えられる。
加熱時の温度は、原料化合物(I)やその他の原料の種類や濃度等を考慮して適宜調整し得るが、70〜230℃であることが好ましく、90〜210℃であることがより好ましい。また、塩基を共存させない場合には、共存させる場合よりも高い温度で加熱することが好ましい。そして、加熱時の温度は、重水素化反応の途中で段階的に変化させても良い。
例えば、上記のように二段階で反応を行う場合には、塩基を共存させない段階では、温度を好ましくは185℃以上、より好ましくは195℃以上とし、塩基を共存させた段階では、温度をこれら温度範囲よりも低下させると良い。このように温度を低下させることで、副反応物の生成を抑制することもできる。この時の温度の低下幅は、適宜選択し得るが、5〜80℃であることが好ましく、10〜60℃であることがより好ましい。
加熱時間は、使用する原料の種類や濃度、加熱時の温度、加熱方法等を考慮して適宜調整し得るが、特に加熱方法に応じて調整すると良い。
例えば、マイクロ波の照射による加熱の場合には、0.3〜7時間が好ましく、0.4〜5時間がより好ましく、0.5〜3時間が特に好ましい。
オイルバスを使用する加熱など、その他の加熱方法の場合には、上記のマイクロ波の照射による加熱の場合よりも、さらに長時間とすることが好ましい。
また、上記のように二段階で反応を行う場合には、塩基を共存させない段階での加熱時間は、0.2〜4時間が好ましく、0.3〜3時間がより好ましく、0.4〜2時間が特に好ましい。そして、塩基を共存させた段階での加熱時間は、反応の進行状況を考慮して決定すれば良い。
重水素化反応時は、反応容器内の気相部分を不活性ガスで置換しても良い。ここで不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスが例示できる。不活性ガスで置換することにより、気相部分から空気中の水素や水を除去でき、反応系内における重水素及び水素の総量に占める重水素量の割合をより高くできるので、例えば重水の使用量を低く抑えても、高い重水素化率で目的物が得られる。
また、反応系内は、反応容器外部から遮断することが好ましく、このようにすることは、特にオイルバスによる加熱等、マイクロ波の照射以外の方法により加熱する場合に特に好ましい。このようにすることで、目的物の重水素化率を向上させることができる。
重水素化反応後は、目的に応じて、得られた反応液をそのまま使用しても良いし、適宜必要に応じて後処理を行い、目的物を取り出して使用しても良い。後処理を行う場合には、抽出、濃縮、ろ過、pH調整等、周知の方法で必要なものを適宜組み合わせて行えば良い。取り出しを行う場合にも、周知の方法を適用すれば良く、例えば、反応液やその後処理物を用いて結晶を析出させてこれをろ過したり、カラムクロマトグラフィー等に供して目的物を分取したりすれば良い。
本発明によれば、重水素化率が高いイミダゾール誘導体を製造できる。これは、重水素化反応に供するイミダゾール誘導体として、イミダゾール環骨格上の置換基の位置及び組み合わせが最適化された、上記原料化合物(I)を見出したことによる。
さらに本発明によれば、従来は困難であった、イミダゾール環骨格上のアルキル基も高効率で重水素化できる。特に、マイクロ波による加熱を行うことで、目的物の一層高い重水素化率を達成できる。しかも、金属触媒等を使用する必要がないので、環境へ負荷をかけることもない。また、重水素化反応を短時間で進行させることができるので、原料化合物(I)や目的物の分解が抑制されるなど、副生成物の生成が抑制される。さらに、重水素源として重水素ガスではなく重水が利用でき、反応容器内の気相部分のガス置換や、反応液中へのガスのバブリングも必須ではないので、操作も簡便である。このように、安価な原料を使用でき、操作も簡便なので、目的物を安価に製造できる。
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例において使用した実験装置、分析装置及び試薬は下記の通りである。
(1)実験装置
・マイクロウェーブ反応装置(CEM社製:Discover);反応容器の最大容量が10mLであり、重水3mLスケールでの実験に使用した。
・マイクロウェーブ反応装置(Milestone社製:Micro SYNTH);反応容器の最大容量が80mLであり、重水40mLスケールでの実験に使用した。
・有機合成反応装置(東京理化社製:有機合成装置ChemiSationPPV4060型)
(2)分析装置
・GC−MS:日本電子株式会社社製SUN200
・NMR:日本電子データム株式会社製JNM−GSX270型
(3)試薬
・重水(Deuterium Oxide,99.9atom%D): Isotec製
・水酸化ナトリウム(NaOH):和光純薬株式会社製
・上記以外の試薬:東京化成株式会社製
また、化合物の同定及び重水素化率の算出は、NMR又はGC−MSを測定することで行った。
NMRの測定による化合物の同定は、以下のようにして行った。すなわち、重水素化されていない試料と重水素化された試料についてH−NMRを測定し、重水素化されていない試料では観測されたピークが、重水素化された試料では消失又は大幅に低減していることで、重水素化が進行したことを確認した。
また、GC−MSの測定による化合物の同定は、重水素化されていない試料と重水素化された試料についてGC−MSを測定し、重水素化に伴う分子量の変化を支持するデータが得られていることを確認することで行った。
具体例として、実施例5で得られた、1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール−dH−NMRの測定データを図1に、GC−MSの測定データを図2にそれぞれ示す。 NMR及びGC−MSの測定方法、並びに重水素化率の算出方法を以下に示す。
(4)NMR測定による重水素化率の算出
内部標準物質を含有したNMR溶媒を用いて、試料を溶解し、H−NMRの測定を行った。そして、内部標準物質又は分子内標準部位のプロトンピークの積分値を基準として、重水素化率を算出した。
(5)GC−MS測定による重水素化率の算出
重水素化されていない試料と重水素化された試料について、同条件でGC−MS分析を行い、得られたフラグメントのピーク強度比より算出した。
(実施例1)
1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール141mg、水酸化ナトリウム20mgを重水3mlに加えて、150℃で60分間マイクロ波照射した。放冷後、ジクロロメタンで抽出し、H−NMR測定(重クロロホルム(以下、CDClと略記する))及びGC−MS測定(メインピーク(実測値);145.00)を行ったところ、得られた化合物の単離収率は43.7%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;97.5%、(2)−D;80.0%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
Figure 2009242343
(実施例2)
1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール141mg、水酸化ナトリウム20mgを重水3mlに加えて、反応容器内を密封状態にし、100℃で60分間オイルバスにより加熱した。以下、実施例1と同様の操作により同定を行ったところ、重水素化率は64.5%(平均)であった。
Figure 2009242343
(実施例3)
1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール141mg、炭酸ナトリウム53mgを重水3mlに加えて、反応容器内を密封状態にし、100℃で60分間オイルバスにより加熱した。以下、実施例1と同様の操作により同定を行ったところ、重水素化率は53.3%(平均)であった。
Figure 2009242343
(実施例4)
2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−エタノール175mg、水酸化ナトリウム20mgを重水3mlに加えて、150℃で60分間マイクロ波照射した。以下、実施例1と同様の操作により同定を行ったところ、得られた化合物の単離収率は70.6%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;96.7%、(2)−D;50.0%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
Figure 2009242343
(実施例5)
1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール1.41gを重水40mlに加えて、200℃で60分間マイクロ波照射した。次いで、水酸化ナトリウム0.2gを添加し、さらに180℃で40分間マイクロ波照射した。以下、実施例1と同様の操作により同定を行ったところ、得られた化合物の単離収率は49.7%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;98.0%、(2)−D;99.0%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
NMRデータを以下に示す。
1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール(非標識品);1H-NMR(CDCl3):δ7.88(0.93H,s)、3.88(3.00H,s)、2.45(3.03H,s)
1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール−dH-NMR(CDCl3):δ7.92(0.01H,s)、3.90(3.0H,s)、2.46-2.43(0.05H,m)
Figure 2009242343
(実施例6)
1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール1.41gを重水40mlに加えて、200℃で60分間マイクロ波照射した。次いで、水酸化ナトリウム0.2gを添加し、さらに150℃で60分間マイクロ波照射した。以下、実施例1と同様の操作により同定を行ったところ、得られた化合物の単離収率は53.7%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;94.3%、(2)−D;99.0%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
Figure 2009242343
(実施例7)
2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−エタノール1.71gを重水40mlに加えて、200℃で60分間マイクロ波照射した。次いで、水酸化ナトリウム0.2gを添加し、さらに180℃で40分間マイクロ波照射した。以下、実施例1と同様の操作により同定を行ったところ、得られた化合物の単離収率は21.7%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;98.3%、(2)−D;98.8%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
NMRデータを以下に示す。
2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−エタノール(非標識品);H-NMR(DMSO-d6):δ8.03(0.02H,s)、4.36(2.02H,t,J=5.3Hz)、3.67(2.00H,t,J=5.2Hz)、2.46(2.74H,s)
2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−エタノール−d1H-NMR(DMSO-d6):
δ8.01(0.00H,s)、4.33(2.02H,t,J=5.3Hz)、3.65(2.00H,t,J=5.3Hz),2.44-2.38(0.05H,m)
Figure 2009242343
(実施例8)
2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−エタノール1.71gを重水40mlに加えて、200℃で60分間マイクロ波照射した。次いで、水酸化ナトリウム0.2gを添加し、さらに150℃で60分間マイクロ波照射した。以下、実施例1と同様の操作により同定を行ったところ、得られた化合物の単離収率は40.0%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;91.6%、(2)−D;99.0%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
Figure 2009242343
(実施例9)
1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール141mgを重水3mlに加えて、200℃で60分間マイクロ波照射した。以下、実施例1と同様の操作により同定を行ったところ、得られた化合物の単離収率は99.0%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;42.0%、(2)−D;99.0%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
Figure 2009242343
(実施例10)
2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−エタノール171mgを重水3mlに加えて、200℃で60分間マイクロ波照射した。以下、実施例1と同様の操作により同定を行ったところ、得られた化合物の単離収率は99.0%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;42.0%、(2)−D;99.0%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
Figure 2009242343
(比較例1)
2−メチル−5−ニトロイミダゾール175mg、水酸化ナトリウム20mgを重水3mlに加えて、150℃で60分間マイクロ波照射した。以下、実施例1と同様の操作により同定を行ったところ、得られた化合物の単離収率は31.9%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;6.0%、(2)−D;99.0%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
Figure 2009242343
(比較例2)
1,2−ジメチルイミダゾール96mg、水酸化ナトリウム20mgを重水3mlに加えて、150℃で60分間マイクロ波照射した。以下、実施例1と同様の操作により同定を行ったところ、得られた化合物の単離収率は97.2%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;8.0%、(2)−D;15.0%、(3)−D;15.0%であることが確認された。ここで(1)〜(3)は下記目的物の重水素(1)〜(3)に対応する。
Figure 2009242343
以上より、実施例1〜10では、1位の窒素原子に結合しているアルキル基又はヒドロキシアルキル基を重水素化することなく、2位の炭素原子に結合しているアルキル基と4位の炭素原子をいずれも重水素化できたことが確認できた。
本発明は、内部標準物質を必要とする化学物質の微量分析に利用可能であり、特に薬物動態の解析や、残留農薬の定量に好適である。
(a)1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾールと、(b)1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール−dH−NMRスペクトルを示す図である。 (a)1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾールと、(b)1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール−dのGC−MSスペクトルを示す図である。

Claims (8)

  1. 重水の存在下、下記一般式(I)で表される化合物を加熱することを特徴とする重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法。
    Figure 2009242343
    [式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基であり;Rは炭素数1〜3のアルキル基であり;Eは電子吸引性基である。]
  2. マイクロ波照射により加熱することを特徴とする請求項1に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法。
  3. さらに塩基共存下で、前記一般式(I)で表される化合物を加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法。
  4. 重水の存在下、塩基を共存させずに加熱を行い、次いで塩基を共存させて加熱を行うことを特徴とする請求項3に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法。
  5. 前記塩基が無機塩基であることを特徴とする請求項3又は4に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法。
  6. 前記一般式(I)で表される化合物の量に対して0.3〜0.7倍モル量の前記塩基を共存させることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法。
  7. 前記Rのアルキル基とイミダゾール環の4位の炭素原子とのいずれか一方又は両方のみを重水素化する請求項1〜6のいずれか一項に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法。
  8. 反応系内における重水素及び水素の総量に占める重水素量の割合を、化合物の目標重水素化率と同等以上とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の重水素化されたイミダゾール誘導体の製造方法。
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