JP2009045043A - 組換えタンパク質発現用ベクター、組換え微生物、および組換えタンパク質の製造方法 - Google Patents

組換えタンパク質発現用ベクター、組換え微生物、および組換えタンパク質の製造方法 Download PDF

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【課題】培地中のリン酸濃度を制御することで、外来性の遺伝子から組換えタンパク質を容易に製造できる、組換えタンパク質発現用ベクター、組換え微生物、および組換えタンパク質の製造方法を提供する。
【解決手段】培地中のリン酸濃度感受性を有するプロモーター領域と、リボソーム結合領域とを組み込んだ、組換えタンパク質発現用ベクター。プロモーター領域は、大腸菌のリン酸結合タンパク質遺伝子上流域に存在するコンセンサス配列を含む。
【選択図】なし

Description

本発明は、培地中のリン酸濃度を制御することで組換えタンパク質を容易に製造することができる組換えタンパク質発現用ベクター、組換え微生物、および組換えタンパク質の製造方法に関する。
近年、遺伝子組換え技術を用いて、有用なタンパク質が生産されている。遺伝子組換え技術を用いた有用タンパク質生産において、生産性を向上させるためには、遺伝子組換え体を高濃度に培養し、かつ組換え体あたりの発現量を増大させることが必要である。大腸菌や哺乳類細胞において、遺伝子を発現させる主要な調整領域は、転写に関わる領域である。このため、転写に関わる領域に含まれるプロモーターは重要な役割を果たす。大腸菌などの原核生物では、RNAポリメラーゼが、プロモーターを認識し、この部位に特異的に結合して転写を開始する。
大腸菌を用いて有用タンパク質を生産する際に機能するプロモーターの活性化方法は、2種類に大別される。1つは、組換えタンパク質合成誘導剤を添加する方法である。もう一つは、培地成分から特定の物質を消費する、あるいは除去する方法である。具体的には、前者は、組換えタンパク質合成誘導剤であるイソプロピル−チオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)を添加してプロモーターを活性化させて、遺伝子を発現させ、組換えタンパク質を合成する(例えば、非特許文献1参照)。後者は、例えばトリプトファンやグルコースなどの培地中に含まれる栄養源の濃度を低下させることで、プロモーターを活性化させて、遺伝子を発現させ、組換えタンパク質を合成する(例えば、非特許文献2、3参照)。
IPTGを添加して活性化されるプロモーターとしては、tacプロモーターやT7プロモーターなどが知られている。T7プロモーターを用いた組換えタンパク質の生産には、DE3溶原菌などのT7ポリメラーゼを産生する宿主大腸菌を用いる必要がある。一方、T7プロモーターを用いると、組換えタンパク質の発現量は高いとされている。
しかし、組換えタンパク質合成誘導剤を添加してプロモーターを活性化させる方法では、組換えタンパク質合成誘導剤であるIPTGが高価である。このため、この方法は、コスト面に問題がある。
培地成分から、特定の物質を消費する、あるいは除去する方法に使用されるプロモーターとしては、trpプロモーターやホスホグリセレートキナーゼのプロモーターなどが知られている。
trpプロモーターを用いた組換えタンパク質の生産には、通常の大腸菌を宿主として用いることができる。非特許文献2には、trpプロモーターを用いると、培地中のトリプトファンを除去することで、組換えタンパク質が生産されることが開示されている。
しかし、トリプトファンは、構成タンパク質および組換えタンパク質の発現において必須のアミノ酸である。このため、培地からトリプトファンを除去することは、タンパク質の生産性や製造されるタンパク質の品質に悪影響を及ぼすおそれがある。
一方、培地にインドールアクリル酸を添加すると、トリプトファンを除去せずに、trpプロモーターを稼動させることができる。しかし、上記したIPTGの添加と同様に、コストの面で問題がある。さらに、インドールアクリル酸は有機溶媒に溶解して添加する必要がある。このため、菌体増殖に悪影響を及ぼす。
また、解糖系の酵素であるホスホグリセレートキナーゼのプロモーターを用いた組換えタンパク質の生産には、酵母を宿主として用いる。非特許文献3には、ホスホグリセレートキナーゼのプロモーターを用いると、グルコース濃度を低濃度に維持することで、組換えタンパク質の発現誘導が可能であることが開示されている。
しかし、グルコースは、菌体構成成分であり、かつエネルギー代謝に必須の成分である。このため、グルコースを培地から除去することは、菌体増殖を抑制することになる。すなわち、グルコースを培地から除去すると、組換えタンパク質の生産性を低下させるおそれがある。
上記したように、非特許文献2、3に記載のプロモーターを用いると、菌体増殖を抑制するので、宿主である菌体を高濃度に培養してから組換えタンパク質の発現量を最大にすることが困難である。
リン酸結合タンパク質を用いて有用物質を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献4参照)。リン酸は、菌体増殖に必須の物質である。しかし、リン酸は、trpやグルコースに比べ、菌体増殖に要求される必要量は少ない。また、菌体増殖時には適当なリン酸を添加して、タンパク質生産時にはリン酸濃度を低下させることで対応できる可能性がある。
細胞内へのリン酸の取り込みは、リン酸結合タンパク質を用いて行われる。具体的には、リン酸結合タンパク質は、培地中のリン酸と結合して、細胞質内にリン酸を送り込む。
特許文献1には、リン酸結合タンパク質遺伝子であるphoS、phoT、phoUの遺伝子(それぞれのプロモーターとリン酸結合タンパク質遺伝子)に係るDNA断片を連係したプラスミドが開示されている(非特許文献4参照)。特許文献1の実施例では、導入したリン酸結合タンパク質(phoS、phoT、phoUのそれぞれのプロモーター下流に存在するリン酸結合タンパク質)が宿主の大腸菌内で発現する。発現したリン酸結合タンパク質により、宿主の大腸菌のphoAが活性化される。これによりアルカリホスファターゼが誘発される。phoAは、アルカリホスファターゼのプロモーターを含む遺伝子である。
この文献には、生理活性物質、タンパク質などの二次代謝産物などの生産に利用できることは記載されている。しかし、この文献の実施例では、具体的な外来性の遺伝子を導入して、それが発現して、タンパク質を産生することを確認しているわけではない。具体的には、上記phoS、phoT、phoUの遺伝子を有するベクターにより、大腸菌を形質転換する。そして、形質転換された大腸菌自身が本来有するアルカリホスファターゼの発現が誘導されるかどうかで、リン酸結合タンパク質遺伝子が導入されたかどうかを評価しているにすぎない。すなわち、この文献では、生理活性物質、タンパク質などの組換えタンパク質などが実際に生産することを開示していない。
イシダら、「遺伝子発現実験マニュアル」、講談社、1994年 イイジマら、アプライド マイクロバイオロジー アンド バイオテクノロジー(Applied Microbiology and Biotechnology)、ドイツ、スプリンガーリンク(SpringerLink)、1987年、第26巻、p.542−545 イイジマら、化学工学論文集、社団法人化学工学会、1991年、第17巻、p.680−686 ミツコ アメムラ(MITSUKO AMEMURA)、他4名、「大腸菌のアルカリホスファターゼ調整遺伝子(phoSとphoT)のクローニングと相補性検定(Cloning of and Complementation Tests with Alkaline Phosphatase Regulatory Genes(phoS and phoT) of Escherichia coli)」、ジャーナル オブ バクテリオロジー(Journal of BACTERIOLOGY)、米国、アメリカン ソサイティ フォア マイクロバイオロジー(American Society for Microbiology)、1982、第152巻、第2号、p.692−701 特公平1−16159号公報
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、培地中のリン酸濃度を制御することで、外来性の遺伝子から組換えタンパク質を容易に製造できる、組換えタンパク質発現用ベクター、組換え微生物、および組換えタンパク質の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、リン酸濃度感受性を有するプロモーター領域とリボソーム結合領域とを組み込んだ組換えタンパク質発現用ベクターとすることで、外来性の遺伝子から組換えタンパク質を容易に製造できる、組換えタンパク質発現用ベクター、組換え微生物、および組換えタンパク質の製造方法を提供できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
本発明の組換えタンパク質発現用ベクターは、リン酸濃度感受性を有するプロモーター領域と、リボソーム結合領域と、目的タンパク質遺伝子領域とを含む。
前記プロモーター領域は、大腸菌のリン酸結合タンパク質遺伝子上流域に存在するコンセンサス配列を含む。前記プロモーター領域は、前記コンセンサス配列が2つ結合していると好ましい。さらに、前記プロモーター領域は、配列番号1に記載の配列を含むとよい。
前記リボソーム結合領域は、シャイン・ダルガノ配列を含むと好ましい。
前記目的タンパク質遺伝子は、酵素、生理活性タンパク質、または非生理活性タンパク質の遺伝子であるとよい。
本発明の組換え微生物は、上記組換えタンパク質発現用ベクターで形質転換されている。また、組換え微生物が、大腸菌であるとよい。
本発明の組換えタンパク質の製造方法は、上記組換えタンパク質発現用ベクターで形質転換された組換え微生物を用いて、培地中のリン酸濃度を制御してタンパク質を製造する。
本発明では、組換えタンパク質発現用ベクター中に、リン酸濃度感受性を有するプロモーター領域を含む。このベクターは、培地中のリン酸濃度が低下すると、リン酸濃度感受性を有するプロモーター領域が活性化される。すなわち、培地中のリン酸濃度を制御することで、組換えタンパク質の発現を制御することができる。
まず、このような組換えタンパク質発現用ベクターを導入された組変え微生物を適当なリン酸濃度のもとで培養すると、組換えタンパク質は発現せず、組換えタンパク質発現用ベクターを入れた菌体が増殖する。次に、組換えタンパク質を発現させる際には、培地中のリン酸濃度を低下させる。これにより、リン酸結合タンパク質遺伝子のプロモーター領域が活性化されて、目的タンパク質遺伝子領域が発現する。この結果、組換えタンパク質を生産することができる。
以下に、本発明を詳細に説明する。
[組換えタンパク質発現用ベクター]
本発明の組換えタンパク質発現用ベクターは、培地中のリン酸濃度感受性を有するプロモーター領域と、リボソーム結合領域と、目的タンパク質遺伝子領域とを含む。
(ベクター)
本発明で用いられるベクターとしては、既知、未知のベクターを使用することができる。また、pUC108/109、pBR322、pBR325、pACYC177、pKN410などの公知のベクターを用いてもよい。
(リン酸濃度感受性を有するプロモーター領域)
リン酸濃度感受性を有するプロモーター領域に該当する遺伝子部分は、大腸菌から得る。用いる大腸菌としては、大腸菌K−12株由来、中でもKLF48/KL159株が好ましい。
まず、上記大腸菌株からゲノムDNAを抽出する。ゲノムDNAの抽出方法は、公知の方法による。例えば、アルカリ法による抽出(ヌクレイック アシッド リサーチ 第7巻、第6号、1513−1523)、非フェノール性試薬とタンパク質凝集剤を使用し、相配分に基づいて比重の違いにより中間に凝集層を形成させる凝集分配法(新生化学実験講座2 核酸1 分離精製 丸善株式会社:13−51(1991))などの方法から、適当な方法を選択すればよい。
次に、得られたゲノムDNAから、リン酸結合タンパク質遺伝子phoS上流域に存在するphoBoxを含むDNA配列を得る。具体的には、得られたゲノムDNAを元に、リン酸結合タンパク遺伝子の上流域の5’及び3’末端配列を付加したプライマーを設計してポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)を行う。
リン酸結合タンパク質は、細胞外からのリン酸の取り込みに関係するタンパク質である。リン酸結合タンパク質は、リン酸と結合して、リン酸を細胞質内に取り込む機能を有している。リン酸濃度感受性を有するプロモーター領域には、大腸菌のリン酸結合タンパク質遺伝子上流域に存在するコンセンサス配列を含む。このコンセンサス配列は、phoBoxと呼ばれている。
リン酸結合タンパク質のリン酸結合タンパク質遺伝子に対する転写制御は以下のように行われる。リン酸化されたリン酸結合タンパク質は、細胞質内に取り込まれ、上記phoBoxに結合する。培地内のリン酸濃度が高い場合は、リン酸化されたリン酸結合タンパク質の量が増加する。これにより細胞質内に取り込まれるリン酸化されたリン酸結合タンパク質の量も増加する。これにより、phoBoxに結合するリン酸化されたリン酸結合タンパク質の量も増加する。この結果、リン酸結合タンパク質遺伝子に対する転写が制限される。一方、培地内のリン酸濃度が低い場合は、リン酸化されたリン酸結合タンパク質の量が減少する。これにより細胞質内に取り込まれるリン酸化されたリン酸結合タンパク質の量も減少する。これにより、phoBoxに結合するリン酸化されたリン酸結合タンパク質の量も減少する。この結果、リン酸結合タンパク質遺伝子に対する転写が増進される。
本発明では、phoBoxを含むプロモーター領域を含むベクターを用いる。この結果、培地中のリン酸濃度を変えることで、プロモーターの活性化・不活性化が行われ、ベクターに組み込まれた組換えタンパク質の発現を制御することができる。
プロモーター領域に含まれるphoBoxは、1個に限られず、2個あってもよい。phoBoxを2個有すれば、培地中のリン酸濃度が減少した場合に、プロモーターの活性化が効果的に行える。この結果、ベクターに組み込まれた組換えタンパク質の発現を向上させることができる。例えば、phoSの遺伝子の上流域には、異なるコンセンサス配列を有するphoBoxを2個含む。このため、phoSの遺伝子の上流域をプロモーター領域として用いると好ましい。本発明でプロモーター領域として使用できるのは、phoSの遺伝子の上流域に限られない。例えば、ugpBなどのリン酸結合タンパク質遺伝子の上流域である、約200−1000bpの領域が挙げられる。この上流域においても、phoBoxを2個含んでいる。あるいは、phoA、phoBなどのphoBoxを1個含んでいるリン酸結合タンパク質遺伝子の上流域から、phoBoxを含む部位を任意に選択して連結して用いてもよい。
プロモーター領域は、phoBoxを含むものであれば、他の配列を含んでいてもよい。例えば、下記配列番号1に示すphoSの遺伝子の上流域を含むものであってもよい。このプロモーター領域には、−TTGACTGAATATCAACGCTTATTTAAAT−と、−CTGTCATAAAACTGTCAT−の2種類のphoBoxを含んでいる。
Figure 2009045043
(リボソーム結合領域)
リボソーム結合領域は、原核生物のmRNAにおいて開始コドンの上流に位置する配列であって、リボソームが結合する配列を含む領域をいう。リボソームが結合する配列は、シャイン・ダルガノ配列(S−D配列)ともいう。ベクター中にリボソーム結合領域を設けることで、mRNAから効率よく翻訳され、組換えタンパク質の発現量を増加させることができる。リボソーム結合領域は、プロモーター領域の下流と、開始コドンの間に設ければよい。
シャイン・ダルガノ配列(S−D配列)は、例えば、−AGGAGG−のようにプリン塩基(アデニン、グアニン)に富む3〜9塩基の配列をいう。また、プリン塩基に富む配列の5’側には、ピリジミン塩基を含む他の配列を含んでいてもよい。リボソーム結合領域は、具体的には、−AGGAGACATT−や−AAGGAGATATA−(pT7ベクター由来)などのS−D配列を含む配列が挙げられる。
このように、S−D配列の前後には、組換えタンパク質の発現を阻害しない範囲で他の塩基配列を含んでいてもよい。一方、組換えタンパク質の発現量を向上させるには、プロモーターの強さに加えて、プロモーター下流から開始コドンまでの間のS−D配列を含む塩基の塩基数の影響を受ける。プロモーター下流から開始コドンまでの間のS−D配列を含む塩基の塩基数は、特に制限はないが、組換えタンパク質の発現量が向上するように設定すればよい。具体的には、リボソーム結合領域は、塩基数の合計が9〜15塩基であれば、組換えタンパク質の発現量が最大となる。上記したリボソーム結合領域では、前者が10塩基、後者が11塩基であり、塩基数の合計が9〜15塩基の範囲に含まれる。
(目的タンパク質遺伝子領域)
本発明において、目的タンパク質遺伝子とは、好ましくは酵素、生理活性タンパク質、またはワクチンタンパク質の遺伝子である。発現させる組換えタンパク質の種類は特に制限はない。酵素としては、例えばプロテアーゼやアミラーゼやリパーゼなどが挙げられる。生理活性タンパク質としては、例えば、成長ホルモン、サイトカイン(インターフェロンなど)、増殖因子、細胞骨格タンパク質などの、ヒトや哺乳類が産生するタンパク質などが挙げられる。ワクチンタンパク質としては、種々の疾患に関係する抗原タンパク質や抗原タンパク質の内のエピトープ部分のタンパク質が該当し、例えばA型肝炎ウイルスのキャプシドタンパク質やポリオウイルスのキャプシドタンパク質などが挙げられる。あるいは、微生物、植物、昆虫などが産生する酵素や種々のタンパク質であってもよい。
本発明の組換えタンパク質発現用ベクターには、マルチクローニングサイトを含んでいてもよい。マルチクローニングサイトとは、複数個の制限酵素認識部位を持つ合成二本鎖核酸である。ベクター中にマルチクローニングサイトを組み込んでおくことで、目的タンパク質遺伝子領域である外来遺伝子を容易に導入することができる。
また、本発明の組換えタンパク質発現用ベクターには、転写の終結部位に転写終結領域を設けていてもよい。転写終結領域では、転写終結因子(ρ因子)が転写終了シグナルを認識して、RNAポリメラーゼ・RNA・DNA複合体からRNAが乖離して転写が終了する。このような転写終結領域としては、リン酸結合タンパク質をコードする領域の下流の遺伝子配列、ポリアデニル化部位、他のベクターに用いられている転写終結領域などを転用することができる。例えば、リボソーム結合領域に、pT7ベクター由来のリボソーム結合領域を用いる場合は、pT7ベクター由来の転写終結領域を使用することができる。
[組換えタンパク質発現用ベクターの作成]
本発明の組換えタンパク質発現ベクターの作製は、定法の遺伝子組換え技術を利用して行う。例えば、リン酸結合タンパク遺伝子の上流域の遺伝子、SD配列、マルチクローニングサイト、転写終結領域を含む遺伝子とベクターDNAを適当な制限酵素で処理し、フェノール抽出を行い、各遺伝子を調製する。これらの遺伝子を、DNAリガーゼを用いてライゲーションを行う。遺伝子が導入されたベクターを、大腸菌に形質転換する。この形質転換体をスクリーニングすることにより組換えタンパク質発現用ベクターの構築が可能になる。目的タンパク質遺伝子の導入は、このベクターに対して行う。
上記ベクターは、具体的には、以下のようにして作成する。まず、リン酸結合タンパク質遺伝子の上流域配列、SD配列、マルチクローニングサイト、転写終結領域の順序で、ベクターに挿入する。すなわち、リン酸結合タンパク質遺伝子の上流域のDNA配列に、SD配列・マルチクローニングサイト・転写終結領域のDNA配列をPCRにより挿入する。この遺伝子を用いてさらに、ベクターに組込みが可能なように適切な制限酵素サイトを付与するためにPCRを行う。次に、本遺伝子とベクターDNAを適当な制限酵素で処理し、フェノール抽出を行い、各遺伝子を調製する。次に、調整された各遺伝子を、DNAリガーゼを用いてライゲーションする。その後、このようにして得られたベクターを大腸菌に形質転換する。この形質転換体をスクリーニングして、リン酸結合タンパク質遺伝子の上流域配列が導入されたベクターを選択する。
次に、上記リン酸結合タンパク質遺伝子の上流域配列が導入されたベクターと目的とするタンパク質遺伝子とを制限酵素で処理する。次に、DNAリガーゼを用いてライゲーションを行いマルチクローニングサイトに、目的タンパク質遺伝子を導入する。これにより、本発明の組換えタンパク質発現用ベクターが得られる。
[組換え微生物]
本発明の組換えタンパク質発現用ベクターで形質転換された組換え微生物は、上記組換えタンパク質発現用ベクターを微生物に導入して得る。導入方法としては、通常のベクター導入方法を用いればよい。例えば、塩化カルシウム法で調製したコンピテントセル(前処理によりDNAを取り込む能力が上昇した細菌)と組換えタンパク質発現用ベクターを混合し、42度で30−60秒処理する。この後、この混合液を選択薬剤(アンピシリンなど)を含むプレートに広げ、培養後プレート培地上に形成されるコロニーを回収する方法を用いることができる。その他、エレクトロポレーションによる電気穿孔法などを用いてもよい。
組換え微生物としては、特に制限はないが、大腸菌を用いるのが好ましい。使用できる大腸菌の菌株には特に制限はない。例えば、大腸菌K12株、C2株が適応される。
[組換え微生物の培養方法]
本発明の組換え微生物は、宿主となる微生物が資化可能な炭素源、窒素源、無機塩類からなる培地あるいはそれを改変した培地を用いて公知の培養方法あるいはそれを改変した方法により培養することができる。組換え微生物が大腸菌である場合の培養方法としては、液体培養が好適に使用される。培養温度は、大腸菌が生育可能な温度範囲で培養可能であり、通常は20℃から40℃の範囲が好適に用いられる。培養時間は目的とする有用タンパク質の生産にとって最も適切な時間を選ぶことが可能である。
[組換えタンパク質の製造方法]
組換えタンパク質を製造する場合には、上述したようにこれらの菌体が資化可能な炭素源、窒素源に加え、適当な濃度になるようにリン酸を添加して、数時間培養する。その後、リン酸のみを除去する。リン酸濃度の低下により、phoBoxを含むプロモーター領域が活性化され、目的タンパク質遺伝子の発現が促進される。この結果、目的タンパク質を製造することができる。
リン酸の除去方法としては、培養液を回収・遠心操作により培地成分を一度除去した後、生理食塩水を用いてスタベーションを行い、リン酸を含まない培地を再度加え、数時間培養する。または膜型バイオリアクターを使用してもよい。すなわち、濾過培養により、リン酸を含む培地を除去しながら、リン酸を含まない培地を添加し、さらに数時間培養する。培養温度は本発明の大腸菌が生育可能な温度範囲で培養可能であり、通常は20度から40度の範囲が好適に用いられる。培養時間は目的とする有用タンパク質の生産にとって最も適切な時間を選ぶことが可能である。
例えば、プロモーター領域にpho SのphoBoxを含む配列を用いると、培地中のリン酸濃度を1mM以下にすることで、目的タンパク質を有意に製造することができる。
本発明の組換えタンパク質の製造方法では、組換えタンパク質の製造を制御するのは、リン酸に限られない。例えば、ヘキサメタリン酸などのメタリン酸を用いることもできる。プロモーター領域にpho SのphoBoxを含む配列を用いると、培地中のメタリン酸濃度を1g/L以下にすることで、目的タンパク質を有意に製造することができる。
以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1) リン酸結合タンパク遺伝子(phoS)の上流域遺伝子を含む新規ベクターの構築
(1) 大腸菌K−12株のゲノムDNAの調製
大腸菌K−12株であるKLF48/KL159株(Yale University Ecoli. GeneticResourceCenter CGSC Strain#4302)をT培地(バクトトリプトン10g/L、NaCl5g/L)で終日培養後、遠心操作により沈殿とし、Sepagene(三光純薬社製)を用いてゲノムDNAを回収した。
ゲノムDNAの回収は、具体的には、以下のように行った。まず、トリス緩衝液で構成されるSepageneの試薬1を沈殿に添加し、撹拌後室温で10分間静置した。次にチオシアン酸グアニジンで構成されるSepageneの試薬2を添加してゆるやかに混和した後、吸着剤とクロロホルムで構成されるSepageneの試薬3を添加し激しく混和した。その後、12000rpm、15分間遠心操作した。その後、上清を回収し酢酸緩衝液で構成されるSepageneの試薬5を加え、さらにイソプロパノール加え転倒混和した。12000rpm,15分遠心後、上清を除去し沈殿物を滅菌蒸留水に溶解した。
(2) リン酸結合タンパク質phoS上流配列遺伝子の取得
大腸菌K12株ゲノム配列情報(MEDLINE)を元に、以下の配列番号3と4の2種類のプライマーをDNAシンセサイザーにて合成した。
(配列番号3)
5’−TGCGCGGCTG GTCAACGTCG−3’
(配列番号4)
5’−GATAGCGACAAATAATTCACCAGACAAATC−3’
上記(1)より得られたゲノムDNAを0.5mLのミクロ遠心チューブに2μL添加し、各プライマーを20pmol、20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1.5mM MgCl、25mM KCl、100μg/mLゼラチン、50μM各dNTP、4単位 LA−TaqDNAポリメラーゼとなるように各試薬を加え、全量100μLとした。DNAの変性条件を94℃、1分、プライマーのアニーリング条件を55℃、1分、プライマーの伸長条件を72℃、1分の各条件でPerkin−Elmer Cetus社のDNAサーマルサイクラーを用い、35サイクル反応させた。これを1%アガロースゲルにて電気泳動し、下記配列番号1の約300bpのDNA断片を常法に従って調製した。
Figure 2009045043
次に、下記配列番号5と6の2種類のプライマーをDNAシンセサイザーにて合成した。
(配列番号5)
5’−TAAATGGATGCCCTGCGTAAGCGG−3’
(配列番号6)
5’−AATGTCTCCTGGGAGGATTCAT−3’
上記アガロースゲルより調製したDNA断片を0.5mLのミクロ遠心チューブに2μL添加し、各プライマーを20pmol、20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1.5mM MgCl、25mM KCl、100μg/mLゼラチン、50μM各dNTP、4単位 LA−TaqDNAポリメラーゼとなるように各試薬を加え、全量100μLとした。DNAの変性条件を94℃、1分、プライマーのアニーリング条件を55℃、1分、プライマーの伸長条件を72℃、1分の各条件でPerkin−Elmer Cetus社のDNAサーマルサイクラーを用い、35サイクル反応させた。これを1%アガロースゲルにて電気泳動し、約300bpのDNA断片を常法に従って調製した。
得られたDNA断片をInvitrogen社のT−Vectorに宝酒造(株)のDNA Ligation Kit Ver.1を用いて連結した。これを用いて常法に従い大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体よりプラスミドDNAを常法により調製した。次にこのプラスミドにPCR断片が挿入されていることを前述と同じ条件のPCRによって確認後、蛍光DNAシーケンサーを用い、その添付プロトコルに従ってパーキンエルマー社のダイターミネーターサイクルシーケンシングキットを用いて得られたDNA断片が大腸菌K12株由来の遺伝子をコードする配列であることを確認した。
(3) リン酸結合タンパク質遺伝子(phoS)上流配列およびSD配列を含む配列を付加したベクターの構築
上記(2)で調製したリン酸結合タンパク質phoSの上流配列遺伝子を含むベクターを用いて、リン酸結合タンパク質phoSの上流配列遺伝子の3’末にSD配列を付加した。
まず、配列番号5、7に示すセンス側プライマーとアンチセンス側プライマー(SD配列を有する)を作成した。
(配列番号5)
センス側のプライマー:5’−TAAATGGATGCCCTGCGTAAGCGG−3’
(配列番号7)
アンチセンス側のプライマー:5’−TATATCTCCTTGGGAGGATTCAT−3’
次に、配列番号5と配列番号7のプライマーの組み合わせを用いたPCRを実施した。すなわち、上記ベクターDNAを0.5mLのミクロ遠心チューブに2μL添加し、各プライマーを20pmol、20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1.5mM MgCl、25mM KCl、100μg/mLゼラチン、50μM各dNTP、4単位 LA−TaqDNAポリメラーゼとなるように各試薬を加え、全量100μLとした。DNAの変性条件を94℃、1分、プライマーのアニーリング条件を55℃、1分、プライマーの伸長条件を72℃、1分の各条件でPerkin−Elmer Cetus社のDNAサーマルサイクラーを用い、35サイクル反応させた。これを1%アガロースゲルにて電気泳動し、約300bpのDNA断片を常法に従って調製した。
このDNA断片をInvitrogen社のT−Vectorに宝酒造(株)のDNA Ligation Kit Ver.1を用いて連結した。DNA断片が導入されたベクターを用いて常法に従い大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体よりプラスミドDNAを常法により調製した。次にこのプラスミドにPCR断片が挿入されていることを前述と同じ条件のPCRによって確認後、蛍光DNAシーケンサーを用い、その添付プロトコルに従ってパーキンエルマー社のダイターミネーターサイクルシーケンシングキットを用いて得られたDNA断片が、配列番号2に示す大腸菌K12株由来の遺伝子をコードする配列であることを確認した。
Figure 2009045043
上記(2)で調製したリン酸結合タンパク質phoSの上流配列遺伝子を含むベクターおよびタカラバイオ社のpBR322をそれぞれEcoRIによる制限酵素処理を行った。ぞれぞれを、アガロースゲル電気泳動を行い、常法に従い遺伝子を切り出した。pBR322についてはAlkaline Phospatase Shrimp(日本ロシュ社製)による脱リン酸化処理後、リン酸結合タンパク質phoSの上流配列遺伝子と宝酒造(株)のDNA Ligation Kit Ver.1を用いて連結した。これを用いて常法に従い大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体よりプラスミドDNAを常法により調製した。次にこのプラスミドにPCR断片が挿入されていることを前述と同じ条件のPCRによって確認後、蛍光DNAシーケンサー(パーキンエルマー社製DNAシーケンサー373S)を用い、その添付プロトコールに従って、パーキンエルマー社のダイターミネーターサイクルシーケンシングキットを用いて、得られたDNA断片がリン酸結合タンパク質phoSの上流配列遺伝子および新たに付加したSD配列を含む配列をコードする配列であることを確認した。以下では、配列番号2の配列を有するベクターをpPho2と呼ぶ。
(実施例2) イヌIFN−γ遺伝子の取得
(1) イヌcDNAの調製
イヌ末梢血よりイヌリンパ球を分離し、フィトヘムアグルチニン(PHA)を50μg/mLの終濃度で48時間刺激した。その後、ISOGEN(ニッポンジーン社)を用いて総RNAを調製した。得られたRNAを1mM EDTAを含む10mM トリス塩酸緩衝液(pH7.5)(以下TEと略する)に溶解し、70℃で5分間処理した後、1M LiClを含むTEで平衡化したオリゴdTセルロースカラムにRNA溶液をアプライし、同緩衝液にて洗浄した。さらに0.3M LiClを含むTEで洗浄後、0.01%SDSを含む1mM EDTA(pH7.0)で吸着したポリ(A)RNAを溶出した。こうして得られたポリ(A)RNAを用いて一本鎖cDNAを合成した。すなわち滅菌した0.5mLのミクロ遠心チューブに5μgのポリ(A)RNAと0.5μgのオリゴdTプライマー(12−18mer)を入れ、ジエチルピロカルボネート処理滅菌水を加えて12μLにし、70℃で10分間インキュベートしたのち氷中に1分間つけた。これに200mM MgCl2を2μL、10mM dNTPを1μLおよび0.1M DTTを2μLそれぞれ加え、42℃で5分間インキュベートしたのち200ユニットのGibcoBRL社製Super Script II RTを1μL加え、42℃でさらに50分間インキュベートしてcDNA合成反応を行った。さらに70℃で15分間インキュベートして反応を停止し、氷上に5分間おいた。この反応液に1μLのE.coli RNaseH(2units/mL)を加え、37℃で20分間インキュベートした。
(2) イヌIFN−γ遺伝子の取得
イヌIFN−γのN末端およびC末端の塩基配列(J.Interferon cytokine Res 2000 Nov 20,1015−1022)をもとに、配列番号9、10に示す、2種類のプライマーをDNAシンセサイザーにて合成した。
(配列番号9)
5’−GCAGATCTATGAATTATACAAGCTATATCTTAGCT−3’
(配列番号10)
5’−GCGAATTCTTATTTAGATGCTCTGCGGCTCGAAA−3’
上記(1)のイヌリンパ球より得られたcDNAを0.5mLのミクロ遠心チューブに2μL添加し、各プライマーを20pmol,20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1.5mM MgCl2、25mM KCl、100μg/mLゼラチン、50μM各dNTP、4単位 TaqDNAポリメラーゼとなるように各試薬を加え、全量100μLとした。DNAの変性条件を94℃、1分、プライマーのアニーリング条件を55℃、2分、プライマーの伸長条件を72℃、3分の各条件でPerkin−Elmer Cetus社のDNAサーマルサイクラーを用い、35サイクル反応させた。これを1%アガロースゲルにて電気泳動し、約500bpのDNA断片を常法に従って調製した。
このDNA断片をInvitrogen社のT−Vectorに宝酒造(株)のDNA Ligation Kit Ver.1を用いて連結した。これを用いて常法に従い大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体よりプラスミドDNAを常法により調製した。次にこのプラスミドにPCR断片が挿入されていることを前述と同じ条件のPCRによって確認後、蛍光DNAシーケンサーを用い、その添付プロトコルに従ってパーキンエルマー社のダイターミネーターサイクルシーケンシングキットを用いて得られたDNA断片が、配列番号8に示すイヌIFN−γをコードする配列であることを確認した。
Figure 2009045043
(3) イヌIFN−γ変異体遺伝子の取得
イヌIFN−γ変異体遺伝子は、イヌIFN−γタンパク質のC末端を16残基欠損させたものである。まず、イヌIFN−γ遺伝子のN末端及びC末端の塩基配列を基に、配列番号11、12に示す、2種類のプライマーをDNAシンセサイザーにて合成した。
(配列番号11)
5’−CATATGCAGGCCATGTTTTTTAAAGAA3’−
(配列番号12)
5’−CTCGAGTTACCTTAGGTTGGATCTTGGTGA−3’
上記(1)のイヌリンパ球より得られたcDNAを鋳型として上記(2)と同様にして約500bpのDNA断片を得、T−Vectorに挿入し、イヌIFN−γをコードする配列であることを確認した。
(実施例3) イヌIFN−γを含む発現ベクターを用いたSD配列を含む配列の最適化検討
実施例2で調製したpBR322中のリン酸結合タンパク質phoSの上流配列遺伝子を含むベクターと、実施例3で調整したイヌIFN−γ変異体遺伝子とを、それぞれNdeI及びXhoIによる制限酵素処理を行った。次に、これらを宝酒造(株)のDNA Ligation Kit Ver.1を用いて連結した。これを用いて常法に従い大腸菌JM109を形質転換し、得られた形質転換体よりプラスミドDNAを常法により調製した。さらに、次に、このプラスミドDNAを用いて常法に従い大腸菌MC1061(ATCC社より購入)に形質転換した。宿主/ベクターを、pPho2−γ/JM109、 pPho2−γ/MC1061とする。
得られた2種類の形質転換体を表5に示す培地に10mMリン酸カリウム(pH=7)を添加し、数時間培養した。次に生理食塩水を用いて菌体を洗浄し、表5に示す培地(リン酸カリウムなし)で20時間培養を行った。得られた菌体を表6に示すバッファーで可溶化後、電気泳動し、抗イヌIFN−γ抗体を用いたイムノブロッティングを実施した。結果を図1に示す。図1において、一番左側のレーンは、分子量の大きさを示すマーカーを泳動したレーンであり、(1)、(2)のレーンは、pPho2−γ/JM109、 pPho2−γ/MC1061により生産されたタンパク質を電気泳動させたレーンを示し、STDは、標準となるイヌIFN−γを電気泳動させたレーンを示す。矢印は、イヌIFN−γの位置を意味する。図1から、pPho2−γ/JM109及びpPho2−γ/MC1061のいずれを用いても、イヌIFN−γ変異体が発現することが確認できた。
Figure 2009045043
Figure 2009045043
(参考例) イヌIFN−γ変異体を含む他のベクターの構築および発現
実施例2で調製したイヌIFN−γ変異体遺伝子を含むT vector プラスミドDNAを常法に従い調製し、制限酵素NdeI及びXhoIで処理し、イヌIFN−γ変異体遺伝子を調製した。同様に、発現ベクターであるpCWoriベクターを制限酵素NdeI及びXhoIで処理し、開裂したベクターDNAを調製した。pCWoriベクターとイヌIFN−γ変異体遺伝子を宝酒造(株)のDNA Ligation Kit Ver.1を用いて連結した。これを用いて常法に従い大腸菌JM109を形質転換し、得られた形質転換体よりプラスミドDNAを常法により調製した。さらに次にこのプラスミドDNAを用いて常法に従い大腸菌BL21(DE3)(Stratagen社製)に形質転換した。各宿主/ベクターを、pCWori−γ/JM109、 pCWori−γ/BL21とした。
得られた2種類の形質転換体をLB培地下で培養し、OD600(波長600nmにおける吸光度)=0.6で0.2mM IPTGを添加し、8時間培養した。得られた菌体を表6に示すバッファーで可溶化後、上記実施例3と同様に、電気泳動し抗イヌIFN−γ抗体を用いたイムノブロッティングを実施した。その結果、pCWori−γ/JM109、 pCWori−γ/BL21ともに発現を確認できた。これにより、実施例2で調製したイヌIFN−γ変異体遺伝子は、非特許文献1に記載の方法によっても、発現されることがわかった。
(実施例4) イヌIFN−γ変異体の発現制御
(1)リン酸濃度の最適化
実施例3で得られたpPho2−γ/MC1061を用いて、表5の培地条件下リン酸濃度の最適化を行った。すなわち、表5の培地に10mMリン酸カリウム(pH=7)を添加し、数時間培養した。次に生理食塩水を用いて菌体を洗浄し、表5に示す培地およびリン酸カリウムを10mM,5mM,1mM,0.1mMおよび0mM添加しで20時間培養を行った。得られた菌体を表6に示すバッファーで可溶化後、実施例3と同様に、電気泳動し抗イヌIFN−γ抗体を用いたイムノブロッティングを実施した。結果を図2に示す。図2において、一番左側のレーンは、分子量の大きさを示すマーカーを電気泳動したレーンを示し、レーン(1)、(2)、(3)、(4)、(5)は、それぞれリン酸カリウムの添加量が、0mM、0.1mM、1mM、5mM、10mMのものを電気泳動したレーンを示す。矢印は、イヌIFN−γの矢印は、イヌIFN−γの位置を意味する。図2では、レーン(1)、(2)、(3)、(4)、(5)のいずれにおいても、イヌIFN−γされたことが確認できた。レーン(4)、(5)は、レーン(1)、(2)、(3)に比べ、イヌIFN−γの誘導量が少なかった。すなわち、レーン(4)、(5)におけるイヌIFN−γのイムノブロッティングによる発色が薄かった。このことから、リン酸カリウム濃度が1mM以下の時有意にイヌIFN−γが誘導されていることがわかる。
(2) メタリン酸による発現制御
実施例3で得られたpPho2−γ/MC1061を用いて、表5の培地条件下メタリン酸濃度の最適化を行った。すなわち、表5の培地に10mMリン酸カリウム(pH=7)を添加し、数時間培養した。次に生理食塩水を用いて菌体を洗浄し、表5に示す培地およびヘキサメタリン酸ナトリウムを10g/L,5g/L,1g/L,0.1g/L及び0mM添加しで20時間培養を行った。得られた菌体を表6に示すバッファーで可溶化後、ソニケーション処理し、その上清を実施例3と同様にIFN−γ活性を測定した。結果を図3に示す。図3において、一番左側のレーンは、分子量の大きさを示すマーカーを電気泳動したレーンであり、レーン(1)、(2)は、リン酸カリウムの添加量が、0mM、10mMのものを電気泳動したレーンであり、レーン(3)、(4)、(5)、(6)は、ヘキサメタリン酸ナトリウムの添加量が、0.1g/L、1g/L、5g/L、10g/Lのものを電気泳動したレーンであり、レーン(7)は、STDすなわち、標準となるイヌIFN−γを電気泳動させたレーンである。矢印は、イヌIFN−γの位置を意味する。なお、図3の例では、各レーンとも、イヌIFN−γのイムノブロッティングによる発色が薄かった。その位置を、図中の楕円で囲った部分に示す。各レーンにおける図3では、図3から、ヘキサメタリン酸ナトリウム濃度が1g/L以下の時有意にイヌIFN−γが誘導されていることが明らかになった。
(比較例) リン酸結合タンパク質遺伝子(phoA)上流配列およびSD配列を含む配列を付加したベクターによるイヌIFN−γ変異体の発現について
実施例1の(1)により得られた大腸菌K−12株のゲノムDNAおよび下記に示す配列番号13および配列番号14に示すプライマーを用いて、配列番号15に示すリン酸結合タンパク質phoA上流配列遺伝子の取得を行った。
(配列番号13)
5’−AAGCTTTGGAGATTATCGTCACGG−3’
(配列番号14)
5’−TTTATTTTCTCCATGTACAAA−3’
Figure 2009045043
得られたphoA遺伝子、下記に示す配列番号16および配列番号17を用いて、実施例1の(3)に示すSD配列を含む配列とリン酸結合タンパク質遺伝子(phoA)上流配列を含むベクターを構築した。
(配列番号16)
5’−AAGCTTTGGAGATTATCGTCACGG−3’
(配列番号17)
5’−TATATCTCCTTTTTATTTTCTCC−3’
さらに、実施例3に示すように、イヌIFN−γ変異体を含むベクターおよび組換え体を作出した。これらの宿主/ベクターを、pPhoA−γ/JM109,pPhoA−γ/MC1061とする。得られた2種類の形質転換体を表5に示す培地に10mMリン酸カリウム(pH=7)を添加し、数時間培養した。次に生理食塩水を用いて菌体を洗浄し、表5に示す培地(リン酸カリウムなし)で20時間培養を行った。得られた菌体を表6に示すバッファーで可溶化後、電気泳動し抗イヌIFN−γ抗体を用いたイムノブロッティングを実施した。その結果、両組換え体とも、イヌIFN−γ変異体の発現はほとんどみられなかった。このことから、phoBoxを含まないリン酸結合タンパク質遺伝子(phoA)上流配列では、リン酸濃度の制御により、組換えタンパク質の製造ができないことがわかった。
(実施例5) ヒトIFN−β遺伝子の取得
(1) ヒトIFN−β遺伝子の取得
ヒトIFN−βのN末端およびC末端の塩基配列をもとに、下記配列番号19、20に示す2種類のプライマーをDNAシンセサイザーにて合成した。
(配列番号19)
5’−CATATGAGCTACAACTTGCTCGGAT−3’
(配列番号20)
5’−CTCGAGTCAGTTTCGGAGGTAACCTGTAAGA−3’
ヒトリンパ節cDNAライブラリー(タカラバイオ社製)を0.5mLのミクロ遠心チューブに2μL添加し、各プライマーを20pmol,20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1.5mM MgCl、25mM KCl、100μg/mLゼラチン、50μM各dNTP、4単位 TaqDNAポリメラーゼとなるように各試薬を加え、全量100μLとした。DNAの変性条件を94℃、1分、プライマーのアニーリング条件を55℃、2分、プライマーの伸長条件を72℃、3分の各条件でPerkin−Elmer Cetus社のDNAサーマルサイクラーを用い、35サイクル反応させた。これを1%アガロースゲルにて電気泳動し、約500bpのDNA断片を常法に従って調製した。
このDNA断片をInvitrogen社のT−Vectorに宝酒造(株)のDNA Ligation Kit Ver.1を用いて連結した。これを用いて常法に従い大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体よりプラスミドDNAを常法により調製した。次にこのプラスミドにPCR断片が挿入されていることを前述と同じ条件のPCRによって確認後、蛍光DNAシーケンサーを用い、その添付プロトコルに従ってパーキンエルマー社のダイターミネーターサイクルシーケンシングキットを用いて得られた、配列番号18のDNA断片がヒトIFN−βをコードする配列であることを確認した。
Figure 2009045043
(実施例6) ヒトIFN−βを含む発現ベクターの作製および発現
実施例2および実施例3で調製したpBR322中のリン酸結合タンパク質phoSの上流配列遺伝子を含むベクターpPho2ベクターおよび実施例5で調整した配列番号19で示す、ヒトIFN−β遺伝子を、それぞれNdeI及びXhoIによる制限酵素処理を行った。その後、pPho2ベクター遺伝子とヒトIFN−β遺伝子を宝酒造(株)のDNA Ligation Kit Ver.1を用いて連結した。これを用いて常法に従い大腸菌JM109を形質転換し、得られた形質転換体よりプラスミドDNAを常法により調製した。さらに次にこのプラスミドDNAを用いて常法に従い大腸菌MC1061(ATCC社より購入)に形質転換した。宿主/ベクターを、pPho2−β/JM109,pPho2−β/MC1061とする。
得られた2種類の形質転換体を、表5に示す培地に10mMリン酸カリウム(pH=7)を添加したもので、数時間培養した。次に生理食塩水を用いて菌体を洗浄し、表5に示す培地(リン酸カリウムなし)で20時間培養を行った。得られた菌体を表6に示すバッファーで可溶化後、電気泳動し抗ヒトIFN−β抗体を用いたイムノブロッティングを実施した。その結果、pPho2−β/JM109、pPho2−β/MC1069のいずれにおいても、ヒトIFN−βの発現を確認できた。
本発明によれば、培地中のリン酸濃度の制御により組換えタンパク質の発現が可能になり、従来までに知られている発現系における高価な各種誘導剤(IPTG、インドールアクリル酸)を使用することなく低コストに組換えタンパク質の提供が可能になる。

図1は、実施例3でリン酸結合遺伝子phoSの上流域遺伝子とSD配列を有するベクターを用いて、イヌIFN−γの発現を検討した結果を示す図である。 図2は、実施例3で得られたイヌIFN−γ形質転換体pPho2−γ/MC1061を用いて、種々のリン酸濃度を変えた場合の、イヌIFN−γの発現を検討した結果を示す図である。 図3は、実施例3で得られたイヌIFN−γ形質転換体pPho2−γ/MC1061を用いて、種々のメタリン酸濃度を変えた場合の、イヌIFN−γの発現を検討した結果を示す図である。

Claims (9)

  1. リン酸濃度感受性を有するプロモーター領域と、リボソーム結合領域と、目的タンパク質遺伝子領域とを含む、組換えタンパク質発現用ベクター。
  2. 前記プロモーター領域は、大腸菌のリン酸結合タンパク質遺伝子上流域に存在するコンセンサス配列を含む、請求項1に記載の組換えタンパク質発現用ベクター。
  3. 前記プロモーター領域は、前記コンセンサス配列が2つ結合している、請求項2に記載の組換えタンパク質発現用ベクター。
  4. 前記プロモーター領域は、配列番号1に記載の配列を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の組換えタンパク質発現用ベクター。
  5. 前記リボソーム結合領域は、シャイン・ダルガノ配列を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の組換えタンパク質発現用ベクター。
  6. 前記目的タンパク質遺伝子は、酵素、生理活性タンパク質、またはワクチンタンパク質の遺伝子である、請求項1〜5のいずれかに記載の組換えタンパク質発現用ベクター。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の組換えタンパク質発現用ベクターで形質転換された組換え微生物。
  8. 前記組換え微生物が、大腸菌である、請求項7に記載の組換え微生物。
  9. 請求項1〜6のいずれかに記載の組換えタンパク質発現用ベクターで形質転換された組換え微生物を用いて、培地中のリン酸濃度を制御してタンパク質を製造する、組換えタンパク質の製造方法。



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* Cited by examiner, † Cited by third party
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