JP2009072063A - 転写因子を利用した乾燥耐性向上および花成遅延植物の作出 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】BZF−I転写因子遺伝子を植物に導入することで、野生型及びコントロール形質転換植物と比較して顕著な乾燥耐性を示す、及び/又は花芽形成が遅延する形質転換植物を提供する。また、BZF−I転写因子遺伝子を植物に導入することによる,植物の乾燥耐性を向上させる、及び/又は花芽形成を遅延させる方法を提供する。
【選択図】なし
Description
植物は、本来乾燥条件に対して自身を守る機構を有している。乾燥条件を感知するとシグナル伝達系が活性化し、乾燥への耐性に関係する遺伝子、もしくはそれらの発現を調節する遺伝子の発現が誘導されて適応する。しかし、乾燥条件が過酷であったり、長期にわたる場合には、植物の生理活性が著しく低下し、発達、生育が著しく抑制されたり、枯死に至ったりする。
収穫された果実、野菜や花卉など、土壌から抜き取られた植物個体や植物個体から切り離された器官や組織などの場合には、乾燥ストレスが著しく、短時間でしおれたり、枯死したりするため、様々な栽培植物について経済的な損失の要因となる。
植物の乾燥耐性の改良によって、このような制限を克服し、植物のバイオマス生産性を向上させたり、鮮度保持を延長させたりすることが可能となる。
これまでに、遺伝子組み換え等の技術を用い、浸透圧調整物質の合成能を高めたり、熱ショックタンパク質遺伝子を高発現させることで、植物の乾燥耐性を改良された例が報告されている(非特許文献1)。また、植物が乾燥ストレスなどの環境ストレスにさらされた際に著量に発現するストレス応答性遺伝子に着目し、そのようなストレス応答性遺伝子の発現を誘導するストレス応答性転写因子遺伝子等を用いて乾燥耐性を改良した例はDREB遺伝子など多数報告されている(特許文献2〜6)。そして、傷、低温、重金属によって誘導を受けるストレス応答性転写因子遺伝子の1種であるペチュニア由来のC2H2型ジンクフィンガー転写因子ZPT2−3遺伝子の場合は、植物に導入して乾燥耐性を付与することができ、かつ導入した植物の生育に悪影響を及ぼさないことが確認されている(特許文献7)が、一般に、環境ストレス応答性の転写因子遺伝子の場合、当該遺伝子を恒常的に過剰発現させた形質転換植物では、生育が不良になるなどの障害が生じる場合が多いことが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、従来ストレス応答性遺伝子の発現を誘導する機能とは直接関係付けられた知見の報告がなかったB−box型ジンクフィンガー転写因子において、植物に導入して乾燥耐性を付与する作用を示す可能性は考えられていなかった。
植物の生活環は、大きく栄養成長相と生殖成長相に分けられる。栄養成長過程では、主に炭酸同化によりバイオマス生産が行われ、植物体が成長する。生殖成長過程では、有性生殖による繁殖のために花芽が形成し、種子を生産する。花芽の形成は、栄養成長から生殖成長への成長相の転換であり、植物生活環の主要な発達プログラムの切り替えである。また、栄養成長期に生産したバイオマスから貯蔵物質に転換し種子・果実等へ蓄積するための代謝的プログラムの切り替えでもある。一年生植物などのように生活環の中で一回だけ繁殖する植物では、花芽形成への切り替えは、同時に個体としての老化への切り替えでもある。したがって、花芽形成の時期の制御は、植物の繁殖戦略にとって重要であり、ほとんどの植物では花芽形成の時期を制御する機構を発達させてきた。このようなことから、多くの栽培植物において、花芽形成の時期を制御することは、植物体としてのバイオマス生産性の向上、種子・果実等の品質および生産性の向上にとって、重要な技術課題である。
花芽形成は、様々な内的および外的要因の制御を受けている。花芽形成に影響を及ぼす外的要因、すなわち環境要因として主要なのは、光周期すなわち日長および温度である。長日条件あるいは短日条件で花芽形成が促進される植物があり、それぞれ長日植物、短日植物と呼ばれている。これに対して、光周期が花芽形成に影響を及ぼさない中性植物もある。花芽形成の外的要因としての温度の影響としては、低温への暴露である。これによって、春化と呼ばれる過程によって花芽形成が促進される。花芽形成の内的要因は、植物の発達状態による花芽形成の制御機構である。ほとんどの植物種は、幼若な期間には花芽形成が抑制されており、植物体が発達して成熟期にはいることで、花芽の形成が促進される。このような花芽形成の機構は、自律的花芽形成促進経路とも呼ばれている。環境要因依存的花芽形成促進経路と自律的花芽形成促進経路とは、完全に独立な関係ではなく、部分的に共通の経路を通して花芽形成を制御していると考えられている。
さらに、ある種の植物の栽培においては、乾燥ストレスによって未成熟な植物個体において花芽形成が促進されることが知られている。その結果、栽培植物の生産量が低下してしまう。植物に、乾燥耐性と花芽形成遅延の能力を付与することで、このような障害を克服することができる。
いくつかの植物種において、花芽形成に関わる遺伝子が明らかにされている。特にシロイヌナズナにおいては、花芽形成の制御に関与する多くの遺伝子が明らかにされている(非特許文献8)。そのような遺伝子の発現を改良して、花芽形成を促進、もしくは遅延させる試みがなされてきた。これまでに、花芽形成抑制作用を有する不飽和脂肪酸誘導体を有効成分とする花芽形成調整剤(特許文献8)、花芽形成抑制活性タンパク質遺伝子又はそのアンチセンスDNAを用いる花芽形成の制御方法(特許文献9)、ERF転写因子ファミリーの花芽形成促進転写因子と機能性ペプチドとの融合タンパク質を用いた花芽形成遅延植物体生産方法(特許文献10)などが知られている。しかしながら、特許文献10の方法も転写因子自体の作用で植物に花芽形成抑制を付与したものではない。
本発明者らはBZF1遺伝子を植物に遺伝子導入して発現させることにより、植物の乾燥耐性を向上させること、および花芽形成が遅延することを見出し、本発明を完成するに至った。
植物のB−box型ジンクフィンガー転写因子ファミリーは、さらに、B−boxの他にCCTドメインとよばれる保存領域を含むCOLファミリーと、CCTドメインを含まないBZFファミリーとに大別される。前者のCOLファミリーに属する遺伝子の機能解析は進んでおり、たとえばシロイヌナズナ由来のCONSTANS遺伝子は花成促進の機能を有している(非特許文献4,5)。シロイヌナズナゲノムでは、このCOLファミリーの遺伝子は17個存在することが知られている。後者のBZFファミリーに属する遺伝子については、十分な構造の検討や機能の解明が進んでおらず、BZFファミリーのうちで構造や機能が検討された例は、(非特許文献6)のSTO遺伝子を高発現させたシロイヌナズナでは、高塩ストレス条件下で見られるシロイヌナズナの生育抑制のうち、根の伸長抑制のみがやや回復するというものである。シロイヌナズナのBZFファミリーのうち、このSTO遺伝子はB−boxを2つもつグループに属しており、BZF1遺伝子は、従来詳細な機能解析の報告がなされていないB−boxを1つしか含まないグループに属する。シロイヌナズナで、当該グループに属する遺伝子はBZF1遺伝子を含めて4遺伝子あり、BZF1と最も高い相同性を示すシロイヌナズナのBZF2は、ClustalW解析(非特許文献7)によると、アミノ酸配列全体では47%の同一性を示す。(以下、本発明において単に「同一性」というとき、ClustalW解析による「同一性」を指す。なお、「同一性」は、「相同性」ということもある。)
このように、BZF2とBZF1とは、全アミノ酸配列では、それほど類似していないものの、B−boxのアミノ酸配列の保存性が極めて高いので、ClustalW解析では95%の同一性を示す。B−boxドメイン以外にもアミノ酸配列の相同性が高い保存モチーフを有しており(図5)、同一のグループに属する。(以下、「BZF−I」グループという。)
具体的には、BZF−Iグループの転写因子に共通な保存モチーフとしては、以下の3種類がある。
(1)「CM−1」:配列番号3で表されるアミノ酸配列をコンセンサス配列とする保存モチーフ(B−boxドメインに相当)
(2)「CM−2」:「CM−1」モチーフのC末端に位置する配列番号4で表されるアミノ酸配列をコンセンサス配列とする保存モチーフ
(3)「CM−3」:N末側の富酸性アミノ酸領域とC末側の富セリン領域とに挟まれた配列番号5で表されるアミノ酸配列をコンセンサス配列とする保存モチーフ
イネのB−box型ジンクフィンガー転写因子の分子系統解析、及びそのシロイヌナズナとの比較解析により、イネのBZFファミリーにもBZF1に分子系統上近縁のタンパク質OsBZF1が存在しており、B−boxドメインと共に、BZF1と共通する上記保存モチーフも保存されていることから、同じ「BZF−I」グループに属する(図6)。イネのOsBZF1は、BZF1とのアミノ酸配列の相同性は、ClustalW解析によると31%の同一性であり、配列全体としての相同性はあまり高くない。これに対して、B−boxでは68%の同一性である。
したがって、BZF−Iグループに属する転写因子とは、配列番号2のBZF1タンパク質と31%以上の同一性を有し、かつ「CM−1」、「CM−2」、及び、N末側の富酸性アミノ酸領域とC末側の富セリン領域とに挟まれた「CM−3」の3つの保存モチーフを有している転写因子であると定義することができる。
一般に、同じファミリーに属し、共通の保存モチーフを持つ転写因子の機能は生物種によらず普遍性があるが、単子葉植物であるイネにも同一グループの転写因子が存在していることからみても、モデル植物であるシロイヌナズナで確認されたBZF1における植物の乾燥耐性を向上させる機能及び植物の花芽形成抑制作用は、双子葉、単子葉を問わず、植物一般で同様の機能を示すと考えられる。
〔1〕 BZF−I転写因子をコードするDNAを含む組換えDNA、又は当該組換えDNAが挿入されたベクターを有効成分として含む、植物の乾燥耐性を向上させるための、及び/又は花芽形成を遅延させるための薬剤。
〔2〕 BZF−I転写因子をコードするDNAを含む組換えDNAもしくは当該組換えDNAが挿入されたベクターが導入された形質転換植物細胞又は組織であって、当該細胞又は組織を再生することで、乾燥耐性が向上した、及び/又は花芽形成が遅延した形質転換植物を得ることができる、形質転換植物細胞又は組織。
〔3〕 BZF−I転写因子をコードするDNAを含む組換えDNA、又は当該組換えDNAが挿入されたベクターを用いて形質転換されたことを特徴とする、乾燥耐性が向上した、及び/又は花芽形成が遅延した、形質転換植物又はその部分。
〔4〕 形質転換植物が、BZF−I転写因子をコードするDNAを含む組換えDNA、又は当該組換えDNAが挿入されたベクターを用いて形質転換された植物の子孫あるいはクローンである、前記〔3〕に記載の形質転換植物又はその部分。
〔5〕 形質転換植物又はその部分が、植物個体、種子、植物器官、植物組織、又は植物細胞である、前記〔3〕又は〔4〕に記載の形質転換植物又はその部分。
〔6〕 BZF−I転写因子をコードするDNAを含む組換えDNA又は当該組換えDNAが挿入されたベクターを用いて形質転換することを特徴とする、植物の乾燥耐性を向上させるための、及び/又は植物の花芽形成を遅延させるための、植物の形質転換方法。
〔7〕 BZF−I転写因子をコードするDNAを含む組換えDNA又は当該組換えDNAが挿入されたベクターを用いて形質転換された植物を、さらに、自家受粉、交配法、もしくは細胞融合法によりその子孫を得るか、又は当該形質転換植物の部分を用いてそのクローンを得ることを特徴とする、前記〔6〕に記載の植物の形質転換方法。
本発明において、「B−box型ジンクフィンガー転写因子」とは、「B−box」とよばれる、Zn(亜鉛)との結合性がある保存配列を有する転写因子であり、各種動植物の幅広い生物種において見出されている転写因子である。
本発明において、「BZF−I転写因子」とは、植物のB−box型ジンクフィンガー転写因子ファミリーのうち、「COLファミリー(B−boxの他にCCTドメインを含む)」以外の、CCTドメインを含まないタイプの「BZFファミリー」に属するものであり、そのうちで、B−box保存領域を1つしか含まないグループであって、かつ図5に示されたBZF−Iグループの保存領域および保存モチーフを有する転写因子である。
B−boxドメインは、「CXXCXXXXXXX(X)CXXXXXXXCXXCXXXXHXXXXXXX(X)H」というシステイン、ヒスチジン骨格を有する保存領域である。本願におけるBZF−Iグループの「CM−1」モチーフは、図5に示される「CXLCXXXARXYCXXDXAXLCWXCDXXVHGANFLVAXH」という共通配列を有する。「CM−2」の保存モチーフは、「CXXCXXXTPWXAXGXXLGPTXSXCEXC」という共通配列を有している。「CM−3」保存モチーフは、「NQVVP」である。「CM−3」保存モチーフのN末端側に富酸性アミノ酸領域が、「CM−3」保存モチーフのC末端側には富セリン領域が位置する。
典型的にはシロイヌナズナ由来のBZF1遺伝子であって、たとえば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAは、本発明において特に好適に用いることができる。
また、形質転換植物に乾燥耐性を向上させる作用、花芽形成を遅延させる作用、または乾燥耐性と共に花芽形成抑制作用を付与するDNAであって、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAも本発明で用いられる。
したがって、本発明の「BZF−I転写因子をコードするDNA」として典型的には、以下のDNAを包含する。
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(e)配列番号2で表されるアミノ酸配列と31%以上の同一性を有し、かつ当該アミノ酸配列と共通のBZF−I転写因子を特徴づける保存モチーフ、すなわち、配列番号3で表されるアミノ酸配列をコンセンサス配列とする保存モチーフと共に、そのC末端に位置する配列番号4で表されるアミノ酸配列をコンセンサス配列とする保存モチーフ、およびN末側の富酸性アミノ酸領域とC末側の富セリン領域に挟まれた配列番号5で表されるアミノ酸配列をコンセンサス配列とする保存モチーフを含むタンパク質をコードするDNA。
上記DNAを挿入するベクターとしては、植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。上記DNAが挿入されたベクターは、例えば、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法等の当業者に公知の方法によって、植物細胞に導入することができる。本発明の実施例では、典型的なアグロバクテリウム法を用いた。
本発明は、上記DNAやベクターが導入された形質転換植物細胞から育成または再生された、乾燥耐性が向上した植物体を提供する。本発明における「乾燥耐性が向上した植物体」とは、野生型の植物体と比較して乾燥に対する耐性が人為的に向上されている植物体をいう。
また、本発明は、花芽形成が遅延された植物体を提供する。「花芽形成が遅延された植物体」とは、野生型の植物体と比較して花芽形成が人為的に遅延されている植物体をいう。
さらに、本発明は、乾燥耐性が向上し、かつ花芽形成が遅延された植物体を提供する。
本発明は、上記DNAが導入された細胞から作出された植物体のみならず、その子孫あるいはクローンをも提供する。一旦、ゲノム内に上記DNAやベクターが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖、無性生殖、組織培養、細胞培養、細胞融合等により子孫あるいはクローンを得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、不定芽、不定胚、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。
そして、本発明は、植物の乾燥耐性を向上させるための、又は植物の花芽形成を遅延させるための、及び、植物の乾燥耐性を向上させると共に、植物の花芽形成を遅延させるための形質転換方法を提供する。当該方法は、上記DNAやベクターを植物細胞に導入する工程および上記DNAやベクターを導入された細胞から植物体を育成または再生する工程を含むものである。
上記DNAが挿入されたベクターは、当業者に公知の方法によって、植物細胞に導入することができる。形質転換植物細胞から植物体を育成または再生する工程は、植物の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、シロイヌナズナであればCloughら(Plant J.16:735-743(1998))の方法、あるいはAkamaら(Plant Cell Reports12:7-11(1992))の方法が挙げられる。また、イネであればHieiら(Plant J.6:271-281(1994))あるいはFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett.2:74-75(1985))の方法を用いることができる。
そして、本発明において「形質転換植物」というとき、上記DNAを導入して作成した形質転換植物のみならず、当該植物の有性生殖によって得られた種子を生育させた子孫植物、無性生殖、組織培養、細胞培養、細胞融合等により得られた子孫植物あるいはクローン、さらにそれらを継代させて得られる子孫植物のすべてを含む概念である。本発明の実施例では、BZF1遺伝子が導入された形質転換植物を自家受粉させて得られた種子を生育させたT3世代又はT4世代を用いている。
遺伝子の単離、遺伝子導入用の組換えベクター及び形質転換植物の作製は、公知の方法で行うことができる。本実施例においては、シロイヌナズナ植物由来のBZF1のcDNAを単離し、植物発現ベクターを作製して、アグロバクテリウムを用いてシロイヌナズナに形質転換し、BZF1過剰発現形質転換植物を得た。
シロイヌナズナ幼植物体より全RNAを抽出し、これを鋳型にして、 オリゴ(dT)を用い、逆転写酵素を作用させて、1本鎖cDNAを合成した。この1本鎖cDNAを鋳型として、フォワードプライマー:5’-CACCATGGGGAAGAAGAAGTGCGAGTTATG-3’(配列番号6)、リバースプライマー:5’-TCAATAAAACGAAGACGACGATGATG-3’(配列番号7)を用いてPCRを行い、cDNAを単離した。PCRの条件は98℃30秒、(98℃10秒、52−70℃30秒、72℃25秒)×30サイクル、72℃10分の後、4℃で保持した。増幅した断片は、約650bpであり、目的の長さであった。cDNAのエントリーベクターへのクローニングは、Invitrogen社のpENTR/D−TOPOクローニングキットを用いて行った。マニュアルに従って、フォワードプライマーは、ATGの前にCACC配列を付加したものを用いた。
BZF1遺伝子を植物で構成的に発現させるための植物発現ベクターは以下のように作製した。上記(1)で得られたBZF1遺伝子の完全長cDNAを含んだエントリークローンと、発現ベクター(デスティネーションベクターpK2GW7、Karimiら(2002)Trends in Plant Science;7(5):193-195)を混合し、Invitrogen社のGatewayPCRクローニングシステムのマニュアルに従ってLR反応によりBZF1遺伝子の完全長cDNAを含んだ発現クローンを得た。構築されたBZF1遺伝子高発現ベクター(pK2GW7−P35S::BZF1)は、図1に示すように、CaMV35Sプロモーター領域、本発明のBZF1cDNAをコードするポリヌクレオチドおよびCaMV35Sターミネーター領域を含む。これを以後のシロイヌナズナへの遺伝子導入に用いた。
上記(2)にて構築した発現ベクターをfreeze−thaw法により、アグロバクテリウム・チュメファシエンスLBA4404株に導入した。なお遺伝子の導入はコロニーPCRにより確認した。形質転換用シロイヌナズナは、22℃、連続明条件で栽培し、摘心を行って腋芽の数を増加させた。感染の前日には、蕾を残して、鞘と開花した花は取り除いた。
一方、形質転換したアグロバクテリウムを、100μg/mlのスペクチノマイシンと200μg/mlのストレプトマイシンを含むYEP培地およびYEB培地を用いて、28℃で24時間程度前培養した後、27℃で24時間程度本培養を行った。得られた培養液を集菌し、形質転換用培地に懸濁した。
Floral−dip法(Clough and Bent,1998)に従って、蕾を懸濁液に約1分浸した。処理後の植物はラップで乾燥を防ぎ、22℃連続明条件に一晩おいた後に、土に水を通して懸濁液を希釈した。同条件下でそのまま生育を行い、T1種子を得た。T1種子は、50μg/mlのカナマイシンと100μg/mlのカルベニシリンを含むMS培地を用いて、22℃、連続明条件で発芽・生育させることによって選抜を行った。このT1植物からT2種子を得た。T2種子は、50μg/mlのカナマイシンを含むMS培地を用いて、22℃連続明条件のもとで発芽・生育させることによって選抜を行った。このT2植物からT3種子、T3植物からT4種子を得た。T3種子及びT4種子は、上記のT2種子選抜と同様にカナマイシン選抜を行った。T3またはT4世代の形質転換植物を以下の実験に用いた。
BZF1遺伝子を導入した形質転換植物7系統(#1−3、#11−6、#12−7、#13−3、#14−3、#15−1、#16−7)およびコントロール形質転換植物(GUS)及び野生型植物(Col−0)から全RNAを抽出し、0.5μgを鋳型に用い、オリゴ(dT),逆転写酵素を作用させて、1本鎖cDNAを合成した。この1本鎖cDNAを鋳型として、フォワードプライマー:5’-CACCATGGGGAAGAAGAAGTGCGAGTTATG-3’(配列番号6)、リバースプライマー:5’-TCAATAAAACGAAGACGACGATGATG-3’(配列番号7)を用いてPCRを行った結果を図2に示す。この結果から、形質転換植物7系統すべてが導入遺伝子を高レベルで発現していることが示された
BZF1形質転換植物(#1−3)、コントロール形質転換植物(GUS)及び野生型植物(Col−0)を、連続光のもとで、人工土壌で播種後17日栽培した後、15日間、灌水を停止して乾燥させた。この後、灌水を再開し、5日後の生存率を調べた。その結果、図3のように、コントロール形質転換植物と野生型植物は灌水停止後13日〜15日で植物体地上部はほぼ萎れた状態となり、灌水を再開しても回復せずにそのまま枯死するが、BZF1形質転換体は灌水停止後13日では萎れず、15日後にやっと地上部が萎れはじめた。その後灌水再開すると回復し、再び正常な生育を示した。これらの結果から、BZF1遺伝子を高レベルで発現させることによって、形質転換植物が乾燥耐性を獲得することが示された。また、形質転換植物は生育や形態上の異常は認められないことから、BZF1遺伝子の過剰発現は植物の生育等には悪影響を及ぼさないと考えられた。
すなわち、潅水を停止して乾燥させると、BZF1形質転換植物は、野生型植物やGUS形質転換植物に比べると植物体地上部の萎れが遅く、乾燥に対して耐性を示す。また、野生型植物やコントロール形質転換植物の大部分が萎れる乾燥状態で潅水を再開すると野生型植物とコントロール形質転換植物は回復せずにそのまま枯死するが、BZF1形質転換体の大部分は回復し、再び正常な生育を示すようになった。
BZF1形質転換植物を、野生型植物(Col−0)やコントロール形質転換植物(GUS)と共に、長日条件で栽培した。図4の(A)は、49日後の、野生型植物、コントロール形質転換植物、BZF1形質転換植物の状態を示す。BZF1形質転換植物は、野生型植物(Col−0)やコントロール形質転換植物と比較して花芽形成が遅延し、一方、展開する本葉は厚みがあり、かつ枚数も野生型植物やコントロール形質転換植物に比べて多くなった。
図4の(B)は、それぞれの植物における、花茎が抽苔するまでの本葉の枚数を6〜12個体について調べた結果を示す。BZF1形質転換植物の2系統(#1−3−1、#11−6)では、それぞれ平均18.1枚、及び13.8枚であるのに対して、野生型植物では平均10.3枚、コントロール形質転換植物では平均10.0枚であり、BZF1形質転換植物における1.4〜1.8倍程度の本葉の枚数増加を確認した。
同様に、野生型植物(Col−0)、コントロール形質転換植物(GUS)、BZF1形質転換植物(#1−3−1、#11−6)について、長日条件で栽培した植物体を用いて抽苔時の植物体の地上部(花茎を除いた部分)の生重量を測定した。この時期は、およそStage6.00〜6.10(Boyes et al.,Plant Cell,13:1499-1510(2001))の生育段階に相当する。ここで、Stage6.00〜6.10とは、1番花の開花から最終的に開花した全花の10%に相当する開花が終了するまでの期間を指す。
図7に示されるように、野生型植物、及びコントロール形質転換植物がそれぞれ0.30g、及び0.34gであるのに対し、BZF1形質転換植物2系統(#1−3−1、#11−6)は、それぞれ1.03g、及び1.32gであり、BZF1形質転換植物では、3〜4倍もの生重量を示した。この結果から、BZF1遺伝子の過剰発現により、花芽形成が遅延すると同時にバイオマス生産量が向上することが示された。
Claims (7)
- BZF−I転写因子をコードするDNAを含む組換えDNA、又は当該組換えDNAが挿入されたベクターを有効成分として含む、植物の乾燥耐性を向上させるための、及び/又は花芽形成を遅延させるための薬剤。
- BZF−I転写因子をコードするDNAを含む組換えDNAもしくは当該組換えDNAが挿入されたベクターが導入された形質転換植物細胞又は組織であって、当該細胞又は組織を再生することで、乾燥耐性が向上した、及び/又は花芽形成が遅延した形質転換植物を得ることができる、形質転換植物細胞又は組織。
- BZF−I転写因子をコードするDNAを含む組換えDNA、又は当該組換えDNAが挿入されたベクターを用いて形質転換されたことを特徴とする、乾燥耐性が向上した、及び/又は花芽形成が遅延した、形質転換植物又はその部分。
- 形質転換植物が、BZF−I転写因子をコードするDNAを含む組換えDNA、又は当該組換えDNAが挿入されたベクターを用いて形質転換された植物の子孫あるいはクローンである、請求項3に記載の形質転換植物又はその部分。
- 形質転換植物又はその部分が、植物個体、種子、植物器官、植物組織、又は植物細胞である、請求項3又は4に記載の形質転換植物又はその部分。
- BZF−I転写因子をコードするDNAを含む組換えDNA又は当該組換えDNAが挿入されたベクターを用いて形質転換することを特徴とする、植物の乾燥耐性を向上させるための、及び/又は植物の花芽形成を遅延させるための、植物の形質転換方法。
- BZF−I転写因子をコードするDNAを含む組換えDNA又は当該組換えDNAが挿入されたベクターを用いて形質転換された植物を、さらに、自家受粉、交配法、もしくは細胞融合法によりその子孫を得るか、又は当該形質転換植物の部分を用いてそのクローンを得ることを特徴とする、請求項6に記載の植物の形質転換方法。
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