JP2009108378A - 高張力冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.005〜0.025%、Si:1.0%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.01〜0.10%、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.005%以下を含み、[Nb]×[C]≧5×10-4、3.5≦[Ti]/[N]≦7.0を満足するようにNbおよびTiを含有し、残部はFeおよび不可避的不純物である。そして、析出可能Nb量の50%以上が大きさ20nm未満の析出物として存在し、平均結晶粒径が5〜30μmのフェライト相を主相とする組織である。上記鋼板は、例えば、冷延後、(Ac3変態点)〜(Ac3変態点+100)℃の温度で加熱保持し、10℃/s以上の冷却速度で冷却し、500〜700℃の温度で30s以上保持した後、再度冷却し、製造される。
【選択図】なし
Description
引張強度が440MPa以上となるように冷延鋼板を高強度化するには、固溶強化に加えて組織強化を併用することが最も一般的な手法である。ただし、硬質相としてマルテンサイトを利用する場合には、鋼板の降伏比が低下しやすい。
一方、降伏比を高める効果的な強化手法としては、析出強化がある。ただし、冷延鋼板の通常の製造プロセスにおいて、再結晶焼鈍後の冷延鋼板中に微細な析出物を存在させることは難しい。熱延後の冷却過程において鋼板中に析出物が微細に析出しても、冷延後の焼鈍時における昇温過程で析出物は成長し易く、強化能の高い微細粒子のまま析出物を焼鈍後まで残存させることは困難であるからである。そのため、冷延鋼板では析出強化を有効に利用することができず、降伏比の高い高張力冷延鋼板を得ることは容易ではない。
また、特許文献2には、TiあるいはNbを含有させた中炭素鋼で、鋼組織を平均粒径が1〜4μmのフェライトおよびベイナイトを80%以上含有する組織とし、フェライトおよびベイナイト粒内の析出物の粒径と個数を所定の範囲に制御した、引張強度が700MPa以上かつ降伏比が0.7以上の高強度冷延鋼板が提案されている。
さらに、特許文献3には、Ti、Nb、Mo、Bの添加量を狭い範囲で厳密に管理することにより、高降伏比かつ良延性を確保した、高降伏比高強度冷延鋼板に関する技術が記載されている。
また、特許文献1および2の技術は、中炭素鋼をベース成分としているため、自動車車体の主要な接合技術であるスポット溶接での溶接性に懸念がある。
特許文献3に記載の技術では、溶接性も考慮して低炭素鋼をベースとした成分設計がなされているが、合金元素の含有量範囲が極めて狭小であるため、製造上の難度が高く、実用面では大きな障害が残されている。
その結果、所定の成分組成を有する鋼に対して、鋼中に大きさが20nm未満の微細な析出物を適量存在させ、所定の結晶粒径を有するフェライト相を主相とする組織とすることで、高張力冷延鋼板に高い降伏比特性を付与できることを見出した。
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]成分組成は、質量%で、C:0.005〜0.025%、Si:1.0%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.01〜0.10%、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.005%以下を含み、下記式(1)および(2)を満足するようにNbおよびTiを含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、析出可能なNb量の50%以上が大きさ20nm未満の析出物として存在し、平均結晶粒径が5〜30μmのフェライト相を主相とする組織を有し、降伏比が0.8以上であることを特徴とする高張力冷延鋼板。
なお、ここで、析出可能なNb量とは、[Nb]と7.75[C]のうちの小さい方の値である。
[Nb]×[C]≧5×10-4 ‥‥‥ (1)
3.5≦[Ti]/[N]≦7.0 ‥‥‥ (2)
ただし、[Nb]、[C]、[Ti]、[N]はそれぞれNb、C、Ti、Nの含有量(質量%)を示す。
[2]前記[1]において、さらに、質量%で、Cu:0.05〜0.5%、Ni:0.05〜0.5%、Cr:0.05〜0.5%、Mo:0.05〜0.5%の中から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする高張力冷延鋼板。
[3]前記[1]または[2]において、さらに、質量%で、B:0.0003〜0.0030%を含有することを特徴とする高張力冷延鋼板。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の高張力冷延鋼板の表面に亜鉛めっき層を備えてなることを特徴とする高張力亜鉛めっき鋼板。
[5]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の成分組成を有する鋼スラブを、1100〜1300℃の温度に再加熱し、Ar3変態点以上の仕上温度で熱間圧延し、700℃以下の温度で巻き取って熱延鋼板とし、次いで、該熱延鋼板を酸洗、冷間圧延した後に、(Ac3変態点)〜(Ac3変態点+100)℃の温度で加熱保持し、次いで、10℃/s以上の冷却速度で冷却し、500〜700℃の温度で30s以上保持した後、再度冷却することを特徴とする高張力冷延鋼板の製造方法。
[6]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の成分組成を有する鋼スラブを、1100〜1300℃の温度に再加熱し、Ar3変態点以上の仕上温度で熱間圧延し、700℃以下の温度で巻き取って熱延鋼板とし、次いで、該熱延鋼板を酸洗、冷間圧延した後に、Ac3変態点〜(Ac3変態点+100)℃の範囲の温度で加熱保持し、次いで、750℃以上から450℃以下まで30℃/s以上の冷却速度で急冷し、次いで、500〜700℃の温度に再加熱し、30s以上保持した後、冷却することを特徴とする高張力冷延鋼板の製造方法。
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべて質量%である。また、本発明において、「高張力冷延鋼板」とは、引張強度が440MPa以上である冷延鋼板である。
まず、本発明の高張力冷延鋼板の成分組成について説明する。
C:0.005〜0.025%
Cは、鋼の高強度化に必要な元素である。また、炭化物の析出を通じて鋼板の高降伏比化にも大きな役割を果たす。所望の鋼板特性を得るためには、Cを0.005%以上含有することが必要である。一方、Cの含有量が0.025%を超えると、鋼板の成形性が低下する。よって、Cの含有量は0.005%以上0.025%以下とする。
Siは、固溶強化により鋼の強度を高める作用を持つ元素であるが、Siの含有量が1.0%を超えると、鋼板の表面性状が顕著に劣化し、めっき性にも悪影響を及ぼす。そのため、Siの含有量は1.0%以下に限定する。なお、鋼板に溶融亜鉛めっきを施す場合には、Siの含有量は0.5%以下とするのが好ましく、0.1%以下とするのがより好ましい。このように、本発明においては、Siは積極的に含有する必要はなく、含有しなくても(0%)良い。
Mnは、固溶強化により鋼の強度を増す作用を有する元素である。所望の鋼板強度を得るためには0.5%以上含有させる。一方、過度のMnの含有は、鋼板の成形性やめっき性を低下させる。よって、Mnの含有量は0.5%以上2.5%以下とする。
Pは、固溶強化により鋼を高強度化する元素である。所望の鋼板強度を確保するためには0.01%以上の含有が必要である。一方、多量のPの添加は、鋼板の耐二次加工脆性を低下させるとともに、溶接性やめっき性も低下させる。よって、Pの含有量は0.01%以上0.10%以下とする。なお、鋼板に溶融亜鉛めっきを施す場合には、Pの含有量は0.05%以下が好ましい。
Sは、鋼中に不純物として存在する元素である。多量のSの含有は、鋼板の成形性を低下させる。そのため、Sの含有量は0.01%以下とする。
Alは、鋼の脱酸のために添加される元素である。Alの含有量が0.01%未満では十分な脱酸効果が得られない。一方、Alの含有量が0.10%を越えると、前記脱酸効果は飽和する上、介在物の増加によって鋼板の表面欠陥を増加させる。よって、Alの含有量は0.01%以上0.10%以下とする。好ましくは0.01%以上0.05%以下である。
Nは、鋼中に不純物として存在する元素である。多量のNの含有は、鋼板の成形性を低下させるため、Nの含有量は0.005%以下とする。
Nbは、本発明において最も重要な元素である。
Nbは、Cと結合して炭化物等微細析出物を形成し、鋼中に析出して鋼を析出強化し、鋼板を高降伏比化する作用がある。このような炭化物の形成による効果を十分に得るためには、必要な量の炭化物を形成し得る量のNbを含有させる必要がある。そのため、Nbの含有量は、C含有量との関係において、上記式(1)を満足するようする。ただし、過度に多量のNbの含有は、鋼板の製造性を悪化させるので、良好な製造性を保つためには、Nb含有量は0.20%以下とするのが好ましい。また、十分な析出量を確保するためには、Nbの含有量は0.05%以上とするのが好ましい。
ただし、上記式(1)において、[Nb]、[C]はそれぞれNb、Cの含有量(質量%)である。
TiはNとの親和性が強く、窒化物を形成する作用が強い元素である。鋼中のNを全量固定して所定の析出物を得るようにするためには、N含有量との関係において、式(2)を満足すようにTiを含有すればよい。Ti系窒化物は高温でも安定であるため、TiによるNの析出固定には、高温加熱時における鋼板組織の粗大化防止効果も期待される。[Ti]/[N]が3.5未満であると、上記Nの固定に不十分である。一方、[Ti]/[N]が7.0を超えると、Cとの親和力のためNb炭化物の析出に大きく影響するようになる。
ただし、上記式(2)において、[Ti]、[N]はそれぞれTi、Nの含有量(質量%)である。
なお、本発明の鋼板は、上記の成分組成とすることで目的とする特性が得られるが、所望の特性に応じて以下の元素を含有することができる。
Cu、Ni、Cr、Mo、は、それぞれ固溶強化により鋼の強度を増す作用を有する元素である。鋼板強度を増すためには、いずれの元素の場合も、0.05%以上必要である。一方、過度の含有は、鋼板の表面性状の悪化やめっき性の低下を招き、経済的にも不利である。よって、含有する場合は、Cuは0.05%以上0.5%以下、Niは0.05%以上0.5%以下、Crは0.05%以上0.5%以下、Moは0.05%以上0.5%以下とする。好ましくは、それぞれ0.05%以上0.3%以下である。また、Cu、Ni、Cr、Moのうちの2種以上を含有する場合には、それらの含有量の合計は1.0%以下とすることが好ましく、0.6%以下とすることがより好ましい。
Bは、微量の添加により鋼板の耐二次加工脆性を改善する元素である。このような改善効果を得るためには、Bの含有量は0.0003%以上にすることが必要である。一方、Bの含有量が0.0030%を超えると、前記効果は飽和し、鋼板の成形性低下が顕著となる。よって、Bを含有する場合、その含有量は0.0003%以上0.0030%以下とする。好ましくは、0.0003%以上0.0015%以下である。
本発明高張力冷延鋼板では、析出可能なNb量の50%以上を大きさ20nm未満の析出物とする。これは、本発明において、もっとも重要な要件である。
析出物による分散強化を十分に活かし、降伏比が高く、高強度な冷延鋼板を得るためには、析出物をできるだけ微細化し、微細な析出物の存在量を高めることが必要である。本発明では、Nbを含む析出物(Nb系析出物)を微細に析出させてこれを達成する。
大きさが20nm以上の析出物では、強化能が小さく、所望の強化効果が得られない。また、大きさが20nm未満の析出物として析出するNb量が、析出可能なNb量の50%未満では、十分な強化効果が得られない。
以上より、本発明においては、析出可能なNb量のうちの50%以上を大きさ20nm未満の微細な析出物とする。
ここで、本発明では、微細な析出物としてNb系析出物を利用する。Nb系析出物とは、Nb炭化物およびNb炭窒化物等を指す。本発明鋼板では、上記したようにTiを添加してNを固定しているため、主として炭化物であるが、若干量の炭窒化物等を含むこともある。なお、Nb炭化物あるいはNb炭窒化物には微量のTi等が固溶する場合があるが、本発明の鋼板においては特段の問題はない。
Nbは、固溶状態でも結晶粒粗大化を抑制する効果が大きく、粒径制御を通じて冷延鋼板の絞り成形性の改善に寄与する効果もある。そのため、本発明鋼板では、Nb系析出物の分解・析出挙動を適切に制御することによって、所望の強度特性を実現する。
また、析出可能なNb量とは、[Nb]と7.75[C]のうちの小さいほうの値とする。ただし、[Nb]、[C]は、それぞれC、Nbの含有量(質量%)である。
上記20nm未満の析出物の割合は、冷間圧延後の鋼板を所定の条件で熱処理することによって制御することができる。具体的には、冷間圧延後の再結晶焼鈍工程において、鋼板の熱履歴を所定の範囲内に調整して行うことが好ましい。
試料を電解液中で所定量電解した後、試料片を電解液から取り出して分散性を有する溶液中に浸漬する。次いで、この溶液中に含まれる析出物を、孔径20nmのフィルタを用いてろ過する。この孔径20nmのフィルタをろ液と共に通過した析出物が大きさ20nm未満である。次いで、ろ過後のろ液に対して、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、ICP質量分析法、および原子吸光分析法等から適宜選択して分析し、大きさ20nm未満での析出物に含まれるNbの試料(鋼)における含有率を求める。
自動車部品の素材鋼板として必要なプレス成形性を確保するためには、鋼板のミクロ組織はフェライト相を主相とすることが望ましい。マルテンサイト相やベイナイト相といった硬質な低温変態相を主相とすると、鋼板に十分なプレス成形性を付与することが難しい。
また、フェライト相の平均結晶粒径が30μmを超えると、成形時に表面性状の劣化を生じやすい。一方、フェライト相の平均結晶粒径が細かい程、降伏強度の増加も期待できるが、冷延鋼板の通常の製造プロセスで平均結晶粒径が5μm未満の微細粒組織を実現することは難しく、可能であったとしても大幅な製造性の低下を招く。以上より、フェライトの平均結晶粒径は5μm以上30μm以下とする。
なお、フェライト相を主相とするとは、フェライト相の分率が体積比で95%を超えることを意味する。また、前記した低温変態相以外の、パーライトやセメンタイト、焼戻マルテンサイトについては、少量であれば鋼板のプレス成形性への悪影響は小さいので、5%未満の分率であればフェライト相との混在を許容できる。
なお、上述のフェライト相の組織確認は、鋼板の圧延方向断面のミクロ組織を光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡で撮影した断面組織写真を用いることにより実施できる。フェライトの分率は、断面組織写真における当該相の占有面積率から求めることができる。また、フェライト組織の平均結晶粒径は、結晶粒度番号から算出できる。
本発明の高張力冷延鋼板は、前記成分組成を有する鋼スラブを、1100〜1300℃の温度に再加熱し、Ar3変態点以上の仕上温度で熱間圧延し、700℃以下の温度で巻き取って熱延鋼板とし、次いで、熱延鋼板を酸洗、冷間圧延した後に、(Ac3変態点)〜(Ac3変態点+100)℃の温度で加熱保持し、次いで、10℃/s以上の冷却速度で冷却し、500〜700℃の温度で30s以上保持した後、再度冷却することにより製造される。または、前記、Ac3変態点〜(Ac3変態点+100)℃の範囲の温度で加熱保持後、750℃以上から450℃以下まで30℃/s以上の冷却速度で急冷し、次いで、500〜700℃の温度に再加熱し、30s以上保持した後、冷却することにより製造される。
なお、その他の製造条件は、通常行われている公知の方法で行うことができる。詳細には以下の通りである。
鋼スラブの再加熱温度は、1100〜1300℃の範囲とする。再加熱温度が1300℃を超えると、鋼板の表面性状の劣化を招く上、加熱に要するエネルギーの点からも好ましくない。一方、再加熱温度が1100℃未満になると、析出物の分解が不十分となり、鋼板に必要な強度および特性を付与し難くなる。そのため、鋼スラブの再加熱温度は1100℃以上1300℃以下とする。好ましくは、1150℃以上1250℃以下である。
なお、鋼スラブの再加熱は、常温まで冷却した冷スラブを再加熱してもよいし、鋳造後に降温中の温スラブを直接加熱炉に装入して再加熱してもよい。
熱間圧延の仕上温度がAr3変態点未満の場合には、鋼板の組織が不均一となり、十分な成形性が得られなくなる。そのため、仕上温度はAr3変態点以上とする。ただし、仕上温度が(Ar3変態点+100℃)を超えると、結晶粒が粗大化しやすく、成形性や表面性状の劣化を招きやすい。したがって、仕上温度は(Ar3変態点+100℃)以下とする。
なお、Ar3変態点は、熱収縮測定により実測して求めることが好ましいが、鋼の化学組成から概算してもよい。
また、所定の仕上温度を確保するために、エッジヒーターあるいはバーヒーター等のシートバー加熱装置を利用してもよい。また、複数のシートバーを接合し、連続して仕上圧延を行ってもよい。
熱間圧延後の巻取温度が700℃を超える場合には、巻取後の徐冷過程において析出物が粗大化してしまい、再溶解を経て冷延鋼板中に微細に析出させることが困難になる。よって、熱延後の巻取温度は700℃以下とする。
熱間圧延後は、常法に従い、酸洗を行い、鋼板表面に形成されているスケールを除去し、次いで、冷間圧延する。冷間圧延の圧下率は、特に限定するものではないが、結晶粒粗大化の抑制や圧延負荷の増大回避の点から、40〜80%程度とすることが好ましい。
焼鈍後の冷延鋼板中に微細な析出物を存在させるためには、焼鈍工程における加熱時に熱延後の冷却中に析出した析出物を分解し、焼鈍後の冷却過程で再度微細に析出させる必要がある。そのため、冷間圧延後の一次加熱の際には、析出物が十分分解する温度まで加熱することが必須である。よって、(一次)加熱温度はAc3変態点以上とする。一方、加熱温度が高すぎると、結晶粒の粗大化を招いて鋼板の成形性低下を招く。よって、一次加熱温度の上限は(Ac3変態点+100)℃とする。
なお、Ac3変態点は、熱膨張測定により実測して求めることが好ましいが、鋼の化学組成から概算してもよい。
一次加熱後の冷却速度が小さすぎると、冷却中の高温域でNb系炭化物が析出して粗大化し易く、所望の強化効果が得られない。そのため、一次加熱後の冷却速度は、10℃/s以上とする。
析出促進のための保持工程を急冷後の再加熱過程で実施する場合には、再加熱過程での微細析出物の析出を促進するため、少なくとも750〜450℃の範囲を30℃/s以上の冷却速度で急冷する。冷却速度の上限については、特に制限する必要はなく、水焼入のように非常に冷却速度の高い冷却方法を採用してもよい。この場合には、一次加熱後の冷却過程での不要な析出を極力抑制するため、再加熱過程をとらない場合に比べてより高い冷却速度で急冷する。
保持温度:500〜700℃、保持時間30s
一次加熱の際に溶解した析出物を再度微細に析出させるためには、適切な温度域に鋼板を保持し、析出反応を促進させる必要がある。保持温度が500℃未満では、析出反応が十分な速度で進行しない。また、保持温度が700℃を超える場合には、析出物が粗大化してしまい、所望の強化能を維持できない。よって、一次加熱後の保持温度は500℃以上700℃以下の範囲に限定する。
また、上記保持温度での保持時間が30s未満では、十分な析出促進効果が得られないので、保持時間は30s以上とする。なお、保持時間が過度に長い場合には生産性の低下を招くので、保持時間は600s以下とするのが望ましい。
なお、上記2)の一次加熱後急冷速度:30℃/s以上の急冷を行った場合は、上記保持温度:500〜700℃まで、再加熱(二次加熱)を行い、次いで、30s以上保持することとする。
また、上記の加熱・保持(焼鈍)工程については、連続ラインで実施することが、生産性確保の観点から好ましい。
一次加熱後の前記冷却を施して得た冷延鋼板は、溶融めっきまたは電気めっきを施して表面に亜鉛めっき層を形成し、高張力亜鉛めっき鋼板とすることもできる。前記した本発明の高張力冷延鋼板の表面に亜鉛めっき層を備えてなる高張力亜鉛めっき鋼板とした場合でも、本発明の効果(高い降伏比)が十分に得られる。
亜鉛めっきとしては、合金化亜鉛めっきや純亜鉛めっきが挙げられる。なお、一次加熱後に合金化溶融亜鉛めっき処理を施す場合には、上記した一次加熱後の再加熱(二次加熱)工程を合金化工程に兼ねて実施して表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備えた冷延鋼板とすることが、生産性の観点から好ましい。焼鈍後あるいはめっき処理後の鋼板には、形状矯正や表面粗度の調整のための調質圧延を加えても良い。また、本発明の鋼板は、亜鉛以外の金属めっきや種々の塗装、潤滑被覆等の各種表面処理を施すことも可能である。
また、表2中のAr3変態点およびAc3変態点は、下記式により鋼の化学組成から算出して得た値である。
Ar3(℃)=Kr−203[C]1/2+44.7[Si]−15[Mn]+350[P]+200[Al]+200[Ti]−10[Cu]−15.2[Ni]−5.5[Cr]+31.5[Mo]
ただし、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、[Al]、[Ti]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]は、それぞれC、Si、Mn、P、Al、Ti、Cu、Ni、Cr、Moの含有量(質量%)。
Krは、Bを含有する場合はKr=815、
Bを含有せずCu、Ni、Cr、Moのいずれか1種以上を含有する場合はKr=820、
これら以外はKr=825。
Ac3(℃)=900−203[C]1/2+44.7[Si]−15[Mn]+350[P]+200[Al]+200[Ti]−10[Cu]−15.2[Ni]−5.5[Cr]+31.5[Mo]
ただし、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、[Al]、[Ti]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]は、それぞれC、Si、Mn、P、Al、Ti、Cu、Ni、Cr、Moの含有量(質量%)。
このようにして得られた冷延鋼板に対して、伸長率0.5%の調質圧延を施した後、下記の要領で鋼板のミクロ組織を観察し、大きさ20nm未満の析出物量および引張特性を測定、評価した。
上記により得られた冷延鋼板の板幅1/4位置の圧延方向断面における表面から板厚1/4深さの位置の断面組織を光学顕微鏡等により倍率400倍〜1000倍にて観察して写真撮影して調査した。フェライトの分率は、この組織写真を画像解析してフェライトの占める面積率を測定し、これをフェライトの体積率とした。また、フェライトの平均結晶粒径は、前記断面組織写真を用いて、JIS G 0551に規定の方法に準拠して結晶粒度を求め、粒度番号から算出した。
上記により得られた冷延鋼板を適当な大きさに切断し、10%AA系電解液(10vol%アセチルアセトン-1mass%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール)中で、約0.5gを電流密度20mA/cm2で定電流電解した。
次いで、電解後の、表面に析出物が付着している試料片を電解液から取り出して、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液(500mg/l)(以下、SHMP水溶液と称す)中に浸漬し、超音波振動を付与して、析出物を試料片から剥離しSHMP水溶液中に抽出した。次いで、析出物を含むSHMP水溶液を、孔径20nmのフィルタを用いてろ過し、ろ過後のろ液に対してICP発光分光分析装置を用いて分析し、ろ液中のNbの絶対量を測定した。次いで、Nbの絶対量を電解重量で除して、大きさ20nm未満の析出物に含まれるNbの、鋼における含有率を得た。なお、電解重量は、析出物剥離後の試料に対して重量を測定し、電解前の試料重量から差し引くことで求めた。
一方、析出可能なNb量は、[Nb]と7.75[C]のうちの小さいほうの値を選択し求める。ただし、[Nb]、[C]はそれぞれNb、Cの含有量(質量%)である。
以上により、得られたNbの含有率(鋼中で大きさ20nm未満の析出物として存在しているNb量)と析出可能なNb量をもとに、析出可能なNb量における大きさ20nm未満の析出物として存在するNb量の割合を求めた。
試験方向が圧延方向と直角になるように採取した日本工業規格JIS Z 2201に規定の5号試験片を用いて、同じくJIS Z 2241に規定の方法に準拠し、引張強度(TS)、降伏強度(YS)、破断伸び(El)を測定し、降伏比(YR)を求めた。
以上により得られた結果を表3に示す。
一方、鋼組成あるいは鋼組織が本発明の範囲を外れる比較例の各鋼板は、強度あるいは降伏比が所望の水準に達しておらず、高降伏比型高張力冷延鋼板としては不適当である。
Claims (6)
- 成分組成は、質量%で、C:0.005〜0.025%、Si:1.0%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.01〜0.10%、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.005%以下を含み、下記式(1)および(2)を満足するようにNbおよびTiを含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、析出可能なNb量の50%以上が大きさ20nm未満の析出物として存在し、平均結晶粒径が5〜30μmのフェライト相を主相とする組織を有し、降伏比が0.8以上であることを特徴とする高張力冷延鋼板。
なお、ここで、析出可能なNb量とは、[Nb]と7.75[C]のうちの小さい方の値である。
[Nb]×[C]≧5×10-4 ‥‥‥ (1)
3.5≦[Ti]/[N]≦7.0 ‥‥‥ (2)
ただし、[Nb]、[C]、[Ti]、[N]はそれぞれNb、C、Ti、Nの含有量(質量%)を示す。 - さらに、質量%で、Cu:0.05〜0.5%、Ni:0.05〜0.5%、Cr:0.05〜0.5%、Mo:0.05〜0.5%の中から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高張力冷延鋼板。
- さらに、質量%で、B:0.0003〜0.0030%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高張力冷延鋼板。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載の高張力冷延鋼板の表面に亜鉛めっき層を備えてなることを特徴とする高張力亜鉛めっき鋼板。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載の成分組成を有する鋼スラブを、1100〜1300℃の温度に再加熱し、Ar3変態点以上の仕上温度で熱間圧延し、700℃以下の温度で巻き取って熱延鋼板とし、次いで、該熱延鋼板を酸洗、冷間圧延した後に、(Ac3変態点)〜(Ac3変態点+100)℃の温度で加熱保持し、次いで、10℃/s以上の冷却速度で冷却し、500〜700℃の温度で30s以上保持した後、再度冷却することを特徴とする高張力冷延鋼板の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載の成分組成を有する鋼スラブを、1100〜1300℃の温度に再加熱し、Ar3変態点以上の仕上温度で熱間圧延し、700℃以下の温度で巻き取って熱延鋼板とし、次いで、該熱延鋼板を酸洗、冷間圧延した後に、Ac3変態点〜(Ac3変態点+100)℃の範囲の温度で加熱保持し、次いで、750℃以上から450℃以下まで30℃/s以上の冷却速度で急冷し、次いで、500〜700℃の温度に再加熱し、30s以上保持した後、冷却することを特徴とする高張力冷延鋼板の製造方法。
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