JP2009174144A - 振動低減機構 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】構造物におけるフレーム内に層間変形により加力されてロッキングを生じる壁体3を設置し、そのロッキングによる回転慣性質量効果によって振動低減効果を得る。壁体の下部偶角部をフレームの下部入隅部に対して面内相対回転可能に支持するとともに、その回転中心である下部回転中心OAを壁体の重心位置ないし重心近傍位置に設定する。壁体の上部偶角部をフレームの上部入角部に対して面内相対回転可能に支持するとともに、その回転中心である上部回転中心OBを下部回転中心よりも上方に偏位する位置に設定する。フレームの入隅部および入隅部に壁体の偶角部を滑動可能に支持する円弧面からなる滑り面5を有する治具4を設ける。
【選択図】図1
Description
この種の機構において慣性質量を生むための具体的な装置としては、ボールねじとフライホイール(回転錘)によるものが一般的であり、特許文献1に示される上下免震装置においても所定の質量を有する円盤をボールねじ式の運動変換機構により回転させる構成の慣性質量付加機構を採用している。
すなわち、そのような機構では負担力の全てがボールねじに作用することからボールねじに座屈等が生じない範囲で使用する必要があり、それにより得られる慣性質量は現実的には1,000ton程度が限界であってそれ以上の高耐力化を図ることは困難であり、したがって大規模構造物には適用し難いものである。
そのため、上記のような機械的なメカニズムによらずに巨大な回転慣性質量効果が得られる有効適切な機構の開発も望まれていた。
特に、壁体を鉄筋コンクリートや鋼材等の一般的な建設資材により形成できるので、従来のボールねじとフライホイールによる機械的なねじ機構による回転慣性質量ダンパーに比べて安価に製作し施工することができるし、応力処理が容易であるので大規模構造物にも支障なく適用可能であり、さらには建物内に躯体として設置される壁体をそのまま回転慣性質量ダンパーとして機能する回転錘として有効利用することが可能である。
また、壁体の質量と寸法、上部回転中心と下部回転中心との間の中心間距離の設定のみで回転慣性質量を任意にかつ幅広く定めることができるし、さらには壁体のロッキングによる回転慣性質量と付加バネとによる固有振動数の設定によりTMD(チューンド・マス・ダンパー:動吸振器)として機能させることも可能である。
なお、以下の実施形態は基本的に上下対称形をなしているので、上下に対称配置されている同一構成要素には同一符号を付すが、必要に応じて下部に係わる構成要素には符号に添字Aを付し、上部に係わる構成要素には符号に添字Bを付して両者を区別する。
また、フレームの上部入隅部には滑り面5(上部滑り面5B)を有する治具4(上部治具4B)が設置されているとともに、壁体3の上部偶角部にはその上部滑り面5Bを転動する滑動機構6が取り付けられていて、その滑動機構6が上部滑り面5B上を滑らかに転動することによって壁体3は上階梁2Bに対して面内相対回転が可能とされている。そして、上階梁2Bに対する壁体3の回転中心である上部回転中心OBは上記の下部回転中心OAよりも偏位寸法aだけ上方に偏位する位置に設定されており、上部治具4Bにおける上部滑り面5Bはその上部回転中心OBを通って壁体3に直交する水平軸線を中心線とする上部回転半径R1の円弧面(円筒面)として形成されている。
なお、上部回転半径R1と下部回転半径R2とは同一であっても良いが、必ずしも同一である必要はない。
さらに、滑動機構6としては滑り支承によるもの、特にたとえば図2(c)に示すような滑り板9に対して滑り材10を滑らせる構成のものも好適に採用可能であり、それによってもμ=0.013程度以下、耐荷重2,000ton以上とすることが可能である。
なお、(a)のローラ支承および(c)の滑り支承では、一方の滑り面と滑動機構の間に隙間が生じた場合でも、圧縮側の支承で力を伝達できるので問題ない。
その際の回転角をθとすると、上部回転中心OBは水平方向にδ=asinθだけ変位し、下部回転中心OAと上部回転中心OBとの間の鉛直距離はacosθとなる(上部回転中心OBが下方にa(1-cosθ)だけ変位する)。
なお、中心間偏位寸法aの値をあまり小さくすると回転に対する摩擦抵抗や精度誤差の影響が大きくなるので、壁体3の最大寸法の5%以上の値とすることが望ましい。
しかし、回転角θがそれ以上に大きくなることを想定する場合、厳密には上部回転中心OBの鉛直偏位を考慮して上部滑り面5Bの形状を以下の手法で補正することが望ましい。
壁体3が静止状態にある通常時の場合、上部治具4Bに対する壁体3の上部偶角部の支持点の座標(x0,y0)は、上部回転半径R1、上部回転中心OBとその支持点を結ぶ直線と鉛直線のなす角度φとすると、(x0,y0)=(R1sinφ,-b+a+R1cosφ)である。
その状態から壁体3が図示時計回りに回転角θだけ回転し、上部回転中心OBが下方に変位するとともに下部回転中心OAも時計回りに水平変位して、下部回転中心OAおよび上部回転中心OBの座標がそれぞれ(-asinθ,-b)、(0,-b+acosθ)になったとすると、それに伴い、上部治具4Bによる壁体3の上部偶角部に対する支持点(x,y)の座標は、
(x,y)=(R1sin(φ+θ),-b+acosθ+R1cos(φ+θ)) となる。
したがって、上部治具4Bにおける上部滑り面5Bの形状をそのような回転軌跡に厳密に合致する形状の疑似円弧面としておくことにより、回転角θが大きくなった場合にも壁体3の上部偶角部が上部滑り面5Bから浮いて離間してしまうことが回避され、壁体3は常に上部治具4Bにより支持されつつ滑らかに滑動して壁体3を安定にロッキングさせることが可能である。
(1)上記の振動低減機構は壁体3のロッキングにより生じる回転慣性質量を利用する回転慣性質量ダンパーとして機能するものであって、その回転慣性質量ダンパーを構造体バネ(構造剛性)と並列配置した構造の応答低減機構であるので、構造物の長周期化、地震動入力の低減、遮断振動数における振動低減効果を有効に発揮できる。
(2)従来一般のボールねじとフライホイールによる機械的な機構による回転慣性質量ダンパーと比較して回転錘としての壁体3に対する慣性質量の比は小さくなるものの、1,000tonを超えるような巨大な慣性質量効果を容易に実現することができる。
(3)壁体3は鉄筋コンクリートや鋼材ないしそれらの組合せにより安価に製作できるし(但しそれに限定されるものではなく、所望の質量が得られるものであれば適宜の材料が採用可能である)、質量と寸法の設定により回転慣性質量が定まるものであって、下部回転中心OAと上部回転中心OBの双方の回りで回転できるという条件を満たすことのみで巨大な慣性質量が得られるので、従来の機械的なねじ機構によるものよりも安価に製作し施工することができる。
(5)壁体3と上下の梁2との間での力は円弧状の滑り面4と滑動機構6との間で伝達されるが、その伝達面積は必要に応じて大きくとることができるから、従来のボールねじの断面積だけで負担力を全て処理する機械的な機構と比較して単位面積当たりの応力は小さくなり、応力処理が容易である。
(6)滑動機構6として図2(a)に示したようなローラ支承や図2(c)に示したような滑り支承を採用すれば、支承部と滑り面との間で引張力を伝達せずに圧縮力のみとすることができる。引張と圧縮の両方を伝達する機構だと逃げ寸法を確保することができないが、圧縮のみならば滑り面と支承との間にわずかな隙間があっても問題なく滑動でき、精度管理が容易になることから安価に製造できる。
また、滑動機構6として図2(b)に示したようなようなリニアガイドを採用すれば、圧縮力のみならず引張力に対しても抵抗できて壁体3の浮き上がり(滑り面との離間)を防止することができる。
(7)壁体の四隅の偶角部を滑動可能に支持するので、滑動機構や滑り支承は壁体の四隅部に対してのみ設置することで充分であり、したがって壁体と構造体との接触面積が小さく、支承部品も小さくなることから安価にできる。また、滑り面での接触長さが小さくなることで寸法精度管理も容易である。
(8)上部回転中心OBの回転時の鉛直変位を考慮して上部滑り面4Bを疑似円弧面とすれば、ロッキング回転角が大きくなっても壁体3と上部滑り面4Bとが離間せずに円滑にロッキング振動させることができる。
(9)建物内に躯体として設置される壁体3を回転錘として有効利用することにより、格別の制震機構を設置することによる有効面積の減少を防止することができる。
これは図4に示したように上部治具4Bを主治具14の両端部に設置したうえで、その主治具14を上階梁2Bに対して軸方向に相対変位可能に設置し、主治具14とフレームとの間に付加バネ15および付加減衰16を介装したものである。図5(a)は主治具14と上階梁2Bとの間に付加バネ15としての積層ゴムと付加減衰16としてオイルダンパーを設置したもの、(b)は主治具14の両端部と両側の柱1との間に付加バネ15としてのコイルバネと付加減衰16としてダッシュポットを介装したものであり、いずれも同様に機能するものである。
すなわち、付加バネ15のバネ定数k0、壁体3の回転慣性質量Ψ、振動抑制対象振動数f0(振動抑制対象角振動数ω0)の場合、それらの間に次式の関係が成り立つように各諸元を設定する。
壁体3をRC壁とし、壁厚0.5m、幅9m、高さ6m、質量64.8tonとする。
壁体3の中心間偏位寸法a=0.5mとすると、壁体3の回転慣性モーメントIp=632ton・m2、回転慣性質量Ψ=2,527tonとなる。
上記の壁体3により構成される回転慣性質量ダンパーをTMDとして機能させて、周期2秒、固有振動数f0=0.5Hz、ω0=2πf0=3.14rad/sの建物に同調させる設計とする。
付加バネ15として3台の積層ゴムを用いる場合、所要バネ定数はk0=Ψω0 2=25.4tonf/cmである。積層ゴムの材質G12、ゴム厚60mmとすると、ゴムの総所要せん断面積A=12,700cm2、したがって1台当たりの所要せん断面積A=4,200cm2、故に積層ゴムとしては500×850×3台を用いることで充分である。
付加振動系の減衰定数h=0.07とすると、減衰係数c0=2mω0=1,100kN・s/m=11kN/kineであり、汎用の小容量の免震用オイルダンパーを用いることで充分である。
なお、付加減衰16は上記のように付加バネ15に対して並列に設置するばかりでなく、壁体3と上部治具4Bとの間に設置しても良く、その場合は上述したように壁体3と上部治具4Bとの間の滑動機構6における摩擦係数を適正に設定して所望の減衰性能を持たせることにより、それ自体を付加減衰16として機能させることも考えられる。
また、上部治具4Bに代えて下部治具4Aに対して同様の構成を採用することによっても(つまり図5の天地を逆にした構成とすることによっても)、同様の効果が得られる。
特に、回転錘としての壁体3の中央部の質量は回転慣性質量効果を得る上ではあまり寄与しないし、下部回転中心OAおよび上部回転中心OBは単に仮想中心であってそれらの位置に実際に回転軸やピンの類を設ける必要もないから、壁体3の中央部を切り欠いてそこに開口部20、21を形成することは何らの支障がないばかりか、寧ろ壁体3に好適な質量分布を持たせることになって合理的である。
さらになお、複数の壁体3を組み合わせて中空箱状のユニットを構成してその内部を室として利用することとし、その室全体をロッキングさせることも不可能ではない。
破線の勾配と同じで符号を正にしたバネ剛性をもつ付加振動系を考えたとき、等価減衰定数heqは次式となる。
また、同調時の減衰定数をh=0.07とすると、摩擦係数μ=0.016となる。図2(c)に示したような一般的な市販の滑り支承においても摩擦係数μ=0.013程度とできるので、そのような滑り支承による摩擦抵抗で適切な減衰を付与することが可能であることが分かる。
2 梁
2A 下階梁
2B 上階梁
3 壁体
4 治具
4A 下部治具
4B 上部治具
5 滑り面
5A 下部滑り面
5B 上部滑り面
6 滑動機構
7 ガイドレール
8 スライダー
9 滑り板
10 滑り材
14 主治具
15 付加バネ
16 付加減衰
20,21 開口部
Claims (4)
- 構造物における左右の柱とそれらの間に架設された下階梁と上階梁とにより構成されたフレーム内に、該フレームの面内において下階梁と上階梁との間で生じる相対振動により加力されてロッキングを生じる壁体を設置し、該壁体のロッキングによる回転慣性質量効果によって前記相対振動を低減せしめる構成の振動低減機構であって、
前記壁体の下部偶角部を前記フレームの下部入隅部に対して面内相対回転可能に支持するとともに、その回転中心である下部回転中心を該壁体の重心位置ないし重心近傍位置に設定し、
前記壁体の上部偶角部を前記フレームの上部入角部に対して面内相対回転可能に支持するとともに、その回転中心である上部回転中心を前記下部回転中心よりも上方に偏位する位置に設定してなり、
前記フレームの下部入隅部に前記壁体の下部偶角部を滑動可能に支持する下部滑り面を有する下部治具を設けて、該下部治具における前記下部滑り面を、前記下部回転中心を通りかつ前記壁体に直交する水平軸線を中心線とする円弧面により形成し、
前記フレームの上部入隅部に前記壁体の上部偶角部を滑動可能に支持する上部滑り面を有する上部治具を設けて、該上部治具における前記上部滑り面を、前記上部回転中心を通りかつ前記壁体に直交する水平軸線を中心線とする円弧面により形成してなることを特徴とする振動低減機構。 - 請求項1記載の振動低減機構であって、
前記上部治具における前記上部滑り面としての円弧面を、前記壁体が前記下部回転中心を中心として回転した際における前記上部回転中心の上下方向の変位を考慮して補正した疑似円弧面としてなることを特徴とする振動低減機構。 - 請求項1または2記載の振動低減機構であって、
前記壁体の下部偶角部と前記下部治具との間、および前記壁体の上部偶角部と前記上部治具との間に、前記壁体を回転可能に支持する滑動機構を介装してなることを特徴とする振動低減機構。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の振動低減機構であって、
前記上部治具または前記下部治具を主治具の両端部に設けて、該主治具を前記上階梁または下階梁に対して面内水平方向に相対変位可能に設置するとともに、該主治具と前記上階梁または下階梁の間に付加バネを介装してなることを特徴とする振動低減機構。
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