この発明において、駆動力源は車輪に伝達する動力を発生する動力装置であり、駆動力源としては、エンジン、電動機、油圧モータ、フライホイールシステムなどのうちの少なくとも1つを用いることが可能である。この発明における動力分配装置は、差動回転可能な複数の回転要素、例えば、4つの回転要素を有しており、いずれかの回転要素が入力要素であり、いずれかの回転要素が出力要素であり、残りの2つの回転要素が、選択的に反力要素となる。そして、入力要素が駆動力源に連結され、出力要素が駆動軸に連結される。さらに、反力要素となる一方の回転要素に発電機が接続され、反力要素となる他方の回転要素の回転を阻止することが可能である。また、差動回転可能な4つの回転要素を有する動力分配装置としては、例えば、遊星機構を用いた無段変速機を用いることができる。遊星機構としては、歯車の噛み合い力により動力伝達をおこなう遊星歯車機構、または作動油のせん断力でトラクション伝動により動力伝達をおこなう遊星ローラ機構を用いることが可能である。さらに、第1の回転要素ないし第4の回転要素は、動力を伝達する機能を備えた要素であり、具体的には、ギヤ、キャリヤ、コネクティングドラム、回転軸、ローラなどの要素が含まれる。また、この発明における駆動軸は、車輪との間で動力伝達をおこなう回転要素であり、ギヤ、キャリヤ、コネクティングドラム、回転軸、ローラなどの要素が含まれる。つまり、駆動軸は、その形状が軸形状のものに限定されない。
また、2つの回転要素のいずれか一方を反力要素として選択的に用いることにより、固定変速モードと無段変速モードとが切り換えられる。さらに、駆動軸と車輪との間で伝達される動力により発電をおこなう発電機が設けられている。この発電機は、交流型発電機または直流型発電機のいずれでもよい。また発電機は、運動エネルギを電気エネルギに変換する発電機としての機能と、電気エネルギを運動エネルギに変換する機能とを兼備した発電電動機(モータ・ジェネレータ)を用いることも可能である。
また、この発明のハイブリッド車の制御装置において、車両に対する加速要求が発生した場合、または加速要求が増加した場合は、車両の駆動力を高めることが可能である。さらに、最大駆動力以下の範囲を閾値として決定する閾値決定手段を有する場合に、車両に対して加速要求が発生すると、車両の実際の駆動力を、閾値に相当する駆動力の範囲へと増加することができ、駆動力不足を一層確実に抑制できる。
また、この発明のハイブリッド車の制御装置において、発電機で発電をおこなうと判断された場合に、余裕駆動力と閾値との差が大きくなることに比例して、発電機で発電する発電量を多くする発電量制御手段を備えている場合は、発電量を確保しやすくなる。
また、この発明のハイブリッド車の制御装置において、発電制御手段は、余裕駆動力が閾値よりも大きい場合は発電機で発電をおこなう一方、余裕駆動力が閾値以下である場合は発電機で発電をおこなわない手段を含む場合は、発電機の発電によって駆動力不足が生じることを、一層確実に抑制できる。
また、この発明のハイブリッド車の制御装置において、発電判断手段は、駆動力源の回転数毎に決められたトルクの上限値に基づいて最大駆動力を求め、駆動力源の実際の回転数および実際のトルクに基づいて、実駆動力を求める手段を含む場合、駆動力源のトルクを制御しやすくなる。
さらに、この発明のハイブリッド車の制御装置において、車両の車速を一定に維持する制御がおこなわれているか否かを判断する定速走行制御判断手段を備えており、閾値決定手段は、車両の車速を一定に維持する制御がおこなわれている場合に、加速要求に相当する分の駆動力を減じて閾値を決定する手段を含む場合、車速を一定に制御する定速制御を実行する場合、加速要求が生じる可能性が少ないため、発電量を多く確保しやすくなる。
つぎに、この発明を図面を参照しながら具体的に説明する。図2は、この発明の一実施形態であるF・R(フロントエンジン・リヤドライブ;エンジン前置き後輪駆動)形式のハイブリッド車(以下、「車両」と略記する)の概略構成図である。図2において、車両1は、車輪に伝達する動力を発生する駆動力源としてエンジン(ENG)2を有している。このエンジン2は、燃料を燃焼させた場合に発生する熱エネルギを運動エネルギに変換して出力する動力装置であり、エンジン2としては内燃機関、具体的にはガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることができる。この実施例では、エンジン2として、トルク制御装置、例えば、電子スロットルバルブ、燃料噴射量制御装置、点火時期制御装置などを有するガソリンエンジンが用いられているものとする。エンジン2から車輪(後輪)3に至る動力伝達経路に動力分配装置4が設けられている。車両1のフロアー(図示せず)の空間にはケーシング5が配置されており、そのケーシング5内に動力分配装置4が配置されている。
そして、動力分配装置4は2組の遊星歯車機構を有している。まず、第1遊星車機構6はシングルピニオン型の遊星歯車機構である。この第1遊星歯車機構6は、同軸上に配置されたサンギヤ7およびリングギヤ8と、サンギヤ7およびリングギヤ8に噛合するピニオンギヤ9を、自転、かつ公転可能に保持したキャリヤ10とを有している。このキャリヤ10が動力分配装置4の入力要素である。そして、キャリヤ10にはインプットシャフト11が動力伝達可能に連結、具体的には一体回転するように連結されており、そのインプットシャフト11とエンジン2のクランクシャフト12とが、動力伝達可能に接続されている。クランクシャフト12とインプットシャフト11との間の動力伝達経路には、ダンパ機構、トルクリミッタ機構、クラッチ機構などを設けることも可能である。ダンパ機構は、エンジン2からインプットシャフト11に伝達されるトルクの変動を吸収する機構である。トルクリミッタは、エンジン2からインプットシャフト11に伝達されるトルクを、設定トルク以下に制限する機構である。クラッチ機構は、トルク容量を一定に維持する制御、トルク容量を低下させる制御、トルク容量を増加させる制御をおこなうことの可能な伝動装置である。
図2の具体例では、インプットシャフト11およびクランクシャフト12の回転軸線(図示せず)が、車両1の前後方向に沿って配置されている。さらに、ケーシング5の内部には、第1モータ・ジェネレータMG1が設けられている。インプットシャフト11の回転軸線に沿った方向で、エンジン2と第1遊星歯車機構6との間に第1モータ・ジェネレータMG1が配置されている。この第1モータ・ジェネレータMG1は、エンジントルクの反力を受け持つ反力発生装置としての機能を有している。この第1モータ・ジェネレータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能(電動機としての機能)と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能(発電機としての機能)とを兼備している。第1モータ・ジェネレータMG1は、ステータ13およびロータ14を有しており、ステータ13はケーシング5に固定されている。
動力分配装置4を構成する第2遊星車機構15は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第2遊星歯車機構15は、同軸上に配置されたサンギヤ16およびリングギヤ17と、サンギヤ16に噛合する第1ピニオンギヤ18と、リングギヤ17および第1ピニオンギヤ18に噛合する第2ピニオンギヤ19と、第1ピニオンギヤ18および第2ピニオンギヤ19を、自転、かつ公転可能に保持したキャリヤ20とを有している。そして、キャリヤ20とリングギヤ8とが一体回転するように連結され、リングギヤ17とキャリヤ10とが一体回転するように連結されている。そして、キャリヤ20と一体回転するアウトプットシャフト21が設けられている。このアウトプットシャフト21は、動力分配装置4から出力されたトルクを車輪3に伝達する要素(回転軸)であり、インプットシャフト11とアウトプットシャフト21とが同軸上に配置されている。さらに、回転軸線に沿った方向で、第1モータ・ジェネレータMG1と第2遊星歯車機構15との間に第1遊星歯車機構6が配置されている。さらに、サンギヤ16に制動力を与えるブレーキBKが設けられている。このブレーキBKとしては、摩擦ブレーキ、または噛み合いブレーキを用いることが可能である。そのブレーキBKの動作を制御するブレーキ操作手段として、アクチュエータ22が設けられている。このアクチュエータ22としては、電磁式アクチュエータまたは油圧式アクチュエータのいずれを用いてもよい。
一方、アウトプットシャフト21は終減速機23に接続されており、終減速機23にはアクスルシャフト24を介して車輪3が接続されている。終減速機23は、アウトプットシャフト21の回転数よりも、アクスルシャフト24の回転数を低下させるように、その減速比が決定されている。また、回転軸線に沿った方向で第2遊星歯車機構15と終減速機23との間には、第2モータ・ジェネレータMG2が配置されている。この第2モータ・ジェネレータMG2は、ケーシング5の内部またはケーシング5の外部のいずれに配置されていてもよい。この第2モータ・ジェネレータMG2は、車輪3に伝達するトルクを発生させる第2駆動力源としての役割と、後述する蓄電装置に充電する電力を発生する発電機としての役割とを有している。この役割を満足するために、第2モータ・ジェネレータMG2は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備している。第2モータ・ジェネレータMG2は、ステータ25およびロータ26を有している。さらに、回転軸線に沿った方向で第2モータ・ジェネレータMG2と終減速機23との間には、変速機27が配置されている。
この変速機27は、ケーシング5の内部またはケーシング5の外部のいずれに配置されていてもよい。この変速機27は、第2モータ・ジェネレータMG2のロータ26と、アウトプットシャフト21とを動力伝達可能に接続する伝動装置である。この変速機27は、入力要素28および出力要素29を有しているとともに、その入力要素28と出力要素29との間の変速比を変更可能に構成されている。変速機27の変速比は、入力要素28の回転数を出力要素29の回転数で除して求められる。この変速機27は、変速比を段階的に変更可能な有段変速機、または、変速比を無段階に変更可能な無段変速機のいずれでもよい。また、変速機27の変速比は、「1」以上の値で変更可能に構成されている。この変速機27として、有段変速機を用いる場合、選択歯車式変速機、遊星歯車式変速機を採用することが可能である。これに対して、変速機27として、無段変速機を用いる場合、トロイダル型無段変速機、ベルト式無段変速機を採用することが可能である。そして、入力要素28がロータ26と動力伝達可能に接続され、出力要素29がアウトプットシャフト21と動力伝達可能に接続されている。なお、入力要素28および出力要素29は、共に動力伝達をおこなう回転要素であり、変速機27の構造や種類に応じて、回転軸、ギヤ、プーリ、スプロケット、チェーン、ベルトなどの要素が選択される。
さらに、第1モータ・ジェネレータMG1および第2モータ・ジェネレータMG2は、いずれもロータが回転運動をおこなうものであり、各モータ・ジェネレータは直流型または交流型のいずれでもよい。この具体例では、3相交流型のモータ・ジェネレータを用いる場合について説明する。また、第1モータ・ジェネレータMG1および第2モータ・ジェネレータMG2は共にインバータ30に接続されている。このインバータ30は直流電力を交流電力に変換する装置である。さらに、インバータ30にはコンバータ31が接続されている。このコンバータ31は、電力の電圧および周波数を変換する装置である。またコンバータ31には蓄電装置、具体的には二次電池であるHV(ハイブリッド)バッテリ32が接続されている。さらに、このHVバッテリ32には、コンバータ33を介在させて補機バッテリ34が接続されている。
補機バッテリ34は、補機装置35に供給する電力が蓄電される蓄電装置である。補機バッテリ34も二次電池であり、補機バッテリ34の電圧はHVバッテリ32の電圧よりも低い。また、補機装置35とは、車両1に搭載され、かつ、車両1の走行に用いられる動力を発生する装置以外の装置であり、補機装置35には、例えば、照明装置、ワイパ、空調装置、音響装置、パワーウィンドなどが含まれる。このように、各モータ・ジェネレータMG1,MG2と、HVバッテリ32との間で、電力の授受をおこなう電気回路が形成されている。また、HVバッテリ32と補機バッテリ34との間で電力の授受をおこなうことも可能である。さらに、各モータ・ジェネレータMG1,MG2同士の間では、インバータ30を経由させることなく、電力の授受を可能とする電気回路を形成することも可能である。上記のように構成され、かつ、相互に電力の授受が可能に接続されたインバータ30およびコンバータ31,33およびHVバッテリ32により、電気系統36が構成されている。
さらに、車両1の制御系統について説明すると、コントローラとしての電子制御装置(ECU)37が設けられており、電子制御装置37には、エンジン回転数、各モータ・ジェネレータMG1,MG2の回転数、インプットシャフト11の回転数、サンギヤ16の回転数、アウトプットシャフト21の回転数、車速、定速走行装置(クルーズコントロールシステム)の操作状態、HVバッテリ32および補機バッテリ34における充電量(SOC:State of charge)および電圧および電流値、HVバッテリ32および補機バッテリ34に対する充電要求、車両1における加速要求、車両1における制動要求、シフトポジションなどを示す信号が入力される。車両1における加速要求は、例えばアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検知するセンサの信号から判断される。HVバッテリ32および補機バッテリ34に対する充電要求は、第1モータ・ジェネレータMG1および第2モータ・ジェネレータMG2に対する発電要求と言い換えることも可能である。
また、定速走行装置とは、エンジン2を駆動力源として車両1が走行中に、アクセルペダルが踏み込まれていない場合でも、エンジン2の出力を制御することにより、車速を一定に制御することを可能とする装置である。これに対して、電子制御装置37からは、ブレーキBKを制御する信号、エンジン2を制御する信号、各モータ・ジェネレータMG1,MG2を制御する信号、電気系統36を制御する信号などが出力される。エンジン2を制御する信号には、エンジン2の停止・運転を制御する信号、エンジン回転数を制御する信号、エンジントルクを制御する信号が含まれる。モータ・ジェネレータMG1,MG2を制御する信号には、モータ・ジェネレータMG1,MG2を力行制御または回生制御させる信号、モータ・ジェネレータMG1,MG2の回転数を制御する信号、モータ・ジェネレータMG1,MG2のトルクを制御する信号が含まれる。ブレーキBKを制御する信号には、ブレーキBKからサンギヤ16に与える制動力を制御する信号が含まれる。
つぎに、図2に示された車両1における動力の伝達原理を説明する。エンジン2が運転されて、そのエンジントルクが、インプットシャフト11およびキャリヤ10に伝達される。このキャリヤ10は動力分配装置4の入力要素であり、エンジントルクの反力が反力発生装置により受け持たれて、動力分配装置4の出力要素であるキャリヤ20からトルクが出力される。動力分配装置4を制御するモードとして、固定変速モードおよび無段変速モードを選択的に切り替え可能である。図3および図4の共線図は、動力分配装置4を構成する要素同士、およびその要素に連結された回転要素同士の位置関係および回転状態を示すものである。図3および図4において、「停止」は回転要素が停止することを示し、「正」は回転要素が正方向に回転することを示し、「逆」は回転要素が逆方向に回転することを示す。なお、正方向とは、エンジン2のクランクシャフト12の回転方向と同じ回転方向である。図3および図4の共線図において、第1遊星歯車機構6はシングルピニオン型の遊星歯車機構であるため、サンギヤ7とリングギヤ8との間にキャリヤ10が配置されている。
これに対して、第2遊星歯車機構15は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であるため、サンギヤ16とキャリヤ20との間にリングギヤ17が配置されている。また、キャリヤ10とリングギヤ17とが一体回転するように連結されているため、図3および図4の共線図上で、キャリヤ10およびリングギヤ17が同じ位置に示されている。また、キャリヤ20とリングギヤ8とが一体回転するように連結されているため、図3および図4の共線図上で、キャリヤ20およびリングギヤ8が同じ位置に示されている。さらに、図3および図4の共線図上において、サンギヤ7とリングギヤ8との間にサンギヤ16が配置され、このサンギヤ16とリングギヤ8との間に、キャリヤ10が配置されている。この図3および図4に示すように、動力分配装置4は、相互に差動回転可能な4個の回転要素を有している。さらに、第2モータ・ジェネレータMG2は、変速機27を介してアウトプットシャフト21に接続されているが、図3および図4においては、便宜上、キャリヤ20と同じ位置に(MG2)として示してある。
まず、固定変速モードが選択された場合はブレーキBKが反力発生装置として機能する。すなわち、ブレーキBKの制動力が高められて、図3に示すようにサンギヤ16が固定(停止)される。また、動力分配装置4は、機構上、キャリヤ20およびリングギヤ8が一体回転するように連結され、かつ、リングギヤ17およびキャリヤ10が一体回転するように連結されている。このため、エンジントルクがインプットシャフト11を経由してキャリヤ10およびリングギヤ17に入力されると、ブレーキBKおよびサンギヤ16により反力が受け持たれ、キャリヤ20からトルクが出力される。このキャリヤ20のトルクは、アウトプットシャフト21および終減速機23およびアクスルシャフト24を経由して車輪3に伝達されて、駆動力が発生する。
そして、エンジン回転数を制御することにより、動力分配装置4の入力回転数と出力回転数との間の変速比を、無段階(連続的)に変更可能である。また、固定変速モードが選択された場合はサンギヤ16が固定されるため、動力分配装置4の変速比は「1」未満に限定される。すなわち、動力分配装置4が増速機として機能するため、動力分配装置4への入力トルクよりも、動力分配装置4から出力されるトルクの方が低くなる。また、固定変速モードが選択されるとともに、エンジン回転数が正である場合は、エンジントルクにより第1モータ・ジェネレータMG1が逆回転される。この場合、第1モータ・ジェネレータMG1では回生制御(発電制御)をおこなうか、または回生制御をおこなうことなくロータ14を空転させることが可能である。さらに、発電条件が成立した場合は、エンジン2からアウトプットシャフト21に伝達された動力を第2モータ・ジェネレータMG2に伝達し、その第2モータ・ジェネレータMG2で回生制御(発電制御)をおこない、発生した電力をHVバッテリ32に充電することも可能である。なお、上記の「発電条件の成立」については後述する。これに対して、車両1に対する加速要求が増加して、車輪3に伝達するトルクを増加する場合に、HVバッテリ32から第2モータ・ジェネレータMG2に電力を供給して、第2モータ・ジェネレータMG2を電動機として駆動することも可能である。さらにまた、固定変速モードが選択された場合、第1モータ・ジェネレータMG1の回転数よりも、キャリヤ20の回転数の方が高い。さらにまた、変速機27の変速比は「1」以上に設定されるため、第2モータ・ジェネレータMG2の回転数は、アウトプットシャフト21の回転数以上となる。このため、第2モータ・ジェネレータMG2が力行制御され、かつ、変速機27の変速比が「1」よりも大である場合、第2モータ・ジェネレータMG2のトルクが増幅されてアウトプットシャフト21に伝達される。
これに対して、無段変速モードが選択された場合は、ブレーキBKからサンギヤ16に与えられる制動力が低下され、図4に示すようにサンギヤ16が回転可能となる。この無段変速モードが選択された場合において、エンジントルクがインプットシャフト11を経由してキャリヤ10に入力されると、第1モータ・ジェネレータMG1により反力が受け持たれ、リングギヤ8から出力されたトルクがアウトプットシャフト21に伝達される。つまり、第1モータ・ジェネレータMG1が反力発生装置として機能する。第1モータ・ジェネレータMG1が正回転してエンジントルクの反力を受け持つ場合、第1モータ・ジェネレータMG1が回生制御され、発生した電力がHVバッテリ32に充電される。これに対して、第1モータ・ジェネレータMG1が逆回転する場合、HVバッテリ32から第1モータ・ジェネレータMG1に電力が供給されて、その第1モータ・ジェネレータMG1が電動機として駆動されて、エンジントルクの反力を受け持つ。
また、無段変速モードが選択された場合、第1モータ・ジェネレータMG1の回転数を制御することにより、動力分配装置4の入力回転数と出力回転数との間の変速比を、無段階(連続的)に変更可能である。さらに、無段変速モードが選択された場合、動力分配装置4の変速比として「1」未満、または「1」以上のいずれをも選択可能である。動力分配装置4の変速比が「1」を越える場合、動力分配装置4は減速機として機能し、動力分配装置4でトルクの増幅がおこなわれる。動力分配装置4の変速比が「1」未満である場合が、図4に破線で示されている。これに対して、動力分配装置4の変速比が「1」を越えている場合が、図4に一点鎖線で示されている。図4の共線図では、第1モータ・ジェネレータMG1が正回転である場合が示されているが、第1モータ・ジェネレータMG1が逆回転する場合、または停止する場合もある。さらに、図4に実線で示すように、動力分配装置4の変速比を「1」に制御することも可能である。
さらに、固定変速モードまたは無段変速モードの何れが選択されている場合においても、第2モータ・ジェネレータMG2に電力を供給して電動機として駆動させ、その第2モータ・ジェネレータMG2のトルクを、変速機27を経由させてアウトプットシャフト21に伝達することが可能である。なお、HVバッテリ32から第2モータ・ジェネレータMG2に電力を供給して電動機として駆動させ、その第2モータ・ジェネレータMG2のトルクをアウトプットシャフト21に伝達する場合、エンジン2に燃料が供給されていてもよいし、エンジン2への燃料の供給が停止されていてもよい。この「エンジン2への燃料の供給が停止されている」には、エンジン2が空転する場合と、エンジン2が停止している場合とが含まれる。さらに、固定変速モードまたは無段変速モードの何れが選択されている場合においても、エンジン2からアウトプットシャフト21に伝達される動力の一部を、第2モータ・ジェネレータMG2に伝達して発電をおこない、発生した電力をHVバッテリ32に充電するか、または発生した電力を第1モータ・ジェネレータMG1に供給することが可能である。
つぎに、動力分配装置4を制御するモードを選択する条件について説明する。動力分配装置4を制御するモードは、エンジン2の燃費、およびエンジン2から車輪3に至る動力伝達経路における動力の伝達効率などに基づいて決定される。まず、エンジン2の燃費について説明する。車両1では、車速およびアクセル開度に基づいて、車両1に対する要求駆動力が求められ、その要求駆動力に基づいて、エンジン2の目標出力および第2モータ・ジェネレータMG2の目標出力が求められる。エンジン2の目標出力に基づいてエンジン出力を制御する場合、基本的には、エンジン2の運転状態が、最適燃費線に沿ったものとなるように、エンジン2の目標回転数およびエンジンの目標トルクを求めることが可能である。図3および図4の共線図に基づいて説明したように、無段変速モードが選択された場合は、固定変速モードが選択された場合に比べて、動力分配装置4の変速比の制御範囲が広い。したがって、エンジン2の燃費を優先する場合は無段変速モードが選択される。
これに対して、図3の共線図で説明したように、固定変速モードが選択された場合は、エンジントルクの反力をブレーキBKにより受け持つため、第1モータ・ジェネレータMG1および第2モータ・ジェネレータMG2と、電気回路との間で流通する電力量が少なくなり、電気損失量の増加を抑制できる。したがって、エンジン2の燃費よりも電気損失量の増加を優先する場合は、固定変速モードを選択することができる。なお、固定変速モードまたは無段変速モードの何れが選択された場合も、動力分配装置4の変速比の制御と並行して、エンジン2の実際のトルクを目標トルクに近づけるために、電子スロットルバルブの開度の制御、点火時期の制御などがおこなわれる。
上記の固定変速モードと無段変速モードとの切り替えに用いるマップの一例が、図5に示されている。この図5のマップでは、加速要求としてアクセル開度を用いている。図5のマップにおいては、予め定められた車速V1以上の車速であり、かつ、アクセル開度が所定値θ1未満である場合に、固定変速モードが選択される。つまり、高車速であり、かつ、低負荷である場合に、固定変速モードが選択される。このように、固定変速モードが選択された場合、エンジントルクの反力をサンギヤ16で受け持つため、第1モータ・ジェネレータMG1に電力を供給する制御、または第1モータ・ジェネレータMG1で発電をおこなう制御をおこなう頻度が減少する。つまり、基本的にエンジンパワーを機械的に車輪3に伝達して駆動力を発生させることとなる。したがって、第1モータ・ジェネレータMG1に接続された電気回路内で電気パスが生じることはなく、動力循環を回避できる。言い換えれば、エンジン2から車輪3に至る動力伝達経路において、動力伝達効率が向上する。
これに対して、予め定められた車速V1未満の車速である場合、または、予め定められた車速V1以上の車速であり、かつ、アクセル開度が所定値θ1以上である場合は、無段変速モードが選択される。すなわち、低車速であるか、または、高負荷要求がある場合に、無段変速モードが選択される。このように、無段変速モードが選択された場合は、ブレーキBKからサンギヤ16に与えられる制動力が低下され、図4に示すようにサンギヤ16が回転可能となる。この無段変速モードが選択された場合において、エンジントルクがインプットシャフト11を経由してキャリヤ10に入力されると、第1モータ・ジェネレータMG1により反力が受け持たれ、リングギヤ8から出力されたトルクがアウトプットシャフト21に伝達される。第1モータ・ジェネレータMG1が正回転してエンジントルクの反力を受け持つ場合、第1モータ・ジェネレータMG1が回生制御され、発生した電力がHVバッテリ32に充電される。これに対して、第1モータ・ジェネレータMG1が逆回転してエンジントルクの反力を受け持つ場合、第1モータ・ジェネレータMG1に電力が供給されて、その第1モータ・ジェネレータMG1が電動機として駆動される。
ここで、第1モータ・ジェネレータMG1および第2モータ・ジェネレータMG2の特性を、図6に基づいて説明する。この図6においては、横軸に回転数が示され、縦軸にトルクが示されている。図6においては、上側半分にモータ・ジェネレータが電動機として駆動する場合(力行)の特性が示され、下側半分にモータ・ジェネレータが発電機として機能する場合(回生)の特性が示されている。モータ・ジェネレータが力行する場合、および回生する場合における効率が、楕円形状の線分により区画されている。この線分により区画された領域が、同じ効率であることを示す。モータ・ジェネレータが力行する場合、または回生する場合のいずれにおいても、楕円の中心側であるほど効率が高く、楕円の外側であるほど効率が低くなる特性を有している。ここで、「効率」とは「エネルギの変換効率」を意味する。
ところで、固定変速モードが選択されている場合は、エンジントルクの反力をブレーキBKにより受け持つ構成となっているため、この固定変速モードが選択されている場合は、第2モータ・ジェネレータMG2では基本的には発電がおこなわれない。また、車両1には補機装置35が設けられており、補機装置35に対して補機バッテリ34の電力が供給される。このため、補機バッテリ34の充電量が低下した場合は、HVバッテリ32の電力を補機バッテリ34に供給する。したがって、固定変速モードが選択されている場合でも、HVバッテリ32の充電量が低下した場合は、エンジン2の動力の一部を第2モータ・ジェネレータMG2に伝達して発電をおこない、発生した電力をHVバッテリ32に供給することがある。
ところで、固定変速モードが選択され、かつ、エンジン2の動力で第2モータ・ジェネレータMG2で発電をおこなっている場合に、車両1における加速要求が増加すると、車輪3に伝達されるトルクが低下して、車両1の駆動力不足を招く虞がある。この不都合を回避することの可能な制御例を、図1に基づいて説明する。この図1の制御例は、エンジン2が運転され、そのエンジントルクが車輪3に伝達されて車両1が走行している場合に実行される。まず、電子制御装置37において入力信号が処理され、その入力信号および電子制御装置37に記憶されているデータに基づいた制御が実行される(ステップS1)。このステップS1でおこなわれる処理には、固定変速モードと無段変速モードとを変更する制御、動力分配装置4の変速比の制御、エンジン2の出力の制御、変速機27の変速比の制御などの他に、以下のような制御が含まれる。例えば、ステップS1の処理時点で、定速走行制御装置が操作されて、車両1を一定車速で走行させる制御を実行することが選択されていた場合は、アクセルペダルが踏み込まれていない状態で、車速を一定に維持するように、エンジン出力が制御される。さらに、ステップS1では、車両1を一定車速で走行させる制御を実行することが選択されている場合、または選択されていない場合のいずれにおいても、余裕駆動力の閾値が求められる。この「余裕駆動力」および「閾値」の技術的意義については後述する。
このステップS1の処理についで、固定変速モードが選択されたか否かが判断される(ステップS2)。このステップS2の判断方法は後述する。このステップS2の判断時点で、無段変速モードが選択されていた場合は、ステップS2で否定的に判断されてリターンする。このステップS2で肯定的に判断された場合は、第2モータ・ジェネレータMG2で発電をおこなう条件が成立したか否かが判断される(ステップS3)。このステップS3の具体的な判断内容は後述する。このステップS3で肯定的に判断された場合は、第2モータ・ジェネレータMG2で発電制御を実行し(ステップS4)、リターンされる。このステップS4の制御も後述する。なお、ステップS3で否定的に判断された場合は、第2モータ・ジェネレータMG2で発電をおこなうことなく、リターンする。
つぎに、ステップS2において、固定変速モードが選択されているか否かを判断する例を具体的に説明する。例えば、図5に示すマップを用いて、車速およびアクセル開度から、固定変速モードが選択されているか否かを判断可能である。また、ブレーキBKの状態により、固定変速モードが選択されているか否かを判断可能である。具体的には、ブレーキBKが係合されている(制動力が予め定められた値以上)場合は、固定変速モードが選択されていると判断される。また、サンギヤ16が停止している場合(回転数零)は、固定変速モードが選択されていると判断される。さらに、第1モータ・ジェネレータMG1が逆回転し、かつ、力行も回生もおこなわれていない場合は、固定変速モードが選択されていると判断される。
さらに、エンジン回転数を用いてステップS2の判断をおこなうことも可能である。この場合は、図7のマップを用いることができる。図7のマップは、横軸にエンジン回転数が示され、縦軸にエンジントルクが示されている。そして、エンジン2で発生可能な最大トルクが上限トルクとして示されている。この上限トルクは、エンジン回転数が上昇することに比例して、高くなる特性を有している。そして、エンジントルクは上限トルク以下の領域で設定可能である。そして、エンジン回転数は、動力分配装置4の変速比および車速に基づいて決定される。さらに、前述のように、車両1に対する要求パワーおよび車速から、目標エンジントルクおよび目標エンジン回転数が求められている。ここで、固定変速モードは低負荷領域(要求駆動力が小さい)で用いられ、無段変速モードは高負荷領域(要求駆動力が大きい)で用いられる。ここで、要求駆動力が大きい、小さいとは、要求駆動力同士の相対的な関係を意味し、具体的な値を意味するものではない。したがって、所定車速において、目標エンジントルクが同じである場合を想定すると、無段変速モードが選択されている場合よりも、固定変速モードが選択されている場合の方が、エンジン回転数は低くなるので、エンジン回転数に基づいて、固定変速モードが選択されているか否かを判断可能である。
つぎに、ステップS3の発電条件が成立しているか否かを判断する場合に実行されるサブルーチンの一例を、図8に基づいて説明する。まず、HVバッテリ32の充電量SOCが、閾値SOCth以下であるか否かが判断される(ステップS11)。ここで、閾値SOCthとは、HVバッテリ32が充電量不足であると判断される基準であり、HVバッテリ32の充電量が閾値SOCth以下になると、HVバッテリ32の寿命が低下する可能性がある。なお、閾値SOCthは実験的に求められて、電子制御装置37に記憶されている。このステップS11で肯定的に判断されるということは、HVバッテリ32の電力を、補機バッテリ34に供給すると、HVバッテリ32の充電量が閾値SOCth以下の状態が継続する可能性がある。そこで、ステップS11で肯定的に判断された場合は、発電条件が成立したと判断し(ステップS12)、リターンされる。このステップS12では、後述する余裕駆動力が閾値Fthよりも大きいか否かに関わりなく、発電条件が成立したと判断される。これは、車両1で加速要求が発生した場合に駆動力を増加することよりも、HVバッテリ32への充電を優先することを意味する。
これに対して、ステップS11で否定的に判断されるということは、現時点では、HVバッテリ32から補機バッテリ34に電力を供給する必要性は低いことになる。そこで、ステップS11で否定的に判断された場合は、HVバッテリ32の充電量が不足する前に、第2モータ・ジェネレータMG2で発電をおこなうことができる状況にあるか否かを判断する。具体的には、余裕駆動力Fmが閾値Fthよりも大きいか否かが判断される(ステップS13)。
ここで、余裕駆動力Fmおよび閾値Fthを、図9のマップに基づいて説明する。図9のマップにおいて、横軸に車速が示され、縦軸に駆動力が示されている。横軸では右側に進むほど高車速であり、左側に進むほど低車速であることを意味する。縦軸では上側に進むほど高駆動力であり、下側に進むほど低駆動力であることを意味する。また、最大駆動力Fmaxが示されている。この最大駆動力Fmaxは、動力分配装置4の変速比、エンジン2の出力特性から求められたものであり、車速の増加に比例して、最大駆動力Fmaxが増加する特性を有している。そして、所定車速で発生可能な最大駆動力と、実際に生じている実駆動力F1との差(幅)が余裕駆動力Fmで表される。
また、車両1に対する加速要求が増加したり、道路勾配が大きくなった場合を想定して、各車速で設定される駆動力として、最大駆動力となるまで一定量の増加が可能なように性能補償代(幅)を残したものが一点鎖線で示す駆動力F2であり、一点鎖線で示された駆動力F2と最大駆動力Fmaxとの差が閾値Fthである。そして、図9のマップを用い、現在の車速における実際の実駆動力F1が、駆動力F2よりも低い場合、つまり、余裕駆動力Fmが閾値Fthよりも大きい場合は、発電条件が成立したと判断され(ステップS14)、リターンされる。すなわち、現時点では、HVバッテリ32の充電量は不足していないが、その充電量が不足する前に、エンジン2の動力の一部を第2モータ・ジェネレータMG2に伝達して発電をおこなっている場合に、車両1に対する加速要求が増加したり、道路勾配が大きくなったとしても、所定車速における駆動力を、最大駆動力Fmaxとなるまで一定量の増加が可能である(駆動力不足が発生しない)ため、発電条件が成立したと判断する。
これに対して、ステップS13で否定的に判断された場合は、発電条件は不成立と判断し(ステップS15)リターンする。これは、現時点において、エンジン2の動力の一部を第2モータ・ジェネレータMG2に伝達して発電をおこなうと、車両1に対する加速要求が増加したり、道路勾配が大きくなった場合に、所定車速における駆動力を、最大駆動力Fmaxとなるまで一定量を増加することができず、駆動力不足となる可能性があるからである。なお、図8のフローチャートにおいては、1つの閾値SOCthを用いているが、2種類の閾値SOCthを用いることも可能である。2種類の閾値SOCthとは、閾値SOCth1および閾値SOCth2であり、閾値SOCth1よりも閾値SOCth2の方が高い充電量を意味する。そして、ステップS11で閾値SOCth1を用い、そのステップS11で否定的に判断された場合に、HVバッテリ32の充電量が閾値SOCth2以上であるか否かを判断する仮想ステップ(図示せず)を追加し、その仮想ステップで肯定的に判断された場合はステップS13に進み、仮想ステップで否定的に判断された場合は、ステップS15に進むルーチンを構成することも可能である。
つぎに、ステップS13の判断で用いる閾値Fthの算出例を、図10のフローチャートに基づいて説明する。この図10のフローチャートは、図1のステップS1でおこなうことが可能である。図10のフローチャートでは、まず、定速走行制御を実行する操作があるか否かが判断される(ステップS21)。このステップS21で否定的に判断された場合は、固定変速モードから無段変速モードへの変更に要する時間等、各種の条件のうち何れか1つの条件を用いて閾値Fthを算出し(ステップS22)、リターンされる。具体的には、固定変速モードから無段変速モードへの変更に要する時間が短いほど、小さな閾値Fthが算出される。なお、固定変速モードから無段変速モードへの変更に要する時間としては、ブレーキBKの解放を開始してから、ブレーキBKの解放が終了するまでの時間、ブレーキBKを解放させる制御信号が出力されてから、ブレーキBKの解放が終了するまでの時間等を用いることが可能である。
また、ステップS22では、固定変速モードから無段変速モードへ変更される頻度を条件として、閾値Fthを求めることも可能である。具体的には、予め定められた所定時間内、または予め定められた走行距離において、固定変速モードから無段変速モードへ変更される頻度(回数)が多いほど、小さな閾値Fthを算出する処理がおこなわれる。このステップS22においては、いずれの条件を用いて閾値Fthを求める場合も、予め各条件と閾値Fthとの関係を実験的に求めたマップを電子制御装置37に記憶しておき、ステップS22ではこのマップを参照して閾値Fthを求めればよい。
これに対して、ステップS21で肯定的に判断された場合は、図9のマップを参照して定速走行制御用の閾値Fth2を求め(ステップS23)、リターンされる。このステップS23の処理を具体的に説明すると、まず、図9の閾値Fthから、加速要求が発生した場合に増加するために残されている分の駆動力F3を減じて、定速走行制御を実行する場合の駆動力F4が決定されされる。駆動力F4が図9では破線で示されており、各車速毎に駆動力F4が決定される。この駆動力F4は、車速の上昇にともない高まる特性を有しており、全ての車速において、駆動力F4は最大駆動力Fmaxよりも低く、かつ、駆動力F2よりも高い。そして、最大駆動力Fmaxと駆動力F4との差が、定速走行制御を実行する場合の閾値Fth2として表されている。つまり、ステップS23では図9を参照すればよい。
つぎに、図1のステップS4で第2モータ・ジェネレータMG2の発電制御を実行する場合に、その第2モータ・ジェネレータMG2の発電量Pgを制御する例を、図11を参照しながら説明する。図11のマップは、第2モータ・ジェネレータMG2の発電量を示すマップの一例であり、横軸には「余裕駆動力Fmから閾値Fthを減算した差」が示され、縦軸には発電量Pgが示されている。まず、HVバッテリ32の充電量SOC、HVバッテリ32の電流・電圧などに基づいてHVバッテリ32における使用電力量を求め、その使用電力量に基づいて、HVバッテリ32に対する最低の充電要求量Pchgを算出する。そして、図11の領域A1に示すように、充電要求量Pchgを、第2モータ・ジェネレータMG2の発電量Pgとして用いることが可能である。この充電要求量Pchgは、余裕駆動力Fmから閾値Fthを減算した差の大小に関わりなく一定である。
また、充電要求量Pchgが零(Kw)を越えている場合は、余裕駆動力Fmおよび閾値Fthに基づいて、第2モータ・ジェネレータMG2の発電量Pgを制御することも可能である。具体的には、余裕駆動力Fmから閾値Fthを減算し、その差に比例した発電量を決定する。この場合、余裕駆動力Fmから閾値Fthを減算した差が大であるほど、第2モータ・ジェネレータMG2の発電量Pgを多く設定する。つまり、図11の領域C1のように発電量が右肩上がりに上昇する。これは、余裕駆動力Fmから閾値Fthを減算した差が大であれば、第2モータ・ジェネレータMG2の発電に消費されるエンジン2のエネルギが増加しても、車両1に対する加速要求が生じた場合における駆動力不足を容易に回避可能だからである。さらに、余裕駆動力Fmから閾値Fthを減算し、その差に基づいて第2モータ・ジェネレータMG2の発電量Pgを求め、求められた発電量Pgが発電量Pth以上である場合、余裕駆動力Fmから閾値Fthを減算した値が零(ps)となるように、発電量Pgをフィードバック制御することも可能である。ここで、発電量Pthは充電要求量Pchgよりも多い。この制御をおこなうと、例えば、図7に示すように、エンジン2の出力を運転点U1から、同じ回転数でトルクを高めた運転点U2に変更することで、エンジン2の燃費を向上させることができる。なお、運転点U1よりも運転点U2の方が高トルクである。
上記のように、充電要求量Pchgを第2モータ・ジェネレータMG2の発電量として用いる具体的な状況としては、図8のステップS12に進んで発電条件が成立した場合が挙げられる。これに対して、余裕駆動力Fmから閾値Fthを減算し、その差に比例した発電量を決定する具体的な状況としては、図8のステップS14に進んで発電条件が成立した場合が挙げられる。ところで、図8のフローチャートにおいては、ステップS11の判断結果が変更された場合、ステップS12の処理と、ステップS14の処理とが相互に切り換えられる可能性がある。このような場合は、図11の領域B1のように、領域A1および領域C1の発電量を示す線分を、相対的に小さい勾配の発電量特性で接続することにより、ステップS12の処理とステップS14の処理との切り換えに伴う発電量の急激な変化を回避できる。このように、相対的に大きな勾配で表される発電量特性の直線と、一定の発電量特性の直線とを、相対的に小さい勾配の発電量特性で接続する制御をおこなうことにより、発電量の急変に伴う出力軸トルクの急変を抑制可能である。したがって、振動・騒音を抑制することができる。
つぎに、第2モータ・ジェネレータMG2の発電量の制御例を、図12のタイムチャートに基づいて説明する。まず、時刻t1以前においては、実際の充電量SOCが閾値SOCthを越えており、かつ、余裕駆動力Fmが閾値Fth以下である。このため、発電条件は不成立と判断されており、第2モータ・ジェネレータMG2で発電はおこなわれない。そして、時刻t1以後、実際の充電量SOCが閾値SOCthを越えており、かつ、余裕駆動力Fmが閾値Fthよりも大になると、第2モータ・ジェネレータMG2で発電がおこなわれる。さらに、時刻t2以後は、実際の充電量SOCが閾値SOCthを越えており、かつ、余裕駆動力Fmが閾値Fth以下になり、第2モータ・ジェネレータMG2の発電はおこなわれない。また、時刻t2以降は充電量SOCが減少しており、時刻t3以後、充電量SOCが閾値SOCthまで低下すると、余裕駆動力Fmが閾値Fth以下であっても、第2モータ・ジェネレータMG2での発電が開始される。
そして、時刻t3から時刻t4の間、余裕駆動力Fmが閾値Fth以下であるため、第2モータ・ジェネレータMG2の発電量Pgは、最低の充電要求量Pchgに制御されている。このように、時刻t3から時刻t4の間は、充電量SOCが閾値SOCthに制御される。さらに、時刻t4以降は、余裕駆動力Fmが閾値Fthより大となり、発電量Pgが増加されている。時刻t4から時刻t5までの間における発電量Pgは、図11における領域B1の発電量に相当し、時刻t5から時刻t6までの間の発電量Pgの増加勾配は、図11の領域C1の発電特性に相当する。そして、時刻t6で発電が終了している。図12のタイムチャートにおいて、時刻t1以前、および時刻t2から時刻t3の間が、図8のステップS11,S13を経由してステップS15に進んだ場合の制御に相当する。また、時刻t3から時刻t4の間が、図8のステップS12に進んだ場合に相当する。また、時刻t4から時刻t6までの間が、図8のステップS14に進んだ場合に相当する。
以上のように、この実施例では、余裕駆動力Fmが閾値Fthよりも大である場合に発電条件が成立し、エンジン2の動力の一部を用いて、第2モータ・ジェネレータMG2で発電がおこなわれる。これに対して、余裕駆動力Fmが閾値Fth以下である場合は、発電条件が不成立となり、第2モータ・ジェネレータMG2で発電はおこなわれない。したがって、補機装置35に供給する電力の不足を回避できる。また、加速要求が発生した場合に駆動力を増加できない場合には、第2モータ・ジェネレータMG2で発電はおこなわれないから、加速要求が発生した場合に、駆動力不足を回避できる。
また、この実施例では、車両1に対する加速要求が発生した場合に、車両1の駆動力を高めることを可能とするために、最大駆動力Fmax以下の範囲を閾値Fthとして決定しているため、車両1に対して加速要求が発生した場合は、車両1の実駆動力F1を、閾値Fthの範囲へと増加することができ、車両1における駆動力不足を一層確実に抑制できる。さらに、発電条件が成立した場合に、余裕駆動力Fmと閾値Fthとの差が大きくなることに比例して、第2モータ・ジェネレータMG2で発電する発電量Pgを多くすることが可能であり、HVバッテリ32に充電する電力を一層確保しやすくなる。
また、余裕駆動力Fmが閾値Fthよりも大きい場合は第2モータ・ジェネレータMG2で発電をおこなう一方、余裕駆動力Fmが閾値Fth以下である場合は第2モータ・ジェネレータMG2で発電をおこなわないため、第2モータ・ジェネレータMG2の発電によって駆動力不足が生じることを、一層確実に抑制できる。さらに、エンジン回転数毎に決められた上限トルクに基づいて最大駆動力を求め、エンジン2の実際の回転数および実際のトルクに基づいて、実駆動力を求めるため、エンジン2のトルクを制御しやすくなる。さらに、車両1の車速を一定に維持する制御がおこなわれているか否かを判断し、車両1の車速を一定に維持する制御がおこなわれている場合に、加速要求に相当する分の駆動力F3を減じて閾値Fth2を決定することが可能である。車速を一定に制御する定速制御を実行する場合、加速要求が生じる可能性が少ないため、第2モータ・ジェネレータMG2の発電量を多く確保しやすくなる。さらに、固定変速モードから無段変速モードに変更する頻度(回数・時間)が少なくなり、エンジン2の直達トルクで車両1が走行時間や距離が長くなる。したがって、エンジン2の燃費が向上する。
この具体例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、エンジン2が、この発明の駆動力源に相当し、一体回転するように連結されたキャリヤ10およびリングギヤ17、一体回転するように連結されたキャリヤ20およびリングギヤ8、サンギヤ7、サンギヤ16が、この発明における複数の回転要素(4つの回転要素)に相当し、第2モータ・ジェネレータMG2が、この発明の発電機に相当し、アウトプットシャフト21が、この発明の駆動軸に相当する。また、上記の動力分配装置4においては、リングギヤ8とアウトプットシャフト21とが動力伝達可能に、具体的には一体回転するように連結されており、キャリヤ10とエンジン2とが動力伝達可能に連結されている。したがって、動力分配装置4の変速比が、この発明における「駆動力源と駆動軸との間の回転速度比」と等価の値となる。
また、図1に示された機能的手段と、この発明の対応関係を説明すると、図1のステップS2が、この発明におけるモード判断手段に相当し、図1のステップS3が、この発明の発電判断手段に相当する。より具体的には、図8のステップS13,S14,S15が、この発明の発電判断手段に相当する。図1のステップS1でおこなわれる処理、具体的には、図10のステップS22,S23の処理が、この発明の閾値決定手段に相当する。図1のステップS1でおこなわれる処理、具体的には、図10のステップS21の処理が、この発明の定速走行制御判断手段に相当する。さらに、最大駆動力Fmaxが、この発明における最大駆動力に相当し、余裕駆動力Fmが、この発明における余裕駆動力に相当し、駆動力F3が、この発明における「加速要求が発生した場合に増加する分の駆動力」に相当し、閾値Fthが、この発明における余裕駆動力用の閾値に相当し、閾値Fth2が、この発明における「定速走行制御用の閾値」に相当する。
なお、図2に示された動力分配装置4を、2組の遊星ローラ機構で構成することも可能である。すなわち、各サンギヤをサンローラとし、リングギヤをリングローラとし、ピニオンギヤをピニオンローラとする構成である。このように、2組の遊星ローラ機構を用いる場合、作動油のせん断力によるトラクション伝動がおこなわれる。また、図2においては、二次電池としてバッテリが用いられているが、キャパシタを用いてもよい。さらに、図8のステップS11では、HVバッテリ32の充電量SOCに代えて、補機バッテリ34の充電量SOCを用いることも可能である。
1…車両、 2…エンジン、 3…車輪、 4…動力分配装置、 7,16…サンギヤ、 8…リングギヤ、 10,20…キャリヤ、 MG2…第2モータ・ジェネレータ。