JP2009221128A - 臓器保存液および臓器保存方法 - Google Patents

臓器保存液および臓器保存方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の課題は、従来の臓器保存液を用いた保存よりも、損傷を抑えて長時間保存できる臓器保存液およびそれを使用する臓器保存方法を提供することである。
【解決手段】式Iで表されるフラボノイド配糖体を0.001〜0.1重量%で含む臓器保存液、およびそのような臓器保存液を用いた臓器保存方法を提供する。
【化1】
Figure 2009221128

(式中、X〜Xのうち、少なくとも1つは単糖又はオリゴ糖の還元末端部分のヘミアセタール水酸基を除いた糖残基であり、その他は水酸基又は水素原子であり、R〜Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、水酸基又はメトキシ基である)
【選択図】なし

Description

本発明は、臓器を低温保存するための臓器保存液およびそれを使用した臓器保存方法に関し、より詳細には過冷却促進物質であるフラボノイド配糖体を含む臓器保存液およびそれを使用した臓器保存方法に関する。
現在、臓器移植は重要な医療技術となっている。臓器移植においては、摘出した臓器を出来るだけ損傷を防いで新鮮な状態に保つことが必要である。特に、臓器提供者であるドナーと臓器受容者であるレシピエントとの距離が離れている場合、摘出した臓器の移送の間、新鮮な状態で臓器を保存することが重要である。そのため、生体から摘出された臓器を保存するための優れた技術の開発が求められている。また、再生医療の分野においても、ES細胞や幹細胞を分化させて作製した臓器を患者に移植するまでの間、鮮度を落とさず保存することが必要であると考えられ、有効な臓器保存技術の開発により再生医療技術の利用が飛躍的に広まることが予想される。
現在最も広く臨床的に用いられている摘出臓器の保存方法は、損傷に対する有効性が期待される複数の薬剤を含むウィスコンシン大学(University of Wisconsin)(以下、UWと記載する)液を臓器保存液として用い、そこに臓器を浸漬し、低温で保存する方法である(非特許文献)。低温の状態ほど酵素活性は落ち、化学反応の進行は遅くなるため、低温で保存することで摘出前の臓器の状態が保たれ、損傷の低下が期待できる。
Wahlberg et al., Transplantation, 1987; 43(1):5−8
本発明の課題は、従来の臓器保存液を用いた保存よりも、損傷を抑えて長時間保存できる臓器保存液およびそれを使用する臓器保存方法を提供することである。
上記の課題を解決するために、式Iで表されるフラボノイド配糖体を0.001〜0.1重量%で含む臓器保存液、およびそのような臓器保存液を用いた臓器保存方法が提供される。
Figure 2009221128
(式中、X〜Xのうち、少なくとも1つは単糖又はオリゴ糖の還元末端部分のヘミアセタール水酸基を除いた糖残基であり、その他は水酸基又は水素原子であり、R〜Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、水酸基又はメトキシ基である)
本発明による臓器保存液により、従来の臓器保存液を用いた保存よりも長時間、損傷を抑えて保存することが可能となる。
本発明者は、従来のUW液を使用した一般的な保存方法では、UW液は0℃以下で凍結してしまうために0℃より高い温度で保存を行わなければならないことに着目した。そして、0℃以下でも凍結しない保存液を使用すれば、摘出臓器の保存を0℃以下で行うことが可能となり、それによって臓器移植等の成功率を上げることができると考えた。そこで、本発明者は、自身が発見したフラボノイド配糖体を従来の臓器保存液に添加することで、0℃以下の温度でも凍結しない臓器保存液を開発することに成功し、本発明に至った。
本発明に使用されるフラボノイド配糖体について説明する。
フラボノイド配糖体は植物の二次代謝物として、非常に多くの種類が植物や樹木中に存在することがよく知られている。しかし、配糖体ではないフェノール物質(フラボノイド)が過冷却活性を有するらしいことは知られていたものの(特表2000−500327、WO2004/074397)、フラボノイド配糖体が水の過冷却活性を促進するということは知られていなかった。
本発明に使用するフラボノイド配糖体は、樹木から抽出されるものを使用することができる。しかしながら、後述するように、蚕の繭といった昆虫を由来とするものであってもよく、さらには、当該物質の構造は特定されているため、合成されたものでもよい。
フラボノイド配糖体が抽出される樹木としては、寒冷地に育成し、過冷却促進物質を多量に含有する樹木が適していると考えられる。このような樹木の例には、針葉樹として、カラマツ、ニオイヒバ、イチイ、スギ、ウラジロモミ、トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツ、キタゴヨウ、ストローブマツ、アカマツ、クロマツなど、広葉樹としてシラカンバ、ヤマナラシ、クリ、ナナカマド、ハクウンボク、ミズナラ、ハルニレ、カツラなどが挙げられる。また抽出されるフラボノイド配糖体の量の多少を問わなければ、寒冷地以外の地域に育成する全樹木を抽出の原料とすることもできる。
本発明に使用するフラボノイド配糖体は、これらの樹種の辺材、心材を含む木部のみならず、樹皮、冬芽、常緑葉などからも抽出することができる。また、これらの物質は、柔細胞といった、生きている細胞中にあるものと考えられるが、細胞外に存在している可能性もある。また、これらの物質は安定的であるため、生立木のみならず、枯死木や長期貯蔵された木材からも抽出することが可能である。
そのような樹木組織および木材を含む植物から、抽出によって式Iによるフラボノイド配糖体を得ることができる。例えば、植物組織を有機溶媒に浸漬し、フラボノイド配糖体を有機溶媒中に溶かし出し、精製することで得られる。このとき用いる有機溶媒は80〜100%のメタノールまたはエタノールが好ましい。また、有機溶媒中のフラボノイド配糖体の精製は、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって複数の画分に分けたあと、後述する過冷却活性の測定方法によって、より過冷却活性が高い画分を特定していくことで行うことができる。さらに、画分ごとにHPLC分析を行い、特定のフラボノイド配糖体を取得することが可能である。また、このような方法に限らず、本発明の効果をもたらすフラボノイド配糖体が得られる限り、それ自体公知の何れかの方法を用いて抽出することが可能である。
本発明者は、これらの樹木から過冷却活性のある成分を抽出した結果、下記のフラボノイド配糖体が過冷却促進物質であることを見出した。即ち、本発明に使用する、過冷却促進能力のあるフラボノイド配糖体は下式で表される。
Figure 2009221128
式中、X〜Xのうち、いずれか1つ、好ましくはX又はXは単糖又はオリゴ糖の還元末端部分のヘミアセタール水酸基を除いた糖残基である。
天然にはXとXあるいはXとXに糖残基がグルコシド結合したもののみが知られているが、これらを含めて、合成が可能な複数箇所の水酸基(Xなど)がグルコシル化されたものを除外するものではない。
なお、本願におけるヘミアセタール水酸基とは、ヘミアセタール基を構成する水酸基のことを指し、例えば、下式の単糖や二糖の基本骨格において、1位の炭素原子に結合する水酸基のことをいう。
Figure 2009221128
本発明に使用するフラボノイド配糖体を構成する糖の例は、単糖としてグルコース、マンノースおよびガラクトース、オリゴ糖としてルチノース、シュークロースおよびラフィノースが挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、糖残基は、単糖であるグルコース、マンノースおよびガラクトースである。
式I中のX〜Xのうち、糖残基とならないものは、水酸基又は水素原子を表す。また、式中のR〜Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、水酸基又はメトキシ基を表す。好ましくは、Rは水素原子または水酸基であり、Rは水素原子またはメトキシ基であり、R、R、RおよびRは水素原子である。
本発明に使用するフラボノイド配糖体は、好ましくはケンフェロール−7−O−グルコシドである。
本発明に使用するフラボノイド配糖体は2.8〜9.0℃の過冷却活性を示す。なお、本願における過冷却活性(又は氷核形成阻害活性ともいう)とは、以下の方法で測定したもので表す。すなわち、氷核活性細菌(Erwinia ananas)の死滅菌体を含む緩衝液に被測定物0.5mg/mlを混合した溶液を用い、温度コントロールができる銅板上に2μLの液滴を載せ、銅板を0.2℃/minで冷却して凍結する液滴数を肉眼で観察し、50%の液滴が凍結した温度を凍結温度とする。被測定物と氷核活性細菌とを含む溶液の凍結温度と、氷核活性細菌のみを含む溶液の凍結温度との差(℃)を氷核形成阻害活性(過冷却活性)とする。そして本願では、このような過冷却活性の増大に有効な物質を、過冷却促進物質と表す。
本発明に使用するフラボノイド配糖体の過冷却活性は、以下に示す通り、その他の公知の過冷却物質といわれるものに比べて優れている。
1)桃といった種子植物の種子から抽出した未同定の粗抽出物は2.6〜8.1℃の水の過冷却活性を示す(Caple et al., (1983) Cryoletters, 4, 59−64.)。しかし、この値は、氷核形成物質としては能力の低いヨウ化銀のみを用い、用いた冷却速度も1℃/minと、我々の用いる冷却速度より遙かに速く、一時的な過冷却をし易い条件で測定された。
2)丁子から抽出したオイゲノールとその類似物質は0.2〜2.5℃の水の過冷却活性を示す(Kawahara and Obata (1996) J. Antibact. Antifung. Agents, 24, 95−100.)。添加濃度は1mg/mlであり、氷核形成物質としては氷核形成細菌のみを使用し、冷却速度も1℃/minと我々の用いる冷却速度より遙かに速く、一時的な過冷却をし易い条件である。
3)ヒノキチオールとその類似物質は0.4〜2.1℃の水の過冷却活性を示す(Kawahara et al., (2000) Biosci. Biotechnol. Biochem.Duman, 64, 2651−2656.)。添加濃度は10mMであり、氷核形成物質として氷核形成細菌のみを使用し、冷却速度も1℃/minと我々の用いる冷却速度より遙かに速く、一時的な過冷却をし易い条件である。
4)細菌から抽出した130kDaのキチン多糖は0〜4.2℃の水の過冷却活性を示す(Yamashita et al., (2002) Biosci. Biotechnol. Biochem., 66,948−954)。添加濃度は50μg/mlと高く、氷核形成物質として氷核形成細菌など幅広く使用しているが、水自体の核化を防止する効果はない。用いた冷却速度も1℃/minと我々の用いる冷却速度より遙かに速く、一時的な過冷却をし易い条件である。
5)様々な不凍蛋白質が最大7.8℃の水の過冷却活性を示す(Duman (2002) J. Comp. Physiol., 172, 163−168.)。しかしこの最大の値が得られる添加不凍蛋白質濃度が不明であるとともに、0.5Mという高濃度のクエン酸を添加した時に得られた値である。不凍蛋白質のみでは1.2℃の過冷却を促進するのみである。
本発明に使用するフラボノイド配糖体は、樹木といった植物から抽出されたものに限られない。例えば、人工的に合成したフラボノイド配糖体を本発明に使用することが可能である。また、昆虫の繭を有機溶媒等で抽出することで、本発明に使用するフラボノイド配糖体を得ることが可能である。特に、蚕の繭から抽出して得ることが好ましい。このように繭から抽出することで、樹木などの植物からの抽出または人工的な合成よりも、コストを抑えて高い収量でフラボノイド配糖体を得ることができる。
また本発明による臓器保存液は、式Iによるフラボノイド配糖体の代わりに、式Iによるフラボノイド配糖体を含む植物または昆虫の繭由来の粗抽出物を使用して得ることができる。昆虫の繭から、式Iのフラボノイド配糖体を含む粗抽出物を得る方法は、例えば、80〜100%メタノールまたはエタノールなどの有機溶媒で蚕の繭を数日処理して抽出した抽出物を14,000Gで遠心分離した上澄み液を蒸留水に溶解し、さらに遠心分離した上澄み液を凍結乾燥して、粗抽出物を得るという方法などが使用できる。粗抽出物を得た後、粗抽出物中のフラボノイド配糖体を定量することが好ましい。その定量値を用いて粗抽出物の添加量を調節し、臓器保存液中のフラボノイド配糖体の終濃度を0.001〜0.1重量%とすることができる。この粗抽出物は、式Iによるフラボノイド配糖体の代わりに臓器保存液に添加すると、−10℃程度までの過冷却能力を示す。
次に、本発明に使用される臓器保存液について説明する。臓器保存液とは、摘出臓器を長時間安定に保存するための溶液のことである。本発明に使用される臓器保存液は、臓器保存の分野において既知の何れかの臓器保存液を使用することが可能である。例えば、UW液、ユーロ・コリンズ液、HT−Kyoto液、HTK液およびソルジャー液が使用できるが、式Iによるフラボノイド配糖体の過冷却効果が得られる限り、その種類は限定されない。また、特定の臓器の保存に最適化された臓器保存液を使用してもよい。特に、臓器保存液としてUW液を用いることが好ましい。
本発明による臓器保存液は、上述したような臓器保存液に、終濃度が0.001〜0.1重量%となるように式Iによるフラボノイド配糖体を添加することで得られる。好ましいフラボノイド配糖体の終濃度は0.01〜0.1重量%である。
本発明による臓器保存液は、式Iによるフラボノイド配糖体に加えて、その他の凍害防止剤または凝固点降下剤を加えてよい。この凍害防止剤または凝固点降下剤の例としては、メタノール、エタノール、アセトアミド、DMSO、ホルムアルデヒド、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、プロリン、グルコース、ソルビトール、シュークロース、トレハロース、ポリエチレングリコール、デキストラン10−150、PVP、アルブミン、フィコールおよびHES等が挙げられる。これらを、それぞれの終濃度が0.1〜5容積%となるように添加して使用することが好ましい。特に、終濃度1%のDMSOを使用することが好ましい。
本発明はまた、本発明による臓器保存液を用いて臓器を保存する方法を提供する。本発明による臓器保存方法は、本発明による臓器保存液を用いて、臓器保存の分野で行われる一般的な方法によって行うことができる。例えば、臓器保存液で十分な灌流を施して内部の血液を駆出した臓器を、臓器保存液に浸漬し、低温の状態にすることで行うことができる。臓器を処理する前から、臓器保存液を保存時の温度に冷却してよく、または、臓器保存液に臓器を浸漬した後に、保存する温度に冷却してもよい。あるいは、臓器の処理前において一定の温度まで予備冷却を行い、臓器を浸漬後、保存のための温度までさらに冷却してよい。本発明による臓器保存液は、保存時の温度を0℃以下に過冷却させる以外は、従来の臓器保存液を用いた場合に要していた処理と同様に扱うことが可能である。
本発明によって保存する臓器は、動物由来の臓器である。本願における「動物」とは、ヒトを含む。つまり本発明は、ヒト、及びヒトを含まない動物の臓器の保存に用いることができる。特に、本発明は、哺乳類由来の臓器の保存に用いられ、好ましくはヒトの臓器の保存のために使用される。
本発明による臓器保存液は、式Iによるフラボノイド配糖体を添加することで、0℃以下の温度に過冷却しても凍結せず液体の状態を維持することが可能である。本発明による臓器保存方法では、臓器を浸漬した臓器保存液を−0.1℃から−15℃の温度まで過冷却して保存する。好ましくは−5℃から−8℃の温度で保存する。このように、本発明によって、凍結が起こらない状態で0℃以下の温度で臓器を保存することが可能となるため、従来の保存方法と比較して臓器の保存期間が飛躍的に延び、臓器の損傷が抑えられ、細胞及び組織の生存率が上昇する。
[例]
[例1]
樹木から、過冷却促進物質を抽出し、その構造を特定した。
北海道札幌地区に自生するカツラから枝を採集した。このカツラの枝の木部組織を鉛筆削りで小片化した後、液体窒素で凍結し、乳鉢と乳棒で可能な限り小片に粉砕した。得られた木部組織の粉砕物3.7kgをメタノール20Lに2週間浸漬した。得られた抽出液を14,000Gで遠心分離し(Hitachi: HIMC CF15R)、上清を回収した。これらを乾燥して、乾燥物93.8gを300mLの水に溶かした。
この粗抽出物の水懸濁液を20℃で14,000Gで遠心分離し、上清を回収した。この上清300mLと酢酸エチル600mLを混合し、分液ロートにて、水可溶部と酢酸エチル可溶部に分け乾燥した。
これらの過冷却活性は以下の方法で測定した。氷核活性細菌(Erwinia ananas)の死滅菌体(和光純薬)を含む緩衝液(50mMリン酸カリウム緩衝液、pH7.0)に被測定物0.5mg/mLを混合し、温度コントロールされた銅板上に2μLの液滴として載せ、銅板を0.2℃/minで冷却して凍結する液滴数を肉眼的に観察し、50%の液滴が凍結した温度を凍結温度とした。この凍結温度と上記緩衝液の凍結温度の差(℃)を測定した。水可溶部では2℃程度の、酢酸エチル可溶部では4℃程度の過冷却活性が得られた。
より高い過冷却活性を示した乾燥した酢酸エチル可溶画分を「ヘキサン・2−プロパノール・水」、「クロロホルム・メタノール・水」を用いて自作のシリカゲルカラムクロマトグラフィーで30程のフラクションに分けた。このシリカゲルカラムクロマトグラフを図1に示す。次に、各フラクションの物質について、過冷却活性を上記と同様の方法で測定した。その結果、図2に示すように、画分9と10が最大過冷却値を示した。
この画分9と10を、高速液体クロマトグラフィー(カラム:Wakosil 5C18HG、溶媒:メタノール:水=1:1、流速1 mL/min)で分析した結果、図3に示すように7つの物質の存在を示すピーク(1〜7)が得られた。
これらのピークのうち、過冷却活性を示したのは4,5,6,7のピークのみであり(以下、それぞれCj4〜7と呼ぶ。)、その活性はそれぞれ2.8℃(Cj4)、9.0℃(Cj5)、3.4℃(Cj6)、4.0℃(Cj7)であった。
これら4種の物質について、質量分析装置(JMS−SX102A:JEOL)にてnegative−HRFAB−MS分析を行った。これら物質のそれぞれの質量は463.0893(Cj4)、447.0942(Cj5)、477.1038(Cj6)、447.0958(Cj7)であり、分子式はC212012(Cj4)、C212011(Cj5)、C222212(Cj6)、C212011(Cj7)と予想された。
更に、これらの物質をアセチル化し、高分解能核磁気共鳴装置(BRUKER:AMX−50)により反応生成物の各種1次元及び2次元NMRスペクトル分析を行った。アセチル化反応は、約10mgの乾燥試料を200μLのメタノールで溶解し、そこに2mLの無水酢酸と1mLのピリジンを加え、70℃で1.5時間処理することで行った。得られたアセチル化物は分取TLCで精製した後、重クロロホルムに溶解し、1H−NMR、13C−COM、DEPT、1H−1H COSY、HMBC、HSQCのNMRスペクトル分析を行った。
これらの物質はいずれも250〜270nmと300〜380nmに吸収ピークを持つ特徴的なUVスペクトルを示したことからフラボノール骨格を持つことが予想された。それぞれのアセチル化物の1H−NMRスペクトルを図4〜7に示す。
Cj7のアセチル化物の1H−NMRスペクトルは、7つのアセチル基によるシグナル(δ 1.92〜2.45)、B環の2’、3’、5’、6’位の水素によるシグナル(δ 7.23、8.04)、芳香環に結合した2つの水素によるシグナルを示した(δ 6.84、7.30)。また、β−グルコース残基の存在も確認された(δ 3.92、4.00、5.17、5.28、5.53)。グルコースのアノメリック炭素に結合した水素とアグリコンの3位の炭素との間にHMBC相関が見られた。以上の結果からCj7はケンフェロール−3−O−β−グルコシドであった(図7)。
Cj4のアセチル化物の1H−NMRスペクトルをCj7のものと比較すると、Cj4ではアセチル基によるシグナル(δ 1.92〜2.45)は8つであり、B環の2’、5’、6’に結合した水素によるシグナル(δ 7.33、7.93、7.96)が見られた。この結果とHMBC相関からCj4はケルセチン−3−O−β−グルコシドであった(図4)。
Cj6のアセチル化物の1H−NMRスペクトルをCj7のものと比較すると、Cj6では芳香環に結合した水素は1つであり(δ 6.79)、メトキシル基によるシグナル(δ 3.97)が現れていた。この結果とHMBC相関からCj6は8−メトキシケンフェロール−3−O−β−グルコシドであった(図6)。
Cj5のアセチル化物の1H−NMRスペクトルは、Cj7のものと同様に7つのアセチル基によるシグナル(δ 1.92〜2.45)、B環の2’、3’、5’、6’位の水素によるシグナル(δ 7.27、7.84)、芳香環に結合した2つの水素によるシグナルを示した(δ 6.73、7.01)。また、Cj5の酸加水分解をアセチル化して得られた構成糖のアセチル化物の1H−NMRスペクトルは、アセチル化したグルコースの1H−NMRスペクトルと一致した。構成糖の1位の水素とアグリコンの7位の炭素との間にHMBC相関が見られたことからCj5はケンフェロール−7−O−β−グルコシドであった(図5)。
これら質量分析及びNMRスペクトル分析の結果から、これらの物質はいずれもフラボノイド配糖体であり、アグリコンは、ケルセチン、ケンフェロール、8−メトキシケンフェロールのいずれかであり、これらアグリコンにグルコースが1個ついた配糖体であると結論された。
即ち、抽出された過冷却促進物質は、下式で表されるフラボノイド配糖体であった。
Figure 2009221128
[例2]
フラボノイド配糖体としてケンフェロール−7−O−グルコシドをUW液に添加した溶液を用いて、臓器の保存性について調べた。
UW液(100mM ラクトビオン酸、25mM KHPO、5mM MgSO、30mM ラフィノース、2.5mM アデノシン、3mM GSH、1mM アロプリノール、0.25mg/mL ストレプトマイシン、10UI/mL ペニシリン)に、終濃度0.01重量%のケンフェロール−7−O−グルコシド(K7G、上記式中Cj5)(Extrasynthese社製)および終濃度1容積%のDMSO(和光純薬工業製、特級)を加えた。このとき、DMSOはケンフェロール−7−O−グルコシドの溶解性を高めるために使用したが、DMSOを単独で添加し4℃で保存した場合、試料への影響は認められなかった(図8)。また、比較として、ケンフェロール−7−O−グルコシドおよびDMSOを含まないUWを用意した。
約5×10細胞/mlのブタ肝臓小片を各臓器保存液に浸漬し、各温度(K7Gを含まない臓器保存液は4℃、K7Gを含む臓器保存液は−5℃および−8℃)に冷却し、それぞれ1、4および7日間保存した。細胞の生存率をトリファンブルー染色(GIBCO製)により評価した。その結果を図8に示す。
K7Gを添加せず4℃で保存した場合、保存日数が長くなるほど生存率が落ち、1週間後にはほぼ0%となった。それに対して、K7Gを添加し0℃以下に冷却した場合は、保存開始から1週間が経過しても、細胞の生存率は約40%程度に維持された。この結果から、本発明による臓器保存液を用いた臓器保存方法によって、従来の保存方法と比較して、長期間の臓器保存が可能であることがわかった。
[例3]
フラボノイド配糖体を含む蚕の繭由来の粗抽出物を用いて臓器保存液を作製した。
2Lの80%メタノール又はエタノールに1kgの蚕の繭を浸せきし、室温で8時間静置した。その後14,000Gで遠心分離し、上澄み液を凍結乾燥して50倍量の蒸留水を添加し、さらに同一の条件で遠心分離した。その結果得られる上澄み液を凍結乾燥し、粗抽出物を得た。
この粗抽出物中のK7Gを、定量方法としてHPLCを用いて測定した。その結果、K7Gの含量は、120μg/mLであった。
この粗抽出物1gを、1Lの臓器保存液に添加し、本発明による臓器保存液を作製した。
図1は、カツラの抽出物の酢酸エチル可溶画分のシリカゲルカラムクロマトグラフを示す図である。 図2は、シリカゲルカラムクロマトグラフ画分の過冷却活性を示す図である。横軸は、液滴を載せた銅板の温度を示し、縦軸は凍結した液滴の割合を示す。 図3は、画分9と10を併せた画分の高速液体クロマトグラフを示す図である。 図4は、Cj4のアセチル化物の1H−NMRスペクトルを示す。 図5は、Cj5のアセチル化物の1H−NMRスペクトルを示す。 図6は、Cj6のアセチル化物の1H−NMRスペクトルを示す。 図7は、Cj7のアセチル化物の1H−NMRスペクトルを示す。 図8は、ブタ肝臓小片を、ケンフェロール−7−O−グルコシド(K7G)を含む保存液中にて過冷却状態(−5℃および−8℃)で保存した後の、細胞の生存率を示す図である。横軸は保存期間(日数)、縦軸は生存率(%)を示す。

Claims (5)

  1. 式Iで表されるフラボノイド配糖体を0.001〜0.1重量%で含む臓器保存液。
    Figure 2009221128
    (式中、X〜Xのうち、少なくとも1つは単糖又はオリゴ糖の還元末端部分のヘミアセタール水酸基を除いた糖残基であり、その他は水酸基又は水素原子であり、R〜Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、水酸基又はメトキシ基である)
  2. 前記フラボノイド配糖体が、植物または昆虫の繭を有機溶媒で抽出して得られる粗抽出物として添加される、請求項1に記載の臓器保存液。
  3. さらに、DMSO、グリセリン、ポリエチレングリコール、アルコール、糖から成る群から選択される1以上の化合物を、それぞれ終濃度0.1〜5容積%で含む、請求項1または2に記載の臓器保存液。
  4. 前記フラボノイド配糖体が0.01〜0.1重量%のケンフェロール−7−O−グルコシドであり、前記化合物が終濃度1容積%のDMSOである、請求項3に記載の臓器保存液。
  5. 請求項1から請求項4の何れか1項に記載の臓器保存液を用いて、動物の臓器を−0.1℃から−15℃の範囲で1日から数週間保存することを含む臓器保存方法。
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