JP2009184859A - 金属部材、dlc膜の製造装置、及び金属部材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】少なくとも鉄を含む金属基材11上にDLC膜12を配してなる金属部材10であって、DLC膜12は、ラマンスペクトルにおいて、波数が1550〜1600[cm―1]の範囲に観測されるグラファイトに起因したピークを有し、前記ピークの強度が膜面内に複数異なって混在し、前記ピークの強度の最大と最小の差が1桁以上であること。
【選択図】図1
Description
これに対して、DLC膜面内に局所的に硬度に優れる領域と潤滑性に優れる領域とを作り分けすることができれば、用途に応じたDLC膜を自由に設計可能となることからその開発が望まれていた。
また、DLC膜の同一面内に、異なった硬度や潤滑性を有した領域を局所的に作り分けることが可能なDLC膜の製造装置を提供することを第二の目的とする。
更に、DLC膜の同一面内において、異なった硬度や潤滑性を有した領域を局所的に作り分けることが可能な金属部材の製造方法を提供することを第三の目的とする。
本発明の請求項2に記載の金属部材は、請求項1において、前記領域のうち、前記第一ピークの強度が強い領域において、前記ピークは、波数が1300〜1400[cm―1]の範囲に観測されるダイヤモンドに起因した第二ピークよりもラマン強度が強いことを特徴とする。
本発明の請求項3に記載のDLC膜の製造装置は、CAT−CVD法により金属基材上にDLC膜を形成する装置であって、前記金属基材を加熱する手段が、前記金属基材においてDLC膜が成膜される面とは反対側の面に備えられていることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の金属部材の製造方法は、少なくとも鉄を含む金属基材上にDLC膜を配してなり、前記DLC膜は、ラマンスペクトルにおいて、波数が1550〜1600[cm―1]の範囲に観測されるグラファイトに起因したピークを有し、前記ピークの強度が1桁以上異なる領域が、膜面内に複数、混在している金属部材の製造方法であって、前記金属基材にDLC膜を成膜する際に、前記DLC膜が成膜される面とは反対側の面から前記金属基材を加熱することを特徴とする。
かかる構成によれば、ピークの強度が1桁以上高い値を示す領域は高いビッカース硬度を有することから、応力の集中する部分にこの高硬度な領域を配することで、より耐久性、耐摩耗性に優れた金属部材を提供することができる。また、ピークの強度が弱い領域は、優れた潤滑性を有するので、この領域を切粉の溶着が生じやすい領域に配することで該切粉の溶着を防ぎ、より簡便に潤滑性に優れた金属部材を得ることができる。したがって、硬度に優れた領域と潤滑性に優れた領域とを局所的に併せ持ったDLC膜を備えた金属部材を得ることができる。
ここで、CAT−CVD法は、加熱した触媒体に原料ガスを接触させることで分解種を生成し、薄膜を堆積させる化学気体相堆積法であり、プラズマを用いないで薄膜を低温で成膜できること、プラズマによる基板への損傷を与えることなく原料ガスの分解種を堆積できる等の利点を有する薄膜堆積方法として知られている。この方法は、原料ガスの利用効率が高く、薄膜を高速で堆積でき、堆積領域の大面積化も可能であるので、太陽電池や液晶ディスプレイ用薄膜トランジスタ等の大面積デバイスの形成法として期待されている。また、さらにプラズマ損傷がないことから表面の脆弱な化合物半導体用の薄膜形成法として実用化されつつある。
かかる構成によれば、金属基板のDLC膜が成膜される面とは反対側の面に加熱する手段を備えたことで、金属基板のDLC膜が成膜される面の温度を、金属基材上に堆積する原料ガスの温度に対して最適な温度とすることができる。ゆえに、DLC膜の同一面内でグラファイトに起因するピークのラマン強度が1桁異なる領域が膜面内に複数、配置されたDLC膜を金属基材に成膜でき、潤滑性に優れた領域と、硬度に優れた領域とを局所的に作り分けることが可能なDLC膜の製造装置を得ることができる。
かかる構成によれば、金属基材のDLC膜が成膜される面とは反対側の面を加熱することで、DLC膜が形成される金属基材表面の温度を、堆積される原料ガスの温度に対して適切な温度で成膜することができる。したがって、金属基材上に、硬度や潤滑性の異なるDLC膜を局所的に作り分けることができる。
図1は本発明のDLC膜を備えた金属部材10を模式的に示した図である。本発明の金属部材10は、少なくとも鉄を含む金属基材11と、金属基材11上に配されたDLC膜12とから概略構成されている。また、DLC膜12は、ラマンスペクトルにおいて、波数が1550〜1600[cm―1]の範囲に観測されるグラファイトに起因したピークを有し、このピークの強度が1桁以上異なる領域が、DLC膜12面内に複数、混在している。以下、それぞれについて詳細に説明する。
DLC膜12の中心から各辺に対して3分割し、DLC膜12の中心を含む領域を中央部分α、この中央部分αの外側の領域を中淵部分β、この中淵部分の更に外側の領域を外淵部分γとすると、中央部分αにおいてはそのDLC膜12はGピークのラマン強度が強い領域12aのみが配されている。一方で、中淵部分βと外淵部分γとでは、領域12aと領域12bが局在して配されている。
光学顕微鏡の観察によって、DLC膜12は白色に見える領域(白色領域)と黒色に見える領域(黒色領域)とからなり、中央部分α、中淵部分β、外淵部分γのいずれも、これらの領域が混在して配されている。この白色領域と黒色領域において、ラマンスペクトルを観察すると、それぞれの領域のラマンスペクトルは、sp3結合を有するダイヤモンドピーク(以下、Dピークということがある)が1300〜1400[cm―1]付近に、sp2結合を有するGピークが1550〜1600[cm―1]付近にそれぞれ個別に観察される。特に、本発明の金属部材10に備えられたDLC膜12は、DピークとGピークの半値幅が小さいことから、非晶質炭素が秩序よく堆積されていると考えられる。したがって、本発明のDLC膜12は、潤滑性に優れている。
また、DLC膜12の中淵部分βと外淵部分γにおいては、光学顕微鏡によって黒色に見える領域は、Gピークのラマン強度が1桁以上強い領域12aと一致し、白色に見える領域は、Gピークのラマン強度が弱い領域12bと一致している。
DLC膜12のビッカース硬度に関しては、DLC膜12の中央部分αでは、白色領域と黒色領域とでそのビッカース硬度に違いはなく均一である。一方、DLC膜12の中淵部分βと外淵部分γとにおいて、領域12aと領域12bとではビッカース硬度に差が生じ、Gピークのラマン強度が1桁以上強い方の領域(黒色領域)12aの方が、Gピークのラマン強度が弱い方の領域(白色領域)12bと比較し、高硬度となっている。特に金属基材11の外淵にいくに従い、Gピークのラマン強度が1桁以上強い領域12aとGピークのラマン強度が弱い領域12bとのラマン強度の差は大きくなる。
特に、DLC膜12の中央部分αにおいては、白色領域(領域12a)と黒色領域(領域12a)共に、Gピークのラマン強度はDピークのラマン強度の3倍以上4倍以下である。
中淵部分βにおいては、黒色領域(領域12a)におけるGピークのラマン強度はDピークのラマン強度の7倍以上8倍以下であり、白色領域(領域12b)におけるGピークのラマン強度はDピークのラマン強度の1.5倍以上2倍以下である。
外淵部分γにおいては、黒色領域(領域12a)におけるGピークのラマン強度はDピークのラマン強度の4倍以上5倍以下であり、白色領域(領域12b)におけるGピークのラマン強度はDピークのラマン強度の1.1倍以上1.5倍以下である。
ゆえに、本発明のDLC膜の製造装置20を用いれば、金属基材11上にDLC膜12の同一面内でグラファイトに起因するピークのラマン強度が1桁以上異なる領域が複数、配置されたDLC膜12を金属基材11に成膜でき、潤滑性に優れた領域と、硬度に優れた領域とを局所的に作り分けることが可能となる。
次いで、水素:メタンの比率が10:1程度の原料ガスをおよそ10000Pa〜14000Paの圧力で吐出してDLC膜の成膜を開始する。所定の膜厚となるまで成膜することで、本発明のDLC膜12を備えた金属部材10が作製される。
鉄を含む金属基材として、厚さ7mm、1cm角のダイス鋼SKD11を用意し、この一面にCAT−CVD法によりDLC膜を成膜した。CAT−CVDによる成膜条件に関しては、加熱する手段の温度を700℃、吐出圧力を12000Paで行った。また、原料ガスとして水素:メタンを10:1で混合したものを用いて6時間成膜を行った。
DLC膜の製造装置に関しては、支持手段としては厚さ1mmの耐熱ガラスを、加熱手段としては直径が4.5cmのSiCヒータを、触媒体としてはタングステンフィラメントをコイル状にして用いた。触媒体は、できるだけ高温となることが好ましく、本例においては電流が3.0A、電圧が18Vで通電を行った(1900℃に相当する)。また、金属基材のDLC膜が成膜される面から触媒体までの距離を1cm、触媒体から吐出手段までの距離を2cm、金属基材のDLC膜が成膜される面からから吐出手段までの距離を3cmとした。
上記で作製したSKD11基材上のDLC膜に関して、その外淵部分、中淵部分、中央部分を光学顕微鏡で観察した。また、ラマン分光装置(JOBINYVON社製、ORT−64000)によって、DLC膜の外淵部分、中淵部分、中央部分のラマンスペクトルを観察した。更に、ビッカース硬度計(OLYMPUS社製、BX−60)を用いてDLC膜の外淵部分、中淵部分、中央部分のビッカース硬度をそれぞれ32箇所で測定し、その平均値を算出した。その結果を図3〜図10に示す。なお、光学顕微鏡は、500倍で観察した。また、ラマンスペクトルは励起波長633nmのHe−Neレーザーを使用した。
図3は、上記で成膜したDLC膜の外淵部分を光学顕微鏡によって観察した際の画像である。図3に示すように、DLC膜は白色領域と黒色領域とが混在して存在していた。また、ビッカース硬度は白色領域で1373HV、黒色領域で1837HVであり、黒色領域の方が硬く、硬度に差が生じていた。
図4は、黒色領域のラマンスペクトルを、図5は白色領域のラマンスペクトルをそれぞれ示している。図4及び図5から、sp2結合を示すGピークが1580cm−1付近に、sp3結合を示すDピークが1350cm−1付近にそれぞれ観察された。また、Gピーク:Dピークの比率は黒色領域の方が高く、白色領域ではその比率は低く観察された。白色領域においては、Gピークのラマン強度はDピークのラマン強度のおよそ1.24倍であった。一方、黒色領域においては、Gピークのラマン強度はDピークのラマン強度のおよそ4.6であった。更に、ラマン強度自体にも白色領域と黒色領域とで差が観察され、黒色領域のGピークのラマン強度は、白色領域のGピークのラマン強度に対しておよそ30倍であった。これは、黒色領域と比較し、白色領域の方はDLC膜がかなり薄く堆積しておりDLC膜の成長の違いが生じていること、及び、含有水素量の違いによりsp2結合とsp3結合の含まれる率が異なっていることの両方が原因で得られた結果だと考えられる。
また一般的に、物質に応力が加わると、該応力によって結晶にひずみが生じ、原子間の結合力が変化してラマンピークはシフトするが、Dピーク、Gピーク共に、白色領域と黒色領域とでピークの現れている場所が同じであるため、白色領域と黒色領域とで応力は一定であると考えられる。
図6は、DLC膜の中淵部分を光学顕微鏡によって観察した画像である。図6に示すように、DLC膜は外淵部分と同様に白色領域と黒色領域とが混在して存在していた。また、ビッカース硬度は、白色領域で1159HV、黒色領域で2084HVであり、黒色領域の方が硬く、外淵部分と同様に硬度に差が生じていた。
図7は、黒色領域のラマンスペクトルを、図8は白色領域のラマンスペクトルをそれぞれ示している。図7及び図8から、外淵部分と同様にGピークが1580cm−1付近に、Dピークが1350cm−1付近に観察された。また、Gピーク:Dピークの比率は黒色領域の方が高く、黒色領域ではGピークのラマン強度はDピークのラマン強度のおよそ7.24倍であったのに対し、白色領域ではその比率は低くおよそ1.68倍であった。更に、ラマン強度自体も黒色領域の方が高く、白色領域との間でおよそ15倍の差が観察された。これは、中淵部分は、外淵部分よりは膜が成長しているが、sp2成分が多いため、白色領域の硬度が低下したものと考えられる。また、白色領域と黒色領域において、DピークとGピークの現れている位置が同じであるため、外淵部分と同様に、白色領域と黒色領域とでは応力は一定であると考えられる。
図9は、DLC膜の中央部分を光学顕微鏡によって観察した画像である。図9に示すように、DLC膜は外淵部分、中淵部分と同様に白色領域と黒色領域とが混在して存在していた。また、ビッカース硬度は、白色領域と黒色領域で1654HV程度であり、黒色領域と白色領域で硬度の差はほとんど観察されなかった。
図10は、DLC膜の中央部分における黒色領域と白色領域のラマンスペクトルを示すものであり、両者の間に差はほとんど観察されなかった。また外淵部分、中淵部分と同様に、Gピークが1580cm−1付近に、Dピークが1350cm−1付近に観察された。Gピークのラマン強度はDピークのラマン強度のおよそ3.26倍であった。これは、色に違いが生じたものの、白色領域と黒色領域とでsp2:sp3の比率にさほどの違いがなかったか、または膜の成長の違いが少ないためにラマンスペクトルの結果には変化が無かったと考えられる。よって、これらのことから、中央部分においては、色にこそ違いはあるが、黒色領域と白色領域とでDLC膜としての性質には大きな差がないと考えられる。また、白色領域と黒色領域において、DピークとGピークの現れている位置が同じであるため、外淵部分、中淵部分と同様に、白色領域と黒色領域とでは応力は一定であると考えられる。
Claims (4)
- 少なくとも鉄を含む金属基材上にDLC膜を配してなる金属部材であって、
前記DLC膜は、ラマンスペクトルにおいて、波数が1550〜1600[cm―1]の範囲に観測されるグラファイトに起因したピークを有し、前記ピークの強度が膜面内に複数異なって混在し、前記ピークの強度の最大と最小の差が1桁以上であることを特徴とする金属部材。 - 前記領域のうち、前記ピークの強度が強い領域において、前記ピークは、波数が1300〜1400[cm―1]の範囲に観測されるダイヤモンドに起因したピークよりもラマン強度が強いことを特徴とする請求項1に記載の金属部材。
- CAT−CVD法により金属基材上にDLC膜を形成する装置であって、前記金属基材を加熱する手段が、前記金属基材においてDLC膜が成膜される面とは反対側の面に備えられていることを特徴とするDLC膜の製造装置。
- 少なくとも鉄を含む金属基材上にDLC膜を配してなり、前記DLC膜は、ラマンスペクトルにおいて、波数が1550〜1600[cm―1]の範囲に観測されるグラファイトに起因したピークを有し、前記ピークの強度が膜面内に複数異なって混在し、前記ピークの強度の最大と最小の差が1桁以上である金属部材の製造方法であって、
前記金属基材にDLC膜を成膜する際に、前記DLC膜が成膜される面とは反対側の面から前記金属基材を加熱することを特徴とする金属部材の製造方法。
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