本発明は、長径方向に比べて短径方向が短い細長形の動電型スピーカーであって、音声再生能力に優れ、細長形のスピーカー振動板が分割振動しても影響が少なく、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適するスピーカー用磁気回路、および、動電型スピーカーに関する。
音声を再生するスピーカーを取り付けるディスプレイ等の音響機器においては、スピーカーを取り付けるのに要する空間を小型化することが要望されている。特に、細長形(矩形、長円形(楕円形、トラック形を含む))の動電型スピーカーは、短径方向に振動板面積が限られる、細長形のスピーカー振動板に特有な分割振動の影響が大きくて平坦な再生音圧周波数特性を得ることが難しい、磁気空隙の磁束密度が高いスピーカー用磁気回路を採用しようとすると、磁気回路の幅がスピーカー振動板よりも広くなり小型化できない、といった様々な理由から音声再生能力において不利な点がある。したがって、従来には、これらの問題を解決するために様々なスピーカー振動板、スピーカー用磁気回路、および、これを用いた動電型スピーカーが提案されている。
例えば、矩形平面振動板の自由振動モードの内、異なる振動モードにおける2つの節に同時に接するボイスコイルボビンを有し、このボビンに設けられて磁気回路のギャップ内でピストン運動するボイスコイルによって上記矩形平面振動板を付し駆動するように構成するとともに、上記矩形平面振動板の外周部を上記ボイスコイルの駆動部に近い短辺側に比して上記ボイスコイルの駆動部に遠い短辺側が幅広い非対称なエッジ部材にてフレームに支持するように構成してなる動電型スピーカーがある(特許文献1)。
また、発泡性樹脂で作った長方形の平面振動板を備えるスピーカーであって、平面振動板の長径周縁をフレームに固定し、短径周縁をフリーエッジにして、動作を安定させ、動作の安定を図るスピーカーがある(特許文献2)。また、エッジのフレームによって形成される角部に略円弧状の弾性樹脂を重ね合わせ加熱成形処理し、スピーカーを駆動する時にエッジに変形の生じやすい角部近傍に弾性樹脂層を設けて、エッジたわみや変形等による歪みを吸収緩和し音質のこれらによる悪化を防止しようとするものがある(特許文献3)。
さらに、本発明の出願人によるスピーカー振動板では、振動板の外周側でエッジと接合するエッジ接合部と、エッジ接合部の内周側に設けられてボイスコイルと接合する振動板部と、を有し、振動板部が、エッジ接合部を含む平面として規定される仮想基準平面を有し、仮想基準平面と交差する線として規定される複数の節線ならびに仮想基準平面からの距離が極大になる点を結んだ線として規定される複数の稜線を有する波形状を備え、複数の節線が、振動板の長軸と非平行で交差せず、かつ、振動板の短軸と交差するものがある(特許文献4)。このような波形形状にスピーカー振動板をすることにより、細長振動板の長手方向つまり、長軸方向の強度が向上し、長軸方向に分割共振が生じる共振周波数を高い周波数にシフトすることができる。さらに、短軸方向の波形状の凹凸の間隔が、長軸方向に向かうにつれて漸次的に変化することで、長軸方向に生じやすい分割共振の共振周波数を分散させることができる。その結果、この波形形状を有する細長振動板を用いれば、音圧周波数特性上のピーク・ディップが少なく、再生音質に優れたスピーカーが実現される。
また、従来には、ポールピース付きプレートにマグネットを接合し、さらにマグネットのもう一方の面にトッププレートを接合し、ポールピースとトッププレートとの間に磁気ギャップを構成して成る外磁型の動電型スピーカーにおいて、上記マグネットを2分割配置したスピーカーがある(特許文献5)。このスピーカーの磁気回路では、略円形を2分割して直線部でポールピースを挟むように長径方向に配置したマグネット(第1図)、もしくは、直方体形状の外形を有しポールピースに対応する円形孔を有するマグネットを2分割したマグネット(第2図)が、長径方向に配置されており、短径方向にマグネットが配置されていないものの、短径方向に開放された角度(マグネットが存在しない空間部分に相当する角度)は非常に狭いものになっている。
特開昭58−92198号公報
実公昭40−32164号公報
特開2001−285991号公報
特開2007−180910号公報
特開昭63−278496号公報
ディスプレイ等の音響機器においては、良好な音声再生のためには、上記特許文献4に匹敵する良好な再生音質を有する動電型スピーカーをその内部に取り付けられるようにすることが好ましい。しかしながら、再生音圧レベルの向上を目的にして、スピーカー振動板の軽量化を図るために発泡した樹脂から形成されるスピーカー振動板を採用する場合には、長径方向の分割振動の影響が顕著になり、平坦な再生音圧周波数特性を得ることが難しい、高域再生限界周波数が高くできない、といった様々な問題が生じる場合がある。なお、前後振幅の前後とは、スピーカーの振動板が振動する場合に、ボイスコイル、ダンパー、および、磁気回路が取り付けられる側を後側とし、振動板が露出する側を前側としている。
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、長径方向に比べて短径方向が短い細長形の動電型スピーカーであって、能率が高く音声再生能力に優れ、細長形のスピーカー振動板が分割振動しても影響が少なく、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適するスピーカー振動板、および、動電型スピーカーを提供することにある。
本発明のスピーカー用磁気回路は、長径方向と短径方向とを有する細長形(矩形、長円形(楕円形、トラック形を含む))のトッププレートと、円筒形状であってトッププレートの中央に形成された円形孔に挿入されて、トッププレートとともに円形磁気空隙を形成するセンターポールと、センターポールを中央に配置して、長径方向と短径方向とに対応した細長形を有するアンダープレートと、トッププレートおよびアンダープレートの間に狭持され、長径方向にセンターポールを中間にして対称配置されて、同一方向に着磁された2つの主マグネットと、を備え、2つの主マグネットが、それぞれ略円筒形状を有する希土類磁石である。
好ましくは、本発明のスピーカー用磁気回路は、センターポールとアンダープレートとの間に狭持され、2つの主マグネットとは逆方向に着磁された副マグネットを、さらに備え、副マグネットが、センターポールの直径と略同直径の円筒形状を有する。
さらに好ましくは、本発明のスピーカー用磁気回路は、センターポール上に載置され、2つの主マグネットと同方向に着磁された反発マグネットを、さらに備え、反発マグネットが、センターポールの直径と略同直径の円筒形状を有する。
また、本発明の本発明のスピーカー用磁気回路は、円形磁気空隙の磁束密度分布が、長径方向と短径方向において異なり、短径方向での磁束密度b2が、長径方向での磁束密度b1の80%以下である。
また、本発明の動電型スピーカーは、上記のスピーカー用磁気回路と、長径方向と短径方向とに対応した細長形のスピーカー振動板と、スピーカー振動板の中央に連結する円筒形状のボイスコイルボビンと、ボイスコイルボビンに巻回されて磁気空隙に配置されるボイスコイルと、を備える。
以下、本発明の作用について説明する。
本発明のスピーカー用磁気回路は、長径方向と短径方向とを有する細長形(矩形、長円形(楕円形、トラック形を含む))のトッププレートと、センターポールを中央に配置し長径方向と短径方向とに対応した細長形を有するアンダープレートと、長径方向にセンターポールを中間に対称配置される同一方向に着磁された2つの主マグネットと、を備えるスピーカー用磁気回路である。センターポールは、円筒形状であってトッププレートの中央に形成された円形孔に挿入されて、トッププレートとともに半径方向に均等な幅を有する円形磁気空隙を形成する。スピーカー用磁気回路を構成する2つの主マグネットは、それぞれ略円筒形状を有する希土類磁石であり、長径方向にセンターポールを中間にして対称配置されており、同一方向に着磁される。長径方向にセンターポールを中間にして対称配置されているとは、センターポールを点対称の中点にして、長径方向に2つの主マグネットが並ぶ様子を表している。スピーカー用磁気回路の長径方向には2つの主マグネットが配置されている一方で、短径方向には磁力を発生するマグネット(磁石)が配置されず、かつ、短径方向に開放された角度は非常に広くなっている。なお、長径方向とは、矩形、長円形、楕円形、あるいは、トラック形を含む細長形を規定する長軸が延びる方向であり、短径方向とは、長軸と直交する短軸が延びる方向である。
したがって、本発明のスピーカー用磁気回路は、通常の円筒形状のボイスコイルを使用することができる半径方向に均等な幅を有する円形磁気空隙を有しながら、全体形状を細長形にすることができる。例えば、発泡させた樹脂を含み長径方向と短径方向とに対応した細長形のスピーカー振動板と、スピーカー振動板の中央に連結する円筒形状のボイスコイルボビンと、ボイスコイルボビンに巻回されて磁気空隙に配置されるボイスコイルと、をさらに備えることで、細長形の動電型スピーカーを提供できる。細長形のスピーカー振動板は、発泡させた樹脂を含む振動板本体および振動板本体の外周縁を支持するエッジを有しており、細長形の動電型スピーカーは、ボイスコイルを磁気空隙に配置するダンパーと、磁気回路と連結してスピーカー振動板のエッジの外周端側が固定されるフレームと、を備えていてもよい。
ここで、細長形の磁気回路を構成する2つの主マグネットは、小さい体積でも保磁力の強い希土類磁石であり、それぞれ略円筒形状を有する。2つの主マグネットは、円形磁気空隙を形成するセンターポールを中間にして、長径方向に離隔して対称配置されているので、本発明のスピーカー用磁気回路は、トッププレートおよびセンターポールが形成する円形磁気空隙が半径方向に均等な幅を有する場合であっても、磁束密度分布が長径方向と短径方向において異なり、長径方向での磁束密度が短径方向での磁束密度よりも高くなる。すなわち、2つの主マグネットがそれぞれ略円筒形状を有し、かつ、強い保磁力を有しているので、磁石と磁気空隙が最も接近する長径方向で強い磁束密度を生じ、磁石が存在しない短径方向では磁束密度が低下し、主マグネットの略円筒形状に起因して、短径方向で磁束密度が低下する角度の範囲が大きくなる。その結果、長径方向磁路の磁気抵抗および短径方向磁路の磁気抵抗の差異が著しくなり、磁気空隙に配置されて音声電流が供給されるボイスコイルは、円周方向に均等な駆動力ではなく、長径方向において強い駆動力で駆動され、短径方向において弱い駆動力で駆動されることになる。好ましくは、短径方向での磁束密度b2が、長径方向での磁束密度b1の80%以下である場合には、短径方向の駆動力が長径方向の駆動力の約80%以下にすることができる。その結果、本発明のスピーカー用磁気回路を用いた細長形の動電型スピーカーは、短径方向の分割振動に起因するピーク・ディップを抑制し、平坦な再生音圧周波数特性を実現することができる。
好ましくは、本発明のスピーカー用磁気回路は、センターポールとアンダープレートとの間に狭持される2つの主マグネットとは逆方向に着磁された副マグネットを、さらに備えていてもよい。また、センターポール上に載置され、2つの主マグネットと同方向に着磁された反発マグネットを、さらに備えていてもよい。副マグネットおよび反発マグネットは、センターポールの直径と略同直径の円筒形状を有していれば、円形磁気空隙の磁束密度分布を全体的に向上させることができ、動電型スピーカーの能率を更に向上させることができる。
なお、スピーカー用磁気回路を構成するマグネットは、上記のように高い保磁力を有する希土類磁石であることが好ましい。希土類磁石とは、Nd−Fe−B系のネオジウム磁石、もしくは、Sm−Co系のサマリウムコバルト磁石を含み、磁石の最大エネルギー積(BH)maxが大きな値をとり、残留磁化および保磁力が大きい磁石である。2つの主マグネットは、長径方向にセンターポールを中間位置において、それぞれ離隔して配置されるので、センターポールと主マグネットの距離を調整することにより、長径方向と短径方向の磁束密度分布の差比を調整することができる。
長径方向に比べて短径方向が短い細長形のスピーカー用磁気回路であっても、能率が高く音声再生能力に優れ、分割振動の影響が少なく、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する動電型スピーカーを提供することができる。
本発明のスピーカー磁気回路は、長径方向に比べて短径方向が短い細長形のスピーカー振動板であっても、能率が高く音声再生能力に優れ、分割振動の影響が少なく、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する動電型スピーカーを提供するという目的を、長径方向と短径方向とを有する細長形のトッププレートと、円筒形状であってトッププレートの中央に形成された円形孔に挿入されて、トッププレートとともに半径方向に均等な幅を有する円形磁気空隙を形成するセンターポールと、センターポールを中央に配置して、長径方向と短径方向とに対応した細長形を有するアンダープレートと、トッププレートおよびアンダープレートの間に狭持され、長径方向にセンターポールを中間にして対称配置されて、同一方向に着磁された2つの主マグネットと、を備え、2つの主マグネットが、それぞれ略円筒形状を有する希土類磁石であるようにすることにより、実現した。
以下、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー用磁気回路および動電型スピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
図1および図2は、本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する図である。図1(a)は、動電型スピーカー1を前面側斜め上方から見た斜視図であり、図1(b)は、動電型スピーカー1を背面側斜め下方から見た斜視図である。また、図2(a)は、動電型スピーカー1のO−A断面図であり、図2(b)は、動電型スピーカー1のB−B’断面図である。なお、後述するように、動電型スピーカー1の一部の構造や、内部構造等は、省略している。また、点A−A’を結ぶ直線が延びる方向が長径方向であり、また、点B−B’
を結ぶ直線が延びる方向が短径方向である。
本実施例の動電型スピーカー1は、長径方向長L1が約210mm、短径方向長L2が約35mmのトラック形のスピーカー振動板2を有する細長形の動電型スピーカーであり、細長形であっても口径が約90mmの円形振動板と同等の振動板面積を有するスピーカーである。スピーカー振動板2は、エッジ3によってその外周端を支持されており、エッジ3の外周端は、フレーム6に固定されている。また、スピーカー振動板2の背面側には、ボイスコイル4が連結しており、ダンパー5(前側ダンパー5aおよび後側ダンパー5b)により振動可能に支持されている。また、フレーム6は、トラック形のスピーカー振動板2に対応した細長形状であり、フレーム6に固定される磁気回路10も、短径方向長L2以下の幅が狭い細長形状を有している。したがって、動電型スピーカー1は、ディスプレイ等の機器が有する表示部の側面など、スピーカーを取り付ける幅が少ない機器に適するスピーカーである。
動電型スピーカー1のスピーカー振動板2は、その外周端にエッジ3の内周側が接着されており、また、中央背面にはボイスコイル4を構成するボビン4aが接着される。スピーカー振動板2は、スピーカー振動板の軽量化を図るために発泡させた熱可塑性樹脂を形成して構成されている。本実施例の場合には、押出成形された熱可塑性樹脂発泡シート(具体的には、ポリスチレンペーパー)を、プラグアシスト成形を併用した真空成形法を用いることで、厚みが不均一でリブを有するスピーカー振動板2を得ている。すなわち、長径方向長L1と短径方向長L2が著しく異なる細長形のスピーカー振動板2は、長径方向の分割振動の影響が顕著になりやすいので、長径方向に延びるリブを有し、かつ、短径方向断面形状が略W字形になるようにして、長径方向に剛性を有する形状とされている。また、スピーカー振動板2の表面および裏面には、熱可塑性樹脂のフィルム(具体的には、ポリスチレンのフィルム)が熱融着されていて、スピーカー振動板2の剛性を高めている。
エッジ3は、本実施例では、柔軟性を有する発泡ゴムを金型内に注入して加熱発泡して形成したものである。スピーカー振動板2の長径方向に直線状に延びるトラック形の長辺では、スピーカー振動板2を自由支持するように薄肉のコルゲーション(またはロール)によるフリーエッジが形成され、短径方向に円弧状になるトラック形の短辺では、スピーカー振動板2を固定支持するように厚肉で自由に振動しないフィックスドエッジが形成される。その結果、細長形のスピーカー振動板2は、短径方向ではエッジ3のフリーエッジ部のコンプライアンスで柔軟に支持される一方で、長径方向ではスピーカー振動板2を形成する熱可塑性樹脂の発泡シートの柔軟性によって、曲げ振動可能にされている。
ボイスコイル4は、円筒形に形成したボビン4aと、その一端側に巻回されて音声電流が供給されるコイル4bと、から形成される。ボビン4aは、コイル4bが巻回されない他端側がスピーカー振動板2の背面中央に接着剤により連結される。コイル4bは、後述する磁気回路10の円形磁気空隙12に配置される。なお、錦糸線8は、フレーム6に固定されるターミナル7と、ターミナル7からコイル4bの引出線とを、ハンダづけして導通させて、コイル4bに音声電流を供給する。ただし、錦糸線8は、スピーカー振動板2に金属ハトメを設けてターミナル7まで導通させるようにしてもよい。
ダンパー5は、前側ダンパー5aおよび後側ダンパー5bからなる二段ダンパーであり、柔軟性を有する繊維の織布を基材としてフェノール樹脂を含浸して成形する円形のコルゲーションダンパーを切断して細長形状(トラック形)にしたものである。前側ダンパー5aおよび後側ダンパー5bの内周端は、ボビン4aの円筒外面側と連結してスピーカー振動板2の背面中央側を支持する。前側ダンパー5aおよび後側ダンパー5bの外周端側は、フレーム6の固定部に固定される。なお、ダンパー5は、他の形状のコルゲーションダンパーであって、二段でなくても良く、また、他の材料で形成するものであってもよく、内周側リングと外周側リングを連結するアームを有し、金属または樹脂で形成する蝶ダンパーであってもよい。
フレーム6は、スピーカー振動板2の形状に対応して細長形のバスケット状にプレス成型された鉄板フレームであり、エッジ3を固定する略矩形の固定部と、ダンパー5aおよび5b、そして、磁気回路10を固定する固定部と、これらの固定部を連結する連結部と、複数の連結部の間に規定される窓と、ターミナル7を取り付ける取付孔と、を備える。したがって、スピーカー振動板2、エッジ3、ボイスコイル4、および、ダンパー5からなるスピーカー振動系は、フレーム6に対して振動可能に支持される。
磁気回路10は、フレーム6に固定される細長形のトッププレート11と、円筒形状であってトッププレート11の中央に形成された円形孔に挿入されるセンターポール12と、細長形のアンダープレート14と、同一方向に着磁された2つの主マグネット15aおよび15bと、から構成される。トッププレート11およびセンターポール12は、半径方向に均等な幅を有する円形磁気空隙13を形成する。主マグネット15aおよび15bは、トッププレート11およびアンダープレート14の間に狭持され、長径方向にセンターポール12を中間にして対称配置される。
2つの主マグネット15aおよび15bは、小さい体積でも保磁力の強いNd−Fe−B系の希土類磁石であり、それぞれ略円筒形状を有する。なお、希土類磁石とは、Nd−Fe−B系のネオジウム磁石、もしくは、Sm−Co系のサマリウムコバルト磁石であって、磁石の最大エネルギー積(BH)maxが大きな値をとり、残留磁化および保磁力が大きい磁石である。希土類磁石は、保磁力が大きいので、高い磁束密度を発生させることができる一方で、パーミアンス係数が大きく、減磁しにくい。
本実施例の磁気回路10の長径方向には2つの主マグネット15aおよび15bが配置されている一方で、短径方向には磁力を発生するマグネット(磁石)が配置されないので、その結果、磁気回路10は、全体形状が細長形になり、短径方向から磁気回路10を側面視すると、マグネットが配置されない開放された空間からセンターポール12の円筒側面を直接視できる程度に、開口の角度は広くなっている。
磁気回路10は、ボイスコイル4のコイル4bを平面視した場合に投影する領域の外部に磁石が配置される外磁型磁気回路であり、かつ、保磁力の強い主マグネット15aおよび15bが長径方向に配置されるので、本発明の動電型スピーカー1のような細長形のスピーカーに適する。磁気回路10の最大幅を小さくすることができれば、細長形のスピーカー振動板2を前面視した場合に形成される領域内に磁気回路10が収まるからである。したがって、軽量なスピーカー振動板2を採用することを含めて、能率の高い動電型スピーカー1が実現される。
ボイスコイル4のコイル4bに音声電流が供給されると、磁気空隙13に配置されたボイスコイル4には駆動力が作用し、ボイスコイル4は図2における上下方向に振動し、連結されたスピーカー振動板2も上下方向に振動する。スピーカー振動板2は、短径方向ではその外周端を支持するエッジ3のフリーエッジ部が柔軟に支持する。その一方で、長径方向ではスピーカー振動板2を形成する熱可塑性樹脂発泡シートの柔軟性によって曲げ振動可能になり、最低共振周波数f0付近若しくはそれ以下の周波数でボイスコイル4が大きく変位する場合には、長径方向の両端を固定されたスピーカー振動板2は、長径方向に弓状に曲がって変形する。
また、後述するように、磁気回路10は、円形磁気空隙13が半径方向に均等な幅を有するものであっても、磁束密度分布が長径方向と短径方向において異なり、略円筒形状主マグネット15aおよび15bと、円形の磁気空隙13が最も接近する長径方向では極めて強い磁束密度を生じ、長径方向での磁束密度が短径方向での磁束密度よりも高くなる。円形磁気空隙13での円周方向の磁束密度分布が、長径方向と短径方向とで異なるので、スピーカー振動板2を駆動する駆動力も長径方向と短径方向とで異なるようにでき、再生周波数特性のピーク・ディップを低減することができる。
図3は、本実施例の磁気回路10を説明する図であり、図3(a)は磁気回路10の斜視図であり、図3(b)は磁気空隙13の円周方向の角度(点Oを中心にして、短径を示すB方向から時計回りにA、B’、A’、再びB、の順番)に対応する磁束密度分布を測定したグラフである。センターポール12には貫通孔が形成されており、磁気空隙13の内径は約20mmであり、ネオジウムを含むNd−Fe−B系磁石の主マグネット15aおよび15bの直径は約29mm、厚み約7mmである。また、センターポール12の中心点と、主マグネット15aの中心点との距離は、約27mmである。このとき、磁気空隙13の磁束密度は、長径方向で約1.4[T]と高く、短径方向で約1.1[T]と低くなるので、磁束密度のグラフは、長径方向AまたはA’において高い値を示すピークが出現する。本実施例の磁気回路10の場合には、短径方向での磁束密度b2が、長径方向での磁束密度b1の約79%であり、ボイスコイル4に作用する駆動力も、短径方向の駆動力が長径方向の駆動力の約79%になる。なお、センターポール12と主マグネット15aおよび15bとの距離を適切に設定する、または、主マグネット15aおよび15bの大きさを調整することにより、短径方向での磁束密度b2を、長径方向での磁束密度b1の80%以下にすることができる。
図4は、磁気回路を構成する各部品の寸法が異なる場合の他の実施例の磁気回路10Aを説明する図である。図4(a)は磁気回路10Aの斜視図であり、図4(b)は磁気空隙13の円周方向の角度に対応する磁束密度分布を測定したグラフである。センターポール12には貫通孔が形成されておらず、磁気空隙13の内径は約25mmであり、Nd−Fe−B系磁石である主マグネット15aおよび15bの直径は約29mm、厚み約7mmである。また、センターポール12の中心点と、主マグネット15aの中心点との距離は、約29mmである。このとき、磁気空隙13の磁束密度は、長径方向で約1.5[T]と高く、短径方向で約0.71[T]と低くなる。本実施例の磁気回路10Aの場合には、短径方向での磁束密度b2が、長径方向での磁束密度b1の約47%であり、ボイスコイル4に作用する駆動力も、短径方向の駆動力が長径方向の駆動力の約47%になる。
図5は、短径方向から見て開放された空間からセンターポールの円筒側面を直接視できる磁気回路の比較例として、従来の内磁型の磁気回路30を説明する図である。図5(a)は磁気回路30の斜視図であり、磁気回路30は、トッププレート31とアンダープレート34を一体にしたヨークと、センターポール32と、主マグネット35と、から構成される。図5(b)は、ヨークのトッププレート31とセンターポール32とが規定する磁気空隙33の円周方向の角度に対応する磁束密度分布を測定したグラフである。センターポール12には貫通孔が形成されておらず、磁気空隙33の内径は約25mmであり、Nd−Fe−B系磁石である主マグネット35の直径は約24mm、厚み約12mm(厚み約6mmを2段積み)である。このとき、磁気空隙33の磁束密度は、長径方向で約0.689[T]と低く、短径方向で約0.683[T]とほぼ変化しなくなる。本実施例の磁気回路30の場合には、短径方向での磁束密度b2が、長径方向での磁束密度b1の約98%であり、ボイスコイル4に作用する駆動力も、短径方向の駆動力が長径方向の駆動力の約98%になり、ほとんど変化しない。
図6は、磁気回路10を用いる本実施例の動電型スピーカー1の動作を説明する図であり、図6(a)は再生音圧周波数特性を説明するグラフであり、図6(b)はスピーカー振動板2の振動姿態を示す図である。図6(a)において、実施例の場合の8.5kHz付近の周波数におけるピーク・ディップの改善を示すために、比較例として再生音圧レベルを基準化して(上昇させて)一致させた従来の内磁型磁気回路30の場合の周波数特性を点線で示している。図6(b)で示すスピーカー振動板2の1/4部分(B’−O−A’断面)では、8.5kHzのディップとなる周波数において、ボビン4aが背面から取り付けられているスピーカー振動板2の中心付近(点Oの周囲)、および、短径方向の端(点B’の周囲)が最も振動変位の振幅が大きく、かつ、これらが逆相に振幅して音圧がキャンセルされていることが分かる。本実施例の場合のように、短径方向での磁束密度b2を、長径方向での磁束密度b1よりも低くして、ボイスコイル4に作用する駆動力を、長径方向に比べて短径方向で小さくすることで、逆相の振動による音圧のキャンセルを抑制することができるので、より平坦な周波数特性が実現される。
なお、小さな体積でも保磁力の大きいNd−Fe−B系、もしくは、Sm−Co系の希土類磁石を用いることで、略円筒形状の主マグネット15aおよび15bと、円形の磁気空隙13とが最も接近する長径方向では、極めて強い磁束密度を生じさせることができ、その結果、短径方向の駆動力と長径方向の駆動力との比を大きくすることができる。従来の外磁型の動電型スピーカーにおいて、略円形のマグネットを2分割して直線部でポールピースを挟むように長径方向に配置した磁気回路の場合に、または、直方体形状の外形を有するマグネットをポールピースに対応する円形孔のところで2分割して配置した磁気回路の場合に、これらのマグネットに保磁力の小さなフェライトマグネット等を使用すると、上記比較例の場合と同様に、円形の磁気空隙の磁束密度は円周方向でほぼ変化しなくなる。したがって、ピーク・ディップを抑制することができないばかりか、磁束密度も低下するので再生音圧レベルが低下して能率が低い動電型スピーカーになる。
図7は、本発明の他の実施例の磁気回路40を説明する図であり、実施例1の動電型スピーカー1のような細長形の動電型スピーカーを構成する他の磁気回路を説明する図である。図7(a)は、磁気回路40の長径方向A−A’断面図であり、図7(b)は磁気空隙43の円周方向の角度(点Oを中心にして、短径を示すB方向から時計回りにA、B’、A’、再びB、の順番)に対応する磁束密度分布を測定したグラフである。なお、後述するものを除いて、実施例1で説明した動電型スピーカー1を構成するものと共通する部分は、共通の番号を付して説明を省略する。
磁気回路40は、フレーム6に固定される細長形のトッププレート41と、円筒形状であってトッププレート11の中央に形成された円形孔に挿入されるセンターポール42と、細長形のアンダープレート44と、同一方向に着磁された2つの主マグネット45aおよび45bと、に加えて、副マグネット46をさらに備える。副マグネット46は、主マグネットと同様に小さい体積でも保磁力の強いNd−Fe−B系磁石であり、センターポール42とアンダープレート44との間に狭持され、2つの主マグネット45aおよび45bと逆方向に着磁される。副マグネット46は、ボイスコイルが配置される磁気空隙43を形成するセンターポール42の真下に位置することになるので、ボイスコイルと接触して異音を発生することが無いように、センターポール42の直径と略同直径の円筒形状を有する。
磁気回路40の磁気空隙43の内径は約27mmであり、Nd−Fe−B系磁石である主マグネット45aおよび45bの直径は約24mm、厚み約3mm、副マグネット46の直径は約24mm、厚み約3mm、である。また、センターポール42の中心点と、主マグネット45aの中心点との距離は、約27mmである。このとき、磁気空隙13の磁束密度は、長径方向で約1.25[T]になり、短径方向で約0.75[T]と長径方向よりも低くなるので、磁束密度のグラフは、長径方向AまたはA’に対応して高い値を示すピークが2箇所に出現し、それらのピークの形は急峻になっている。本実施例の磁気回路40の場合には、短径方向での磁束密度b2が、長径方向での磁束密度b1の約60%であり、ボイスコイル4に作用する駆動力も、短径方向の駆動力が長径方向の駆動力の約60%になる。
なお、主マグネット45aおよび45bと、副マグネット46の厚みは約3mmと薄型化されているので、磁気回路40の全高を薄型化して、軽量な動電型スピーカーを実現することができる。厚みが約3mmのNd−Fe−B系磁石を用いる場合には、副マグネットを使用せずに2つの主マグネットのみで磁気回路を構成する場合には、磁気空隙43の磁束密度は、長径方向で約0.96[T]になり、短径方向で約0.53[T]になる。
したがって、本実施例の磁気回路40は、センターポール42の直径と略同直径の円筒形状を有する副マグネット46を備えているので、半径方向に均等な幅を有する円形磁気空隙43の磁束密度分布を全体的に向上させることができ、動電型スピーカーの能率を更に向上させることができる。また、長径方向での磁束密度b1と、短径方向での磁束密度b2との比を大きく設定できるので、ピーク・ディップを抑制する効果を大きくすることができる。
図8は、本発明の他の実施例の磁気回路40Aを説明する図であり、磁気回路40Aは、先の実施例の磁気回路40が、更に反発マグネット47を備える場合である。図8(a)は、磁気回路40Aの長径方向A−A’断面図であり、図8(b)は磁気空隙43の円周方向の角度(点Oを中心にして、短径を示すB方向から時計回りにA、B’、A’、再びB、の順番)に対応する磁束密度分布を測定したグラフである。なお、先の実施例において説明した磁気回路、ならびに、動電型スピーカーを構成するものと共通する部分は、共通の番号を付して説明を省略する。
磁気回路40Aは、フレーム6に固定される細長形のトッププレート41と、円筒形状であってトッププレート11の中央に形成された円形孔に挿入されるセンターポール42と、細長形のアンダープレート44と、同一方向に着磁された2つの主マグネット45aおよび45bと、副マグネット46と、に加えて、反発マグネット47をさらに備える。反発マグネット47は、副マグネット46と同様に小さい体積でも保磁力の強いNd−Fe−B系磁石であり、センターポール42上に載置され、2つの主マグネット45aおよび45bと同方向に、つまり、副マグネット46と逆方向に着磁される。副マグネット46と反発マグネット47は、ボイスコイルが配置される磁気空隙43に強い反発磁界を形成する。副マグネット46と反発マグネット47は、ボイスコイルと接触して異音を発生することが無いように、センターポール42の直径と略同直径の円筒形状を有する。
磁気回路40Aの磁気空隙43Aの磁束密度は、長径方向で約1.50[T]と先の実施例の磁気回路40よりもさらに高く、短径方向では長径方向よりも低く約1.05[T]になるので、磁束密度のグラフは、長径方向AまたはA’に対応して高い値を示すピークが2箇所に出現する。本実施例の磁気回路40Aの場合には、短径方向での磁束密度b2が、長径方向での磁束密度b1の約70%であり、ボイスコイル4に作用する駆動力も、短径方向の駆動力が長径方向の駆動力の約70%になる。
すなわち、磁気回路40Aは、センターポール42の直径と略同直径の円筒形状を有する副マグネット46および反発マグネット47を備えているので、半径方向に均等な幅を有する円形磁気空隙43Aの磁束密度分布を全体的に向上させることができ、動電型スピーカーの能率を更に向上させることができる。
なお、本実施例のスピーカー用磁気回路は、他のボイスコイル径に対応した異なる寸法の磁気回路であっても良い。また、および、これを用いた動電型スピーカーは、トラック形のスピーカー振動板に限らず、楕円形、長円形、長方形、矩形といった長径寸法と短径寸法との比が大きい細長形の動電型スピーカーであればよい。
本発明の動電型スピーカーは、ディスプレイ等の映像・音響機器に内蔵するスピーカーとしてのみならず、音声を再生するスピーカーを内蔵するキャビネットを有するゲーム機、スロットマシン等の遊戯機にも適用が可能である。また、本発明のスピーカー用磁気回路を備える動電型スピーカーは、全幅が狭く、小型・薄型のキャビネットで音声を再生するスピーカーシステムが実現できるので、設置空間が限定される車両用のスピーカーに特に適する。
本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する図である。(実施例1)
本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する図である。(実施例1)
本発明の好ましい実施形態による磁気回路10を説明する図である。(実施例1)
本発明の好ましい実施形態による磁気回路10Aを説明する図である。(実施例1)
比較例の磁気回路30を説明する図である。
本発明の好ましい実施形態による磁気回路10を用いる本実施例の動電型スピーカー1の動作を説明する図である。(実施例1)
本発明の好ましい実施形態による磁気回路40を説明する図である。(実施例2)
本発明の好ましい実施形態による磁気回路40Aを説明する図である。(実施例3)
符号の説明
1 動電型スピーカー
2 スピーカー振動板
3 エッジ
4 ボイスコイル
5 ダンパー
6 フレーム
7 ターミナル
8 錦糸線
10、10A、30、40、40A 磁気回路
11、31、41 トッププレート
12、32、42 センターポール
13、33、43 磁気空隙
14、33、44 アンダープレート
15a、15b、45a、45b 主マグネット
35 主マグネット
46 副マグネット
47 反発マグネット