添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
以下の実施の形態では、成分濃度測定装置及び成分濃度測定装置制御方法を、血液成分濃度測定装置又は血液成分濃度測定装置制御方法として説明する。本実施形態において説明する生体被検部を被測定物に、血液を溶液に、水を液体に、グルコース又はコレステロールを対象成分に、それぞれ置き換えれば、液体成分濃度測定装置又は液体成分濃度測定装置制御方法として実施することができる。例えば、溶液には、血液に限らず、リンパ液や涙等の生体を構成する溶液が含まれる。そして、対象成分には、グルコース又はコレステロールに限らず、例えば「リンパ液成分」や「涙成分」等の生体を構成する溶液中の成分も含まれる。このように測定対象に応じて種々の成分を測定できる。
(第1実施形態)
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置は、異なる波長の2波の光を発生する光発生手段と、該異なる波長の2波の光の各々を同一周波数で逆位相の信号により電気的に強度変調する光変調手段と、強度変調された該異なる波長の2波の光を1つの光束に合波し生体に向けて出射する光出射手段と、出射された光により生体内に発生する音波を検出する音波検出手段と、検出された音波の圧力から生体内の血液成分濃度を算定する血液成分濃度算定手段と、を備えた血液成分濃度測定装置である。なお、本実施形態に係る血液成分濃度算定手段は、本実施形態において適用する他、後に説明する実施形態においても適用することができる。
さらに、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置においては、前記光発生手段は、1波の光の波長を血液成分が特徴的な吸収を呈する波長に設定し、他の1波の光の波長を水が前記1波の光の波長におけるのと相等しい吸収を呈する波長に設定することもできる。
図1を参照して、本実施形態に係る構成について説明する。図1は、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置の基本構成を示している。図1において、光発生手段の一部としての第1の光源101は、光変調手段の一部としての駆動回路104により、光変調手段の一部としての発振器103に同期して強度変調されている。
一方、光発生手段の一部としての第2の光源105は、光変調手段の一部としての駆動回路108により、同じく上記発振器103に同期して強度変調されている。但し、駆動回路108には、発振器103の出力が、光変調手段の一部としての180°移相回路107を経て給電され、その結果、第2の光源105は、上記第1の光源101に対して、180°位相が変化した信号により強度変調されるように構成されている。
ここで、図1に示す第1の光源101および第2の光源105の各々の波長は、1波の光の波長を血液成分が特徴的な吸収を呈する波長に設定し、他の1波の光の波長を水が前記1波の光の波長におけるのと相等しい吸収を呈する波長に設定する。
第1の光源101および第2の光源105は各々異なる波長の光を出力し、各々の出力する光は、光出射手段としての合波器109により合波され、1つの光束として、被検体としての生体被検部110に照射される。照射された第1の光源101および第2の光源105の各々が出力する光により生体被検部110内に発生される音波、すなわち光音響信号は、音波検出手段の一部としての超音波検出器113により検出され、光音響信号の音圧に比例した電気信号に変換される。前記電気信号は、上記発振器103に同期した音波検出手段の一部としての位相検波増幅器114により同期検波され、音圧に比例する電気信号が出力端子115に出力される。
ここで、出力端子115に出力される信号の強度は第1の光源101および第2の光源105の各々が出力する光が生体被検部110内の成分により吸収された量に比例するので、前記信号の強度は生体被検部110内の成分の量に比例する。従って、出力端子115に出力される前記信号の強度の測定値から、血液成分濃度算定手段(図示せず)が生体被検部110内の血液中の測定対象の成分の量を算定する。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置は第1の光源101および第2の光源105の出力する異なる波長の2波の光を同一周期、すなわち同一周波数の信号で強度変調しているので、超音波検出器113の周波数特性の不均一の影響を受けない特徴があり、この点が既存技術より優れている点である。
以上説明したように本実施形態に係る血液成分濃度測定装置は高精度に血液成分を測定することができる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置制御方法は、光発生手段が、異なる波長の2波の光を発生する光発生手順と、光変調手段が、前記光発生手順において発生させた異なる波長の2波の光の各々を同一周波数で逆位相の信号により電気的に強度変調する光変調手順と、光出射手段が、前記光変調手順において強度変調された異なる波長の2波の光を1つの光束に合波し生体に向けて出射する光出射手順と、音波検出手段が、前記光出射手順において照射された光により生体内に発生する音波を検出する音波検出手順と、検出された音波の圧力から生体内の血液成分濃度を算定する血液成分濃度算定手順と、を順に含む血液成分濃度測定装置制御方法である。
さらに、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置制御方法においては、前記光発生手順は、1波の光の波長を血液成分が特徴的な吸収を呈する波長に設定し、他の1波の光の波長を水が前記1波の光の波長におけるのと相等しい吸収を呈する波長に設定して異なる波長の2波の光を発生する血液成分濃度測定装置制御方法とすることもできる。
ここで、異なる波長の2波の光の各々を電気的に強度変調する方法としては、異なる波長の2波の光を発生し、その後に異なる波長の2波の光のそれぞれを同一周波数で位相が180°異なる信号により変調器を用いて電気的に強度変調する方法でもよく、図1に示す例の場合のように駆動回路104および駆動回路108がそれぞれ第1の光源101および第2の光源105を発光させると同時に強度変調する直接変調法でもよい。
次に、上記の手順により強度変調された前記波長の異なる波長の2波の光の各々を、例えば図1に示す合波器109により1つの光束に合波し生体に照射し、照射された前記波長の異なる波長の2波の光の各々により生体内に発生する音波、すなわち光音響信号を例えば図1に示す超音波検出器113により検出し電気信号に変換し、前記電気信号をさらに例えば図1に示す位相検波増幅器114により同期検波し、光音響信号に比例する電気信号を出力端子115に出力する。次に、血液成分濃度算定手順において、音波検出手順で検出された音波の圧力から生体内の血液成分濃度を算定する。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置制御方法は、第1の光源101および第2の光源105の出力する異なる波長の2波の光を同一周期、すなわち同一周波数の信号で強度変調しているので、音波を検出する測定系の周波数特性の不均一の影響を受けない特徴があり、この点が既存技術より優れている点である。
以上説明したように本実施形態に係る血液成分濃度測定装置制御方法は高精度に血液成分を測定することができる。
本実施形態に係る前記血液成分濃度測定装置において、前記光変調手段は生体内に発生する音波の検出に関わる共鳴周波数と同一の周波数で変調する手段とすることもできる。異なる波長の2波の光の各々を生体内に発生する音波の検出に関わる共鳴周波数と同一の周波数で変調することにより、生体内に発生する音波を高感度に検出できる。
本実施形態に係る前記血液成分濃度測定装置制御方法において、前記光変調手順は生体内に発生する音波の検出に関わる共鳴周波数と同一の周波数で変調する手順とすることもできる。異なる波長の2波の光の各々を生体内に発生する音波の検出に関わる共鳴周波数と同一の周波数で変調することにより、生体内に発生する音波を高感度に検出できる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置において、前記血液成分濃度算定手段は、前記異なる波長の2波の光を生体に照射して発生する音波の圧力を、前記2波の光のうち1波の光を零としたときに発生する音波の圧力で除算する手段とすることもできる。このような除算により、高精度に血液成分濃度を測定することができる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置制御方法において、前記検血液成分濃度算定手順は、前記2波の光を生体に照射して発生する音波の圧力を、前記2波の光のうち1波の光を零としたときに発生する音波の圧力により除算する手順とすることもできる。このような除算により、高精度に血液成分濃度を測定することができる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置において、前記光発生手段は、強度変調された前記異なる波長の2波の光を1つの光束に合波し水に照射して発生する音波の圧力が零になるように前記異なる波長の2波の光の各々の相対的な強度を調整する手段とすることもできる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置において、例えば、図1において、生体被検部110に代えて校正用の水に、前述の血液成分濃度の測定と同様に、第1の光源101および第2の光源105の出力する光を1つの光束に合波した光を照射し、超音波検出器113が検出する光音響信号が零になるように、第1の光源101および第2の光源105の出力する光の相対的な強度を調節する場合である。
上記のように第1の光源101および第2の光源105の光の強度を調節する場合、第1の光源101および第2の光源105の光の相対的な強度を容易に等しく調整することができるので、容易に、高精度に血液成分濃度を測定することができる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置制御方法において、前記光変調手順と前記光出射手順との間に、前記強度変調された異なる波長の2波の光を1つの光束に合波し水に向けて出射して発生する音波の圧力が零になるように前記2波の光の各々の相対的な強度を調整する強度調整手順を、さらに含む血液成分濃度測定装置制御方法とすることもできる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置制御方法は、例えば、強度変調された異なる波長の2波の光を1つの光束に合波する手順の後に、前記異なる波長の2波の光を1つの光束に合波し水に向けて出射して発生する音波の圧力が零になるように前記2波の光の相対的な強度を調整することにより、前述の第1の光源101および第2の光源105の出力する光の相対的な強度を容易に等しく調整することができるので、容易に、高精度に血液成分を測定できる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置において、前記音波検出手段は、前記変調周波数に同期して同期検波により検出する手段とすることもできる。本実施形態に係る血液成分濃度測定装置は、例えば、第1の光源101および第2の光源105の出力する光の各々に対応する光音響信号が超音波検出器113により検出され電気信号に変換された信号を、位相検波増幅器114において第1の光源101および第2の光源105の出力する光の各々を強度変調する信号に同期して、同期検波により検出する例である。位相検波増幅器114において第1の光源101および第2の光源105の出力する光の各々に対応する光音響信号の検出精度が向上し、いっそう高精度に光音響信号を測定することができる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置制御方法において、前記音波検出手順は、前記変調周波数に同期して、同期検波により検出する手順とすることもできる。本実施形態に係る血液成分濃度測定装置制御方法において、例えば、前記異なる波長の2波の光の各々に対応する光音響信号を、前記異なる波長の2波の光の各々を強度変調する信号に同期して、同期検波により検出する場合である。第1の光源101および第2の光源105の出力する光の各々に対応する光音響信号の検出精度が向上し、一層高精度に光音響信号を測定することができる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置において、前記光発生手段及び前記光変調手段は、2の半導体レーザ光源の各々を同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調する手段とすることができる。2つの半導体レーザ光源の各々を同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調する装置構成とすることにより、装置構成が簡略化できる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置制御方法において、前記光発生手順及び前記光変調手順は、2つの半導体レーザ光源の各々を同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調する手順とすることができる。2つの半導体レーザ光源の各々を同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調する手順とすることにより、手順が簡略化できる。
次に本実施形態に係る血液成分濃度測定装置及び血液成分濃度測定装置制御方法の基本となる技術の詳細を説明する。
図1を参照して本実施形態に係る血液成分濃度測定装置構成を説明する。図1に示す本実施形態に係る血液成分濃度測定装置は、第1の光源101、第2の光源105、駆動回路104、駆動回路108、180°移相回路107、合波器109、超音波検出器113、位相検波増幅器114、出力端子115、発振器103により構成される。
発振器103は、信号線により駆動回路104、180°移相回路107、位相検波増幅器114とそれぞれ接続され、駆動回路104、180°移相回路107、位相検波増幅器114のそれぞれに信号を送信する。
駆動回路104は、発振器103から送信された信号を受信し、信号線により接続されている第1の光源101へ駆動電力を供給し、第1の光源101を発光させる。
180°移相回路107は、発振器103から送信された信号を受信して、前記受信した信号に180°の位相変化を与えた信号を、信号線により接続されている駆動回路108へ送信する。
駆動回路108は、180°移相回路107から送信された信号を受信し、信号線により接続されている第2の光源105へ駆動電力を供給し、第2の光源105を発光させる。
第1の光源101および第2の光源105の各々は、互いに異なる波長の光を出力し、各々が出力した光を光波伝送手段により合波器109へ導く。
第1の光源101の出力した光と第2の光源105の出力した光は、合波器109に入力され、合波されて、1つの光束として生体被検部110の所定の位置へ照射され、生体被検部110内に音波、すなわち光音響信号を発生させる。
超音波検出器113は、生体被検部110の光音響信号を検出し、電気信号に変換して、信号線により接続されている位相検波増幅器114へ送信する。
位相検波増幅器114は、発振器103から送信される同期検波に必要な同期信号を受信するとともに、超音波検出器113から送信されてくる光音響信号に比例する電気信号を受信し、同期検波ならびに増幅、濾波を行なって、出力端子115へ光音響信号に比例する電気信号を出力する。
第1の光源101は、発振器103の発振周波数に同期して強度変調された光を出力する。一方、第2の光源105は、発振器103の発振周波数で、かつ180°移相回路107により180°の位相変化を受けた信号に同期して強度変調された光を出力する。
上記のように、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置においては第1の光源101の出力した光と第2の光源105の出力した光は、同一の周波数の信号により強度変調されているので、従来技術において、複数の周波数の信号により強度変調している場合に問題となる測定系の周波数特性の不均一性の影響は存在しない。
一方、従来技術において問題となる光音響信号の測定値に存在する非線形的な吸収係数依存性は、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置においては等しい吸収係数を与える複数の波長の光を用いて測定することにより解決できることを、以下に説明する。
波長λ
1および波長λ
2の各々光に対して、背景の吸収係数α
1 (b)、α
2 (b)及び測定対象とする血液成分のモル吸収α
1 (0)、α
2 (0)が既知の場合、各波長における光音響信号の測定値s
1およびs
2を含む連立方程式は、次の数式(1)のように表される。
数式(1)を解いて未知の血液成分濃度Mを求める。ここで、Cは、変化し制御或は予想困難な係数、即ち、音響的な結合状態、超音波検出器の感度、前記照射部と前記検出部の間の距離(以下rと定義する)、比熱、熱膨張係数、音速、変調周波数、更に、吸収係数にも依存する未知乗数である。
数式(1)の1行目と2行目のCに差異が生ずるならば、それは、照射光に関係する量、即ち、吸収係数による差異以外にはあり得ない。ここで、数式(1)の各行の括弧の中、即ち吸収係数が互いに等しくなるように、波長λ1および波長λ2の組合せを選べば、吸収係数が等しくなり、1行目と2行目のCは等しい。しかしこれを厳密に行なうと、波長λ1および波長λ2の組合せが、未知の血液成分濃度Mに依存することになるため、不便である。
ここで、数式(1)の吸収係数(各行括弧中)に占める比率は、背景(α
i (b)、i=1、2)の方が、血液成分濃度Mを含む項(Mα
i (0))よりも著しく大きい。そこで、各行の吸収係数を正確に等しくする代わりに、背景、α
i (b)の吸収係数を等しくすれば十分である。即ち、異なる波長λ
1および波長λ
2の2波の光は、各々における背景の吸収係数、α
1 (b)、α
2 (b)が互いに等しくなるように選べば良い。このように1行目と2行目のCを等値できれば、それを未知定数として消去し、測定対象の血液成分濃度Mは数式(2)で表される。
数式(2)の後段の変形にはs
1≒s
2という性質を用いている。
ここで、数式(2)を見ると、分母に波長λ1および波長λ2における測定対象の血液成分の吸収係数の差が現れている。この差が大きい方が、光音響信号の差信号s1−s2が大きく、その測定が容易となる。この差を最大とするには、測定対象の成分の吸収係数α1 (0)が極大となる波長を波長λ1に選び、かつ、α2 (0)=0、即ち、測定対象の成分が吸収特性を示さない波長に波長λ2を選ぶのが良い。ここで、前の条件から、この第2の波長λ2は、α2 (b)=α1 (b)、即ち、背景の吸収係数が第1の波長λ1の吸収係数に等しくなければならない。
さらに、数式(2)において、光音響信号s1は、光音響信号s2との差s1−s2の形でのみ登場している。今、測定対象の成分としてグルコースを例にとると、上述したように、2つの光音響信号s1および光音響信号s2の強度には、0.1%以下の差異しかない。
しかし、数式(2)の分母の光音響信号s2には5%程度の精度があれば十分である。従って、2つの光音響信号s1および光音響信号s2を逐次個別に測定するよりも、それらの差s1−s2を測定しこの測定値を、個別に測定した光音響信号s2で除する方が、格段に容易に精度が保てる。従って、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置においては、2つの波長λ1および波長λ2の光を、互いに逆相に強度変調して照射することにより、生体内で光音響信号s1および光音響信号s2が相互に重畳されて生じる光音響信号の差信号s1−s2を測定する。
以上説明したように、血液成分濃度を測定する場合、異なる特定の波長の2波の光を用いて、前記異なる特定の波長の2波の光が生体内に発生する光音響信号を各々個別に測定するよりも、前記光音響信号の差信号を測定し、さらに、所定の一方の光音響信号を零として、他方の光音響信号を測定して、これらを数式(2)により演算して、容易に血液成分濃度を測定できることが分かる。
次に、光照射によって発生する音圧について、図2を参照して説明する。図2は本実施形態に係る基礎となる直接光音響法の説明図であり、図2には直接光音響法における観測点の配置が、音源分布のモデルと伴に、示されている。図2において照射光201は、生体に垂直に入射し、その結果、上述したように、光が照射される部分の表面近傍に音源202が生成される。
音源202から出て生体内(簡単のために音波について一様とする)を伝搬する音波について、照射光201の延長線上にあり、音源から距離rだけ離れた観測点203で、その音圧p(r)を観測する。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置において使用する波長1μm以長の光に対しては、生体は、背景(水)による強い吸収を受けるために、音源202は光の照射される部分の表面に局在し、その結果、発生する音波は球面波と見なせる。
図2に示す音波伝搬を記述する波動方程式は、流体力学の方程式から求められる。即ち、連続の式とNavier Stokes方程式を、密度変化、圧力変化、及び流速変化が微小な場合として、各々を線形とし、これらと流体(水)における圧力と密度の関係を記述する状態方程式を連立して解くことにより求められる。ここで、前記状態方程式は、温度をパラメータとして含み、熱源Qが存在する時の温度変化は、前記状態方程式を介して取り込まれる。
熱伝導を無視する時、微小な圧力変化pは、次の非斉次のHelmholtz方程式により記述される。
ここで、cは音速、βは熱膨張係数、C
pは定圧比熱である。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置の場合、一定周期Tで強度変調された光を照射し、該一定周期Tに同期した音圧変化を検出するので、変調周波数をf=1/T、また変調角周波数をω=2πfとおく時、全ての量について、時間依存性exp(−iωt)を持つ量のみに注目すればよい。その結果、時間微分は−iωとの積になる。
また熱源Qは、照射光吸収に続く非発光緩和に起因するため、吸収係数αに比例し、またその分布は、媒質中での照射光(散乱光が生ずればそれも含めた)の空間分布に等しくなる。即ち、各点での光強度をIと書くと、Q=αIである。以上により、定常的な直接光音響法に関わる基本方程式は次の数式(4)のように表される。
ここで、音波の波数k=ω/c=2πλ(λは音波の波長)を導入した。
数式(4)のp(r→∞)→0の境界条件の下での解は、十分遠方(r)α
−1)において、次の数式(5)のように表される。
今、若干の光分布について数式(5)により、観測される音圧を計算する。先ず、光分布のモデルA204としては、強度が動径r´に対して、e−αr´で減衰する半球状の分布を考える。これは、著しく散乱が大きく、照射光が入射するや否や、全方位に散乱される場合に対応する。
これに対して、散乱が零である場合が、図2におけるモデルB205、およびモデルC206であり、各々半径w0のガウス型のビームと一様円形ビームを入射した場合に相当している。これら各モデルの光強度分布は、図2中に示されている。
今、既に用いた条件r≫α
−1に加えて、r≫w
0、および、N≡w
0 2/(rλ)≪1(モデルA204についてのNは、w
0に代えてα
−1を用いて定義する)が成り立つ時、数式(5)による計算結果は、以下のようにまとめられる。
ここで、P
0は照射光201の全パワーであり、またF(ξ)は、
と計算される。音源の分布の情報は、この形状関数F(kα
―1)に集約される。前記形状関数のグラフを、図3に示した。
以上の結果によると、ξ=kα―1が小さい時、即ち、音波の波長が吸収長に比べて非常に長い場合(λ)α−1)には、光音響信号は、吸収係数の情報を何ら含まない。その理由は、ξ≪1で、F(ξ)≒ξであって、αF(ξ)≒kに帰してしまうからである。従って、音波の波長が吸収長に比べて非常に長い場合、すなわち変調周波数が低すぎる場合は光音響法によって血液成分濃度の測定はできないことが分かる。
従って、生体に対して行なう直接光音響法においては、ξ≒1、すなわちf≒αc/(2π)以上に変調周波数を設定すべきであり、照射光201の波長が1.6μm近傍の場合は変調周波数fを150kHz以上、あるいは照射光201の波長が2.1μm近傍の場合は変調周波数fを0.6MHz以上とする必要がある。
次に、モデルB205、およびモデルC206の結果に差異がないことから、光軸に垂直方向の光強度分布が、信号に影響しないことが分かる。但し、この簡単化が許されるのは、上記N=w0 2/(rλ)≪1が成り立つ場合に限られる。このNはフレネル数と呼ばれる量であり、観測点から音源を見込む際、視線に垂直方向の音源の拡がりに因って、音源の各点からの音波の寄与に生じる位相の変化幅を表している。フレネル数Nが、1に比べて十分小さければ、視線に垂直方向に音源が拡がりを持たないのと等価となる。
その結果、照射光201のビーム径w0が、光音響信号に影響を与えないという、極めて都合の良い性質が生ずるのである。その理由は以下の2つである。
その1は、生体における散乱の影響の抑制である。上記モデルA204は、散乱が大きい極限の場合を想定しているが、生体における散乱は実際、これ程は甚だしくはない。一般に散乱現象は散乱係数μsと異方性gによって特徴付けられる。ここで、後者は、散乱角θの余弦の平均値<cosθ>であり、生体、特に皮膚における値として、概略0.9が報告されている(例えば、Applied Optics誌、32巻、1993年、435−447頁、参照)。即ち、実際の生体における散乱は、小角散乱<θ>≒26°が主である。
今、単位長さの伝搬中に入射光束から散乱によって光が減少してゆく割合は、還元散乱係数μ´s=μs(1−g)で与えられ、この値は光の波長1μm以長に対して、概略1mm−1と実測されている。(非特許文献3参照)。この値は、単位長さの伝搬中に、入射光束から吸収によって光が減少してゆく割合である吸収係数αの値(光の波長1.6μm前後で0.6mm−1、2.1μm前後で2.4mm−1)と同程度の大きさである。
即ち、今、生体において照射光201は、吸収長α―1の間に高々2回の散乱を受けるのみであり、しかも散乱角は小さい。この結果、生体内部の光分布(入射光束と散乱光の和)は、深さとともに序々にビーム径が拡って行き、あたかもピンの頭のような形となる。このような光分布の実測例も報告されている(Applied Optics誌、40巻、2001年、5770−5777頁、参照)。この時、深さzの面内における光分布の総量は、依然、exp(−αz)に従って減衰することが期待される。これは、少回の散乱が、小散乱角で起こる故である。
従って、光音響信号が照射光201のビーム径に依らない場合、各深さでの光分布のビーム径自体は問題にならず、各深さ面内でのその総量のみが形状関数F(ξ)に影響し得る。これが、exp(−αz)であれば、結果的に、散乱のないモデルB205、およびモデルC206の場合に異ならず、よって形状関数への散乱の影響が無いことが予想されるのである。
2つの波長λ1、および波長λ2の光照射において、該形状関数を等値することは、本実施形態における方法の骨子である。従って、2つの波長λ1、および波長λ2における散乱に相違があるのは、非常に望ましくない。現実には、光の波長1.3μm以長に対して、皮膚における散乱の波長依存性の実測報告は未だ無いが、血液については、一定の還元散乱係数μ´sが報告されている(Journal of Biomedical Optics誌、4巻、1999年、36−46頁、参照)。
従って、例えば、形状関数への若干の散乱の影響があったとしても、その波長依存性は小さく、実害に及ばない可能性はある。さらに、ここで示したように、フレネル数を小さく設定すれば、形状関数への散乱の影響自体を抑止できる。それ故、散乱の波長依存性如何に関わらず、形状関数の等値は正当化され、本実施形態における方法が高い信頼性を持つことが分かる。
その2は、変調周波数の最適化が可能になる事である。人体に対する光の照射には、照射部位と波長、照射時間などに依存する光強度の許容限度がある。フレネル数Nが小さい範囲で、ビーム径w0を拡大すれば、光強度の限度を越えずに、照射光201の全パワーP0を高め、光音響信号を増大できる。
ここで、照射強度の限度をImaxと書くと、P0=πw0 2Imaxであり、フレネル数Nは、全パワーP0によって、N=f/(πcr)(P0/Imax)と表される。距離rは、生体被検部110の厚みによって決まる量(例えば、指頭では10mm、手首では40mm程度)であることを考慮すると、Nを一定に留めて、k、即ち、変調周波数f(∝k)を高める場合、全パワーP0を減らさざるを得ない。ところが、形状関数の大きさ|F(kα−1)|は、kに比例して増えないので、検出される音波は減少する。従って、高過ぎる変調周波数も、また望ましくないことが分かる。
数式(6)の与える音圧振幅p
aを、NとI
maxを用いて、書き直すと次のようになる。
ここで、音圧上界p
supは以下の数式(9)となる。
数式(8)で、|F(ξ)|/ξは、ξについて単調に減少する関数であり、信号振幅のみの観点では、低い変調周波数が有利となる。
今の場合、数式(8)のαに関わる変化率、∂pa/∂α=−(psupN/α)ξd(|F(ξ)|/ξ)/dξを最大とするξ=kα―1が、最適の変調周波数を与える。このようなξは、モデルA204で2.49、モデルB205、およびモデルC206では21/2であり、その様なξにおける|F(ξ)|/ξの値は、各々、0.620、1/31/2と算出される。即ち、信号の強度と吸収係数αへの感度の相反する要求の妥協点として、最適の変調周波数が存する。
上述したように、現実の生体における光分布はモデルB205、およびモデルC206に近いと考えられるので、最適な変調周波数は、2πf=1.41cαであり、その時、f→0における最大値psupNに対し、57.7%の信号振幅が期待される。
次に、図3を参照して、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置の原理を説明する。図1に示す第1の光源101は発振器103に同期して強度変調され、第1の光源101の出力する光は図4の上段に、第1の光源(λ1)の光211として示す波形となる。
一方、図1に示す第2の光源105は、同じく発振器103に同期して強度変調される。ここで、発振器103の送信する信号は180°移相回路107により180°の位相推移を与えられるので、第2の光源105の出力する光は第1の光源101の出力する光に対して逆位相な信号により強度変調され、図5の下段に、第2の光源(λ2)の光212として示す波形となる。
ここで図3においては、第1の光源101および第2の光源105を強度変調する信号は周期が1μ秒、即ち、変調周波数fが1MHzであり、かつ、占有率50%の信号の場合について示している。
ここで、数式(4)では、照射光201に正弦波的変化を仮定し、図3においては、矩形波の光を照射する場合を示しているが、このことは次の理由により矛盾しない。
すなわち、数式(3)は線形であり、異なる周波数の成分は互いに独立のものとして扱える。また音波の振幅が大きくなると、Navier Stokes方程式自体の持つ非線形性の影響を受けるが、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置における光音響信号の場合は、発生する音波は微弱であり線形の数式(3)が適用できる。また、矩形波は奇数次の高調波成分を含むが、そのうちの基本周期の正弦波成分の振幅を、数式(4)のIに読みかえれば良い。光源は、正弦波形状よりも矩形波形状に強度変調する方が容易であり、かつ、矩形波は同振幅の正弦波に比べて、4/π=1.27倍の基本周期正弦波成分を含み、効率は若干良い。
第1の光源101および第2の光源105の各々が出力する異なる波長の2波の光は、合波器109により合波され、生体被検部110に照射される。ここで、前記異なる波長の2波の光の各々は、独立に数式(6)で表される音圧を発生するものと考えることができる。
ここで、音波が線形に重畳されることは、数式(3)の線形性より既に明らかである。さらに、前記異なる波長の2波の光の各々は吸収が飽和する程には強くないので、前記異なる波長の2波の光の各々による発熱Qも線形に重畳される。ここで、吸収が飽和した場合であっても、吸収が不均一な拡がりを持ち、前記異なる波長の2波の光の波長の間隔が均一幅よりも広ければ、依然、発熱の線形な重畳は成立する。ここで、前記異なる波長の2波の光に対して共通に吸収が生じる水に対して、こうした条件もよく満されている。
以上のように、前記異なる波長の2波の光により、各々互いに独立に数式(6)で表される音圧の光音響信号が発生され、これらを重畳した音圧が、超音波検出器113により検出される。従って、上記のように重畳された音圧は次の数式により表される。
ここで、α
iF(kα
i ―1)(i=1、2)が差の形で重畳されているのは、前記異なる波長の2波の光の各々の入射光が互いに逆相で強度変調された結果である。これを、超音波検出器113により検出し変換して得られる電気信号の中の基本周期の正弦波成分の波形を図6に実線で示す。図6に実線で示す信号の振幅(rms値)が、発振器103に同期した位相検波増幅器114によって測定され、図6にV
dとして示す信号として、出力端子115に出力される。
数式(10)と数式(1)により、上記未知定数Cは次の数式により表される。
次に、数式(2)により、測定対象とする血液成分濃度の算出の原理を説明する。既に、第1の光源101および第2の光源105の各々が出力する光に対応する光音響信号の差信号s
1−s
2が得られているので、次に光音響信号s
2を測定すれば、数式(2)から、測定対象の血液成分濃度Mを算出できる。
そこで、図5に示す第2の光源(λ2)の光212のみを照射した状態で、光音響信号を測定する。即ち、図5に示すように、第2の光源105の出力する光の波形を保ったまま、第1の光源101の出力を零とする。これは、図1に示す第1の光源101の出力する光を、機械的なシャッターで遮る、または駆動回路104の出力を第1の光源101の発振閾値以下に下げる等の手段により実現できる。
上記の状態で測定される光音響信号の値を、超音波検出器113により検出し、電気信号に変換すると、基本周期正弦波成分として図6に破線により示す波形が得られる。また、図6に破線により示す波形のrms振幅値は、前述の方法と同様に位相検波増幅器114によって測定され、図6にVrとして示す信号として、出力端子115に出力される。
ここで光音響信号s2は、光音響信号の差信号s1−s2に対して、逆相となる。また、光音響信号s2は、前記光音響信号の差信号s1−s2に比べて、桁違いに大きい。例えば、健常者の血糖値測定の場合、1000倍以上である。従って、光音響信号s2と光音響信号の差信号s1−s2の2つの測定の間に、位相検波増幅器114の感度及び時定数の切替を行なう。
上記の測定により、2つの測定値Vd、Vrを得れば、それらの各々を、数式(2)中のs1−s2、s2のそれぞれに代入して、測定対象とする血液成分濃度Mを算出する。
ここで、測定値の比Vd/Vrから、血液成分濃度Mへの変換には、比吸光度α1 (0)/α1 (b)(α2 (0)が非零の場合、更にα2 (0)/α1 (b))を必要とする。
図7に、上記の比吸光度の値および、前述のように背景の吸収係数を等しくする2つの測定する波長λ1および波長λ2の選定方法を示す。
図4は、血糖値の測定の場合について、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置における第1の光源101と第2の光源105のそれぞれの波長の選択法を示す図である。
図7は、光波長1.2μmから2.5μmにわたって、水及びグルコース水溶液(濃度1.0M)の吸光度(OD)を示している。吸光度ODは吸収係数αとの間に、α=ODln10の関係がある。図7の右側の縦軸に吸収係数αの目盛を示す。
図7において、グルコース分子による吸収は、僅かに1.6μm近傍と2.1μm近傍に認められるが、グルコース分子による吸収は水に比べて、非常に小さい。
水とグルコースの吸光度の差を図8の上側に示し、これを更に、水の吸光度で除した比吸光度を図8の下側に示す。
図8に示す比吸光度によると、グルコース分子による吸収の明瞭な極大は、1608nmと2126nmに認められる。ここで、一例として、グルコース分子による吸収波長として、第1の光源101の波長λ1を1608nm(比吸光度は、0.114M−1)に設定する。これを、図8中に〇付きの縦実線で示した。
ここで、波長1608nmにおける背景(水)の吸収係数α1 (b)は、図7から、0.608mm−1と読み取れる。そこで、α2 (b)=α1 (b)となる波長λ2は、同じく図7の水の吸収スペクトルから波長1381nm、あるいは波長1743nmである。これらの第2の光源105の波長λ2の候補の各々について、図8の比吸光度のスペクトルによって、α2 (0)の値を点検する。その結果、波長1381nmにおいては比吸光度が零であるが、一方、波長1743nmはグルコース分子の吸収帯にあり、比吸光度が0.0601M−1である。吸光度差α1 (0)−α2 (0)は、出来るだけ大きい方が測定が容易であるので、上記の場合、第2の光源105の波長λ2として、1381nmを選定する。
長波長側の吸収帯において、2126nmを第1の光源101の波長λ1(比吸光度は0.0890M−1)に設定する場合、前述と同様の方法により、水分子が波長2126nmにおける吸収係数α1 (b)=2.361mm−1と等しい吸収係数を示す波長として、1837nm、あるいは2294nmがあり、これらの何れもがグルコースの吸収を外れている(図8中に縦点線で示した)ので、第2の光源105の波長λ2としては1837nm、あるいは2294nmのいずれを選定しても良い。
(実施例)
ここで、第1実施形態における具体的な実施例について説明する。
(第1実施例(その1))
図1に示す実施形態に係る血液成分濃度測定装置において、第1の光源101および第2の光源105として、レーザ光源を用いることも有効である。レーザ光源の選定に当たっては、先ず必要な出力パワーレベルの見積りが必要である。
人体に対する光の照射には、光強度の許容限度があり、一般に、50%の個体に障害が発生する強度の1/10が、最大許容量としてJIS C6802に制定されており、JIS C6802によると、皮膚に対する非可視赤外光(波長0.8μm以上)の連続照射においては、1mm2当り1mWが最大許容量である。
第1実施例においては、測定対象の血液成分を血糖とし、照射する光の波長を1.6μm帯として、前述した原理により変調周波数fを150kHz以上とする。ここで、生体被検部110内に発生する光音響信号の波長λ=c/fは10mm以下となる。生体被検部110を指頭とすれば、光が照射される照射部と、超音波検出器113が生体被検部110に接触する検出部までの距離rは10mmとなり、フレネル数N=w0 2/(rλ)を0.1とするビーム径w0は、w0 2≦10mm2と計算される。これに、πを乗じて照射する光のビーム面積を計算し、さらに上記最大許容量を積算して、照射できる最大の光パワーを計算すると、31mWとなる。
ここで、照射する光を2.1μm帯とする場合は、同様に計算して最大パワーは8mWとなり、この光出力は半導体レーザによって十分供給可能である。
半導体レーザは小型で長寿命であり、また注入電流を変調することにより、強度変調が容易に行なえるという利点も有するので、本実施例において、第1の光源101および第2の光源105としては、半導体レーザを用いる。
図9に第1実施例に係る血液成分濃度測定装置の構成例を示す。図9に示す本実施例に係る血液成分濃度測定装置の第1実施例の構成は、照射光方向に伝搬した音波を検出する前方伝搬型であり、図1に示す血液成分濃度測定装置の基本構成と類似の構成であり、図1に示す第1の光源101、第2の光源105、駆動回路104、駆動回路108、180°移相回路107、合波器109、超音波検出器113、位相検波増幅器114、出力端子115、発振器103のそれぞれは、図9に示す第1の半導体レーザ光源501およびレンズ502、第2の半導体レーザ光源505およびレンズ506、駆動電流源504、駆動電流源508、180°移相回路507、合波器509、超音波検出器513および音響結合器512、位相検波増幅器514、出力端子515、発振器503のそれぞれに対応し、それぞれ同様の機能を有している。
ただし、図9に示す第1の半導体レーザ光源501および第2の半導体レーザ光源505の出力する光は各々、レンズ502およびレンズ506により、並行光束に収束され、各々の平行光束は合波器509により合波されて、1つの光束として生体被検部510に照射される。また、図9に示す音響結合器512は超音波検出器513と生体被検部510との間に備えられ、超音波検出器513と生体被検部510との間の光音響信号の伝達効率を高める機能を有している。
また、図9には校正用検体511も示されているが、校正用検体511の機能は後述する。
第1の半導体レーザ光源501は駆動電流源504により発振器503に同期して強度変調され、その出力光はレンズ502により平行光束に集光され、合波器509へ入力され、また第2の半導体レーザ光源505は駆動電流源508により発振器503に同期して強度変調され、その出力光はレンズ506により平行光束に集光され、合波器509へ入力される。ここで、駆動電流源508には、発振器503の出力が180°移相回路507を経由して送信されるので第2の半導体レーザ光源505の出力する光は、第1の半導体レーザ光源501の出力する光に対して、逆位相の信号により強度変調されている。
合波器509に入力される第1の半導体レーザ光源501および第2の半導体レーザ光源505の各々が出力する光は合波され、1つの光束として生体被検部510に照射される。
生体被検部510に照射された光は生体被検部510内に光音響信号を発生し、発生した光音響信号は音響結合器512を経て、超音波検出器513により検出され、光音響信号の音圧に比例した電気信号に変換される。
超音波検出器513により検出され、光音響信号の音圧に比例した電気信号に変換された信号は、発振器503に同期した位相検波増幅器514によって、同期検波ならびに増幅、濾波され、出力端子515に出力される。
ここで、前述のように、第1の半導体レーザ光源501の波長は1608nmに設定し、第2の半導体レーザ光源505の波長は1381nmに設定されている。また、発振器503の発振周波数、即ち、変調周波数fは、ξ=kα1 (b)=21/2となるように、207kHzに設定されている。
また、第1の半導体レーザ光源501の光出力は5.0mWであり、第2の半導体レーザ光源505の出力光も5.0mWである。
生体被検部510に照射される光のビーム径は、前記照射部から前記検出部までの距離rを10mmとして、フレネル数Nが0.1となるようにw0=2.7mmと設定されている。
上記の状態において、第1の半導体レーザ光源501と第2の半導体レーザ光源505の出力が合波された光の生体被検部510の皮膚への照射強度は0.44mW/mm2であり、最大許容値を2倍以上下回る安全なレベルである。しかし、これは目に対しては危険なレベルであるので、測定中、または生体被検部510が置かれていない際に音響結合器512から反射または散乱した光が、直接目に入らないように、合波器509および生体被検部510に遮光フード(図9には示していない)を設置することが不可欠である。
超音波検出器513はFET(電界効果トランジスタ)増幅器を内蔵する周波数平坦型電歪素子(PZT)であり、また、音響結合器512は音響整合用ジェルである。
上記の構成において、先ず、第1の半導体レーザ光源501の光出力を零として、図9に示すように第2の半導体レーザ光源505の出力する光のみを照射した場合、時定数を0.1秒に設定した位相検波増幅器514の出力端子515には、光音響信号s2に対応する電気信号として、Vr=20μVの電圧が得られた。
ここで、位相検波増幅器514における発振器503から送信される同期信号と、光音響信号が超音波検出器513により検出され電気信号に変換された信号との位相差θは、生体被検部510の光が照射される前記照射部と音響結合器512と接触する前記接触部の間の距離rと、変調周波数fによって変化するため、測定の度に最適の位相差の探索が必要であるが、位相差の探索は信号振幅が大きい光音響信号s2の測定により実施するのが有効である。
ここで、2位相型の位相検波増幅器514の場合は、常に自動的に位相差θを求める能力があり、手動で位相差の探索を行なう必要はない。すなわち、未知の位相と振幅を測定できるR−θモードにより光音響信号s2を測定し位相と振幅を求め、この位相の測定値を用いて、位相が既知の場合にノイズ抑圧比が3dB改善した状態で振幅を測定できるX測定モードにより、前述の光音響信号の差信号s1−s2の測定を行なう。
次に、第1の半導体レーザ光源501を発光させると出力端子515に光音響信号の差信号s1−s2に対応する電気信号として、Vd=7.7nV(位相が反転するので、直接の測定値は−7.7nVとなる)を得た。続いて、再度、第1の半導体レーザ光源501の光出力を零として、位相検波増幅器514の感度と時定数を元に戻して、光音響信号s2の測定を行い、Vr=22μVが得られた。これら前後2回のVrの平均により、Vrの値は21μVとなった。
上記のように、光音響信号の差信号s1−s2の測定の前後に、光音響信号s2に対応する信号すなわちVrの測定を2回行なうのが望ましい。
上記の手順によって、差信号s1−s2の測定中に、被験者の指先の押圧力の変化による前記距離rの変化、および、光照射による局所的な温度変化等に由来する前記未知乗数Cのドリフトを補正することができる。
上記の測定値と、波長1608nmにおける比吸光度値0.114M−1と数式(2)により、グルコース濃度Mは3.2mM(58mg/dl)と求まった。
水についての値、Cp=1(cal/g・deg)=4.18×103(J/kg・K)、β=300ppm/deg、c=1.51×103(m/s)を用いると、Imax=1mW/mm2に対して、音圧上界psupとして0.17Paが得られる。これに、フレネル数N=0.1と、ξ=21/2に伴う減衰1/31/2、および、実照射パワー比0.22を乗じ、予想される音圧振幅は、2.1mPaである。
これに対し、超音波検出器513の公称感度は、66mV/Paであって、出力端子515の出力電圧は140μVとなることが予測されたが、実測した光音響信号s2の値がその1/7に留まったと理由は、音響結合器512の不完全性と考えられる。
(第1実施例(その2))
本実施例においては、音響的な結合状態の改良を目的として、音響結合器512を共鳴型とするために厚さ6.6mmのアクリル板を、超音波検出器513と同じ径10mmφに成形した。音響結合器512の一方の面は真空グリースを介して超音波検出器513に装着し、他の面は音響整合用ジェルを介して生体被検部510と接触している。
上記の構成により前述と同様の手順で2回測定した結果、光音響信号s2信号の測定値は150μV、及び153μVであり、また、光音響信号の差信号s1−s2の測定値は59nVであった。上記の測定で位相検波増幅器514の時定数は3秒である。これらの測定値から、グルコース濃度Mが3.4mM(61mg/dl)と求まった。
(第1実施例(その3))
上記の第1実施例(その2)においては、音響結合器512の共鳴周波数と変調周波数fが完全には一致していない。そこで本実施例においては、前段の光音響信号s2の測定時に、先ず、発振器503の周波数を、数%の範囲で掃引し、2位相型の位相検波増幅器514を、前記R−θモードで動作させ、信号出力端子515の出力が最大となる様に、変調周波数fを設定することにより、音響結合器512の共鳴周波数と変調周波数fを完全に一致させる。
上記以外は前記の実施例と同様の手順により、2回の測定による光音響信号s2として、600μV及び、604μVを得た。また光音響信号の差信号s1−s2の測定値は、0.25μVであった。この場合、位相検波増幅器514の時定数は1秒である。
以上の測定値から、グルコース濃度Mが3.6mM(65mg/dl)と求まった。
上記の、第1実施例(その1)、第1実施例(その2)、第1実施例(その3)においては超音波検出器513として周波数平坦型の電歪素子(PZT)を使用しているが、通常型の電歪素子(PZT)の場合でも、出力端子515に得られる信号の振幅が最大となる変調周波数fを探索することにより、共鳴特性を利用した増感測定を実施可能であり、小型化、低価格化に有効である。
(第1実施例(その4))
本実施例は、第1の半導体レーザ光源501と第2の半導体レーザ光源505の出力する光のパワーを等しく調整する手段として、校正用検体511を導入する場合である。
校正用検体511の構成としては、水を封入したガラス容器あるいは生体内における散乱を模擬する例えば、ラテックス粒子などの散乱体を分散させた水を封入する。
ここで、校正用検体511の光を照射する面(図9中上面)のガラスの波長λ1および波長λ2に対する透過率の均等性を確保するためには、校正用検体511上面に、照射ビームが通る径のパイプ状の縁を設け、面に直接触れるのを防止するか、又は校正用検体511の使用の前に、所定の用品および手順によるクリーニングを行なうことが有効である。
上記のような校正用検体511を、生体被検部510の代わりに装着して行なう校正手順は、以下の通りである。
先ず、第1の半導体レーザ光源501の光出力を零にして、図9に示すように、第2の半導体レーザ光源505の出力する光のみを照射する。ここで、2位相型の位相検波増幅器514を、前記R−θモードにて動作させ、この時の位相θを求めて固定する。共鳴型の超音波検出による場合は、この段階で前述と同様に音響結合器512の共鳴周波数と変調周波数fを一致させるために最適な変調周波数fの探索を行なう。
さらに、第1の半導体レーザ光源501の出力する光を増加させつつ、位相検波増幅器514の出力端子515に出力される信号が減少するのを観察し、出力端子515に出力される信号が減少するのにあわせて、位相検波増幅器514の感度と時定数を切替、出力端子515に得られる出力が零になった時点で、第1の半導体レーザ光源501の光出力を固定する。
上記の手順により校正用検体511を使用して、第1の半導体レーザ光源501の出力する光と第2の半導体レーザ光源505の出力する光の相対的な強度が互いに等しく、かつ逆位相の信号により強度変調されている状態に校正することができる。
校正用検体511を、生体被検部510の代わりに装着した状態で、本実施例に係る血液成分測定器の電源を入れる使用法を制定し、以上のシーケンスを、電源投入時のPOST(Power On Self Test)として実行することもできる。
(第2実施例(その1))
第2実施例は照射光201に向かって逆行する方向に伝搬する音波を検出する後方伝搬型である。第2実施例の構成は図10に示すように、図9に示す血液成分濃度測定装置の第1実施例の構成において、音響結合器512が合波器509と生体被検部510の間に設置され、音響結合器512の一方の面は生体被検部510に接し、音響結合器512の他方の面から合波器509により合波された光が入射され、この入射光は音響結合器512を通過して、生体被検部510に照射されるように変更したものである。ここで、超音波検出器513は、音響結合器512へ前記合波光が入射される側に設置される。
また、第2実施例に係る血液成分濃度測定装置の動作が前記第1の実施例と異なるのは、図10に示すように、合波器509から出力される光が音響結合器512を通過して、生体被検部510に照射され、生体被検部510内で発生した光音響信号は、再び音響結合器512を伝搬し、超音波検出器513により検出される点である。
上記の構成において、音響結合器512は、照射光201が通過するので、光吸収が小さく、かつ、音響インピーダンスは、生体(水)に近いことが望ましい。
本実施例においては光吸収の少ない石英ガラスにより音響結合器512が形成されている。石英ガラスの音響インピーダンスは、水の8倍であり、発生した音圧の約1/5のみが、石英ガラス中の伝搬波となり、超音波検出器513により観測される。従って、感度の点で不利となるので、音響結合器512自体に共鳴特性を持たせて、増感を図ることが必須である。即ち、石英ガラスの厚さ(図でガラス中の光束の伝搬長に当たる)は200kHzの変調周波数fに対する音波の波長λ=27.85mmの概略半波長の値となる14mmに設定されている。
石英ガラス中の音波は、生体被検部510から遠方では球面波と見なせるので、ここでは、超音波検出器513は入射光束と、150°の角をなす方角に設置されている。(入射光束の通過する穴のある超音波検出器を用いれば、完全に後方の180°方向に置くことも可能である。)
本実施例の構成においては、生体被検部510において光が照射される照射部と、音響結合器512において光音響信号が超音波検出器513により検出される検出部の間の距離rは、音響結合器512の大きさで決定される一定値(今の場合r=14mm)に固定される。
ここで、第1の半導体レーザ光源501、第2の半導体レーザ光源505、及び超音波検出器513は、上記第1実施例と同様である。さらに、安全対策のために、音響結合器512上に何も載っていない時には、光の照射が行われないように、検体感知スイッチ(図10では省略)を配備する。
上記第1実施例と同様に、前段の光音響信号s2の測定時に発振器503の周波数を掃引し、音響結合器512の共鳴周波数に一致する変調周波数fを探索する。さらに、上記第1実施例と同様の手順により、2回の測定により光音響信号s2として、200μV及び、206μVを得た。また、光音響信号の差信号s1−s2としては、位相検波増幅器514の時定数を1秒として、79nVが測定された。これらの測定値から、グルコース濃度Mが3.4mM(61mg/dl)と求まった。
(第2実施例(その2))
本実施例においては、音響結合器512が低密度ポリエチレンにより形成されている。低密度ポリエチレンは、音響インピーダンスが、水に対して18%しか異ならず、音波の結合には非常に優れる(圧力損失9%未満)。しかしながら、若干の光の吸収が存在し、また、軟らか過ぎるのも難点である。但し、柔軟性により生体との密着が良く、音響整合用ジェル等の補填剤を要さない点では、優れている。ここでより剛性に富む高密度ポリエチレンは、光を透過しないため適当でない。
本実施例においては、音響結合器512の厚さは200kHzの変調周波数fに対する音波の波長に概略等しい10mmであり、前記照射部と前記検出部の距離rも10mmの固定値となる。
第2実施例(その1)と同様に2回の測定により光音響信号s2として、300μV及び、289μVを得た。また光音響信号の差信号s1−s2としては、位相検波増幅器514の時定数を1秒として、117nVが測定され、これらの測定値から、グルコース濃度Mが3.5mM(63mg/dl)と求まった。
ここで、低密度ポリエチレンの圧力損失が低いにもかかわらず、測定信号が増大しないのは生体被検部510の押圧により音響結合器512が変形し、寸法が不安定となり共鳴による感度向上が不十分なためである。
(第2実施例(その3))
本実施例は、第2実施例(その2)において、前述の校正用検体511による校正手段を導入した場合である。この場合、校正用検体511において、水または、散乱体を含む水を封入する容器の材料は、音響結合器512の材料と同一である。
ここで光が照射される面は、校正用検体511の図10に示す音響結合器512に接する面であり、長期にわたる清澄性を確保するために、校正用検体511の使用前に、所定の用品と手順によるクリーニングを実施する。
上記の校正用検体511を、生体被検部510の代わりに装着して行なう校正手順等は、上記、第1実施例(その4)と同様である。
(第3実施例)
第1実施例、第2実施例においては、血中グルコース濃度、即ち、血糖値についての例を示した。しかしながら、血液を構成する成分としては、グルコースのほかにコレステロールを始めとする脂質、蛋白質、無機成分など多くの成分が含まれている。第3実施例では、第1実施形態に係る血液成分濃度測定装置及び血液成分濃度測定装置制御方法をコレステロールに対して適用した例について示す。なお、本実施例における血液成分濃度測定装置及び血液成分濃度測定装置制御方法は、後に説明する実施形態においても同様に適用することができる。
図11に波長1200nmから2500nmにわたって、水の吸光度を示す。図12には1600nmから2600nmにわたるコレステロールの吸光度を示す。図12に示すスペクトルによると、コレステロール分子による吸収の明瞭な極大は、2310nmに認められる。
ここで、波長2310nmにおける背景(水)の吸収係数α1 (b)は、図11から1.19mm−1と読み取れる。そこで、α2 (b)=α1 (b)となる波長λ2は、図11の水の吸収スペクトルから波長2120nm又は波長1880nmである。これらの第2の光源105の波長λ2の候補の各々について、図12の吸収スペクトルによって、α2 (b)の値を確認する。その結果、コレステロール分子は、波長2120nmでの吸収に比較して、波長1880nmでの吸収が大きいことが分かる。吸光度差α1 (0)−α2 (0)は、出来るだけ大きい方が測定容易であるので、上記の場合、第2の光源の波長として2120nmを選定する。以上の結果、第1の光源の波長を2310nmとし、第2の光源の波長を2120nmとして測定を行った。
図13に第3実施例に係る血液成分濃度測定装置の構成を示す。図13に示す血液成分濃度測定装置の第3実施例の構成は、照射光の方向に伝搬した光音響信号を検出する前方伝搬型であり、図1に示す血液成分濃度測定装置の基本構成と類似の構成である。
即ち、図13に示す第1の半導体レーザ光源801及びレンズ802、第2の半導体レーザ光源805及びレンズ806、駆動電流源804、駆動電流源808、180°移相回路807、合波器809、超音波検出器813及び音響結合器812、位相検波増幅器814、出力端子815並びに発振器803は、図1に示す第1の光源101、第2の光源105、駆動回路104、駆動回路108、180°移相回路107、合波器109、超音波検出器113、位相検波増幅器114、出力端子115及び発振器103とそれぞれ同様の機能を有している。
第1の半導体レーザ光源801は、駆動電流源804により発振器803に同期して強度変調され、その出力光はレンズ802により平行光束に集光され、合波器809に入力される。第2の半導体レーザ光源805も、駆動電流源808により発振器803に同期して強度変調され、その出力光はレンズ806により平行光束に集光され、合波器809に入力される。
ここで、駆動電流源808には、発振器803の出力が180°移相回路807を経由して送信されるので、第2の半導体レーザ光源805の出力する光は、第1の半導体レーザ光源801の出力する光に対して、逆位相の信号で強度変調されることになる。
合波器809に入力される第1の半導体レーザ光源801及び第2の半導体レーザ光源805の各々が出力する光が合波され、1つの光束として被検体としての生体被検部810に照射される。
生体被検部810に照射された光は生体被検部810内に光音響信号を発生させる。発生した光音響信号は、音響結合器812を経て超音波検出器813により検出される。超音波検出器813では、光音響信号の音圧に比例した電気信号に変換される。
電気信号に変換された信号は、発振器803に同期した位相検波増幅器814によって、同期検波増幅され、濾波された後に、出力端子815に出力される。
第1の半導体レーザ光源801の波長は2310nmに設定され、第2の半導体レーザ光源805の波長は2120nmに設定されている。また、発振器803の発振周波数、即ち、変調周波数fは、ξ=kα1 (b)=21/2となるように、207kHzに設定されている。
第1の半導体レーザ光源801の光出力は5mW、第2の半導体レーザ光源805の光出力も5mWである。
生体被検部810に照射される光のビーム径は、生体被検部810の照射部から検出部までの距離rを10mmとして、フレネル数Nが0.1となるようにw0=2.7mmと設定されている。
上記の状態において、第1の半導体レーザ光源801と第2の半導体レーザ光源805の出力が合波された光の生体被検部810の皮膚への照射強度は、0.44mW/mm2であり、最大許容値の2分の1以下の安全なレベルである。しかし、外部への漏洩を考慮して合波器809及び生体被検部810を覆う遮光フード(不図示)を設置することが好ましい。
超音波検出器813は、電界効果トランジスタ(FET)増幅器を内蔵する周波数平坦型電歪素子(PZT)である。音響結合器812として音響整合用ジェルを用いた。
上記の構成の図13において、まず、第1の半導体レーザ光源801の光出力を零として第2の半導体レーザ光源805の出力光のみを照射した場合、時定数を0.1秒に設定した位相検波増幅器814の出力端子815には、光音響信号s2に対応する電気信号として、Vr=40μVの電圧が得られた。
位相検波増幅器814に入力される発振器803からの同期信号と、超音波検出器813により検出され電気信号に変換された信号との位相差θは、光が照射される生体被検部810の照射部と音響結合器812と接触する生体被検部810の接触部との間の距離r、及び変調周波数fによって変化するため、測定の度に最適な位相調整が必要である。このような位相調整には、信号振幅の大きい光音響信号s2を位相基準として測定することによって実施するのが有効である。
位相検波増幅器814が2位相型である場合は、常に自動的に位相差θを追尾する機能を持たせることができ、この機能を利用すると位相差を自動調整することができる。つまり、未知の位相と振幅を測定するR−θモードにすると、光音響信号s2の位相と振幅を測定し、この位相を用いて、位相が既知の場合にノイズ抑圧比が3dB改善した状態で振幅を測定できるX測定モードにより、前述の光音響信号の差信号s1−s2の測定を行なう。
次に、第1の半導体レーザ光源801を発光させると、出力端子815には、光音響信号の差信号s1−s2に対応する電気信号Vdとして約10nVの出力を得た。続いて、再度、第1の半導体レーザ光源801の光出力を零として、位相検波増幅器814の感度と時定数を元に戻して、光音響信号s2の測定を行ったところ、Vr=42μVの出力が得られた。これら前後2回のVrの平均により、Vr=41μVとなった。
上記のように、光音響信号の差信号s1−s2の測定の前後に、光音響信号s2に対応する信号であるVrの測定を2回行なうのが望ましい。上記の手順によって、差信号s1−s2の測定中に、被験者の指先の押圧力の変化による距離rの変動、及び光照射による局所的な温度変化等に由来する未知乗数Cのドリフトを補正することができた。
上記の測定系を用い、生体被検部におけるコレステロール由来の光音響信号を超音波検出器により測定したところ、光音響信号の差信号s1−s2として数百nVの出力値を得ることができた。
ここでは、生体の血液成分濃度測定装置及び生体の血液成分濃度測定装置制御方法について説明したが、生体に代えて液体を対象とした場合も同様である。即ち、本実施例に係る液体成分濃度測定装置および液体成分濃度測定装置制御方法は、上記本実施形態の基礎となる直接光音響法の説明と、数式(2)に示した成分濃度算出方法から容易に知られる通り、生体以外の測定対象に対しても実施できる。この場合、一般に液体に対しては等しい吸収係数を有し、対象物質に対し吸収係数が異なる2つの波長を用いれば、液体の吸収に掩蔽されることなく、液体中の成分の検出が行なえる。さらに、前述の実施形態や実施例の構成において、生体被検部に代えて果物をおけば、果実糖度計として機能する。これは、果実の甘さ成分である蔗糖や果糖は、血糖成分であるグルコースと類似の波長に吸収を有するからである、このように本実施形態の精神を逸脱しない範囲で、本実施形態に係る測定装置及び測定装置制御方法を様々の対象に適用できることは言うまで無い。
(第4実施例)
図14に第4実施例に係る血液成分濃度測定装置の構成を示す。第4実施例は、第1実施例(その1)から(その4)で説明した血液成分濃度測定装置に接触温度計138をさらに導入した場合である。
図14で示した構成において第1の光源101の波長を、1608nmに設定し、一方、第2の光源105の波長は、1381nmに設定したが、これら波長値は、図7に示した水温39℃における水の吸光度に基づいている。この基準温度39℃は、体温としては平熱よりも高い値であり、また厳密には被験者の体温すなわち生体被検部110の温度に応じて、上記レーザ光源の波長の設定を変える必要がある。何故ならば、水の光吸収特性は水温に依存して変化するからである。
かかる水温に依存する水の吸光度を、図14に示す。図15は、水温をパラメータとし、25℃から55℃まで5℃刻みの水温について、波長1450nm近傍に極大を持つ水の吸収バンドの吸光度を示している。図14に徴するに、水の吸収バンドは水温の上昇とともに、短波長方向にシフトし、それに伴い、短波長側の吸収は増大する一方、長波長側の吸収は減少する。
かかる性質を詳細に見るために、一定の波長における水の吸光度の温度変化を示すと、図16を得る。長波長側の上記第1の光源101の波長1608nmにおいて、水の吸光度は温度に対し1.366×10−3mm−1/℃の割合で減少している。一方、短波長側の上記第2の光源105の波長1381nmにおいては、水の吸光度は1.596×10−3mm−1/℃の割合で増加する。
この結果、上記2波長間の吸光度の差は2.962×10−3mm−1/℃、比吸光度では1.001×10−2/℃の割合で、温度に対して減少する。この変化率に、1608nmにおけるグルコースの比吸光度値0.114M−1を用いると、体温の上記基準温度からの偏差1/℃当たり、グルコース濃度Mにして87.78mM(1581mg/dl)の過小評価が生ずることが分かる。
この誤差への対策として、生体被検部110の光照射側に、接触温度計138を設置し、光照射部近傍の局所的体温を計測し、この測温値から上記基準温度を減じた温度差に上記補正係数1581mg/dl/℃を乗じた値を、上数式(2)によるグルコース濃度Mの算定値に加算する。接触温度計138を光照射側に設置する理由は、上記補正に関与するのは、光の吸収が生ずる生体被検部110の照射側表面の温度だからである。これを例えば、超音波検出器113側に接触する側の生体表面の温度で代用したとすると、超音波検出器113との不可避の熱接触により変化を蒙った体表温度を用いることになり、大きな誤差を招く虞がある。
また、図17に示す血液成分濃度測定装置において校正用検体を用いる場合、前記表面体温計測に基づく補正は、以下のように行なえば良い。図18に、図17に示す血液成分濃度測定装置にさらに校正用検体141を適用した実施例を示す。
校正用検体141内の液温を計測する温度計143を、校正用検体141に装着する。上記手順において、出力端子115からの光音響信号出力が零になり、駆動回路104の出力を固定した時点での、温度計143の読みを校正温度として記録する。爾後の生体被検部110に対する測定においては、前記実施例に示した補正算法の基準温度の代わりに該校正温度を用いて、補正を行なう。すなわち、接触温度計138により、光照射部近傍の局所的体温を計測し、この測温値から上記校正温度を減じた温度差に前記補正係数1581mg/dl/℃を乗じた値を、上数式(2)によるグルコース濃度Mの算定値に加算すればよい。
校正用検体141に、液温を一定に保つ恒温手段(図18では省略)を設置する場合、生体被検部110に対する測定時に、校正用検体141に設置した温度計143および生体被検部110の接触温度計138を同時に動作させ、その読みの差から上記温度差を求めることもできる。特にこの場合、温度計143および接触温度計138を同種の温度計とすれば、例えばブリッジ回路を用いて、両者の出力値の差を高精度に読み取る平衡構成ができる。かかる平衡構成では、温度計143および接触温度計138に絶対温度の確度が要求されないので、サーミスタの如き簡易な測温体を用いて実施することができる。
(第5実施例)
図19に第5実施例に係る血液成分濃度測定装置の構成を示す。第5実施例は、第2実施例(その1)から(その3)で説明した血液成分濃度測定装置に接触温度計138をさらに導入した場合である。
本実施例においては、前記表面体温計測に基づく補正のための接触温度計138は、音響結合器142の生体被検部110に接する面に埋め込むのが良い。この場合、望ましくは、音響結合器142の音響インピーダンスに近似する音響インピーダンスを持つ接触温度計138を用いるのが良い。これは、接触温度計138によって、音響結合器142内の超音波の伝搬が乱されることを抑制するためである。爾後、接触温度計138により計測した表面体温値に基づく補正は、第4実施例と同一の算法によって行なう。また、校正用検体141を、生体被検部110の代わりに装着して行なう校正手順、また接触温度計138による表面体温計測に基づく補正等も、上記、第4実施例に準じて行なえばよい。
(第2実施形態)
図20は、本実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図である。本実施形態に係る成分濃度測定装置は、液体に対象成分が混合されてなる溶液における液体と吸光度の等しい校正用検体175を設け、校正用検175での吸光度が等しくなるように、2波長の光のそれぞれの波長を校正することを特徴とする。
図20に示す成分濃度測定装置170は、光強度調整手順、音波校正用波長調整手順、校正用検体温度調整手順、規格化用音波測定手順及び測定用音波検出手順を実行するための構成を備える。
成分濃度測定装置170の制御方法では、まず、光強度調整手順及び校正用検体温度調整手順が実行される。光強度調整手順は、校正用検体温度調整手順の前、後又は同時のいずれのタイミングで行ってもよい。次に、音波校正用波長調整手順が実行される。次に、規格化用音波測定手順及び測定用音波検出手順が実行される。規格化用音波測定手順は、測定用音波検出手順の前、後又は同時のいずれのタイミングで行ってもよい。
図20に示す成分濃度測定装置170は、光強度調整手順を実行するための構成を備える。例えば、成分濃度測定装置170は、出射光強度測定手段171と、出射光強度調整手段172と、を備える。光強度調整手順を実行することで、第1の光源101及び第2の光源105の出力強度を等しくし、液体の呈する吸収をほぼ等しくすることができる。
図20に示す成分濃度測定装置170は、音波校正用波長調整手順を実行するための構成を備える。例えば、成分濃度測定装置170は、第1の光源101、第2の光源105と、音波校正用光変調手段としての第1の光源101、第2の光源105、発振器103、駆動回路104、駆動回路108及び180°移相回路107と、音波校正用光出射手段174と、校正用検体175と、校正用音波検出手段176と、音波校正用波長調整手段177と、音響結合器179と、を備える。音波校正用波長調整手順を実行することで、第1の光源101及び第2の光源105の出力する光について、液体の呈する吸収を等しくすることができる。
図20に示す成分濃度測定装置170は、校正用検体温度調整手順を実行するための構成を備える。例えば、成分濃度測定装置170は、温度測定手段としての温度計143と、校正用検体温度調整手段としての温度制御器178と、を備える。校正用検体温度調整手順を実行することで、音波校正用波長調整手順で測定する液体の呈する吸収の精度を高めることができる。
図20に示す成分濃度測定装置170は、測定用音波検出手順を実行するための構成を備える。例えば、成分濃度測定装置170は、測定用光発生手段としての第1の光源101及び第2の光源105と、測定用光変調手段としての第1の光源101、第2の光源105、発振器103、駆動回路104、108及び180°移相回路107と、光合波手段としての合波器109と、光出射手段としての照射ヘッド112と、測定用音波検出手段としての超音波検出器113と、を備える。測定用音波検出手順を実行することで、対象成分の濃度を測定することができる。
第1の光源101及び第2の光源105は、2つの測定用光発生手段を構成する。第1の光源101及び第2の光源105は、水などの液体に対象成分であるグルコースが混合されてなる血液における水の呈する吸収が等しい異なる波長の光を発生して出力する。
出射光強度測定手段171は、第1の光源101及び第2の光源105からの2波長の光の強度を測定する。出射光強度測定手段171は、例えばフォトでテクタである。出射光強度測定手段171は、第1の光源101及び第2の光源105のそれぞれに備わっていてもよい。例えば、第1の光源101に出力強度を測定する機能が備わっている場合は、その機能を用いることができる。第2の光源105についても同様である。
出射光強度調整手段172は、出射光強度測定手段171の測定する第1の光源101及び第2の光源105の2波長の光の強度が等しくなるように、第1の光源101の出力する光の強度を調整する。出力強度の調整は、例えば、第1の光源101の電流を調整する。第1の光源101及び第2の光源105の出力強度をあらかじめ合わせておくことで、音波校正用波長調整手段177による第1の光源101又は第2の光源105の波長の調整を、校正用音波検出手段176の出力により行なうことができる。なお、出力強度を調整するのは、第2の光源105でもあってもよいし、第1の光源101及び第2の光源105の両方であってもよい。
第1の光源101、第2の光源105、発振器103、駆動回路104、駆動回路108及び180°移相回路107は、測定用光変調手段及び音波校正用光変調手段を構成する。例えば、第1の光源101、第2の光源105、発振器103、駆動回路104、駆動回路108及び180°移相回路107は、第1の光源101からの光と第2の光源105からの光を一定周波数で互いに逆相に強度変調して出力する。駆動回路104は、第1の光源101を駆動して、第1の光源101からの光を、発振器103の発振する予め定められた一定周波数で強度変調して出力する。駆動回路108及び180°移相回路107は、第2の光源105を駆動して、第2の光源105からの光を、発振器103の発振する予め定められた一定周波数で、第1の光源101からの光とは互いに逆相に強度変調して出力する。
本実施形態では、測定用光変調手段によって出力される強度変調光は、音波校正用波長調整手段177によって第1の光源101及び第2の光源105の少なくともいずれかが波長が調整されている。また、音波校正用光変調手段によって出力される強度変調光は、出射光強度調整手段172によって第1の光源101及び第2の光源105の少なくともいずれかが出力強度が調整されている。
音波校正用光出射手段174は、合成器109から出力された測定用合成光を、校正用検体175に出射する。ここで、測定用合成光は、第1の光源101からの光の強度変調光と第2の光源105からの光の強度変調光とを合成した光である。校正用検体175は、液体の呈する吸収と略等しい物質である。校正用検体175は、溶液が血液の場合、液体の呈する吸収と略等しい水であることが好ましい。校正用検体175の呈する吸収により校正することで、対象成分の濃度を正確に測定することができる。
校正用音波検出手段176は、音波校正用光出射手段174からの測定用合成光によって校正用検体175から発生する校正用音波を検出する。これによって、液体における第1の光源101及び第2の光源105の吸光度の差異を検出することができる。校正用音波検出手段176の検出した校正用音波は位相検波増幅器114により同期検波され、音圧に比例する電気信号が音波校正用波長調整手段177に出力される。なお、本実施形態では、校正用音波検出手段176を超音波検出器113と独立に設けたが、校正用音波検出手段176として超音波検出器113を用いてもよい。
音波校正用波長調整手段177は、校正用音波検出手段176の検出する校正用音波がゼロになるように第1の光源101の出力する光の波長をシフトさせる。波長をシフトさせることで、液体での吸光度が増減するので、第1の光源101及び第2の光源105の液体での吸光度を等しくすることができる。波長をシフトさせる光源は第1の光源101に限らず、第2の光源105であってもよいし、第1の光源101及び第2の光源105の両方であってもよい。シフトさせる波長はわずかなので、音波校正用波長調整手段177は、第1の光源101または第2の光源105の素子温度を変化させることが好ましい。
温度計143は、温度測定手段として、溶液の存在する被測定物の温度を測定する。温度計143は、接触式の温度計を用いることができる。非接触式の放射温度計を用いてもよい。温度計143は、共通としてもよい。複数の温度計を備えることで、生体被検部110に含まれている液体の温度をより正確に測定することができる。
温度制御器178は、校正用検体175を温度計143の測定する温度にする。液体の吸光度は、液体の温度の影響を受けやすい。校正用検体175の温度を実際に測定する生体被検部110の温度と等しくすることで、第1の光源101及び第2の光源105に対して校正用検体175の呈する吸収を、生体被検部110に存在する液体のそれと相等しくすることができる。
照射ヘッド112は、光出射手段として、第1の光源101からの強度変調光、測定用合成光を生体被検部110に向けて出射する。これによって、第1の光源101からの光の強度変調光、測定用合成光を生体被検部110に存在する血液に照射する。ここで、測定用合成光は、第1の光源101からの光の強度変調光と第2の光源105からの光の強度変調光を合成した光である。照射ヘッド112は、例えば、光ファイバによって生体被検部110の表面まで導いた先端である。
超音波検出器113は、測定用音波検出手段として、規格化用音波及び測定用音波を検出する。規格化用音波は、第1の光源101からの光の強度変調光によって生体被検部110に存在する血液から発生する音波である。測定用音波は、照射ヘッド112の出射する測定用合成光によって血液から発生する音波である。ここで、測定用合成光は血液中の液体の呈する吸収が等しくなるよう構成されているので、測定用音波は、対象成分であるグルコースでの吸収の差を反映している。なお、超音波検出器113は、超音波検出器表面での音波の反射を防ぐため、音響整合手段としての音響結合器142を介して規格化用音波及び測定用音波を検出することが好ましい。
出射光強度調整手順について説明する。第1の光源101は、光を出射する。出射光強度測定手段171は、第1の光源101の出射する光の強度を測定する。第2の光源105は、光を出射する。出射光強度測定手段171は、第2の光源105の出射する光の強度を測定する。ここで、第1の光源101及び第2の光源105の波長は異なるので、出射光強度測定手段171は、第1の光源101及び第2の光源105の出射する光の強度を順に又は同時に測定してもよい。
出射光強度調整手順では、さらに、出射光強度調整手段172は、第1の光源101と第2の光源105の光の強度を比較し、第1の光源101の強度と第2の光源105の光の強度を等しくする。出射光強度調整手順を有することで、音波校正用波長調整手段177による波長の調整が、第1の光源101と第2の光源105に対する吸光度の差に基づいて行われるようにすることができる。
音波校正用波長調整手順について説明する。駆動回路104は、第1の光源101を駆動して、第1の光源101に強度変調光を出力させる。レンズ139は、第1の光源101からの強度変調光を合波器109に入射させる。駆動回路108は、第2の光源105を駆動して、第2の光源105に強度変調光を出力させる。レンズ140は、第2の光源105からの強度変調光を合波器109に入射させる。合波器109は、第1の光源101からの強度変調光及び第2の光源105からの強度変調光を合波して、測定用合成光を出力する。音波校正用光出射手段174は、合波器109から出力された測定用合成光を、校正用検体175に向けて出射する。
校正用音波検出手段176は、音波校正用光出射手段174からの測定用合成光によって校正用検体175から発生する校正用音波を検出する。位相検波増幅器114は、校正用音波検出手段176の検出する校正用音波の光音響信号に比例する電気信号を出力端子115に出力する。この場合、位相検波増幅器114は、入力切替181によって校正用音波検出手段176と接続される。第1の光源101及び第2の光源105の強度変調は位相が180°ずれているので、第1の光源101からの強度変調光と第2の光源105のからの強度変調光との校正用検体175での吸光度が等しければ、校正用音波はゼロとなる。
音波校正用波長調整手段177は、校正用音波検出手段176の検出する校正用音波がゼロになるように第1の光源101及び第2の光源105のうちの少なくとも一方の出力する光の波長をシフトさせる。第1の光源101及び第2の光源105の少なくともいずれかの波長をシフトさせることで、第1の光源101からの強度変調光と第2の光源105のからの強度変調光に対する、校正用検体175、すなわち液体での吸光度を等しくすることができる。
校正用検体温度調整手順について説明する。温度計143a及び143bは、溶液の存在する生体被検部110の温度を測定する。温度制御器178は、校正用検体175を温度計143a及び143bの測定する温度にする。液体の吸光度は、液体の温度の影響を受けやすい。液体の温度を実際に測定する被測定物の温度と合わせることで、生体被検部110に存在する液体の温度による誤差を少なくすることができる。
規格化用音波検出手順について説明する。第1の光源101は、駆動回路104から駆動され、強度変調光を出力する。レンズ139は、第1の光源101からの強度変調光を合波器109に入射させる。合波器109は、第1の光源101からの強度変調光を出力する。合波器109は、第1の光源101からの強度変調光を照射ヘッド112へ導く。そして、照射ヘッド112は、第1の光源101からの強度変調光を生体被検部110に向けて出射する。超音波検出器113は、生体被検部110に存在する血液で発生した規格化用音波を検出する。
位相検波増幅器114は、超音波検出器113の検出する規格化用音波の光音響信号に比例する電気信号を出力端子115に出力する。この場合、位相検波増幅器114は、入力切替181によって超音波検出器113と接続される。規格化用音波の光音響信号に比例する電気信号を基準として規格化することで、測定用音波の光音響信号に比例する電気信号を用いて、対象成分であるグルコースの濃度を測定することができる。
測定用音波検出手順について説明する。第1の光源101は、駆動回路104から駆動され、強度変調光を出力する。レンズ139は、第1の光源101からの強度変調光を合波器109に入射させる。第2の光源105は、駆動回路108から駆動され、強度変調光を出力する。レンズ140は、第2の光源105からの強度変調光を合波器109に入射させる。合波器109は、第1の光源101からの強度変調光及び第2の光源105からの強度変調光を合波して、測定用合成光を出力する。照射ヘッド112は、合波器109の合波する第1の光源101からの強度変調光及び第2の光源105からの強度変調光を合成した測定用合成光を生体被検部110に向けて出射する。超音波検出器113は、生体被検部110に存在する血液で発生した測定用音波を検出する。
超音波検出器113は、測定用音波検出手段として、規格化用音波及び測定用音波を検出する。規格化用音波は、第1の光源101からの光の強度変調光によって生体被検部110に存在する血液から発生する音波である。測定用音波は、照射ヘッド112の出射する測定用合成光によって血液から発生する音波である。ここで、測定用合成光に含まれる2つの強度変調光は、音波校正用波長調整手順によって血液中の液体の呈する吸収が等しくなっている。このため、測定用音波は、対象成分であるグルコースでの吸収の差を反映している。なお、超音波検出器113は、超音波検出器113表面での音波の反射を防ぐため、音響整合手段としての音響結合器142を介して規格化用音波及び測定用音波を検出することが好ましい。
位相検波増幅器114は、超音波検出器113の検出す測定用音波の光音響信号に比例する電気信号を出力端子115に出力する。この場合、位相検波増幅器114は、入力切替181によって超音波検出器113と接続される。測定用音波の光音響信号に比例する電気信号を、規格化用音波の光音響信号に比例する電気信号により規格化して解析することで、対象成分であるグルコースの濃度を測定することができる。
本実施形態に係る成分濃度測定装置及びその制御方法によって、第1の光源101の液体での呈する吸収と第2の光源105の液体での呈する吸収とを等しくすることができる。このため、2つの波長の測定用光発生手段の間で発生していた液体での吸光度の違いによる濃度誤差を抑制することができる。
(第3実施形態)
図21は、本実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図である。本実施形態に係る成分濃度測定装置180は、第2実施形態で説明した校正用音波検出手段176及び音波校正用波長調整手段177の代わりに、透過光強度測定手段184及び光波校正用波長調整手段186を備えることを特徴とする。
図21に示す成分濃度測定装置180は、光強度調整手順、光波校正用波長調整手順、校正用検体温度調整手順、規格化用音波測定手順及び測定用音波検出手順を実行するための構成を備える。
まず、光強度調整手順及び校正用検体温度調整手順が実行される。光強度調整手順は、校正用検体温度調整手順の前、後又は同時のいずれのタイミングで行ってもよい。次に、光波校正用波長調整手順が実行される。次に、規格化用音波測定手順及び測定用音波検出手順が実行される。規格化用音波測定手順は、測定用音波検出手順の前、後又は同時のいずれのタイミングで行ってもよい。
光強度調整手順、校正用検体温度調整手順、規格化用音波測定手順及び測定用音波検出手順を実行するための構成及び動作については、第2実施形態と同様である。
図21に示す成分濃度測定装置180は、光波校正用波長調整手順を実行するための構成を備える。例えば、成分濃度測定装置180は、測定用光発生手段としての第1の光源101及び第2の光源105と、光波校正用光出射手段182と、校正用検体175と、光反射手段183と、透過光強度測定手段184と、出力端子185と、光波校正用波長調整手段186と、を備える。
光波校正用光出射手段182は、第1の光源101からの光及び第2の光源105光を、校正用検体175に向かって出射する。第1の光源101、第2の光源105及び校正用検体175は、第2実施形態と同様である。光波校正用光出射手段182は、例えば、合波器109の出力する測定用合成光を出射する。光波校正用波長調整手順では、第1の光源101からの光及び第2の光源105からの光は強度変調光である必要はない。このため、音波校正用波長調整手順を行なわない場合は、光波校正用光出射手段182は、第1の光源101からの光と、第2の光源105からの光を直接校正用検体175に照射してもよい。
光反射手段183は、校正用検体175からの透過光を透過光強度測定手段184に反射する。本実施形態では、音波校正用波長調整手順も行なうので、音響結合器179中に設置されている。このため、音響結合器179は、第1の光源101からの光と、第2の光源105からの光に対して透明であることが好ましい。音波校正用波長調整手順を行なわない場合は、光反射手段183なしで透過光強度測定手段184が校正用検体175からの透過光を受光してもよい。
透過光強度測定手段184は、光波校正用光出射手段182の出射する光の校正用検体175からの透過光の光強度を測定する。透過光強度測定手段184は、例えばフォトデテクタである。校正用検体175に入射する第1の光源101及び第2の光源105の光の強度は等しい。このため、校正用検体175を透過した第1の光源101からの光の強度と、校正用検体175を透過した第2の光源105からの光の強度と、を測定することで、校正用検体175、すなわち溶液中の液体での光の吸収を測定することができる。出力端子115は、透過光強度測定手段184の測定した光の強度に対応した信号を出力する。
光波校正用波長調整手段186は、透過光強度測定手段184の測定する透過光の光強度が等しくなるように第1の光源101及び第2の光源105の少なくとも一方の出力する光の波長をシフトさせる。波長をシフトさせることで、液体での吸光度が増減するので、第1の光源101及び第2の光源105の液体での吸光度を等しくすることができる。波長をシフトさせる光源は第1の光源101に限らず、第2の光源105であってもよいし、第1の光源101及び第2の光源105の両方であってもよい。シフトさせる波長はわずかなので、音波校正用波長調整手段177は、第1の光源101または第2の光源105の素子温度を変化させることが好ましい。
本実施形態に係る成分濃度測定装置及びその制御方法によって、第1の光源101の液体での呈する吸収と第2の光源105の液体での呈する吸収とを等しくすることができる。このため、2つの波長の測定用光発生手段の波長に対する液体での吸光度の違いによって発生していた生体被検部の厚みに依存する濃度測定誤差を抑制することができる。