次に、本発明の実施態様について図面を参照して実施例に基づいて説明する。
A.第1実施例:
・プリンタおよびインクカートリッジの構成:
図1および図2を参照して、第1実施例におけるプリンタの構成について説明する。図1は、第1実施例における印刷システムの概略構成を示す説明図である。図2は、インクカートリッジが印刷ヘッドユニットに取り付けられた状態を示す図である。
印刷システムは、プリンタ1000と、コンピュータ2000と、を備えている。プリンタ1000は、コネクタCNを介して、コンピュータ2000と接続されている。
プリンタ1000は、副走査送り機構と、主走査送り機構と、ヘッド駆動機構と、各機構を制御するための主制御部2と、を備えている。副走査送り機構は、紙送りモータ3とプラテン4とを備えており、紙送りモータの回転をプラテンに伝達することによって用紙Pを副走査方向に搬送する。主走査送り機構は、キャリッジモータ5と、プーリ7と、キャリッジモータ5とプーリ7との間に張設された駆動ベルト8と、プラテン4の軸と並行に設けられた摺動軸9と、を備えている。摺動軸9は、駆動ベルト8に固定されたキャリッジ6を摺動可能に保持している。キャリッジモータ5の回転は、駆動ベルト8を介してキャリッジ6に伝達され、キャリッジ6は、摺動軸9に沿ってプラテン4の軸方向(主走査方向)に往復動する。ヘッド駆動機構は、キャリッジ6に搭載された印刷ヘッドユニット60を備えており、印刷ヘッドを駆動して用紙P上にインクを吐出させる。印刷ヘッドユニット60の上方には、後述するようにホルダ(図1では省略)が配置され、複数のインクカートリッジを脱着自在に装着可能である。プリンタ1000は、さらに、ユーザがプリンタの各種の設定を行ったり、プリンタのステータスを確認したりするための操作部などを備えているが、詳しい説明は省略する。
図2に示すように、印刷ヘッドユニット60は、印刷ヘッド61と、印刷ヘッド61の上面に配置されたホルダ62を備えている。ホルダ62は、複数のインクカートリッジ1を装着可能に構成されている。ホルダ62には、インクカートリッジ1を位置決めおよび固定するための突起63および凹部64が形成されている。ホルダ62のX軸負方向側の開口部65には、接続ピン(端子)を有する接続機構およびキャリッジ回路が配置される(図示省略)。また、印刷ヘッド61の上面には、後述するインク供給針が配置されている。
図2に加えて、図3〜図6を参照して、インクカートリッジ1についてさらに説明する。図3は、第1実施例におけるインクカートリッジの第1の外観斜視図である。図4は、第1実施例におけるインクカートリッジの第2の外観斜視図である。図4は、図3とは反対方向からみた図を示している。図5は、第1実施例におけるインクカートリッジの第1の分解斜視図である。図6は、第1実施例におけるインクカートリッジの第2の分解斜視図である。図6は、図5とは反対方向からみた図を示している。
インクカートリッジ1は、内部に導電性を有する液体のインクを収容する。インクカートリッジ1が、図2に示すようにホルダ62に装着された状態で、インク供給針を介して印刷ヘッド61にインクが供給される。
図3および図4に示すようにインクカートリッジ1は、略直方体形状を有し、Z軸正方向側の面1eと、Z軸負方向側の面1fと、X軸正方向側の面1gと、X軸負方向側の面1hと、Y軸正方向側の面1iと、Y軸負方向側の面1jとを有している。以下では、説明の便宜上、面1eを上面、面1fを底面、面1gを右側面、面1hを左側面、面1iを正面、面1jを背面とも呼ぶ。また、これらの面1e〜1jのある側を、それぞれ上面側、底面側、右側面側、左側面側、正面側、背面側とも呼ぶ。
底面1fには、インクジェットプリンタにインクを供給するための供給孔を有する液体供給部50が設けられている。底面1fには、さらに、インクカートリッジ1の内部に大気を導入するための大気解放孔100が開口している(図6)。
大気解放孔100は、インクジェットプリンタの印刷ヘッドユニット60に形成された突起63(図2)が所定の隙間を有するように余裕を持って嵌るような深さと径を有している。ユーザは、大気解放孔100を気密に封止する封止フィルム90を剥がしてから、インクカートリッジ1をホルダ62に装着する。突起63は、封止フィルム90の剥がし忘れを防止する役割を果たす。
左側面1hには、係合レバー11が設けられている。係合レバー11には、突起11aが形成されている。インクカートリッジ1がホルダ62に装着されたとき、突起11aが、ホルダ62の凹部64と係合することによりホルダ62に対してインクカートリッジ1が固定される(図2)。
左側面1hの係合レバー11の下方には、回路基板34が設けられている(図4)。回路基板34上には、複数の電極端子34aが形成されており、これらの電極端子34aは、キャリッジ6に設けられた接続機構(図示省略)を介して、キャリッジ回路と電気的に接続される。
インクカートリッジ1の上面1eと背面1jには、外表面フィルム55が貼り付けられている。
さらに、図5、図6を参照しながら、インクカートリッジ1の内部構成、部品構成について説明していく。インクカートリッジ1は、カートリッジ本体10と、カートリッジ本体10の正面側を覆う蓋部材20とを有している。
カートリッジ本体10の正面側には、様々な形状を有するリブ10aが形成されている(図3)。カートリッジ本体10と蓋部材20との間には、カートリッジ本体10の正面側を覆うフィルム80が設けられている。フィルム80は、カートリッジ本体10のリブ10aの正面側の端面に隙間が生じないように緻密に貼り付けられている。これらのリブ10aとフィルム80により、複数の小部屋、例えば、後述するインク収容室、バッファ室がインクカートリッジ1の内部に区画形成される。これらの各部屋については、さらに詳細を後述する。
カートリッジ本体10の背面側には、差圧弁収容室40aと気液分離室70aとが形成されている(図6)。差圧弁収容室40aは、バルブ部材41とバネ42とバネ座43とからなる差圧弁40を収容する。気液分離室70aの底面を囲む内壁には土手70bが形成され、気液分離膜71が、当該土手70bに貼着されており、全体で気液分離フィルタ70を構成している。
カートリッジ本体10の背面側には、さらに、複数の溝10bが形成されている(図6)。これらの溝10bは、カートリッジ本体10の背面側の略全体を覆うように外表面フィルム55が貼り付けられたときに、カートリッジ本体10と外表面フィルム55との間に後述する各種の流路、例えば、インクや大気が流動するための流路を形成する。
次に、上述した回路基板34周辺の構造を説明する。カートリッジ本体10の右側面の下面側には、センサ収容室30aが形成されている(図6)。センサ収容室30aには、液体残量センサモジュール31と、固定バネ32とが収容されている。固定バネ32は、液体残量センサモジュール31をセンサ収容室30aの下面側の内壁に押し当てて固定する。センサ収容室30aの右側面側の開口は、カバー部材33によって覆われ、カバー部材33の外表面33aに、上述した回路基板34が固定される。センサ収容室30a、液体残量センサモジュール31、固定バネ32、カバー部材33、回路基板34と、後述するセンサ流路形成室30bとを全体で、センサ部30とも呼ぶ。
回路基板34には、EEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)などの書換可能な不揮発性メモリが設けられており、インクジェットプリンタのインク消費量などが記録される。
カートリッジ本体10の底面側には、上述した液体供給部50と大気解放孔100と共に、減圧孔110と、センサ流路形成室30bと、迷路流路形成室95aが設けられている(図4)。減圧孔110は、インクカートリッジ1の製造工程においてインクを注入する際に、空気を吸い出してインクカートリッジ1内部を減圧するために用いられる。センサ流路形成室30bおよび迷路流路形成室95aは、後述するインク収容部の一部を形成する。
液体供給部50、大気解放孔100、減圧孔110、迷路流路形成室95a、センサ流路形成室30bは、インクカートリッジ1が製造された直後には、それぞれ封止フィルム54、90、98、95、35によって開口部が封止されている。このうち、封止フィルム90は、上述したようにインクカートリッジ1がインクジェットプリンタのキャリッジ6に装着される前にユーザによって剥離される。これにより、大気解放孔100は外部と連通し、インクカートリッジ1の内部に大気が導入される。また、封止フィルム54は、インクカートリッジ1がインクジェットプリンタのキャリッジ6に装着された際に、キャリッジ6に備えられたインク供給針によって破られるように構成されている。
液体供給部50の内部には、下面側から順に、シール部材51と、バネ座52と、閉塞バネ53とが収容されている。シール部材51は、液体供給部50にインク供給針66が挿入されているときに、液体供給部50の内壁とインク供給針66の外壁との間に隙間が生じないようにシールする。バネ座52は、インクカートリッジ1がキャリッジ6に装着されていないときに、シール部材51の内壁に当接して液体供給部50を閉塞する。閉塞バネ53は、バネ座52をシール部材51の内壁に当接させる方向に付勢する。インク供給針が液体供給部50に挿入されると、インク供給針の上端がバネ座52を押し上げ、バネ座52とシール部材51との間に隙間が生じ、当該隙間からインク供給針にインクが供給される。
次に、理解の容易のため、大気解放孔100から液体供給部50に至る経路を、図7を参照して概念的に説明する。図7は、大気解放孔から液体供給部に至る経路を概念的に示す図である。
大気解放孔100から液体供給部50に至るまでの経路は、上流側の大気導入部と、下流側のインク収容部とに大きく分けられる。
大気導入部は、上流側から順に、蛇行路310と、上述した気液分離膜71を収納する気液分離室70aと、気液分離室70aとインク収容部とを連結する連結部320〜360とから構成される。蛇行路310は、上流端が大気解放孔100と連通し、下流端が気液分離室70aと連通している。蛇行路310は、大気解放孔100から第1のインク収容部までの距離を長くするために細長く蛇行して形成されている。これにより、インク収容部内のインク中の水分の蒸発を抑制することができる。気液分離膜71は、気体の透過を許容すると共に、液体の透過を許容しない素材で構成されている。気液分離膜71を、気液分離室70aの上流側と下流側との間に配置することにより、インク収容部から逆流してきたインクが、気液分離室70aより上流に進入することを抑制することができる。連結部320〜360の具体的構成は、後述する。
インク収容部の上流側は、第1のインク収容室370と、収容室接続路380と、第2のインク収容室390とを、この順番に備えている。収容室接続路380の上流側は第1のインク収容室370と連通し、収容室接続路380の下流側は第2のインク収容室390と連通している。
インク収容部は、さらに、第2のインク収容室390の下流側に、迷路流路400と、第1流動路410と、上述したセンサ部30と、第2流動路420と、バッファ室430と、上述した差圧弁40を収容する差圧弁収容室40aと、第3流動路450とを、この順番に備えている。迷路流路400は、上述した迷路流路形成室95aによって形成される空間を含み、3次元の迷路状の形状に形成されている。迷路流路400によって、インク内に混入した気泡を補足して迷路流路400より下流のインクに気泡が混入することを抑制することができる。第1流動路410は、上流端に連通し、下流端がセンサ部30のセンサ流路形成室30bに連通している。第2流動路420は、上流端がセンサ部30のセンサ流路形成室30bに連通し、下流端がバッファ室430に連通している。バッファ室430は、センサ部30にインクがなくなり、インク切れが検出された後においても、所定量の印刷が実行できるように所定量のインクが貯留される部屋である。バッファ室430は、差圧弁収容室40aに連通している。差圧弁収容室40aにおいて、差圧弁40により、差圧弁収容室40aより下流側のインクの圧力は、上流側のインクの圧力より低く調整され、下流側のインクが負圧となるようにされる。第3流動路450は、上流端が差圧弁収容室40aに連通し、下流端が液体供給部50に連通している。
液体供給部50は、印刷ヘッド61の上面に配置されたインク供給針66に挿入される。液体供給部50に収容されたインクは、インク供給針66を介して、印刷ヘッド61に供給される。印刷ヘッド61は、供給されたインクを、主制御部2の制御に従って、下面に形成されたノズルNZから用紙P上に噴射する。
インクは、インクカートリッジ1の製造時には、図7において破線ML1で液面を概念的に示すように、インク収容部の最も上流側に位置する第1のインク収容室370まで充填されている。インクカートリッジ1の内部のインクが印刷ヘッド61によって消費されていくと、液体は下流に向かって流動し、これにしたがって液面は下流側に移動し、その代わりに大気導入部を通って上流から大気がインク収容部に流入する。そして、インクの消費が進むと、図7において破線ML2で液面を概念的に示すように、液面がセンサ部30にまで到達する。そうすると、センサ部30に大気が導入され、液体残量センサモジュール31により、インク切れが検出される。インク切れが検出されると、インクカートリッジ1は、センサ部30より下流側(バッファ室430等)に存在するインクが完全に消費されるより前の段階で、印刷を停止し、ユーザにインク切れを通知する。完全にインクが切れて、さらに印刷を行うと印刷ヘッド61に空気が混入し、不具合が発生するおそれがあるためである。
以上の説明を踏まえて、大気解放孔100から液体供給部50に至るまでの経路の各構成要素のインクカートリッジ1内における具体的構成を、図8〜10を参照して説明する。図8は、カートリッジ本体10を正面側から見た図である。図9は、カートリッジ本体10を背面側から見た図である。図10(a)は、図8を簡略化した模式図である。図10(b)は、図9を簡略化した模式図である。
インク収容部のうち、第1のインク収容室370および第2のインク収容室390は、カートリッジ本体10の正面側に形成されている。第1のインク収容室370および第2のインク収容室390は、図8および図10(a)において、それぞれ、シングルハッチングおよびクロスハッチングで示されている。収容室接続路380は、カートリッジ本体10の背面側に、図9および図10(b)に示す位置に形成されている。連通孔371は収容室接続路380の上流端と第1のインク収容室370とを連通させる孔であり、連通孔391は収容室接続路380の下流端と第2のインク収容室390とを連通させる孔である。
大気導入部のうち、蛇行路310および気液分離室70aは、カートリッジ本体10の背面側に図9および図10(b)に示す位置にそれぞれ形成されている。連通孔102は、蛇行路310の上流端と大気解放孔100とを連通する孔である。蛇行路310の下流端は、気液分離室70aの側壁を貫通して気液分離室70aに連通している。
図7に示す大気導入部の連結部320〜360は、詳述すると、カートリッジ本体10の正面側に配置された第1の空間320、第3の空間340、第4の空間350(図8および図10(a)参照)と、カートリッジ本体10の背面側に配置された第2の空間330、第5の空間360(図9および図10(b)参照)とから構成され、各空間は上流から符合の順に直列に一本の流路を形成している。連通孔322は、気液分離室70aと第1の空間320とを連通する孔である。連通孔321、341は、第1の空間320と第2の空間330との間、第2の空間330と第3の空間340との間を、それぞれ連通する孔である。第3の空間340と第4の空間350との間は、第3の空間340と第4の空間350を隔てるリブに形成された切欠342により連通している。連通孔351、372は、第4の空間350と第5の空間360との間、第5の空間360と第1のインク収容室370との間を、それぞれ連通する孔である。
インク収容部のうち、迷路流路400、第1流動路410は、カートリッジ本体10の正面側に、図8および図10(a)に示す位置に形成されている。連通孔311は、第2のインク収容室390と迷路流路400とを隔てるリブに設けられ、第2のインク収容室390と迷路流路400とを連通している。センサ部30は、図6を参照して説明したように、カートリッジ本体10の右側面の下面側に配置されている(図8〜図10)。第2流動路420と、上述した気液分離室70aは、カートリッジ本体10の背面側に図9および図10(b)に示す位置にそれぞれ形成されている。バッファ室430および第3流動路450は、カートリッジ本体10の正面側に、図8および図10(a)に示す位置に形成されている。連通孔312は、センサ部30の迷路流路形成室95a(図6)と第2流動路420の上流端とを連通する孔であり、連通孔431は、第2流動路420の下流端とバッファ室430とを連通する孔である。連通孔432は、バッファ室430と差圧弁収容室40aとを直接に連通する孔である。連通孔451および連通孔452は、差圧弁収容室40aと第3流動路450との間と、第3流動路450と液体供給部50内部のインク供給孔との間とを、それぞれ連通する孔である。
なお、ここで図8および図10(a)に示す空間501は、インクが充填されない未充填室である。未充填室501は、大気解放孔100から液体供給部50に至る経路上にはなく、独立している。未充填室501の背面側には、大気と連通する大気連通孔502が設けられている。未充填室501は、インクカートリッジ1を減圧パックにより包装した時に、負圧を蓄圧した脱気室となる。これにより、インクカートリッジ1は包装された状態で、カートリッジ本体10内部の気圧が規定値以下に保たれ、溶存空気の少ないインクを供給することができる。
・センサ部30の構成:
図11および図12を参照して、さらに、上述したセンサ部30の構成について説明する。図11は、第1実施例におけるセンサ部の構成について説明する図である。図11は、図10におけるA−A断面を示している。図12は、第1実施例におけるセンサとしての圧電装置を中心にした電気的構成を示す図である。
上述した液体残量センサモジュール31は、センサ本体である圧電装置210と、振動板204と、第1基板205、金属板206、第2基板207を備えている。圧電装置210は、上部電極201と、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電材料で形成された圧電層202と、下部電極203を含んでいる。振動板204は、圧電装置210の振動をインクに伝え、逆にインクの振動を圧電装置210に伝える。振動板204は、絶縁性の薄膜である。第1基板205、金属板206、第2基板207は、孔を有する板であり、この順番に積層されている。第1基板205には、例えば、グリーンシートを焼成して作成されたセラミックスが用いられる。金属板206は、例えば、ステンレスなどの導電性を有する金属が用いられる。第2基板207は、例えば、樹脂が用いられる。第1基板205の孔を覆うように、第1基板205の表面に振動板204が配置され、第1基板205の孔と振動板204を挟んで向かい合うように圧電装置210が配置される。この結果、第1基板205、金属板206、第2基板207の各孔と、振動板204とにより区画されたキャビティが形成される。当該キャビティは、図11に示すように、A−A断面が略コの字型を有している。
液体残量センサモジュール31は、カートリッジ本体10のセンサ流路形成室30b(図6)の上部に、図11に示すように配置される。この結果、当該キャビティは、インク収容部の一部を形成する。インクカートリッジ1内部のインクは、プリンタ1000によるインクの消費に伴い、当該コの字型のキャビティ内部を、図11において矢印で示すように流動する。以上の説明から解るように、インクカートリッジ1の内部に十分にインクがある場合、すなわち、図11に示すキャビティ内部がインクによって満たされている場合、導電体の金属板206は、キャビティ内部を満たすインクに接触している。
コの字型のキャビティ(インクの流路)について、さらに、具体的に説明する。コの字型の流路のうち、振動板204に沿った部分を第1の流路、第1の流路の上流側で第1の流路と略直角な部分を第2の流路、第1の流路の上流側で第1の流路と略直角な部分を第3の流路とする。圧電装置210は、第1の流路に沿って配置されている。第2の流路の内面の一部および第3の流路の内面の一部がそれぞれ導電体の振動板204で形成されている(図11)。
図12を参照しながら、インクカートリッジ1の電気的構成について、さらに、説明する。図12には、圧電装置210を含むインクカートリッジ1の電気的構成が等価回路により示されている。抵抗R1およびR2は、インクの抵抗を表している。静電容量C1は、絶縁体である振動板204を挟んで互いに対向するインクと圧電装置210の下部電極203との間に発生する静電容量を表している。この静電容量はコンデンサとして機能する。ノードn1はインクが導電体である金属板206と接触しているノードを表している。図12に示すように、圧電装置210の各電極201および203は、回路基板34の複数の電極端子34aのうちの一つにそれぞれ電気的に接続されている。この結果、インクカートリッジ1がホルダ62に装着されたとき、圧電装置210の各電極は、プリンタ1000のキャリッジ回路67に電気的に接続される。さらに、図12に示すように、導電性の金属板206は、回路基板34の複数の電極端子34aのうちの接地端子に電気的に接続されている。この結果、インクカートリッジ1がホルダ62に装着されたとき、金属板206は、プリンタ1000における安定電位であるフレームグランドVSSに接続される。従って、キャビティ内部がインクによって満たされている場合、インクは、金属板206と接触し、金属板206を介してフレームグランドVSSに接続される。図12におけるノードn1は、インクとフレームグランドVSSとの接続点(インクと金属板206との接触点)を表している。図12において、抵抗R1は、キャビティにおける金属板206から圧電装置210側、すなわち、金属板206から振動板204までの間に存在しているインクの抵抗を表す。図12において、抵抗R2は、金属板206から見て圧電装置210の反対側、例えば、図7に示す第1のインク収容室370、第2のインク収容室390、バッファ室430などに存在しているインクの抵抗を表す。
図12において、符号NSで表す交流電源(ノイズ源)は、外部からインクカートリッジ1内のインクに伝播してくるノイズを概念的に示している。
次に、センサを用いたインク残量の検出について説明する。プリンタ1000において、主制御部2と、キャリッジ回路67は、バスを介して信号を遣り取り可能に構成されている。キャリッジ回路67は、その機能ブロックとしてセンサ駆動部M1を有している。主制御部2とキャリッジ回路67のセンサ駆動部M1は、協働して、各インクカートリッジ1についてインク残量を検出する処理(インク残量検出処理)を行う。具体的には、主制御部2は、インク残量判断処理を開始すると、インク残量の判断のための周波数測定(後述)を要求するコマンドと、当該周波数測定の対象となるインクカートリッジ1を特定するデータを、センサ駆動部M1に送る。センサ駆動部M1は、コマンドおよびデータを受け取ると、対象となるインクカートリッジ1に対して周波数特定処理を開始する。具体的には、センサ駆動部M1は、対応する電極端子34aを介して、圧電装置210の上部電極201または下部電極203の一方を、センサ駆動信号DSを発生するセンサ駆動信号線に接続する。また、センサ駆動部M1は、対応する電極端子34aを介して、圧電装置210の上部電極201または下部電極203の他の一方を、フレームグランドVSSに接続する。圧電装置210の電極201および203がセンサ駆動信号線またはフレームグランドVSSに接続された後、センサ駆動信号線を介して圧電装置210の電極にセンサ駆動信号DSが印加される。センサ駆動信号DSは、例えば、1以上の台形パルスを含む信号である。
圧電装置210の電極にセンサ駆動信号DSが印加されると、当該圧電装置210には歪み(伸縮)が生じる。センサ駆動信号DS(台形パルス)の印加が終了したタイミングで、センサ駆動部M1は、センサ駆動信号線を、該信号線が接続されている圧電装置210の電極から切り離す。そうすると、圧電装置210はインク残量に応じて振動(伸縮)し、圧電装置210は振動に応じた電圧(応答信号RS)を、センサ駆動信号線から切り離された電極から、電極端子34aを介してキャリッジ回路67に出力する。キャリッジ回路67のセンサ駆動部M1は、応答信号RSの周波数を測定する。
センサ駆動部M1は、応答信号RSの周波数を測定すると、測定結果を主制御部2に送信する。主制御部2は、センサ駆動部M1から受け取った周波数の測定結果に基づいて、処理対象のインクカートリッジ1について、インク残量を判断する。例えば、インク残量が所定量以上の場合には、圧電装置210は、第1の固有振動数H1(例えば約30KHz)で振動し、インク残量が所定量未満の場合には、圧電装置210は、第2の固有振動数H2(例えば約110KHz)で振動する。すなわち、インク残量が所定量以上である場合には、振動板204を挟んで圧電装置210と向かい合うキャビティ内にインクが充填された状態であるのに対し、インク残量が所定量以下である場合には、振動板204を挟んで圧電装置210と向かい合うキャビティ内には、インクがなく、空気がある状態になる。このような、圧電装置210の周囲の状態の違いを反映して圧電装置210の共振周波数が異なってくる。主制御部2は、受け取った周波数の測定結果が、第1の固有振動数H1とほぼ等しい場合には、インク残量が所定量以上であると判断し、第2の固有振動数H2とほぼ等しい場合には、インク残量が所定量未満であると判断する。
以上説明した第1実施例によれば、金属板206を介して、インクカートリッジ1の内部のインクが安定した電位であるフレームグランドVSSに電気的に接続されている。この結果、外部ノイズが導電性のインクを介して、圧電装置210に侵入することを抑制することができる。その結果、例えば、圧電装置210を電気的なセンサとして用いたインク残量の検出において、その精度を向上することができる。
理解の容易のため、図13を参照して、インクが安定電位に接続されていない場合を比較例として説明する。図13は、比較例におけるセンサとしての圧電装置を中心にした電気的構成を示す図である。図13において、比較例におけるプリンタ1000aとインクカートリッジ1aの構成要素のうち、図12と同一符号が付された構成要素は、図12において説明した同一符号の構成要素と同一であるので、その説明を省略する。比較例におけるインクカートリッジ1aにおいて、抵抗R3は、導電性のインクの抵抗を表している。比較例では、抵抗R3に対応する部分、すなわち、導電性のインクがアンテナとして機能し、外部ノイズ源NSからノイズを受信して圧電装置210に伝えてしまう。この結果、圧電装置210がノイズの影響を受けて振動するおそれがある。また、キャリッジ回路67に交流ノイズが伝播するおそれがある。この結果、圧電装置210を用いたインク残量の検出の精度が悪化するおそれがあった。第1実施例では、このような外部ノイズの侵入が抑制される。
さらに、図11から解るように、金属板206は、圧電装置210の近傍に配置されている。すなわち、インクは、圧電装置210の近傍でフレームグランドVSSに接続されている。この結果、より効果的に外部ノイズの侵入を抑制できる。インクが安定電位に接続されている位置が圧電装置210から離れていると、安定電位との接続点から圧電装置210までのインクがアンテナとして機能し易くなり、ノイズを拾い得るため、第1実施例のように、インクは圧電装置210の近傍で安定電位と接続されるのが望ましい。
さらに、インクが安定電位に接続されているので、インク自身がシールドとなって、外部ノイズが圧電装置210に侵入するのを抑制することができる。
さらに、図11から解るように、金属板206は、上述したようにコの字型のキャビティの上流側と下流側の一部を形成している。すなわち、金属板206は、インクが振動板204を挟んで圧電装置210と対向する位置(上述の第1の流路)の上流側と下流側の両方に位置している。この結果、圧電装置210付近を流動するインクの上流側と下流側の両方において、インクがフレームグランドVSSに接続されている。この結果、より外部ノイズが圧電装置210に侵入することを効果的に抑制することができる。
さらに、金属板206は、圧電装置210の近傍の剛性を確保して、圧電装置210の振動の減衰を抑制するための台座として機能する部品であるため、インクをフレームグランドVSSに接続させるためだけの部品点数の増加を抑制することができる。
・第1実施例の変形例:
導電性のインクをフレームグランドVSSに電気的に接続する位置は、第1実施例のように金属板206の部分に限られない。その他の例を変形例として図14を参照して説明する。図14は、差圧弁40近傍から液体供給部50に至る構造の概略断面を印刷ヘッド61の概略断面と共に示す図である。図14には、適宜説明するように、理解の容易のため詳細の構造は省略され、簡潔な概略構成が示されている。差圧弁40を構成するバルブ部材41によって、インク収容部は上流側流路213と下流側流路214とに分けられている。上流側流路213は、図6および図7に示す差圧弁収容室40aの上流側に相当する部分である。下流側流路214は、下流端が液体供給部50に至る流路であり、上述した差圧弁収容室40aの下流側、および、図7に示す第3流動路450により構成されている。上流側流路213および下流側流路214ともに、実際にはより複雑な構造を有している。
バルブ部材41は、バネ42により反対側の壁面に形成されたバルブ座の側(図14:左側)に付勢されている。また、下流側流路214と第1の端部が連通し、バルブ座を形成する壁面と第2の端部が連通するバイパス流路215が設けられている。下流側流路214内部のインク圧とバネ42による圧力の和が、上流側流路213内部のインク圧より大きいときは、バルブ部材41はバルブ座に押し当てられ、閉じた状態になる。この状態では、上流側流路213から下流側流路214へとインクが流れ込まないように、上流側流路213と下流側流路214は物理的に分離されている。
一方、下流側流路214のインクが消費され、下流側流路214内部のインク圧とバネ42による圧力の和が、上流側流路213内部のインク圧より小さくなると、バルブ部材41とバルブ座との間に隙間が生じる。この結果、上流側流路213とバイパス流路215とが連通し、インクが、上流側流路213からバイパス流路215を介して下流側流路214に流入する。かかるインクの流入は、下流側流路214内部のインク圧とバネ42による圧力の和が、上流側流路213内部のインク圧と釣り合うまで続く。下流側流路214内部のインク圧とバネ42による圧力の和が、上流側流路213内部のインク圧と釣り合うと、バルブ部材41はバルブ座に押し当てられ、上流側流路213とバイパス流路215との連通は妨げられ、上流側流路213とバイパス流路215は物理的に分離される。このような仕組みにより、下流側流路214内のインク圧は、上流側流路213内のインク圧より常に低く保たれる。
第1の変形例では、バルブ部材41を導電体により形成する。バルブ部材41の導電体には、例えば、導電性ゴム、導電性エラストマーなどの導電性樹脂が用いられる。さらに、第1変形例では、バルブ部材41と接触しているバネ42を導電体により形成する。バネ42の導電体には、例えば、ステンレスが用いられる。そして、バネ42に配線を接続し、バネ42を回路基板34の複数の電極端子34aのうちの接地端子に電気的に接続する。この結果、インクカートリッジ1がホルダ62に装着されたとき、バルブ部材41は、プリンタ1000における安定電位であるフレームグランドVSSに接続される(図14:実線)。上流側流路213がインクで満たされている場合、インクは、バルブ部材41およびバネ42を介してフレームグランドVSSに電気的に接続される。
以上のように構成しても、第1実施例と同様の作用・効果が得られる。また、バルブ部材41およびバネ42は、液体供給部50近傍のインクを負圧にするために必要な部品であるため、インクをフレームグランドVSSに接続させるためだけの部品点数の増加を抑制することができる。
第2変形例では、第1変形例と同様に、バルブ部材41を導電体により形成する。一方、第2変形例では、バネ42をフレームグランドVSSに接続しない。これに代えて、印刷ヘッド61を介して、インクをフレームグランドVSSに電気的に接続する。
ここで、印刷ヘッド61の上面には、インクカートリッジ1の液体供給部50に挿入されるインク供給針66が立設されている。また、印刷ヘッド61は、その底面に、アルミ、ステンレスなどの導電体で構成され、多数のノズルNZを有するノズルプレート61bを備えている。ノズルプレート61bは、配線によりフレームグランドVSSと接続されている(図14:破線)。印刷ヘッド61の内部には、一端がインク供給針66の先端部に開口し、他端がノズルとして開口している内部流路610が形成されている。インクカートリッジ1の内部のインクは、インク供給針66側の端部から内部流路610の内部を流動し、ノズルから吐出される。ただし、上述したバルブ部材41やバネ42により、バルブ部材41より下流側のインクは負圧にされているので、自動的にノズル孔から吐出されることはない。内部流路610の途中の壁面には、圧電素子PZTが配置されている。この圧電素子PZTが主制御部2の制御により伸長して、内部流路610を圧縮変形することにより、ノズル孔からインク滴INが吐出される。このような圧電素子によりインクを吐出する方式に代えて、例えば、内部流路610に配置したヒータで内部流路610内に泡(バブル)を発生させてインク滴を吐出する方法などを用いても良い。
以上の説明から解るように、本実施例における印刷ヘッド61は、請求項における液体噴射部に対応する。
圧電装置210が配置されたキャビティより下流側は、図14における上流側流路213までインクで充填されている。そして、下流側流路214からノズルNZまでもインクで充填されている。上流側流路213内のインクと、下流側流路214内のインクは、導電体のバルブ部材41により電気的に接続されている。そして、下流側流路214内のインクは、その最下流の部分でノズルプレート61bと接触し、ノズルプレート61bを介してフレームグランドVSSに接続されている。この結果、圧電装置210の近傍のキャビティ内のインクは、バルブ部材41とノズルプレート61bを介して安定電位であるフレームグランドVSSに電気的に接続されることになる。
以上のように構成しても、第1実施例と同様の作用・効果が得られる。また、バルブ部材41およびノズルプレート61bは、インクカートリッジ1およびプリンタ1000に必要な部品であるため、インクをフレームグランドVSSに接続させるためだけの部品点数の増加を抑制することができる。
以上説明した第1変形例および第2変形例に示すように、フレームグランドVSSに電気的に接続する位置は、第1実施例に示す金属板206の位置に限られない。すなわち、インク収容部においてインクと接触する内面の少なくとも一部分を導電体により形成して、当該導電体をフレームグランドVSSに接続すれば良い。
B.第2実施例:
・プリンタおよびインクカートリッジの構成:
図15および図16を参照して、第2実施例について説明する。図15は、第2実施例におけるセンサ部の構成について説明する図である。図15は、図10におけるA−A断面を示している。図16は、第2実施例におけるセンサとしての圧電装置を中心にした電気的構成を示す図である。
第2実施例におけるプリンタ1000bおよびインクカートリッジ1bの概略構成は、図1〜図10を参照して説明した第1実施例におけるプリンタ1000およびインクカートリッジ1の概略構成と同一であるので説明を省略し、以下の説明において、同一の構成については同一の符号を用いる。
第1実施例のインクカートリッジ1と、第2実施例の実施例のインクカートリッジ1bとは、センサ部の構成が異なる。図15に示すように、第2実施例のセンサ部30は、第1実施例の液体残量センサモジュール31に代えて、液体残量センサモジュール31bを備える。
第2実施例の液体残量センサモジュール31bは、第1実施例と同様の圧電装置210と振動板204と第1基板205と金属板206と第2基板207に加えて、絶縁薄膜211と、導電薄膜212とを備える。絶縁薄膜211と導電薄膜212は、圧電装置210と振動板204との間に配置される。絶縁薄膜211は、圧電装置210側に配置され、導電薄膜212は、振動板204側に配置される。第2実施例の液体残量センサモジュール31bのその他の構成は、第1実施例の液体残量センサモジュール31と同一であるのでその説明を省略する。圧電装置210からインクまでの間には、絶縁層(絶縁薄膜211)、導電層(導電薄膜212)、絶縁層(振動板204)が、この順番で積層されることになる。さらに、図16に示すように、導電薄膜212は、回路基板34の複数の電極端子34aのうちの接地端子に電気的に接続されている。この結果、インクカートリッジ1bがホルダ62に装着されたとき、導電薄膜212は、プリンタ1000bにおける安定電位であるフレームグランドVSSに接続される。
図16を参照しながら、インクカートリッジ1bの電気的構成について、さらに、説明する。図16には、圧電装置210を含むインクカートリッジ1bの電気的構成が等価回路により示されている。抵抗R3は、図13と同様に、インクの抵抗を示している。静電容量C3は、絶縁薄膜211を挟んで互いに対向する導電薄膜212と圧電装置210の下部電極203によって形成される静電容量を表している。静電容量C4は、絶縁体である振動板204を挟んで互いに対向するインクと導電薄膜212によって形成される静電容量を表している。ノードn2は、導電薄膜212に対応し、導電薄膜212が34aを介してフレームグランドVSSに接続されていることが図示されている。
以上説明した第2実施例によれば、液体残量センサモジュール31bのキャビティにおいて、インクが静電容量C4を介して安定電位であるフレームグランドVSSと交流的に接続されている。この結果、静電容量C4が外部ノイズの交流成分が導電性のインクを介して、圧電装置210に侵入することを抑制することができる。その結果、例えば、圧電装置210を電気的なセンサとして用いたインク残量の検出において、その精度を向上することができる。
また、液体残量センサモジュール31bの製造は、積層体の枚数を2枚増やすだけで良いので比較的容易である。
さらに、導電薄膜212がインクに直接に接触しないので、導電薄膜212の耐インク性(インクに対する耐腐食性など)を考慮する必要が無く、安価な材料を用いることができる。また、導電薄膜212の腐食によるインク漏れのおそれもない。
・第2実施例の変形例:
静電容量を挟んで、インクをフレームグランドVSSに接続する位置は、第1実施例のように液体残量センサモジュール31bの近傍に限られない。その他の例を変形例として図17および図18を参照して説明する。図17は、第2実施例の変形例におけるインクカートリッジの分解斜視図である。図18は、第2実施例の変形例におけるセンサとしての圧電装置を中心にした電気的構成を示す図である。図17に示す本変形例のインクカートリッジ1cが、図5に示す第1実施例のインクカートリッジ1と異なる点は、カートリッジ本体10の正面側を覆うフィルムの構成である。第1実施例のインクカートリッジ1では、1枚のフィルム80がカートリッジ本体10のリブ10aの正面側の端面に貼り付けられている(図5)。一方、本変形例では、1枚の絶縁性フィルム81がカートリッジ本体10のリブ10aの正面側の端面に貼り付けられ、さらに、概ね同じ大きさの導電性フィルム82が絶縁性フィルム81に重ねて貼り付けられている。すなわち、絶縁性フィルム81と導電性フィルム82とによってインクカートリッジ1の壁を形成され、当該壁のインクと接する側(内側)が絶縁性フィルム81、インクと反対側(外側)が導電性フィルム82となる。絶縁性フィルム81には、例えば、絶縁性樹脂フィルムが用いられる。導電性フィルム82には、例えば、アルミ箔が用いられる。
図18を参照しながら、インクカートリッジ1cの電気的構成について、さらに、説明する。図18には、圧電装置210を含むインクカートリッジ1cの電気的構成が等価回路により示されている。抵抗R4およびR5は、インクの抵抗を表している。静電容量C1は、絶縁体である振動板204を挟んで互いに対向するインクと圧電装置210の下部電極203によって形成される静電容量を表している。静電容量C5は、絶縁性フィルム81を挟んで対向する導電性フィルム82とインクとによって形成される静電容量を表している。等価回路に示すようにインクの抵抗R4およびR5と、静電容量C5は、ノードn3で分岐して互いに並列の関係になる。図18に示すように、導電性フィルム82は、回路基板34の複数の電極端子34aのうちの一つに電気的に接続されている。この結果、インクカートリッジ1cがホルダ62に装着されたとき、導電性フィルム82は、プリンタ1000cのフレームグランドVSSに電気的に接続される。
以上説明した本変形例によれば、静電容量C5が、外部ノイズを吸収するので、外部ノイズの交流成分が導電性のインクを介して、圧電装置210に侵入することを抑制することができる。その結果、例えば、圧電装置210を電気的なセンサとして用いたインク残量の検出において、その精度を向上することができる。
さらに、本実施例では、静電容量C5を形成する導電性フィルム82および絶縁性フィルム81が、略直方体の中空体であるインクカートリッジ1cの一面に対応する壁を構成している。この結果、図17に示すように、絶縁性フィルム81および導電性フィルム82は、インクカートリッジ1c内のインクをY軸方向から見た並行投影面を実質的に覆っている(図17)。従って、インク内に侵入した交流ノイズをインク全体から効率的に吸収することができる。
なお、導電性フィルム82と絶縁性フィルム81は、アルミ箔と絶縁性の樹脂フィルムを貼り合わせた既成のアルミラミネートを用いても良い。
また、上記変形例では、導電性フィルム82と絶縁性フィルム81により略立方体のインクカートリッジ1cの一面全体を覆っているが、必ずしも全体を覆う必要はなく、一部を覆うこととしても良い。
C.その他の変形例:
(1) 上記実施例およびその変形例では、インクの消費に応じてインク収容部に大気が導入される大気開放タイプのインクカートリッジが用いられているが、本発明の適用はこれに限られない。例えば、密封された容器にインクが収容され、インクの消費に応じて容器が収縮する密封タイプのインクカートリッジにも適用することができる。密封タイプのインクカートリッジの例を図19〜図21を参照して説明する。図19は、密封タイプのインクカートリッジの正面図および側面図である。図20は、図19におけるB−B断面を示す第1の図である。図21は、図19におけるB−B断面を示す第2の図である。図20は、インクカートリッジ1dのインク残量が所定量以上である場合の断面図を示し、図21は、インクカートリッジ1dのインク残量が所定量以下である場合の断面図を示している。
図19に示すように、インクカートリッジ1dは、略直方体の中空のハウジング20dと、ハウジング20dの内部に収納されたインクパック10dと、インク供給管51dと、液体残量センサモジュール31dとを含んでいる。ハウジング20dは、例えば、樹脂を用いて作製されている。インクパック10dは、例えば、柔軟性を有する略長方形の2組の合成樹脂フィルム10d_uおよび10d_bを貼り合わせて、袋状に構成される。インクパック10dの内部には導電性のインクが充填されている。インク供給管51dは、ハウジングの一つの面に固定され、インク供給管51dの端部は外部に露出している。インク供給管51dの外側の端部には、インク供給孔50dが開口している。
インクカートリッジ1dが図示しないプリンタに装着されると、インクカートリッジ1dのインク供給孔50dには、プリンタの印刷ヘッドと連通するインク供給針が挿入される。プリンタの印刷ヘッド内のピエゾ素子によってインクがノズルから吐出されるのに応じて、インクは、インクパック10dからインク供給管51dを通り、インク供給孔50dから印刷ヘッドに供給される。
インク供給管51dの途中には、液体残量センサモジュール31dが配置されている。液体残量センサモジュール31dは、第1実施例における液体残量センサモジュール31と同様に、インクカートリッジ1dに収容されたインクの残量が所定量以上であるか、所定量以下であるかを判断するために用いられる。
液体残量センサモジュール31dは、第1実施例と同様に、上部電極201dと圧電層202dと下部電極203dを含む圧電装置210dを備えている。また、液体残量センサモジュール31dは、さらに、第1実施例と同様に、振動板204dと、第1基板205dと、金属板206dと、第2基板207dとを備えている。これらの構成要素210d、204d〜206dは、第1実施例における液体残量センサモジュール31と同様の順序で積層されている。また、第1実施例の金属板206(図11)と同様に、インクカートリッジ1dがプリンタに装着されたときに、金属板206dは、プリンタのフレームグランドVSSに電気的に接続される。
液体残量センサモジュール31dは、袋状のインクパック10dを構成する上側のフィルム10d_uと接着されている。液体残量センサモジュール31dと、インクパック10dを構成する下側のフィルム10d_bとの間には、バネ216dが配置されている。バネ216dは、液体残量センサモジュール31dと下側のフィルム10d_bとの間の空間を広げる方向に、液体残量センサモジュール31dおよび下側のフィルム10d_bに応力を加えている。
インクパック10dのインク残量が所定量以上の場合、バネ216dによってインクパック10dが押し広げられ、図20に示すように、圧電装置210dの下方には、インクが充填された比較的広い空間が形成される。一方、インクパック10dのインク残量が所定量以下の場合、バネ216dはインクパックの収縮により圧縮され、図21に示すように、圧電装置210dの下方には、インクが充填された比較的狭い空間が形成される。
密封タイプのインクカートリッジ1dにおけるインク残量の検出について説明する。上記実施例における大気開放タイプのインクカートリッジと同様に、プリンタ側からセンサ駆動信号DSを圧電装置210dに対して印加する。そうすると、大気開放タイプのインクカートリッジと同様に、圧電装置210dは、インク残量に応じて振動(伸縮)し、振動に応じた電圧(応答信号RS)を、プリンタに出力する。ここで、大気開放タイプのインクカートリッジでは、応答信号RSの周波数を測定して、インク残量を判断していたが、密封タイプのインクカートリッジ1dでは、応答信号RSの振幅の大きさを測定して、インク残量を判断する。具体的には、インクパック10dのインク残量が所定量以上の場合、すなわち、圧電装置210dの下方に、インクが充填された比較的広い空間が形成されている場合には、応答信号RSの振幅が大きくなる。逆に、インクパック10dのインク残量が所定量以下の場合、すなわち、圧電装置210dの下方に、インクが充填された比較的狭い空間が形成されている場合には、応答信号RSの振幅が小さくなる。したがって、プリンタは、応答信号RSの振幅が所定値以上である場合に、インクパック10dのインク残量は所定量以上であると判断し、応答信号RSの振幅が所定値より小さい場合に、インクパック10dのインク残量は所定量以下であると判断する。
以上説明した変形例のインクカートリッジ1dでは、金属板206dを介して、インクカートリッジ1dの内部のインクがフレームグランドVSSに電気的に接続されている。この結果、本変形例のインクカートリッジ1dによれば、第1実施例と同様の作用・効果が得られる。
(2)上記実施例および変形例では、インクカートリッジはプリンタに着脱自在に装着されるが、これに代えて、プリンタに固定されたインクタンクを用いても良い。また、上記実施例および変形例では、センサとしての圧電装置は、インクカートリッジに備えられているが、プリンタ側、例えば、プリンタの印刷ヘッド内部のノズルに至るインク流路に沿って備えられても良い。具体的には、例えば、図14において破線で示す液体残量センサモジュール31mのように、印刷ヘッド61におけるインク供給針66からノズルNZに至るまでの内部流路610に配置されても良い。
(3)上記実施例は、インクジェットプリンタ用のインクカートリッジに本発明が適用されているが、これに限らず、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に当該液体を供給するための液体容器に本発明を適用しても良い。ここでいう液体は、溶媒に機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェル状のような流状体を含む。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置に対して、当該装置が噴射する液体を供給するための液体容器であっても良い。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置に対して、当該装置が噴射する液体を供給するための液体容器であっても良い。そして、これらのうちいずれか一種の噴射装置のための液体容器に本発明を適用することができる。
(4)上記実施例では、圧電装置をセンサとして用いているが、他のタイプのセンサを用いても良い。例えば、インクに電流を流し、インクの抵抗値を測定するタイプのセンサであっても良い。また、インク残量を検出するセンサに限らず、インクの粘度、種類、濃度などを電気的に検出するセンサでであっても良い。一般的に言えば、インクなどの液体の状態を電気的に検出するためのセンサであれば良い。
(5)上記第1実施例およびその変形例では、金属板206、バルブ部材41、ノズルプレート61bをインクに接触させ、金属板206、バルブ部材41、ノズルプレート61bを安定電位に接続しているが、これに限らず、何らかの導電体をインク収容部のいずれかの位置においてインクに接触させ、その導電体を安定電位に電気的に接続すれば良い。例えば、図5において、インクカートリッジ1内部のインクが収容される部屋を形成するフィルム80を導電性のフィルムとし、当該導電性のフィルムをフレームグランドVSSに電気的に接続しても良い。こうすれば、導電性フィルムは、インクカートリッジ1内のインクをY軸方向から見た並行投影面を実質的に覆う(図5)ので、外部ノイズの侵入をより効果的に抑制することができる。
(6)上記第2実施例の変形例では、絶縁性フィルム81と導電性フィルム82との積層体でカートリッジ本体を覆うことにより、ノイズを除去するための静電容量を形成しているが、これに限られない。例えば、カートリッジ本体のうち、インクが収容される部屋の壁を形成する一部を薄く形成し、薄く形成した部分の外側に導電体を配置し、当該導電体をフレームグランドVSSに接続しても良い。一般的に言えば、インク収容部において、インクと接触する内面の少なくとも一部を絶縁体で形成し、当該絶縁体におけるインクと接触する内面と反対側に導電体を配置し、当該導電体を安定電位に接続すれば良い。
(7)上記実施例および変形例において、インクまたはノイズ除去のための静電容量は、フレームグランドVSSに接続されているが、これに限らず、安定した電位に接続されていれば良い。具体的には、シグナルグランドやアースに接続されても良い。
(8)上記実施例では、第1および第2のインク収容室、バッファ室を始めとするインクカートリッジの形状を具体的に特定しているが、これらは一例であり、当業者に自明な範囲で変形、改良され得る。
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。