JP2009189268A - 神経原性筋萎縮症モデルマウスおよび神経原性筋萎縮症の治療薬のスクリーニング方法 - Google Patents

神経原性筋萎縮症モデルマウスおよび神経原性筋萎縮症の治療薬のスクリーニング方法 Download PDF

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Kenichiro Kiyono
研一郎 清野
Hisahiro Yoshida
尚弘 吉田
Shigeharu Wakana
茂晴 若菜
Haruka Wada
はるか 和田
Takuwa Yasuda
琢和 安田
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Abstract

【課題】生後8週目には発症を確認することができる神経原性筋萎縮症モデルマウスを提供すること。
【解決手段】野生型のPLA2G6タンパク質の373番目のグリシンがアルギニンに変異した変異PLA2G6タンパク質をコードする変異Pla2g6遺伝子を有するマウスを神経原性筋萎縮症モデルマウスとする。本発明のマウスは、生後8週目には発症を確認することができ、かつ遺伝子異常の形態がヒトの患者に近いため、ヒト神経原性筋萎縮症(例えば、乳児型神経軸索ジストロフィー)のモデルマウスとして有用である。
【選択図】図1

Description

本発明は、神経原性筋萎縮症を発症するモデルマウス、および前記モデルマウスを用いた神経原性筋萎縮症の治療薬のスクリーニング方法に関する。
神経原性筋萎縮症は、運動神経系の異常を原因として筋肉が萎縮する病気の総称であり、乳児型神経軸索ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症などが含まれる。
乳児型神経軸索ジストロフィー(infantile neuroaxonal dystrophy:以下「INAD」という)は、歩行困難や精神運動発達遅延などの臨床像を示す、遺伝性(常染色体劣性遺伝形式)の神経変性疾患である。神経病理学的には脳から脊髄にかけてスフェロイドの形成が観察される。INADの原因遺伝子は長らく不明であったが、2006年にCa非依存性グループ6ホスホリパーゼA2(PLA2G6)遺伝子がINADの原因遺伝子であると報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
PLA2G6タンパク質は、グリセロリン脂質の2位のアシル鎖を加水分解して脂肪酸とリゾリン脂質を生成する、細胞膜リン脂質のリモデリングに重要な酵素であると考えられている。また、PLA2G6タンパク質は、N末端側にあるアンキリンリピートにより様々な分子と会合し、核内移行シグナルにより核内に集積することで、細胞のシグナル伝達に関与するという報告もある(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら、PLA2G6遺伝子の変異とINADの発症機序との関係は解明されていない。
非特許文献1の論文が発表された後、Pla2g6ノックアウトマウスがINADのモデルマウスとなりうることが学会で報告されている(例えば、非特許文献3参照)。これらのモデルマウスでは、生後1年以上経過した後に運動異常や神経変性などが観察される。
Morgan NV, Westaway SK, Morton JE, Gregory A, Gissen P, Sonek S, Cangul H, Coryell J, Canham N, Nardocci N, Zorzi G, Pasha S, Rodriguez D, Desguerre I, MubaidinA, Bertini E, Trembath RC, Simonati A, Schanen C, Johnson CA, Levinson B, Woods CG, Wilmot B, Kramer P, GitschierJ, Maher ER, Hayflick SJ., "PLA2G6, encoding a phospholipase A2, is mutated in neurodegenerative disorders with high brain iron", Nat. Genet. 2006, Vol. 38, p. 752-754. Tang J, Kriz RW, WolfmanN, Shaffer M, Seehra J and Jones SS, "A novel cytosolic calcium-independent phospholipaseA2 contains eight ankyrin motifs", J. Biol. Chem. 1997, Vol. 272, p. 8567-75. Malik IJ, Mancuso DJ, Wohltmann M, Montier L, Wozniak DF, Schmidt RE, Gross RW, Turk JW, KotzbauerPT, "A mouse model for human infantile neuroaxonaldystrophy due to PLA2G6 mutations", [online], the 37th annual meeting of the Society for Neuroscience (Nov. 2007), インターネット<URL: http://www.sfn.org/am2007/index.cfm?pagename=call_for_abstracts>.
しかしながら、上記従来のモデルマウス(Pla2g6ノックアウトマウス)は、神経変性疾患の発症まで生後約1年の年月を要するため、神経原性筋萎縮症の研究に用いるには不便であった。また、上記従来のモデルマウスは、相同的組み換えによりPla2g6遺伝子に大きな変異を生じさせることで作製されているため、点突然変異を原因とするヒトの神経原性筋萎縮症と同様の発症機序を模倣しているとは考えにくく、ヒトの神経原性筋萎縮症のモデルマウスとしては好ましくなかった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、より早い時期に発症を確認することができる神経原性筋萎縮症モデルマウスを提供することを目的とする。
本発明者は、鋭意研究を行った結果、PLA2G6タンパク質の373番目のグリシンをアルギニンに置換することにより上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の神経原性筋萎縮症モデルマウスに関する。
[1]Ca非依存性グループ6ホスホリパーゼA2(Pla2g6)遺伝子に変異を有する神経原性筋萎縮症モデルマウスであって、前記変異型Pla2g6遺伝子は、野生型PLA2G6タンパク質の一または二以上のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されている変異型PLA2G6タンパク質をコードする、神経原性筋萎縮症モデルマウス。
[2]前記変異は点突然変異である、[1]に記載の神経原性筋萎縮症モデルマウス。
[3]前記変異型Pla2g6遺伝子は、野生型PLA2G6タンパク質の373番目のグリシンが他のアミノ酸残基に置換されている変異型PLA2G6タンパク質をコードする、[1]または[2]に記載の神経原性筋萎縮症モデルマウス。
[4]前記他のアミノ酸残基はアルギニンである、[3]に記載の神経原性筋萎縮症モデルマウス。
[5]生後8週目に神経原性筋萎縮が確認される、[1]〜[4]のいずれかに記載の神経原性筋萎縮症モデルマウス。
[6]ナチュラルキラーT細胞の数の増加が確認される、[1]〜[5]のいずれかに記載の神経原性筋萎縮症モデルマウス。
[7]末梢血における血小板の数の増加がさらに確認される、[1]〜[6]のいずれかに記載の神経原性筋萎縮症モデルマウス。
また、本発明は、以下の神経原性筋萎縮症の治療薬のスクリーニング方法に関する。
[8]上記[1]〜[7]のいずれかに記載の神経原性筋萎縮症モデルマウスに被検物質を投与するステップと、神経原性筋萎縮症に対する被検物質の治療効果を判定するステップと、を含む、神経原性筋萎縮症の治療薬のスクリーニング方法。
本発明のモデルマウスは生後8週目には発症を確認しうるため、本発明のモデルマウスを用いることにより神経原性筋萎縮症の研究(神経病理学的研究や遺伝学的研究、治療薬のスクリーニングなど)をより効率的に進めることができるようになる。また、本発明のモデルマウスは、従来のモデルマウスに比べて遺伝子異常の形態がヒトの神経原性筋萎縮症に近いため、本発明のモデルマウスを用いることによりヒトにおける神経原性筋萎縮症の発症機序の研究をより効率的に進めることができるようになる。
1.本発明の神経原性筋萎縮症モデルマウス
本発明の神経原性筋萎縮症モデルマウスは、Ca非依存性グループ6ホスホリパーゼA2(phospholipase A2 group VI (calcium-independent):Pla2g6(iPLA2β))遺伝子に変異を有する神経原性筋萎縮症モデルマウスであって、前記変異Pla2g6遺伝子は、野生型PLA2G6タンパク質の一または二以上のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されている変異型PLA2G6タンパク質をコードすることを特徴とする。本発明のモデルマウスには、変異型Pla2g6遺伝子をホモの状態で有するホモ接合体だけでなく、ヘテロの状態で有するヘテロ接合体も含まれる。
本発明のモデルマウスは、マウス(ハツカネズミ:Mus musculus)であればその系統(遺伝的背景)は特に限定されない。例えば、本発明のモデルマウスは、C57BL/6系統を遺伝的背景としてもよい。
Pla2g6遺伝子における変異の様式は、ミスセンス変異であれば特に限定されないが、点突然変異であることが好ましい。本発明のモデルマウスが、点突然変異を主たる原因とするヒトの神経原性筋萎縮症と同様の発症機序を模倣する可能性が高くなるからである。また、変異が生じている部位は、Pla2g6遺伝子のORF領域内であれば特に限定されない。
変異型Pla2g6遺伝子の塩基配列の一例を配列番号1に示す。この変異Pla2g6遺伝子のORF領域(2259塩基対)では、1117番目のグアニン(G)がアデニン(A)に置換し、コドンがGGGからAGGに変化している。結果として、変異型PLA2G6タンパク質(752アミノ酸残基)では、配列番号2に示すように373番目のグリシン(Gly)がアルギニン(Arg)に置換されている。
本発明のモデルマウスでは、生後8週目前後から神経原性筋萎縮症の症状、すなわち四肢(特に下肢)の震戦や筋萎縮、進行性の麻痺などが観察される。また、神経病理学的には、脳幹から脊髄にかけてスフェロイドの形成が観察される。上述の通り、従来のモデルマウス(Pla2g6ノックアウトマウス)では、神経変性疾患の発症まで生後約1年の年月を要するが、本発明のモデルマウスでは、驚くべきことに生後8週目には神経変性疾患の発症を確認することができる。
また、本発明のモデルマウスでは、脾臓および胸腺におけるナチュラルキラーT(NKT)細胞の数の増加も観察される。NKT細胞は、抗原提示細胞上のCD1d分子によって提示される脂質抗原を認識するT細胞の一種である。さらに、これに合わせて胸腺内の細胞数の減少も観察される。
また、本発明のモデルマウスでは、末梢血における血小板の数の増加も観察される。
本発明のモデルマウスにおいて、Pla2g6遺伝子の変異により上記各形質(神経変性や免疫系の異常など)が生じるメカニズムは、現時点では不明であり特に限定されない。
上記各形質は劣性遺伝形質であるため、本発明のモデルマウスは、ホモ接合体の場合に上記各形質を発現し、ヘテロ接合体の場合は各形質は正常である。ヘテロ接合体は、無症状でかつ正常マウスと同様の寿命を有するために扱いやすく、継代や変異型遺伝子の伝達などを行う場合に有用である。
本発明のモデルマウスは、突然変異誘発法や部位特定突然変異導入法などの当業者に公知の方法を用いて作製することができる。以下、突然変異誘発法を用いた作製方法の例と、部位特定突然変異導入法を用いた作製方法の例について説明するが、本発明のモデルマウスの作製方法がこれらに限定されるわけではない。
(1)突然変異誘発法を用いた作製方法
化学変異原物質であるN−エチル−N−ニトロソウレア(N-ethyl-N-nitrosourea:以下「ENU」という)を成熟した初代(G0)の雄マウスに投与し、その精子にランダムな点突然変異を生じさせる。この雄マウスと野生型の雌マウスとを交配して、第1世代(G1)のマウスを作製する。得られたG1雄マウスと野生型の雌マウスとを交配して、第2世代(G2)のマウスを作製する。さらにG2マウスの兄妹間で交配して、第3世代(G3)マウスを作製する。このG3マウスでは、劣性突然変異をホモで有する個体が1/16の確率で出現するため、神経原性筋萎縮症の症状(例えば、四肢の震戦や筋萎縮など)を示す個体をスクリーニングする。選択された個体のPla2g6遺伝子の塩基配列を決定して、既知のPla2g6遺伝子の標準塩基配列と比較することにより、ENUにより誘発された点突然変異がPla2g6遺伝子内にあることを確認する。変異型Pla2g6遺伝子を有する個体(ヘテロ接合体)間で交配させることにより、変異Pla2g6遺伝子をホモで有するホモ接合体を得ることができる。後述する実施例で、突然変異誘発法を用いた作製方法をさらに詳細に説明する。
(2)部位特定突然変異導入法を用いた作製方法
まず、野生型Pla2g6遺伝子のORF領域およびその周辺領域を単離し、単離した遺伝子に一または二以上のミスセンス変異(例えば、Pla2g6遺伝子の1117番目のグアニン(G)をアデニン(A)に置換)を導入して変異型Pla2g6遺伝子を作製する。遺伝子への変異導入方法は当業者に公知のものを適宜選択すればよく、例えばPCR法などを利用して行えばよい。次いで、変異型Pla2g6遺伝子を含むDNAをES細胞に導入し、マーカーを指標にして相同組換えを起こした細胞のコロニーを選別する。ES細胞へのDNA導入方法は当業者に公知のものを適宜選択すればよく、例えば、マイクロインジェクション法、ウイルスベクター法、ES細胞(胚性幹細胞)法などを利用して行えばよい。選別された変異型Pla2g6遺伝子を有するES細胞を胚盤胞に注入してキメラ胚を作製する。その後、キメラ胚を仮親の子宮に移植し、キメラ動物を生育する。キメラ動物が変異型Pla2g6遺伝子を有するか否かを確認し、変異型Pla2g6遺伝子を有する個体(ヘテロ接合体)間で交配させることにより、変異Pla2g6遺伝子をホモで有するホモ接合体を得ることができる。
以上のように、本発明のモデルマウスは、生後8週目には神経原性筋萎縮症が発症しているため、神経原性筋萎縮症の研究(神経病理学的研究や遺伝学的研究、後述する治療薬のスクリーニングなど)をより効率的に進めることができるようになる。また、本発明のモデルマウスは、従来のモデルマウスに比べて遺伝子異常の形態がヒトの神経原性筋萎縮症に近いため、本発明のモデルマウスを用いることによりヒトにおける神経原性筋萎縮症の発症機序の研究をより効率的に進めることができるようになる。
また、本発明のモデルマウスは、脾臓および胸腺におけるNKT細胞の数が増加するため、免疫系の研究をより効率的に進めることができるようになる。これまでNKT細胞の数が減少するという形質はいくつか報告されているが(例えば、Nat. Med. 2005, Vol. 11, p. 340-345)、NKT細胞の数が増加するという形質は報告されていないため、本発明のモデルマウスは、NKT細胞に関する研究対象としても非常に有用である。
2.本発明の神経原性筋萎縮症の治療薬のスクリーニング方法
本発明の神経原性筋萎縮症の治療薬のスクリーニング方法は、本発明のモデルマウスに被検物質を投与するステップと、神経原性筋萎縮症に対する被検物質の改善効果を判定するステップと、を含むことを特徴とする。本発明のモデルマウスは、神経原性筋萎縮症を発症するため、神経原性筋萎縮症の治療薬のスクリーニングに好適に使用することができる。
被検物質の種類は、特に限定されず、例えば、高分子化合物、低分子化合物、細胞培養物、組織抽出物、抗体、タンパク質、ペプチド、核酸(DNA、RNA、これらの類似体または誘導体)、糖質、無機塩類、金属錯体、これらの複合体などが挙げられる。また、これらの被検物質を本発明のモデルマウスに投与する方法も、特に限定されず、当業者に公知の方法から適宜選択すればよい。例えば、経口投与、静脈注射、腹腔内注射、経皮投与、皮下注射などが挙げられる。
被検物質の神経原性筋萎縮症に対する改善効果の判定方法は、特に限定されないが、例えばModified−SHIRPA法(Mamm. Genome 2005, Vol. 11, p. 829-837)の表現型スクリーニングにおいて5番目の項目に挙げられている「震戦(Tremor)」や16番目の項目に挙げられている「歩行状態(Gait)」などについて判定すればよい。すなわち、マウスの行動を目視で検査し、震戦が減少しているか否か、歩行状態の異常が改善しているか否かについて判定すればよい。また、神経病理学的解析などにより被検物質の効果を判定してもよい。
本発明のスクリーニング方法の結果、被検物質を投与した本発明のモデルマウスにおいて神経原性筋萎縮症の症状の改善が認められた場合、当該被検物質は神経原性筋萎縮症の治療薬の候補となりうる。すなわち、本発明のスクリーニング方法により、神経原性筋萎縮症の治療薬の候補物質を見出すことができる。また、本発明のスクリーニング方法により、見出された候補物質の治療効果を確認することもできる。
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
本実施例では、ENUを用いて本発明の神経原性筋萎縮症モデルマウスを作製した例を示す。
1.ENU溶液の調製
ENU(シグマ社)1gに100%エタノールを4mL加えてENUの粉末を懸濁させ、さらにリン酸クエン酸バッファー(0.1M NaHPO,0.05M Na pH5)を76mL加えて、ENUの粉末を完全に溶解させた。吸光度(395nm)を測定して、ENUの濃度を決定した(1OD=1mg/mL)。10mg/mLとなるように調製したENU溶液を使用分ずつ褐色バイアルに分注し、−20℃で使用時まで保存した。融解させたENU溶液は、再度吸光度測定により濃度を確認してから以後の実験に用いた。
2.ENU溶液のマウスへの投与
C57BL/6J系統の雄マウス(日本クレア)に、一週間間隔で2回、85mg/kg体重のENU溶液を投与した。この投与量は、事前の検査から1家系のゲノムあたり3000箇所(遺伝子をコードする部位に限れば100箇所)に突然変異を生じさせる量である。ENU溶液を投与した後、各個体を安全キャビネットまたはクローズドラック内で紙製ディスポーザブルケージおよび紙製床敷を用いて24時間飼育した。
ENUは変異原性だけでなく強い細胞毒性も有しているため、ENUを投与された個体(G0マウス)は、投与後一定期間(通常約7〜10週間)が経過するまで不妊となる。ENUの投与量が少なすぎると不妊期間が短くなり、逆に投与量が多すぎると不妊期間が長くなる。そこで、ENUを投与した雄マウスを投与後4〜5週間単独で飼育した後、ICR系統の雌マウス(日本クレア)と同居させて、投与してから11週目までの間にこの雌マウスを妊娠させるか否かを調べた。雌マウスを妊娠させた雄マウスは適切にENU投与がなされなかったものと判断し、以降のG1マウスの作製には使用しないこととした。
3.マウスの作製とスクリーニング
ENUの投与後11週目以降に、ICR系統の雌マウスを妊娠させなかった雄のG0マウスとC57BL6J系統の雌マウス(日本クレア)との間で体外授精および胚移植を行うことよりG1マウスを作製した。次いで、6〜8週齢の雄のG1マウスとC57BL/6J系統の雌マウスとの間で体外授精および胚移植を行うことによりG2マウスを得た。次いで、G2マウス間で体外授精を行うことで、各家系について多数の同腹受精卵(胚)を得た。この場合、各家系において、ある突然変異をホモで有する個体が1/16の確率で出現する。これらをICR系統の雌マウス(代理母)の子宮に移植することにより成長させたG3マウスについて、行動および形態に関するスクリーニング(Modified−SHIRPA法)や血液検査などを行った。
4.神経原性筋萎縮症モデルマウス
スクリーニングの結果、第6家系の成体48匹中の3匹(個体ID:#253(雌),#263(雌),#288(雄))において、生後8週目前後から四肢(特に下肢)の震戦、筋萎縮および進行性の麻痺が観察された。図1は、第6家系で異常が見られた個体(12週齢)の写真である。この写真に示すように、第6家系で異常が見られた個体では、後躯(丸で囲った箇所)の顕著な削痩や歩行異常などが観察された。
図2は、第6家系で異常が見られた個体(12週齢)の神経病理学的解析の結果を示す写真であり、(A)は脊髄前角(中枢神経系)のHE染色像、(B)は坐骨神経(末梢神経)のトルイジンブルー染色像、(C)は大腿筋(骨格筋)のHE染色像である。この個体では、脳幹から脊髄にかけてエオシン強陽性の変性軸索(スフェロイド)が観察されるとともに(図2(A)参照)、末梢神経系においては有髄線維の脱落が観察され(図2(B)参照)、下位運動ニューロンに明らかな病変が生じていた。また、大腿筋などの骨格筋においては筋萎縮が観察された(図2(C)参照)。これらの所見は、すべて神経原性筋萎縮症の一つである神経軸索ジストロフィーの所見であり、このマウスが神経原性筋萎縮症のモデルマウスとなりうることを示していた。そこで、これらの個体から神経原性筋萎縮症モデルマウスを樹立した。
樹立した神経原性筋萎縮症モデルマウスについて遺伝子マッピングを行ったところ、第15番染色体上に変異があることがわかり、さらに配列決定したところPla2g6遺伝子に点突然変異があることがわかった。このモデルマウスの変異型Pla2g6遺伝子の塩基配列を配列番号1に示し、変異型PLA2G6タンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。この変異Pla2g6遺伝子のORF領域(2259塩基対)では、1117番目のグアニン(G)がアデニン(A)に置換されており、変異型PLA2G6タンパク質(752アミノ酸残基)では、373番目のグリシン(Gly)がアルギニン(Arg)に置換されていた。PLA2G6タンパク質は、N末端側に8個のアンキリンリピートを有し、C末端側に酵素活性部位を有するが、この変異型PLA2G6タンパク質では、アンキリンリピート内に変異を有していた。
図3は、第6家系で異常が見られた3匹の個体(#253,#263,#288)についてのスクリーニングおよび血液検査の結果を示す表である。図3の表に示すように、いずれの個体においても筋萎縮、NKT細胞の増加、血小板の増加および白血球の減少が観察されたが、その他の形質についてはほとんど異常が見られなかった。これらの個体から樹立した神経原性筋萎縮症モデルマウスも同様の形質を示していた。
図4は、第6家系で異常が見られた3匹の個体および同腹の野生型の個体(コントロール)の脾臓の細胞についてのFACSの解析結果を示す図(ドットプロット)であり、(A)は#253の個体の解析結果、(B)は#263の個体の解析結果、(C)は#288の個体の解析結果、(D)は野生型の個体(コントロール)の解析結果を示す。横軸は細胞に結合した抗TCRβ抗体(APC標識)由来の蛍光強度を示し、縦軸はリガンドを介して細胞に結合したCD1d四量体(PE標識)由来の蛍光強度を示す。この結果から、野生型の個体では脾臓内で通常0.5〜0.8%のNKT細胞(いずれのマーカーも陽性)が存在するのに対し(図4(D)参照)、第6家系で異常が見られた個体の脾臓内ではNKT細胞が1.8〜2.4%程度まで増加していることがわかる。
図5は、神経原性筋萎縮症モデルマウスの個体および野生型の個体(コントロール)の脾臓の細胞についてのFACSの解析結果を示す図(ドットプロット)であり、(A)は本発明の神経原性筋萎縮症モデルマウスの個体の解析結果、(B)は野生型の個体の解析結果を示す。横軸は細胞に結合した抗TCRβ抗体(APC標識)由来の蛍光強度を示し、縦軸はリガンドを介して細胞に結合したCD1d二量体(PE標識)由来の蛍光強度を示す。この結果から、このモデルマウスの脾臓内でもNKT細胞(いずれのマーカーも陽性)が2.2%程度まで増加していることがわかる。
図6は、神経原性筋萎縮症モデルマウスの個体および野生型の個体(コントロール)の末梢血(眼窩から採取してヘパリン化したもの)の血小板数を示すグラフである。この結果から、このモデルマウスでは末梢血における血小板数が野生型に比べて多いことがわかる。
本発明のマウスは、生後8週目には発症を確認することができ、かつ遺伝子異常の形態がヒトの患者に近いため、ヒト神経原性筋萎縮症(例えば、乳児型神経軸索ジストロフィー)のモデルマウスとして有用である。
本発明の神経原性筋萎縮症モデルマウスの写真である。 本発明のモデルマウスの顕微鏡所見を示す写真であり、(A)は脊髄前角のHE染色像、(B)は坐骨神経のトルイジンブルー染色像、(C)は大腿筋のHE染色像である。 本発明のモデルマウスについてのスクリーニングの結果を示す表である。 脾臓の細胞についてのFACSの解析結果を示す図(ドットプロット)であり、(A)は#253(雌)の個体の解析結果、(B)は#263(雌)の個体の解析結果、(C)は#288(雄)の個体の解析結果、(D)はコントロールの個体の解析結果である。 脾臓の細胞についてのFACSの解析結果を示す図(ドットプロット)であり、(A)は本発明のモデルマウスの個体の解析結果、(B)はコントロールの個体の解析結果である。 本発明のモデルマウスの個体およびコントロールの個体の末梢血の血小板数を示すグラフである。

Claims (8)

  1. Ca非依存性グループ6ホスホリパーゼA2(Pla2g6)遺伝子に変異を有する神経原性筋萎縮症モデルマウスであって、
    前記変異型Pla2g6遺伝子は、野生型PLA2G6タンパク質の一または二以上のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されている変異型PLA2G6タンパク質をコードする、神経原性筋萎縮症モデルマウス。
  2. 前記変異は点突然変異である、請求項1に記載の神経原性筋萎縮症モデルマウス。
  3. 前記変異型Pla2g6遺伝子は、野生型PLA2G6タンパク質の373番目のグリシンが他のアミノ酸残基に置換されている変異型PLA2G6タンパク質をコードする、請求項1に記載の神経原性筋萎縮症モデルマウス。
  4. 前記他のアミノ酸残基はアルギニンである、請求項3に記載の神経原性筋萎縮症モデルマウス。
  5. 生後8週目に神経原性筋萎縮が確認される、請求項1に記載の神経原性筋萎縮症モデルマウス。
  6. ナチュラルキラーT細胞の数の増加がさらに確認される、請求項5に記載の神経原性筋萎縮症モデルマウス。
  7. 末梢血における血小板の数の増加がさらに確認される、請求項5に記載の神経原性筋萎縮症モデルマウス。
  8. 請求項1に記載の神経原性筋萎縮症モデルマウスに被検物質を投与するステップと、
    神経原性筋萎縮症に対する被検物質の治療効果を判定するステップと、
    を含む、神経原性筋萎縮症の治療薬のスクリーニング方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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