JP2009132958A - 鋼線材のインライン熱処理方法およびその装置 - Google Patents

鋼線材のインライン熱処理方法およびその装置 Download PDF

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Abstract

【課題】内部に強噴流を生じさせた冷却槽内でルーズコイルの冷却を行う際に、強冷却による熱処理を可能とするとともに、加熱されたルーズコイルを、冷却する線材の熱処理方法において発生する、熱処理された線材の場所による強度ばらつきを低減し、高強度の鋼線材を得る。
【解決手段】整流板を冷却槽内の液面近傍に配置することにより、溶融塩が流動する冷却槽底部から噴出させた溶融塩を槽外部に噴出させることなく、また、噴流の流速分布を制御することにより、鋼線材ルーズコイルを浸漬冷却して高強度かつ均一な材質の鋼線材を得る。
【選択図】図2

Description

本発明は、非沸騰の特性を有する溶融塩中に加熱された鋼線材を浸漬冷却する鋼線材の熱処理方法およびその装置に関する。
鋼板および鋼線材等の金属材料の熱処理方法として、溶融塩等の非沸騰の特性を有する高温液体を用いた冷却方法が広く用いられている。例えば特許文献1および特許文献2には、非沸騰型冷却液を鋼材に噴射衝突させることを特徴とする鋼材の冷却方法および装置が開示されている。ここで、溶融塩等の非沸騰型の高温液体が鋼材の冷却に用いられるのは、主として以下の理由による。
水等の沸騰型の冷却液と異なり、冷却中の加熱鋼材の周囲に沸騰膜が生じないために冷却能力が高いこと、
300℃以上の高温域においても沸騰しない安定した液体であるために、高温の安定した冷却完了温度で冷却を行うこと、
冷却終了後の鋼材を高い温度域で安定して恒温とすることが可能であること。
しかし、上記のように優れた特性を有する非沸騰型の冷却液を用いた冷却においても、冷却能力不足による熱処理された鋼材の材質不均一という問題点がある。熱処理された鋼材の特性は冷却速度の影響を受けて変化し、強度は冷却速度が大きいほど高くなり、逆に冷却速度が小さいほど低くなるのが一般的である。そのため、ルーズコイルのように、構成する線材の、場所による線密度の大小が存在するような鋼材においては、上記特許文献1および特許文献2に示されたような方法および装置では鋼材を均一に冷却することができず、強度ばらつきが生じる恐れがある。
また、ルーズコイル等のリング状の鋼線材は、鋼板等と比較して、溶融塩の噴射方向に垂直な面内における鋼材の投影面積が小さく、上記特許文献1および特許文献2に示される方法および装置では、噴射された溶融塩はルーズコイル等のリング状の鋼線材に対してほとんど衝突することなく通過し、鋼線材全体に冷却液である溶融塩が衝突して広がるということがほとんどない。このため、有効に冷却が行われないばかりでなく、上下より噴射された溶融塩同士が互いに干渉して衝突し、周囲に飛散して噴射冷却液の進行を妨げることにより、噴射された溶融塩の移動速度が低下して、目的とする鋼材への高い衝突速度を維持することができず、冷却不能となる恐れもある。
このような問題に対して、本発明者等は特許文献3において、ルーズコイル等の冷却槽内で、非沸騰の特性を有する溶融塩を冷却槽底部の配管から吐出および流動させ、ルーズコイル周囲の溶融塩を噴流状態して冷却を行う、鋼線材のインライン熱処理方法およびその装置を提案している。
特開平03−114609号公報 特開平03−211225号公報 特開2007−211308号公報
しかしながら、この方法では、噴流の強流速を確保しようとした場合、冷却槽底部の配管から吐出された溶融塩が液面を貫通して上方に噴出し、冷却装置周囲に飛散して周囲の設備に損傷を与える恐れがある。また、ルーズコイルエッジ部では線材が密であり、ルーズコイル幅方向中心部では線材が疎であるために生じる、熱処理された際の鋼線材の場所による強度ばらつきに対して、冷却槽内における噴流の流速分布を制御することができないため、熱処理後の鋼線材の場所による強度ばらつきが生じてしまう場合がある。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、冷却槽底部から噴出させた溶融塩を槽外部に噴出させることなく、内部に強噴流を生じさせた冷却槽内でルーズコイルの冷却を行い、強冷却による熱処理を可能とするとともに、噴流の流速分布を制御することにより熱処理後のルーズコイルの場所による強度ばらつきを低減し、高強度の鋼線材を得ることを可能とする鋼線材ルーズコイルの熱処理方法およびその装置を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明者等は、鋼線材の熱処理において、溶融塩が流動する冷却槽底部から噴出させた溶融塩を槽外部に噴出させることなく、また、噴流の流速分布を制御して、鋼線材を浸漬冷却することにより均一な材質を得るための熱処理方法について広く研究を行った。これにより以下の知見を得た。
溶融塩の満たされている冷却槽中で、鋼線材を実用上問題ない程度の強度となるように熱処理するためには、冷却槽底面に設置された吐出管から上方に冷却液を噴出させ、前記溶融塩をルーズコイル表面の流速0.3〜5.0m/secで流動させることが必要である。前記溶融塩のルーズコイル表面での流速が0.3m/sec未満であると、ルーズコイルの十分な冷却が得られず、冷却不足に起因する材質不均一が生じる。一方、前記溶融塩のルーズコイル表面での流速が5.0m/sec以上であると、以下に述べる整流板を液面近傍に設置したとしても、流動速度が増加するにつれて、冷却槽底部から上方に噴出された冷却液が、液面よりも上方に突出し、冷却槽外に飛散することにより周囲の設備に損傷を与える場合がある。また、冷却槽外に突出しない場合でも、液面の振動が激しくなり、搬送の障害となる等、実用上問題を生じる場合がある。上記理由により、前記溶融塩のルーズコイル表面での流速の上限値および下限値が決定されることとなる。
これに対して、冷却槽内の液面近傍に整流板を設置すれば、冷却槽底面から上方に噴出された冷却液は、液面近傍の整流板に衝突し、それに沿うように整流されることにより、液面から突出して冷却槽外に飛散することなく、また、液面にルーズコイルの搬送を妨げる原因となる振動を生じさせることなく冷却槽内に強噴流を生じさせることが可能となる。
また、ルーズコイルはリング状に巻き取られた形状であるため、その線密度はルーズコイルの幅方向における、ルーズコイルエッジ部とルーズコイル幅中央部では大きく異なる。そのそれぞれの部分に同流速の冷却液の噴流が衝突した場合、線材の線密度の大きいルーズコイルエッジ部での冷却能力は、線材の線密度の小さいルーズコイル幅中央部での冷却能力と比べ、低くなってしまう。冷却能力の高い部分ほど線材の強度は上がるので、ルーズコイルには強度ばらつきが生じてしまうこととなる。つまり、ルーズコイルの幅方向において、できる限り均一な冷却を行うことで強度ばらつきは解消されることとなる。
そのためには、冷却槽内の噴流の流速分布をルーズコイルの幅方向においてルーズコイルエッジ部での流速に比べ、ルーズコイル幅中央部に近づくほどその流速が遅くなるように制御することが有効である。そこで、整流板の傾きまたは形状を変更することにより、強噴流の方向や流速分布を制御し、静止浴中では、ルーズコイルを構成する線材の場所による線密度の差異により強度ばらつきが生じるルーズコイルを、実用上問題ない程度に均一に冷却することが可能となる。
本発明は上記の知見を基になされたものであって、その要旨は以下の通りである。
本発明によれば、熱間圧延後リング状に巻き取られて搬送方向に広げられたルーズコイルまたは再加熱されたルーズコイルを、非沸騰の特性を有する溶融塩中で浸漬冷却する鋼線材のインライン熱処理方法であって、前記溶融塩を、冷却槽中に満たし、ルーズコイルよりも下方に配置した吐出口からルーズコイルの側方に溶融塩を上向きに吐出させ、ルーズコイルよりも上方に配置した整流板に衝突させて反転させることにより下向きの流れとし、ルーズコイル表面において流速0.3〜5.0m/secで供給することを特徴とする、鋼線材のインライン熱処理方法が提供される。
前記ルーズコイルを構成する線材の場所による線密度の大小に応じて、前記整流板の傾きまたは形状を変化させることにより、前記溶融塩の噴流速度分布を調整するようにしてもよい。
前記ルーズコイルのエッジ側に衝突する前記溶融塩の流速が前記ルーズコイルの幅中央部に衝突する流速より速いものとしてもよい。
前記吐出口が、上方を向いて開口し、上から見てルーズコイルの搬送方向の側方外側にあり、前記冷却槽底面から溶融塩深さの4/5以下の深さ位置にあることとしてもよい。
前記ルーズコイルの両方または片方の幅方向外側に、槽中央に満たされた溶融塩と吐出後の前記溶融塩の噴流との境界をなして混合を抑える仕切り板を設け低手もよい。
前記ルーズコイル下方に溶融塩循環のための溶融塩排出口を配置してもよい。
また、本発明によれば、熱間圧延後リング状に巻き取られて搬送方向に広げられたルーズコイルまたは再加熱されたルーズコイルを、非沸騰の特性を有する溶融塩中で浸漬冷却する鋼線材のインライン熱処理装置であって、ルーズコイルよりも下方からルーズコイルの側方に向かって溶融塩を吐出させる吐出口を有するとともに、前記溶融塩を反転させて、下向きの流れにしてルーズコイル表面に供給する整流板をルーズコイルよりも上方に備え、ルーズコイル表面に流速0.3〜5.0m/secで前記溶融塩を供給する溶融塩供給手段を有することを特徴とする、鋼線材のインライン熱処理装置が提供される。
前記整流板の傾きまたは形状が変化させられるようにしてもよい。
前記整流板が、前記ルーズコイルのエッジ側に衝突する前記溶融塩の流速を前記ルーズコイルの幅中央部に衝突する流速より速く調整することとしてもよい。
前記吐出口が、上方を向いて開口し、上から見て、ルーズコイルの搬送方向の側方外側にあり、前記冷却槽底面から溶融塩深さの4/5以下の深さ位置に位置していることとしてもよい。
前記ルーズコイルの両側または片側に槽中に満たされた溶融塩と該噴流との混合を抑える仕切り板を設けていてもよい。
前記ルーズコイル下方に、溶融塩循環のための溶融塩排出口を有していてもよい。
本発明によれば、冷却槽底部から噴出させた溶融塩を槽外部に噴出させることなく、内部に強噴流を生じさせた冷却槽内でルーズコイルの冷却を行い、強冷却による熱処理を可能とするとともに、噴流の流速分布を制御することにより熱処理後のルーズコイルの場所による強度ばらつきを低減し、高強度の鋼線材を得ることを可能とする線材ルーズコイルの熱処理方法およびその装置を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照にして説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
図1は一本の長い鋼線材がリング状(螺旋状)に巻き取られて搬送方向に広げられたルーズコイル1が複数の搬送ローラー2からなるローラーテーブル上で搬送されている様子をあらわしたものである。このルーズコイル1は、搬送方向Aから見ると、巻き取ったリング直径の長さで鋼線材断面の直径の数倍の太さを持った水平方向の線分に見える。なお、ルーズコイル1の特徴として、ルーズコイルエッジ部20とルーズコイル幅中央部21の鋼線材の線密度は大きく違っており、ルーズコイルエッジ部20では線密度が密、ルーズコイル幅中央部21ではルーズコイルエッジ部20に対して線密度が疎となっている。
図2はルーズコイル1の冷却を行う、本発明の冷却槽3内に溶融塩Bを吐出させる配管4を敷設したインライン熱処理装置5を示した正面断面図である。図3は、図2の側面断面図である。本発明では、図2に示すように、冷却槽3の底面付近であってルーズコイル1の幅方向の端面と冷却槽3の側壁面との間に、溶融塩Bを吐出させるための複数の吐出口30を備えた配管4を敷設し、配管4の上面に設けられた各吐出口30から上向に溶融塩Bを吐出させる。また、溶融塩Bの液面6近傍に、整流板7を配置し溶融塩Bの流動を調整する。吐出口30からの溶融塩Bの吐出によって噴流が生じ、その噴流は冷却槽3内では図2に示すように、冷却槽3の側壁面に沿って上昇し液面6近傍の整流板7の下面に衝突し、内側に押し出されて、ルーズコイル1の上方から下降する。そして、ルーズコイル1は上から下へ流れる噴流8によって、溶融塩Bの強噴流環境下で冷却される。このとき、各吐出口30から吐出される溶融塩Bの吐出量の制御により、噴流8は搬送方向Aに直交する断面内でコイル表面において流速0.3〜5.0m/secに設定される。なお、整流板7が設置されていない場合には、コイル表面での噴流8の流速が3.0m/secを超えると液面6の振動が激しくなり、それに伴いルーズコイル1も遥動することとなり搬送が困難となる恐れがあった。しかし、整流板7を設置することでコイル表面での噴流8の流速が5.0m/secを超えるまでは、液面6の振動を抑えることが可能となる。ただし、コイル表面での噴流8の流速が5.0m/secより大きくなった場合、液面6の振動が激しくなると共に、図2に示すように噴出噴流8’となって冷却槽3の外へ溶融塩Bが飛散してしまう恐れがある。
図4は、溶融塩Bを吐出させる複数の吐出口30を有する配管4を冷却槽3内の溶融塩深さの1/2の深さの位置に配置した場合の、本発明のインライン熱処理装置5を示した正面断面図である。この場合も、配管4に設けられた各吐出口30からの溶融塩Bの吐出により、冷却槽3内では図4に示すように、整流板7の下面に衝突することよって流速分布の生じた噴流8が生じ、ルーズコイル1は上から下へ流れる溶融塩Bの強噴流環境下で冷却される。なお、配管4の位置が液面6近くになると、吐出口30から吐出した溶融塩Bが液面6から突出し、噴出噴流8’となって冷却槽3の外へ飛散してしまう恐れや、液面6の振動が激しくなり、それに伴いルーズコイル1も振動することとなり搬送が困難となる恐れがある。そのため、溶融塩Bを吐出させる配管4は、冷却槽3の底面から溶融塩深さの4/5以下の深さの位置とすることが望ましい。
図5は、仕切り板10を設置した、本発明のインライン熱処理装置5を示した正面断面図である。仕切り板10は、ルーズコイルの両側においてルーズコイルの搬送方向と平行に、かつ、ほぼ垂直に配置される。また、各仕切り板10の外側において、複数の吐出口30から上向きに溶融塩Bが吐出される。このため、各吐出口30から吐出された溶融塩Bの噴流8は、仕切り板10の外側において、冷却槽3の側壁面に沿って上昇し、液面近傍の整流板7の下面に衝突した後、仕切り板10の上端を乗り越えて、内側に流入し、仕切り板10の内側においてルーズコイル1の上方から下降する。仕切り板10を設置することにより、仕切り板10の外側では、配管4の吐出口近傍の溶融塩Bの噴流8の水平方向への拡散をおさえ、仕切り板10の内側では、吐出口30から整流板7の下面に向かって流れる溶融塩Bの流れを整流することが可能となり、溶融塩Bの冷却槽3の側方部での上向きの流れと冷却槽3の中央部での下向きの流れとの干渉を防止することができる。
図6は、底部に、溶融塩循環のための溶融塩排出管11を有する、本発明のインライン熱処理装置5を示した正面断面図である。吐出口30より上向きに吐出した溶融塩Bの噴流8は、整流板7下面に当たり反転した後、ルーズコイル1の上方から下方へ向かい、溶融塩排出管11によって吸引され冷却槽外へ排出される。その結果、底部の溶融塩排出管11の吸引効果によりルーズコイル1周りの上から下への噴流8をより均一かつ高速にすることができ、安定した冷却効果を得ることが可能となる。
上記の図1〜図6に示した構成をとる本発明において、冷却槽3内で溶融塩Bの噴流を生じさせるために、冷却槽底面付近に配置された配管4の各吐出口30から冷却槽3の側壁面に沿って、上方に噴出された溶融塩Bは、液面6近傍の整流板7の下面に衝突し、冷却槽3の側壁面および整流板7によって内側に押し出され、液面6から突出して槽外に飛散することなく、整流板7の下面に沿うように整流される。その結果、ルーズコイル1周囲における溶融塩Bはルーズコイル1上方から下方へ向かう噴流8となる。整流板7を設けたことにより、液面6に振動を生じさせることなく、冷却槽3内においてコイル近傍に流速0.3m/sec〜5.0m/secの強噴流を生じさせることができる。さらに、整流板7の傾きまたは形状を変更することにより、噴流8を制御することができる。その様子を図7および図8に示すとともにその詳細を以下に述べる。
図7は整流板7の形状を平面状としてその傾きを調整できるようにした場合の整流板7近傍の噴流8の流れを表した概略図である。この図7に示す整流板7は、ルーズコイル1の液面近傍において、ルーズコイル1の搬送方向と平行に設けられた軸31を中心に回転自在に設けられる。整流板7の液面6に対する角度θをあまり大きくせず、整流板をほぼ水平とした場合を図7(a)、それに対し整流板7の液面6に対する角度θを比較的大きくして設置した場合を図7(b)として示す。
整流板7の液面6に対する角度θが小さい場合、整流板7の下面で反転させられた噴流8は図7(a)のように、ルーズコイル幅中央部21の方向に向かって主に流れ、ルーズコイルエッジ部20の方向にはあまり流れなくなるように制御される。一方、整流板7の液面6に対する角度θを比較的大きくした場合、整流板7の下面で反転させられた噴流8は図7(b)のように、ルーズコイルエッジ部20の方向に向かって主に流れ、ルーズコイル幅中央部21の方向にはあまり流れなくなるように制御される。このように整流板7の傾きを調整することにより、ルーズコイル幅中央部21とルーズコイルエッジ部20に対して供給される噴流8の量を制御することができる。
また、図8は整流板7に冷却槽3の上方向に凸となるような曲率を与え、その曲率を変化させた場合の整流板7近傍の噴流8の流れを表した概略図である。整流板7の曲率が比較的小さく、整流板7が平板に近い場合の、整流板7の下面で反転させられた噴流8の様子を図8(a)に示し、曲率が比較的大きく、整流板7が円弧状に近い場合の整流板7の下面で反転させられた噴流8の様子を図8(b)に示す。
整流板7の曲率が比較的小さい場合は、整流板7の下面で反転させられた噴流8は図8(a)のように、ルーズコイル幅中央部21の方向に向かって主に流れ、ルーズコイルエッジ部20の方向にはあまり流れなくなるよう制御され、一方、整流板7の曲率が比較的大きい場合は、整流板7の下面で反転させられた噴流8は図8(b)のように、ルーズコイルエッジ部20の方向に向かって主に流れ、ルーズコイル幅中央部21の方向にはあまり流れなくなるように制御される。
噴流8の整流板7による制御は上記のような特性であることより、整流板7の傾きまたは形状を変化させることにより、冷却槽3内の噴流の流速分布を制御することが可能となる。本発明においては、ルーズコイル1幅方向において線密度の高いルーズコイルエッジ部20での流速に比べ、線密度の低いルーズコイル幅中央部21に近づくほど流速が遅くなるように噴流8の流速分布を制御することで、鋼線材の場所による線密度の大小のあるルーズコイル1に対し、均一な材質を得られるような冷却を行うことができる。
以上、本発明の好ましい実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。例えば、ルーズコイル以外の、鋼線材を用いた鋼材等の冷却手段として、本発明を利用することが可能である。
以下に、本発明の実施例について説明する。熱間圧延機で直径9.0mmに熱間圧延された、炭素を0.75%含有するリング状に巻き取られた炭素鋼ルーズコイルを図1に示すインライン熱処理装置5を用いて冷却した。圧延後の線材温度は900℃であり、この線材を溶融塩として、硝酸ナトリウムと硝酸カリウムとを重量比で50:50の割合で混合した550℃の溶融塩を用いて熱処理した。
上記熱処理装置および条件で、噴流の流速を変化させて、本発明における整流板の有無、向き、溶融塩の吐出口の位置、仕切り版の有無、排出口の有無、による熱処置されたルーズコイルの強度およびそのばらつきを評価した。その結果を表1に示す。
まず、比較例1として整流板を設けずにルーズコイル周りに溶融塩の噴流を発生させることとした。この場合、ルーズコイル周りの溶融塩の流速を5.0m/secとしたところ、溶融塩は槽外に噴出して槽周囲に飛散して所望の熱処理を行うことができず、強度を評価するサンプルを採取することはできなかった。一方、比較例2として、比較例1と同様に整流板を設けない状態で、ルーズコイル周りの溶融塩の流速を3.0m/secとすると溶融塩の槽外への噴出は防止できたが、熱処理後の鋼線材の強度にばらつきが生じた。熱処理されたルーズコイル強度の評価指標としては、ここではルーズコイル各部位でのビッカース硬さを用いた。比較例2のときの溶融塩のルーズコイル表面の流速と熱処理後のルーズコイルのビッカース硬さルーズコイル幅方向位置での分布を示したものが図9(a)であり、ルーズコイルの素線の長さ方向の位置での熱処理線材の強度の分布を示したものが図9(b)である。
一方、整流板を冷却槽内の溶融塩液面近傍に設置し、ルーズコイル周りの溶融塩の流速を0.3m/sec〜5.0m/secの範囲とし、幅方向エッジ側が幅中央部に対して流速の速い流速分布が生じるようにした場合、溶融塩の槽外への噴出は生じなかった。さらにこれらの条件で熱処理を行った結果、発明例1〜8に示すように、実用上問題ない程度の強度ばらつきの鋼線材を得ることができた。
まず、本発明者らは、発明例1として,ルーズコイルのエッジ部が強噴流となるように整流板の向きを調整し冷却槽の底部に配置された溶融塩吐出配管からルーズコイル近傍の流速が5m/secとなるように溶融塩を吐出させて冷却を行った。この際,冷却槽内には吐出後の溶融塩噴流と槽中央に満たされた溶融塩との混合を防ぐ仕切り板および溶融塩循環用の排出管を設置した。この場合,強度ばらつきは比較例2の3割にまで低減され強度の平均も1割程度向上した。
このときの溶融塩のルーズコイル表面の流速と熱処理後のルーズコイルのビッカース硬さルーズコイル幅方向位置での分布を示したものが図10(a)であり、ルーズコイルの素線の長さ方向の位置での熱処理線材の強度の分布を示したものが図10(b)である。
図9と図10を比較してみると、本発明の特徴である整流板を設けたインライン熱処理装置によって熱処理したルーズコイルの硬さばらつきが、整流板のない場合と比較して明らかに低減されていることがわかった。さらに、ルーズコイルを素線とした場合の長さ方向の強度ばらつきも整流板を設けた場合のほうが、明らかに低減されていることがわかった。また、整流板を設けた場合のほうが、設けなかった従来の場合と比べ、表1に示されるように、全体的にも硬さが高く、強度が向上していることがわかった。
次に本発明者らは,発明例2として発明例1から排出管を取り外した場合について、さらに発明例3として発明例1から仕切り板を取り外した場合について熱処理されたルーズコイルの強度について調べた。その結果,発明例2、3いずれ場合も、熱処理後のルーズコイルの強度ばらつきは比較例2の4割まで低減され、平均強度も9%程度向上した。
さらに、本発明者らは、発明例4として発明例1から排出管と仕切り板の両方を取り外した場合について熱処理されたルーズコイルの強度について調べた。その結果、比較例2と比べて、熱処理後のルーズコイルの強度ばらつきは半減するとともに平均強度も8%程度向上した。
次に本発明者らは、発明例5として、発明例4の溶融塩の吐出位置を冷却槽の底部から冷却液深さの1/2の位置に変更した場合について熱処理されたルーズコイルの強度について調べた。その結果、吐出位置を冷却槽の底部に配置した場合と同等の強度ばらつき、平均強度となった。
さらに本発明者らは、発明例6、7として発明例4の条件から流速を変更した場合について、熱処理されたルーズコイルの強度について調べた。その結果、流速が大きい発明例4の場合と比較して平均強度は多少低下するものの、比較例2との比較では、強度ばらつきは低減され、平均強度は向上する結果となった。
次に本発明者らは、比較例2の条件に上記までの発明例とは異なり、エッジ部を強噴流とするのではなく、流速が均等となるような向きの整流板を設置した場合について、熱処理されたルーズコイルの強度について調べた.その結果,整流板の効果で強度ばらつきが低減するとともに、平均強度も若干向上した。
Figure 2009132958
評価値A:比較例2を1とした中心断面硬さHvの長手方向差(硬さのばらつき)
評価値B:比較例2を1とした中心断面硬さHvの長手方向平均(全体的硬さの差)
強度の指標としてHvビッカース硬さを用い、この数値の比を取っている。
次に、本発明者らは,表1よりも低流速の場合の本発明の適用効果について調べた。その結果を表2、3に示す。いずれの場合も、本発明を適用することにより熱処理されたルーズコイルの強度ばらつきは、比較例と比べて低減され、平均強度についても同等以上が確保できる結果となった。
Figure 2009132958
評価値A:比較例3を1とした中心断面硬さHvの長手方向差(硬さのばらつき)
評価値B:比較例3を1とした中心断面硬さHvの比(全体的硬さの差)
Figure 2009132958
評価値A:比較例4を1とした中心断面硬さHvの長手方向差(硬さのばらつき)
評価値B:比較例4を1とした中心断面硬さHvの比(全体的硬さの差)
本発明は、非沸騰の特性を有する溶融塩中に加熱された鋼線材を浸漬冷却する鋼線材の熱処理方法およびその装置に適用できる。
ルーズコイルが搬送されている状況を示す斜視図である。 ルーズコイルの冷却を例に、本発明の冷却槽内に溶融塩を吐出させる配管を敷設し、整流板を設置した、本発明のインライン熱処理装置を示した正面断面図である。 図2の側面断面図である。 溶融塩を吐出させる配管を、冷却槽内の溶融塩深さの1/2の深さの位置に配置した場合の、本発明のインライン熱処理装置を示した正面断面図である。 仕切り板を設置した本発明のインライン熱処理装置を示した正面断面図である。 底部に、溶融塩循環のための溶融塩排出管を有する本発明のインライン熱処理装置を示した正面断面図である。 傾きを変化させられる平面状の整流板の、傾きの変化による噴流の流速の様子を示した概略図である。 曲率を与えた整流板の、曲率の変化による噴流の流速の様子を示した概略図である。 整流板が設置されていない場合の、本発明における溶融塩のルーズコイル周りの流速とルーズコイルの幅方向位置でのビッカース硬さの関係を示したものである。 整流板が設置されていない場合の、本発明におけるルーズコイルの素線の長さ方向の位置での熱処理線材の強度の分布を示したものである。 整流板を設置したときの、本発明における溶融塩のルーズコイル周りの流速とルーズコイルの幅方向位置でのビッカース硬さの関係を示したものである。 整流板を設置したときの、本発明におけるルーズコイルの素線の長さ方向の位置での熱処理線材の強度の分布を示したものである。
符号の説明
1…ルーズコイル
2…搬送ローラー
3…冷却槽
4…溶融塩吐出配管
5…インライン熱処理装置
6…溶融塩の液面
7…整流板
8…冷却槽内の溶融塩の流れ(噴流)
8’…液面噴出噴流
10…仕切り板
11…溶融塩排出管
20…ルーズコイルエッジ部
21…ルーズコイル幅中央部
30…吐出管
31…整流板の回転軸
θ…整流板の液面に対する角度

Claims (12)

  1. 熱間圧延後リング状に巻き取られて搬送方向に広げられたルーズコイルまたは再加熱されたルーズコイルを、非沸騰の特性を有する溶融塩中で浸漬冷却する鋼線材のインライン熱処理方法であって、前記溶融塩を、冷却槽中に満たし、ルーズコイルよりも下方に配置した吐出口からルーズコイルの側方に溶融塩を上向きに吐出させ、ルーズコイルよりも上方に配置した整流板に衝突させて反転させることにより下向きの流れとし、ルーズコイル表面において流速0.3〜5.0m/secで供給することを特徴とする、鋼線材のインライン熱処理方法。
  2. 前記ルーズコイルを構成する線材の場所による線密度の大小に応じて、前記整流板の傾きまたは形状を変化させることにより、前記溶融塩の噴流速度分布を調整することを特徴とする、請求項1に記載の鋼線材のインライン熱処理方法。
  3. 前記ルーズコイルのエッジ側に衝突する前記溶融塩の流速が前記ルーズコイルの幅中央部に衝突する流速より速いことを特徴とする、請求項2に記載の鋼線材のインライン熱処理方法。
  4. 前記吐出口が、上方を向いて開口し、上から見てルーズコイルの搬送方向の側方外側にあり、前記冷却槽底面から溶融塩深さの4/5以下の深さ位置にあることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の鋼線材のインライン熱処理方法。
  5. 前記ルーズコイルの両方または片方の幅方向外側に、槽中央に満たされた溶融塩と吐出後の前記溶融塩の噴流との境界をなして混合を抑える仕切り板を設けることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の鋼線材のインライン熱処理方法。
  6. 前記ルーズコイル下方に溶融塩循環のための溶融塩排出口を配置したことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の鋼線材のインライン熱処理方法。
  7. 熱間圧延後リング状に巻き取られて搬送方向に広げられたルーズコイルまたは再加熱されたルーズコイルを、非沸騰の特性を有する溶融塩中で浸漬冷却する鋼線材のインライン熱処理装置であって、ルーズコイルよりも下方からルーズコイルの側方に向かって溶融塩を吐出させる吐出口を有するとともに、前記溶融塩を反転させて、下向きの流れにしてルーズコイル表面に供給する整流板をルーズコイルよりも上方に備え、ルーズコイル表面に流速0.3〜5.0m/secで前記溶融塩を供給する溶融塩供給手段を有することを特徴とする、鋼線材のインライン熱処理装置。
  8. 前記整流板の傾きまたは形状が変化させられることを特徴とする、請求項7に記載の鋼線材のインライン熱処理装置。
  9. 前記整流板が、前記ルーズコイルのエッジ側に衝突する前記溶融塩の流速を前記ルーズコイルの幅中央部に衝突する流速より速く調整することを特徴とする、請求項8に記載の鋼線材のインライン熱処理装置。
  10. 前記吐出口が、上方を向いて開口し、上から見て、ルーズコイルの搬送方向の側方外側にあり、前記冷却槽底面から溶融塩深さの4/5以下の深さ位置に位置していることを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載の鋼線材のインライン熱処理装置。
  11. 前記ルーズコイルの両方または片方の幅方向外側に、槽中央に満たされた溶融塩と吐出後の前記溶融塩の噴流との境界をなして混合を抑える仕切り板を設けたことを特徴とする、請求項7〜10のいずれかに記載の鋼線材のインライン熱処理装置。
  12. 前記ルーズコイル下方に、溶融塩循環のための溶融塩排出口を有することを特徴とする、請求項7〜11のいずれかに記載の鋼線材のインライン熱処理装置。
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