しかしながら、前記の従来技術における数値解析による解決方法では、演算処理が煩雑で時間がかかり、CPUへの負荷もかかるために消費電力への影響が無視できないという問題点がある。また、それらの計算結果が有意であるかどうかの検証の基準が定まっておらず、信頼の置けるデータであるか否かの判断は難しいという問題点もある。
また、光学系や測定部位の最適化では、多少の改善は望めるものの、光信号のS/N比を大きく向上できる手法はまだ十分に見出されていないという問題点がある。
前記従来の技術においては、検出した光信号の解析方法、測定方法、及び配線の改善に関する技術は存在しているが、生体用の近赤外域に対応した受光素子自体の改善はほとんどなされていない。微弱な光信号の増幅には一般にPDが使われているが、その際、PDの出力をそのまま増幅するだけなので雑音も増幅されてしまうという問題点がある。
本発明は、前記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、近赤外光の光信号を含む入力光の光強度が、従来の素子では検知が困難なほど微弱であっても、出力光の振幅を増大させて光信号のS/N比を向上して検出することができる半導体光増幅素子及び脈波計測装置を提供することにある。
本発明の半導体光増幅素子は、前記課題を解決するために、生体に照射されて反射あるいは透過した近赤外光の光信号を含む入力光を受光する半導体光増幅素子であって、前記入力光を増幅するための領域である光増幅領域、及び光吸収機能を有していると共に、該光吸収機能について飽和状態をとることが可能となっている領域である可飽和吸収領域を含んでおり、前記入力光を受光して該入力光が増幅された出力光を出射する活性層と、第1の極性の電極と、該第1の極性の電極に対向して設けられている第2の極性の電極とを備えており、前記第1の極性の電極及び前記第2の極性の電極の少なくとも一方は、前記光増幅領域と前記可飽和吸収領域とに対して独立に電流を注入できると共に、独立に電圧を印加できるように分割されており、前記活性層は、入力光強度に対する出力光強度の対応関係において、入力光強度が、少なくとも1つ以上の所定の閾値を上回り又は下回る場合に、出力光強度が急激に変化する不連続点が存在する光入出力特性を有しており、前記光信号には、雑音光が付加されており、前記雑音光の強度、前記光増幅領域に注入される注入電流の強度、及び前記可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度は、前記光信号の強度と前記雑音光の強度とを確率的に同期させることにより、前記入力光が前記半導体光増幅素子の立上がり閾値及び立下がり閾値を上下して前記出力光の振幅が急激に増大するように調整されていることを特徴としている。
前記構成によれば、半導体光増幅素子は、生体に照射されて反射あるいは透過した近赤外光の光信号を含む入力光を受光するものである。また、半導体光増幅素子は、入力光を受光して該入力光が増幅された出力光を出射する活性層と、第1の極性の電極と、該第1の極性の電極に対向して設けられている第2の電極とを備える構成となっている。
また、活性層は、入力光を増幅するための領域である光増幅領域、及び光吸収機能を有していると共に、該光吸収機能について飽和状態をとることが可能となっている領域である可飽和吸収領域を含んでいる。また、活性層は、以下で説明するように、入力光強度に対する出力光強度の対応関係において、入力光強度が、少なくとも1つ以上の所定の閾値を上回り又は下回る場合に、出力光強度が急激に変化する不連続点が存在する光入出力特性を有している。
「可飽和吸収領域」は、例えば、光増幅領域で発生した光を吸収するとキャリア濃度が所定の飽和量に達するまで増大すると共に、該キャリア濃度が前記所定の飽和量を超えると光を吸収せずに透過させ、該キャリア濃度が前記飽和量よりも少ない所定量以下になると再び光を吸収するように構成される領域のことである。なお、ここでの所定の飽和量は活性層の組成や不純物の注入量によっても好適に決定できるため、半導体プロセスによっても以下で説明する双安定状態のヒステリシスの形状などをコントロールすることができる。
このような、可飽和吸収領域を活性層に設けることにより、入力光強度に対する出力光強度の対応関係において、入力光強度が、少なくとも1つ以上の所定の閾値を上回り又は下回る場合に、出力光強度が急激に変化する不連続点が存在する光入出力特性、例えば、いわゆる単安定状態や双安定状態を生じさせることができる。
本発明の半導体光増幅素子は、前記半導体光増幅素子は、入出力特性がヒステリシスを示す双安定半導体レーザであることが好ましい。
「双安定半導体レーザ」とは、入出力特性が双安定状態をとる半導体レーザのことである。ここで、「双安定状態」とは、例えば、入力光強度に対する出力光強度の対応関係において、入力光強度が、2つの所定の閾値を上回り又は下回る場合に、出力光強度が急激に変化する不連続点が存在する光入出力特性のことである。
この双安定状態では、一般に、上記2つの所定の閾値間において、ある入力光強度に対して、1対2対応で、相対的に出力光の強度が大きい状態と相対的に出力光の強度が小さい状態との2つ状態が存在している。言い換えると、双安定状態は、入力光強度に対する出力光強度の関係におけるヒステリシスを伴う。
双安定状態は、上述のように、ヒステリシスを伴うので、ここでは、2つの所定の閾値を、立ち上がり閾値及び立下り閾値と名づける。なお、立ち上がり及び立下りとは、ヒステリシスにおける光の入力に対する光の出力の立ち上がり(ヒステリシスの下部から上部へ移行する場合)、及び立下り(ヒステリシスの下部から上部へ移行する場合)のことである。
言い換えると、例えば、双安定状態の場合の2つの所定の閾値は、出力光強度が急激に増大する不連続点における入力光強度である立ち上がり閾値、及び出力光強度が急激に減少する不連続点における入力光強度である立下り閾値のことである。
このような双安定状態では、半導体光増幅素子への入力光がヒステリシスの立ち上がり閾値を超えると、光出力の振幅が増大するので、入力光が増幅されることになる。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記半導体光増幅素子は、入出力特性が不連続性を示す半導体レーザであっても良い。
入出力特性が不連続性を示す半導体レーザの例としては、単安定状態の半導体レーザを挙げることができる。
ここで、「単安定状態」とは、例えば、入力光強度に対する出力光強度の対応関係において、入力光強度が、1つの所定の閾値を上回り又は下回る場合に、出力光強度が急激に変化する不連続点が存在する光入出力特性のことである。
単安定状態が、上述のヒステリシスを伴う双安定状態と異なっているのは、入力光の立ち上がり閾値と立ち下がり閾値とが一致していることである。その結果、単安定状態では、光入出力特性においてヒステリシスを伴わないものとなる。
このように、立下り閾値と立ち上がり閾値が一致する単安定状態の場合、光の出力強度が高い状態となっても、光の出力光強度が低い状態にすぐに落ちてしまう確率が高くなってしまうので、双安定状態の場合よりも、振幅の増大効果が薄れてしまう。すなわち、上述した、双安定状態では、立下り閾値が立上がり閾値よりも低いことにより、振幅をより確実に増大させることが可能となっている。
また、本発明の半導体光増幅素子は、光信号には、雑音光が付加されており、雑音光の強度、光増幅領域に注入される注入電流の強度、及び可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度は、光信号の強度と雑音光の強度とを確率的に同期させることにより、前記入力光が半導体光増幅素子の立上がり閾値及び立下がり閾値を上下して出力光の振幅が急激に増大するように調整されている。
ここで「雑音光」は、光信号に付加される雑音として活性層に意図的に注入する光のことであり、伝送路等に起因する通常の雑音とは区別して用いている。
入力光の強度の最大値又は極大値(以下「ピーク」と呼ぶことがある。)、及び最小値又は極小値(以下「ボトム」と呼ぶことがある。)と、入力光とともに光増幅領域に注入される雑音光の強度とを確率的に同期させることで、入力光に含まれる光信号が、そのピーク又はボトムとなるタイミングに光出力が低い状態から高い状態へ、又は高い状態から低い状態に移行する。これにより、光出力の強度差に応じて出力光の振幅が増大し、振幅の大きい出力光を得ることができる。
また、このとき、入力光のピークが閾値を超える確率に比べて、ピーク以外のバックグラウンド部分は閾値を超える確率が低いので、得られる出力光は、入力光に含まれる光信号のピークを強調したものになる。つまり、光信号の周期を反映するように光出力の振幅が増大するので、入力光に対する出力光における光信号のS/N比の値を高く(S/N比が向上する)することが可能となる。
このように、雑音を付加することでかえって光信号のS/N比が向上する効果は「確率共鳴」と呼ばれる現象であり、通常の機能素子が検出できないような微弱な光信号を検出・増幅することができる。
以上のように、単安定状態及び双安定状態のいずれであっても、入力光強度における所定の閾値において出力光強度に不連続点が存在する。この不連続点の存在により、所定の閾値を上回り又は下回る強度の入力光が入力されると、出力光の強度が急激に増加したり、急激に減少したりするので、出力光の振幅を増大させることが可能となる。
なお、本発明の半導体光増幅素子においては、光入出力特性が、上述したように、単安定状態及び双安定状態のいずれかであることが好ましい。しかしながら、3以上の所定の閾値において、不連続点が存在するような系を活性層として採用した半導体光増幅素子であっても、本発明の、出力光の振幅を増大し、光信号のS/N比を向上させる効果を得ることができるものであれば、本発明の適用範囲に含まれる。
また、本発明の半導体光増幅素子は、以上のように、さらに、光信号の強度と雑音光の強度とを確率的に同期させることによる確率共鳴効果により、雑音光が付加された入力光が、前記所定の閾値を上下するように調整できるので、光信号のS/N比を向上させることが可能となっている。
よって、本発明の半導体光増幅素子を用いれば、デバイスの発振閾値(立ち上がり閾値のことである。以下同じ。)以下にまで弱まった劣化した近赤外光の光信号も検出することができ、さらに、振幅が増幅され強調された出力光を得ることができる。よって、光信号のS/N比を向上でき、例えば、微弱な脈波なども検出することができる。
また、本発明の半導体光増幅素子は、第1の極性の電極及び第2の極性の電極の少なくとも一方は、光増幅領域と可飽和吸収領域とに対して独立に電流を注入できると共に電圧を印加できるように分割されている。よって、可飽和吸収領域及び光増幅領域にそれぞれ注入される注入電流の制御をより独立に行いやすい構造となっている。
これにより、可飽和吸収領域を流れる電流と光増幅領域を流れる電流とが互いに干渉してしまうのを回避することができる。
また、該電極の構成により、光増幅領域に電流を注入し、可飽和吸収領域に、電圧を印加することができる。
また、本発明の半導体光増幅素子は、光増幅領域に注入する電流を調整することによってヒステリシスを制御することが可能となるが、具体的には、これにより、立ち上がり閾値を低くしてより低電流で素子を駆動したり、出力光の振幅を調整したり、また、光信号にゆらぎが生じたときにも光信号のS/N比が向上するようにヒステリシスの形状を好適に調整することができる。
また、可飽和吸収領域に印加する電圧値を制御することで、半導体光増幅素子の立ち上がり閾値及び/又は立下り閾値を上下させることができる。これにより、半導体光増幅素子に入射する入力光の平均光強度が大きく変化した場合にも対応できる。
このように、光信号の強度と雑音光の強度とを確率的に同期させることにより、入力光が半導体光増幅素子の立上がり閾値及び立下がり閾値を上下して出力光の振幅が急激に増大するように、雑音光の強度、光増幅領域に注入される注入電流の強度、及び可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度を調整することで、消費電力が少ない状態で、出力光の振幅が増大し、光信号のS/N比が向上するようにすることが可能となる。
また、本発明の半導体光増幅素子を例えば、脈波計測装置などに適用する場合、素子自体の改善を行なっているので、生体差に依存せず、さらにデータの蓄積や複雑な演算を必要としないので、従来の素子や装置のようにデータの蓄積や複雑な演算を必要とするものよりも検出速度が向上し、消費電力も低減させることが可能となる。
以上より、近赤外光の光信号を含む入力光の光強度が、従来の素子では検知が困難なほど微弱であっても、出力光の振幅を増大させて光信号のS/N比を向上して検出することができる半導体光増幅素子及び脈波計測装置を提供することができる。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記光信号に付加される雑音光は、前記光増幅領域及び前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に入射され、前記雑音光の強度は、前記光信号の強度と前記雑音光の強度とを確率的に同期させることにより、前記入力光が前記半導体光増幅素子の立上がり閾値及び立下がり閾値を上下して前記出力光の振幅が急激に増大するように調整されていても良い。
すなわち、前記光信号に付加される雑音光は、光増幅領域ではなく可飽和吸収領域に雑音光を注入しても、光信号のS/N比が向上した光出力を得ることができる。この場合、可飽和吸収領域が飽和しやすくなるので雑音光の注入量の上限が低くなり、雑音光の強度の最大値と最小値との差を好適に決定しづらくなるものの、可飽和吸収領域への雑音光の注入によってヒステリシス形状を調整しやすくなる。
また、雑音光の注入量を変えることによって、半導体光増幅素子の立ち上がり閾値及び立下り閾値を変動させ、ヒステリシス形状を調整することも可能である。したがって、この場合においても雑音光の雑音光強度又はそのカットオフ周波数(有色雑音の場合)を、光信号のボトム又はピークに応じて立ち上がり閾値が上下するように最適に調整することで、大きい振幅を持ち、かつ光信号のS/N比が向上した出力光が得られる。
また、雑音光は、光信号に付加してから半導体光増幅素子の光増幅領域に注入せずとも、別々の他の回路などを介して独立に光増幅領域又は可飽和吸収領域に注入してもよい。その場合、他の回路などが余分に必要になり光軸の調整を要するものの、雑音光強度の調整がやりやすくなるという利点がある。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記雑音光の強度の最大値と最小値との差は、前記光信号の振幅の1/10以下であることが好ましい。
雑音光の振幅の最大値と最小値との差(以下、「雑音光強度」という)は、光信号のS/N比が最大である最適強度となるように調整されていることが望ましいが、雑音光強度はこれに限るものではなく、得られる出力光に必要とされる光信号のS/N比の値を満たす範囲の雑音光強度であれば構わない。この場合、雑音光強度が半導体光増幅素子の光信号の振幅の1/10以下であれば、光信号のS/N比が向上された出力光が得られやすい。
また、雑音光強度が強すぎると、出力光の波形が崩れるので雑音の低減は起こりにくくなる。少なくとも、雑音光強度が光信号の振幅より大きい場合、光信号の波形及び周期を再現できなくなるため、近赤外光の光信号の検出ができなくなる。これに対し、雑音光強度が光信号の振幅の1/10以下であれば、さらに出力光の振幅を大きくでき、光信号のS/N比を向上することができるため、好ましい。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記雑音光は、ランダムな強度変化を有することが好ましい。
例えば、雑音光の代わりにクロック光又は周期信号光を入力光に付加してヒステリシスの上部に移行させようとした場合、位相及び周期が光信号と完全に同一か正確に倍数になっていて両者のピーク又はボトムが同期しなければ、大きな振幅の出力光は得られにくい。よって、光信号の時間変動が激しく波形がゆらいでいると、光信号のS/N比の向上効果は低減してしまう。
これに対し、ランダムな強度変化を有する雑音光は様々な周波数成分を含むので、光信号の波形のゆらぎにも強くなり、光信号のS/N比の向上効果を維持できる。また、周期信号光を発生させるよりも雑音光を発生させるほうが消費電力が少なくて済むという利点もある。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記雑音光は、白色雑音の雑音光であっても良い。
白色雑音の場合、有色雑音のようなカットオフ周波数が存在しないので、半導体光増幅素子は、光信号のS/N比効果を最大に得られるように雑音光のカットオフ周波数によって調整することができず、確率共鳴現象を起こしにくくなるが、構成が簡潔で実装がコンパクトになるという利点がある。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記雑音光は、有色雑音の雑音光であることが好ましい。
この場合、有色雑音は、カットオフ周波数により周波数帯域が決まるので、カットオフ周波数によって有色雑音の周波数帯域を調整することができる。そのため、光信号の周波数に合わせて有色雑音の周波数帯域を調整することで、光信号のS/N比の向上効果をより得やすくなるというメリットがある。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記雑音光のカットオフ周波数は、前記光信号の強度と前記雑音光の強度とを確率的に同期させることにより、前記入力光が前記半導体光増幅素子の立上がり閾値及び立下がり閾値を上下して前記出力光の振幅が急激に増大するように調整されていることが好ましい。
ここで、カットオフ周波数は雑音光の強度に影響するので、調整した方がより最適な雑音光強度を得やすくなり、またより光信号のS/N比の向上効果も期待できる。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記第1の極性の電極を通じて雑音電流が前記光増幅領域及び前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に注入され、前記雑音電流の強度は、前記光信号の強度と前記雑音光の強度とを確率的に同期させることにより、前記入力光が前記半導体光増幅素子の立上がり閾値及び立下がり閾値を上下して前記出力光の振幅が急激に増大するように調整されていても良い。
ここでは、入力光に対する雑音として半導体光増幅素子の活性層に注入される電流を「雑音電流」と呼ぶ。
「雑音電流」は、出力光が光信号のS/N比の向上効果を得られるような強度に適度に調整する。光増幅領域に電流を注入せず、可飽和吸収領域にバイアスを印加しない状態では、入力光の強度は生体への照射による劣化によって、例えば、双安定状態の場合は、ヒステリシスの立ち上がり閾値を越えられないほど微弱であることが一般的である。
そのため、入力光を活性層に注入しただけでは、出力光は、ヒステリシス下部に留まり、ヒステリシス上部へと移行することはできない。
そこで、雑音電流を光増幅領域へと注入する。入力光によって半導体光増幅素子の活性層に注入された光子には、雑音電流の注入により活性層にキャリアが注入されて発生した光子が付加される。これにより、光増幅領域の光子が増大し、入力光の強度が立ち上がり閾値を越えやすくなる。
このとき、雑音電流の変動に伴ってキャリアの増加量も変動する。そこで、雑音電流の強度を、入力光のピークやボトムが、立ち上がり閾値、及び立下り閾値を上下するようにように最適に調整する。これにより、大きい振幅を持ち、かつ光信号のS/N比が向上した出力光が得られる。
上記のように、雑音電流の強度を、光信号のS/N比の向上効果が最大に得られるよう最適に調整することにより、半導体光増幅素子の立ち上がり閾値以下である微弱な入力光であっても検出して増幅することができる。
なお、活性層に注入する電流の少なくとも1つを一定電流に変更してもかまわない。この場合においても、振幅が増大し、光信号のS/N比が向上された光出力を得られる。ただしこの場合、光信号のS/N比の向上効果を最大に得られるように調整しにくくなるが、変調回路を減らせるので、構成が簡潔になるというメリットがある。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記雑音電流の強度の最大値と最小値との差は、前記注入電流の振幅の1/10以下であることが好ましい。
以下では、雑音電流の強度の最大値と最小値との差を、「雑音電流強度」と呼ぶ。
雑音電流強度は、光信号のS/N比が最大である最適強度となるように調整されていることが望ましいが、雑音電流強度はこれに限るものではなく、得られる出力光に必要とされる光信号のS/N比の値を満たす範囲の強度であれば構わない。この場合、雑音電流強度が半導体光増幅素子の注入電流の振幅の1/10以下であれば、光信号のS/N比が向上された出力光が得られやすい。
雑音電流強度が強すぎると、出力光の波形が崩れるので、伝送路等に起因する通常の雑音の低減は起こりにくくなる。少なくとも、雑音電流強度が入力光の振幅より大きい場合、光信号の波形及び周期を再現できなくなるため、近赤外光の光信号の検出ができなくなる。これに対し、雑音電流強度が注入電流の振幅の1/10以下であれば、さらに出力光の振幅を大きくでき、光信号のS/N比を向上することができるため、好ましい。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記雑音電流は、白色雑音の雑音電流であっても良い。
白色雑音の雑音電流の場合、カットオフ周波数が存在しないので、半導体光増幅素子は、光信号のS/N比効果を最大に得られるように雑音電流のカットオフ周波数によって調整することができず、確率共鳴現象を起こしにくくなるが、構成が簡潔で実装がコンパクトになるという利点がある。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記雑音電流は、ランダムな強度変化を有することが好ましい。
例えば、雑音電流の代わりに周期信号電流によって生じる光子を入力光に付加してヒステリシスの上部に移行させようとした場合、位相及び周期が光信号と完全に同一か正確に倍数になっていて両者のピークが同期しなければ、大きな振幅の出力光は得られにくい。よって、光信号の時間変動が激しく波形がゆらいでいると、光信号のS/N比の向上効果は低減してしまう。
これに対し、ランダムな強度変化を持つ雑音電流は様々な周波数成分を有するので、光信号の波形のゆらぎにも強くなり、光信号のS/N比の向上効果を維持できる。また、周期信号電流を発生させるよりも雑音電流を発生させるほうが消費電力が少なくてすむという利点もある。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記雑音電流は、有色雑音の雑音電流であることが好ましい。
この場合、有色雑音の雑音電流は、カットオフ周波数により周波数帯域が決まるので、カットオフ周波数によって有色雑音の雑音電流の周波数帯域を調整することができる。そのため、光信号の周波数に合わせて有色雑音の雑音電流の周波数帯域を調整することで、光信号のS/N比の向上効果をより得やすくなるというメリットがある。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記雑音電流のカットオフ周波数は、前記光信号の強度と前記雑音光の強度とを確率的に同期させることにより、前記入力光が前記半導体光増幅素子の立上がり閾値及び立下がり閾値を上下して前記出力光の振幅が急激に増大するように調整されていることが好ましい。
ここで、カットオフ周波数は雑音電流の強度に影響するので、調整した方がより最適な雑音電流の強度を得やすくなり、またより光信号のS/N比の向上効果も期待できる。
なお、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記活性層は、量子井戸構造を有することが好ましい。
活性層の構成を量子井戸構造を有するものとすれば、量子井戸内での電子の状態密度を制御して光利得をより大きく得ることができ、光強度が小さい入力光から、より大きな出力光を得る、というメリットがある。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記光増幅領域及び前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に不純物が添加され、前記不純物の濃度は、前記光信号の強度と前記雑音光の強度とを確率的に同期させることにより、前記入力光が前記半導体光増幅素子の立上がり閾値及び立下がり閾値を上下して前記出力光の振幅が急激に増大するように調整されていても良い。
前記構成によれば、光増幅領域又は可飽和吸収領域に不純物を添加することにより、それぞれのキャリア寿命を調整することができる。よって、半導体プロセスによってヒステリシスの形状などをコントロールすることができる。
また、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記光増幅領域は、前記可飽和吸収領域における光の共振器方向の両側にそれぞれ配置される第1及び第2の光増幅領域から構成されており、前記第1及び第2の光増幅領域のうちの一方の領域の端面から前記入力光が入射され、前記第1及び第2の光増幅領域のうちの他方の領域の端面から前記出力光が出射されることが好ましい。
前記構成のように、光増幅領域を2つ設けた方が、入力光と出力光とをそれぞれ制御しやすくなるというメリットがある。
また、入射側の端面と出射側の端面とを別個に作らずとも、光信号のS/N比が向上した出力光を得ることは可能である。しかしながら、入射側の端面(一方の領域の端面)と出射側の端面(他方の領域の端面)とを作り分けた方が、入力光と出力光とをそれぞれ制御しやすく、光学系の光軸の調整も容易となる。
さらに、本発明の半導体光増幅素子は、前記構成に加えて、前記活性層に対する前記可飽和吸収領域の光の共振器方向における長さの割合は、1%以上であり、かつ50%未満であることが好ましい。
ここで、活性層に対する可飽和吸収領域の光の共振器方向における長さの割合が小さくなると、それにともなって半導体光増幅素子の双安定状態が実現しにくくなる。特に、当該割合が1%未満で双安定状態の半導体光増幅素子を作製しようとすると、作製工程の手間や拡散材料の選定等が著しく困難となる。したがって、活性層に対する可飽和吸収領域の光の共振器方向における長さの割合は、1%以上であることが望ましい。
一方、活性層に対する可飽和吸収領域の光の共振器方向における長さの割合が大きくなると、それにともなって立ち上がり閾値も上昇する。特に、当該割合が50%より大きくなると、消費電力が著しく増大し、その結果、発熱が大きくなる。
また、活性層に対する可飽和吸収領域の光の共振器方向における長さの割合が大きくなると、ヒステリシスの形状を最適にするために注入する電流を増やす必要が生じる。特に、当該割合が50%より大きくなると、消費電力が著しく増大し、その結果、発熱が大きくなる。さらに、ヒステリシスの形状が最適でない場合には、光信号のS/N比の向上効果が減少し、光出力の増幅も低減する。
これらの理由により、活性層に対する可飽和吸収領域の光の共振器方向における長さの割合は、1%以上で、かつ50%以下であることが望ましい。これにより、双安定状態を満足しやすくなり、かつ立ち上がり閾値を低くでき、またヒステリシスの形状も好適に決定できる。また、消費電力も発熱も少なくて済み、光信号のS/N比の向上効果を得やすくなり、さらに素子の作製条件を満たしやすくなるという利点がある。
また、本発明の脈波計測装置は、前記半導体光増幅素子のいずれかを駆動し、前記出力光を検出して受信信号を出力する光電変換素子と、前記受信信号を受けて、前記半導体光増幅素子の光の入出力特性を調整するための制御信号を出力するフィードバック制御回路とを備えることが好ましい。
前記構成によれば、前記脈波計測装置は、出力光を検出して受信信号を出力する光電変換素子を備える。これにより、半導体光増幅素子から受光した出力光の一部を光電変換素子で電気信号に変換して利用できるというメリットがある。
また、前記脈波計測装置は、光電変換素子が出力する受信信号を受けて、半導体光増幅素子の光の入出力特性を調整するための制御信号を出力するフィードバック制御回路を備えている。これにより、フィードバック制御回路によって半導体光増幅素子に入力される光信号に応じてヒステリシスの形状を精度よく制御することができ、半導体光増幅素子の動作条件を精密に調整することができる。したがって、前記脈波計測装置は、確率共鳴効果を得るために最適化された半導体光増幅素子を駆動することができる。
また、本発明の脈波計測装置は、前記半導体光増幅素子に接続されている可変抵抗と、前記フィードバック制御回路からの制御信号に従って前記可変抵抗の抵抗値を制御する可変抵抗制御部とをさらに備えることが好ましい。
さらに、前記脈波計測装置は前記構成に加えて、前記フィードバック制御回路は、前記半導体光増幅素子の前記可飽和吸収領域から流れる電流を前記可変抵抗を介してモニターすることが好ましい。
前記構成によれば、可変抵抗制御部は、フィードバック制御回路からの制御信号に従って、半導体光増幅素子の所望の入出力特性が得られるように可変抵抗の抵抗値を調整する。半導体光増幅素子は、可変抵抗の抵抗値の増減によって、可飽和吸収領域の電流値が増減する。
これにより、可飽和吸収領域内のキャリア量が変化するので、光吸収効果を制御できる。なぜなら、半導体光増幅素子のヒステリシスの形状は、可飽和吸収領域への光注入又は電流注入によるキャリア量の変化に影響を受けるからである。可飽和吸収領域に電流が注入されるとキャリアの注入により光子が発生する。また光増幅領域からの光が可飽和吸収領域に注入されると光子が発生する。
これらの結果として、可飽和吸収領域の光子が増加する。これにより、可飽和吸収領域の光吸収効果が減少し、ヒステリシス全体が注入電流値の低い側へ移動する。これを利用して、可飽和吸収領域へ注入する光の強度又は電流値を変動させることによってヒステリシスの形状も変動させることができる。
以上により、フィードバック制御回路によって半導体光増幅素子に入力される光信号に応じてヒステリシスの形状を精度よく制御することができ、半導体光増幅素子の動作条件を精密に調整することができる。したがって、前記脈波計測装置は、確率共鳴効果を得るために最適化された半導体光増幅素子を駆動することができる。
また、本発明の脈波計測装置は、前記構成に加えて、前記受信信号を受けて、確率共鳴効果が得られるように雑音電流が付加された、前記半導体光増幅素子の入出力特性を調整するための電流を、前記半導体光増幅素子に供給するための制御信号を出力する確率共鳴制御回路と、前記確率共鳴制御回路からの制御信号を受けて、前記付加雑音電流を前記半導体光増幅素子に供給する電流供給部とをさらに備えることが好ましい。
前記構成によれば、確率共鳴制御回路は、半導体光増幅素子の入出力特性を調整するための制御信号を電流供給部に出力するものである。すなわち、光電変換素子を介して出力光の状態をモニターするためのものである。
電流供給部は、確率共鳴制御回路からの制御信号に従って、雑音電流を含む電流(以下「付加雑音電流」と呼ぶ。)を第1の極性の電極(又は第2の極性の電極)を介して半導体光増幅素子に注入するものである。この付加雑音電流は、確率共鳴効果によって振幅が増幅され光信号のS/N比が向上した出力光が得られるように雑音電流が調整された電流のことである。
これにより、確率共鳴による入力光の増幅を行なうのに最適なヒステリシス形状の入出力特性で半導体光増幅素子を作動させることが可能となる。半導体光増幅素子によって増幅された出力光は、光電変換素子で検出される。これにより、通常の素子では検出できないような微弱な信号を検出できる。
また、ヒステリシスの立ち上がり閾値を細かく上下させて低電流で駆動したり、出力光の振幅をより精密に制御できるという利点もある。
以上のように、付加雑音電流を介して半導体光増幅素子の入出力特性のヒステリシス形状を精度よく制御している。これにより確率共鳴効果を利用して、入力光の増幅を行なうために最適な半導体光増幅素子のヒステリシス特性を得ることができ、光信号の劣化を補償することができる。
なお、確率共鳴制御回路及び電流供給部は、半導体光増幅素子や光電変換素子と共に集積してモジュールとして一体化してもよい。この場合、構成がコンパクトになり、半導体光増幅素子駆動回路の取り扱いが簡単になる。
また、本発明の脈波計測装置は、前記構成に加えて、前記半導体光増幅素子の入出力特性を調整するための光を前記半導体光増幅素子に供給するための光源をさらに備えることが好ましい。
ここで、光源としては、通常近赤外域のLED(light-emitting diode)を使用することが考えられるが、LED以外の光源で構成しても良い。また、LEDを光源とする場合、光源を取り付ける部位は、例えば人差し指の爪の上などが好適である。
また、本発明の脈波計測装置は、前記構成に加えて、前記光源は、前記受信信号を受けて、確率共鳴効果が得られるように前記光信号に雑音光が付加された光を前記半導体光増幅素子に供給しても良い。
前記構成によれば、出力光を検出して受信信号を出力する光電変換素子と、前記受信信号を受けて、前記半導体光増幅素子の光の入出力特性を調整するための制御信号を出力するフィードバック制御回路を備えた脈波計測装置において、前記光源は、前記受信信号を受けて、確率共鳴効果が得られるように前記光信号に雑音光が付加された光を前記半導体光増幅素子に供給するようになっている。
これにより、入力光の劣化を補償して、光信号のS/N比が向上した出力光が得られる。また、半導体光増幅素子の入力光の強度とヒステリシスの立ち上がり閾値及び立下り閾値との関係を制御しやすくなるという利点がある。
また、本発明の脈波計測装置は、前記構成に加えて、前記フィードバック制御回路からの制御信号に基づいて、前記半導体光増幅素子の可飽和吸収領域に印加される電圧を制御する電圧制御回路と、前記電圧制御回路からの制御信号に従って前記半導体光増幅素子に電圧を供給する電圧供給部とをさらに備えることが好ましい。
前記構成によれば、電圧制御回路は、フィードバック制御回路からの制御信号に従って、電圧供給部を制御する。電圧供給部は、電圧制御回路からの制御信号に基づいて、半導体光増幅素子に印加する電圧値を上下させる。本発明の脈波計測装置は、電圧制御回路及び電圧供給部を用いて半導体光増幅素子に与える電圧値を制御することで、半導体光増幅素子の立ち上がり閾値及び/又は立下がり閾値を上下させることができる。
これにより、半導体光増幅素子に入射する入力光の平均光強度が大きく変化した場合にも対応できる。また、入力光が光信号のボトムに相当する値をとるタイミングにあわせて、逆バイアスを印加してキャリアを引き抜き、半導体光増幅素子の応答速度を向上させることもできる。
また、本発明の脈波計測装置は、前記構成に加えて、前記受信信号に基づいて、前記光信号の強度と前記雑音光の強度とを確率的に同期させることにより、前記入力光が前記半導体光増幅素子の立上がり閾値及び立下がり閾値を上下して前記出力光の振幅が急激に増大するように電流を前記半導体光増幅素子に供給する電流供給部をさらに備えることが好ましい。
前記構成によれば、前記脈波計測装置は、光電変換素子からの受信信号の一部を受信電流としてフィードバック制御回路に出力している。また、電流供給部は、前記受信信号に基づいて、前記入力光が前記半導体光増幅素子の立上がり閾値及び立下がり閾値を上下して前記出力光の振幅が急激に増大するように電流を前記半導体光増幅素子に供給する。
そのため、前記脈波計測装置は、半導体光増幅素子の出力光の状態をモニターしながら、半導体光増幅素子の入出力特性を変化させたり安定化させたりすることができる。これにより、半導体光増幅素子の出力光が確率共鳴効果を得られる最適なヒステリシス形状を有するように出力光を調整しやすくなる。
前記光電変換素子は、前記半導体光増幅素子と同一基板上に集積化されていることが好ましい。
前記構成によれば、半導体光増幅素子と光電変換素子とを同一基板上に集積しているので、個別に配置するよりもコストダウンとなり、半導体光増幅素子と光電変換素子との光軸合わせを行なう必要もなくなる。
本発明の半導体光増幅素子は、生体に照射されて反射あるいは透過した近赤外光の光信号を含む入力光を受光する半導体光増幅素子であって、前記入力光を増幅するための領域である光増幅領域、及び光吸収機能を有していると共に、該光吸収機能について飽和状態をとることが可能となっている領域である可飽和吸収領域を含んでおり、前記入力光を受光して該入力光が増幅された出力光を出射する活性層と、第1の極性の電極と、該第1の極性の電極に対向して設けられている第2の極性の電極とを備えており、前記第1の極性の電極及び前記第2の極性の電極の少なくとも一方は、前記光増幅領域と前記可飽和吸収領域とに対して独立に電流を注入できると共に、独立に電圧を印加できるように分割されており、前記活性層は、入力光強度に対する出力光強度の対応関係において、入力光強度が、少なくとも1つ以上の所定の閾値を上回り又は下回る場合に、出力光強度が急激に変化する不連続点が存在する光入出力特性を有しており、前記光信号には、雑音光が付加されており、前記雑音光の強度、前記光増幅領域に注入される注入電流の強度、及び前記可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度は、前記光信号の強度と前記雑音光の強度とを確率的に同期させることにより、前記入力光が前記半導体光増幅素子の立上がり閾値及び立下がり閾値を上下して前記出力光の振幅が急激に増大するように調整されているものである。
それゆえ、近赤外光の光信号を含む入力光の光強度が、従来の素子では検知が困難なほど微弱であっても、出力光の振幅を増大させて光信号のS/N比を向上して検出することができる半導体光増幅素子及び脈波計測装置を提供できるという効果を奏する。
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1における半導体光増幅素子1の共振器側面の概略的な構成を示した断面図である。
図1を参照して、実施の形態1の半導体光増幅素子1は、活性層2と、n型InP(インジウムリン)基板9と、n型InPクラッド層14と、p型InPクラッド層13と、p電極(第1の極性の電極)10〜12と、n電極(第2の極性の電極)15とを備える。n型InP基板9の上に、n型InPクラッド層14が形成されている。n型InPクラッド層14の上に、活性層2が形成されている。
活性層2は、InGaAsP(インジウムガリウム砒素リン)から構成されている。活性層2は、近赤外光の光信号を含む入力光Pinを受光して、入力光Pinを増幅し出力光Poutとして出射する。そして、活性層2は、可飽和吸収領域4と、光増幅領域5,6とを含む。光増幅領域5,6は、半導体光増幅素子1の共振器側面から見て、可飽和吸収領域4の両側にそれぞれ設けられている。光増幅領域5は、入力光Pinが入射される入射面7を有する。光増幅領域6は、出力光Poutが出射される出射面8を有する。可飽和吸収領域4は、光吸収機能を有していると共に、該光吸収機能について飽和状態をとることが可能となっている領域である。また、光増幅領域5,6は、入力光Pinを増幅するための領域である。
活性層2の上に、p型InPクラッド層13が形成されている。p型InPクラッド層13の上に、p電極10〜12が設けられている。p電極10は、可飽和吸収領域4に対して設けられており、p電極11,12は、光増幅領域5,6に対してそれぞれ設けられている。p電極10〜12からは、注入電流がそれぞれ注入される。p電極10〜12に対応して、n型InP基板9の下にn電極15が設けられている。すなわち、n電極15は、p電極10〜12と対向して設けられている。
光増幅領域5,6には、p電極11,12を介して、バイアス電流がそれぞれ注入される。可飽和吸収領域4には、p電極10を介して、光増幅領域5,6とは独立にバイアス電流が注入される。
可飽和吸収領域4及び光増幅領域5,6からなる活性層2は、入力光Pinに対する出力光Poutの対応関係において、入力光Pinが、少なくとも1つ以上の所定の閾値を上回り又は下回る場合に、出力光Poutが急激に変化する不連続点が存在する光入出力特性を有している。
具体的には、可飽和吸収領域4及び光増幅領域5,6は、半導体光増幅素子1が双安定状態となる条件で構成されている。双安定状態とは、半導体光増幅素子1の光の入出力特性にヒステリシスが現れる状態である(図5の(a)も参照)。すなわち、双安定状態とは、不連続点が存在する光入出力特性を有している状態である。
光増幅領域5,6へ直流電流を注入すると、半導体光増幅素子1は双安定状態となって動作する。光の共振器方向における可飽和吸収領域4の長さは、光の共振器方向の長さ全体の約10%としている。
実施の形態1の半導体光増幅素子1は、活性層2が可飽和吸収領域4と光増幅領域5,6との3つに分割されているのに合わせて、p電極も3つに分割されている。つまり、半導体光増幅素子1は、可飽和吸収領域4及び光増幅領域5、6にそれぞれ注入される注入電流の制御をより独立に行いやすい構造となっている。
これにより、可飽和吸収領域4を流れる電流と光増幅領域5、6を流れる電流とが互いに干渉してしまうのを回避することができる。なお、図1ではp電極のみが分割されている例を示しているが、これは一例であり、電流を独立に注入するにはp電極とn電極がともに分割されていてもよい。
半導体光増幅素子1の活性層2のうち、可飽和吸収領域4の部分にはキャリア寿命を調整するために不純物を添加している。ここでは、不純物としてSi(シリコン)を1×1019cm−3添加している。
次に、半導体光増幅素子1の動作について説明する。以下では、非周期的でランダムな強度変化を持ち、光信号に対する雑音として活性層に意図的に注入する光(雑音光)を「付加雑音光」と称し、伝送路等に起因する雑音とは区別している。
図2〜図4は、この発明の実施の形態1における半導体光増幅素子1の活性層2への入力光Pinがどのように生成されるかを説明するための図である。
図2に示す光信号P0は、生体に照射されて吸収・散乱を受けて劣化した光であり、脈波を反映している。図2は光信号P0の時間波形を示す波形図である。脈波は心拍に呼応して周期的に繰り返されるため、図2の時間波形のような増減を繰り返すパルス状の信号として観測される。よって図2に示すように光信号P0は脈波の拍動に従って極大値と極小値が繰り返し現れるが、以下ではこの極大値をピーク、極小値をボトムと呼ぶ。
図3は、付加雑音光Pnの時間波形を示す波形図である。以下では、付加雑音光Pnの最大値と最小値との差分(差)ΔPnを付加雑音光Pnの雑音強度と呼ぶ。付加雑音光Pnは有色雑音の強度変化を示す。周波数帯域を持たない白色雑音に対し、有色雑音は周波数帯域を有する。有色雑音の周波数帯域は、カットオフ周波数によって表わされる。
図4は、図2の光信号P0に図3の付加雑音光Pnを付加した入力光Pin=P0+Pnの時間波形を示す波形図である。図3に示す付加雑音光Pnは図2の光信号P0の波形を大きく崩さない程度の微弱な雑音であるため、図4の入力光Pinにおいても元の光信号P0のピークとボトムが反映されている。こうして生成された入力光Pinは、図1の半導体光増幅素子1の活性層2へと注入される。
図5は、この発明の実施の形態1における半導体光増幅素子1の動作特性を説明するための説明図である。
図5の(a)は図1の半導体光増幅素子1における光の入出力特性を示す波形図であり、図5の(b)は図4で説明した入力光Pinの時間波形を示す波形図であり、図5の(c)は図5の(b)の入力光Pinを半導体光増幅素子1に注入した結果得られる出力光Poutの時間波形を示す波形図である。図5の(a)において、横軸は入力光Pinの光強度、縦軸は入力光Pinに応じて得られる出力光Poutの光強度をそれぞれ表わす。
図5の(a)に示すように、一般に双安定半導体レーザでは、入力光の強度に対する出力の光強度の関係にヒステリシスの特性がみられ、ヒステリシスの範囲内では、ある入力光の強度に対する出力光の強度の安定状態が、ヒステリシス上部B1とヒステリシス下部A1との2つ存在する、双安定状態となっている。すなわち「双安定状態」とは、例えば、入力光強度に対する出力光強度の対応関係において、入力光強度が、2つの所定の閾値(立上り閾値または立下り閾値)を上回り又は下回る場合に、出力光強度が急激に変化する不連続点が存在する光入出力特性のことである。
どちらの値をとるかはそれまでの入力光の状態によって異なる。
この双安定状態を生じさせるには、本実施の形態1のように半導体レーザの活性層中に可飽和吸収領域を設けることがひとつの方法である。可飽和吸収領域には光吸収効果があるが、キャリア濃度がある一定の飽和量を超えると光吸収効果が飽和し、光を吸収せず透過させる働きを持つ。また、飽和していてもキャリア濃度がある一定以下になると再び光吸収効果が回復する。飽和量は活性層の組成や不純物の注入量によって好適に決定できるため、半導体プロセスによってもヒステリシスの形状をコントロールできる。
双安定半導体レーザの光増幅領域にのみ入力光を注入していくと、出力光Poutの強度はヒステリシス下部A1の曲線に沿って増大していく。このとき、光増幅領域で発生した光を吸収することにより、可飽和吸収領域でのキャリア濃度が増大していく。これに伴い、可飽和吸収領域の光吸収効果は減少していく。
さらに光増幅領域への入力光Pinの強度を増大させていくと、可飽和吸収領域の光吸収効果が飽和するために出力光Poutの強度が急激に増し、A1で示したヒステリシス下部の状態からB1で示したヒステリシス上部へと急激に増大する。このヒステリシス下部A1からヒステリシス上部B1へ出力光Poutの状態が移行する光強度を本明細書ではヒステリシスの立ち上がり閾値(所定の閾値)PthONと呼ぶ。
さらに、今度は光増幅領域への入力光Pinの強度を減らしていくと、可飽和吸収領域はすぐには光吸収効果を回復できないために出力光Poutの強度は急激には減らないので、立ち上がり閾値PthONにおいてもヒステリシス下部A1に移行せずに、ヒステリシス上部B1をたどって緩やかに減少していく。このとき、可飽和吸収領域のキャリア濃度及び出力光Poutの強度が減少していく。
さらに光増幅領域への入力光Pinの強度を減少させていくと、キャリア濃度及び出力光Poutの強度の減少によって可飽和吸収領域の光吸収効果が回復し、入力光Pinの強度がPthOFFとなったところで出力光Poutの強度がヒステリシス下部A1へ急激に減少する。このPthOFFを本明細書ではヒステリシスの立下り閾値(所定の閾値)と呼ぶ。
ヒステリシスの立ち上がり閾値PthON及び立下り閾値PthOFFは、図2及び図4においても示されている。
このように、双安定状態では、立下り閾値が立上がり閾値よりも低い。一方、立下り閾値と立ち上がり閾値が一致する状態(例えば、後述する単安定状態)の場合、出力光Poutの強度が、出力光強度の高い状態に押しあがっても、出力光強度の低い状態にすぐに落ちてしまう確率が高くなってしまうので、双安定状態の場合よりも、振幅の増大効果が薄れてしまう。すなわち、上述した、双安定状態では、立下り閾値が立上がり閾値よりも低いことにより、振幅をより確実に増大させることが可能となっている。
図2を参照して、付加雑音光Pnを印加する前の光信号P0の強度は、最大値がヒステリシスの立ち上がり閾値PthONより小さくなるほど劣化している。そのため、図2の光信号P0を図1の半導体光増幅素子1の活性層2に注入しただけでは、出力光Poutの強度は図5の(a)の入出力特性曲線上でヒステリシス下部A1に留まり、ヒステリシス上部B1へと移行することができない。
図2の光信号P0に図3の付加雑音光Pnを印加した入力光Pinは、図4に示すように、光信号P0のピーク近傍で光強度がヒステリシスの立ち上がり閾値PthONを越えるので、図5においても光信号P0のピーク近傍で光強度がヒステリシスの立ち上がり閾値PthONを越える。そして入力光Pinは光信号P0のピークを過ぎると再びPthON以下となり、さらに入力光Pinが減少するとPthOFF以下となって出力光Poutの強度はヒステリシスの下部へ移行する。
このように、図5の(a)のような入出力特性を有する双安定半導体レーザに対して図5の(b)に示すように閾値PthOFF以下の光強度と発振閾値PthON以上の光強度との間で変動を繰り返す入力光Pinを注入すると、入力光Pinが立ち上がり/立ち下がり閾値を超えることによって、出力光Poutの強度がヒステリシスの上下を移行する。これにより、出力光Poutの光強度が急激に増減する。よって図5の(c)に示すように入力光の振幅に比べて出力光の振幅が増大するので、入力光に含まれる近赤外の光信号P0の周期を反映した振幅の増幅効果が得られる。これにより、劣化した微弱な光信号の検出、光信号のS/N比の向上などの効果が得られる。
すなわち、入力光Pinのピークが閾値を超える確率に比べて、ピーク以外のバックグラウンド部分は閾値を超える確率が低いので、得られる出力光Poutは、入力光Pinに含まれる光信号P0のピークを強調したものになる。つまり、光信号P0の周期を反映するように光出力の振幅が増大するので、入力光Pinに対する出力光Poutにおける光信号のS/N比を向上させることが可能となる。
このように、受光素子のヒステリシスの閾値を超えられないほど劣化して弱まった信号に雑音を付加すると、双安定半導体レーザからなる受光素子において光信号P0のピークに応じて入力光Pinの強度が入出力特性の閾値を超えることができ、ヒステリシスを上下するので、微弱な信号も検出できる。また入力光に含まれる近赤外の光信号P0の周期を強調するように強度が増幅された出力光が得られる。雑音を付加することでかえって光信号のS/N比が向上するこうした効果は「確率共鳴」と呼ばれる現象であり、通常の機能素子が検出できないような微弱な信号を検出、増幅することができる。
その結果、図5の(c)に示すように、脈波が反映されている光信号P0の周期が強調され振幅が増大した出力光Poutを得ることができる。
付加雑音光Pnは、光信号P0に印加される際、出力光Poutが伝送路等に起因する雑音の低減効果を得られるような雑音強度とカットオフ周波数とを有するように適度に調整される。
なぜなら、付加雑音光Pnの雑音強度が小さすぎると、出力光Poutの強度がヒステリシスの上部へ移行することが出来ず、光信号のS/N比を向上するために必要な大きさの振幅を持つ出力光Poutを得られないからである。また、付加雑音光Pnの雑音強度が大きすぎると、光信号P0の波形とは無関係に出力光Poutの強度がヒステリシスの上部へ移行するため、出力光Poutの強度変化がランダムになってしまい、光信号のS/N比を向上できないためである。
また、付加雑音光Pnのカットオフ周波数が高くなると、それとともに雑音強度も大きくなり、ヒステリシス上下の移行に影響を及ぼす。
図6は、付加雑音光Pnの雑音強度を変化させたときの出力光Poutの光信号のS/N比を示した図である。
図6に示すように、光信号のS/N比は、最適な雑音強度Dmにおいて最大となる。実施の形態1では、この最適な雑音強度Dmを有する付加雑音光Pnを光信号P0に付加している。これにより、適度な付加雑音光Pnが微小な光信号P0をヒステリシスの上部に押し上げ、振幅が大きく光信号のS/N比が向上した出力光Poutの発生を可能にしている。実施の形態1では、出力光Poutの光信号のS/N比が最大である最適な雑音強度Dmを有するように、付加雑音光Pnを調整している。
このように、付加雑音光Pnは、光信号のS/N比の向上効果を得られるような雑音強度とカットオフ周波数とに適度に調整されて、光信号P0とともに、図1の半導体光増幅素子1の光増幅領域5,6に注入される。付加雑音光Pnの雑音強度とそのカットオフ周波数とを適度に調節して光信号P0に付加することにより、入力光Pinの値を、光信号P0の値を中心値としてランダムに変化させている。
このとき、光信号P0のピーク及び/またはボトムと、光信号P0とともに光増幅領域5,6に注入される付加雑音光Pnの強度とを確率的に同期(共鳴)させることで、光信号P0が脈波を反映したピークまたはボトムとなるタイミングに出力光Poutの強度がヒステリシスの上下に移行する。これにより、ヒステリシス上下の強度差に応じて出力光の振幅が増大するので、光信号P0よりも振幅が増大し光信号のS/N比も向上した出力光Poutを得ることができる。
付加雑音光Pnの代わりにクロック光または周期信号光を光信号P0に付加してヒステリシスの上部に移行させようとした場合、位相及び周期が光信号P0と完全に同一か正確に倍数になっていて両者のピークが同期しなければ、大きな振幅の出力光Poutは得られない。よって、光信号P0の時間変動が激しく波形がゆらいでいると、光信号のS/N比の向上効果は低減してしまう。
これに対し、ランダムな強度変化を持つ付加雑音光Pnは様々な周波数成分を有するので、信号波形のゆらぎにも強くなり、光信号のS/N比の向上効果を維持できる。また、周期信号光を発生させるよりも付加雑音光Pnを発生させるほうが消費電力が少なくてすむ利点がある。
また、光増幅領域5,6及び可飽和吸収領域4に電流を注入しており、この電流の値を調整して注入することによってもヒステリシスを制御できるので、光信号P0にゆらぎが生じたときにも出力光Poutの光信号のS/N比を向上させるようにヒステリシスの形状を好適に調整できる。
以上のように、光信号P0には、付加雑音光Pnが付加されており、雑音強度Dm、光増幅領域5,6に注入される注入電流の強度、及び可飽和吸収領域4に印加される印加電圧の強度は、光信号P0のピーク及び/またはボトムと付加雑音光Pnの強度とを確率的に同期させることにより、入力光Pinが半導体光増幅素子1の立上がり閾値及び立下がり閾値を上下して出力光Poutの振幅が急激に増大するように調整されている。
これにより、光信号P0に基づいた振幅が増大し高い光強度を有する出力光Poutが得られる。よって実施の形態1の半導体光増幅素子1を用いれば、デバイスの発振閾値以下にまで弱まった劣化した光信号P0も検出でき、さらに、脈波を反映した振幅が増幅され強調された出力光Poutを得ることができる。よって、出力光のPoutの光信号のS/N比を向上でき、微弱な脈波も検出できる。
さらに、図1の半導体光増幅素子1は、光増幅領域5,6と可飽和吸収領域4とで独立に電流を注入しているので、電流注入によってヒステリシスを制御できる。これにより、立ち上がり閾値PthONを低くしてより低電流で駆動したり、出力光Poutの振幅を調整したりできる。
また、活性層2は、量子井戸構造を有しているので、状態密度関数を制御して光利得をより得ることができ、光強度が小さい入力光からより大きな光出力を得られるというメリットが得られる。なお、図1において、入射面7と出射面8とを別個に作らずとも、光信号のS/N比が向上した出力光Poutを得ることは可能である。しかしながら、図1のように入射面7と出射面8とを作り分けた方が、入力光Pinと出力光Poutとをそれぞれ制御しやすく、光学系の光軸の調整も容易となるので望ましい。
また活性層2に注入する電流の少なくともひとつを一定電流に変更してもかまわない。この場合においても、劣化した信号を増幅し、光信号のS/N比が向上された出力光Poutを得られる。ただし光信号のS/N比向上効果を最大に得られるように調整しにくくなるが、変調回路を減らせるので、構成が簡潔になる。
また、付加雑音光Pnのカットオフ周波数は最適に調整せずとも、光信号のS/N比の向上効果を得ることは可能である。しかし、カットオフ周波数は雑音強度に影響するので、調整した方がより最適な雑音強度を得やすくなり、光信号のS/N比の向上効果も得られるため望ましい。
また、図1において、可飽和吸収領域4の光の共振器方向に占める長さは、約10%でなくとも光信号のS/N比の向上効果を得ることは可能である。
しかし、可飽和吸収領域4の光の共振器方向に占める長さの割合が小さくなると、それにともなって半導体光増幅素子1の双安定状態が実現しにくくなる。特に、当該割合が1%未満で双安定状態の半導体素子を作製しようとすると、作製工程の手間や拡散材料の選定等が著しく困難となる。したがって、可飽和吸収領域4の光の共振器方向に占める長さの割合は、1%以上であることが望ましい。
逆に、可飽和吸収領域4の光の共振器方向に占める長さの割合が大きくなると、それにともなって発振閾値も上昇する。特に、当該割合が50%より大きくなると、消費電力が著しく増大し、その結果、発熱が大きくなる。
また、可飽和吸収領域4の光の共振器方向に占める長さの割合が大きくなると、ヒステリシスの形状を最適にするために注入電流を増やす必要が生じる。特に、当該割合が50%より大きくなると、消費電力が著しく増大し、その結果、発熱が大きくなる。さらに、ヒステリシスの形状が最適でない場合には、光信号のS/N比の向上効果が減少し、出力光Poutの強度の増大も低減する。
これらの理由により、光の共振器方向における可飽和吸収領域4の長さの割合は、1%以上で、かつ50%以下であることが望ましい。これにより、双安定状態を満足しやすくなり、かつ発振閾値を低くでき、またヒステリシスの形状も好適に決定できる。また、消費電力も発熱も少なくて済み、光信号のS/N比の向上効果を得やすくなり、さらに素子の作製条件を満たしやすくなるという利点がある。
また、図6を参照して、付加雑音光Pnの強度は、光信号のS/N比が最大である最適雑音強度Dmとなるように調整されている。しかしながら、付加雑音光Pnの強度はこれに限るものではなく、得られる出力光Poutが、脈波計測で必要とされる光信号のS/N比の値を満たす範囲の雑音強度であればかまわない。その場合、付加雑音光Pnの最大値と最小値との差が半導体光増幅素子1の入力光Pinの振幅の1/10以下であれば、光信号のS/N比が向上された出力光Poutが得られる。
付加雑音光Pnの強度が強すぎると、出力光Poutの波形が崩れるので雑音の低減は起こらなくなる。少なくとも、付加雑音光Pnの雑音強度ΔPnが光信号P0の振幅より大きい場合、光信号P0の波形及び周期を再現できなくなるため、光信号P0の検出ができなくなる。これに対し、付加雑音光Pnの雑音強度が入力光Pinの振幅の1/10以下であれば、さらに出力光Poutの振幅を大きくでき、光信号のS/N比を向上することができるため、好ましい。
また、付加雑音光Pnとして有色雑音を用いたが、強度変化が非周期的でランダムであれば、有色雑音でなくとも光信号のS/N比の向上効果を得ることは可能である。しかし、有色雑音を用いた場合、カットオフ周波数によって有色雑音の周波数帯域を調整することができる。そのため、光信号P0の周波数に合わせて有色雑音の周波数帯域を調整することで、光信号のS/N比の向上効果をより得やすくなるというメリットがある。
なお、図1ではp電極を3つ設ける場合について説明したが、電極の数はこれに限るものではなく、p電極及びn電極をそれぞれ2つ以上用いた、双安定状態を有する他の半導体光増幅素子についても、同様に光信号のS/N比の向上効果を得ることが可能である。しかし、図1に示した半導体光増幅素子1のように、光増幅領域を2つ設け、それぞれに対応した電極を作る方が、入力光Pinと出力光Poutとをそれぞれ制御しやすくなるというメリットがある。
また、図1において、光増幅領域5,6ではなく可飽和吸収領域4に付加雑音光Pnを注入しても、光信号のS/N比が向上した出力光Poutを得ることができる。この場合、可飽和吸収領域4が飽和しやすくなるので光の注入量の上限が低くなり、付加雑音光Pnの雑音強度を好適に決定しづらくなるものの、可飽和吸収領域4への付加雑音光Pnの注入によってヒステリシス形状を調整しやすくなる。付加雑音光Pnの注入量を変えることによって、半導体光増幅素子1の立ち上がり閾値PthON及び立ち下がり閾値PthOFFを変動させ、ヒステリシス形状を調整することも可能である。したがって、この場合においても付加雑音光Pnの雑音強度及びそのカットオフ周波数を、入力光Pinのボトムまたはピークに応じて立ち上がり閾値PthONを上下するように最適に調整することで、大きい振幅を持ち、かつ光信号のS/N比が向上した出力光Poutが得られる。
また、付加雑音光Pnは、光信号P0に付加してから半導体光増幅素子1の光増幅領域5,6に注入せずとも、別々の回路を介して独立に光増幅領域5,6に注入してもよい。その場合、回路が余分に必要になり光軸の調整を要するものの、雑音強度の調整がやりやすくなるという利点がある。
また、半導体光増幅素子1は、脈波を検出するために適した波長であれば、InGaAsP系の半導体だけでなくたとえば、AlGaAs(アルミニウムガリウム砒素)系、InP(インジウムリン)系など、他の材料を用いた半導体レーザであってもよい。
また、半導体光増幅素子1の活性層2のうち可飽和吸収領域4の部分にはキャリア寿命を調整するために不純物としてSiを1×1019cm−3添加しているが、半導体光増幅素子1が双安定状態となる条件を満たすのであれば、この値に限るものではない。
また、半導体光増幅素子1から出力され出力光Poutを受光素子で受光してもよい。この場合、受光した出力光Poutの一部を光電変換素子などで電気信号に変換して利用できるというメリットがある。さらに、半導体光増幅素子1と上記の受光素子とを同一基板上に集積すれば、個別に配置するよりもコストダウンとなり、半導体光増幅素子1と当該受光素子との光軸合わせを行なう必要もなくなる。
以上のように、実施の形態1によれば、光信号P0に付加雑音光Pnを印加した入力光Pinを双安定状態の半導体光増幅素子1に注入することによって、光信号P0の周期を反映した状態で振幅が増大するので、振幅が強調された出力光Poutを、消費電力や回路への負担が少なく、得ることができる。これにより、脈波が反映された光信号のS/N比を向上することが可能となる。
(実施の形態1の変形例1)
次に、図7を用い、実施の形態1における半導体光増幅素子1の第1の変形例である半導体光増幅素子1Aについて説明する。図7は、半導体光増幅素子1Aの共振器側面の概略的な構成を示した断面図である。
図7に示す半導体光増幅素子1Aは、付加雑音光Pnとして有色雑音の代わりに白色雑音を用いた以外は、実施の形態1の半導体光増幅素子1と同じである。したがって、図1等と重複する部分の説明はここでは繰り返さない。半導体光増幅素子1Aにおいても、劣化した信号を検知して増幅し、光信号のS/N比が向上した出力光Poutを得られる。
半導体光増幅素子1Aは、光信号のS/N比効果を最大に得られるように付加雑音光のカットオフ周波数によって調整することができず、確率共鳴現象を起こしにくくなるが、構成が簡潔で実装がコンパクトになるという利点がある。
(実施の形態1の変形例2)
次に、図8を用い、実施の形態1における半導体光増幅素子1の第2の変形例である半導体光増幅素子1Bについて説明する。図8は、半導体光増幅素子1Bの共振器側面の概略的な構成を示した断面図である。
図8に示す半導体光増幅素子1Bは、付加雑音光Pnが付加雑音電流Inに置き換えられた点において、図1の半導体光増幅素子1と異なる。したがって、図1等と重複する部分の説明はここでは繰り返さない。以下では、非周期的でランダムな強度変化を持ち、光信号P0に対する雑音として半導体光増幅素子1Bの活性層2に注入される電流を「付加雑音電流」と称する。
図9,10は、半導体光増幅素子1Bの活性層2への光信号P0及びp電極11,12を通じて付加される付加雑音電流Inについて説明するための図である。
図9は、半導体光増幅素子1Bに入射される光信号P0の時間波形を示す波形図である。図9に示す光信号P0は、図2で説明したものと基本的に同一であり、図5の(a)における半導体光増幅素子1の立ち上がり閾値PthON以下である。
図10は、半導体光増幅素子1Bに注入される付加雑音電流Inの時間波形を示す波形図である。付加雑音電流Inには、有色雑音が用いられている。付加雑音電流Inは、半導体光増幅素子1Bのp電極11,12を通じて供給される電流とともに活性層2内の光増幅領域5,6へと注入される。付加雑音電流Inは、出力光Poutが光信号のS/N比の向上効果を得られるような電流値に適度に調整されている。以下では、付加雑音電流Inの電流値の最大値と最小値との差分(差)を、付加雑音電流Inの最大振幅ΔInと呼ぶ。
光増幅領域に電流を注入せず、可飽和吸収領域4にバイアスを印加しない状態では、光信号P0の強度は生体への照射による劣化によって図5の(a)におけるヒステリシスの立ち上がり閾値PthONを越えられないほど微弱である。そのため、光信号P0を活性層2に注入しただけでは、出力光Poutは、図5の(a)の入出力特性曲線上でヒステリシス下部に留まり、ヒステリシス上部へと移行することはできない。
そこで、付加雑音電流Inを半導体光増幅素子1Aの光増幅領域5,6の活性層2へと注入する。光信号P0によって半導体光増幅素子1Aの活性層2に注入された光子には、付加雑音電流Inの注入により活性層2にキャリアが注入されて発生した光子が付加される。これにより、光増幅領域5,6の光子が増大し、出力光Poutが立ち上がり閾値PthONbを越えやすくなる。
このとき、付加雑音電流Inの変動に伴ってキャリアの増加量も変動する。そこで、付加雑音電流Inを、脈波を反映している光信号P0のピークやボトムに応じて入力光Pinが立ち上がり閾値PthON、立下り閾値PthOFFを上下するように最適に調整する。これにより、大きい振幅を持ち、かつ光信号のS/N比が向上した出力光Poutが得られる。
上記のように、実施の形態1の変形例2では、付加雑音電流Inの最大振幅ΔInを、光信号のS/N比の向上効果が最大に得られるよう最適に調整している。よって、半導体光増幅素子1Aの立ち上がり閾値PthON以下である微弱な光信号P0であっても検出して増幅することができる。
なお、付加雑音電流Inとして有色雑音を用いたが、強度変化が非周期的でランダムであれば、有色雑音でなくとも光信号のS/N比の向上効果を得ることは可能である。すなわち、付加雑音電流Inとして白色雑音を用いることも可能である。
以上のように、実施の形態1の変形例1によれば、付加雑音光Pnの代わりに、付加雑音電流Inを半導体光増幅素子1Aの活性層2へと注入することにより、振幅が増大し光信号のS/N比が向上された出力光Poutを得ることができる。
なお、実施の形態1の変形例2は、実施の形態1の変形例1及び以下で説明する実施の形態1の変形例3にも適用することが可能である。
(実施の形態1の変形例3)
次に、図11を用い、実施の形態1における半導体光増幅素子1の第3の変形例である半導体光増幅素子1Cについて説明する。図11は、半導体光増幅素子1Cの側面の概略的な構成を示した断面図である。
図11に示す半導体光増幅素子1Bは、双安定状態の半導体素子とは入出力特性の異なる非線形の半導体光素子が用いられている点において、図1の半導体光増幅素子1と異なる。したがって、図1等と重複する部分の説明はここでは繰り返さない。半導体光増幅素子1Cは、たとえばInGaAsP系化合物半導体によって作製されている。
図12は、半導体光増幅素子1Cの入力光Pin及び出力光Poutの入出力特性の一例を示した図である。
図12に示すように、半導体光増幅素子1Cは、不連続性を有する入出力特性を示す。このような、入出力特性が不連続性を示す半導体レーザの例としては、単安定状態の半導体レーザを挙げることができる。単安定状態が、上述のヒステリシスを伴う双安定状態と異なっているのは、入力光の立ち上がり閾値(所定の閾値)と立ち下がり閾値(所定の閾値)とが一致していることである。その結果、単安定状態では、光入出力特性においてヒステリシスを伴わないものとなる。半導体光増幅素子1Cの活性層2に電流または光を注入していくと、閾値Pthで出力光Poutの強度が急峻に立上がる。図12の不連続特性において、立ち上がり閾値を越えない状態の出力光Pout及び立ち上がり閾値を越えた状態の出力光Poutを利用することにより、微弱な光信号P0を増幅・検出でき、光信号のS/N比の向上効果が得られる。
なお、上記のような入出力特性の不連続性を有する半導体光増幅素子1Cは、たとえば、光増幅領域5,6に対する可飽和吸収領域4の体積比を図1の半導体光増幅素子1よりも小さくするか、一般的な双安定半導体レーザの可飽和吸収領域4に適度な電流を注入することによって得られる。
以上のように、実施の形態1の変形例3によれば、ヒステリシスを持たず不連続な入出力特性を有する半導体光増幅素子1Cにおいて、入出力特性の立ち上がり閾値を越えない状態の出力光Pout及び立ち上がり閾値を越えた状態の出力光Poutを利用することにより、振幅が増大して光信号のS/N比が向上された出力光Poutを得ることができる。
変形例3の半導体光増幅素子1Cにも、双安定半導体レーザを用いた実施の形態1の半導体光増幅素子1と同様の機能を持たせることができる。変形例2では、ヒステリシスが無いので実施の形態1と比較すると光信号P0の増幅効果はやや劣るが、入力光Pinに対する出力光Poutにおける光信号のS/N比の向上などの効果が得られる。
[実施の形態2]
図13は、この発明の実施の形態2による脈波計測装置20の概略的な構成を示した図である。
図13を参照して、実施の形態2の脈波計測装置20は、フィードバック制御回路21と、可変抵抗制御部22と、可変抵抗23と、確率共鳴制御回路24と、電流供給部25と、電圧制御回路26と、電圧供給部27と、光電変換素子28と、光源50とを備える。可変抵抗23は、位相を含めて制御可能な可変インピーダンス素子であってもよい。光電変換素子28は入射される出力光Poutを受けて内部で処理し、受信信号Sr、受信電流Ir1,Ir2などを出力する。
半導体光増幅素子1は、光増幅領域31,32と可飽和吸収領域33とを含む活性層34と、p電極35〜37と、n型InP基板41と、クラッド層38,39と、n電極40とを含む。活性層34は、量子井戸構造を有する。
p電極35,36は、それぞれ光増幅領域31,32に対応するようにクラッド層38上に形成されている。p電極35,36は、電流供給部25から出力される付加雑音電流Inを受ける。p電極37は、可飽和吸収領域33に対応するようにクラッド層38上に形成されている。p電極37は、可変抵抗23に接続されており、電圧供給部27から電圧が印加される。n電極40は、n型InP基板41とクラッド層39の下に設けられている。n電極40は、電圧供給部27から電圧が印加されるとともに、接地ノードに接続されている。
フィードバック制御回路21は、光電変換素子28から出力される受信電流(受信信号)Ir1を受けて、可変抵抗制御部22に制御信号を出力する。可変抵抗制御部22は、フィードバック制御回路21からの制御信号に従って、半導体光増幅素子1のp電極37に接続されている可変抵抗23の抵抗値を調整する。確率共鳴制御回路24は、光電変換素子28から出力される受信電流Ir2を受けて、電流供給部25に制御信号を出力する。電流供給部25は、確率共鳴制御回路24からの制御信号に従って、雑音を含む電流を半導体光増幅素子1のp電極35,36に供給する。電圧制御回路26は、フィードバック制御回路21からの制御信号に基づいて、電圧供給部27に制御信号を出力する。電圧供給部27は、電圧制御回路26からの制御信号に従って、可変抵抗23を介してまたは直接に半導体光増幅素子1のp電極37に電圧を印加する。
次に、脈波計測装置20の動作及びこれを用いた半導体光増幅素子1の駆動方法について説明する。
脈波計測装置20の半導体光増幅素子1は、光増幅領域31において入力光Pinを受け、p電極35,36からの制御に応じて、光増幅領域32から出力光Poutを出射する。入力光Pinは、光源50から生体に照射された光Psが生体を透過する過程で散乱・吸収され一般に劣化しているものである。
光源50は、たとえば近赤外域のLEDが用いられる。光源を取り付ける部位は、たとえば人差し指の爪の上が用いられる。
フィードバック制御回路21は、光電変換素子28を介して出力光Poutの状態をモニターしている。フィードバック制御回路21は、半導体光増幅素子1の入出力特性を調整するための制御信号を、可変抵抗制御部22及び電圧制御回路26にそれぞれ出力する。なお、半導体光増幅素子1の入出力特性は、図5の(a)に示されている特性と基本的には同じである。
フィードバック制御回路21には、可変抵抗23の抵抗値などの駆動条件に応じた半導体光増幅素子1の入出力特性のデータが予め入力されている。フィードバック制御回路21は、当該入力データに基づいて、半導体光増幅素子1の入出力特性のヒステリシスが所望の形状となるように、可変抵抗制御部22での抵抗値を算出する。
可変抵抗制御部22は、フィードバック制御回路21からの制御信号に従って、半導体光増幅素子1の所望の入出力特性が得られるように可変抵抗23の抵抗値を調整する。半導体光増幅素子1は、可変抵抗23の抵抗値の増減によって、可飽和吸収領域33の電流値が増減する。
これにより、可飽和吸収領域33内のキャリア量が変化するので、光吸収効果を制御できる。なぜなら、半導体光増幅素子1のヒステリシスの形状は、可飽和吸収領域33への光注入または電流注入によるキャリア量の変化に影響を受けるからである。可飽和吸収領域33に電流が注入されるとキャリアの注入により光子が発生する。また光増幅領域31,32からの光が可飽和吸収領域33に注入されると光子が発生する。これらの結果として、可飽和吸収領域33の光子が増加する。これにより、可飽和吸収領域33の光吸収効果が減少し、ヒステリシス全体が注入電流値の低い側へ移動する。これを利用して、可飽和吸収領域33へ注入する光の強度または電流値を変動させることによってヒステリシスの形状も変動させることができる。
よって、脈波計測装置20は、可変抵抗23の値によっても半導体光増幅素子1の入出力特性のヒステリシス形状を制御することができる。
電圧制御回路26は、フィードバック制御回路21からの制御信号に従って、電圧供給部27を制御する。電圧供給部27は、電圧制御回路26からの制御信号に基づいて、半導体光増幅素子1に印加する電圧値を上下させる。脈波計測装置20は、電圧制御回路26及び電圧供給部27を用いて半導体光増幅素子1に与える電圧値を制御することで、半導体光増幅素子1の立ち上がり閾値及び/または立下がり閾値を上下させることができる。これにより、半導体光増幅素子1に入射する入力光Pinの平均光強度が大きく変化した場合にも対応できる。また、入力光Pinが光信号P0のボトムに相当する値をとるタイミングにあわせて、逆バイアスを印加してキャリアを引き抜き、半導体光増幅素子1の応答速度を向上させることもできる。
確率共鳴制御回路24は、光電変換素子28を介して出力光Poutの状態をモニターしている。確率共鳴制御回路24は、半導体光増幅素子1の入出力特性を調整するための制御信号を電流供給部25に出力する。
電流供給部25は、確率共鳴制御回路24からの制御信号に従って、雑音を含む電流をp電極35,36を介して半導体光増幅素子1に注入する。この付加雑音電流Inは、確率共鳴効果によって振幅が増大し光信号のS/N比が向上した出力光Poutが得られるように雑音が調整された電流である。
上記のように、実施の形態2の脈波計測装置20は、電流制御に加えて、可変抵抗値制御及び電圧制御によって、半導体光増幅素子1のヒステリシス形状を調整している。脈波計測装置20は確率共鳴効果を得るために、半導体光増幅素子1のヒステリシス形状を調整して入出力特性を最適化する。
よって、実施の形態2の脈波計測装置20は、確率共鳴による入力光Pinの増幅を行なうのに最適なヒステリシス形状の入出力特性で半導体光増幅素子1を作動させることが可能となる。半導体光増幅素子1によって光強度が増大した出力光Poutは、光電変換素子28で検出される。これにより、脈波計測装置20は、通常の受信器では検出できないような微弱な信号を検出できる受信器として機能する。
なお、図13のようなp電極35〜37及びn電極40の構成は一例であって、光増幅領域31,32と可飽和吸収領域33とに対して独立に電流を注入できるのであれば、p電極35〜37及びn電極40はどのように分割されていても構わない。また、p電極35〜37からの制御及び入力光Pinに応じて出力光Poutを出射できるのであれば、出力光Poutが光増幅領域31または可飽和吸収領域33から出射されても構わない。
さらに、可飽和吸収領域33の体積比が活性層34全体の50%以上になると半導体光増幅素子1の消費電力が増大するので、可飽和吸収領域33の活性層34に対する体積比は、できれば50%以下が望ましい。
また、実施の形態2の脈波計測装置20では、光増幅領域31,32に光または電流を注入しても、半導体光増幅素子1のヒステリシス形状を制御でき、光信号のS/N比の向上効果が得られる。光増幅領域31,32に光が注入されると光子の注入によりキャリアが発生する。光増幅領域31,32に電流が注入されるとキャリアが発生する。これらの結果、光増幅領域31,32のキャリアが増大し、半導体光増幅素子1にバイアスがかかる。さらに、光増幅領域31,32へ注入する光の強度または電流値を変動させることでバイアス量が変動する。この場合、制御するパラメータが多くなって処理が複雑になるが、光信号のS/N比を向上させるためにヒステリシスの状態をより好適に決定できるという利点がある。
また、実施の形態2の脈波計測装置20では、可飽和吸収領域33に電圧を印加する代わりに電流を注入しても、半導体光増幅素子1のヒステリシス形状を制御でき、光信号のS/N比の向上効果が得られる。この場合、上述したように逆バイアスをかけてキャリアを引き抜いて応答速度を向上させることはできなくなるが、半導体光増幅素子1の発振閾値を調整しやすくなるという利点がある。
上記のように、実施の形態2の脈波計測装置20は、電圧及び電流の制御、及び可飽和吸収領域33に対して設けられたp電極37に接続されている可変抵抗23の抵抗値制御によって、半導体光増幅素子1の入出力特性を調整している。
脈波計測装置20は、可変抵抗制御部22、確率共鳴制御回路24、電圧制御回路26などからヒステリシスの形状を迅速に精度よく制御することによって、半導体光増幅素子1の動作条件を精密に調整することができる。したがって、脈波計測装置20は、確率共鳴効果を得るために最適化された半導体光増幅素子1を駆動することができる。
実施の形態2では、光電変換素子28からの受信信号Srの一部を受信電流Ir1としてフィードバック制御回路21に出力している。そのため、実施の形態2の脈波計測装置20は、半導体光増幅素子1の出力光Poutの状態をモニターしながら、半導体光増幅素子1の入出力特性を変化させたり安定化させたりすることができる。これにより、半導体光増幅素子1の出力光Poutが確率共鳴効果を得られる最適なヒステリシス形状を有するように出力光Poutを調整しやすくなる。
また、脈波計測装置20において、フィードバック制御回路21、可変抵抗制御部22、確率共鳴制御回路24、電圧制御回路26などの制御回路(制御部)を、半導体光増幅素子1や光電変換素子28と共に集積してモジュールとして一体化してもよい。この場合、構成がコンパクトになり、脈波計測装置20の取り扱いが簡単になる。
また、脈波計測装置20において、ヒステリシスの立ち上がり閾値を細かく上下させて低電流で駆動したり、出力光Poutの振幅をより精密に制御できるように抵抗値、電圧及び雑音電流の強度を調整できるという利点もある。
また、脈波計測装置20において、上述のように可飽和吸収領域33に逆バイアスを印加してキャリアを引き抜くことにより、ヒステリシス形状を制御することも可能である。
以上のように、実施の形態2によれば、抵抗値、電流、電圧などを介して半導体光増幅素子1の入出力特性のヒステリシス形状を精度よく制御している。これにより確率共鳴効果を利用して、入力光Pinの増幅を行なうために最適な半導体光増幅素子1のヒステリシス特性を得ることができ、光信号P0の劣化を補償することができる。
(実施の形態2の変形例1)
次に、実施の形態2における脈波計測装置20の変形例である脈波計測装置20Aについて説明する。
実施の形態2の変形例1の脈波計測装置20Aは、半導体光増幅素子1に供給される付加雑音電流Inを用いず、実施の形態1と同様の付加雑音光Pnを使用する点において、図13の脈波計測装置20と異なる。したがって、図13と重複する部分の説明はここでは繰り返さない。
脈波計測装置20Aにおいても、出力光Poutを増大させることで入力光Pinの劣化を補償して、光信号のS/N比が向上した出力光Poutが得られる。この場合、確率共鳴制御回路24からの制御電流によって雑音光を発生させる光源が必要になるが、半導体光増幅素子1の入力光Pinの強度とヒステリシスの閾値との関係を制御しやすくなるという利点がある。
なお、本発明の半導体光増幅素子は、半導体光増幅素子1または半導体光増幅素子1Cのように、単安定状態及び双安定状態のいずれかであることが好ましい。しかしながら、3以上の所定の閾値において、不連続点が存在するような系を活性層として採用した半導体光増幅素子であっても、本発明の、出力光Poutの振幅を増大し、光信号のS/N比を向上させる効果を得ることができるものであれば、本発明の適用範囲に含まれる。
また、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
さらに、今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。