本発明は感温ペレット型温度ヒューズおよびそれに用いる感温ペレットの製造方法に関し、特に、感温材に熱可塑性樹脂を使用した感温ペレット型温度ヒューズに関するものである。
温度ヒューズは、使用する感温材により大きく2つに分類され、非導電性の感温物質を使用する感温ペレット型温度ヒューズと導電性の低融点合金を使用する可溶合金型温度ヒューズとがある。いずれも周囲温度が上昇する時に所定の温度で作動して機器や装置の電流遮断あるいは通電路の導通を形成して装置・機器類を保護する、いわゆる非復帰型温度スイッチである。作動する温度は使用する感温材で決められ、通常、60℃から240℃、定格電流が0.5Aから15Aの範囲で機能する保護部品として品揃えされ、初期の常温状態における導通または遮断状態を所定の動作温度で逆転させて遮断または導通状態にする電気的保護手段である。このうち感温ペレット型温度ヒューズは、通常、非導電性の感温ペレットを使用し、これを両端にリードを取付けた外囲器内に収容し、これに圧縮ばねなどで可動導電体に押圧を作用させて構成されている。感温ペレットは所定の溶融温度を有する化学薬品を所定形状に成形加工で造粒しこれを打錠成形によりペレット化したものである。
従来、実用化されている感温ペレット型温度ヒューズに使用されている感温ペレットの材料は、一般にペレット状に打錠した既知の融点を有する単一の有機化合物からなり、これらに造粒性をあげるためのバインダ、充填密度を均一化するための潤滑剤や感温ペレットの種類を分けるための顔料等を配合することによって得られてきた。例えば単一の有機化合物を使用した例としては、特許文献1に示すような感温ペレット型温度ヒューズが知られている。これは、純粋な化学薬品(有機化合物と同義として用いる)として4−メチルウンベリフェロンを感温ペレット型温度ヒューズの感温ペレットとして使用したものである。次に2種以上の有機化合物を混合することによって最初の原料と異なる融点をもたせる方法が既に公知となっている。例えば、特許文献2および特許文献3は、いずれも既知の2種もしくはそれ以上の有機化合物を混合することで最初の有機化合物のもつ融点を下回る新たな融点を持つ共融混合物を作り出すことが可能であることを開示している。また、それによって得られた共融混合物は、熱的安定性と絶縁性とを維持するとある。この場合に感温ペレット型温度ヒューズに使用される感温ペレット部材は純粋な化学薬品を用いており、逆に意図しない化学薬品が混入した場合には融点が変動すると言われる。これらのことから温度ヒューズ用の感温ペレットに用いられる化学薬品は、試薬1級や特級等の高純度品が一般的に用いられるが、それらのすべては低分子化合物が用いられてきた。また、これらはいずれも粉状の化学薬品を単一の場合はそのままで、2種以上の場合は混ぜ合わせてペレット状に打錠成形して作られている。一方、感温ペレットの溶融時の絶縁抵抗については特許文献4が知られており、ペレット化の問題解消策が提案されている。
従来、感温物質として感温溶解体としてパラフィンや耐熱非導電性合成樹脂材を使用した温度ヒューズが特許文献5または特許文献6に開示される。いずれの場合も使用する感温材自体が持つ溶融性を利用するものであるものの選定材料の特性や構造上に問題があって実用化されていない。
特許第1702939号公報
特開2002−163966号公報
特許第2551754号公報
実公平6−12594号公報
特開昭50−138354号公報
実開昭51−145538号公報
ところで、感温ペレット型温度ヒューズに用いられる感温ペレットは、融点に近い高温下では感温ペレットに昇華現象が見られペレットの縮小化が生じたりすることがある。また、潮解現象により感温ペレットは湿気や水等で溶解することがある。いずれの場合も感温ペレット型温度ヒューズにとっては、断線の原因となる。このため感温ペレット型温度ヒューズは熱的・物理的・化学的に十分に安定であるとはいいがたく環境によって影響を受ける。また、粉を固めて成形しているため強度的に弱く製造過程での取り扱いにおいて割れや欠けが発生するといった不具合が生じ易い。感温ペレット型温度ヒューズを利用する場合には動作後の絶縁抵抗値が低いと言った特性上の問題点もあり、例えば、特許文献2および特許文献4にそうした問題を提起している。さらに、近年、温度ヒューズの即応答性を求められる傾向にあり、応答速度の向上を求められている。これまでは、上記の諸問題に対して個別の解決方法が提案されているが個別的に満足できるものがなく、また、すべてを万遍なく満たすような材料に関する提案がなされていなかった。例えば、後に詳しく述べるが、絶縁抵抗値の高い材料は必ずしも潮解しないというわけではなく、むしろ他材料に比べ溶け易く、昇華もしやすいという問題を抱えている。
上述の感温ペレットを用いる温度ヒューズは、感温材に比較的純粋な化学薬品が使用されており、この物質を造粒し所定の形状に成形加工してペレットとするのであるが、ペレット化後の軟化、変形、昇華、潮解性など環境条件の影響を受けやすく、製造上の各処理工程や製品後の保管条件などの観点で多くの問題点があった。たとえば、ペレット成形加工では材質自体に潮解性があるものでは外気に触れることで変形したり溶け出したりするため外気遮断のための厳しいシール管理が要求される。また、粉体成形加工品のため機械的強度が弱く温度ヒューズの組立て時、スプリング圧により変形して不具合となることがある。さらには、製品後の温度ヒューズに対して、高温高湿の保管条件ではペレットの昇華、潮解など製品寿命に影響を受けることがあり、またこれらは電気的特性の低下にもつながる。化学薬品、特に低分子量の化学薬品を使用する従来の感温ペレットでは、高温高湿下での軟化変形が顕著で徐々に縮小化して接点が解離する不具合を招く。それゆえ、使用環境や経時的変化の影響を受け難くて、周囲の厳しい保管雰囲気に曝され高温高湿や有害ガスを浴びる環境下においても感温ペレット自体に欠陥を生じさせない感温ペレット型温度ヒューズの提案が望まれていた。
一方、従来の樹脂材使用の温度ヒューズでは樹脂材の溶解性を利用しているが、動作温度の設定手段を具体的に明示しておらず、動作温度の精度が満足に得られなかった。また、正確な動作温度が不明のために実用性を欠くなどの欠点があり、こうした欠点を改善する感温ペレット型温度ヒューズの提供が望まれていた。また、応答速度についても明確な解決策が示されておらず、速応答性を求められる温度ヒューズにあって実用化には至っていない。更に、使用する樹脂材が広範に渡って異なる特性を有するためにその選択が難しかった。例えば、樹脂材が結晶性を有する熱可塑性樹脂の融点を利用したものであっても、その融点は結晶度合いや組成によって大きく異なり動作温度を融点のみで決定できず、動作温度の調整なしには融点自体でこれを利用できる熱可塑性樹脂は限られ、実用的な温度ヒューズに求められる動作温度設定域に対して満足されなかった。また、融点を有する結晶性の熱可塑性樹脂であってもその吸熱ピークはブロードで、これまで温度ヒューズに求められている狭い吸熱ピークを持った材料とはかけ離れたものであり、さらに非晶性の熱可塑性樹脂では融点自体が利用できなかった。
したがって、本発明の目的は、上記欠点を解消するために提案されたものであり、感温ペレットに使用する感温材の物理的化学的特性に着目して使用材料を選定すると共に所定の動作温度を確保するための新規且つ改良された調整手段を提案して実用化可能な感温ペレット型温度ヒューズを提供することにある。すなわち、従来の感温ペレットのもつ物理的化学的な諸問題を総合的に解決するための温度設定手段を明らかにして新規且つ改良された感温ペレット型温度ヒューズを提供し、これに使用する感温ペレットの製造方法を提案する。
以下、本発明の目的を挙げると、感温材の選択と所望する動作温度の調整可能な温度設定手段により感温ペレットの昇華を抑止して特性を改良する感温ペレットを提供すること、高温度で使用可能な熱的に安定した感温ペレットを提供すること、水やアルコールへの潮解を抑えた感温ペレットを提供することである。更には、強度を改善して割れ欠けの不良を低減する感温ペレットであり、高温下での耐電圧性、絶縁抵抗を向上させる改良した感温ペレットを提供することであり、それにより、動作温度の精度や応答速度性を改良して高温度で使用可能な熱的に安定した感温ペレット型温度ヒューズの提供を目的とする。
本発明の別の目的は、従来の純粋な低分子量の化学薬品を使用して融点を動作温度として利用する場合には数十万点という豊富な中からの選択が可能であったが、感温材に高分子物質を使用する場合には動作温度の設定が問題であり、これを解消して動作精度を向上させることにある。さらに、高分子物質の使用により幅広い温度帯をカバーし得る感温ペレット型温度ヒューズを提供することである。加えて、従来と異なり、本発明では熱的そして物理的化学的に安定な感温材の使用により製作の容易な感温ペレットの製造方法を開示することである。
本発明によれば、感温ペレットは感温材として高分子物質の熱可塑性樹脂から選択して使用され、選択した熱可塑性樹脂の熱変形温度を温度設定手段の適用により任意の所望される動作温度に調整して利用する感温ペレット型温度ヒューズが開示される。すなわち、加熱過程で熱変形する感温材をペレット状に成形した感温ペレットが収容される筒型外囲器と、外囲器の一端開口側に取付けた第1電極を形成する第1リード部材と、外囲器の他端開口側に取付けた第2電極を形成する第2リード部材と、外囲器に収容して感温ペレットに係留する可動導電部材と、外囲器に収容して可動導電部材に押圧力を作用させるスプリング部材とを具備し、感温材は加温により可塑性を有する高分子物質からなり、スプリング部材の押圧力が付与される感温ペレットは加熱時に所望する動作温度で軟化または融解して熱的変形を生じさせ、所望する動作温度は熱的変形の度合いを調整するための温度設定手段が利用され、それにより感温ペレットが所望する動作温度に加熱された際に、第1電極および第2電極間の電気回路を切換えることを特徴とする感温ペレット型温度ヒューズである。具体的には、所定の温度で熱変形する熱可塑性樹脂からなる感温ペレットと、この感温ペレットを収容する筒型外囲器と、外囲器の一端開口側の第1リード部材と、他端開口側の第2リード部材と、この外囲器に収容される可動導電部材、この可動導電部材に押圧作用する強圧縮ばねおよび弱圧縮ばねのスプリング部材を含むスイッチング機能部品とを具備し、温度設定手段により感温ペレットの軟化または融解の際に生ずる熱変形温度の所望する動作温度を調整した感温ペレット型温度ヒューズを開示する。特に、感温ペレットは、高分子物質の非晶性熱可塑性樹脂および結晶性熱可塑性樹脂のいずれも使用することができ、温度設定手段としては、前者の非晶性熱可塑性樹脂の場合は軟化点(Tg)よりも高温域で所望する動作温度を調整し、後者の結晶性熱可塑性樹脂の場合は補外融解開始温度(Tim)と融解ピーク温度(Tpm)に代表される融解温度特性の温度差を利用する。さらに、後者の場合、結晶化の度合いおよびアニール処理や造核剤の添加も温度設定手段として所望する動作温度の調整に利用する。
また、本発明の温度設定手段である所望する動作温度の調整は、ばねを調整手段として用いることにより任意に設定して感温ペレットに加わる荷重を調整する。更に、好ましくは、オレフィン系熱可塑性樹脂を使用したり、熱可塑性樹脂の重合または共重合、エラストマーやポリマーのブレンドおよび可塑剤等の添加で感温ペレット自体の熱変形温度を設定することができる。また、ペレットの機械的強度を変更して熱変形温度を変えることができ、その具体的方法は充填材等の添加やペレットへの荷重を変えるためのペレットサイズやペレットとばねとの間に配置する介在板の有無、その大きさなどの物理的ディメンションを任意に変える方法がある。
本発明の別の観点において、所定の温度で熱変形する結晶性を有する高分子物質からなる感温ペレットと、この感温ペレットを収容する筒型外囲器と、この外囲器の一端開口側に取付けた第1電極を形成する第1リード部材および他端開口側に取付けた第2電極を形成する第2リード部材と、外囲器内の感温ペレットに係留する可動導電部材と、この可動導電部材に押圧作用させるスプリング部材とを具備し、動作温度で感温ペレットが溶融することで第1電極および第2電極間の電気回路を切換える感温ペレット型温度ヒューズにおいて、この感温ペレットの動作温度を融点調整手段により任意に設定することが提供される。感温ペレットは所定の温度で融解または軟化する感温材を用いた感温ペレットからなり、結晶性を有する高分子、好ましくは結晶性を有する熱可塑性樹脂をベース材料に用い、これに各種の添加剤、強化材や充填材を添加することができる。また、所望する動作温度を得るために主材料の結晶性を有する高分子や熱可塑性樹脂の重合度を変える等の融点調整手段の導入を提案した。すなわち、動作温度の調整が必要な場合には主材料の選択以外にこれらを任意に重合、共重合、可塑化やブレンドによっても実現できる。また、これらベース材の高分子物質や熱可塑性樹脂を合成し精製する際に触媒を変えることによって機械的強度、分子量分布そして融点を変えることも提案される。これらによって得られた感温ペレット型温度ヒューズの感温ペレットは、潮解や昇華に伴う重量減少を抑える。そして、水への潮解性等もほとんど見られず、耐電圧特性を向上させかつ強度的にも割れ欠けを無くして不具合の発生を阻止する。また、感温ペレットの製造方法では、従来の粉体成形に対して本発明は溶融成形ができるようになったため、射出成形や押出し成形あるいはシート状の打ち抜き加工ができるので、従来形状は勿論、新たに空洞、窪み、穴を形成した感温ペレットも容易にできる。こうした成形の自由度を利用すれば感温ペレットの即応性や製造コストの低減化に役立ち、安価で応答速度を上げる温度ヒューズを提供できる形状を得る。また、ガスバリア性や吸湿性等に問題のある感温ペレットの特性を改善するために異なる熱可塑性樹脂を一部または全面に形成させることもできる。
本発明によれば、感温ペレットに使用する感温材には高分子物質の熱可塑性樹脂の単体あるいは重合、共重合、またはブレンド処理や各種添加剤の使用により選択できる。こうした温度設定手段は温度ヒューズの感温材としての幅広い使用材料を提供して温度ヒューズの所望する動作温度に広い温度領域を実現して、従来の温度帯を補うだけでなくさらに高温度域での熱的安定な材料選択を可能にする。また、ペレットの物理的化学的特性を考慮して添加物を選択して成形加工が容易で成形したペレットの強度や変形変質を抑止して、長寿命化と動作安定化の実現が期待できる。特に、組立加工の容易さとペレット強度の改善は感温ペレット型温度ヒューズの構成部品の簡素化に役立ち、ロ−コスト製品の提供を可能にする。一方、温度ヒューズの保管並びに経時変化において、高湿度や有害ガスの雰囲気中に置かれても長期にわたり安定化が図られ、腐食や絶縁度の劣化を防ぎ、保管中はもとより使用中でも電気的特性を含めた性能低下を防止し、経年変化も抑止され常に所定の動作温度で正確に作動する安定性と信頼性の向上に役立つなどの実用的効果が大きい。
また、本発明の温度設定手段は、任意の熱変形温度である所望する動作温度を調整するため、スプリング部材の強圧縮ばねと弱圧縮ばねの組み合わせにより押圧力を変えて、使用する感温材の結晶性や非晶性に拘わらずいずれの選択も可能とする。結晶性の熱可塑性樹脂についてはJIS規格(JIS K 7121)にも規定される補外融解開始温度(Tim)と融解ピーク温度(Tpm)の温度差を目安として利用することで幅広い動作温度域の設定可能な感温ペレット型温度ヒューズを提供する。また、非晶性の熱可塑性樹脂については軟化点(Tg)より温度が高い領域での熱変形温度を利用し、これを押圧により任意に設定した感温ペレット型温度ヒューズが提供できる。別の温度設定手段としては、熱可塑性樹脂自体の共重合化、エラストマーやポリマーのブレンド、そしてタルク等に代表される充填材や可塑剤の添加によって熱変形温度を調整できる。つまり、本発明では高分子物質である熱可塑性樹脂の化学的、物理的処理による熱変形温度の変更と本体構造に代表されるばね圧によって所望される熱変形温度、つまり動作温度の調整設定を可能とするなどその効果は大きい。
本発明の感温ペレット型温度ヒューズは、所定の動作温度で熱変形する高分子物質の熱可塑性樹脂からなる感温ペレットと、この感温ペレットを収容する筒状金属ケースと、この金属ケースの一端開口側にかしめ固定して取付けられてケース内壁面を第1電極とする第1リード部材と、この金属ケースの他端開口側に装着した絶縁ブッシングと、この絶縁ブッシングを貫通配置してその先端部を第2電極とする第2リード部材と、この金属ケースに収容されその内周壁と電気的に接続する可動接点体と、この金属ケースに収容され可動接点体に押圧作用する圧縮ばね部材とを具備し、感温ペレットの熱変形時に第1および第2電極間を遮断または導通状態に切換える。詳しくは、圧縮ばね部材が強圧縮ばねと弱圧縮ばねからなり、強圧縮ばねが弱圧縮ばねの弾性力に抗して可動接点体を第2電極に押圧接触させる。特に、強圧縮ばねはその両端に押圧板を介して感温ペレットおよび可動接点体の間に配置し、組立の容易化と共にばね動作の安定化が図られ、感温ペレットの溶融時に弱圧縮ばねの押圧力により可動接点体を移動させて回路遮断する常時ON−異常時OFFの温度ヒューズとする。ここで、本発明における熱可塑性樹脂は、必ずしも100%の結晶性を指すのではなく、半結晶性や非晶性を含めて温度設定手段との組み合わせで使用される。また、本発明における熱変形温度は、加熱時に感温ペレットに荷重が加わっている構造のものであり、かつ、その過重値の精度を出すために強圧縮ばねが弱圧縮ばねの弾性力に抗して可動接点体を第2電極に押圧接触させる構造に特定することもできる。
本発明の感温ペレット型温度ヒューズのペレット用感温材として使用できる結晶性の熱可塑性樹脂は、表1に示されるものがあり、それぞれの化学物理的特性に応じて所望する動作温度の調整に温度設定手段が適用される。同様に、ペレット用感温材として使用できる非晶性の熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)そして変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)等である。
本発明において、非晶性の熱可塑性樹脂を感温ペレットとして使用した場合、温度設定手段は軟化点(Tg)以上の温度領域で調整された動作温度で熱変形させることによって異常時に動作する感温ペレット型温度ヒューズを得ることができる。
また、本発明の温度ヒューズ用感温ペレットとして使用できる結晶性の熱可塑性樹脂は、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(超高分子量PE)や超低密度ポリエチレン(VLDPE)等のポリエチレン(PE)のほかにポリアセタール(POM)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、三フッ化塩化エチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、四フッ化エチレン(PTFE)、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、四フッ化エチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフロライド共重合体、四フッ化エチレン−ヘキサフルオロプロピレン−エチレン共重合体(EFEP)等の含フッ素樹脂(FR)、更にはポリステル系(ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN))、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミド(PA)としてのPA6、PA6−6、PA12、PA11、PA9T、PA6T、PA46、PA6−10、ポリアミドMXD6等の直鎖脂肪族ポリアミド、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリミクロイキシンジメチレンテレフタレート(PCT)、エチレン−メチルアクリレート2元共重合体(EMA)、エチレン−エチルアクリレート2元共重合体(EEA)、エチレン−ブチルアクリレート2元共重合体(EBA)、エチレン−アクリル酸エステル−酸無水基含有モノマー3元共重合体等である。
結晶性の熱可塑性樹脂を感温ペレットとして組み込んだ感温ペレット型温度ヒューズは、ばねによる押圧を利用することで任意に設定される動作温度において熱変形し第1および第2電極間を遮断または導通状態に切換える。この時、所望する動作温度の調整は、まず、結晶性の熱可塑性樹脂の融点を基準に選定し、次に補外融解開始温度(Tim)と補外融解終了温度(Tem)から熱変形温度を任意に決める温度設定手段が適用される。従来の低分子化合物では、融解ピーク温度(Tpm)と補外融解開始温度(Tim)の差は小さければ小さいほど温度ヒューズとして適した感温ペレット材料とされてきたが、本発明によれば温度設定の自由度は、補外融解開始温度(Tim)と融解ピーク温度(Tpm)にある程度の幅を持たせることによって得ることができる。すなわち、TimとTpmの温度差は5℃以上離れていること、選択材料によっては10℃以上離れているものもある。また、本発明によれば、同一部材を用いた場合であっても、温度設定手段として感温ペレットに加わる押圧荷重値を任意に設定することによって、それぞれ異なる熱変形温度として所望する動作温度を調整することができる。
本発明の特徴である所望する動作温度を調整する温度設定手段には、使用する結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度によって選別することができる。例えば、感温ペレット型温度ヒューズ用感温材に求められる結晶化度は、20%以上であったり、30%以上であったり、あるいは40%以上であったりするが、好ましい結晶化度は熱変形温度のばらつき具合で選定される。また、別の温度設定手段は使用する熱可塑性樹脂の共重合、エラストマーブレンド、ポリマーブレンド、充填材や可塑剤の添加によることができる。さらに、感温ペレットの熱変形温度は、感温ペレットに付与する押圧によって変えることができ、この押圧を変える方法としては、強圧縮ばね、弱圧縮ばねのばね荷重値の調整や強圧縮ばねと感温ペレットの間に挿入された板材の大きさ変更による荷重値調整そして感温ペレット自体の寸法あるいは体積によって任意に荷重値を変えることである。また、これらは、任意に組み合わせてもよい。
本発明によれば感温ペレットは、感温材が2種以上の高分子物質からなり、そのうちの1種について表1および表2に掲載する。また、ポリマーブレンド、ポリマーアロイにすることや重合、共重合や重縮合させることによって新たな性質を持った感温材とすることができる。例えば、エチレンとアクリレートとの共重合で特にメチルアクリレートの共重合ではエチレン−メチルアクリレート2元共重合体(EMA)を得ることができ、エチレンとエチルアクリレートの共重合ではエチレン−エチルアクリレート2元共重合体(EEA)を、また、エチレンとブチルアクリレートではエチレン−ブチルアクリレート2元共重合体(EBA)がある。他にはエチレン−アクリル酸エステル−酸無水基含有モノマー3元共重合体等があって、これらは温度ヒューズにとって重要な要素である動作温度の選択幅を広げるのに役立つ。また、2種の熱可塑性樹脂を混ぜ合わせると分子レベルで完全に混ざる場合もあるが多くは相分離する。つまり相溶性が悪いのが一般的である。通常、分子レベルで完全に混ざるとその性質は2種の熱可塑性樹脂の中間性質を示すようになる。また、両方の利点を引き出そうとする場合には、相分離した構造のまま用いることができる。例えば、PA6にゴム(エチレン・プロピレンゴム)を混練したものやあるいはこれを共重合反応させたPA6/エチレン・プロピレンゴムランダム共重合体ゴムブレンドとしてもよい。特に本発明ではゴム弾性も強度的な特性から注目すべきではあるが、製造方法及び製造プロセスを変えることによって目的とする融点を得ることに主眼を置いている。また、別の組み合わせとしては、HDPEにPAをブレンドして相溶化剤を加えて分散させてポリマーブレンドすることもできる。また、別のブレンドポリマー例としては、EVA、PAそしてPPとEVOHのブレンドポリマーある。これらは、フィルムでの場合である。個々単独材質でのフィルムは、ガスバリア性が低いためガスバリア性の高いEVOHとのブレンドポリマー化によりガスバリア性を得ることを目的としたブレンドポリマーである。
本発明によればスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂およびフッ素系樹脂を選択してそれぞれ重合、共重合や重縮合することで熱変形温度を調整することができる。ここで、一例を示すとポリアミド系樹脂で融点220℃のPA6を選んだ場合、PA6Tとの共重合体で得られるPA6/6T共重合体の融点は、295℃である。また、PA6と融点260℃のPA66との共重合体で得られるPA6/66共重合体の融点は、196℃、そしてPA66/6共重合体では243℃である。この様な結晶性を有する熱可塑性樹脂とその融点を表2に示す。
特に、ポリエステル系およびフッ素系樹脂の共重合体では融点が比較的広い範囲を持った共重合体を得ることができる。加えて、感温ペレットに柔軟性を持たせるために非晶性の熱可塑性高分子であるゴムやポリエーテル等と組み合わせて使用することができる。可能な組み合わせは、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーおよびポリエステル系エラストマー等である。例えば、ポリエステル系の組み合わせは、ポリブチレンテレフタレート(PBT)とポリエーテルとのブロック共重合体が東レ・デュポン株式会社製の商品名ハイトレルとして市販されている。この共重合体の融点幅は、154℃〜227℃と幅広く揃っている。PBTを単独で使用した場合は、感温ペレットの硬度が高くなりさらにはひびが入る場合もあるが、PBTにゴム弾性体の機能を付与したPBTとポリエーテルをブロック共重合体にすることで感温ペレットに柔軟性を持たせることができる。これを使用した感温ペレット型温度ヒューズは、動作温度を調整することができ、また、動作温度時にはスムーズに感温ペレットを変形させることができるため、その結果応答速度を上げることもできる。
フッ素樹脂についても共重合体のモノマー比を変えることで種々の共重合体が生み出されている。特に四フッ化エチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフロライド共重合体は、低温で使用できかつモノマー比を調整することで融点の領域も110℃〜195℃までの範囲で選択することができる。この例としては、住友スリーエム株式会社製の商品名ダイニオンTHV(登録商標)をあげることができる。また、高温度帯としては、PTFEの約327℃を筆頭にしてPFAの約305℃そしてFEPの約270℃と言うようにこれまでの感温ペレット型温度ヒューズには無かった温度帯での製品化が可能となる。ここで、フッ素樹脂は、耐薬品性に優れ、樹脂としての連続使用温度もPTFEで260℃、PFAで260℃そしてFEPで200℃での使用に耐えうるため、これを温度ヒューズ用の感温ペレットにした場合の熱安定性は従来の化学薬品を用いた粉体状の成形品に比べ格段に安定化する。
本発明による温度設定手段である熱変形温度の調整は、2種以上の高分子物質のポリマーブレンドやポリマーアロイがあり、表1および表2に記載の材料から選ばれ、かつその配合比(モノマー比)を変えることで行なわれる。ここでEVOHの代表的な銘柄である株式会社クラレ製エバール(登録商標)を用いて説明する。EVOHはエチレンビニルアルコール共重合体樹脂であり、この重合体におけるエチレン含有量を変えることで異なる融点を持つグレードが可能となる。エチレン含有率32mol%であるF101の融点は183℃、エチレン含有率44mol%のE105では融点165℃、そしてエチレン含有率47mol%のG156では融点160℃である。これらは融点を変えることが目的ではなく、EVOHに求められているガスバリア性能や加工性の改良に関するものである。また、本発明によれば熱変形温度は重合度を変えることによっても可能である。重合は分子量分布を変えることによって平均分子量が異なることで生じる。このため得られる結晶性の熱可塑性樹脂は密度が異なることになる。この結果、同一成分でありながら動作温度の異なる感温ペレットはその密度を管理することで可能となる。以下、ポリエチレン(PE)を例にとって説明する。PEはその密度によって以下のように分類され、密度に応じて融点が明確にされている。
LDPE : 密度0.910〜0.935 融点105〜110℃
HDPE : 密度0.941〜0.965 融点130〜135℃
また、これ以外のPEとしては、120〜130℃に融点を持つLLDPEや135〜138℃に融点を持つ超高分子量PEがあり、同一材料の場合にその密度から温度換算することが可能である。しかし、熱変形温度の選択は、重合度のみではなく、LDPEとHDPEあるいは、LLDPE等を混ぜ合わせることによっても調整できる。また、結晶性を有する高分子物質や熱可塑性樹脂に可塑剤を添加することでも熱変形温度を下げることが可能となる。
本発明によれば、結晶性を有する高分子物質中に必要に応じて樹脂用副資材を添加することができる。ここで副資材は、大きく分けると添加剤、強化材および充填材の3つに分類できる。添加剤は、一般的に酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、結晶核剤、相溶化剤、着色剤、抗菌剤、抗カビ剤、滑剤、発泡剤がある。このうち温度ヒューズで重要になってくるのは高温下での熱的安定性を出すための酸化防止剤と熱安定剤、結晶性樹脂の特徴を活かすために結晶化度をあげる結晶核剤および温度帯を識別するのに有効な手段である着色剤がある。
強化材としては、マイカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等があるが、これらは共重合やエラストマー等行うことで感温ペレットが必要以上に軟化した場合や高温での感温ペレットの物理的な寸法安定性を維持する必要がある際に添加することができる。また、充填材としてはタルク、クレー、炭酸カルシウム等の増量剤があり、難燃剤、帯電防止剤、可塑剤等がある。増量剤は樹脂原料のコストを抑えるために樹脂中に入れ、難燃剤は樹脂が燃えにくくするための、そして帯電防止剤は樹脂が電気を蓄えないように入れる。
本発明の別の観点において、感温ペレットは、ペレット単体の潮解性の影響を回避するため、例えば24時間23℃の水中に浸漬処理した後、処理前後の重量減少率が5wt%以下になるよう選別される。好ましくは、ペレット単体を24時間23℃の水中に浸漬させた後の重量減少率が1wt%以下になるものを選別して使用する。これは水に溶解しないものを温度ヒューズ用感温ペレットに選ぶことである。感温ペレットの感温材が水に溶解し易い材料の場合、これを用いて感温ペレット型温度ヒューズに組み込むときに、保管または使用中の異常温度に達する前に作動して遮断断線状態となったり、水との反応により変質を引き起こす可能性が伴う。いずれも温度ヒューズにとっては不具合発生の原因となり避けなければならない。
一方、本発明の感温ペレット型温度ヒューズ用感温ペレットは、ペレット単体での熱重量測定(TG)において、動作温度以上における重量減少率を5wt%以下、好ましくは1wt%以下であるものを選別して使用することが望ましい。換言すると、これは昇華現象による不具合発生の抑止手段であり、昇華し易い材料の使用を未然に防ぎ、昇華し難い材料を選ぶことで異常温度以外での温度ヒューズの遮断断線を防止すると共に絶縁抵抗を高めて耐電圧を向上させる上で重要な指標となる。さらに、本発明で使用される感温ペレットは、ペレット単体での熱重量測定(TG)において動作温度より50℃以上高い温度における重量減少率が1wt%以下であるものを選別することが提案される。この減少率は少なければ少ないほど感温ペレットとしては優れているといえる。特に、昇華による重量減少が起こりにくいことを示す指標として用いることができる。これは、温度ヒューズにとって使用中の体積や重量の減少による断線遮断を防ぐ点で重要であり、温度ヒューズの重要な機能である動作後の絶縁性についても影響する。例えば、保管中または使用中に昇華による接点付近への付着が、絶縁抵抗値の低下を招き異常作動の原因となる。このために感温ペレットとしては固体における体積固有抵抗が高くかつ昇華の少ない材料の選定が必要となる。
一方、本発明の感温ペレット型温度ヒューズでは動作温度より50℃高い温度で測定した絶縁抵抗値が少なくとも1分間0.2MΩ以上に作られる。これはUL1020規格を満足させる。好ましくは、上記構造の動作後の温度ヒューズにおいて、動作温度より100℃高い温度で測定した絶縁抵抗値が少なくとも1分間0.2MΩ以上である感温ペレットを組み込んだものである。また、上記構造の動作後の温度ヒューズあって、350℃で測定した絶縁抵抗値が少なくとも1分間0.2MΩ以上である感温ペレットを組み込んだもの、好ましくは400℃で測定した絶縁抵抗値が少なくとも1分間0.2MΩ以上である感温ペレットを組み込んだものが提供できる。
本発明によるさらに別の観点によれば、感温ペレット型温度ヒューズの感温ペレットの形状構造に着目して応答性を改良する手段が提案される。感温ペレットの一般的形状は、円柱体の形状を基本とするが、必要に応じて、内部に中空空洞を形成したり上下表面に窪みを形成した円柱体としたり、さらには中空孔のあるパイプ形状体にすることが提案される。このような形状にすることで感温ペレット型温度ヒューズの動作時の応答速度を上げ、動作精度と信頼性を向上させることが可能となる。
一方、本発明の感温ペレットの製造方法では高分子化合物である熱可塑性樹脂およびその共重合体を使用するため、従来のように粉体を造粒して打錠成形するほかに、溶融状態の樹脂材料の射出成形や押出成形により所望する形状での成形加工が容易となる。例えば、押出成形では必要とされる長さで切断することで感温ペレットが作られ、あるいはペレット高さの厚みをもったシート部材を直接打ち抜き成形して所望形状のペレットが製作できる。このため複雑な形状でも射出成形を選択することで容易にでき、簡単なほぼ円柱形状やそれに穴あけしたほぼパイプ形状であれば押出成形やシート打ち抜き工法を選択すればよい。いずれの製法で対応しても製作が容易でローコストに製作できる。特に、コスト的に利用率の高い製法として押出成形が選択でき、射出グレードのない材料は別の工法を採用するなど製法と材料選択の幅が広げられる。この時、2色成形や積層シートにすることで、異なる2種以上からなる熱可塑性樹脂を用いた感温ペレットを容易に成形することができ、特にガスバリヤ性や吸湿性そして銅害等の問題がある感温ペレット上の一部もしくは全面に保護層として特性改善ペレットを得ることができる。このように溶融した材料で目的の感温ペレットを得ているが、場合によっては熱履歴が問題となる場合や融点と熱分解温度が近い材料の場合には従来工法の粉体を固めて作ることも考えられる。
図1および図2は本発明に係る感温ペレット型温度ヒューズでそれぞれ常温の平常時と異常加熱した動作時の温度ヒューズの部分断面図を示す。この構成は、感温材の使用材料を除く基本的構造でエヌイーシー ショット コンポーネンツ株式会社製の感温ペレット型温度ヒューズ「SEFUSE」(登録商標)と同様である。図において、外囲器の円筒状金属ケース1は、銅、黄銅などの熱伝導性良好な導体で作られ、その一方の開口側にかしめ固定した第1リード部材2が取付けられる。この金属ケース1内には本発明の特徴である感温ペレット3と共に一対の押圧板4、5、スプリング部材の強圧縮ばね6と弱圧縮ばね8、良導電性で適度の弾性を有する銀合金の可動接点体7を含むスイッチ機能部品が収容される。そして、金属ケース1の他方の開口に挿入された絶縁ブッシング9と、この絶縁ブッシング9を貫通して金属ケース1から絶縁配置されて先端に固定電極11を有する第2リード部材10とを装着して気密封着されて構成される。金属ケース1の他方の開口部分はエポキシ樹脂等の封着樹脂12が使用され、第2リード部材上に被管した絶縁碍管13と共に互いに強固に固着される。ここで本発明の特徴とする感温ペレット3は、任意の温度下で押圧によって生じる熱変形温度を有する熱可塑性樹脂を主材料として成形加工され、所望する動作温度を調整するための温度設定手段が適用されており、温度ヒューズの所定の動作温度で熱変形する材料を選択して用いられる。図1は、第1および第2リード部材2、10が導通状態にある常温時状態の感温ペレット型温度ヒューズAを示し、図2は、動作温度を越える異常温度状態で両リード部材間が遮断状態にある感温ペレット型温度ヒューズBを示している。
次に、本発明の温度ヒューズに使用する感温ペレット3について、本発明に係る9種類の熱可塑性樹脂と従来品に使用されている感温材料についてのペレット単体での比較試験を行ない問題点に関する評価を行なった。具体的項目としては、潮解性および昇華性に関するものであり、それぞれの評価結果は表3および4に○×方式で示した。なお、9種類の熱可塑性樹脂の名称(区分名称)、市販品名(商品名)とグレードおよび製造社名とカタログ仕様は次の通りである。
1・LDPEまたはLLDPE(商品名:ジェイレックスLDPE−JM910NまたはジェイレックスLLDPE−AM830A、日本ポリオレフィン株式会社製、カタログ融点108℃または122℃)
2・POM(商品名:ユピタールF20−54、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、カタログ融点166℃)
3・PP(商品名:グランドポリプロJ557F、グランドポリマー株式会社製、カタログ融点170℃)
4・HDPE(商品名:ハイゼックスHDPE−1300J、三井化学株式会社製、カタログ融点134℃)
5・PMP(商品名:TPX−RT18、三井化学株式会社製、カタログ融点237℃)
6・FEP(商品名:ネオフロンNP−101、ダイキン工業株式会社製、カタログ融点270℃)
7・PBT(商品名:バロックス310、日本GEプラスチック株式会社製、カタログ融点227℃)
8・RET(エチレン−アクリル酸エステル−酸無水基含有モノマー3元共重合体で商品名:レクスパールET182、日本ポリオレフィン株式会社製、カタログ融点99℃)
(潮解性の検証)
ここでは、本発明の温度ヒューズに使用する感温ペレット3について、本発明に係る9種類の熱可塑性樹脂と従来品に使用されている感温材料について、ペレット単体での比較試験を行ない潮解性、昇華性及び機械的強度に関する問題点に関する評価を行なった。感温材料の潮解性に伴う不具合の発生は水分に依存するのでその影響をペレット重量の減少比率で比較検討した。試験方法は、予め重量測定した感温ペレットを23℃の水中に24時間浸漬させ、その後、室温乾燥させて再度重量測定して水中浸漬処理前後のペレット重量を比較するもので、その減少比率を求める。この場合の減少率を5wt%以上、5wt%未満〜1wt%以上、1wt%未満及び潮解性の確認できないものの4区分にて良否を判断した。試験されたペレットは、本発明品に係る熱可塑性樹脂9種類と従来品の感温材として使用の3種類である。この結果、従来品では192℃品で1wt%以下の重量減少が見られ、110℃品では、1〜5wt%の範囲の重量減少が生じ、また、113℃品に至っては、5wt%以上の重量減少が見られた。特に、レゾルシンを使用した従来品のペレットでは、材料自体の固有抵抗値が高いにもかかわらず高湿下では潮解による断線の可能性が高い材料である。一方、本発明品では9種全ての材料(グレード)で潮解性を確認することはできなかった。このことから従来品と比較した場合、明らかな差異が確認され、潮解性に対する改良品として評価された。本発明品は、高湿下での断線は発生しにくいと評価された。
(昇華性の検証)
感温材料の昇華性に伴う不具合は、高温状態で発生し易い。ここでは、感温ペレットの昇華性を評価する方法としては、感温ペレットを高温下におきその重量減少率で評価を行った。試験に用いた試料は潮解性の場合と同様に9種類の本発明品と3種類の従来品であり、試験方法は株式会社島津製作所製TGA−50を用いて、ペレット単体を昇温速度10℃/minで窒素ガス流量10cc/minの試験条件で熱重量測定(TG)した。各ペレット単体の測定結果は、動作温度における重量減少率が5wt%以下、動作温度における重量減少率が1wt%以下、および動作温度から50℃高い温度での重量減少率が1wt%以下の3区分に分け判定した。この時の評価基準として使用している重量減少率とは、初期重量に対しての重量減少をwt%で表したものである。表4に示される結果から明らかなように、動作温度までの重量減少で見れば、従来品の110℃品と192℃品は1wt%以下の重量減少率であるが、113℃品では6.21wt%の重量減少が見られた。また、動作温度より50℃高い温度においては、従来品の3品種すべてにおいて1wt%以上の重量減少が確認できた。これに対して本発明品は全ての種類および測定区分において重量減少率が1wt%以下であった。
図4および10は熱重量測定分析器(TGA)での温度(℃)vs昇華量(mg)を示す昇華特性図であり、それぞれの動作温度が110℃従来品のレゾルシンと本発明品の101℃レクスパール(RET)の温度変化特性曲線を示している。
(機械的強度の検証)
別の感温ペレットの問題点として特に組み込み前の振動、落下及び感温ペレット同士の接触等によって生じる割れ・欠け等がある。ここでは、感温ペレットを本発明から9種そして従来品より3種を用いてそれぞれ各100pcsのペレットの落下(地上1m)試験を行い、それぞれの割れ欠け発生数の比較を行った。なお、落下試験の繰り返し回数は10回とした。得られた試験結果を表5にまとめる。この試験結果より明らかなように、従来品の3種は、その半数以上の割れかけが発生したのに対して本発明品からの発生は0であった。このため、本発明の感温ペレットは、機械的強度に優れ、割れ欠けが生じにくい改良されたペレットであることがわかる。
次に、図1の感温ペレット型温度ヒューズの感温ペレット3について構造形状の変形例と共にそれぞれの作用効果について説明する。感温ペレット3の構造・形状については、通常、ほぼ円柱体構造であるが、図3に示すように種々の変形例が提案され、本発明においては熱変形温度の広い選択可能性に伴って温度設定手段の一つとして特殊形状が採用され、所望する動作温度の調整に有効である。図3は感温ペレットの6つの異なる形状を示している。以下、本発明に係る形状の説明をする。(a)は、汎用のほぼ円柱状ペレット30であり、四角柱に対してほぼ円柱であれば、組み込み性もよく、また、この長さ及び直径を変えることによって任意に動作温度を設定することができる。(b)は、窪み31を形成した窪み付きペレット32であり、(c)は中空の空洞部33を形成したほぼパイプ状ペレット34の各変形構造を示している。この(b)及び(c)では、外形寸法で動作温度を(a)同様に設定し、また、窪み31及び空洞部33は、応答速度を早めたい場合に有効である(実施例6記載)。こうした形状に加えてペレットの寸法等を選択する温度設定手段となり、外形ディメンションによって熱変形温度の動作温度調節をすることができる。このため、本発明の精神に逸脱しない範囲であれば、形状は、ほぼ円柱状にこだわらず、各種外形のディメンション、例えば、ほぼ八角形やほぼ六角形であってもよい。特に寸法及び形状が金型を伴わない押出成形品については、その切断面に変形も生じるが、これらは所望する動作温度での動作精度が確保されるのであれば本発明の動作温度手段に含まれる。
次に、図3(d)、(e)及び(f)では異なる熱可塑性樹脂部からなる感温ペレットの一例を示す。図3(d)及び(e)は感温ペレット36、38の表面の一部が動作温度に寄与する感温ペレット36、38と異なる熱可塑性樹脂35、37からなる例であり、図3(f)は動作温度に寄与する感温ペレット40の全表面を覆うように形成された感温ペレット40と異なる熱可塑性樹脂39からなる感温ペレットについて説明する。(d)は、積層シートの打ち抜き等によって得ることができ、この構造は、選択した熱可塑性樹脂材料が、金属による影響、特に押圧板4が銅材である場合、熱可塑性樹脂3は、銅害を受ける場合があり、その保護層35を介することで感温ペレット3への影響を防ぐことができる。(e)は、保護層36が側面に形成されている場合であり、これは、押出し成形等によって得ることができる。これは、側面の金属の影響が問題となる場合や、PAのように吸湿性の高い材料を吸湿性の低い材料である例えばPET等のポリエステル系材料にて保護層を形成することができる。(f)では、全面に感温ペレット3と異なる材料にて保護層を設けた形状であり、これは、射出成形等によって得ることができる。これも(d)及び(e)と同様に金属、吸湿等から生じる樹脂劣化から感温ペレットを保護する効果が期待できる。特に(e)では、側面のみの保護層であったため耐吸湿等の効果も限定的であったが、(f)では全面を覆っているためその効果は大きい。
本発明に係る熱可塑性樹脂を感温ペレット3として、図1の感温ペレット型温度ヒューズを製作した場合、その動作温度とばらつきを表6に、電気的特性としての高温時350℃および400℃での絶縁抵抗値を表7にそれぞれ示される。この結果から明らかな様に、本発明の感温ペレットは、動作温度において既存の感温ペレットを用いたものと比べても遜色がなく優れた動作精度であり、高い信頼性であることが判明した。動作温度のばらつき幅は、通常求められる±2℃の4℃の幅に対して、幅で1℃以内にあり、温度ヒューズとして十分な動作精度を有することが判明した。次に動作後の絶縁抵抗値であるが、従来品では、動作温度から50℃高い温度での絶縁抵抗値が低下するものが発生するのに対し、本発明の9種すべて動作温度よりも100℃高い温度でも絶縁抵抗値0.2MΩ以上を有し、また、350℃及び400℃においても0.2M以上の絶縁抵抗値を確認することができた。特に、動作温度の高いフッ素系樹脂FEPを使用した感温ペレット型温度ヒューズでは動作温度の高温度帯への適用が可能であり、従来品の最高動作温度約240℃を越える約268℃を所望する動作温度品が実現可能となった。また、絶縁抵抗値も問題ないことが判明した。また、フッ素樹脂の分解温度は、特に高いことから連続使用温度を高くした場合でも劣化が少なく、かつ従来の感温ペレット以上の絶縁抵抗値を持っていることも判明した。
次に共重合体を感温ペレットとして用いた場合の温度設定手段として、所望する動作温度の調整について耐湿特性を含めて説明する。実験に使用した感温材はエチレン−アクリル酸エステル−酸無水基含有モノマー3元共重合体(商品名:レクスパールET)である。
ET182……カタログ融点99℃ 密度0.937
ET184M…カタログ融点86℃ 密度0.945
ここでモノマー比を調整することで融点の調整が可能となっており、これらを実際に感温ペレット型温度ヒューズに組込んで動作温度を測定したところ、表8に示すように、感温ペレット型温度ヒューズではペレット単体に比べ多少高目になる傾向があるがバラツキは小さいことがわかる。参考としての従来の化学薬品は、試薬メーカーによって約4℃程度の幅を持たせて表示している。このため感温ペレット融点と感温ペレット型温度ヒューズとの相関が取れれば十分に感温ペレット型温度ヒューズとして機能する。
次に動作温度101℃のET182を組込んだ感温ペレット型温度ヒューズの耐湿試験を実施した。比較用としてはET182よりも動作温度の高い110℃品の従来品(レゾルシン)を用いた。試験条件は、85℃/95%と温度ヒューズメーカーとして実施している試験条件である65℃/95%に比べ過負荷な条件にて行った。今回は特性差異の比較評価ということで本試験条件にて評価を行っている。試料数は、各20pcsで実施し、結果を図6に示す。ここで、感温ペレットの潮解性の目安となる感温ペレット寸法において初期値を100%としたものを任意の時間で取り出してその後の感温ペレットの寸法推移を記録したデータを示す。また、保管後に再度動作温度を測定した結果を表9に示す。
この結果から明らかなように、感温ペレット単体で水に溶けやすい材料は、感温ペレット型温度ヒューズにたとえ組み込まれた形であっても潮解し、なおかつその強度低下から1500時間後には従来品の化学薬品を使用した感温ペレット型温度ヒューズでは全数断線に至るのに対して本発明の熱可塑性樹脂を感温ペレットに用いたET182を使用したタイプでは、同条件でかつ5000時間という長期にわたって安定した寸法推移をしている。ここで、ET182においても感温ペレット寸法に減少傾向が見られるが、これは融点近くで保管されることによる軟化であり従来品のように潮解が原因ではない。また、5000時間後に取り出した感温ペレット型温度ヒューズの動作温度試験を行ったところ初期値とほぼ同じ温度で動作することも確認できた。従来品よりも動作温度の低い感温ペレットを同じ温度/湿度条件にて保管したにもかかわらず、従来品よりも長期にわたり熱的、強度的そして湿度的に安定していることが分かる。このように体積固有抵抗値の高い材料であるレゾルシン(110℃品)であっても水に対する潮解性は高く、これを感温ペレット型温度ヒューズに組み込んだ場合であっても長期に渡り高湿下では、断線に至るケースがあることが分かる。
次にエラストマー化した結晶性を有する熱可塑性樹脂を例にとって融点調整の例を述べる。ここで使用するエラストマーは、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー(商品名:ハイトレル(登録商標)、東レ・デュポン株式会社製)を例にとって説明する。ハイトレル(登録商標)は、PBT(融点220−227℃)とポリエーテルとのブロック共重合体でこの温度帯としては154℃〜227℃まで揃っている。ここでは、次に示すグレードを用いて実際に図1、2に示す感温ペレット型温度ヒューズの感温ペレットとして組込み、これが感温ペレット型温度ヒューズとして動作するかどうかを検証する。3046(融点160℃)、3546L(融点154℃)、4047(融点182℃)、2751(融点227℃)また、PBT(融点227℃ 商品名:バロックス(登録商標)、日本GEプラスチック株式会社製)を比較用にあわせて試験をした。検証結果を表10に示す。
表10に示すようにハイトレル記載の融点と感温ペレット型温度ヒューズの実動作温度とでは若干の差が見られるが、動作精度のばらつきとしては、すべて±1℃以内にあり従来技術に比べ遜色ないレベルにある。このようにPBTだけでは、227℃のみであったがこれを共重合やエラストマー化させることで温度ヒューズとしての動作温度調整が可能となる。
ここでは、図3に図示するように感温ペレットの形状を変えることによって感温ペレット型温度ヒューズとしての応答速度が変えられる。この場合の感温ペレットは、LDPE(商品名:ジェイレックス(登録商標)LDPE−JM910N、日本ポリオレフィン株式会社製、カタログ融点108℃)である。次にこれを円柱状(加工無し)品と中心近くに穴を空けたパイプ状(加工有り)品の2種類を用いて比較試験を行った。試験方法は、融点以上に加熱したオイルバス中に感温ペレット型温度ヒューズを浸漬させ、その時の動作するまでの時間を比較して実施した。
図8は横軸にオイルバス温度、縦軸軸に動作するまでの時間を示しており、この図から明かなように、パイプ状空洞付きの加工品の感温ペレット型温度ヒューズが無加工品よりも応答速度が早くなる。従来、このような形状に加工することは機械強度等に問題があり、かつ使用時においても高温下、高湿下で変形し易く断線の原因となることから構造上の変形を採用することが困難であった。しかし、本発明では強度的にも安定しかつ必要に応じて強化材をコンパウンドすることが出来るため強度的に従来技術を上回ることはこれまで説明してきた通りである。なお、この感温ペレットに施す形状は、図3に示すペレット形状と異なる形状でも構わず、例えば、機械的強度を考慮しつつ側面等に切り込みや窪みを形成して応答性を改善してもよい。
本発明に係る熱可塑性樹脂を使用して温度設定手段と組み合わせた感温ペレット3は押圧力の作用で所定の熱変形温度を利用した感温ペレット型温度ヒューズを、前述の図1および2の構造で実現している。ここでは、感温材の高分子物質が非晶性の熱可塑性樹脂であるテクノポリマー株式会社製ABSを使用しディメンションを温度設定手段として組み合わせた場合の感温ペレットでの実施例を説明する。感温材としての非晶性熱可塑性樹脂であるABSは軟化点90℃のものを使用しており、この樹脂材を用いてそれぞれ寸法の異なる2種類の感温ペレットを用意した。この2種類のそれぞれの寸法は、直径φ3.2mmで高さh3.0mmおよび直径φ3.2mmで高さh3.5mmである。温度調整手段としては、異なるディメンションの感温ペレット選択以外にばね荷重値の調整であってもよい。ここでは、標準的なばね荷重で動作温度試験を行った。それぞれの動作温度は表11に示すような結果であった。すなわち、直径を固定し長さ方向のみを0.5mm変えることによって動作温度で約20℃の動作温度調整が可能であることが判明した。また、この結果から非晶性樹脂であっても動作温度ばらつきは、±1℃以内であり、温度ヒューズとして使用可能な材料であることが判明した。
次に同様なテクノポリマー株式会社製ABSを使用してスプリング部材の荷重による温度設定手段と組み合わせた感温ペレットについての変形例を説明する。この場合にペレットディメンションは上述の円柱状ペレット直径φ3.2mmで高さh3.5mmのものであり、これに付与する押圧力をスプリング部材のばねにより荷重値を調整する。このような温度設定手段で熱変形温度を変えた場合に、実際の動作温度調整は、表12の結果を得た。今回の荷重値は、上述の標準的荷重値とこれに対して1.3倍の荷重値で押圧が感温ペレットに付与される2種で比較した。ばね荷重値の変更は、弱圧縮ばね8の荷重値を標準のものとこれを1.3倍にしたものとを組み込むことで行った。この結果、ばね荷重値を1.3倍にすることで動作温度では約9℃低温動作させることができることが判明した。また、上記結果から明らかな様に、非晶性の熱可塑性樹脂を使用して適当な温度設定手段を組み合わせた感温ペレットによっても動作精度が既存の感温ペレットに求められる±2〜3℃と比べて±1℃以内にあり、遜色の無い優れた動作精度を持った感温ペレット型温度ヒューズの提供が可能であることがわかる。また、今回は、弱圧縮ばね8の変更であったが強圧縮ばね6の変更であってもよく、また、いずれの組み合わせによっても良い。
本発明に係る別の実施例として、図1の温度ヒューズ用感温ペレット3が結晶性の熱可塑性樹脂の場合について説明する。この実施例では高分子物質の結晶性の熱可塑性樹脂が三井化学株式会社製三井ポリプロ(登録商標)ランダムPPを使用している。ペレット寸法は、直径φ3.2mm高さh3.0mmおよび直径φ3.2mm高さh3.5mmの2種類であり、スプリング部材のばね荷重値は、標準的なものを組み込んでいる。温度ヒューズにおける動作温度に関する試験結果は、表13に示される。
次に、同様にして三井化学株式会社製三井ポリプロ(登録商標)ランダム共重合PPを使用した感温ペレットについてスプリング部材の押圧を調整することで熱変形温度を変える温度設定手段を適用し、実際の動作温度調整が可能かどうかの試験を行った。ペレット寸法は直径φ3.2mm高さh3.5mmの円柱状のもので、感温ペレット3に加わる荷重値を標準のものとこれより1.3倍高くしたもので行った。荷重値が異なる2種類の感温ペレット型温度ヒューズでの測定結果は、表14に示される。ばね荷重値の変更は、弱圧縮ばね8の荷重値を標準のものとこれを1.3倍にしたものとを組み込むことで行った。
それぞれの動作温度は、感温ペレットに加わる荷重値が標準のものでは、約151℃で動作するのに対して荷重値を1.3倍にした方では、約148℃で動作することが分かった。このことから、ばね荷重値の調整により動作温度を約3℃調整することができることが分かる。これらの試験結果から明らかなように結晶性の熱可塑性樹脂に固有の融点にとらわれることなく、感温ペレットに加わる荷重値を調整することで温度ヒューズに求められる動作温度を設定することができ、かつ、その調整された動作温度に対する動作精度は、±1℃以内と温度ヒューズ用途として十分に使用に耐えうる精度を持っていることが分かる。
次に、本発明に係る感温ペレット型温度ヒューズにおいて、感温材として高分子物質の結晶性熱可塑性樹脂を使用する際の温度設定手段に補外融解開始温度(Tim)と融解ピーク温度(Tpm)との温度差を利用する場合について説明する。すなわち、図1の感温ペレットは三井化学株式会社製三井ポリプロ(登録商標)のホモPPとランダム共重合PPを使用した場合、および比較に従来の低分子量の化学薬品を使用した感温ペレット型温度ヒューズ(152℃品と169℃品)である。また、熱変形温度調整手段は、スプリング部材の弱圧縮ばね8の荷重値を標準値および標準値の1.3倍にすることで行った。これらの感温ペレットは株式会社島津製作所製示差走査熱量計(DSC)DSC−50を用い、測定条件を10℃/分として測定した。図4〜7にそれらの結果を示すが、これらより得られた補外融解開始温度(Tim)と融解ピーク温度(Tpm)との温度差Δを表15にまとめ、表16に動作温度の測定結果を示す。
図5 ;ホモPP(三井化学株式会社製)
図6 ;ランダム共重合PP(三井化学株式会社製)
図10;152℃品(SEFUSE:登録商標)
図11;169℃品(SEFUSE:登録商標)
この結果から明らかなように、補外融解開始温度(Tim)と融解ピーク温度(Tpm)との温度差ΔTが大きい感温材であっても動作精度は従来と同等であり、かつΔTが大きいほど動作温度の設定手段としては有効であることが分かる。なお、今回は、TimとTpmとの温度差で説明したが、熱可塑性樹脂の粘度が十分に高い場合やバネ圧が弱い場合には動作温度の設定手段としては、融解ピーク温度(Tpm)と補外融解終了温度(Tem)の間に動作温度を設定することもできる。このため本発明における動作温度設定可能範囲は、TimとTemの間で任意に設定することが可能となる。
次に結晶性ポリエステルを用いた動作温度設定について説明する。この結晶性ポリエステルには東洋紡績株式会社製のバイロン(登録商標)を用いた。これは、ポリエステルのランダム共重合体に可塑剤を加えたものである。このバイロンから次のGM470及びGM990の2点を使用した。このDSC測定結果を表17に示す。次に、動作温度試験は、SEFUSE(登録商標)を用いて行った。また、熱変形温度調整手段としては、弱圧縮ばね8の荷重値を標準値及び標準値の1.3倍にすることで行った。動作温度測定結果は、表18に示す。
この結果からΔTが約18℃のGM470については、動作温度のばらつきが±1℃以内にあり、また、ばね荷重値による温度調整手段の有効性が認められるものの、ΔTが約35℃のGM990については動作温度のばらつきが大きく、調整ができないことを現している。つまり、ΔTがあまりに大きく離れすぎれば動作精度が大きくなり実施例8の従来例に見られるようにΔTが小さすぎるとばらつきは小さいが温度調整できないことが判明した。
また、バイロンのように共重合や可塑剤添加によって感温材としての熱変形温度が変わったとしても本発明の感温ペレット型温度ヒューズの感温材として使用できることがわかる。この他に感温材の熱変形温度を変える温度設定手段としては、エラストマー、ポリマーブレンドおよび可塑剤や充填材の添加であってもよい。
ここでは、本発明における結晶化度による結晶性の熱可塑性樹脂の選別方法について説明する。結晶性の熱可塑性樹脂の場合、その結晶性の度合いを現す指標として結晶化度を用いて表す。ここで、結晶化度10%〜60%の感温材をエヌイーシー ショット コンポーネンツ株式会社製の感温ペレット型温度ヒューズ(商品名SEFUSE:登録商標)に組み込み動作温度を測定する方法で行った。測定試料数は、各5pcsで行い、得られた動作温度の最大値と最小値の差を動作温度ばらつきとして比較した。測定結果を表19にそしてグラフ化したものを図9にそれぞれ示す。
この結果から結晶性の熱可塑性樹脂を感温材として選択する場合には、その結晶化度によって本発明の代表的な構造である図1において動作温度にばらつきがあることが分かる。そこで、温度ヒューズとして求められる一般的な動作温度ばらつきである±2℃を満足する範囲として20%以上の結晶化度が好ましい。また、さらに高い動作精度±1℃を求められる場合もあり、この時は結晶化度として40%以上あることが好ましい。
この結晶化度は、アニールや造核剤を添加することで調整することができる。特に結晶化度の高いポリオレフィン系樹脂に対してその効果が大きい。なお、本発明の結晶化度とは、製品として使用中に生じるアニール効果も含まれており、必ずしも製品出荷時の結晶化度のみを指すものではない。
ここでは、動作温度設定手段として押圧板4の有無について説明する。使用した感温材は、ダイキン工業株式会社製のフッ素樹脂であるネオフロン(登録商標)FEPを用いて行った。動作試験は、SEFUSE(登録商標)を用いて行った。なお、他の動作温度設定手段であるスプリングの押圧力及び感温材の寸法や体積については既に上述のとおりである。動作温度測定結果を表20に示す。
このように同一材料であっても感温ペレット3に加わる押圧を押圧板4の有無によって変えることによって動作温度では約5℃の変更が可能となる。今回、押圧板の有無で行ったが、押圧板4の大きさによっても感温ペレットに加わる押圧を変えることができるためにこの5℃の範囲内において任意の設定が可能となる。また、これに感温材自体の寸法やスプリングのばね圧を調整することでさらに異なる動作温度を設定することが可能となる。
つまり、本発明は温度設定手段を適用することで同一材料を異なる温度で動作させることができ、複数の感温ペレット型温度ヒューズに組み込むことができる。また、感温材自体の選別に加えて熱変形温度を物理的化学的手段で調整して、さらに異なる温度で動作させることのできる温度ヒューズを提供する。
感温型温度ヒューズは、携帯機器、通信機器、事務機器、車載機器等の産業用機器や各種家電製品に使用されるACアダプタ、充電器、モータ、電池等の電子部品において、異常過熱を正確に検知し、所定の温度で速やかに回路を遮断または導通させる保護部品として利用される。
本発明に係る実施例の感温ペレット型温度ヒューズの部分縦断面図である。
同じく図1の感温ペレット型温度ヒューズ動作後の部分縦断面図である。
同じく図1に使用される感温ペレットの異なる形状を示す斜視図である。
同じく図3の感温ペレットに使用する熱可塑性樹脂の昇華特性を示す特性図である。
同じく感温ペレットに使用のホモPPに関するDSC測定特性曲線図である。
同じく感温ペレットに使用のランダム共重合PPに関するDSC測定特性曲線図である。
同じく感温ペレットの保管に関する経過変化を示す測定特性曲線図である。
同じく感温ペレットの加工に関する応答性の温度vs速度の特性図である。
同じく感温ペレットの結晶化度と動作温度の関係を示す特性図である。
従来の温度ヒューズの感温ペレットに使用の感温材の昇華特性を示す特性図である。
従来の感温ペレットに使用も152℃感温材に関するDSC測定特性曲線図である。
従来の感温ペレットに使用の169℃感温材に関するDSC測定特性曲線図である。
1…金属ケ−ス(外囲器)
2…第1電極(第1リード部材)
3…感温ペレット、30、32、34、36、38、40…円柱状ペレット
31…窪み、33…中空部(空洞部)、35…保護層(フィルム)、
37…保護層(パイプ外周部)、39…保護層(全面)
4、5…押圧板
6…強圧縮ばね(スプリング部材)
7…可動接点体(可動導電部材)
8…弱圧縮ばね(スプリング部材)
9…絶縁ブッシング
10…第2電極(第2リード部材)
11…固定接点
12…封止樹脂
13…絶縁碍管
A…常温時状態の感温ペレット型温度ヒューズ
B…異常温度上昇状態の感温ペレット型