JP2009100566A - 車両のスタック脱出装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】モータの反転を適切なタイミングで実行でき、もってスタック状態から迅速且つ確実に脱出できる車両のスタック脱出装置を提供する。
【解決手段】後輪が路面の窪みにスタックしたときに、モータの正転と逆転とを交互に繰り返しながら、窪み内での後輪の往復ストロークを次第に増加させて脱出させるスタック脱出制御装置において、モータの正転または逆転の実行中に、従動輪の車輪速が停車判定値未満で、且つ後輪と前輪との車輪速差がスリップ判定値以上になったときにモータ反転条件の成立判定を下し(S8がYes)、モータの回転方向を反転する(S12)。
【選択図】図2

Description

本発明は車両のスタック脱出装置に係り、詳しくは泥濘地等において駆動輪が空転して路面に生じた窪みにスタックしたときに、窪み内で駆動輪を前後方向に転動させ、車両を揺り動かして脱出させるスタック脱出装置に関するものである。
泥濘地等のように摩擦係数が低く且つ柔らかい路面の走行時には、駆動輪のスリップにより路面に生じた窪みに駆動輪が嵌り込んだスタック状態に陥ってしまう場合がある。スタック状態からの脱出には、例えばクラッチ操作を伴って手動で変速操作する手動式変速機を備えた車両では、ギヤを1速や2速に入れた上でクラッチを断接操作し、窪み内で駆動輪を前後方向に転動させながら往復ストロークを次第に増加させて脱出する方法が採られる。
ところが、クラッチ操作を自動化した車両、例えば上記手動変速機を備えた車両と基本構成を共通としながら、クラッチの断接操作及び変速機の変速操作をアクチュエータで行う車両では、運転者が任意にクラッチ操作できないため、必然的に上記したスタック脱出方法を実施することはできない。そこで、このような不具合に対処すべく、スタック状態からの脱出を自動的に実行するスタック脱出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
上記特許文献1の技術は、ハイブリッド車両として具体化したものであるが、基本的に駆動輪に設けた車速センサの出力に基づき、アシストモータの正転及び逆転を交互に繰り返しながら駆動輪の駆動方向を切り換えてスタック脱出が図られる。
即ち、アシストモータは、車速センサにより検出された車速が値0以上のときを条件として車両の前進方向に回転駆動され、車速が値0未満のときを条件として後退方向に回転駆動される。車速が値0以上とは、窪み内で駆動輪が前進方向に転動していることを意味するため、アシストモータにより駆動輪を前進方向に駆動することにより窪み内で駆動輪を前進方向に登らせ、一方、車速が値0未満とは、窪み内で駆動輪が後退方向に転動していることを意味するため、アシストモータにより駆動輪を後退方向に駆動することにより窪み内で駆動輪を後退方向に登らせ、これらのアシストモータの正転と逆転とを交互に繰り返すことで、窪み内で駆動輪を前後方向に転動させ車両を揺り動かしながら窪み内から脱出させている。
特開平9−175225号公報
しかしながら、上記特許文献1の技術では、脱出動作から反転動作への切換を適切なタイミングで実行できず、かえってスタック状態を悪化させてしまうという問題を引き起こすことが考えられる。
このような問題を生じる要因は、特許文献1の技術が窪み内での駆動輪の挙動を把握しきれていないことに起因する。即ち、このスタック脱出方法の趣旨は、アシストモータの正転及び逆転に応じて駆動輪を窪み内で前後方向への転動を繰り返しながら往復ストロークを次第に増加させることにあり、往復ストロークが窪みの領域を上回った時点で駆動輪が窪みから脱出する。
ところが、アシストモータの駆動により窪みを登っているときの駆動輪は、伝達される駆動力が路面との摩擦係数を上回った時点でスリップを生じるため、窪み内を登った頂点でも車速センサにより検出された車速は値0以上の値を継続し、アシストモータの反転が行われなくなる。結果として駆動輪のスリップが継続されて窪みがさらに拡大し、スタック状態がかえって悪化させて脱出不能に陥るという問題があった。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、モータの反転を適切なタイミングで実行でき、もってスタック状態から迅速且つ確実に脱出することができる車両のスタック脱出装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、モータの駆動力を駆動輪に伝達して走行する車両に搭載され、駆動輪が路面の窪みにスタックしたときに、モータの正転と逆転とを交互に繰り返しながら、窪み内での駆動輪の往復ストロークを次第に増加させて窪み内から駆動輪を脱出させるスタック脱出制御手段を備えた車両のスタック脱出装置において、モータの正転または逆転の実行中において、従動輪の車輪速が予め設定された停車判定値未満で、且つ駆動輪と従動輪との車輪速差が予め設定されたスリップ判定値以上になったときに、モータの回転方向を切り換えるためのモータ反転条件が成立したか否かの判定を下すモータ反転条件判定手段を備え、スタック脱出制御手段が、モータ反転条件判定手段によりモータ反転条件の成立判定が下されたときにモータを反転させるものである。
従って、車両の駆動輪が路面の窪みにスタックしたときには、スタック脱出制御手段によりモータの正転と逆転とが交互に繰り返されることにより、窪み内で駆動輪は脱出動作として前後方向への転動を繰り返しながら、往復ストロークを次第に増加して窪み内から脱出する。モータの正転または逆転の実行中では、駆動輪が正転や逆転に応じた脱出方向に転動しながら窪み内を登り、駆動力が路面との摩擦係数を上回った時点で駆動輪はスリップし始めて停止し、脱出方向に移動していた車両もほぼ停止する。これにより従動輪の車輪速が停車判定値未満となると共に、駆動輪と従動輪との車輪速差がスリップ判定値以上になり、モータ反転条件判定手段によりモータ反転条件の成立判定が下されて、スタック脱出制御手段によりモータが反転され、正転中のモータは逆転に切り換えられ、逆転中のモータは正転に切り換えられる。
モータの正転または逆転の実行中においては、駆動輪はスリップしない限り脱出方向に転動しながら窪み内を登る一方、駆動輪がスリップし始めると窪みが拡大してスタックが悪化する可能性が高まるため、基本的に脱出動作の終了判定は、駆動輪のスリップ状況を指標とすることが望ましい。但し、路面状況によっては窪み内で駆動輪がスリップしながらも登り続けることもあり、この場合には駆動輪が窪みを登り続けて車両が脱出方向に移動する限り、駆動輪の駆動を継続することが望ましい。従って、従動輪の車輪速が停車判定値未満で、且つ駆動輪と従動輪との車輪速差がスリップ判定値以上になったことを条件として、モータを反転させることにより、無用なスリップの継続により窪みを拡大してスタックを悪化させることなく、窪み内の可能な限り高い位置まで駆動輪を登らせて往復ストロークの増加に貢献でき、もってスタック状態から迅速且つ確実に脱出可能となる。
請求項2の発明は、請求項1において、モータの正転または逆転の実行中において、正転または逆転を開始してからの従動輪の転動距離が予め設定された脱出完了判定値以上になったときに脱出完了判定を下す脱出完了判定手段を備え、スタック脱出制御手段が、脱出完了判定手段により脱出完了判定が下されたときに制御を中止するものである。
従って、例えば脱出完了判定値として、一般的な窪み内での駆動輪の転動に伴って従動輪が転動する距離よりも十分に大きな値に設定されることにより、モータの正転または逆転を開始してからの従動輪の転動距離が脱出完了判定値以上になったときには、駆動輪の窪みからの脱出が完了したものと見なせる。よって、脱出完了判定手段の脱出完了判定に基づいてスタック脱出制御手段の制御が中止され、モータの駆動中止に伴って駆動輪の駆動力が消失することから、車両は惰性により緩やかに脱出方向に移動するだけとなり、脱出後に円滑に運転者の操作による通常の走行に移行可能となる。
請求項3の発明は、請求項1において、スタック脱出制御手段によるモータの回転方向の反転回数をカウントするカウント手段を備え、スタック脱出制御手段が、カウント手段のカウント値が予め設定された反転回数制限値に達したときに制御を中止するものである。
従って、脱出動作の実行毎にモータは回転方向を反転して温度上昇により消耗するが、カウント手段によりカウントされるモータの回転方向の反転回数が連続反転回数制限値に達した時点でスタック脱出制御手段の制御が中止されるため、連続的な反転による急激なモータの消耗が抑制される。
請求項4の発明は、請求項1において、窪み内からの駆動輪の脱出方向を判定する脱出方向判定手段と、車両のブレーキを作動させるブレーキ駆動手段とを備え、スタック脱出制御手段が、脱出方向判定手段により駆動輪が車両の後退方向に脱出したと判定されたときに、ブレーキ駆動手段によりブレーキを作動させるものである。
従って、駆動輪が窪み内から車両の後退方向に脱出して、そのまま脱出方向に車両を移動させ続けると従動輪を窪みにスタックさせてしまうが、このときにはブレーキ駆動手段によりブレーキが作動するため、従動輪のスタックが未然に防止される。
以上説明したように請求項1の発明の車両のスタック脱出装置によれば、モータの反転を適切なタイミングで実行でき、もってスタック状態から迅速且つ確実に脱出することができる。
請求項2の発明の車両のスタック脱出装置によれば、請求項1に加えて、スタックからの脱出完了を的確に判定でき、脱出後に円滑に運転者の操作による通常の走行に移行することができる。
請求項3の発明の車両のスタック脱出装置によれば、請求項1に加えて、連続的な反転による急激なモータの消耗を抑制し、モータ故障による走行不能の事態を未然に回避することができる。
請求項4の発明の車両のスタック脱出装置によれば、請求項1に加えて、窪みから駆動輪を脱出させた直後の従動輪のスタックを未然に防止でき、もってスタックからの脱出性能をさらに向上させることができる。
以下、本発明をパラレル型ハイブリッド方式のトラック用のスタック脱出装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本発明のスタック脱出装置が搭載されたトラックを示す全体構成図である。
車両の図示しないキャブの下側にはディーゼルエンジン1が搭載され、エンジン1にはクラッチ2及び永久磁石式同期モータ8(以下、単にモータと称する)を介して変速機3が連結されている。変速機3にはプロペラシャフト4を介してディファレンシャル機構5が連結され、ディファレンシャル機構5は左右のドライブシャフト6を介して後輪7b(駆動輪)と連結されている。
従って、クラッチ2の接続時にはエンジン1及びモータ8の駆動力が変速機3に入力され、クラッチ2の遮断時にはモータ8の駆動力が変速機3に入力され、入力された駆動力は変速機3の変速段に応じて変速された後、プロペラシャフト4、ディファレンシャル機構5、ドライブシャフト6を介して左右の後輪7bに伝達され、後輪7bに発生した駆動力により車両が走行する。
モータ8にはインバータ31を介してバッテリ32が接続され、バッテリ32に蓄えられた直流電力がインバータ31により交流電力に変換されてモータ8に供給され、供給された交流電力によりモータ8が作動し、その駆動力が上記経路を辿って後輪7bに伝達される。また、車両減速時のモータ8は発電機として機能し、後輪7bから逆に伝達される駆動力により交流電力を発生し、この交流電力がインバータ31により直流電力に変換されてバッテリ32に充電される。また、バッテリ32の充電率(SOC)が低下したときにもモータ8は発電機として機能し、クラッチ2を介して伝達されるエンジン1の駆動力の一部を消費しながら発電してバッテリ32を充電する。
インバータ31にはインバータECU33が接続され、このインバータECU33により後述する車体ECU9からの指令に基づきインバータ31が制御されて、上記のようなモータ8の駆動・回生運転が行われる。また、バッテリ32にはバッテリECU34が接続され、このバッテリECU34によりバッテリ32の温度、電圧、充放電電流等からSOCが逐次算出され、このSOCや車体ECU9からの指令に基づき上記したバッテリ32の充放電が行われる。
車室内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM、RAM、BURAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えた車両ECU9(電子制御ユニット)及びエンジンECU10が設置されている。車両ECU9は、例えばクラッチ2の断接制御及び変速機3の変速制御を行うと共に、これらの制御状態や車両の運転状態に応じてエンジン1やモータ8を適切に制御するための統合制御を行い、この車体ECU9からの指令に基づき、主にエンジンECU10は燃料噴射制御等のエンジン制御を実行する。
これらの制御を実行するために、車両ECU9はエンジンECU10、インバータECU33及びバッテリECU34と電気的に接続されると共に、車両ECU9の入力側には、アクセルペダル11の操作量θaccを検出するアクセルセンサ12、ブレーキペダル13の踏み込み操作を検出するブレーキスイッチ14、ニュートラル(N)、ドライブ(D)、リバース(R)等のセレクトレバー15の操作位置を検出するセレクトレバー位置センサ16、エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ17、モータ回転速度Nmを検出するモータ回転速度センサ26、変速機3の出力軸回転速度Noutを検出する出力軸回転速度センサ18、左右の前輪7a(従動輪)及び後輪7bの車輪速Nf,Nrを検出する車輪速センサ19、スタック脱出制御の開始を指示するためのスタートスイッチ20等の各種センサ・スイッチ類が接続されている。
また、車両ECU9の出力側には、クラッチ2を断接操作するためのクラッチアクチュエータ21、変速機3の変速段を切り換えるための変速アクチュエータ22、左右の後輪7bのブレーキ23を作動させるためのブレーキアクチュエータ24(ブレーキ駆動手段)、スタック脱出制御の実行を表示するための表示ランプ25等のデバイス類が接続されている。
なお、本実施形態では、これらのアクチュエータ21,22,24を共通の油圧発生源から供給される油圧を利用して作動させているが、アクチュエータ21,22,24の作動原理はこれに限定されるものではなく、エアや電動モータを利用したものに代えてもよい。また、ブレーキアクチュエータ24は後輪7bに代えて前輪7a、或いは前後輪7a,7bに設けてもよい。
また、エンジンECU10の入力側には、上記アクセルセンサ12等の各種センサ類が接続され、エンジンECU10の出力側には、エンジン1の図示しない燃料噴射弁等のデバイス類が接続されている。
車両ECU9は、以上のようなエンジン1及びモータ8の運転による通常の車両走行に加えて、泥濘地等で車両がスタック(路面に生じた窪みに後輪7bが嵌り込んだ状態を指す)したときに、スタックから脱出すべく図2,3に示すルーチンに従ってスタック脱出制御を実行している。そこで、これら図2,3、及び前方へのスタック脱出過程を表した図4〜9の説明図に基づき、当該スタック脱出制御について詳述する。
車両ECU9は予め設定されたスタック脱出制御開始条件が成立したときに、図2,3に示すスタック脱出制御ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。スタック脱出制御開始条件としては、以下の要件1)〜7)が設定されており、車両ECU9は、全ての要件が満たされたときにスタック脱出制御開始条件が成立したとしてスタック脱出制御ルーチンを開始する。
1)スタートスイッチ20がONされていること。
2)セレクトレバー15がD位置またはR位置であること。
3)エンジン1がアイドル運転中もしくは停止中で、且つモータが停止中であること(アクセル操作無し)。
4)ブレーキスイッチ14がONされていること(ブレーキ操作中)。
5)スタートスイッチ20のONに呼応して表示ランプ25が点灯していること。
6)前輪7aの車輪速Vf(左右の平均値を適用し、以下の車輪速Vfも同様)≦2km/hであること。
7)要件6)の成立時間≧2secであること。
要件1)〜4)は、車両のスタックを認識した運転者がスタック脱出制御の実行を要求する意志表示の確認であり、要件5)は、運転者の意志表示に対してスタック脱出制御を実行する旨が正常に表示されていることの確認であり、要件6),7)は、車両が停車してスタック脱出制御を開始可能な状況であることの確認である。要件6では、従動輪である前輪7aの車輪速Vfを車速Vと見なしているが、これに限らず、例えば上記のように出力軸回転速度Noutから車速Vを算出してもよい。なお、車速V=2km/hは車輪速センサ19の限界感度であり、2km/h以下を停車と見なしている。
以上のスタック脱出制御開始条件が成立したときに、車両ECU9は図2,3のスタック脱出制御ルーチンを開始する。
基本的にスタック脱出制御は、クラッチ2を遮断した上で、モータ8の正転(車両を前進させる回転方向)と逆転(車両を後退させる回転方向)とを交互に繰り返すことにより窪み内で後輪7bを前後方向に繰り返し転動させながら、車両を前後方向に揺り動かして往復ストロークを次第に増加させ、後輪7bを窪み内から脱出させる原理を利用している(スタック脱出制御手段)。
以下の説明ではモータ8の回転方向に関わらず、モータ駆動により窪み内で後輪7bを前後方向に転動させて脱出を試みる動作を脱出動作と称する。一般的なエンジンを駆動源とする車両では、変速機を前進または後退に固定した上でクラッチを断接操作することにより窪み内で後輪を転動させるため、後輪への駆動力が前進または後退の何れか一方に限られてしまい往復ストロークを効率よく増加できないが、本実施形態では、瞬時に正転と逆転との間で切換(以下、この切換を反転と称する)可能なモータ8の特性を活用して、前進及び後退共に後輪7bに駆動力を伝達するため、後輪7bの往復ストロークを迅速に増加させて早期に窪み内から脱出可能な利点がある。
車両ECU9は、まず、ステップS2でブレーキスイッチ14がOFFになったか否かを判定する。運転者が意図的にブレーキ操作を解除したときにはスタック脱出制御の開始タイミングと見なし、ステップS2でYes(肯定)の判定を下してステップS4に移行する。ステップS4では後輪7bを窪みから脱出させるべく、クラッチ2を遮断すると共にモータ8を所定方向に駆動し始める。
このときのモータ8の駆動方向は正転でも逆転でもよいが、説明の便宜上、正転側に駆動したものとする。また、モータ8のトルクとしては、摩擦係数の低い泥濘地であることを考慮して通常路面での発進時に要求されるトルクよりも多少低い値が設定される。モータ8の駆動開始に伴って後輪7bには前進方向に駆動力が伝達され、図4に示すように後輪7bは窪みD内で前方へ転動し始める。
続くステップS6ではモータ8の反転(正転から逆転または逆転から正転)毎にカウントアップされる反転回数Nが予め設定された連続反転回数制限値N0に達したか否かを判定し(カウント手段)、判定がNoのときにはステップS8に移行する。なお、ステップS6の処理の趣旨については後述する。
その後、ステップS8に移行してモータ8を反転させるためのモータ反転条件が成立したか否かを判定する(モータ反転条件判定手段)。モータ反転条件としては、以下の要件8),9)が設定されている。
8)前輪7aの車輪速の絶対値|Vf|≦2km/hであること。
9)前輪7aの車輪速Vfと後輪7bの車輪速Vr(左右の平均値)との差の絶対値|Vf−Vr|≧スリップ判定値Vslipであること。
車両ECU9は要件8),9)が共に満たされているときにモータ反転条件が成立したと見なす。
駆動力の伝達により後輪7bは転動しながら窪みD内を前方に登るが、後輪7bに伝達される駆動力が路面との摩擦係数を上回った時点で、図5に示すように後輪7bはスリップし始める。スリップによる摩擦係数の低下により後輪7bの駆動力は急減するため、この位置を窪みD内を登った頂点として後輪7bは当該位置に停止したままスリップし続ける。結果として窪みD内での後輪7bの転動に応じて前進していた車両もほぼ停止し、上記要件8)が満たされると共に、後輪7bのスリップにより要件9)も満たされる。なお、スリップ判定値Vslipとしては、例えば10km/hが設定されている。
上記要件8),9)は、以下の知見の基に設定されたものである。
脱出動作においては、後輪7bはスリップしない限り脱出方向に転動しながら窪みD内を登る一方、後輪7bがスリップし始めると窪みDが拡大してスタックが悪化する可能性が高まるため、基本的に脱出動作の終了判定は、後輪7bのスリップ状況を指標とすることが望ましい。但し、路面状況によっては窪みD内で後輪7bがスリップしながらも登り続けることもあり、この場合には後輪7bが窪みDを登り続ける限り、換言すれば車両が脱出方向に移動する限り、後輪7bの駆動を継続することが望ましい。
従って、従動輪である前輪7aの車輪速の絶対値|Vf|≦2km/hで、且つ前輪7aと後輪7bとの車輪速差|Vf−Vr|≧スリップ判定値Vslipであることを脱出動作の終了条件とすれば、常に最適なタイミングで脱出動作を終了できる。これにより、無用なスリップの継続により窪みDを拡大してスタック状態を悪化させることなく、窪みD内の可能な限り高い位置まで後輪7bを登らせて往復ストロークの増加に貢献でき、もってスタック状態から迅速且つ確実に脱出することができる。
車両ECU9は、ステップS8の判定がNoのときにはステップS10に移行し、脱出完了条件が成立したか否かを判定する(脱出完了判定手段)。脱出完了条件としては、以下の要件10)が設定されている。
10)今回の脱出動作を開始してからの前輪7aの転動距離Lf≧脱出完了判定値Lf0であること。
脱出完了判定値Lf0は、一般的な窪みD内での後輪7bの転動に伴って前輪7aが転動する距離よりも十分に大きな値であり、且つ車両のホイールベースに比較して十分に小さな値、例えば1mが設定されている。ステップS10の判定がNoのときには、後輪7bが窪みD内から脱出していないと見なして上記ステップS8に戻り、モータ8を正転方向に駆動しながらステップS8〜10の処理を実行する。
多くのケースでは最初の脱出動作のみでスタック脱出に成功することはなく、以下のようにモータ8の正転と逆転とを繰り返してスタック脱出を図ることになる。従って、通常はステップS8でYesの判定を下してステップS12に移行し、モータ8を逆転方向に駆動する。このときのモータ8のトルクとしては、正転時と同一トルクが設定される。モータ8の反転に伴って後輪7bには後退方向に駆動力が伝達され、図6に示すように後輪7bは窪みD内で後方へ転動し始める。
その後、車両ECU9はステップS6を経てステップS8,10の処理を繰り返し、図7に示すように後退方向に転動した後輪7bがスリップし始めてモータ反転条件が成立すると、ステップS8からステップS12に移行して再びモータ8を正転方向に駆動する。以上のように、モータ8の正転及び逆転の繰り返しにより、後輪7bは窪みD内で前後方向への転動を繰り返しながら往復ストロークを次第に増加させる。
ここで、脱出動作の実行毎にモータ8は回転方向を反転するため、急激に温度上昇することにより著しく消耗する。ステップS6の連続反転回数制限値N0としては、モータ8が頻繁に反転されても支障ない程度の回数、例えば10回が設定されており、反転回数Nが連続反転回数制限値N0に達したときには、ステップS6でYesの判定を下してステップS14でモータ8の駆動を中止し、ステップS16で表示ランプ25を消灯した後、一旦ルーチンを終了する。
表示ランプ25の消灯或いはスタック脱出のための車両挙動の中止等から、運転者はスタック脱出制御の中断を認識し、モータ温度が低下するまで待機した後に、再び上記と同様の手順によりスタック脱出制御を再開する。従って、連続的な接続操作による急激なモータ8の消耗を抑制でき、もってモータ故障による走行不能の事態を未然に回避することができる。なお、ステップS16では、表示ランプ25の消灯に代えて、しばらく待機することを勧めるメッセージを運転者に対して表示してもよい。
モータ8の正転及び逆転の繰り返しにより窪みD内での後輪7bの往復ストロークは増加するため、何れかの方向にモータ8を駆動中において後輪7bは窪みDを登り切り、図8に示すように前方に脱出するか、或いは図9に示すように後方に脱出する。
脱出完了条件の成立によりステップS10の判定がYesになると、車両ECU9は窪みDから後輪7bが脱出したと見なしてステップS18に移行し、クラッチ2を接続すると共にモータ8の駆動を中止する。続くステップS20では、脱出方向が後退方向であるか否かを判定する(脱出方向判定手段)。当該ステップS18の判定は、例えば、上記要件10)が成立したときの前輪7aの転動方向に基づき行われる。ステップS20の判定がNoのときにはステップS22に移行して表示ランプ25を消灯し、ルーチンを終了する。
結果として、後輪7bは窪みDから脱出した時点でモータ8の駆動中止により駆動力を消失し、車両は惰性により緩やかに前進または後退するだけとなる。表示ランプ25の消灯或いはスタック脱出したときの車両の挙動から、運転者はスタック脱出を認識して自己の運転操作により引き続いて車両を走行させる。
このように脱出完了判定に基づくモータ8の駆動中止の処理により、車両が窪みDからの脱出した勢いで前方または後方に飛び出す事態が防止され、脱出後に円滑に運転者による通常の走行に移行できる。この要因は、スタック状態から脱出する際の運転操作を容易化することに貢献する。
また、ステップS20の判定がYesのときには、ステップS24でブレーキアクチュエータ24によりブレーキ23を作動させる。その後、車両ECU9はステップS26でアクセルセンサ12の出力に基づき運転者によりアクセル操作が行われたか否かを判定し、判定がNoの間はステップS24でブレーキ23の作動を継続する。運転者がスタック状態からの脱出を認識して車両を走行させるべくアクセル操作を開始すると、車両ECU9はステップS26でYesの判定を下し、続くステップS28でブレーキ23を解除した後に上記ステップS22に移行する。
ステップS20の判定がYesのときには、図9に示すように後輪7bを車両の後退方向に脱出させて車両が惰性により後退中であると見なせ、そのまま後退を継続すると前輪7aを窪みDにスタックさせてしまう可能性がある。ステップS24の処理により、前輪7aの転動距離Lfが脱出完了判定値Lf0に達した時点でブレーキ23による制動で車両が停止するため、このような前輪7aのスタックを未然に防止でき、結果としてスタック状態からの脱出性能をさらに向上させることができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、パラレル型ハイブリッド方式の後輪駆動トラックに適用したが、車両の種別や走行用駆動源の種別はこれに限ることはなく、例えばシリーズ型のハイブリッド方式の乗用車、或いはFF駆動の電気自動車に適用してもよい。
また、上記実施形態では、要件9)として、前輪7aと後輪7bとの車輪速差に基づいて後輪7bのスリップを判定したが、これに限ることはなく、例えば左右の後輪7bの車輪速差が所定値以上になることを要件9)として設定してもよいし、或いは左右の後輪7bの何れかの回転速度が所定変化率以上で急増することを要件9)として設定してもよい。
本発明のスタック脱出装置が搭載されたトラックを示す全体構成図である。 車両ECUが実行するスタック脱出制御ルーチンを示すフローチャートである。 車両ECUが実行するスタック脱出制御ルーチンを示すフローチャートである。 窪み内での停止状態からモータの正転により車両前方への脱出動作を開始したときの説明図である。 前方への脱出動作中に後輪がスリップし始めたときの説明図である。 正転から逆転にモータが反転して車両後方への脱出動作を開始したときの説明図である。 後方への脱出動作中に後輪がスリップし始めたときの説明図である。 前方への脱出を完了したときの説明図である。 後方への脱出を完了したときの説明図である。
符号の説明
7a 前輪(従動輪)
7b 後輪(駆動輪)
8 モータ
9 車両ECU(スタック脱出制御手段、モータ反転条件判定手段、
脱出完了判定手段、カウント手段、脱出方向判定手段)
24 ブレーキアクチュエータ(ブレーキ駆動手段)

Claims (4)

  1. モータの駆動力を駆動輪に伝達して走行する車両に搭載され、該駆動輪が路面の窪みにスタックしたときに、上記モータの正転と逆転とを交互に繰り返しながら、上記窪み内での駆動輪の往復ストロークを次第に増加させて該窪み内から駆動輪を脱出させるスタック脱出制御手段を備えた車両のスタック脱出装置において、
    上記モータの正転または逆転の実行中において、従動輪の車輪速が予め設定された停車判定値未満で、且つ上記駆動輪と上記従動輪との車輪速差が予め設定されたスリップ判定値以上になったときに、上記モータの回転方向を切り換えるためのモータ反転条件が成立したか否かの判定を下すモータ反転条件判定手段を備え、
    上記スタック脱出制御手段は、上記モータ反転条件判定手段によりモータ反転条件の成立判定が下されたときに上記モータを反転させることを特徴とする車両のスタック脱出装置。
  2. 上記モータの正転または逆転の実行中において、該正転または逆転を開始してからの従動輪の転動距離が予め設定された脱出完了判定値以上になったときに脱出完了判定を下す脱出完了判定手段を備え、
    上記スタック脱出制御手段は、上記脱出完了判定手段により脱出完了判定が下されたときに制御を中止することを特徴とする請求項1記載の車両のスタック脱出装置。
  3. 上記スタック脱出制御手段による上記モータの回転方向の反転回数をカウントするカウント手段を備え、
    上記スタック脱出制御手段は、上記カウント手段のカウント値が予め設定された連続反転回数制限値に達したときに制御を中止することを特徴とする請求項1記載の車両のスタック脱出装置。
  4. 上記窪み内からの上記駆動輪の脱出方向を判定する脱出方向判定手段と、
    上記車両のブレーキを作動させるブレーキ駆動手段とを備え、
    上記スタック脱出制御手段は、上記脱出方向判定手段により上記駆動輪が上記車両の後退方向に脱出したと判定されたときに、上記ブレーキ駆動手段によりブレーキを作動させることを特徴とする請求項1記載の車両のスタック脱出装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2014166845A (ja) * 2014-03-12 2014-09-11 Daimler Ag 電気自動車の車輪スリップ制御装置
JP2016201864A (ja) * 2015-04-07 2016-12-01 トヨタ自動車株式会社 車両の制御装置
US10759433B2 (en) 2017-10-16 2020-09-01 Ford Global Technologies, Llc Vehicle escape

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