水硬性を有する固化材である各種セメント及び/又はセメント系固化材等(これらを本発明では「水硬性固化材」と総称する)を使用する場合、水硬性固化材が硬化するまでの時間を延長したい必要性が生ずる場合がある。
例えば、
(1)工事中断後に工事を再開する場合などの施工工程の推移に伴って、生ずる固化部の打継ぎ部は構造的に不連続となってコールドジョイントを生じ、応力の伝達が不十分となったり、コールドジョイント部で止水性が損なわれる等の欠陥が発生する場合があった。このような事態を避けるために、打ち継ぎ部の先に施工した部分が硬化するまでの時間を延長する必要性が生ずる。
(2)また、水硬性固化材を用いて行う工事、例えば、地中に連続する壁体を形成するような工事では、水硬性固化材が未硬化の間に、鋼管、H型鋼、I型鋼等の補強材を挿入する工法がある。この場合、鋼材などの補強材を挿入する工法においては、水硬性固化材が硬化を開始し始めた時点以降では挿入が困難又は不可能となる。また、補強材の挿入は、ある程度の長さの地下壁を形成した後に行うのが一般的であり、それ故、補強材の挿入時間までに水硬性固化材の硬化するまでの時間を延長する必要性が生ずる。
上記の(1)や(2)に記した現象は、水硬性固化材を用いて地盤土と混合攪拌して改良土とする工事である下記の(3)や(4)等のような工事の場合にも発生する。
(3)軟弱地盤を改良土とすることによる地盤の支持力の確保のための工事や、土留壁、止水壁などとするための改良土による地中壁の造成工事、又は有害物質を含む汚染土の無害化するために改良土工事に使用する場合の工事等。
(4)軟弱な地盤に建造する構築物の基礎杭とするために、地盤を掘削しながら水硬性固化材を攪拌混合して地盤中に柱体状改良土(例えば、ソイルセメント柱体)を形成し、その改良土の柱体中に鋼管杭等の杭体を埋設して杭を造成する後埋設工法や、例えば、水硬性固化材液(例えばセメントミルク)を吐出しながら掘削翼と攪拌翼付きのロッドを鋼管中に挿通し攪拌混合することにより改良土(例えば、ソイルセメント)の柱体形成しつつ、鋼管杭等の杭体を埋設して杭を造成する同時埋設工法(いずれの場合も鋼管を使用する場合は、鋼管ソイルセメント杭造成工法という。)。
(a)上記の後埋設工法においては、その改良土が硬化を開始し始めた時点以降では杭の挿入が困難又は不可能となる場合がある。
(b)上記の同時埋設工法の場合においても、杭は絶えず沈設し、所定深度から地表側に連続して杭を沈設する必要があり、地表側の先に施工された改良土が硬化し始めるとその時点以降では、杭を挿入のための下方移動が困難となり、その時点の深度より深い部分の施工が不可能になる場合がある。所定の深度までの杭の造成が不可能になる。
これらの改良土を使用した杭工事の場合も、所定の深度まで杭を挿入できる時間まで水硬性固化材の硬化する時間を延長する必要性が生ずる。
(5)また、水硬性固化材液(例えばセメントミルク)を吐出しながら、例えば、掘削翼と攪拌翼付きのロッドを鋼管中に挿通することにより改良土(例えば、ソイルセメント)を深い深度まで築造する場合は、所定の深さまで築造した後にその最深度にある掘削翼と攪拌翼含む施工装置を回収するに際して、その上部改良土が硬化し始めた時点以降では掘削翼と攪拌翼の部分が受ける抵抗力が大きく、施工装置の回収が困難となったり、又は不可能となる場合もある。それ故に、改良土が硬化するまでの時間を延長する必要性が生ずる。
一般に、改良土の築造深度が通常の場合は、上記の(3)や(4)のように地盤土と水硬性硬化固化材とを混合して改良土(ソイルセメント)とする場合は、直ぐには硬化しないので上記したような理由で施工不能や性能低下を起こす現象になることが少ないが、地盤土の条件によっては、改良土の硬化開始が早くなることがあり、施工手順によっては現状よりも、改良土の硬化開始を遅めたい場合がある。
以上に列記したように硬化開始を遅めたい場合には、水硬性固化材として硬化時間の長いセメント、例えば高炉セメントを使用することも一般に行われている。しかし、高炉セメントは普通ポルトランドセメントに比べ硬化時間が若干遅い程度であり、充分な硬化遅延の効果が得られない。
そこで、これらの欠点を防止するために遅延材(従来から知られている硬化遅延形の混和剤など、水硬性固化材に対して遅延効果を有する添加剤を本発明では「遅延剤」という。)を添加することがある。そして、硬化遅延形の混和剤の添加量を増すことや、硬化遅延効果を大きくすることにより硬化時間が遅延し作業性の確保、ラップ部等の品質の改善が見込まれることは知られていた。例えば、セメント系固化材の硬化遅延性を調整する技術がある(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、一方では、硬化を所望の時間まで遅延させるには遅延剤(硬化遅延形の混和剤)の添加量を多くする必要があり、添加量の増加により、セメント等の水硬性固化材による十分な強度が得られない事態が発生し、施工上の問題となることがあった。特にこの問題は、水硬性固化材を用いて対象土を改良する(例えばソイルセメントとする)場合に多く発生する。
それ故に、このような問題がある遅延剤を使用しないで工事をしようとしても施工できない事態が発生する。
本発明は、水硬性固化材の硬化遅延を図る技術に改良を加え、遅延強化助剤を添加することにより所望の硬化遅延効果を発揮し、土と混合してもその混合硬化物が所望の強度を発揮することが可能な鋼材併用高強度改良土の施工方法を提供することを目的とする。また、本発明方法は、このような硬化遅延剤を用いた改良土(例えばソイルセメント)の硬化遅延工法を提供することを目的とする。
本発明は水硬性固化材100質量部に遅延剤0.2〜12質量部及び遅延強化助剤としてCa(OH)2又はCaO1〜50質量部を添加して成る硬化材を調整し、前記水硬性固化材を固化対象土1m3に対し250〜400kgとなるように、該硬化材を固化対象土と攪拌混合して硬化遅延された改良土とし、該改良土の未硬化時間内に併用する鋼材を該改良土中に貫入し、該鋼材と前記改良土とを一体化させることを特徴とする鋼材併用高強度改良土の施工方法である。
本発明において「遅延剤」としては、粉状又は液状などの様態は限定されず、従来から知られている硬化遅延形の混和剤など、水硬性固化材に対して遅延効果を有する添加剤が含まれる。例えば、次の(ア)〜(カ)が含まれる。
(ア)遅延性を有する市販のコンクリート用化学混和剤及びソイルセメント用分散剤、遅延剤
(イ)オキシカルボン酸又は/及びその塩
オキシカルボン酸には、グルコン酸、グルコヘプトン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロパン酸(例えば乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸等)、ヒドロキシ酪酸(例えば2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸等)、ヒドロキシ吉草酸(例えば2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸等)、グリセリン酸、酒石酸、クエン酸、タルトロン酸、リンゴ酸、シトラマル酸等が挙げられる。
オキシカルボン酸塩としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等)が挙げられる。
オキシカルボン酸又はその塩の中でも好ましいものはグルコン酸ナトリウムおよび/またはグルコヘプトン酸ナトリウムである。
(ウ)リグニンスルホン酸塩
リグニンスルホン酸塩は、天然パルプ原料中に通常50〜60%程度含まれる天然高分子(分子量は数百から数百万に分布するといわれている)であり、その種類は、処理法の違いによって一般リグニンと高性能リグニンに分類されている。一般リグニンに分類されるリグニンスルホン酸塩は、亜硫酸パルプ製造時の蒸解溶出液を脱糖処理することによって得られるもので、平均分子量(Mw)は20,000以下(通常は10,000〜14,000程度)といわれている。また、高性能リグニンに分類されるリグニンスルホン酸塩は、上記蒸解溶出液あるいはその脱糖処理液を高分子フラクションと低分子フラクションに分画した中の高分子フラクション部分であり、平均分子量(Mw)は20,000以上(通常は24,000〜28,000程度)といわれており、これらリグニンスルホン酸塩は、脱糖処理法によって、Ca塩、Na塩、Mg塩に大別される。
(エ)糖類及びその混合物
糖類にはグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、アラビノース、リボース、デオキシリボース等の単糖類、及び、シュークロース、マルトース、ラクトース等の少糖類がある。また、その混合物、更には糖類残渣が挙げられる。
(オ)糖アルコール類
糖アルコールにはエリスリトール、キシリトール、アラビトール、アドニトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、タリトール、ガラクチトール、アリトール等が挙げられる。
(カ)糖アルコールと高級脂肪酸とのエステル化合物
糖アルコールと高級脂肪酸のエステル化合物は上記の多価アルコールと炭素数が6〜22程度のステアリン酸、オレイン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ぺラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルチミン酸、ヘプタデシル酸、ノナデカン酸、ベヘン酸、エライジン酸、エルシン酸等の高級脂肪酸とのエステル化合物が挙げられる。
次に、本発明において「硬化遅延剤」とは従来の「遅延剤」に本発明に係る「遅延強化助剤」を加えたものを言う。本発明に係る「遅延強化助剤」は、Ca(OH)2又はCaOである。
この場合、遅延剤としてオキシカルボン酸塩が望ましい。
次に、本発明で対象とする水硬性固化材は、水硬性を有する固化材である各種セメント及び/又はセメント系固化材等であり、各種セメントとしては普通ポルトランドセメント、高炉セメントなどが例として挙げられる。
そして、前記遅延剤、遅延強化助剤及び水硬性固化材はそれぞれ単独品であってもよく、又は予め2以上を混合した混合品とすることができる。つまり、遅延剤(硬化遅延形の混和剤)と本発明に係る遅延強化助剤とを別々にしておき、使用時に配合設計を行って適切に調合しても良く、又は、両者を事前に混合しておき、使用現場での調合を省略したプレミックス品とすることができる。また、遅延剤と遅延強化助剤、遅延強化助剤と水硬性固化材、又は、遅延剤と水硬性固化材を予め混合しておくことにしてもよい。これらの混合品は、使用条件に応じた配合としたものを供給することによって、現場作業を容易にすることができるというメリットがある。
本発明に従えば、遅延強化助剤を添加することにより遅延剤の使用量を少なくしても所期の硬化遅延効果が発揮され、土と混合してもその混合硬化物が所望の強度を発揮させることが可能となる。また、従来の遅延剤が使用できずに施工不能な工事を施工可能にすることができる。更に、本発明の硬化遅延剤を使用すると、施工中の改良土は長時間柔らかい状態が維持されるので、充分良好な撹拌が可能になることによる撹拌効率の向上、撹拌のための消費エネルギーが少なくて済むことによる工費の削減、施工スピードを早くすることによる工期の短縮、撹拌抵抗などが少なくなることによる施工機械の摩滅の減少、従来では回収が不可能であった施工機械の回収作業などの効果の中から、施工者が希望する効果を選ぶことできる。
本発明方法によれば改良土(例えばソイルセメント)の硬化が所望の時間に合わせることが可能になるために、遅延剤(遅延硬化形の混和剤)を単独で使用する場合よりも、安価な遅延強化助剤を添加することにより遅延剤(遅延硬化形の混和剤)自体の使用量を少なくしても所期の硬化遅延効果を発揮し、トータルコストを低減できる。また、遅延剤(硬化遅延形の混和剤)を単独で使用する場合、硬化を所望の時間まで遅延させるには遅延剤(硬化遅延形の混和剤)の添加量を多くする必要があり、添加量の増加により、改良土(例えばソイルセメント)の硬化体が十分な強度が得られない事態が発生していたが、遅延剤(遅延硬化形の混和剤)の使用量を減らしても、遅延強化助剤を添加することにより硬化を所望の時間まで遅延できるので、改良土(例えばソイルセメント)の硬化体の強度を許容範囲に収めることができる。
上記した固化対象土としては、地盤土、排土、土を含む産業廃棄物などが例として挙げられ、改良土とする目的として、ソイルセメントの形成、排土を流動化し固化させる流動化処理土とすることなどが挙げられる。
また、改良土(例えばソイルセメント)が未硬化の間に、所要工事を遂行する具体的な例として、改良土中に鋼管、H型鋼、I型鋼等の補強材を挿入する次の(イ)、(ロ)のような工法がある。
(イ)鋼管ソイルセメント杭造成工法
この工法は、従来技術の(4)に記載した工法である。この改良土と鋼管が一体化された合成杭は、高靭性、高支持力の合成杭となり、この改良土を使用した杭工事の場合も、所定の深度まで杭を挿入できる時間まで水硬性固化材の硬化する時間を延長する。
(ロ)ソイルセメント地中連続壁構築工法
地盤に挿入したチェーンソー形のカッターを横方向に移動させて溝を掘削しながら、固化材液の注入を行うことにより、地盤土と固化材液の混合攪拌を行い、地中に連続した改良土(ソイルセメント)の壁体を構築する工法(以下、「TRD工法」と言う)における壁体中にH型鋼等の補強材を挿入する作業である。このような壁体は土留壁、止水壁、液状化対策や地盤の補強、地下水の遮断等に使用される。
次に、本発明の数値限定について説明する。硬化遅延剤中の遅延剤の量は水硬性固化材100質量部に遅延剤0.2〜12質量部とする。0.2質量部未満では本発明に係る遅延強化助剤を添加しても遅延効果が乏しいので、0.2質量部以上とする。また、12質量部を越えて添加しても遅延効果が飽和するので、12質量部を上限とした。本発明は、遅延剤の添加量を減らして安価な遅延強化助剤を用いることを基本技術思想とするので、通常、この上限値より低い値を採用する。好ましい値は、5質量部以下である。遅延強化助剤は、固化対象土の土質並びにその含水比、遅延剤の添加量との兼ね合い、遅延強化剤の種類、遅延時間の長さ等によって添加量に差異があるが、1〜50質量部とする。1質量部未満では効果が乏しく、50質量部を越えて添加しても効果が飽和するので、採算性が乏しくなるので制限される。
本発明の硬化遅延剤は、遅延剤(硬化遅延形の混和剤等の添加剤)の使用を減少させ、市中に出回っている材料を遅延強化助剤として使用することにより、従来の遅延硬化形の混和剤を多量に使用する問題点を解決することができる。すなわち、本発明の遅延硬化剤は、水硬性固化材の硬化遅延を図る技術に改良を加え、遅延強化助剤を添加することにより所期の硬化遅延効果を発揮し、多量使用する必要があった従来の硬化遅延形の混和剤を多量に使用する問題点を解決することができる。
また本発明の第2の発明である水硬性固化材の硬化遅延工法に従えば、遅延強化助剤を添加することにより遅延剤の使用量を少なくしても所期の硬化遅延効果が発揮され、従来の硬化遅延形の混和剤が存在することで施工上の問題があった工事を問題なく施工することができる。
次に、本発明の第3の発明である改良土の硬化遅延工法に従うと、改良土(ソイルセメント)の硬化が所望の時間に合わせるために、遅延剤(硬化遅延形の混和剤)を単独で使用する場合よりも、遅延強化助剤を併用添加することにより遅延剤(硬化遅延形の混和剤)自体の使用量を少なくしても所期の硬化遅延効果を発揮し、施工効率が上がりトータルコストが低減できる。また、遅延剤(硬化遅延形の混和剤)を単独で使用する場合、硬化を所望の時間まで遅延させるには遅延剤(硬化遅延形の混和剤)の添加量を多くする必要があり、添加量の増加により、改良土(ソイルセメント)の硬化体が十分な強度が得られない事態が発生していたが、遅延剤(硬化遅延形の混和剤)の使用量を減らしても、遅延強化助剤を添加することにより硬化を所望の時間まで遅延させることができるので、改良土(ソイルセメント)の硬化体の強度を許容範囲に収めることができる。
即ち、水硬性固化材を地中に混合する改良土(ソイルセメント)造成工事中に、遅延剤(硬化遅延形の混和剤等の添加剤)の使用を減少させ、市中に出回っている材料を用いて、工費の上昇を招くことなく、短期的(数時間〜数日間)な効果を計ることができ、その後の強度発現性が改善され、従来の硬化遅延形の混和剤を多量に使用する場合、強度が十分に発現しないという問題を解決することができる。
まず最初に鋼管ソイルセメント杭造成工法の場合を例にとって、一般的な配合設計について説明する。配合量の決定にあたっては、ソイルセメント(改良土)の強度が目標値を満足し、施工性と経済性を両立できる範囲とする。固化材添加量を一定とし、横軸に水固化材比を取り、横軸に残土量と強度をとると図16に示すような模式的なグラフを描くことができる。曲線10は残土量を示す。残土量とは、固化材液が地盤に加わることによる体積増加のために、掘削攪拌によるソイルセメント(改良土)形成に伴って地上に排出される排土量である。曲線11は強度を示す。
水固化材比が大きくなるに従って、施工性は良好になるが、曲線11で示すように、強度発現は低下していく。このことから目標強度を満足し、かつ固化材がポンプ圧送可能な範囲の水固化材比は範囲12で示される。しかし、水固化材比が増えるにしたがって曲線10で示すように、残土量も増加するため、施工性が良好な範囲でなるべく小さい水固化材比を選択することが望ましい。
また、固化材の最適添加量を決定するときには、固化材の添加量が少ない場合は目標強度を満足しないことが多いことも考慮すべきである。図17に、水固化材比が一定の場合の固化材添加量を横軸に取り、施工性、強度(曲線13)及び残土量(曲線14)の関係を模式的に示した。固化材添加量が増加するにつれて、注入量が増加するため施工性が向上し、強度発現も大きくなる。一方、残土量も固化材添加量が増加量に比例して増加していく。したがって、目標強度を満足し、かつ施工性も良好な範囲15で、最も残土量が少なくなるように経済的な配合量を設定することが望ましい。
以上より、今までの施工性や室内配合試験の結果をもとに、ソイルセメント強度、施工性、及び経済性などの面から判断し、一般的な地盤における配合例を示すと次の通りである。
固化材添加量(kg/m3:地盤土1m3当たりのセメント量)
同時沈設方式の場合:300kg/m3
後沈設方式の場合:300〜400kg/m3
水固化材比(質量%)
同時沈設方式の場合:100〜120%
後沈設方式の場合:120〜150%
以上に鋼管ソイルセメント杭造成工法の場合の水硬性固化材の使用量について説明した。
次に本発明の硬化遅延剤について、その効果を確認するために行った実験に基づいて説明する。
鋼管ソイルセメント杭造成工法に通常行われる通常条件での室内試験とソイルセメント地中連続壁構築工法に通常行われる通常条件での室内試験とを実施し、施工性を判断する場合に問題となるスラリーの流動性試験として、鋼管ソイルセメント杭造成工法の室内試験で通常使用される改良土(ソイルセメント)の針貫入(プロクター)試験、及びソイルセメント地中連続壁構築工法の室内試験で通常使用されるベーンせん断抵抗試験の測定を行った。強度発現性についてはソイルセメント(改良土)の一軸圧縮強度試験を実施した。このような室内試験により遅延強化助剤の有効性を確認した。
なお、改良土(ソイルセメント)の針貫入(プロクター)試験には、JIS A6204の付属書1のコンクリートの凝結時間試験方法を準用し、油圧式によるプロクター試験機(株式会社丸東製作所製)を用いて行った。その測定仕様は次の通りである。
貫入方式:ハンドルを手動で回す方式
貫入抵抗測定:油圧荷重計置針指示式
荷重計:油圧ベローズ式、最大容量1000N、最小目盛10N
指針零点調整:手動式調整部装備
貫入針頭:100mm2,貫入支持線付き
試料容器:直径150mm、高さ150mmの円筒形容器
試料容器に上面を上端より約1cm低くなるように、改良土(ソイルセメント)を試料として充填し、表面を平滑な面として測定を行った。
測定は、ハンドルを操作して貫入針頭を試料中に25mm貫入させた。貫入深さは、貫入針頭に付けた刻線によって確認した。貫入に要する時間は、約10秒とし、貫入試験を行った時刻及び貫入に要した力(N)を荷重計の置針から読みとって、記録した。このような測定を規定の経過時間毎に行った。貫入針頭の針跡の間隔は、用いる貫入針頭の直径の2倍以上で、かつ、15mm以上とし、試料容器の側面と針跡の間隔は、20mm以下とならないようにした。
用いた貫入針頭の断面積(mm2)で貫入に要した力(N)を除し、貫入抵抗(N/mm2)を算出した。
また、ベーンせん断抵抗試験は、地盤工学会基準(JGS 1411−195)の原位置ベーンせん断試験方法に準じて試験を行った。即ち、ベーンせん断抵抗試験は4枚の羽根(ベーンプレード)を測定部として持っている装置を使用し、この羽根を所定の深さ試料中へ押し込んだ後で回転させて試料をせん断する。このとき羽根の受ける最大抵抗値からせん断強さを求めるものである。
より具体的には、ポケットベーンと呼ばれる高さ40mm,幅20mmの羽根(ベーンプレード)のものを使用し、載荷、測定装置は、回転ロッドとベーンシャフトを介して試料中に押し込んだベーンプレードを回転させ、トルクメータでトルクを測定する。
測定は、回転ロッドにねじりを与えないようにして、ベーン(羽根)のみを所定の深さまでゆっくり押し込む。回転ロッドを載荷、測定装置に固定し、羽根を後で回転させて試料をせん断する。
試料のせん断強さτv(kN/m2)を次式によって算定した。
ここに、
M:測定最大トルク(kN・m)
Mf:試験機の摩擦トルク(kN・m)
D:ベーンプレードの幅(m)
〔試験例1〕
試験例1として前記した鋼管ソイルセメント杭造成工法用の室内実験を行った試験結果を表1及び図1〜図4に示すが、この実験の条件は下記に示すとおりである。
水硬性固化材である高炉セメント(B種)を使用し、かつセメントの使用量であるセメント量C=300kg/m3(地盤土1m3当たりのセメント量)として、水固化材比100質量%とし、表1に示すように、粘土質、砂質土、シルトの各土質の地盤土試料に対し実験を行った。遅延剤、遅延強化助剤の添加量はセメント100質量部に対する質量部(外割)の値を%と表示している。表1の備考に示すように、各土質について図1〜図4に針貫入(プロクター)試験による針貫入抵抗試験結果を、縦軸に貫入抵抗、横軸に遅延剤、遅延強化助剤及びセメントからなる固化材液を地盤土試料に対し撹拌混合した時間からの経過時間(硬化時間)を横軸として詳細な結果を示した。
表1中には鋼管ソイルセメント杭造成工法における鋼管のソイルセメント柱への回転埋設段階で重要となる貫入抵抗2〜4N/mm2までの硬化時間(経過時間)を示すと共に特に長期圧縮強度が問題となるシルト質の場合の圧縮強度を示した。圧縮強度の経時変化は、図5,図6に示した。
図1は粘土質の地盤に関するもので、その含水比は、65.0%であった。遅延剤としてオキシカルボン酸系遅延剤(商品名ER−2,株式会社フローリック製)を使用し、図1ではER−2と表示した。また、遅延強化助剤として、表1に示したように、消石灰(Ca(OH)2、試薬1級、図1中にはCaと表示)、NaOH(試薬1級)と消石灰の等量混合物(図1中にはNa+Caと表示)を用いた。添加量はそれぞれセメント100質量部に対する質量部の値(外割)を%と表示した。遅延強化助剤を加えないものを比較例として示した。
貫入抵抗が2N/mm2及びで3N/mm2となるまでの時間は、比較例2で2.5時間及び4.3時間であるのに対し、実施例1では8時間及び12時間以上、実施例2では、6時間及び12時間、実施例3では6時間及び8.5時間となっており、それぞれ硬化時間が遅延している。
図2は砂質土の地盤に関するもので、遅延剤として、上記したと同じオキシカルボン酸系遅延剤(商品名ER−2,株式会社フローリック製)を使用し、図2ではER−2と表示した。遅延強化助剤として、表1に示したように、消石灰(Ca(OH)2、試薬1級、図2中にはCaと表示)を用い、その添加量を変化させた。添加量はそれぞれセメント100質量部に対する質量部の値(外割)を%で表示した。遅延剤(ER−2)のみを添加したものを比較例3とし、遅延剤(ER−2)と遅延強化助剤を全く加えないものを比較例4として示した。
貫入抵抗値が2N/mm2及びで3N/mm2となるまでの時間は、表1にも記載したように、比較例4では2.6時間及び3.3時間であるのに対し、実施例4では5.7時間及び7.3時間、実施例5では4.3時間及び5.1時間、実施例6では4時間及び4.9時間となっており、遅延剤の添加量が一定であるにもかかわらず消石灰の量が増加するにつれて遅延効果が大きくなっている。
図3はシルトの地盤に関するもので、遅延剤として、上記したと同じオキシカルボン酸系遅延剤(商品名ER−2,株式会社フローリック製)を使用し、図3ではER−2と表示した。遅延強化助剤として、表1に示したように、消石灰(Ca(OH)2、試薬1級、図2中にはCaと表示)を用い、その添加量を変化させた。添加量はそれぞれセメント100質量部に対する質量部の値(外割)を%で表示した。
遅延剤(ER−2)と遅延強化助剤を全く加えないものを比較例6として示した。
貫入抵抗値が2N/mm2及びで4N/mm2となるまでの時間は、表1にも記載したように、比較例6では3.9時間及び7.8時間であるのに対し、実施例7では8.5時間及び17.5時間、実施例8では6.5時間及び15.5時間、実施例9では4.4時間及び12.7時間となっており、遅延剤の添加量が一定であるにもかかわらず消石灰の量が増加するにつれて遅延効果が大きくなっている。
図3に示した比較例及び実施例の一軸圧縮強度を図5に示した。長期強度(91日強度)を見ると、表1にも示したように、遅延剤、遅延強化助剤を添加しない比較例に対して、実施例の強度は概略同等と見ることができる。
図4は同じくシルトの地盤に関するもので、遅延剤として、上記したと同じオキシカルボン酸系遅延剤(商品名ER−2,株式会社フローリック製)を使用し、図4ではER−2と表示した。遅延強化助剤として、表1に示したように、Ca(OH)2(試薬1級、図4中にはCaと表示)、CaOを用いた。添加量はそれぞれセメントの質量部に対する質量部の値(外割)を%で表示した。遅延剤(ER−2)と遅延強化助剤を全く加えないものを比較例6として示した。
貫入抵抗値が2N/mm2及びで4N/mm2となるまでの時間は、表1にも記載したように、比較例6では3.9時間及び7.8時間であるのに対し、実施例7では8.5時間及び17.5時間、実施例8では6.5時間及び15.5時間、実施例9では4.4時間及び12.7時間、実施例11では5.5時間及び14時間、実施例12では7時間及び14.3時間となっている。図4に示す比較例及び実施例の一軸圧縮強度を図6に示した。長期強度(91日強度)を見ると、表1にも示したように、遅延剤、強化助剤を添加しない比較例に対して、実施例の強度は同等と見ることができる。
〔試験例2〕
試験例2として前記したTRD工法用の室内実験を行った試験結果を表2並びに図7及び図8に示すが、この実験の条件は下記に示すとおりである。
水硬性固化材である高炉セメント(B種)を使用し、かつセメントの使用量であるセメント量C=250kg/m3(地盤土1m3当たりのセメント量)として、水固化材比200質量%とし、地盤土試料に対し実験を行った。遅延剤、遅延強化助剤の添加量はセメント100質量部に対する質量部(外割)の値を%と表示している。表2並びに図7及び図8に示すようベーンせん断抵抗試験よるにベーンせん断抵抗値(せん断強さ)を縦軸に、横軸に遅延剤、遅延強化助剤及びセメントからなる固化材液を地盤土試料に対し撹拌混合した時間からの経過時間(硬化時間)を横軸として詳細な結果を示した。
なお、図7や図8において遅延剤としてオキシカルボン酸系遅延剤(商品名ER−2,株式会社フローリック製)を使用し、図7や図8においてER−2と表示した。
また、ERと表示したものは遅延剤としてオキシカルボン酸系遅延剤(商品名ER−2,株式会社フローリック製)を使用したことを意味する。
更に、遅延強化助剤として、消石灰(Ca(OH)2、試薬1級、図7や図8中にはCaと表示)を使用した。
添加量はそれぞれセメント100質量部の値(外割)を%と表示した。遅延剤や遅延強化助剤を加えないものは比較例とした。
表2には6時間後(6H)、12時間後(12H)及び18時間後(18H)のベーンせん断抵抗値を示した。
TRD工法において、H鋼等の補強材を挿入する作業が容易な範囲のベーンせん断抵抗値は、5kN/m2程度までであり、比較例12,13,17では3時間〜6時間未満に制約されるが、本発明の硬化遅延材を用いると、実施例15,16,19に示すように、18時間程度まで延長することができる。またオキシカルボン酸系遅延剤(商品名ER−2,株式会社サンフローパリック製)を2%とする条件では、遅延強化助剤の消石灰が20%より30%の方が効果が大きく、オキシカルボン酸系遅延剤(商品名ER−2,株式会社フローリック製)4%と消石灰20%の場合と同等である。
以上の実施例において使用した遅延強化助剤の添加質量部を、使用した酸化物あるいは水酸化物(化合物)及びそれらの混合物の分子量に注目して、セメント1kg当り添加した化合物のモル数及び化学当量を表3に示した。
〔試験例3〕
試験例3として対象土にシルト質粘土を用い、試験例2と同様に、TRD工法用の室内実験を行った。結果を表4〜5並びに図9〜15に示した。この実験の条件は次のとおりである。
水硬性固化材である高炉セメント(B種)を使用し、かつセメントの使用量であるセメント量C=250kg/m3(地盤土1m3当たりのセメント量)として、水固化材比100質量%とした。遅延剤、遅延強化助剤の添加量はセメント100質量部に対する質量部(外割)の値を%と表示している。図9〜15に示すように、ベーンせん断抵抗試験によるベーンせん断抵抗値(せん断強さ)を縦軸に取り、遅延剤、遅延強化助剤及びセメントからなる固化材液を地盤土試料に対し撹拌混合した時間からの経過時間(硬化時間)を横軸に取って詳細な結果を示した。
遅延剤として、オキシカルボン酸系遅延剤(商品名ER−2,株式会社フローリック製)を用い、遅延強化助剤として、生石灰(CaO、試薬1級)、消石灰(Ca(OH)2、試薬1級)を用いたものを表4に示した。
表4の内、実施例20、26、28、30、31、55及び比較例18、19を図9に示した。
また、遅延材として、クエン酸、リグニンスルホン酸、ソルビトール、マルトース、イソマルオリゴ糖、又はポリアクリル酸を用い、遅延強化助材として、消石灰(Ca(OH)2、試薬1級)を用いたものを表5に示した。遅延剤はそれぞれほぼ同等の遅延効果を有する添加量とした。すなわち水硬性固化材100質量部に対し、クエン酸3質量部、リグニンスルホン酸2質量部、マルトース2質量部、ソルビトール1質量部、イソマルオリゴ糖1質量部、ポリアクリル酸4質量部とした。表5の遅延剤ごとの試験結果をそれぞれ図10〜15に示した。
添加量はそれぞれセメント100質量部に対する値(外割)を%と表示した。遅延剤や遅延強化助剤を加えないものを比較例として示した。
表4、5には4時間後(4H)、6時間後(6H)及び8時間後(8H)のベーンせん断抵抗値を示した。TRD工法において、H鋼等の補強材を挿入する作業が容易な範囲のベーンせん断抵抗値は、5kN/m2程度までである。従って、明らかにこれを越えるデータについては測定を行わなかった。表4、5中に+と表示してあるのは、概ね8kN/m2を越えるような値となると想定されるものであって測定をしなかったものである。また、表4、5中の主なものについて材齢7日及び28日における圧縮強度を測定し、表4、5に併記した。
表4において、比較例18は遅延材(ER−2)のみを2%加え遅延強化助材を加えないもの、比較例19は遅延材、遅延強化助材のいずれも加えないものである。比較例18では、TRD工法の適用は4時間未満程度までに制約される。比較例19では3時間以内に制約される。実施例19〜21、30、55では、8時間未満程度まで遅延効果を利用することができ、実施例25、26、28、29、31〜34、36では6時間未満程度まで遅延効果を利用することができる。また、実施例20を除き、実施例19、21、26、28、29、33では、材齢28日における圧縮強度も充分発現している。実施例23、24、35、36がやや使いにくい態様を示している。
次に表5及び図10〜15について説明する。遅延材として、クエン酸、リグニン、マルトース、イソマルオリゴ糖、又はポリアクリル酸を用いた。クエン酸(オキシカルボン酸系)は試薬1級、リグニンスルホン酸は日本製紙株式会社製リグニンスルホン酸カルシウム塩(平均分子量13,000)、マルトース(糖類系)は試薬1級、ソルビトール(糖アルコール系)は上野製薬製D−ソルビトール液、イソマルオリゴ糖(糖類系)は林原株式会社製イソマルオリゴ糖シラップ(商品名パノラップ(濃度75%))、ポリアクリル酸は株式会社サンフローパリック製ポリアクリル酸ソーダ(平均分子量14,000)(商品名ジオスパーK)を用いた。遅延強化助材として、Ca(OH)2を用いたものを表5に示した。表5の遅延材ごとの試験結果をそれぞれ図10〜15に示した。
クエン酸を遅延剤とする実施例では、表5及び図10に示すように、遅延強化助剤を加えない比較例25に比し、実施例37〜39は遅延効果が大きく、実施例37の材齢28日の圧縮強度も優れている。実施例38、39も比較例25との対比でせん断抵抗値が5kN/m3に達するまでに2〜4時間の付加時間の遅延効果が認められる。
リグニンスルホン酸を遅延剤とする実施例では、表5及び図11に示すように、遅延強化助剤を加えない比較例20に比べて実施例40〜42が遅延効果が大きく、1〜3時間程度の付加時間の遅延効果が認められる。
マルトースを遅延剤とする実施例では、表5及び図12に示すように、遅延強化助剤を加えない比較例26に比べて実施例43〜45は2〜4時間程度の付加時間が認められ、実施例43に示すように、材齢28日の圧縮強度も十分な値を示している。
ソルビトールを遅延剤とする実施例では、表5及び図13に示すように、遅延強化助剤を加えない比較例21に対し、1〜3時間の付加時間の遅延効果が期待される。
イソマルトオリゴ糖を遅延剤とする実施例では、表5及び図14に示すように、遅延強化助剤を加えない比較例22に対し、2〜4時間の遅延効果が認められるが、実施例49に示すように材齢28日の圧縮強度が低い。従って、使用量その他の条件をさらに研究する必要があると考えられる。
ポリアクリル酸を遅延剤とする実施例では、表5及び図15に示すように、遅延強化助剤を加えない比較例23に対し、0.5〜2時間の遅延効果がある。
次に、遅延材としてER−2を用い、遅延強化助剤を10%としたとき、本発明の各遅延強化助剤のランク付けは、表6に示すようになる。表6におけるクラス分けは元素の周期律表の周期を示したものである。遅延効果は左側欄が大きく右に行くに従って小さくなる。また、同じ枠内に記載したものは遅延効果が概ね同等と考えられるものである。
次に、実験例3で用いた遅延強化助剤の金属原子量と遅延効果との関係を表7に纏めて示した。表7中、括弧内に示した数字は、結晶水を除外した値を記載したものである。
なお、遅延効果のみに注目すると、遅延強化助剤にあっては酸化亜鉛(ZnO)等が高い効果を示す。遅延剤としては、糖類は、一般に要求される28日強度において、充分な強度の発現が期待できない場合があるため、取り扱いに注意を要する。但し、目的によっては、硬化遅延の効果及び強度発現期間などの選択によって、遅延剤及び遅延強化助剤の添加量は、本発明の添加割合の範囲内で充分に使用可能である。