光通信の分野において、1本の光ファイバ伝送路に、複数チャンネルの光パルス信号を多重して伝送することを可能とするため、これまで、光時分割多重(OTDM: Optical Time Domain Multiplexing)や、波長多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)による送信信号の多重化が研究されてきた。OTDMは、光パルス信号を構成する光パルスが占める時間スロットによってチャンネルを分離する方法であり、一方、WDMは、光パルス信号を構成する光パルスの波長によってチャンネルを分離する方法である。
最近、これらに加えて、OCDM通信が注目されている。(例えば、非特許文献1及び2参照)。OCDMは、符号化された光パルス信号のパターンマッチングによってチャンネルを分離する方法である。すなわち、OCDM通信は、チャンネルごとに異なる符号(パターン)を割り当て、パターンマッチングにより信号を抽出する方法を用いる通信である。すなわち、OCDM通信は、送信側で送信する光パルス信号を符号化して送信し、かつ受信側でこの符号化されて送信された信号を復号化して元の光パルス信号を再生して受信する光多重通信である。
OCDMによる通信方法をより具体的に説明すると、以下のとおりである。まず、送信側で、通信チャンネルごとに異なる光符号で送信する光パルス信号を符号化した上で、各チャンネルの符号化された送信信号を合波して符号分割多重信号を生成して送信する。そして、受信側で、この符号分割多重信号を受信して各チャンネルに分配し、チャンネルごとに、送信側と同じ符号を用いて復号化して、元の光パルス信号に戻すことによって受信信号を取得する。
OCDMによる通信は、復号化によって、符号が合う光パルス信号のみが有効な信号として抽出されて処理されるため、時間軸上で同一の時間スロットに複数のチャンネルを設定でき、あるいは、波長軸上においても同一の波長に複数の通信チャンネルを設定できるという特長を有している。また、OCDMによる通信は、光パルス信号の、1ビット当たりに割り当てられる時間軸上の幅に制限がないという運用面における柔軟性も、その特長として有している。
OCDMによる通信においても、多重可能なユーザ数を多くすること、すなわちチャンネル数を多くすることは、必須の技術課題である。
一般に、OCDMによる通信では、使用する符号の符号長が長いほど使用可能な符号数は増加するので、チャンネル数を多くとることが可能となる。しかしながら、伝送すべき光パルス信号のビットレートをそのままとして、符号長の長い符号で符号化を行えば、符号を構成する1チップあたりに割り当てられる時間間隔が短くなる。
ここで、以後の説明の便宜のために、信号周期、通信レート、チップ周期、チップレート、符号長、及び符号周期という用語を、以下のように定義する。
信号周期とは、光パルス信号を構成する光パルス1つ当たりに割り当てられる時間間隔をいい、通信レートとは、伝送すべき光パルス信号のビットレート、すなわち、信号周期の逆数をいう。チップ周期とは、符号を構成する1チップあたりに割り当てられる時間間隔をいい、チップレートとは、チップ周期の逆数をいう。また、符号長とは、符号を構成するチップの総数をいう。符号周期とは、符号を構成する全てのチップを時間軸上に並べることによって、これらのチップの集合が時間軸上で占める時間間隔をいう。チップ周期は、符号周期を符号長で除することによって求められる。
また、時間軸上で、1チップ分に割り当てられる時間軸上の領域を、チップパルスに対するタイムスロットということもある。そして、時間軸上で光パルス信号を構成する光パルス1つ分に割り当てられる時間軸上の領域を、光パルスに対するタイムスロットということもある。
例えば、符号周期が800 ps(1.25 Gbit/sに相当する。)であり、符号長が128である符号で符号化した場合、符号化された信号のチップ周期は、6.25 ps(=800 ps/128)となり、チップレートは、160 GHz/chip(=1/6.25 ps)となる。チップ周期は、符号周期の1/128となり、チップレートは通信レートの128倍となる。
このように符号化された信号は、受信側において復号化されて自己相関信号として再生される。この自己相関信号を構成する光パルスは、時間軸上で、1チップ分に割り当てられる時間幅内に収まるように出現する。そして、この自己相関信号を構成する光パルスの一つ一つが、受信信号の1ビットを意味する信号として認識される。すなわち、自己相関信号に含まれる光パルスの一つ一つが、雑音成分と明確に識別可能な強度を有する有意な信号成分であるとして、正しく認識されることによって、OCDMによる通信における受信が完了される。以後、自己相関信号を構成する光パルスを、単に自己相関信号の光パルスということもある。
上述のように、OCDMによる通信において、通信レートを固定して、多重するチャンネル数を増大させるためには、符号化及び復号化に用いる符号の符号長を長くする必要があり、その結果、時間幅の狭いチップパルスを扱うことになる。
また、通信レートを高くするためには、光パルスに対するタイムスロットを狭くする必要がある。光パルス1つは、符号化によって、符号長に等しい数のチップパルスとして時間軸上に拡散される。また、後述するように、信号周期は符号周期の2倍以上に設定されるので、信号周期が短くなれば符号周期も短くなる。したがって、符号長が固定されていれば、時間軸上で光パルスに対するタイムスロットが狭くなることによって、チップパルスに対するタイムスロットも狭くなる。チップパルスに対するタイムスロットが狭くなることに対応して、チップパルスの時間幅も狭くなる。
また、チップパルスに対するタイムスロットが狭くなることに対応して、復号化されて時間幅の狭いチップパルスから生成される、自己相関信号の光パルスの時間幅も狭くなる。これは次の理由による。すなわち、復号化処理において、自己相関信号の光パルスは、復号器によって時間軸上でチップパルスのうちの幾つかが、復号器に設定されている符号に従って、選択されて加算されることによって生成されるからである。自己相関信号の光パルスは、時間軸上でチップパルスのピーク位置を合致させて加算されて生成されるから、生成された光パルスも、チップパルスの時間幅と同程度の狭い時間幅を有することとなる。
例えば、信号周期が1.6 ns(信号レートが625 Mbit/sに相当する。)の光パルス信号を、符号周期が800 ps(1.25 Gbit/sに相当する。)であり、符号長が128である符号で符号化した場合、符号化された信号のチップ周期は、6.25 ps(=800 ps/128)となり、チップレートは、上述の計算例に示したように、符号周期の128倍の160 GHz/chip(=1/6.25 ps)となる。また、上述したように、自己相関信号の光パルスの幅は、チップパルの幅と同程度であるから、自己相関信号の光パルスのデューティー比、すなわち、[(自己相関信号の光パルスの時間幅)/(信号周期)]×100は、[(自己相関信号の光パルスの時間幅)/(信号周期)]×100=[(6.25) ps /(1.6) ns]×100≒0.39%となる。
上述の例では、信号周期が1.6 nsであり、符号周期が800 psであるものと想定されている。すなわち、信号周期は符号周期の2倍に設定されている。一般に、光パルス信号を符号化して時間軸上に並ぶチップパルスの列として生成された場合、光パルス信号の時間軸上で隣接する光パルスから生成されるチップパルス同士が時間軸上で重なることがないように、信号周期は符号周期の2倍以上に設定される。
チップパルス同士が時間軸上で重なると、自己相関信号を生成するチップパルスと相互相関信号を生成するチップパルスとが干渉し、チップパルス同士が時間軸上で重ならない場合と比較して、相関信号を構成する自己相関信号と相互相関信号のピーク強度の差が小さくなる。ここで、自己相関信号と相互相関信号のピーク強度の差が小さくなるとは、自己相関信号の光パルスのピーク強度と、相互相関信号を構成する光パルスの強度との比が1に近づくことを意味する。このことによって、相対的に、自己相関信号のピーク強度が弱くなり、受信誤りが発生しやすくなる。
したがって、上述の例では、自己相関信号の光パルスのデューティー比が、一般にOCDM送受信装置において設定される最大の値として得られる場合が想定されている。すなわち、一般には自己相関信号の光パルスのデューティー比は上述の値より更に小さい。
以上説明した様に、通信レートを高速化することによっても、あるいは符号長を長くして多重するチャンネル数を増やすことによっても、受信側において符号分割多重信号が復号化されて生成される自己相関信号の光パルスの時間幅は狭くなる。
時間幅の狭い光パルスを光電変換して電気パルスとして正確に変換されるためには、十分に高い時間応答特性を有する光電変換器(以後O/E変換器と表記することもある。)が必要となる。また、光パルスに対するタイムスロットに比べて、時間幅が非常に狭い光パルスからなる光パルス信号に対しては、信号アイパターンを受信可能である程度まで広げることが難しい。信号アイパターンが狭いと、光パルス信号に僅かな時間ジッタが含まれることによっても、受信が困難となるなど、受信誤りが発生しやすい環境となる。
光通信の分野において、デューティー比が小さい光パルスから成る光パルス信号を、光電変換して電気パルスとして正確に変換するには、高い時間応答特性が得られるように特別に設計されたO/E変換器を選択して利用する必要がある。また、デューティー比が小さい光パルスから成る光パルス信号の信号アイパターンを受信可能である程度まで広げることは現状では高度な技術を必要とする。いずれにしても、デューティー比が小さい光パルスから成る光パルス信号を扱う必要があるOCDM送受信装置では、O/E変換器を設計限界の上限近くで使用することとなり、また、信号アイパターンの広さが受信可能限界である状態において受信が行われることになる。したがって、上述した、デューティー比が小さい光パルスから成る光パルス信号を扱う必要があるOCDM送受信装置では、受信誤りが発生しやすい。
和田尚也、他、「時間ゲート検波法を用いた10Gbit/s光符号分割多重通信」電子情報通信学会総合大会予稿集pp.684−685、SAB-1-7、(1999年)
Xu Wang, et al., "10-user truly-asynchronous OCDMA experiment with 511-chip SSFBG en/decoder and SC-based optical thresholder ", OFC 2005, PDP33.
以下、図を参照して、この発明の実施の形態につき説明する。なお、各図は、この発明に係る一構成例を示し、この発明が理解できる程度に各構成要素の断面形状や配置関係等を概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の材料および条件等を用いることがあるが、これら材料および条件は好適例の一つにすぎず、したがって、何らこれらに限定されない。また、各図において同様の構成要素については、同一の番号を付して示し、その重複する説明を省略することもある。
<OCDM送受信装置の構成及び動作>
図1を参照して、この発明の実施の形態のOCDM送受信装置の構成及びその動作について説明する。図1は、この発明の実施の形態のOCDM送受信装置の概略的ブロック構成図である。図1においては、多重するチャンネルが3チャンネルである場合を想定して示されているが、以下の説明は、3チャンネルの場合に限らず何チャンネルであっても同様に成立することは明らかである。
実施の形態のOCDM送受信装置は、送信部10と受信部40とを具えている。送信部10は、第1チャンネルの送信信号生成部12、第2チャンネルの送信信号生成部14及び第3チャンネルの送信信号生成部16を具えており、これらのチャンネルは割り当てられる符合が異なるが、その構成は同一である。そこで、ここでは、第1チャンネルの送信信号生成部12の構成及びその動作について説明する。
第1チャンネルの送信信号生成部12は、光パルス信号生成部20と符号器22を具えている。光パルス信号生成部20は、第1チャンネルの送信信号である2値デジタル信号を反映した光パルス列、すなわち光パルス信号21を生成して出力する。
以後、光パルス信号とは、時間軸上において、光パルスに対するタイムスロットに対して1つの光パルスが並ぶ光パルス列を変調して生成される、2値デジタル信号を反映して光パルスの存在及び非存在が対応する光パルスが並ぶ、光パルス列をいうものとする。すなわち、光パルス信号生成部20は、第1チャンネルの送信信号をRZ(Return-to-Zero)フォーマットの光パルス信号に変換して出力する。
符号器22には、第1チャンネルに割り当てられた符号が設定されている。符号器22において、光パルス信号21を構成する光パルスのぞれぞれは、符号器22に設定されている符号に基づいてチップパルスの列に変換される。すなわち、光パルス信号21は、符号器22に入力されて、符号化されて符号化光パルス信号23として生成されて出力される。
符号器22は、周知のスーパーストラクチャファイバブラッググレーティング(SSFBG: Superstructure Fiber Bragg Grating)を適宜利用することが可能である(例えば、(1)水波 徹「光ファイバー回折格子」応用物理 第67巻 第9号 pp.1029-1034、(1998)、(2)西木玲彦、岩村英志、小林秀幸、沓澤聡子、大柴小枝子「SSFBGを用いたOCDM用位相符号器の開発」信学技法 Technical Report of IEICE. OFT2002-66, (2002-11)、あるいは(3)外林秀之「光符号分割多重ネットワーク」応用物理 第71巻 第7号、pp. 853-859(2002)等を参照)。SSFBGは、複数の単位ファイバブラッググレーティング(単位FBG: 単位Fiber Bragg Grating)を光の導波方向に沿って直列に配置されて構成され、これら複数の単位FBGの、光の導波方向に沿った相対位置関係によって符号が設定される。以後の説明において、符号器22にはSSFBGを利用するものとして説明する。
また、符号器22は、トランスバーサル型光フィルタを適宜利用することが可能である(例えば特開2006-319843号公報参照)。トランスバーサル型光フィルタは、石英系平面導波路(PLC: Planar Lightwave Circuit)として構成され、遅延線、結合率可変光カプラ、位相変調部、及び合波部をその主要構成要素として具えて構成される光フィルタである。トランスバーサル型光フィルタにおいて、位相変調部に設定する位相変調量を適宜調整することによって、符号が設定される。
符号器22に、符号長が128である符号が設定されているとすれば、光パルス信号21を構成する光パルスのぞれぞれは、時間軸上で、光パルスに対するタイムスロットの1/128のチップパルスに対するタイムスロットに、符号を反映して光パルスの存在及び非存在が対応する光パルスが並ぶ光パルス列に変換される。すなわち、符号器22によって、光パルス信号21を構成する1つの光パルスが、1/128の細かなタイムスロットに、光パルスが存在あるいは非存在となる光パルス列に変換される。
第2チャンネルの送信信号生成部14及び第3チャンネルの送信信号生成部16も、第1チャンネルの送信信号生成部12と同一の構成である。ただしそれぞれに設置される符号器に設定される符合が異なっている。上述したように、第1チャンネルの送信信号生成部12は、符号化光パルス信号23を生成して出力する。同様に、第2チャンネルの送信信号生成部14は、符号化光パルス信号25を生成して出力し、第3チャンネルの送信信号生成部16は、符号化光パルス信号27を生成して出力する。符号化光パルス信号23、符号化光パルス信号25及び符号化光パルス信号27は、合成器26に入力されて、符号分割多重信号31として生成されて出力される。合成器26として、例えば、3入力1出力型の光カプラを利用することができる。
したがって、送信部10は、チャンネルごとに相異なる符号が割り当てられており、各チャンネルの光パルス信号を、割り当てられた符号でそれぞれ符号化して、チャンネルごとの符号化光パルス信号を生成し、これら符号化光パルス信号を合波して符号分割多重信号31を生成して送信する機能を有している。
符号分割多重信号31は、光ファイバ伝送路30を伝播して、受信部40に伝送される。すなわち、1本の光ファイバ伝送路30によって、複数チャンネルの光パルス信号が符号化された符号化光パルス信号が、多重されて符号分割多重信号31として伝送される。
受信部40は、分配器50と、第1チャンネルの受信信号生成部42、第2チャンネルの受信信号生成部44、及び第3チャンネルの受信信号生成部46を具えており、それぞれに復号器が配置されている。第1〜第3チャンネルの受信信号生成部にそれぞれ配置されている復号器に設定されている符号は、第1〜第3チャンネルの送信信号生成部にそれぞれ配置されている符号器に設定されている符号と等しい。
すなわち、第1〜第3チャンネルの受信信号生成部にそれぞれ配置されている復号器に設定されている符号が異なる以外、第1〜第3チャンネルの送信信号生成部の構成はそれぞれ同一である。したがって、図1では、第2チャンネルの受信信号生成部44、及び第3チャンネルの受信信号生成部46の構成については、復号器の後段に配置される、第1チャンネルの受信信号生成部42と重複する構成部分を省略して示してある。
符号分割多重信号31は、光ファイバ伝送路30を伝播して受信部40が具える分配器50に入力されて、第1〜第3チャンネルの受信信号生成部のそれぞれに分配される。すなわち、分配器50は、符号分割多重信号31を受信して、第1〜第3チャンネルに対してそれぞれ、符号分割多重信号51-1、符号分割多重信号51-2及び符号分割多重信号51-3を供給する。符号分割多重信号51-1〜51-3は、符号分割多重信号31を強度分割することによって生成できるので、分配器50は、1入力3出力型の光カプラを適宜利用することができる。
受信部40の有する、符号分割多重信号を割り当てられた符号によって復号化して受信信号を取得するという機能は、第1〜第3チャンネルの受信信号生成部がそれぞれ共通に有している機能である。したがって、受信部40の有する機能についての説明としては、第1チャンネルの受信信号生成部42の構成及びその動作について説明することで十分である。すなわち、第1〜第3チャンネルの受信信号生成部の構成はそれぞれ同一であるから、符号分割多重信号31を各チャンネルへ分配する機能を除いた、受信部40の有する機能についての説明を、ここでは、第1チャンネルの受信信号生成部42の構成及びその動作について説明することによって行う。
第1チャンネルの受信信号生成部42は、復号器52、自己相関成分抽出部54、光パルス幅拡張器64、及び受信信号処理部66を具えている。
復号器52は、符号分割多重信号51-1を入力して第1チャンネルに割り当てられた符号を用いて相関処理を行って、自己相関成分と相互相関成分とからなる相関信号53を生成して出力する。復号器52にこのような機能を実現させるためには、送信部10において第1チャンネルに設置された符号器22に利用されたSSFBGと同一の構造のSSFBGを、復号器52にも利用すればよい。
自己相関成分抽出部54は、自己相関成分と相互相関成分とを含む相関信号53から自己相関成分を抽出する。多重するチャンネル数が少なければ、自己相関成分の光パルスのピーク強度は、相互相関成分の光パルスのピーク強度よりも大きいので、閾値処理することによって、自己相関成分を抽出することが可能である。しかしながら、多重するチャンネル数が多くなると、上述したように、自己相関成分の光パルスの強度と相互相関成分の光パルスの強度の差が小さくなるため、閾値処理によって、自己相関成分を抽出することが困難となる。
そこで、時間ゲート処理によって、自己相関成分を抽出する手法がとられる。時間ゲート処理とは、時間軸上で相互相関成分の光パルスが存在するタイムスロットのみに対して時間ゲートの窓を開け、かつそれ以外のタイムスロットに対しては時間ゲートの窓を閉じるという手段を用いて、自己相関成分の光パルスのみを通過させることによって、相関信号53から自己相関成分を抽出する処理をいう。時間ゲートの窓の開け閉めを行うために、相関信号53から抽出されるクロック信号が必要となる。
相関信号53は、分岐器58によって自己相関信号抽出用の相関信号59-1とクロック信号抽出用の相関信号59-2とに分岐される。相関信号59-2は、クロック信号抽出部60に入力されて、クロック信号61が抽出されて出力される。このクロック信号61は、時間ゲート処理部62に入力されて、時間ゲートの窓の開閉に使われる。
図1及び図2では、図示は省略してあるが、クロック信号61によって時間ゲートの窓の開閉を実行するには、クロック信号61を、時間ゲートを駆動するために必要とされる電気信号の形態に変換する必要がある。すなわち、時間ゲートを駆動する時間ゲート駆動回路が用いられる。時間ゲート駆動回路は、時間ゲートに使われる光スイッチ素子の種類に応じて用意する必要がある。
時間ゲート処理部62に利用される光スイッチ素子としては、光ファイバーループによるサニャック型干渉計、あるいは電界吸収型光変調器(Electro-absorption Modulator)等の光変調器を適宜利用することが可能である。
図2を参照して、クロック信号抽出部60の構成及びその動作について説明する。図2は、OCDM送受信装置の受信部40の第1チャンネルの受信信号生成部42の具体的構成を示す概略的ブロック構成図である。
クロック信号抽出部60は、O/E変換器70、バンドパスフィルタ(BPF: Band-Pass filter)72、及び位相同期回路(Phase-locked loop回路:PLL回路)74を具えている。O/E変換器70は、クロック信号抽出用の相関信号59-2を入力して、電気相関信号71に変換して出力する。BPF 72は、電気相関信号71を入力して、通信レートの周波数成分を選択して透過させることによってPLL回路入力信号73を生成して出力する。PLL回路74は、PLL回路入力信号73を入力して、クロック信号61を生成して出力する。
図2に示すクロック信号抽出部60は、クロック信号を抽出するための装置が標準的に具えているO/E変換器70、BPF 72、及びPLL回路74を象徴的に示したものであり、実際のクロック信号抽出装置の具体的構造を示すものではない。クロック信号抽出用の相関信号59-2からクロック信号61を生成して出力するには、周知の方法の中から適宜選択した方法を用いればよい。具体的には、例えば、以下のように行うことが可能である。
まず、クロック信号抽出用の相関信号59-2を光パルス信号のビットレート周波数fの電気信号と、fより小さい周波数Δfの電気信号とをミキシングして得られる変調電気信号によって変調して、変調光パルス信号を生成する。この変調光パルス信号から周波数fのクロック信号を抽出することが可能である(例えば、特許第3904567号公報参照)。
図1に示すように、自己相関成分抽出部54から出力される、相関信号59-1から自己相関成分を抽出することによって生成された自己相関信号63は、光パルス幅拡張器64に入力される。光パルス幅拡張器64において、自己相関信号63を構成する光パルスの幅は拡張される。以後、単に光パルスの幅という場合は、光パルスの時間波形の半値幅、すなわち、時間軸上での光パルスの半値幅をいうものとする。また、光パルス幅拡張器とは、時間軸上での光パルスの半値幅を拡張する機能を有する素子であることを意味する。
光パルス幅拡張器64において、自己相関信号63を構成する光パルスの幅を、光パルス信号の1ビットを構成する光パルスの半値幅に等しい広さに拡張するのが好ましい。自己相関信号63を構成する光パルスの幅は広いほど、受信信号処理部66において実行される光受信信号を電気受信信号に変換する処理には有利である。しかしながら、光パルス信号の1ビットを構成する光パルスの半値幅を超える広さまで拡張すると、電気受信信号の隣接するビット同士となる電気パルスが重なり合う部分が発生し、受信誤りの発生原因となる。したがって、自己相関信号63を構成する光パルスの幅は、光パルス信号の1ビットを構成する光パルスの半値幅と等しい広さまで拡張するのが理想である。
光パルス幅拡張器64は、波長分散媒質を用いて構成するのが好適である。相関信号59-1から抽出される自己相関信号63を構成する光パルスの時間幅は狭いので、その波長スペクトルの幅は広い。すなわち、自己相関信号63を構成する光パルスの時間軸上での半値幅と、周波数スペクトルにおける半値幅との積は一定であるという関係がある。これは、自己相関信号63を構成する光パルスと、この光パルスの周波数スペクトル空間での光パルスとは、互いにフーリエ変換の関係になっているからである。したがって、自己相関信号63を構成する光パルスは、時間軸上での半値幅が狭いほど、周波数スペクトル空間での半値幅は広くなり、より多くの波長成分を含む光パルスであることになる。
したがって、光パルス幅拡張器64には、屈折率が波長に依存する光の伝送媒体である波長分散媒質を利用するのが好適である。あるいは光パルスの時間幅を拡張する機能を有する波長分散素子を利用するのが好適である。
周波数スペクトル空間での半値幅の広い光パルスは、波長分散媒質を通過することによって、波長に応じたそれぞれ異なる時間遅れが生じる。その結果、時間軸上で波長の短い成分と長い成分とが分離されることによって、時間軸上での半値幅が広げられる。
波長分散媒質として、最も容易に利用できるのは、光ファイバである。光ファイバは、光通信において伝送路として利用されるものであるから、波長分散媒質として光ファイバを用いることは、OCDM送受信装置を構成する他の構成要素との結合も容易であるという利点を有する。ただし、通常の光伝送路に利用される光ファイバは、波長分散が大きくないので、波長分散媒質として利用するには相当の長さを必要とする。
また、波長分散素子としては、光ファイバのコアの屈折率変調周期を段階的に変化させて形成することによって作製されるチャープトファイバグレーティングが知られている。(例えば、URL: http://www.mitsubishi-cable.co.jp/jihou/pdf/94
/04.pdf[2007年7月24日検索]を参照)。チャープトファイバグレーティングは、波長分散が十分大きいので、短い長さで光ファイバと同等の機能を果すことが可能である。したがって、チャープトファイバグレーティングを波長分散素子として利用すれば、コンパクトな光パルス幅拡張器を構成することが可能となる。しかしながら、チャープトファイバグレーティングは、高価であるため、OCDM送受信装置を製造するためのコストが高くなる。
また、波長分散素子として、エタロンを用いることも可能である(例えば、URL: http://www.business-i.jp/sentan/jusyou/2007/suda.pdf[2007年7月24日検索]を参照)。いずれにしても、波長分散媒質または、波長分散素子として何を利用するかは、OCDM送受信装置を製造する上で、コスト等を勘案して決定すべき設計的事項に属する。
光パルス幅拡張器64において、自己相関信号63を構成する光パルスの幅は拡張されて光受信信号65が生成されて出力される。図2に示すように、光受信信号65は、受信信号処理部66に入力されて電気受信信号83として生成されて出力される。この電気受信信号83が、受信部40において最終的に取得される受信信号である。
受信信号処理部66は、O/E変換器76、増幅器78、ローパスフィルタ(LPF: low-pass filter)80及び判定回路82を具えている。O/E変換器76は、光受信信号65を入力して光電変換して電気受信信号77を生成して出力する。増幅器78は、LPF 80及び判定回路82の正確な処理動作のために必要とされ、かつ最終的に得られる受信信号が、受信信号処理部66の後段に設置される受信信号を利用するための装置(図示を省略してある。)において必要とされる強度となるように、電気受信信号77を増幅して、電気受信信号79として出力する。
増幅器78から出力される電気受信信号79は、LPF 80によって、光パルス信号のビットレートを含みそれよりも低い周波数成分が選択されて透過させられることによって、低周波数の雑音成分が除去されて電気受信信号81として出力される。LPF 80のカットオフ周波数が、LPF 80で遮断される電気受信信号79に含まれる周波数成分の周波数の最大値に等しい。
電気受信信号81は、判定回路82に入力されて、デジタル信号に変換されてデジタル電気受信信号83として出力される。判定回路は、例えば、コンパレータとDフリップフロップ回路とを組み合わせて構成される周知の回路構成として形成できる。コンパレータには、クロック信号抽出部で抽出されたクロック信号を利用することが可能である(図示を省略してある。)。アナログ信号として判定回路に入力される電気受信信号81は、コンパレータで閾値処理され、Dフリップフロップ回路でデジタル受信信号として生成される。
受信信号をアナログ信号として取得することが最終目的である場合には、判定回路は必要とされない。いずれにしても、受信信号処理部66によって、光受信信号65は、電気受信信号として取得されることになる。受信部40は、受信した符号分割多重信号を、割り当てられた符号によって復号化して受信信号を取得する機能を果す構成要素である。ここで、光受信信号65、アナログ電気受信信号81、デジタル電気受信信号83を総称する場合には、単に、受信信号という用語を用いるものとする。
この発明の特徴は、受信側において復号化されて生成される自己相関信号の光パルスの時間幅を、受信信号として正しく認識することが可能である程度まで拡張することにあるから、受信部40の果すべき機能として、時間幅の広い光パルス列からなる光受信信号65を生成できることが必須の条件である。すなわち、時間幅の広い光パルス列からなる光受信信号65が生成できれば、この発明の目的を達したものということができる。したがって、受信部で最終的に受信される受信信号が光信号の形態であるか、アナログ電気信号の形態であるか、デジタル電気信号の形態であるかは、二義的な問題である。
そこで、受信信号とは、光受信信号65、アナログ電気受信信号81、デジタル電気受信信号83の総称であるものし、受信部40に求められる機能を、「受信した符号分割多重信号を、割り当てられた符号によって復号化して受信信号を取得するもの」と定義した。
<OCDM送受信方法>
上述したように、この発明の実施の形態のOCDM送受信装置によれば、送信ステップと受信ステップとを含む、この発明のOCDM送受信方法を実現することが可能である。
送信ステップ及び受信ステップは、それぞれOCDM送受信装置の送信部10及び受信部40において実現される。受信部ステップを構成する、多重信号分配ステップ、復号化ステップ、自己相関成分抽出ステップ、及び光パルス幅拡張ステップは、それぞれ、分配器50、復号器52、自己相関成分抽出部54、及び光パルス幅拡張器64によって実行される。また、自己相関成分抽出ステップが含む、クロック信号抽出ステップ及び時間ゲート処理ステップはそれぞれ、クロック信号抽出部60及び時間ゲート処理部62によって実行される。
図1、図2及び図3(A)〜(E)を参照して、この発明のOCDM送受信方法について説明する。図3(A)〜(E)は、この発明のOCDM送受信装置の各所における信号の時間波形を示す図である。横軸は時間軸であり、任意スケールで目盛って示してある。また、縦軸は省略してあるが、縦軸方向に光強度を任意スケールで目盛って示してある。
図3(A)は、光パルス信号21の時間波形を示す図である。光パルス信号21を構成している光パルスの時間軸上での半値幅は、Δtである。図3(B)は、第1チャンネルの送信信号生成部12から出力された符号化光パルス信号23、第2チャンネルの送信信号生成部14から出力された符号化光パルス信号25、及び第3チャンネルの送信信号生成部16から出力された符号化光パルス信号27が、合成器26で多重化されて生成される符号分割多重信号31の時間波形を示す図である。すなわち、図3(B)は、送信ステップによって生成されて出力される符号分割多重信号31の時間波形を示す図である。
また、図3(B)に示す時間波形は、分配器50によって各チャンネルに分配される符号分割多重信号51-1、符号分割多重信号51-2及び符号分割多重信号51-3の時間波形をも示している。すなわち、図3(B)に示す時間波形は、多重信号分配ステップによって生成された信号の時間波形も示している。
符号分割多重信号31の時間波形と、符号分割多重信号51-1、符号分割多重信号51-2及び符号分割多重信号51-3の時間波形とは、これらの信号を形成している光パルスの強度が異なるのみであり、波形形状は全く同一である。現実の装置として構成される場合には、分配器50と各チャンネルの復号器との間に光増幅器(図示を省略してある。)を配置して、分配器50によって分配された符号分割多重信号を増幅して、それぞれ符号分割多重信号51-1、符号分割多重信号51-2及び符号分割多重信号51-3として各チャンネルに供給する形態がとられる場合もある。
図3(B)に示す時間波形は、符号化光パルス信号23、符号化光パルス信号25及び符号化光パルス信号27を構成するチップパルスが、時間軸上で重ね合わせられて生成された符号分割多重信号の時間波形であるから、この時間波形を形成しているチップパルスの半値幅は、光パルスの半値幅Δtより狭いΔt'である。具体的には、Δt'は、Δtを符号長で除した値に等しい。例えば、符号長が128である場合は、Δt'=Δt/128である。
図3(C)は、復号器52から出力される相関信号53の時間波形を示す図である。すなわち図3(C)は、復号化ステップによって生成された信号である相関信号53の時間波形を示している。相関信号53は、図3(C)に示すように、自己相関成分を構成するチップパルス(図3(C)ではsで示してある。)と、相互相関成分を構成するチップパルス(図3(C)ではcで示してある。)とで構成されている。自己相関成分を構成するチップパルスの半値幅は、既に説明したように、Δt'に等しい。
図3(D)は、自己相関成分抽出部54から出力される自己相関信号63の時間波形を示す図である。すなわち、図3(D)に示す時間波形は、自己相関成分抽出ステップによって抽出された信号である自己相関信号63の時間波形である。自己相関成分抽出部54によって、相互相関成分は除去されているので、図3(C)においてcで示されている相互相関成分を構成するチップパルスは現れていない。自己相関成分抽出ステップでは、相互相関成分が除去されるだけで自己相関成分を構成するチップパルスの半値幅には影響が与えられないから、図3(D)に示す自己相関信号63の時間波形に現れるチップパルスの半値幅は、Δt'である。
図3(E)は、光パルス幅拡張器64から出力される光受信信号65の時間波形を示す図である。すなわち、図3(E)に示す時間波形は、光パルス幅拡張ステップで生成される信号である光受信信号65の時間波形である。図3(E)に示すチップパルスは、光パルス幅拡張ステップにおいて、図3(A)に示した光パルス信号21の半値幅であるΔtに等しくなるまで拡張されている。その上、図3(E)に示す複数のチップパルスのピーク位置間の時間軸上での相対的位置関係は、図3(A)に示した光パルス信号21の複数の光パルスのピーク位置間の時間軸上での相対的位置関係と一致している。すなわち、光受信信号65の時間波形は、図3(A)に示した光パルス信号21の時間波形と相似の関係となっており、光パルス幅拡張ステップが終了した時点で、光パルス信号21が再生された状態となっていることを示している。
<光パルス幅拡張器の効果>
光受信信号65が、O/E変換器76あるいはLPF 80の時間応答速度、すなわち周波数応答帯域による制限を受けて、光電変換あるいはフィルタリングが行われる結果、生成される電気受信信号81のパルスの幅が広がる。一方で、周波数応答帯域による制限を受けて、光受信信号65に含まれる周波数成分のうち、O/E変換器76あるいはLPF 80の周波数応答帯域に含まれない周波数成分は遮断されてしまうため、生成される電気受信信号81のパワー損失が生じ、信号としての品質が低下する。
例えば、O/E変換器76の周波数応答帯域が十分な広さを有していなければ、光電変換効率が低下して、後段に配置されている増幅器78の利得を大きくしなければならない。その結果、増幅器78において、多くの雑音が電気受信信号81に混入することとなる。また、LPF 80の周波数応答帯域が十分な広さを有していなければ、フィルタ透過損失が増大して、やはり電気受信信号81のパワー損失が生じ、信号としての品質が低下する。
図4〜図6を参照して、光パルス幅拡張ステップを実行しないで、直接時間ゲート62から出力される自己相関信号63を、O/E変換器76によって光電変換した場合の、LPF 80から出力される信号のパルスのデューティー比及びパワー損失について検討した結果を説明する。図4は、受信部40の第1チャンネルの時間ゲート処理部62からLPF 80に至るまでの構成を、この発明のOCDM送受信装置の概略的ブロック構成図から抜き出して示した図である。図4では、時間ゲート処理部62とO/E変換器76の間に光パルス幅拡張器64は配置されていない。
上述のLPF 80から出力される信号のパルスのデューティー比及びパワー損失計算では、自己相関成分抽出部54から出力される相関信号63に相当する信号として、RZフォーマットの光パルス信号を想定した。すなわち、図4に示すように、相関信号59-1に相当する信号としてRZフォーマットの光パルス信号59-1'が時間ゲート処理部62をそのまま通過して、光パルス信号63'としてO/E変換器76に入力されると想定して計算を行った。
O/E変換器76に入力される光パルス信号63'は、信号ビットレートが625 Mbit/s(すなわち、信号周期1.6 ns)、光パルス幅が6.3 ps、光パルスの形状をガウシアン曲線の形状と仮定した。O/E変換器76の周波数応答帯域をチップレート相当の160 GHzとし、更に生成された電気パルス信号77'を増幅器78で増幅して電気パルス信号79'としてLPF 80でフィルタリングして周波数帯域を制限して得られる電気信号81'のパルスのデューティー比及びパワー損失を計算した。このデューティー比は、[(電気信号81'の光パルスの時間幅)/(信号周期)]×100として計算した。
図5は、LPF 80のカットオフ周波数に対する、LPF 80から出力される電気信号81'のデューティー比との関係、及びLPF 80を通過する電気パルス信号79'の通過損失との関係を示す図である。LPF 80を通過する電気パルス信号79'の通過損失とは、LPF 80を通過する電気パルス信号79'のパワー損失と言い換えても良い。
横軸は、LPF 80のカットオフ周波数をGHz単位で目盛って示してある。左側の縦軸は、LPF 80から出力される電気信号81'のデューティー比を%で示してある。また、右側の縦軸は、LPF 80を通過する電気パルス信号79'の通過損失をdB単位で目盛って示してある。
図5において、LPF 80のカットオフ周波数に対するLPF 80から出力される電気信号81'のデューティー比を黒い三角形の印で示し、LPF 80を通過する電気パルス信号79'の通過損失は、×印によって示してある。また、LPF 80から出力される電気信号81'のデューティー比との関係及びLPF 80におけるパワー損失についての計算は、LPF 80を通過する電気パルス信号79'の強度に対する電気信号81'の強度比が、LPF 80におけるパワー損失に相当するものとして行った。
LPF 80のカットオフ周波数が、図5の一番右の観測点(図5においてPで示す下向きの矢印の位置)に対応する、チップレート相当の160 GHzにおいては、LPF 80を通過する電気パルス信号79'の通過損失は、ほぼ0であることが読み取れるが、このときの電気信号81'のデューティー比は0.4%であり、光パルス信号の状態におけるデューティー比と等しい。LPF 80のカットオフ周波数が低くなるにつれて電気信号81'のデューティー比は増加するが、同時にLPF 80の通過損失も増大する。
例えば、上述の光パルス信号63'を構成する光パルスの幅を6.3 psであるとして、LPF 80から出力される電気信号81'を構成する電気パルスの幅を、通常の通信で使われているRZフォーマットの電気パルス信号に相当する、デューティー比が10%となる150 psまで拡張するためには、LPF 80のカットオフ周波数を2.5 GHzとしなければならないことが分かる(図5において、Qで示す下向きの矢印の位置を参照)。このときのLPF 80の通過損失は14 dBとなることが分かる。また、通常の通信で使われているNRZ(Non−Return-to-Zero)フォーマットの電気パルス信号に相当する、デューティー比が50%となるまで電気パルスの幅を拡張するためには、LPF 80のカットオフ周波数を469 MHzとしなければならないことが分かる(図5において、Rで示す下向きの矢印の位置を参照)。このときのLPF 80の通過損失は21 dBとなることが分かる。
図6は、時間ゲートから出力される光パルス信号63'を構成する光パルス幅に対する、LPF 80から出力される電気信号81'のデューティー比の関係、及びLPF 80の通過損失の関係を示す図である。LPF 80のカットオフ周波数が469 MHzである場合と938 MHzである場合とで計算を行った。横軸は、時間ゲートから出力される光パルス信号63'を構成する光パルス幅をps単位で目盛って示してある。左側の縦軸は、LPF 80から出力される電気信号81'のデューティー比を%で示してある。また、右側の縦軸は、LPF 80を通過する電気パルス信号79'の通過損失をdB単位で目盛って示してある。図6において、LPF 80のカットオフ周波数が469 MHz及び938 MHzである場合の計算結果を、それぞれ黒い三角形の印及び黒い四角形の印で示してある。
図6に示すように、LPF 80のカットオフ周波数が469 MHzである場合には電気信号81'のデューティー比を50%にすることが可能であり、938 MHzである場合には電気信号81'のデューティー比を25%にすることが可能であることが分かる。しかしながら、時間ゲートから出力される光パルス信号63'を構成する光パルス幅が狭くなるにしたがって、すなわち光パルス信号63'のデューティー比が小さくなるにしたがって、LPF 80を通過する電気パルス信号79'の通過損失が大きくなることが読み取れる。
次に、図7〜図9を参照して、この発明のOCDM送受信装置が有する特徴である光パルス幅拡張ステップを実行した場合について、時間ゲートから出力される自己相関信号63を、O/E変換器76によって光電変換した場合の、LPF 80から出力される信号のパルスのデューティー比及びパワー損失に関して同様に検討した結果を説明する。図7は、受信部40の第1チャンネルの時間ゲート処理部62から、光パルス幅拡張器64を含め、LPF 80に至るまでの構成を、この発明のOCDM送受信装置の概略的ブロック構成図から抜き出して示した図である。図7では、この発明のOCDM送受信装置と同様に、時間ゲート処理部62とO/E変換器76の間に光パルス幅拡張器64が配置されている点が、上述の図4と相違する点である。
ここでも、上述の光パルス幅拡張器64を配置しない場合における検討の条件と同様に、LPF 80から出力される信号のパルスのデューティー比及びパワー損失計算では、自己相関成分抽出部54から出力される相関信号63に相当する信号として、RZフォーマットの光パルス信号を想定した。すなわち、図7に示すように、相関信号59-1に相当する信号としてRZフォーマットの光パルス信号59-1'が時間ゲート処理部62をそのまま通過して、光パルス信号63'としてO/E変換器76に入力されると想定して計算を行った。
時間ゲート処理部62から出力され、光パルス幅拡張器64に入力される光パルス信号63'は、信号ビットレートが625 Mbit/s(すなわち、信号周期1.6 ns)であり、光パルスの形状をガウシアン曲線形状と仮定した。
図8は、光パルス信号63'が光パルス幅拡散器64に入力されて、光パルス幅が拡張されて生成されて出力される光パルス信号65'のデューティー比がどのようになるかを計算した結果を示す図である。すなわち、図8は、光パルス幅拡張器64から出力される光パルス信号65'のデューティー比の、光パルス幅拡張器64によって付加される波長分散量に対する関係を示す図である。
図8には、光パルス幅拡張器64に入力される光パルス信号63'を構成する光パルスの幅が、6.3 ps、13 ps、25 ps、及び50 psである場合に対して、それぞれ光パルス信号65'のデューティー比を示してある。横軸は、光パルス幅拡張器64によって付加される波長分散量をps/nm単位で目盛って示してある。縦軸は、光パルス幅拡張器64から出力される光パルス信号65'のデューティー比を%で目盛って示してある。
図8によれば、光パルス信号63'の光パルス幅が6.3 psである場合、デューティー比を50%とするためには、光パルス幅拡張器64によって1400 ps/nmの波長分散が付加されなければならないことが分かる。この程度の波長分散を付加することは、上述した光パルス幅拡張器64に用いて好適な、波長分散媒質である光ファイバ、波長分散素子であるチャープトファイバグレーティングあるいはエタロンを用いれば容易に実現される。これらの波長分散媒質及び波長分散素子の通過損失は、2〜3 dB程度である。
波長分散媒質又は波長分散素子を通過することによって2〜3 dB程度パワー損失が発生するが、O/E変換器76に入力される光パルス信号65'のデューティー比は50%となっているので、O/E変換器76において周波数帯域制限を受けることなく電気パルス信号77'に変換することが可能である。すなわち、O/E変換器76においてほとんどパワー損失を受けることなく、電気パルス信号77'に変換されるので、O/E変換器76の後段に設置されている増幅器78の利得を大きく設定する必要がない。
したがって、増幅器78において電気パルス信号77'に混入される雑音成分は小さい。すなわち、雑音成分の小さい電気パルス信号79'が増幅器78において生成されて出力され、LPF 80に入力される。LPF 80においても、電気パルス信号79'のデューティー比は50%となっているので、周波数帯域制限を受けることなくフィルタリングされるため、ここでのパワー損失も発生しない。
上述したように、O/E変換器76あるいはLPF 80においてデューティー比を増大させるために、LPF 80から出力される電気パルス信号81'が受けるパワー損失は、14〜21 dBであったのに比べ、波長分散媒質又は波長分散素子を通過することによって受けるパワー損失は、2〜3 dB程度と非常に少なくて済むことが分かる。
図9は、光パルス幅拡張器64を利用して光パルス信号の光パルス幅を拡張した上で電気パルス信号に変換する手法によった場合、光パルス幅拡張器64を利用しないで、電気パルス信号のパルス幅を拡張する場合と比較して、LPF 80によって発生する周波数帯域制限による信号のパワー損失がどの程度低減されるかを示す図である。すなわち、図9は、光パルス幅拡張器64を利用しない場合と利用した場合のLPF 80におけるそれぞれのパワー損失の差を、LPF通過損失改善量として示す図である。
図9では、LPF通過損失改善量は、光パルス幅拡張器64で付加される波長分散量に対して示してある。図9には、時間ゲート処理部62から出力される光パルス信号63'の光パルス幅が6.3 ps、13 ps及び25 psである場合について、それぞれLPF 80通過損失改善量が示してある。横軸は、光パルス幅拡張器64で付加される波長分散量をps/nm単位で目盛って示してある。縦軸は、LPF通過損失改善量をdBで目盛って示してある。ここでは、LPF 80のカットオフ周波数を469 MHz、LPF 80から出力される電気パルス信号81'のデューティー比は、50%であると仮定して計算してある。
図9によれば、例えば、光パルス幅が6.3 psである光パルス信号63'に、350 ps/nm程度の波長分散を付加して光パルス幅を200 psまで拡張してからO/E変換器76で電気パルス信号77’に変換してLPF 80の周波数帯域制限によってデューティー比を50%まで増大させた場合、光パルス幅が6.3 psである光パルス信号63'を直接O/E変換器76で電気パルス信号77'に変換してLPF 80の周波数帯域制限によってデューティー比を50%まで増大させた場合と比較して、LPF通過損失は15 dB改善されることが分かる。
光パルス幅拡張器64によって光パルス幅を拡張してからデューティー比を増大させる場合には、光パルス幅拡張器64を利用しないでデューティー比を増大させる場合には存在しない光パルス幅拡張器64の通過損失が2〜3 dB存在する。しかしながら、この光パルス幅拡張器64の通過損失である2〜3 dBの損失量を考慮しても、最終的には、光パルス幅拡張器64を利用しなかった場合と比較して12 dB以上の損失改善が見込まれることが分かる。
すなわち、上述したように、波長分散を付加して光パルス幅を拡張する手段をとることによって、LPF通過損失改善量が15 dB得られることから、光パルス幅拡張器64の通過損失である2〜3 dBの損失量を考慮しても、15 dB−3 dB=12 dBであるから、12 dB以上の損失改善が見込まれる。
以上検討したように、光パルス信号あるいは電気パルス信号は、O/E変換器やLPFといった電子素子の周波数帯域による制限を受けると、その周波数帯域に応じてパルス幅が広げられる。しかしながら、信号成分のうち電子素子の周波数帯域を外れた信号成分は遮断されてしまうため、信号パワーは減少する。すなわち、電子素子の周波数帯域を低く設定するほど信号のパルス幅を広げて信号のデューティー比を高くすることが可能であるが、信号のパワーの損失もそれに応じて増大する。
この発明のOCDM送受信装置によれば、時間ゲートから出力される光パルス信号の形態である自己相関信号を、光パルス幅拡張器によって、そのデューティー比を増大させる構成となっている。光パルス幅拡張器を通過する際に発生する信号のパワー損失は、上述のように、電子素子の周波数帯域制限における信号のパワー損失に比べて十分小さい。
以上説明した様に、この発明のOCDM送受信装置は、受信側において復号化されて生成される自己相関信号の光パルスの時間幅が狭くとも、パワー損失をほとんど伴わないで、自己相関信号のパワー損失が極めて小さい状態で、自己相関信号の光パルスの時間幅を拡張させることが可能である。そして、自己相関信号の光パルスの時間幅を拡張させることによって、自己相関信号を受信信号として正しく認識することが可能となる。